説明

MRI装置

【課題】1TR内の勾配磁場の積分値に影響しない選択飽和を行うMRI装置を実現する。
【解決手段】MRI装置は、静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して信号を収集する信号収集手段と、収集された信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、制御手段は、信号収集手段に、選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加(SAT)させた後に、信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加(ACQ)を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置に関し、とくに、空間的選択飽和と組み合わせて磁気共鳴信号の収集を行うMRI装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置では、血管撮像等を行うときに、空間的選択飽和と組み合わせた磁気共鳴信号収集が行われる。すなわち、先ず撮像範囲外の血流の上流部分について空間的選択飽和を行い、その後に撮像範囲についての信号収集を行う(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−33498号公報(第4−5頁、図1−3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
空間的選択飽和には、スピン(spin)励起用のRFパルス(radio frequency pulse)と、空間的選択用およびキラー(killer)用の勾配磁場パルスがそれぞれ用いられるので、磁気共鳴信号収集用のパルスシーケンス(pulse sequence)と組み合わせたとき、1TR(Repetition Time)内での勾配磁場の積分値を0にすることが不可能である。
【0004】
このため、例えばステディステート・フリープリセッション(SSFP: Steady State Free Precession)のように、1TR内での勾配磁場積分値を0にしなければならないパルスシーケンスでは、1TRごとの空間的選択飽和を行うことができない。
【0005】
そこで、本発明の課題は、1TR内の勾配磁場の積分値に影響しない空間的選択飽和を行うMRI装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための第1の観点での発明は、静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、収集された磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、前記制御手段は、前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加させた後に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる信号収集制御部、を具備することを特徴とするMRI装置である。
【0007】
上記の課題を解決するための第2の観点での発明は、静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、収集された磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、前記制御手段は、前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加させた後に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる第1の信号収集制御部と、前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせることなく、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる第2の信号収集制御部と、前記画像再構成手段に、前記第1の信号収集制御部による制御の下で収集した磁気共鳴信号に基づく画像と、前記第2の信号収集制御部による制御の下で収集した磁気共鳴信号に基づく画像をそれぞれ再構成させるとともに、それら両画像の差分画像を構成させる画像構成制御部と、を具備することを特徴とするMRI装置である。
【0008】
前記空間的選択飽和は動脈の上流における空間的選択飽和であることが、動脈を撮像する点で好ましい。
前記空間的選択飽和は静脈の上流における空間的選択飽和であることが、静脈を撮像する点で好ましい。
【0009】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は少なくとも2秒間にわたって繰り返されることが、血管撮像を適切に行う点で好ましい。
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの複数回の印加は、フリップアングルが逐次変化するように行われることが、血管撮像を適切に行う点で好ましい。
【0010】
前記フリップアングルは180°から90°まで逐次変化することが、血管撮像を適切に行う点で好ましい。
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの複数回の印加は、RFパルスの位相が逐次変化するように行われることが、血管撮像を適切に行う点で好ましい。
【0011】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加、または/および、前記磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は、心拍に同期して行われることが、撮像品質を高める点で好ましい。
【0012】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加、または/および、前記磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は、体動に同期して行われることが、撮像品質を高める点で好ましい。
【0013】
前記磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は、ステディステート・フリープリセッションのシーケンスで行われることが、信号収集時間が短い点で好ましい。
【0014】
前記各信号収集制御部は、前記信号収集手段に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加の前にT2プレパレーション用のRFパルスの印加を行わせることが、血管撮像を適切に行う点で好ましい。
【0015】
前記各信号収集制御部は、前記信号収集手段に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加の前に脂肪信号抑制用のRFパルスの印加を行わせることが、血管撮像を適切に行う点で好ましい。
【発明の効果】
【0016】
第1の観点での発明によれば、MRI装置は、静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、収集された磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、前記制御手段は、前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加させた後に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる信号収集制御部を具備するので、1TR内の勾配磁場の積分値に影響することなく空間的選択飽和を行うことができる。
【0017】
第2の観点での発明によれば、MRI装置は、静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、収集された磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、前記制御手段は、前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加させた後に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる第1の信号収集制御部と、前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせることなく、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる第2の信号収集制御部と、前記画像再構成手段に、前記第1の信号収集制御部による制御の下で収集した磁気共鳴信号に基づく画像と、前記第2の信号収集制御部による制御の下で収集した磁気共鳴信号に基づく画像をそれぞれ再構成させるとともに、それら両画像の差分画像を構成させる画像構成制御部とを具備するので、1TR内の勾配磁場の積分値に影響することなく空間的選択飽和を行うことができ、また、血管だけを撮像することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本発明は発明を実施するための最良の形態に限定されるものではない。図1にMRI装置のブロック(block)図を示す。本装置は発明を実施するための最良の形態の一例である。本装置の構成によって、MRI装置に関する発明を実施するための最良の形態の一例が示される。
【0019】
同図に示すように、本装置はマグネットシステム(magnet system)100を有する。マグネットシステム100は主磁場コイル(coil)部102、勾配コイル部106およびRFコイル部108を有する。これら各コイル部は概ね円筒状の形状を有し、互いに同軸的に配置されている。
【0020】
マグネットシステム100の概ね円柱状の内部空間(ボア: bore)に、撮像の対象1がクレードル(cradle)500に搭載されて図示しない搬送手段により搬入および搬出される。
【0021】
主磁場コイル部102はマグネットシステム100の内部空間に静磁場を形成する。静磁場の方向は概ね対象1の体軸の方向に平行である。すなわちいわゆる水平磁場を形成する。主磁場コイル部102は例えば超伝導コイルを用いて構成される。なお、超伝導コイルに限らず常伝導コイル等を用いて構成してもよい。
【0022】
マグネットシステムは、水平磁場方式のものに変えて、静磁場の方向が対象1の体軸に垂直な垂直磁場方式のものを用いるようにしてもよい。垂直磁場方式では例えば永久磁石が静磁場発生に利用される。
【0023】
勾配コイル部106は、互いに垂直な3軸すなわちスライス(slice)軸、位相軸および周波数軸の方向において、それぞれ静磁場強度に勾配を持たせるための3つの勾配磁場を生じる。
【0024】
静磁場空間における互いに垂直な座標軸をx,y,zとしたとき、いずれの軸もスライス軸とすることができる。その場合、残り2軸のうちの一方を位相軸とし、他方を周波数軸とする。また、スライス軸、位相軸および周波数軸は、相互間の垂直性を保ったままx,y,z軸に関して任意の傾きを持たせることも可能である。本装置では対象1の体幅の方向をx方向とし、体厚の方向をy方向とし、体軸の方向をz方向とする。
【0025】
スライス軸方向の勾配磁場をスライス勾配磁場ともいう。位相軸方向の勾配磁場を位相エンコード(encode)勾配磁場ともいう。周波数軸方向の勾配磁場をリードアウト(read out)勾配磁場ともいう。リードアウト勾配磁場は周波数エンコード勾配磁場と同義である。このような勾配磁場の発生を可能にするために、勾配コイル部106は図示しない3系統の勾配コイルを有する。以下、勾配磁場を単に勾配ともいう。
【0026】
RFコイル部108は、静磁場空間に、対象1の体内のスピンを励起するためのRF磁場を形成する。以下、RF磁場を形成することをRF励起信号の送信ともいう。また、RF励起信号をRFパルスともいう。
【0027】
励起されたスピンが生じる電磁波すなわち磁気共鳴信号は、RFコイル部108によって受信される。受信された磁気共鳴信号は、周波数ドメイン(domain)すなわちフーリエ(Fourier)空間についてのサンプリング(sampling)信号となる。
【0028】
位相軸方向および周波数軸方向の勾配により、磁気共鳴信号のエンコードを2軸で行えば、磁気共鳴信号は2次元フーリエ空間についてのサンプリング信号として得られ、スライス勾配をも利用してエンコードを3軸で行えば3次元フーリエ空間についての信号として得られる。各勾配は、2次元あるいは3次元フーリエ空間における信号のサンプリング位置を決定する。以下、フーリエ空間をkスペース(k−space)ともいう。
【0029】
勾配コイル部106には勾配駆動部130が接続されている。勾配駆動部130は勾配コイル部106に駆動信号を与えて勾配磁場を発生させる。勾配駆動部130は、勾配コイル部106における3系統の勾配コイルに対応して、図示しない3系統の駆動回路を有する。
【0030】
RFコイル部108にはRF駆動部140が接続されている。RF駆動部140はRFコイル部108に駆動信号を与えてRFパルスを送信させ、対象1の体内のスピンを励起する。
【0031】
RFコイル部108には、また、データ(data)収集部150が接続されている。データ収集部150は、RFコイル部108が受信した受信信号をディジタルデータ(digital data)として収集する。
【0032】
勾配駆動部130、RF駆動部140およびデータ収集部150にはシーケンス(sequence)制御部160が接続されている。シーケンス制御部160は、勾配駆動部130ないしデータ収集部150をそれぞれ制御して磁気共鳴信号の収集を遂行する。
【0033】
シーケンス制御部160は、例えばコンピュータ(computer)等を用いて構成される。シーケンス制御部160はメモリ(memory)を有する。メモリはシーケンス制御部160用のプログラム(program)および各種のデータを記憶している。シーケンス制御部160の機能は、コンピュータがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。マグネットシステム100ないしシーケンス制御部160からなる部分は、本発明における信号収集装置の一例である。
【0034】
データ収集部150の出力側はデータ処理部170に接続されている。データ収集部150が収集したデータは、データ処理部170に入力される。データ処理部170は、例えばコンピュータ等を用いて構成される。データ処理部170はメモリを有する。メモリはデータ処理部170用のプログラムおよび各種のデータを記憶している。
【0035】
データ処理部170はシーケンス制御部160に接続されている。データ処理部170はシーケンス制御部160の上位にあってそれを統括する。本装置の機能は、データ処理部170がメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0036】
データ処理部170は、データ収集部150が収集したデータをメモリに記憶する。メモリ内にはデータ空間が形成される。このデータ空間はkスペースに対応する。データ処理部170は、kスペースのデータを逆フ−リエ変換することにより画像を再構成する。データ処理部170は、本発明における画像再構成手段の一例である。データ処理部170は、また、本発明における制御手段の一例である。
【0037】
対象1には心拍センサ(sensor)112が装着され、それを通じて心拍検出部110により対象1の心拍が検出され、心拍検出信号がデータ処理部170に入力される。データ処理部170は、心拍検出信号に基づいて心拍同期の撮像を行う。
【0038】
心拍センサ112および心拍検出部110の代わりに(またはそれに加えて)体動センサおよび体動検出部を設け、呼吸に伴う体動を検出し体動同期の撮像を行うようにしてもよい。なお、体動検出は、磁気共鳴撮像によって得られる横隔膜像の運動に基づいて行うようにしてもよい。
【0039】
データ処理部170には、表示部180および操作部190が接続されている。表示部180はグラフィックディスプレー(graphic display)等で構成される。操作部190はポインティングデバイス(pointing device)を備えたキーボード(keyboard)等で構成される。
【0040】
表示部180は、データ処理部170から出力される再構成画像および各種の情報を表示する。操作部190は、使用者によって操作され、各種の指令や情報等をデータ処理部170に入力する。使用者は表示部180および操作部190を通じてインタラクティブ(interactive)に本装置を操作することが可能である。
【0041】
図2に、磁気共鳴信号収集用のパルスシーケンスの一例を示す。このパルスシーケンスはステディステート・フリープリセッションのパルスシーケンスである。以下、ステディステート・フリープリセッションをSSFPともいう。なお、磁気共鳴信号収集は、SSFP以外の技法で行ってもよい。以下、磁気共鳴信号収集を単に信号収集ともいう。
【0042】
同図において、(1)はRF励起のシーケンスを示す。(2)−(4)はいずれも勾配磁場パルスのシーケンスを示す。(5)は磁気共鳴信号のシーケンスを示す。勾配磁場(2)−(4)のうち、(2)はスライス勾配、(3)は周波数エンコード勾配、(4)は位相エンコード勾配である。なお、静磁場は一定の磁場強度で常時印加されている。以下同様である。
【0043】
90°パルスによるRF励起が1TR間隔で行われる。90°励起はスライス勾配sliceの下での選択励起である。2つの90°励起の間において、周波数エンコード勾配(read)、位相エンコード勾配(warp)およびスライスエンコード勾配(slice)が所定のシーケンスで印加され、磁気共鳴信号echoすなわちエコー(echo)が読み出される。1TRは、例えば、3msecないし5msecである。
【0044】
スライス勾配slice、周波数エンコード勾配readおよび位相エンコード勾配warpのパルスは、いずれも、1TRにおける積分値が0となるように波形と振幅が規制される。
【0045】
このようなパルスシーケンスが、所定回数繰り返され、そのつど、エコーが読み出される。繰り返しのたびにエコーの位相エンコードが変更され、所定回数の繰り返しによって、2次元kスペース全体についてのエコー信号収集が行われる。なお、スライス方向にも位相エンコードを行うときは、3次元kスペースについてのエコー信号収集が行われる。
【0046】
2次元kスペースのエコーデータを2次元逆フーリエ変換することにより2D画像が再構成される。3次元kスペースのエコーデータを3次元逆フーリエ変換することにより3D画像が再構成される。
【0047】
図3に、空間的選択飽和用のパルスシーケンスの一例を示す。同図において、(1)はRF励起、(2)はスライス勾配、(3)はキラー勾配のパルスシーケンスである。90°パルスによるRF励起が、スライス勾配sliceの下での空間的選択励起として行われ、その後に印加されるキラー勾配killerによって、スピンの位相の分散が行われる。これによって、縦磁化と横磁化が共になくなり以後のRF励起に感応しない状態となる。以下、空間的選択飽和を単に選択飽和ともいう。
【0048】
このような選択飽和が、信号収集に先立って行われる。図4に、選択飽和を伴う信号収集のタイムチャート(time chart)の一例を示す。図4に示すように、先ず期間SATにおいて選択飽和が行われ、次に期間ACQにおいて信号収集が行われる。
【0049】
このような選択飽和を伴う信号収集は、データ処理部10による制御の下で行われる。データ処理部10は、本発明における信号収集制御部の一例である。データ処理部10は、また、本発明における第1の信号収集制御部の一例である。
【0050】
期間SATにおける選択飽和は、間欠的に複数回行われる。ここでは、各回の選択飽和をRFパルスで代表する。期間SATの長さは例えば2秒であり、その間に選択飽和が例えば40回繰り返される。すなわち、選択飽和は例えば50msec間隔で行われる。
【0051】
期間ACQにおける信号収集は、連続する複数のTRにわたって行われる。ここでは、個々の信号収集をTRで代表する。期間ACQの長さは例えば0.5秒であり、その間に例えば128TRの信号収集が行われる。すなわち、信号収集は極めて短時間に行われる。
【0052】
このように、先ず期間SATで複数回選択飽和を繰り返し、その後に期間ACQで連続する複数のTRにわたって信号収集を行うので、選択飽和用の勾配は信号収集時の1TR内の勾配磁場の積分値に全く影響を及ぼさない。
【0053】
期間SATのおける複数回の選択飽和は、フリップアングルを逐次変化させながら行うようにしてもよい。フリップアングルは、例えば、180°から90°まで漸減するように変化させる。これによって、選択飽和の順序が早いスピンほど縦磁化の回復時間が長くなるなるので、撮像可能な血管の延長距離を長くすることができる。期間SATのおける複数回の選択飽和は、また、RF励起の位相を逐次変化させながら行うようにしてもよい。
【0054】
図5に、選択飽和と撮像範囲の位置関係の一例を示す。図5に示すように、撮像範囲FOVが腹部大動脈から左右の大腿動脈まで含むように設定されたとき、選択飽和領域SSTは、撮像範囲FOV外の動脈の上流部分に設定される。矢印は血流の方向を示す。対象血管が静脈である場合は、静脈の上流側に選択飽和領域SSTが設定される。要するに、選択飽和領域SSTは、目的の血管の上流側に設定すればよい。
【0055】
選択飽和領域SSTのスラブ(slab)厚は例えば10cmに設定される。そのように設定したとき、速度が100cm/secの血流は、0.1秒で選択飽和領域SSTを通過する。その間、選択飽和が50msec間隔で行われることにより、血流は2回ずつ飽和処理を受けることになる。このため、飽和個所に切れ目を生じさせることがない。
【0056】
なお、選択飽和の繰り返し間隔と選択飽和領域SSTのスラブ厚の関係は、切れ目のない飽和が可能な範囲で適宜に設定してよい。一般的には、下記の関係を満足するように設定すればよい。
【0057】
選択飽和領域の厚さ÷励起時間間隔>血流の最大速度
選択飽和領域SSTに流入する血液には、2秒間にわたって飽和処理が繰り返される。このため、血流速度が100cm/secであるとすると、単純計算で200cmの長さにわたって血流が飽和することになる。これは、撮像範囲FOVにおける腹部大動脈と大腿動脈における血流の長さを優に上まわる。したがって、撮像範囲FOV内の腹部大動脈と大腿動脈の血流を全て飽和させることができる。
【0058】
飽和処理を行う時間は、2秒に限らず、撮像範囲の大小に応じて適宜に増減してよい。ただし、血液の縦緩和時間T1が最大で2000msec程度なので、2秒を大きく越えて設定することは意義が乏しい。
【0059】
このような選択飽和の後に収集した磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成することにより、腹部大動脈と大腿動脈が黒く描出された画像が得られる。この画像は、腹部および大腿部の他の組織の像を含んだ画像となる。
【0060】
組織像を除去して血管だけの像を得るために、別途撮像した組織像との差分画像が構成される。組織像の撮像は選択飽和を行わずに行われる。選択飽和を伴わない信号収集は、データ処理部10による制御の下で行われる。データ処理部10は、本発明における第2の信号収集制御部の一例である。
【0061】
選択飽和を行わないことにより、再構成画像としては腹部大動脈と大腿動脈が黒抜けにならない組織像が得られる。このため、選択飽和を行った画像との差を求めると、組織像が消え去り血管だけが明るく描出された画像が得られる。
【0062】
選択飽和を行った画像の再構成、選択飽和を行わない画像の再構成、および、それらの差分画像の構成はデータ処理部10による制御の下で行われる。データ処理部10は、本発明における画像構成制御部の一例である。
【0063】
図6に、選択飽和と信号収集を心拍同期で行うときのタイムチャートの一例を示す。図6に示すように、心電図のR波をトリガ(trigger)として例えば2秒間の選択飽和を行い、その後のR波をトリガとして信号収集を行う。選択飽和を伴わない信号収集も心拍同期で行う。このようにすることにより、ゴースト(ghost)のない高品質の血管撮像を行うことができる。なお、心拍同期は、選択飽和と信号収集のいずれか一方だけとしてもよい。
【0064】
心拍同期を体動同期と組み合わせてもよい。その例を図7に示す。図7に示すように、、呼吸に伴う周期的体動の動きが小さい時期において、心拍に同期した選択飽和と信号収集をそれぞれ行う。選択飽和を伴わない信号収集も同様にして行う。このようにすることにより、さらに高品質の血管撮像を行うことができる。なお、このような同期は、選択飽和と信号収集のいずれか一方だけとしてもよい。
【0065】
差分による筋肉組織像の消去を完璧なものにするときは、T2プリパレーション(preparation)が行われる。T2プリパレーションとは、横緩和時間T2の違いに着目して筋肉の信号を血液の信号よりも小さくする処理である。T2プリパレーションは、信号収集に先立って行われる。
【0066】
T2プリパレーションには、図8に示すようなRF励起のパルスシーケンスが用いられる。図8に示すように、フリップアングルが90°で位相が0°のRF励起を行い、時間T後に、フリップアングルが180°で位相が90°のRF励起を行い、時間2T後に、フリップアングルが180°で位相が90°のRF励起を行い、時間2T後に、フリップアングルが−180°で位相が90°のRF励起を行い、時間2T後に、フリップアングルが−180°で位相が90°のRF励起を行い、時間T後に、フリップアングルが−90°で位相が0°のRF励起を行う。以上のRF励起は非選択励起で行われる。RF励起の後にキラー勾配が印加される。
【0067】
差分による脂肪組織像の消去を完璧なものにするときは、脂肪抑制が行われる。脂肪抑制とは、磁気共鳴周波数のケミカルシフト(chemical shift)に着目して脂肪の信号を血液の信号よりも小さくする処理である。脂肪抑制は、信号収集に先立って行われる。
【0068】
脂肪抑制には、図9に示すような180°パルスが用いられる。180°励起の後にキラー勾配が印加される。180°パルスの周波数は脂肪の周波数に合わせてある。これによって、脂肪のスピンの周波数選択インバージョンリカバリ(inversion recovery)の過程において信号振幅を0にすることができる。
【0069】
図10に、選択飽和、T2プリパレーション、脂肪抑制、および、信号収集のタイムチャートの一例を示す。図10に示すように、先ず選択飽和を複数回繰り返し、その後に、T2プリパレーション、脂肪抑制、信号収集の順で行う。なお、選択飽和を行わないときは、T2プリパレーション、脂肪抑制、信号収集の順で行う。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の一例のMRI装置のブロック図である。
【図2】磁気共鳴信号収集用のパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図3】空間的選択飽和用のパルスシーケンスの一例を示す図である。
【図4】空間的選択飽和を伴う磁気共鳴信号収集のタイムチャートの一例を示す図である。
【図5】撮像範囲と選択飽和の位置関係の一例を示す図である。
【図6】選択飽和と信号収集を心拍同期で行うときのタイムチャートの一例を示す図である。
【図7】選択飽和と信号収集を心拍同期および体動同期で行うときのタイムチャートの一例を示す図である。
【図8】T2プリパレーションのパルスシーケンスを示す図である。
【図9】脂肪抑制のパルスシーケンスを示す図である。
【図10】選択飽和、T2プリパレーションおよび脂肪抑制を伴う信号収集のタイムチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 対象
100 マグネットシステム
102 主磁場コイル部
106 勾配コイル部
108 RFコイル部
110 心拍検出部
112 心拍センサ
130 勾配駆動部
160 RF駆動部
160 データ収集部
160 シーケンス制御部
170 データ処理部
180 表示部
182 表示器
190 操作部
500 クレードル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、収集された磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、
前記制御手段は、
前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加させた後に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる信号収集制御部、
を具備することを特徴とするMRI装置。
【請求項2】
静磁場、勾配磁場パルスおよびRFパルスを対象に印加して磁気共鳴信号を収集する信号収集手段と、収集された磁気共鳴信号に基づいて画像を再構成する画像再構成手段と、それら両手段を制御する制御手段とを有するMRI装置であって、
前記制御手段は、
前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスを複数回印加させた後に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる第1の信号収集制御部と、
前記信号収集手段に、空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせることなく、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加を行わせる第2の信号収集制御部と、
前記画像再構成手段に、前記第1の信号収集制御部による制御の下で収集した磁気共鳴信号に基づく画像と、前記第2の信号収集制御部による制御の下で収集した磁気共鳴信号に基づく画像をそれぞれ再構成させるとともに、それら両画像の差分画像を構成させる画像構成制御部と、
を具備することを特徴とするMRI装置。
【請求項3】
前記空間的選択飽和は動脈の上流における空間的選択飽和である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMRI装置。
【請求項4】
前記空間的選択飽和は静脈の上流における空間的選択飽和である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMRI装置。
【請求項5】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は少なくとも2秒間にわたって繰り返される、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項6】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの複数回の印加は、フリップアングルが逐次変化するように行われる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項7】
前記フリップアングルは180°から90°まで逐次変化する、
ことを特徴とする請求項6に記載のMRI装置。
【請求項8】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの複数回の印加は、RFパルスの位相が逐次変化するように行われる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項9】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加、または/および、前記磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は、心拍に同期して行われる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項10】
前記空間的選択飽和のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加、または/および、前記磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は、体動に同期して行われる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項11】
前記磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加は、ステディステート・フリープリセッションのシーケンスで行われる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項10のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項12】
前記各信号収集制御部は、前記信号収集手段に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加の前にT2プレパレーション用のRFパルスの印加を行わせる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項11のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。
【請求項13】
前記各信号収集制御部は、前記信号収集手段に、磁気共鳴信号収集のための勾配磁場パルスとRFパルスの印加の前に脂肪信号抑制用のRFパルスの印加を行わせる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項12のうちのいずれか1つに記載のMRI装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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