説明

Fe基軟磁性合金、アモルファス合金薄帯、および磁性部品

【課題】 各種トランス、各種チョ−クコイル、ノイズ対策、電源部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品、各種モータ、各種発電機、磁気シールド、アンテナ、センサー等に用いられるFe基軟磁性合金と、およびそれを製造するためのアモルファス合金薄帯、前記磁性合金を用いた磁性部品を提供することである。
【解決手段】 原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが10≦y≦20、残部Fe及び不純物からなり、不純物として質量%で、Al:0.01%以下、S:0.001〜0.05%、Mn:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.1%、O:0.1%以下、を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
各種トランス、各種チョ−クコイル、ノイズ対策、電源部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品、各種モータ、各種発電機、磁気シールド、アンテナ、センサー等に用いられるFe基軟磁性合金と、およびそれを製造するためのアモルファス合金薄帯、前記磁性合金を用いた磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種トランス、各種チョ−クコイル、ノイズ対策、電源部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品、各種モータ、各種発電機、磁気シールド、アンテナ、センサー等に用いられる軟磁性材料としてはケイ素鋼、パーマロイ、フェライト、アモルファス合金やFe基ナノ結晶合金材料等が知られている。
ケイ鋼板は、材料が安価で磁束密度が高いが、高周波の用途に対しては磁心損失が大きいという問題がある。作製方法上、アモルファス薄帯並に薄く加工することは極めて難しく、渦電流損失が大きいため、高周波領域で使用する場合これに伴う損失が大きく不利である。商用周波数においてもヒステリシス損失や渦電流損失がアモルファス合金などに比べて大きく、商用周波数を含む低周波領域でも鉄損が大きい課題がある。また、フェライト材料は電気抵抗率が高く高周波特性に優れているが、飽和磁束密度が低く温度特性が悪い問題があり、動作磁束密度が大きいハイパワーの用途にはフェライトが磁気的に飽和しやすく不向きである。
また、Co基アモルファス合金は、飽和磁束密度が実用的な材料では1T以下と低く、熱的に不安定である問題がある。このため、ハイパワーの用途に使用した場合、部品が大きくなる問題や経時変化のために磁心損失が増加する問題がある。
また、特許文献1に記載されているようなFe基アモルファス軟磁性合金は、低保磁力を有し、珪素鋼などに比べると優れた軟磁気特性を示すが、磁歪が大きいためCo基アモルファス合金並の高透磁率は得られず、応力により特性が劣化する問題や、可聴周波数帯の電流が重畳するような用途では騒音が大きいという問題がある。
また、特許文献2に記載されるような、ナノ結晶軟磁性合金材料が開発されている。ナノ結晶軟磁性材料は、比較的高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性が得ら、チョークコイルや高周波トランス用鉄心材料として実用化が進んでいる。
【0003】
【特許文献1】特開平5−140703号公報
【特許文献2】特開昭64−79342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のナノ結晶軟磁性材料は、アモルファス合金薄帯を出発材としてこれを熱処理し結晶化することによって製造されるが、ナノ結晶軟磁性材料用の工業原料を用いて製造されるアモルファス合金薄帯は、アモルファス磁性材料として使用されるアモルファス合金薄帯よりも製造が難しい課題がある。また、ナノ結晶軟磁性材料の製造に使用される広幅の長尺アモルファス合金薄帯は、工業原料を用いて製造した場合製造が難しく、薄帯製造の歩留まりや加工歩留まりが悪いため、価格が上昇してしまう課題がある。また、このような広幅アモルファス合金薄帯から製造されたナノ結晶軟磁性合金は、磁気特性のばらつきが大きいという課題もある。
【0005】
本発明の目的は、Fe基ナノ結晶軟磁性材料において量産に適する広幅合金薄帯製造や合金薄帯の加工が容易で軟磁気特性に優れたFe基軟磁性合金、およびそれを作るためのアモルファス合金薄帯、およびそのFe基軟磁性合金を用いた磁性部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが10≦y≦20、残部Fe及び不純物からなり、不純物として質量%で、Al:0.01%以下、S:0.001〜0.05%、Mn:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.1%、O:0.1%以下、を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金が、広幅長尺アモルファス合金薄帯の製造が容易で、この合金薄帯から製造したナノ結晶合金が優れた軟磁気特性を示し、磁気特性のばらつきも小さく、量産性に優れていることを見出し本発明に想到した。
【0007】
本発明において、Cu量xは0.1≦x≦3である必要がある。Cu量xが0.1%未満では、軟磁気特性が劣化し好ましくない。またCu量xが3%を超えると合金が著しく脆化し連続的な薄帯製造が困難となり好ましくない。より好ましいCu量xは1<x≦2であり、この範囲で特に優れた軟磁性が得られる。B量yは10≦y≦20である必要がある。この理由は、B量yが10原子%未満では急冷し薄帯製造した際にアモルファス相形成が困難であり、熱処理を行っても軟磁性が得られず、B量yが20原子%を超えると飽和磁束密度が急激に低下するだけでなく、軟磁気特性も劣化するためである。工業原料には不純物が含まれるが、これらの不純物は製造性や磁気特性に影響を及ぼすものがあり、その含有量をある範囲にする必要があることが分った。不純物を調整するために、原料の選定及び溶湯の精錬を行ない不純物を調整することにより、製造を容易とし、磁気特性のばらつきを小さくできることが分った。
【0008】
本発明において、不純物としてのAlは質量%で0.01%以下である必要がある。0.01%を超えると薄帯表面に大きな結晶粒が形成しやすくなり、軟磁気特性が劣化するためである。Sは薄帯表面の大きな結晶粒形成を抑制する効果があるが、質量%で0.001%〜0.05%の範囲である必要がある。0.001%未満では表面の結晶の粒径の粗大化を抑制する効果がなく、0.05%を超えると、薄帯が脆化し好ましくない。Mnは熱的安定性を向上する効果がありMn量は重量%で0.01%〜0.5%の範囲である必要がある。Mn量が0.01%未満では効果が無く、0.5%を超えると薄帯製造の際に溶湯と耐火物が反応しやすくなり耐火物の寿命が短くなるため好ましくない。Nは適正熱処理条件を拡げる効果を有するがNが重量%で0.001%未満では効果が無く、0.1%を超えると軟磁気特性が劣化するため好ましくない。Oは、介在物や表面変質などの原因となり、磁気特性に影響を与えるため、その含有量は重量%で0.1%以下である必要がある。後述する他の組成の本発明においても、この不純物の限定理由は同様である。
【0009】
また、他の本発明は、原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが4≦y≦20、X量zが0<z≦20、10≦y+z≦30、残部Fe及び不純物からなり(ただし、XはSi,C,Ge,Ga,Be, Pから選ばれた少なくとも1種の元素)、不純物として質量%で、Al:0.01%以下、S:0.001〜0.05%、Mn:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.1%、O:0.1%以下、を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金である。
【0010】
本発明において、Cu量xは0.1≦x≦3である必要がある。Cu量xが0.1%未満では、軟磁気特性が劣化し好ましくない。またCu量xが3%を超えると合金が著しく脆化し連続的な薄帯製造が困難となり好ましくない。より好ましいCu量xは1<x≦2であり、この範囲で特に優れた軟磁気特性が得られる。B量yは4≦y≦20である必要がある。また、XはSi,C,Ge,Ga,Be,Pから選ばれた少なくとも1種の元素であり、薄帯形成を容易にしたり、磁気特性を調整する効果がある。X量yは4≦y≦20である必要がある。また、B量とX量の総和は10≦y+z≦30である必要がある。この理由は、B量yが4原子%未満、あるいはB量とX量の総和が10原子%未満では、急冷し薄帯製造した際にアモルファス相形成が困難であり、熱処理を行っても軟磁性が得られず、B量yが20原子%を超えるあるいはB量とX量の総和が30原子%を超えると飽和磁束密度が急激に低下するだけでなく、軟磁気特性も劣化して好ましくないためである。
【0011】
以上のように、前記Fe基軟磁性合金は広幅長尺アモルファス合金薄帯の製造が容易で、この合金薄帯から製造したナノ結晶合金が優れた軟磁気特性を示し、磁気特性のばらつきも小さく、量産性に優れている。
【0012】
また、他の本発明は、原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが4≦y≦20、X量zが0≦z≦20、M量をaとした場合、10≦y+z+a≦30により表され(ただし、XはSi,C,Ge,Ga,Be, Pから選ばれた少なくとも1種の元素、MはTi, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Mo, Wから選ばれた少なくとも一種の元素)、不純物として質量%で、Al:0.01%以下、S:0.001〜0.05%、Mn:0.01〜0.5%、N:0.001〜0.1%、O:0.1%以下、を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金である。
【0013】
本発明において、Cu量xは0.1≦x≦3である必要がある。Cu量xが0.1%未満では、軟磁気特性が劣化し好ましくない。またCu量xが3%を超えると合金が著しく脆化し連続的な薄帯製造が困難となり好ましくない。より好ましいCu量xは0.4≦x≦2であり、この範囲で特に低い保磁力と高い透磁率が得られる。B量yは4≦y≦20である必要がある。また、XはSi,C,Ge,Ga,Be,Pから選ばれた少なくとも1種の元素であり、薄帯形成を容易にしたり、磁気特性を調整する効果がある。X量yは4≦y≦20である必要がある。また、B量とX量の総和は10≦y + z≦30である必要がある。Mは、Ti, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Mo, Wから選ばれた少なくとも一種の元素であり、結晶粒を微細化し軟磁気特性をより向上する効果があり、B量、X量とM量の総和は10≦y+z+a≦30である必要がある。この理由は、B量yが4原子%未満、あるいはB量、X量とM量の総和y+z+aが10原子%未満では、液体急冷法により薄帯製造した際にアモルファス相形成が困難であり、熱処理を行っても軟磁性が得られず、B量yが20原子%を超えるあるいはB量、X量とM量の総和y+z+aが30原子%を超えると飽和磁束密度が急激に低下するだけでなく、軟磁気特性も劣化し好ましくないためである。
【0014】
前記Fe基軟磁性合金は広幅長尺アモルファス合金薄帯の製造が容易で、この合金薄帯から製造したナノ結晶合金が優れた軟磁気特性を示し、磁気特性のばらつきも小さく、量産性に優れている。
【0015】
前記Xが、Siである場合、Siを添加することで、結晶磁気異方性の大きい強磁性化合物相が析出開始する温度が高くなり、適正な熱処理温度範囲が広がり好ましい結果が得られる。また、Siを添加することにより磁歪を減少したり軟磁性を改善する効果があり、より好ましい結果が得られる。
【0016】
前記Fe基軟磁性合金がP及びCを含みその含有量が重量%で、P:0.001〜0.5%、C:0.003〜2%である場合、磁気特性の経時変化が小さくなり、より好ましい結果が得られる。
【0017】
前記Fe基軟磁性合金は、Fe量に対して、その50原子%未満のCo, Niから選ばれた少なくとも1種の元素を含むことができる。CoやNiを含むことにより、より大きな誘導磁気異方性を付与することができ、磁化曲線の形状制御が行いやすくなるが、Co、Niの含有量がFe量に対して50原子%以上の場合、軟磁気特性の著しい劣化が起こり好ましくない。
【0018】
前記磁性合金は、Fe量に対して、その5原子%以下のCr、Re、白金族元素、Au、Ag、Zn、In、Sn、As、Sb、Sb、Bi、Y及び希土類元素から選ばれた少なくとも一種以上の元素を含むことができる。これらの元素を含むことにより耐食性を改善する、熱処理温度範囲を拡大する、耐熱性を向上する等の効果がある。
【0019】
本発明の軟磁性微結晶合金において、均質な微細組織を得るためには、原材料を溶解後、液体急冷法によって合金薄帯を作製した時点でアモルファス相を主相とする組織が得られることが重要である。本発明において、液体急冷法によって作製されたアモルファス合金薄帯中にナノスケールの微細な結晶粒が分散した状態で存在しても良いが、合金薄帯のアモルファス母相中に10nm以下の粒径の結晶粒が分散した組織あるいはアモルファス単相であることが望ましい。その後、結晶化温度以上の温度範囲で熱処理を施し、結晶粒径60nm以下の体心立方構造の結晶粒が非晶質母相中に体積分率で30%以上分散した組織とする。ナノ結晶粒相が体積分率で30%以上を占めることにより熱処理前より磁歪が低減し、軟磁気特性も向上する。さらに体積分率で50%以上を占めることにより、軟磁性を更に改善させることができる。
【0020】
結晶粒の体積比は、線分法、すなわち顕微鏡組織中に任意の直線を想定しそのテストラインの長さをLt、結晶相により占められる線の長さLcを測定し、結晶粒により占められる線の長さの割合LL=Lc/Ltを求めることにより求められる。ここで、結晶粒の体積比VV=LLである。熱処理後の合金中に存在する結晶粒の結晶粒径は、60nm以下が望ましい。これは、結晶粒径が60nmを超えると軟磁気特性の著しい劣化が起こり好ましくないためである。特に好ましい結晶粒径は5nm〜30nmであり、特に優れた軟磁性が得られる。
【0021】
具体的な製造方法は、前記組成の溶湯を単ロール法等の急冷技術によって100℃/sec以上、より望ましくは105℃/sec以上の冷却速度で急冷し、一旦アモルファス相を主相とする合金を作製後、これを加工し、熱処理を施し平均粒系が60nm以下の微結晶組織を形成することによって得られる。熱処理前のアモルファス相は結晶相を含んでいても良いが、結晶粒が存在する場合は粒径が10nm以下のナノスケールの結晶粒が分散した構造となっていることが望ましい。単ロール法等の急冷技術による薄帯の作製および熱処理は大気中または、Ar、He、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素の雰囲気中あるいは減圧下で行う。磁界中熱処理により、誘導磁気異方性によって軟磁気特性を改善することができる。この場合、誘導磁気異方性を付与する磁界中熱処理は、熱処理中の一部の期間あるいは全期間磁界を印加しながら熱処理を行う。印加する磁界は、直流、交流、繰り返しのパルス磁界のいずれでも良い。印加磁界は、合金が磁気的に飽和する程度以上の強さとすると、好ましい結果が得られる。磁界中熱処理により、高角形比の角形性の良好なB-Hループや低角形比の直線性の良いB-Hループの材料が得られる。熱処理は大気中、真空中、Ar、窒素等の不活性ガス中で行うことができるが、特に不活性ガス中で行うことが望ましい。熱処理は、組成によるが通常350℃から650℃の範囲で行なう。一定温度で保持する時間は量産性の観点から通常は24時間以下であり、好ましくは4時間以下である。特に望ましくは1分〜1時間である。熱処理の平均昇温速度は0.1℃/minから10000℃/minが好ましく、より好ましくは100℃/min以上であり、保磁力の増加を抑制できる。熱処理は1段階でなく、多段階、複数回行っても良い。さらに、合金に直接電流を流して、ジュール熱によって熱処理を施すこと、応力下で熱処理し、誘導磁気異方性を付与しB-Hループ形状を制御することも可能である。
【0022】
本発明合金に対する熱処理は、微細結晶組織を形成することを目的としている。温度と時間の2つのパラメータを調整することにより、ミクロ構造や磁気特性を制御できる。高い温度の熱処理であっても、非常に短時間であれば結晶粒成長を抑制でき、保磁力も小さくでき、低磁界での磁束密度が向上し、ヒステリシス損失も減少するという効果が得られる。また、昇温速度の制御や様々な温度で一定時間保持する数段階の熱処理等によって、核生成を制御することも可能である。また、結晶化温度よりも低い温度で一定時間保持し、核生成に十分な時間を与えた後、結晶化温度よりも高い温度で1h未満保持する熱処理により結晶粒成長を行えば、結晶粒同士が互いの成長を抑制しあうため、均質で微細な結晶組織が得られる。
【0023】
本発明の軟磁性微結晶合金は、必要に応じてSiO、MgO、Al等の粉末あるいは膜で合金薄帯表面を被覆する、化成処理により表面処理し絶縁層を形成する、アノード酸化処理により表面に酸化物絶縁層を形成し層間絶縁を行う、等の処理を行うとより好ましい結果が得られる。これは特に層間を渡る高周波における渦電流の影響を低減し、高周波における磁心損失を改善する効果があるためである。この効果は表面状態が良好でかつ広幅の薄帯から構成された磁心に使用した場合に特に著しい。更に、本発明合金から磁心を作製する際に必要に応じて含浸やコーティング等を行うことも可能である。本発明合金は高周波の用途として特にパルス状電流が流れるような応用品に最も性能を発揮するが、センサや低周波の磁性部品の用途にも使用可能である。特に、磁気飽和が問題となる用途で優れた特性を発揮でき、ハイパワーのパワーエレクトロニクスの用途に特に適する。
使用時に磁化する方向とほぼ垂直な方向に磁界を印加しながら熱処理した本発明合金は、従来の高飽和磁束密度の材料よりも低い磁心損失が得られる。更に本発明合金は薄膜や粉末でも優れた特性を得ることができる。
【0024】
本発明の軟磁性合金の少なくとも一部または全部には平均粒径60nm以下の結晶粒が形成している。前記結晶粒は組織の30%以上の割合であることが望ましく、より好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上である。特に望ましい平均結晶粒径は30nm以下であり、この範囲において特に低い保磁力および磁心損失が得られる。
【0025】
前述の本発明合金中に形成する微結晶粒は主にFeを主体とする体心立方構造(bcc)の結晶相であり、Co、Ni、Si,B,GeやZr等が固溶しても良い。また、規則格子を含んでも良い。前記結晶相以外の残部は主にアモルファス相であるが、実質的に結晶相だけからなる合金も本発明に含まれる。CuやAuを含む面心立方構造の相(fcc相)が存在しても良い。
【0026】
アモルファス相が結晶粒の周囲に存在したアモルファス母相中にナノスケール結晶粒が分散した組織の合金は、抵抗率が高く、結晶粒成長が抑制され、高周波の磁気特性が改善されるためより好ましい結果が得られる。
【0027】
本発明合金において化合物相が存在しない場合により低い保磁力、低い磁心損失を示すが一部に化合物相を含んでも良い。
【0028】
また、前記Fe基軟磁性合金と同組成のアモルファス合金薄帯も本発明に該当する。また、前記Fe基軟磁性合金を用いた磁性部品も本発明の範疇である。前記本発明のFe基軟磁性合金により磁性部品を構成することにより、アノードリアクトルなどの大電流用の各種リアクトル、アクティブフィルタ用チョ−クコイル、平滑チョークコイル、各種トランス、磁気シールド、電磁シールド材料などのノイズ対策部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品、モータ、発電機等に好適な高性能あるいは小型の磁性部品を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、各種トランス、各種チョ−クコイル、ノイズ対策、電源部品、レーザ電源、加速器用パルスパワー磁性部品、各種モータ、各種発電機、磁気シールド、アンテナ、センサー等に用いられるFe基軟磁性合金と、およびそれを製造するためのアモルファス合金薄帯、前記磁性合金を用いた磁性部品を生産レベルで実現することができるため、その効果は著しいものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下本発明を実施例にしたがって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
Cuが1.5原子%、Bが14原子%、Siが4原子%、残部Feおよび不純物で表される合金溶湯を単ロール法により急冷し、幅25mm厚さ21μmのアモルファス合金薄帯を得た。X線回折と透過電子顕微鏡観察の結果、アモルファス合金薄帯中には、体積分率で30%未満の粒径10 nm未満の粒径のナノスケールの極微細な結晶粒が形成していることが確認された。この結晶粒は主として体心立方構造(bcc構造)のFeを主体とする固溶体相であると考えられる。この合金薄帯の不純物を分析し、質量%でAl含有量は0.001%、S含有量は0.0025%、Mn含有量は0.15%、N含有量は0.0047%、O含有量は0.008%であることを確認した。次にこのアモルファス合金薄帯を長さ120mmに切断して、昇温速度200℃/minで、430℃まで昇温し1時間保持後炉から取り出し空冷した。熱処理後の試料の、X線回折及び、透過電子顕微鏡による組織観察を行った。粒径約25nmのbcc構造のナノ結晶粒相が非晶質母相中に体積分率で50%以上を占めていた。次に、この試料の磁気測定を行った。8000A/mの磁界でほぼ飽和しており、8000A/mにおける磁束密度をBsとした。飽和磁束密度Bs=1.83 Tを示した。また、作製した薄帯から25個試料試料を採取し熱処理し保磁力のばらつきを調査した結果、保磁力Hcは6.1〜6.7 A/mを示した。また、前記アモルファス合金薄帯を用いて外径100mm、内径90mmの巻磁心を作製したが、破断は起こらなかった。比較のために、本発明外の不純物含有量の合金を作製し比較した。重量%でAl含有量は0.02%、Sは0.1%、Oは0.2%、Mnは0.8%、Nは0.15%であった。飽和磁束密度Bs=1.81 Tを示した。また、作製した薄帯から25個試料を採取し熱処理し、長手方向の保磁力のばらつきを調査した結果、保磁力Hcは6.9〜9.7 A/mを示した。また、前記アモルファス合金薄帯を用いて外径100mm、内径90mmの巻磁心を作製した結果、巻磁心作製中に薄帯の破断が起きた。以上のように、本発明Fe基軟磁性合金・アモルファス合金薄帯は、本発明外のFe基軟磁性合金・アモルファス合金薄帯より量産に適しており広幅合金薄帯製造や合金薄帯の加工が容易で軟磁気特性に優れていることが確認された。
【0031】
(実施例2)
表1に示す様々な組成の合金溶湯を単ロール法により急冷し、幅30mm厚さ約20μmの約5kgのアモルファス合金薄帯を得た。この合金薄帯の結晶の有無、およびを結晶粒径をX線回折よにより調べた結果、アモルファス単相あるいは、粒径10nm未満の結晶粒がアモルファス相中に分散した組織であった。これらの合金薄帯から25個の試料を採取し、370℃〜460℃の範囲で熱処理し、熱処理後の保磁力をB-Hトレーサーで評価した。また、作製したアモルファス合金薄帯を外径50mm内径45mmに巻き回し、巻磁心を作製する際の薄帯の破断について調べた。これらの熱処理後の磁性合金は、いずれも組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶粒を含むものであった。また、ナノ結晶粒相が非晶質母相中に体積分率で50%以上を占めていた。
表1に不純物成分、と巻磁心作製の際の薄帯破断の有無、25個の試料の熱処理後の保磁力の範囲を示す。本発明アモルファス合金薄帯は、不純物量が本発明範囲外の合金薄帯よりも加工する際に破断しにくく、熱処理後の保磁力は、本発明Fe基合金の方がばらつきが小さく、量産性に優れており、優れた軟磁性を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3)
表2に示す様々な組成の合金溶湯を単ロール法により急冷し、幅30mm厚さ18μmの約30kgのアモルファス合金薄帯を得た。この合金薄帯の結晶の有無、および結晶粒径をX線回折により調べた結果、アモルファス単相であることが確認された。これらの合金薄帯を幅5mmにスリットし、スリット時の薄帯の割れの有無を調査した。更にスリットした薄帯の内幅方向の中央付近に相当する薄帯について、先端部から後端部にわたり、25個の試料を採取した。この薄帯を外径19mm、内径15mmに巻きまわし巻磁心を作製した。この巻磁心を500℃〜570℃の範囲で熱処理し、熱処理後の巻磁心の保磁力及び100kHz, 0.2Tにおける磁心損失Pcvのばらつきを評価した。これらの熱処理後の磁性合金は、いずれも組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶粒を含むものであった。また、ナノ結晶粒相が非晶質母相中に体積分率で50%以上を占めていた。表2に不純物成分と薄帯をスリットした際の薄帯割れの有無、25個の試料の熱処理後の保磁力の範囲を示す。本発明アモルファス合金薄帯は、不純物量が本発明範囲外の合金薄帯よりも加工する際に破断しにくく、熱処理後の保磁力は、本発明Fe基合金の方がばらつきを小さくできかつ低い値を示し、量産性及び軟磁性に優れている。磁心損失についても本発明Fe基合金の方が、保磁力と同様、ばらつきが小さく、低い値を示した。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが10≦y≦20、残部Fe及び不純物からなり、不純物として質量%で、
Al:0.01%以下、
S:0.001〜0.05%、
Mn:0.01〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
O:0.1%以下、
を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金。
【請求項2】
原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが4≦y≦20、X量zが0<z≦20、10≦y+z≦30、残部Fe及び不純物からなり(ただし、XはSi,C,Ge,Ga,Be, Pから選ばれた少なくとも1種の元素)、不純物として質量%で、
Al:0.01%以下、
S:0.001〜0.05%、
Mn:0.01〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
O:0.1%以下、
を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金。
【請求項3】
原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが4≦y≦20、X量zが0≦z≦20、M量をaとした場合、10≦y+z+a≦30により表され(ただし、XはSi,C,Ge,Ga,Be, Pから選ばれた少なくとも1種の元素、MはTi, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Mo, Wから選ばれた少なくとも一種の元素)、不純物として質量%で、
Al:0.01%以下、
S:0.001〜0.05%、
Mn:0.01〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
O:0.1%以下、
を含有し、組織の少なくとも一部が結晶粒径60nm以下(0を含まず)の結晶相からなることを特徴とするFe基軟磁性合金。
【請求項4】
前記Xは、Siであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のFe基軟磁性合金。
【請求項5】
前記Fe基軟磁性合金は、Fe量に対して、その50原子%未満のCo,Niから選ばれた少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のFe基軟磁性合金。
【請求項6】
前記Fe基磁性合金は、Fe量に対して、その5原子%以下のCr、Re、白金族元素、Au、Ag、Zn、In、Sn、As、Sb、Sb、Bi、Y及び希土類元素から選ばれた少なくとも一種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のFe基軟磁性合金。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかのFe基軟磁性合金を用いたことを特徴とする磁性部品。
【請求項8】
原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが10≦y≦20、残部Fe及び不純物からなり、不純物として質量%で、
Al:0.01%以下、
S:0.001〜0.05%、
Mn:0.01〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
O:0.1%以下、
を含有することを特徴とするアモルファス合金薄帯。
【請求項9】
原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが4≦y≦20、X量zが0<z≦20、10≦y+z≦30、残部Fe及び不純物からなり(ただし、XはSi,C,Ge,Ga,Be, Pから選ばれた少なくとも1種の元素)、不純物として質量%で、
Al:0.01%以下、
S:0.001〜0.05%、
Mn:0.01〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
O:0.1%以下、
を含有することを特徴とするアモルファス合金薄帯。
【請求項10】
原子%で、Cu量xが0.1≦x≦3、B量yが4≦y≦20、X量zが0≦z≦20、M量をaとした場合、10≦y+z+a≦30により表され(ただし、XはSi,C,Ge,Ga,Be, Pから選ばれた少なくとも1種の元素、MはTi, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Mo, Wから選ばれた少なくとも一種の元素)、不純物として質量%で、
Al:0.01%以下、
S:0.001〜0.05%、
Mn:0.01〜0.5%、
N:0.001〜0.1%、
O:0.1%以下、
を含有することを特徴とするアモルファス合金薄帯。
【請求項11】
前記Xは、Siであることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のアモルファス合金薄帯。
【請求項12】
前記Fe基軟磁性合金は、Fe量に対して、その50原子%未満のCo, Niから選ばれた少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項8乃至請求項11のいずれかに記載のアモルファス合金薄帯。
【請求項13】
前記Fe基磁磁性合金は、Fe量に対して、その5原子%以下のCr、Re、白金族元素、Au、Ag、Zn、In、Sn、As、Sb、Sb、Bi、Y及び希土類元素から選ばれた少なくとも一種以上の元素を含むことを特徴とする請求項8乃至請求項12のいずれかに記載のアモルファス合金薄帯。


【公開番号】特開2008−231463(P2008−231463A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68869(P2007−68869)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】