説明

HCMV粒子を含有する組成物

本発明は、ビリオン、NIEP、および/またはデンスボディが非融合性であるにも関わらず、免疫応答を明らかにすることができる、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子を含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子を含む組成物、そのような組成物の使用、ならびにそのような組成物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-ヘルペスウイルスであるヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、広範に存在する病原体である。免疫適格者において、HCMV感染は、通常、不顕性であり、最大限でも軽度で非特異的な症状しか有さない。対照的に、ある種のリスク群において、例えば、エイズ患者または移植レシピエントのような免疫抑制患者において、および胎内感染の後、HCMV感染は重篤な徴候を有する。
【0003】
化学療法薬がHCMV感染の処置のために利用可能である。しかしながら、HCMV感染の抗ウイルス化学療法の成功は、特に、医薬の毒性により、および処置期間が長くなった場合のウイルスの耐性変異株の発生により、制限されている。さらに、抗ウイルス高度免疫血清の予防的または治療的な使用には、限られた効力しかないことが判明している。
【0004】
長年にわたり、HCMVに対するワクチンの開発が研究されてきた。従って、所望の免疫を誘導するための、弱められた(弱毒化された)生ワクチンによる試みがなされた。しかしながら、このワクチンには、限られた効力しかないことが判明した。この理由は、とりわけ、そのような弱毒化ウイルスのヒト体内における制限された生存性、および抗原性の株特異的な変動である可能性がある。永久免疫の誘導に不十分であることに加え、生ワクチンの使用は、批判的に考慮されなければならない;HCMV感染における病原機序に関する知識の欠如、および免疫抑制後のワクチン株の再活性化のリスクのため、生ワクチンの使用は、これらの臨床的状況において、少なくとも疑問の余地があるようである。
【0005】
これらのリスクを回避するため、最近、様々な発現系において合成されたウイルスエンベロープに由来するタンパク質を含有している、HCMVに対するサブユニットワクチンを開発する戦略が、優先的に行われている。そのようなエンベロープタンパク質、特に、糖タンパク質gBおよびgHは、HCMVに対する中和抗体の必須の標的抗原である。中和抗体は感染を防止することができる。実験動物においても、臨床研究においても、gBサブユニットワクチンを用いてそのような中和抗体を誘導することが可能であった。しかしながら、ヒトにおいて、このようにして誘導された抗体応答は、短命であり、全ての症例において感染を防止するのには適していないことが判明した。これは、HCMVのgBに排他的に基づくサブユニットワクチンの広範な使用にとって好ましくない。そのような抗原調製物の効力が限られていることについて、示唆されている理由は、免疫応答の株特異的な変動、適切な細胞性免疫反応の誘導の欠如、および使用された抗原の構造的な制限(そのエピトープは、いくつかの場合、立体構造依存性であることが公知である)である。
【0006】
従って、この経験に基づき、HCMVに対する効果的でかつ広範に有用なワクチンが満たすべき要件は、以下の通りである:(1)株重複的な様式でHCMV感染から防御する中和抗体の持続性の誘導。これは、抗体分泌Bリンパ球の成熟を支援するための、HCMVに対するいわゆる「ヘルパー細胞応答」(CD4陽性Tリンパ球)の効率的な誘導を必要とする。(2)HCMVに対する細胞障害性T細胞の形成の誘導。この型のリンパ球は、起こったHCMV感染を終結させ、体内のウイルス蔓延を制限するために決定的に重要である。(3)ワクチンによる副作用の最小化。現在の知識によると、免疫抑制後に潜伏を確立する能力を有するであろう接種された生存可能ウイルスから派生しうるリスクは、推定不可能である。従って、目標は、生存不可能なウイルス抗原をワクチンとして調製することであるべきである。
【0007】
その型のワクチンは、国際特許出願WO 00/53729(特許出願1)に記載されている。
【0008】
この種類のワクチンは、確かに有益であるが、残存感染性HCMVビリオンが存在しうることによる、そのような種類のウイルス粒子の残存感染性を低下させるため、高度の基準が満たされなければならない。従って、本発明の基礎をなす問題は、残存感染性を有しない、特に、本明細書に記載されるようなアッセイにおいて残存感染性を有しない、HCMV粒子、より具体的には、HCMVビリオンおよび/またはHCMVデンスボディを含有している組成物を提供することであった。
【0009】
本発明の基礎をなすさらなる問題は、非感染性であるが抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答を提供するHCMV粒子の種を提供することである。本発明の基礎をなすさらなる問題は、非感染性であるが、抗原に対する抗体、好ましくは、抗原に対する中和抗体を含む抗原特異的な免疫応答を提供するHCMV粒子の種を提供することである。
【0010】
この問題およびその他の問題は、独立請求項の主題により解決される。好ましい態様は、従属請求項から得られ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許出願WO 00/53729
【発明の概要】
【0012】
より具体的には、本発明の基礎をなす問題は、第一の局面において、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、および/またはHCMV NIEPが非融合性であるにも関わらず、免疫応答を明らかにすることができる、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子を含む組成物により解決される。一つの態様において、因子は非感染性である。
【0013】
本発明の基礎をなす問題は、第二の局面において、
(a)因子のうちの一つまたはいくつかを提供する工程;
(b)依然として免疫応答を誘導し得るにも関わらず、非融合性であるようにするため、該因子を処理する工程:
を含む方法により入手可能な、ビリオン、NIEP、および/またはデンスボディが非融合性であるにも関わらず、免疫応答を明らかにすることができる、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子を含む組成物により解決される。一つの態様において、因子は非感染性である。
【0014】
第一および第二の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的CD8+応答である。
【0015】
第一および第二の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的細胞障害性T細胞応答である。
【0016】
第一および第二の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答である。
【0017】
第一および第二の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的抗体応答であり、好ましくは、免疫応答は、抗体が中和抗体である抗原特異的抗体応答である。
【0018】
第一および第二の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞応答である。
【0019】
第一および第二の局面の一つの態様において、抗原はHCMV抗原であり、該HCMV抗原は、好ましくは、pp65抗原、pp65抗原誘導体、pp28およびpp28誘導体、pp150およびpp150誘導体、gBおよびgB誘導体、gHおよびgH誘導体、ならびに最初期抗原およびそれらの誘導体、糖タンパク質および糖タンパク質誘導体、好ましくは、HCMV糖タンパク質およびHCMV糖タンパク質誘導体を含む群より選択され、糖タンパク質は、好ましくは、gMおよびgM誘導体またはgNおよびgN誘導体である。
【0020】
最初期抗原の群のうち、最初期抗原-1(IE-1)が特に好ましい。
【0021】
第一および第二の局面の一つの態様において、因子は不活化されている。
【0022】
第一および第二の局面の一つの態様において、組成物は薬学的組成物または診断用組成物である。
【0023】
本発明の基礎をなす問題は、第三の局面において、医薬、好ましくは、HCMVの抗原のうちの一つまたはいくつかに対する免疫応答を明らかにするための医薬の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用により解決され、ここで、因子は非融合性である。
【0024】
本発明の基礎をなす問題は、第四の局面において、免疫応答、好ましくは、HCMVの抗原のうちの一つまたはいくつかに対する免疫応答を明らかにするための医薬の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物、好ましくは、第三の局面において定義されたような組成物の使用により解決され、ここで、組成物および/または因子は不活化に供されている。
【0025】
本発明の基礎をなす問題は、第五の局面において、ワクチンの製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用により解決され、ここで、因子は非融合性である。
【0026】
本発明の基礎をなす問題は、第六の局面において、ワクチンの製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物、好ましくは、第三の局面において定義されたような組成物の使用により解決され、ここで、組成物および/または因子は不活化に供されている。
【0027】
第三および第四の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的CD8+応答である。
【0028】
第三〜第六の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的細胞障害性T細胞応答である。
【0029】
第三〜第六の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答である。
【0030】
第三〜第六の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的抗体応答であり、好ましくは、免疫応答は、抗体が中和抗体である抗原特異的抗体応答である。
【0031】
第三〜第六の局面の一つの態様において、免疫応答は抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞応答である。
【0032】
第三〜第六の局面の一つの態様において、抗原はHCMV抗原であり、該HCMV抗原は、好ましくは、pp65抗原、pp65抗原誘導体、pp28およびpp28誘導体、pp150およびpp150誘導体、gBおよびgB誘導体、gHおよびgH誘導体、ならびに最初期抗原およびそれらの誘導体、糖タンパク質および糖タンパク質誘導体、好ましくは、HCMV糖タンパク質およびHCMV糖タンパク質誘導体を含む群より選択され、糖タンパク質は、好ましくは、gMおよびgM誘導体またはgNおよびgN誘導体である。
【0033】
第五および第六の局面の一つの態様において、ワクチンはHCMV感染の処置および/または防止のためのものである。
【0034】
第五および第六の局面の一つの態様において、ワクチンは移植ドナーおよび/または移植レシピエントにおけるHCMVにより引き起こされる疾患の処置および/または防止のためのものである。
【0035】
本発明の基礎をなす問題は、第七の局面において、診断剤の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用により解決され、ここで、因子は非融合性である。
【0036】
本発明の基礎をなす問題は、第八の局面において、診断剤の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用により解決され、ここで、組成物および/または因子は不活化に供されている。
【0037】
本発明の基礎をなす問題は、第九の局面において、
(a)HCMVビリオン、HCMV NIEP、およびHCMVデンスボディを含む群より選択される因子を提供する工程;
(b)依然として免疫応答を誘導し得るにも関わらず、非融合性であるようにするため、該因子を処理する工程:
を含む、第一および第二の局面において定義されたような組成物の製造のための方法により解決される。
【0038】
第九の局面の一つの態様において、工程(b)の処理は、UV処理、高エネルギー照射、低pH処理、熱処理、および架橋剤による処理を含む群より選択される措置のうちの一つまたは任意の組み合わせである。
【0039】
第九の局面の好ましい態様において、UV処理は、波長が約100 nm〜280 nmであるUVC処理、または長波UVによる処理である。
【0040】
不活化のためUVCを使用するのではなく、長波UVも使用され得ることは、本発明の範囲内である。そのような場合、長波UVは、該長波UVにより活性化される光反応剤と共に使用される。一つの態様において、そのような光反応剤は、それぞれ、UVAと共に使用されるアモトサレン、UVAと共に使用される4'-アミノメチル-4,5',8-トリメチルソラレン、ならびにUVAおよびUVBと共に使用されるジメチルメチレンブルーである。
【0041】
第九の局面の一つの態様において、UV処理は、約100〜約2000 mJ/cm2、好ましくは約100〜約1000 mJ/cm2、より好ましくは約150〜約900 mJ/cm2の線量範囲を使用する。
【0042】
第九の局面の一つの態様において、UV処理の前に、UV処理と同時に、またはUV処理に続いて、因子はガンマ線照射に供される。
【0043】
第九の局面の好ましい態様において、高エネルギー照射はガンマ線照射である。
【0044】
第九の局面のさらに好ましい態様において、ガンマ線照射に関して、ガンマ線は、約15〜約70 KGy、好ましくは約20〜約65 KGy、より好ましくは約20〜約60 KGyの線量範囲で投与される。
【0045】
第九の局面の一つの態様において、処理は低pH処理であり、低pH処理は、約0〜5、好ましくは1〜4.5、より好ましくは2〜4.5のpHへの因子の曝露を含む。
【0046】
第九の局面の好ましい態様において、因子は、約0.5〜24時間、好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは0.5〜6時間、低pH処理に供される。
【0047】
第九の局面の一つの態様において、因子は、約1〜50℃、好ましくは約1〜約45℃、より好ましくは約1〜約40℃で、低pH処理に供される。
【0048】
第九の局面の一つの態様において、熱処理は、約37.5〜約65℃の温度、好ましくは約37.5〜約60℃の温度、より好ましくは約37.5〜約56℃の温度での因子のインキュベーションを含む。
【0049】
第九の局面の好ましい態様において、因子は、約5秒〜約36時間、好ましくは約5秒〜約30時間、より好ましくは約5秒〜約24時間にわたりインキュベートされる。
【0050】
第九の局面の一つの態様において、処理は、ラクトン、エトキシド、およびアルデヒドを含む群より各々独立に選択される一つまたはいくつかの架橋剤による処理である。
【0051】
第九の局面の一つの態様において、架橋剤はβ-プロピオラクトンである。
【0052】
第九の局面の一つの態様において、架橋剤はエチレンオキシドである。
【0053】
第九の局面の一つの態様において、架橋剤はホルムアルデヒドである。
【0054】
第九の局面の一つの態様において、因子は架橋剤に曝され、因子を含有している媒体の中の架橋剤、より好ましくはβ-プロピオラクトンの濃度は、約0.05〜約10%(v/v)、好ましくは約0.05〜約10%(v/v)、より好ましくは約0.05〜約7.5%(v/v)である。
【0055】
第九の局面の一つの態様において、因子は、約1分〜約72時間、好ましくは約1分〜約48時間、より好ましくは約1分〜約24時間にわたり、架橋剤、より好ましくはβ-プロピオラクトンと共にインキュベートされる。
【0056】
第九の局面の一つの態様において、因子は、約1〜約60℃の温度、好ましくは約1〜約50℃の温度、より好ましくは約1〜約40℃の温度でインキュベートされる。
【0057】
先行技術によると、HCMV粒子は、ウイルス抗原およびウイルス感染細胞に対する抗原特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答を生じるためには、標的細胞膜と融合しなければならないと考えられていた(Pepperl et al 2000 J Virol 74:6132-6146)。この融合は、細胞への侵入の直後、またはウイルスタンパク質の細胞内の転写および翻訳の後に、抗原を処理および提示するMHCクラスI経路にウイルス抗原を向けるための必要条件と見なされている(Pepperl et al 2000 J Virol 74:6132-6146)。MHCクラスI経路経由の抗原提示は、次に、免疫系が、ウイルス抗原およびウイルス感染細胞に対する抗原特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答を開始または明らかにし得るための必要条件である。
【0058】
本発明者らは、もはや融合性でないHCMV粒子が、そのような種類のウイルス抗原およびウイルス感染細胞に対する抗原特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答を依然として誘発しうることを本発明において見出した。これは、特に、不活化および不活化手法のための本明細書に記載された手段および方法、または不活化および不活化手法に関連した手段および方法のうちの一つまたはいくつかを適用することにより、処理もしくは作製された、または処理もしくは作製されるHCMV粒子に当てはまる。既に概説されたように、先行技術によると、HCMV粒子のそのような融合性は、この種のT細胞応答の必要条件であると考えられていた限りにおいて、この本発明の第一の所見は、驚くべきものである。
【0059】
そのような非融合性は、HCMVを不活化するため、またはHCMVおよびHCMV粒子の感染性を低下させるための本質的には当技術分野において周知の措置および方法、好ましくは、不活化および不活化手法のための本明細書に記載された手段および方法、または不活化および不活化手法に関連した手段および方法とも呼ばれる、本発明に記載された措置および方法を、HCMV粒子に適用することにより作製され得る。これらの不活化または不活化の措置および方法は、それぞれ、該非融合性がそのようなHCMV粒子に付与または授与される程度に使用され実施される。
【0060】
本発明の基礎をなす第二の所見は、感染性のHCMV粒子、特に、HCMVのビリオンをまだ含有しているHCMV粒子およびHCMV粒子含有組成物から出発して、本発明の第一の局面に関して本明細書に開示された措置および方法を適用することにより作製される、感染性を有しない、好ましくは、残存感染性を有しないHCMV粒子またはそのようなHCMV粒子を含む組成物の提供に関する。また、この種類のHCMV粒子は、驚くべきことに、本明細書に記載されるような免疫応答、即ち、特に、抗原特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答、抗原特異的な抗体応答(抗体応答は、好ましくは、抗原特異的中和抗体を提供する応答である)、および抗原特異的なCD4+ヘルパーT細胞応答を誘発するのに適当であることが見出された。
【0061】
抗原特異的な抗体応答および抗原特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答の誘導は、それぞれ、抗原特異的なCD4+ヘルパーT細胞の生成を必要とすることが、当業者には一般に公知である。従って、本発明において、抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞の生成は、pp65特異的CD8+細胞障害性T細胞応答の証明により、そしてHCMV抗原に特異的な抗体、特に、中和抗体の生成により、立証される。従って、残存HCMV感染性を不活化し、かつ材料を非融合性にするための処理に供されたHCMV粒子は、抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞を依然として誘導することができる。
【0062】
好ましくは本明細書において使用されるように、残存感染性がないという用語は、感染性粒子、特に、感染性HCMV粒子が、感染性アッセイ、より好ましくは、本明細書に記載されるような感染性アッセイを使用して、HCMV粒子を含む試料または組成物の中に検出され得ないことを意味する。換言すると、HCMVデンスボディ、HCMVビリオン、および/またはHCMV NIEPのうちの一つまたはいくつかを含有している組成物または調製物は、それぞれ、感染性のHCMVまたはHCMV粒子がその感染性アッセイで検出され得ない組成物および調製物である。そのようなHCMV粒子が、それにも関わらず、それぞれの組成物および調製物の中に存在するか否か、そしてもし存在するとすれば、どの程度、即ち、どれだけ多くが存在するかは、検出限界によって画定されるであろうことが、当業者によって認識されるであろう。
【0063】
好ましくは本明細書において使用されるように、HCMV粒子という用語は、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む。
【0064】
好ましくは本明細書において使用されるように、HCMVビリオンとは、膜、外被、およびウイルスDNAを含有しているカプシドからなる感染性ウイルス粒子である。
【0065】
好ましくは本明細書において使用されるように、HCMVデンスボディ(DB)とは、HCMVカプシドおよびHCMV DNAを欠き、膜および外被を含んでいる非感染性HCMV粒子である。
【0066】
好ましくは本明細書において使用されるように、HCMV NIEPとは、DNAを欠き、膜、カプシド、および外被を含んでいる、非感染性のエンベロープを有するHCMV粒子(non-infectious, enveloped HCMV particles)である。
【0067】
好ましくは本明細書において使用されるように、デンスボディという用語は、非組換えデンスボディおよび組換えデンスボディの両方を含む。組換えデンスボディは、好ましくは、一つまたはいくつかの異種抗原を発現する。
【0068】
好ましくは本明細書において使用されるように、NIEPという用語は、非組換えNIEPおよび組換えNIEPの両方を含む。組換えNIEPは、好ましくは、一つまたはいくつかの異種抗原を発現する。
【0069】
好ましくは本明細書において使用されるように、ビリオンという用語は、非組換えビリオンおよび組換えビリオンの両方を含む。組換えビリオンは、好ましくは、一つまたはいくつかの異種抗原を発現する。
【0070】
好ましくは本明細書において使用されるように、異種抗原という用語は、異なる発現環境において発現される抗原である。一つの態様において、そのような異なる発現環境は、抗原がそれぞれの野生型デンスボディ、野生型NIEP、および野生型ビリオンに固有でない抗原である環境である。より具体的には、異種抗原は、好ましくは、非構造HCMV抗原を含むが、これに限定はされない、HCMV粒子の内部もしくは内側の成分である抗原、または異種生物、好ましくは、異種病原体の抗原のいずれかである。さらなる態様において、そのような異なる環境は、抗原の発現を制御するプロモーターが、野生型デンスボディ、野生型NIEP、および野生型ビリオンにおける抗原の発現を制御するプロモーターとは異なる点で野生型環境と異なる環境である。さらなる態様において、異なる環境は、これもまた野生型系または野生型バックグラウンドとは異なる、抗原が発現される異なる翻訳系または翻訳バックグラウンドからなる。より具体的には、野生型デンスボディは、HCMV野生型デンスボディであり、野生型NIEPは野生型HCMV NIEPであり、野生型ビリオンは野生型HCMVビリオンである。
【0071】
好ましくは本明細書において使用されるように、野生型とは、好ましくはインビトロ細胞培養条件下で、デンスボディを形成することができる株、またはそのような株に由来することを意味する。そのような野生型または野生型株は、好ましくは、Ad169およびTowneである。
【0072】
HCMV粒子に関して本明細書に記載された任意の言及、態様、特色、または利点は、特に、HCMVデンスボディおよびHCMV NIEP、より具体的にはHCMVデンスボディにも適用可能であることが認識されるであろう。
【0073】
好ましくは本明細書において使用されるように、融合性という用語は、ウイルス粒子膜およびサブウイルス粒子膜の標的細胞の細胞膜との融合によりそれぞれ媒介される、HCMVのようなウイルス粒子およびサブウイルス粒子の、標的細胞と融合する能力をさす。そのようなウイルス粒子およびサブウイルス粒子は、それぞれ、「融合性」と呼ばれ;標的細胞と融合することができないそのようなウイルス粒子およびサブウイルス粒子は、それぞれ、非融合性と呼ばれる。
【0074】
本発明者らの所見、即ち、残存HCMV感染性を不活化するために処理される、または処理された、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含むが、これらに限定はされない、そのようなHCMV粒子が、立証された融合性の喪失にも関わらず、依然としてウイルス抗原に対する抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答を効率的に誘導することができるという所見に基づき、融合性の喪失に必要な手段および条件によりHCMV感染性を不活化するための、より具体的には残存HCMV感染性を不活化するための手段および方法が、安全なHCMVワクチンおよび抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答の両方を作り出すために、HCMV粒子を含有している調製物およびHCMV粒子を含有している組成物に適用され得る。
【0075】
各々本発明の主題としての、HCMV粒子およびそれらを含む組成物のそれぞれの作製のための出発材料を形成するHCMV粒子は、好ましくは、HCMVによる哺乳動物細胞の感染後に放出されるウイルス粒子である。出発材料として使用されるそのようなHCMV粒子は、それらの内容物が細胞の細胞質に侵入するように粒子をある種の哺乳動物細胞に融合させることを可能にする脂質膜により囲まれているが、本発明の第一の局面によると、不活化に関して本明細書に記載された手段および方法、または不活化のために適当な手段および方法にそれらを供することで入手されるそのような粒子は、非融合性である。これとは関係なく、HCMV粒子の膜は、ウイルス中和抗体のための主要な抗原を表すウイルス糖タンパク質を含有している。さらに、それらは、ヘルパーT細胞の極めて免疫原性の標的であり、かつHCMVに対する細胞障害性Tリンパ球(CTL)を誘導するための必須の抗原であるウイルス抗原pp65(ppUL83)を含有している。
【0076】
各々、本発明に従い、HCMV粒子、特に、HCMVビリオン、HCMV NIEP、および/またはHCMVデンスボディ、ならびにそれらを含む組成物によりそれぞれ作出される免疫応答の種類は、投与経路には関係なく、Th1型のヘルパーT細胞応答である。この特徴のため、HCMV粒子、特に、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、および/またはHCMV NIEP、ならびにそれらのうちの少なくとも一つを含む組成物は、それぞれ、HCMVに対するワクチンとして適当である。
【0077】
本発明のHCMV粒子およびそれらを含む組成物は、疾患の処置および/または防止のために使用される医薬の調製のために使用され得ることが、当業者により認識されるであろう。好ましくは、そのような疾患は、HCMVが原因因子または日和見性因子として関与しているものである。
【0078】
好ましい態様において、医薬はワクチンである。
【0079】
そのような医薬が本発明に従って使用される処置および/または防止の対象、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくはヒト対象の特定の群は、HCMVにより引き起こされる疾患に罹患しているか、またはそれを発症するリスクを有するものであり、そのような対象は移植ドナーおよび/または移植レシピエントである。本発明のHCMV粒子およびそれらを含む組成物が、診断剤の調製のために使用され得ることも、当業者により認識されるであろう。より好ましくは、そのような診断薬は、HCMVが原因因子または日和見性因子として関与している疾患の診断のためのものである。
【0080】
最後に、HCMV粒子は、医薬もしくは診断薬の作製のため、またはそれらの製造において使用され得る。ここで、医薬または診断剤は、本発明のHCMV粒子のうちの一つまたはいくつかに対して向けられた、好ましくは特異的に向けられた抗体、アプタマー、およびスピーゲルマー(spiegelmer)を含む群より選択される因子のうちの一つである。そのような抗体、アプタマー、およびスピーゲルマーの作製は、当業者に公知である。
【0081】
本発明のHCMV粒子に対して特異的な抗体の製造は、当業者に公知であり、例えば、Harlow, E., and Lane, D., "Antibodies: A Laboratory Manual," Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、CesarおよびMilsteinのプロトコル、およびそれに基づきさらに開発されたものに従って製造され得るモノクローナル抗体が、本発明に関して使用され得る。本明細書において使用されるように、抗体には、適当であり、かつ本発明のHCMV粒子に結合することができる限り、完全抗体、Fab断片、Fc断片、および単鎖抗体のような抗体の断片または誘導体が含まれるが、これらに限定はされない。モノクローナル抗体とは別に、ポリクローナル抗体も使用され、かつ/または作製され得る。ポリクローナル抗体の作製も、当業者に公知であり、例えば、Harlow, E., and Lane, D., "Antibodies: A Laboratory Manual," Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、治療目的のために使用される抗体は、上で定義されたようなヒト化抗体またはヒト抗体である。
【0082】
本発明に従って使用され得る抗体は、一つまたはいくつかのマーカーまたは標識を有していてもよい。そのようなマーカーまたは標識は、その診断用途または治療用途のいずれかにおいて抗体を検出するのに有用である可能性がある。好ましくは、マーカーおよび標識は、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金、およびフルオレセインを含む群より選択され、例えば、ELISA法において使用される。これらおよびさらなるマーカーならびに方法は、例えば、Harlow, E., and Lane, D., "Antibodies: A Laboratory Manual," Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY,(1988)に記載されている。
【0083】
標識またはマーカーが、他の分子との相互作用のような、検出とは別の付加的な機能を示すことも、本発明の範囲内である。そのような相互作用は、例えば、他の化合物との特異的な相互作用であり得る。これらの他の化合物は、ヒトもしくは動物の身体のような抗体が使用される系に固有のものであってもよいし、またはそれぞれの抗体を使用することにより分析される試料に固有のものであってもよい。適切なマーカーは、例えば、ビオチンまたはフルオレセインであって、アビジンおよびストレプトアビジン等のようなそれらの特異的相互作用パートナーが、そのようにマークまたは標識された抗体と相互作用するようそれぞれの化合物または構造の上に存在し得る。
【0084】
本発明の主題としてのアプタマーは、一本鎖または二本鎖のいずれかであり、標的分子と特異的に相互作用するD-核酸である。アプタマーの製造または選択は、例えば、欧州特許EP 0 533 838に記載されている。基本的に、以下の工程が実施される。第一に、各核酸が、典型的には、数個の、好ましくは少なくとも8個のその後のランダム化されたヌクレオチドのセグメントを含む核酸、即ち、可能性のあるアプタマーの混合物を提供する。続いて、候補混合物と比較して増加した標的に対する親和性、またはより大きな力等に基づき、核酸が標的分子と結合するよう、この混合物を標的分子と接触させる。続いて、結合する核酸を、混合物の残りから分離する。任意で、このようにして入手された核酸を、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して増幅する。これらの工程を数回繰り返し、最後に、標的と特異的に結合する核酸の比率が増加した混合物を得ることができる。次いで、任意で、最終的な結合核酸がその中から選択され得る。これらの特異的に結合する核酸は、アプタマーと呼ばれる。アプタマーの作製または同定の方法の任意の段階において、標準的な技術を使用して、それらの配列を決定するために、個々の核酸の混合物の試料を採取し得ることは明白である。例えば、アプタマー作製の技術分野の当業者に公知の、規定の化学基の導入により、アプタマーが安定化され得ることは、本発明の範囲内である。そのような修飾は、例えば、ヌクレオチドの糖部分の2'位へのアミノ基の導入にある。アプタマーは、現在、治療剤として使用されている。しかしながら、このようにして選択または作製されたアプタマーは、ターゲットバリデーションのために使用され得ること、および/または医薬、好ましくは低分子に基づく医薬の開発のためのリード物質として使用され得ることも、本発明の範囲内である。これは、標的分子とアプタマーとの間の特異的相互作用が候補薬物により阻害される競合アッセイにより実際に行われる。ここで、標的とアプタマーとの複合体からアプタマーを置き換えることにより、それぞれの候補薬物は、標的とアプタマーとの間の相互作用の特異的な阻害を可能にし、相互作用が特異的である場合、該候補薬物は、少なくとも原理的には、標的を阻止し、従ってそのような標的を含むそれぞれの系においてその生物学的利用可能性または活性を減少させるのに適当であろうと想定され得る。次いで、このようにして入手された低分子は、毒性、特異性、生分解性、および生物学的利用能のような物理的特徴、化学的特徴、生物学的特徴、および/または医学的特徴を最適化するためにさらなる誘導体化および修飾に供されてもよい。
【0085】
本発明のHCMV粒子を使用した、本発明に従って使用または作製され得るスピーゲルマーの作製または製造は、類似の原理に基づく。スピーゲルマーの製造は、国際特許出願WO 98/08856に記載されている。スピーゲルマーはL-核酸である。即ち、D-ヌクレオチドから構成されるアプタマーとは異なり、L-ヌクレオチドから構成される。スピーゲルマーは、生物学的系において極めて高い安定性を有し、かつアプタマーと比べて、それらが向けられた標的分子と特異的に相互作用するという事実を特徴とする。スピーゲルマーを作製するためには、D-核酸の不均質の集団を作出し、この集団を、標的分子の光学対掌体、例えば、本発明の場合には、本発明のHCMV粒子の天然に存在するL-鏡像異性体のD-鏡像異性体またはそのuartと接触させる。続いて、標的分子の光学対掌体と相互作用しないD-核酸を分離する。しかしながら、標的分子の光学対掌体と相互作用するD-核酸を分離し、任意で、決定し、かつ/または配列決定し、続いて、対応するL-核酸を、D-核酸から入手された核酸配列情報に基づいて合成する。標的分子の光学対掌体と相互作用する上記のD-核酸と配列に関して同一であるこれらのL-核酸は、それらの光学対掌体とではなく、天然に存在する標的分子と特異的に相互作用すると考えられる。アプタマーの作製法と同様に、様々な工程を数回繰り返し、それにより、標的分子の光学対掌体と特異的に相互作用する核酸を濃縮することも可能である。
【0086】
本発明のHCMV粒子の使用に関して本明細書に記述された疾患および状態の各々の処置、防止、および診断のために、それぞれ、そのような医薬および診断薬が使用され得ることは、本発明の範囲内である。本発明のHCMV粒子が、本発明のHCMV粒子により発現される抗原に対する免疫応答を誘発することにより治療可能な疾患の処置および/または防止のための医薬およびワクチンとしても使用され得ることは、当業者により理解されるであろう。そのような抗原が、特に、HCMV粒子に対して、相同または異種であることは、本発明の範囲内である。
【0087】
HCMV粒子、特に、HCMVビリオンおよび/またはHCMVデンスボディ、ならびにそれらのうちの少なくとも一つを含有している組成物が、それぞれ、HCMV粒子、HCMVビリオン、および/またはHCMVデンスボディが好ましくは非融合性であるにも関わらず、免疫応答を明らかにすることができるか否かを決定する方法は、少なくとも本発明を考慮すれば、当業者にとって明白である。それぞれの試験のいくつかは、本明細書、特に、その実施例のセクションに記載される。
【0088】
免疫応答を提供するため、本発明のHCMV粒子は、抗原特異的抗体、好ましくは中和抗体を誘導し、ヘルパー細胞(THリンパ球)および細胞障害性T細胞(CTL)を刺激するための関連する抗原を含有しているかまたは提供しなければならない。
【0089】
原理的に、好ましくはヒトにおいて、免疫応答を誘発するために適当なHCMV抗原は、特に、以下のものであるが、他のHCMV抗原もその限りにおいて活性であり得ることを当業者は認識するであろう(Sylwester AW, JEM Vol. 202, September 5, 2005, p.673-685)。
【0090】
CD4+T細胞により認識されるHCMV抗原は、好ましくは、UL55(gB)、UL83(pp65)、UL86、UL99(pp28)、UL122(IE2)、UL36、UL48、UL32(pp150)、UL113、IRS-1、UL123(IE1)、UL25、UL141、UL52、UL82(pp71)、US22、UL75(gH)、US23、UL69、US26、UL44(pp50)、UL16、US3、US18、UL78、UL18、UL17、TRL14、UL100、UL45、UL145、UL154、UL43、UL152、UL144、UL24、UL4(gp48)、UL49、UL102、およびUL87を含む群より選択される。より好ましくは、CD4+T細胞応答を受ける抗原は、UL55、UL83、UL86、UL99、UL153、およびUL32を含む群より選択される。
【0091】
CD8+T細胞により認識されるHCMV抗原は、好ましくは、UL48、UL83(pp65)、UL123(IE1)、UL122(IE2)、US32、UL28、US29、US3、UL32(pp150)、UL55(gB)、UL94、UL69、UL105、UL82(pp71)、UL99(pp28)、UL154、UL44(pp50)、UL86、UL33、UL49、US1、UL150、UL34、US30、TRL14、IRS-1、UL36、UL37、UL75(gH)、UL45、UL153、UL116、およびUL54を含む群より選択される。より好ましくは、CD8+T細胞応答を受ける抗原は、UL123、UL83、UL122、UL28、UL48、US3、UL151、UL82、UL94、US29、UL99、UL103、US32、US24、およびUL36を含む群より選択される。
【0092】
中和抗体は、現状の知識によると、HCMV感染後、ウイルスエンベロープタンパク質に対して、特に、糖タンパク質gB、gH、gM、およびgNに対して排他的に形成される(Shen et al.,Vaccine 20, 2007)。
【0093】
TH細胞は、主としてウイルスの外被タンパク質に対して、特に、いわゆるpp65(ppUL83)、gH、およびgBに対して形成される(Sylwester et al., J. Exp. Medicine Vol. 202, 2005)。より具体的には、pp65は、HCMVに対するCTLの誘導のための必須の抗原である。pp65の提示は、通常、MHCクラスI分子と関連した細胞によるデノボ合成の後に起こるが、それのみならず、いわゆる「外因性負荷」によっても、MHC I提示経路に導入され得る。
【0094】
前記抗原は、本発明のHCMV粒子、より具体的には、本発明のHCMVデンスボディおよび本発明のHCMV NIEPの必須成分である。最も具体的には、デンスボディ(DB)は、電子顕微鏡下で可視の構造である。DB中の最も豊富なタンパク質(塊)は、外被タンパク質pp65である。DBは、ウイルス糖タンパク質により修飾されたエンベロープへも復帰する細胞脂質膜と共に提供される点で、ウイルス粒子に匹敵する。ウイルス糖タンパク質は、おそらく、このエンベロープにおいて天然の立体構造をとっている。DBは、ウイルスDNAおよびウイルスカプシドを含有していないため、非感染性である。それらは、確立された方法により、細胞培養上清から大量に濃縮され得る。
【0095】
以下の態様は、pp65を参照して記載される。しかしながら、本発明を実施するために適当なその他の抗原、および/または直接もしくは参照により本明細書に記載された抗原にも、同一の考察が原理的に適用可能であることが理解されるであろう。
【0096】
さらなる態様において、ある部分に、ウイルスT細胞抗原pp65(ppUL83)の一つもしくは複数のセクションまたは完全タンパク質を含み、もう一つの部分に、一つまたは複数のその他のタンパク質の一つまたは複数のセクションを含む融合タンパク質を含有しているHCMV粒子が、開示され記載される。
【0097】
この融合タンパク質は粒子中に大量に存在するため、これは、HCMV粒子の抗原性を最適化することを可能にする。さらに、細胞性免疫応答の抗原および体液性免疫応答の抗原の1分子での発現が、抗原性を明確に増加させ得ることは公知である。pp65およびその他のタンパク質の様々なセクションが直接融合されてもよいし、含まれるタンパク質のうちの一つの天然成分ではないリンカー配列が、様々なセクションの間に存在することも例えば可能である。この型の配列は、クローニングによって生じてもよいし、または抗原の特性に影響を及ぼすために故意に導入されてもよい。しかしながら、融合タンパク質は、好ましくは、融合パートナーのうちの一つの成分でない外来配列を含有しない。そのような態様において、融合タンパク質は、pp65の一つまたは複数の部分と、一つまたは複数の他のタンパク質の一つまたは複数の部分とからなる。
【0098】
完全なpp65またはその一つもしくは複数の部分が融合タンパク質内に存在してもよいことは、以下に言及される態様全てに当てはまる。「pp65の(からなる)融合タンパク質」という記述は、本願が完全なpp65に制限されるものと理解されるためのものではない。融合タンパク質内に存在するタンパク質の「部分」または、「セクション」は、それが由来するタンパク質の少なくとも6個、好ましくは少なくとも8個、最も好ましくは少なくとも9個、15個、または20個の連続するアミノ酸を含む。
【0099】
好ましい態様は、pp65(ppUL83)と、ウイルス糖タンパク質gBまたはgHの一つまたは複数の中和エピトープとの融合タンパク質を含む。この型の粒子は、図1に示されるように作製され得る。融合タンパク質は、抗原特異的な取り込みを介して、糖タンパク質特異的なB細胞に入ることができ、次に、その細胞は、MHCクラスIIの環境で糖タンパク質およびpp65両方のエピトープを提示することができる。さらに、融合タンパク質の部分が、MHCクラスIIの環境で、専門の抗原提示細胞(APC)により提示されることも可能である。いずれの場合においても、結果は、pp65およびウイルス糖タンパク質両方に対するTH応答の効率的な刺激である。これらのCD4陽性TH細胞は、糖タンパク質特異的なB細胞を刺激することができ、その細胞が、MHCクラスIIの環境でpp65およびウイルス糖タンパク質のペプチドを提示して、抗体、特に、中和抗体を形成させる。ここで、抗体は、一つの態様において、対応抗原に対するものであり、もう一つの態様において、異種抗原に対するものである。さらに、この型の粒子は、感染性ビリオンと同様に、細胞に取り込まれ得、pp65のペプチドは、外因性負荷によりMHCクラスI経路に導入され得る。これは、HCMVに対するCTL応答の刺激を達成し、これは、非生ワクチンにおいては稀なことである。
【0100】
さらに好ましい態様において、HCMV粒子は、pp65と、HCMVのもう一つのタンパク質、IE1タンパク質(ppUL123)の一つまたは複数の部分とからなる融合タンパク質を含有している。特に存在すべきIE1タンパク質の部分は、ヒトにおいて自然感染の間にそれに対して細胞障害性T細胞が形成されるものである。IE1タンパク質のペプチドは、いくつかの場合、pp65のペプチドとは異なるMHCクラスI分子により提示される。そのようなIE1由来のさらなる「CTLエピトープ」の追加は、免疫感作の後、異なるMHCクラスI分子を発現する接種された対象が、可能な限り包括的に、HCMVに対するCTLを作製し得ることを確実にするためのものである。
【0101】
さらに好ましい態様において、HCMV粒子は、pp65と、HCMV糖タンパク質の一つまたは複数の中和エピトープと、IE1の一つまたは複数のCTLエピトープとからなる融合タンパク質を含有している。pp65と、中和エピトープおよびCTLエピトープとの融合は、可能な限り包括的に、接種された対象により、即ち、MHCクラスIパターンが異なる人々の最大人数により、中和抗体およびCTLの両方が形成されることを同時に可能にすることを確実にするためのものである。
【0102】
さらに好ましい態様において、HCMV粒子は、pp65と、もう一つのヒトの病原体の一つまたは複数のエピトープとの融合タンパク質を含有している。他のヒト病原体の適当な部分は、ヒトにおいて中和抗体が形成されるような抗原である。そのような「中和抗原」のT細胞抗原pp65との融合を通して、単離された「中和抗原」の使用と比較して、免疫応答、即ち、抗体応答の著しい増加を予想することが可能である。挙げられるべきそのような「中和抗原」の例は、B型肝炎ウイルスの表面タンパク質(HBsAG領域由来)、C型肝炎ウイルスの表面タンパク質(例えば、E2)、ヒト免疫不全ウイルスの表面タンパク質(HIV、Env領域由来)、インフルエンザウイルスの表面タンパク質(赤血球凝集素、ノイラミニダーゼ、核タンパク質)の表面タンパク質、またはその他のウイルス病原体である。さらなる適当なヒト病原体は、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、およびその他のような細菌である。最後に、マラリア原虫(マラリア)のような真核生物病原体に由来する抗原を、pp65に融合することもできる。そのような抗原または融合タンパク質は、本明細書において抗原誘導体とも呼ばれ、全長または粒子pp65を含む抗原として作用する融合タンパク質は、本明細書においてpp65抗原誘導体とも呼ばれる。
【0103】
さらなる好ましい態様において、HCMV粒子は、pp65が他の病原体のタンパク質およびペプチドのための足場として作用し、これらの病原体の自然感染の際にヒトにおいてCTLが作製されるような、pp65と、タンパク質またはペプチドの一つまたは複数の部分とからなる融合タンパク質を含有している。挙げられ得るそのようなCTLエピトープの例は、HIV-1、HBV、HCV、またはインフルエンザウイルスのタンパク質の部分である。そのような手法の意図は、ヒトにおいて異種病原体に対する防御CTL、即ち、細胞障害性Tリンパ球、好ましくはCD8+細胞障害性T細胞を作製するために、DBの独特の免疫原特性を利用することである。
【0104】
さらに好ましい態様において、HCMV粒子は、pp65と、異種病原体の一つまたは複数の中和エピトープと、同病原体の一つまたは複数のCTLエピトープとからなる融合タンパク質を含有している。この融合は、接種された対象がこの病原体に対する防御抗体およびCTLの両方を形成し得ることを確実にするためのものである。
【0105】
本発明は、さらに、異なるHCMV株に由来する同一糖タンパク質の変異体である少なくとも2種の異なる糖タンパク質を含有しているHCMV粒子に関する。
【0106】
好ましい態様は、正確に2種の変異体、HCMV Towne株に相当する変異体およびHCMV Ad169株に相当する変異体を含有している。好ましい態様は、Towne株の糖タンパク質gBおよびAd169株の糖タンパク質gBを含有している。
【0107】
これらの2種のタンパク質は、感染細胞において組換えデンスボディの膜に同一の効率で取り込まれ得る。そのような組換えデンスボディは、2種のプロトタイプHCMV株に対して株重複的な中和免疫応答のみならず株特異的な中和免疫応答も誘導するために適当である。
【0108】
野生型抗原、即ち、HCMV野生型株に存在するような抗原または非組換え抗原とは別に、それらの誘導体が、本発明の実施において使用され得ることは、本発明の範囲内である。抗原に関して本明細書において使用されるような誘導体という用語は、好ましくは、組換え抗原である抗原をさす。組換え抗原とは、一つの態様において、全長抗原と比較して短縮されているか、野生型抗原と同一の長さを有するが一つもしくはいくつかのアミノ酸変化を含むか、または付加的なアミノ酸残基を含む抗原である。短縮型抗原または一つまたはいくつかのアミノ酸変化を含む型に、付加的なアミノ酸残基が付加され得ることも、本発明の範囲内である。そのような短縮は、そのような短縮抗原の抗原特徴が依然として存在しているような程度で実施され得る。もう一つの態様において、組換え抗原は、全長抗原または短縮抗原とは別にさらなる部分を含む。そのようなさらなる部分は、好ましくは、HCMVとは異なるウイルスの抗原、微生物、好ましくは、病原性微生物の抗原、または病原体である非微生物の抗原に由来する。好ましくは、病原性微生物は、哺乳動物にとって、より具体的にはヒトにとって病原性の微生物であり、病原体は、哺乳動物にとって、より具体的にはヒトにとって病原性の病原体である。さらなる部分は、全長抗原またはそれらの短縮型であり得る。一つの態様において、さらなる部分は、本明細書に記載された免疫応答のうちの一つまたはいくつかを誘発するのに適当である。さらなる態様において、抗原の誘導体は異種抗原である。さらなる態様において、抗原の誘導体は、好ましくは本明細書において定義されるような、異種抗原である。好ましくは、多様な型のHCMV粒子により誘発され得る免疫応答は、少なくとも以下のうちの一つである:抗原特異的CD8+T細胞応答、抗原特異的細胞障害性T細胞応答、抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答、抗原特異的抗体応答(好ましくは、そのような抗体応答の抗体は中和抗体である)、抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞応答。
【0109】
本発明の実施において特に有用なHCMVのビリオンおよび/またはデンスボディは、国際特許出願WO 00/53729に記載されるようにして調製され得る。
【0110】
不活化のための本明細書に記載された様々な措置は、それ自体、当技術分野において公知であり、本発明に適用され得ることが、当業者により認識されるであろう。
【0111】
図面および実施例により本発明を以下にさらに例示する。図面および実施例からは、さらなる特色、態様、および利点が理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】対応抗原または異種抗原との融合タンパク質を含有している組換えDBを作製するための戦略を示す。
【図2】pp65ペプチドミックス(図2a)および非HCMVペプチド(図2b)による再刺激の際の、様々な不活化手法で処理されたDB調製物に対するCD8+細胞障害性T細胞応答を示す。
【図3】様々な不活化手法で処理されたDB調製物の抗HCMV IgG応答を示す。
【図4】pp65ペプチドミックス(図4a)および非HCMVペプチド(図4b)による再刺激の際の、2種の異なる不活化手法で処理されたDB調製物に対するCD8+細胞障害性T細胞応答を示す。
【図5】2種の異なる不活化手法で処理されたDB調製物の抗HCMV IgG応答を示す。
【図6】残存感染性を不活化し、かつ非融合性にするために処理(半動的UVC照射)されたDB調製物、またはそのような処理に供されなかったDB調製物に対するCD8+細胞障害性T細胞応答を示す。pp65ペプチドミックス(図6a)および非HCMVペプチド(図6b)による再刺激。
【図7】融合性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図8】融合性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図9】融合性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図10】融合性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図11】融合性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図12】融合性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図13】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図14】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図15】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図16】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図17】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図18】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【図19】感染性アッセイの結果を示す顕微鏡写真である。ここで、融合性について試験されたHCMV粒子は、異なる不活化方法に供された。
【発明を実施するための形態】
【0113】
実施例1:材料および方法
以下は、本発明の実施において使用された、または当業者が本発明を実施するために有用であろう、様々な材料および方法の概要である。
【0114】
簡単に説明すると、残存HCMV感染性を不活化し、かつ材料を非融合性にするために、HCMV DB調製物を処理した。その後、四つの異なる主要な型の分析を、不活化された材料を用いて行った。マウスにおいて抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答を誘導する能力を分析した。特異的抗HCMV抗体を誘導する能力を分析した。残存感染性を不活化するために処理されたDB材料の感染性を分析した。不活化された材料の融合性を分析した。
【0115】
1. 残存HCMV感染性の不活化
HCMVビリオンおよび/またはHCMVデンスボディを含有している組成物における残存HCMV感染性を不活化するため、本発明に関して様々な方法を使用した。
【0116】
1.1 半動的UVC処理
低速で振とう中の24穴細胞培養プレートにおいて、5分間、DB調製物の300μlアリコート(0.2mgタンパク質/ml PBS)に、上からUVC光を照射した(254 nm;720 mJ/cm2のUVC線量;UVC光:Schutt Osram HNS 11ワット)。
【0117】
1.2 ガンマ線照射
ドライアイス上で、2mlガラスバイアルにおいて、DB調製物の675μlのアリコート(0.2mgタンパク質/ml)に、52 KGyのガンマ線を与えた。不活化過程の後、その後の分析のため材料を-80℃で凍結させた。
【0118】
1.3 低pH
DB調製物1.15ml(0.2mgタンパク質/ml)を、100mMクエン酸ナトリウムpH4.5と混合し、30℃で60分間インキュベートした。その後、超遠心分離(45分、SW50.1ローター)により材料をペレット化し、その後の分析のため1.1mlのPBSに再懸濁させた(-80℃で保管)。
【0119】
1.4 熱処理
DB調製物1.15ml(0.2mgタンパク質/ml)を、56℃で30分間インキュベートした。不活化過程の後、その後の分析のため材料を-80℃で凍結させた。
【0120】
1.5 β-プロピオラクトン(BPL)
試料1.15ml(0.2mgタンパク質/ml)を、10mlの50mMトリス/HCl pH8.0および0.24mlの新鮮に調製された50mMトリス/HCl pH8.0(0.21%v/v BPL最終濃度)中の10%BPL溶液と混合した。試料を、30℃で60分間インキュベートした。その後、超遠心分離(45分、SW50.1ローター)により材料をペレット化し、その後の分析のため1.1mlのPBSに再懸濁させた(-80℃で保管)。
【0121】
1.6 動的UVC処理およびその後のガンマ線照射
HCMV粒子を含有している細胞培養上清(色素を含まない培地)に、小型UVivatec Labユニット(BTS Bayer Technology Services, D-51368 Leverkusen, Germanyより供給)を用いて、200 mJ/cm2の動的UVC線量を与えた。254 nmにおける線量を、BTSより供給された計算書に従って計算した。続いて、DB調製物をガラスバイアルに充填し、ドライアイス上で23.8 KGyのガンマ線照射を与えた。その後の分析のため-80℃で保管。
【0122】
2. HCMVビリオンおよびHCMVデンスボディの、マウスにおいて抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答を誘導する能力の試験
概要:残存HCMV感染性を不活化するために処理されたDB材料により、マウスを免疫感作する。マウスを屠殺し、脾臓を取り出す。続いて、脾単細胞懸濁物を調製し、赤血球を溶解させる。その後、残存する脾細胞を、細胞培養物に入れ、明確なペプチドと共にインキュベートする。その後、脾細胞を、IFNガンマ陽性CD8+T細胞の数について分析する。HCMV抗原pp65に特異的なペプチドは、DBに含有されていたpp65により免疫感作されたマウスに起因するため、脾細胞を再刺激するであろう。このアッセイにおいて、pp65に特異的な(脾細胞懸濁物に含有されていた)CD8陽性細胞障害性T細胞は、IFNガンマを産生するであろう。無関係の非HCMVペプチドによる脾細胞の処理は、陰性対照として役立つ。無関係の非HCMVペプチドによる処理は、マウスがこの抗原により以前に免疫感作されていないため、IFNガンマ陽性CD8+細胞障害性T細胞の誘導に至らないはずである。IFNガンマ産生CD8+T細胞傷害性細胞の分析を、フローサイトメトリー(FACS)によって実施する。
【0123】
2.1 マウスの免疫感作
8週齢雌BALB/cマウスを、20μgのDB調製物により免疫感作した(s.c.)。3週間後、20μgのDB調製物により追加刺激した(s.c.)。さらに2週間後、動物を、pp65特異的CTL応答の分析のため、抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞の分析のため、HCMV特異的抗体応答の分析のため、そしてHCMV中和抗体応答の分析のために屠殺した。
【0124】
2.2 マウス脾臓におけるpp65特異的CTLの再刺激
2.2.1. 脾細胞の調製
・全ての必要とされる緩衝液を37℃に加温する。
・脾臓を採取する。
・50mlファルコンチューブに100μm Falcon Nylonシーブを取り付け、単細胞懸濁物を作製するために脾臓をメッシュに押し通し、全部で10mlのPBS/1%FCSで濯ぐ。
・20℃で1400rpm(250〜300g)で5分間、遠心分離する。
・上清を廃棄し、10mlの赤血球溶解緩衝液(37℃)にペレットを再懸濁させる。
・室温(RT)で3分間、インキュベートする。
・20℃で1400rpm(250〜300g)で4分間、遠心分離する。
・10mlのPBS/1%FCSでペレットを洗浄し;20℃で1400rpmで4分間、遠心分離し;10mlのPBS/1%FCSで2回目の再懸濁を行い、結合組織の塊を除去する。
・細胞濃度を決定するためにアリコートを採取する(決定のために10倍希釈を使用する)。
・20℃で1400rpm(250〜300g)で4分間、遠心分離する。
・Click's RPMI/完全培地にペレットを再懸濁させ、濃度を1.5×107細胞/mlに調整する。
・再刺激の型一つにつき4個の平行のウェル(1ウェル当たり100μlの細胞懸濁物)(四連)が必要。
【0125】
2.2.2 ペプチド
2.2.2.1 HCMV pp65特異的ペプチドによる再刺激の場合
試薬:JPT Peptide Technologies GmbH(10115 Berlin)製のPepMix pp65 HCMVA;pp65(HCMVA)#P06725(1バイアル=各ペプチド25μg);138種のペプチドのミックス(15量体、オーバーラップ11);分析等級DMSO中400μg/mlの保管ストック(-20℃で維持);2μg/mlのワーキングストックを調製する。
【0126】
2.2.2.2 非関連対照ペプチドによる再刺激の場合
試薬:非関連9量体対照ペプチド。例えば、BALB/cマウスのため、Kd結合マラリアペプチド

;DMSO中1mg/mlの保管ストック(-20℃で維持);2μg/mlのワーキングストックを調製する。
【0127】
2.2.3 ブレフェルジンA
DMSO中10mg/mlのブレフェルジンAストック(Sigma#B-7651)を調製する;Click's RPMI/完全培地中20μg/mlのワーキング溶液を調製する(再刺激ウェルにおいて5μg/mlの最終濃度)。ブレフェルジンAはゴルジ輸送を阻止し、それにより、産生されたサイトカインの分泌を阻害する。ブレフェルジンA処理下では、サイトカインは細胞内に残留するため、細胞内染色法を使用して、サイトカイン産生細胞を検出することが可能である。
【0128】
2.2.4 PMA/イオノマイシン
PMA(ホルボール12-ミリステート13-アセテート)(Sigma#P8139);DMSO中1mg/mlのストックを調製する;Click's RPMI/完全培地中0.4μg/mlのワーキング溶液を調製する(再刺激ウェルにおいて0.05μg PMA/ml)。
【0129】
イオノマイシン(Sigma#I0634);DMSO中1mg/mlのストックを調製する;Click's RPMI/完全培地中4μg/mlのワーキング溶液を調製する(再刺激ウェルにおいて0.5μg PMA/ml)。
【0130】
PMAおよびイオノマイシンは、T細胞をポリクローナルに刺激する。それは、細胞品質および細胞内染色法が最適であったことを確証するための陽性対照として、アッセイにおいて機能する。
【0131】
2.2.5 Click's RPMI/完全培地
AppliChem#A2504製の10.81gの粉末Click's RPMI(+L-グルタミン/−NaHCO3
+1.175gのNaHCO3
蒸留水で1lにする→滅菌濾過
+グルタミン2mM
+PenStrep−100U/mlペニシリン、l00μg/mlストレプトマイシン
+5%ウシ胎仔血清(FCS)(Invitrogen/Gibco#10106-185)
+β-メルカプトエタノール4×10-6M
+ヘペス緩衝液10mM(Invitrogen/Gibco#15630-049)
【0132】
2.2.6 再刺激セットアップ
・再刺激のために使用された脾臓およびペプチド一種につき、100μlの脾細胞懸濁物を96丸底プレートの4個のウェルに各々ピペットで移す(最終的に1ウェル当たり1.5×106細胞)。
・50μlペプチドワーキング溶液または25μl PMA/25μlイオノマイシンワーキング溶液を添加する。
・50μlブレフェルジンA(20μg/ml)を添加する。
・FACS分析前に37℃(5%CO2)で4時間インキュベートする。
【0133】
2.3 FACS分析のためのCD8陽性(CD8+)T細胞/細胞内IFNγ染色
1日目:
・固定緩衝液を室温(RT)に調整する。
・再刺激セットアップを含有している96穴丸底プレートを遠心分離する(1400rpm/4分/4℃/ブレーキ使用;250〜300g)。
・90μlの緩衝液A(PBS+0.5%(w/v)BSA+0.1%(w/v)NaN3)により、平行のインキュベーション(4連)のペレットをプールし、新たな96穴丸底プレートに移す。90μlの容量での濯ぎを繰り返し、再刺激セットアップから全ての残存する細胞を得る→各セットアップ型につき180μlの全容量。
・新たなプレートを遠心分離する。
・各ウェルに120μlのハイブリドーマ上清(2.4G2)を添加し、混合し、4℃で15分間インキュベートする。
・プレートを遠心分離し、上清を除去する。
・100μlの抗マウスCD8.PE(緩衝液Aで200倍希釈)を添加する→ペレットを再懸濁させる→4℃で20分間インキュベートする。
・インキュベーション時間の後、l00μlの緩衝液Aを添加する。
・プレートを遠心分離し、150μlの緩衝液Aで2回洗浄/遠心分離する。
・ペレットに150μlの固定緩衝液(PBS中1%パラホルムアルデヒド)を添加し、再懸濁させ→RTで15分間インキュベートする(暗所で)。
・プレートを遠心分離する→150μlの緩衝液Aにペレットを再懸濁させる。
・プレートは、細胞内染色に進む前に、一晩または二晩このように4℃で保存され得る。
【0134】
2日目:
・プレートを遠心分離する→1ウェル当たり150μlの緩衝液Bに再懸濁させる→RTで15分間インキュベートする(暗所)。
・遠心分離する→50μl/ウェルの抗IFNγ.FITC(緩衝液Bで200倍希釈)を添加する→再懸濁させ、RTで30分間インキュベートする(暗所で)。
・100μlの緩衝液B(PBS+0.5%(w/v)BSA+0.5%(w/v)サポニン+0.05%(w/v)NaN3)を添加し、スピンする。
・1ウェル当たり150μlの緩衝液Bにより3回洗浄する。
・1ウェル当たり150μlの緩衝液Aに細胞を再懸濁させ、FACSチューブに移す。
・残りの細胞を150μlの緩衝液Aに再懸濁させ、同FACSチューブにプールする。
・フローサイトメトリーにより各試料60000個のCD8+T細胞を分析する。
【0135】
その他の試薬
Falcon Nylonシーブ100μm(Falcon Cat#352360)。
抗マウスCD8a PEコンジュゲート、0.2mg/ml;Cat#553033;BD Biosciences。
FITCコンジュゲートラット抗マウスIFNy、0.1mg;ラットIgG1;クローンXMG1.2、Cat#554411;BD Biosciences。
パラホルムアルデヒドEM等級、Cat#00380-250;250mg Polysciences Europe。
サポニン(キラヤ皮由来)、Sigma#S-2149;25g;
【0136】
赤血球溶解緩衝液
NH4Clストック溶液0.16Mを調製する。トリスストック溶液0.17Mを調製する。4.5リットルのNH4Clストックおよび0.5リットルのトリスストックを混合し、1時間撹拌し、次いでpH7.2に調整する。オートクレーブする。
【0137】
2.4G2ハイブリドーマ上清
抗Fcγ受容体FcRII;約4日間の培養からの培養上清(密な細胞叢)。抗Fcγ受容体FcRIIは、CD8およびIFNγの染色のために使用された抗体の細胞Fc受容体との非特異的結合を防止するものである。染色のために使用された抗体の非特異的結合は、偽陽性シグナルに至るであろう。
【0138】
2.4G2ハイブリドーマはATCCより入手可能である。
【0139】
固定緩衝液
PBS中1%パラホルムアルデヒド:100mlのPBS中1gのパラホルムアルデヒド[ケミカルフードの下での重量];溶解させるため、70℃で1時間加熱する;4℃で保存する。
【0140】
3. マウスにおける抗HCMV IgG応答を決定するためのELISA
材料:SERION ELISA古典的CMV IgG(Clindia);HCMV溶解物がコーティングされた既製ストリップ(ESR109G)。
【0141】
試料:マウス血清(2.1を参照のこと)。
【0142】
手法:
・血清 各ウェルに(PBS/Tで)希釈された血清100μlを添加する:例えば、125倍、250倍、500倍、1000倍、2000倍、4000倍、および8000倍。振とうせずに37℃で1時間インキュベートする。
・洗浄:抗体溶液をシンクに注ぎ出す。各200μlの洗浄緩衝液で5回ウェルを濯ぐことによりプレートを洗浄する。3回目の洗浄工程の後、積み重ねた数枚のペーパータオルの上にプレートを逆さにして軽くたたくことにより残存液体を除去する。
・AK/HRP:PBS/Tで1000倍希釈されたAK抗マウスIgG HRPコンジュゲートを100μl/ウェルで添加し、振とうせずに37℃で1時間インキュベートする。
・洗浄:工程2を繰り返す。
・染色:使用直前に染色溶液を調製する:1mg OPD/mL基質緩衝液+1μl/ml H2O2(例えば、11mlの基質緩衝液に11mgのOPDを溶解させ、11μlのH2O2を添加する)。100μl/ウェルの染色液を添加し、暗所でRTで10〜15分間インキュベートする。
・停止:50μlの停止溶液を添加し、492 nmでELISAリーダーで測定する。
【0143】
試薬
PBST 0.05%(v/v)Tween 20を含むPBS
基質緩衝液 0.1M KH2PO4 pH6.0
停止溶液 1N H2SO4(=0.5M H2SO4
基質(OPD) O-フェニレンジアミン結晶;Sigma P-2903 H2O2 30%
抗体 ポリクローナルウサギ抗マウスIgG HRPコンジュゲート、DAKO(1.3g/l)、#P0260
【0144】
4. HCMV粒子の融合性の試験
このアッセイの目的は、HCMV粒子が、MRC5ヒト繊維芽細胞のような特定の標的細胞と依然として融合し得るか否かを試験することである。HCMV pp65タンパク質がそれぞれの標的細胞に導入され得るか否かが分析される。これは、免疫蛍光顕微鏡検により行われる(抗pp65;核内の緑色蛍光染色)。DBの繊維芽細胞との融合により、pp65タンパク質は標的細胞の細胞質に放出される。pp65は、核に輸送されるため、免疫染色により核内に検出される。HCMV陰性標的細胞と融合していないHCMV粒子において、外被タンパク質pp65はHCMV粒子内に位置する。それは標的細胞内には存在しない。逆に、HCMV粒子と融合した細胞においては、細胞内に緑色蛍光染色が存在し、それは、細胞の核内のpp65の存在を示すであろう。
【0145】
融合性アッセイのプロトコル
・進行中の培養物から100μlのMRC5ヒト繊維芽細胞(ATCC#ATCC-CCL-171)を新鮮な培養物に移す(1×105細胞/ml培養培地;37℃、5%CO2;4連;96穴プレート)。
・37℃で一晩インキュベートする。
・各ウェルから70μlの培地を除去し、融合性について試験すべき試料5μlを添加する。
・1時間後、70μlの培地を戻し入れ、24時間インキュベートする。
・細胞から上清を除去する(96穴プレート)。
・200μl/ウェルの96%エタノールを添加し、RTで20分間インキュベートする。
・1ウェル当たり150μlのPBS/0.1%Triton X100で4回洗浄する。
・RTで15分間、1ウェル当たり50μlのSN2.4G2でブロッキングする。
・細胞から上清を除去する。
・一次抗体(50μl/ウェル)を添加する:抗pp65、PBS中100倍希釈、#C8A023M。
・37℃で1時間インキュベートする。
・1ウェル当たり150μlのPBS/0.1%Triton X100で3回洗浄する。
・50μl/ウェル:二次抗体+エバンスブルー(2.AbはPBSで50倍希釈/エバンスブルーはPBSで25倍希釈)#E0413を添加し、37℃で30分間インキュベートする。
・1ウェル当たり150μlのPBS/0.1%Triton X100で4回洗浄する。
・50μl/ウェルのストレプトアビジン/FITC(PBS中100倍)(Beckman Coulter#PNIM0307)を添加する。
・4℃で15分間インキュベートする。
・1ウェル当たり150μlのPBS/0.1%Triton X100で3回洗浄する。
・1ウェル当たり150μlのPBS(TX100不含)を添加し、蛍光顕微鏡顕による分析の準備が整うまで、アルミニウムホイルで覆って(遮光)、4℃で保存する。
・蛍光顕微鏡顕により分析する。
【0146】
一次抗体:
融合性を示すため:抗pp65、クローン1-L-11、マウス腹水、Biodesign,Cat#C8A023M、1mg/ml;PBSで100倍希釈して使用する。
【0147】
二次抗体:
ポリクローナルウサギ抗マウスIg/ビオチン化ウサギF(ab')2、Dako#E0413(0.79g/l);PBSで50倍希釈して使用する。
【0148】
エバンスブルー:
Fluka#46160−PBSに0.5%で溶解させ、PBSで25倍希釈して使用する。
【0149】
ストレプトアビジン-DTAF(Strep/FITC)
Beckman Coulter#PNIM0307(1.8mg/ml);PBSで100倍希釈して使用する。
【0150】
PBS/0.1%Triton X100(洗浄用)。
【0151】
SN2.4G2ハイブリドーマ上清
抗Fcガンマ受容体FcRII;約4日間の培養からの培養上清(密な細胞叢)。抗Fcガンマ受容体FcRIIは、CD8およびIFNγの染色のために使用された抗体の細胞Fc受容体との非特異的結合を防止するものである。染色のために使用された抗体の非特異的結合は、偽陽性シグナルに至るであろう。
【0152】
2.4G2ハイブリドーマはATCCより入手可能である。
【0153】
培地:
10%FCSを含むMEM
2mMグルタミン
50mg/mlゲンタマイシン
1mM MEMピルビン酸ナトリウム
1×NEAA(非必須アミノ酸)
【0154】
5. HCMV粒子の感染性の試験
感染性試験アッセイは、効果的なウイルス不活化を確認するために使用される。このアッセイにおいては、繊維芽細胞を、感染性ウイルスを含有している試料(陽性対照)または不活化ウイルスを含有している試料(非感染性)と共にインキュベートする。その後のAEC(=3-アミノ-9-エチルカルバゾール)染色は、標的タンパク質を可視化する免疫組織化学アッセイである。この場合、細胞感染の直後に出現するウイルスタンパク質であるHCMV IEA(最初期抗原)(IEAは48時間で強度ピークに達し、HCMV感染周期全体にわたり持続する)に対して、モノクローナルマウス抗体がターゲティングされる。二次抗体はHRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)にコンジュゲートされた抗マウスポリクローナル抗体である。未結合のコンジュゲートを洗浄除去し、色素生産性基質(AEC)を添加する。この基質は結合した酵素コンジュゲートにより加水分解され、顕微鏡検により視覚的に観察され得る赤色の不溶性最終生成物を生ずる。IEAは核タンパク質であるため、HCMV感染細胞は、有色の核により同定され得る。標準品は、染色手法の対照としてのみ機能する。所定の試料は、細胞核がそれぞれのウェルにおいて染色されない場合、非感染性と見なされる。
【0155】
感染性アッセイのプロトコル
・進行中の培養物から100μlのMRC5ヒト繊維芽細胞(ATCC, #CCL-171)を新鮮な培養物に移す(1×105細胞/ml培養培地;37℃、5%CO2;4連;96穴プレート)。
・24時間後、感染性について試験すべき材料の希釈物100μlを100μlの細胞に添加する(例えば、表2において:それぞれ、標準品の200倍希釈物または試験品のタンパク質0.3μg)。
・37℃で48時間インキュベートする。
・48時間後、HCMV上清を除去する。
・各150μlのPBS/ウェルで細胞を洗浄する。
・RTで20分間、細胞を96%エタノール(200μl/ウェル)で固定する。
・PBS(150μl/ウェル)で2回洗浄する。
・PBSで100倍希釈されたIE抗原に対する一次抗体(αHCMV IEA、Argene;#11-003)を添加する(50μl/ウェル)。
・プラスチックラップで覆い、湿潤チャンバー(インキュベーター)内で37℃で60分間インキュベートする。
・各150μl/ウェルのPBS/0.1%Triton X100で3回洗浄する。
・PBSで500倍希釈された二次抗体;抗マウスペルオキシダーゼ(例えば、Dako P0260)を添加する(50μl/ウェル)。
・プラスチックラップで覆い、湿潤チャンバー(インキュベーター)内で37℃で60分間インキュベートする。
・各150μl/ウェルのPBS/0.1%Triton X100で3回洗浄する。
・染色:酢酸緩衝液で20倍希釈し、予め酢酸緩衝液で湿らせたペーパーフィルターで2回濾過したAECストック。
・染色手法の直前に、1000倍希釈のH2O2(30%)を添加する。
・この染色溶液から100μl/ウェルを添加する。
・暗所(インキュベーター)で37℃で正確に1時間インキュベートする。
・各150μl/ウェルのPBSで2回洗浄する。
・顕微鏡顕のため1×PBS(150μl/ウェル)を添加する;4℃で保存する。感染核は明るい赤色になる。
【0156】
AECストック:
400mgのAEC(=3-アミノ-9-エチルカルバゾール;Sigma;#A6926)をDMF(ジメチルホルムアミド;Roth;#6251.1)で100mlにする;2mlアリコートを調製し、-20℃で保存する。
【0157】
酢酸緩衝液:
13.6gの酢酸ナトリウム×3 H2O+2.88mlの氷酢酸+H2Oで1000mlにする。pH4.9に調整する。
【0158】
培地:
10%FCSを含むMEM
2mMグルタミン
50mg/mlゲンタマイシン
1mM MEMピルビン酸ナトリウム
1×NEAA(非必須アミノ酸)
【0159】
実施例2
結果
pp65特異的CD8+CTL応答の結果
要約すると、これは、残存HCMV感染性を不活化し、かつDB調製物を非融合性にするために処理されたDB調製物が、マウスにおいてpp65特異的CD8+細胞障害性T細胞応答を誘導する能力を維持していたことを示している(図2および4)。処理された試料は、図7〜12に示されるように非融合性であり、かつ表2に示されるように非感染性であった。
【0160】
残存HCMV感染性を不活化し、かつDB調製物を非融合性にするために処理されたDB調製物は、未処理のHCMV調製物と同等に免疫原性であることが示された(図6)。これは、マウスにおけるHCMVpp65特異的CD8+細胞障害性T細胞応答により判断された。
【0161】
図2は、実施例1に概説されたように残存感染性を不活化し、かつ非融合性にするために処理されたDB材料により免疫感作されたBalb/Cマウスからの結果を示す:それぞれ、UVC(720 mJ/cm2)、低pH、高温、ガンマ線照射(52 KGy)、およびβ-プロピオラクトン。X軸は、CD8+T細胞105個当たりのIFNガンマ産生CD8+細胞障害性T細胞の数を示す。このアッセイにおいて、pp65に特異的な(脾細胞懸濁物中に含有されていた)CD8陽性細胞障害性T細胞は、IFNガンマを産生するであろう(図2a)。非関連非HCMVペプチドによる脾細胞の処理は、再刺激の陰性対照として機能する(図2b)。結果は、残存感染性を不活化するために処理されたDB調製物ですら、依然としてHCMV pp65に対して特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答を誘導し得ることを示している。PBSにより免疫感作されたマウスは、IFNガンマ産生CD8+T細胞をほとんど示さなかった。
【0162】
図4は、実施例1に概説されたように残存感染性を不活化し、かつ非融合性にするために処理されたDB材料により免疫感作されたBalb/Cマウスからの結果を示す:UVC照射のみ、または動的UVCおよびその後のガンマ線照射(23.8 KGy)のいずれか。X軸は、CD8+T細胞105個当たりのIFNガンマ産生CD8+細胞障害性T細胞の数を示す。このアッセイにおいて、pp65に特異的な(脾細胞懸濁物中に含有されていた)CD8陽性細胞障害性T細胞は、IFNガンマを産生するであろう(図4a)。非関連非HCMVペプチドによる脾細胞の処理は、再刺激の陰性対照として機能する(図4b)。結果は、2種の照射手法の組み合わせにより処理されたDB調製物ですら、依然としてHCMV pp65に対して特異的なCD8+細胞障害性T細胞応答を誘導し得ることを示している。PBSにより免疫感作されたマウスは、IFNガンマ産生CD8+T細胞をほとんど示さなかった。
【0163】
図6は、DB材料により免疫感作されたBalb/Cマウスからの結果を示す。材料は、残存感染性を不活化し、かつ非融合性にするために処理されたか(半動的UVC照射)、またはそのような処理に供されなかった。
【0164】
X軸は、CD8+T細胞105個当たりのIFNガンマ産生CD8+細胞障害性T細胞の数を示す。このアッセイにおいて、pp65に特異的な(脾細胞懸濁物中に含有されていた)CD8陽性細胞障害性T細胞は、IFNガンマを産生するであろう(図6a)。非関連非HCMVペプチドによる脾細胞の処理は、再刺激の陰性対照として機能する(図6b)。結果は、残存HCMV感染性を不活化し、かつDB調製物を非融合性にするために処理されたDB調製物は、未処理のHCMV調製物と同等に免疫原性であったことを示している。これは、マウスにおけるHCMVpp65特異的CD8+細胞障害性T細胞応答により判断された。PBSにより免疫感作されたマウスは、IFNガンマ産生CD8+T細胞をほとんど示さなかった。
【0165】
抗HCMV IgG応答の結果
要約すると、これは、残存HCMV感染性を不活化し、かつDB調製物を非融合性にするために処理されたDB調製物が、特異的な抗HCMV IgG応答を誘導する能力を維持していたことを示す(図3および5)。試料は、図7〜12に示されるように非融合性であり、かつ表2に示されるように非感染性であった。
【0166】
図3は、実施例1に概説されたように残存感染性を不活化し、かつ非融合性にするために処理されたDB材料により免疫感作されたBalb/Cマウスからの結果を示す:それぞれUVC(720 mJ/cm2)、低pH、高温、ガンマ線照射(52 KGy)、およびβ-プロピオラクトン。アッセイシグナルを依然として誘導することができる最大血清希釈度が高いほど、強い抗HCMV応答が誘導されている。結果は、2種の照射手法の組み合わせにより処理されたDB調製物ですら、依然として、特異的な抗HCMV IgG応答を誘導し得ることを示している。
【0167】
図5は、実施例1に概説されたように残存感染性を不活化し、かつ非融合性にするために処理されたDB材料により免疫感作されたBalb/Cマウスからの結果を示す:UVC照射のみ、または動的UVCおよびその後のガンマ線照射(23.8 KGy)のいずれか。アッセイシグナルを依然として誘導することができる最大血清希釈が高いほど、強い抗HCMV応答が誘導されている。結果は、2種の照射手法の組み合わせにより処理されたDB調製物ですら、依然として、特異的な抗HCMV IgG応答を誘導し得ることを示している。
【0168】
融合性アッセイの結果:
要約すると、結果は、pp65特異的CD8+細胞障害性T細胞応答(図2および4)のみならず、特異的抗HCMV抗体の誘導(図3および5)も示すために使用された不活化DB調製物が、非融合性であり;かつ、表2に示されるように非感染性であったことを示す。試料は、実施例1に概説されたように処理された。試料P4における非特異的な緑色染色は、アーチファクトによるものであった。
【0169】
典型的な感染性アッセイの結果
要約すると、結果は、残存HCMV感染性を不活化し、かつDB調製物を非融合性にするために処理されたDB調製物が、非感染性であったことを示す。しかしながら、HCMV抗原pp65に特異的なCD8陽性細胞障害性T細胞応答を誘導する能力により判断されるように(図2および4)、そして特異的抗HCMV IgGを誘導する能力により判断されるように(図3および5)、これらの試料は免疫原性を維持していた。培地のみと共にインキュベートされた細胞は、陰性対照として機能した。不活化されていない標準品のみが、赤く染色された核を誘導することができた、即ち、感染性であった。試料は、実施例1に概説されたように処理された。
【0170】
【表2】

【0171】
本明細書、特許請求の範囲、および/または図面に開示された本発明の特色は、別々にも、それらのいずれかの組み合わせでも、様々な形態で本発明を実現するための材料であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子を含む組成物であって、ビリオン、NIEP、および/またはデンスボディが非融合性であるにも関わらず、免疫応答を明らかにすることができる、組成物。
【請求項2】
以下の工程を含む方法により入手可能な、ビリオン、NIEP、および/またはデンスボディが非融合性であるにも関わらず、免疫応答を明らかにすることができる、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子を含む組成物:
(c)該因子のうちの一つまたはいくつかを提供する工程;
(b)依然として免疫応答を誘導し得るにも関わらず、非融合性であるようにするため、該因子を処理する工程。
【請求項3】
免疫応答が抗原特異的CD8+応答である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
免疫応答が抗原特異的細胞障害性T細胞応答である、請求項1〜3いずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
免疫応答が抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答である、請求項1〜4いずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
免疫応答が抗原特異的抗体応答であり、好ましくは、免疫応答が、抗体が中和抗体である抗原特異的抗体応答である、請求項1〜5いずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
免疫応答が抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞応答である、請求項1〜6いずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
抗原がHCMV抗原であり、該HCMV抗原が、好ましくは、pp65抗原、pp65抗原誘導体、pp28およびpp28誘導体、pp150およびpp150誘導体、gBおよびgB誘導体、gHおよびgH誘導体、ならびに最初期抗原およびそれらの誘導体、糖タンパク質および糖タンパク質誘導体、好ましくは、HCMV糖タンパク質およびHCMV糖タンパク質誘導体を含む群より選択され、糖タンパク質が、好ましくは、gMおよびgM誘導体またはgNおよびgN誘導体である、請求項1〜7いずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
因子が不活化されている、請求項1〜8いずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
薬学的組成物または診断用組成物である、請求項1〜9いずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
医薬、好ましくは、HCMVの抗原のうちの一つまたはいくつかに対する免疫応答を明らかにするための医薬の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用であって、因子が非融合性である、使用。
【請求項12】
免疫応答、好ましくは、HCMVの抗原のうちの一つまたはいくつかに対する免疫応答を明らかにするための医薬の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物、好ましくは、請求項11記載の組成物の使用であって、該組成物および/または因子が不活化に供されている、使用。
【請求項13】
ワクチンの製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用であって、因子が非融合性である、使用。
【請求項14】
ワクチンの製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物、好ましくは、請求項11記載の組成物の使用であって、該組成物および/または因子が不活化に供されている、使用。
【請求項15】
免疫応答が抗原特異的CD8+応答である、請求項11または12記載の使用。
【請求項16】
免疫応答が抗原特異的細胞障害性T細胞応答である、請求項11〜15いずれか一項記載の使用。
【請求項17】
免疫応答が抗原特異的CD8+細胞障害性T細胞応答である、請求項11〜16いずれか一項記載の使用。
【請求項18】
免疫応答が抗原特異的抗体応答であり、好ましくは、免疫応答が、抗体が中和抗体である抗原特異的抗体応答である、請求項11〜17いずれか一項記載の使用。
【請求項19】
免疫応答が抗原特異的CD4+ヘルパーT細胞応答である、請求項11〜18いずれか一項記載の組成物。
【請求項20】
抗原がHCMV抗原であり、該HCMV抗原が、好ましくは、pp65抗原、pp65抗原誘導体、pp28およびpp28誘導体、pp150およびpp150誘導体、gBおよびgB誘導体、gHおよびgH誘導体、ならびに最初期抗原およびそれらの誘導体、糖タンパク質および糖タンパク質誘導体、好ましくは、HCMV糖タンパク質およびHCMV糖タンパク質誘導体を含む群より選択され、糖タンパク質が、好ましくは、gMおよびgM誘導体またはgNおよびgN誘導体である、請求項11〜19いずれか一項記載の使用。
【請求項21】
ワクチンが、HCMV感染の処置および/または防止のためのものである、請求項13〜20いずれか一項記載の使用。
【請求項22】
ワクチンが、移植ドナーおよび/または移植レシピエントにおけるHCMVにより引き起こされる疾患の処置および/または防止のためのものである、請求項13〜21いずれか一項記載の使用。
【請求項23】
診断剤の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用であって、該因子が非融合性である、使用。
【請求項24】
診断剤の製造のための、HCMVビリオン、HCMVデンスボディ、およびHCMV NIEPを含む群より選択される因子、またはそのような因子を含む組成物の使用であって、該組成物および/または因子が不活化に供されている、使用。
【請求項25】
以下の工程を含む、請求項1〜10いずれか一項記載の組成物の製造のための方法:
(a)HCMVビリオン、HCMV NIEP、およびHCMVデンスボディを含む群より選択される因子を提供する工程;
(b)依然として免疫応答を誘導し得るにも関わらず、非融合性であるようにするため、該因子を処理する工程。
【請求項26】
工程(b)の処理が、UV処理、高エネルギー照射、低pH処理、熱処理、および架橋剤による処理を含む群より選択される措置のうちの一つまたは任意の組み合わせである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
UV処理が、波長が約100 nm〜280 nmであるUVC処理、または長波UVによる処理である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
UV処理が、100〜2000 mJ/cm2、好ましくは100〜1000 mJ/cm2、より好ましくは150〜900 mJ/cm2の線量範囲を使用する、請求項26または27記載の方法。
【請求項29】
UV処理の前に、UV処理と同時に、またはUV処理に続いて、因子がガンマ線照射に供される、請求項26〜28いずれか一項記載の方法。
【請求項30】
高エネルギー照射がガンマ線照射である、請求項26記載の方法。
【請求項31】
ガンマ線照射に関して、ガンマ線が、約15〜70 KGy、より好ましくは20〜65 KGy、より好ましくは20〜60 KGyの線量範囲で投与される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
処理が低pH処理であり、該低pH処理が、約0〜5、好ましくは1〜4.5、より好ましくは2〜4.5のpHへの因子の曝露を含む、請求項20記載の方法。
【請求項33】
因子が、約0.5〜24時間、好ましくは0.5〜12時間、より好ましくは0.5〜6時間、低pH処理に供される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
因子が、約1〜50℃、好ましくは1〜45℃、より好ましくは1〜40℃で、低pH処理に供される、請求項32または33記載の方法。
【請求項35】
熱処理が、37.5〜65℃の温度、好ましくは37.5〜60℃の温度、より好ましくは37.5〜56℃の温度での因子のインキュベーションを含む、請求項26記載の方法。
【請求項36】
因子が、約5秒〜36時間、好ましくは5秒〜30時間、より好ましくは5秒〜24時間にわたりインキュベートされる、請求項35記載の方法。
【請求項37】
処理が、ラクトン、エトキシド、およびアルデヒドを含む群より各々独立に選択される一つまたはいくつかの架橋剤による処理である、請求項26記載の方法。
【請求項38】
架橋剤がβ-プロピオラクトンである、請求項37記載の方法。
【請求項39】
架橋剤がエチレンオキシドである、請求項37記載の方法。
【請求項40】
架橋剤がホルムアルデヒドである、請求項37記載の方法。
【請求項41】
因子が架橋剤に曝され、該因子を含有している媒体中の架橋剤、より好ましくはβ-プロピオラクトンの濃度が、0.01〜10%(v/v)、好ましくは0.05〜10%(v/v)、より好ましくは0.05〜7.5%(v/v)である、請求項37〜40いずれか一項記載の方法。
【請求項42】
因子が、1分〜72時間、好ましくは1分〜48時間、より好ましくは1分〜24時間にわたり、架橋剤、より好ましくはβ-プロピオラクトンと共にインキュベートされる、請求項37〜41いずれか一項記載の方法。
【請求項43】
因子が、約1℃〜約60℃の温度、好ましくは約1〜50℃の温度、より好ましくは約1〜40℃の温度でインキュベートされる、請求項37〜42いずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2010−526787(P2010−526787A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506864(P2010−506864)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003837
【国際公開番号】WO2008/138590
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(507132639)ワクチン プロジェクト マネジメント ゲーエムベーハー (2)
【出願人】(509310532)ライン バイオテック ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】