説明

GST−Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法

【課題】 GGTの酵素活性に対する感度を改善するとともに正常な胆管上皮細胞に存在するGGTに対する非特異的な染色を区別し、GGT陽性細胞の存在の有無の判定を細胞数が1個乃至数個のレベルでも行えるようにすることで、このようなレベルにある変異細胞、即ち、前癌前駆細胞の検出を可能にするGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法を提供すること。
【解決手段】 本発明はGST-Pの免疫組織化学染色法とGGTの活性染色法を巧みに組み合わせた高感度なGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前癌細胞の前駆細胞(initiated cell:以下「前癌前駆細胞」)の検出を可能にするGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発癌イニシエーションの分子機構(最初の癌性変化、癌の出来る謎、癌の原因)の解明は癌研究の基本命題のひとつであるが、最初の(癌性)遺伝子変化は極微、潜在的であるため、原理的にアプローチ不能とされている。しかし、発癌性物質であるN,N'-ジエチルニトロソアミン(DEN)投与2,3日後の早期にラットの肝臓に誘発される胎盤型グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST-P)陽性細胞(例えばGST-Pに対する抗体(抗GST-P抗体)を用いた免疫組織化学的染色によりGST-Pの存在が認められる細胞)は、前癌細胞群(本発明者により「前癌ミニフォーカス(minifocus)」と命名)の誘発に先行しており、前癌前駆細胞である可能性が示唆されている(非特許文献1)。また、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)は、GST-Pと同様に前癌細胞や癌細胞のマーカー酵素として古くから知られており(非特許文献2)、前癌細胞や癌細胞はGGTの活性染色により染色される。
【非特許文献1】Satoh K, Hatayama I. Anomalous elevation of glutathione S-transferase P-form (GST-P) in the elementary process of epigenetic initiation of chemical hepatocarcinogenesis in rats. Carcinogenesis 2002;23:1193-8.
【非特許文献2】Harada M, Okabe K, Shibata K, Masuda H, Miyata K, Enomoto M. Histochemical demonstration of increased activity of γ-glutamyltranspeptidase in rat liver during hepatocarcinogenesis. Acta Histochem Cytochem 1976;9:168-79.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
肝癌(hepatoma)は肝実質細胞が癌化して生じるものであり、その前癌細胞はGST-P,GGTともに陽性である。一方、正常な肝実質細胞はGST-P,GGTいずれにも陰性であるが、GGTは正常な胆管上皮細胞にも存在することから、正常な胆管上皮細胞はGGT陽性である(GST-Pは弱陽性)。従って、これまでGGTの酵素活性に基づいて前癌前駆細胞を検出しようとしても、もともとGGTの酵素活性が低いことに加え、正常な胆管上皮細胞に存在するGGTに対する非特異的な染色が障害となっていた。
そこで本発明は、GGTの酵素活性に対する感度を改善するとともに正常な胆管上皮細胞に存在するGGTに対する非特異的な染色を区別し、GGT陽性細胞の存在の有無の判定を細胞数が1個乃至数個のレベルでも行えるようにすることで、このようなレベルにある変異細胞(本発明者により1個のものは「シングルセル(single cell)」、数個のものは「ミニフォーカス(minifocus)」と命名)、即ち、前癌前駆細胞の検出を可能にするGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、GST-Pの免疫組織化学染色法とGGTの活性染色法を巧みに組み合わせた高感度なGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法の開発に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
即ち、本発明のGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法は、請求項1記載の通り、
(1)発癌性を有するか有する可能性のある物質を哺乳類動物(ヒトを除く)に投与した後、体内から肝臓を摘出して2〜6mm厚にスライスしてからアセトン固定する工程、
(2)アセトン固定した肝臓切片から20〜30μm厚の切片を連続的に複数枚調製する工程、
(3)調製した連続切片の1枚の面に対して抗GST-P抗体を用いて免疫組織化学的染色を行うとともに、このようにして免疫組織化学的染色を行った面と鏡面関係にある連続切片のもう1枚の面に対してGGTの活性染色を基質溶液中で行う工程、
(4)染色を行った2枚の連続切片の鏡像面をタングステンランプよりも熱発生量が少ない光源を用いた照明下でデジタル顕微鏡撮影する工程、
(5)得られた鏡像面のデジタル画像でGST-P陽性細胞が存在するポイントとGGT陽性細胞が存在するポイントを比較し、GST-P陽性/GGT陽性細胞および/またはGST-P陽性/GGT陰性細胞の存在の有無を判定する工程、
を順次実行することによるものである。
また、請求項2記載の検出方法は、請求項1記載の検出方法において、哺乳類動物が齧歯類であるものである。
また、請求項3記載の検出方法は、請求項1または2記載の検出方法において、発癌性を有するか有する可能性のある物質を哺乳類動物に腹腔内投与または経口投与するものである。
また、請求項4記載の検出方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の検出方法において、工程(4)におけるデジタル顕微鏡撮影の際に発光ダイオードを光源に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前癌前駆細胞の検出が可能になることから、本発明は発癌イニシエーションの分子機構を解明する手段として有用である。また、本発明は被験物質の発癌性の有無や発癌性を評価する新しい方法としても位置付けられる。今回、GST-PとGGTの2つのマーカー酵素を利用して行う本発明により、前癌前駆細胞が検出されその存在が明らかになったことで、これまで解明するための手段自体が存在しなかったことから不明のままであった発癌イニシエーションの分子機構の解明や、その解明に基づいた効果的な癌の治療方法や予防方法を確立するための研究が大きく進展することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法は、
(1)発癌性を有するか有する可能性のある物質を哺乳類動物(ヒトを除く)に投与した後、体内から肝臓を摘出して2〜6mm厚にスライスしてからアセトン固定する工程、
(2)アセトン固定した肝臓切片から20〜30μm厚の切片を連続的に複数枚調製する工程、
(3)調製した連続切片の1枚の面に対して抗GST-P抗体を用いて免疫組織化学的染色を行うとともに、このようにして免疫組織化学的染色を行った面と鏡面関係にある連続切片のもう1枚の面に対してGGTの活性染色を基質溶液中で行う工程、
(4)染色を行った2枚の連続切片の鏡像面をタングステンランプよりも熱発生量が少ない光源を用いた照明下でデジタル顕微鏡撮影する工程、
(5)得られた鏡像面のデジタル画像でGST-P陽性細胞が存在するポイントとGGT陽性細胞が存在するポイントを比較し、GST-P陽性/GGT陽性細胞および/またはGST-P陽性/GGT陰性細胞の存在の有無を判定する工程、
を順次実行することによるものである。
以下、各工程のポイントを順を追って説明する。
【0008】
(工程1)
発癌性を有するか有する可能性のある物質は哺乳類動物(ヒトを除く)に好ましくは腹腔内投与または経口投与する。哺乳類動物としてはラットやモルモットなどの齧歯類が挙げられる。例えば発癌イニシエーションの分子機構の解明のために発癌性物質を用いて前癌細胞の誘発を行う場合、そのプロトコールとしては、試験開始時に発癌性物質であるDENをラットに腹腔内投与し、2週間標準食を摂取させた後、2-アセチルアミノフルオレン(AAF)添加食に切り替え、試験開始から3週間後に2/3の部分肝切除を行うSolt-Farber protocol(必要であればSolt DB, Farber E. New principle for the analysis of chemical carcinogenesis. Nature 1976;263:701-3.を参照のこと)を好適に採用することができる他、DENを投与することなく試験開始時からAAF添加食を摂取させ、所定時に部分肝切除を行うことによるプロトコールなどを採用することができる。また、試験開始時にDENを投与し、1週間標準食を摂取させた後、被験物質添加食に切り替えることで、部分肝切除を行わなくても試験開始から8週間後に被験物質による前癌細胞の誘発の有無を判定することができる。
体内から摘出した肝臓のスライスはカミソリ刃などを用いて行えばよい。
肝臓切片をアセトン固定するのはGGTの酵素活性の失活を防止するためである。切片の固定化自体はホルマリンやパラフィンを用いて行うこともできるが、これらを用いた場合にはGGTの酵素活性が失活するので、GGT陽性細胞を高感度で検出できないといった問題を有する。なお、アセトン固定は定法に従って行えばよい。
【0009】
(工程2)
アセトン固定した肝臓切片からの連続切片の調製は20〜30μm厚で肉厚に行う(例えば4枚調製する)。この工程は例えば米国Vibratome社製のマイクロスライサーを用いて行うことができる。
【0010】
(工程3)
連続切片の1枚の面に対する抗GST-P抗体を用いた免疫組織化学的染色は自体公知の方法、例えば、1次抗体である抗GST-P抗体とペルオキシダーゼを結合した2次抗体を用い、3,3’-ジアミノベンジジンをペルオキシダーゼの基質として反応させる方法などによって行えばよい(必要であれば前出の非特許文献1を参照のこと)。なお、1次抗体である抗GST-P抗体や2次抗体はモノクローナル抗体であってもよいしポリクローナル抗体であってもよい。
抗GST-P抗体を用いた免疫組織化学的染色を行った面と鏡面関係にある連続切片のもう1枚の面に対するGGTの活性染色は、例えば基質としてγ-グルタミル-4-メトキシ-2-ナフチルアミド(GMNA)を用いたRutenburgらの方法(Rutenburg AM, Kim H, Fischbein JW, Hanker JS, Wasserkrug HL, Seligman AM. Histochemical and ultrastructual demonstration of γ-glutamyl transpeptidase activity. J Histchem Cytochem 1969;17:517-26.)に準じて基質溶液中で行えばよい。但し、Rutenburgらの方法によれば、切片の調製に際してホルマリン固定を行う必要があるが、ホルマリン固定を行うとGGTの酵素活性が失活するので(70〜80%失活する)、本発明ではアセトン固定を行うことは上述した通りである。本発明においてはアセトン固定した20〜30μm厚の切片に対して以上のような染色法を実施することで、肉厚の切片の内部にまで基質を浸透させて切片に含まれる酵素活性の失活を受けていないGGTとの酵素反応を十分に進行させ、切片の両面を染色することができることから、ミクロトームで調製した4〜6μm厚の切片に対してガラススライド上で染色を行う従来の方法(片面染色法)に比較して、検出感度を約10倍高くすることができる。
【0011】
(工程4)
染色を行った2枚の連続切片(染色標本)の鏡像面のデジタル顕微鏡撮影(デジタルカメラによる顕微鏡撮影)はタングステンランプよりも熱発生量が少ない光源、例えば発光ダイオード(LED)を用いた照明下で行う。上述した通り、本発明において用いる染色標本は肉厚であるため撮影には強い露出を必要とするが、通常のタングステンランプを光源に用いて強い露出下で撮影をした場合、光源からの熱発生量が多いので、スライドガラス上に載置した標本の熱変性が撮影開始からわずか数十秒で起こってしまうほど著しいという問題がある。このため撮影は緩衝液を添加するなどして標本を冷却しながらでないと行うことができず非常に手間がかかるという欠点の他、この様な理由によりカバーガラスを用いることができないことから焦点を合わせにくいという欠点がある。更に、前癌前駆細胞のGGT染色標本に対しては早期に褪色を引き起こすという欠点もある。これに対し、光源としてLED(とりわけ白色LEDが好ましい)を用いれば、熱発生量が少ないので標本の熱変性が全く乃至ほとんど起こらないことから、上記のような問題や欠点がなく、肉厚の標本の鮮明なデジタル画像を速やかに取得することができる。
【0012】
(工程5)
GST-P陽性細胞が存在するポイントとGGT陽性細胞が存在するポイントの比較は、コンピュータを用いて得られた鏡像面のデジタル画像のうちのいずれか一方を左右乃至表裏反転させることで容易に行うことができる。後述する実施例で詳述するが、このような方法により本発明者は、正常な胆管上皮細胞に存在するGGTに対する非特異的な染色を区別し、GST-P陽性/GGT陽性細胞とGST-P陽性/GGT陰性細胞という2種類の前癌前駆細胞の検出に成功している。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を前癌前駆細胞の検出についての実施例により詳述するが、本発明は以下の記載によって何ら制限を受けて解釈されるものではない。
【0014】
実施例1:前癌前駆細胞の検出(その1)
検出方法
(工程1)
5週齢のSDラット雄(日本国Clea社より購入)を用い、前癌細胞の誘発をSolt-Farber protocolに従って行った。その詳細は次の通りである。
・試験開始時にDENの200mg/kgの割合での腹腔内投与を1回行い、2週間標準食を摂取させた後、0.02%AAF添加食を3週間摂取させる。
・試験開始から3週間後に2/3の部分肝切除(PH)を行う。
試験開始から1週間後、2週間後、3週間後、3週間+1日後(即ちPHから1日後)、3週間+2日後(同2日後)、3週間+3日後(同3日後)、3週間+5日後(同5日後)、4週間後、5週間後にラットの体内から肝臓を摘出し、3〜5mm厚にカミソリ刃を用いてスライスし、得られた肝臓切片を冷アセトン液(100%)に浸漬して固定化し、8℃で冷蔵庫保存した。2日後にアセトン液を交換し、さらに2日後に70%アセトン/30%水の混合液に交換し、8℃で冷蔵庫保存した。
【0015】
(工程2)
アセトン固定した肝臓切片から25μm厚の切片をマイクロスライサー(Vibratome 1500:米国Vibratome社)を用いて連続的に4枚調製した。
【0016】
(工程3)
連続切片の1枚の面に対する抗GST-P抗体を用いた免疫組織化学的染色は、非特許文献1に記載の方法に従って、1次抗体としてウサギ抗GST-Pポリクローナル抗体(日本国Medical and Biological Laboratories社)、2次抗体としてペルオキシダーゼを結合させたヤギ抗ウサギIgGポリクローナル抗体(Envision, labeled polymer, HRP, antirabbit:日本国Dako社)、ペルオキシダーゼの基質として3,3’-ジアミノベンジジンを用いて行った。なお、切片の洗浄操作は、先端口径5mmのゴムキャップを付けた広口ピペットで切片を吸い上げて洗浄液(リン酸緩衝液)に連続的に移し替えるという手法を採用し、能率的に行った。
抗GST-P抗体を用いた免疫組織化学的染色を行った面と鏡面関係にある連続切片のもう1枚の面に対するGGTの活性染色は、Rutenburgらの方法に従って、22mMのTris-HCl溶液にGMNA、グリシルグリシン、NaCl、4’-アミノ-2’,5’-ジエトキシベンズアニリドのジアゾニウム塩をそれぞれの濃度が0.57mM、3.3mM、93mM、0.52mMになるように添加して調製した基質溶液(pH7.6)に切片を浸漬し、時折溶液をかき混ぜながら15〜20分間室温にて培養した後、切片を0.1M硫酸銅水溶液に2分間浸漬することでアゾ染色カップリング反応を完結させてから食塩水で洗浄して行った(洗浄操作は上述した手法を採用)。
【0017】
(工程4)
光源に白色LEDを搭載したデジタル顕微鏡撮影装置として日本国Nikon社のCOOL SCOPEを用い、スライドガラス上に載置した染色標本の鏡像面のデジタル撮影を行った。
【0018】
(工程5)
得られた鏡像面のデジタル画像のうちのGGT染色標本の画像を左右反転させ、GST-P陽性細胞が存在するポイントとGGT陽性細胞が存在するポイントの比較を行った。データ解析は非特許文献1に記載の方法に準じた。
【0019】
検出結果
試験開始から1週間後(1W)、2週間後(2W)、3週間後(3W)に摘出した肝臓(右葉)を用いて調製したGST-P染色標本とGGT染色標本の鏡像面の2箇所の拡大画像を図1に示す(右:GST-P染色標本,左:GGT染色標本)。例えば図1(c)の画像から明らかなように、本発明の方法によってGST-P陽性/GGT陽性細胞(ρ,ρ')とGST-P陽性/GGT陰性細胞(矢視)の2種類の前癌前駆細胞を1桁の細胞数レベルで検出することができた。また、図1から、GGT陽性細胞はGST-P陽性細胞(群)中に局在すること、GST-P陰性/GGT陽性細胞は存在しないこと、前癌前駆細胞は胆管(BD)周囲に発現することがわかった(画像中CVは中心静脈を示す)。
【0020】
図2は試験開始時および試験開始から各時間経過後に摘出した肝臓におけるGST-P陽性/GGT陽性細胞とGST-P陽性/GGT陰性細胞の分布を示すグラフである。3本のバーは左から順にGST-P陽性/GGT陰性細胞、GST-P陽性/GGT陽性または陰性細胞、GST-P陽性/GGT陽性細胞を示す。縦軸はGST-P陽性細胞(群)に対するこれらの各細胞の割合(%)を示し、横軸はGST-P陽性細胞(群)を構成するGST-P陽性細胞数を示す。カッコ()中の数値は分析を行ったGST-P陽性細胞(群)の数である。図2から明らかなように、試験開始から早期の潜伏期(Latent phase)においては、GST-P陽性細胞(群)を構成するGST-P陽性細胞数は少なく、GST-P陽性細胞(群)に対するGST-P陽性/GGT陽性細胞の割合は最大で50%程度であったが、PHにより誘導される対数増殖期(Logarithmic phase)においては、GST-P陽性細胞(群)を構成するGST-P陽性細胞数が増加し、それに伴ってGST-P陽性細胞(群)に対するGST-P陽性/GGT陽性細胞の割合も増加することが明らかになった。
【0021】
実施例2:前癌前駆細胞の検出(その2)
検出方法と検出結果
工程1において、前癌細胞の誘発をSolt-Farber protocolに従って行うかわりに、試験開始時から0.02%AAF添加食を摂取させ、試験開始から6週間後にPHを行い、試験開始から2週間後〜10週間後まで1週間ごとにラットの体内から肝臓を摘出するプロトコールを採用したこと以外は実施例1と同様の工程で行った。試験開始から4週間後(4W)、5週間後(5W)に摘出した肝臓(右葉)を用いて調製したGST-P染色標本とGGT染色標本の鏡像面の拡大画像(5週間後の標本については3箇所)を図3に示す(右:GST-P染色標本,左:GGT染色標本)。図3の画像から明らかなように、試験開始から4週間後においてGST-P陽性/GGT陽性細胞とGST-P陽性/GGT陰性細胞の2種類の前癌前駆細胞を検出することができた。また、5週間後においてGST-P陽性/GGT陽性細胞の急激な増殖が認められた。また、図3(b)〜(d)の画像から、GST-P陽性細胞(群)の発現誘導はほぼ均一であるのに対し、そこに局在するGGT陽性細胞の発現誘導は不均一であり、(b)では密な (c)では粗な樹状のネットワークがそれぞれ認められた。
【0022】
まとめ:
以上の結果から、GST-P陽性/GGT陽性細胞とGST-P陽性/GGT陰性細胞という2種類の前癌前駆細胞の検出に成功し、GGT陽性細胞の誘発はGST-P陽性細胞の誘発に付随していること、高増殖性のGST-P陽性/GGT陽性細胞は胆管周囲に誘発された低増殖性のGST-P陽性/GGT陰性細胞からの連続変換により発現することなどを世界に先駆けて明らかにすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、GGTの酵素活性に対する感度を改善するとともに正常な胆管上皮細胞に存在するGGTに対する非特異的な染色を区別し、GGT陽性細胞の存在の有無の判定を細胞数が1個乃至数個のレベルでも行えるようにすることで、このようなレベルにある変異細胞、即ち、前癌前駆細胞の検出を可能にするGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1におけるGST-P染色標本とGGT染色標本の鏡像面の拡大画像である。
【図2】同、GST-P陽性/GGT陽性細胞とGST-P陽性/GGT陰性細胞の分布を示すグラフである。
【図3】実施例2におけるGST-P染色標本とGGT染色標本の鏡像面の拡大画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)発癌性を有するか有する可能性のある物質を哺乳類動物(ヒトを除く)に投与した後、体内から肝臓を摘出して2〜6mm厚にスライスしてからアセトン固定する工程、
(2)アセトン固定した肝臓切片から20〜30μm厚の切片を連続的に複数枚調製する工程、
(3)調製した連続切片の1枚の面に対して胎盤型グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(以下「GST-P」)に対する抗体を用いて免疫組織化学的染色を行うとともに、このようにして免疫組織化学的染色を行った面と鏡面関係にある連続切片のもう1枚の面に対してγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(以下「GGT」)の活性染色を基質溶液中で行う工程、
(4)染色を行った2枚の連続切片の鏡像面をタングステンランプよりも熱発生量が少ない光源を用いた照明下でデジタル顕微鏡撮影する工程、
(5)得られた鏡像面のデジタル画像でGST-P陽性細胞が存在するポイントとGGT陽性細胞が存在するポイントを比較し、GST-P陽性/GGT陽性細胞および/またはGST-P陽性/GGT陰性細胞の存在の有無を判定する工程、
を順次実行することによるGST-Pおよび/またはGGT陽性細胞の検出方法。
【請求項2】
哺乳類動物が齧歯類である請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
発癌性を有するか有する可能性のある物質を哺乳類動物に腹腔内投与または経口投与する請求項1または2記載の検出方法。
【請求項4】
工程(4)におけるデジタル顕微鏡撮影の際に発光ダイオードを光源に用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の検出方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−181444(P2007−181444A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3016(P2006−3016)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月1日 第25回日本分子腫瘍マーカー研究会事務局発行の「第25回日本分子腫瘍マーカー研究会プログラム・講演抄録」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】