説明

H5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体

【課題】 A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができる抗体を提供する。
【解決手段】 受託番号FERM BP−11229として寄託されたハイブリドーマ、または受託番号FERM BP−11230として寄託されたハイブリドーマから産生されることを特徴とする、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができるモノクローナル抗体、およびかかる抗体を用いた、H5亜型インフルエンザウイルスの検出方法およびそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、核タンパク質(NP)と膜タンパク質(M)の抗原性の違いによりA型、B型、およびC型に分類され、特にA型インフルエンザウイルスは、さらに、ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)のアミノ酸配列または抗原性の違いにより、複数の亜型に分類される。
【0003】
A型インフルエンザウイルスとしては、ヒトのインフルエンザである季節性インフルエンザウイルス、および鳥類のインフルエンザである鳥インフルエンザウイルスが挙げられる。鳥インフルエンザウイルスには、いくつかの亜型が存在する。このうちH5亜型のインフルエンザウイルスは、「高病原性インフルエンザウイルス」と呼ばれる亜型であり、ヒトでの感染の拡大が危惧されている。
【0004】
現在、臨床で行われているインフルエンザの免疫学的診断方法は、A型の亜型全てを検出するものである(非特許文献1〜12)。そのため、ヒトがインフルエンザの徴候を示した場合、それが高病原性鳥インフルエンザウイルスによるものであるか、あるいは季節性インフルエンザウイルスによるものであるかを免疫学的診断方法によって区別することは不可能であり、時間と手間のかかる遺伝子検査によって両者を区別している。したがって、高病原性鳥インフルエンザウイルスを迅速に型別診断する方法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】池松秀之 他:感染症学雑誌.73:1153−1158,1999
【非特許文献2】後藤郁男 他:臨床とウイルス.28:248−252,2000
【非特許文献3】山崎雅彦 他:感染症学雑誌.73:1064−1068,1999
【非特許文献4】三田村敬子 他:感染症学雑誌.73:1069−1073,1999
【非特許文献5】渡邊寿美 他:感染症学雑誌.73:1199−1204,1999
【非特許文献6】山崎雅彦 他:感染症学雑誌.74:1032−1037,1999
【非特許文献7】清水英明 他:感染症学雑誌.74:1038−1043,1999
【非特許文献8】三田村敬子 他:感染症学雑誌.74:12−16,2000
【非特許文献9】川上千春 他:感染症学雑誌.75:792−799,2001
【非特許文献10】山崎雅彦 他:感染症学雑誌.75: 1047−1053,2001
【非特許文献11】三田村敬子 他:インフルエンザ.3:105−109,2002
【非特許文献12】奥野良信 他:医学と薬学.48:895−904,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができる抗体を得ること、およびかかる抗体を利用した、H5亜型インフルエンザウイルスの特異的、迅速かつ簡便な検出方法およびそのためのキットを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができる抗HAモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製に成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)の構成を有する。
(1)受託番号FERM BP−11229として寄託されたハイブリドーマ、または受託番号FERM BP−11230として寄託されたハイブリドーマから産生されることを特徴とする、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体。
(2)試料中のH5亜型インフルエンザウイルスを検出する方法であって、H5亜型インフルエンザウイルスの検出が、(1)に記載の抗体を使用することによって行われることを特徴とする方法。
(3)方法が、担体固定要素に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス一次抗体、および標識に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス二次抗体のうちの少なくとも一方を、請求項1に記載の抗体を使用して調製し、試料を一次抗体、二次抗体および担体と接触させて、一次抗体と二次抗体の間に試料中のH5亜型インフルエンザウイルスが狭持されかつ一次抗体が担体固定要素を介して担体に固定された構造を形成させ、次にこの構造中の二次抗体の標識を検出することを含むことを特徴とする(2)に記載の方法。
(4)一次抗体および二次抗体のいずれか一方が、(1)に記載の抗体を使用して調製され、他方が受託番号FERM BP−10903として寄託されたハイブリドーマから産生される抗体を使用して調製されることを特徴とする(3)に記載の方法。
(5)一次抗体が、(1)に記載の抗体を使用して調製され、二次抗体が、A型インフルエンザウイルスを認識できるがH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識できない抗体を使用して調製されることを特徴とする(3)に記載の方法。
(6)一次抗体および二次抗体の両方が、(1)に記載の抗体を使用して調製されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
(7)(1)に記載の抗体を有効成分として含むことを特徴とするH5亜型インフルエンザウイルス検出試薬。
(8)(7)に記載の検出試薬を含むことを特徴とするH5亜型インフルエンザウイルス検出キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモノクローナル抗体は、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができる。従って、本発明によれば、インフルエンザの徴候を示したヒトが高病原性鳥インフルエンザにかかっているのか、それとも季節性インフルエンザにかかっているのかを容易に区別することができる。特に、本発明の方法は免疫学的測定に基づいているので、従来の遺伝子検査方法と比較して迅速かつ簡便であり、実用上極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例6で使用した容器を示す。図1中、(a)はこの容器の斜視図であり、(b)はこの容器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のモノクローナル抗体は、受託番号FERM BP−11229として寄託されたハイブリドーマ、または受託番号FERM BP−11230として寄託されたハイブリドーマから産生されるものであり、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができるという特徴を有する。A型インフルエンザウイルスが有するヘマグルチニン(HA)には、構造の異なる少なくとも15種類のものが存在し、その違いにより、A型インフルエンザウイルスはH1〜H15の亜型に分類される。本発明の抗体は、H5亜型インフルエンザウイルスが有するHAに対するものであるので、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができる。
【0012】
本発明の抗体は、ヒトから分離されたH5亜型インフルエンザウイルスを抗原として、マウスに免疫し、免疫したマウスの脾細胞と、マウスの骨髄腫細胞由来株を融合させて作成された二つのハイブリドーマ(ハイブリドーマMouse−Mouse hybridoma OM−b(受託番号FERM BP−11229)およびAY−2C2(受託番号FERM BP−11230))により産生されるものである。ハイブリドーマOM−bおよびAY−2C2は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている。具体的には、本発明の抗体は、これらのハイブリドーマを、10%胎児血清を含む培地中でまたは無血清培地中で、37℃、5% COの条件で培養し、産生されたOM−bとAY−2C2抗体を公知の方法によって回収・精製することにより、製造することができる。
【0013】
本発明のモノクローナル抗体は、その酵素処理されたフラグメント、および組換えペプチド、そのキメラ抗体およびヒト化抗体などの改変抗体ならびに変異抗体も含む。これらのフラグメント、改変抗体または変異抗体もまた、元の抗体と同様のH5亜型インフルエンザウイルスに対する特異性を有するものである。これらは、当業者に公知の手段・方法により製造されることができる。
【0014】
本発明によれば、試料中のH5亜型インフルエンザウイルスを検出する方法であって、H5亜型インフルエンザウイルスの検出が、本発明の抗体を使用することによって行われることを特徴とする方法も提供される。試料としては、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、ウイルス培養物、糞、便、種々の組織・器官などが挙げられる。本発明の方法を用いて、かかる試料中のH5亜型インフルエンザウイルスを検出することで、この試料が由来する対象がH5亜型インフルエンザウイルスによる感染症に罹患しているかどうかを迅速、容易かつ確実に診断できる。
【0015】
本発明の検出方法は、本発明の抗体と検出したい試料をインキュベーションし、抗原・抗体の複合体を形成させ、次に複合体を検出することにより行なうことができる。固相サンドイッチ免疫学的測定に基づいてかかる検出を行う場合、具体的には、担体固定要素に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス一次抗体、および標識に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス二次抗体のうちの少なくとも一方を、本発明の抗体を使用して調製し、試料を一次抗体、二次抗体および担体と接触させて、一次抗体と二次抗体の間に試料中のH5亜型インフルエンザウイルスが狭持されかつ一次抗体が担体固定要素を介して担体に固定された構造を形成させ、次にこの構造中の二次抗体の標識を検出すればよい。試料を一次抗体、二次抗体および担体と接触させる順序は、特に限定されず、試料を一次抗体および二次抗体とまず接触させて一次抗体と二次抗体と試料中のH5亜型インフルエンザウイルスとの複合体を形成させ、次にこの複合体を担体と接触させて複合体中の一次抗体を担体に固定してもよいし、一次抗体のみを先に試料と接触させ、次にそれを担体と接触させて一次抗体を担体に固定し、その後で二次抗体を接触させてもよい。担体としては、ポリスチレン粒子、ポリスチレンプレート、シリカメンブレン、ガラスフィルター、シリカ磁性粒子などの公知のものを使用することができ、担体固定要素としては、ビオチンを使用することができる。また、標識としては、蛍光化学物質、発光団、酵素、蛍光蛋白質、発光蛋白質、磁性体、導電性物質などの公知のものを使用することができる。
【0016】
本発明の方法では、一次抗体および二次抗体の両方が本発明の抗体を使用して調製されることもできるが、一次抗体および二次抗体のいずれか一方のみが、本発明の記載の抗体を使用して調製され、他方が受託番号FERM BP−10903として寄託されたハイブリドーマから産生される抗体を使用して調製されることもできる。このハイブリドーマは、出願人の一人が以前に作成して独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託したものであり、このハイブリドーマから産生される抗体は、本発明の抗体と同様にA型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することが知られている。かかる特定の二種の抗体の組合せにより、H5亜型インフルエンザウイルスの検出感度を一層向上させることができる。
【0017】
また、上記組合せの代わりに、一次抗体が、本発明の抗体を使用して調製され、二次抗体が、A型インフルエンザウイルスを認識できるがH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識できない抗体(つまり、一般的なA型インフルエンザウイルス検出抗体)を使用して調製されることもできる。A型インフルエンザウイルス検出抗体は、効率的な産生方法が既に確立されており、安価に入手することができる。また、二次抗体をA型インフルエンザ検出抗体にすると、H5亜型インフルエンザウイルスの検出感度は若干低下するものの、実用上は問題ないレベルである。従って、本発明の抗体とA型インフルエンザウイルス検出抗体との組合せにより、コストを抑えた実用的な検出方法とすることができる。
【0018】
本発明によれば、本発明の抗体を有効成分として含むことを特徴とするH5亜型インフルエンザウイルス検出試薬、およびかかる検出試薬を含むことを特徴とするH5亜型インフルエンザウイルス検出キットも提供される。固相サンドイッチ免疫学的測定に基づいて検出を行う場合、本発明の検出試薬は、具体的には、担体固定要素に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス一次抗体、および標識に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス二次抗体を含み、一次抗体および/又は二次抗体が本発明の抗体を使用して調製されているものであることができる。また、本発明の検出キットは、かかる検出試薬に加えて、担体や、標識を検出するために必要な反応試薬などを含むものである。
【実施例】
【0019】
以下に実施例により本発明の効果を示すが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0020】
実施例1
A.H5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製
ベトナム人H5N1インフルエンザ感染者から分離されたインフルエンザウイルス(N.Vietnam/1194/2005)株のヘマグルチニン(HA)遺伝子とニューラミニダーゼ(N1)遺伝子を既存のワクチン株に組み換えて作製されたH5N1インフルエンザワクチン(NIBRG−14)株を抗原とし、Balb/cマウスをこの抗原で2回免疫した。3日後、免疫したマウスの脾臓を摘出し、脾細胞1×10個に対してマウス骨髄腫細胞由来株SP−2/0xxx細胞3×10個を混合した。遠心後、上清を吸引し、50%ポリエチレングリコール溶液1mlを1分かけて37℃で添加した。次に、RPMI 1640培地50mlを10分かけて添加した。遠心後、10% 牛胎児血清を含むRMPI 1640培地を添加し、96ウェルマイクロプレートに分注した。翌日、HAT選択培地を加えて約10日間培養した後、上清中の特異的抗体の有無を不活化ウイルス粒子を用いた酵素抗体法でスクリーニングした。酵素抗体法の手順は以下の通りである。96ウェルマイクロプレートに不活化H5亜型インフルエンザウイルス粒子またはH1亜型インフルエンザウイルスをコートし、1%BSAを含むPBSで一晩ブロッキングした。次に、ハイブリドーマの上清を加えて1時間室温にてインキュベーションした。インキュベーション後、PBS/0.05%Tween20で洗浄し、次に、ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン抗体を1時間反応させた。反応後、PBS/0.05%Tween20で洗浄し、OPD(オルソフェニレンジアミン)溶液を添加して抗マウス免疫グロブリン抗体を視覚化した。H5亜型インフルエンザウイルスに反応するがH1亜型インフルエンザウイルスに反応しない二種類の抗体産生ハイブリドーマ(Mouse−Mouse hybridoma OM−b(受託番号FERM BP−11229)およびMouse−Mouse hybridoma AY−2C2(受託番号FERM BP−11230))を得た。
【0021】
B.H5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体の認識部位の同定
OM−bとAY2C2抗体は、ほとんどのクレードのH5亜型インフルエンザウイルス粒子(クレード1、クレード2.2,2.3)に反応すること、およびH5亜型以外のインフルエンザウイルスに対する交差反応性がないことを確認した。これらの結果を表1および2に示す。また、クレード1の組換えHA(H5HA NIBRG14 recHA)をバキュロウイルスで作製し、それを抗原とする酵素抗体法(上記と同様)を用いたところ、HAに特異的に反応することが確認できた。これらの結果から、得られたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体の認識部位が、クレード共通H5HAエピトープであると決定した。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
C.H5亜型インフルエンザウイルスを認識するモノクローナル抗体の精製
得られたハイブリドーマMouse−Mouse hybridoma OM−bおよびAY2C2を、IL−6(0.2ng/ml)を含む無血清培地(インビトロゲン、12045−084)中で、37℃、5% COの条件で5日間培養した後、培養上清を回収した。回収した培養上清をプロテインAカラムを用いて精製し、抗HAモノクローナル抗体OM−bおよびAY2C2(以下、それぞれOM−b抗体およびAY2C2抗体と称する)を得た。
【0025】
実施例2
OM−bおよびAY2C2抗体を用いたH5亜型インフルエンザウイルスの検出(1)
OM−bまたはAY2C2抗体を一次抗体とし、A型インフルエンザウイルスを認識できるがH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識できない抗体(抗インフルエンザA型HA抗体)を二次抗体として、以下の手順でH5亜型インフルエンザウイルスの検出を行った。
OM−bまたはAY−2C2抗体をBiotin Labeling Kit−NH2(同仁化学)により標識し、一次抗体を調製した。この一次抗体をH5N1インフルエンザワクチン(NIBRG−14)または陰性コントロールとしての生理食塩水と混合し、37℃で15分間インキュベートし、抗ビオチン抗体結合ガラス繊維フィルター上に滴下し、37℃で5分間インキュベートした。そこに抗インフルエンザA型HA抗体をAlkaline Phosphatase Labeling Kit−NH2(同仁化学)により標識して調製した二次抗体25μlを添加して、37℃で5分間インキュベートし、200μlの洗浄液(10mM PBS 150mM NaCl 0.1%Tween20)を添加した後、発光基質CDPStarを添加して、一定時間後に発光量を測定した。ブランクの変動4SDを超える値をカットオフ値とし、その数値を超えた試料を陽性と判定した。OM−b抗体を一次抗体とした場合の結果を表3に、AY2C2抗体を一次抗体とした場合の結果を表4に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
表3および表4からわかるように、OM−b抗体、AY2C2抗体のいずれを一次抗体とした場合も、陽性の結果が得られ、H5亜型インフルエンザウイルスを検出することができた。
【0029】
実施例3
OM−bおよびAY2C2抗体を用いたH5亜型インフルエンザウイルスの検出(2)
OM−b抗体を一次抗体とし、AY−2C2抗体を二次抗体とした以外は実施例2と同様にして、H5亜型インフルエンザウイルスの検出を行った。その結果を表5に示す。
【0030】
【表5】

【0031】
表5からわかるように、OM−b抗体とAY2C2抗体を組み合わせることにより、H5亜型インフルエンザウイルスを検出することができた。
【0032】
実施例4
感度の評価
H5N1インフルエンザワクチン(NIBRG−14)を段階希釈したものを用いて、実施例3と同様の方法でそれぞれの最小検出ウイルス価を決定し、OM−b抗体およびAY−2C2抗体を用いた化学発光検出法の感度を評価した。陰性コントロールとして蒸留水(DW)を用いた。その結果、最小検出ウイルス価は、OM−b抗体およびAY2C2抗体のいずれについても5×10FFU/ml(1FFU(Focus Forming Unit)は、1感染性粒子を意味する)であり、OM−b抗体およびAY−2C2抗体を用いた化学発光検出法が十分な感度を有していることがわかった。
【0033】
実施例5
特異性の評価
インフルエンザウイルス以外のウイルス(ウイルス価 1×10TCID50ml以上)を用いて、実施例3と同様の方法でOM−b抗体およびAY−2C2抗体を用いた化学発光検出法の特異性を評価した。コントロールとしてH5N1インフルエンザワクチン(NIBRG−14)を用いた。その結果を表6に示す。
【0034】
【表6】

【0035】
表6からわかるように、インフルエンザウイルス以外のウイルス全てについての結果は陰性であり、OM−b抗体およびAY2C2抗体を用いた化学発光検出法は、高い特異性を有していた。
【0036】
実施例6
OM−b抗体および受託番号FERM BP−10903として寄託されたハイブリドーマから産生される抗体を用いたH5亜型インフルエンザウイルスの検出
OM−b抗体を一次抗体として、受託番号FERM BP−10903として寄託されたハイブリドーマから産生される抗体(以下、1C10抗体と称する)を二次抗体としてH5亜型インフルエンザウイルスの検出を行った。
A.担体の調製
ガラス繊維濾紙(アドバンテック東洋社製)を円形にくりぬき、吸収プラグに積層し、図1に示すようなポリエチレン製の液体不透過性容器内に収納し、容器の開口部より、(a)100mMクエン酸緩衝液:pH3.0を100μl、(b)ヤギ抗ビオチンポリクローナル抗体47μg/mL(100mMクエン酸緩衝液:pH3.0)を50μl、(c)5%グリセロール・1%ウシ血清アルブミン(BSA)溶液(10mMリン酸塩−生理食塩水緩衝液:pH7.4)を100μl、それぞれ直前に供給された液が吸引されるのを待って順次供給した後、凍結乾燥した。
【0037】
B.試薬の調製
(1)一次抗体液の調製
OM−b抗体とビオチンアミドカプロン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを25℃で4時間反応させ、NAP−5(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて分画し、10.0μg/mLになるように調製し、一次抗体液とした。
【0038】
(2)二次抗体液の調製
1C10抗体と牛小腸由来アルカリホスファターゼを用い、EZ−Link Maleimide Activated Alkaline Phosphatase Kit(PIERCE社)を用いて標識し、2.0μg/mLになるように調製し、二次抗体液とした。
【0039】
C.検出
試料として、3種類のH5亜型インフルエンザウイルス(A/Vietnam/1194/2004(NIBRG−14)(H5N1)、A/Anhui/01/2005(PR8−IBCDC RG−5)(H5N1)、A/turkey/1/2005(NIBRG−23)(H5N1))を使用した。試料50μlと一次抗体液20μl、二次抗体液20μlを混和し反応溶液を調製し、40℃で10分間インキュベーションした。Aで作製した反応容器に50μlの生理食塩水を添加し、5分後に反応溶液70μlを添加し40℃でインキュベーションした。2分後に、0.05% Tween20を含む生理食塩水を100μlずつ2回添加し、さらに2分後、発光基質としてAPS−5(Lumigen社)を30μl添加した。発光基質添加の1分後に、光電子増倍管(浜松ホトニクス製)で発光量を読み取り、陰性検体の母集団の平均+4SDを陰性と陽性のカットオフと設定して、特異性および感度の評価を行った。その結果を表7に示す。
【0040】
【表7】

【0041】
表7からわかるように、本方法は、インフルエンザH5N1の3つのクレードのいずれも検出できることが確認された。
【0042】
実施例7
実施例6の方法により、実施例5と同様の手順で、インフルエンザウイルスの他の亜型との反応性を評価した。その結果を表8に示す。
【0043】
【表8】

【0044】
表8の結果からわかるように、本方法は、他のインフルエンザ亜型を検出しないことを確認できた。
【0045】
実施例8
実施例6の方法により、実施例5と同様の手順で、インフルエンザウイルス以外の他のウイルスおよび細菌との反応性を評価した。その結果を表9および10に示す。
【0046】
【表9】

【0047】
【表10】

【0048】
表9および10の結果からわかるように、本方法は、インフルエンザウイルス以外の他のウイルスおよび細菌を検出しないことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識することができるので、H5亜型インフルエンザウイルスを迅速かつ簡便に診断するために極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号FERM BP−11229として寄託されたハイブリドーマ、または受託番号FERM BP−11230として寄託されたハイブリドーマから産生されることを特徴とする、A型インフルエンザウイルスのうちH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体。
【請求項2】
試料中のH5亜型インフルエンザウイルスを検出する方法であって、H5亜型インフルエンザウイルスの検出が、請求項1に記載の抗体を使用することによって行われることを特徴とする方法。
【請求項3】
方法が、担体固定要素に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス一次抗体、および標識に結合された抗H5亜型インフルエンザウイルス二次抗体のうちの少なくとも一方を、請求項1に記載の抗体を使用して調製し、試料を一次抗体、二次抗体および担体と接触させて、一次抗体と二次抗体の間に試料中のH5亜型インフルエンザウイルスが狭持されかつ一次抗体が担体固定要素を介して担体に固定された構造を形成させ、次にこの構造中の二次抗体の標識を検出することを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
一次抗体および二次抗体のいずれか一方が、請求項1に記載の抗体を使用して調製され、他方が受託番号FERM BP−10903として寄託されたハイブリドーマから産生される抗体を使用して調製されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
一次抗体が、請求項1に記載の抗体を使用して調製され、二次抗体が、A型インフルエンザウイルスを認識できるがH5亜型インフルエンザウイルスを特異的に認識できない抗体を使用して調製されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
一次抗体および二次抗体の両方が、請求項1に記載の抗体を使用して調製されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の抗体を有効成分として含むことを特徴とするH5亜型インフルエンザウイルス検出試薬。
【請求項8】
請求項7に記載の検出試薬を含むことを特徴とするH5亜型インフルエンザウイルス検出キット。

【図1】
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【公開番号】特開2013−87069(P2013−87069A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227748(P2011−227748)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【出願人】(591222245)国立感染症研究所長 (48)
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【Fターム(参考)】