説明

HIDランプ

【課題】 放電容器に封入した希土類金属と電極との化学反応を抑制し、ランプの寿命を大幅に改善する。
【解決手段】 HIDランプ3は中央部を発光部3a、両端部を封止部位3bとし、封止部位3bにはフリットガラスからなる封止材料9を介して、ロットか、片側シールのパイプ(ブーツ)からなるNbの外部電極7、8が気密に保持され、これら外部電極7、8にはW(タングステン)またはMo(モリブデン)からなる内部電極10,11を溶接している。Nbロットか、片側シールのパイプ(ブーツ)からなる外部電極7、8の表面は発光部3a内に封入される希土類金属ハロゲン化物と同一の希土類金属の酸化物(例えばDy)からなる薄膜14で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高輝度・高効率・高演色性の灯具などのHIDランプに関する。
【背景技術】
【0002】
放電ランプの一般的な構造は、特許文献1に開示されるように、放電容器の両端に電極を保持すると共に、モリブデン箔を介して外部から電極に給電するような構成をしている。
【0003】
放電容器の材料としては、一般にシリカやアルミナセラミックスなどが用いられており、電極にはWとMoやNbなどの組み合わせと溶接が使われている。また放電容器内にはアルゴンガス、水銀、ナトリウムの他に、高演色性を発現させる目的でDyなどの希土類金属のいろいろなハロゲン化合物が封入されている。
【0004】
この種のHIDランプでは、給電により電極間でグロー放電が開始されると、電極の自己熱で、まず水銀の気化が始まる。
電極間の熱電子と水銀蒸気との衝突により水銀はいったん励起され、イオンとなるが、光を放ち再び水銀に戻る。この水銀に戻る過程で水銀固有の光(紫外線から可視光から赤外線まであらゆる波長の光)を放つ。これをアーク放電と称す。この現象に伴い、放電容器内の実温度は徐々に上昇し、ナトリウム、そしてメタルハライドも順次気化する。即ち、気体としての蒸気圧、つまりそれらの各々が一定の分圧を持つ。そして熱電子との衝突により、これらのメタルハライドの分子や金属類は励起し、イオンとなり、再び元の状態、つまりメタルハライドの分子や金属類に戻る過程で当該固有の光(分子発光や原子発光)を放つ。上記の過程の総称をハロゲンサイクルと称す。
【0005】
HIDランプにおいて、電極の実温度は入力電流や入力電圧によって支配されるが、製造工程で不可避に混入してしまう不純物が、電極先端のタングステンと化学反応を起こし、電極自体の融点を下げてしまう不具合が存在する(合金は純タングステンよりも必ず融点が低い)。融点が下がると、電極先端から合金が気化し、比較的温度の緩和な放電容器(放電管とも言う)の内壁に蒸着する、つまりランプの黒化を引き起こす。その結果、外への発光を遮ってしまう。これが光束維持率低下の原因のひとつである。
【0006】
特許文献2には、電極を金属体で被覆する構成、具体的には、封止部内の電極の周囲にタングステン線をコイル状に巻回することで、電極が過剰に高温になることを防止する対策内容が開示されている。
【0007】
またHIDランプでは、点灯時の放電容器内壁が1000℃に近くなるため、封止部からアルゴンガスが漏れ易い。そこで、特許文献3には、アルミナセラミックス製放電容器の両端を傾斜機能材料からなる閉塞体で封止し、この閉塞体の導電性部位にアルミナセラミックスと略熱膨張係数が等しいとされるニオブの外部電極を挿入し、導電性部位にてタングステンの内部電極と導通するなどの提案がなされている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−52830号公報
【特許文献2】特開2000−268773号公報
【特許文献3】特開2002−343304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
HIDランプにあっては、放電容器の封止部位において、その内壁と挿入した電極との間に不可避に隙間が存在する。この隙間にメタルハライドが停滞してしまう。その理由は、液体としてのメタルハライドの表面張力に依存するもので、つまりメタルハライドの粘性が高いことを意味する。そしていったん停滞したメタルハライドは、点灯により電極温度が上昇するに連れ、気体のハロゲンサイクルには寄与せず、電極との間で化学反応を引き起こしてしまう。
【0010】
具体的な現象としては、Dyが電極材料の一部であるNbと置換反応を起こし、Nbが放電容器内部に移動し、DyはNb(電極材料)内に留まる。そして気化したNbはランプ消燈時にタングステン電極先端(最冷部)に付着する。更に次の点灯時に電極の発熱によりWとNbの合金を形成する。この合金は純粋なタングステンよりも融点が低く、タングステン電極の先端が徐々に消耗すると言う現象を引き起こす。溶融した合金は、放電容器内壁に蒸着し、外への発光を遮ってしまう。これにより光は内壁で熱に変換され、放電容器内部の温度は、安定への期待に反して益々上昇する。これら一連の化学反応は増大の一途を辿り、最終的にランプの寿命が尽きる。
【0011】
そこで、本原因を回避するために、Nbがメタルハライドと反応しないように、Nbの部位を全てフリットガラスで覆うことが一般的に用いられている。
しかしながら、メタルハライドとDy−SiO−Alからなるフリットガラスのとの直接接触によって、フリットガラスのうち、とくにSiOがメタルハライドによって還元され易い。つまりメタルハライドの希土類金属はSiOから酸素を奪い、安定な酸化物と化す。一方フリットガラス中のSiOは、Si、もしくはSiOのハロゲン化物として、放電容器内部へ移動する。移動したSi、もしくはSiOのハロゲン化物は、放電容器内部で熱により乖離を起こし(ハロゲンと別れる)、Si、もしくはSiOとして振舞う。依って先のNbと同様に、消燈時に電極先端(最冷部)に付着し、次の点灯によってタングステンとの間で珪素化合物を形成する。これらの珪素化合物も純粋なタングステンに比べて融点が低く、タングステン電極の消耗を招いてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するべく本発明は、根本のトリガーとなるNbと希土類金属との置換を抑えるために、安定なDyからなる薄膜を電極に設けると同時に、SiOの置換はフリットガラスとメタルハライドの接触温度に依存するので、できる限りこの部位の温度を下げる、つまり放電の熱中心から遠避けるようにした。
【0013】
即ち本発明は、セラミックス製放電容器の両端部に封止部位を設け、これら封止部位でフリットガラスを介して電極を保持するHIDランプにおいて、前記電極のうちフリットガラスに接触する部分はNbまたはその合金からなり、このNbまたはその合金の表面、またはNbまたはその合金とWまたはMoからなる電極との溶接部位表面には、放電容器内に封入されるメタルハライドを構成する希土類金属の酸化物から成る薄膜が、封止以前に予め形成される構成とした。
【0014】
HIDランプの熱サイクルによる薄膜と電極の剥離を防ぐため、経験的に薄膜の厚みは30μm以下とすることが好ましい。また、前記希土類金属としてはディスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、ネオジウム(Nd)、ユロピウム(Eu)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)またはイッテルビウム(Yb)が挙げられる。
【0015】
希土類金属酸化物はNbロットの中心に向かって希土類金属酸化物の濃度が連続に薄くなる濃度傾斜が考えられ、希土類金属酸化物の連続傾斜薄膜の形成手段としては溶射法、CVD法、ガスデポジション法などが考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るHIDランプでは、封止部位にて保持される電極をNb(Nb合金)にて構成し、このNb(Nb合金)の表面、またはNb(Nb合金)とWまたはMo電極との溶接部位の表面を希土類金属酸化物の薄膜で覆うことにより、NbがW電極またはMo電極と低融点の合金を形成することを防止でき、寿命を大幅に改善できる。
【0017】
また、従来であればNbにて構成される部分を全てフリットガラスで覆う構成であったが、本発明では、既にNb電極表面或いはNb電極とWまたはMo電極との溶接部位の表面には希土類金属酸化物の薄膜が形成されているので、封入した希土類金属とこれらが反応することは無い。その結果、フリットガラスでNb部位の全てを覆う必要もなくなり、放電容器内表面に露出するフリットガラスの位置を、従来よりも、低い温度側に後退させることができる。このことにより、フリットガラスに不可避的に含まれるSiOが希土類金属によって還元され、SiやSiOを生成することを抑制でき、Nbの場合と同様に寿命が大幅に延びることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係るHIDランプを組み込んだ照明器具の全体図、図2は本発明に係るHIDランプの断面図、図3は電極の分解図、図4は封止部位の拡大断面図である。
【0019】
図1に示す照明器具は前面ガラスが不要な3重管構造をなし、外側管1内に内側管2を配置し、この内側管2の中に本発明に係るHIDランプ3を組み込み、口金4から延び導電体5、6をそれぞれHIDランプ3の外部電極7、8に接続している。この実施例では、外部電極7、8をNb(ニオブ)にて構成している。尚、7a,8aは外部電極7、8の一部を変形させて形成したストッパであり、このストッパ7a,8aを図4に示すように放電容器の端部に当てて組み立てることで、HIDランプとして重要な電極間距離を正確に設定できる。
【0020】
一般に放電ランプ3はシリカやアルミナセラミックスを材料としている。当該HIDランプ3は中央部を発光部3a、両端部を封止部3bとし、発光部3a内にはアルゴンガス、水銀、ナトリウムの他に希土類金属(Dy)等、複数種類のハロゲン化物(主にヨウ化物)が封入されている。
【0021】
封止部3bにはフリットガラスからなる封止材料9を介して前記Nb(ニオブ)の外部電極7、8が気密に保持され、これら外部電極7、8にはW(タングステン)またはMo(モリブデン)からなる内部電極10,11を溶接している。また、内部電極10,11の先端には放電用のコイル12を中間部には放熱用のコイル13を巻回している。
【0022】
前記封止材9は一般に1500℃強に融点を持つDy−SiO−Al系フリットガラスを用いる。この封止材料9は加熱以前は図3に示すようにリング状をなしている。
【0023】
またNb製の外部電極7、8の表面は発光部3a内に封入されるメタルハライドと同一の希土類金属酸化物(例えばDy)からなる薄膜14が形成されている。この希土類金属酸化物膜14の代わりに希土類金属酸化物の(100%酸化物→傾斜→100%ニオブ)同心円状の傾斜薄膜を形成しても良い。
【0024】
上記の薄膜を形成するには、以下の方法1〜3が考えられる。
(方法1)、
純度99.9%以上の希土類金属酸化物にNb電極を埋設し点灯時のNb電極の温度以上(500〜800℃)に一定時間保持し、Nb電極表面を希土類金属酸化物と直接接触させ、内部から表層に向かって希土類金属酸化物の濃度が徐々に濃くなる性質の薄膜を形成する。剥離を最小にするために、この薄膜の厚みはNb電極の直径が0.7mmφの場合には30μm以下とすることが望ましい。
【0025】
(方法2)
希土類金属のハロゲン化物とNb電極を、純度99.99%以上のアルゴンガス雰囲気中で、大気圧以下とし、かつ露点は−80℃から−100℃の範囲となるようにシリカ容器に密閉し、外から高周波加熱することで、ガス化したハロゲン化希土類金属とNb電極を反応させる。つまり希土類金属とNbを強制的に置換させる。そして、反応後のNb電極を大気中で加熱酸化させることにより、Nb電極の表面に安定な希土類金属酸化物の膜を形成する。
【0026】
(方法3)
大気中でNb電極の表面に希土類金属酸化物をアルゴンガスをキャリアガスとしながら吹き付けて高速・高温で溶射する。次いで、これを純度99.99%以上のアルゴンガス雰囲気中で、大気圧以下とし、露点は−80℃から−100℃の範囲となるようにシリカ容器に密閉し、外から高周波加熱することで、不純物を除去する。
【0027】
本発明にあっては、Nbの外部電極7、8の全部を封止材料9で覆わずに、外部電極7、8の一部は露出した状態で放電容器内に臨んでいる。従来であれば露出した部分において、封入した希土類金属とNbとが置換し、Nbがタングステン電極の先端まで移動して融点の低い合金を創っていたが、本発明ではNbの外部電極7、8の表面は予めDyなどの希土類金属の酸化膜で覆われているため、そのような反応が起こらない。また、外部電極7、8の全部を封止材料9で覆う必要がないので封止材料9の内表面を低温の領域まで後退させることができ、還元反応によって、放電管内部にSiやSiOが形成される不利も解消されている。
【0028】
図5(a)は電極の別実施例を示す図、(b)は(a)の要部拡大図であり、この実施例では内部電極10,11をNbからなるのブーツ15に圧入し、このブーツ15の部分を封止部で保持するようにしている。この実施例にあってもブーツ15の内外表面には、希土類金属酸化物の薄膜14または希土類金属酸化物の傾斜層が形成されている。
【0029】
図6(a)は別実施例に係る電極の溶接前の図、(b)は同電極の溶接後の図であり、Nbの外部電極16、Wの内部電極17との間をMoの中間電極18で連結している。Moの中間電極18を用いると、Nbとの溶接が容易であり、加工も容易で、かつ安価で、メタルハライドとの反応が乏しいので好ましい。
【0030】
そして、この別実施例ではNbの外部電極16とMoの中間電極18との溶接部19の表面まで希土類金属酸化物の薄膜14にて覆っている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るHIDランプの全体図
【図2】本発明に係るHIDランプの断面図
【図3】電極の分解図
【図4】封止部の拡大断面図
【図5】(a)は電極の別実施例を示す図、(b)は(a)の要部拡大図
【図6】(a)は別実施例に係る電極の溶接前の図、(b)は同電極の溶接後の図
【符号の説明】
【0032】
1…外側管、2…内側管、3…HIDランプ、3a…発光部、3b…封止部位、4…口金、5,6…導電体、7,8…外部電極、7a,8a…ストッパ、9…封止材、10,11…内部電極、12…放電用のコイル、13…放熱用のコイル、14…希土類金属の酸化膜、15…ブーツ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス製放電容器の両端部に封止部位を設け、これら封止部位でフリットガラスを介して電極を保持する高輝度・高効率・高演色性放電ランプ(以降HIDランプと記す)において、前記電極のうちフリットガラスに接触する部分はニオブ(以降Nbと記す)またはその合金からなり、このNbまたはその合金の表面、またはNbまたはその合金とタングステン(W)またはモリブデン(Mo)からなる電極との溶接部位表面には放電容器内に封入される希土類金属とハロゲンの化合物(以降メタルハライドと記す)を構成する希土類金属の酸化物から成る薄膜が、封止以前に予め形成されていることを特徴とするHIDランプ。
【請求項2】
請求項1に記載のHIDランプにおいて、前記希土類金属としてはディスプロシウム(Dy)、スカンジウム(Sc)、ネオジウム(Nd)、ユロピウム(Eu)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)またはイッテルビウム(Yb)であることを特徴とするHIDランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−311170(P2008−311170A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159867(P2007−159867)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【特許番号】特許第3995053号(P3995053)
【特許公報発行日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(507201599)
【Fターム(参考)】