説明

H5トリインフルエンザの診断および監視に有用なH5亜型特異的結合タンパク質

本発明は、トリインフルエンザウイルス(”AIV”)のH5亜型のエンベロープ糖タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体および関連する結合タンパク質を提供する。そのモノクローナル抗体および関連する結合タンパク質は、病原性H5N1亜型を含むAIVのH5亜型の検出に有用である。ウイルスを、ホルマリン保存された、パラフィンに埋め込まれた標本、ならびに凍結された標本および生物学的流体中で検出することができる。従って、本発明は危険なウイルス感染症の診断および監視のための手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トリインフルエンザウイルス(”AIV”)の検出のための抗体および関連する結合タンパク質に関する。より詳細には、本発明は、AIVの高病原性H5亜型の検出に有用なモノクローナル抗体および関連する結合タンパク質、ならびに動物およびヒトにおけるそのAIV感染症の診断および監視のための方法および製品に関する。
【背景技術】
【0002】
トリインフルエンザは鳥類における一般的な疾患である。亜型H5N1のAIVはトリインフルエンザの大発生を引き起こし、それは世界の多くの地域へと止むことなく広がりつつある(14)(参考文献一覧は開示の最後に提供する)。影響を受けた地域には、ヨーロッパ、中東および特にアジアが含まれる。世界保健機構(”WHO”)によれば、2006年4月現在で、H5N1トリインフルエンザの結果として約100件のヒトの死亡が起こっており、状況は悪化しつつあるようである。WHOのウェブサイトを参照(11)。AIVの感染はヒトでは稀であるが、種の壁(species barrier)を越えることのできる新しいAIVの亜型の出現が致命的なインフルエンザの世界的流行を引き起こした時期が過去にあった(2、8、10)。
【0003】
インフルエンザウイルスはそれらの核タンパク質およびマトリックスタンパク質の抗原特異性に従って分類される。これらのウイルスは主にA、BおよびC血清型に類別され、タイプAは8個のRNA分節を有し、それは10個のウイルスタンパク質をコードしている。全ての既知のタイプAインフルエンザウイルスは鳥類に由来する。このカテゴリーのウイルスは他の種、例えばウマ、ブタ、フクロウおよびアザラシに感染することができ、ヒトにも同様に脅威を与えている(22)。インフルエンザAウイルスはさらにエンベロープの糖タンパク質、ヘマグルチニン類(”HA類”)、H1〜H16、およびノイラミニダーゼ類(”NA類”)、N1〜N9(10、12、19)、の抗原性の性質によって亜型へと分けられる。HAタンパク質のHA1−HA2接合部におけるタンパク質分解による切断はトリの株における病原性と関連しており、この切断部位周辺の疎水性アミノ酸の存在はH5亜型に特徴的であると信じられている。加えて、HAタンパク質は宿主細胞のシアロシド受容体への付着およびそれに続く膜融合による侵入を仲介していると信じられており(17)、HAタンパク質は中和抗体のための主要な標的として機能していると考えられている(19)。
【0004】
この発明は、AIVに特異的に結合するモノクローナル抗体および関連する結合タンパク質に関する。モノクローナル抗体(”mAb類”)は、単一の抗体産生細胞に由来する実質的に均質な抗体の集団である。従って、集団における全ての抗体は同一であり、所与のエピトープに関して同じ特異性を有する(5)。mAb反応の特異性は、有効な診断用試薬のための基礎を提供する。モノクローナル抗体およびそれに由来する結合タンパク質には、治療薬としての有用性も見出される。
【0005】
AIVの感染が野生生物、家畜化された動物およびヒトにもたらす危険のため、組織標本においてウイルスを検出するための迅速、特異的かつ信頼できる方法が緊急に必要とされている。特に、保存された標本、例えばパラフィンに埋め込まれた、ホルマリンで固定された標本において、および凍結切片においてウイルスを検出する能力は、その疾患を診断しその進行を監視するための能力にとって重要である。現在まで、H5亜型モノクローナル抗体を用いる高病原性H5N1 AIV株の診断のための有効な方法の報告は存在しない。従って、本発明はH5N1および他のH5株の診断および監視における画期的躍進を表す。
【発明の概要】
【0006】
本発明に従って、H5亜型のヘマグルチニン糖タンパク質の線状および三次元(conformational)エピトープに特異的なモノクローナル抗体および関連する結合タンパク質を提供する。線状H5エピトープに対するmAb類は、変性した標本、例えばホルマリンで固定された組織標本においてH5N1ウイルスおよび他のH5亜型ウイルスを優れた特異性および感度で検出することができ、一方で三次元エピトープを標的とするmAb類は凍結された標本および他の生物学的流体におけるウイルスの検出に有用である。
【0007】
特に、7H10と名付けられたmAbはヘマグルチニンの線状エピトープを標的とし、ホルマリン固定された組織中のウイルス抗原に高い有効性および感度を示しており、一方で凍結組織切片には最小限の効力しか有しない。6B8と名付けられたmAbは三次元ヘマグルチニンエピトープを標的とし、前処理していない組織、例えば凍結組織標本ならびに他の生物学的な組織および流体においてウイルス抗原に結合、ならびにそれを認識することができる。8F10および2D10と名付けられたモノクローナル抗体も三次元ヘマグルチニンエピトープを標的とし、mAb 6B8と類似した用途を提供する。
【0008】
従って、本発明は、実質的にmAb 7H10のような線状H5亜型ヘマグルチニンエピトープへの免疫学的結合特性を有する結合タンパク質を含む。本発明はさらに、実質的にmAb 6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性のような三次元H5亜型ヘマグルチニンエピトープへの免疫学的結合特性を有する結合タンパク質を含む。
【0009】
別の観点において、本発明は、標本においてH5亜型AIVを検出するための方法であって、AIVの、実質的にmAb 7H10の免疫学的結合特性を有するmAbまたは結合タンパク質との結合を検出することを含む方法を含む。さらに別の観点において、本発明は、標本においてAIVを検出するための方法であって、AIVの、実質的にmAb 6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性を有するmAbまたは結合タンパク質との結合を検出することを含む方法を含む。特に、本発明は、その結合タンパク質を利用する免疫蛍光アッセイ、免疫組織化学的アッセイおよびELISA法に関する。
【0010】
別の観点において、本発明は、実質的にmAb 7H10またはmAb 6B8、8F10もしくは2D10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質を含むAIVの検出のためのキットに関する。
【0011】
本発明はさらに、H5 AIV株、例えばH5N1 AIV株に感染した対象を処置する方法であって、その対象に有効量の実質的にmAb 6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性を有する1種類以上のモノクローナル抗体または結合タンパク質を投与することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】90日間の期間に渡るmAbの力価の分布。図1のデータは、mAbがかなりの期間に渡って安定なままであることができたことを示す。
【図2】HIアッセイで測定した、H5亜型mAb類の、非H5亜型ウイルスおよびH5亜型ウイルスとの交差反応性。それぞれのウイルスに対する血清の抗体の力価を下記に示す:薄い影−HI活性無し、濃い影−>16。
【図3】ウエスタンブロット分析。それぞれのmAb類と、E.Coliの総細胞溶解産物中で発現させたH5N1ウイルスのHA1タンパク質との反応性。mAb類に対する対照として、RPMI 1640を用いた。
【図4】異なる組織標本におけるシグナルの強度の分布。標本はH5N1 AVIに感染したシキチョウ(Magpie Robin)であった。(シグナル/病変を図中に矢印で示す)。
【0013】
a)脳の凍結切片。組織をmAb 6B8と共に保温した。大きな強度の陽性シグナルが、多数の赤い点として観察された。神経細胞において病変が見られる。
b)脳の凍結切片。RPMI 1640をmAb 6B8に対する対照として用いた。シグナルは見られなかった。
【0014】
c)肝臓のパラフィン切片。組織をmAb 7H10と共に保温した。胆管の内皮において最小限の病変が見られた。
d)肝臓のパラフィン切片。RPMI 1640をmAb 7H10に対する対照として用いた。シグナルは見られなかった。
【0015】
e)肺のパラフィン切片。組織をmAb 7H10と共に保温した。病変は上皮組織の裏打ち(lining)においてのみ見られた。
f)肺のパラフィン切片。RPMI 1640をmAb 7H10に対する対照として用いた。シグナルは見られなかった。
【0016】
g)肺のパラフィン切片。組織をmAb 7H10と共に保温した。肺胞組織において病変が見られた。
h)肺のパラフィン切片。RPMI 1640をmAb 7H10に対する対照として用いた。シグナルは見られなかった。
【0017】
i)腎臓のパラフィン切片。組織をmAb 7H10と共に保温した。腎細胞の至る所に大量の高い強度のシグナルが分布していた。
j)腎臓のパラフィン切片。RPMI 1640をmAb 7H10に対する対照として用いた。シグナルは見られなかった。
【0018】
k)肝臓のパラフィン切片。組織をmAb 7H10と共に保温した。肝細胞において病変が見られた。
l)肝臓のパラフィン切片。RPMI 1640をmAb 7H10に対する対照として用いた。シグナルは見られなかった。
【図5】H5亜型mAb類は、2002年にさかのぼりH5N1に感染した組織からシグナルを検出することができた。
【0019】
a)イエガラスの脳組織。
b)アカガシラサギ(Pond Heron)の肺組織。
c)アオサギ(Grey Heron)の脳組織。
【0020】
d)ニワトリの脳組織。
【図6】AC−ELISA形式における捕捉および検出抗体の反応性。(a)様々なAIV亜型を、AC ELISA試験を用いて試験した。H5 AIVのみが陽性の結果をもたらす場合、この試験の特異性が示される。”N Ctrl”は、ウェルにウイルスを添加しなかった陰性対照である。(b)様々なH5 AIVをPBSで系列希釈し、AC ELISAで試験した。0.100を、陽性および陰性の結果の間のカットオフ値として用いて、AC ELISA試験で検出することのできるH5 AIVの最小量は平均しておおよそ0.5HA単位となった(7H10および6B8);
【図7】7H10に関するエピトープのマッピング。A.ヘマグルチニンタンパク質1の概略図、様々な長さのHA1断片の発現のためのクローンコンストラクトおよびそれらのMab 7H10との反応性を示す。aa、アミノ酸。B.E.coli BL21で発現させた12種類の組換え融合タンパク質のウエスタンブロット。試料は総細胞溶解産物からのものであった。M、マーカー;NC、陰性対照;HA1、完全長HA1タンパク質;A〜K、様々な断片。C.変異ヘマグルチニン1断片の概略図、HA1断片上の様々な変異体の発現のためのクローンコンストラクトおよびそれらのMab 7H10との反応性を示す。D.E.coli BL21で発現させた9種類の組み換え融合タンパク質のウエスタンブロット。試料は総細胞溶解産物からのものであった。M、マーカー;NC、陰性対照;J、Bにおける断片J。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、AIVのH5亜型のヘマグルチニンエンベロープ糖タンパク質に特異的に結合するmAb類および関連する抗原結合タンパク質に向けられている。特に、そのmAb類または関連する抗原結合タンパク質は、次のものの免疫学的結合特性を有する:2007年3月20日にアメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)(ATCC)に寄託され、受け入れ番号PTA−8243を割り当てられた、ハイブリドーマ7H10により産生されるmAb 7H10、2007年3月20日にATCCに寄託され、受け入れ番号CRL PTA−8246を割り当てられた、ハイブリドーマ6B8により産生されるmAb 6B8、2007年3月20日にATCCに寄託され、受け入れ番号PTA−8245を割り当てられた、ハイブリドーマ8F10により産生されるmAb 8F10、または2007年3月20日にATCCに寄託され、受け入れ番号PTA−8248を割り当てられた、ハイブリドーマ2D10により産生されるmAb 2D10。本発明はさらに、それらのハイブリドーマを包含し、本発明のmAb類および結合タンパク質の継続的な源を提供する。本発明はさらに、H5亜型AIVの感染の検出および診断のための方法ならびに本発明のmAb類または結合タンパク質を含むアッセイキットに関する。加えて本発明は、H5 AIV株に感染した対象の、有効量の本発明の1種類以上の抗体または関連する結合タンパク質の投与による処置の方法に関する。特に、この態様において、対象はAIVのH5N1亜型に感染している。この発明の抗体は、起こり得るインフルエンザの大発生の到来の際に予防策として対照に投与することもできる。この場合、投与される抗体の有効量は、H5 AIV感染を処置するのに用いられる量の約半分である。
【0022】
様々な用語が本明細書で用いられ、それは下記の意味を有する:
mAbまたは関連する結合タンパク質の”免疫学的結合特性”という用語は、その文法形式の全てにおいて、mAbまたは関連する結合タンパク質のその抗原に対する特異性、親和性および交叉反応性を指す。
【0023】
用語”線状エピトープ”は、抗体結合部位を形成する約4から約12アミノ酸までの連続した配列を指す。この発明のmAb類の線状エピトープは、好ましくはHA1ウイルス遺伝子によりコードされるヘマグルチニンタンパク質のおよそアミノ酸244からおよそアミノ酸251までの領域の中にある。mAbまたは結合タンパク質に結合する形の線状エピトープは、実質的に三次構造を失っている変性したタンパク質の中にあってよい。
【0024】
用語”三次元エピトープ”は、H5亜型ヘマグルチニン糖タンパク質の中に、その未変性の三次元の形で存在する、mAbまたは関連する結合タンパク質の結合部位を指す。
用語”結合タンパク質”は本発明のmAbまたは本発明のmAbの免疫学的結合特性を有するmAbの抗原結合部位を含むタンパク質を指し、下記で記述するそれらを含む。
【0025】
本発明は好都合なことに、動物をAIV亜型H5N1(PR8)で免疫することによりmAb類8F10または2D10の結合特性を有するモノクローナル抗体を調製する、動物をH5N3タンパク質で免疫することにより6B8の結合特性を有するモノクローナル抗体を調製する、動物をH5 HA1タンパク質で免疫することにより7H10の結合特性を有するモノクローナル抗体を調製するための方法を提供する。あらゆるその抗原は、望まれる免疫学的結合特性を有する抗体を生じさせるための免疫原として用いられてよい。その抗体には、mAb 7H10、6B8、8F10または2D10の抗原結合配列を含むモノクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、Fab断片、およびタンパク質が含まれるが、それらに限定されない。
【0026】
本発明のmAbは、培養中の連続継代性細胞株(continuous cell lines in culture)による抗体分子の産生を提供するあらゆる技法により産生されてよい。その方法には、元はKohlerおよびMilsteinにより開発されたハイブリドーマの技法(1975, Nature 256:495-497)、さらにトリオーマの技法、ヒトB細胞ハイブリドーマの技法(Kozbor et al., 1983, Immunology Today 4:72)、およびヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBV−ハイブリドーマの技法(Cole et al., 1985, in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)が含まれるが、それらに限定されない。ヒトの抗体を用いることができ、それはヒトのハイブリドーマを用いることにより(Cote et al., 1983, Proc. Nat ’l. Acad. Sci. U.S.A., 80:2026-2030)、または生体外でヒトB細胞をEBVウイルスを用いて形質転換することにより(Cole et al., 1985, in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, pp. 77-96)得ることができる。さらに、本発明のマウス抗体分子、例えばmAb 7H10、6B8、8F10または2D10からの配列を導入して適切な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と一緒にすることによる”キメラ抗体”または”ヒト化抗体”の産生のために開発された技法(Morrison et al., 1984, J. Bacteriol. 159-870; Neuberger et al., 1984, Nature 312:604-608; Takeda et al., 1985, Nature 314:452-454)を用いることができる。キメラ抗体は、ヒトのFc部分およびマウス(または他のヒト以外)のFv部分を含む抗体である。ヒト化抗体は、マウス(または他のヒト以外)の相補性決定領域(CDR)がヒト抗体の中に組み込まれた抗体である。キメラおよびヒト化抗体は共にモノクローナルである。そのヒトまたはヒト化キメラ抗体は、ヒトの疾患または障害の生体内診断または治療における使用に好ましい。
【0027】
本発明に従って、単鎖抗体の産生に関して記述された技法(米国特許第4,946,778号)を、本発明の単鎖抗体を提供するように適合させることができる。本発明の追加の態様は、Fab発現ライブラリーの構築に関して記述された技法(Huse et al., 1989, Science 246: 1275-1281)を利用して、本発明の抗体、またはその誘導体、もしくは類似体に望ましい特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ容易な同定を可能とする。
【0028】
抗体分子のイディオタイプを含む抗体断片は既知の技法により生成することができる。例えば、その断片は次のものを含むがそれらに限定されない:抗体分子のペプシン消化により生成することができるF(ab’)断片;F(ab’)断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成することができるFab’断片、ならびに抗体分子をパパインおよび還元剤で処理することにより生成することができるFab断片。その抗体断片は、本発明のポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれから生成することもできる。
【0029】
抗体の産生において、望ましい抗体のスクリーニングは当分野で既知の技法、例えば放射性免疫アッセイ、ELISA(酸素結合免疫吸着アッセイ)、”サンドイッチ”免疫アッセイ、免疫放射定量アッセイ、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、生体内免疫アッセイ(例えば金コロイド、酵素または放射性同位体標識を用いる)、ウェスタンブロット、沈降反応、凝集アッセイ(例えばゲル凝集アッセイ、血球凝集アッセイ)、免疫蛍光アッセイおよび免疫電気泳動アッセイ等により成し遂げることができる。1態様において、抗体の結合は一次抗体上の標識を検出することにより検出される。別の態様において、一次抗体は二次抗体または他の試薬の一次抗体への結合を検出することにより検出される。さらに別の態様において、二次抗体は標識されている。免疫アッセイにおいて結合を検出するための手段は当分野で既知であり、本発明の範囲内である。
【0030】
前述の抗体を、AIVのH5亜型の検出または位置測定に関して当分野で既知の方法、例えば、ウェスタンブロッティング、ELISA、放射性免疫アッセイ、免疫蛍光アッセイ、免疫組織化学的アッセイ、および同様のものにおいて用いることができる。本明細書で開示される技法は、AIVのH5亜型の質的および定量的測定に、ならびにそのウイルスに感染した動物またはヒトの診断および監視に用いることができる。
【0031】
本発明には、AIVのH5亜型の質的および/または定量的測定のためのアッセイおよび検査キットも含まれる。そのアッセイ系および試験キットは、例えば放射性原子、蛍光性の基または酵素を用いた標識、本発明のmAbもしくは関連する結合タンパク質への、またはその結合パートナーへの標識のカップリングにより調製される標識された構成要素を含んでいてよい。そのアッセイまたは試験キットは、さらに使用のための免疫アッセイの技法の技術者に周知の試薬、希釈剤および説明書を含んでいてよい。
【0032】
本発明の特定の態様において、そのキットは、選択された方法、例えば”競合的”、サンドウィッチ””、”DASP”および同様のものに依存して、少なくとも本発明のmAbまたは関連する結合タンパク質、生物学的試料中のAIVへのそのmAbまたは関連する結合タンパク質の免疫特異的結合の検出のための手段、および使用のための説明書を含むであろう。キットは陽性および陰性対照を含んでいてもよい。それらは自動化された分析器または自動化された免疫組織化学的スライド染色機器と共に使用されるように設計されてもよい。
【0033】
本発明のアッセイキットはさらに二次抗体または結合タンパク質を含んでいてよく、それは標識されていてよく、または固体支持体への付着のために提供されて(または固体支持体に付着させて)よい。その抗体または結合タンパク質は、例えば、AIVに結合するものであってよい。その二次抗体または結合タンパク質は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。
【0034】
H5亜型ヘマグルチニンタンパク質に対するモノクローナル抗体は、動物をAIVまたはH5タンパク質またはその断片で免疫することにより調製することができる。好ましい方法には、H5亜型HA1遺伝子の増幅とそれに続く遺伝子の発現、H5亜型組み換えタンパク質の回収および精製ならびに精製したタンパク質の免疫原としての使用が含まれる。例えば、H5N1 AIVを、ニワトリ胚にそのウイルスの利用可能な株を接種することにより増殖させ、続いてウイルスRNAを分離する。HA1遺伝子を逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)により増幅し、次いでバキュロウイルスベクターの中にクローン化することができ、それを昆虫細胞中でH5タンパク質を発現させるために用いる。そのように生成されたタンパク質を、次いでハイブリドーマの生成のためにマウスまたは他の適切な種を免疫するのに用いることができる。
【0035】
ハイブリドーマを、H5タンパク質に特異的に結合することができ、それらを他のAIV亜型から識別する高親和性mAb類を安定して産生するそれらの能力に関してスクリーニングする。本発明に従って、ウイルス中和能力を有する抗体はH5亜型ヘマグルチニンタンパク質中の三次元エピトープを認識することができることを見出した。この発見は、それぞれの中和mAbの存在下でのメイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞における1〜2回の選択の後の、ウイルス回避変異体の発生の結果であった。HA1遺伝子をこれらの中和回避変異体からRT−PCRによりクローニングし、配列決定して点変異を同定した。このグループの抗体において、mAb類6B8、8F10および2D10において3種類の中和エピトープ、すなわち1、2および3が見つかった。中和回避能力は血球凝集阻害アッセイを用いて確認した。
【0036】
HA1は338アミノ酸を含む。タンパク質上の線状エピトープの分布を研究するためには、切り詰めた(truncated)、および変異導入した断片を、mAb類との結合に関して、例えばウェスタンブロットまたは類似の技法により試験するのが好都合である。線状エピトープは、変性したH5亜型タンパク質、例えばホルマリン固定された組織において生じるH5亜型タンパク質の、免疫組織化学的染色法を用いた検出において優れた性能を示すmAb類の結合標的として同定することができる。H5亜型mAb類のこのやり方でのマッピングは、感染性H5N1 AIVのさらなる研究およびより有効な臨床診断のためのプラットホームを提供する。
【0037】
本発明はまた、AIVのH5亜型のヘマグルチニン分子の抗原構造のよりよい理解を提供した。本発明のmAb類および関連する結合タンパク質は、パラフィン中で固定された変性した組織において、さらに凍結切片および生物学的標本においてこの高病原性ウイルスを検出するための手段を提供する。
【0038】
パラフィン切片中でウイルスを検出する能力は非常に重要である。ほとんどの状況下では、感染した組織切片中のH5N1抗原は固定の過程で破壊される。ホルマリンおよびエタノールは脂質のエンベロープおよびエンベロープの糖タンパク質を、ヘマグルチニンを含めて除去する可能性を有しており、従ってウイルス抗原の検出の難度を増大させる。従って、この形の診断は、H5に感染した動物およびヒトの組織におけるより安全かつより正確な診断を提供する可能性を有する。
【0039】
下記に示す実施例により説明するように、mAb 7H10はホルマリン固定された組織中のウイルス抗原に対して非常に有効かつ感度が高いが、一方で凍結組織切片には最小限の効力しか有しない。この抗体は感染した領域を光学顕微鏡の下で容易に視認することを可能にする。抗体7H10はヘマグルチニン阻害またはウイルス中和活性を持たない;しかし、それは免疫蛍光アッセイおよびウェスタンブロット分析において陽性の結果を示し、組み換えH5N1−HAタンパク質(MW 36kDa)に対応する強いバンドが観察される。
【0040】
それに対し、mAb類6B8、8F10および2D10は凍結組織切片に対して非常に有効であるが、ホルマリン固定された組織中の抗原は検出しない。これらの結果は、2個のグループのmAbが異なるウイルスエピトープと反応していることを意味する。エピトープマッピングによって、mAb 7H10は線状エピトープを標的としていることが明らかになった。それは組織が強烈な熱処理を受けた場合にのみウイルス抗原を検出できた。そのきつい抗原回復法の下では、ウイルスの表面タンパク質は破壊され、H5N1ウイルスの核タンパク質が露出された。従って、線状エピトープを標的とするmAb類は、凍結組織切片に対しては同様には働かない。
【0041】
モノクローナル抗体6B8、8F10および2D10は、エピトープマッピングにより、H5N1ウイルスの三次元エピトープを標的としていることが明らかになった。これらの抗体は、組織切片への事前の処理無しでこれらのウイルス抗原に結合し、認識することができた。
【0042】
免疫組織化学的分析において観察された異なる組織標本での染色の強度の違いは、ウイルスの浸入(infiltration)のレベルが組織間で異なることを反映している。例えば、脳および腎組織では、個々の細胞が濃く染色され、染色された細胞の大きな分布(large distribution)も脳および腎組織に存在した。これらの発見は、肺はウイルス血症の後期において最もひどく感染した器官ではない可能性があることを示す。以前に、H5N1に感染した動物の肺における強烈な病変が報告された(2、13、14)。しかし、本発見は、肺は腎臓よりも少ない病変を有することを示している。この発明につながった実験で利用された組織標本は感染の後期における鳥類から得たものであるため、これらの結果は、肺が通常は感染の初期において高レベルのウイルス血症を有しており、後期の間にウイルスが拡散して腎臓に集中するであろうことを示唆している可能性がある。従って、これらの結果は、H5N1 AIVの感染が疑われる動物からの診断標本は肺組織だけでなく脳および腎組織も含むべきであることを示している。
【0043】
この発明は、H5亜型AIVの検出のための便利で非常に特異的かつ感度の高い手段を提供する。その手段の1つはELISA形式である。好ましい態様において、mAb 7H10および6B8が捕捉抗体として用いられる。この組み合わせは、どちらかの抗体単独または他の組み合わせと比較してH5亜型AIVの検出において高い光学密度の読みを提供することが分かっている。特定の理論に縛られるわけでは全く無いが、これらの結果のありうる説明は、2種類の抗体がHA1タンパク質上で異なるエピトープと反応し、異なる抗体のサブクラスに属し、従って多数の結合部位を提供する、というものである。
【0044】
三次元エピトープに対するモノクローナル抗体は重要な生物学的機能、例えば血球凝集の阻害および中和の活性を維持し、一方線状エピトープに対するmAb類も診断における使用に都合がよい。従って、それぞれ線状および三次元エピトープに対するものであり、抗原−抗体相互作用においてIgGおよびIgMの免疫学的特性を兼ね備えるmAb類7H10および6B8の使用は、高い感度のELISAの手順に大きく貢献する可能性がある。2種類のmAb類を用いるアプローチは、H5ウイルスを検出するための、例えばドットブロットおよびインサイチュハイブリダイゼーション形式によるような他の免疫学的方法を開発するために用いられてもよい。
【0045】
この発明の好ましいELISA検査は、H5N1トリインフルエンザウイルスに感染している中国の家禽およびベトナムのヒトからのHA抗原を検出することが可能であり、これはトリおよびヒト両方のH5N1感染症の検出に本発明が有用であることを示す。
【0046】
この発明のH5亜型mAb類は、診断の手段として他の一般に行われている方法に対して少なくとも3個の利点を有する。第1に、そのmAb類は高感染性H5亜型AIVに非常に特異的である。この特異性は、2002年から2006年までに様々な入手元から得られた、各種取り揃えたH5N1に感染した組織標本において実証された。その非常に特異的なモノクローナル抗体は、トリインフルエンザの診断の分野における画期的躍進を表す。第2に、これらのmAb類の、H5ウイルス抗原を感染したホルマリン固定された組織において、ならびに血清検査、例えばHIおよびIFAにおいて検出し、正確に位置を測定する能力は、異なる利点を表す。第3に、これらのmAb類は、H5 AIVの検出に安全かつ便利な診断アプローチを提供する。パラフィン切片中でウイルス抗原を検出するそれらの能力は、ヒトに感染させず、または感染性のウイルス粒子を環境中に放出する可能性を有しないであろう感染した標本の輸送および診断を容易にする。さらに、凍結切片のスライドは、極低温で長期間保管することができ、感染症のさらなる診断および監視を容易にする。
【0047】
本発明の別の態様は、H5トリインフルエンザの中和回避変異体に関する。用語”中和回避変異体”は、H5ウイルスにおいて抗原連続変異を引き起こし、中和エピトープに影響を及ぼす、ヘマグルチニンをコードする遺伝子における点変異により高められた(raised)変異ウイルスを指す。中和回避変異体は、その親ウイルスを中和するのに有効な特定のモノクローナル抗体による中和を逃れることができる。回避変異体の手動のスクリーニングでは、親ウイルスを特定の中和抗体と共に保温し、宿主、例えばMDCK細胞またはニワトリ胚の中に接種する。2〜3回のスクリーニングの後、その中和mAbに関する回避変異体をクローニングし、HA1遺伝子の配列決定を行う。変異したアミノ酸は親ウイルスの配列とのアラインメントにより決定され、変異した部位は中和mAbにより認識される中和エピトープを構成するアミノ酸の1個を正確に示す。
【0048】
本発明において、6B8回避変異体はH5N3 AIVから、6B8中和モノクローナル抗体により生じた。8F10回避変異体はH5N1(PR8)AIVから8F10中和抗体により生じ、2D10回避変異体はH5N1(PR8)AIVから2D10中和モノクローナル抗体により生じた。変異部位を下記の実施例3、表3で一覧にする。
【0049】
中和回避変異体は、それらが親ウイルスに特異的に結合する特定の中和抗体ではもはや認識することができない点においてそれらの親ウイルスと異なる。これゆえに、これらの変異体は上記の教えに従う新規モノクローナル抗体の産生のためにマウスを免疫するのに用いることができる。新規mAb類の中から、変異したエピトープを正確に認識するモノクローナル抗体を選別することができ、次いでそれを用いて親ウイルス以外のトリインフルエンザウイルスへの相補的監視(complementary surveillance)を提供することができる。この過程を数世代通して繰り返すことにより、さらなる回避変異体を見つけることができ、さらなる中和抗体を得ることができる。これらの抗体を本発明の方法において用いることができる。
【0050】
本発明の別の態様において、本発明の抗体および関連する結合タンパク質は、H5 AIV感染症、特にAIVのH5N1亜型からの感染症を患う対象を処置するために投与することができる。本発明の抗体および関連する結合タンパク質は、インフルエンザの世界的流行または世界的流行の前兆の場合に予防措置として対象に投与することもできる。抗体および関連する結合タンパク質は、1回量で、または繰り返しの投与で、場合により放出が遅い形で投与することができる。投与は処置される対照の体におけるその作用部位に抗体を到達させることのできるあらゆる手段により、例えば静脈内に、筋肉内に、皮内に、経口で、または鼻に、なされることができる。通常は、抗体は医薬的に許容できる希釈剤またはキャリヤー、例えば無菌の水溶液中で投与され、組成物はさらに1種類以上の安定化剤、抗原性補強剤、可溶化剤、緩衝液等を含むことができる。厳密な投与の方法、組成物および個別の投与量は、治療の時に、対象の個々の必要性に依存して、対象の年齢、体重、全身の健康、ならびに彼のまたは彼女の症状の性質および程度、さらに与える処置の頻度のような要素を考慮して決定され、調整されるであろう。一般に、抗体がH5 AIV感染症を患う患者を処置するために投与される場合、投与される抗体の投与量は、約0.1mg/kg〜約1mg/kg体重の範囲内である。通常、予防措置として投与される場合、投与量は約半分、すなわち約0.05mg/kg〜約0.5mg/kg体重の範囲内に減少する。
【0051】
本発明の単一の抗体または結合タンパク質を療法上の目的のために投与することができ、または2種類以上の組み合わせを投与することができる。もし1世代以上の中和回避変異体に対する抗体が産生された場合、その抗体および上記の6B8、8F10および/または2D10抗体を治療用抗体”カクテル”として投与することができる。
【0052】
下記の実施例を、本発明を実行する好ましいやり方を説明するために提供する。本発明は実施例の詳細に限定されるのではなく、添付した特許請求の範囲の全範囲と等しい。
【実施例】
【0053】
実施例1
ハイブリドーマの作製
H5N1/PR8と名づけられたウイルスを、疾病対策センター(米国)から得た。それは非病原性組み換えH5N1インフルエンザウイルスであり、それはベトナムでヒトに感染したAIV H5N1ウイルスのHAおよびNA遺伝子を含む(A/ベトナム/1203/2004)。別のAIV亜型、H5N3(A/ニワトリ/シンガポール/97)を、シンガポールの農産食品&家畜管理局(AVA)から得た。これらの2種類のウイルスストックを用いて9〜11日齢の発育鶏卵(Chew’s Poultry Farm,シンガポール)に感染させ、2世代複製させた。次いで発育鶏卵から尿膜腔液を吸出し、血球凝集アッセイ(HA)を用いてウイルスの力価を測定した。これらのH5N1およびH5N3ウイルスの精製を、ウイルスを含む尿膜腔液を10,000rpmで30分間遠心分離して破片を除去し、続いて上清を40,000rpmで3時間超遠心することにより実施した。ウイルスのペレットをPBS中で再懸濁した。
【0054】
モノクローナル抗体(IgGおよびIgM)を、透明になった流体から、プロテインA親和性カラム(Sigma Aldrich; St. Louis, MO, USA)およびImmunopure(登録商標) IgM purification kit(Pierce Biotechnology; Rockford, Illinois, USA)を用いて、製造者の説明書に従って精製した。IgGおよびIgMの濃度を、ND−1000分光光度計(NanoDrop Technologies; Wilmington, Delaware, USA)を用いることにより測定した。
【0055】
不活化したH5N1 AVI(A/ガチョウ/広東省/97)をRNAの入手元として用いて、エピトープマッピングのためにRT PCTによりHA1遺伝子を増幅した。ウイルスRNAをウイルスに感染した細胞から、LS Triazol試薬(Invitrogen)を用いて、製造者に指定されるように分離した。逆転写およびPCRは、H5亜型のHA1遺伝子に特異的なプライマーを用いて実施した。次いでPCR産物を標準的な手順により配列決定した。増幅したDNAをpQE−30ベクターの中にクローニングし、それを今度はE.coli BL−21コンピテント細胞の形質転換に用いた。バキュロウイルスを介したタンパク質発現のために、次いで遺伝子をpFASTBAC Taベクターの中にクローニングし、H5N1 HA1遺伝子を含む組み換えバキュロウイルスを構築した。続いてバキュロウイルスを用いて組み換えウイルスの増幅のためにSF9昆虫細胞株に感染させた。回避変異体の選択のため、H5N1 AIV(A/ベトナム/1203/2004/H5Nl)をRNAの入手元として用いた。
【0056】
次いでこれらの精製したH5亜型ウイルスまたはバキュロウイルスからの精製したH5 HA1タンパク質を用いて、6〜8週齢のメスのBALB/cマウスを、筋内で、2週間の間隔で2回免疫した。それぞれの動物に、等体積の抗原性補強剤(SEPPIC,フランス)で乳化した20〜60μgの精製したH5亜型AIVを接種した。次いで、細胞融合の3日前、マウスに同じ投与量のウイルスの腹膜内追加抗原刺激を与えた。次いでマウスからの血清をウェスタンブロットによりスクリーニングし、最も高い抗体の力価を有するマウスを細胞融合のために選択した。選択したマウスから得られた脾細胞をSP2/0ミエローマ細胞と1:10の比率で、50%ポリエチレングリコール(Sigma,分子量3350)中で混合し、細胞を融合させてハイブリドーマを作製した(21)。
【0057】
生ウイルスを用いた全ての実験は、微生物学的および生物医学的実験室における生物学的安全性(Biosafety in Microbiological and Biomedical Laboratories)(BMBL)第4版において指定されるCDC/NIHの生物学的安全性要件を満たした生物学的安全性レベル3の封じ込め実験室(20)中で実施した。実験は適切なWHO要件、ならびにシンガポールのAVAおよび保健省(Ministry of Health)(MOH)により認可された要件も満たした。
【0058】
実施例2
ハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマの培養上清を、下記のように血球凝集阻害(HI)試験および免疫蛍光アッセイ(IFA)によりスクリーニングした。
【0059】
血球凝集阻害試験。CDCから得たH5N1/PR8ウイルスを用いて9〜11日齢の発育鶏卵(Chew’s Poultry Farm,シンガポール)に感染させ、35℃で72〜96時間保温した。ウイルスの増殖の後、ニワトリ胚から尿膜腔液を採取し、H5N1ウイルス抗原として用いた。それぞれのハイブリドーマの培養上清を、凝集反応のためにニワトリ赤血球を、およびH5N1/PR8ウイルス株の4血球凝集単位を用いて、以前に記述されたようにして(15)HI試験を行った。ハイブリドーマの上清の系列希釈液をまず1:50に希釈し、次いでこれをウェルあたり4HA単位のニワトリ胚で増殖させたH5N1/PR8ウイルス(0.1%ベータ−プロピオラクトンで不活化した)およびニワトリ赤血球の0.5%(体積/体積)懸濁液と共に保温した。血球凝集を阻害した最も高い希釈度の逆数に相当する抗体の力価を、幾何平均力価(GMT)として表した。
【0060】
免疫蛍光アッセイ:96ウェルプレートで24時間増殖させたメイディン・ダービー・イヌ腎臓細胞(MDCK)細胞に、それぞれの尿膜腔液からのH5N1/PR8、H5N2およびH5N3ウイルスを感染させた。別の列のウェルを陰性対照(感染していないMDCK細胞)に用いた。96ウェルプレートを、加湿した35℃、5%COのインキュベーター中に18〜22時間置いた。感染した細胞が75%の細胞変性作用(CPE)に達したら、それらを100μlの無水エタノールで10分間室温で固定した。次いで96ウェルプレート中の細胞をPBS、pH7.4で3回洗浄した。続いて、固定した細胞を50μlのそれぞれのハイブリドーマの上清と共に1時間、37℃で保温した。3回洗浄した後、抗原をフルオレセインイソチオシアネート(FITC)−コンジュゲート抗マウスIg(1:100 DAKO,デンマーク)と共に、37℃で1時間保温した。IFAによりmAb類をスクリーニングするより識別力のある方法のため、追加の対照を用いた。前述したように、感染していないMDCK細胞を陰性対照として用いた。追加の陰性対照として、細胞をRPMI1640と共に保温した。陽性対照として、100倍希釈した免疫したマウスからの血清を用いた。それぞれのハイブリドーマの上清と共に保温したMDCK細胞を異なる対照と比較することにより、陽性の染色結果を与えたハイブリドーマの上清を限界希釈によるクローニングのために選択した。安定なmAb産生ハイブリドーマをこの手順により得た。
【0061】
実施例3
H5亜型モノクローナル抗体の特性づけ
mAb類の安定性。血球凝集阻害試験を、異なる期間(7、30、45、60、70、および90日目)において得たそれぞれのハイブリドーマの上清について実施し、細胞株の安定性を評価した。希釈を行ってエンドポイントを算出した。mAb 6B8のハイブリドーマの上清は、HI力価29を有していた。その力価は90日目においてさえも安定なままであった(図1参照)。このように、H5抗原に対するmAbを分泌するハイブリドーマクローンは、長期間の間高い力価の値を維持することができた。
【0062】
mAbのアイソタイプ同定
mouse mAb isotyping kit(Amersham Bioscience,イギリス)を用いてアイソタイプ同定を実施した。(データは示していない。)6B8、8F10および2D10のアイソタイプはIgMであると決定され、7H10はIgG1であると決定された。
【0063】
mAb類の特異性の分析。H5亜型mAb類は、関連するH5亜型、AIV H5N2およびH5N3と、ならびに非H5亜型インフルエンザウイルス、H3N2、H4N1、H7N1、H9N2およびH10N5とも交叉反応した。HI試験を用いて交叉反応性を試験した。図2に図説する結果は、H5亜型mAb類が非H5亜型ウイルスH3N2、H4N1、H7N1、H9N2およびH10N5にさらされた際に交叉反応が無かったことを示した。mAb類6B8、2D10および8F10はH5N2およびH5N3との交叉反応性を有していた。表1は、それぞれのH5亜型mAb類の凍結された、およびホルマリン固定された組織に対する有効性を示す。表1では、感染した組織において観察されたシグナルの強度に、次のように半定量的な点数を割り当てた:無し(−)、弱い(+)、中程度(++)、強い(+++)および非常に強い(++++)。RPMI1640を、H5亜型mAb類に関する対象として用い、ニューカッスル病に感染したニワトリ組織をH5N1に感染した組織に関する対象として用いた。他の入手元からのAIおよびH5mAb類を、本発明のH5亜型mAb類に対する比較のために用いた。
【0064】
表1
【0065】
【表1】

【0066】
下記で論じる免疫組織化学的染色は、これらのH5亜型mAb類のH5N AIVに対する特異性をさらに確証した。
mAb類のウイルス中和。MDCK細胞および10日齢の胚を、それぞれ50%組織培養感染量(TCID50)および50%胚感染量(EID50)の測定のために用いた。MDCK細胞(2x10/ml)を、70%〜90%コンフルエンスまで増殖させた。それぞれのウイルスに感染した尿膜腔液を、10−1から10−8までの一連の希釈比を用いて、それらの対数期(ウイルス感染への感受性が最も高い)におけるMDCK細胞および10日齢のニワトリ胚の両方に感染させることで、TCID50およびEID50に関して試験した。感染していないMDCK細胞および尿膜腔液を陰性対照として用いた。細胞を35℃で培養し、CPEを観察した。ReedおよびMuenchの数学的技法(9)を用いて、感染価をTCID50/100μlおよび1000EID50/200μlとして表し、それぞれのウイルスを、それぞれ50μlおよび100μl中に100TCID50および500EID50を有するようにそれぞれ希釈した。系列希釈したmAb 6B8は、感染したMDCK細胞および胚中で終濃度100TCID50および500EID50のウイルスを中和することができた。表2参照。表2に示したデータは、mAb 6B8がH5N1ウイルスを中和する活性を生み出すことができたことも示している。表2における数は、感染したMDCK細胞および胚中でウイルスの終濃度100TCID50および500EID50において、mAb類がウイルスをなお検出および中和することができた最も高いH5N1ウイルスの希釈率を表している。
【0067】
表2
【0068】
【表2】

【0069】
回避変異体の選択。親ウイルスの10倍系列希釈液を等体積のmAbと混合した。室温で1時間保温した後、混合物を200μg/mlのTPCK処理トリプシン(Sigma)および0.001% DEAE−デキストラン(Sigma)を含むDMEM培地中のMDCK細胞の単層の上に接種した。35℃において7日間の後、ウイルス上清を集めてさらなる選択を行った。回避変異体の選択のため、H5N1 AIV(A/ベトナム/1203/2004/H5N1)をRNAの入手元として用いた。回避変異体をクローニングし、親の配列と比較した。回避変異体を、中和mAb 6B8を用いて選択した。mAb 6B8の中和に対する耐性の原因である点変異は、HA1配列上のヌクレオチド614において生じていることが明らかになった。変異はヌクレオチド614の”A”から”C”への変化を伴っており、それは結果としてアミノ酸205のリシンからスレオニンへの変異をもたらす。変異ウイルスがmAb 6B8の中和を回避することを可能にするこの変異の能力を、中和アッセイおよびヘマグルチニン阻害アッセイにより実証した。この結果は、mAb 6B8がヘマグルチニン上のアミノ酸205を含むエピトープを標的としていることを示した。他の2種類の中和エピトープがmAb類8F10および2D10に関して、それぞれ同じ方法により同定された。結果を表3に示し、それはAIV(A/ベトナム/1203/2004/H5N1)のヘマグルチニン分子上のmAb中和エピトープの位置を示す。
【0070】
表3
【0071】
【表3】

【0072】
ウェスタンブロット。組み換えH5N1−HA1タンパク質を10%SDS−PAGE処理した。分離したタンパク質をニトロセルロース紙に固定した。膜をTween−20を含むPBS中の5%脱脂乳で1時間ブロッキングした。PBS−Tweenで3回、それぞれ5分間洗浄した後、膜をそれぞれのmAb類、続いてHRP−コンジュゲートウサギ抗マウスIg(1:2000)と共に保温した。次いで膜を3,3’−ジアミノベンジジン(DAB)で5分間現像した。PBS−Tweenですすいで反応を停止した。それぞれの保温の後、試薬をPBS−Tweenで3回、それぞれ5分間洗浄した。後者は精製した組み換えHA1に由来するため、mAb 7H10を陽性対照として用い、一方でRPMI1640を陰性対照として用いた。図3に図説するように、H5亜型MAb 7H10は組み替えH5N1−HA1タンパク質と反応することができる。ニトロセルロース膜上に形成されたバンドは36kDaであった。これは組み替えタンパク質の分子量と等しい。一方、mAb類6B8、8F10、2D10およびRPMI1640は陰性の結果を与えた。6B8および他のmAb類はその未変性の形のウイルスタンパク質を標的とするため、このグループのmAb類はウェスタンブロットではウイルスタンパク質を検出できないであろう。ウェスタンブロットで用いられるSDS−PAGEは未変性のタンパク質の折りたたみをほどき(unfold)、それらを線状にし、従って検出を不可能にするであろう。
【0073】
実施例4
mAb 7H10の線状エピトープのマッピング
H5亜型AIVのHA1遺伝子をPCRにより3種類の重なり合う断片に切り分け、ヒスチジン融合タンパク質として発現させた。mAb 7H10を用いたウェスタンブロットによる分析は、そのエピトープが主に断片BおよびCの重なり合う領域(アミノ酸201〜266)中に見出されることを明らかにした。このエピトープのC末端の位置を決定するため、8種類の切り詰めた断片を設計し、mAb 7H10を用いてウェスタンブロットによりスクリーニングした(図7aおよびb)。HA1上のアミノ酸251が7H10に関するエピトープのC末端のアミノ酸であることが分かった。このエピトープのN末端の位置を決定するため、8種類の変異導入した断片を設計し、mAb 7H10を用いてスクリーニングした。8種類の変異体の間で、HA1上のアミノ酸240〜247を特定のプライマーにより個別にアラニンへと変更した。ウェスタンブロットの結果によると、エピトープ中のN末端のアミノ酸はHA1上のアミノ酸244である(図7cおよびd)。これらの結果は、Mab 7H10により標的とされる線状エピトープがH5亜型AIVのヘマグルチニン上のアミノ酸244〜251(244および251を含む)に位置していることを示した。
【0074】
実施例5
免疫組織化学
2002〜2006年からの30個のH5N1に感染した組織標本を試験した。それらは様々なタイプの組織、器官、例えば脳、腎臓、肝臓、肺および膵臓を含んでいた。それらはパラフィン切片にされた標本または凍結切片のどちらかの形であった。商業的に入手できる免疫ペルオキシダーゼ染色系(Dako Cytomation EnVision + System−HRP (AEC))を、これらの標本に用いた。染色技法は、二次抗体とコンジュゲートしたホースラディッシュペルオキシダーゼ標識ポリマーに基づいた、結合した抗体(20)を認識するための2個の工程を含んでいる(16)。このキットはアビジンまたはビオチンを含んでいないため、非特異的内因性アビジン−ビオチン活性はかなり軽減される。
【0075】
パラフィン切片。パラフィン切片にした標本の染色の結果を図4に示す。非常に強い陽性シグナルが、感染した腎組織において観察された。腎組織の至る所にシグナルの広い分布が見られ、それぞれのシグナルが非常に高い強度を有していた。逆に、肺は分布および強度の点でそのような強いシグナルを示さなかった。肺組織の上皮の裏打ちのみがかすかに染色された。肝組織に関しては、シグナルは散在して分布していた。しかし、検出されたそれぞれのシグナルは強かった。感染した肝組織に関して、シグナルが通常は胆管の上皮に沿って検出されたことにも注意すべきである。より綿密な実験では、胆管は吸虫類に感染していることが観察された。これらの結果は、mAb 7H10がH5N1に感染したホルマリン固定された組織からH5抗原を見つけ出す(retrieve)ことのできるH5亜型AIVモノクローナル抗体であることを示している。
【0076】
凍結切片。凍結切片にした標本の染色の結果を図5に示す。抗体6B8は様々な年からの全ての標本において強い陽性シグナルを検出することができた。これらの染色された組織の顕微鏡写真は、染色されたのがこれらの感染した脳組織の神経細胞であったことを明確に示している。凍結およびパラフィン切片の両方に関して、組織のタイプに関わらず組織の中で核のみが染色されたことがはっきりと見えた。H5N1ウイルスに感染した鳥類の主な病変(20)は腎および脳組織であった。上記の表1のデータは、H5亜型AIVを他の源からのトリインフルエンザと識別する本発明のmAb類の能力を示している。
【0077】
実施例6
AC−ELISAの発展
モノクローナル抗体7H10および6B8を、次のようなELISAの手順で評価した:6B8(IgM)を半対数増加(half−log increments)で系列希釈し、96ウェル平底マイクロタイタープレート(Nunc, Demark)をコートするのに用いた。捕捉抗体を50μlの炭酸緩衝液(73mM炭酸水素ナトリウムおよび30mM炭酸ナトリウム)に懸濁した。次いでマイクロタイタープレートを37℃で1時間、または4℃で一夜保温した。全ての続く保温工程の間にプレートを0.05%Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(PBS−T)で3回洗浄し、全ての希釈液は1%脱脂乳を含むPBST中で作った。プレートを50μlのブロッキング溶液(PBS−T中5%脱脂乳)と共に37℃で1時間保温してブロッキングし、すすいで50μlの精製した組み換えH5N1組み換えHA1(100ng)またはH5 AIVと共に37℃で1時間保温した。すすいだ後、50μlのモルモット単一特異性抗体IgG(1:480で希釈)を添加し、37℃で1時間保温し、洗浄し、50μlの1:1000に希釈したHRPコンジュゲートウサギ抗モルモット免疫グロブリンと共に保温した。50μlの新しく調製した基質溶液(o−フェニレンジアミン(OPD))の添加により色を現し、ELISAリーダー(Tecan,スイス)で490nmの吸光度を読み取った。mAb類および単一特異性抗体の最適な実用希釈度は、交差力価測定により決定した。H5 AIV(H5N1、H5N2、H5N3)および非H5 AIV(H7N1およびH9N2)の反応を比較することにより最適化の条件を決定し、このアッセイに関する最も高いシグナル対ノイズ比を得た。シグナル対ノイズ比は対応抗原の吸光度を異種抗原の吸光度で割ることにより算出される。
【0078】
モノクローナル抗体6B8は、AC−ELISAにおいて捕捉抗体として、および検出抗体としても用いられた。モノクローナル抗体6B8は、ELISAにおいて他のモノクローナル抗体よりも強い反応性を示した。6B8によるそのAC−ELISAは、特にH5亜型AIVの検出に適用でき、他のいずれのAIV亜型とも反応しない(図6a)。AC−ELISAの検出限界は0.5HA単位未満である(図6b)。交差力価測定の後、捕捉ELISAのための最適抗体濃度は捕捉抗体としてのそれぞれのmAbにつきウェルあたり600ng、およびウェルあたり800ngの検出ポリクローナル抗体であると決定された。
【0079】
参考文献
【0080】
【化1】

【0081】
【化2】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図4F】

【図4G】

【図4H】

【図4I】

【図4J】

【図4K】

【図4L】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の線状エピトープに特異的に結合する結合タンパク質であって、実質的にモノクローナル抗体7H10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の結合タンパク質であって、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗体断片、キメラ抗体またはヒト化抗体である結合タンパク質。
【請求項3】
請求項1に記載の結合タンパク質であって、モノクローナル抗体である結合タンパク質。
【請求項4】
アメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8243で寄託されたハイブリドーマ7H10により産生されるモノクローナル抗体7H10。
【請求項5】
トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の三次元エピトープに特異的に結合する結合タンパク質であって、実質的にモノクローナル抗体6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質。
【請求項6】
請求項5に記載の結合タンパク質であって、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗体断片、キメラ抗体またはヒト化抗体である結合タンパク質。
【請求項7】
請求項5に記載の結合タンパク質であって、モノクローナル抗体である結合タンパク質。
【請求項8】
アメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8246で寄託されたハイブリドーマ6B8により産生されるモノクローナル抗体6B8。
【請求項9】
アメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8245で寄託されたハイブリドーマ8F10により産生されるモノクローナル抗体8F10。
【請求項10】
アメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8248で寄託されたハイブリドーマ2D10により産生されるモノクローナル抗体2D10。
【請求項11】
生物学的標本においてH5亜型トリインフルエンザウイルスを検出するための方法であって、標本を、トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の線状エピトープに特異的に結合する、実質的にモノクローナル抗体7H10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質と接触させることを含む方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体、単鎖抗体、抗体断片、キメラ抗体またはヒト化抗体である方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体である方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、モノクローナル抗体がアメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8243で寄託されたハイブリドーマ7H10により産生される抗体7H10である方法。
【請求項15】
生物学的標本においてH5亜型トリインフルエンザウイルスを検出するための方法であって、標本を、トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の三次元エピトープに特異的に結合する、実質的にモノクローナル抗体6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質と接触させることを含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体、単鎖抗体、抗体断片、キメラ抗体またはヒト化抗体である方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体である方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、モノクローナル抗体がアメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8246で寄託されたハイブリドーマ6B8により産生される抗体6B8である方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、モノクローナル抗体がアメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8245で寄託されたハイブリドーマ8F10により産生される抗体8F10である方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法であって、モノクローナル抗体がアメリカ培養細胞系統保存機関に受け入れ番号PTA−8248で寄託されたハイブリドーマ2D10により産生される抗体2D10である方法。
【請求項21】
請求項15に記載の方法であって、標本をトリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質に特異的に結合する第2の結合タンパク質と接触させることを含み、第1の結合タンパク質が捕捉結合タンパク質であり、第2の結合タンパク質が、検出可能な要素を含む、またはそれにコンジュゲートした検出結合タンパク質である方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、第1および第2結合タンパク質の少なくとも一方がモノクローナル抗体である方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、第1および第2結合タンパク質がモノクローナル抗体である方法。
【請求項24】
請求項21に記載の方法であって、第1結合タンパク質が固体表面に固定される方法。
【請求項25】
請求項21に記載の方法であって、第2結合タンパク質が放射性原子を含む、蛍光性の分子にコンジュゲートしている、または酵素にコンジュゲートしている方法。
【請求項26】
生物学的標本においてH5亜型トリインフルエンザウイルスを検出するためのキットであって、トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の線状エピトープに特異的に結合する、実質的にモノクローナル抗体7H10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質を、その結合タンパク質のそのエンベロープ糖タンパク質への結合を検出するための試薬と共に含むキット。
【請求項27】
生物学的標本においてH5亜型トリインフルエンザウイルスを検出するためのキットであって、トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の三次元エピトープに特異的に結合する、実質的にモノクローナル抗体6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質を、その結合タンパク質のそのエンベロープ糖タンパク質への結合を検出するための試薬と共に含むキット。
【請求項28】
請求項26または27のキットであって、トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質に特異的に結合する第2の結合タンパク質を含み、第1の結合タンパク質が捕捉結合タンパク質であり、第2の結合タンパク質が、検出可能な要素を含む、またはそれにコンジュゲートした検出結合タンパク質であるキット。
【請求項29】
請求項28に記載のキットであって、第1および第2結合タンパク質の少なくとも一方がモノクローナル抗体であるキット。
【請求項30】
請求項28に記載のキットであって、第1および第2結合タンパク質がモノクローナル抗体であるキット。
【請求項31】
請求項28に記載のキットであって、第1結合タンパク質が固体表面に固定されるキット。
【請求項32】
請求項28に記載のキットであって、第2結合タンパク質が放射性原子を含む、蛍光性の分子にコンジュゲートしている、または酵素にコンジュゲートしているキット。
【請求項33】
H5亜型トリインフルエンザウイルスに感染した固定された組織標本を、有効量の結合タンパク質で処理する方法であって、それがトリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の線状エピトープに特異的に結合し、実質的にモノクローナル抗体7H10の免疫学的結合特性を有する方法。
【請求項34】
請求項36に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体、単鎖抗体、抗体断片、キメラ抗体またはヒト化抗体である方法。
【請求項35】
請求項36に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体である方法。
【請求項36】
請求項36に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体7H10である方法。
【請求項37】
H5亜型トリインフルエンザウイルスに感染した対象を処理する方法であって、その対照に有効量の、トリインフルエンザウイルスのH5亜型のエンベロープ糖タンパク質の三次元エピトープに特異的に結合し、実質的にモノクローナル抗体6B8、8F10または2D10の免疫学的結合特性を有する結合タンパク質を投与することを含む方法。
【請求項38】
請求項40に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体、単鎖抗体、抗体断片、キメラ抗体またはヒト化抗体である方法。
【請求項39】
請求項40に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体である方法。
【請求項40】
請求項40に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体6B8である方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体8F10である方法。
【請求項42】
請求項40に記載の方法であって、結合タンパク質がモノクローナル抗体2D10である方法。
【請求項43】
トリインフルエンザウイルスH5N3株の中和回避変異体であって、モノクローナル抗体6B8により認識されるその株のHA配列のエピトープの内部に、変異ウイルスをその抗体により中和できなくなるような変異を含む中和回避変異体。
【請求項44】
請求項43の中和回避変異体であって、その変異がアミノ酸205におけるものである中和回避変異体。
【請求項45】
トリインフルエンザウイルスH5N1(PR8)株の中和回避変異体であって、モノクローナル抗体8F10により認識されるその株のHA配列のエピトープの内部に、変異ウイルスをその抗体により中和できなくなるような変異を含む中和回避変異体。
【請求項46】
請求項45の中和回避変異体であって、その変異がアミノ酸210におけるものである中和回避変異体。
【請求項47】
トリインフルエンザウイルスH5N1(PR8)株の中和回避変異体であって、モノクローナル抗体2D10により認識されるその株のHA配列のエピトープの内部に、変異ウイルスをその抗体により中和できなくなるような変異を含む中和回避変異体。
【請求項48】
請求項47の中和回避変異体であって、その変異がアミノ酸175におけるものである中和回避変異体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−526880(P2010−526880A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508341(P2010−508341)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000134
【国際公開番号】WO2008/140415
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509312422)テマセック・ライフ・サイエンシズ・ラボラトリー・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】