GSTP1の使用
本発明は、心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための、ならびにその診断のための、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1(GSTP1)の使用を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ P1の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)は、基質分子の求電子性基に及ぼすグルタチオン(GSH)のイオウ原子の求核性攻撃を触媒する多重遺伝子族のアイソザイムである。GSTは、毒性物質をGSHと共役させてより水溶性の物質(これは肝臓中で代謝されて、最後には身体から排出される)にする解毒酵素として知られている。アミノ酸配列に基づいて、哺乳動物GSTは6つのクラスに分けられる:すなわち、アルファ、ミュー、オメガ、パイ、シータおよびゼータである。これらのアイソザイムの中で、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1(GSTP1;GST−パイ、GSTP1−1)は、哺乳動物細胞において最も一般的である。GSTP1は、それらが種々の異なるヒト悪性腫瘍、例えば肺癌、結腸癌、胃癌、食道癌、口腔癌、腎臓癌、卵巣癌および精巣癌中で過剰発現されるため、新生物マーカーとしても関心を示されてきた。ほとんどの前立腺癌型は、GSTP1プロモーターが過メチル化してGSTP1の転写低減を引き起こすため(US 2009/0186360 A1)、正常前立腺組織に比して低減レベルのGSTP1ポリペプチドを含有する。GSTP1は、酸化ストレスに対する細胞性応答における決定因子であり、種々の細胞傷害性作因、例えばH2O2、UV、シスプラチン、アドリアマイシン、エトポシド、チオテパ、クロラムブシル、エタクリン酸および三酸化ヒ素により引き出されるアポトーシスから腫瘍細胞を保護する。したがって、GSTP1は、薬剤作用の標的として、そして腫瘍マーカーとしても、腫瘍医療における有望な標的とみなされる。
【0003】
GSTP1は、ストレスシグナル伝達の調節にも関与し、その非触媒およびリガンド結合活性に関連した機序により、アポトーシスに対して細胞を防御する。例えば、GSTP1は前炎症因子のLPS誘導性過剰産生を阻止し、LPSに対する応答において抗炎症的役割を果たす。GSTP1発現は、転写および翻訳の両レベルで、LPS刺激により上方調節される。GSTP1は、C末端との相互作用により、JNK(c−Jun NH2−末端キナーゼ)の内因性抑制因子としても機能する。外因性(組換え)GSTP1タンパク質はマクロファージに送達されて、細胞中でのiNOSおよびCOX−2発現を抑圧する、ということも実証されている。さらに、マウスへの腹腔内投与GSTP1タンパク質は、内毒素ショックの死亡率を有意に低減し、急性肺損傷および腹膜炎を抑制した(Luo et al., Mol. Immunol. 46 (2009), 848−857)。
【0004】
EP 1 500 709 A1は、22の炎症マーカーのうちの1つとしてのGSTP1を示唆している。
【0005】
GSTP1の種々のアイソフォームは、呼吸器系における交通(および喫煙)からの空気汚染とのGSTP1の相互作用、ならびに妊娠における高血圧との関連のため、喘息および小児アレルギー疾患と関連することも見出されている(Ohta et al., Sem. Thr. Hem. 29 (2003), 653−659)。
【0006】
心筋症(CMP)は、拡張型(DCM)(心筋症の中で最も高頻度に存在)および虚血型(ICM)を含めた、混成群の疾患である。薬物療法および外科的介入はCMPにおける生存利益を伴って改善されてきたが、しかし原因療法は依然として漠然とした目標である。したがって、CMPに介在する未知の機序の確認は、有益であり得る。この10年の研究の結果は、炎症、ならびに前炎症サイトカイン、特に腫瘍壊死因子(TNF)−αの放出増強がCMPの病因においてある役割を果たし得る、という証拠を明確に提供している。しかしながら、臨床試験は、TNF−αがCMPに関する実用的な治療標的であるか否かという疑問を投げかけたCMPにおけるTNF−αに関するより複雑な役割を逆説的に示している。IHDの病態は、CMPの発症に直接的に関連付けられ、患者は一般に、患者の症候を改善するため、そしてIHDによる(虚血型)CMPの発症を防止するかまたは遅らせるためという目的で、ベータ遮断薬またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)遮断薬のような医薬剤を摂取する。したがって、IHDのためにもCMPに関する療法を用いることは共通である。重要なことは、IHDを基礎にしたCMP、特に末期CMPを発症する患者は、一般に、限定された治療選択肢しかないということである(例えば、心臓移植または補助人工心臓の使用、これは、順次、限定数の患者にのみ提供され得る)。
【0007】
CMPおよびIHD、ならびにその主要原因のうちの1つ、すなわち、虚血性心疾患(心筋梗塞を生じ得る冠動脈心疾患とも呼ばれる)、特に血圧上昇誘導性CMPおよび容積誘導性CMPを効率的に防止し、処置するためのさらなる薬剤標的および処置レジメンに対する必要性は依然として満たされていない。
【0008】
心筋症は、再発性増悪を生じて、入院または死に至る。したがって、さらにまた、これらの患者における最適な目的に合わせた心筋症処置を達成するためには、厳密な査察および徹底的臨床試験が必要とされ、厖大なヘルスケア経費が掛かる。心筋症の進化を同定し、処置のモニタリングおよび結果を最適化するのに役立ち得るバイオマーカーが、したがって、非常に望ましい。理想的には、このような試験は、高感度で、特異的で、非侵襲性で、迅速且つ安価であるべきである。多数の神経液性因子および炎症性サイトカインは、心筋症のバイオマーカーとして報告されているが、しかし脳型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびその不活性N末端断片(プロBNP)は、慢性CMPが疑われるかまたは確立された患者の臨床診断およびモニタリングにおいて最も広範に受け入れられてきた。しかしながら、循環BNPおよびプロBNPレベルは、腎機能により劇的に影響を及ぼされ、そして年齢および性別依存性である。さらに、プロBNPが、駆出率(EF)が低下したCMPとは対照的に保持されたCMPという診断に有益であり得るか否かは依然として不明である。
【0009】
したがって、心筋症および虚血性心疾患のための診断手段を提供することも、本発明の一目的である。
【0010】
したがって、本発明は、心筋症(CMP)の防止または処置のための、ならびに虚血性心疾患の防止または処置のための、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1(GSTP1)を提供する。本発明に関して、GSTP1は、CMP処置において、ならびに虚血性心疾患(IHD)の処置において、有益であるということが意外にも示され得た。GSTP1は、癌医療における(例えばUS 5,427,917 A、US 5,552,277 AおよびWO 98/21359 A1)、ならびにアレルギー疾患、例えば喘息における、特に交通関連大気汚染と結びついた(例えば、Melen et al., Env. Health Persp. 116 (2008), 1077−1084)、関連タンパク質として記載されている。GSTP1は、内毒素ショックの死亡率を低減し、ならびに急性肺損傷および腹膜炎を抑制することも示唆されてきた(例えば、Luo et al., Mol. Immunol. 46 (2009), 848−875)。GSTP1は、キナーゼシグナル伝達を調整するに際してGSTP1の新規のリガンド結合機能としてTRAF2(腫瘍壊死因子受容体関連因子2)と相互作用することが報告された(Wu et al., Oncogene 25 (2006), 5787−5800)。これは、サイトカイン、UVまたはH2O2のような異なる損傷刺激に対して細胞を防御するためにGSTP1により利用される機序を分析するための新規の識見を提供し、そしてこの教示は、腫瘍細胞においてGSTP1−TRAF2複合体を形成することにより一般的生存因子としてのGSTP1機能を考え得るとみなされたが、しかしこの複合体の抑制は抗腫瘍療法に限定されるものとみなされた。
【0011】
本発明によれば、GSTP1は、具体的には、対照と比較して、CMPおよびIHD患者において上方調節される、ということが意外にも見出された。組換えGSTP1は、GSTP1−TRAF2会合を媒介し、その用量およびCMPの基本形態によって決まる前炎症JNK1およびp38活性化ならびにTRAF2発現を低減する、ということがさらに見出された。これは、GSTP1の投与によるCMPおよびIHDに関する新規の治療戦略の提供を可能にした。GSTP1はTRAF2との会合による前炎症JNK1/p38のTNF−α媒介性活性化を改善するため、GSTP1は、CMPおよびIHD処置において有益であるだけでなく、特に危険な患者、例えば高血圧患者において、CMPおよびIHDの防止にも有益である。
【0012】
本発明は、CMPおよび虚血性心疾患の防止または処置のための医薬剤の製造のためのGSTP1の使用を提供する。本発明によるCMPおよびIHDの処置は、このような処置を必要とする個体、例えばヒトCMPおよびIHD患者への有効量のGSTP1の投与を包含する。これらの理由のため、ならびにIHDの病態がCMPの発症に直接的に関連づけられるという事実に基づいて、患者は一般に、患者の症候を改善するため、そしてIHDによる(虚血型)CMPの発症を防止するかまたは遅らせるためという目的で、ベータ遮断薬またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)遮断薬のような医薬剤を摂取する。IHD患者における、特にIHDによる心筋梗塞を発症している患者における心筋のリモデリング(これは、順次、心室のリモデリングと、その後の心臓のポンプ機能減損をもたらし、特に心筋梗塞患者において、CMPおよびIHDに共通である病理学的状態である)に基づいているIHDの病態とCMPとの密接な関係は、IHDおよびCMPの防止または処置に関する本発明の有効性を示す。したがって、本発明は、IHDの防止または処置にも適している、ということは明白である。重要なことは、IHDを基礎にしたCMP、特に末期CMPを発症する患者は、一般に、限定された治療選択肢しかない(例えば、心臓移植または補助人工心臓の使用であって、これは、順次、限定数の患者にのみ提供され得る)ことであり、この事実は、一方ではCMPの発症を防止することを目指し、他方で、IHD患者における臨床症状を改善するかまたは安定化することを目指した、IHDに罹患している患者を防止しまたは処置するための本発明の好ましい使用を構成している。
【0013】
本発明を用いて、CMPおよびIHDのすべての型および段階、その急性および慢性型、は、CMPまたはIHDの起源とは関係なく、処置され得る。もちろん、「処置」という用語は、優先的に、疾患の改善、ならびに疾患の進行の防止または緩慢化を包含する。例えば、CMPは、心筋梗塞により引き起こされ、特発性拡張型であり得るし、あるいは高血圧により引き起こされ得る。これらの型はすべて、本発明に従ってGSTP1で処置され得る。具体的には、例えば心筋梗塞により引き起こされる虚血型CMPは、GSTP1で処置され得るが、しかしながら、非虚血型(例えば、特発性拡張型CMP、あるいは高血圧または容積誘導性CMP)も処置され得る。これらのCMPのすべてにおいて、炎症経路が包含されるため、これは、本発明によるGSTP1での処置に関してそれらを適格にする(このような炎症経路が包含される場合には、実にまれな型のCMP)。
【0014】
したがって、本発明による好ましいCMPは、拡張型心筋症、特にうっ血性心筋症;閉塞性肥大性心筋症、特に肥大性大動脈弁下狭窄症;その他の肥大性心筋症、特に、非閉塞性肥大性心筋症;心内膜心筋(好酸性)疾患、特に、心内膜心筋(熱帯性)繊維症またはレフラー心内膜炎;心内膜繊維弾性症、特に先天性心筋症;その他の拘束型心筋症、特に狭窄性心筋症NOS(別記されない(ICD−10による));アルコール性心筋症、薬剤およびその他の外的作因による心筋症、非特異的心筋症、特に原発性、続発性心筋症NOS;感染性および寄生性疾患における心筋症、特にジフテリアにおける心筋症;代謝性疾患における心筋症、特に心臓アミロイドーシス;栄養性疾患における心筋症、特に栄養性心筋症NOS;心臓の痛風結節または甲状腺中毒性心疾患である。
【0015】
本発明により処置される(または防止される)べきCMPまたはIHDの具体的に選択される形態は、虚血により、特に心筋梗塞により、高血圧により、または心筋炎により引き起こされるCMPである。したがって、本発明によるGSTP1処置は、好ましくは、急性心筋炎、好ましくは感染性心筋炎、特に敗血症性心筋炎;孤立性心筋炎、細菌疾患における心筋炎、特にジフテリア性、淋菌性、髄膜炎菌性、梅毒性または結核性心筋炎;ウイルス疾患における心筋炎、特にインフルエンザ性心筋炎または流行性耳下腺炎性心筋炎;シャーガス病における急性または慢性心筋炎、トキソプラズマ症における心筋炎、リウマチ性心筋炎または類肉腫性心筋炎を有する患者に適用される。
【0016】
本発明による好ましい適応症は、したがって、ICD−10の第IX章(I11〜I15、特にI21、I22およびI23;I20〜I25、特にI21およびI22;I40〜I43、特にI42;I50〜I57、特にI50およびI57)で列挙されている。
【0017】
本発明の主眼点は、ヒト患者の処置である;しかしながら、本発明の知見に基づいて、炎症を伴う動物(哺乳動物)CMPおよびIHDも、本発明に従ってGSTP1により首尾よく処置され得る、ということが明らかである。これは、農場または動物園動物(特に繁殖農場動物、例えば(前者)競走馬)、あるいはペット、例えばイヌ、ネコおよびウマに関して重要であり得る。
【0018】
本発明はCMPおよびIHDの防止のためにも使用可能であるが、しかし、本発明の主眼は、CMPまたはIHDと既に診断されているか、あるいはCMPまたはIHDを発祥する危険を有するヒトCMPおよびIHD患者、例えば高血圧を有する患者(例えば、収縮期血圧160mmHg以上、および/または拡張期血圧100mmHg以上を有する段階2の患者)の処置にある、ということは明らかである。本発明の防止態様の別の好ましい実施形態は、狭心症患者に関するものであり、それにより、この組の患者においては心筋梗塞が起こっていることも起きていないこともある;新機能不全または心不全(Mc Murray et al., Lancet 365 (2005), 1877−1889)が存在することもある。ここでは、連続静脈内投与または心筋への連続投与さえ、示されている。
【0019】
本発明によるGSTP1含有医薬剤の投与の好ましい経路は、非経口経路、好ましくは腹腔内または静脈内投与であり、静脈内投与が特に好ましい。静脈内投与は、例えば、ボーラス注射により、または長期間(例えば、30分〜6時間、特に1〜3時間)に亘る連続静脈内送達により、実施され得る。心臓手術の過程においては、心臓への直接的な投与(心筋内注射)も選択される。この経路を用いて、GSTP1活性は、直接的に且つ高濃度で、必要とされる領域に、例えば梗塞領域に送達され得る。別の好ましい投与経路は、冠静脈洞への投与(例えば、冠静脈洞中に挿入されるカテーテルによる)である。経口または粘膜経路(原則としてGSTP1に関して記載されてはいるが;例えばUS 5,976,528 A参照)は余り選択されないが、それは、GSTP1がタンパク質であり、この経路に関しては、本草薬物製造に関して有意の最適化とともに、特定の防御手段(腸溶コーティング、カプセル封入等)が必要であるためである。
【0020】
投与の好ましい投与量は、0.001〜100mg GSTP1/kg、好ましくは0.01〜10mg GSTP1/kg、特に0.1〜1mg GSTP1/kgの投与量であって、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与される;あるいは、0.1〜10000U GSTP1/kg、好ましくは1〜1000U GSTP1/kg、特に10〜100U GSTP1/kgの投与量であって、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与される。これらは、静脈内適用のための好ましい1日投与量である(「kg」は、処置されるべきヒトの体重1kgを意味する)。外科手術中、これらの投与量は、全投与量として、または1以上の投与量として;あるいは投与量の一部のみとしても適用され得る(GSTP1は、必要とされる領域で、外科手術中に、直接的に適用され得ると考える)。「直ぐに使える」1日剤形(例えば、80kgおよび/または60kgのヒト個体に関して)は、予備製造され、そして凍結乾燥または凍結(ならびに例えば−20℃に保持)により、貯蔵安定性にされ得る。次に、投与量は、全部または一部のみ、消費され得る(他と、処置されるべきヒトの体重を基礎にして)。
【0021】
本発明によるGSTP1は、「GSTP1−1」、「GSTクラス−パイ」、「DFN7」、「GST3」、「GSTπ」等とも呼ばれ、そして還元型グルタチオンを広範な数の外因性および内因性疎水性求電子性物質と共役させる(EC 2.5.1.18;触媒活性:RX+グルタチオン=HX+R−S−グルタチオン)。ヒト配列(配列番号1)は、UniProtKB/SwissProtデータベース(HGNC:4638、Entrez Gene: 2950)で「GSTP1_HUMAN、 P09211」として列挙される。
配列番号1:
【表1】
【0022】
いくつかの変異体はこのヒトタンパク質に関して存在し(同型接合性ならびに異型接合性)、最も重要な変異体は、位置105でのIle−Val交換、および位置114でのAla−Val交換である(Melen et al., 2008)。他の変異体としては、位置78でのGly−Glu交換、位置110でのThr−Ser交換、位置139でのGly−Glu交換、位置147でのAsp−Tyr交換、ならびに位置158でのAsp−His交換である。いくつかの他のSNPが既知であるが、アミノ酸配列に影響を及ぼさない。
【0023】
本発明によるGSTP1で処置されるべきCMPまたはIHD患者が、配列番号と比較して、(異型接合または同型接合性)アミノ酸交換を生じるような対立遺伝子を有する場合、このような患者に対立遺伝子型のこのタンパク質を投与することが推奨され得る。これは具体的には、この対立遺伝子に関して同型接合性である患者、例えば同型接合性105Valまたは114Val対立遺伝子を有する患者(この患者は次に、それぞれ、105Valまたは114Val GSTP1変異体を受容する)に関して選択される。このような場合、悪性反応、特に悪性免疫反応(これは常に、タンパク質様医薬剤に関して局所的である)を発症する危険は、低く保持される。とにかく、患者における免疫反応を引き出すかまたは追加免疫する本発明によるGSTP1を含有する薬学的調製物中の任意の成分は、可能な場合、最小限に保持されるべきである。
【0024】
哺乳動物からのオルソログは、例えばチンパンジー(Pan troglodytes;NCBI寄託番号:745954、 XM_001152516.1、XP_001152516.1)およびマウス(ハツカネズミ;NCBI寄託番号:148701、 NM_013541.11、NP_038569.11、AK0791445、BC0020485)から既知であるが、しかし非哺乳動物、例えばミノカサゴ(Danio rerio)および蠕虫(線虫Caenorhabditis elegans)からも既知である。
【0025】
本発明は、心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための、GSTP1、好ましくはヒト組換えGSTP1またはヒト胎盤GSTP1、ならびに製薬上許容可能な担体を含む薬学的組成物にも関する。
【0026】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、1〜100000UのGSTP1、好ましくは10〜10000UのGSTP1、特に10〜1000UのGSTP1を含有する。1単位のGSTP1活性は、1.0マイクロモルの1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンを還元グルタチオン/分と、pH6.5で25℃で共役させる。
【0027】
本発明による好ましい組成物は、緩衝剤も含有する。典型的緩衝系は、炭酸/HCO3系(pH6.2〜8.6;中性)、炭酸/ケイ酸塩緩衝液(pH5.0〜6.2;弱酸性)、酢酸/酢酸塩緩衝液(pH3.7〜5.7)、リン酸塩緩衝液(NaH2PO4+Na2HPO4;pH5.4〜7.8)、アンモニア緩衝液(NH3+H2O+NH4Cl;pH8.2〜10.2)、トリス/HCl(トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン;pH7.2〜9.0)、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸;pH6.8〜8.2)、HEPPS(4−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−1−プロパンスルホン酸;pH7.3〜8.7)、またはMES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸;pH5.2〜6.7)である。本発明による好ましい緩衝剤は、リン酸塩緩衝液、トリス−HCl緩衝液またはHEPES緩衝液であり、pHは5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.5、特に6.5〜8.0である。緩衝液濃度は、好ましくは1mM〜1M、特に10mM〜0.5Mに調整され得る。その他の好ましい付加的成分としては、安定化剤、キレート化剤、塩等、例えばグリセロール、グルコース、サッカロース、マルトース、EDTAまたは類似の物質、NaCl、KCl、NH4Cl、ならびに薬学的調製物で使用可能な類似の塩が挙げられる。もちろん、薬学的調製物中のすべての成分は、薬学的等級品質のものでなければならない。
【0028】
選択的に用いられる製薬上許容可能な担体は、生理学的食塩水、植物油、鉱油、水性カルボキシメチルセルロースナトリウムまたは水性ポリビニルピロリドンであるが、しかしながら、滅菌水も用いられ得る。
【0029】
本発明に従って用いられるべきGSTP1は、種々の方法により提供される。上記のように、ヒト胎盤からのGSTP1は、GSTP1の好ましい天然供給源のうちの1つである。他の好ましい供給源は、GSTP1(過剰)発現細胞の培養である。GSTP1調製物は、市販もされている。しかしながら、本発明による好ましい工業的生産経路は、GSTP1の組換え生産である。GSTP1の組換え生産は、このような供給源からのその精製と同様に、十分に確立されている(例えば、Luo et al., 2009;Wu et al., 2006;WO 98/21359 A1;US 5,976,528等)。GSTP1コード配列を含有する発現ベクター(例えば、WO 98/21359 A1、パートD(40〜51頁))は、適切な宿主細胞(例えば、COS、HEK 293、HeLa、VERO、W138、BHKまたはMDCK細胞、さらにまた酵母、植物、昆虫および細菌細胞(出芽酵母、大腸菌等))中に移される。次いで、GSTP1は、標準方法に従って発現され、精製される。組換えGSTP1性腺は、金属キレートペプチド、プロテインAドメイン、アフィニティー精製タグ等のような精製を助長する付加的配列を有するGSTP1の変異体型も用い得る(例えばUS5,976,528 A、カラム16)。このような変異体は、(精製後に、または精製の途中に)、例えば切断可能リンカー配列(プロテアーゼ、エンテロキナーゼ等)により除去され得る。GSTP1の精製済みバッチ調製物は、例えば1〜200UのGSTP1活性/総タンパク質1mgを含有し得る。好ましい薬学的GSTP1組成物は、5〜200U/タンパク質1mg、特に10〜150U/タンパク質1mgを含有する。本発明による薬学的調製物は、常に、滅菌性であり、本発明に従ってヒト患者への投与に使用可能である適切に標識された生成物として提供される。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、CMPまたはIHDに対する診断標的としてのGSTP1に関する。本発明は、CMPまたはIHDの診断のためのGSTP1の使用を提供する。GSTP1は腫瘍診断における既知の且つ確立されたマーカーであるが、しかしGSTP1が、感受性および特異性に関して一般的「ゴールド・スタンダード(最も信頼できる基準)」であるプロBNPより優れてさえいる、CMPまたはIHDに対するバイオマーカーである、ということは意外である。
【0031】
GSTP1の療法的使用に関して上記で言及された心筋症または虚血性心疾患は、本発明に従って診断もされ得る。
【0032】
したがって、本発明は、CMPまたはIHDの診断方法、特に上記の同定方法であって、生物学的試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNAの量を確定すること、そしてこの量を、限定された且つ既知のCMP/IHD状態を有する、特に健常ヒト個体または患者からの生物学的試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNA量と比較することによる方法に関する。この比較は、実際的見地から実行され得る。すなわちその場合、実試料は、生物学的試料と同様に試験され(横並びで)、それは、実質上の比較であって、したがって、確定値が、健常または罹患試料の既知の値と比較される。
【0033】
GSTP1の量を確定するための好ましい技法としては、抗体連結技法、例えばELISAが挙げられ、これらは任意に、電気泳動技法またはラジオイムノアッセイ(RIA)と組合わされる。電気泳動技法は、MALDI技法とも組合され得る。
【0034】
代替的には、GSTP1 mRNAは、例えば定量的実時間RT−PCRにより決定され得る。
【0035】
好ましい診断標的は、CMPまたはIHDを有することが疑われるヒト患者、CMPまたはIHDを発祥する危険があるヒト患者、あるいはCMPまたはIHDを有する(当該疾患の進行に関してモニタリングされなければならない)ヒト患者である。
【0036】
本発明による好ましい生物学的試料としては、ヒトの血液、血漿または血清試料、あるいはヒト心筋生検試料が挙げられる。これらの試料は、慣用的方法によっても試験され得る。
【0037】
典型的には、血清中の高濃度のGSTP1は、CMPまたはIHDを示す。健常人では、GSTP1の血清濃度は、50ng/mgより低く、好ましくは10ng/mlより低いことさえある。CMPまたはIHD罹患状態は、50ng/ml以上、好ましくは100ng/ml以上の血清レベルで診断され得る。重症型のCMPまたはIHDは、200ng/ml以上で診断され得る。もちろん、これらの値は、常に、GSTP1タンパク質を検定するために用いられる技法によって決まる。代替的には、CMPまたはIHD罹患状態は、GSTP1の血清レベルが、健常状態、特に同一患者の健常状態と比較して、少なくとも係数2の差で、好ましくは少なくとも係数5の差で、上昇される場合に、診断され得る。血清GSTP1レベルが、健常状態、特に同一患者の健常状態と比較して、少なくとも係数10、特に少なくとも係数20の差で上昇される場合、重症型が診断され得た。
【0038】
本発明に関しては、試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNAの量の確定は、標準試験方法、例えばELISAまたはPCRにより、非常に短時間内に実施され得る。配列番号2:
【表2】
および配列番号1(ならびにGSTP1遺伝子およびGSTP1タンパク質に関して上記されたデータベース記載事項)によるDNAおよびアミノ酸配列に基づいて、本発明は、例えば、黄色ブドウ球菌感染の同定のためのPCR検定、あるいはサンドイッチELISA検定も提供する。本発明による適切なELISAにおいて、GSTP1は、GSTP1特異的抗体を有する生物学的試料から捕捉され、GSTP1の異なるエピトープまたは以前の結合事象に特異的である抗体に対して向けられる二次抗体で検出され、定量され得る。
【0039】
ジス転写物(m−RNA)の検出は、標準定量核酸試験、例えば定量的RT−PCRにより可能である。したがって、本発明は、GSTP1をコードする少なくとも1つの核酸配列またはその一部を増幅するための少なくとも2つの合成核酸配列中のGSTP1 mRNAの量を決定するためのキットであって、キット中の合成核酸配列のうちの少なくとも1つが、以下のものからなる群から選択されるキットも提供する:(a)適切なプライマー対(上記プライマー対は、以下のうちの少なくとも1つの10〜30連続ヌクレオチドを含む核酸配列である:(i)配列番号2によるGSTP1 mRNAまたはその相補配列;あるいは(ii)GSTP1遺伝子の5’または3’非コード領域から(例えば、5’−または3’−方向に500ヌクレオチドまで、好ましくは200ヌクレオチドまで、特に100ヌクレオチドまで延びる領域またはその相補配列中;このような配列は上記の配列ライブラリー記載事項に存在する);上記プライマーは、GSTP1遺伝子またはその5’−または3’−領域間に配置されるヌクレオチド配列を重合するために使用可能である)(上記重合可能GSTP1ヌクレオチド配列は、PCR検出可能であり、好ましくは1000bpまで、さらに好ましくは500bpまで、さらに好ましくは300bpまでの長さである;他方で、プライマーは、全GSTP1 m−RNAを(PCRで)重合するためにも選択され得る);ならびに(b)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための適切な試薬。好ましくは、キットはさらに、以下の:(c)使用説明書、ならびに(d)任意に、GSTP1 mRNAの確定および/または定量のための陽性および/または陰性対照、特に、GSTP1をコードする対照核酸またはその断片を含む。適切なPCR試薬の例としては、PCR反応緩衝液、Mg2+(例えば、MgCl2)、dNTP、DNAポリメラーゼ(例えば、逆転写酵素および熱安定性DNAポリメラーゼ(例えば、Taq関連DNAポリメラーゼおよびpfu関連DNAポリメラーゼ))、RNアーゼ、PCR反応エンハンサーまたは阻害剤、PCR反応モニタリング剤(例えば二本鎖DNA染料(例えばSYBRTMグリーン))、TaqManTMプローブ、分子標識およびScorpion−STM、ならびにPCR等級水が挙げられる。
【0040】
本明細書中に記載されるプライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検定において特に有用である。PCRは、DNAベースの配列のin vitro増幅のための実用的な系である。例えば、PCR検定は、熱安定性ポリメラーゼ、ならびに2つの約10〜30塩基プライマー(一方は増幅されるべき配列の一端で(+)鎖と相補性であり、他方は他の端と(−)鎖と相補性である)を用い得る。DNA鎖を含むプライマー組を含む新規合成生物学的試料は、その後、同一プライマー配列のための付加的鋳型として役立ち得るため、解離は、所望の配列の迅速且つ高度特異的増幅を生じ得る。PCRは、GSTP1 mRNA含有試料中の限定配列の存在を検出するためにも用いられ得る。
【0041】
例として、本発明による典型的PCR検定は、任意に、mRNAのDNAへの逆転写後に、2つの合成オリゴヌクレオチドプライマー(それぞれ、増幅されるべきGSTP1をコードする標的DNAまたはその相補鎖の2つの領域、あるいはその5’−または3’−領域(各鎖に関するもの)と特異的におよび相補的に結合している)を用いて開始し得る。これらは、過剰デオキシヌクレオチド(dNTP)および熱安定性DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)の存在下で、標的DNA(純粋である必要はない)に付加され得る。一連(典型的には20〜40)の温度周期で、標的DNAは繰り返し変性され(約80〜100℃、例えば90℃)、プライマーとアニーリングされ(典型的には40〜65℃で)、そして娘鎖がプライマーから伸長され得る(典型的には65〜80℃、例えば72℃)。娘鎖それ自体は、その後の周期のための鋳型として作用するので、両プライマーと整合するDNA断片は、線状というよりむしろ幾何級数的に増幅される。標的DNAは、純粋である必要も、豊富である必要もない;したがって、PCRは、具体的には、本発明による臨床診断法に適している。
【0042】
これらの試験は、好ましくは、定量のためにも適している標識、例えばビオチン、蛍光分子、放射性分子、色原性基質、化学発光マーカー等を用い得る。核酸をビオチニルかするための方法は、蛍光分子および放射性分子をオリゴヌクレオチドおよびヌクレオチド中に導入するための方法であって、当該技術分野で周知である。検出方法は、他の一般に用いられる標識と同様に、蛍光、放射性、化学発光、色原性標識に関して周知である。要するに、化学発光は、それらの発光の波長および強度によりほとんど直接的に、同定され、定量され得る。ビオチンが用いられる場合、それは、検出可能マーカー、例えば酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)と共役されるアビジン、ストレプトアビジン等により検出される。ストレプトアビジンは、高親和性でビオチンと結合し、非結合ストレプトアビジンは洗い落とされ、次いで、過酸化物および適切な緩衝液の存在下で、冷光−発光基質を用いて、ホースラディッシュペルオキシダーゼ酵素の存在が検出される。
【0043】
試料中のGSTP1の量の確定は、好ましくは、ELISA、RIAおよびFACSを包含する。抗GSTP1抗体を用いたGSTP1の検出および定量は、当該技術分野で十分に確立されており(特に、腫瘍医療において)、本発明にしたがってCMPまたはIHDを診断する目的のために容易に適用され得る(例えば、WO 98/21359 A1(「F. 抗体」);US 5,976,528 A、US 5,427,917 A)。GSTP1発現に関する正常または標準値は、正常哺乳動物被験体、好ましくはヒトから採取される体液または細胞抽出物を、複合体形成に適した条件下で、GSTP1に対する抗体と組合せることにより確立される。標準複合体形成の量は、種々の方法により、好ましくは測光学的手段により、定量され得る。被験体、試料、対照および疾患にいて、生検組織から発現されるGSTP1の量は、標準値と比較される。標準および被験体値間の偏差は、疾患を診断するためのパラメーターを確立する。上で既に記述したように、最も好ましい試料は、ヒト心臓生検のもの、ならびにCMPまたはIHDを有する、CMPまたはIHDを有することが疑われる、あるいはCMPまたはIHDを発症する危険がある個々のヒト患者のヒト血液から得られるものである。
【0044】
本発明は、以下の実施例および図面によりさらに例証されるが、それらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】DCMおよびICM患者におけるGSTP1およびTRAF2増大を示す。(A)代表的遺伝子アレイ画像は、標識化cDNAプローブのGSTP1およびTRAF2アレイ配列(矢印)とのハイブリダイゼーション増大を示す。(B)対照のCy3(緑色)染色と比較した場合の、DCMおよびICM患者における心臓GSTP1およびTRAF2タンパク質に関するCy5(赤色)染色増強を示す代表的タンパク質アレイ画像。(C)実時間RT−PCRによる心筋GSTP1およびTRAF2 mRNA発現の定量。GSTP1(*P<0.0001)およびTRAF2(P<0.0001)mRNA発現は、対照と比較して、心不全患者において有意に上方調節される。(D)タンパク質負荷対照レベルに関して補正された心筋GSTP1およびTRAF2タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像および定量。心筋タンパク質発現レベルは、対照と比較して、GSTP1(P<0.0001、P=0.0019)およびTRAF2(P<0.0001、P=0.005)に関してDCMおよびICMで上昇した。DCMおよびICMを比較した場合、GSTP1 mRNAおよびタンパク質発現に有意差は見出されなかった;しかし、TRAF2 mRNA(†P=0.001)およびタンパク質(†P≦0.0001)発現レベルは、ICMと比較して、DCMでは有意に高かった。* 対照に対して有意に異なる。
【図2】DCMおよびICMにおけるGSTP1−TRAF2相互作用、ならびにJNKおよびp38の活性化を示す。(A)DCM、ICMおよび対照における心筋GSTP1−TRAF2複合体形成の代表的ウエスタンブロット画像および定量。LV心筋溶解物を免疫沈降(IP)させて、沈降物をウエスタンブロットで分析した。ICMおよび対照と比較して、有意に低いGSTP1−TRAF2会合が、DCMにおいて見出された(*P≦0.008)。(B)DCM、ICMおよび対照における心筋活性JNK1およびp38タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像および定量。DCMおよびICMの両方において、活性JNKならびにp38のM心臓タンパク質発現(P<0.0001)は、対照と比較して、有意に上方調節される。さらに、DCM患者は、ICMと比較して、有意に高い心臓JNKおよびp38タンパク質発現(†P<0.0001)を明示する。全タンパク質発現を、タンパク質負荷対照レベルに関して補正した。* 対照に対して有意に異なる。
【図3】GSTP1が心臓組織培養中の心臓TRAF2−JNK1/p38系を調整する、ということを示す。(A)5μg/mL組換えGSTP1で処置した心臓組織培養中のTRAF2、GSTP1、活性JNKおよび活性p38タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像。(B)組換えGSTP1(2.5、5、10μg/ml)で24時間処置したDCM、ICMおよび対照心臓組織培養中でのTRAF2、活性JNKおよび活性p38タンパク質発現の定量。TRAF2のタンパク質発現は、用いた濃度によって、非処置のものと比較して有意に低減された(DCM:2.5μg/mLに関してはP=0.011、5μg/mLに関してはP=0.014、10μg/mLに関してはP=0.003;ICM:2.5μg/mLに関してはP=0.006、5μg/mLに関してはP=0.003、10μg/mLに関してはP=0.0001;対照:2.5μg/mLに関してはP=0.19、5μg/mLに関してはP=0.0003、10μg/mLに関してはP=0.03)。GSTP1処置後、活性JNK発現は、用いた濃度によって、非処置群と比較して、DCM、ICMおよび対照心臓組織において減少した(DCM:2.5μg/mLに関してはP=0.0009、5μg/mLに関してはP=0.01、10μg/mLに関してはP=0.0003;ICM:2.5μg/mLに関してはP=0.0005、5μg/mLに関してはP=0.007、10μg/mLに関してはP=0.0001;対照:2.5μg/mLに関してはP=0.001、5μg/mLに関してはP=0.69、10μg/mLに関してはP=0.71)。同様に、活性p38発現は、用いた濃度によって、非処置のものと比較して、DCM、ICMおよび対照心臓組織においてGSTP1処置に応答して低減した(DCM:2.5μg/mLに関してはP=0.004、5μg/mLに関してはP=0.0001、10μg/mLに関してはP=0.0009;ICM:2.5μg/mLに関してはP=0.03、5μg/mLに関してはP=0.0001、10μg/mLに関してはP=0.008;対照:2.5μg/mLに関してはP=0.008、5μg/mLおよび10μg/mLに関してはP=0.0004)。TRAF2、JNKおよびp38低減に関する適用GSTP1濃度の比較は、DCMおよびICMにおいては、2.5μg/mLおよび5μg/mL、ならびに10μg/mLの間の差が有意であるが、対照では有意でない、ということを示した。TRAF2:(DCM:2.5対5μg/mLおよび対10μg/mLに関してはP=0.01、5対10μg/mLに関してはP=0.62;ICM:2.5μg/mL対5μg/mLに関してはP=0.0007、2.5対10μg/mLに関してはP=0.0004、5対10μg/mLに関してはP=0.35;対照:2.5対5μg/mLに関してはP=0.07、2.5対10μg/mLに関してはP=0.06、5対10μg/mLに関してはP=0.15)。JNK:(DCM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.0006、2.5対10μg/mLに関してはP=0.003、5対10μg/mLに関してはP=0.48;ICM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.004、2.5対10μg/mLに関してはP=0.01、5対10μg/mLに関してはP=0.88;対照:2.5対5μg/mLに関してはP=0.02、2.5対10μg/mLに関してはP=0.05、5対10μg/mLに関してはP=0.97)。p38(DCM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.0002、2.5対10μg/mLに関してはP=0.04、5対10μg/mLに関してはP=0.76;ICM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.0006、2.5対10μg/mLに関してはP=0.02、5対10μg/mLに関してはP=0.41;対照:2.5対5μg/mLに関してはP=0.06、2.5対10μg/mLに関してはP=0.08、5対10μg/mLに関してはP=0.29)。(C)組換えGSTP1(5μg/ml)で処置し、免疫沈降(IP)に付したDCM、ICMおよび対照心筋組織培養からの心筋GSTP1−TRAF2複合体の代表的ウエスタンブロット画像。GSTP1およびTRAF2間のGSTP1処置心臓組織培養会合は、用量および疾患非依存性で、非処置試料と比較した場合、有意に高かった(5μg/mL GSTP1濃度に関してはP=0.02;2.5および10μg/mL GSTP1濃度に関する結果は示されていない)。* 対照に対して有意に異なる。† GSTP1 2.5μg/ml処置組織培養に対して有意に異なる。≠ GSTP1 5μg/mlおよび10μg/ml処置組織に対して有意に異なる。
【図4】TNF−αが、DCM心臓培養中でのGSTP1に対するTRAF2−JNK1/p38カスケードの感受性を阻止する、ということを示す。(A)TNF−α(50ng/ml)およびGSTP1(5μg/ml)で処置したDCM、ICMおよび対照心臓組織培養の代表的ウエスタンブロット画像および定量(B)。TNF−α活性化JNK(P=0.08)およびp38(P=0.75)カスケード、ならびにTRAF2(P=0.18)タンパク質発現は、DCM心臓組織培養中の組換えGSTP1の影響を受けなかった。ICMおよび対照では、活性JNK(P<0.001;P<0.002)、活性p38(P<0.0002;P<0.0001)およびTRAF2(P<0.001;P=0.003)タンパク質発現は、GSTP1刺激に応答して顕著に低減された。GSTP処置ICMおよびDCM心臓組織培養の比較は、DCMの場合と比較して、ICMにおいて有意に低いTRAF2、活性JNKおよびp38(†P<0.001)タンパク質発現を示す。(C)TNF−α(50ng/ml)およびGSTP1(5μg/ml)で処置した免疫沈降心臓組織溶解物の代表的ウエスタンブロット画像。ICMおよび対照心臓組織と対比して、DCM心臓組織中では、TNF−α刺激後に、GSTP1はTRAF2と会合できなかった。
【図5】(A)TNF−α(50ng/ml)およびGSTP1(10μg/ml)で処置したDCM、ICMおよび対照心臓組織培養の代表的ウエスタンブロット画像および定量(B)。(B)結果は、GSTP1(10μg/mL)およびTNF−αで処置したDCM心臓組織培養が、TNF−α処置対照と比較して、JNKおよびp38活性化を顕著に低減し、ならびにTRAF2タンパク質発現を低減した(*P<0.0001)、ということを実証する。(C)DCM心臓組織溶解物の免疫沈降物は、5mg/mlのGSTP1と比較して、10μg/mlのGSTP1でのGSTP1−TRAF2会合の有意の(P≦0.035)増大を示す。
【図6】血清および心臓GSTP1がCMPと関連する、ということを示す。(A)代表的血清タンパク質アレイ画像は、対照(EF≧65%;n=40)と比較して、末期心疾患(HF)(EF≦35%;n=40)患者における血清GSTP1タンパク質に関するCy3(緑色)およびCy5(赤色)染色増強を示す。(B)ELISA測定値は、(EF≧65%;n=40)を有する対照に対して、(EF≦35%;n=40)を有する末期HF患者における血清GSTP1濃度の有意の(*P<0.0001)上昇を示す。(C)代表的心臓組織タンパク質アレイ画像は、対照(EF≧65%;n=20)と比較して、末期HF患者(EF≦35%;n=40)における心臓GSTP1タンパク質に関するCy3(緑色)およびCy5(赤色)染色増強を示す。(D)タンパク質負荷対照レベルに関して補正された心筋GSTP1タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像および定量。GSTP1タンパク質発現レベルは、対照心臓移植片組織に比して、EF≦35%を有する末期HF患者において有意に上昇した(†P≦0.001)。
【図7】駆出率(EF)との血清GSTP1およびプロBNP関連、ならびにGSTP1およびプロBNP間の相関を示す。(A)EF≦22%を示す心不全患者は、他のすべてのEF群と比較して、有意に高い血清GSTP1濃度を有する。EF33〜42%、EF23〜32%およびEF≦22%を示す患者は、EF>52%およびEF43〜52%を示すものと比較して、有意に高い血清GSTP1濃度を有する。(B)EF≦22%を示す患者は、他のすべてのEF群と比較して、有意に高い血清プロBNP濃度を有する。血清プロBNPにおける有意差は、他のすべてのEF群間には観察されなかった。(C)全試験被験体に関する血清GSTP1および血清プロBNP測定値の相関プロット。血清GSTP1およびプロBNP間に、有意の正の関係は認められなかった(r=0.47;P<0.0001)。*P<0.001 対 対照、†P<0.0001 対 EF>52%、≠P<0.0001 対 EF43〜52%、§P<0.0001 対 EF33〜42%、‖P<0.001 対 EF23〜32%。
【図8】心臓機能との血清GSTP1およびプロBNP相関を示す。(A)試験被験者における血清GSTP1およびプロBNP濃度と心臓駆出率(EF)との相関。分析は、血清プロBNP濃度(r=−0.27;P=0.0006)と比較した場合の、EFと血清GSTP1(r=−0.74;P<0.0001)とのより高い有意の負の相関を示す。(B)ROC曲線分析は、血清GSTP1に関して、≧226ng/mlの最適カットオフレベル(黒線;AUC=0.891、P<0.0001)で、81%の感受性および82%の特異性、そして≧527pg/mlの最適カットオフレベル(赤線;AUC=0.624、P=0.0039)で、血清プロBNPに関して97%の感受性および26%の特異性を示して、EF≦22%を同定する。(C)ROC曲線分析は、血清GSTP1に関して、≧76ng/mlの最適カットオフレベル(AUC=0.974、P=0.0008)で、93%の感受性および100%の特異性を示して、EF≦42%を同定する。
【図9】GSTP1が、ラット急性MIモデルにおける炎症性サイトカインを抑制することを示す。(A)ウエスタンブロットによる免疫沈降は、GSTP1処置および対照動物間のGSTP1−TRAF2複合体形成における差を明示しなかった;(B)GSTP1は、ウエスタンブロットにより分析した場合、活性化JNK1タンパク質発現レベルを低減した;(C)GSTP1は、いくつかの炎症性サイトカインの心筋組織mRNA発現を抑制する。 *;P<0.01。
【図10】GSTP1が、心不全ラットにおける炎症を改善することを示す。(A)GSTP1処置動物は、免疫沈降およびウエスタンブロット分析により示されるように、GSTP1−TRAF2、GSTP1−JNK1およびGSTP1−p38間の複合体形成の有意に高いレベルを示した;(B)活性化JNK1、p38およびFF−κBのタンパク質発現葉、ウエスタンブロット分析により示されるように、対照と比較して、GSTP1処置動物において有意に低かった;(C)GSTP1は、対照と比較した場合、心筋不全において、炎症性サイトカイン TGF−B、IL−1B、IL−2およびIL−17のmRNA発現を抑制し;そして抗炎症性サイトカインIL−10のmRNA発現を増大する。 *;P<0.001。
【図11】GSTP1が、心不全のラット虚血誘導モデルにおける心筋リモデリングを弱めることを示す。(A)ゴールドナー3色コラーゲン染色は、対照と比較して、GSTP1処置動物の心臓における有意に低い組織リモデリングを明示する;(B)左心室(梗塞)壁厚は、対照と比較して、GSTP1処置ラットにおいて有意に大きい;(C)GSTP1または対照ビヒクルで処置したラット心臓の代表的Tunel検定画像。バー=25μm;(D)GSTP1処置ラットは、対照と比較して、有意に低いアポトーシス指数を有する。 *;P<0.001。
【図12】GSTP1が、虚血誘導性心不全のラットモデルにおいて左心室機能を改善することを示す。(A)GSTP1処置ラットは、心筋梗塞後21日目に有意に高い左心室駆出率を有した;(B)左心室拡張終期容量は、GSTP1処置動物と比較して、対照において有意に大きい。 *;P<0.05。 実施例: 1.: GSTP1は心筋症(CMP)および虚血性心疾患(IHD)における炎症を改善する 患者および組織標本採取
【0046】
この試験は、ウィーン医科大学の倫理委員会により認可された。登録されるためにインフォームド・コンセントを示した70名のCMP患者の心臓組織試料(特発性拡張型心筋症(DCM)、n=35;虚血型心筋症(ICM)、n=35)を、初期アレイ分析のために用いた。次いで、2004年1月から2008年7月までの間に、合計100名のCMP患者(DCM、n=50;ICM、n=50)が含まれた。表1は、人口統計学的な、最も重要な臨床および血行動態的特性、ならびに患者の処置を要約する。全患者が、米国心臓協会判定基準に従って、最適化された心不全処置を有し、心臓移植を予定された。個々の心臓学者による心室機能、心筋生存度および標準血行動態パラメーターの評価のために、全患者が、心エコー検査、冠動脈血管造影、右心臓カテーテル処置、および磁気共鳴画像診断を受けた。病歴、臨床試験結果および処置を文書に記録し、暗号化して、心臓生検の研究者には伏せた。対照群は、その心臓が質的理由のために移植され得ない心臓疾患の病歴を有さない20名の心臓ドナーで構成された。
表1: 試験患者の人口統計学的データ、血行動態パラメーターおよび医薬剤
【表3】
ACE、アンギオテンシン変換酵素; BMI、体格指数; BSA、体表面積; DCM、拡張型心筋症; ICM、虚血型心筋症; LVEF、左心室駆出率; PAP、肺動脈圧; PCWP、肺毛細管楔入圧; PVR、肺血管抵抗。
cDNAアレイ
【0047】
ポリ(A+)−RNAを、オリゴテックス−dTキット(Qiagen, Valencia, CA)で単離して、第一鎖cDNA合成を、2μgのポリ(A+)RNA上で鳥骨髄芽細胞症ウイルス逆転写酵素(Promega, Madison, WI)を用いて実施した。DNA−RNA二重鎖内のRNA鎖を分解し、生成物をセファデックスG−50スピンカラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で精製した。逆鎖プライミングのために、第一鎖cDNAを用いて、記載されたように(Schafer et al., Circulation 108 (2003), 1585‐1591)、cDNAアレイ(GEアレイQ ヒトアポトーシス遺伝子アレイ、SuperArray Bioscience, Frederick, MD)のための[α−32P]dCTP標識第二鎖cDNAを生成した。プールされたcDNAハイブリダイゼーションシグナルを、ImageQuantソフトウェア(Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)を用いて定量した。
心臓組織タンパク質アレイ
【0048】
記載されたように(Aharinejad et al., Circulation 120 (2009a), 11 Suppl: S198‐205)、抗体マイクロアレイ500(Clonetech, Mountain View, CA; 507 protein)で、タンパク質アレイを実施した。各試料中のタンパク質を2つの異なる蛍光染料で標識して、マイクロアレイ抗体被覆スライド上でインキュベートした。両スライドのタンパク質蛍光シグナルを、GenePix 4000Bスキャナ(Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)により検出した。内部正規化比率(INR)を算定して、自動化マイクロアレイ分析ワークブック(http://bioinfo.clontech.com)を用いることにより対照試料中のものに比して、CMP試料中の豊富な抗原を産生することにより、シグナルの定量を実施した。閾値間隔外のINR値を有するタンパク質は、示差的に発現されるとみなされた。
mRNA単離および定量的実時間RT−PCR
【0049】
TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、心筋生検から、全部のRNAを単離した。MagNAライザー・グリーンビーズを用いて、MagNAライザー系(Roche, Mannheim, Germany)で、6000rpmで20〜30秒間、組織を均質化した。次いで、均質化試料を200μLのクロロホルムと混合し、室温で2〜3分間インキュベートして、4℃で15分間、12000gで遠心分離した。RNAを収集し、2μgの全RNAはおよびM−MuLV−RTキット(Fermentas, St. Leon− Rot, Germany)を用いてcDNAを合成した。記載されたとおりに(Aharinejad et al., Am J Transplant. 5 (2005), 2185−2192)、LightCycler機器(Roche)で、実時間RT−PCRを実施した。プライマー配列は、センス/アンチセンス:
GSTP1: 5’−GGCAACTGAAGCCTTTTGAG−3’/5’−TCATGGATCAGCAGCAAGTC−3’;
TRAF2: 5’−GCAGAAGGTCTTGGAGATGG−3’/5’−GGTGGAGCAGCATTAAGGTC−3’;
およびβ2−マイクログロブリン: 5’−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3’/5’−CAATCCAAATGCGGCATCT−3’であった。正規化後に、以前の記載どおり(Aharinejad et al., 2009a and 2005;Pfaffl, Nucleic Acids Res. 29 (2001): e45)にハウスキーピング遺伝子β2−マイクログロブリンの発現に対してmRNA発現単位を確定し、対照に比してパーセンテージとしてCMP患者に関してプロットした。測定を3回実施した。各試料における3回のPCR測定値の平均を、データ分析のために用いた。
同時免疫沈降およびウエスタンブロット
【0050】
20mM トリス(pH7.5)、135mM NaCl、2mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2mM ジチオトレイトール(DTT)、25mM β−グリセロホスフェート、2mM ピロリン酸ナトリウム、10%グリセロール、1%トリトンX−100、1mM オルトバナジン酸ナトリウム、10mM NaFおよび1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を含有し、完全プロテアーゼ阻害薬カクテル(Roche Applied Science, Indianapolis, IN, USA)を補足した溶解緩衝液中に、記載どおり(Aharinejad et al., 2005)に4℃で、ヒト心臓組織を溶解した。溶解物を、4℃で15分間、遠心分離(15000g)した。GSTP1−TRAF2複合体形成タンパク質(500μg)を、TRAF2抗体(0.5μg、BD Pharmingen, San Diego, CA)を用いて免疫沈降させた。予備清澄化プロテインA/G PLUSアガロース・ビーズ(Santa Cruz Biotechnology)を、免疫複合体とともにさらに2時間インキュベートして、溶解緩衝液で4回洗浄した。免疫沈降物をさらにSDS−PAGEに付して、抗GSTP1モノクローナル抗体(Bethyl, Montgomery, TX)を用いてウエスタンブロット分析で統轄した。
【0051】
SDS−PAGE(10%)によりタンパク質溶解物(50μg/レーン)を分離した後、ニトロセルロース膜(Bio−Rad, Hercules, CA)上で電気泳動移動させた(Aharinejad et al., 2005)。ブロットを一次ヒトモノクローナル抗GSTP1抗体(Bethyl, Montgomery, TX)、ヒトモノクローナル抗TRAF2(BD Pharmingen, San Diego, CA)、ヒトポリクローナルホスホ−p38(Promega, Madison, WI)、ヒトポリクローナルホスホル−JNK(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、ヒトポリクローナル抗JNK(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、ヒトポリクローナル抗−p38(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)とともにインキュベートした後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役化二次抗体(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)とともにインキュベートした。タンパク質負荷をポンソS染色により査定し、化学発光により免疫検出を実施した(Supersignal−West−Pico, Pierce, Rockford, IL)。帯域をImageQuantソフトウェアにより定量し、特定タンパク質シグナルを負荷対照に対して正規化して、任意単位として表した。各試料における3回の測定の平均値を、データ分析のために用いた。
心臓組織培養実験
【0052】
対照、DCMまたはICM患者の新鮮な単離心筋(2〜3mm3)を、10%ウシ胎仔血清(Gibco, Carlsbad, CA)、50U/mlペニシリンおよび250μg/ml ストレプトマイシンを含有するDMEM(pH7.2)中で、37℃で5%CO2を含有する完全加湿空気雰囲気中(Schafer et al., 2003)でインキュベートした(100片/6ウェルプレート)。6時間後、ウェルを組換えGSTP1(2.5、5または10μg/ml;Assay Design, Ann Arbor, MC)および/またはTNF−α(50ng/ml;eBioscience, San Diego, CA)で処理した(Wu et al., 2006)。24時間インキュベーション後、培地を取り替えて、心臓組織培養溶解物を分析した。実験は、三重反復実験で実施した。
統計学的分析
【0053】
分散の規模によって(連続または無条件)、X2検定および分散の一方向分析(一方向AN−OVA;テューキー検定)により、臨床パラメーター、患者特性、GSTP1およびTRAF2のmRNA発現レベル、ならびにGSTP1、TRAF2、活性p38および活性JNKのタンパク質発現レベルを群間で比較した。統計学的分析はすべて、ウィンドウズ(登録商標)、バージョン9.1.3およびエンタープライズガイド、バージョン4.1に関するSASシステム(SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて実施した。統計学的有意をP<0.05に設定した。結果を、平均±標準偏差(SD)で表す。
結果
GSTP1およびTRAF2は不全心筋中で過剰発現される
【0054】
スクリーニング組織プロファイリングアレイは、対照個体と比較して、DCMおよびICMの両方を有する無作為選択患者において、より高い心臓GSTP1およびTRAF2遺伝子ならびにタンパク質発現レベルを同定した(図1A、1B)。スクリーニングアレイで得られた結果を立証するために、次に、試験群において、実時間RT−PCRおよびウエスタンブロットにより、GSTP1およびTRAF2の心筋発現を予測的に実験した。これらの分析は、対照と比較した場合、GSTP1(P<0.0001)およびTRAF2(P<0.0001)に関してDCMおよびICMにおける心筋mRNA発現レベルの有意の上昇を示した(図1C)。同様に、心筋タンパク質発現レベルは、対照と比較した場合、GSTP1(P<0.0001、P=0.0019)およびTRAF2(P<0.0001、P=0.005)に関して、DCMおよびICMで上昇した(図1D)。DCMおよびICMを比較した場合、GSTP1 mRNAおよびタンパク質発現に有意差は認められなかった;しかし、TRAF2 mRNA(P=0.001)およびタンパク質(P≦0.0001)発現レベルは、ICMと比較した場合、DCMにおいて有意に高かった(図1C、1D)。
JNK/p38活性化におけるGSTP1−TRAF2相互作用
【0055】
GSTP1はTRAF2と物理的に会合して、腫瘍細胞中で細胞内複合体を形成するため、この経路が不全心筋で活性であるか否かを確定した。心臓組織培養における本発明の分析は、GSTP1が、ICMおよび対照心臓においてはTRAF2と会合するが、一方、この会合はDCMにおいては有意に低い値(P<0.0001)で検出可能である、ということを示した(図2A)。TRAF2は、2つの主要MAPキナーゼ(不全心筋における炎症を媒介することが知られているJNKとp38)を活性化すると報告されているので、試験患者における活性p38およびJNKタンパク質の心筋発現を調べた。結果は、DCMおよびICMの両方において、活性JNKならびにp38の心臓タンパク質発現(P<0.0001)は、対照と比較して、有意に上方調節される、ということを示す。さらに、DCM患者は、ICMと比較して、有意に高い心臓JNKおよびp38タンパク質発現(P<0.0001)を明示した(図2B)。これらの結果は、GSTP1−TRAF2会合がDCMおよびICMにおいて示差的に調節されるということ、そしてこれがMAPK活性化に影響を及ぼし得るということを示す。
GSTP1は心臓TRAF2媒介性JNK/p38活性化を調整する
【0056】
GSTP1がTRAF2媒介性JNKおよびp38活性化を調整することを確定するために、不全心臓および対照からの心臓組織培養を、3つの異なる濃度での組換えGSTP1で処置した。結果は、DCM、ICMおよび対照から得られたGSTP1処置組織培養において、TRAF2のタンパク質発現が、非処置のものと比較して、有意に低減された、ということを示す。同様に、GSTP1処置後、活性JNKおよびp38発現は、非処置群と比較して、DCM、ICMおよび対照心臓組織において減少した。TRAF2、JNKおよびp38低減に関する適用GSTP1濃度の比較は、DCMおよびICMにおいては、2.5μg/mLおよび5μg/mLならびに10μg/mL間の差は有意であったが、しかし対照においては有意でなかった、ということを示す(図3A、3B)。
【0057】
外因的に補足されるGSTP1がGSTP1−TRAF2複合体形成に影響を及ぼすか否かを試験するために、GSTP1処置心臓組織溶解物をTRAF2抗体とともに免疫沈降させて、免疫ペレットをウエスタンブロットに付した。結果は、GSTP1処置心臓組織培養では、GSTP1およびTRAF2間の会合は用量および疾患非依存性であり、非処置試料と比較して有意に高かった(5μg/mL GSTP1濃度に関してはP=0.07)、ということを示す(図3C)。
【0058】
これらの結果は、心臓組織倍表中では、GSTP1はTRAF2タンパク質発現に影響を及ぼし、そしてGSTP1−TRAF2複合体形成を介してJNK1およびp38活性化の負の調節因子として作用する、ということを示す。
TNF−αはDCMにおいてGSTP1に対するTRAF2/JNK/p38カスケードの感受性を阻害する
【0059】
GSTP1が、不全心筋における報告されたTNF−α誘導性JNKおよびp38活性化と相互作用するか否かを確定するために、DCM、ICMおよび対照から単離された心臓組織培養を、組換えTNF−αで、その後、GSTP1(5μg/ml)で処置した。これらの実験は、TNF−α活性化JNK(P=0.08)およびp38(P=0.75)カスケードならびにTRAF2(P=0.18)タンパク質発現が、DCM心臓組織培養中の組換えGSTP1により影響を及ぼされない、ということを実証する。しかしながら、ICMおよび対照から単離された培養中では、JNK(P<0.001;P<0.002)、p38(P<0.0002;P<0.0001)およびTRAF2(P<0.001;P<0.003)タンパク質発現は、GSTP1刺激に応答して顕著に低減される(図4A)。DCM対ICM群に関して得られた相違する結果を理解するために、TNF−αおよびGSTP1で処置した心臓組織溶解物を免疫沈降指せて、免疫ペレットをウエスタンブロットに付した。これらの分析は、DCM心臓組織中ではTNF−α刺激後にGSTP1はTRAF2と会合できない、ということを示す(図4B)。しかしながら、この作用は、ICMおよび対照心臓組織中では認められなかった(図4C)。これらのデータは、5μg/ml GSTP1でのDCM心臓組織培養中では、TNF−α媒介性TRAF2はGSTP1と結合できない、ということを示す。
GSTP1は高濃度でのTNF−α処置後にTRAF2媒介性JNK1/p38下方調節を救出する
【0060】
DCMにおけるTRAF2心臓組織タンパク質発現はICMおよび対照と比較して約2倍高いということに留意し、そして上記の結果を考慮しながら、TNF−α処置後のより高いGSTP1濃度の作用を試験した。結果は、GSTP1(10μg/mL)およびTNF−α(50ng/mL)で処置したDCM心臓組織培養が、顕著に低減されたJNKおよびp38活性化を発現し、ならびに低減されたTRAF2タンパク質を発現する、ということを実証する(P<0.0001:図5A、5B)。重要なことは、DCM心臓組織溶解物の免疫沈降物が、5mg/ml GSTP1と比較して、10μg/mlでのGSTP1−TRAF2会合の有意の(P≦0.035)増大を実証する、ということである。
【0061】
これらのデータは、より高いGSTP1濃度が、GSTP1−TRAF2複合体形成によりDCMにおけるTNF−α誘導性JNKおよびp38活性化を抑制し、そしてTRAF2発現にも影響を及ぼす、ということを示す。
【0062】
本発明の実施例では、GSTP1およびTRAF2は、CMPの新規の調節物質として同定された。GSTP1およびTRAF2間の相互作用は、悪性腫瘍において以前に同定されている(Wu et al., 2006)が、しかしながら、CMPとの結びつきは以前には示唆されていない。興味深いことに、TRAF2と会合するGSTP1の能力は、TNF−α依存的に、DCMおよびICM間で異なる。CMPにおけるTNF−αシグナル伝達の前炎症性役割の壊滅は十分に確立されているが、しかし臨床試験は、逆説的に、CMPにおけるTNF−αのより複雑な役割を示した。したがって、TNF−αシグナル伝達に関連した特定経路の標的化は、CMP処置におけるより選択的なアプローチを提供し得た。TRAF2は、MAPK活性化を媒介するTNF−αシグナル伝達の中心的調節物質である。同時に、GSTP1は、TRAF2との会合によりMAPK活性化を阻止し、その結果、TNF−αシグナル伝達を抑制し得る。本発明のデータは、ICMおよび対照と比較下場合の、DCM心筋における活性JNKおよびp38の有意の上昇を示す。
【0063】
GSTP1の細胞内貯蔵に組換えGSTP1タンパク質を補給すると、MAPKシグナル伝達の抑制により全身性および局在性炎症応答を有効に抑圧することが実証された、ということは重要である。興味深いことに、この試験2置いてネイティブDCM心筋中に観察された知見と対比して、組換えGSTP1は、JNKおよびp38活性化の抑制、ならびに心臓組織培養中での総TRAF2タンパク質発現低減を誘導した。この作用は、すべてのGSTP1処置心臓細胞培養におけるGSTP1−TRAF2会合のかなりの増大を伴った。さらに、TRAF2−JNK/p38系に及ぼすGSTP1減衰の最大作用は、5μg/mlで観察されたが、さらなる濃度増大による影響は受けなかった。これらの結果は、心臓組織に関して得られたものと矛盾する。しかしながら、GSTP1処置後、活性JNK/p38およびTRAF2の発現レベルは、DCM患者からの培養中で最高であった。ICMおよび対照心臓組織培養と比較した場合の、GSTP1インキュベーション時のGSTP1−TRAF2複合体形成における差はDCMにおいては観察されなかったため、付加的因子は、CMPにおけるGSTP1−TRAF2会合の細胞内調節には関与し得なかった。心筋試料の分析により得られたデータとin vitro実験で得られたデータとの間の相違点は、ネイティブ心筋中には普通に存在するが、心臓組織培養中には存在しない可溶性の循環因子の存在により説明され得る。TNF−αはCMP患者の血清中で非常に増大し、根元的病態と密接に関連づけられるため、心臓組織培養は予備インキュベートされた後、in vitroモデルにおけるTNF−αの作用を導入するために組換えGSTP1を投与する。珍しいことに、TNF−α刺激心臓組織培養を5μg/mlのGSTP1とともにインキュベートしても、ICM心臓培養におけるGSTP1−TRAF2会合に影響を及ぼさないが、一方、DCM心臓培養中では、GSTP1−TRAF2複合体形成は完全に阻止された。さらに、活性JNK/p38ならびにTRAF2の高発現は、変化することなく、DCM心臓組織培養中で専ら観察された。これらの結果は、心筋生検の分析により得られるものと一致し、そして、DCM患者におけるGSTP1−TRAF2相互作用損傷がMAPKの活性増大を引き起こす、ということを完全に支持する。
【0064】
これらのデータは、GSTP1濃度のさらなる増大はGSTP1−TRAF2会合を回復させて、TNF−α刺激時のDCM心臓組織培養中でのJNK1およびp38活性を抑制する、ということを示す。これらの結果は、DCM病態と専ら関連するGSTP1−TRAF2結合のTNF−α誘導性減衰が高濃度のGSTP1により阻止され得る、ということを示す。さらに、ICM心臓組織培養中では、JNK1およびp38活性の両方が、用量およびTNF−α非依存的に、組換えGSTP1により抑制される、ということが実証された。これらの結果は、ICMにおけるGSTP1作用がTRAF2非依存的方法により生じ得る、ということを示す。
【0065】
要するに、これらの結果は、TNF−α/TRAF2を調整するに際してのGSTP1の新規の機能がDCMにおけるJNK1/p38活性化を引き出した、ということを示す。さらに、GSTP1−TRAF2会合は、GSTP1濃度依存的に、DCM心筋におけるTNF−α刺激により保護されるが、しかしICMまたは対照においてはそうではない。これらの知見(公開後要約:Aharinejad et al., Circulation 120 (November 2009), S905; enhancement of cardiovascular sensitivity to cyclophosphamide:Haberzettl et al., Circulation 120 (November 2009), S718も参照)は、GSTP1の高炎症作用を標的にする信頼できる、進歩的治療戦略としての本発明の機能性を示す。
2.:血清GSTP1はCMPの感受性マーカーである
患者および方法
患者
【0066】
この試験は、ウィーン医科大学の倫理委員会により認可された。患者(EF≦35%;n=40)および健常志願者(EF≧65%;n=40)の血清試料を、初期アレイ分析のために用いた。次いで、登録されるためにインフォームド・コンセントを示した合計161名の患者が、予測的に含まれた。試験群は、心臓移植を予定された141名の末期CMP患者、ならびに慣用的分離大動脈または僧帽弁手術を受けている保持的EFを有する患者20名で構成された。2名の個々の心臓学者による心室機能および標準血行動態パラメーターの評価のために、全患者が、心エコー検査、冠動脈血管造影、右心臓カテーテル処置を受けた。病歴、臨床試験結果および処置を文書に記録し、暗号化して、血清試料の研究者には伏せた。
【0067】
試験患者を、以下のように、心エコーにより査定される左心室EFに基づいた群に細分した:EF>52%;EF 52〜43%;EF 42〜33%、EF 32〜23%およびEF≦22%(Lee et al., Circulation 119 (2009) 3070‐3077)。対照群(n=20)は、男性10名および女性10名(年齢30〜61歳)(51.8±3.2歳)で構成された。
血清および心臓組織収集
【0068】
末梢静脈血試料を、CMP診断時あるいは移植直前に収集した(Aharinejad et al., Am. J. Transplant. 9 (2009b), 149−159)。血清試料を暗号化し、分析まで液体窒素中に保存した。移植患者(EF≦35%;n=40)の外植心臓の前左心室壁(LV)から、ならびに質的理由のために移植されえなかった20のドナー心臓(EF≧65%、平均年齢45±10、男性12名、女性8名)から、多数の心筋生検を得て、暗号化し、液体窒素中に瞬間凍結した。
血清および心臓組織タンパク質アレイ
【0069】
タンパク質アレイのために、移植直前に末期CMP患者から、ならびに健常志願者から、無作為選択血清試料を得て、各群のためにプールした。心臓組織タンパク質アレイに関しては、移植患者(n=40)における外植心臓およびドナー対照心臓(n=20)のLV心筋生検からの組織溶解物(Abraham et al., Circ. Res. 87 (2000), 644‐647)を用いた。メーカーのプロトコールに従って、抗体マイクロアレイ500(Clonetech, Mountain View, CA; 507 protein)で、タンパク質アレイを実施した。各試料中のタンパク質を2つの異なる蛍光染料(Cy3およびCy5)で標識して、マイクロアレイ抗体被覆スライド上でインキュベートした。両スライドのタンパク質蛍光シグナルを、GenePix 4000Bスキャナ(Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)により検出した。自動化マイクロアレイ分析ワークブック(http://bioinfo.clontech.com)を用いて、内部正規化比率(INR)を算定することにより、シグナルの定量を実施した。
GSTP1およびプロBNP検定
【0070】
GSTP1に関する酵素結合免疫吸着検定(ELISA)(HEPKIT(商標)−Pi、Biotrin International Ltd., Dublin, Ireland)を、メーカーのプロトコールに従って実施した。96ウェル自動マイクロプレート読取器(Anthos, Salzburg, Austria)を450nmで用いて、分光測光的に基質反応を定量した。Roche Elecsys 2010分析器での化学発光非競合的ELISA(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)により、自動的に、非希釈血清中で、N末端プロBNPを測定した。
mRNA単離および定量的実時間RT−PCR
【0071】
TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を、MagNAライザー系(Roche, Mannheim, Germany)とともに用いて、LV生検から総RNAを単離した。記載されたとおりに(Aharinejad et al., 2009b, Abraham et al., 2000)、LightCycler機器(Roche)で、実時間RT−PCRを実施した。プライマー配列は、センス/アンチセンス:
GSTP1: 5’−CCAAAGGTGGTGAGCTTCAT−3’/5’−TCTACCCAGCATGGAGGAAC−3’;
およびβ2−マイクログロブリン: 5’−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3’/5’−CAATCCAAATGCGGCATCT−3’であった。ハウスキーピング遺伝子としてのβ2−マイクログロブリンシグナルに対してGSTP1のmRNA発現レベルを正規化した(Aharinejad et al., 2009b;Abraham et al., 2000)。各試料における3回のPCR測定値の平均を、データ分析のために用いた。
ウエスタンブロット分析
【0072】
組織溶解物を調製し(Aharinejad et al., 2009b)、一次ヒトモノクローナル抗GSTP1抗体を用いて、ウエスタンブロットによりGSTP1発現を分析した(Bethyl, Montgomery, TX)。タンパク質帯域をImageQuantソフトウェアにより定量し、特定タンパク質シグナルを負荷対照に対して正規化した。各試料における3回の測定の平均値を、データ分析のために用いた。
統計学的分析
【0073】
分散の分析(一方向AN−OVA;テューキー検定)により、患者群間で、GSTP1およびプロBNP血清濃度を比較した。GSTP1およびプロBNP間の関係、ならびにGSTP1と、年齢、PAP、PCWP、PVR、心指数およびクレアチニンの関係を調べるために、スピアマンの順位相関係数(rS)を計算した。単変量ロジスティック回帰を用いて、EFの予測子としてのGSTP1およびプロBNPの有用性を記述する。対応する受信者動作特性曲線(ROC)分析を用いて、最適カットオフ値を見出した。GSTP1およびプロBNPカットオフの感受性および特異性を、表分析により算定した。統計学的分析はすべて、ウィンドウズ(登録商標)、バージョン9.1.3およびエンタープライズガイド、バージョン4.1に関するSASシステム(SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて実施した。統計学的有意をP<0.05に設定した。結果を、平均±標準偏差(SD)で表す。
結果
GSTP1はCMPと関連する
【0074】
試験患者の人口統計学的データ、臨床特性および主なCMP関連医薬剤を、表2に示す。
表2:試験患者の人口統計学的データ、臨床特性および主なCMP関連医薬剤
【表4】
DCM=拡張型心筋症; EF=左心室駆出率; ICM=虚血型心筋症; IDDM=インスリン依存性真性糖尿病; NIDDM=非インスリン依存性真性糖尿病; NYHA=ニューヨーク心臓協会; PAP=肺動脈圧; PCWP=肺毛細管楔入圧; PVR=肺血管抵抗。
【0075】
選択CMP患者におけるプール化血清試料の標的化タンパク質アレイスクリーンにおいて、GSTP1は、CMPと会合されるべき新規のタンパク質と同定された。図6Aは、GSTP1のアレイ画像を示し、そして、その血清タンパク質レベルが、健常志願者と比較した場合、CMP患者において増大される、ということを示す。これらのスクリーニング分析後、GSTP1特異的ELISAによるスクリーニング分析のために選択された同一患者コホートにおいて、血清GSTP1濃度を確定した。これらの結果は、血清GSTP1濃度が、対照試料と比較した場合、末期HF患者において有意に上方調節された、ということを示す(図6B、P≦0.001)。
【0076】
心筋GSTP1タンパク質レベルについて習得するために、血清アレイにより分析された同一末期HF患者のLV心筋試料を用いて、組織タンパク質プロファイリングを開始して、対照として供与心臓のLV心筋生検を用いた。組織プロファイリングの結果は、対照と比較した場合、末期HF患者の心筋2置いて、GSTP1発現レベルの上昇を示した(図6C)。これらの知見を実証するために、ウエスタンブロット分析を心臓組織に関して実施し、対照と比較して、末期HF患者において、GSTP1タンパク質発現レベルの有意の上方調節が見出された(P<0.001;図6D)。
GSTP1およびプロBNPとEFとの関連
【0077】
GSTP1とCMPの関連を理解するために、その血清レベルを全試験患者で分析して、これらの結果を患者のEFに関してプロットした。駆出率保持および低減間の弁別を可能にするこの型の分析を選択することにより、他のすべてのEF群と比較して、EF≦22%を有する患者において、有意に高い血清GSTP1濃度が見出された(図7A;P<0.0001)。さらに、23〜32%および33〜42%間のEFを示すCMP患者は、43〜52%または>52%のEFを示すものと比較して、有意に高いGSTP1血清濃度を有した(図7A;P<0.0001)。血清プロBNPに関する同一型の分析は、本発明の患者コホートにおいて、EF≦22%を示すものだけが、他のEF群すべてと比較した場合、有意に高い血清プロBNP濃度(P<0.0001)を示す、ということを明示したが、但し、33〜42%のEFを示す患者は除く(図7B)。他のEF群を比較した場合、循環プロBNPに関しては有意差は観察されなかった。全集団において、GSTP1およびプロBNP間に有意の正の関係が認められた(r=0.47、P<0.0001;図7C)。
CMPにおけるプロBNPと比較した場合の血清GSTP1の診断値
【0078】
血清GSTP1およびプロBNPとEFとの相関を例証するために、すべての試験患者を含めたスケーター・プロット分析を実施した(図8A)。これらの分析は、GSTP1およびEF間の有意の負の相関(r=−0.74;P<0.0001)を明示したが、これは、プロBNPおよびEF間の相関(r=−0.27;P=0.0006)より高かった。EF≦22%に関するROC曲線分析において血清GSTP1測定値を入れる場合(これは、単変量ロジスティック回帰分析においてGSTP1およびプロBNPの両方に関して優位に異なると道程された)、≧226ng/mlの最適カットオフレベルで、血清GSTP1は、EF≦22%を同定するために81%の感受性および82%の特異性を有した(AUC=0.891、P<0.0001)。≧527pg/mlのカットオフレベルでの同一型の分析は、EF≦22%を示すCMP患者を診断するために97%の感受性および26%の特異性を明示した(AUC=0.624、P=0.0039)(図8B)。次いで、高EF患者群を診断するGSTP1血清レベルの能力を、上記の単変量分析により示されたように、分析した(プロBNPは、EF>22%を示す患者群間で有意に異ならなかった)。ROC曲線分析は、≧76ng/mlの最適カットオフレベルでのGSTP1が、93%感受性および100%特異性でEF≦42%を示すCMP患者を診断する(AUC=0.974、P=0.0008)、ということを示した(図8C)。
GSTP1およびプロBNPと人口統計学的および臨床的パラメーターとの相関
【0079】
GSTP1およびプロBNPと試験患者の臨床的特性との間の関連を、表3に示す。
表3:GSTP1およびプロBNPと試験患者の臨床的変数との間のスピアマン相関分析
【表5】
EF=駆出率; PAP=肺動脈圧; PCWP=肺毛細管楔入圧; PVR=肺血管抵抗。
【0080】
血清GSTP1(r=−0.137;P=0.0241)およびプロBNP(r=0.175;P=0.259)の両方に関して、単にわずかに、しかし関連しない患者年齢との相関が、試験患者間に見出された。血清GSTP1濃度と、肺動脈圧、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血清クレアチニンレベルおよび心指数との間の有意の相関は、観察されなかった。同様に、性別および真性糖尿病との関連(P≧0.408)は、血清GSTP1およびプロBNPに関しては観察されなかった。
【0081】
証拠に基づいた管理の私用における有意の処置ギャップは、無作為臨床試験からの楽観的結果にもかかわらず、存続する。漸増的に有効な臨床ツールとしての心臓バイオマーカーの出現は、治療を首尾よく導き、疾患負荷を低減する可能性を示唆する。革新的試験は、CMPにおける診断的および予後的値の種々の新規の分子マーカーを同定してきた。プロBNPは、CMPモニタリングにおける代理のパラメーターとして一般に許容されており、さらに、臨床的ルーチン作業はCMP患者における拡散的結果を示す。したがって、本発明の試験の目的は、低減されたおよび保持されたEFの両方を有するCMP患者のモニタリングを可能にする非侵襲性および迅速応答性CMP血清マーカーを見出すことであった。本発明による標的化スクリーニングは、GSTP1が末期CMPと関連する、ということを示した。血清GSTP1濃度は、具体的には、われわれの患者コホートにおける人口統計学的および臨床的特性とは関係なく、EFとの有意の関連を示すCMPを診断した。注目すべきは、プロBNPと比較して、顕著に高い相関係数が、血清GSTP1とEFとの関連に関して示されたことである。さらに、血清GSTP1は、プロBNPと比較して、EF≦22%を有するCMP患者においてより良好な診断力を示す。さらに重要なことは、GSTP1はEF≦42%を診断したが、一方、プロBNPは出来なかったことである。
【0082】
EFがCMP患者における心臓危険性の決定因子である、ということは十分に確立されている。すべての原因死亡率に関する危険率は、45%より低いEFにおける10%毎の低減に関して39%増大した。しかしながら、CMP臨床特徴は、保持EFを有するCMPとして言及されるEF>45%を示す患者において生じ得る。したがって、GSTP1がEF≦42%を有するCMP患者を区別し得る、という本発明の知見は、重要な診断的および予後的意義を有する。プロBNPはCMP診断に関する確立されたツールであり、EFと相関するが、しかしプロBNPに関して報告された値は、全く拡散的であり、保持EFおよび低減EFを有するCMPにおいて明らかに上昇して、その限定臨床的用途を生じる。他方、プロBNPは、CMPに起因する症候を有する患者において正常EFを示すCMPの排除のために主に用いられることを推奨される。しかしながら、性別および高齢がより高いプロBNPレベルと関連することを考えると(Costello−Boerrigter et al., J. Am. Coll. Cardiol. 47 (2006), 345‐353)、プロBNPの提示された診断特性は、高齢患者における保持EFを示すCMPを識別するには非特異的過ぎるかもしれない。
【0083】
報告によれば、プロBNPは、EF<45%を有するCMP集団において、それぞれ90%および71%の感受性および特異性でEF<30%を予測し得る。他の試験は、血漿プロBNPが、EF<50%を示す患者コホートにおいて77%感受性および69%特異性でEF<28%を検出することを報告し、そして、プロBNPは、0.69の曲線下面積でEF<40%を予測し得る、ということが見出された。本発明の試験において、プロBNPは97%感受性を有したが、しかし特異性は26%に過ぎず、0.62の曲線下面積でEF≦22%を検出した。本発明の試験におけるプロBNPのより低い特異性は、他の試験と比較した場合、より低いEFを同定するためにわれわれのカットオフレベルが選択された、という事実により説明され得る。この判定基準は、EF≦22%を診断するためのGSTP1の有用性を実証するために選択された。さらに、本発明の試験は、EFに関する排除判定基準を有さず、そしてこれは、保持EFを示すCMP患者において代わることが以前に示されたプロBNPに関する試験特性に影響を及ぼしてきた。
【0084】
CMP患者における血清GSTP1増大の理由は、不明である。しかしながら、GSTP1がストレスシグナル伝達の調節に関与し、その非触媒性リガンド結合活性によるアポトーシスに対して細胞を保護するという証拠が蓄積されつつある。
【0085】
本発明の試験の結果は、GSTP1が、CMPにおいて、プロBNPより優れた感受性の、特異的な、安価な且つ迅速に測定可能な血清マーカーである、ということを示す。重要なことは、GSTP1が高感受性および特異性で保持および低減EF間を識別することであり、したがって、CMP患者における臨床試験を進行させる新規のツールとして役立ち得る。
3.:GSTP1処置に関する動物IHDおよびCMPモデル
【0086】
ヒトにおけるIHDおよびCMPの両方を模倣するモデルを有するために、ラットにおける左冠動脈の前枝の結紮のモデルが、本発明の原理をさらに立証するために選択された。このモデルでは、IHDは上記冠動脈枝の結紮後に誘導され、そして時が経つと、動物はその後、CMPを発症する。したがって、当該モデルは、IHDおよびCMPの両方の防止または処置のための示唆された本発明の効力を示すために最良に適合される。
【0087】
Aharinejad等(Cardiovasc. Res. 79 (2008), 395‐404)により発表されたプロトコールに従って、以下の実験を実施する。当該研究は、アメリカ国立衛生研究所発行の実験動物の管理と使用に関する指針(NIH Publication No. 85‐23, revised 1996)に従っており、そしてウィーン医科大学の倫理委員会により確証される。Seyedhossein Aharinejad教授(Dr., MD, PhD)は本試験の実施の設計および指示を指揮する。
【0088】
雄Sprague Daweyラット(Harlan, Borchen, Germany)を、実験のために暗号化する。心筋梗塞(MI)後の予測される血行動態的妥協、心室細動、心筋断裂および出血のため、生存動物の数は、約60〜70%と予測される。したがって、心筋梗塞を有する各群において、合計18匹の動物が含まれる。ラットは、ケタゾル(100mg/体重1kg)およびロムプン(10mg/体重1kg)の腹腔内注射で麻酔され、14ゲージカテーテルを用いて気管に挿管されて、55サイクル/分で1.5%イソフルランを通気され(1回換気量:2.5ml)、その後、左側開胸手術を受けた。左冠動脈(LCA)の前枝を、7−0ポリプロピレン係締(Ethicon, Somerville, NJ)と結紮するか、または擬似手法で無傷のままにした。MI後7日(d)目に、左心室(LV)機能を心エコーにより査定する。ついで、匹敵する基線心機能を有する動物を暗号化して、表4に示すように群1〜8に割り当てる。MI後に予測される疼痛を処置するために、MI誘導直後、ならびにMI後1日目に、動物に0.6mg/体重100gのピリトラミド(5%グルコース溶液中のジピドロール(登録商標))を皮下投与する。さらに、0.6mg/体重100gで3日間、飲料水を介して(水250ml+5%グルコース溶液20ml)、そしてMI後4〜7日目には0.3mg/体重100gで、ピリトラミドを摂取させる。
【0089】
7日目、MI誘導直後、群1〜4において、以下のように処置を開始する。群1は、毎日、リンガー溶液の腹腔内注射を2週間施され(対照)、一方、群2〜4は、毎日、10、20および40mg/体重の用量で2週間、それぞれ組換えGSTP1を注射される。21日目に、群5〜8において、以下のように処置を開始する。群5は、毎日、リンガー溶液の腹腔内注射を2週間施され(対照)、一方、群6〜8は、毎日、10、20および40mg/体重の用量で2週間、それぞれ組換えGSTP1を注射される。群9は、10匹の動物を含み、擬似手法を施される。52日目および86日目に、LV機能を再査定して、MI後88日目に、動物を屠殺する。
表4:動物群およびその処置
【表6】
bw: 体重
【表7】
【0090】
以下のパラメーターを評価する(1〜11):
1. LV駆出率(EF)、LV収縮終期容積(ESV)、LV拡張終期容積(EDV):心エコー使用
2. 心臓対体重比
3. 梗塞サイズ、梗塞壁厚および繊維症に関する組織学および免疫細胞化学知見、ならびに血管新生、炎症性タンパク質、例えばp38、junキナーゼおよびインターロイキン(炎症性経路に関する例のみを記述)
4. シグナル伝達経路
5. プロモーター結合検定
6. アポトーシス評価のためのTUNEL検定
7. 定量的RT−PCRならびにウエスタンブロット、そしてGSTP1の評価のための、ならびにその経路、TRAF、TNF−αおよびその受容体に関連した免疫沈降;MMPおよびそれらの阻害薬TIMP、VEGF−Aおよびその受容体(ここでは単なる例を記述)
8. 血清GSTP1レベルおよび関連タンパク質のELISA。
【0091】
データはすべて暗号化し、マイクロソフトACCESSを用いて保存した。変量の分析(ANOVA;t検定または非パラメーターANOVA)およびカイ二乗検定を、分析されるべきパラメーター(数字式、文字数字式、正規分布またはノット)の依存度に基づいて用いて、群間のデータを比較する。スピアマンの相関検定およびロジスティック回帰分析を用いて、評価パラメーター間の相関を査定する。SASバージョン9.1.3を、統計学的分析のために用いる。
4.:急性心筋梗塞および虚血誘導性心不全のラットモデルにおける炎症、心臓形態および機能に及ぼすGSTP1処置の作用
【0092】
以下の実験は、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1−1(GSTP1)処置が、急性心筋梗塞後に活性化される炎症カスケードを相殺するに際して、そして、許容実験ラットモデルにおいてその結果生じる虚血誘導性心不全の過程において、有益であるか否かという原理を立証する。
材料および方法
動物および心筋梗塞モデル
【0093】
実験はすべて、ウィーン医科大学の実験動物の管理および使用委員会により認可された。総数60匹の雄Sprague Daweyラット(Harlan, Borchen, Germany)を、実験のために暗号化した。心筋梗塞後の血行動態的妥協、心室細動、心筋断裂および出血のため、匹敵する基線心機能を有する生存動物の数は、48であった。ラットを麻酔し、気管挿管して、酸素/イソフラウラン混合物を通気下後、左側開胸手術を施した。次に、左冠動脈の枝を、7−0ポリプロピレン係締(Ethicon, Somerville, NJ, USA)と結紮した。組換えGSTP1(1mg/kg:1mlのリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解;n=24)(Assay Design, Ann Arbor, MI)または1ml PBS(n=24)の腹腔内単一回用量注射を、心筋梗塞の1時間後に適用した。左心室(LV)機能を、下記のように心筋梗塞誘導後1日(n=48)および3週間(n=24)に、心エコーにより査定した。次いで、各群における総数12匹の動物を、処置1日後に屠殺し;各群の残りの12匹を、心筋梗塞誘導後3週間で屠殺した(Aharinejad et al., 2008)。
心エコー血行動態測定
【0094】
麻酔ラットにおいて、最大LV長軸長(L)および心臓内領域追跡を、15MHz線状アレイスキャンヘッドを用いて測定して、LV拡張終期(LVEDV)および収縮終期(LVESV)容積ならびに駆出率(LVEF=得るVEDV−LVESV/LVEDV)を算定した。測定は、3連続心臓終期を利用した(Aharinejad et al., 2008)。
組織学および免疫細胞化学知見
【0095】
心室を、その長軸の中点で横断した後、それらを凍結するかまたはホルマリン中に浸漬固定した。パラフィン包埋検体を、H&E、Tunnel検定ならびにゴールドナー3色コラーゲン染色のために用いた。メーカーのプロトコール(Roche Molecular Biochemicals, Basel, Switzerland)に従って、三重反復実験で、TUNEL検定(in situ細胞死検定キット)を実施した。スライドを4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes, Eugene, OR)で対比染色して、AF1 褪色防止剤(Citifluor, Leicester, UK)中に包埋した。蛍光顕微鏡(Nikon, Melville, NY)により、デジタル画像を得た。記載されたように(Aharinejad et al., 2008)、外形測定を実行した。
mRNA単離および定量的実時間RT−PCR
【0096】
TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)およびMagNAライザー系(Roche, Mannheim, Germany)を用いて、心筋組織から、総RNAを単離した(Aharinejad et al., 2008)。三重反復実験での実時間RT−PCR測定を、LightCycler機器(Roche)で実施した(Aharinejad et al., 2008)。プライマー配列は、センス/アンチセンス:
GSTP1: 5’−GGCAACTGAAGCCTTTTGAG−3’/5’−TCATGGATCAGCAGCAAGTC−3’;
主要壊死因子受容体関連因子2(TRAF2): 5’−GCAGAAGGTCTTGGAGATGG−3’/5’−GGTGGAGCAGCATTAAGGTC−3’;
およびβ2−マイクログロブリン: 5’−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3’/5’−CAATCCAAATGCGGCATCT−3’であった。mRNA発現を算定し、対照に比してパーセンテージとして処置動物に関してプロットした。
同時免疫沈降およびウエスタンブロット
【0097】
心臓組織溶解物を、記載どおりに調製した(Schafer et al., 2003)。GSTP1−TRAF2、GSTP1−JNK1およびGSTP1−p38複合体検出のために、タンパク質(500μg)を、TRAF2(BD Pharmingen, San Diego, CA)、JNK1およびp38(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)に対する対応する抗体0.5μgとともに免疫沈降させた。免疫複合体を、A/G PLUS−アガロースビーズ(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)とともにインキュベートして、GSTP1抗体(Bethyl, Montgomery, TX)を用いて、ウエスタンブロットにより沈降させた(Schafer et al., 2003)。ブロットを、一次ヒトモノクローナルGSTP1(Bethyl)およびTRAF2(BD Pharmingen)、またはポリクローナルホスホ−p38(Promega, Madison, WI)、ホスホ−JNK1、JNK1およびp38(Santa Cruz Biotechnology)抗体とともにインキュベートした後、二次抗体(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)とともにインキュベートした。実験はすべて、三重反復実験で実施し、発現レベルを対照負荷タンパク質に関して補正した。
統計学的分析
【0098】
パラメーターはすべて、分散の規模によって(連続または無条件)、X2検定および分散の一方向分析(一方向ANOVA;テューキー検定)により、群間で比較した。統計学的分析はすべて、ウィンドウズ(登録商標)、バージョン9.1.3およびエンタープライズガイド、バージョン4.1に関するSASシステム(SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて実施した。統計学的有意をP<0.05に設定した。結果を、平均±標準偏差(SD)で表す。
結果
GSTP1は急性MI後の炎症性サイトカインの心筋過剰発現を改善する
【0099】
免疫沈降およびウエスタンブロット分析は、急性心筋梗塞モデルにおいて、GSTP1処置がGSTP1−TRAF2複合体の形成を変えなかった、ということを明示した(図9A)。ウエスタンブロットは、GSTP1が活性化JNK1の心臓組織タンパク質レベルを低減し得る(P<0.01;図9B)が、しかし対照と比較して、活性化p38およびNF−kBのタンパク質発現レベルに差は認められない、ということを明示した。さらに、GSTP1は、対照と比較して、炎症性サイトカイン、例えばTGF−β、IL−1β、IL−2およびIL−17の心臓組織発現を抑制した(P<0.1;図9C);しかし、IL−10発現レベルは、GSTP1処置後、有意に変化しなかった(図9C)。
GSTP1は不全心筋におけるTRAF2調節NF−kBシグナル伝達による前炎症性サイトカインの心筋発現を改善する
【0100】
免疫沈降およびウエスタンブロット分析は、GSTP1処置ラットが、対照と比較して、MI後3週目に、それらの不全心臓組織において、GSTP1−TRAF2、GSTP1−JNK1およびGSTP1−p38複合体の形成の有意の増大を示す、ということを明示した(P<0.001;図10A)。さらに、GSTP1処置ラットは、対照と比較して、それらの不全心臓組織において、活性化JNK1およびp38のタンパク質発現の有意の低減を示した(P<0.001;図10B)。さらに、GSTP1処置ラットは、対照と比較して、TGF−β、IL−1β、IL−2およびIL−17のより低い心臓組織mRNA発現を示した(P≦0.001;図10C)。これに対比して、抗炎症性サイトカインIL−10の心臓組織mRNA発現は、対照と比較して、GSTP1処置動物において有意に増大された(P<0.001;図10C)。これらの結果は、GSTP1処置が、TRAF2媒介性JNK1、p38およびNF−kB前炎症性シグナル伝達を抑制し、そして虚血誘導性心不全における心筋サイトカイン発現を改善する、ということを示す。
GSTP1はラット不全心筋におけるリモデリングを改善する
【0101】
外形測定分析は、対照ラット(1.3±0.5mm)と比較して、GSTP1処置(2.2±0.4mm)において、LV壁厚が有意に増大される、ということを明示した(図11Aおよび11B)。梗塞および梗塞周辺領域における心筋組織の救済に及ぼすGSTP1処置の作用を分析するために、TUNEL検定を実施した。これらの検定の結果は、対照動物と比較した場合、GSTP1処置した梗塞および梗塞周辺領域におけるアポトーシス事象が有意に低減する、ということを示している(図11Cおよび11D)。これらのデータは、GSTP1処置が、ラット不全心臓における心筋リモデリングならびにMI後心筋組織アポトーシスを有意に低減する、ということを示す。
GSTP1は心臓機能を改善する
【0102】
GSTP1は、虚血誘導性心不全および急性心筋梗塞のラットモデルにおける炎症および心筋リモデリングを相殺するのに有効であるということが示されたので、不全ラット心筋におけるLV機能を立証した。結果は、MI後3週目の左心室駆出率(LVEF)が、非処置群と比較した場合、GSTP1処置ラットにおいて有意に高い、ということを示した(P<0.05、図12A)。さらに、LV拡張終期容積(LVEDV)が、対照動物と比較して、MI後3週間でのGSTP1処置群において有意に改善(低減)された(P<0.05、図12B)。これらのデータは、GSTP1処置が、虚血誘導性心不全に関連したLVEFを有意に改善し、LV拡張を有意に減衰する、ということを示す。
【0103】
心不全の病態生理学における炎症伝達物質の役割については、この20年間、関心が増大しつつある。LV機能に及ぼすTNF−αの負の変力作用を、種々の実験研究が記載してきた。さらに、TNF−αがLVリモデリング、心臓肥大、ならびにアポトーシスによる進行性心筋細胞損失を促進する、ということが報告されている。心不全の設定における炎症伝達物質の病理学的役割に関する漸増的証拠は、心不全患者におけるTNF−αを標的にするよう意図された一連の多中心的臨床試験を実施させてきた。しかしながら、これらの試験の結果は、落胆させられるものであった。これらの結果の一解釈は、心臓組織のリモデリングおよび修復のためには、TNF−αのせり理学的レベルが低いことが重要である、というものであった。この主張と同時に、実験的研究は、その2つの異なる受容体TNFR1およびTNFR2による心臓組織リモデリングにおけるTNF−αの逆の役割を記載している。TNFR1はリモデリング、肥大およびアポトーシスを悪化させるが、TNFR2はこれらの事象を改善する、ということが示されてきた。しかしながら、心不全におけるTNFR2媒介性作用の機序は、依然として不明である。近年、TRAF2は、MAPK活性化を媒介するTNF−αシグナル伝達の重要な調節因子である、ということが示された。さらに、TNFR2およびTRAF2間の相互作用は、NF−κBの活性化を生じる。さらに、GSTP1は、TRAF2との相互作用を形成することによるTNF−α誘導性シグナル伝達の重要な負の調節因子である、ということが報告されている。これと一致して、GSTP1は、TRAF2とのその相互作用により間接的に、あるいはジェイNK1およびp38とのその相互作用により直接的に、悪性細胞株におけるMAPK活性化を抑制し得る。これらの結果は、GSTP1およびTRAF2が心不全患者において上方調節されるという本発明の知見とともに、GSTP1−TRAF2複合体形成が心不全の病因と関連する、ということを示す。心不全患者における組織培養実験は、TNF−αの付加はジストの抗炎症作用を抑制し得るが、しかしこの作用はGSTP1用量を増大することにより存続され得る、ということを明示した。GSTP1の抗炎症特性は、in vivoでの最新の結果により承認された。本明細書中で用いた実験モデルは、GSTP1が炎症反応を改善し、MIの誘導後の心臓リモデリングを低減し得る、ということを明示した。興味深いことに、GSTP1は前炎症伝達物質、例えばIL−1、IL−2、JNK1、p38およびNF−κBを抑圧し得るだけでなく、抗炎症性サイトカインIL−10の発現を増大し得た。さらに、本発明による結果は、GSTP1が不全心臓におけるアポトーシスに対して心臓組織を防御する、ということを明示した。これと同時に、GSTP1はTRAF2増強性アポトーシスシグナル調節性キナーゼ1(ASK1)の自己リン酸化を減衰し、したがって、TRAF2およびASK1の相互作用を抑圧することによりTRAF2−ASK1誘導性細胞アポトーシスを抑制する、ということが腫瘍学的状況で示されてきた。
【0104】
要するに、本発明は、心不全においてJNK1/p38活性化を引き出すTNF−α/TRAF2を調整する場合のGSTP1の新規の機能を提供する。GSTP1によるTNF−α/TRAF2媒介性炎症シグナル伝達の選択的抑制は、心筋症または虚血性心疾患を有する患者のための、特に心筋梗塞および心不全を有する患者のための有益な処置であることが示された本発明の動物モデルによるものであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ P1の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)は、基質分子の求電子性基に及ぼすグルタチオン(GSH)のイオウ原子の求核性攻撃を触媒する多重遺伝子族のアイソザイムである。GSTは、毒性物質をGSHと共役させてより水溶性の物質(これは肝臓中で代謝されて、最後には身体から排出される)にする解毒酵素として知られている。アミノ酸配列に基づいて、哺乳動物GSTは6つのクラスに分けられる:すなわち、アルファ、ミュー、オメガ、パイ、シータおよびゼータである。これらのアイソザイムの中で、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1(GSTP1;GST−パイ、GSTP1−1)は、哺乳動物細胞において最も一般的である。GSTP1は、それらが種々の異なるヒト悪性腫瘍、例えば肺癌、結腸癌、胃癌、食道癌、口腔癌、腎臓癌、卵巣癌および精巣癌中で過剰発現されるため、新生物マーカーとしても関心を示されてきた。ほとんどの前立腺癌型は、GSTP1プロモーターが過メチル化してGSTP1の転写低減を引き起こすため(US 2009/0186360 A1)、正常前立腺組織に比して低減レベルのGSTP1ポリペプチドを含有する。GSTP1は、酸化ストレスに対する細胞性応答における決定因子であり、種々の細胞傷害性作因、例えばH2O2、UV、シスプラチン、アドリアマイシン、エトポシド、チオテパ、クロラムブシル、エタクリン酸および三酸化ヒ素により引き出されるアポトーシスから腫瘍細胞を保護する。したがって、GSTP1は、薬剤作用の標的として、そして腫瘍マーカーとしても、腫瘍医療における有望な標的とみなされる。
【0003】
GSTP1は、ストレスシグナル伝達の調節にも関与し、その非触媒およびリガンド結合活性に関連した機序により、アポトーシスに対して細胞を防御する。例えば、GSTP1は前炎症因子のLPS誘導性過剰産生を阻止し、LPSに対する応答において抗炎症的役割を果たす。GSTP1発現は、転写および翻訳の両レベルで、LPS刺激により上方調節される。GSTP1は、C末端との相互作用により、JNK(c−Jun NH2−末端キナーゼ)の内因性抑制因子としても機能する。外因性(組換え)GSTP1タンパク質はマクロファージに送達されて、細胞中でのiNOSおよびCOX−2発現を抑圧する、ということも実証されている。さらに、マウスへの腹腔内投与GSTP1タンパク質は、内毒素ショックの死亡率を有意に低減し、急性肺損傷および腹膜炎を抑制した(Luo et al., Mol. Immunol. 46 (2009), 848−857)。
【0004】
EP 1 500 709 A1は、22の炎症マーカーのうちの1つとしてのGSTP1を示唆している。
【0005】
GSTP1の種々のアイソフォームは、呼吸器系における交通(および喫煙)からの空気汚染とのGSTP1の相互作用、ならびに妊娠における高血圧との関連のため、喘息および小児アレルギー疾患と関連することも見出されている(Ohta et al., Sem. Thr. Hem. 29 (2003), 653−659)。
【0006】
心筋症(CMP)は、拡張型(DCM)(心筋症の中で最も高頻度に存在)および虚血型(ICM)を含めた、混成群の疾患である。薬物療法および外科的介入はCMPにおける生存利益を伴って改善されてきたが、しかし原因療法は依然として漠然とした目標である。したがって、CMPに介在する未知の機序の確認は、有益であり得る。この10年の研究の結果は、炎症、ならびに前炎症サイトカイン、特に腫瘍壊死因子(TNF)−αの放出増強がCMPの病因においてある役割を果たし得る、という証拠を明確に提供している。しかしながら、臨床試験は、TNF−αがCMPに関する実用的な治療標的であるか否かという疑問を投げかけたCMPにおけるTNF−αに関するより複雑な役割を逆説的に示している。IHDの病態は、CMPの発症に直接的に関連付けられ、患者は一般に、患者の症候を改善するため、そしてIHDによる(虚血型)CMPの発症を防止するかまたは遅らせるためという目的で、ベータ遮断薬またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)遮断薬のような医薬剤を摂取する。したがって、IHDのためにもCMPに関する療法を用いることは共通である。重要なことは、IHDを基礎にしたCMP、特に末期CMPを発症する患者は、一般に、限定された治療選択肢しかないということである(例えば、心臓移植または補助人工心臓の使用、これは、順次、限定数の患者にのみ提供され得る)。
【0007】
CMPおよびIHD、ならびにその主要原因のうちの1つ、すなわち、虚血性心疾患(心筋梗塞を生じ得る冠動脈心疾患とも呼ばれる)、特に血圧上昇誘導性CMPおよび容積誘導性CMPを効率的に防止し、処置するためのさらなる薬剤標的および処置レジメンに対する必要性は依然として満たされていない。
【0008】
心筋症は、再発性増悪を生じて、入院または死に至る。したがって、さらにまた、これらの患者における最適な目的に合わせた心筋症処置を達成するためには、厳密な査察および徹底的臨床試験が必要とされ、厖大なヘルスケア経費が掛かる。心筋症の進化を同定し、処置のモニタリングおよび結果を最適化するのに役立ち得るバイオマーカーが、したがって、非常に望ましい。理想的には、このような試験は、高感度で、特異的で、非侵襲性で、迅速且つ安価であるべきである。多数の神経液性因子および炎症性サイトカインは、心筋症のバイオマーカーとして報告されているが、しかし脳型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびその不活性N末端断片(プロBNP)は、慢性CMPが疑われるかまたは確立された患者の臨床診断およびモニタリングにおいて最も広範に受け入れられてきた。しかしながら、循環BNPおよびプロBNPレベルは、腎機能により劇的に影響を及ぼされ、そして年齢および性別依存性である。さらに、プロBNPが、駆出率(EF)が低下したCMPとは対照的に保持されたCMPという診断に有益であり得るか否かは依然として不明である。
【0009】
したがって、心筋症および虚血性心疾患のための診断手段を提供することも、本発明の一目的である。
【0010】
したがって、本発明は、心筋症(CMP)の防止または処置のための、ならびに虚血性心疾患の防止または処置のための、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1(GSTP1)を提供する。本発明に関して、GSTP1は、CMP処置において、ならびに虚血性心疾患(IHD)の処置において、有益であるということが意外にも示され得た。GSTP1は、癌医療における(例えばUS 5,427,917 A、US 5,552,277 AおよびWO 98/21359 A1)、ならびにアレルギー疾患、例えば喘息における、特に交通関連大気汚染と結びついた(例えば、Melen et al., Env. Health Persp. 116 (2008), 1077−1084)、関連タンパク質として記載されている。GSTP1は、内毒素ショックの死亡率を低減し、ならびに急性肺損傷および腹膜炎を抑制することも示唆されてきた(例えば、Luo et al., Mol. Immunol. 46 (2009), 848−875)。GSTP1は、キナーゼシグナル伝達を調整するに際してGSTP1の新規のリガンド結合機能としてTRAF2(腫瘍壊死因子受容体関連因子2)と相互作用することが報告された(Wu et al., Oncogene 25 (2006), 5787−5800)。これは、サイトカイン、UVまたはH2O2のような異なる損傷刺激に対して細胞を防御するためにGSTP1により利用される機序を分析するための新規の識見を提供し、そしてこの教示は、腫瘍細胞においてGSTP1−TRAF2複合体を形成することにより一般的生存因子としてのGSTP1機能を考え得るとみなされたが、しかしこの複合体の抑制は抗腫瘍療法に限定されるものとみなされた。
【0011】
本発明によれば、GSTP1は、具体的には、対照と比較して、CMPおよびIHD患者において上方調節される、ということが意外にも見出された。組換えGSTP1は、GSTP1−TRAF2会合を媒介し、その用量およびCMPの基本形態によって決まる前炎症JNK1およびp38活性化ならびにTRAF2発現を低減する、ということがさらに見出された。これは、GSTP1の投与によるCMPおよびIHDに関する新規の治療戦略の提供を可能にした。GSTP1はTRAF2との会合による前炎症JNK1/p38のTNF−α媒介性活性化を改善するため、GSTP1は、CMPおよびIHD処置において有益であるだけでなく、特に危険な患者、例えば高血圧患者において、CMPおよびIHDの防止にも有益である。
【0012】
本発明は、CMPおよび虚血性心疾患の防止または処置のための医薬剤の製造のためのGSTP1の使用を提供する。本発明によるCMPおよびIHDの処置は、このような処置を必要とする個体、例えばヒトCMPおよびIHD患者への有効量のGSTP1の投与を包含する。これらの理由のため、ならびにIHDの病態がCMPの発症に直接的に関連づけられるという事実に基づいて、患者は一般に、患者の症候を改善するため、そしてIHDによる(虚血型)CMPの発症を防止するかまたは遅らせるためという目的で、ベータ遮断薬またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)遮断薬のような医薬剤を摂取する。IHD患者における、特にIHDによる心筋梗塞を発症している患者における心筋のリモデリング(これは、順次、心室のリモデリングと、その後の心臓のポンプ機能減損をもたらし、特に心筋梗塞患者において、CMPおよびIHDに共通である病理学的状態である)に基づいているIHDの病態とCMPとの密接な関係は、IHDおよびCMPの防止または処置に関する本発明の有効性を示す。したがって、本発明は、IHDの防止または処置にも適している、ということは明白である。重要なことは、IHDを基礎にしたCMP、特に末期CMPを発症する患者は、一般に、限定された治療選択肢しかない(例えば、心臓移植または補助人工心臓の使用であって、これは、順次、限定数の患者にのみ提供され得る)ことであり、この事実は、一方ではCMPの発症を防止することを目指し、他方で、IHD患者における臨床症状を改善するかまたは安定化することを目指した、IHDに罹患している患者を防止しまたは処置するための本発明の好ましい使用を構成している。
【0013】
本発明を用いて、CMPおよびIHDのすべての型および段階、その急性および慢性型、は、CMPまたはIHDの起源とは関係なく、処置され得る。もちろん、「処置」という用語は、優先的に、疾患の改善、ならびに疾患の進行の防止または緩慢化を包含する。例えば、CMPは、心筋梗塞により引き起こされ、特発性拡張型であり得るし、あるいは高血圧により引き起こされ得る。これらの型はすべて、本発明に従ってGSTP1で処置され得る。具体的には、例えば心筋梗塞により引き起こされる虚血型CMPは、GSTP1で処置され得るが、しかしながら、非虚血型(例えば、特発性拡張型CMP、あるいは高血圧または容積誘導性CMP)も処置され得る。これらのCMPのすべてにおいて、炎症経路が包含されるため、これは、本発明によるGSTP1での処置に関してそれらを適格にする(このような炎症経路が包含される場合には、実にまれな型のCMP)。
【0014】
したがって、本発明による好ましいCMPは、拡張型心筋症、特にうっ血性心筋症;閉塞性肥大性心筋症、特に肥大性大動脈弁下狭窄症;その他の肥大性心筋症、特に、非閉塞性肥大性心筋症;心内膜心筋(好酸性)疾患、特に、心内膜心筋(熱帯性)繊維症またはレフラー心内膜炎;心内膜繊維弾性症、特に先天性心筋症;その他の拘束型心筋症、特に狭窄性心筋症NOS(別記されない(ICD−10による));アルコール性心筋症、薬剤およびその他の外的作因による心筋症、非特異的心筋症、特に原発性、続発性心筋症NOS;感染性および寄生性疾患における心筋症、特にジフテリアにおける心筋症;代謝性疾患における心筋症、特に心臓アミロイドーシス;栄養性疾患における心筋症、特に栄養性心筋症NOS;心臓の痛風結節または甲状腺中毒性心疾患である。
【0015】
本発明により処置される(または防止される)べきCMPまたはIHDの具体的に選択される形態は、虚血により、特に心筋梗塞により、高血圧により、または心筋炎により引き起こされるCMPである。したがって、本発明によるGSTP1処置は、好ましくは、急性心筋炎、好ましくは感染性心筋炎、特に敗血症性心筋炎;孤立性心筋炎、細菌疾患における心筋炎、特にジフテリア性、淋菌性、髄膜炎菌性、梅毒性または結核性心筋炎;ウイルス疾患における心筋炎、特にインフルエンザ性心筋炎または流行性耳下腺炎性心筋炎;シャーガス病における急性または慢性心筋炎、トキソプラズマ症における心筋炎、リウマチ性心筋炎または類肉腫性心筋炎を有する患者に適用される。
【0016】
本発明による好ましい適応症は、したがって、ICD−10の第IX章(I11〜I15、特にI21、I22およびI23;I20〜I25、特にI21およびI22;I40〜I43、特にI42;I50〜I57、特にI50およびI57)で列挙されている。
【0017】
本発明の主眼点は、ヒト患者の処置である;しかしながら、本発明の知見に基づいて、炎症を伴う動物(哺乳動物)CMPおよびIHDも、本発明に従ってGSTP1により首尾よく処置され得る、ということが明らかである。これは、農場または動物園動物(特に繁殖農場動物、例えば(前者)競走馬)、あるいはペット、例えばイヌ、ネコおよびウマに関して重要であり得る。
【0018】
本発明はCMPおよびIHDの防止のためにも使用可能であるが、しかし、本発明の主眼は、CMPまたはIHDと既に診断されているか、あるいはCMPまたはIHDを発祥する危険を有するヒトCMPおよびIHD患者、例えば高血圧を有する患者(例えば、収縮期血圧160mmHg以上、および/または拡張期血圧100mmHg以上を有する段階2の患者)の処置にある、ということは明らかである。本発明の防止態様の別の好ましい実施形態は、狭心症患者に関するものであり、それにより、この組の患者においては心筋梗塞が起こっていることも起きていないこともある;新機能不全または心不全(Mc Murray et al., Lancet 365 (2005), 1877−1889)が存在することもある。ここでは、連続静脈内投与または心筋への連続投与さえ、示されている。
【0019】
本発明によるGSTP1含有医薬剤の投与の好ましい経路は、非経口経路、好ましくは腹腔内または静脈内投与であり、静脈内投与が特に好ましい。静脈内投与は、例えば、ボーラス注射により、または長期間(例えば、30分〜6時間、特に1〜3時間)に亘る連続静脈内送達により、実施され得る。心臓手術の過程においては、心臓への直接的な投与(心筋内注射)も選択される。この経路を用いて、GSTP1活性は、直接的に且つ高濃度で、必要とされる領域に、例えば梗塞領域に送達され得る。別の好ましい投与経路は、冠静脈洞への投与(例えば、冠静脈洞中に挿入されるカテーテルによる)である。経口または粘膜経路(原則としてGSTP1に関して記載されてはいるが;例えばUS 5,976,528 A参照)は余り選択されないが、それは、GSTP1がタンパク質であり、この経路に関しては、本草薬物製造に関して有意の最適化とともに、特定の防御手段(腸溶コーティング、カプセル封入等)が必要であるためである。
【0020】
投与の好ましい投与量は、0.001〜100mg GSTP1/kg、好ましくは0.01〜10mg GSTP1/kg、特に0.1〜1mg GSTP1/kgの投与量であって、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与される;あるいは、0.1〜10000U GSTP1/kg、好ましくは1〜1000U GSTP1/kg、特に10〜100U GSTP1/kgの投与量であって、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与される。これらは、静脈内適用のための好ましい1日投与量である(「kg」は、処置されるべきヒトの体重1kgを意味する)。外科手術中、これらの投与量は、全投与量として、または1以上の投与量として;あるいは投与量の一部のみとしても適用され得る(GSTP1は、必要とされる領域で、外科手術中に、直接的に適用され得ると考える)。「直ぐに使える」1日剤形(例えば、80kgおよび/または60kgのヒト個体に関して)は、予備製造され、そして凍結乾燥または凍結(ならびに例えば−20℃に保持)により、貯蔵安定性にされ得る。次に、投与量は、全部または一部のみ、消費され得る(他と、処置されるべきヒトの体重を基礎にして)。
【0021】
本発明によるGSTP1は、「GSTP1−1」、「GSTクラス−パイ」、「DFN7」、「GST3」、「GSTπ」等とも呼ばれ、そして還元型グルタチオンを広範な数の外因性および内因性疎水性求電子性物質と共役させる(EC 2.5.1.18;触媒活性:RX+グルタチオン=HX+R−S−グルタチオン)。ヒト配列(配列番号1)は、UniProtKB/SwissProtデータベース(HGNC:4638、Entrez Gene: 2950)で「GSTP1_HUMAN、 P09211」として列挙される。
配列番号1:
【表1】
【0022】
いくつかの変異体はこのヒトタンパク質に関して存在し(同型接合性ならびに異型接合性)、最も重要な変異体は、位置105でのIle−Val交換、および位置114でのAla−Val交換である(Melen et al., 2008)。他の変異体としては、位置78でのGly−Glu交換、位置110でのThr−Ser交換、位置139でのGly−Glu交換、位置147でのAsp−Tyr交換、ならびに位置158でのAsp−His交換である。いくつかの他のSNPが既知であるが、アミノ酸配列に影響を及ぼさない。
【0023】
本発明によるGSTP1で処置されるべきCMPまたはIHD患者が、配列番号と比較して、(異型接合または同型接合性)アミノ酸交換を生じるような対立遺伝子を有する場合、このような患者に対立遺伝子型のこのタンパク質を投与することが推奨され得る。これは具体的には、この対立遺伝子に関して同型接合性である患者、例えば同型接合性105Valまたは114Val対立遺伝子を有する患者(この患者は次に、それぞれ、105Valまたは114Val GSTP1変異体を受容する)に関して選択される。このような場合、悪性反応、特に悪性免疫反応(これは常に、タンパク質様医薬剤に関して局所的である)を発症する危険は、低く保持される。とにかく、患者における免疫反応を引き出すかまたは追加免疫する本発明によるGSTP1を含有する薬学的調製物中の任意の成分は、可能な場合、最小限に保持されるべきである。
【0024】
哺乳動物からのオルソログは、例えばチンパンジー(Pan troglodytes;NCBI寄託番号:745954、 XM_001152516.1、XP_001152516.1)およびマウス(ハツカネズミ;NCBI寄託番号:148701、 NM_013541.11、NP_038569.11、AK0791445、BC0020485)から既知であるが、しかし非哺乳動物、例えばミノカサゴ(Danio rerio)および蠕虫(線虫Caenorhabditis elegans)からも既知である。
【0025】
本発明は、心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための、GSTP1、好ましくはヒト組換えGSTP1またはヒト胎盤GSTP1、ならびに製薬上許容可能な担体を含む薬学的組成物にも関する。
【0026】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、1〜100000UのGSTP1、好ましくは10〜10000UのGSTP1、特に10〜1000UのGSTP1を含有する。1単位のGSTP1活性は、1.0マイクロモルの1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンを還元グルタチオン/分と、pH6.5で25℃で共役させる。
【0027】
本発明による好ましい組成物は、緩衝剤も含有する。典型的緩衝系は、炭酸/HCO3系(pH6.2〜8.6;中性)、炭酸/ケイ酸塩緩衝液(pH5.0〜6.2;弱酸性)、酢酸/酢酸塩緩衝液(pH3.7〜5.7)、リン酸塩緩衝液(NaH2PO4+Na2HPO4;pH5.4〜7.8)、アンモニア緩衝液(NH3+H2O+NH4Cl;pH8.2〜10.2)、トリス/HCl(トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン;pH7.2〜9.0)、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸;pH6.8〜8.2)、HEPPS(4−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−1−プロパンスルホン酸;pH7.3〜8.7)、またはMES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸;pH5.2〜6.7)である。本発明による好ましい緩衝剤は、リン酸塩緩衝液、トリス−HCl緩衝液またはHEPES緩衝液であり、pHは5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.5、特に6.5〜8.0である。緩衝液濃度は、好ましくは1mM〜1M、特に10mM〜0.5Mに調整され得る。その他の好ましい付加的成分としては、安定化剤、キレート化剤、塩等、例えばグリセロール、グルコース、サッカロース、マルトース、EDTAまたは類似の物質、NaCl、KCl、NH4Cl、ならびに薬学的調製物で使用可能な類似の塩が挙げられる。もちろん、薬学的調製物中のすべての成分は、薬学的等級品質のものでなければならない。
【0028】
選択的に用いられる製薬上許容可能な担体は、生理学的食塩水、植物油、鉱油、水性カルボキシメチルセルロースナトリウムまたは水性ポリビニルピロリドンであるが、しかしながら、滅菌水も用いられ得る。
【0029】
本発明に従って用いられるべきGSTP1は、種々の方法により提供される。上記のように、ヒト胎盤からのGSTP1は、GSTP1の好ましい天然供給源のうちの1つである。他の好ましい供給源は、GSTP1(過剰)発現細胞の培養である。GSTP1調製物は、市販もされている。しかしながら、本発明による好ましい工業的生産経路は、GSTP1の組換え生産である。GSTP1の組換え生産は、このような供給源からのその精製と同様に、十分に確立されている(例えば、Luo et al., 2009;Wu et al., 2006;WO 98/21359 A1;US 5,976,528等)。GSTP1コード配列を含有する発現ベクター(例えば、WO 98/21359 A1、パートD(40〜51頁))は、適切な宿主細胞(例えば、COS、HEK 293、HeLa、VERO、W138、BHKまたはMDCK細胞、さらにまた酵母、植物、昆虫および細菌細胞(出芽酵母、大腸菌等))中に移される。次いで、GSTP1は、標準方法に従って発現され、精製される。組換えGSTP1性腺は、金属キレートペプチド、プロテインAドメイン、アフィニティー精製タグ等のような精製を助長する付加的配列を有するGSTP1の変異体型も用い得る(例えばUS5,976,528 A、カラム16)。このような変異体は、(精製後に、または精製の途中に)、例えば切断可能リンカー配列(プロテアーゼ、エンテロキナーゼ等)により除去され得る。GSTP1の精製済みバッチ調製物は、例えば1〜200UのGSTP1活性/総タンパク質1mgを含有し得る。好ましい薬学的GSTP1組成物は、5〜200U/タンパク質1mg、特に10〜150U/タンパク質1mgを含有する。本発明による薬学的調製物は、常に、滅菌性であり、本発明に従ってヒト患者への投与に使用可能である適切に標識された生成物として提供される。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、CMPまたはIHDに対する診断標的としてのGSTP1に関する。本発明は、CMPまたはIHDの診断のためのGSTP1の使用を提供する。GSTP1は腫瘍診断における既知の且つ確立されたマーカーであるが、しかしGSTP1が、感受性および特異性に関して一般的「ゴールド・スタンダード(最も信頼できる基準)」であるプロBNPより優れてさえいる、CMPまたはIHDに対するバイオマーカーである、ということは意外である。
【0031】
GSTP1の療法的使用に関して上記で言及された心筋症または虚血性心疾患は、本発明に従って診断もされ得る。
【0032】
したがって、本発明は、CMPまたはIHDの診断方法、特に上記の同定方法であって、生物学的試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNAの量を確定すること、そしてこの量を、限定された且つ既知のCMP/IHD状態を有する、特に健常ヒト個体または患者からの生物学的試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNA量と比較することによる方法に関する。この比較は、実際的見地から実行され得る。すなわちその場合、実試料は、生物学的試料と同様に試験され(横並びで)、それは、実質上の比較であって、したがって、確定値が、健常または罹患試料の既知の値と比較される。
【0033】
GSTP1の量を確定するための好ましい技法としては、抗体連結技法、例えばELISAが挙げられ、これらは任意に、電気泳動技法またはラジオイムノアッセイ(RIA)と組合わされる。電気泳動技法は、MALDI技法とも組合され得る。
【0034】
代替的には、GSTP1 mRNAは、例えば定量的実時間RT−PCRにより決定され得る。
【0035】
好ましい診断標的は、CMPまたはIHDを有することが疑われるヒト患者、CMPまたはIHDを発祥する危険があるヒト患者、あるいはCMPまたはIHDを有する(当該疾患の進行に関してモニタリングされなければならない)ヒト患者である。
【0036】
本発明による好ましい生物学的試料としては、ヒトの血液、血漿または血清試料、あるいはヒト心筋生検試料が挙げられる。これらの試料は、慣用的方法によっても試験され得る。
【0037】
典型的には、血清中の高濃度のGSTP1は、CMPまたはIHDを示す。健常人では、GSTP1の血清濃度は、50ng/mgより低く、好ましくは10ng/mlより低いことさえある。CMPまたはIHD罹患状態は、50ng/ml以上、好ましくは100ng/ml以上の血清レベルで診断され得る。重症型のCMPまたはIHDは、200ng/ml以上で診断され得る。もちろん、これらの値は、常に、GSTP1タンパク質を検定するために用いられる技法によって決まる。代替的には、CMPまたはIHD罹患状態は、GSTP1の血清レベルが、健常状態、特に同一患者の健常状態と比較して、少なくとも係数2の差で、好ましくは少なくとも係数5の差で、上昇される場合に、診断され得る。血清GSTP1レベルが、健常状態、特に同一患者の健常状態と比較して、少なくとも係数10、特に少なくとも係数20の差で上昇される場合、重症型が診断され得た。
【0038】
本発明に関しては、試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNAの量の確定は、標準試験方法、例えばELISAまたはPCRにより、非常に短時間内に実施され得る。配列番号2:
【表2】
および配列番号1(ならびにGSTP1遺伝子およびGSTP1タンパク質に関して上記されたデータベース記載事項)によるDNAおよびアミノ酸配列に基づいて、本発明は、例えば、黄色ブドウ球菌感染の同定のためのPCR検定、あるいはサンドイッチELISA検定も提供する。本発明による適切なELISAにおいて、GSTP1は、GSTP1特異的抗体を有する生物学的試料から捕捉され、GSTP1の異なるエピトープまたは以前の結合事象に特異的である抗体に対して向けられる二次抗体で検出され、定量され得る。
【0039】
ジス転写物(m−RNA)の検出は、標準定量核酸試験、例えば定量的RT−PCRにより可能である。したがって、本発明は、GSTP1をコードする少なくとも1つの核酸配列またはその一部を増幅するための少なくとも2つの合成核酸配列中のGSTP1 mRNAの量を決定するためのキットであって、キット中の合成核酸配列のうちの少なくとも1つが、以下のものからなる群から選択されるキットも提供する:(a)適切なプライマー対(上記プライマー対は、以下のうちの少なくとも1つの10〜30連続ヌクレオチドを含む核酸配列である:(i)配列番号2によるGSTP1 mRNAまたはその相補配列;あるいは(ii)GSTP1遺伝子の5’または3’非コード領域から(例えば、5’−または3’−方向に500ヌクレオチドまで、好ましくは200ヌクレオチドまで、特に100ヌクレオチドまで延びる領域またはその相補配列中;このような配列は上記の配列ライブラリー記載事項に存在する);上記プライマーは、GSTP1遺伝子またはその5’−または3’−領域間に配置されるヌクレオチド配列を重合するために使用可能である)(上記重合可能GSTP1ヌクレオチド配列は、PCR検出可能であり、好ましくは1000bpまで、さらに好ましくは500bpまで、さらに好ましくは300bpまでの長さである;他方で、プライマーは、全GSTP1 m−RNAを(PCRで)重合するためにも選択され得る);ならびに(b)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のための適切な試薬。好ましくは、キットはさらに、以下の:(c)使用説明書、ならびに(d)任意に、GSTP1 mRNAの確定および/または定量のための陽性および/または陰性対照、特に、GSTP1をコードする対照核酸またはその断片を含む。適切なPCR試薬の例としては、PCR反応緩衝液、Mg2+(例えば、MgCl2)、dNTP、DNAポリメラーゼ(例えば、逆転写酵素および熱安定性DNAポリメラーゼ(例えば、Taq関連DNAポリメラーゼおよびpfu関連DNAポリメラーゼ))、RNアーゼ、PCR反応エンハンサーまたは阻害剤、PCR反応モニタリング剤(例えば二本鎖DNA染料(例えばSYBRTMグリーン))、TaqManTMプローブ、分子標識およびScorpion−STM、ならびにPCR等級水が挙げられる。
【0040】
本明細書中に記載されるプライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検定において特に有用である。PCRは、DNAベースの配列のin vitro増幅のための実用的な系である。例えば、PCR検定は、熱安定性ポリメラーゼ、ならびに2つの約10〜30塩基プライマー(一方は増幅されるべき配列の一端で(+)鎖と相補性であり、他方は他の端と(−)鎖と相補性である)を用い得る。DNA鎖を含むプライマー組を含む新規合成生物学的試料は、その後、同一プライマー配列のための付加的鋳型として役立ち得るため、解離は、所望の配列の迅速且つ高度特異的増幅を生じ得る。PCRは、GSTP1 mRNA含有試料中の限定配列の存在を検出するためにも用いられ得る。
【0041】
例として、本発明による典型的PCR検定は、任意に、mRNAのDNAへの逆転写後に、2つの合成オリゴヌクレオチドプライマー(それぞれ、増幅されるべきGSTP1をコードする標的DNAまたはその相補鎖の2つの領域、あるいはその5’−または3’−領域(各鎖に関するもの)と特異的におよび相補的に結合している)を用いて開始し得る。これらは、過剰デオキシヌクレオチド(dNTP)および熱安定性DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)の存在下で、標的DNA(純粋である必要はない)に付加され得る。一連(典型的には20〜40)の温度周期で、標的DNAは繰り返し変性され(約80〜100℃、例えば90℃)、プライマーとアニーリングされ(典型的には40〜65℃で)、そして娘鎖がプライマーから伸長され得る(典型的には65〜80℃、例えば72℃)。娘鎖それ自体は、その後の周期のための鋳型として作用するので、両プライマーと整合するDNA断片は、線状というよりむしろ幾何級数的に増幅される。標的DNAは、純粋である必要も、豊富である必要もない;したがって、PCRは、具体的には、本発明による臨床診断法に適している。
【0042】
これらの試験は、好ましくは、定量のためにも適している標識、例えばビオチン、蛍光分子、放射性分子、色原性基質、化学発光マーカー等を用い得る。核酸をビオチニルかするための方法は、蛍光分子および放射性分子をオリゴヌクレオチドおよびヌクレオチド中に導入するための方法であって、当該技術分野で周知である。検出方法は、他の一般に用いられる標識と同様に、蛍光、放射性、化学発光、色原性標識に関して周知である。要するに、化学発光は、それらの発光の波長および強度によりほとんど直接的に、同定され、定量され得る。ビオチンが用いられる場合、それは、検出可能マーカー、例えば酵素(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)と共役されるアビジン、ストレプトアビジン等により検出される。ストレプトアビジンは、高親和性でビオチンと結合し、非結合ストレプトアビジンは洗い落とされ、次いで、過酸化物および適切な緩衝液の存在下で、冷光−発光基質を用いて、ホースラディッシュペルオキシダーゼ酵素の存在が検出される。
【0043】
試料中のGSTP1の量の確定は、好ましくは、ELISA、RIAおよびFACSを包含する。抗GSTP1抗体を用いたGSTP1の検出および定量は、当該技術分野で十分に確立されており(特に、腫瘍医療において)、本発明にしたがってCMPまたはIHDを診断する目的のために容易に適用され得る(例えば、WO 98/21359 A1(「F. 抗体」);US 5,976,528 A、US 5,427,917 A)。GSTP1発現に関する正常または標準値は、正常哺乳動物被験体、好ましくはヒトから採取される体液または細胞抽出物を、複合体形成に適した条件下で、GSTP1に対する抗体と組合せることにより確立される。標準複合体形成の量は、種々の方法により、好ましくは測光学的手段により、定量され得る。被験体、試料、対照および疾患にいて、生検組織から発現されるGSTP1の量は、標準値と比較される。標準および被験体値間の偏差は、疾患を診断するためのパラメーターを確立する。上で既に記述したように、最も好ましい試料は、ヒト心臓生検のもの、ならびにCMPまたはIHDを有する、CMPまたはIHDを有することが疑われる、あるいはCMPまたはIHDを発症する危険がある個々のヒト患者のヒト血液から得られるものである。
【0044】
本発明は、以下の実施例および図面によりさらに例証されるが、それらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】DCMおよびICM患者におけるGSTP1およびTRAF2増大を示す。(A)代表的遺伝子アレイ画像は、標識化cDNAプローブのGSTP1およびTRAF2アレイ配列(矢印)とのハイブリダイゼーション増大を示す。(B)対照のCy3(緑色)染色と比較した場合の、DCMおよびICM患者における心臓GSTP1およびTRAF2タンパク質に関するCy5(赤色)染色増強を示す代表的タンパク質アレイ画像。(C)実時間RT−PCRによる心筋GSTP1およびTRAF2 mRNA発現の定量。GSTP1(*P<0.0001)およびTRAF2(P<0.0001)mRNA発現は、対照と比較して、心不全患者において有意に上方調節される。(D)タンパク質負荷対照レベルに関して補正された心筋GSTP1およびTRAF2タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像および定量。心筋タンパク質発現レベルは、対照と比較して、GSTP1(P<0.0001、P=0.0019)およびTRAF2(P<0.0001、P=0.005)に関してDCMおよびICMで上昇した。DCMおよびICMを比較した場合、GSTP1 mRNAおよびタンパク質発現に有意差は見出されなかった;しかし、TRAF2 mRNA(†P=0.001)およびタンパク質(†P≦0.0001)発現レベルは、ICMと比較して、DCMでは有意に高かった。* 対照に対して有意に異なる。
【図2】DCMおよびICMにおけるGSTP1−TRAF2相互作用、ならびにJNKおよびp38の活性化を示す。(A)DCM、ICMおよび対照における心筋GSTP1−TRAF2複合体形成の代表的ウエスタンブロット画像および定量。LV心筋溶解物を免疫沈降(IP)させて、沈降物をウエスタンブロットで分析した。ICMおよび対照と比較して、有意に低いGSTP1−TRAF2会合が、DCMにおいて見出された(*P≦0.008)。(B)DCM、ICMおよび対照における心筋活性JNK1およびp38タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像および定量。DCMおよびICMの両方において、活性JNKならびにp38のM心臓タンパク質発現(P<0.0001)は、対照と比較して、有意に上方調節される。さらに、DCM患者は、ICMと比較して、有意に高い心臓JNKおよびp38タンパク質発現(†P<0.0001)を明示する。全タンパク質発現を、タンパク質負荷対照レベルに関して補正した。* 対照に対して有意に異なる。
【図3】GSTP1が心臓組織培養中の心臓TRAF2−JNK1/p38系を調整する、ということを示す。(A)5μg/mL組換えGSTP1で処置した心臓組織培養中のTRAF2、GSTP1、活性JNKおよび活性p38タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像。(B)組換えGSTP1(2.5、5、10μg/ml)で24時間処置したDCM、ICMおよび対照心臓組織培養中でのTRAF2、活性JNKおよび活性p38タンパク質発現の定量。TRAF2のタンパク質発現は、用いた濃度によって、非処置のものと比較して有意に低減された(DCM:2.5μg/mLに関してはP=0.011、5μg/mLに関してはP=0.014、10μg/mLに関してはP=0.003;ICM:2.5μg/mLに関してはP=0.006、5μg/mLに関してはP=0.003、10μg/mLに関してはP=0.0001;対照:2.5μg/mLに関してはP=0.19、5μg/mLに関してはP=0.0003、10μg/mLに関してはP=0.03)。GSTP1処置後、活性JNK発現は、用いた濃度によって、非処置群と比較して、DCM、ICMおよび対照心臓組織において減少した(DCM:2.5μg/mLに関してはP=0.0009、5μg/mLに関してはP=0.01、10μg/mLに関してはP=0.0003;ICM:2.5μg/mLに関してはP=0.0005、5μg/mLに関してはP=0.007、10μg/mLに関してはP=0.0001;対照:2.5μg/mLに関してはP=0.001、5μg/mLに関してはP=0.69、10μg/mLに関してはP=0.71)。同様に、活性p38発現は、用いた濃度によって、非処置のものと比較して、DCM、ICMおよび対照心臓組織においてGSTP1処置に応答して低減した(DCM:2.5μg/mLに関してはP=0.004、5μg/mLに関してはP=0.0001、10μg/mLに関してはP=0.0009;ICM:2.5μg/mLに関してはP=0.03、5μg/mLに関してはP=0.0001、10μg/mLに関してはP=0.008;対照:2.5μg/mLに関してはP=0.008、5μg/mLおよび10μg/mLに関してはP=0.0004)。TRAF2、JNKおよびp38低減に関する適用GSTP1濃度の比較は、DCMおよびICMにおいては、2.5μg/mLおよび5μg/mL、ならびに10μg/mLの間の差が有意であるが、対照では有意でない、ということを示した。TRAF2:(DCM:2.5対5μg/mLおよび対10μg/mLに関してはP=0.01、5対10μg/mLに関してはP=0.62;ICM:2.5μg/mL対5μg/mLに関してはP=0.0007、2.5対10μg/mLに関してはP=0.0004、5対10μg/mLに関してはP=0.35;対照:2.5対5μg/mLに関してはP=0.07、2.5対10μg/mLに関してはP=0.06、5対10μg/mLに関してはP=0.15)。JNK:(DCM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.0006、2.5対10μg/mLに関してはP=0.003、5対10μg/mLに関してはP=0.48;ICM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.004、2.5対10μg/mLに関してはP=0.01、5対10μg/mLに関してはP=0.88;対照:2.5対5μg/mLに関してはP=0.02、2.5対10μg/mLに関してはP=0.05、5対10μg/mLに関してはP=0.97)。p38(DCM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.0002、2.5対10μg/mLに関してはP=0.04、5対10μg/mLに関してはP=0.76;ICM:2.5対5μg/mLに関してはP=0.0006、2.5対10μg/mLに関してはP=0.02、5対10μg/mLに関してはP=0.41;対照:2.5対5μg/mLに関してはP=0.06、2.5対10μg/mLに関してはP=0.08、5対10μg/mLに関してはP=0.29)。(C)組換えGSTP1(5μg/ml)で処置し、免疫沈降(IP)に付したDCM、ICMおよび対照心筋組織培養からの心筋GSTP1−TRAF2複合体の代表的ウエスタンブロット画像。GSTP1およびTRAF2間のGSTP1処置心臓組織培養会合は、用量および疾患非依存性で、非処置試料と比較した場合、有意に高かった(5μg/mL GSTP1濃度に関してはP=0.02;2.5および10μg/mL GSTP1濃度に関する結果は示されていない)。* 対照に対して有意に異なる。† GSTP1 2.5μg/ml処置組織培養に対して有意に異なる。≠ GSTP1 5μg/mlおよび10μg/ml処置組織に対して有意に異なる。
【図4】TNF−αが、DCM心臓培養中でのGSTP1に対するTRAF2−JNK1/p38カスケードの感受性を阻止する、ということを示す。(A)TNF−α(50ng/ml)およびGSTP1(5μg/ml)で処置したDCM、ICMおよび対照心臓組織培養の代表的ウエスタンブロット画像および定量(B)。TNF−α活性化JNK(P=0.08)およびp38(P=0.75)カスケード、ならびにTRAF2(P=0.18)タンパク質発現は、DCM心臓組織培養中の組換えGSTP1の影響を受けなかった。ICMおよび対照では、活性JNK(P<0.001;P<0.002)、活性p38(P<0.0002;P<0.0001)およびTRAF2(P<0.001;P=0.003)タンパク質発現は、GSTP1刺激に応答して顕著に低減された。GSTP処置ICMおよびDCM心臓組織培養の比較は、DCMの場合と比較して、ICMにおいて有意に低いTRAF2、活性JNKおよびp38(†P<0.001)タンパク質発現を示す。(C)TNF−α(50ng/ml)およびGSTP1(5μg/ml)で処置した免疫沈降心臓組織溶解物の代表的ウエスタンブロット画像。ICMおよび対照心臓組織と対比して、DCM心臓組織中では、TNF−α刺激後に、GSTP1はTRAF2と会合できなかった。
【図5】(A)TNF−α(50ng/ml)およびGSTP1(10μg/ml)で処置したDCM、ICMおよび対照心臓組織培養の代表的ウエスタンブロット画像および定量(B)。(B)結果は、GSTP1(10μg/mL)およびTNF−αで処置したDCM心臓組織培養が、TNF−α処置対照と比較して、JNKおよびp38活性化を顕著に低減し、ならびにTRAF2タンパク質発現を低減した(*P<0.0001)、ということを実証する。(C)DCM心臓組織溶解物の免疫沈降物は、5mg/mlのGSTP1と比較して、10μg/mlのGSTP1でのGSTP1−TRAF2会合の有意の(P≦0.035)増大を示す。
【図6】血清および心臓GSTP1がCMPと関連する、ということを示す。(A)代表的血清タンパク質アレイ画像は、対照(EF≧65%;n=40)と比較して、末期心疾患(HF)(EF≦35%;n=40)患者における血清GSTP1タンパク質に関するCy3(緑色)およびCy5(赤色)染色増強を示す。(B)ELISA測定値は、(EF≧65%;n=40)を有する対照に対して、(EF≦35%;n=40)を有する末期HF患者における血清GSTP1濃度の有意の(*P<0.0001)上昇を示す。(C)代表的心臓組織タンパク質アレイ画像は、対照(EF≧65%;n=20)と比較して、末期HF患者(EF≦35%;n=40)における心臓GSTP1タンパク質に関するCy3(緑色)およびCy5(赤色)染色増強を示す。(D)タンパク質負荷対照レベルに関して補正された心筋GSTP1タンパク質発現の代表的ウエスタンブロット画像および定量。GSTP1タンパク質発現レベルは、対照心臓移植片組織に比して、EF≦35%を有する末期HF患者において有意に上昇した(†P≦0.001)。
【図7】駆出率(EF)との血清GSTP1およびプロBNP関連、ならびにGSTP1およびプロBNP間の相関を示す。(A)EF≦22%を示す心不全患者は、他のすべてのEF群と比較して、有意に高い血清GSTP1濃度を有する。EF33〜42%、EF23〜32%およびEF≦22%を示す患者は、EF>52%およびEF43〜52%を示すものと比較して、有意に高い血清GSTP1濃度を有する。(B)EF≦22%を示す患者は、他のすべてのEF群と比較して、有意に高い血清プロBNP濃度を有する。血清プロBNPにおける有意差は、他のすべてのEF群間には観察されなかった。(C)全試験被験体に関する血清GSTP1および血清プロBNP測定値の相関プロット。血清GSTP1およびプロBNP間に、有意の正の関係は認められなかった(r=0.47;P<0.0001)。*P<0.001 対 対照、†P<0.0001 対 EF>52%、≠P<0.0001 対 EF43〜52%、§P<0.0001 対 EF33〜42%、‖P<0.001 対 EF23〜32%。
【図8】心臓機能との血清GSTP1およびプロBNP相関を示す。(A)試験被験者における血清GSTP1およびプロBNP濃度と心臓駆出率(EF)との相関。分析は、血清プロBNP濃度(r=−0.27;P=0.0006)と比較した場合の、EFと血清GSTP1(r=−0.74;P<0.0001)とのより高い有意の負の相関を示す。(B)ROC曲線分析は、血清GSTP1に関して、≧226ng/mlの最適カットオフレベル(黒線;AUC=0.891、P<0.0001)で、81%の感受性および82%の特異性、そして≧527pg/mlの最適カットオフレベル(赤線;AUC=0.624、P=0.0039)で、血清プロBNPに関して97%の感受性および26%の特異性を示して、EF≦22%を同定する。(C)ROC曲線分析は、血清GSTP1に関して、≧76ng/mlの最適カットオフレベル(AUC=0.974、P=0.0008)で、93%の感受性および100%の特異性を示して、EF≦42%を同定する。
【図9】GSTP1が、ラット急性MIモデルにおける炎症性サイトカインを抑制することを示す。(A)ウエスタンブロットによる免疫沈降は、GSTP1処置および対照動物間のGSTP1−TRAF2複合体形成における差を明示しなかった;(B)GSTP1は、ウエスタンブロットにより分析した場合、活性化JNK1タンパク質発現レベルを低減した;(C)GSTP1は、いくつかの炎症性サイトカインの心筋組織mRNA発現を抑制する。 *;P<0.01。
【図10】GSTP1が、心不全ラットにおける炎症を改善することを示す。(A)GSTP1処置動物は、免疫沈降およびウエスタンブロット分析により示されるように、GSTP1−TRAF2、GSTP1−JNK1およびGSTP1−p38間の複合体形成の有意に高いレベルを示した;(B)活性化JNK1、p38およびFF−κBのタンパク質発現葉、ウエスタンブロット分析により示されるように、対照と比較して、GSTP1処置動物において有意に低かった;(C)GSTP1は、対照と比較した場合、心筋不全において、炎症性サイトカイン TGF−B、IL−1B、IL−2およびIL−17のmRNA発現を抑制し;そして抗炎症性サイトカインIL−10のmRNA発現を増大する。 *;P<0.001。
【図11】GSTP1が、心不全のラット虚血誘導モデルにおける心筋リモデリングを弱めることを示す。(A)ゴールドナー3色コラーゲン染色は、対照と比較して、GSTP1処置動物の心臓における有意に低い組織リモデリングを明示する;(B)左心室(梗塞)壁厚は、対照と比較して、GSTP1処置ラットにおいて有意に大きい;(C)GSTP1または対照ビヒクルで処置したラット心臓の代表的Tunel検定画像。バー=25μm;(D)GSTP1処置ラットは、対照と比較して、有意に低いアポトーシス指数を有する。 *;P<0.001。
【図12】GSTP1が、虚血誘導性心不全のラットモデルにおいて左心室機能を改善することを示す。(A)GSTP1処置ラットは、心筋梗塞後21日目に有意に高い左心室駆出率を有した;(B)左心室拡張終期容量は、GSTP1処置動物と比較して、対照において有意に大きい。 *;P<0.05。 実施例: 1.: GSTP1は心筋症(CMP)および虚血性心疾患(IHD)における炎症を改善する 患者および組織標本採取
【0046】
この試験は、ウィーン医科大学の倫理委員会により認可された。登録されるためにインフォームド・コンセントを示した70名のCMP患者の心臓組織試料(特発性拡張型心筋症(DCM)、n=35;虚血型心筋症(ICM)、n=35)を、初期アレイ分析のために用いた。次いで、2004年1月から2008年7月までの間に、合計100名のCMP患者(DCM、n=50;ICM、n=50)が含まれた。表1は、人口統計学的な、最も重要な臨床および血行動態的特性、ならびに患者の処置を要約する。全患者が、米国心臓協会判定基準に従って、最適化された心不全処置を有し、心臓移植を予定された。個々の心臓学者による心室機能、心筋生存度および標準血行動態パラメーターの評価のために、全患者が、心エコー検査、冠動脈血管造影、右心臓カテーテル処置、および磁気共鳴画像診断を受けた。病歴、臨床試験結果および処置を文書に記録し、暗号化して、心臓生検の研究者には伏せた。対照群は、その心臓が質的理由のために移植され得ない心臓疾患の病歴を有さない20名の心臓ドナーで構成された。
表1: 試験患者の人口統計学的データ、血行動態パラメーターおよび医薬剤
【表3】
ACE、アンギオテンシン変換酵素; BMI、体格指数; BSA、体表面積; DCM、拡張型心筋症; ICM、虚血型心筋症; LVEF、左心室駆出率; PAP、肺動脈圧; PCWP、肺毛細管楔入圧; PVR、肺血管抵抗。
cDNAアレイ
【0047】
ポリ(A+)−RNAを、オリゴテックス−dTキット(Qiagen, Valencia, CA)で単離して、第一鎖cDNA合成を、2μgのポリ(A+)RNA上で鳥骨髄芽細胞症ウイルス逆転写酵素(Promega, Madison, WI)を用いて実施した。DNA−RNA二重鎖内のRNA鎖を分解し、生成物をセファデックスG−50スピンカラム(Pharmacia, Uppsala, Sweden)で精製した。逆鎖プライミングのために、第一鎖cDNAを用いて、記載されたように(Schafer et al., Circulation 108 (2003), 1585‐1591)、cDNAアレイ(GEアレイQ ヒトアポトーシス遺伝子アレイ、SuperArray Bioscience, Frederick, MD)のための[α−32P]dCTP標識第二鎖cDNAを生成した。プールされたcDNAハイブリダイゼーションシグナルを、ImageQuantソフトウェア(Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)を用いて定量した。
心臓組織タンパク質アレイ
【0048】
記載されたように(Aharinejad et al., Circulation 120 (2009a), 11 Suppl: S198‐205)、抗体マイクロアレイ500(Clonetech, Mountain View, CA; 507 protein)で、タンパク質アレイを実施した。各試料中のタンパク質を2つの異なる蛍光染料で標識して、マイクロアレイ抗体被覆スライド上でインキュベートした。両スライドのタンパク質蛍光シグナルを、GenePix 4000Bスキャナ(Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)により検出した。内部正規化比率(INR)を算定して、自動化マイクロアレイ分析ワークブック(http://bioinfo.clontech.com)を用いることにより対照試料中のものに比して、CMP試料中の豊富な抗原を産生することにより、シグナルの定量を実施した。閾値間隔外のINR値を有するタンパク質は、示差的に発現されるとみなされた。
mRNA単離および定量的実時間RT−PCR
【0049】
TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、心筋生検から、全部のRNAを単離した。MagNAライザー・グリーンビーズを用いて、MagNAライザー系(Roche, Mannheim, Germany)で、6000rpmで20〜30秒間、組織を均質化した。次いで、均質化試料を200μLのクロロホルムと混合し、室温で2〜3分間インキュベートして、4℃で15分間、12000gで遠心分離した。RNAを収集し、2μgの全RNAはおよびM−MuLV−RTキット(Fermentas, St. Leon− Rot, Germany)を用いてcDNAを合成した。記載されたとおりに(Aharinejad et al., Am J Transplant. 5 (2005), 2185−2192)、LightCycler機器(Roche)で、実時間RT−PCRを実施した。プライマー配列は、センス/アンチセンス:
GSTP1: 5’−GGCAACTGAAGCCTTTTGAG−3’/5’−TCATGGATCAGCAGCAAGTC−3’;
TRAF2: 5’−GCAGAAGGTCTTGGAGATGG−3’/5’−GGTGGAGCAGCATTAAGGTC−3’;
およびβ2−マイクログロブリン: 5’−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3’/5’−CAATCCAAATGCGGCATCT−3’であった。正規化後に、以前の記載どおり(Aharinejad et al., 2009a and 2005;Pfaffl, Nucleic Acids Res. 29 (2001): e45)にハウスキーピング遺伝子β2−マイクログロブリンの発現に対してmRNA発現単位を確定し、対照に比してパーセンテージとしてCMP患者に関してプロットした。測定を3回実施した。各試料における3回のPCR測定値の平均を、データ分析のために用いた。
同時免疫沈降およびウエスタンブロット
【0050】
20mM トリス(pH7.5)、135mM NaCl、2mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2mM ジチオトレイトール(DTT)、25mM β−グリセロホスフェート、2mM ピロリン酸ナトリウム、10%グリセロール、1%トリトンX−100、1mM オルトバナジン酸ナトリウム、10mM NaFおよび1mM フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)を含有し、完全プロテアーゼ阻害薬カクテル(Roche Applied Science, Indianapolis, IN, USA)を補足した溶解緩衝液中に、記載どおり(Aharinejad et al., 2005)に4℃で、ヒト心臓組織を溶解した。溶解物を、4℃で15分間、遠心分離(15000g)した。GSTP1−TRAF2複合体形成タンパク質(500μg)を、TRAF2抗体(0.5μg、BD Pharmingen, San Diego, CA)を用いて免疫沈降させた。予備清澄化プロテインA/G PLUSアガロース・ビーズ(Santa Cruz Biotechnology)を、免疫複合体とともにさらに2時間インキュベートして、溶解緩衝液で4回洗浄した。免疫沈降物をさらにSDS−PAGEに付して、抗GSTP1モノクローナル抗体(Bethyl, Montgomery, TX)を用いてウエスタンブロット分析で統轄した。
【0051】
SDS−PAGE(10%)によりタンパク質溶解物(50μg/レーン)を分離した後、ニトロセルロース膜(Bio−Rad, Hercules, CA)上で電気泳動移動させた(Aharinejad et al., 2005)。ブロットを一次ヒトモノクローナル抗GSTP1抗体(Bethyl, Montgomery, TX)、ヒトモノクローナル抗TRAF2(BD Pharmingen, San Diego, CA)、ヒトポリクローナルホスホ−p38(Promega, Madison, WI)、ヒトポリクローナルホスホル−JNK(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、ヒトポリクローナル抗JNK(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、ヒトポリクローナル抗−p38(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)とともにインキュベートした後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役化二次抗体(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)とともにインキュベートした。タンパク質負荷をポンソS染色により査定し、化学発光により免疫検出を実施した(Supersignal−West−Pico, Pierce, Rockford, IL)。帯域をImageQuantソフトウェアにより定量し、特定タンパク質シグナルを負荷対照に対して正規化して、任意単位として表した。各試料における3回の測定の平均値を、データ分析のために用いた。
心臓組織培養実験
【0052】
対照、DCMまたはICM患者の新鮮な単離心筋(2〜3mm3)を、10%ウシ胎仔血清(Gibco, Carlsbad, CA)、50U/mlペニシリンおよび250μg/ml ストレプトマイシンを含有するDMEM(pH7.2)中で、37℃で5%CO2を含有する完全加湿空気雰囲気中(Schafer et al., 2003)でインキュベートした(100片/6ウェルプレート)。6時間後、ウェルを組換えGSTP1(2.5、5または10μg/ml;Assay Design, Ann Arbor, MC)および/またはTNF−α(50ng/ml;eBioscience, San Diego, CA)で処理した(Wu et al., 2006)。24時間インキュベーション後、培地を取り替えて、心臓組織培養溶解物を分析した。実験は、三重反復実験で実施した。
統計学的分析
【0053】
分散の規模によって(連続または無条件)、X2検定および分散の一方向分析(一方向AN−OVA;テューキー検定)により、臨床パラメーター、患者特性、GSTP1およびTRAF2のmRNA発現レベル、ならびにGSTP1、TRAF2、活性p38および活性JNKのタンパク質発現レベルを群間で比較した。統計学的分析はすべて、ウィンドウズ(登録商標)、バージョン9.1.3およびエンタープライズガイド、バージョン4.1に関するSASシステム(SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて実施した。統計学的有意をP<0.05に設定した。結果を、平均±標準偏差(SD)で表す。
結果
GSTP1およびTRAF2は不全心筋中で過剰発現される
【0054】
スクリーニング組織プロファイリングアレイは、対照個体と比較して、DCMおよびICMの両方を有する無作為選択患者において、より高い心臓GSTP1およびTRAF2遺伝子ならびにタンパク質発現レベルを同定した(図1A、1B)。スクリーニングアレイで得られた結果を立証するために、次に、試験群において、実時間RT−PCRおよびウエスタンブロットにより、GSTP1およびTRAF2の心筋発現を予測的に実験した。これらの分析は、対照と比較した場合、GSTP1(P<0.0001)およびTRAF2(P<0.0001)に関してDCMおよびICMにおける心筋mRNA発現レベルの有意の上昇を示した(図1C)。同様に、心筋タンパク質発現レベルは、対照と比較した場合、GSTP1(P<0.0001、P=0.0019)およびTRAF2(P<0.0001、P=0.005)に関して、DCMおよびICMで上昇した(図1D)。DCMおよびICMを比較した場合、GSTP1 mRNAおよびタンパク質発現に有意差は認められなかった;しかし、TRAF2 mRNA(P=0.001)およびタンパク質(P≦0.0001)発現レベルは、ICMと比較した場合、DCMにおいて有意に高かった(図1C、1D)。
JNK/p38活性化におけるGSTP1−TRAF2相互作用
【0055】
GSTP1はTRAF2と物理的に会合して、腫瘍細胞中で細胞内複合体を形成するため、この経路が不全心筋で活性であるか否かを確定した。心臓組織培養における本発明の分析は、GSTP1が、ICMおよび対照心臓においてはTRAF2と会合するが、一方、この会合はDCMにおいては有意に低い値(P<0.0001)で検出可能である、ということを示した(図2A)。TRAF2は、2つの主要MAPキナーゼ(不全心筋における炎症を媒介することが知られているJNKとp38)を活性化すると報告されているので、試験患者における活性p38およびJNKタンパク質の心筋発現を調べた。結果は、DCMおよびICMの両方において、活性JNKならびにp38の心臓タンパク質発現(P<0.0001)は、対照と比較して、有意に上方調節される、ということを示す。さらに、DCM患者は、ICMと比較して、有意に高い心臓JNKおよびp38タンパク質発現(P<0.0001)を明示した(図2B)。これらの結果は、GSTP1−TRAF2会合がDCMおよびICMにおいて示差的に調節されるということ、そしてこれがMAPK活性化に影響を及ぼし得るということを示す。
GSTP1は心臓TRAF2媒介性JNK/p38活性化を調整する
【0056】
GSTP1がTRAF2媒介性JNKおよびp38活性化を調整することを確定するために、不全心臓および対照からの心臓組織培養を、3つの異なる濃度での組換えGSTP1で処置した。結果は、DCM、ICMおよび対照から得られたGSTP1処置組織培養において、TRAF2のタンパク質発現が、非処置のものと比較して、有意に低減された、ということを示す。同様に、GSTP1処置後、活性JNKおよびp38発現は、非処置群と比較して、DCM、ICMおよび対照心臓組織において減少した。TRAF2、JNKおよびp38低減に関する適用GSTP1濃度の比較は、DCMおよびICMにおいては、2.5μg/mLおよび5μg/mLならびに10μg/mL間の差は有意であったが、しかし対照においては有意でなかった、ということを示す(図3A、3B)。
【0057】
外因的に補足されるGSTP1がGSTP1−TRAF2複合体形成に影響を及ぼすか否かを試験するために、GSTP1処置心臓組織溶解物をTRAF2抗体とともに免疫沈降させて、免疫ペレットをウエスタンブロットに付した。結果は、GSTP1処置心臓組織培養では、GSTP1およびTRAF2間の会合は用量および疾患非依存性であり、非処置試料と比較して有意に高かった(5μg/mL GSTP1濃度に関してはP=0.07)、ということを示す(図3C)。
【0058】
これらの結果は、心臓組織倍表中では、GSTP1はTRAF2タンパク質発現に影響を及ぼし、そしてGSTP1−TRAF2複合体形成を介してJNK1およびp38活性化の負の調節因子として作用する、ということを示す。
TNF−αはDCMにおいてGSTP1に対するTRAF2/JNK/p38カスケードの感受性を阻害する
【0059】
GSTP1が、不全心筋における報告されたTNF−α誘導性JNKおよびp38活性化と相互作用するか否かを確定するために、DCM、ICMおよび対照から単離された心臓組織培養を、組換えTNF−αで、その後、GSTP1(5μg/ml)で処置した。これらの実験は、TNF−α活性化JNK(P=0.08)およびp38(P=0.75)カスケードならびにTRAF2(P=0.18)タンパク質発現が、DCM心臓組織培養中の組換えGSTP1により影響を及ぼされない、ということを実証する。しかしながら、ICMおよび対照から単離された培養中では、JNK(P<0.001;P<0.002)、p38(P<0.0002;P<0.0001)およびTRAF2(P<0.001;P<0.003)タンパク質発現は、GSTP1刺激に応答して顕著に低減される(図4A)。DCM対ICM群に関して得られた相違する結果を理解するために、TNF−αおよびGSTP1で処置した心臓組織溶解物を免疫沈降指せて、免疫ペレットをウエスタンブロットに付した。これらの分析は、DCM心臓組織中ではTNF−α刺激後にGSTP1はTRAF2と会合できない、ということを示す(図4B)。しかしながら、この作用は、ICMおよび対照心臓組織中では認められなかった(図4C)。これらのデータは、5μg/ml GSTP1でのDCM心臓組織培養中では、TNF−α媒介性TRAF2はGSTP1と結合できない、ということを示す。
GSTP1は高濃度でのTNF−α処置後にTRAF2媒介性JNK1/p38下方調節を救出する
【0060】
DCMにおけるTRAF2心臓組織タンパク質発現はICMおよび対照と比較して約2倍高いということに留意し、そして上記の結果を考慮しながら、TNF−α処置後のより高いGSTP1濃度の作用を試験した。結果は、GSTP1(10μg/mL)およびTNF−α(50ng/mL)で処置したDCM心臓組織培養が、顕著に低減されたJNKおよびp38活性化を発現し、ならびに低減されたTRAF2タンパク質を発現する、ということを実証する(P<0.0001:図5A、5B)。重要なことは、DCM心臓組織溶解物の免疫沈降物が、5mg/ml GSTP1と比較して、10μg/mlでのGSTP1−TRAF2会合の有意の(P≦0.035)増大を実証する、ということである。
【0061】
これらのデータは、より高いGSTP1濃度が、GSTP1−TRAF2複合体形成によりDCMにおけるTNF−α誘導性JNKおよびp38活性化を抑制し、そしてTRAF2発現にも影響を及ぼす、ということを示す。
【0062】
本発明の実施例では、GSTP1およびTRAF2は、CMPの新規の調節物質として同定された。GSTP1およびTRAF2間の相互作用は、悪性腫瘍において以前に同定されている(Wu et al., 2006)が、しかしながら、CMPとの結びつきは以前には示唆されていない。興味深いことに、TRAF2と会合するGSTP1の能力は、TNF−α依存的に、DCMおよびICM間で異なる。CMPにおけるTNF−αシグナル伝達の前炎症性役割の壊滅は十分に確立されているが、しかし臨床試験は、逆説的に、CMPにおけるTNF−αのより複雑な役割を示した。したがって、TNF−αシグナル伝達に関連した特定経路の標的化は、CMP処置におけるより選択的なアプローチを提供し得た。TRAF2は、MAPK活性化を媒介するTNF−αシグナル伝達の中心的調節物質である。同時に、GSTP1は、TRAF2との会合によりMAPK活性化を阻止し、その結果、TNF−αシグナル伝達を抑制し得る。本発明のデータは、ICMおよび対照と比較下場合の、DCM心筋における活性JNKおよびp38の有意の上昇を示す。
【0063】
GSTP1の細胞内貯蔵に組換えGSTP1タンパク質を補給すると、MAPKシグナル伝達の抑制により全身性および局在性炎症応答を有効に抑圧することが実証された、ということは重要である。興味深いことに、この試験2置いてネイティブDCM心筋中に観察された知見と対比して、組換えGSTP1は、JNKおよびp38活性化の抑制、ならびに心臓組織培養中での総TRAF2タンパク質発現低減を誘導した。この作用は、すべてのGSTP1処置心臓細胞培養におけるGSTP1−TRAF2会合のかなりの増大を伴った。さらに、TRAF2−JNK/p38系に及ぼすGSTP1減衰の最大作用は、5μg/mlで観察されたが、さらなる濃度増大による影響は受けなかった。これらの結果は、心臓組織に関して得られたものと矛盾する。しかしながら、GSTP1処置後、活性JNK/p38およびTRAF2の発現レベルは、DCM患者からの培養中で最高であった。ICMおよび対照心臓組織培養と比較した場合の、GSTP1インキュベーション時のGSTP1−TRAF2複合体形成における差はDCMにおいては観察されなかったため、付加的因子は、CMPにおけるGSTP1−TRAF2会合の細胞内調節には関与し得なかった。心筋試料の分析により得られたデータとin vitro実験で得られたデータとの間の相違点は、ネイティブ心筋中には普通に存在するが、心臓組織培養中には存在しない可溶性の循環因子の存在により説明され得る。TNF−αはCMP患者の血清中で非常に増大し、根元的病態と密接に関連づけられるため、心臓組織培養は予備インキュベートされた後、in vitroモデルにおけるTNF−αの作用を導入するために組換えGSTP1を投与する。珍しいことに、TNF−α刺激心臓組織培養を5μg/mlのGSTP1とともにインキュベートしても、ICM心臓培養におけるGSTP1−TRAF2会合に影響を及ぼさないが、一方、DCM心臓培養中では、GSTP1−TRAF2複合体形成は完全に阻止された。さらに、活性JNK/p38ならびにTRAF2の高発現は、変化することなく、DCM心臓組織培養中で専ら観察された。これらの結果は、心筋生検の分析により得られるものと一致し、そして、DCM患者におけるGSTP1−TRAF2相互作用損傷がMAPKの活性増大を引き起こす、ということを完全に支持する。
【0064】
これらのデータは、GSTP1濃度のさらなる増大はGSTP1−TRAF2会合を回復させて、TNF−α刺激時のDCM心臓組織培養中でのJNK1およびp38活性を抑制する、ということを示す。これらの結果は、DCM病態と専ら関連するGSTP1−TRAF2結合のTNF−α誘導性減衰が高濃度のGSTP1により阻止され得る、ということを示す。さらに、ICM心臓組織培養中では、JNK1およびp38活性の両方が、用量およびTNF−α非依存的に、組換えGSTP1により抑制される、ということが実証された。これらの結果は、ICMにおけるGSTP1作用がTRAF2非依存的方法により生じ得る、ということを示す。
【0065】
要するに、これらの結果は、TNF−α/TRAF2を調整するに際してのGSTP1の新規の機能がDCMにおけるJNK1/p38活性化を引き出した、ということを示す。さらに、GSTP1−TRAF2会合は、GSTP1濃度依存的に、DCM心筋におけるTNF−α刺激により保護されるが、しかしICMまたは対照においてはそうではない。これらの知見(公開後要約:Aharinejad et al., Circulation 120 (November 2009), S905; enhancement of cardiovascular sensitivity to cyclophosphamide:Haberzettl et al., Circulation 120 (November 2009), S718も参照)は、GSTP1の高炎症作用を標的にする信頼できる、進歩的治療戦略としての本発明の機能性を示す。
2.:血清GSTP1はCMPの感受性マーカーである
患者および方法
患者
【0066】
この試験は、ウィーン医科大学の倫理委員会により認可された。患者(EF≦35%;n=40)および健常志願者(EF≧65%;n=40)の血清試料を、初期アレイ分析のために用いた。次いで、登録されるためにインフォームド・コンセントを示した合計161名の患者が、予測的に含まれた。試験群は、心臓移植を予定された141名の末期CMP患者、ならびに慣用的分離大動脈または僧帽弁手術を受けている保持的EFを有する患者20名で構成された。2名の個々の心臓学者による心室機能および標準血行動態パラメーターの評価のために、全患者が、心エコー検査、冠動脈血管造影、右心臓カテーテル処置を受けた。病歴、臨床試験結果および処置を文書に記録し、暗号化して、血清試料の研究者には伏せた。
【0067】
試験患者を、以下のように、心エコーにより査定される左心室EFに基づいた群に細分した:EF>52%;EF 52〜43%;EF 42〜33%、EF 32〜23%およびEF≦22%(Lee et al., Circulation 119 (2009) 3070‐3077)。対照群(n=20)は、男性10名および女性10名(年齢30〜61歳)(51.8±3.2歳)で構成された。
血清および心臓組織収集
【0068】
末梢静脈血試料を、CMP診断時あるいは移植直前に収集した(Aharinejad et al., Am. J. Transplant. 9 (2009b), 149−159)。血清試料を暗号化し、分析まで液体窒素中に保存した。移植患者(EF≦35%;n=40)の外植心臓の前左心室壁(LV)から、ならびに質的理由のために移植されえなかった20のドナー心臓(EF≧65%、平均年齢45±10、男性12名、女性8名)から、多数の心筋生検を得て、暗号化し、液体窒素中に瞬間凍結した。
血清および心臓組織タンパク質アレイ
【0069】
タンパク質アレイのために、移植直前に末期CMP患者から、ならびに健常志願者から、無作為選択血清試料を得て、各群のためにプールした。心臓組織タンパク質アレイに関しては、移植患者(n=40)における外植心臓およびドナー対照心臓(n=20)のLV心筋生検からの組織溶解物(Abraham et al., Circ. Res. 87 (2000), 644‐647)を用いた。メーカーのプロトコールに従って、抗体マイクロアレイ500(Clonetech, Mountain View, CA; 507 protein)で、タンパク質アレイを実施した。各試料中のタンパク質を2つの異なる蛍光染料(Cy3およびCy5)で標識して、マイクロアレイ抗体被覆スライド上でインキュベートした。両スライドのタンパク質蛍光シグナルを、GenePix 4000Bスキャナ(Molecular Dynamics, Sunnyvale, CA)により検出した。自動化マイクロアレイ分析ワークブック(http://bioinfo.clontech.com)を用いて、内部正規化比率(INR)を算定することにより、シグナルの定量を実施した。
GSTP1およびプロBNP検定
【0070】
GSTP1に関する酵素結合免疫吸着検定(ELISA)(HEPKIT(商標)−Pi、Biotrin International Ltd., Dublin, Ireland)を、メーカーのプロトコールに従って実施した。96ウェル自動マイクロプレート読取器(Anthos, Salzburg, Austria)を450nmで用いて、分光測光的に基質反応を定量した。Roche Elecsys 2010分析器での化学発光非競合的ELISA(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)により、自動的に、非希釈血清中で、N末端プロBNPを測定した。
mRNA単離および定量的実時間RT−PCR
【0071】
TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を、MagNAライザー系(Roche, Mannheim, Germany)とともに用いて、LV生検から総RNAを単離した。記載されたとおりに(Aharinejad et al., 2009b, Abraham et al., 2000)、LightCycler機器(Roche)で、実時間RT−PCRを実施した。プライマー配列は、センス/アンチセンス:
GSTP1: 5’−CCAAAGGTGGTGAGCTTCAT−3’/5’−TCTACCCAGCATGGAGGAAC−3’;
およびβ2−マイクログロブリン: 5’−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3’/5’−CAATCCAAATGCGGCATCT−3’であった。ハウスキーピング遺伝子としてのβ2−マイクログロブリンシグナルに対してGSTP1のmRNA発現レベルを正規化した(Aharinejad et al., 2009b;Abraham et al., 2000)。各試料における3回のPCR測定値の平均を、データ分析のために用いた。
ウエスタンブロット分析
【0072】
組織溶解物を調製し(Aharinejad et al., 2009b)、一次ヒトモノクローナル抗GSTP1抗体を用いて、ウエスタンブロットによりGSTP1発現を分析した(Bethyl, Montgomery, TX)。タンパク質帯域をImageQuantソフトウェアにより定量し、特定タンパク質シグナルを負荷対照に対して正規化した。各試料における3回の測定の平均値を、データ分析のために用いた。
統計学的分析
【0073】
分散の分析(一方向AN−OVA;テューキー検定)により、患者群間で、GSTP1およびプロBNP血清濃度を比較した。GSTP1およびプロBNP間の関係、ならびにGSTP1と、年齢、PAP、PCWP、PVR、心指数およびクレアチニンの関係を調べるために、スピアマンの順位相関係数(rS)を計算した。単変量ロジスティック回帰を用いて、EFの予測子としてのGSTP1およびプロBNPの有用性を記述する。対応する受信者動作特性曲線(ROC)分析を用いて、最適カットオフ値を見出した。GSTP1およびプロBNPカットオフの感受性および特異性を、表分析により算定した。統計学的分析はすべて、ウィンドウズ(登録商標)、バージョン9.1.3およびエンタープライズガイド、バージョン4.1に関するSASシステム(SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて実施した。統計学的有意をP<0.05に設定した。結果を、平均±標準偏差(SD)で表す。
結果
GSTP1はCMPと関連する
【0074】
試験患者の人口統計学的データ、臨床特性および主なCMP関連医薬剤を、表2に示す。
表2:試験患者の人口統計学的データ、臨床特性および主なCMP関連医薬剤
【表4】
DCM=拡張型心筋症; EF=左心室駆出率; ICM=虚血型心筋症; IDDM=インスリン依存性真性糖尿病; NIDDM=非インスリン依存性真性糖尿病; NYHA=ニューヨーク心臓協会; PAP=肺動脈圧; PCWP=肺毛細管楔入圧; PVR=肺血管抵抗。
【0075】
選択CMP患者におけるプール化血清試料の標的化タンパク質アレイスクリーンにおいて、GSTP1は、CMPと会合されるべき新規のタンパク質と同定された。図6Aは、GSTP1のアレイ画像を示し、そして、その血清タンパク質レベルが、健常志願者と比較した場合、CMP患者において増大される、ということを示す。これらのスクリーニング分析後、GSTP1特異的ELISAによるスクリーニング分析のために選択された同一患者コホートにおいて、血清GSTP1濃度を確定した。これらの結果は、血清GSTP1濃度が、対照試料と比較した場合、末期HF患者において有意に上方調節された、ということを示す(図6B、P≦0.001)。
【0076】
心筋GSTP1タンパク質レベルについて習得するために、血清アレイにより分析された同一末期HF患者のLV心筋試料を用いて、組織タンパク質プロファイリングを開始して、対照として供与心臓のLV心筋生検を用いた。組織プロファイリングの結果は、対照と比較した場合、末期HF患者の心筋2置いて、GSTP1発現レベルの上昇を示した(図6C)。これらの知見を実証するために、ウエスタンブロット分析を心臓組織に関して実施し、対照と比較して、末期HF患者において、GSTP1タンパク質発現レベルの有意の上方調節が見出された(P<0.001;図6D)。
GSTP1およびプロBNPとEFとの関連
【0077】
GSTP1とCMPの関連を理解するために、その血清レベルを全試験患者で分析して、これらの結果を患者のEFに関してプロットした。駆出率保持および低減間の弁別を可能にするこの型の分析を選択することにより、他のすべてのEF群と比較して、EF≦22%を有する患者において、有意に高い血清GSTP1濃度が見出された(図7A;P<0.0001)。さらに、23〜32%および33〜42%間のEFを示すCMP患者は、43〜52%または>52%のEFを示すものと比較して、有意に高いGSTP1血清濃度を有した(図7A;P<0.0001)。血清プロBNPに関する同一型の分析は、本発明の患者コホートにおいて、EF≦22%を示すものだけが、他のEF群すべてと比較した場合、有意に高い血清プロBNP濃度(P<0.0001)を示す、ということを明示したが、但し、33〜42%のEFを示す患者は除く(図7B)。他のEF群を比較した場合、循環プロBNPに関しては有意差は観察されなかった。全集団において、GSTP1およびプロBNP間に有意の正の関係が認められた(r=0.47、P<0.0001;図7C)。
CMPにおけるプロBNPと比較した場合の血清GSTP1の診断値
【0078】
血清GSTP1およびプロBNPとEFとの相関を例証するために、すべての試験患者を含めたスケーター・プロット分析を実施した(図8A)。これらの分析は、GSTP1およびEF間の有意の負の相関(r=−0.74;P<0.0001)を明示したが、これは、プロBNPおよびEF間の相関(r=−0.27;P=0.0006)より高かった。EF≦22%に関するROC曲線分析において血清GSTP1測定値を入れる場合(これは、単変量ロジスティック回帰分析においてGSTP1およびプロBNPの両方に関して優位に異なると道程された)、≧226ng/mlの最適カットオフレベルで、血清GSTP1は、EF≦22%を同定するために81%の感受性および82%の特異性を有した(AUC=0.891、P<0.0001)。≧527pg/mlのカットオフレベルでの同一型の分析は、EF≦22%を示すCMP患者を診断するために97%の感受性および26%の特異性を明示した(AUC=0.624、P=0.0039)(図8B)。次いで、高EF患者群を診断するGSTP1血清レベルの能力を、上記の単変量分析により示されたように、分析した(プロBNPは、EF>22%を示す患者群間で有意に異ならなかった)。ROC曲線分析は、≧76ng/mlの最適カットオフレベルでのGSTP1が、93%感受性および100%特異性でEF≦42%を示すCMP患者を診断する(AUC=0.974、P=0.0008)、ということを示した(図8C)。
GSTP1およびプロBNPと人口統計学的および臨床的パラメーターとの相関
【0079】
GSTP1およびプロBNPと試験患者の臨床的特性との間の関連を、表3に示す。
表3:GSTP1およびプロBNPと試験患者の臨床的変数との間のスピアマン相関分析
【表5】
EF=駆出率; PAP=肺動脈圧; PCWP=肺毛細管楔入圧; PVR=肺血管抵抗。
【0080】
血清GSTP1(r=−0.137;P=0.0241)およびプロBNP(r=0.175;P=0.259)の両方に関して、単にわずかに、しかし関連しない患者年齢との相関が、試験患者間に見出された。血清GSTP1濃度と、肺動脈圧、肺毛細管楔入圧、肺血管抵抗、血清クレアチニンレベルおよび心指数との間の有意の相関は、観察されなかった。同様に、性別および真性糖尿病との関連(P≧0.408)は、血清GSTP1およびプロBNPに関しては観察されなかった。
【0081】
証拠に基づいた管理の私用における有意の処置ギャップは、無作為臨床試験からの楽観的結果にもかかわらず、存続する。漸増的に有効な臨床ツールとしての心臓バイオマーカーの出現は、治療を首尾よく導き、疾患負荷を低減する可能性を示唆する。革新的試験は、CMPにおける診断的および予後的値の種々の新規の分子マーカーを同定してきた。プロBNPは、CMPモニタリングにおける代理のパラメーターとして一般に許容されており、さらに、臨床的ルーチン作業はCMP患者における拡散的結果を示す。したがって、本発明の試験の目的は、低減されたおよび保持されたEFの両方を有するCMP患者のモニタリングを可能にする非侵襲性および迅速応答性CMP血清マーカーを見出すことであった。本発明による標的化スクリーニングは、GSTP1が末期CMPと関連する、ということを示した。血清GSTP1濃度は、具体的には、われわれの患者コホートにおける人口統計学的および臨床的特性とは関係なく、EFとの有意の関連を示すCMPを診断した。注目すべきは、プロBNPと比較して、顕著に高い相関係数が、血清GSTP1とEFとの関連に関して示されたことである。さらに、血清GSTP1は、プロBNPと比較して、EF≦22%を有するCMP患者においてより良好な診断力を示す。さらに重要なことは、GSTP1はEF≦42%を診断したが、一方、プロBNPは出来なかったことである。
【0082】
EFがCMP患者における心臓危険性の決定因子である、ということは十分に確立されている。すべての原因死亡率に関する危険率は、45%より低いEFにおける10%毎の低減に関して39%増大した。しかしながら、CMP臨床特徴は、保持EFを有するCMPとして言及されるEF>45%を示す患者において生じ得る。したがって、GSTP1がEF≦42%を有するCMP患者を区別し得る、という本発明の知見は、重要な診断的および予後的意義を有する。プロBNPはCMP診断に関する確立されたツールであり、EFと相関するが、しかしプロBNPに関して報告された値は、全く拡散的であり、保持EFおよび低減EFを有するCMPにおいて明らかに上昇して、その限定臨床的用途を生じる。他方、プロBNPは、CMPに起因する症候を有する患者において正常EFを示すCMPの排除のために主に用いられることを推奨される。しかしながら、性別および高齢がより高いプロBNPレベルと関連することを考えると(Costello−Boerrigter et al., J. Am. Coll. Cardiol. 47 (2006), 345‐353)、プロBNPの提示された診断特性は、高齢患者における保持EFを示すCMPを識別するには非特異的過ぎるかもしれない。
【0083】
報告によれば、プロBNPは、EF<45%を有するCMP集団において、それぞれ90%および71%の感受性および特異性でEF<30%を予測し得る。他の試験は、血漿プロBNPが、EF<50%を示す患者コホートにおいて77%感受性および69%特異性でEF<28%を検出することを報告し、そして、プロBNPは、0.69の曲線下面積でEF<40%を予測し得る、ということが見出された。本発明の試験において、プロBNPは97%感受性を有したが、しかし特異性は26%に過ぎず、0.62の曲線下面積でEF≦22%を検出した。本発明の試験におけるプロBNPのより低い特異性は、他の試験と比較した場合、より低いEFを同定するためにわれわれのカットオフレベルが選択された、という事実により説明され得る。この判定基準は、EF≦22%を診断するためのGSTP1の有用性を実証するために選択された。さらに、本発明の試験は、EFに関する排除判定基準を有さず、そしてこれは、保持EFを示すCMP患者において代わることが以前に示されたプロBNPに関する試験特性に影響を及ぼしてきた。
【0084】
CMP患者における血清GSTP1増大の理由は、不明である。しかしながら、GSTP1がストレスシグナル伝達の調節に関与し、その非触媒性リガンド結合活性によるアポトーシスに対して細胞を保護するという証拠が蓄積されつつある。
【0085】
本発明の試験の結果は、GSTP1が、CMPにおいて、プロBNPより優れた感受性の、特異的な、安価な且つ迅速に測定可能な血清マーカーである、ということを示す。重要なことは、GSTP1が高感受性および特異性で保持および低減EF間を識別することであり、したがって、CMP患者における臨床試験を進行させる新規のツールとして役立ち得る。
3.:GSTP1処置に関する動物IHDおよびCMPモデル
【0086】
ヒトにおけるIHDおよびCMPの両方を模倣するモデルを有するために、ラットにおける左冠動脈の前枝の結紮のモデルが、本発明の原理をさらに立証するために選択された。このモデルでは、IHDは上記冠動脈枝の結紮後に誘導され、そして時が経つと、動物はその後、CMPを発症する。したがって、当該モデルは、IHDおよびCMPの両方の防止または処置のための示唆された本発明の効力を示すために最良に適合される。
【0087】
Aharinejad等(Cardiovasc. Res. 79 (2008), 395‐404)により発表されたプロトコールに従って、以下の実験を実施する。当該研究は、アメリカ国立衛生研究所発行の実験動物の管理と使用に関する指針(NIH Publication No. 85‐23, revised 1996)に従っており、そしてウィーン医科大学の倫理委員会により確証される。Seyedhossein Aharinejad教授(Dr., MD, PhD)は本試験の実施の設計および指示を指揮する。
【0088】
雄Sprague Daweyラット(Harlan, Borchen, Germany)を、実験のために暗号化する。心筋梗塞(MI)後の予測される血行動態的妥協、心室細動、心筋断裂および出血のため、生存動物の数は、約60〜70%と予測される。したがって、心筋梗塞を有する各群において、合計18匹の動物が含まれる。ラットは、ケタゾル(100mg/体重1kg)およびロムプン(10mg/体重1kg)の腹腔内注射で麻酔され、14ゲージカテーテルを用いて気管に挿管されて、55サイクル/分で1.5%イソフルランを通気され(1回換気量:2.5ml)、その後、左側開胸手術を受けた。左冠動脈(LCA)の前枝を、7−0ポリプロピレン係締(Ethicon, Somerville, NJ)と結紮するか、または擬似手法で無傷のままにした。MI後7日(d)目に、左心室(LV)機能を心エコーにより査定する。ついで、匹敵する基線心機能を有する動物を暗号化して、表4に示すように群1〜8に割り当てる。MI後に予測される疼痛を処置するために、MI誘導直後、ならびにMI後1日目に、動物に0.6mg/体重100gのピリトラミド(5%グルコース溶液中のジピドロール(登録商標))を皮下投与する。さらに、0.6mg/体重100gで3日間、飲料水を介して(水250ml+5%グルコース溶液20ml)、そしてMI後4〜7日目には0.3mg/体重100gで、ピリトラミドを摂取させる。
【0089】
7日目、MI誘導直後、群1〜4において、以下のように処置を開始する。群1は、毎日、リンガー溶液の腹腔内注射を2週間施され(対照)、一方、群2〜4は、毎日、10、20および40mg/体重の用量で2週間、それぞれ組換えGSTP1を注射される。21日目に、群5〜8において、以下のように処置を開始する。群5は、毎日、リンガー溶液の腹腔内注射を2週間施され(対照)、一方、群6〜8は、毎日、10、20および40mg/体重の用量で2週間、それぞれ組換えGSTP1を注射される。群9は、10匹の動物を含み、擬似手法を施される。52日目および86日目に、LV機能を再査定して、MI後88日目に、動物を屠殺する。
表4:動物群およびその処置
【表6】
bw: 体重
【表7】
【0090】
以下のパラメーターを評価する(1〜11):
1. LV駆出率(EF)、LV収縮終期容積(ESV)、LV拡張終期容積(EDV):心エコー使用
2. 心臓対体重比
3. 梗塞サイズ、梗塞壁厚および繊維症に関する組織学および免疫細胞化学知見、ならびに血管新生、炎症性タンパク質、例えばp38、junキナーゼおよびインターロイキン(炎症性経路に関する例のみを記述)
4. シグナル伝達経路
5. プロモーター結合検定
6. アポトーシス評価のためのTUNEL検定
7. 定量的RT−PCRならびにウエスタンブロット、そしてGSTP1の評価のための、ならびにその経路、TRAF、TNF−αおよびその受容体に関連した免疫沈降;MMPおよびそれらの阻害薬TIMP、VEGF−Aおよびその受容体(ここでは単なる例を記述)
8. 血清GSTP1レベルおよび関連タンパク質のELISA。
【0091】
データはすべて暗号化し、マイクロソフトACCESSを用いて保存した。変量の分析(ANOVA;t検定または非パラメーターANOVA)およびカイ二乗検定を、分析されるべきパラメーター(数字式、文字数字式、正規分布またはノット)の依存度に基づいて用いて、群間のデータを比較する。スピアマンの相関検定およびロジスティック回帰分析を用いて、評価パラメーター間の相関を査定する。SASバージョン9.1.3を、統計学的分析のために用いる。
4.:急性心筋梗塞および虚血誘導性心不全のラットモデルにおける炎症、心臓形態および機能に及ぼすGSTP1処置の作用
【0092】
以下の実験は、グルタチオンS−トランスフェラーゼP1−1(GSTP1)処置が、急性心筋梗塞後に活性化される炎症カスケードを相殺するに際して、そして、許容実験ラットモデルにおいてその結果生じる虚血誘導性心不全の過程において、有益であるか否かという原理を立証する。
材料および方法
動物および心筋梗塞モデル
【0093】
実験はすべて、ウィーン医科大学の実験動物の管理および使用委員会により認可された。総数60匹の雄Sprague Daweyラット(Harlan, Borchen, Germany)を、実験のために暗号化した。心筋梗塞後の血行動態的妥協、心室細動、心筋断裂および出血のため、匹敵する基線心機能を有する生存動物の数は、48であった。ラットを麻酔し、気管挿管して、酸素/イソフラウラン混合物を通気下後、左側開胸手術を施した。次に、左冠動脈の枝を、7−0ポリプロピレン係締(Ethicon, Somerville, NJ, USA)と結紮した。組換えGSTP1(1mg/kg:1mlのリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解;n=24)(Assay Design, Ann Arbor, MI)または1ml PBS(n=24)の腹腔内単一回用量注射を、心筋梗塞の1時間後に適用した。左心室(LV)機能を、下記のように心筋梗塞誘導後1日(n=48)および3週間(n=24)に、心エコーにより査定した。次いで、各群における総数12匹の動物を、処置1日後に屠殺し;各群の残りの12匹を、心筋梗塞誘導後3週間で屠殺した(Aharinejad et al., 2008)。
心エコー血行動態測定
【0094】
麻酔ラットにおいて、最大LV長軸長(L)および心臓内領域追跡を、15MHz線状アレイスキャンヘッドを用いて測定して、LV拡張終期(LVEDV)および収縮終期(LVESV)容積ならびに駆出率(LVEF=得るVEDV−LVESV/LVEDV)を算定した。測定は、3連続心臓終期を利用した(Aharinejad et al., 2008)。
組織学および免疫細胞化学知見
【0095】
心室を、その長軸の中点で横断した後、それらを凍結するかまたはホルマリン中に浸漬固定した。パラフィン包埋検体を、H&E、Tunnel検定ならびにゴールドナー3色コラーゲン染色のために用いた。メーカーのプロトコール(Roche Molecular Biochemicals, Basel, Switzerland)に従って、三重反復実験で、TUNEL検定(in situ細胞死検定キット)を実施した。スライドを4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes, Eugene, OR)で対比染色して、AF1 褪色防止剤(Citifluor, Leicester, UK)中に包埋した。蛍光顕微鏡(Nikon, Melville, NY)により、デジタル画像を得た。記載されたように(Aharinejad et al., 2008)、外形測定を実行した。
mRNA単離および定量的実時間RT−PCR
【0096】
TRIzol(Invitrogen, Carlsbad, CA)およびMagNAライザー系(Roche, Mannheim, Germany)を用いて、心筋組織から、総RNAを単離した(Aharinejad et al., 2008)。三重反復実験での実時間RT−PCR測定を、LightCycler機器(Roche)で実施した(Aharinejad et al., 2008)。プライマー配列は、センス/アンチセンス:
GSTP1: 5’−GGCAACTGAAGCCTTTTGAG−3’/5’−TCATGGATCAGCAGCAAGTC−3’;
主要壊死因子受容体関連因子2(TRAF2): 5’−GCAGAAGGTCTTGGAGATGG−3’/5’−GGTGGAGCAGCATTAAGGTC−3’;
およびβ2−マイクログロブリン: 5’−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3’/5’−CAATCCAAATGCGGCATCT−3’であった。mRNA発現を算定し、対照に比してパーセンテージとして処置動物に関してプロットした。
同時免疫沈降およびウエスタンブロット
【0097】
心臓組織溶解物を、記載どおりに調製した(Schafer et al., 2003)。GSTP1−TRAF2、GSTP1−JNK1およびGSTP1−p38複合体検出のために、タンパク質(500μg)を、TRAF2(BD Pharmingen, San Diego, CA)、JNK1およびp38(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)に対する対応する抗体0.5μgとともに免疫沈降させた。免疫複合体を、A/G PLUS−アガロースビーズ(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)とともにインキュベートして、GSTP1抗体(Bethyl, Montgomery, TX)を用いて、ウエスタンブロットにより沈降させた(Schafer et al., 2003)。ブロットを、一次ヒトモノクローナルGSTP1(Bethyl)およびTRAF2(BD Pharmingen)、またはポリクローナルホスホ−p38(Promega, Madison, WI)、ホスホ−JNK1、JNK1およびp38(Santa Cruz Biotechnology)抗体とともにインキュベートした後、二次抗体(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)とともにインキュベートした。実験はすべて、三重反復実験で実施し、発現レベルを対照負荷タンパク質に関して補正した。
統計学的分析
【0098】
パラメーターはすべて、分散の規模によって(連続または無条件)、X2検定および分散の一方向分析(一方向ANOVA;テューキー検定)により、群間で比較した。統計学的分析はすべて、ウィンドウズ(登録商標)、バージョン9.1.3およびエンタープライズガイド、バージョン4.1に関するSASシステム(SAS Institute, Inc., Cary, NC)を用いて実施した。統計学的有意をP<0.05に設定した。結果を、平均±標準偏差(SD)で表す。
結果
GSTP1は急性MI後の炎症性サイトカインの心筋過剰発現を改善する
【0099】
免疫沈降およびウエスタンブロット分析は、急性心筋梗塞モデルにおいて、GSTP1処置がGSTP1−TRAF2複合体の形成を変えなかった、ということを明示した(図9A)。ウエスタンブロットは、GSTP1が活性化JNK1の心臓組織タンパク質レベルを低減し得る(P<0.01;図9B)が、しかし対照と比較して、活性化p38およびNF−kBのタンパク質発現レベルに差は認められない、ということを明示した。さらに、GSTP1は、対照と比較して、炎症性サイトカイン、例えばTGF−β、IL−1β、IL−2およびIL−17の心臓組織発現を抑制した(P<0.1;図9C);しかし、IL−10発現レベルは、GSTP1処置後、有意に変化しなかった(図9C)。
GSTP1は不全心筋におけるTRAF2調節NF−kBシグナル伝達による前炎症性サイトカインの心筋発現を改善する
【0100】
免疫沈降およびウエスタンブロット分析は、GSTP1処置ラットが、対照と比較して、MI後3週目に、それらの不全心臓組織において、GSTP1−TRAF2、GSTP1−JNK1およびGSTP1−p38複合体の形成の有意の増大を示す、ということを明示した(P<0.001;図10A)。さらに、GSTP1処置ラットは、対照と比較して、それらの不全心臓組織において、活性化JNK1およびp38のタンパク質発現の有意の低減を示した(P<0.001;図10B)。さらに、GSTP1処置ラットは、対照と比較して、TGF−β、IL−1β、IL−2およびIL−17のより低い心臓組織mRNA発現を示した(P≦0.001;図10C)。これに対比して、抗炎症性サイトカインIL−10の心臓組織mRNA発現は、対照と比較して、GSTP1処置動物において有意に増大された(P<0.001;図10C)。これらの結果は、GSTP1処置が、TRAF2媒介性JNK1、p38およびNF−kB前炎症性シグナル伝達を抑制し、そして虚血誘導性心不全における心筋サイトカイン発現を改善する、ということを示す。
GSTP1はラット不全心筋におけるリモデリングを改善する
【0101】
外形測定分析は、対照ラット(1.3±0.5mm)と比較して、GSTP1処置(2.2±0.4mm)において、LV壁厚が有意に増大される、ということを明示した(図11Aおよび11B)。梗塞および梗塞周辺領域における心筋組織の救済に及ぼすGSTP1処置の作用を分析するために、TUNEL検定を実施した。これらの検定の結果は、対照動物と比較した場合、GSTP1処置した梗塞および梗塞周辺領域におけるアポトーシス事象が有意に低減する、ということを示している(図11Cおよび11D)。これらのデータは、GSTP1処置が、ラット不全心臓における心筋リモデリングならびにMI後心筋組織アポトーシスを有意に低減する、ということを示す。
GSTP1は心臓機能を改善する
【0102】
GSTP1は、虚血誘導性心不全および急性心筋梗塞のラットモデルにおける炎症および心筋リモデリングを相殺するのに有効であるということが示されたので、不全ラット心筋におけるLV機能を立証した。結果は、MI後3週目の左心室駆出率(LVEF)が、非処置群と比較した場合、GSTP1処置ラットにおいて有意に高い、ということを示した(P<0.05、図12A)。さらに、LV拡張終期容積(LVEDV)が、対照動物と比較して、MI後3週間でのGSTP1処置群において有意に改善(低減)された(P<0.05、図12B)。これらのデータは、GSTP1処置が、虚血誘導性心不全に関連したLVEFを有意に改善し、LV拡張を有意に減衰する、ということを示す。
【0103】
心不全の病態生理学における炎症伝達物質の役割については、この20年間、関心が増大しつつある。LV機能に及ぼすTNF−αの負の変力作用を、種々の実験研究が記載してきた。さらに、TNF−αがLVリモデリング、心臓肥大、ならびにアポトーシスによる進行性心筋細胞損失を促進する、ということが報告されている。心不全の設定における炎症伝達物質の病理学的役割に関する漸増的証拠は、心不全患者におけるTNF−αを標的にするよう意図された一連の多中心的臨床試験を実施させてきた。しかしながら、これらの試験の結果は、落胆させられるものであった。これらの結果の一解釈は、心臓組織のリモデリングおよび修復のためには、TNF−αのせり理学的レベルが低いことが重要である、というものであった。この主張と同時に、実験的研究は、その2つの異なる受容体TNFR1およびTNFR2による心臓組織リモデリングにおけるTNF−αの逆の役割を記載している。TNFR1はリモデリング、肥大およびアポトーシスを悪化させるが、TNFR2はこれらの事象を改善する、ということが示されてきた。しかしながら、心不全におけるTNFR2媒介性作用の機序は、依然として不明である。近年、TRAF2は、MAPK活性化を媒介するTNF−αシグナル伝達の重要な調節因子である、ということが示された。さらに、TNFR2およびTRAF2間の相互作用は、NF−κBの活性化を生じる。さらに、GSTP1は、TRAF2との相互作用を形成することによるTNF−α誘導性シグナル伝達の重要な負の調節因子である、ということが報告されている。これと一致して、GSTP1は、TRAF2とのその相互作用により間接的に、あるいはジェイNK1およびp38とのその相互作用により直接的に、悪性細胞株におけるMAPK活性化を抑制し得る。これらの結果は、GSTP1およびTRAF2が心不全患者において上方調節されるという本発明の知見とともに、GSTP1−TRAF2複合体形成が心不全の病因と関連する、ということを示す。心不全患者における組織培養実験は、TNF−αの付加はジストの抗炎症作用を抑制し得るが、しかしこの作用はGSTP1用量を増大することにより存続され得る、ということを明示した。GSTP1の抗炎症特性は、in vivoでの最新の結果により承認された。本明細書中で用いた実験モデルは、GSTP1が炎症反応を改善し、MIの誘導後の心臓リモデリングを低減し得る、ということを明示した。興味深いことに、GSTP1は前炎症伝達物質、例えばIL−1、IL−2、JNK1、p38およびNF−κBを抑圧し得るだけでなく、抗炎症性サイトカインIL−10の発現を増大し得た。さらに、本発明による結果は、GSTP1が不全心臓におけるアポトーシスに対して心臓組織を防御する、ということを明示した。これと同時に、GSTP1はTRAF2増強性アポトーシスシグナル調節性キナーゼ1(ASK1)の自己リン酸化を減衰し、したがって、TRAF2およびASK1の相互作用を抑圧することによりTRAF2−ASK1誘導性細胞アポトーシスを抑制する、ということが腫瘍学的状況で示されてきた。
【0104】
要するに、本発明は、心不全においてJNK1/p38活性化を引き出すTNF−α/TRAF2を調整する場合のGSTP1の新規の機能を提供する。GSTP1によるTNF−α/TRAF2媒介性炎症シグナル伝達の選択的抑制は、心筋症または虚血性心疾患を有する患者のための、特に心筋梗塞および心不全を有する患者のための有益な処置であることが示された本発明の動物モデルによるものであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のためのグルタチオンS−トランスフェラーゼ P1(GSTP1)。
【請求項2】
心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための医薬剤の製造のためのグルタチオンS−トランスフェラーゼ P1(GSTP1)の使用。
【請求項3】
前記心筋症が、拡張型心筋症、特にうっ血性心筋症;閉塞性肥大性心筋症、特に肥大性大動脈弁下狭窄症;その他の肥大性心筋症、特に、非閉塞性肥大性心筋症;虚血型心筋症;心内膜心筋(好酸性)疾患、特に、心内膜心筋(熱帯性)繊維症またはレフラー心内膜炎;心内膜繊維弾性症、特に先天性心筋症;その他の拘束型心筋症、特に狭窄性心筋症NOS;アルコール性心筋症、薬剤およびその他の外的作因による心筋症、非特異的心筋症、特に原発性、続発性心筋症NOS;感染性および寄生性疾患における心筋症、特にジフテリアにおける心筋症;代謝性疾患における心筋症、特に心臓アミロイドーシス;栄養性疾患における心筋症、特に栄養性心筋症NOS;心臓の痛風結節または甲状腺中毒性心疾患であることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記虚血性心疾患が、心筋梗塞により、高血圧により、または心筋炎により引き起こされることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項5】
前記心筋炎が、急性心筋炎、好ましくは感染性心筋炎、特に敗血症性心筋炎;孤立性心筋炎、細菌疾患における心筋炎、特にジフテリア性、淋菌性、髄膜炎菌性、梅毒性または結核性心筋炎;ウイルス疾患における心筋炎、特にインフルエンザ性心筋炎または流行性耳下腺炎性心筋炎;シャーガス病における急性または慢性心筋炎、トキソプラズマ症における心筋炎、リウマチ性心筋炎または類肉腫性心筋炎であることを特徴とする請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記医薬剤が非経口投与、特に腹腔内または静脈内、特に静脈内に投与されることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬剤が0.001〜100mg GSTP1/kg、好ましくは0.01〜10mg GSTP1/kg、特に0.1〜1mg GSTP1/kgの投与量で、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬剤が0.1〜10000U GSTP1/kg、好ましくは1〜1000U GSTP1/kg、特に10〜100U GSTP1/kgの投与量で、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与されることを特徴とする請求項2〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための、GSTP1、好ましくはヒト組換えGSTP1またはヒト胎盤GSTP1、および製薬上許容可能な担体を含む薬学的組成物。
【請求項10】
1〜100000U GSTP1、好ましくは10〜10000U GSTP1、特に10〜1000U GSTP1を含有することを特徴とする請求項9記載の組成物。
【請求項11】
5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.5、特に6.5〜8.0のpHを有する緩衝液、好ましくはリン酸塩緩衝液、トリス−HCl緩衝液またはHEPES緩衝液を含有する請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
心筋症の診断のためのGSTP1またはGSTP1 mRNAの使用。
【請求項13】
前記心筋症が請求項3記載の心筋症または請求項4または5記載の虚血性心疾患であることを特徴とする請求項12記載の使用。
【請求項14】
心筋症、特に請求項3記載の心筋症または請求項4または5記載の虚血性心疾患の診断方法であって、生物学的試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNAの量が決定され、そして限定された心筋炎または虚血性心疾患状態を示す生物学的試料と、特に健常個体の生物学的試料と比較されることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記生物学的試料が、ヒト血液、血漿または血清試料、あるいはヒト心筋生検試料であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
虚血性心疾患の診断のためのGSTP1またはGSTP1 mRNAの使用。
【請求項17】
有効量のGSTP1がそれを必要とする患者に投与される心筋症の処置方法。
【請求項18】
特に心筋梗塞により、高血圧症により、または心筋炎により引き起こされる場合の、虚血性心疾患の処置方法であって、有効量のGSTP1がそれを必要とする患者に投与される方法。
【請求項1】
心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のためのグルタチオンS−トランスフェラーゼ P1(GSTP1)。
【請求項2】
心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための医薬剤の製造のためのグルタチオンS−トランスフェラーゼ P1(GSTP1)の使用。
【請求項3】
前記心筋症が、拡張型心筋症、特にうっ血性心筋症;閉塞性肥大性心筋症、特に肥大性大動脈弁下狭窄症;その他の肥大性心筋症、特に、非閉塞性肥大性心筋症;虚血型心筋症;心内膜心筋(好酸性)疾患、特に、心内膜心筋(熱帯性)繊維症またはレフラー心内膜炎;心内膜繊維弾性症、特に先天性心筋症;その他の拘束型心筋症、特に狭窄性心筋症NOS;アルコール性心筋症、薬剤およびその他の外的作因による心筋症、非特異的心筋症、特に原発性、続発性心筋症NOS;感染性および寄生性疾患における心筋症、特にジフテリアにおける心筋症;代謝性疾患における心筋症、特に心臓アミロイドーシス;栄養性疾患における心筋症、特に栄養性心筋症NOS;心臓の痛風結節または甲状腺中毒性心疾患であることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記虚血性心疾患が、心筋梗塞により、高血圧により、または心筋炎により引き起こされることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項5】
前記心筋炎が、急性心筋炎、好ましくは感染性心筋炎、特に敗血症性心筋炎;孤立性心筋炎、細菌疾患における心筋炎、特にジフテリア性、淋菌性、髄膜炎菌性、梅毒性または結核性心筋炎;ウイルス疾患における心筋炎、特にインフルエンザ性心筋炎または流行性耳下腺炎性心筋炎;シャーガス病における急性または慢性心筋炎、トキソプラズマ症における心筋炎、リウマチ性心筋炎または類肉腫性心筋炎であることを特徴とする請求項4記載の使用。
【請求項6】
前記医薬剤が非経口投与、特に腹腔内または静脈内、特に静脈内に投与されることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬剤が0.001〜100mg GSTP1/kg、好ましくは0.01〜10mg GSTP1/kg、特に0.1〜1mg GSTP1/kgの投与量で、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬剤が0.1〜10000U GSTP1/kg、好ましくは1〜1000U GSTP1/kg、特に10〜100U GSTP1/kgの投与量で、好ましくは静脈内投与により、ヒト個体に投与されることを特徴とする請求項2〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
心筋症または虚血性心疾患の防止または処置のための、GSTP1、好ましくはヒト組換えGSTP1またはヒト胎盤GSTP1、および製薬上許容可能な担体を含む薬学的組成物。
【請求項10】
1〜100000U GSTP1、好ましくは10〜10000U GSTP1、特に10〜1000U GSTP1を含有することを特徴とする請求項9記載の組成物。
【請求項11】
5.5〜9.0、好ましくは6.0〜8.5、特に6.5〜8.0のpHを有する緩衝液、好ましくはリン酸塩緩衝液、トリス−HCl緩衝液またはHEPES緩衝液を含有する請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
心筋症の診断のためのGSTP1またはGSTP1 mRNAの使用。
【請求項13】
前記心筋症が請求項3記載の心筋症または請求項4または5記載の虚血性心疾患であることを特徴とする請求項12記載の使用。
【請求項14】
心筋症、特に請求項3記載の心筋症または請求項4または5記載の虚血性心疾患の診断方法であって、生物学的試料中のGSTP1またはGSTP1 mRNAの量が決定され、そして限定された心筋炎または虚血性心疾患状態を示す生物学的試料と、特に健常個体の生物学的試料と比較されることを特徴とする方法。
【請求項15】
前記生物学的試料が、ヒト血液、血漿または血清試料、あるいはヒト心筋生検試料であることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
虚血性心疾患の診断のためのGSTP1またはGSTP1 mRNAの使用。
【請求項17】
有効量のGSTP1がそれを必要とする患者に投与される心筋症の処置方法。
【請求項18】
特に心筋梗塞により、高血圧症により、または心筋炎により引き起こされる場合の、虚血性心疾患の処置方法であって、有効量のGSTP1がそれを必要とする患者に投与される方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−508426(P2013−508426A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535539(P2012−535539)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000408
【国際公開番号】WO2011/050379
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512061700)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000408
【国際公開番号】WO2011/050379
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512061700)
【Fターム(参考)】
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