説明

ICP分析装置及びその分析方法

【課題】高感度測定が出来るが装置の劣化を早めるプラズマの発生軸方向測定と、装置劣化は少ないが感度が低下するプラズマの横方向測定の、それぞれの特徴を生かした高感度かつ、装置の劣化を軽減させた斜め方向測定を行える装置。
【解決手段】ICP分析装置における集光部によるプラズマの光の取り込み方向に対して、前記プラズマトーチを任意の角度に設定するために、プラズマトーチと集光部とを対向的に直線状に配置したときを基準として、少なくともいずれか一方を回動させることにより任意の角度で対向させる構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)などの誘導結合プラズマ(以下、ICPと称する)分析装置に関し、特にICP分析装置のプラズマトーチと測光部に特徴を有するICP分析装置及びその分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に、従来のICP分析装置の概略構成図の一例を示す。誘導結合プラズマを生じさせるプラズマトーチ51と、該プラズマトーチ51に高周波電圧を印加する誘導コイル52、プラズマトーチ51の軸方向に発生するプラズマの光と、プラズマトーチ51の軸方向と直行する方向に発生するプラズマの光をそれぞれ取り入れる集光部53と、プラズマトーチ51の軸方向と直行する方向に発生するプラズマの光を分光部56に入射させることを目的とした固定ミラー54と、分光器に入射する光を、プラズマの発生方向からの光と、発生方向と直行する方向へ発生した光のいずれかを選択する機能を持った可変ミラー55からなっている。
【0003】
可変ミラー55を駆動させることにより、分析に応じてプラズマトーチ51の軸方向に発生するプラズマの光と、プラズマトーチ51の軸方向と直行する方向に発生するプラズマの光を切り替えて測定を行っていた(特許文献1参照)。
【0004】
このように、ICP分析装置における二方向からプラズマの光を集光することは、次のような理由がある。
【0005】
まず、軸方向からの集光では、中心軸近傍の分析に用いる光をより多く分光器に取り入れることができることによる。ICP分析装置のプラズマはドーナツ構造であり、プラズマ発生方向の中心軸近傍は低温域であってその周囲に向けて高温域となり、その高温域を経て再び低温域となる。試料は、ドーナツ構造のプラズマの中心に対してその中心軸方向に導入される。従って、試料はプラズマ中心の低温域に多く存在し、換言すれば測定感度が向上するため、軸方向の集光の利点がある。ただし、軸方法の集光では、試料と共に他の共存物も、プラズマから多く取り込むため分析結果に対してその影響を受けやすく、また、プラズマの中心軸近辺の高温域ではプラズマガスからの発光があり分析時のバックグラウンドとなる。
【0006】
一方、プラズマの横方向からの集光では、中心軸に近い程ほど試料の存在確率が高くなく、それ以外の他の共存物による影響が少ないため、分析結果の精度が高くなる点において利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−318537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来のICP分析装置では、以下の課題が生じていた。
即ち、集光方向の切り替えに切り替え用の固定ミラー54および可変ミラー55を備えているため、複数のミラーの調整を必要とし、それらミラーの駆動機構をそれぞれに設ける必要があった。これらを満たすためには、適当な制御機構が必要であり、装置全体が煩雑になる問題があった。また、それを備えるためのコストも増加する。更に、装置寿命の観点より、軸方向でのプラズマの光の取り込みは、集光部が直接その熱を受けるために、いわゆる検出部の寿命が短命となることも問題であった。
【0009】
また、当該方法では、プラズマトーチ51の軸方向に発生するプラズマの光と、プラズマトーチ51の軸方向と直行する方向に発生するプラズマの光のいずれかであって、感度のよい任意の角度に合せることができなかった。従って、プラズマに導入された試料からの発光を、高感度な方向から取り込むことができないために、未だ効率が劣るものであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、本発明に係るICP分析装置が、プラズマ用ガスと霧滴化した試料が導入されるプラズマトーチと、プラズマトーチ高周波電圧を印加する誘導コイルと、誘導コイルの高周波電圧で発生させるプラズマにより励起した試料からの発光を集光する集光部と、集光した光の発光スペクトルを分光する分光部を有した分析処理部と、を備え、集光部によるプラズマの光の取り込み方向に対して、プラズマトーチを任意の角度に調整するために集光部とプラズマトーチを相対的に移動可能な角度調整機構を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
角度調整機構は、プラズマトーチ及び/又は集光部の少なくともいずれか一方を可動式とし、プラズマの斜め方向からの光を取り込むようにした。また、その可動は、プラズマトーチ先端と検出器の集光部を直線状に対向配置した位置を基準として、その各々のうちいずれか又は両方を回動することで相対的に回動可能な機構とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明のICP分析装置及びその測定方法は、ICP分析装置によるプラズマ光の集光部への取り込みの際、プラズマ光の軸方向又はその真横方向のみならず、感度の良好な任意の方向から高い効率にて実施できる。また、プラズマとそこからの光の集光部が軸方向に対向させないようにすることで、装置の加熱による負荷を軽減させ、装置を延命することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のICP分析装置の全体を示す概略図である。
【図2】本発明のICP分析装置にかかわるプラズマトーチと検出器の第1実施形態を示す概要図である。
【図3】本発明のICP分析装置にかかわるプラズマトーチと検出器の第2実施形態を示す概要図である。
【図4】本発明のICP分析装置にかかわるプラズマトーチと検出器の第3実施形態を示す概要図である。
【図5】従来のICP分析装置のプラズマトーチ周辺部分の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係わるICP分析装置について、図1を参照して概要を説明する。なお、図面は、寸法比が重要ではない部分については、適宜寸法比を変更して記載した。
【0015】
図1は、本発明に係わるICP装置として、分光分析を行なう装置の概要図を示す。
プラズマトーチ13には、ガス制御部17からプラズマを形成するためのガス(アルゴン、窒素、ヘリウム等)が供給させる。プラズマトーチ13の上方は開口部になっており、その上端部外周囲には誘導コイル12が配置され、ガス制御部17からによって供給されたガスは、高周波電源16からの電力を受けて励起・発光し、プラズマトーチ13の上方の開口部からプラズマ11を生成する。
【0016】
試料は、ネブライザー15からキャリアガスと共に霧化されてスプレーチャンバー14を経由してプラズマトーチ13のインナーチューブによりプラズマ11の中心付近に導入され、励起されて発光する。
【0017】
プラズマ11からの光は、集光部2から取り込まれて分光部31に導かれる。そして、分光器31にて検出された出力は、データの演算処理部33に入力されて該演算処理部33に付帯するモニタに表示される。演算処理部33としては、市販のパーソナル・コンピュータ(PC)が利用できる。
【0018】
高周波電源16や分光器31の測定時の制御は、エレクトロニクス・コンソール32を介して行なう。
【0019】
角度調整機構4は、集光部2によるプラズマ11からの光の取り込みを任意の向きからできるように、集光部2とプラズマトーチ13の対向する角度を調整するものである。該角度調整機構4は、演算処理部33からの指令することで制御できる。この方法としては、集光部2及び/又はプラズマトーチ13を中心Oに対して一点破線の円上を軌道として回動させることにより行なう。
【0020】
以下に、集光部2とプラズマトーチ13の対向する角度の調整について、例を挙げて説明する。
【0021】
(第1実施形態)
はじめに、本発明に係るICP分析装置の第1実施形態を、図2を参照して説明する。
図2は、本発明のICP分析装置のプラズマトーチ13と集光部2の構成の概略図の一例を示す。
【0022】
ここに示すように、集光部2はその位置を固定しており、プラズマトーチ13が集光部2と対向する位置を基準(A−A′)として任意の角度位置を採れるように可動式になっている。
【0023】
可動は、角度調整機構4により制御し、誘導器131a上をプラズマトーチ13が移動するものである。この場合、プラズマトーチ13は誘導器131aと一体化して駆動する。誘導器131aの駆動前後において、プラズマトーチ131aと誘導コイル12の位置関係は変更されないものとする。プラズマトーチ13は、載置可能な図示しない設置部を設けて設置し、該設置部が誘導器131aに移動可能に設置された機構にしてもよい。
【0024】
誘導器131aは1/4円弧の形状であり、集光部2に対してプラズマトーチ13がプラズマの軸方向(A−A′)からプラズマの真横方向(2A−2A′)を含む0〜90度の範囲で任意の角度を採れるようになっている。従って、試料の都合による感度又は装置の寿命を考慮して、最適な角度が設定できる。具体的には、プラズマトーチ13は、図示しない固定具によって、誘導器131aに取り付けられており、例えばバネの圧力などによって、誘導器131aに固定される。この場合、誘導器131aの本体部は、凹凸部を有するレール状部材などが利用できる。また、プラズマトーチ13は、着脱可能であり、任意の位置に取り付けられる。
【0025】
角度調整機構4は、誘導器の駆動部分と、固定部分に分けられる。駆動部分は、手動により駆動部を稼動させる手動稼動方式と、演算装置33およびエレクトロニクス・コンソール32を制御コンソールとして、そこからの信号により、モーターなどの駆動系を制御し、自動稼動させる自動稼動方式のいずれを用いても良い。固定部分では、手動稼動方式を採用する場合には、たとえばボールプランジャーなどを使用して、段階的な任意の角度ごとにプラズマトーチ13の角度を指定できる方式や、たとえばネジによる押さえを使用することにより、連続的な角度調整のいずれかを選択することが出来る。自動稼動方式を採用する場合には、たとえばモーターのパルス数を用いて連続的な角度調整を行う方法や、例えば任意の角度毎にセンサーを設置することにより、段階的な任意の角度を指定する方式などが採用出来る。
【0026】
(第2実施形態)
図3は、本発明のICP分析装置のプラズマトーチ13と集光部2の構成として、第1実施形態とは異なる構成の概略図を示す。
【0027】
本実施形態は、第1の実施形態の構成に対して、集光部2が誘導器311a上を移動することでプラズマトーチ13との任意の角度を設定可能としたものである。本実施形態における作用及び効果は、第1の実施形態と同様である。
【0028】
この場合、誘導器311aは、分光部31の駆動に使用され、固定されたプラズマトーチ13に対する位置関係を調整するように駆動する。
【0029】
また、角度調整機構は、駆動させる対象がプラズマトーチ13から分光部31に変わったことを除き、第一実施例と同様のものである。
【0030】
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3の実施形態を示す。これは、第1及び第2の実施形態が集光部2又はプラズマトーチ13のいずれか一方が可動可能としたものであるのに対して、両方が可動可能としたものである。
【0031】
この場合の誘導器131b・311bは、プラズマトーチ13と集光部2とを対向的に直線上に配置したときを基準(C−C′)とし、双方を該水平面に対して上下いずれか一方の面側に設けている。プラズマトーチ13と集光部2の双方が可動なので、それぞれの可動範囲は1/8円弧の形状に対応し、相対的に0(プラズマ発生軸方向)〜90度(プラズマの真横方向)の角度までを実現できる。このように、プラズマトーチ13と集光部2の両方を可動させ角度調整機構4により制御することにより、装置の可動範囲を半減させることができ設置領域を小さくできることがメリットとなる。
【0032】
この場合、誘導器131b・311bは、それぞれ、プラズマトーチ13と分光部31を駆動させるものであり、それぞれの角度は独立に制御できるものとする。
また、角度調整機構は、第一実施例と同様のものである。
【0033】
以上のように、本発明のICP分析装置は、プラズマトーチとそのプラズマからの光を取り込む集光部とを、任意の角度で設定できることが特徴である。
【0034】
なお、本実施形態のICP分析装置は、実施形態に示すようにプラズマトーチ13と誘導コイル12を連動させ、また、集光部2は分光部31と一体として示したが、これに限定されるものではない。
また、本実施形態では、分光器の場合を示したが、質量分析計を用いても構わない。
【0035】
また、上記の誘導器は、可動レールや誘導溝でもよく、プラズマトーチと集光部の対向状態を変更可能な機構であれば良い。
【0036】
また、本発明は、本発明の実施の形態に記載した内容に限定するものではなく、本発明の効果(プラズマトーチと集光部を任意の角度で対向させる)を適える構成であれば本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0037】
1・・・プラズマ発光制御部
2,2a,2b,53・・・集光部
3・・・分析処理部
4・・・角度調整機構
11・・・プラズマ
12,52・・・誘導コイル
13,13a,13b,51・・・プラズマトーチ
14・・・スプレーチャンバー
15・・・ネブライザー
18・・・試料
31,31a,31b・・・分光部
131a,131b,311a,311b・・・誘導器
33・・・演算装置(コンピュータ)
54・・・固定ミラー
55・・・可変ミラー
56・・・分光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ用ガスと霧滴化した試料が導入されるプラズマトーチと、
前記プラズマトーチに高周波電圧を印加する誘導コイルと、
該誘導コイルの高周波電圧で発生させるプラズマにより励起した試料からの発光を集光する集光部と、
集光した光の発光スペクトルを分光する分光部を有した分析処理部と、を備えたICP分析装置において、
前記集光部によるプラズマの光の取り込み方向に対して、前記プラズマトーチを任意の角度に調整するためにプラズマトーチと集光部とを相対的に移動可能な角度調整機構を備えたことを特徴とするICP分析装置。
【請求項2】
前記角度調整機構におけるプラズマトーチと集光部との相対的な移動が、前記プラズマトーチ及び前記集光部のいずれか一方又は両方が回動するように可動する請求項1に記載のICP分析装置。
【請求項3】
前記プラズマトーチ及び集光部の移動が誘導器による請求項1又は2に記載のICP分析装置。
【請求項4】
前記角度調整機構が、演算処理機による制御によってプラズマトーチを駆動させる請求項1乃至3のいずれかに記載のICP分析装置。
【請求項5】
プラズマ用ガスと霧滴化した試料をプラズマトーチに導入する試料導入工程と、
前記プラズマトーチ外周囲に設けた誘導コイルに高周波電圧を印加してプラズマを発光させるプラズマ発光工程と、
該プラズマにより励起した試料からの発光を集光する集光工程と、
該集光した光を分光してその発光スペクトルを分析する分析処理工程と、
を含んでなるICP分析装置による分析方法において、
前記集光工程が、プラズマの発光の取り込み方向を前記プラズマトーチと前記集光部を直線状に対向的に配置した状態を基準として、任意の角度で対向させることを特徴とするICP分析装置による分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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