説明

MEMSトランスデューサおよび超音波パラメトリックアレイスピーカー。

【課題】電気的な接続信頼性を向上させる。
【解決手段】基板と、前記基板の表面上に形成される下電極と、前記基板において前記下電極が形成されない面に形成された複数の凹部と、前記下電極の表面上において複数の前記凹部のそれぞれの底部を変位させることが可能な位置に形成される複数の圧電変換部と、前記下電極の表面上に一体として形成され、複数の前記圧電変換部のすべてと厚みを共通にし、複数の前記圧電変換部のすべてと接続する絶縁部と、前記圧電変換部および前記絶縁部の表面上に一体として形成される上電極と、を備える、MEMSトランスデューサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSトランスデューサおよび超音波パラメトリックアレイスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子を有する隔膜を複数備えたMEMSが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1においては、各隔膜について独立した圧電変換部と電極対とを設け、同一層内の櫛歯状の配線パターンによって前記電極対に電圧を印加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−20429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1においては、同一層内において配線を引き回すため、配線が細線化しオープン不良やショート不良が生じるという問題があった。また、圧電膜と電極対とを各隔膜について独立して設けることにより圧電膜と電極対が小面積化するため、圧電膜と電極対との間で剥離が生じるという問題があった。さらに、配線を形成するために工程数が多くなるという問題もあった。
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、電気的な接続信頼性が高いMEMSトランスデューサおよび超音波パラメトリックアレイスピーカーを提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)前記目的を達成するためのMEMSトランスデューサは、基板と、前記基板の表面上に形成される下電極と、前記基板において前記下電極が形成されない面に形成された複数の凹部と、前記下電極の表面上において複数の前記凹部のそれぞれの底部を変位させることが可能な位置に形成される複数の圧電変換部と、前記下電極の表面上に一体として形成され、複数の前記圧電変換部のすべてと厚みを共通にし、複数の前記圧電変換部のすべてと接続する絶縁部と、前記圧電変換部および前記絶縁部の表面上に一体として形成される上電極と、
を備える。
【0006】
本発明のMEMSトランスデューサにおいて、絶縁部は下電極の表面上において複数の圧電変換部のすべてと接続し、一体として形成されるため、絶縁部を下電極上において広く形成することができる。従って、下電極の表面上において複数の圧電変換部と絶縁部とが形成された領域の面積を広くすることができ、下電極の剥離を防止できる。なお、一体として形成されるとは、連続して形成され、物理的に複数の部分に分断されていないことを意味する。また、面内方向に広く形成される一体の絶縁部が複数の圧電変換部のすべてと接続するため、下電極と上電極との間における確実な層間絶縁を実現することができる。さらに、上電極は圧電変換部と絶縁部の表面上に一体として形成されるため、上電極を広く形成することができ、上電極の断線や剥離も防止できる。以上により、圧電型発音装置の電気的な接続信頼性を高くすることができる。
【0007】
(2)前記目的を達成するためのMEMSトランスデューサにおいて、前記圧電変換部は、平面視において前記凹部の中央部を除く外周部と厚み方向に重なる位置に形成される。
圧電変換部によって凹部の底部のうち中央部を除く外周部を変位させることにより、凹部の底部の中央部にて大きな変位を得ることができる。したがって、凹部の底部の大きな振幅を効率よく得ることができる。
【0008】
(3)前記目的を達成するためのMEMSトランスデューサにおいて、前記絶縁部は、前記圧電変換部よりも非誘電率の小さい絶縁材料によって形成される。
絶縁部を圧電変換部よりも非誘電率の小さい絶縁材料で形成することにより、下電極と上電極との間の寄生容量を低減することができる。
【0009】
(4)前記目的を達成するための超音波パラメトリックアレイスピーカーは、基板と、前記基板の表面上に形成される下電極と、前記基板において前記下電極が形成されない面に形成された凹部と、前記下電極の表面上において前記凹部の底部を変位させることが可能な位置に形成される複数の圧電変換部と、前記下電極の表面上に一体として形成され、前記複数の圧電変換部のすべてと厚みを共通にし、前記複数の圧電変換部のすべてと接続する絶縁部と、前記圧電変換部および前記絶縁部の表面上に一体として形成される上電極と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは本発明の第一実施形態にかかる平面図、図1Bは図1Aに示す1B−1B線断面図、図1Cは図1Bに示す断面における各層の厚み方向の重なりを示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態にかかる断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態にかかる断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態にかかる断面図である。
【図6】図6Aは本発明の第二実施形態にかかる断面図、図6Bは図6Aに示す断面における各層の厚み方向の重なりを説明する模式図である。
【図7】図7A〜7Dは本発明の他の実施形態にかかる平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら以下の順に説明する。なお、各図において対応する構成要素には同一の符号が付され、重複する説明は省略される。
【0012】
1.第一実施形態
(構成)
図1に本発明によるMEMSトランスデューサの第一実施形態としての超音波パラメトリックアレイスピーカー1を示す。超音波パラメトリックアレイスピーカー1は半導体製造プロセスを用いて製造されるMEMSであって、図示しないケースに収容され、博物館等の施設での音声ガイド装置、AV機器、IT機器などに組み込まれる超指向性スピーカーとして用いられる。超音波パラメトリックアレイスピーカー1は閉塞基板160と素子基板10と素子基板10上に形成された圧電素子11とを備えている。素子基板10に形成された複数の隔膜12を圧電素子11によって駆動することによって2つの周波数成分を持つ超音波を送波すると、極めて指向性の強い可聴域の音を発生させることができる。本明細書において"上"と"下"が示す方向は、図1Bに図示された超音波パラメトリックアレイスピーカー1の方向を基準とする。また、超音波パラメトリックアレイスピーカー1の厚み方向とは、超音波パラメトリックアレイスピーカー1を構成する各層の積層方向を指す。素子基板10の厚み方向の一方側(上側)に圧電素子11が積層される。
【0013】
素子基板10は相対的に厚い単結晶珪素層101と相対的に薄い単結晶珪素層103とこれらに挟まれた絶縁膜102とからなる。厚い単結晶珪素層101の厚さは例えば100〜2000μmとし、薄い単結晶珪素層103の厚さは例えば0.5〜10μmとし、絶縁膜102は例えば厚さ0.05〜10μmの二酸化珪素とする。隔膜12は薄い単結晶珪素層103からなり、厚さは0.5〜100μmとする。凹部10aは厚い単結晶珪素層101と絶縁膜102とを貫通している。凹部10aは断面が直径10〜10000μmの円形とし、深さが100〜2000μmのストレート孔とする。複数の隔膜12は素子基板10に形成された複数の凹部10aのそれぞれの上底部を構成している部分であり、素子基板10における隔膜外部13よりも厚みが薄い。隔膜外部13とは素子基板10における隔膜12以外の部分であって圧電素子11によって駆動させられない部分を指す。隔膜12の振動端(固定端)は凹部10aの断面形状によって決まる。すなわち、本実施形態の隔膜12は円形であり、その円周が隔膜12と隔膜外部13の境界をなす。
【0014】
圧電素子11は素子基板10の薄い単結晶珪素層103の表面に接合されている。圧電素子11は下電極層111、上電極層113、および、絶縁層112とからなる。下電極層111は薄い単結晶珪素層103の上面の全域上に形成されている。絶縁層112は下電極層111の上面の全域上に形成されている。絶縁層112は例えば厚さ0.1〜100μmとしチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料からなる。上電極層113は絶縁層112の上面の全域上に形成されている。下電極層111、上電極層113はそれぞれ例えば厚さが0.05〜10μmであり、白金や金等からなる。
【0015】
絶縁層112と上電極層113には下電極層111の接続部11aを露出させるための通孔11bが形成されている。さらに絶縁層112と上電極層113には平面視において隔膜12の中央部と厚み方向に重なる部分に通孔11cが形成されている。絶縁層112と上電極層113とは同様のパターン形状となる。隔膜12の中央部を除く外周部、すなわち隔膜12と隔膜外部13との境界(図1Aに示す破線の円)の近傍と厚み方向に重なる部分は、絶縁層112および上電極層113の一部と厚み方向に重なる。
【0016】
絶縁層112は、通孔11b,11cおよび素子基板10の四辺から所定距離内側を除き下電極層111の表面の全域上に形成されている。絶縁層112は、複数の圧電変換部Pと絶縁部Iとから構成される。圧電変換部Pは、隔膜12の外周部と厚み方向に重なり、円環状の形状を有している。すなわち、隔膜12の中央部を除く外周部において下電極層111と圧電変換部Pと上電極層113とが隔膜12と厚み方向に重なっている。圧電変換部Pの内径は絶縁層112の通孔11cの径と一致し、圧電変換部Pの外径は隔膜12の径、すなわち凹部10aの径と一致する。絶縁部Iは一体として形成され、複数の圧電変換部Pのすべてと接続する。また、絶縁部Iは複数の圧電変換部Pのすべてと同じ厚みとなっている。
【0017】
上電極層113は、複数の圧電変換部Pと絶縁部Iとからなる絶縁層112の表面の全域上において一体として形成されている。上電極層113は、複数の圧電変換部Pと絶縁部Iとが一体として形成された絶縁層112によって下電極層111と絶縁される。
【0018】
閉塞基板160は素子基板10の凹部10aの開口が形成された面に接合され、凹部10aの開口を気密に閉塞している。すなわち隔膜12の下方に密閉空間として空洞Cが形成されている。閉塞基板160と素子基板10とはポリイミドやエポキシ系の樹脂材料からなる接着層150を介して接合してもよいし、直接接合してもよい。閉塞基板160は単結晶珪素、ガラス、セラミックス等の無機材料からなる。
【0019】
(製造方法)
次に図2から図5を参照しながら超音波パラメトリックアレイスピーカー1の製造方法を説明する。
はじめに素子基板10となるSOI(Silicon On Insulator)ウエハを用意し、薄い単結晶珪素層103の表面上に下電極層111、絶縁層112、上電極層113を図2に示すように順に形成する。下電極層111および上電極層113は例えば白金をスパッタ法によって、それぞれ素子基板10および絶縁層112の上側の表面上に積層することによって形成する。絶縁層112は例えばチタン酸ジルコン酸鉛をスパッタ法によって下電極層111の上側の表面上に積層することによって形成する。
【0020】
次に図3に示すように上電極層113の表面にフォトレジストからなる保護膜R1のパターンを形成し、保護膜R1を用いたイオンミリングによって上電極層113と絶縁層112とをエッチングする。このとき下電極層111を露出させない程度に絶縁層112のエッチング深さを制御する。
【0021】
次に前工程のイオンミリングによって形成された絶縁層112の側壁を図4に示すように覆うとともに隔膜12の中央部と下電極層111の接続部11aとにおいて開口しているフォトレジストからなる保護膜R2のパターンを上電極層113の表面に形成する。続いて、保護膜R2を用いたウエットエッチングによって絶縁層112をエッチングして下電極層111を露出させる。これにより、圧電素子11が形成される。
【0022】
次に図5に示すように素子基板10の厚い単結晶珪素層101の表面にフォトレジストからなる保護膜R3のパターンを形成し、保護膜R3を用いたDeep−RIE(Reactive Ion Etching)によって、薄い単結晶珪素層103を底部とする凹部10aを厚い単結晶珪素層101と絶縁膜102とに形成する。これにより、薄い単結晶珪素層103からなる隔膜12と隔膜12を上底とする凹部10aが素子基板10に形成される。
【0023】
素子基板10と閉塞基板160とを接着層150を介して圧着し加熱することによって素子基板10と閉塞基板160とを接合する。最後に、ダイサーによって素子基板10と閉塞基板160とを個片へと切り分け、パッケージングなどの後工程を実施すると超音波パラメトリックアレイスピーカー1が完成する。
【0024】
(動作および効果)
図示しない導線を介して圧電素子11の下電極層111と上電極層113に電圧を印加すると、下電極層111と上電極層113に挟まれた絶縁層112は面内方向に歪み(収縮・膨張)を生じさせようとする。素子基板10は隔膜12以外の隔膜外部13において十分な厚さを有するため実質的に剛体として振る舞う。したがって絶縁層112のうち隔膜12と厚み方向に重なっている圧電変換部Pのみが面内方向に収縮・膨張することができる。なお上電極層113の一部と接続部11aに対して外部からの配線を接続することにより下電極層111と上電極層113に電圧を印加することができる。
【0025】
圧電変換部Pの収縮・膨張は、隔膜12における隔膜12の外周部に厚み方向の撓みを生じさせる。隔膜12の外周部が厚み方向に撓むと面内方向、固定端から最も遠い隔膜12の中央部の変位が最も大きくなる。このように隔膜12の外周部を圧電変換部Pの収縮・膨張によって駆動させることにより、隔膜12を効率よく撓ませることができる。なお、圧電変換部Pが面内方向に収縮するとそれぞれの隔膜12は中央部が上側に盛り上がるように変形し、反対に圧電変換部Pが面内方向に膨張するとそれぞれの隔膜12は下側に盛り上がるように変形する。したがって圧電素子11に超音波振動を発生させると、圧電素子11と一体に振動する隔膜12から超音波が送波される。なお、下電極層111と上電極層113はそれぞれ電気的に一体であるため、各隔膜12から同相の超音波が送波される。
【0026】
下電極層111と上電極層113に超音波域の搬送波を可聴域の音声波によって振幅変調した変調波の駆動電圧を印加すると圧電素子11と一体に振動する隔膜12から前記変調波の超音波が送波され、超音波の強い指向性により隔膜12の振動軸線近傍の狭い範囲においてパラメトリックアレイ効果によって可聴音が発生する。なお、複数の隔膜12の面内方向の分布させることにより超音波を平面波とすることができ、可聴音が発生する空間を広くすることができる。パラメトリックアレイ効果とは、音波の非線形性に起因して、自己復調によってもとの音声波に相当する可聴音の空中音源が振動軸線近傍の直線的な領域に連続的に発生する現象である。このようなパラメトリックアレイ効果によって、比較的小型の超音波パラメトリックアレイスピーカー1であっても指向性が極めて強く実用的な可聴音の音圧が得られる。なお、可聴域の音声波に相当する周波数差を有する2つの超音波を隔膜12から送波させ、2つの超音波の間に生じるうなり現象により可聴域の音声波を復調してもよい。この場合、独立して駆動電圧が入力可能な2つの圧電素子11によって2個以上の隔膜12を互いに異なる周波数で振動させる必要がある。
【0027】
上述したように下電極層111と上電極層113とが厚み方向に重なる領域の全域において、下電極層111と上電極層113との間に絶縁層112を介在させている。したがって下電極層111と上電極層113とを絶縁層112によって確実に層間絶縁することができる。また、下電極層111と上電極層113とを同一面内に形成しないため、下電極層111と上電極層113のパターンを他方のパターンに制約されずに自由に決定することができる。そのため、本実施形態のように下電極層111を素子基板10の上面の全域上に形成し、一体の上電極層113を絶縁層112の表面の全域上に形成することができる。
【0028】
このように下電極層111と上電極層113とを面内方向に広く形成することにより、下電極層111と上電極層113がそれぞれ断線することが防止できる。さらに、接合面積を広く確保することができるため、下電極層111と上電極層113がそれぞれ厚み方向に接する他の層から剥離することが防止できる。上電極層113の機能に注目すると、上電極層113は、圧電変換部Pに対して電圧を印加するために圧電変換部Pに接する電圧印加部分と、これらの電圧印加部分同士を接続したり外部からの配線と電圧印加部分とを接続するための配線部分とを備える必要があるが、本発明によればこれらの部分を一体のパターンとして形成できるため、これらの部分を個別にパターン形成しなくても済む。また本実施形態のように下電極層111を素子基板10の上面の全域上に形成すると、下電極層111のパターン形成も行う必要がなくて済む。すなわち、下電極層111と上電極層113のいずれについても配線のためのパターン形成工程を個別に行わなくてもよく、効率よく超音波パラメトリックアレイスピーカー1を製造することができる。さらに、絶縁層112の表面の全域上に一体の上電極層113を形成することにより、絶縁層112と上電極層113とを同一のパターンとすることができ、絶縁層112と上電極層113とを個別にパターン形成しなくても済む。
【0029】
2.第二実施形態
(構成)
図6Aは第二実施形態にかかる超音波パラメトリックアレイスピーカーの断面図であり、図6Bは前記断面における各層の厚み方向の重なりを説明する模式図である。第二実施形態の超音波パラメトリックアレイスピーカー2と、第一実施形態の超音波パラメトリックアレイスピーカー1との相違点は、閉塞基板160の有無と、絶縁部Iの材質である。
【0030】
第二実施形態でも隔膜12の外周部に対して厚み方向に重なる円環状の圧電変換部Pが設けられている。圧電変換部Pは圧電材料で形成されている。絶縁層112における圧電変換部Pを除く部分、すなわち凹部10aが設けられた領域の外側の隔膜外部13と厚み方向に重なる絶縁部Iは、圧電変換部Pよりも非誘電率が小さい絶縁材料によって形成されている。例えば絶縁部Iはポリイミドやアルミナ(Al23)や二酸化珪素によって形成される。第二実施形態のように絶縁部Iを圧電変換部Pよりも非誘電率が小さい絶縁材料によって形成することにより、絶縁層112の寄生容量を低減することができる。したがって上電極層113と下電極層111の間に高周波電圧を印加した場合でも高い電力効率で隔膜12を振動させることができる。圧電変換部Pと絶縁部Iは別の材料で形成されるが、圧電変換部Pと絶縁部Iは連続しており、一体の絶縁体を構成する。
【0031】
ここで、図1Aにおいて一点鎖線で示された領域Wにおける寄生容量について考察する。領域Wは一辺が3.2mmの正方形であり、中央に単一の隔膜12を有するものとする。圧電変換部Pの外径および隔膜12の直径は3mmであり、圧電変換部Pの内径は1mmであることとする。圧電変換部Pがチタン酸ジルコン酸鉛によって形成されることする。第一実施形態では絶縁部Iもチタン酸ジルコン酸鉛によって形成され、領域Wにおける下電極層111と上電極層113との間の静電容量は2.79×10-8Fとなる。一方、第二実施形態において、絶縁部Iを圧電変換部Pよりも非誘電率が小さい二酸化珪素によって形成したとする。この場合、領域Wにおける下電極層111と上電極層113との間の静電容量は1.86×10-8Fとなり、第一実施形態における領域Wの寄生容量の33%分小さい値となる。
【0032】
(製造方法)
まず選択的なエッチング等によって圧電変換部Pを形成しておき、その後、圧電変換部Pをマスクし絶縁部Iを選択的に積層することにより、互いに材料が異なる圧電変換部Pと絶縁部Iとからなる絶縁層112を形成することができる。また圧電変換部Pを先に形成しておき、その上に非誘電率の小さい材料を一様に積層し、その後圧電変換部Pが上方に露出するまで研磨を行うことにより絶縁層112を形成してもよい。勿論、絶縁部Iを先に形成し、その後圧電変換部Pを形成してもよい。上電極層113は、絶縁層112が形成された後に積層される。
【0033】
3.他の実施形態
図7A〜7Dは他の実施形態にかかる超音波パラメトリックアレイスピーカーの平面図である。図7A〜7Dに図示された各超音波パラメトリックアレイスピーカー3〜6において、隔膜12の面内方向における配置が第一実施形態の超音波パラメトリックアレイスピーカー1と異なっている。第一実施形態の超音波パラメトリックアレイスピーカー1においては、隣接する隔膜12の中心同士を結ぶ線分によって正三角形が形成されるように各隔膜12が配置されている。これに対して図7A,7B,7Dに示す超音波パラメトリックアレイスピーカー3,4,6のように隔膜12を直交格子状に配置してもよい。さらに図7Bに示す超音波パラメトリックアレイスピーカー4のように互いに径の異なる隔膜12を配置してもよい。また図7Cに示す超音波パラメトリックアレイスピーカー5のように中央の隔膜12を基準として6回対称となるように各隔膜12が配置してもよい。隔膜12を点対称に配置することにより、平面対称性に優れた音波を送波することができる。
【0034】
図7Dに示す超音波パラメトリックアレイスピーカー6では圧電素子11が紙面左右に分断され、分断された圧電素子11のそれぞれについて接続部11aが設けられている。なお圧電素子11は薄い単結晶珪素層103が露出するまで圧電素子11の一部を上方からエッチングすることにより分断される。分断された圧電素子11の上電極層113と下電極層111も、それぞれ電気的に分断されることとなる。これにより、分断された圧電素子11ごとに隔膜12を異なる周波数や位相や振幅で振動させることができ、複数の音波を単一の超音波パラメトリックアレイスピーカー6から送波することができる。
【0035】
なお、本発明の技術的範囲は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば上記前記実施形態で示した材質や寸法や形状や成膜方法やパターン転写方法はあくまで例示であるし、当業者であれば自明である工程の追加や削除や工程順序の入れ替えについては説明が省略されている。さらにMEMSトランスデューサは上述した超音波パラメトリックアレイスピーカーに限られず、超音波センサの超音波発生部や可聴音スピーカー等にも利用することができる。さらに、本発明のMEMSトランスデューサを超音波センサの超音波検出部などに応用しても、同様に高い接続信頼性を実現することができる。
【0036】
隔膜12はポリイミド、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride)、ゴム等の有機材料から構成してもよいし、酸化珪素、多結晶珪素、セラミック(ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al23)など)、金属(Cuなど)等の無機材料で構成してもよい。また隔膜12と隔膜外部13との境界は円形に限らず、矩形であってもよいし、隔膜12に通孔が形成されていてもよいし、隔膜12が帯形状であってもよい。隔膜12と隔膜外部13との境界を円形としない場合でも、前記外周部に圧電変換部Pが重なるようにすればよい。隔膜12の中央部と重なる部分において圧電素子11の下電極層111に通孔を形成してもよい。また隔膜12を可聴域の周波数で振動させることにより直接可聴音を送波することも勿論可能である。隔膜12は圧電素子11の駆動力によって振動可能な程度に厚みが薄ければよく、隔膜12が複数または連続的に変化する厚みを有してよい。隔膜外部13は圧電素子11の駆動力によって振動不能な程度に厚みが厚ければよく、隔膜外部13が複数または連続的に変化する厚みを有してよい。
【符号の説明】
【0037】
1〜6…超音波パラメトリックアレイスピーカー、10…素子基板、10a…凹部、11…圧電素子、11a…接続部、11b,11c…通孔、12…隔膜、13…隔膜外部、101…単結晶珪素層、102…絶縁膜、103…単結晶珪素層、111…下電極層、112…絶縁層、113…上電極層、150…接着層、160…閉塞基板、C…空洞、I…絶縁部、P…圧電変換部、R1〜R3…保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面上に形成される下電極と、
前記基板において前記下電極が形成されない面に形成された複数の凹部と、
前記下電極の表面上において複数の前記凹部のそれぞれの底部を変位させることが可能な位置に形成される複数の圧電変換部と、
前記下電極の表面上に一体として形成され、複数の前記圧電変換部のすべてと厚みを共通にし、複数の前記圧電変換部のすべてと接続する絶縁部と、
前記圧電変換部および前記絶縁部の表面上に一体として形成される上電極と、
を備える、
MEMSトランスデューサ。
【請求項2】
前記圧電変換部は、平面視において前記凹部の中央部を除く外周部と厚み方向に重なる位置に形成される、
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項3】
前記絶縁部は、前記圧電変換部よりも非誘電率の小さい絶縁材料によって形成される、請求項1または2に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項4】
基板と、
前記基板の表面上に形成される下電極と、
前記基板において前記下電極が形成されない面に形成された複数の凹部と、
前記下電極の表面上において複数の前記凹部のそれぞれの底部を変位させることが可能な位置に形成される複数の圧電変換部と、
前記下電極の表面上に一体として形成され、複数の前記圧電変換部のすべてと厚みを共通にし、複数の前記圧電変換部のすべてと接続する絶縁部と、
前記圧電変換部および前記絶縁部の表面上に一体として形成される上電極と、
を備える、
を備える超音波パラメトリックアレイスピーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−182298(P2011−182298A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46413(P2010−46413)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】