説明

LAN用多対ケーブル

【課題】ケーブルの細径化を図り、ケーブルの取り扱い性を向上させる。
【解決手段】本発明のLAN用多対ケーブルは、6本のユニット1の集合体2と、この集合体上に抑え層3を介して設けられた外被4とを備えている。
各ユニット1は、内部コア5と、内部コア5の外周に0.3mm程度の厚さで設けられる内被6とを備えている。
内部コア6は、中心に配置される十字状のスペーサ7と、4対の対撚線8とを備えており、隣接する対撚線8は、ユニット1の中心から放射状に延びる隔壁7aにより相互に離隔されている。
内被6の厚さは、従来のインナーシースタイプの厚さ(0.5mm程度)よりも薄い厚さ(0.3mm程度)とされている。また、内被6は、誘電率の低い材料(例えばポリエチレン樹脂)より形成されている。
内被6には、複数個の複数箇のノッチ9が内被6の外面側および/または内面側に内被6の長手方向に沿って設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LAN(Local Area Network)用多対ケーブルケーブルに係り、特に、LAN用UTP(Unshieled Twisted Pair)ケーブルの内被を容易に引き裂くことができ、また、ケーブルの細径化を図ることができるLAN用多対ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種のUTPケーブルとして、(イ)図9に示すように、対撚線100の複数本を集合し、この集合体(以下「ユニット」という。)200上に内被300を設けて成るインナーシースタイプの多対ケーブル、若しくは(ロ)図10に示すように、ユニット200上に着色プラスチックテープ400を粗巻きして成る一括シースタイプの多対ケーブルが知られている(例えば、特許文献1)。なお、図中、符号500は抑え層、600は外被、700は介在物、800はスペ−サを示している。
【0003】
しかしながら、(イ)のインナーシースタイプの多対ケーブルにおいては、ユニット200上に内被300が存在するため、ケーブルの端末加工時にユニット200がバラけないものの、次のような難点があった。
【0004】
第1に、ユニット上に1mm程度の厚さを有する内被が存在するため、内被に相当する分だけケーブルが大径化し、例えば6本のユニットを有する多対ケーブルでは外径が3mm程度太くなるという難点がある。また、全体的に、ケーブルの重量も重くなるという難点がある。
【0005】
第2に、内被の除去に長時間を要し、また、内被の除去作業時に内部コア(対撚線)に損傷を与えるおそれがある。また、内被の引き裂き時における内部コアへの圧迫・傷等により、RL(Return Loss)特性(反射減衰量)を変化させるおそれがある。
【0006】
第3に、内被の除去作業を容易に行うためには、内被の内側に別途引き裂き紐を挿入する必要がある。
【0007】
第4に、内被を被覆するための工程が別途必要となる上、内被の被覆材料も必要となり、全体的にコストアップになる。
【0008】
また、(ロ)の一括シースタイプの多対ケーブルにおいては、ユニット上に内被が存在しないため、ケーブルの外径を細径化し得るものの、次のような難点があった。
【0009】
第1に、単に、着色プラスチックテープの粗巻きを施しただけの構成では、端末加工時にユニットがバラけるため、ケーブルの取り扱い性が悪くなる。
【0010】
第2に、ユニット上に内被が存在しないため、ユニットの形状が崩れやすく、所定の特性を発揮させることが困難となる。
【0011】
第3に、ケーブル構造の安定化を図るため、対撚線の撚合時に別途介在物を充填する必要がある。
【0012】
一方、この種のUTPケーブルにおいては、複数のユニットを識別する必要があるところ、かかる識別方法としては、ユニット上の内被(被覆)を着色する方法と、内被上に所定の数字を印刷するナンバリング方法とが知られている。
【0013】
しかしながら、前者の着色識別方法においては、内被に着色が施されているため、一旦、内被を剥ぎ取ると、複数のユニットを識別することが困難となり、また、製造上、ユニット毎に被覆する樹脂の色を変える必要があることから、作業的に煩雑となる上、材料上のロスも発生し、全体的にコスト高になるという難点があった。また、後者のナンバリング方式においては、前述の着色識別方法と同様に、一旦、被覆を剥ぎ取ると、複数のユニットを識別することが困難となる上、ユニットを識別する際に数字を探す手間がかかり、またケーブルを切断した端面からは各ユニットを識別することができないという難点があった。
【0014】
【特許文献1】特開平6−60740号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の難点を解決するためになされたもので、ケーブルの細径化を図り、かつ、ケーブルの取り扱い性を向上させることができるLAN用多対ケーブルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様であるLAN用多対ケーブルは、対撚線の複数本を集合し、その外周に厚さが0.5mm未満の内被を備えたLAN用多対ケーブルにおいて、内被の外面側および/または内面側にノッチが長手方向に沿って設けられているものである。
【0017】
本発明の第2の態様であるLAN用多対ケーブルは、ユニットの複数本を集合してなるLAN用多対ケーブルにおいて、各ユニットは、対撚線の複数本の集合体と、集合体の外周に設けられた厚さが0.5mm未満の内被と、内被の内側に長手方向に沿って設けられた介在物とを備え、記内被の外面側および/または内面側にノッチが長手方向に沿って設けられているものである。
【0018】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、ノッチを形成した部分の内被の厚さは、ノッチを形成していない部分の内被の厚さの20%〜70%とされているものである。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、内被の内面側に引き裂き紐が長手方向に沿って挿入されているものである。
【0020】
本発明の第5の態様は、第4の態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、引裂き紐は、内被の内面側に設けられたノッチに沿って挿入されているものである。
【0021】
本発明の第6の態様は、第2の態様乃至第5の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、複数本のユニットの介在物は、隣接するユニット間で目視的に識別可能にされているものである。
【0022】
本発明の第7の態様は、第2の態様乃至第5の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、複数本のユニットの介在物は、隣接するユニット間でそれぞれ異なる色に着色されているものである。
【0023】
本発明の第8の態様は、第2の態様乃至第5の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、複数本のユニットの介在物の表面に、隣接するユニット間でそれぞれ異なる色のラインが設けられているものである。
【0024】
本発明の第9の態様は、第2の態様乃至第8の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、複数本のユニットの介在物は、それぞれユニットの中心に配置される十字状のスペーサ、内被の内側に縦添え若しくは螺旋巻きされる紐状体、内被の内側に縦添え若しくは螺旋巻きされるテープ状体の何れか一つ、またはこれらの組み合わせから成るものである。
【0025】
本発明の第10の態様は、第1の態様乃至第9の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、内被は、透明または半透明のもので形成されているものである。
【0026】
本発明の第11の態様は、第2の態様乃至第10の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、複数本のユニットの内被および/または介在物に蛍光材料が含有され、若しくは内被および/または介在物の表面に蛍光塗料が塗布されているものである。
【0027】
本発明の第12の態様は、第1の態様乃至第11の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、内被の外面側に設けられるノッチは、内被の内面側に設けられるノッチと対向する位置に存在するものである。
【0028】
本発明の第13の態様は、第1の態様乃至第12の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、ノッチは、内被の円周方向に沿って所定の間隔をおいて少なくとも2箇所に設けられているものである。
【0029】
本発明の第14の態様は、第13の態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、ノッチは、内被の複数箇所に対向するように設けられているものである。
【0030】
本発明の第15の態様は、第1の態様乃至第14の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、内被は、誘電率の低い熱可塑性樹脂で形成されているものである。
【0031】
本発明の第16の態様は、第1の態様乃至第15の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、内被は、ポリエチレン樹脂で形成されているものである。
【0032】
本発明の第17の態様は、第1の態様乃至第16の態様の何れかの態様であるLAN用多対ケーブルにおいて、内被の引張力をT[N]、内被の形成材料の引張強さをTs[MPa]、ノッチ部被覆厚さをt[mm]、内被の層心径をd[mm]、ノッチの形成個数をnとしたときに、
T≦Ts×t[d×π/n]
の条件を満足するものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の第1の態様乃至第17の態様のLAN用多対ケーブルによれば、次のような効果がある。
【0034】
第1に、内被にノッチを設けることで、従来のように内被の内側に引き裂き紐を挿入しなくても、内被を容易に引き裂くことができる。
【0035】
第2に、ユニット上に内被が設けられていることから、端末加工時において、ユニットがバラけず、ケーブルの取り扱い性を向上させることができる。
【0036】
第3に、ノッチを少なくとも2箇所乃至複数箇所に対向するように設けることで、内被の引き裂き時の張力をより一層軽減させることができる。
【0037】
第4に、内被の引き裂き時の張力の軽減により、内被の引き裂き時における内部コアへの圧迫や損傷を与えるおそれがなくなる。
【0038】
第5に、内部コアへの圧迫や損傷を与えるおそれがなくなる結果、RL特性(反射減衰量)の変化を抑制することができる。
【0039】
第6に、内被を誘電率の低い材料で形成することにより、ユニット間の漏話特性(電流漏洩量)を確保する観点で設ける介在物を削減することができ、ひいてはケーブルを細径化することができる。
【0040】
第7に、内被の被覆厚を従来のケーブルより薄くすることで、ケーブル全体の細径化および軽量化を図ることができ、ひいては、ケーブルの布設作業を容易に行なうことができるとともに、布設時の曲げ半径の縮小化を図り、布設場所のスペースファクターを向上させることができる。
【0041】
第8に、ユニット内の十字状のスペーサ等から成る介在物に着色等の識別を施した場合には、内被を剥ぎ取った場合でも、複数のユニットを識別することができる。
【0042】
第9に、ユニット内の介在物に着色等の識別を施し、かつ、ユニットの内被を透明若しくは半透明に形成した場合には、ユニットの外部から介在物を確認することで複数のユニットを識別することができる。
【0043】
第10に、内被若しくは介在物に蛍光塗料を含有若しくは塗布した場合には、接続BOX内やフリーアクセスフロア内の暗い場所でもユニットの識別を行なうことができる。
【0044】
第11に、内被の内側に長手方向に沿って引き裂き紐を挿入するか、若しくは、内被の内側に設けたノッチに沿って引き裂き紐を挿入した場合には、より一層内被の引き裂きを容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明をUTPケーブルに適用した好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。
【0046】
図1は、本発明におけるUTPケーブルの一実施例を示す断面図である。
【0047】
図1(a)において、本発明におけるUTPケーブルは、6本のユニット1の集合体2と、この集合体上に抑え層3を介して設けられた外被4とを備えている。
【0048】
各ユニット1は、それぞれ同様の構成とされ、図1(b)に示すように、それぞれ内部コア5と、内部コア5の外周に0.3mm程度の厚さで設けられる内被6とを備えている。
【0049】
内部コア5は、中心に配置される断面十字状のポリエチレン樹脂等から成るスペーサ7と、4対の対撚線8とを備えており、隣接する対撚線8は、ユニット1の中心から放射状に延びる隔壁7aにより相互に離隔されている。なお、4対の対撚線8は、従来の対撚線と同様に、導体(0.5mm)の外周に絶縁層(ポリエチレン)を設けた絶縁心線の2本を所定のピッチで撚り合わせたもので構成されている。ここで、各ユニット1を4対の対撚線8で構成したのは、LANケーブルの伝送方式の形態上、殆ど8Pinコネクタに接続されることを考慮して、4対をベースとしたものである。
【0050】
次に、6本のユニット1を識別する方法について説明する。先ず、第1の識別方法においては、介在物としての十字状のスペーサ7が各ユニット1間でそれぞれ異なる色に着色されている。具体的には、例えば、図1(a)のユニット番号1のスペーサ7が青色で、同ユニット番号2のスペーサ7が橙色で、同ユニット番号3のスペーサ7が緑色で、同ユニット番号4のスペーサ7が茶色で、同ユニット番号5のスペーサ7が灰色で、同ユニット番号6のスペーサ7がベージュ色でそれぞれ着色されている。このような識別方法においては、内被6を剥ぎ取ってもスペーサ7の色を確認することで、各ユニット1を識別することができる。
【0051】
次に、第2の識別方法においては、スペーサ7の着色を例えば自然色と黒色の2種類とし、これらのスペーサ7を有するユニット1の配列によりユニット1間を識別するいわゆるトレーサ方式が採用されている。具体的には、例えば、図1(a)のユニット番号1の十字状のスペーサ7が自然色で、ユニット番号2〜6の十字状のスペーサ7が全て黒色とされている。この場合においては、ユニット番号1の自然色の十字状のスペーサ7を起点として、例えば時計方向にユニット1の数を数えることで各ユニットを識別することができる。このようなトレーサ方式による識別においては、一つのユニット1のスペーサ7の色のみを他のユニット1のスペーサ7の色と異ならせればよいことから、製造面における負担を減少させることができる。なお、各ユニット1のスペーサ7を全て同色にし、後述する着色テープ等を内被6の内側に縦添え若しくは螺旋巻きしてもよい。この場合には、製造面における負担をさらに減少させることができる。
【0052】
ここで、前述の第1、第2の識別方法においては、スペーサ7を着色することで、各ユニット1間を識別する場合について説明しているが、本発明はこのような識別方法に限定されない。例えば、第1に、介在物としてのスペーサ7の全体を着色することに代えて、介在物としてのスペーサ7の表面に前述と同様の異なる色のラインを付してもよく、第2に、介在物としてのスペーサ7に識別を施さずに、それぞれ異なる色に着色された図示しない紐状体(引裂き紐を含む)若しくはテープ状体(不図示)を内被6の直下に縦添え若しくは螺旋巻きしてもよい。第3に、介在物としてのスペーサ7と、内被6の直下に縦添え若しくは螺旋巻きされた紐状体(引裂き紐)若しくはテープ状体とを組み合わせることで、各ユニット1間を識別するようにしてもよい。具体的には、例えば、図1(a)のユニット番号1の十字状のスペーサ7を自然色にし、ユニット番号2〜6の内被6の内側に同一若しくはそれぞれ異なる色の紐状体(引裂き紐)若しくはテープ状体を縦添え若しくは螺旋巻きしてもよい。
【0053】
次に、内被6の厚さおよび内被の形成材料について説明する。
【0054】
先ず、内被6の厚さは、ケーブルの仕上がり外径を細くするため0.5mm未満の厚さとされている。具体的には、従来のインナーシースタイプのケーブルの厚さ(0.5mm程度)よりも薄い厚さ(0.2〜0.4mm程度)とされている。これにより、内被6の厚さを例えば0.3mmとした場合にはケーブルの外径を従来のケーブル(23mm程度)よりも細く(21mm程度)仕上げることができる。
【0055】
また、内被6は、誘電率の低い材料、例えばポリエチレン樹脂やフッ素樹脂の押出被覆により形成することが好ましい。内被6を誘電率の低い材料で形成することにより、ユニット1間の漏話特性(電流漏洩量)を確保する観点で設けるPPスプリット紐等の介在物を削減することができ、ひいてはケーブルの外径を19〜20mm程度に細径化することができる。
【0056】
このような構成の内被6には、次のようなノッチ9が内被6の外面側および/または内面側に内被6の長手方向に沿って設けられている。先ず、ノッチ9を形成した部分の内被6の厚さは、ノッチ9を形成していない部分の内被6の厚さの20%〜70%とされている。ここで、ノッチ9を形成した部分の内被6の厚さをノッチ9を形成していない部分の内被6の厚さの20%〜70%としたのは、20%未満ではノッチ9を形成した部分の内被6の厚さが薄くなりすぎるため、例えば内被6の厚さが0.3mmの場合、ノッチ9を形成した部分の内被6の厚さが0.06mmより薄くなり、この結果、ケーブルの製造中や布設中における曲げ応力などによって内被6が引き裂かれ、ひいてはケーブルの端末加工時にユニットがバラけてケーブルの取り扱い性が悪くなるからである。一方、70%を越えるとノッチ9を形成した部分の内被6の厚さが厚くなり、例えば内被6の厚さが0.3mmの場合、ノッチ9を形成した部分の内被6の厚さが0.21mmより厚くなり、この結果、内被6をポリエチレン樹脂などの硬質の材料で形成した場合においては、内被6の引き裂きに15N以上の張力がかかり、ひいては内被6の除去作業時に内部コア(対撚線)に損傷を与えるおそれがあり、また内被6の引き裂き時における内部コアへの圧迫等によりRL特性を変化させるおそれがあるからである。
【0057】
ノッチ9は、内被6の円周方向に沿って離間して2箇所以上に、好ましくは内被6の複数箇所に各ノッチ9が対向するように設けられている。この実施例では、ノッチ9が内被の4箇所に90度の間隔をおいて、すなわち各ノッチ9が対向するように設けられている。また、内被6の外面側および内面側に設ける場合は、外面側に設けるノッチと内面側に設けるノッチは対向するように設けることが、すなわち、内被6の内外面側に設けるノッチ9は、ユニットの中心を通る同一の線上に設けることが好ましい。ノッチ9を複数箇所に設けた場合には、後述するように、内被6をより一層容易に引き裂くことができる。
【0058】
図2は、内被6の外面側および内面側に、内被6の円周方向に沿って4つのノッチ9を等間隔で形成する場合のダイスを示している。
【0059】
図2(a)において、先ず、内被用のダイスは、樹脂の上流方向から下流方向に向かって順次縮径する円錐状部10を備えており、当該円錐状部10の先端部(小径部)11の内周には、図2(b)に示すように、4つの断面V字状の突起12(高さ:0.3〜0.4mm程度)がダイスの中心部に向かって突設されている。なお、4つの突起12は、ダイスの円周方向に沿って等間隔で設けられている。このような構成のダイスを用いることにより、図3に示すように、内被6の外面側および内面側に所定の深さのノッチ9a、9bを形成することができる。
【0060】
次に、このようなノッチ9を形成した内被6の引き裂き性について説明する。
【0061】
先ず、試料(以下「第1の試料」という。)長が200mmのポリエチレン樹脂の押出被覆から成る内被の一端部に端部から約50mmの長さに亘って4箇所の切れ込み(ノッチ)を入れて内被をケーブルの長手方向に沿って4分割し(以下、ケーブルの長手方向に沿って分割された内被を「短冊状部」という。)、当該短冊状部を引張試験機の下端側に、他端部(切れ込みを形成していない部分)を上端側に設置して、200mm/分の引張速度で引張試験(以下「引き裂き試験」という。)を行い、その時の最大引張張力を記録した。
【0062】
次に、試料(以下「第2の試料」という。)の長さが200mmの短冊状のポリエチレン樹脂の押出被覆から成る内被のみ(内部コアを有しない内被単体のもの)について、前述と同様に、200mm/分の引張速度で引張試験(以下「PE短冊部引張試験」という。)を行い、当該内被が破断する際の最大張力を記録した。ここで、各試料は、図4(a)の点線で示すように、4分割された短冊状部の1箇所のみ(以下「1/4短冊部」)を引き裂く場合と、図4(b)の点線で示すように、4分割された短冊状部の2箇所(以下「2/4短冊部」)を纏めて引き裂く場合についてそれぞれ記録した。なお、前述の引き裂き試験における1/4短冊部については、引張試験機の限界点以下ということで、5N以下とした。また、後者のPE短冊部引張試験は、内被の引き裂き性における許容張力を調査する意味で測定した。
【0063】
図5(a)は、上記の第1の試料について、引き裂き試験を行った結果を、図5(b)は上記の第2の試料について、引張試験を行った結果を示している。
【0064】
同図(a)より、1/4短冊部については平均で5N以下、また、2/4短冊部については、平均で10Nの引張力を要し、また、同図(b)より、1/4短冊部については平均で19.7、また、2/4短冊部については、平均で40Nの引張力を要することから、ノッチ9の形成個数に比例して内被6の引き裂きを容易に行うことができることが判る。
【0065】
図6は、図3に示す内被をポリエチレン樹脂で形成した場合の引き裂き時張力および引き裂きの有無について測定した結果を示している。なお、同図において、「ポイントa」は図3に示す内被の上部位置を、「ポイントb」は同内被の右側位置を、「ポイントc」は同内被の下部位置を、「ポイントd」は同内被の左側位置をそれぞれ示しており、また、「総合厚さ」は、ノッチを形成していないポイント近傍の内被の厚さ、「ノッチ部被覆厚さ」は、ノッチを形成した部分の内被の厚さを示している。
【0066】
同図より、ポイントdにおける内被が引き裂き不能であることが判る。これはポイントdにおけるノッチ被覆部厚さが他のポイントにおけるノッチ被覆部厚さの2倍以上を有していることが要因と解される。また、ポイントd引き裂く際には15N以上の張力がかかり、ポリエチレン被覆が破断するという現象であるため、良好な引き裂き性を求めるためには、最低でも15N以下は必要と解される。
【0067】
以上のように、引き裂き時の張力は、ノッチ被覆部厚さに関係することが判るが、この他に、内被を構成する材料自体の引張強さ、およびノッチの数による引張時の短冊長さ(ノッチ間の円周方向の長さ)にも関連していることが分かる。
【0068】
そこで、内被の引張力をT[N]、内被の形成材料の引張強さをTs[MPa]、ノッチ被覆部厚さをt[mm]、内被の層心径(内被の中心を通過する円の直径)をd[mm]、ノッチの形成個数をnとしたときに、T≦Ts×t[d×π/n]の条件を満足することにより、内被を15[N]以下の引張力で容易に引き裂きくことができる。
【0069】
図7は、内被をポリエチレン樹脂で形成(引張強さ:12[MPa]、内被の外径:5.7[mm])し、かつ、内被の外面側に2〜8箇所のノッチを形成した試料について引張力を測定した場合の測定結果を示しており、図8は、ノッチ部被覆厚さ[mm]と引張力[N]の関係を示す説明図を示している。なお、これらの図において、図7の「*」欄の数値はノッチ間の円周方向の距離、図8のa、b、c、dは前述の内被の測定ポイント(ポイントa〜d)をそれぞれ示している。
【0070】
同図から、ノッチが2箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.1mm以下、ノッチが3箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.2mm以下、ノッチが4箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.25mm以下、ノッチが5箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.3mm以下、ノッチが6箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.4mm以下、ノッチが7箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.45mm以下、ノッチが8箇所の場合はノッチ部被覆厚さを0.55mm以下にすることで、15Nの引張力で引き裂きくことができることが判る。すなわち、ノッチ部被覆厚さは薄ければ薄いほど、また、ノッチの形成個数は多ければ多いほど内被を容易に引き裂きくことができることが判る。
【0071】
以上のように、本発明のLAN用多対ケーブルにおける内被6は、従来のLAN用多対ケーブルの内被よりも薄く形成されていることから、内被6を透明または半透明のもので形成することにより、ユニット1の中身をユニット1の外部から視認することができる。すなわち、前述のように、介在物としての十字状のスペーサ7等を各ユニット1間で識別可能にするとともに、内被6を透明または半透明とすることで、内被6を剥ぎ取る前から各ユニット1を識別することができ、ひいてはLAN用多対ケーブルの配線作業性を向上させることができる。
【0072】
また、内被6および/または介在物としての十字状のスペーサ7等には、蛍光材料を含有させ、若しくは蛍光塗料を塗布することが好ましい。この場合には、接続BOXやフリーアクセスフロア(床下)内等の暗い場所においても、各ユニット1を容易に識別することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、特許請求の範囲内で、次のように、変更、修正を加えることができる。
【0074】
第1に、前述の実施例においては、内被にノッチを設けることで内被を容易に引き裂く場合について述べているが、内被の内側に長手方向に沿って引き裂き紐を挿入するか、若しくは、内被の内側に設けたノッチに沿って引き裂き紐を挿入してもよい。この場合には、ノッチの形成と引き裂き紐の挿入との相乗効果により、内被をより一層容易に引き裂くことができる。
【0075】
第2に、前述の実施例においては、断面V字状のノッチを形成した場合について説明しているが、断面半円状のノッチ若しくはスリット状のノッチを形成してもよい。
【0076】
第3に、前述の実施例においては、6本のユニットを有するLAN用多対ケーブルについて述べているが、ユニットの本数は必要により増減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1(a)は本発明のLAN用多対ケーブルの一実施例を示す一部断面図、図1(b)は同実施例におけるユニットの断面図。
【図2】図2(a)は本発明のノッチ形成用のダイスの縦断面図、図2(b)は図2(a)のA−A線に沿う断面図。
【図3】本発明のノッチ形成後の内被の断面図。
【図4】本発明の内被の引き裂き状況を示す説明図。
【図5】図5(a)は、第1の試料について、引き裂き試験を行った結果を示す説明図、図5(b)は第2の試料について、引張試験を行った結果を示す説明図。
【図6】図3に示す内被について、引き裂き時張力および引き裂きの有無について測定した結果を示す説明図。
【図7】内被に複数個のノッチを形成した場合の引張力の測定結果を示す説明図。
【図8】ノッチ部被覆厚さと引張力の関係を示す説明図。
【図9】従来の多対ケーブルの一部断面図。
【図10】従来の多対ケーブルの一部断面図。
【符号の説明】
【0078】
1・・・ユニット
6・・・内被
8・・・対撚線
9・・・ノッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対撚線の複数本を集合し、その外周に厚さが0.5mm未満の内被を備えたLAN用多対ケーブルにおいて、前記内被の外面側および/または内面側にノッチが長手方向に沿って設けられていることを特徴とするLAN用多対ケーブル。
【請求項2】
ユニットの複数本を集合してなるLAN用多対ケーブルにおいて、
前記各ユニットは、対撚線の複数本の集合体と、前記集合体の外周に設けられた厚さが0.5mm未満の内被と、前記内被の内側に長手方向に沿って設けられた介在物とを備え、
前記内被の外面側および/または内面側にノッチが長手方向に沿って設けられていることを特徴とするLAN用多対ケーブル。
【請求項3】
前記ノッチを形成した部分の前記内被の厚さは、前記ノッチを形成していない部分の前記内被の厚さの20%〜70%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項4】
前記内被の内面側に引き裂き紐が長手方向に沿って挿入されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項5】
前記引裂き紐は、前記内被の内面側に設けられた前記ノッチに沿って挿入されていることを特徴とする請求項4記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項6】
複数本の前記ユニットの前記介在物は、隣接する前記ユニット間で目視的に識別可能にされていることを特徴とする請求項2乃至請求項5何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項7】
複数本の前記ユニットの前記介在物は、隣接する前記ユニット間でそれぞれ異なる色に着色されていることを特徴とする請求項2乃至請求項5何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項8】
複数本の前記ユニットの前記介在物の表面に、隣接する前記ユニット間でそれぞれ異なる色のラインが設けられていることを特徴とする請求項2乃至請求項5何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項9】
複数本の前記ユニットの前記介在物は、それぞれ前記ユニットの中心に配置される十字状のスペーサ、前記内被の内側に縦添え若しくは螺旋巻きされる紐状体、前記内被の内側に縦添え若しくは螺旋巻きされるテープ状体の何れか一つ、またはこれらの組み合わせから成ることを特徴とする請求項2乃至請求項8何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項10】
前記内被は、透明または半透明のもので形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項11】
複数本の前記ユニットの前記内被および/または前記介在物に蛍光材料が含有され、若しくは前記内被および/または前記介在物の表面に蛍光塗料が塗布されていることを特徴とする請求項2乃至請求項10何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項12】
前記内被の外面側に設けられる前記ノッチは、前記内被の内面側に設けられる前記ノッチと対向する位置に存在することを特徴とする請求項1乃至請求項11何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項13】
前記ノッチは、前記内被の円周方向に沿って所定の間隔をおいて少なくとも2箇所に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項12何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項14】
前記ノッチは、前記内被の複数箇所に対向するように設けられていることを特徴とする請求項13記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項15】
前記内被は、誘電率の低い熱可塑性樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項14何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項16】
前記内被は、ポリエチレン樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項15何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。
【請求項17】
前記内被の引張力をT[N]、前記内被の形成材料の引張強さをTs[MPa]、前記ノッチ部被覆厚さをt[mm]、前記内被の層心径をd[mm]、前記ノッチの形成個数をnとしたときに、
T≦Ts×t[d×π/n]
の条件を満足することを特徴とする請求項1乃至請求項16何れか1項記載のLAN用多対ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−294590(P2006−294590A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6170(P2006−6170)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000238049)冨士電線株式会社 (6)
【Fターム(参考)】