説明

MEST活性を測定するための試験系並びにそれを含む方法及び使用

本発明は、MEST活性を測定するための試験系、MESTのリガンドをスクリーニングするための方法、及びMESTリガンド、特にMEST阻害剤の同定のための試験系の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEST活性を測定するための試験系、MESTのリガンドをスクリーニングするための方法、及びMESTリガンド、特にMEST阻害剤の同定のための試験系の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、過剰な体脂肪が健康に有害な影響を有し得る、例えば減少した平均余命をもたらす程度まで蓄積した医学的状態である。脂肪細胞量の増加として定義される肥満及びそれに伴う末梢組織(例えば筋肉及び肝臓)のインスリン抵抗性は、先進工業国における本質的な健康問題であり、そして途上国でも増加している。肥満及びインスリン抵抗性は、頻繁にメタボリックシンドローム及びII型糖尿病に至り、従ってこれらの疾患の原因と考えられる。
【0003】
脂肪細胞量は、脂肪細胞の数の増加(分化)及び/又は脂肪細胞のサイズの増加(細胞あたりの細胞質脂質の増加した量の沈着)により増強される。タンパク質「MEST」が脂肪細胞サイズの調節に関与すると示唆されている(例えば非特許文献1;2及び3)を参照のこと。
【0004】
以下の効果が観察されている:
i) MESTのmRNAレベル及びタンパク質発現が、脂肪餌を与えられた肥満の動物の脂肪組織において劇的に増加する。
ii) MEST発現が脂肪細胞のサイズと相関する。
iii) 脂肪組織においてMESTを過剰発現したトランスジーンマウスは、増加した脂肪細胞特異的遺伝子発現及び増加した脂肪細胞サイズ(数は増加しない)を示すが、筋肉質量及び非脂肪組織の総質量は減少する。
iv) 肥満動物への抗糖尿病薬の投与(グリタゾンクラスの「インスリン抵抗性改善薬」)により発現が減少し、それに伴って脂肪細胞サイズが減少し、そしてインスリン感受性が改善された。
v) 培養された脂肪細胞におけるMESTの過剰発現は、増加した脂肪細胞分化及び脂肪細胞特異的遺伝子発現をもたらす。
vi) MEST mRNA及びタンパク質は、糖尿病及び過体重のヒトの脂肪組織においてのみ検出可能である。
vii) ヒトボディマス指数(肥満の基準として)に影響を及ぼすヒト第7染色体における染色体座(7q32.3)は、これも第7染色体上にあるMESTについて同定された染色体座の近くに位置する(7q32.2)。
viii) MEST遺伝子を欠失したマウス(MEST KOマウス)は、(正常な形態で)減少した脂肪組織質量を示す。
ix) 脂肪富化食餌後のマウスの相対的な肥満の差は、精巣上体脂肪組織におけるMESTの発現と相関しており、ここで質量の増加した量は肥満の発生時に既に検出可能であり、従って肥満の病理発生の前兆でありそして原因である。
【0005】
もともとMESTはマウスの癌細胞(MC12)からクローン化された。これは胚体中胚葉及び胚体外中胚葉において発現されるが、通常成体組織では発現されない。さらに、MESTは、正常な胚と単為生殖胚(雌性ゲノム由来のみ)とのcDNAのサブトラクションハイブリダイゼーションによる刷り込み遺伝子の系統的分析において父系のみ発現される遺伝子と同定された。
【0006】
しかし、MESTの酵素的機能又は生化学的機能はこれまで記載されていない。しかし、その肥満における関連性のために、MESTの調節因子を、特に新しい治療標的として、並びに糖尿病、メタボリックシンドローム及び/又はII型糖尿病の処置として同定することが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Feitosa et al.,2002
【非特許文献2】Takahashi et al.,2005
【非特許文献3】Nikonova et al.,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、MESTリガンドの同定に使用され得る、MEST活性を測定するための試験系を開発することが本発明の目的であった。驚くべきことに、アルファ/ベータ折り畳みヒドロラーゼ(リパーゼ、エステラーゼ、セリンプロテアーゼ及びアシルトランスフェラーゼ)のスーパーファミリーにMESTが属するということが見出された。グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼGPAT1−4に対するMESTの全体的な配列同一性は非常に低い(Lehner及びKuksis,1996;Lewin et al.,1999;Coleman et al.,2000;Cao et al.,2006)。低い配列同一性に起因して、MESTはハイブリダイゼーション又はPCR(縮重プライマーを使用する)でも、インシリコ配列解析でもかすかに関連したGPATアイソフォームと同定されなかった。
【0009】
しかし、実施例に示されるように、MESTがグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼとしての活性を有することが今や示されており、この発見に基づいて試験系が開発されている。この発見は、グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼが脂肪細胞及び他の末梢組織における脂質の合成において律速であり、それにより脂肪細胞のサイズを調節するということと特に関連する。従って、MESTの阻害は、肥満及び糖尿病に関連する治療方法における興味深い標的を提供する。このことは、グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ(例えばGPAT 1及び3)のファミリーの他のメンバーについて適切な細胞ベースのアッセイ、さらには動物モデルにおいて既に確認されている(Thuresson,2004)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明の第一の局面は、
i) 中胚葉特異的転写物相同体タンパク質(MEST)又はその機能的に活性な変異体、
ii) アシル受容体、例えばグリセロール−3−リン酸、
iii) アシル供与体、例えばアシル補酵素A(CoA)[ここでアシルは0、1、2又は3つの二重結合を有するC14〜C22アシルである]、及び
iv) アシル残基をアシルCoAからアシル受容体に転移させるMESTの酵素活性を検出するための手段
を含んでなる、MEST活性を測定するための試験系に関する。
【0011】
本発明の試験系は、アシル転移酵素MESTの機能及び活性を解明するために使用され得る。詳細には、本試験系は、MESTと相互作用する薬剤、特にMESTを活性化又は不活化する薬剤を開発、同定及び/又は特徴付けするために使用され得る。同定された薬剤は興味深い治療薬であり得、これは肥満及び糖尿病のようなMEST関連疾患の処置において使用され得る。
【0012】
本発明の試験系が適応され得る一連の試験設計は当該分野で公知である。例となる試験に関するさらなる詳細は本発明の方法において示される。本試験系は、場合によりMESTと相互作用することが疑われるか相互作用することが公知である薬剤の存在下で、MESTの活性を測定するために使用され得る。当業者は、例えば一般的な方法と関連して必要とされるさらなる薬剤を加えることにより、意図される特定の試験設計に本試験系を適応させることができるだろう。
【0013】
本発明によれば、試験系はMESTの活性を測定するために設計される。MESTは生体分子のアシル化を触媒するアシル転移酵素である。この文脈において、アシル転移酵素は、アシル供与体、特にアシル補酵素A(CoA)(例えばパルミトイル−CoA又はオレオイル−CoA)からアシル受容体、特にグリセロール3−リン酸へのアシル転移を触媒する。
【0014】
上で詳述したように、本試験系は、アシル転移酵素MESTの酵素活性、すなわちアシル供与体からアシル受容体へのアシル基の転移におけるその活性を測定するために使用される。酵素活性は、一般的に単位時間あたりに転換された基質のモル数=速度×反応体積として定義される。酵素活性は存在する活性酵素の量の尺度であり、従って条件に依存する。SI単位はカタールであり、1カタール=1mol 秒-1であるが、これは非常に大きな単位である。より実用的で一般に使用される値は1酵素単位(EU)=1μmol 分-1(μ=マイクロ、x10-6)。1Uは16.67ナノカタールに相当する。しかし、アシル転移酵素の酵素活性は、例えば試験しようとする化合物の不在下及び存在下での酵素活性を比較することにより、アシル転移酵素の酵素活性の変化(相対的単位)として測定してもよい。例となる試験設計を実施例4〜6に記載する。
【0015】
明らかに、酵素活性は(in)、酵素の量、酵素の活性化状態、補因子(例えば活性化補助因子又は補助抑制因子)の存在、活性化因子及び阻害剤の存在、並びに塩濃度、温度、pHなどのような周囲条件を含む一連の因子により影響を受ける。通常、酵素活性は標準的な実験室条件で測定され、そして問題の試験系の最適条件に適合され得る。従って、試験系は、有用な治療剤であり得る活性化因子及び阻害剤のような酵素の活性化状態を変化させる分子を検出又は同定するために使用され得る。
【0016】
第一の構成要素(構成要素i)とも呼ばれる)として、本試験系は中胚葉特異的転写物相同体タンパク質(MEST)又はその機能的に活性な変異体を含む。
【0017】
中胚葉特異的転写物相同体タンパク質(MEST)は父性発現(paternally−expressed)遺伝子1タンパク質(PEG1)とも呼ばれる。このタンパク質又は遺伝子のさらなる特徴は明細書の導入部分に示される。
【0018】
これまでにMESTの3つのアイソフォームが同定されており、これらは選択的スプライシングにより産生される:アイソフォーム1(識別名:Q5EB52−1、http://www.uniprot.org/にてProtein knowledgebase UniProtKBを参照のこと)、アイソフォーム2(識別名:Q5EB52−2)(ここではアイソフォーム1のアミノ酸1〜9が欠けている)、及びアイソフォーム3(識別名:Q5EB52−3)(ここではアイソフォーム1のアミノ酸1〜9及び218〜251が欠けている)。ヒトMESTアイソフォーム1は以下のアミノ酸配列を有する(PRO_0000284418を参照):
【0019】
10 20 30 40 50 60
MVRRDRLRRM REWWVQVGLL AVPLLAAYLH IPPPQLSPAL HSWKSSGKFF TYKGLRIFYQ

70 80 90 100 110 120
DSVGVVGSPE IVVLLHGFPT SSYDWYKIWE GLTLRFHRVI ALDFLGFGFS DKPRPHHYSI

130 140 150 160 170 180
FEQASIVEAL LRHLGLQNRR INLLSHDYGD IVAQELLYRY KQNRSGRLTI KSLCLSNGGI

190 200 210 220 230 240
FPETHRPLLL QKLLKDGGVL SPILTRLMNF FVFSRGLTPV FGPYTRPSES ELWDMWAGIR

250 260 270 280 290 300
NNDGNLVIDS LLQYINQRKK FRRRWVGALA SVTIPIHFIY GPLDPVNPYP EFLELYRKTL

310 320 330
PRSTVSILDD HISHYPQLED PMGFLNAYMG FINSF
(配列番号1)
【0020】
アイソフォーム1は父方対立遺伝子からのみ発現するが、アイソフォーム2は父方の対立遺伝子及び母方の対立遺伝子の両方から発現する。父系由来対立遺伝子の単一対立遺伝子発現は調べられた全ての胎仔組織(脳、骨格筋、腎臓、副腎、舌、心臓、皮膚及び胎盤を含む)において見られた。
【0021】
その触媒三連構造(catalytic triad)(セリン145、ヒスチジン146、アスパラギン酸147)に起因して、MESTはAB(折り畳み)ヒドロラーゼスーパーファミリー(α/βヒドロラーゼスーパーファミリーとも呼ばれる)に属すると示唆された。しかし、その酵素的又は生化学的機能は以前は解明されていなかった。AB(折り畳み)ヒドロラーゼスーパーファミリーの公知のメンバーは、重要な生化学的プロセスに関与し、そして種々の疾患に関連することが見出されている。最も大きなタンパク質スーパーファミリーの1つとして、ABヒドロラーゼスーパーファミリーは、適当な関係のないアミノ配列が類似性を有する構造に適合し得る興味深い進化過程を経てきた。5つの明らかに関係のないヒドロラーゼのタンパク質折り畳みは、1990年代前半にa/bヒドロラーゼ折り畳みと名付けられた。標準的なa/bヒドロラーゼ折り畳みは8本鎖の平行a/b構造で構成される。このファミリーの酵素は、関係のない配列、様々な基質、そして異なる種類の触媒活性を有していてもよい、例えば:カルボン酸エステルヒドロラーゼ、リパーゼ、チオエステルヒドロラーゼ、ペプチドヒドロラーゼ、ハロペルオキシダーゼ、デハロゲナーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、及びC−C結合開列酵素。
【0022】
本発明内では、MESTがアシルトランスフェラーゼとしての酵素活性を有すると示すことができた(実施例も参照のこと)。公知のアシルトランスフェラーゼ(特にグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)1−4)に対する全体の配列類似性が非常に低いので、この発見は特に驚くべきことであった。従って、MESTは遠隔アシルトランスフェラーゼとしてはまだ同定されていない。
【0023】
本発明によれば、特徴「中胚葉特異的転写物相同体タンパク質」(MEST)は上記で定義されるようなヒトアイソフォーム1、2及び3を含む天然に存在するいずれかのMESTに関する。しかし、上で記載及び説明されるヒトアイソフォーム1(配列番号1を参照のこと)が特に好ましい。
【0024】
いずれかの天然に存在するMESTアイソフォーム又は変異体(例えば種変異体又はスプライス変異体)に加えて、改変されたMESTタンパク質を使用してもよい。改変ME
STタンパク質又はMEST変異体は、変異体がその生物学的機能、すなわちそのアシル転移活性を維持しているという点で機能的に活性な変異体であるということに留意すべきである。好ましくは、生物学的機能、例えばアシル基の転移の維持は、天然に存在するMESTの活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、80%又は90%、なおより好ましくは95%を有すると定義される。生物学的活性は実施例に記載されるように決定され得る。
【0025】
変異体は、天然に存在するMESTタンパク質からなるドメイン及び少なくとも1つのさらなる構成要素を有する分子であり得る。例えば、タンパク質を、精製目的で使用されるタグ(例えば6His(又はHexaHis)タグ、Strepタグ、HAタグ、c−mycタグ又はグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タグ)のようなマーカーに結合してもよい。例えば、高度に精製されたMESTタンパク質又は変異体が必要とされる場合、二重又は多重マーカー(例えば上記のマーカー又はタグの組み合わせ)が使用され得る。この場合、タンパク質は2つ又はそれ以上の分離クロマトグラフィー工程で精製され、各場合に第一のタグ、次いで第二のタグの親和性を利用する。このような二重タグ又はタンデムタグの例は、GST−Hisタグ(ポリヒスチジンタグに融合されたグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、6xHis−Strepタグ(Strepタグに融合された6つのヒスチジン残基)、6xHis−タグ100−タグ(哺乳動物MAP−キナーゼ2の12アミノ酸のタンパク質に融合された6つのヒスチジン残基)、8xHis−HAタグ(赤血球凝集素−エピトープタグに融合された8つのヒスチジン残基)、His−MBP(マルトース結合タンパク質に融合されたHisタグ)、FLAG−HAタグ(血液凝集素−エピトープタグに融合されたFLAGタグ)、及びFLAG−Strepタグ(Strepタグに融合されたFLAGタグ)である。マーカーはタグ化タンパク質を検出するために使用することができ、ここでは特異的抗体が使用され得る。適切な抗体としては、抗HA(例えば12CA5又は3F10)、抗6His、抗c−myc及び抗GSTが挙げられる。さらに、MESTタンパク質は、蛍光マーカー又は放射性マーカーのような異なる分類のマーカーに連結され得、これによりMESTの検出が可能になる。さらなる実施態様において、MESTは融合タンパク質の一部であり得、ここで酵素活性を有するタンパク質構成要素のように、第二の部分は検出に使用され得る
本発明の別の実施態様において、MEST変異体はMESTフラグメントであり得、ここでフラグメントもやはりアシル基を転移させることができる。これには短いC末端及び/又はN末端欠失(例えば多くとも20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1つのアミノ酸)を有するMESTタンパク質が含まれ得る。さらに、MESTフラグメントはMESTタンパク質について上で詳述されるようにさらに改変され得る。
【0026】
あるいは又はさらに、MESTタンパク質又は上記のようなその変異体は、特にアシル基の転移に関与しない領域に1つ又はそれ以上のアミノ酸置換を含み得る。しかし、アミノ酸が化学的に関連するアミノ酸で置換される保存的アミノ酸置換が好ましい。典型的な保存的置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド基を有するアミノ酸間、塩基性残基を有するアミノ酸間、又は芳香族残基を有するアミノ酸間である。置換を有するMESTタンパク質又はフラグメント又は変異体は、MESTタンパク質又はフラグメント又は変異体について上で詳述されるように改変され得る。本発明の以下の説明において、MESTに関して示される全ての詳細は、別の記載がなければその機能的に活性な変異体にも関連する。
【0027】
しかし、最も好ましくは、MESTタンパク質は天然に存在するMESTタンパク質であり、なおより好ましくは天然に存在するヒトMESTタンパク質(アイソフォーム1、2又は3)又は機能的に活性な変異体T579B(配列番号1のアミノ酸2〜335)又は機能的に活性な変異体T580B(配列番号1のアミノ酸11〜335)である。アミ
ノ酸1〜11を除外することができると証明されたという事実のため、以下の変異体のいずれも適切だろうと推測される:配列番号1のアミノ酸3〜335、配列番号1のアミノ酸4〜335、配列番号1のアミノ酸5〜335、配列番号1のアミノ酸6〜335、配列番号1のアミノ酸7〜335、配列番号1のアミノ酸8〜335、配列番号1のアミノ酸9〜335又は配列番号1のアミノ酸10〜335。
【0028】
第二の構成要素(構成要素ii)とも呼ばれる)として本試験系はアシル受容体を含む。アシル受容体はアシル基がアシル基転移の間に供与される化学化合物である。本発明において、アシル転移はMESTにより媒介される。従って、MESTに受容されるいずれかの適切なアシル受容体が使用され得る。アシル受容体の例は典型的に、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及び特にグリセロール−リン酸及びジヒドロキシアセトンリン酸のようなリン脂質を含む。好ましくは、アシル受容体はグリセロール−リン酸又はジヒドロキシアセトンリン酸、より好ましくはグリセロール3−リン酸である。
【0029】
第三の構成要素(構成要素iii)とも呼ばれる)として、試験系はアシル供与体、すなわちアシル補酵素A(CoA)[ここでアシルは0、1、2又は3つの二重結合を有するC14〜C22アシルである]を含む。
【0030】
アシルCoAは脂肪酸の代謝に関与する補酵素である。これは生細胞内部で長鎖脂肪酸の末端に補酵素A(CoA)が結合するときに形成される一時的な化合物である。アシルCoAは一般式
【化1】

[式中、CoAは補酵素Aを表し、そしてRは14〜22個のC原子を有する脂肪酸残基を表す]を有する。
【0031】
補酵素A(CoA、CoASH、又はHSCoA)は、脂肪酸の合成及び酸化、並びにクエン酸回路におけるピルビン酸の酸化におけるその役割に注目すべき補酵素である。補酵素Aは化学的にはチオールであるのでカルボン酸と反応してチオエステルを形成することができ、それ故アシル基キャリアとして機能する。それが脂肪酸の転移に役立つ。アシル基に結合していない場合は、通常「CoASH」又は「HSCoA」と呼ばれる。
【0032】
脂肪酸は、動物又は植物の脂肪、油脂、又はロウから誘導されるか、又はそれにエステル化形態で含有される、脂肪族モノカルボン酸類である。天然脂肪酸は一般的に4〜28個の炭素を有し(通常は無分枝鎖で偶数)、飽和であっても不飽和であってもよい。
【0033】
本発明によれば、脂肪酸は飽和(0の二重結合)及び不飽和(1、2又は3つの二重結合)であり得る。それらは長さも様々であり、14〜22個の炭素原子、特に16〜20個の炭素原子、例えば16、18又は20個の炭素原子を有し得る。
【0034】
14〜22個の炭素原子を有する飽和脂肪酸の例としては、
− ミリスチン酸(テトラデカン酸CH3(CH212COOH)、
− ペンタデシル酸(pentadecylic acid)(ペンタデカン酸CH3(CH213COOH)、
− パルミチン酸(ヘキサデカン酸CH3(CH214COOH)、
− マルガリン酸(ヘプタデカン酸CH3(CH215COOH)、
− ステアリン酸(オクタデカン酸CH3(CH216COOH)、
− ノナデシル酸(nonadecylic acid)(ノナデカン酸CH3(CH217COOH)、
− アラキジン酸(エイコサン酸CH3(CH218COOH)、
− ヘネイコシル酸(heneicosylic acid)(ヘンエイコサン酸CH3(CH219COOH)、及び
− ベヘン酸(ドコサン酸CH3(CH220COOH)
が挙げられる。
【0035】
14〜22個の炭素原子を有する不飽和脂肪酸の例としては、
− ミリストレイン酸(CH3(CH23CH=CH(CH27COOH)、
− ミリストレイン酸(CH3(CH23CH=CH(CH27COOH)、
− パルミトレイン酸(CH3(CH25CH=CH(CH27COOH)、
− オクタデカ−6−エン酸(CH3(CH210CH=CH(CH24COOH)、
− オレイン酸(CH3(CH27CH=CH(CH27COOH)、
− オクタデカ−9−エン酸(CH3(CH27CH=CH(CH27COOH)、
− オクタデカ−11−エン酸(CH3(CH25CH=CH(CH29COOH)、
− リノール酸(CH3(CH24CH=CHCH2CH=CH(CH27COOH)、
− α−リノレン酸(CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH27COOH)、
− オクタデカ−6,9,12−トリエン酸(CH3(CH24CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH24COOH)、
− オクタデカ−8,10,12−トリエン酸(CH3(CH24CH=CHCH=CHCH=CH(CH26COOH)、
− オクタデカ−9,11,13−トリエン酸(CH3(CH2)3CH=CHCH=CHCH=CH(CH27COOH)、
− エイコサ−9−エン酸(CH3(CH29CH=CH(CH27COOH)、
− エイコサ−11−エン酸(CH3(CH27CH=CH(CH29COOH)、
− ドコサ−11−エン酸(CH3(CH29CH=CH(CH29COOH)、及び
− エルカ酸(CH3(CH27CH=CH(CH211COOH)
が挙げられる。
【0036】
第四の構成要素(構成要素iv)とも呼ばれる)として、本試験系はアシルCoAからアシル受容体にアシル残基を転移させるMESTの酵素活性を検出するための手段を含む。
【0037】
MESTの活性の検出に適した手段は、本明細書の全体を通して詳述される。
【0038】
構成要素i)〜iv)に加えて、本発明の試験系は1つ又はそれ以上のさらなる構成要素を含み得る。試験設計及び検出方法に依存して、試験系はさらなる構成要素を含み得る。当業者は、試験系を研究設計に適合させることができ、すなわち適切な緩衝剤、補因子又は任意の他の必要な薬剤を選択することができる。場合により、第五の構成要素((試験)薬剤とも呼ばれる)として、本試験系はアシル転移酵素の活性を変更すると疑われる薬剤を含む。
【0039】
試験系は、一般的な条件下で適切な、細胞系であっても無細胞系であってもよい。
【0040】
本発明の好ましい実施態様において、アシルCoAはパルミトイルCoA又はオレオイル−CoA、好ましくはパルミトイルCoAである。
【0041】
本発明の別の好ましい実施態様において、アシル受容体はグリセロール3−リン酸又はジヒドロキシアセトンリン酸、好ましくはグリセロール3−リン酸である。
【0042】
従って、アシルCoAとアシル受容体との以下の組み合わせが好ましい:
− アシルCoAがパルミトイルCoAであり、アシル受容体がグリセロール3−リン酸である。
− アシルCoAがパルミトイルCoAであり、アシル受容体がジヒドロキシアセトンリン酸である。
− アシルCoAがオレオイル−CoAであり、アシル受容体がグリセロール3−リン酸である。
− アシルCoAがオレオイル−CoAであり、アシル受容体がジヒドロキシアセトンリン酸である。
【0043】
アシルCoAがパルミトイルCoAであり、アシル受容体がグリセロール3−リン酸である組み合わせが最も好ましい。
【0044】
1つの好ましい実施態様において、検出可能なマーカーが、アシル残基をアシルCoAからアシル受容体に転移させるMESTの酵素活性を検出するために使用される。従って、アシル受容体及び/又はアシルCoAは少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識され得る。
【0045】
マーカー(又は標識)は、別の物質又は物質の複合体の存在を示すことができるいずれかの種類の物質である。マーカーは検出しようとする物質に連結されているか導入されている物質であり得る。検出可能なマーカーは、例えばタンパク質、酵素反応の生成物、第二のメッセンジャー、DNAなどを検出するために分子生物学及びバイオテクノロジーにおいて使用される。
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、マーカーは放射標識、具体的には3H、32P、35S又は14C、特に3Hである。マーカーは、アシルCoAからアシル受容体に転移させようとするアシル基に結合され得る。転移が起こった後に、標識されたアシルCoA及び標識されたアシル受容体は、それらの異なる物理的又は化学的特性に基づいて分離され得、そして放射能の量はMEST活性を決定するために定量される。あるいは、アシル受容体を標識してもよい。アシルの転移が起こった後、標識された非アシル化アシル受容体と標識されたアシル化アシル受容体は、それらの異なる物理的又は化学的特性に基づいて分離され得、そして放射能の量を、MEST活性を決定するために定量する。
【0047】
本発明のより好ましい実施態様において、パルミトイルCoAは、放射標識されたアシル受容体、特に放射標識されたグリセロール3−リン酸に転移させるために使用される。好ましい標識は3Hである。
【0048】
本発明の別の好ましい実施態様において、マーカーは1つ又はそれ以上の蛍光マーカーである。適切な蛍光マーカーは本発明の方法の文脈において記載される。一般に、放射標識に関して上で示される詳細は、概してマーカーにも適用可能であり、従って蛍光マーカーにも適用可能であり、ここで放射標識が(蛍光)マーカーで置き換えられる。
【0049】
あるいは、2つの物質又は部分が近接していることを検出するために2つのマーカーが使用され得る。これらのマーカーは、例えば1つの蛍光マーカー及び1つのシンチレータ(例えばシンチレーション近接アッセイのため)であり得、又は2つの蛍光マーカーが(例えばFRETのために)使用され得る。一実施例において、アシル基及びアシル受容体
を第一及び第二のマーカーで標識することができた。アシル基がアシルCoAからアシル受容体に転移され、従って標識が近接している場合、エネルギーは第一の標識から第二の標識に転移し、それ故アシル基の転移を検出することができた。適切なマーカーの組み合わせの例としては、
− 例えばマイクロパーティクルに分けられた、ケイ酸イットリウム若しくはポリビニル−トルエンのようなシンチレーターと組み合わされた放射標識3H、33P、35S又は14C、125I又は
− LC−Red 610、LC−Red 640、LC−Red 670、LC−Red 705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又は他のランタニドイオン(ユーロピウム又はテルビウム)のキレートのような受容体蛍光マーカーと組み合わされた、フルオレセイン、ルシファーイエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、スクシンイミジル1−ピレンブチラート、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸誘導体のような供与体蛍光マーカー
が挙げられる。
【0050】
上記の本発明の試験系は、MESTリガンドをスクリーニングするための方法において使用され得る。
【0051】
従って、本発明の別の局面は、MESTのリガンドをスクリーニングするための方法に関し、該方法は:
a) 上記の本発明の試験系を、アシル受容体へのアシル転移をもたらす条件下で薬剤と接触させる工程、
b) MESTのアシル転移活性を決定する工程、及び
c) コントロールと比較して変更されたMESTのアシル転移活性を検出し、それにより物質をMESTのリガンドと同定する工程
を含む。
【0052】
本発明の方法の特徴の定義のために、本発明の試験系の文脈において上で詳述された定義及び実施態様も参照される。
【0053】
本発明の方法のために、MEST又はその機能的に活性な変異体を含む試験系を薬剤と接触させる。本発明の試験系で試験される薬剤は、任意の化学的性質の任意の試験物質又は試験化合物であり得る。それは疾患のための薬物又は医薬として既に公知であってもよい。あるいは、それは別の実施態様において治療効果を有することがまだ知られていない公知の化学化合物であってもよく、その化合物は新規であってもそれまで未知の化学化合物であってもよい。薬剤は試験物質又は試験化合物の混合物であってもよい。
【0054】
本発明のスクリーニング方法の実施態様において、試験物質は化学化合物ライブラリの形態で提供される。化学化合物ライブラリは、多数の化学化合物を含み、そして化学的に合成された分子若しくは天然産物を含む多数の供給源のいずれかから構築されたものであるか、又はコンビナトリアルケミストリー技術により生成されたものである。それらはハイスループットスクリーニングに特に適しており、特定の構造の化学化合物若しくは特定の生物(例えば植物)の化合物で構成され得る。本発明の文脈において、化学化合物ライブラリは、好ましくはタンパク質及びポリペプチド又は有機小分子を含むライブラリである。好ましくは、有機小分子は500ダルトン未満の大きさであり、特に可溶性でオリゴ
マーでない有機化合物である。
【0055】
本発明の文脈において、MEST活性を調節してそれを検出するために適した条件下で一定時間、試験系を薬剤と接触させる。適切な条件としては、例えば含まれるタンパク質の変性を防ぐため、又は存在する場合は生存細胞を維持するために適切な温度及び溶液が挙げられる。適切な条件は、選択された特定の試験系に依存し、そして当業者はその一般的知識に基づいてそれを選択することができるだろう。インキュベーション工程は、約5秒から数時間まで、好ましくは約5分から約24時間で変動し得る。しかし、インキュベーション時間は、アッセイ形式、マーカー、溶液の体積、濃度などに依存するだろう。通常は、アッセイは周囲温度で行われるが、10℃〜40℃のような温度範囲にわたって行うことができる。
【0056】
試験系を薬剤と接触させた後、試験系に対する薬剤の効果が検出される。以下において、一連の異なる検出系がより詳細に記載される。しかし、当然のことながら、これらは例示であり、他の試験系及び方法も適切であり得る。
【0057】
薬剤が試験系に特異的で有意な効果を有する場合、その薬剤をMESTの調節因子と同定する。本発明の文脈におけるMESTの調節因子、特にリガンドは、MESTの活性を変化させる(増加又は減少のいずれでも)薬剤を意味する。好ましくは、MEST活性は減少される。本発明の文脈において、コントロールと比較して、調節因子と接触されたMEST活性がコントロール(すなわち調節因子/リガンドと接触していないMEST)よりも有意に低い又は高い場合、MEST活性は調節される、すなわち増加するか又は好ましくは減少する。当業者には、2つの値が互いに有意に異なるか否かを評価する統計学的手順、例えばスチューデントt検定又はカイ二乗検定が公知である。さらに、当業者は適切なコントロールを選択する方法を知っている。
【0058】
コントロールは、意図されない影響(例えばバックグラウンドシグナル)を排除又は最少にすることができるので、試験方法の一部である。対照実験は、特定の系に対する変数の効果を調べるために使用される。対照実験において、一組のサンプルは改変されており(又は改変されたと考えられ)、そして他の組のサンプルは変化を示さないと期待される(ネガティブコントロール)か、又は明確な変化を示すと期待される(ポジティブコントロール)。
【0059】
好ましい実施態様において、MEST活性はコントロールの少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、なおより好ましくは少なくとも75%、そして最も好ましくは少なくとも90%だけ減少する。
【0060】
特にハイスループットスクリーニングについて、可能な限り少ない構成要素を含む、非常に容易で着実な検出系を使用することが好ましいかもしれない。本発明の一実施態様において、試験系は構成要素i)〜iv)及び場合によりMEST活性の潜在的調節因子のみを含み得る。
【0061】
試験系の構成要素、特に転移させようとするアシル基は、十分な検出又は精製を可能にするための種々の方法で標識され得る。一般的な標識方法が、構成要素の1つ又はそれ以上の官能基を標識するために使用され得る。タンパク質については、これらは例えば、各ポリペプチド鎖のN末端及びリジン残基の側鎖に存在する第一級アミノ基;ジスルフィド結合を還元剤で処理することにより、若しくはリジン残基をSATAのような試薬で修飾することにより利用可能になったシステイン残基上に存在するスルフヒドリル基;又は通常は抗体のFc領域に存在し、酸化されてカップリングに対して活性なアルデヒド基を生じ得る炭水化物基であり得る。構成要素又はタンパク質は、一連の様々な薬剤、例えばビ
オチン(アビジン−ビオチン化学のため)、酵素、アミン、スルフヒドリル又は他の官能基を標識するための活性化蛍光色素、例えばFITC、フルオレセイン、ローダミン、Cy色素又はAlexa fluosで標識され得る。放射性標識、例えば3H、32P、35S、125I又は14C、さらには一般的な酵素標識、例えばペニシリナーゼ、西洋ワサビペ
ルオキシダーゼ及びアルカリホスファターゼも使用され得る。
【0062】
本発明の方法に適したいずれかの検出方法が使用され得る。適切な方法は試験系及び試験しようとする薬剤の特徴に依存して選択され得る。
【0063】
例えば、MESTと薬剤との相互作用が測定され得る。試験系が使用され得、それに対して試験系が適合され得る一連の試験は当該分野で公知である。これは不均一系アッセイでも均一系アッセイでもよい。本明細書で使用される不均一系アッセイは、1つ又はそれ以上の洗浄工程を含むアッセイであるが、均一系アッセイではこのような洗浄工程の必要はない。試薬及び化合物は単に混合されて測定されるのみである。
【0064】
試験方法は連続的アッセイでも非連続的なアッセイでもよい。
【0065】
連続的アッセイは最も都合が良く、単一のアッセイはさらなる処理を必要としない反応率をもたらす。多くの異なる型の連続的アッセイが存在する。分光測光アッセイにおいて、反応過程に続いて吸光度の変化が測定される。蛍光は分子が1つの波長の光を異なる波長の光を吸収した後に発する場合である。蛍光測定アッセイは、酵素反応を測定するための生成物と基質の蛍光の差異を利用する。これらのアッセイは一般的に分光測光アッセイよりかなり感受性であるが、不純物により生じる干渉及び露光した場合の多くの蛍光化合物の不安定性に悩まされる。熱量測定は、化学反応により放出又は吸収された熱の測定である。多くの反応はいくらかの熱の変化を含み、そしてマイクロ熱量計を使用すればそれほど多くの酵素又は基質を必要としないので、これらのアッセイは非常に一般的である。これらのアッセイは、いずれかの他の方法で測定することが不可能な反応を測定するために使用することができる。化学発光は、化学反応による光の放射である。いくつかの酵素反応は光を生じ、そしてこれを測定して生成物形成を検出することができる。生じた光は写真用フィルムで数日又は数週間にわたって捕捉することができるのでこれらの型のアッセイは非常に敏感であり得るが、反応により放出された全ての光が検出されるわけではないので定量が困難であり得る。
【0066】
静的光散乱は、溶液中の高分子の重量平均モル質量及び濃度の積を測定する。測定時間にわたって1つ又はそれ以上の化学種の固定された総濃度と仮定して、散乱シグナルは、溶液の重量平均モル質量の直接的尺度であり、これは複合体が形成するか解離するかによって変動する。それ故、この測定は複合体の化学量論、さらには動力学を定量する。タンパク質動力学の光散乱アッセイは、酵素を必要としない非常に一般的な技術である。
【0067】
非連続的アッセイは、間隔を置いて酵素反応からサンプルを採取する場合であり、生成物産生又は基質消費の量がこれらのサンプルにおいて測定される。放射測定アッセイは、基質への放射能取り込み又は基質からのその放出を測定する。これらのアッセイにおいて最も頻繁に使用される放射性同位体は、14C、32P、35S及び125Iである。放射性同位体は基質の単一原子の特異的標識を可能にすることができるので、これらのアッセイは非常に敏感でかつ特異的である。これらは生化学において頻繁に使用され、そしてしばしば、粗製抽出物(細胞をすすいだ場合に生じる酵素の複雑な混合物)において特定の反応を測定する唯一の方法である。クロマトグラフィーアッセイは、クロマトグラフィーにより反応混合物をその構成要素に分離することにより生成物形成を測定する。これは通常高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行われるが、薄層クロマトグラフィーというより単純な技術も使用することができる。このアプローチは大量の材料を必要とし得るが、その感度は、基質/生成物を放射性タグ又は蛍光タグで標識することにより増加され得る。
【0068】
一実施態様において、アッセイはSPA(シンチレーション近接アッセイ)、FRET
(蛍光共鳴エネルギー移動)アッセイ、TR−FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー移動)アッセイ又はFP(蛍光偏光)アッセイである。
【0069】
SPA(シンチレーション近接アッセイ)は、生化学スクリーニングに使用される技術の型であり、均一系における広範囲のプロセスの迅速で感受性の高い測定を可能にする。SPAに含まれるビーズの種類は、微視的サイズであり、ビーズ自体の中に刺激された場合に光を放出するシンチラント(scintillant)が存在する。刺激は放射標識分子がビーズと相互作用するときに起こる。この相互作用はビーズの光放射を誘発し、これがシンチレーションカウンタを使用して検出され得る。
【0070】
より詳細には、放射標識分子がビーズに結合するか近接する場合に光の放射が刺激される。しかし、ビーズが放射標識分子と未結合のままである場合、ビーズは光を放射するように刺激されない。これは、SPAビーズから遠く離れすぎている場合、未結合の放射能から放出されるエネルギーが希釈され過ぎているため、ビーズはシグナルを生じるように刺激されない。
【0071】
トリチウムはSPAに非常によく適しているため大いに推奨される。これは非常に短い1.5μmの水中経路長に起因する。従ってβ粒子がシンチラントビーズから1.5μmという特定の範囲内似ある場合、シンチラントビーズが光を放射するように刺激するために十分なエネルギーが存在する。その距離が1.5μmより長い場合、β粒子は不十分なエネルギーのためビーズを刺激するために必要な距離を移動することができない。この方法が広範囲の適用に適用されることを可能にする、利用可能なビーズコーティングの取り合わせ、例えば酵素アッセイ及びラジオイムノアッセイがある。
【0072】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、二つの発色団間での無放射エネルギー移動を表す。その励起状態にある供与体発色団は、無放射長距離双極子−双極子カップリング機構により、近接している(典型的には<10nm)受容体フルオロフォアにエネルギーを移動させることができる。両方の分子が蛍光性であるので、エネルギー移動はしばしば「蛍光共鳴エネルギー移動」と呼ばれるが、エネルギーは実際には蛍光により移動されるのではない。FRETはタンパク質−薬剤相互作用、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−DNA相互作用、及びタンパク質コンホメーション変化を検出及び定量するために有用なツールである。タンパク質の薬剤への結合、タンパク質の別のタンパク質への結合又はタンパク質のDNAへの結合をモニタリングするために、分子の一方を供与体で標識し、そして他方を受容体で標識し、そしてこれらのフルオロフォア標識分子を混合する。それらが未結合状態で存在する場合、供与体を励起すると供与体発光が検出される。分子が結合すると、供与体及び受容体は近接し、そして供与体から受容体への分子間FRETのために受容体発光が主に観察される。FRETに適した隣接物(neighbors)は当該分野で公知であり、当業者は両方の抗体に適した標識の組み合わせを選択することができるだろう。供与体及び対応する受容体に関して本明細書で使用される「対応する」は、供与体の励起スペクトルとオーバーラップする発光スペクトルを有する受容体蛍光部分を指す。しかし、両方のシグナルは互いに分離可能であるべきである。従って、受容体の発光スペクトルの極大波長は、好ましくは供与体の励起スペクトルの極大波長より少なくとも30nm、より好ましくは少なくとも50nm、例えば少なくとも80nm、少なくとも100nm又は少なくとも150nm大きいものであるべきである。
【0073】
FRET技術において種々の受容体蛍光部分と共に使用することができる代表的な供与
体蛍光部分としては、フルオレセイン、ルシファーイエロー、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、スクシンイミジル1−ピレンブチラート、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸誘導体が挙げられる。代表的な受容体蛍光部分としては、使用される供与体蛍光部分によるが、LC−Red 610、LC−Red 640、LC−Red 670、LC−Red 705、Cy5、Cy5.5、リサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミン五酢酸又は他のランタニドイオン(ユーロピウム又はテルビウム)のキレートが挙げられる。供与体及び受容体蛍光部分は、例えばMolecular Probes(Junction City,OR)又はSigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から入手することができる。
【0074】
あるいは、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR−FRET)を本発明の試験系に使用してもよい。TR−FRETはTRF(時間分解蛍光)とFRET原理とを兼ね備える。この組み合わせは、TRFの低いバックグラウンドの利点とFRETの均一系アッセイ形式とを組み合わせている。FRETは既に上で記載してきたが、TRFはランタニド又は長い半減期を有する他の供与体の独特の特性を利用する。TR−FRETに適した供与体としては、とりわけ、ランタニドキレート(クリプテート)及びいくつかの他の金属リガンド錯体が挙げられ、これらはマイクロ秒〜ミリ秒の時間範囲の蛍光半減期を有し得、従って、マイクロ秒〜ミリ秒の計測でエネルギー移動が起こることも可能にする。蛍光ランタニドキレートは、70年代後半からエネルギー供与体として使用されてきた。一般的に使用されるランタニドとしては、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)が挙げられる。それらの特異的な光物理的及びスペクトル特性のために、ランタニド錯体は、生物学における蛍光適用に関して多くの興味が持たれている。具体的には、それらはより伝統的なフルオロフォアと比較した場合に、大きなストロークスシフト(stroke’s shift)及び非常長い発光半減期(マイクロ秒からミリ秒)を有する。
【0075】
通常は、有機発色団は受容体として使用される。これらとしてはアロフィコシアニン(APC)が挙げられる。TR−FRET、さらには受容体に関する適切な詳細はWO98/15830に記載される。
【0076】
蛍光偏光(FP)ベースのアッセイは、溶液中の蛍光基質を励起するために偏光を使用するアッセイである。これらの蛍光基質は溶液中で自由で回転しており、放射光は偏光解消される。基質がより大きな分子、すなわちアシル基に結合した場合、その回転速度は大いに減少し、そして放射光は高度に偏光されたままである。
【0077】
あるいは、質量分析を使用してもよい。用語「質量分析」は、表面上のサンプルから気相イオンを生成するためにイオン化源を使用し、その気相イオンを質量分析計で検出することを指す。用語「レーザー脱離質量分析」は、表面上のサンプルから気相イオンを生成するためのイオン化源としてレーザーを使用し、そしてその気相イオンを質量分析計で検出することを指す。アシル化されたアシル受容体のような生体分子の質量分析の好ましい方法は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析すなわちMALDIである。MALDIにおいて、検体は典型的にマトリックス物質と混合され、そのマトリックス物質は乾燥させると検体と共に共結晶化する。マトリックス物質はエネルギー源からエネルギーを吸収し、これが別に不安定な生体分子又は検体を断片化する。別の好ましい方法は、表面増強レーザー脱離/イオン化質量分析、すなわちSELDIである。SELDIに
おいて、検体が付着された表面は、検体捕捉及び/又は脱離において能動的役割を果たす。本発明の文脈において、サンプルは、クロマトグラフィー又は他の化学的処理を受けていてもよい生物学的サンプル及び適切なマトリックス物質を含む。
【0078】
質量分析において、「見掛けの分子質量」は、検出されたイオンの分子質量(ダルトン)−対−電荷値(m/z)を指す。見掛けの分子質量がどのように誘導されるかは、使用される質量分析計の型に依存する。飛行時間型質量分析計では、見掛けの分子質量は、イオン化から検出までの時間の関数である。用語「シグナル」は、研究中の生体分子により生じるいずれかの応答を指す。例えば、用語シグナルは、質量分析計の検出器に衝突する生体分子により生じた応答を指す。シグナル強度は生体分子の量又は濃度と相関する。シグナルは2つの値により定義される:記載されるように生成される見掛けの分子質量値及び強度値。質量値は、その生体分子の基本的特徴であるが、強度値は対応する見掛けの分子質量値を有する生体分子の一定の量又は濃度に一致する。従って、「シグナル」は生体分子の特性を常に示す。
【0079】
本発明の好ましい実施態様において、出発物質のアシル受容体及びアシルCoAのうち少なくとも1つは少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識され、そしてここで工程a)の後でかつ工程b)の前に、標識された出発物質が標識された生成物アシル化アシル受容体から分離される。この分離は、遠心分離、固定化及び液体の除去などのような一般的な分離工程により行われ得る。あるいは、例えば実施例に記載されるような異なる溶媒及び相分離を使用してこれを行ってもよい。好ましい実施態様において、分離は有機相及び水相の使用によるものであり、ここでアシル化アシル受容体は有機相に蓄積し、そして非アシル化アシル受容体は水相に蓄積する。
【0080】
本発明の方法の別の好ましい実施態様において、MESTの活性は放射能の検出により決定される。適切なマーカー及び方法は本明細書において詳述される。
【0081】
本発明の方法の好ましい実施態様において、MESTの活性は蛍光を検出することにより決定される。適切なマーカー及び方法は本明細書において詳述される。
【0082】
本発明の好ましい実施態様において、MESTのアシル転移活性は、アシルグリセロール3−リン酸、特に標識されたアシルグリセロール3−リン酸の量を決定することによる。
【0083】
試験は不均一系アッセイでも均一系アッセイでもよい。好ましくは、本方法は均一系アッセイである。本明細書で使用される不均一系アッセイは、1つ又はそれ以上の洗浄工程を含むアッセイであり、一方、均一系アッセイでは、このような洗浄工程の必要はない。試薬及び化合物は混合されそして測定されるのみである。
【0084】
本発明の好ましい実施態様において、MESTのアシル転移活性は、コントロールと比較して減少され、それによりその物質をMEST阻害剤として同定する。
【0085】
しかし、本発明のさらにより好ましい実施態様において、この方法は、本質的に実施例において詳述されるように行われる。
【0086】
この方法は、アシル供与体としてアシルCoAを用いる、放射標識されたアシル受容体(例えば放射標識されたグリセロール3−リン酸、特に[3H]グリセロール3−リン酸)へのアシルのMEST媒介取り込みに基づく。MESTを反応させた後、標識生成物(すなわちアシル化標識アシル受容体)を、有機溶媒を加えることにより未反応の標識アシル受容体から分離する。相分離により、疎水性物質と両親媒性物質は有機溶媒中に蓄積し
、一方で親水性物質は水相に留まる。上で詳述した方法によれば、アシル化標識アシル受容体は有機相に蓄積し、そして未反応の標識アシル受容体はMESTの反応が行われた水相に蓄積する。有機溶媒は、シンチレーションカウンタで生成物の量を検出することを可能にするシンチレータを含んでいてもよい。非常に好ましい実施態様において、MEST活性は、パルミトイルCoAアシル供与体及びアシル受容体としてグリセロール3−リン酸を使用することにより決定され、ここでパルミテートはMESTの存在下でアシル供与体からアシル受容体に転移され、ここでグリセロール3−リン酸は標識されており、特に3Hで標識される。記載されるアッセイは均一系アッセイであり、容易でかつ迅速なやり方で行うことができ、そしてハイスループットスクリーニングを可能にする。これはグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼGPAT1−4の活性を決定するために使用される公知の方法(Haldar and Vancura,1992;Yet et
al.,1995,Cao et al.,2000、及びWendel et al.,2008)に基づく。
【0087】
好ましくは、この方法はハイスループットスクリーニングに適合される。この方法において、多数の化合物が無細胞アッセイ又は全細胞アッセイのいずれでも薬剤に対してスクリーニングされる。典型的には、これらのスクリーニングは自動化ロボットステーションベースの技術を使用して96ウェルプレートで、又は高密度アレイ(「チップ」)形式で行われる。
【0088】
本発明の試験系は、細胞、特に哺乳動物細胞、特にヒト細胞又は昆虫細胞を含み得る。適切な細胞の例としては、Sf9細胞(実施例を参照のこと)が挙げられる。細胞は例えば初代細胞でも細胞株でもよい。しかし場合により、MEST(実施例を参照のこと)又は効果の検出のために必要とされる構成要素を含むように遺伝子改変されたいずれか他の細胞又は細胞株が使用され得る。好ましい実施態様において、(粗製、分画された又は精製された)細胞膜が使用され得る。インタクトな細胞から細胞膜を生成するための例となる方法は実施例に詳述される。
【0089】
本発明の好ましい方法において、効果は蛍光により決定される。適切な方法は上で詳述されており、そして本明細書において詳述されるように、蛍光マーカー、FRET、蛍光偏光を含み得る。
【0090】
本発明の別の好ましい実施態様において、本方法は、MEST機能不全を含む疾患の予防及び/又は処置のための薬剤をスクリーニングするために使用される。特に本方法は、肥満及び/又は糖尿病、例えばII型糖尿病を予防及び/又は処置するための薬剤をスクリーニングするために使用される。
【0091】
本発明によれば、用語「疾患の予防」は、一般的な疾患を発症する危険性を減少させることに関するが、一方、用語「疾患の処置」は、支配的な疾患状態の症状の寛解、疾患の経過の減速などに関する。予防又は予防措置は、最初の段階で傷害、病的状態又は疾患を回避するやり方である。処置又は治癒は、医学的問題が既に開始した後で適用される。処置は健康問題を処置し、そしてその治癒をもたらし得るが、処置はより頻繁には処置が続く間のみ問題を寛解させる。治癒は、病気を完全逆行させるか医学的問題を永久に終わらせる処置の一部である。
【0092】
本発明のさらなる局面は、MESTリガンド、特にMEST阻害剤の同定のための本発明の試験系の使用に関する。
【0093】
リガンドは、生体分子(本明細書ではMEST)に結合して複合体を形成することができる物質である。それはイオン性結合、水素結合、疎水性相互作用及びファン・デル・ワ
ールス力のような分子間力によってMEST上の部位に結合する分子である。ドッキング(会合)は通常可逆性である(解離)。実際に、リガンドとその標的分子との間の不可逆的な共有結合は生物系では稀である。MESTのような酵素に結合するリガンドは、その酵素の酵素活性を変更し得る。リガンドには阻害剤及び活性化因子が含まれる。
【0094】
酵素阻害剤は、酵素に結合してそれらの活性を減少させる分子である。酵素の活性をブロックすることは代謝の不均衡を正し得るので、多くの薬物は酵素阻害剤である。酵素に結合する全ての分子が阻害剤であるわけではなく;酵素活性化因子は酵素に結合してそれらの酵素活性を増加させる。
【0095】
阻害剤の結合は、基質が酵素の活性部位に入ることを阻止し得、かつ/又は酵素がその反応を触媒することを妨げる。阻害剤の結合は、可逆的又は不可逆的のいずれかである。不可逆的阻害剤は、通常は酵素と反応してそれを化学的に変化させる。これらの阻害剤は酵素活性に必要な鍵となるアミノ酸残基を改変する。対照的に、可逆的阻害剤は、非共有結合で結合し、これらの阻害剤が酵素、酵素−基質複合体、又は両方のいずれに結合するかによって様々な種類の阻害がもたらされる。
【0096】
選択的リガンドは、非常に限られた型の標的(例えば酵素)に結合する傾向があるが、非選択的リガンドはいくつかの型の標的に結合する。非選択的である薬物は、所望の効果を生じる物に加えていくつかの他の標的(例えば酵素)に結合するため、それらがより有害な影響を有する傾向がある場合、これは薬理学において重要な役割を果たす。
【0097】
本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、及び試薬は変化してもよいので、本発明はこれらに限定されない。さらに、本明細書において使用される用語は、特定の実施態様を記載するのみの目的のためであり、本発明の範囲を限定することを意図されない。本明細書及び添付の特許請求において使用される、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に別の指示を示していなければ、複数形への言及を含む。同様に、語「含む(comprise)」、「含有する(contain)」及び「包含する(encompass)」は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。
【0098】
別の定義がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語並びにいずれの頭字語も、本発明の分野における当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似するか又は等しいいずれの方法及び材料も本発明の実施において使用され得るが、好ましい方法及び材料は本明細書に記載される。
【0099】
本発明は以下の実施例によりさらに説明されるが、当然のことながら、実施例は単に説明の目的のためのみに含まれるのであり、他に具体的に示されていなければ、本発明の範囲を限定することを意図されない。
【実施例】
【0100】
方法
グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼを測定するためのアッセイは、以下の方式に基づく:
グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性を、アシル供与体としてのパルミトイルCoA及びアシル受容体としての放射標識[3H]グリセロール3−リン酸を用いてパルミテートの取り込みとして決定し、放射標識パルミトイルグリセロール3−リン酸を得た。放射性標識生成物パルミトイルグリセロール3−リン酸を、適切なカウンターで放射能を測定するために、有機溶媒に基づいてシンチレーターを加えることにより放射標識基質と分離した。相を分離した後、シンチレーターで飽和している、有機溶媒相中の放射標識のみ(すなわち、疎水性及び両親媒性物質)を放射標識パルミトイルグリセロー
ル3−リン酸として検出した。アシル化されなかった親水性放射標識グリセロールリン酸は水相に留まっており、従ってシンチレーションカウンターで計数されない。水相から有機相への少量の「交差照射(cross−irradiation)」を、コントロールの空試験値(MESTタンパク質を除いて全ての反応構成要素を含有する)を差し引くことにより全てのMEST反応について補正した。
【0101】
以下の溶液をアッセイに使用した:
A) 反応溶液:
95mM Tris/HCl pH=7.4(MERCK、#1.08382.2500)、
5mM MgCl2(SIGMA、#104−20)
2.5mg/mL BSA(SIGMA、#A3803)
125μMパルミトイルCoA(SIGMA、#P9716)
187.5μMグリセロール3−リン酸(SIGMA、#G7886)
150nCi/ウェル 3Hグリセロール3−リン酸(ARC、#ART0219)
B) 均質化緩衝液:
TES緩衝液(20mM Tris/HCl pH=7.4、1mM EDTA、250mMスクロース)
+10μg/mL ロイペプチン(BIOMOL、#12136)
+10μg/mL アプロチニン(Aprotinine)(USB Corporation、#11388)
+10μg/mL ペプスタチンA(BIOMOL、#17640)
+100mM ペファブロック(MERCK、#1.24839.0500)
C) 酵素溶液:
所望の濃度(BioRadアッセイによるタンパク質含有量の決定)に調整した均質化緩衝液中のヒト組み換えMESTタンパク質(以下のとおり)を発現する昆虫細胞の膜
形式:
96ウェルプレート(wallac isoplate #6005040)
アッセイ設計
10μl酵素溶液を50μl反応溶液と共に25℃で60分間インキュベートした。インキュベーションをEppendorfサーモミキサーコンフォートでゆっくりと回転させながら(450min−1)行い、ここでプレートの開口部を保護フィルム(Whatman Uni Seal 7704−0009)で密封した。反応を5μl 200mMグリセロール3−リン酸及び200μlシンチレーション液(beta−plate、#1205−440、Perkin Elmer)を加えることにより停止させ、そして上記のように回転下で25℃にて15分間インキュベートした。相分離のために回転せず25℃での少なくとも12時間のインキュベーションの後、放射能(dpm)をシンチレーションカウンタ(Wallac 1450 micro beta)で測定した。
【0102】
酵素溶液(Sf9昆虫細胞の全ての膜)を以下のように製造した:
Sf9昆虫細胞を遠心分離によりペレット化して、アリコートで(約7〜9g)凍結させた。必要な場合に、ペレット化Sf9昆虫細胞を素早く37℃の水浴で解凍してさらなる処理まで氷上で維持した。その後、それらを10ml均質化緩衝液及びさらに懸濁液の製造のため0.5mM DTTを入れた50mlガラスホモジナイザーで均質化した。細胞をテフロン(登録商標)−ガラス(teflon−in−glass)ホモジナイザー(10x1500/分、4℃)で均質化した。ホモジネートをJA25.5遠心分離チューブ(Beckman #363647)に移し、DTTを加えた10ml均質化緩衝液で希釈し、そして遠心分離(500g、5分m4℃、冷却遠心機 Beckman Avanti JA25l)ペレット化した。上清を超遠心分離チューブ(Beckman #355618)中に移し、そして遠心分離した(100000g、60分、4℃、Beckman Optima LE−80K)。上清を完全に除去した。ペレットを2回注意深く均質化緩衝液で洗浄し、次いで均質化緩衝液に再懸濁させた。酵素溶液をアリコートに分けて液体窒素中で凍結させ、−80℃で貯蔵した。
【0103】
MESTコード導入ベクターの構築を以下のように行った:
MESTタンパク質をコードするmRNA(T579B=アミノ酸2〜335及びT580B=アミノ酸11〜335)(2つの異なる開始コドン、Sado et al.,1993;Kaneko−Ishino et al.,1995を参照のこと)を、視床下部cDNAをテンプレートとして使用してPCRによりクローン化した。PCRプライマーの一方(5’−GAGAG AATTC GATGG TGCGC CGAGA TCGCT T−3' 配列番号2)はインフレームのATG−開始コドンを有するEcoRI制限部位をMEST−cDNAの5’末端に含む。第二のPCRプライマー(5’−GAGAG CGGCC GCTCA GAAGG AGTTG ATGAA GC−3',配列番号3)は、TGA終止コドン及びNot1制限部位を3’末端に含む。増幅されたDNAを、昆虫細胞発現ベクターpVL1392(PharMingen)のEcoRI及びNotI制限部位中に(inti)クローン化した。クローン化した遺伝子のアイデンティティを直接DNA配列決定により確認した。
【0104】
Sf9昆虫細胞を以下のように製造及び増殖した:
Sf9細胞培養、サブクローニング、感染などを含む全ての方法は、文献から公知の方法にしたがって行われた(例えば、Summers及びSmitz,1987を参照のこと)。典型的には、3x106 Sf9細胞(PharMingen)をT25瓶で無血清培地(Sf−900 II SFM,GIBCO/BRL)に播種した。細胞の付着後に、培地をTMN−FH昆虫培地(PharMingen)と置き換えた。組み換えトランスフェクションベクターを、ほぼ100%の組み換え効率で組み換えバキュロウイルスを産生するために、不活化直線化BaculoGold DNA(PharMingen)とSf9昆虫細胞中でコトランスフェクトした。得られた組み換えウイルスストックを、組み換えタンパク質発現のためにSf9細胞でさらに増幅した。典型的には細胞を3日後に採取した。
【0105】
実施例1: MESTのグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性−量依存性
この実施例は上で詳述したように行った。具体的には、トランスフェクトされていないか又はMEST(T579B又はT580B)若しくはGPAT1のいずれかを発現するようにトランスフェクトされた昆虫細胞(SF9)を製造した。これらの細胞の粗製膜を得、アシル転移活性を検出するために使用した(60分のインキュベーション時間)。表1に示されるように、MEST(T579B又はT580B)でトランスフェクトされた昆虫細胞は、GPAT1の活性を上回りさえする有意なアシル転移活性(試験あたりのdpm)を示した。さらに、活性がタンパク質の量とともに増加するということが示された。
【0106】
【表1】

【0107】
実施例2: MESTのグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性−時間経過
本実施例は上で詳述されるように行われた。具体的には、MEST(T579B又はT580B)を発現するようにトランスフェクトされた昆虫細胞(SF9)を製造した。これらの細胞の粗製膜を得て、アシル転移活性(試験ごとにdpmで)を検出するために使用した。表2に示されるように、活性は時間(及び粗製膜の量)とともに増加した。
【0108】
【表2】

【0109】
実施例3: MESTのグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性:NaCl抽出に対する耐性
本実施例は上で詳述されるように行った。具体的には、トランスフェクトされていないか又はMEST(T579B又はT580B)若しくはGPAT(GPAT1、−3又は−4)のいずれかを発現するようにトランスフェクトされた昆虫細胞(SF9)を製造した。粗製膜を調製し(上記を参照のこと)、そして1M NaClと共に1時間4℃でインキュベートした。遠心分離(100,000 x g、60分、4℃)の後、ペレット及び上清フラクションをアシル転移活性を検出するために使用した。表3に示されるよう
に、MEST(T579B又はT580B)活性(dpm/試験)は、上清フラクションではなくペレット化膜と主に関連していた。このことは、MEST活性が表在性膜タンパク質ではなく全体に起因するということを示す。
【0110】
【表3】

【0111】
【表4】

【0112】
実施例4: エポキシドヒドロラーゼ阻害剤A003564556によるMESTの部分的阻害、しかし一般的なリパーゼ阻害剤S987600では阻害されない
この実験は上で詳述されるように行われた。具体的には、MEST(T579B)を発現するようにトランスフェクトされた昆虫細胞(SF9)から粗製膜を製造し、そしてグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性(dpm/試験)についてA003564556又はS987600の存在下で測定した。表4に示されるように、MEST活性はエポキシドヒドロラーゼ阻害剤、A003564556(=AUDA;Dorrance et al.2005;Kim et al.2007;Carroll et
al.2008)により部分的に阻害されたが、一般的なリパーゼ阻害剤S987600(Petry et al.2004;Ben Ali et al. 2004及び2006)では阻害されなかった。
【0113】
【表5】

【0114】
実施例5: 競合的基質、類似体ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)によるMESTの阻害
この実験は上で詳述されるように行われた。具体的には、MEST(T579B)又はGPAT(GPAT1、−3又は−4)のいずれかを発現するようにトランスフェクトされた昆虫細胞(SF9)の粗製膜を製造し、そして競合的基質の類似体ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)の存在下で測定した。表5に示されるように、MEST活性は濃度依存的様式でDHAPにより阻害された。
【0115】
【表6】

【0116】
実施例6: N−エチルマレイミド(NEM)又は高温によるMESTのグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性の完全/部分的阻害
この実験は上で詳述されるように行われた。具体的には、トランスフェクトされていない昆虫細胞(SF9)又はMEST(T579B)若しくはGPAT(GPAT1、−3又は−4)のいずれかを発現するようにトランスフェクトされた昆虫細胞(SF9)の粗製膜を製造し、そして1mM N−エチルマレイミド(NEM)の存在下で1時間又は41℃で10分間測定した。表6に示されるように、MEST活性(及び内在性昆虫細胞グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性)はNEMにより(完全に)阻害され、そして高温で(部分的に)阻害された。
【0117】
【表7】

【0118】
結果の概要
組み換えで産生されたヒトMESTタンパク質(最初の11個のアミノ酸が異なる、異なる開始コドンを有する2つの変異体)を、可能性のあるグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性について適切な試験系(放射標識を使用し、そして公知のアシルトランスフェラーゼにより確認された)において試験した。準備した試験系において、両方の変異体が、濃度依存性及び時間依存性であるグリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性を示した。酵素はタンパク質の組換え体発現の後でSf9細胞から誘導された粗製膜に結合したと思われる。さらに、グリセロール3−リン酸アシルトランスフェラーゼ活性は、温度に対して敏感であり、さらには不可逆的阻害剤NEM及び競合的基質類似体DHAPに対しても敏感である。部分的阻害は、エポキシドヒドロラーゼファミリーのメンバーであるA003564556について可逆的阻害剤を使用して得ることができた(IC50 約200μM)。
【0119】
参考文献
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− Ben Ali Y.,Chahinian H.,Petry S.,Muller G.,Lebrun R.,
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) 中胚葉特異的転写物相同体タンパク質(MEST)又はその機能的に活性な変異体、
ii) アシル受容体、
iii) アシル補酵素A(CoA)[ここでアシルは0、1、2又は3つの二重結合を有するC14〜C22アシルである]、及び
iv) アシル残基をアシルCoAからアシル受容体に転移させるMESTの酵素活性を検出するための手段
を含んでなる、MEST活性を測定するための試験系。
【請求項2】
a) アシルCoAがパルミトイルCoA若しくはオレオイル−CoA、好ましくはパルミトイルCoAであり;かつ/又は
b) アシル受容体がグリセロール3−リン酸若しくはジヒドロキシアセトンリン酸、好ましくはグリセロール3−リン酸である、
請求項1に記載の試験系。
【請求項3】
アシル受容体及び/又はアシルCoAが、少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識される、請求項1又は2に記載の試験系。
【請求項4】
マーカーが放射標識、特に3H、32P、35S又は14C、とりわけ3Hである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の試験系。
【請求項5】
マーカーが1つ又はそれ以上の蛍光マーカーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の試験系。
【請求項6】
MESTのリガンドをスクリーニングする方法であって:
a) 請求項1〜5のいずれか1項に記載の試験系を、グリセロール3−リン酸へのアシル転移に資する条件下で作用物質と接触させる工程;
b) MESTのアシル転移活性を決定する工程;及び
c) コントロールと比較してMESTの変化したアシル転移活性を検出し、それによりその物質をMESTのリガンドと同定する工程;
を含む、上記方法。
【請求項7】
出発物質のアシル受容体及びアシルCoAのうち少なくとも1つは、少なくとも1つの検出可能なマーカーで標識され、そしてここで工程a)の後で工程b)の前に、標識された出発物質が標識された生成物アシル化アシル受容体から分離される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
分離が有機相及び水相の使用によるものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
活性が放射能を検出することにより決定される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
活性が蛍光を検出することにより決定される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
MESTのアシル転移活性の決定が、アシルグリセロール3−リン酸の量を決定することによるものである、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
方法が均一アッセイである、請求項6〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
MESTのアシル転移活性がコントロールと比較して減少し、それによりその物質をMEST阻害剤として同定する、請求項6〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
方法が、肥満及び/又は糖尿病を予防及び/又は処置するための薬剤についてスクリーニングするために使用される、請求項6又は13に記載の方法。
【請求項15】
MESTリガンド、特にMEST阻害剤の同定のための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の試験系の使用。

【公表番号】特表2012−530507(P2012−530507A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516770(P2012−516770)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059086
【国際公開番号】WO2010/149780
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】