説明

L−ラクチドのコポリマーを含む破壊靱性を改良した埋込型医療機器

本発明は、結晶化度が40wt%以下である、L−ラクチド構成単位を含有するコポリマーを含む埋込型医療機器に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー化学、材料科学および埋込型医療機器の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
埋込型医療機器の分野において、L−乳酸をベースとするポリマーは、乳酸の生体適合性が高いことから非常に重宝されている。すなわち、乳酸のポリマーは生物分解して粉々になり、最終的には哺乳類系にとって一般に認容性が良好な小分子になる。
【0003】
ポリ(乳酸)を合成する場合、乳酸そのものをモノマーとして使用できる。しかし、このポリマーの分子量には限界があり、もっと分子量の大きい生成物が望ましい場合には、乳酸の二量体であるラクチドがモノマーとして好ましい。本開示の目的上、ポリ(ラクチド)を用いるのは、結果として得られるポリマーの分子量の範囲が広くなる可能性があることを示すためである。
【0004】
ポリ(ラクチド)からなる構造体は、強度や引張係数などの機械的特性が良好である。しかし、ポリ(ラクチド)の破壊靱性は、ステントなどの特定の構造体に望まれる破壊靱性よりも低いことが多い。強度と引張係数が高い反面、破壊靱性が低いのは、ポリ(ラクチド)の高い結晶化度に由来する。結晶化度は、ポリマーの合成、構造体を形成するポリマーの生成、および構造体の製造パラメータに依存して、55%以上になることもある。比較的高い結晶化度に加え、ポリ(乳酸)の結晶構造は一般に比較的大径の球晶からできており、これがポリマーの強度および引張係数を高める一方で、破壊靱性を低下させる原因となっている。
【0005】
必要とされているのは、高い強度、高い引張係数、そして高い破壊靱性を示し、埋込型医療機器に加工できるラクチドベースの組成物である。本発明は、そのような組成物と、それら組成物から製造する埋込型医療機器とを提供する。
【発明の概要】
【0006】
従って、本発明の一の態様は、L−ラクチドと第二のモノマーとを含むコポリマーを含み、得られたコポリマーの結晶化度が40%以下である埋込型医療機器である。
【0007】
本発明の一態様において、コポリマーの結晶化度は約5%〜約35%である。
【0008】
本発明の一態様において、コポリマーの結晶化度は約15%〜約25%である。
【0009】
本発明の一態様において、第二のモノマーは、約1モル%〜約10モル%のD−ラクチド、または約1モル%〜約10モル%のグリコリド、または約1モル%〜約10モル%のε−カプロラクトン、または約1モル%〜約10モル%のトリメチレンカーボネート、または約1モル%〜約10モル%のジオキサノン、または上記の任意の組み合わせを含み、第二のモノマーの総モル%が約1モル%〜約10モル%である。
【0010】
本発明の一態様において、コポリマーは、約4モル%〜約5モル%の第二のモノマーを含む。
【0011】
本発明の一態様において、コポリマーは、グリコリド由来の構成単位およびε−カプロラクトン由来の構成単位を含む。
【0012】
本発明の一態様において、コポリマーにおけるグリコリド由来の構成単位のモル%は約2モル%であり、コポリマーにおけるε−カプロラクトン由来の構成単位のモル%は約3モル%である。
【0013】
本発明の一態様において、コポリマーはD−ラクチドを含む。
【0014】
本発明の一態様において、埋込型医療機器は、コポリマーとポリ(D−ラクチド)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド)を、上記D−ラクチド含有コポリマーに混合することをさらに含む。
【0015】
本発明の一態様において、コポリマーと混合されるポリ(D−ラクチド)のwt%は、コポリマーにおけるD−ラクチドモノマーのwt%と実質的に同じである。
【0016】
本発明の一態様において、埋込型医療機器は、コポリマーとポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)を混合したポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)を含み、ポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)は約1モル%〜約10モル%のグリコリドモノマーを含む。
【0017】
本発明の一態様において、埋込型医療機器は、コポリマーとポリ(D−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)を混合したポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)を含み、ポリ(D−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)は約1モル%〜約10モル%のε−カプロラクトンモノマーを含む。
【0018】
本発明の一態様において、埋込型医療機器は、コポリマーとポリ(D−ラクチド−コ−ジオキサノン)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド−コ−ジオキサノン)を混合したポリ(L−ラクチド−コ−ジオキサノン)を含み、ポリ(D−ラクチド−コ−ジオキサノン)は約1モル%〜約10モル%のジオキサノンを含む。
【0019】
本発明の一態様において、埋込型医療機器はステントを備える。
【0020】
本発明の一態様はステントを製造する方法であって、請求項1のコポリマーを提供すること;必要に応じて核形成剤をコポリマーに添加すること;コポリマーを押し出してチューブを成形すること;押し出したチューブにアニーリングを施すこと;アニーリングを施したチューブを径方向、軸方向もしくは二軸方向、またはそれらを任意に組み合わせた方向に拡張すること;および拡張したチューブから埋込型医療機器を形成すること;を含む。
【0021】
本発明の一態様において、上記方法は、コポリマーに核形成剤を添加することを含む。
【0022】
本発明の一態様において、核形成剤は、タルク、ケイ酸マグネシウム水和物、エチレンビス(1,2−ヒドロキシステアリルアミド)、ヒドロキシアパタイト、デカメチレンジカルボン酸ヒドラジド、ジベンゾイルヒドラジド、フタル酸ジオクチル、乳酸エチル、クエン酸エステル類、乳酸エステル類、ラクチドエステル類、リン酸トリフェニル、グリセリン、アセチン、ブチリン、および脂肪酸からなる群から選択される。
【0023】
本発明の一態様において、コポリマー溶融体に核形成剤を添加せず、押し出したチューブにアニーリングを施す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
請求項を含む本願全体を通じ、他に明示されていない限り、単数形の使用は複数を含み、複数形の使用は単数を含むことは言うまでもない。すなわち、「一つの(a)」および「その(the)」は、その語が修飾する対象が一以上であることを意味すると解釈すべきである。限定しない例として、「治療薬」は、他に明示されている場合を除き、またはそれが意図されていないことが文脈から疑いなく明らかである場合を除き、当該薬剤の一つ、当該薬剤の二つ、あるいは条件さえ揃えば、病変組織の治療において当業者が判断するように、それ以上の当該薬剤を含むことは言うまでもない。同様に、「生分解性ポリマー」は、ここでも、他に明示されている場合を除き、またはそれが意図されていないことが文脈から疑いなく明らかである場合を除き、一種のポリマーまたは二種以上のポリマーの混合物を意味する。
【0025】
本明細書で用いる「約」、「本質的に」、「実質的に」など、これらに限定されないが、近似を表す語は、他に定めのない限り、かかる語で修飾された要素は、必ずしも記載されたものに完全に一致する必要はなく、本発明の範囲を超えない限り記述との完全な一致から15%程度異なる場合もあることを意味する。
【0026】
本明細書で発明の態様を修飾するために用いる「好ましい」、「好ましくは」、「より好ましくは」および類似する用語は、本特許出願の出願の時点で存在した好適なものを意味する。
【0027】
本明細書で用いる「埋込型医療機器」は、全部または一部が外科的または内科的方法によって患者の体内に導入され、あるいは医学的介入によって自然開口部に導入され、処置後その位置に留まるよう意図された任意のタイプの器具を意味する。移植期間は原則的に永久、すなわち、患者の生存期間中所定位置に留まるよう意図されることもあれば、機器が生分解するまで、または物理的に除去されるまで所定位置に留まるよう意図されることもある。埋込型医療機器の例としては、埋込型心臓ペースメーカーおよび除細動器、それに用いられるリード線および電極、神経刺激装置や膀胱刺激装置、括約筋刺激装置、横隔膜刺激装置などの埋込型臓器刺激装置、蝸牛インプラント、プロテーゼ、血管グラフト、自己拡張型ステント、バルーン拡張ステント、ステント−グラフト、グラフト、人工心臓弁、ならびに髄液シャントが挙げられるが、これに限らない。現在のところ、本発明のコーティングと共に用いることが好ましい埋込型医療機器は、ステントである。
【0028】
ステントとは、一般に患者の体内において組織を所定位置に保持する任意の機器を意味する。ただし、特に有用なステントは、患者の体内において、腫瘍(例えば、胆管、食道、気管/気管支等における)、良性膵疾患、冠動脈疾患、頸動脈疾患、ならびにアテローム性動脈硬化症、動脈再狭窄および不安定プラークなどの末梢動脈疾患等、これらに限らない疾患または障害によって血管が狭くなったり詰まったりした場合に、血管の開存性を維持するために用いられる。不安定プラーク(VP)とは、炎症によって生じると考えられる動脈での脂質蓄積物を意味する。VPは薄い繊維性皮膜で覆われ、これが破裂すると血餅の形成を誘発する。ステントは、VP近傍の血管壁を補強するために用いることができ、こうした破裂を防ぐ遮蔽物として機能する。ステントは、神経血管系、頸動脈血管系、冠血管系、肺血管系、大動脈血管系、腎臓血管系、胆管血管系、腸骨血管系、大腿骨内血管系および膝窩血管系に加え、他の末梢血管系に用いることができるが、これらに限定されない。ステントは、血栓症、動脈再狭窄、出血、血管解離または穿孔、動脈瘤、慢性完全閉塞、跛行、吻合部増殖、胆管閉塞、および尿管閉塞等、これらに限らない障害の治療または予防にも用いることができる。
【0029】
上記に加え、患者の体内の特定の治療部位への治療薬の局所送りにステントを用いることもできる。実際に、治療薬の送りをステントの唯一の目的としてもよいし、付随的な利益をもたらす薬物送り機能を備えた上で上記のような別の用途を主目的としてもよい。
【0030】
開存性を維持するために用いられるステントは、通常、圧縮状態で標的部位に送られ、挿入された血管に合わせて拡張される。標的位置で、ステントは自ら拡張可能であってもよく、バルーンで拡張可能であってもよい。
【0031】
本明細書で用いる「任意の」は、この語で修飾される要素は必要ではないが、あってもよいことを意味する。
【0032】
本発明のポリマーを、ホモポリマー、コポリマー、星形ポリマー、樹枝状ポリマー(デンドライト)、またはグラフトポリマーとしてもよい。ただし、現在好ましいのはホモポリマーおよびコポリマーである。
【0033】
ホモポリマーとは、簡単に言えば一種類のモノマーからなるポリマーのことであり、モノマーは、簡単に言えば、互いに反応を繰り返す分子であり、構成単位の鎖、すなわちポリマーを形成する。コポリマーとは、反応してランダムコポリマー、規則性交互コポリマー、ランダム交互コポリマー、規則性ブロックコポリマー、またはランダムブロックコポリマーを形成し得る二種類以上のモノマーから調製されるポリマーのことである。ランダムコポリマーは、三種類のモノマー/構成単位が呈する一般構造x−x−y−x−z−y−y−x−z−y−z−…を有するが、規則性交互コポリマーは、一般構造…x−y−z−x−y−z−x−y−z−…を有し、ランダム交互コポリマーは、一般構造…x−y−x−z−x−y−z−y−z−x−y−…を有する。なお、ここに示す構成単位の配列は例示のみを目的としたものであり、本発明のコポリマーは、示したものとは異なる場合もある。規則性ブロックコポリマーは、一般構造…x−x−x−y−y−y−z−z−z−x−x−x…を有するが、ランダムブロックコポリマーは、一般構造…x−x−x−z−z−x−x−y−y−y−y−z−z−z−x−x−z−z−z−…を有する。ランダム、規則性、および交互コポリマーと同様に、本発明のブロックコポリマーにおけるブロックの配列、各ブロックにおける構成単位の数、ブロックの数は、上記例示の包括的構造によって決して制限されるものではない。実際には、本発明の好ましいポリマーは、現在のところ、ホモポリマーまたはランダム二種モノマーコポリマーであるが、上記の一般原則はそのまま当てはまる。
【0034】
本明細書で用いる「構成単位」とは、ポリマー骨格における反復構造のことであり、構成単位はモノマーの反応の結果生成されるものである。例えば、ポリ(L−ラクチド)は、これに限定されないが、モノマーであるL−ラクチド(化学式1、以下化1)の重合によって調製され、これに由来する構成単位は化学式2(以下化2)である。
【化1】

【化2】

【0035】
ポリマー鎖は、それが十分な構造的規則性を備えている場合、他のポリマー鎖と同時に整列状態で生成され、最終的に結晶構造を形成する場合がある。ポリマーの結晶化は、特定の理論に縛られることなく、結晶性小分子の古典的な成長パターンに従うものと考えられる。すなわち、結晶化は核形成、すなわち液体ポリマーの海の中の小さな破片の周りでの結晶性小粒子の形成とともに始まる。これらの核は秩序ある階層構造、すなわちラメラ(薄層)となり、最終的には球晶に成長する。なお、球晶形成は、静止結晶化の途中で見みられる古典的な構造である。結晶化プロセスの最中に歪みが加えられると、結晶化はより複雑になり、種々雑多なラメラ(薄層)の寄せ集めになる。歪みが著しい場合、多くの結晶不完全部を含むシシカバブ構造が発達することもある。本開示の目的上、用語「球晶」または「球晶(複数形)」は、古典的結晶形態だけでなく、対象のポリマーに放射配向および/または二軸配向によって歪みを加えることにより創出される結晶性形成物を意味するものと理解される。ポリマーの結晶領域は、X線回折調査によればかなりの長距離秩序を示す。ポリマーの結晶領域は非常に頑強であり、結晶構造が小分子結晶と同様に「溶融」して非晶質となる結晶領域の、比較的はっきりしている数値である融点、Tm、に達するまでは、物理的に架橋された構造を保ち続ける。100%結晶質のポリマーはごくわずかである。むしろ、結晶構造の不連続領域と、非晶質であるその他領域とを有することが多い。従って、本発明の結晶質ポリマーセグメントは、結晶質または半結晶質のものをいい、後者は、大部分が結晶質だが必ずしも完全に結晶質ではないセグメントを意味する。
【0036】
結晶性は、ポリマーに強度や引張係数などの有益な特性を付与する。しかし、結晶化度が高い、すなわち、結晶化度が約50%を超えるポリマーは、低い破壊靱性を示すことが多く、通常は脆いと特徴付けられる。純粋なポリ(L−ラクチド)は、この高結晶性/低破壊靱性ポリマーの範疇に当てはまる。実際、純粋なポリ(L−ラクチド)を押し出してチューブ状にし、拡張させてその二軸配向度を増加させることによって成形したステントにおいては、そのポリマー機器の結晶質は約55%であることが分かった。
【0037】
L−ラクチドは、埋込型医療機器の好ましいポリマー原料であるため、構造体におけるL−ラクチド含有ポリマーの結晶性を低下させることが極めて望ましい。これは、少量の第二モノマーをL−ラクチド重合反応時に添加することによって達成してもよい。この方法では、ポリ(L−ラクチド)の望ましい機械的特性を維持しつつ、より高い破壊靱性を示すコポリマーを調製することが可能である。現在のところ、埋込型医療機器、とりわけステントの製造に有用なL−ラクチド含有半結晶質コポリマーは、結晶化度が約10%〜約40%、好ましくは約20%〜約40%、より好ましくは約30%〜約40%である。
【0038】
L−ラクチドに添加してポリマーの結晶性を低下させると同時に弾性を増加させることのできるモノマーとしては、乳酸のもうひとつのエナンチオマーから調製されるD−ラクチド;グリコリド;ε−カプロラクトン;トリメチレンカーボネート;およびジオキサノンが挙げられるが、これらに限らない。
【化3】

【0039】
比較的少量、すなわち、約1モル%〜約10モル%、好ましくは約4モル%〜約8モル%、より好ましくは約5%の第二のモノマーを重合時に添加することができる。
【0040】
上記に開示する量のグリコリドモノマーを添加すると、L−ラクチド含有ポリマーの結晶性をポリ(L−ラクチド)よりも低下させることに加え、ポリマーの生物分解速度が純粋なポリ(L−ラクチド)に比べて高くなるという有益な効果も得られる。
【0041】
上記に開示する他のモノマーは、結晶化度に対しては望ましい効果を示すが、生物分解速度には実質的に影響しないため、結果として得られるポリマーの生物分解速度にグリコリドが与える影響は、ポリマーにおけるグリコリドの割合を減らしたり、上記に開示する他のモノマーの一種と置き換えたりして変えることができる。従って、限定でない例として、約2モル%のグリコリドと、3モル%のε−カプロラクトンと、約95モル%のラクチドをランダム重合させることで、破壊靱性を増加させ生物分解速度を高めたポリマーを得ることができる。
【0042】
本明細書において用いる「生物分解速度」とは、温度、pH、酵素活性などの生理学的条件下でポリマーが分解する速度のことをいう。
【0043】
上記の生物学的に好ましいL−ラクチド由来構成単位を主に含有するポリマーの結晶性を全体として純粋なポリ(L−ラクチド)よりも低下させることに加え、結晶構造のサイズを小さくすることも有益である。これは、特定の理論に縛られることなく、コポリマーのL−ラクチドセグメントが結晶化する際に形成される、ストレスによって誘発されるラメラ結晶構造の厚さの低下につながる。これを達成する手段はいくつかある。ここでは、ポリマーの機械加工に際し、ポリマー溶融体を押出してから拡張して二軸配向度を増加させる。押出し後拡張前に、ポリマーチューブにポリマーのTgに近い温度でアニーリングを施すと、そのプロセス中に結晶化核の数が増加し、球晶は、その数が増加するもののサイズは小さくなる。結晶化度の実際の値は、このプロセスによって実質的には変化しないであろうが、結晶構造が小さくなるのでポリマーの脆性は低下する。
【0044】
結晶化核の数を増加させる比較的一般的な手段は、重合時または押出し前のポリマー溶融体へ粒子状物質を物理的に添加することである。L−ラクチドおよびポリ(L−ラクチド)と相性がよく、生体適合性のあるタイプの粒子であれば事実上いずれも使用できるが、いくつか例を挙げると、粒子サイズが1μm以下と非常に細かく、容易に入手可能で、各種半結晶質ポリマー中で球晶形成の核形成を生じさせることができるタルク;ケイ酸マグネシウム水和物;エチレンビス(1,2−ヒドロキシステアリルアミド);ヒドロキシアパタイト;デカメチレン−ジカルボン酸ヒドラジド;ジベンゾイルヒドラジド;フタル酸ジオクチル;乳酸エチル;クエン酸エステル類;乳酸エステル類;ラクチドエステル類;リン酸トリフェニル;グリセリン;アセチン;およびブチリン;などがあるが、これらに限らない。
【0045】
球晶のサイズを全体として低下させるもう一つの手段は、ステレオコンプレックス形成という現象を利用することである。「ステレオコンプレックス」とは、結合して個々のポリマーとは異なる物理的特性を有する新しい複合体を形成する、二種類の相補的ポリマー構造間の特異的相互作用のことである。「相補的」構造とは、一種類の光学活性分子の別々のエナンチオマーのホモポリマーであって、それぞれが光学活性を有する二種類のポリマーのことをいう。「相補的」とは、化学構造が類似しているが同一ではない二種類のポリマーを意味することもある。この場合、これらのポリマーは、互いにエナンチオマーではなくジアステロマーの関係にある。さらに、「相補的」とは、無関係だが光学活性を有する極性が反対のポリマーであって、両者がステレオコンプレックスを形成可能なものを意味することもある。この場合、このステレオコンプレックスは、「ヘテロステレオコンプレックス」と呼ばれる。例えば、ヘテロステレオコンプレックスは、ポリ(D−ラクチド)とL型ポリペプチドとの間で形成され得るが、これに限らない。関係するポリマーの両方が生体適合性を有する限り、いずれのタイプのステレオコンプレックスも本発明の範囲に含まれる。
【0046】
本明細書で用いる「生体適合性」は、完全な状態、すなわち合成されたままの状態、および分解された状態、すなわち生分解された状態、の両方において、生体組織に対して毒性を持たない、持っているとしても最小限である、または、生体組織を傷つけない、傷つけるとしても最小限で修復可能な程度である、または生体組織において免疫学的反応を引き起こさない、引き起こすとしても最小限で制御可能な程度であるポリマーに用いられる。
【0047】
ステレオコンプレックスを形成可能な、立体選択的である、すなわち光学活性を有する生体適合性ポリマーはいずれも、L−ラクチド含有ポリマーの結晶性を変化させるために用いることができるが、現在のところ、好ましいポリマーは、ポリ(D−ラクチド)である。従って、D−ラクチドを約5モル%含有するポリ(L−ラクチド−コ−D−ラクチド)に、約2wt%〜約5wt%のポリ(D−ラクチド)を混合すると、押出しプロセス時にステレオコンプレックスが形成される。ステレオコンプレックス形成サイトは、微結晶を形成する核形成サイトとして機能することができ、核形成サイトがアニーリングまたは粒子添加によって形成される場合に得られる結果と同様に、結果として得られる球晶は小さく、大きい球晶の場合よりも脆性は低下する。
【0048】
ステレオコンプレックス形成に影響し、従って、本発明の埋込型医療機器の製造に用いることのできるパラメータとしては、組成物における添加物(可塑剤、充填剤、安定剤など)の有無、混合プロセス、適用温度、成形プロセス、採用されたアニーリングプロセス、使用溶媒、冷却加熱サイクル、加えられる圧力および機械的な力、ならびに例えば埋込型医療機器の殺菌に適用される照射線が挙げられるが、これらに限らない。こうした種々のパラメータの操作および相互関係は当業者には周知であり、ここでは再度の説明を要しない。熟練技術者は、本明細書の開示に基づき、このパラメータを適用して望ましい結果を得ることができるだろう。
【0049】
ステレオコンプレックスの形成は、純粋なポリ(D−ラクチド)ではなくD−ラクチドのコポリマーを用いてL−ラクチドのコポリマーと相互作用させることでも達成できる。従って、例えば、グリコリドを約2モル%〜約5モル%含有するポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)約2モル%〜約5モル%を、グリコリドを約2モル%〜約5モル%含有するポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)に添加すると、同様に、押出し時にステレオコンプレックスが形成され、上記のように、球晶が小さくなり、それに応じて脆性の低いポリマー構造体が形成される。
【0050】
本発明の一の態様は、本明細書に開示するL−ラクチドベースのポリマーからステントを製造する方法である。この方法は、必要に応じて核形成剤をポリマー溶融体に添加すること、溶融体を押出してチューブ状構造物を形成すること、必要に応じてチューブ状構造物にアニーリングを施すこと、押出した、またはアニーリングを施したチューブを拡張し、フェムトレーザー切断などが挙げられるがこれに限らない技術を用いて上記チューブからステントを形成することを含む。核形成剤をポリマー溶融体に添加する場合は、アニーリングは任意であり、同様に、押出したポリマーチューブにアニーリングを施す場合、核形成剤の添加は任意である。望ましい場合には、核形成剤の添加とアニーリングの両方をステント形成プロセスに含めてもよい。
【実施例】
【0051】
実施例1:ポリ(L−ラクチド−コ−(5モル%)D−ラチド)の合成
2リットル反応容器中で、L−ラクチド500g、D−ラクチド25g、ドデカノール開始剤0.54ml、およびオクタン酸第一スズ2.24mLを機械撹拌しながら混合する。反応容器を窒素でパージし、次いで混合物を撹拌しながら160℃で1時間加熱する。撹拌を止め、160℃でさらに5時間反応を継続させる。次に、反応容器を冷却し、固体ポリマーを取り出し、切り刻んで小片としてメタノールと共に4時間撹拌して未反応モノマーを除去する。生成物を真空オーブン中で80℃にて乾燥し、一定重量とする。
【0052】
実施例2:ポリ(L−ラクチド−コ−(3モル%)ε−カプロラクトン−コ−(2−モル%)グリコリド)の合成
2リットル反応容器で、L−ラクチド500g、グリコリド10g、ε−カプロラクトン15g、ドデカノール開始剤0.54ml、およびオクタン酸第一スズ2.24mlを機械撹拌しながら混合する。反応容器を窒素でパージし、次いで混合物を撹拌しながら160℃で2時間加熱する。撹拌を止め、160℃でさらに10時間反応を継続させる。次に、反応容器を冷却し、固体ポリマーを取り出し、切り刻んで小片としてメタノールと共に4時間撹拌して未反応モノマーを除去する。生成物を真空オーブン中で80℃にて乾燥し、一定重量とする。
【0053】
実施例3:ステントの製造
上記のポリマーの一方を用い、一定量のポリマーを単軸スクリュー押出機から約200℃で押出し、押出したチューブ材を冷水で急冷し、内径0.02インチ、外形0.06インチのチューブを得る。この時点で、押出したチューブ材を約70℃で0.5〜約5時間アニーリングし、核形成密度を増加させてサイズの小さい球晶を得る。押出し、または押出し/アニーリング後のチューブ材をガラスの成形型に入れ、約180°Fで拡張して二軸配向度を増加させる。チューブの最終内径は0.12インチ、最終外形は0.13インチである。
【0054】
拡張したチューブ材からフェムト秒レーザーを用いてステントを切り出し、それをバルーンカテーテル上でクリンプ(捲縮)させて外形寸法0.05インチとし、照射量25kGyの電子ビームで殺菌してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋込型医療機器であって、
L−ラクチドと第二のモノマーとを含むコポリマーを含み、
得られた前記コポリマーの結晶化度は、40%以下である、
埋込型医療機器。
【請求項2】
前記コポリマーの前記結晶化度は、約15wt%〜約35wt%である、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項3】
前記コポリマーの前記結晶化度は、約20wt%〜約30wt%である、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項4】
前記第二のモノマーは:
約1モル%〜約10モル%のD−ラクチド;または
約1モル%〜約10モル%のグリコリド;または
約1モル%〜約10モル%のε−カプロラクトン;または
約1モル%〜約10モル%のトリメチレンカーボネート;または
約1モル%〜約10モル%のジオキサノン;または
総モル%が約1モル%〜約10モル%の上記の任意の組み合わせを含む;
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項5】
前記コポリマーは、前記第二のモノマーを約4mol%から約5mol%を含む、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項6】
前記コポリマーは、グリコリド由来の構成単位およびε−カプロラクトン由来の構成単位を含む、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項7】
前記コポリマーにおける前記グリコリド由来の構成単位のモル%は約2モル%であり、
前記コポリマーにおける前記ε−カプロラクトン由来の構成単位のモル%は約3モル%である、
請求項6に記載の埋込型医療機器。
【請求項8】
前記コポリマーは、D−ラクチドを含む、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項9】
さらに、コポリマーとポリ(D−ラクチド)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド)を前記コポリマーに混合した、
請求項8に記載の埋込型医療機器。
【請求項10】
前記コポリマーと混合したポリ(D−ラクチド)のwt%は、前記コポリマーにおけるD−ラクチドモノマーのwt%と実質的に同じである、
請求項9に記載の埋込型医療機器。
【請求項11】
コポリマーとポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)を混合したポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)を含み、
前記ポリ(D−ラクチド−コ−グリコリド)は約2モル%〜約10モル%のグリコリドモノマーを含む、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項12】
コポリマーとポリ(D−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)を混合したポリ(L−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)を含み、
前記ポリ(D−ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)は約2モル%〜約10モル%のε−カプロラクトンモノマーを含む、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項13】
コポリマーとポリ(D−ラクチド−コ−ジオキサノン)の総重量に対して約2wt%〜約10wt%のポリ(D−ラクチド−コ−ジオキサノン)を混合したポリ(L−ラクチド−コ−ジオキサノン)を含み、
前記ポリ(D−ラクチド−コ−ジオキサノン)は約2モル%〜約10モル%のジオキサノンを含む、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項14】
ステントを備える、
請求項1に記載の埋込型医療機器。
【請求項15】
ステントを製造する方法であって:
請求項1のコポリマーを提供する工程と;
必要に応じて核形成剤を前記コポリマーに添加する工程と;
前記コポリマーを押し出してチューブを成形する工程と;
押し出した前記チューブにアニーリングを施す工程と;
アニーリングを施した前記チューブを径方向、軸方向もしくは二軸方向、またはそれらを任意に組み合わせた方向に拡張する工程と;
拡張した前記チューブから埋込型医療機器を形成する工程を備える;
ステントを製造する方法。
【請求項16】
前記コポリマーに核形成材を添加する工程を備える、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記核形成剤が、タルク、ケイ酸マグネシウム水和物、エチレンビス(1,2−ヒドロキシステアリルアミド)、ヒドロキシアパタイト、デカメチレンジカルボン酸ヒドラジド、ジベンゾイルヒドラジド、フタル酸ジオクチル、乳酸エチル、クエン酸エステル類、乳酸エステル類、ラクチドエステル類、リン酸トリフェニル、グリセリン、アセチン、ブチリン、および脂肪酸からなる群から選択される、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリマー溶融体に核形成剤を添加せず、押出した前記チューブに前記ポリマーのTgよりわずかに高い温度でアニーリングを施す、
請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2012−533407(P2012−533407A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521677(P2012−521677)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/041996
【国際公開番号】WO2011/011241
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(509268314)アボット カルディオバスキュラー システムズ インコーポレーテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】Abbott Cardiovascular Systems Inc.
【住所又は居所原語表記】3200 Lakeside Drive,Santa Clara,California 95054,United States of America
【Fターム(参考)】