MTI−MMP、iFIH、FIH−1によるHIF−1の制御
【課題】本発明は、HIF−1活性の促進又は阻害方法及びHIF−1活性を促進又は阻害する化合物のスクリーニング方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、FHI−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法、及びFHI−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を増強又は低下させる化合物を検索して、HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】本発明は、FHI−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法、及びFHI−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を増強又は低下させる化合物を検索して、HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIF−1の活性制御に関する。より詳細には、FIH−1を介したHIF−1の活性制御に関する。
【背景技術】
【0002】
HIF−1は、低酸素に応答して解糖系に必要な遺伝子や血管新生、造血に必要な遺伝子の転写を促進する主要な分子である(非特許文献1)。HIF−1は、通常酸素分圧下では不安定なαサブユニットと安定的なβサブユニットの2つのサブユニットから構成される。通常酸素分圧下ではHIF prolyl hydroxylases(HPHs)によってHIF−1αのプロリン残基に水酸化が起こり、続いてVon Hippel Lindau(VHL)がん抑制タンパク質が水酸化プロリンを認識して結合し、その結果HIF−1αはユビキチン化されプロテアソームで分解される。このようなタンパクの安定性による量的な制御に加えて、HIF−1α自身の転写活性という質的な制御も酸素依存的に行われており、FIH(factor of inhibiting HIF)−1によりHIF−1αのC末端活性化領域(C−terminal activation domain (CAD))のアスパラギン残基が水酸化されると転写共役因子であるp300/CBPと相互作用できなくなり、その結果転写活性が抑制されてしまう(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5)。つまり、HPHsは量的に、FIH−1は質的にHIF−1αを負に制御している。また、HPHsとFIH−1の酸素分子に対するKm値が異なることから、それぞれの酸素濃度においてHIF−1αの活性が最適に調整されると考えられている。
【0003】
ところで、多くの炎症性疾患や癌などの病理的状況では低酸素状態になっていることが多く(非特許文献6、非特許文献7及び非特許文献8)、そのような状況下でも、骨髄球系の細胞及び癌細胞は多くの機能を発揮する必要があり(例えば、細胞運動、種々の遺伝子発現など)、低酸素状況に速やかに適応する必要がある。このような低酸素状況において重要な役割を果たしていると考えられている因子の1つが、HIF−1αであり、HIF−1αが通常酸素分圧下における骨髄球系細胞の嫌気的解糖系を介したATP産生に重要な役割を果たしていることや、癌細胞においても嫌気的解糖系や血管新生に重要な役割を果たしていることが知られている(非特許文献9)。
このような状況において、近年、HIF−1の活性抑制による炎症性疾患あるいは癌などの発症及び進行を抑制の可能性について検討が進められている。例えば、HIF−1の阻害因子であるFIH−1の結晶構造に基づいて、FIH−1の機能的類似体又はFIH−1結合因子を検索する方法が開示されいる(特許文献1)。しかしながら、実際に臨床応用可能な機能的類似体又はFIH−1結合因子は、現在のところ報告されていない。
【0004】
【非特許文献1】Semenzaら,Curr Opin Cell Biol 13;167−171,2001
【非特許文献2】Kasperら,EMBO J 24;3846−3858,2005
【非特許文献3】Landoら,Genes Dev 16;1466−1471,2002a
【非特許文献4】Mahonら,Genes Dev 15;2675−2686,2001
【非特許文献5】Aranyら,Proc Natl Acad Sci U S A 93;12969−12973,1996
【非特許文献6】Gatenby及びGillies,Nat Rev Cancer 4;891−899,2004
【非特許文献7】Mappら,Br Med Bull 51;419−436,1995
【非特許文献8】Mehendaleら,FASEB J 8;1285−1295,1994
【非特許文献9】Semenzaら,Nat Rev Cancer 3;721−732,2003
【特許文献1】WO2004/035812号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、HIF−1αの活性を低下させる方法の提供を目的とする。
また、本発明は、HIF−1αの活性を低下させる化合物のスクリーニング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を進めた結果、iFIHがMT1−MMPによるHIF−1αの活性化に必須であること、及びFIH−1とMT1−MMPの細胞内ペプチド(以下、CPと称する)及び/又はFIH−1とiFIH(inhibitor of FIH−1)の相互作用がHIF−1αの活性化に重要であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
ここで「MT1−MMP」は、膜型のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)に分類される膜タンパク質のことで、プロテアーゼ活性に必要な酵素活性ドメイン(CAT)、基質と結合し基質の選択性を担うヘモペキシン様ドメイン(HPX)からなる細胞外領域、膜貫領域、20アミノ酸からなる短い細胞内領域(CP)の各領域によって構成される。MT1−MMPは、単球/マクロファージには発現していることが報告されており、細胞運動に重要な役割を果たしていると考えられている
また「iFIH」は、これまでにAPBA3/Mint3として知られていた機能未知の因子と同一であるが、MT1−MMPのCP領域と相互作用し、HIF−1活性制御に重要な役割を果たしていることに関して、本発明者らにより初めて明らかにされた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(11)に関する。
(1)本発明の第1の態様は、「細胞内のiFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法」である。
(2)本発明の第2の態様は、「前記FIH−1タンパク質がMT1−MMP−CPと相互作用している上記(1)に記載の方法」である。
(3)本発明の第3の態様は、「RNAi法によりiFIH−1タンパク質の発現を低下させて、iFIHタンパク質とFIH−1との相互作用を低下させる上記(1)に記載の方法」である。
(4)本発明の第4の態様は、「細胞内のMT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法」である。
(5)本発明の第5の態様は、「前記MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用の低下が、配列番号12で表されるアミノ酸配列で表されるペプチド、又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質と相互作用を行い、かつ、FIH−1タンパク質によるHIF−1αの活性化を阻害しないペプチドによる競合で達成される上記(4)に記載の方法」である。
(6)本発明の第6の態様は、「前記細胞が免疫系の細胞又は腫瘍細胞である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の方法」である。
(7)本発明の第7の態様は、「HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下において、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとを接触させる工程、
(b)FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を検出する工程、及び
(c)被検試料の非存在下において相互作用を検出した場合と比較して、該相互作用が増強又は低下した場合に該被検試料中に該化合物候補が存在すると判断する工程、
を含む方法」である。
(8)本発明の第8の態様は、「FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用をFIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの結合の有無を基準として検出する上記(7)に記載の方法」である。
(9)本発明の第9の態様は、「得られた候補化合物が、細胞内のHIF−1α活性を促進又は阻害することを確認する工程をさらに含む上記(7)又は(8)に記載の方法」である。
(10)本発明の第10の態様は、「上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の方法により単離される化合物」である。
(11)本発明の第11の態様は、「前記化合物が抗体であることを特徴とする上記(10)に記載の化合物」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を用いると、HIF−1αの活性を阻害することができる。
【0009】
本発明の方法を用いると、HIF−1αの活性を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のある実施態様においては、FIH−1タンパク質とMT1−MMP又はiFIHタンパク質との相互作用を増強又は低下させる工程が含まれる。
また、本発明の他の実施態様おいては、FIH−1タンパク質とMT1−MMP又はiFIHタンパク質との相互作用を増強又は低下させる化合物を検出する工程が含まれる。
従って、以下に、iFIHタンパク質、MT1−MMP及びFIH−1タンパク質並びにこれらをコードする遺伝子の取得方法を説明し、さらに、FIH−1タンパク質とMT1−MMP又はiFIHタンパク質との相互作用を増強又は低下させる化合物を検出する工程の説明を行う。
ここで、タンパク質間の相互作用とは、タンパク質同士の結合、構造の変化、修飾、安定性の変化などを含むタンパク質間の作用のことを意味する。
【0011】
「iFIHタンパク質」とは、例えば、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
また、「FIH−1タンパク質」とは、例えば、配列番号6又は配列番号7で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
さらに、「MT1−MMP」とは、例えば、配列番号9、配列番号10又は配列番号11で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質」とは、「iFIHタンパク質」、「FIH−1タンパク質」及び「MT1−MMP」に関し、各々、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列、配列番号6又は配列番号7で表わされるアミノ酸配列及び配列番号9、配列番号10又は配列番号11で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、「iFIHタンパク質」については、FIH−1タンパク質との結合能を有し、「FIH−1タンパク質」については、HIF−1αの活性を阻害するタンパク質のことである。
あるいは、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列、配列番号6又は配列番号7で表わされるアミノ酸配列及び配列番号9、配列番号10又は配列番号11で表わされるアミノ酸配列中の1又は数個(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、「iFIHタンパク質」については、FIH−1タンパク質との結合能を有し、「FIH−1タンパク質」については、HIF−1αの活性を阻害するタンパク質のことである。上記アミノ酸の欠失、付加及び置換は、タンパク質をコードする核酸に元々存在した変異であってもよく、また、該核酸を当該技術分野で公知の手法によって改変することによって新たに導入したものであってもよい。該改変は、例えば、特定のアミノ酸残基の置換は、市販のキット(例えば、MutanTM−G(TaKaRa社)、MutanTM−K(TaKaRa社))等を使用し、Guppedduplex法やKunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法により塩基の置換を行なうことによって実施することができる。
【0012】
「MT1−MMP−CP」とは、MT1−MMPの細胞内領域(CP)のことで、例えば、配列番号12で表されるペプチドと同一又は実質的に同一のアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質との結合能を有するペプチドのことである。
なお、「実質的に同一」の意味は、上記「iFIHタンパク質」及び「FIH−1タンパク質」の例による。
【0013】
また、本発明の他の実施態様では、iFIHタンパク質、FIH−1タンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)を細胞外又は細胞内において発現さる工程が含まれるため、これらのタンパク質又はペプチドを発現するための核酸が必要となる。
ヒトのiFIHタンパク質、FIH−1タンパク質及びMT1−MMPをコードする核酸のヌクレオチド配列は、各々、配列番号1、配列番号5及び配列番号8として知られるヌクレオチド配列からなるDNAのことである。
また、MT1−MMP−CPをコードする核酸については、例えば、配列番号12のペプチドをコードする核酸であればいかなる配列であっても使用することができる。
【0014】
iFIHタンパク質をコードする核酸、FIH−1をコードする核酸及びMT1−MMPをコードする核酸は、上記配列番号で表されるヌクレオチド配列に基づいてプローブを作製して、適当なライブラリーを用いて取得することができ、あるいは、該ヌクレオチド配列に基づいて作製したPCR用のプライマーにより、PCR法により取得することもできる。これらの核酸の入手元はヒトの細胞に限定されるものではなく、ヒト以外の哺乳類、例えば、サル、マウス、ラット、ウサギ、ウシなどの細胞又は組織であってもよい。
プローブを用いてハイブリダイゼーション法により核酸を取得する場合、ハイブリダイゼーションの条件としては、当業者の通常の知識に基づいて選択しえる、全ての条件を採用することができる。
一般に、高いストリンジェントな条件でスクリーニングを行うことにより、上記配列番号1、配列番号5及び配列番号8で表される核酸と相同性の高い核酸を取得することができる。
【0015】
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な実験条件である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補鎖がその融点よりやや低い環境における再アニール能力に依存する。
具体的には、例えば、低ストリンジェントな条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが上げられる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、65℃、5×SSC及び0.1%SDS中で洗浄することなどが挙げられる。
【0016】
本発明で使用されるタンパク質又はペプチド(限定はしないが、主として、MT1−MMP、MT1−MMP−CP、HFI−1タンパク質、iHFIタンパク質、HIF−1αなどが含まれる。以下、本発明のタンパク質又はペプチドとする)には、天然に存在するタンパク質のみならず、その断片又は他のペプチド又はタンパク質を融合された形態も含まれる。
ここで、天然のタンパク質と融合されるペプチドとしては、特に限定はされないが、例えば、FLAG、Hisタグ、c−myc断片、T7−タグ、E−タグなどを挙げることができる。また、融合されるタンパク質としては、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)などを挙げることができる。
【0017】
本発明のタンパク質又はペプチドのリコンビナントは、細胞外及び細胞内において、本発明のタンパク質又はペプチドの活性の変動、又は、本発明のタンパク質又はペプチド間の相互作用の変動を検出するために使用することができる。
本発明のタンパク質又はペプチドのリコンビナントを調製するためには、本発明のタンパク質又はペプチドをコードする核酸(以下、本発明の核酸とする)を組み込んだ発現ベクターを作製する必要がある。このような発現ベクターは、適切なベクターに本発明の核酸を発現可能に連結することにより得ることができる。
ここで使用可能なベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pCBD−C等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、pC194等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、YIp30等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルス、トガウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0018】
また、使用可能なプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであれば特に限定されない。
例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、HSV−TKプロモーター、EF−1αプロモーター等が挙げられる。
宿主が大腸菌である場合には、tacプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター等が、宿主が枯草菌である場合には、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が挙げられる。
宿主が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が挙げられる。
宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0019】
本発明の発現ベクターには、プロモーター配列以外にも、選択マーカー、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、SV40複製起点(SV40ori)などを、適宜連結することができる。
選択マーカーとしては、限定はしないが、ハイグロマイシン耐性マーカー(Hygr)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)、アンピシリン耐性遺伝子(Ampr)、カナマイシン耐性遺伝子(Kanr)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neor,G418)などが利用可能である。
また、組換えタンパク質の単離・精製を容易にするなどの目的で、本発明のポリペプチドのN末端側に適当なシグナル配列を付加してもよい。
宿主が大腸菌である場合にはアルカリホスファターゼシグナル、OmpAシグナルなどが利用可能であり、宿主が枯草菌である場合にはα−アミラーゼシグナル配列、ズブチリスシグナル配列などが利用可能であり、宿主が酵母である場合には、α因子シグナル配列、インベルターゼシグナル配列などが利用可能であり、宿主が動物細胞である場合には、例えば、インシュリンシグナル配列、α−インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などが利用可能である。
【0020】
上述のベクターに対して本発明の核酸を挿入することは、クローニングされたDNAをそのまま、又は所望により制限酵素で消化して、リンカーを付加し、ベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入することにより行うことができる。連結するDNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGA又はTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。連結するDNAは、当該DNA中にコードされている本発明のポリペプチドが宿主細胞中で発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。
以上の方法により、本発明の核酸含む発現ベクターを構築することができる。
【0021】
上述のように作製した発現ベクターは、本発明のタンパク質又はペプチドが宿主中に導入する必要がある。ここで、宿主としては、本発明のタンパク質を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリシア属、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
【0022】
大腸菌へのベクターの導入方法としては、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が利用可能である。酵母への組換えベクターの導入方法としては、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が利用可能である。動物細胞又は動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質による方法等が挙げられる。
【0023】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0024】
培養は、宿主細胞に適した条件下で行う。例えば、大腸菌を培養する際の培地としては、LB培地、M9培地等が好ましい。所望によりプロモーターを効率よく働かせるために、イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。大腸菌の場合、培養は通常約15〜37℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主が枯草菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加えることもできる。
【0025】
酵母を培養するための培地としては、SD培地、YPD培地があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が昆虫細胞又は昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、ウシ血清を含むグレース昆虫培地等が挙げられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0026】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%のウシ胎児血清を含むMEM培地、DMEM培地、RPMI−1640培地等が用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
また、宿主を動物細胞として形質転換体を調製する方法は、HIF−1の機能が関連する疾患に対する遺伝子治療を行うために利用することができる。遺伝子治療の目的で治療対象の細胞において発現させることができる核酸には、限定はしないが、例えば、iFIHとFIH−1との相互作用を阻害する因子(例えば、限定はしないが、shRNA、siRNA、iFIHと結合するFIH−1の部分ペプチドなど)、MT1−MMP−CPとFIH−1との相互作用を阻害する因子(例えば、限定はしないが、MT1−MMP−CP、MT1−MMP−CPと結合するFIH−1の部分ペプチドなど)が含まれる。遺伝子治療の目的で使用されるベクターは、当業者であれば容易に選択することができるが、例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが利用可能である。生体内の細胞への投与はエキソビボ、インビボなどの方法を使用することができる。
【0027】
本発明のタンパク質又はペプチドのリコンビナントを細胞外で使用する場合には、リコンビナントを発現させた宿主細胞を集め、適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/又は凍結融解などによって細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により本発明のタンパク質又はペプチドを含む粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジン等のタンパク質変性剤や、トリトンX−100などの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中に本発明のタンパク質又はペプチドが分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清又は抽出液中に含まれる本発明のタンパク質又はペプチドの精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0028】
本発明には、iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法が含まれる。
iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強させる方法としては、該相互作用を促進するもの、例えば、MT1−MMP変異体であるTM−CP(例えば、図1aを参照のこと)を添加することが挙げられる。
一方、iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を低下させる方法としては、iFIHの発現を喪失又は低下させ、FIH−1との相互作用を喪失又は低下させる方法が含まれる。このような方法には、例えば、iFIHに対するアンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドなどを目的の細胞内に導入し、iFIHの転写を阻害する方法(RNAi法など)などを挙げることができる。アンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入は、当業者であれば容易に実施することができ、例えば、細胞内において発現させても、アンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを直接細胞内に導入しても、いずれの方法でも実施可能である。また、このようなアンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの代わりには、これらの誘導体を使用することもできる。
【0029】
また、本発明には、MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を阻害又は促進する方法が含まれる。
iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強させる方法としては、該相互作用を促進するものを添加することが挙げられる。
一方、MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を低下させる方法としては、配列番号12で表されるアミノ酸配列で表されるペプチド、又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質と相互作用を行い、かつ、FIH−1タンパク質によるHIF−1αの活性化を阻害しないペプチドを添加し(又は、該ペプチドを目的の細胞内で発現し)、細胞内におけるMT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を競合的に阻害する方法などを挙げることができる。
また、MT1−MMP−CPに変異を導入することができる。変異には、全体を破壊することの他、FIH−1タンパク質との相互作用に重要な役割を担っているアミノ酸を置換、欠失させる方法が含まれる。FIH−1タンパク質との相互作用に重要なアミノ酸を検索する方法は、当業者により容易に選択することができるが、例えば、アラニンスキャンなどの方法を使用することもできる。例えば、変異を導入するために適したアミノ酸としては、MT1−MMP−CP(配列番号12)の第14番目のアルギニンが好ましい。
【0030】
また、本発明には、iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する化合物、並びに、MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を阻害又は促進する化合物が含まれる。
本発明において、iFIHタンパク質とFHI−1との相互作用、又はMT1−MMP−CPとFHI−1タンパク質との相互作用を喪失又は低下させる化合物には、例えば、iFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPに対する抗体を挙げることもできる。これらの抗体には、例えば、FHI−1タンパク質と相互作用するiFIHタンパク質の部分領域(例えば、N末端領域)に対する抗体、又はMT1−MMPの細胞内ペプチド(CP)に対する抗体などが含まれる。
上記抗体には、例えば、FHI−1タンパク質と相互作用するiFIHタンパク質の部分領域(例えば、N末端領域)、MT1−MMPの細胞内ペプチド(CP)に対するモノエピトープ特異抗体、ポリエピトープ特異抗体、単一鎖抗体、及びこれらの断片が含まれる。これらの抗体には、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体などが含まれる。
ポリクローナル抗体は、例えば、哺乳類宿主動物に対して、免疫原及びアジュバントの混合物をインジェクトすることにより調製することができる。通常は、免疫原及び/又はアジュバントを宿主動物の皮下又は腹腔内へ複数回インジェクトする。免疫原には本発明のDNA結合能を保持した可溶性Spo11タンパク質を使用することができる。アジュバントの例には、完全フロイト及びモノホスホリル脂質A合成−トレハロースジコリノミコレート(MPL−TDM)が含まれる。
【0031】
モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法を用いて調製することができる。
この方法には以下に示す4つの工程が含まれる:(i)宿主動物又は、宿主動物由来のリンパ球を免疫する、(ii)モノクローナル抗体分泌性(又は潜在的に分泌性)のリンパ球を回収する、(iii)リンパ球を不死化細胞に融合させる、(iv)所望のモノクローナル抗体を分泌する細胞を選択する。
マウス、ラット、モルモット、ハムスター、又は他の適当な宿主動物が、免疫動物として選択され免疫原がインジェクトされる。或いは、免疫動物から取得したリンパ球をインビトロで免疫化してもよい。ヒト細胞が望ましい場合には、末梢血リンパ球(PBLs)が一般に使用される。しかしながら、他の哺乳類由来の脾臓細胞又はリンパ球がより一般的で好ましい。
【0032】
免疫後、宿主動物から得られたリンパ球はハイブリドーマ細胞を樹立するために、ポリエチレングリコールなどの融合剤を用いて不死化細胞株と融合する。融合細胞としては、トランスフォーメーションによって不死化されたげっ歯類、ウシ、又はヒトのミエローマ細胞が使用されるか、ラットもしくはマウスのミエローマ細胞株が使用される。細胞融合を行った後、融合しなかったリンパ球及び不死化細胞株の成長又は生存を阻害する一又は複数の基質を含む適切な培地中で細胞を生育させる。通常の技術では、酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く親細胞を使用する。この場合、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンがHGPRT欠損細胞の成長を阻害し、ハイブリドーマの成長を許容する培地(HAT培地)に添加される。このようにして得られたハイブリドーマから、所望の抗体を産生するハイブリドーマを選択し、該ハイブリドーマが生育する培地から、定法に従い、目的のモノクローナル抗体を取得することができる。
【0033】
本発明には、HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下において、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとを接触させる工程、
(b)FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を検出する工程、及び
(c)被検試料の非存在下において相互作用を検出した場合と比較して、該相互作用が増強又は低下した場合に該被検試料中に該化合物候補が存在すると判断する工程、
を含む方法が含まれる。本実施態様は、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質、あるいは、FIH−1タンパク質とMT1−MMP−CPが相互作用することにより、FIH−1タンパク質によるHIF−1α活性阻害効果が上昇又は低下することに基づいて、これらの相互作用を増強又は低下させる化合物を使用してHIF−1αの活性を阻害する方法を提供するものである。
【0034】
このようなスクリーニングはインビトロ又は細胞内の系を用いて実施することができる。細胞内の系を用いる場合には、例えば、FIH−1タンパク質とMT1−MMP及び/又はiFIHタンパク質を発現する細胞を被検試料の存在下でインキュベートし、HIF−1α活性の変動を検出することにより、スクリーニングを行うことができる。HIF−1αの活性の変動は、レポーターアッセイ(例えば、後述の「実施例」の項を参照のこと)により検出することができる。
また、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質、あるいは、FIH−1タンパク質とMT1−MMP−CPが相互作用を低下させる化合物を検出するため、ツーハイブリッドシステム(Two−hybrid法)を使用してもよい。この場合には、ツーハイブリッド法で得られた候補化合物をさらに、HIF−1αの活性の変動を検出する上記細胞の系において再度スクリーニングすることもできる。
【0035】
本発明のスクリーニングは、例えば、免疫沈降を利用して実施することもできる。被検試料の存在下で、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質及び/又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)とを発現する細胞を調製し、培養後、例えば、細胞抽出物から抗体などを用いてFIH−1タンパク質を含む複合体を回収し、この複合体内にiFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)が含まれるかどうかを確認する。iFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の存在の有無は、これらに対する抗体等を使用したイムノブロッティング法などにより確認できる。その結果、iFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の存在が確認されないか、又は被検試料の非存在下において同様な実験を行った場合に比較して、iFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の存在量が有意に減少した場合には、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質及、又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)との相互作用が被検試料により阻害されたものと判断することができる。
その他、免疫沈降法以外の、例えば、抗体カラムなどを利用した免疫的手法によってもスクリーニングを実施することが可能である。
また、本発明のタンパク質又はペプチドを発現する場合に、エピトープタグなどとの融合体として発現させたようなときには、該タグに対する抗体も利用することができる。
【0036】
さらに、上記免疫的な手法は、細胞を介さずに完全なインビトロの系でも実施可能である。この場合、インビトロにおいて、被検試料の存在下、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)とをインキュベートし、例えば、FIH−1タンパク質に対する抗体(又はタグに対する抗体)でFIH−1タンパク質を含む複合体をプルダウンなどで回収し、該複合体中のiFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の有無を確認する。また、プルダウン法以外にも、抗体カラムを用いることもできる。
【0037】
本発明の方法によって取得される化合物は(例えば、低分子化合物が以外にも、抗体などの高分子化合物も含まれる)、HIF−1αの活性を促進又は阻害することが期待される。従って、これらの化合物は、例えば、虚血性疾患(例えば、梗塞など)での血管新生の促進、又はマクロファージの活性化による免疫療法への利用、あるいは、HIF−1αの高活性状態に伴う疾患、障害などの治療に有効であり、生体に対して悪影響を及ぼさない医薬組成物の形態で使用することができる。通常、そのような組成物には、本発明によって取得される化合物の他、薬剤上許容される担体が含まれる。
「薬剤上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、コラーゲン、ヒト血清アルブミン、有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等などが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明の化合物の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0038】
本発明に係る医薬組成物は、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0039】
注射に適する医薬組成物には、滅菌された注射可能な溶液又は分散媒を、使用時に調製するための滅菌水溶液(水溶性の)又は分散媒及び滅菌されたパウダーが含まれる。静脈内の投与に関し、適切な担体には生理食塩水、静菌水、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が含まれる。注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。例えば、レクチンなどのコーティング剤を用い、分散媒においては必要とされる粒子サイズを維持し、界面活性剤を用いることにより適度な流動性が維持される。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
【0040】
滅菌的な注射可能溶液は、必要な成分を単独で、又は他の成分と組み合わせた後に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を加え、滅菌することで調製される。一般に、分散媒は、基本的な分散培地及び上述したその他の必要成分を含む滅菌的媒体中に活性化合物を取り込むことにより調製される。滅菌的な注射可能な溶液を調製するための滅菌的パウダーの調製方法には、活性な成分及び滅菌溶液に由来する何れかの所望な成分を含むパウダーを調製する真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0041】
経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;スターチ又はラクトースなどの、アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0042】
本発明の化合物は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0043】
本発明の化合物による特定の疾患の予防又は治療において、適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5μg〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0044】
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な製剤化における留意事項等により影響を受ける。
【0045】
本発明の医薬組成物はキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0046】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0047】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、あるいは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0048】
以下に実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
1.実験材料と実験方法
1−1.プラスミド
マウス FIH−1 cDNAをマクロファージからRT−PCRで単離した。また、ヒトFIH−1及びAPBA3/iFIH cDNAは、HEK293細胞からRT−PCRで単離した。それぞれのcDNAは、pENTR/D TOPO vector(Invitrogen社)にクローニングした。 FIH−1N(1−302aa、配列番号6及び7)、APBA3−N/iFIH−N(1−214aa、配列番号2、3及び4)及びAPBA3−C/iFIH−C(215−575aa、配列番号2、3及び4) はそれぞれ単離したcDNAを基にPCRで作製しpENTR/D TOPOベクターにクローニングした。Myr−APBA3−N/Myr−iFIH−Nは、v−src由来のミリストイル化配列(配列番号13)(Crossら,1984)を開始コドンの前にPCRを用いて挿入し、同様にpENTR/D ベクターにクローニングした。マウス及びヒトMT1−MMPは所属教室で作製されていたFurin切断部位の下流にFLAGタグあるいはMycタグを挿入したものを使用した。MT1−MMPのドメイン欠損変異体(CAT(112−284aa)、HPX(319−507aa)、CP(562−581aa)、細胞外領域(112−507aa))、アラニン置換体はPCRを用いて作製し、pENTR/D TOPO ベクターにクローニングした。これらpENTR/D TOPOベクターにクローニングしたものをLRリコンビナーゼを用いてpcDNA3.1、pDEST15、pDEST17、pLenti6、pAdベクター(全てInvitrogen)に挿入して発現ベクターを作製した。
【0050】
1−2.マウス
MT1−MMP欠損マウス及び野生型マウスは、発明者らによって定法に従って作製されC57BL/6マウスと12回戻し交配を行ったヘテロマウスどうしを掛け合わせて作製した。本実験で用いた野生型及びMT1−MMP欠損マウスはSPF環境下で維持され、生後10−18日で実験に用いた。
【0051】
1−3.免疫組織染色
凍結切片を10μmの厚さで作製した。4% パラホルムアルデヒド/PBSで5分間固定し、0.03% H2O2/PBSで15分間反応させ内因性のペルオキシダーゼを不活化した。5% ヤギ血清、3% BSAを含むPBSで1時間室温で反応させたのち、抗F4/80抗体(BMA Biomedicals)又は抗CD45抗体(Bechman Coulter)を4oCで一晩反応させた。PBSで洗浄した後、切片をHistofine HRP付加抗ラットIgG抗体(Nichirei)と30分間反応させ、PBSで洗浄した後DAB溶液で発色させた。
1−4.骨髄由来マクロファージの調整
骨髄由来マクロファージは過去の報告に基づいて行われた(Celadaら,1984;Kobayashiら,2002)。マウスの大腿骨、脛骨、及び上腕骨の両端を切断し、PBSで骨髄細胞を洗いだした。PBSで3回洗浄した後、骨髄細胞を30% L929培養上清と20% FBSを含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM, Sigma)中で湿潤な環境で5% CO2大気中、37℃で7日間培養し、マクロファージに分化させた。分化させたマクロファージはL929培養上清を除いた培養液で24時間培養した後実験に使用した。低酸素実験では分化させたマクロファージを1% O2、5% CO2大気に設定したModel 9200インキュベーター(和研薬)で培養して実験に用いた。
【0052】
1−5.浸潤能及び運動能の解析
マトリゲルに対する浸潤能及びトランスウェルを用いた運動能の解析は過去の報告に基づいて行われた(Nonakaら,2005;Uedaら,2003)。8μm ポアサイズのトランスウェル(Corning)にマトリゲル(Becton Dickinson)をコートしたもの(浸潤能)又はコートしていないもの(運動能)を24ウェルプレートに装填した。10ng/mlのMCP−1(R&D Systems)を含む 500μlのDMEMを下のチャンバーに入れ、200μlの細胞懸濁液(2x105 cells)を上のチャンバーに入れた。細胞を運動能で2時間、浸潤能で6時間それぞれ37℃で培養した後、下のチャンバーに移動した細胞をギムザ染色液で染色し、細胞を顕微鏡下でカウントした。
1−6.ケモキネシス(ランダム運動)の測定
マクロファージを35mmガラスディッシュに播種し一晩培養した。10ng/ml のMCP−1を加え30分後から、1分ごとに30分間 Leica AS MDW time−lapse system(Leica Microsystems)を用いて細胞の画像を取得した。各時間の細胞の重心の直線移動距離の合計をImageJ software(NIH)で解析し細胞の移動距離とした。
【0053】
1−7.ATP濃度の測定
マクロファージのATP濃度はATP Bioluminescence Assay Kit CLS II(Roche Applied Science)を用いて測定した。Bradford assay kit(Bio−Rad)を用いて試料中のタンパク量を測定し、タンパク量でATP量を平均化した。解糖系阻害剤を用いた実験では0.2M 2−Deoxyglucose(SIGMA)又は超純水を培養液中に加え3時間培養後にATPを測定した。
【0054】
1−8.マクロファージ核タンパク中のHIF−1α及びp300/CBPの検出
マクロファージの核タンパク質をNuclear Extract Kit(ActiveMotif)を用いて回収した。TransAM HIF−1 kit(ActiveMotif)を用いて10μgの核タンパク質を解析した。このキットにはHIF−1が結合するHREオリゴヌクレオチドがコーティングされたプレートが含まれている。試料中のHIF−1の結合は抗HIF−1α 抗体を用いて検出した。p300/CBPの検出に抗p300/CBP 抗体(Upstate)を使用した。
1−9.レポーターアッセイ
HIF−1αの転写活性を解析するためのレポーターアッセイはLandoらの報告を基に改変を加えて行われた(Landoら,2002b)。レポータープラスミドとしてホタルルシフェラーゼ遺伝子の前にupstream activating sequenceを4つ直列に配置し(4xUAS)さらにチミジンキナーゼ(TK)由来のTATA boxを挿入したpGL3 Basicプラスミド(Promega)を作製した。ウミシイタケルシフェラーゼを発現するpRL ベクター(Promega)を内部コントロールとして使用した。HEK293細胞(5x104 cells/well)を24ウェルプレートに播種し、LipofectamineTM 2000(Invitrogen)を用いて以下の条件でレポータープラスミドを導入した。レポータープラスミド(100ng),内部コントロールベクター(10ng),Gal4BD−CADプラスミド(50ng)、MT1−MMP及び変異体、又はAPBA3/iFIH及び変異体発現プラスミド(200ng)。MT1−MMPとAPBA3/iFIH変異体のHIF−1αCAD活性に対する影響を解析する実験ではそれぞれ50ngずつ遺伝子導入した。遺伝子導入24時間後にPBSで洗浄した後、passive cell lysis buffer(Promega)を加え、さらに凍結融解により細胞を破砕した。ライセートのルシフェラーゼ活性はDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いてTD20/20 ルミノメーター(Promega)で測定した。
【0055】
1−10.組み換えタンパクの作製
GST、GST−CP、GST−CPR/A、GST−CP5、GST−CAD、GST−FIH−1、GST−FIH−1Nの作製のため、BL21 Gold(DE3) pLysS大腸菌株(Stratagene)をpDEST15発現ベクター(Invitrogen)で形質転換させ、LB培地で培養後0.5mM isopropyl−D−thiogalactoside(IPTG)を加えてで3時間、37oCで培養した。菌体を遠心で落とした後、protease inhibitor cocktail III(EMD Biosciences)を加えた1% Triton−X/PBSに懸濁した後超音波破砕を行った。遠心後の上清にグルタチオンセファロース4B(GE Healthcare)を加えて1時間、4℃で反応させた。1% Triton−X/PBSで5回洗浄し保存した。
(His)6タグ マウスFIH−1、APBA3、APBA3Nの作製のため、BL21 Gold(DE3) pLysS大腸菌株をpDEST17発現ベクター(Invitrogen)で形質転換し、LB培地で培養した後、0.1mM IPTGを加えて16時間20℃で誘導をかけた。菌体をprotease inhibitor cocktail IIIを加えたTBSに再懸濁し超音波破砕後、上清に10mM イミダゾール、 Ni2+ 処理したchelation sepharose(GE Healthcare)を加えて1時間、4℃で反応させた。ビーズを50mM イミダゾールで5回洗浄した後、結合しているタンパクを500mM イミダゾールで溶出し、TBSで透析した後実験に使用した。
【0056】
1−11.GSTプルダウンアッセイ
グルタチオンセファロース 4B(GE Healthcare)にGST融合タンパクを約10μg結合させたものを0.5mg/ml BSAを含むlysis buffer(50mM Tris−HCl(pH8.0)、150 mM NaCl、1% NP−40)中で30分間、4℃で混和した。その後、2μgの(His)6−標識FIH−1タンパク、0.5mg/ml BSA、ペプチド競合実験ではビオチン標識したCPペプチドあるいはCPの配列をシャッフルしたコントロールペプチド(配列番号14)(合成はInvitrogen)をビーズに加えた。ローテーターを用いて2時間、4℃で混和した後、ビーズをlysis bufferで4回洗い、Laemmliサンプルバッファー、βメルカプトエタノールを加えて加熱しタンパクを溶出した。溶出したタンパクをSDS−PAGEに供し、抗(His)6抗体(Roche Applied Science)あるいは抗GST抗体(GeneTex)を用いて検出した。
【0057】
1−12.レンチウイルスベクターの作製
レンチウイルスベクターはViraPowerTM Lentiviral Expression System(Invitrogen)を使用して仕様書に沿って作製した。レンチウイルスの濃縮は過去の報告を基に行った(Pfeiferら,2000)。レンチウイルスを含む培養上清を回収し、1,500 gで10分間遠心した後上清を回収した。0.45μmフィルター(Millipore)を用いて濾過した後、ウイルス液を70,000 gで2時間、21℃で遠心し、上清を除去した。ウイルスを200μlのDMEMで懸濁し、10倍希釈系列を作製した後、6ウェルプレートに1x105 cells/wellでまかれたHeLa細胞に感染させ、48時間後にブラストサイジンによる薬剤選択を行いウイルス力価を求めた。マクロファージにMT1−MMP及び変異体を遺伝子導入する際には、3 MOIで感染させ、遺伝子の発現を以下の特異的プライマーを用いてRT−PCRで確認した。
MT1-MMP(センス);5−atgtctcccgcccctcgacc−3’(配列番号15)
MT1-MMP(アンチセンス);5’−acattggccttgatctcagt−3’(配列番号16)
βアクチン(センス);5’−gccaacacagtgctgtctgg−3’(配列番号17)
βアクチン(アンチセンス);5’−atctgctggaaggtggacag−3’.(配列番号18)
【0058】
1−13.アデノウイルスベクターの作製
ViraPowerTM Adenoviral Expression System (Invitrogen)を用いてアデノウイルスベクターを作製した。ウイルス力価の測定は説明書の通りに行われ、ウイルス液の10倍希釈系列作製して293A細胞に感染させた後、出来たプラークの数から求めた。
1−14.イムノブロッティング
細胞を1mlのlysis buffer(1% NP−40、50mM Tris pH8.0、150mM NaCl)で融解し、20,000 gで15分間、4℃で遠心した。上清を回収しタンパク濃度をBradford assay kit(Bio−Rad)で測定した。細胞融解液にLaemmliサンプルバッファーとメルカプトエタノールを加えて加熱した後、SDS−PAGEに供した。ゲルからタンパクをPVDFメンブレン(Millipore)に移した後、抗MT1−MMPマウス抗体(Daiichi Fine Chemical)、抗トランスフェリンレセプターマウス抗体(Invitrogen)、抗p300/CBP抗体(Upstate)、抗laminA/Cマウス抗体(BD Biosciences)、抗FIH−1ヤギ抗体(Santa Cruz Biotechnology)、抗アクチンマウス抗体(CHEMICON)、抗FLAG M2 抗体(Sigma)、抗Mycマウス抗体(Roche)、抗V5マウス抗体(Invitrogen)、抗APBA3 マウス抗体(BD Biosciences)と4℃で一晩反応させた。PBSTで3回洗浄した後、HRP付加抗マウスIgG抗体(GE Healthcare)、HRP付加抗ヤギIgG抗体(SIGMA)と1時間反応させ、PBSTで5回洗浄した後ECL plus(GE Healthcare)で発光させバンドを検出した。
【0059】
1−15.Yeast−Two−Hybridスクリーニング
Hybrigenics社の商業サービスを使用し、FIH−1をベイトとしてヒト胎盤cDNAライブラリーを使用して行われた。
1−16.shRNAによる発現抑制実験
使用したshRNA配列は以下の通りである。
マウスFIH−1;5’−caccggacctcgaatacctgcaagacgaatcttgcaggtattcgaggtcctttt−3’(配列番号19)
ヒトFIH−1#1;5’−caccgctgaccgacacaaatcttgtcgaaacaagatttgtgtcggtcagctttt−3’(配列番号20)
ヒトFIH−1#2;5’−caccggaagattgtcatggacttctcgaaagaagtccatgacaatcttcctttt−3’(配列番号21)
マウスAPBA3/iFIH;5’−caccgccagttcctacaggagaacacgaatgttctcctgtaggaactggc−3’(配列番号22)
これらの配列をpENTR/U6 TOPOにクローニングし、pLenti6 BLOCKiT レンチウイルスベクター(Invitrogen)にLRリコンビネーションでサブクローニングした。shRNA発現レンチウイルスベクターは上述の通り作製し、shRNA発現レンチウイルスベクターを40 MOIで各細胞に導入した。マクロファージは導入後72時間後に実験に用いた。HEK293細胞は導入後72時間後にブラストサイジンによる薬剤選択を1週間続け、その後実験に使用した。
【0060】
1−17.siRNAを用いた発現抑制実験
siRNAはB−bridge社によってデザイン、合成されたものを使用した。このsiRNAは1遺伝子に対し3種類の異なるsiRNAカクテルである。配列は以下の通りである。
ヒトAPBA3/iFIH:
5’−gauggaacuugaugaguca−3’(配列番号23);
5’−gggaggugcaccucgagaa−3’(配列番号24);
5’−gguucuugguccuguauga−3’(配列番号25).
コントロールsiRNAs:
5’−auccgcgcgauaguacgua−3’(配列番号26)
5’−uuacgcguagcguaauacg−3’(配列番号27)
5’−uauucgcgcguauagcggu−3’(配列番号28)
HEK293細胞を1x104/wellで24ウェルプレートに播種し10nM siRNA カクテル(3種類のターゲット配列を含む)をLipofectamineTM RNAiMAX(Invitrogen)を用いて仕様書の通りに導入した。導入後48時間後にレポーターアッセイを行った。
【0061】
2.結果
2−1.MT1−MMPは細胞内領域(CP)依存的にHIF−1αの転写活性を上昇させる。
HIF−1αのCADは、p300/CBPとの結合することで転写活性を伝達するので、CADの転写活性がMT1−MMPで制御されるかを検討した。CAD自身の転写活性を解析するため、Gal4 DNA結合領域とCADフラグメントを結合させたキメラタンパクを発現するベクターを構築し、CAD融合タンパクが結合した際にルシフェラーゼが転写され、ルシフェラーゼの活性を測定する事でCADの転写活性を測定できるレポーターシステム(Landoら,2002b)を用いた(図1a)。HEK293細胞にレポータープラスミドとMT1−MMP発現プラスミドを遺伝子導入すると、CADの転写活性がコントロールに比べて約2.3倍に上昇することが明らかとなった(図1b)。さらに、HIF−1αのCADの制御にMT1−MMPのどのドメインが関与しているかを決定するため、MT1−MMPの欠損変異体発現ベクターを導入してレポーターアッセイを行った。その結果、酵素活性ドメイン欠損(dCAT)やヘモペキシン様ドメイン欠損(dHPX)変異体は野生型MT1−MMPと同程度にCADを活性化したが、細胞内領域欠損(dCP)変異体ではCADの活性化は見られなかった(図1b)。また、MT1−MMPのC末端の膜貫通ドメインからCPまでの変異体(TM−CP)でもCADの活性化には十分であった(図1b、TM−CP)。
これらの結果からMT1−MMPが細胞内領域依存的にHIF−1αのCADを活性化していることが明らかとなった。さらに、これらのMT1−MMP変異体をMT1−MMP欠損マクロファージにレンチウイルスベクターに導入したところ、レポーターアッセイの結果と同様にdCP以外の変異体でMT1−MMP欠損マクロファージのATP量(図1c)及び細胞運動能(図1d)が回復した。
【0062】
MT1−MMPのCPは20アミノ酸から構成されている(配列番号12)。そこでどのアミノ酸残基がCADの制御に必要であるかを解析するため、MT1−MMPのC末端を4、8、12、16、20アミノ酸ずつ欠損させた変異体を作製した。HEK293細胞にこれら変異体とレポータープラスミドを遺伝子導入して解析を行った結果、最初の4アミノ酸の欠損(dCP17−20)はCADの活性化に影響を及ぼさなかった(図2a)。しかし、次の4アミノ酸の欠損(dCP13−20)から細胞内領域を持たないdCPと同様にCADの活性化が起こらなかった(図2a)。つまり、CP13−16のアミノ酸がMT1−MMPによるCADの活性化に重要な役割を果たしていることが考えられた。そこでCP13−16の4アミノ酸を全てアラニンに置換した変異体を作製しレポーターアッセイを行った結果、アラニン置換変異体ではMT1−MMPによるCADの活性化が起こらなかった(図2b)。さらにCP13−16のアミノ酸を一つずつアラニンに置換した変異体を作製し解析をおこなったところ、それぞれのアミノ酸置換体で異なる程度にCADの活性化能が低下していた。その中でもCP14のR/A置換が最も影響が大きく、MT1−MMPのCADの活性化能がほぼ完全に失われていた(図2b、R/A)。つまり、CP14のアルギニンがCADの活性化に重要であることが明らかとなった。
【0063】
2−2.FIH−1がMT1−MMP依存的なHIF−1αの制御を仲介する。
FIH−1は、現在のところ報告されている唯一のHIF−1αのCADの負の調節因子である(Landoら,2002a;Mahonら,2001)。そこでHEK293細胞でのMT1−MMPによるCADの活性化にFIH−1が関与しているかを検証するため、shRNAを利用して内因性のFIH−1の発現量を低下させたHEK293細胞を作製した(図3a、shFIH−1#1及び#2)。FIH−1の発現量の低下により、HEK293でのCADの活性が約5倍に上昇し(図3b、mock)、この状況ではMT1−MMPによるCADの活性化は検出されなかった(図3b、MT1F,dCP)。同様に、野生型及びMT1−MMP欠損マクロファージのFIH−1の発現をshRNA発現レンチウイルスベクターを用いて低下させると(図3c)、野生型マクロファージと同程度にまでMT1−MMP欠損マクロファージのATP量が回復した(図3d)。これらの結果から、MT1−MMPがCP依存的にFIH−1の機能を抑制し、その結果HIF−1αの転写活性が上昇していることが示唆された。
続いて、MT1−MMPのCPとFIH−1の間に直接的な相互作用があるかを解析するため、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)にCPペプチドを結合させた組み替えタンパク(GST−CP)と(His)6標識したFIH−1を用いたプルダウンアッセイを行った。その結果、FIH−1はGST−CPと結合したが、GSTとは結合しなかった(図4a)。また、GST−CPとFIH−1との結合はCPペプチドで量依存的に競合され、コントロールペプチドでは競合されなかった(図4a、CP peptide/GST−CP;control peptide/GST−CP)。続いて、図2の実験で明らかになったCADの活性化に重要なCP14のアルギニンをアラニンに置換したGST−CP(GST−R/A)とFIH−1との相互作用をプルダウンアッセイで解析した結果、GST−R/AはGST−CPと比べFIH−1との結合能が著しく低下していた(図4b)。また、R/A置換したMT1−MMP変異体をMT1−MMP欠損マクロファージに遺伝子導入したところ、野生型のMT1−MMP導入マクロファージではATP量の上昇が観察されたが、R/A変異体を導入してもATP産生を上昇させることが出来なかった(図4c)。
以上の結果より、FIH−1はMT1−MMPがCP依存的にHIF−1αを制御する際のメディエーターであることが明らかとなった。
【0064】
2−3.APBA3/Mint3はFIH−1の新規結合因子である。
予備的な実験によりMT1−MMPのCPペプチドは少なくともin vitroでのFIH−1の機能に影響しなかったことから、MT1−MMPが単独で直接FIH−1を抑制するのではなく、他の分子の存在を必要とするのではないかという仮説を立て、yeast−two hybridスクリーニングによりFIH−1の結合因子を探索した。yeast−two hybridスクリーニングで得られた候補タンパクとFIH−1との結合を免疫沈降法で解析した結果、APBA3/Mint−3のみがFIH−1との安定的な結合を示した(図5b)。APBA3は、APBA1のホモログであり、アミロイドベータ前駆タンパクの細胞内領域と結合することが知られている(Tanahashi及びTabira,1999)。APBA1、2は、主に神経系で発現しているのに対し、APBA3は広範な組織での発現が確認されているが(Okamotoら,2001;Okamoto及びSudhof,1998;Tanahashi及びTabira,1999)、その生物学的な役割については不明である。APBA3のC末端領域はAPBA1、2と相同性を持つ1つのPTBドメインと2つのPDZドメインからなるが、N末端領域は他のAPBAとは相同性を示さない特有の配列を持つ(図7a)。APBA3はPDZドメインを介してMT5−MMPの細胞内領域と結合することが報告されている(Wangら,2004)、MT1−MMPの細胞内領域とは明確な結合を示さなかった(図6)。
続いてFIH−1がAPBA3のどの領域と結合するかを解析するため、FLAGタグ標識したAPBA3のN末端、C末端をそれぞれMycタグ標識したFIH−1とHEK293細胞に共発現させて、ライセートを免疫沈降に供した。その結果、APBA3の全長及びN末端ではFIH−1が共沈降されてきたが、C末端では共沈降は起こらなかった(図7b)。以上より、FIH−1はファミリー間でユニークな領域であるAPBA3のN末端領域に結合することが明らかとなった。
【0065】
2−4.APBA3は、FIH−1とHIF−1αCADの結合を競合阻害することでHIF−1αの転写活性を亢進する。
続いてFIH−1のどの領域がAPBA3との結合に必要かをプルダウンアッセイで解析した。FIH−1はCupin様の構造を持つ酵素活性ドメインとC末端側に二量体形成ドメインを有する(図7a)。FIH−1は、HIF−1αとC末端側の二量体結合部位で結合し、酵素活性ドメインでHIF−1αのアスパラギン残基を水酸化する(Dannら,2002;Elkinsら,2003;Hewitsonら,2002;Lancasterら,2004)。GST融合FIH−1(GST−FIH−1)はHIF−1αのCADフラグメントと同様にAPBA3のN末端領域 のフラグメントとも結合した(図7c)。それに対し、C末端二量体形成ドメインを欠損したGST−FIH−1(GST−FIH−1N)はHIF−1αのCAD、APBA3のN末端領域のどちらとも結合しなかった(図7c)。一方、FIH−1のN末端側と結合することが知られている Von Hippel−Lindau タンパク質(VHL)(Leeら,2003)は全長及びC末端を欠損したGST−FIH−1のどちらともと結合が確認された(図7c,VHL)。以上の結果より、FIH−1のC末端の二量体形成ドメインがAPBA3及びHIF−1αCADとの結合に必要であることが明らかとなった。興味深い事に、GST−FIH−1によるCADフラグメントのプルダウンはAPBA3のN末端フラグメントによって量依存的に競合阻害がかかったが(図7d)、VHLではそのような競合阻害は起こらなかった(図7e)。この結果はHIF−1αCADとAPBA3のN末端フラグメントがどちらもFIH−1との結合に二量体形成ドメインを必要としていることに起因していると考えられた。
【0066】
APBA3がHIF−1αとFIH−1の結合に競合したので、APBA3がHIF−1αの転写活性を抑制するFIH−1の機能を阻害する可能性が考えられた。そこで、HIF−1αの転写活性におけるAPBA3の影響をレポーターアッセイを用いて解析した。APBA3をHEK293細胞に発現させると、HIF−1αの活性はコントロール群に比べて劇的に上昇した(図8a)。続いてAPBA3による HIF−1α CADの活性化がFIH−1を介したものかを確認するため、2種類のshRNA発現ベクターによりFIH−1の発現を低下させたHEK293細胞を用いてレポーターアッセイを行った(図8b)。その結果、FIH−1の発現レベルの減少に従ってコントロール群でのCADの活性が上昇し、APBA3を導入した群とほぼ変わらなくなった(図8a)。このことからAPBA3によるHIF−1α CADの活性化はFIH−1を介したものであることが明らかとなった。また、APBA3のどの領域がHIF−1αCADの活性化に関係しているかを解析した結果、FIH−1と結合するAPBA3のN末端フラグメントはHIF−1α CADを活性化したが、FIH−1と結合しないC末端フラグメントはCADの活性に影響を与えなかった(図8c)。
以上の結果から、APBA3はHIF−1αとFIH−1との結合に競合的に作用し、FIH−1によるHIF−1αの不活性化を阻止しているという考えが支持された。そこでAPBA3をその機能に基づいて ”inihibitor of FIH−1 (iFIH)”と新たに命名した。
【0067】
2−5.iFIHはMT1−MMPによるHIF−1αの活性化に必須である。
APBAはPDZドメインを介して膜タンパクの細胞内ドメインに多く見られるPDZ結合配列と結合することで細胞膜に局在することが知られているので(Tanahashi及びTabira,1999)、iFIHはMT1−MMPによるFIH−1の抑制のメカニズムを説明する鍵となることが考えられた。そこでMT1−MMPによるCADの活性化にiFIHが必要かどうかを検討した。まず、HEK293細胞にMT1−MMPを発現させHIF−1αの活性が上昇することをレポーターアッセイで確認した(図9a)。この過程にiFIHが関与しているかを解析するため、siRNAを用いてiFIHの発現を低下させた(図9b)。iFIHの発現減少の影響はコントロール群では明確ではなかったことから、内因性のiFIHだけではHIF−1αの活性制御には十分ではないことが示唆された(図9a、mock)。しかし、iFIHの発現減少はMT1−MMPによるHIF−1αの活性化をキャンセルした(図9a、MT1F)。このことからiFIHはMT1−MMPによるHIF−1αCADの活性化に重要な役割を果たしている事が明らかとなった。しかしながら、HEK293細胞におけるiFIHの過剰発現ではMT1−MMPが無くともHIF−1αの活性を上昇させるのに対し(図8)、内因性のiFIHはHIF−1αの活性にほとんど影響しないという異なった結果が得られた。この原因として発現量の違いが考えられたので、レポーターアッセイを用いてHIF−1αの活性化におけるiFIHとMT1−MMPの関係を低発現量の条件で解析した。
【0068】
まず、MT1−MMP又はiFIH単独ではHIF−1αの活性をほとんど上昇させない条件を設定した(図10a、iFIH+MT1)。この条件で、iFIHとMT1−MMPを共発現させるとHIF−1α の活性は相乗的に上昇した(図10a、iFIH+MT1)。図8cで示したように、iFIHのN末端領域はFIH−1に結合しHIF−1αの活性抑制をキャンセルするのに十分である。ところが興味深い事に、MT1−MMPはiFIH−NによるHIF−1αの活性化には影響を及ぼさなかった(図10a、iFIH−N+MT1)。iFIH−Nが欠損しているC末端領域は細胞膜への局在に重要であるので(Okamotoら,2001)、iFIH−Nにミリストイル化シグナル(Crossら,1984)を付加し(Myr−iFIH−N)、細胞膜へ局在できるようにした(図10b)。するとMyr−iFIH−NはMT1−MMPと協調的に働いてCADの活性を上昇させた(図10a、Myr−iFIH−N)。
以上の結果より、内因性の発現量に近い低発現の条件ではiFIH単独ではほとんどCADを活性化しないがMT1−MMPが存在することによってCADを活性化することができること、また、MT1−MMP依存的なiFIHの制御にはiFIHが細胞膜に局在することが必要なことが明らかとなった。
【0069】
前述のマクロファージを用いた実験で、MT1−MMPがFIH−1を抑制することでATP産生を促進することを示した(図3)。そこでiFIHがこのプロセスに関係しているかについて解析した。shRNA発現レンチウイルスベクターを用いてiFIHの発現量を減少させると、野生型のマクロファージのATP量は約50%程度に低下した(図11、WT、shiFIH)。一方、MT1−MMP欠損マクロファージのATP量(野生型の約40%)はiFIH−1の発現減少によって影響を受けなかった(図11、MT1−/−、shiFIH)。
以上の結果より、iFIHはマクロファージにおいてMT1−MMPによるATP産生の制御に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0070】
2−6.MT1−MMPは細胞内領域依存的にiFIHとFIH−1との結合を促進する。
これまでの結果から、iFIHとFIH−1との結合がFIH−1の抑制に重要なこと(図7、8)、MT1−MMPによるFIH−1の抑制にはiFIHが必要であることが明らかとなった(図10、11)。そこで細胞レベルでのMT1−MMPによるFIH−1の抑制は、iFIHとFIH−1との結合を促進することによるのではないかと考えられた。この可能性を検証するために、まずFLAGタグ標識したFIH−1を安定発現するHEK293細胞を作製し、さらにその細胞にMycタグ標識したMT1−MMP及び細胞内領域を欠損した変異体(dCP)を安定発現させた細胞を作製した。セルライセートから抗FLAG抗体ビーズを用いてFIH−1を免疫沈降し、沈降物中のiFIHをイムノブロッティングで解析した。その結果、内因性のFIH−1はどの細胞群でも同程度に共沈降されてきたのに対し、コントロールのEGFPに比べて、MT1−MMPの発現により明確に内因性のiFIHが共沈降されてきた(図12)。またこの共沈降の促進にはMT1−MMPの細胞内領域が重要であった(図12、dCP)。一方、この沈降物中にはMT1−MMPは検出されなかった。これらの結果により、MT1−MMPが細胞内領域依存的にFIH−1とiFIHの結合を促進することでFIH−1の活性を抑制しHIF−1αを活性化させるというメカニズムが明らかとなった。
【0071】
参考文献
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【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、HIF−1の活性を制御する方法及びHIF−1の活性を制御する化合物のスクリーニング方法を提供する。従って、HIF−1が関連する疾患の治療方法及び治療剤の開発に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、HIF−1α CADの活性化に必要なMT1−MMPのドメインの解析結果を示す。(a):上パネル:HIF−1αの転写活性をモニターするためのレポーターシステム。CAD:HIF−1α C末端転写活性ドメイン:Gal4BD、Gal4 DNA結合ドメイン:UAS、Gal4結合サイト;TATA、チミジンキナーゼミニマルプロモーター。下パネル:MT1−MMP 欠損変異体コンストラクト。SP、シグナルペプチド;Pro、プロペプチド;CAT、酵素活性ドメイン;HPX、ヘモペキシン様ドメイン;TM,膜貫通ドメイン;CP、細胞内領域。FLAGタグをProとCATの間に挿入した。SPとProは細胞膜へ輸送される途中で切り離される。 (b):上パネル:HEK293細胞でのMT1−MMPコンストラクトのHIF−1α CADレポーター活性における効果。下パネル:MT1−MMPコンストラクトの発現をイムノブロッティングで確認した。(c、d):MT1−MMP欠損変異体をMT1−/− マクロファージに導入した際のATP量(c)及び運動能(d)に対する影響の解析。MT1−/−マクロファージにレンチウイルスベクターでMT1−MMP欠損変異体発現遺伝子を導入し、MT1−MMP変異体の発現をRT−PCRで確認した(c、下パネル)。ATP量を遺伝子導入72時間後に測定した(c、上パネル)。運動能は、マトリゲルをコートしていないトランスウェル上に細胞を撒き2時間後に下のチャンバーに移動した細胞をカウントした(d)。(b−d)データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。*p< 0.05、**p < 0.01。
【図2】図2はMT1−MMP細胞内領域変異体のHIF−1α CADの活性化能の解析結果を示す。(a、b):MT1−MMPの細胞内領域(CP)変異体のCAD活性化能の解析。MT1−MMP−CP連続欠損変異体(a)及びCP13−16のアラニン置換変異体(b)のCADレポーターに対する影響を解析した。コンストラクトを左側のパネルに、CADレポーターに対する影響を右のパネルに表示した。各変異体の発現をイムノブロッティングで確認した(下パネル)。データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。*p< 0.05、**p < 0.01。
【図3】図3は、MT1−MMPによるHIF−1αの転写活性の上昇はFIH−1を介したものであることを示す。(a):HEK293細胞におけるFIH−1の発現抑制。2つの異なるshRNA(#1及び#2配列)を発現させ、FIH−1の発現量をイムノブロティングで解析した。(b):CADレポーター活性におけるshRNAの影響。(c):WT及びMT1−/−マクロファージにおけるFIH−1の発現抑制。マクロファージにレンチウイルスベクターを用いてshRNAを発現させ、FIH−1のmRNA量をリアルタイムPCRで解析した。(d):WT及びMT1−/−マクロファージのATP量におけるFIH−1の発現抑制の影響。FIH−1の発現量を減少させることにより、WT及びMT1−/−マクロファージのATP量に変化が無くなった。(b,d)データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。**p < 0.01。
【図4】図4は、MT1−MMPの細胞内領域がFIH−1に直接結合することを示す。(a):MT1−MMPの細胞内領域(CP)とFIH−1との直接的結合の解析。Inインビトロ プルダウンアッセイをGST−CP融合タンパク及び(His)6標識したFIH−1タンパクを用いて行った。CPに結合したFIH−1をイムノブロッティン(IB)で検出した。FIH−1とGST−CPとの結合はCPペプチドで競合されたがコントロールペプチドでは競合されなかった。(b):CP14でのR/A置換のCP−FIH−1結合に対する影響をプルダウンアッセイを用いて解析した。(c)R/A置換MT1−MMPをMT1−/−マクロファージに導入した際のATP量に対する影響。マクロファージに図中に示したコンストラクトをレンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入した。上パネル:RT−PCRによるMT1−/−マクロファージにおけるMT1−MMPmRNAの発現の確認。下パネル:ATP量。データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。*p< 0.05。
【図5】図5は、APBA3/iFIHがFIH−1と結合することを示す。(a):ヒト胎盤cDNAライブラリーを用いたYeast two hybrid スクリーニングの後、8つのタンパクをFIH−1と結合する候補として選んだ。これらのタンパクにFLAGタグを付加してHEK293細胞に発現させ、Mycタグ標識したFIH−1との結合能を解析した。候補タンパクをセルライセートから抗FLAG抗体を用いて免疫沈降(IP)し(上パネル)、沈降物中の候補タンパクを抗FLAG抗体を用いたイムノブロティング(IB)で検出した。免疫沈降(IP)物中のFIH−1およびセルライセート(WCL)中のFIH−1をイムノブロッティングで検出した(下パネル)。FIH−1,factor inhibiting HIF−1;mock,mock−transfected;APBA3,amyloid precursor protein−binding member 3;CCM2,cerebral cavernous malformation 2;EHD1,EH−domain containing 1;MCM4,minichromosome maintenance deficient 4;MRPL38,mitochondrial ribosomal protein L38;NFKBIA,nuclear factor of kappa light polypeptide gene enhancer inB−cells inhibitor alpha;PAFAH1B2,Homo sapiens platelet−activating factor acetylhydrolase isoform Ib beta subunit 30kDa;SH3BLG1,SH3−domain GRB2−like endophilin B1.FIH−1はAPBA3/iFIHとのみ共沈降した。(b):V5タグ標識した APBA3/iFIH とFLAGタグ標識したFIH−1をHEK293細胞に発現させた。免疫沈降(IP)を上述の通りに行い、イムノブロッティング(IB)を図中に示した抗体を用いて行った。APBA3/iFIHはFIH−1と共沈降した。
【図6】図6は、MT1−MMPおよびMT5−MMPの細胞内領域のGST融合タンパクを用いたAPBA3/iFIHのプルダウンアッセイの結果である。 His6標識したAPBA3/iFIHをGST融合タンパク(GST、GST−MT1CP、GST−MT5CP、GST−FIH−1)付加セファロースビーズを用いてプルダウンアッセイで解析した。GST、グルタチオンSトランスフェラーゼ、GST−MT1CP,MT1−MMP細胞内領域−GST融合タンパク;GST−MT5CP,MT5−MMP細胞内領域−GST融合タンパク;GST−FIH−1,FIH−1−GST融合タンパク。ビーズに結合したAPBA3/iFIHを抗His6抗体を用いてイムノブロッティングで検出した(上パネル)。ビーズに付加したGSTタンパクを抗GST抗体で検出した。GST−FIH−1がAPBA3/iFIHと最もよく結合し、GST−MT5CPがそれより少なく結合した。この実験条件ではGST−MT1CPとAPBA3/iFIHとの結合は検出できなかった。
【図7】図7は、APBA3とHIF−1αがFIH−1と競合的に結合することを示す。(a):APBA3および各フラグメントの構造:全長(full)、N末端(N)及びC末端(C)領域(上パネル)。N末端領域(N)には既知のドメイン構造は含まれない。C末端領域(C)にはPTBドメイン1つとPDZドメイン2つが含まれる。図中に示した数字はアミノ酸番号を表す。FIH−1およびN末端フラグメントの構造(下パネル):CUPIN;酵素活性を担うcupin様ドメイン、黒ボックス;二量体化ドメイン;FIH−1N,N末端フラグメント。(b):In Mycタグ標識したFIH−1とFLAGタグ標識したAPBA3の全長(full)、N末端フラグメント(N)又はC末端フラグメント(C)をHEK293細胞に発現させた。FLAGタグ標識したタンパクを免疫沈降(IP)し抗FLAG抗体を用いてイムノブロット(IB)により検出した(上パネル)。沈降物(IP)およびセルライセート(WCL)中のFIH−1を抗Myc抗体を用いてイムノブロティング(IB)で検出した(下パネル)。(c):GST、GST−FIH−1、GST−FIH−1Nを付加したビーズを用いたプルダウンアッセイ。イムノブロティングによりHis6タグ標識したAPBA3Nフラグメント、HIF−1α CAD、又はVHLを検出した。(d):GST−FIH−1を付加したビーズを用いてHis6タグ標識したHIF−1αCADのプルダウンアッセイを図中に示した量のHis6標識APBA3Nフラグメント存在下で行った。(e):GST−FIH−1を付加したビーズを用いてHis6タグ標識したVHLタンパクのプルダウンアッセイを図中に示した量のHis6標識APBA3Nフラグメント存在下で行った。
【図8】図8は、APBA3がFIH−1のHIF−1αに対する転写活性抑制機能を阻害することを示す。(a):HEK293にAPBA3発現コンストラクト(APBA3、白ボックス)又はコントロールベクター(mock、黒ボックス)を遺伝子導入し、相対的ルシフェラーゼ活性を測定した。内因性のFIH−1の発現をshRNA配列shFIH#1及びshFIH#2を用いて抑制した。ネガティブコントロールとしてβガラクトシダーゼをコードする遺伝子(LacZ)に対するshRNA(shLacZ)を使用した。MockベクターおよびshLacZを導入した細胞を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を示した。(b):shLacZ、shFIH#1、shFIH#2発現HEK293細胞のFIH−1の発現をイムノブロッティングで解析した。(c):ルシフェラーゼの発現を用いてAPBA3全長、N末端、C末端フラグメントのHIF−1α CAD の転写活性に対する影響を測定した。コントロールベクターを遺伝子導入した細胞を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を示した。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p < 0.01。
【図9】図9は、iFIH/APBA3がMT1−MMPによるFIH−1の抑制に必要であることを示す。(a):iFIHに対するsiRNA(iFIHsiRNA;オープンボックス)又はコントロール用のsiRNA(control siRNA;黒ボックス)をHEK293細胞に導入した後にMT1−MMP(MT1F)又はコントロールベクター(mock)とレポータープラスミドを遺伝子導入した。コントロールsiRNAおよびmock導入細胞のルシフェラーゼ活性を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を求めた。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p< 0.01。(b):イムノブロッティングによりiFIH、MT1−MMP、actin (loading control)を検出した。
【図10】図10は、iFIH/APBA3がMT1−MMPと協調的に働くには膜への局在が必要であることを示す。(a):MT1−MMP、iFIH,iFIH N末端フラグメント(iFIH−N)をHEK293細胞に共発現させた。HIF−1αCADの活性をルシフェラーゼ活性でモニターし、mockベクターを導入した細胞のルシフェラーゼ活性を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を示した(上パネル)。MT1−MMP又はiFIHの発現をイムノブロッティングで確認した(下パネル)。矢印は内因性のiFIHである。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p<0.01。(b):APBA3/iFIH、APBA3−N/iFIH−N及びMyr−APBA3−N /Myr−iFIH−Nの局在。FLAGタグ標識したiFIH、iFIH−N及びMyr−iFIH−NをHEK293細胞に発現させた。これらタンパクの細胞内での局在を抗FLAG抗体を用いて解析した。核をHoechst33342で対比染色した。iFIH−Nに比べ、Myr−iFIH−Nは細胞の周辺部により局在している。
【図11】図11は、マクロファージにおいてiFIHがMT1−MMPによるATP産生の促進に必要であることを示す。shRNA用いてWT及びMT1−/−マクロファージのiFIHの発現を抑制した。LacZ遺伝子に対するshRNA(shLacZ)をネガティブコントロールとして用いた。細胞内ATP量を測定し(上パネル)、タンパクの発現を図中に示した抗体を用いてイムノブロッティングで確認した(下パネル)。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p < 0.01。
【図12】図12は、MT1−MMPが細胞内領域依存的にFIH−1とiFIHとの結合を促進することを示す。HEK293細胞にFLAGタグ標識したFIH−1と、ネガティブコントロール(EGFP)、MT1−MMP(MT1)、又はMT1−MMP−CP欠損変異体(dCP)を共発現させた。セルライセート(WCL)および抗FLAG抗体免疫沈降物(IP)を図中に示した抗体を用いてイムノブロッティングで解析した。内因性のFIH−1(矢印)がFLAG標識したFIH−1とホモ二量体を形成しているのが観察される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIF−1の活性制御に関する。より詳細には、FIH−1を介したHIF−1の活性制御に関する。
【背景技術】
【0002】
HIF−1は、低酸素に応答して解糖系に必要な遺伝子や血管新生、造血に必要な遺伝子の転写を促進する主要な分子である(非特許文献1)。HIF−1は、通常酸素分圧下では不安定なαサブユニットと安定的なβサブユニットの2つのサブユニットから構成される。通常酸素分圧下ではHIF prolyl hydroxylases(HPHs)によってHIF−1αのプロリン残基に水酸化が起こり、続いてVon Hippel Lindau(VHL)がん抑制タンパク質が水酸化プロリンを認識して結合し、その結果HIF−1αはユビキチン化されプロテアソームで分解される。このようなタンパクの安定性による量的な制御に加えて、HIF−1α自身の転写活性という質的な制御も酸素依存的に行われており、FIH(factor of inhibiting HIF)−1によりHIF−1αのC末端活性化領域(C−terminal activation domain (CAD))のアスパラギン残基が水酸化されると転写共役因子であるp300/CBPと相互作用できなくなり、その結果転写活性が抑制されてしまう(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5)。つまり、HPHsは量的に、FIH−1は質的にHIF−1αを負に制御している。また、HPHsとFIH−1の酸素分子に対するKm値が異なることから、それぞれの酸素濃度においてHIF−1αの活性が最適に調整されると考えられている。
【0003】
ところで、多くの炎症性疾患や癌などの病理的状況では低酸素状態になっていることが多く(非特許文献6、非特許文献7及び非特許文献8)、そのような状況下でも、骨髄球系の細胞及び癌細胞は多くの機能を発揮する必要があり(例えば、細胞運動、種々の遺伝子発現など)、低酸素状況に速やかに適応する必要がある。このような低酸素状況において重要な役割を果たしていると考えられている因子の1つが、HIF−1αであり、HIF−1αが通常酸素分圧下における骨髄球系細胞の嫌気的解糖系を介したATP産生に重要な役割を果たしていることや、癌細胞においても嫌気的解糖系や血管新生に重要な役割を果たしていることが知られている(非特許文献9)。
このような状況において、近年、HIF−1の活性抑制による炎症性疾患あるいは癌などの発症及び進行を抑制の可能性について検討が進められている。例えば、HIF−1の阻害因子であるFIH−1の結晶構造に基づいて、FIH−1の機能的類似体又はFIH−1結合因子を検索する方法が開示されいる(特許文献1)。しかしながら、実際に臨床応用可能な機能的類似体又はFIH−1結合因子は、現在のところ報告されていない。
【0004】
【非特許文献1】Semenzaら,Curr Opin Cell Biol 13;167−171,2001
【非特許文献2】Kasperら,EMBO J 24;3846−3858,2005
【非特許文献3】Landoら,Genes Dev 16;1466−1471,2002a
【非特許文献4】Mahonら,Genes Dev 15;2675−2686,2001
【非特許文献5】Aranyら,Proc Natl Acad Sci U S A 93;12969−12973,1996
【非特許文献6】Gatenby及びGillies,Nat Rev Cancer 4;891−899,2004
【非特許文献7】Mappら,Br Med Bull 51;419−436,1995
【非特許文献8】Mehendaleら,FASEB J 8;1285−1295,1994
【非特許文献9】Semenzaら,Nat Rev Cancer 3;721−732,2003
【特許文献1】WO2004/035812号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、HIF−1αの活性を低下させる方法の提供を目的とする。
また、本発明は、HIF−1αの活性を低下させる化合物のスクリーニング方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究を進めた結果、iFIHがMT1−MMPによるHIF−1αの活性化に必須であること、及びFIH−1とMT1−MMPの細胞内ペプチド(以下、CPと称する)及び/又はFIH−1とiFIH(inhibitor of FIH−1)の相互作用がHIF−1αの活性化に重要であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
ここで「MT1−MMP」は、膜型のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)に分類される膜タンパク質のことで、プロテアーゼ活性に必要な酵素活性ドメイン(CAT)、基質と結合し基質の選択性を担うヘモペキシン様ドメイン(HPX)からなる細胞外領域、膜貫領域、20アミノ酸からなる短い細胞内領域(CP)の各領域によって構成される。MT1−MMPは、単球/マクロファージには発現していることが報告されており、細胞運動に重要な役割を果たしていると考えられている
また「iFIH」は、これまでにAPBA3/Mint3として知られていた機能未知の因子と同一であるが、MT1−MMPのCP領域と相互作用し、HIF−1活性制御に重要な役割を果たしていることに関して、本発明者らにより初めて明らかにされた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(11)に関する。
(1)本発明の第1の態様は、「細胞内のiFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法」である。
(2)本発明の第2の態様は、「前記FIH−1タンパク質がMT1−MMP−CPと相互作用している上記(1)に記載の方法」である。
(3)本発明の第3の態様は、「RNAi法によりiFIH−1タンパク質の発現を低下させて、iFIHタンパク質とFIH−1との相互作用を低下させる上記(1)に記載の方法」である。
(4)本発明の第4の態様は、「細胞内のMT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法」である。
(5)本発明の第5の態様は、「前記MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用の低下が、配列番号12で表されるアミノ酸配列で表されるペプチド、又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質と相互作用を行い、かつ、FIH−1タンパク質によるHIF−1αの活性化を阻害しないペプチドによる競合で達成される上記(4)に記載の方法」である。
(6)本発明の第6の態様は、「前記細胞が免疫系の細胞又は腫瘍細胞である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の方法」である。
(7)本発明の第7の態様は、「HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下において、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとを接触させる工程、
(b)FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を検出する工程、及び
(c)被検試料の非存在下において相互作用を検出した場合と比較して、該相互作用が増強又は低下した場合に該被検試料中に該化合物候補が存在すると判断する工程、
を含む方法」である。
(8)本発明の第8の態様は、「FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用をFIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの結合の有無を基準として検出する上記(7)に記載の方法」である。
(9)本発明の第9の態様は、「得られた候補化合物が、細胞内のHIF−1α活性を促進又は阻害することを確認する工程をさらに含む上記(7)又は(8)に記載の方法」である。
(10)本発明の第10の態様は、「上記(7)乃至(9)のいずれかに記載の方法により単離される化合物」である。
(11)本発明の第11の態様は、「前記化合物が抗体であることを特徴とする上記(10)に記載の化合物」である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法を用いると、HIF−1αの活性を阻害することができる。
【0009】
本発明の方法を用いると、HIF−1αの活性を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のある実施態様においては、FIH−1タンパク質とMT1−MMP又はiFIHタンパク質との相互作用を増強又は低下させる工程が含まれる。
また、本発明の他の実施態様おいては、FIH−1タンパク質とMT1−MMP又はiFIHタンパク質との相互作用を増強又は低下させる化合物を検出する工程が含まれる。
従って、以下に、iFIHタンパク質、MT1−MMP及びFIH−1タンパク質並びにこれらをコードする遺伝子の取得方法を説明し、さらに、FIH−1タンパク質とMT1−MMP又はiFIHタンパク質との相互作用を増強又は低下させる化合物を検出する工程の説明を行う。
ここで、タンパク質間の相互作用とは、タンパク質同士の結合、構造の変化、修飾、安定性の変化などを含むタンパク質間の作用のことを意味する。
【0011】
「iFIHタンパク質」とは、例えば、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
また、「FIH−1タンパク質」とは、例えば、配列番号6又は配列番号7で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
さらに、「MT1−MMP」とは、例えば、配列番号9、配列番号10又は配列番号11で表されるアミノ酸配列と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
ここで、「実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質」とは、「iFIHタンパク質」、「FIH−1タンパク質」及び「MT1−MMP」に関し、各々、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列、配列番号6又は配列番号7で表わされるアミノ酸配列及び配列番号9、配列番号10又は配列番号11で表わされるアミノ酸配列と約60%以上、好ましくは約70%以上、より好ましくは約80%,81%,82%,83%,84%,85%,86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,最も好ましくは約99%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、「iFIHタンパク質」については、FIH−1タンパク質との結合能を有し、「FIH−1タンパク質」については、HIF−1αの活性を阻害するタンパク質のことである。
あるいは、配列番号2、配列番号3又は配列番号4で表わされるアミノ酸配列、配列番号6又は配列番号7で表わされるアミノ酸配列及び配列番号9、配列番号10又は配列番号11で表わされるアミノ酸配列中の1又は数個(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、「iFIHタンパク質」については、FIH−1タンパク質との結合能を有し、「FIH−1タンパク質」については、HIF−1αの活性を阻害するタンパク質のことである。上記アミノ酸の欠失、付加及び置換は、タンパク質をコードする核酸に元々存在した変異であってもよく、また、該核酸を当該技術分野で公知の手法によって改変することによって新たに導入したものであってもよい。該改変は、例えば、特定のアミノ酸残基の置換は、市販のキット(例えば、MutanTM−G(TaKaRa社)、MutanTM−K(TaKaRa社))等を使用し、Guppedduplex法やKunkel法等の公知の方法あるいはそれらに準じる方法により塩基の置換を行なうことによって実施することができる。
【0012】
「MT1−MMP−CP」とは、MT1−MMPの細胞内領域(CP)のことで、例えば、配列番号12で表されるペプチドと同一又は実質的に同一のアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質との結合能を有するペプチドのことである。
なお、「実質的に同一」の意味は、上記「iFIHタンパク質」及び「FIH−1タンパク質」の例による。
【0013】
また、本発明の他の実施態様では、iFIHタンパク質、FIH−1タンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)を細胞外又は細胞内において発現さる工程が含まれるため、これらのタンパク質又はペプチドを発現するための核酸が必要となる。
ヒトのiFIHタンパク質、FIH−1タンパク質及びMT1−MMPをコードする核酸のヌクレオチド配列は、各々、配列番号1、配列番号5及び配列番号8として知られるヌクレオチド配列からなるDNAのことである。
また、MT1−MMP−CPをコードする核酸については、例えば、配列番号12のペプチドをコードする核酸であればいかなる配列であっても使用することができる。
【0014】
iFIHタンパク質をコードする核酸、FIH−1をコードする核酸及びMT1−MMPをコードする核酸は、上記配列番号で表されるヌクレオチド配列に基づいてプローブを作製して、適当なライブラリーを用いて取得することができ、あるいは、該ヌクレオチド配列に基づいて作製したPCR用のプライマーにより、PCR法により取得することもできる。これらの核酸の入手元はヒトの細胞に限定されるものではなく、ヒト以外の哺乳類、例えば、サル、マウス、ラット、ウサギ、ウシなどの細胞又は組織であってもよい。
プローブを用いてハイブリダイゼーション法により核酸を取得する場合、ハイブリダイゼーションの条件としては、当業者の通常の知識に基づいて選択しえる、全ての条件を採用することができる。
一般に、高いストリンジェントな条件でスクリーニングを行うことにより、上記配列番号1、配列番号5及び配列番号8で表される核酸と相同性の高い核酸を取得することができる。
【0015】
ここで、ストリンジェントな条件とは、当業者によって容易に決定されるハイブリダイゼーション条件のことで、一般的にプローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的な実験条件である。一般に、プローブが長くなると適切なアニーリングのための温度が高くなり、プローブが短くなると温度は低くなる。ハイブリッド形成は、一般的に、相補鎖がその融点よりやや低い環境における再アニール能力に依存する。
具体的には、例えば、低ストリンジェントな条件として、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄段階において、37℃〜42℃の温度条件下、0.1×SSC、0.1%SDS溶液中で洗浄することなどが上げられる。また、高ストリンジェントな条件として、例えば、洗浄段階において、65℃、5×SSC及び0.1%SDS中で洗浄することなどが挙げられる。
【0016】
本発明で使用されるタンパク質又はペプチド(限定はしないが、主として、MT1−MMP、MT1−MMP−CP、HFI−1タンパク質、iHFIタンパク質、HIF−1αなどが含まれる。以下、本発明のタンパク質又はペプチドとする)には、天然に存在するタンパク質のみならず、その断片又は他のペプチド又はタンパク質を融合された形態も含まれる。
ここで、天然のタンパク質と融合されるペプチドとしては、特に限定はされないが、例えば、FLAG、Hisタグ、c−myc断片、T7−タグ、E−タグなどを挙げることができる。また、融合されるタンパク質としては、GST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)、HA(インフルエンザ凝集素)などを挙げることができる。
【0017】
本発明のタンパク質又はペプチドのリコンビナントは、細胞外及び細胞内において、本発明のタンパク質又はペプチドの活性の変動、又は、本発明のタンパク質又はペプチド間の相互作用の変動を検出するために使用することができる。
本発明のタンパク質又はペプチドのリコンビナントを調製するためには、本発明のタンパク質又はペプチドをコードする核酸(以下、本発明の核酸とする)を組み込んだ発現ベクターを作製する必要がある。このような発現ベクターは、適切なベクターに本発明の核酸を発現可能に連結することにより得ることができる。
ここで使用可能なベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pCBD−C等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5、pC194等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50、YIp30等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルス、トガウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
【0018】
また、使用可能なプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであれば特に限定されない。
例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、HSV−TKプロモーター、EF−1αプロモーター等が挙げられる。
宿主が大腸菌である場合には、tacプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター等が、宿主が枯草菌である場合には、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が挙げられる。
宿主が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が挙げられる。
宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0019】
本発明の発現ベクターには、プロモーター配列以外にも、選択マーカー、ターミネーター、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、SV40複製起点(SV40ori)などを、適宜連結することができる。
選択マーカーとしては、限定はしないが、ハイグロマイシン耐性マーカー(Hygr)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)、アンピシリン耐性遺伝子(Ampr)、カナマイシン耐性遺伝子(Kanr)、ネオマイシン耐性遺伝子(Neor,G418)などが利用可能である。
また、組換えタンパク質の単離・精製を容易にするなどの目的で、本発明のポリペプチドのN末端側に適当なシグナル配列を付加してもよい。
宿主が大腸菌である場合にはアルカリホスファターゼシグナル、OmpAシグナルなどが利用可能であり、宿主が枯草菌である場合にはα−アミラーゼシグナル配列、ズブチリスシグナル配列などが利用可能であり、宿主が酵母である場合には、α因子シグナル配列、インベルターゼシグナル配列などが利用可能であり、宿主が動物細胞である場合には、例えば、インシュリンシグナル配列、α−インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などが利用可能である。
【0020】
上述のベクターに対して本発明の核酸を挿入することは、クローニングされたDNAをそのまま、又は所望により制限酵素で消化して、リンカーを付加し、ベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入することにより行うことができる。連結するDNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGA又はTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。連結するDNAは、当該DNA中にコードされている本発明のポリペプチドが宿主細胞中で発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。
以上の方法により、本発明の核酸含む発現ベクターを構築することができる。
【0021】
上述のように作製した発現ベクターは、本発明のタンパク質又はペプチドが宿主中に導入する必要がある。ここで、宿主としては、本発明のタンパク質を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリシア属、枯草菌(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の酵母、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、あるいはSf9、Sf21等の昆虫細胞が挙げられる。
【0022】
大腸菌へのベクターの導入方法としては、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が利用可能である。酵母への組換えベクターの導入方法としては、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が利用可能である。動物細胞又は動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、カチオン性脂質による方法等が挙げられる。
【0023】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0024】
培養は、宿主細胞に適した条件下で行う。例えば、大腸菌を培養する際の培地としては、LB培地、M9培地等が好ましい。所望によりプロモーターを効率よく働かせるために、イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。大腸菌の場合、培養は通常約15〜37℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主が枯草菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加えることもできる。
【0025】
酵母を培養するための培地としては、SD培地、YPD培地があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が昆虫細胞又は昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、ウシ血清を含むグレース昆虫培地等が挙げられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0026】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%のウシ胎児血清を含むMEM培地、DMEM培地、RPMI−1640培地等が用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
また、宿主を動物細胞として形質転換体を調製する方法は、HIF−1の機能が関連する疾患に対する遺伝子治療を行うために利用することができる。遺伝子治療の目的で治療対象の細胞において発現させることができる核酸には、限定はしないが、例えば、iFIHとFIH−1との相互作用を阻害する因子(例えば、限定はしないが、shRNA、siRNA、iFIHと結合するFIH−1の部分ペプチドなど)、MT1−MMP−CPとFIH−1との相互作用を阻害する因子(例えば、限定はしないが、MT1−MMP−CP、MT1−MMP−CPと結合するFIH−1の部分ペプチドなど)が含まれる。遺伝子治療の目的で使用されるベクターは、当業者であれば容易に選択することができるが、例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが利用可能である。生体内の細胞への投与はエキソビボ、インビボなどの方法を使用することができる。
【0027】
本発明のタンパク質又はペプチドのリコンビナントを細胞外で使用する場合には、リコンビナントを発現させた宿主細胞を集め、適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/又は凍結融解などによって細胞を破壊したのち、遠心分離や濾過により本発明のタンパク質又はペプチドを含む粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジン等のタンパク質変性剤や、トリトンX−100などの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中に本発明のタンパク質又はペプチドが分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清又は抽出液中に含まれる本発明のタンパク質又はペプチドの精製は、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−PAGE等の主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの電荷の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
【0028】
本発明には、iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法が含まれる。
iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強させる方法としては、該相互作用を促進するもの、例えば、MT1−MMP変異体であるTM−CP(例えば、図1aを参照のこと)を添加することが挙げられる。
一方、iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を低下させる方法としては、iFIHの発現を喪失又は低下させ、FIH−1との相互作用を喪失又は低下させる方法が含まれる。このような方法には、例えば、iFIHに対するアンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドなどを目的の細胞内に導入し、iFIHの転写を阻害する方法(RNAi法など)などを挙げることができる。アンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの導入は、当業者であれば容易に実施することができ、例えば、細胞内において発現させても、アンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを直接細胞内に導入しても、いずれの方法でも実施可能である。また、このようなアンチセンスヌクレオチド又はアンチセンスオリゴヌクレオチドの代わりには、これらの誘導体を使用することもできる。
【0029】
また、本発明には、MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を阻害又は促進する方法が含まれる。
iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強させる方法としては、該相互作用を促進するものを添加することが挙げられる。
一方、MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を低下させる方法としては、配列番号12で表されるアミノ酸配列で表されるペプチド、又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質と相互作用を行い、かつ、FIH−1タンパク質によるHIF−1αの活性化を阻害しないペプチドを添加し(又は、該ペプチドを目的の細胞内で発現し)、細胞内におけるMT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を競合的に阻害する方法などを挙げることができる。
また、MT1−MMP−CPに変異を導入することができる。変異には、全体を破壊することの他、FIH−1タンパク質との相互作用に重要な役割を担っているアミノ酸を置換、欠失させる方法が含まれる。FIH−1タンパク質との相互作用に重要なアミノ酸を検索する方法は、当業者により容易に選択することができるが、例えば、アラニンスキャンなどの方法を使用することもできる。例えば、変異を導入するために適したアミノ酸としては、MT1−MMP−CP(配列番号12)の第14番目のアルギニンが好ましい。
【0030】
また、本発明には、iFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する化合物、並びに、MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を阻害又は促進する化合物が含まれる。
本発明において、iFIHタンパク質とFHI−1との相互作用、又はMT1−MMP−CPとFHI−1タンパク質との相互作用を喪失又は低下させる化合物には、例えば、iFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPに対する抗体を挙げることもできる。これらの抗体には、例えば、FHI−1タンパク質と相互作用するiFIHタンパク質の部分領域(例えば、N末端領域)に対する抗体、又はMT1−MMPの細胞内ペプチド(CP)に対する抗体などが含まれる。
上記抗体には、例えば、FHI−1タンパク質と相互作用するiFIHタンパク質の部分領域(例えば、N末端領域)、MT1−MMPの細胞内ペプチド(CP)に対するモノエピトープ特異抗体、ポリエピトープ特異抗体、単一鎖抗体、及びこれらの断片が含まれる。これらの抗体には、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体などが含まれる。
ポリクローナル抗体は、例えば、哺乳類宿主動物に対して、免疫原及びアジュバントの混合物をインジェクトすることにより調製することができる。通常は、免疫原及び/又はアジュバントを宿主動物の皮下又は腹腔内へ複数回インジェクトする。免疫原には本発明のDNA結合能を保持した可溶性Spo11タンパク質を使用することができる。アジュバントの例には、完全フロイト及びモノホスホリル脂質A合成−トレハロースジコリノミコレート(MPL−TDM)が含まれる。
【0031】
モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法を用いて調製することができる。
この方法には以下に示す4つの工程が含まれる:(i)宿主動物又は、宿主動物由来のリンパ球を免疫する、(ii)モノクローナル抗体分泌性(又は潜在的に分泌性)のリンパ球を回収する、(iii)リンパ球を不死化細胞に融合させる、(iv)所望のモノクローナル抗体を分泌する細胞を選択する。
マウス、ラット、モルモット、ハムスター、又は他の適当な宿主動物が、免疫動物として選択され免疫原がインジェクトされる。或いは、免疫動物から取得したリンパ球をインビトロで免疫化してもよい。ヒト細胞が望ましい場合には、末梢血リンパ球(PBLs)が一般に使用される。しかしながら、他の哺乳類由来の脾臓細胞又はリンパ球がより一般的で好ましい。
【0032】
免疫後、宿主動物から得られたリンパ球はハイブリドーマ細胞を樹立するために、ポリエチレングリコールなどの融合剤を用いて不死化細胞株と融合する。融合細胞としては、トランスフォーメーションによって不死化されたげっ歯類、ウシ、又はヒトのミエローマ細胞が使用されるか、ラットもしくはマウスのミエローマ細胞株が使用される。細胞融合を行った後、融合しなかったリンパ球及び不死化細胞株の成長又は生存を阻害する一又は複数の基質を含む適切な培地中で細胞を生育させる。通常の技術では、酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く親細胞を使用する。この場合、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンがHGPRT欠損細胞の成長を阻害し、ハイブリドーマの成長を許容する培地(HAT培地)に添加される。このようにして得られたハイブリドーマから、所望の抗体を産生するハイブリドーマを選択し、該ハイブリドーマが生育する培地から、定法に従い、目的のモノクローナル抗体を取得することができる。
【0033】
本発明には、HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下において、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとを接触させる工程、
(b)FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を検出する工程、及び
(c)被検試料の非存在下において相互作用を検出した場合と比較して、該相互作用が増強又は低下した場合に該被検試料中に該化合物候補が存在すると判断する工程、
を含む方法が含まれる。本実施態様は、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質、あるいは、FIH−1タンパク質とMT1−MMP−CPが相互作用することにより、FIH−1タンパク質によるHIF−1α活性阻害効果が上昇又は低下することに基づいて、これらの相互作用を増強又は低下させる化合物を使用してHIF−1αの活性を阻害する方法を提供するものである。
【0034】
このようなスクリーニングはインビトロ又は細胞内の系を用いて実施することができる。細胞内の系を用いる場合には、例えば、FIH−1タンパク質とMT1−MMP及び/又はiFIHタンパク質を発現する細胞を被検試料の存在下でインキュベートし、HIF−1α活性の変動を検出することにより、スクリーニングを行うことができる。HIF−1αの活性の変動は、レポーターアッセイ(例えば、後述の「実施例」の項を参照のこと)により検出することができる。
また、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質、あるいは、FIH−1タンパク質とMT1−MMP−CPが相互作用を低下させる化合物を検出するため、ツーハイブリッドシステム(Two−hybrid法)を使用してもよい。この場合には、ツーハイブリッド法で得られた候補化合物をさらに、HIF−1αの活性の変動を検出する上記細胞の系において再度スクリーニングすることもできる。
【0035】
本発明のスクリーニングは、例えば、免疫沈降を利用して実施することもできる。被検試料の存在下で、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質及び/又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)とを発現する細胞を調製し、培養後、例えば、細胞抽出物から抗体などを用いてFIH−1タンパク質を含む複合体を回収し、この複合体内にiFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)が含まれるかどうかを確認する。iFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の存在の有無は、これらに対する抗体等を使用したイムノブロッティング法などにより確認できる。その結果、iFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の存在が確認されないか、又は被検試料の非存在下において同様な実験を行った場合に比較して、iFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の存在量が有意に減少した場合には、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質及、又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)との相互作用が被検試料により阻害されたものと判断することができる。
その他、免疫沈降法以外の、例えば、抗体カラムなどを利用した免疫的手法によってもスクリーニングを実施することが可能である。
また、本発明のタンパク質又はペプチドを発現する場合に、エピトープタグなどとの融合体として発現させたようなときには、該タグに対する抗体も利用することができる。
【0036】
さらに、上記免疫的な手法は、細胞を介さずに完全なインビトロの系でも実施可能である。この場合、インビトロにおいて、被検試料の存在下、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)とをインキュベートし、例えば、FIH−1タンパク質に対する抗体(又はタグに対する抗体)でFIH−1タンパク質を含む複合体をプルダウンなどで回収し、該複合体中のiFIHタンパク質又はMT1−MMP(又はMT1−MMP−CP)の有無を確認する。また、プルダウン法以外にも、抗体カラムを用いることもできる。
【0037】
本発明の方法によって取得される化合物は(例えば、低分子化合物が以外にも、抗体などの高分子化合物も含まれる)、HIF−1αの活性を促進又は阻害することが期待される。従って、これらの化合物は、例えば、虚血性疾患(例えば、梗塞など)での血管新生の促進、又はマクロファージの活性化による免疫療法への利用、あるいは、HIF−1αの高活性状態に伴う疾患、障害などの治療に有効であり、生体に対して悪影響を及ぼさない医薬組成物の形態で使用することができる。通常、そのような組成物には、本発明によって取得される化合物の他、薬剤上許容される担体が含まれる。
「薬剤上許容される担体」は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌及び抗真菌剤、アイソトニックに作用して吸着を遅らせる薬剤及びその類似物を含み、薬剤的投与に適するもののことである。該担体及び該担体を希釈するために好ましいものの例には、限定はしないが、水、生理食塩水、フィンガー溶液、デキストロース溶液、コラーゲン、ヒト血清アルブミン、有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等などが含まれる。また、リポソーム及び不揮発性油などの非水溶性媒体も用いられる。さらに、本発明の化合物の活性を保護又は促進するような特定の化合物が、該組成物中に包含されていてもよい。
【0038】
本発明に係る医薬組成物は、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入なども含む)、経皮及び経粘膜への投与を含み、治療上適切な投与経路に適合するように製剤化される。非経口、皮内、又は皮下への適用に使用される溶液又は懸濁液には、限定はしないが、注射用の水などの滅菌的希釈液、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、ベンジルアルコール又は他のメチルパラベンなどの保存剤、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなどの無痛化剤、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)などのキレート剤、酢酸塩、クエン酸塩、又はリン酸塩などの緩衝剤、塩化ナトリウム又はデキストロースなど浸透圧調製のための薬剤を含んでもよい。
pHは塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調製することができる。非経口的標品はアンプル、ガラスもしくはプラスチック製の使い捨てシリンジ又は複数回投与用バイアル中に収納される。
【0039】
注射に適する医薬組成物には、滅菌された注射可能な溶液又は分散媒を、使用時に調製するための滅菌水溶液(水溶性の)又は分散媒及び滅菌されたパウダーが含まれる。静脈内の投与に関し、適切な担体には生理食塩水、静菌水、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が含まれる。注射剤として使用する場合、組成物は滅菌的でなくてはならず、また、シリンジを用いて投与されるために十分な流動性を保持していなくてはならない。該組成物は、調剤及び保存の間、化学変化及び腐食等に対して安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物由来のコンタミネーションを防止する必要がある。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及び適切な混合物を含む溶媒又は分散媒培地を使用することができる。例えば、レクチンなどのコーティング剤を用い、分散媒においては必要とされる粒子サイズを維持し、界面活性剤を用いることにより適度な流動性が維持される。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、及びチメロサールなどは、微生物のコンタミネーションの防止に対して使用可能である。また、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール及び塩化ナトリウムのような等張性を保つ薬剤が組成物中に含まれてもよい。吸着を遅らせることができる組成物には、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの薬剤が含まれる。
【0040】
滅菌的な注射可能溶液は、必要な成分を単独で、又は他の成分と組み合わせた後に、適切な溶媒中に必要量の活性化合物を加え、滅菌することで調製される。一般に、分散媒は、基本的な分散培地及び上述したその他の必要成分を含む滅菌的媒体中に活性化合物を取り込むことにより調製される。滅菌的な注射可能な溶液を調製するための滅菌的パウダーの調製方法には、活性な成分及び滅菌溶液に由来する何れかの所望な成分を含むパウダーを調製する真空乾燥及び凍結乾燥が含まれる。
【0041】
経口組成物には、不活性な希釈剤又は体内に取り込んでも害を及ぼさない担体が含まれる。経口組成物には、例えば、ゼラチンのカプセル剤に包含されるか、加圧されて錠剤化される。経口的治療のためには、活性化合物は賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ又はカプセル剤の形態で使用される。また、経口組成物は、流動性担体を用いて調製することも可能であり、流動性担体中の該組成物は経口的に適用される。さらに、薬剤的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質などが包含されてもよい。
錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ及びその類似物は以下の成分又は類似の性質を持つ化合物の何れかを含み得る:微結晶性セルロースのような賦形剤、アラビアゴム、トラガント又はゼラチンなどの結合剤;スターチ又はラクトースなどの、アルギン酸、PRIMOGEL、又はコーンスターチなどの膨化剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTRROTESなどの潤滑剤;コロイド性シリコン二酸化物などの滑剤;スクロース又はサッカリンなどの甘味剤;又はペパーミント、メチルサリチル酸又はオレンジフレイバーなどの香料添加剤。
【0042】
本発明の化合物は、植込錠及びマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬剤的に受容可能な担体として使用することができる。有用なリポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG−PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製される。
【0043】
本発明の化合物による特定の疾患の予防又は治療において、適切な投与量レベルは、投与される患者の状態、投与方法等に依存するが、当業者であれば、容易に最適化することが可能である。
注射投与の場合は、例えば、一日に患者の体重あたり約0.1μg/kgから約500mg/kgを投与するのが好ましく、一般に一回又は複数回に分けて投与され得るであろう。好ましくは、投与量レベルは、一日に約0.1μg/kgから約250mg/kgであり、より好ましくは一日に約0.5μg〜約100mg/kgである。
経口投与の場合は、組成物は、好ましくは1.0から1000mgの活性成分を含む錠剤の形態で提供され、好ましくは活性成分が1.0,5.0,10.0,15.0,20.0,25.0,50.0,75.0,100.0,150.0,200.0,250.0,300.0,400.0,500.0,600.0,750.0,800.0,900.0及び1000.0mgである。化合物は一日に1〜4回の投与計画で、好ましくは一日に一回又は二回投与される。
【0044】
医薬組成物又は製剤は、一定の投与量を保障すべく、均一単位投与量により構成されなくてはならない。単位投与量は、患者の治療に有効な一回の投与量を含み、薬剤的に受容可能な担体と共に製剤化された一単位のことである。本発明の単位投与量を決定する場合には、製剤化される化合物の物理的、化学的特徴、期待される治療上の効果、及び該化合物に特有な製剤化における留意事項等により影響を受ける。
【0045】
本発明の医薬組成物はキットの形態で、容器、パック中に投与の説明書と共に含めることができる。本発明に係る薬剤組成物がキットとして供給される場合、該薬剤組成物のうち異なる構成成分が別々の容器中に包装され、使用直前に混合される。このように構成成分を別々に包装するのは、活性構成成分の機能を失うことなく長期間の貯蔵を可能にするためである。
【0046】
キット中に含まれる試薬は、構成成分が活性を長期間有効に持続し、容器の材質によって吸着されず、変質を受けないような何れかの種類の容器中に供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性ガスの下において包装されたバッファーを含む。アンプルは、ガラス、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー、セラミック、金属、又は試薬を保持するために通常用いられる他の何れかの適切な材料などから構成される。他の適切な容器の例には、アンプルなどの類似物質から作られる簡単なボトル、及び内部がアルミニウム又は合金などのホイルで裏打ちされた包装材が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ、又はその類似物が含まれる。容器は、皮下用注射針で貫通可能なストッパーを有するボトルなどの無菌のアクセスポートを有する。
【0047】
また、キットには使用説明書も添付される。当該医薬組成物からな成るキットの使用説明は、紙又は他の材質上に印刷され、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの電気的又は電磁的に読み取り可能な媒体として供給されてもよい。詳細な使用説明は、キット内に実際に添付されていてもよく、あるいは、キットの製造者又は分配者によって指定され又は電子メール等で通知されるウェブサイトに掲載されていてもよい。
【0048】
以下に実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
1.実験材料と実験方法
1−1.プラスミド
マウス FIH−1 cDNAをマクロファージからRT−PCRで単離した。また、ヒトFIH−1及びAPBA3/iFIH cDNAは、HEK293細胞からRT−PCRで単離した。それぞれのcDNAは、pENTR/D TOPO vector(Invitrogen社)にクローニングした。 FIH−1N(1−302aa、配列番号6及び7)、APBA3−N/iFIH−N(1−214aa、配列番号2、3及び4)及びAPBA3−C/iFIH−C(215−575aa、配列番号2、3及び4) はそれぞれ単離したcDNAを基にPCRで作製しpENTR/D TOPOベクターにクローニングした。Myr−APBA3−N/Myr−iFIH−Nは、v−src由来のミリストイル化配列(配列番号13)(Crossら,1984)を開始コドンの前にPCRを用いて挿入し、同様にpENTR/D ベクターにクローニングした。マウス及びヒトMT1−MMPは所属教室で作製されていたFurin切断部位の下流にFLAGタグあるいはMycタグを挿入したものを使用した。MT1−MMPのドメイン欠損変異体(CAT(112−284aa)、HPX(319−507aa)、CP(562−581aa)、細胞外領域(112−507aa))、アラニン置換体はPCRを用いて作製し、pENTR/D TOPO ベクターにクローニングした。これらpENTR/D TOPOベクターにクローニングしたものをLRリコンビナーゼを用いてpcDNA3.1、pDEST15、pDEST17、pLenti6、pAdベクター(全てInvitrogen)に挿入して発現ベクターを作製した。
【0050】
1−2.マウス
MT1−MMP欠損マウス及び野生型マウスは、発明者らによって定法に従って作製されC57BL/6マウスと12回戻し交配を行ったヘテロマウスどうしを掛け合わせて作製した。本実験で用いた野生型及びMT1−MMP欠損マウスはSPF環境下で維持され、生後10−18日で実験に用いた。
【0051】
1−3.免疫組織染色
凍結切片を10μmの厚さで作製した。4% パラホルムアルデヒド/PBSで5分間固定し、0.03% H2O2/PBSで15分間反応させ内因性のペルオキシダーゼを不活化した。5% ヤギ血清、3% BSAを含むPBSで1時間室温で反応させたのち、抗F4/80抗体(BMA Biomedicals)又は抗CD45抗体(Bechman Coulter)を4oCで一晩反応させた。PBSで洗浄した後、切片をHistofine HRP付加抗ラットIgG抗体(Nichirei)と30分間反応させ、PBSで洗浄した後DAB溶液で発色させた。
1−4.骨髄由来マクロファージの調整
骨髄由来マクロファージは過去の報告に基づいて行われた(Celadaら,1984;Kobayashiら,2002)。マウスの大腿骨、脛骨、及び上腕骨の両端を切断し、PBSで骨髄細胞を洗いだした。PBSで3回洗浄した後、骨髄細胞を30% L929培養上清と20% FBSを含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM, Sigma)中で湿潤な環境で5% CO2大気中、37℃で7日間培養し、マクロファージに分化させた。分化させたマクロファージはL929培養上清を除いた培養液で24時間培養した後実験に使用した。低酸素実験では分化させたマクロファージを1% O2、5% CO2大気に設定したModel 9200インキュベーター(和研薬)で培養して実験に用いた。
【0052】
1−5.浸潤能及び運動能の解析
マトリゲルに対する浸潤能及びトランスウェルを用いた運動能の解析は過去の報告に基づいて行われた(Nonakaら,2005;Uedaら,2003)。8μm ポアサイズのトランスウェル(Corning)にマトリゲル(Becton Dickinson)をコートしたもの(浸潤能)又はコートしていないもの(運動能)を24ウェルプレートに装填した。10ng/mlのMCP−1(R&D Systems)を含む 500μlのDMEMを下のチャンバーに入れ、200μlの細胞懸濁液(2x105 cells)を上のチャンバーに入れた。細胞を運動能で2時間、浸潤能で6時間それぞれ37℃で培養した後、下のチャンバーに移動した細胞をギムザ染色液で染色し、細胞を顕微鏡下でカウントした。
1−6.ケモキネシス(ランダム運動)の測定
マクロファージを35mmガラスディッシュに播種し一晩培養した。10ng/ml のMCP−1を加え30分後から、1分ごとに30分間 Leica AS MDW time−lapse system(Leica Microsystems)を用いて細胞の画像を取得した。各時間の細胞の重心の直線移動距離の合計をImageJ software(NIH)で解析し細胞の移動距離とした。
【0053】
1−7.ATP濃度の測定
マクロファージのATP濃度はATP Bioluminescence Assay Kit CLS II(Roche Applied Science)を用いて測定した。Bradford assay kit(Bio−Rad)を用いて試料中のタンパク量を測定し、タンパク量でATP量を平均化した。解糖系阻害剤を用いた実験では0.2M 2−Deoxyglucose(SIGMA)又は超純水を培養液中に加え3時間培養後にATPを測定した。
【0054】
1−8.マクロファージ核タンパク中のHIF−1α及びp300/CBPの検出
マクロファージの核タンパク質をNuclear Extract Kit(ActiveMotif)を用いて回収した。TransAM HIF−1 kit(ActiveMotif)を用いて10μgの核タンパク質を解析した。このキットにはHIF−1が結合するHREオリゴヌクレオチドがコーティングされたプレートが含まれている。試料中のHIF−1の結合は抗HIF−1α 抗体を用いて検出した。p300/CBPの検出に抗p300/CBP 抗体(Upstate)を使用した。
1−9.レポーターアッセイ
HIF−1αの転写活性を解析するためのレポーターアッセイはLandoらの報告を基に改変を加えて行われた(Landoら,2002b)。レポータープラスミドとしてホタルルシフェラーゼ遺伝子の前にupstream activating sequenceを4つ直列に配置し(4xUAS)さらにチミジンキナーゼ(TK)由来のTATA boxを挿入したpGL3 Basicプラスミド(Promega)を作製した。ウミシイタケルシフェラーゼを発現するpRL ベクター(Promega)を内部コントロールとして使用した。HEK293細胞(5x104 cells/well)を24ウェルプレートに播種し、LipofectamineTM 2000(Invitrogen)を用いて以下の条件でレポータープラスミドを導入した。レポータープラスミド(100ng),内部コントロールベクター(10ng),Gal4BD−CADプラスミド(50ng)、MT1−MMP及び変異体、又はAPBA3/iFIH及び変異体発現プラスミド(200ng)。MT1−MMPとAPBA3/iFIH変異体のHIF−1αCAD活性に対する影響を解析する実験ではそれぞれ50ngずつ遺伝子導入した。遺伝子導入24時間後にPBSで洗浄した後、passive cell lysis buffer(Promega)を加え、さらに凍結融解により細胞を破砕した。ライセートのルシフェラーゼ活性はDual−Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いてTD20/20 ルミノメーター(Promega)で測定した。
【0055】
1−10.組み換えタンパクの作製
GST、GST−CP、GST−CPR/A、GST−CP5、GST−CAD、GST−FIH−1、GST−FIH−1Nの作製のため、BL21 Gold(DE3) pLysS大腸菌株(Stratagene)をpDEST15発現ベクター(Invitrogen)で形質転換させ、LB培地で培養後0.5mM isopropyl−D−thiogalactoside(IPTG)を加えてで3時間、37oCで培養した。菌体を遠心で落とした後、protease inhibitor cocktail III(EMD Biosciences)を加えた1% Triton−X/PBSに懸濁した後超音波破砕を行った。遠心後の上清にグルタチオンセファロース4B(GE Healthcare)を加えて1時間、4℃で反応させた。1% Triton−X/PBSで5回洗浄し保存した。
(His)6タグ マウスFIH−1、APBA3、APBA3Nの作製のため、BL21 Gold(DE3) pLysS大腸菌株をpDEST17発現ベクター(Invitrogen)で形質転換し、LB培地で培養した後、0.1mM IPTGを加えて16時間20℃で誘導をかけた。菌体をprotease inhibitor cocktail IIIを加えたTBSに再懸濁し超音波破砕後、上清に10mM イミダゾール、 Ni2+ 処理したchelation sepharose(GE Healthcare)を加えて1時間、4℃で反応させた。ビーズを50mM イミダゾールで5回洗浄した後、結合しているタンパクを500mM イミダゾールで溶出し、TBSで透析した後実験に使用した。
【0056】
1−11.GSTプルダウンアッセイ
グルタチオンセファロース 4B(GE Healthcare)にGST融合タンパクを約10μg結合させたものを0.5mg/ml BSAを含むlysis buffer(50mM Tris−HCl(pH8.0)、150 mM NaCl、1% NP−40)中で30分間、4℃で混和した。その後、2μgの(His)6−標識FIH−1タンパク、0.5mg/ml BSA、ペプチド競合実験ではビオチン標識したCPペプチドあるいはCPの配列をシャッフルしたコントロールペプチド(配列番号14)(合成はInvitrogen)をビーズに加えた。ローテーターを用いて2時間、4℃で混和した後、ビーズをlysis bufferで4回洗い、Laemmliサンプルバッファー、βメルカプトエタノールを加えて加熱しタンパクを溶出した。溶出したタンパクをSDS−PAGEに供し、抗(His)6抗体(Roche Applied Science)あるいは抗GST抗体(GeneTex)を用いて検出した。
【0057】
1−12.レンチウイルスベクターの作製
レンチウイルスベクターはViraPowerTM Lentiviral Expression System(Invitrogen)を使用して仕様書に沿って作製した。レンチウイルスの濃縮は過去の報告を基に行った(Pfeiferら,2000)。レンチウイルスを含む培養上清を回収し、1,500 gで10分間遠心した後上清を回収した。0.45μmフィルター(Millipore)を用いて濾過した後、ウイルス液を70,000 gで2時間、21℃で遠心し、上清を除去した。ウイルスを200μlのDMEMで懸濁し、10倍希釈系列を作製した後、6ウェルプレートに1x105 cells/wellでまかれたHeLa細胞に感染させ、48時間後にブラストサイジンによる薬剤選択を行いウイルス力価を求めた。マクロファージにMT1−MMP及び変異体を遺伝子導入する際には、3 MOIで感染させ、遺伝子の発現を以下の特異的プライマーを用いてRT−PCRで確認した。
MT1-MMP(センス);5−atgtctcccgcccctcgacc−3’(配列番号15)
MT1-MMP(アンチセンス);5’−acattggccttgatctcagt−3’(配列番号16)
βアクチン(センス);5’−gccaacacagtgctgtctgg−3’(配列番号17)
βアクチン(アンチセンス);5’−atctgctggaaggtggacag−3’.(配列番号18)
【0058】
1−13.アデノウイルスベクターの作製
ViraPowerTM Adenoviral Expression System (Invitrogen)を用いてアデノウイルスベクターを作製した。ウイルス力価の測定は説明書の通りに行われ、ウイルス液の10倍希釈系列作製して293A細胞に感染させた後、出来たプラークの数から求めた。
1−14.イムノブロッティング
細胞を1mlのlysis buffer(1% NP−40、50mM Tris pH8.0、150mM NaCl)で融解し、20,000 gで15分間、4℃で遠心した。上清を回収しタンパク濃度をBradford assay kit(Bio−Rad)で測定した。細胞融解液にLaemmliサンプルバッファーとメルカプトエタノールを加えて加熱した後、SDS−PAGEに供した。ゲルからタンパクをPVDFメンブレン(Millipore)に移した後、抗MT1−MMPマウス抗体(Daiichi Fine Chemical)、抗トランスフェリンレセプターマウス抗体(Invitrogen)、抗p300/CBP抗体(Upstate)、抗laminA/Cマウス抗体(BD Biosciences)、抗FIH−1ヤギ抗体(Santa Cruz Biotechnology)、抗アクチンマウス抗体(CHEMICON)、抗FLAG M2 抗体(Sigma)、抗Mycマウス抗体(Roche)、抗V5マウス抗体(Invitrogen)、抗APBA3 マウス抗体(BD Biosciences)と4℃で一晩反応させた。PBSTで3回洗浄した後、HRP付加抗マウスIgG抗体(GE Healthcare)、HRP付加抗ヤギIgG抗体(SIGMA)と1時間反応させ、PBSTで5回洗浄した後ECL plus(GE Healthcare)で発光させバンドを検出した。
【0059】
1−15.Yeast−Two−Hybridスクリーニング
Hybrigenics社の商業サービスを使用し、FIH−1をベイトとしてヒト胎盤cDNAライブラリーを使用して行われた。
1−16.shRNAによる発現抑制実験
使用したshRNA配列は以下の通りである。
マウスFIH−1;5’−caccggacctcgaatacctgcaagacgaatcttgcaggtattcgaggtcctttt−3’(配列番号19)
ヒトFIH−1#1;5’−caccgctgaccgacacaaatcttgtcgaaacaagatttgtgtcggtcagctttt−3’(配列番号20)
ヒトFIH−1#2;5’−caccggaagattgtcatggacttctcgaaagaagtccatgacaatcttcctttt−3’(配列番号21)
マウスAPBA3/iFIH;5’−caccgccagttcctacaggagaacacgaatgttctcctgtaggaactggc−3’(配列番号22)
これらの配列をpENTR/U6 TOPOにクローニングし、pLenti6 BLOCKiT レンチウイルスベクター(Invitrogen)にLRリコンビネーションでサブクローニングした。shRNA発現レンチウイルスベクターは上述の通り作製し、shRNA発現レンチウイルスベクターを40 MOIで各細胞に導入した。マクロファージは導入後72時間後に実験に用いた。HEK293細胞は導入後72時間後にブラストサイジンによる薬剤選択を1週間続け、その後実験に使用した。
【0060】
1−17.siRNAを用いた発現抑制実験
siRNAはB−bridge社によってデザイン、合成されたものを使用した。このsiRNAは1遺伝子に対し3種類の異なるsiRNAカクテルである。配列は以下の通りである。
ヒトAPBA3/iFIH:
5’−gauggaacuugaugaguca−3’(配列番号23);
5’−gggaggugcaccucgagaa−3’(配列番号24);
5’−gguucuugguccuguauga−3’(配列番号25).
コントロールsiRNAs:
5’−auccgcgcgauaguacgua−3’(配列番号26)
5’−uuacgcguagcguaauacg−3’(配列番号27)
5’−uauucgcgcguauagcggu−3’(配列番号28)
HEK293細胞を1x104/wellで24ウェルプレートに播種し10nM siRNA カクテル(3種類のターゲット配列を含む)をLipofectamineTM RNAiMAX(Invitrogen)を用いて仕様書の通りに導入した。導入後48時間後にレポーターアッセイを行った。
【0061】
2.結果
2−1.MT1−MMPは細胞内領域(CP)依存的にHIF−1αの転写活性を上昇させる。
HIF−1αのCADは、p300/CBPとの結合することで転写活性を伝達するので、CADの転写活性がMT1−MMPで制御されるかを検討した。CAD自身の転写活性を解析するため、Gal4 DNA結合領域とCADフラグメントを結合させたキメラタンパクを発現するベクターを構築し、CAD融合タンパクが結合した際にルシフェラーゼが転写され、ルシフェラーゼの活性を測定する事でCADの転写活性を測定できるレポーターシステム(Landoら,2002b)を用いた(図1a)。HEK293細胞にレポータープラスミドとMT1−MMP発現プラスミドを遺伝子導入すると、CADの転写活性がコントロールに比べて約2.3倍に上昇することが明らかとなった(図1b)。さらに、HIF−1αのCADの制御にMT1−MMPのどのドメインが関与しているかを決定するため、MT1−MMPの欠損変異体発現ベクターを導入してレポーターアッセイを行った。その結果、酵素活性ドメイン欠損(dCAT)やヘモペキシン様ドメイン欠損(dHPX)変異体は野生型MT1−MMPと同程度にCADを活性化したが、細胞内領域欠損(dCP)変異体ではCADの活性化は見られなかった(図1b)。また、MT1−MMPのC末端の膜貫通ドメインからCPまでの変異体(TM−CP)でもCADの活性化には十分であった(図1b、TM−CP)。
これらの結果からMT1−MMPが細胞内領域依存的にHIF−1αのCADを活性化していることが明らかとなった。さらに、これらのMT1−MMP変異体をMT1−MMP欠損マクロファージにレンチウイルスベクターに導入したところ、レポーターアッセイの結果と同様にdCP以外の変異体でMT1−MMP欠損マクロファージのATP量(図1c)及び細胞運動能(図1d)が回復した。
【0062】
MT1−MMPのCPは20アミノ酸から構成されている(配列番号12)。そこでどのアミノ酸残基がCADの制御に必要であるかを解析するため、MT1−MMPのC末端を4、8、12、16、20アミノ酸ずつ欠損させた変異体を作製した。HEK293細胞にこれら変異体とレポータープラスミドを遺伝子導入して解析を行った結果、最初の4アミノ酸の欠損(dCP17−20)はCADの活性化に影響を及ぼさなかった(図2a)。しかし、次の4アミノ酸の欠損(dCP13−20)から細胞内領域を持たないdCPと同様にCADの活性化が起こらなかった(図2a)。つまり、CP13−16のアミノ酸がMT1−MMPによるCADの活性化に重要な役割を果たしていることが考えられた。そこでCP13−16の4アミノ酸を全てアラニンに置換した変異体を作製しレポーターアッセイを行った結果、アラニン置換変異体ではMT1−MMPによるCADの活性化が起こらなかった(図2b)。さらにCP13−16のアミノ酸を一つずつアラニンに置換した変異体を作製し解析をおこなったところ、それぞれのアミノ酸置換体で異なる程度にCADの活性化能が低下していた。その中でもCP14のR/A置換が最も影響が大きく、MT1−MMPのCADの活性化能がほぼ完全に失われていた(図2b、R/A)。つまり、CP14のアルギニンがCADの活性化に重要であることが明らかとなった。
【0063】
2−2.FIH−1がMT1−MMP依存的なHIF−1αの制御を仲介する。
FIH−1は、現在のところ報告されている唯一のHIF−1αのCADの負の調節因子である(Landoら,2002a;Mahonら,2001)。そこでHEK293細胞でのMT1−MMPによるCADの活性化にFIH−1が関与しているかを検証するため、shRNAを利用して内因性のFIH−1の発現量を低下させたHEK293細胞を作製した(図3a、shFIH−1#1及び#2)。FIH−1の発現量の低下により、HEK293でのCADの活性が約5倍に上昇し(図3b、mock)、この状況ではMT1−MMPによるCADの活性化は検出されなかった(図3b、MT1F,dCP)。同様に、野生型及びMT1−MMP欠損マクロファージのFIH−1の発現をshRNA発現レンチウイルスベクターを用いて低下させると(図3c)、野生型マクロファージと同程度にまでMT1−MMP欠損マクロファージのATP量が回復した(図3d)。これらの結果から、MT1−MMPがCP依存的にFIH−1の機能を抑制し、その結果HIF−1αの転写活性が上昇していることが示唆された。
続いて、MT1−MMPのCPとFIH−1の間に直接的な相互作用があるかを解析するため、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)にCPペプチドを結合させた組み替えタンパク(GST−CP)と(His)6標識したFIH−1を用いたプルダウンアッセイを行った。その結果、FIH−1はGST−CPと結合したが、GSTとは結合しなかった(図4a)。また、GST−CPとFIH−1との結合はCPペプチドで量依存的に競合され、コントロールペプチドでは競合されなかった(図4a、CP peptide/GST−CP;control peptide/GST−CP)。続いて、図2の実験で明らかになったCADの活性化に重要なCP14のアルギニンをアラニンに置換したGST−CP(GST−R/A)とFIH−1との相互作用をプルダウンアッセイで解析した結果、GST−R/AはGST−CPと比べFIH−1との結合能が著しく低下していた(図4b)。また、R/A置換したMT1−MMP変異体をMT1−MMP欠損マクロファージに遺伝子導入したところ、野生型のMT1−MMP導入マクロファージではATP量の上昇が観察されたが、R/A変異体を導入してもATP産生を上昇させることが出来なかった(図4c)。
以上の結果より、FIH−1はMT1−MMPがCP依存的にHIF−1αを制御する際のメディエーターであることが明らかとなった。
【0064】
2−3.APBA3/Mint3はFIH−1の新規結合因子である。
予備的な実験によりMT1−MMPのCPペプチドは少なくともin vitroでのFIH−1の機能に影響しなかったことから、MT1−MMPが単独で直接FIH−1を抑制するのではなく、他の分子の存在を必要とするのではないかという仮説を立て、yeast−two hybridスクリーニングによりFIH−1の結合因子を探索した。yeast−two hybridスクリーニングで得られた候補タンパクとFIH−1との結合を免疫沈降法で解析した結果、APBA3/Mint−3のみがFIH−1との安定的な結合を示した(図5b)。APBA3は、APBA1のホモログであり、アミロイドベータ前駆タンパクの細胞内領域と結合することが知られている(Tanahashi及びTabira,1999)。APBA1、2は、主に神経系で発現しているのに対し、APBA3は広範な組織での発現が確認されているが(Okamotoら,2001;Okamoto及びSudhof,1998;Tanahashi及びTabira,1999)、その生物学的な役割については不明である。APBA3のC末端領域はAPBA1、2と相同性を持つ1つのPTBドメインと2つのPDZドメインからなるが、N末端領域は他のAPBAとは相同性を示さない特有の配列を持つ(図7a)。APBA3はPDZドメインを介してMT5−MMPの細胞内領域と結合することが報告されている(Wangら,2004)、MT1−MMPの細胞内領域とは明確な結合を示さなかった(図6)。
続いてFIH−1がAPBA3のどの領域と結合するかを解析するため、FLAGタグ標識したAPBA3のN末端、C末端をそれぞれMycタグ標識したFIH−1とHEK293細胞に共発現させて、ライセートを免疫沈降に供した。その結果、APBA3の全長及びN末端ではFIH−1が共沈降されてきたが、C末端では共沈降は起こらなかった(図7b)。以上より、FIH−1はファミリー間でユニークな領域であるAPBA3のN末端領域に結合することが明らかとなった。
【0065】
2−4.APBA3は、FIH−1とHIF−1αCADの結合を競合阻害することでHIF−1αの転写活性を亢進する。
続いてFIH−1のどの領域がAPBA3との結合に必要かをプルダウンアッセイで解析した。FIH−1はCupin様の構造を持つ酵素活性ドメインとC末端側に二量体形成ドメインを有する(図7a)。FIH−1は、HIF−1αとC末端側の二量体結合部位で結合し、酵素活性ドメインでHIF−1αのアスパラギン残基を水酸化する(Dannら,2002;Elkinsら,2003;Hewitsonら,2002;Lancasterら,2004)。GST融合FIH−1(GST−FIH−1)はHIF−1αのCADフラグメントと同様にAPBA3のN末端領域 のフラグメントとも結合した(図7c)。それに対し、C末端二量体形成ドメインを欠損したGST−FIH−1(GST−FIH−1N)はHIF−1αのCAD、APBA3のN末端領域のどちらとも結合しなかった(図7c)。一方、FIH−1のN末端側と結合することが知られている Von Hippel−Lindau タンパク質(VHL)(Leeら,2003)は全長及びC末端を欠損したGST−FIH−1のどちらともと結合が確認された(図7c,VHL)。以上の結果より、FIH−1のC末端の二量体形成ドメインがAPBA3及びHIF−1αCADとの結合に必要であることが明らかとなった。興味深い事に、GST−FIH−1によるCADフラグメントのプルダウンはAPBA3のN末端フラグメントによって量依存的に競合阻害がかかったが(図7d)、VHLではそのような競合阻害は起こらなかった(図7e)。この結果はHIF−1αCADとAPBA3のN末端フラグメントがどちらもFIH−1との結合に二量体形成ドメインを必要としていることに起因していると考えられた。
【0066】
APBA3がHIF−1αとFIH−1の結合に競合したので、APBA3がHIF−1αの転写活性を抑制するFIH−1の機能を阻害する可能性が考えられた。そこで、HIF−1αの転写活性におけるAPBA3の影響をレポーターアッセイを用いて解析した。APBA3をHEK293細胞に発現させると、HIF−1αの活性はコントロール群に比べて劇的に上昇した(図8a)。続いてAPBA3による HIF−1α CADの活性化がFIH−1を介したものかを確認するため、2種類のshRNA発現ベクターによりFIH−1の発現を低下させたHEK293細胞を用いてレポーターアッセイを行った(図8b)。その結果、FIH−1の発現レベルの減少に従ってコントロール群でのCADの活性が上昇し、APBA3を導入した群とほぼ変わらなくなった(図8a)。このことからAPBA3によるHIF−1α CADの活性化はFIH−1を介したものであることが明らかとなった。また、APBA3のどの領域がHIF−1αCADの活性化に関係しているかを解析した結果、FIH−1と結合するAPBA3のN末端フラグメントはHIF−1α CADを活性化したが、FIH−1と結合しないC末端フラグメントはCADの活性に影響を与えなかった(図8c)。
以上の結果から、APBA3はHIF−1αとFIH−1との結合に競合的に作用し、FIH−1によるHIF−1αの不活性化を阻止しているという考えが支持された。そこでAPBA3をその機能に基づいて ”inihibitor of FIH−1 (iFIH)”と新たに命名した。
【0067】
2−5.iFIHはMT1−MMPによるHIF−1αの活性化に必須である。
APBAはPDZドメインを介して膜タンパクの細胞内ドメインに多く見られるPDZ結合配列と結合することで細胞膜に局在することが知られているので(Tanahashi及びTabira,1999)、iFIHはMT1−MMPによるFIH−1の抑制のメカニズムを説明する鍵となることが考えられた。そこでMT1−MMPによるCADの活性化にiFIHが必要かどうかを検討した。まず、HEK293細胞にMT1−MMPを発現させHIF−1αの活性が上昇することをレポーターアッセイで確認した(図9a)。この過程にiFIHが関与しているかを解析するため、siRNAを用いてiFIHの発現を低下させた(図9b)。iFIHの発現減少の影響はコントロール群では明確ではなかったことから、内因性のiFIHだけではHIF−1αの活性制御には十分ではないことが示唆された(図9a、mock)。しかし、iFIHの発現減少はMT1−MMPによるHIF−1αの活性化をキャンセルした(図9a、MT1F)。このことからiFIHはMT1−MMPによるHIF−1αCADの活性化に重要な役割を果たしている事が明らかとなった。しかしながら、HEK293細胞におけるiFIHの過剰発現ではMT1−MMPが無くともHIF−1αの活性を上昇させるのに対し(図8)、内因性のiFIHはHIF−1αの活性にほとんど影響しないという異なった結果が得られた。この原因として発現量の違いが考えられたので、レポーターアッセイを用いてHIF−1αの活性化におけるiFIHとMT1−MMPの関係を低発現量の条件で解析した。
【0068】
まず、MT1−MMP又はiFIH単独ではHIF−1αの活性をほとんど上昇させない条件を設定した(図10a、iFIH+MT1)。この条件で、iFIHとMT1−MMPを共発現させるとHIF−1α の活性は相乗的に上昇した(図10a、iFIH+MT1)。図8cで示したように、iFIHのN末端領域はFIH−1に結合しHIF−1αの活性抑制をキャンセルするのに十分である。ところが興味深い事に、MT1−MMPはiFIH−NによるHIF−1αの活性化には影響を及ぼさなかった(図10a、iFIH−N+MT1)。iFIH−Nが欠損しているC末端領域は細胞膜への局在に重要であるので(Okamotoら,2001)、iFIH−Nにミリストイル化シグナル(Crossら,1984)を付加し(Myr−iFIH−N)、細胞膜へ局在できるようにした(図10b)。するとMyr−iFIH−NはMT1−MMPと協調的に働いてCADの活性を上昇させた(図10a、Myr−iFIH−N)。
以上の結果より、内因性の発現量に近い低発現の条件ではiFIH単独ではほとんどCADを活性化しないがMT1−MMPが存在することによってCADを活性化することができること、また、MT1−MMP依存的なiFIHの制御にはiFIHが細胞膜に局在することが必要なことが明らかとなった。
【0069】
前述のマクロファージを用いた実験で、MT1−MMPがFIH−1を抑制することでATP産生を促進することを示した(図3)。そこでiFIHがこのプロセスに関係しているかについて解析した。shRNA発現レンチウイルスベクターを用いてiFIHの発現量を減少させると、野生型のマクロファージのATP量は約50%程度に低下した(図11、WT、shiFIH)。一方、MT1−MMP欠損マクロファージのATP量(野生型の約40%)はiFIH−1の発現減少によって影響を受けなかった(図11、MT1−/−、shiFIH)。
以上の結果より、iFIHはマクロファージにおいてMT1−MMPによるATP産生の制御に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0070】
2−6.MT1−MMPは細胞内領域依存的にiFIHとFIH−1との結合を促進する。
これまでの結果から、iFIHとFIH−1との結合がFIH−1の抑制に重要なこと(図7、8)、MT1−MMPによるFIH−1の抑制にはiFIHが必要であることが明らかとなった(図10、11)。そこで細胞レベルでのMT1−MMPによるFIH−1の抑制は、iFIHとFIH−1との結合を促進することによるのではないかと考えられた。この可能性を検証するために、まずFLAGタグ標識したFIH−1を安定発現するHEK293細胞を作製し、さらにその細胞にMycタグ標識したMT1−MMP及び細胞内領域を欠損した変異体(dCP)を安定発現させた細胞を作製した。セルライセートから抗FLAG抗体ビーズを用いてFIH−1を免疫沈降し、沈降物中のiFIHをイムノブロッティングで解析した。その結果、内因性のFIH−1はどの細胞群でも同程度に共沈降されてきたのに対し、コントロールのEGFPに比べて、MT1−MMPの発現により明確に内因性のiFIHが共沈降されてきた(図12)。またこの共沈降の促進にはMT1−MMPの細胞内領域が重要であった(図12、dCP)。一方、この沈降物中にはMT1−MMPは検出されなかった。これらの結果により、MT1−MMPが細胞内領域依存的にFIH−1とiFIHの結合を促進することでFIH−1の活性を抑制しHIF−1αを活性化させるというメカニズムが明らかとなった。
【0071】
参考文献
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【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、HIF−1の活性を制御する方法及びHIF−1の活性を制御する化合物のスクリーニング方法を提供する。従って、HIF−1が関連する疾患の治療方法及び治療剤の開発に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、HIF−1α CADの活性化に必要なMT1−MMPのドメインの解析結果を示す。(a):上パネル:HIF−1αの転写活性をモニターするためのレポーターシステム。CAD:HIF−1α C末端転写活性ドメイン:Gal4BD、Gal4 DNA結合ドメイン:UAS、Gal4結合サイト;TATA、チミジンキナーゼミニマルプロモーター。下パネル:MT1−MMP 欠損変異体コンストラクト。SP、シグナルペプチド;Pro、プロペプチド;CAT、酵素活性ドメイン;HPX、ヘモペキシン様ドメイン;TM,膜貫通ドメイン;CP、細胞内領域。FLAGタグをProとCATの間に挿入した。SPとProは細胞膜へ輸送される途中で切り離される。 (b):上パネル:HEK293細胞でのMT1−MMPコンストラクトのHIF−1α CADレポーター活性における効果。下パネル:MT1−MMPコンストラクトの発現をイムノブロッティングで確認した。(c、d):MT1−MMP欠損変異体をMT1−/− マクロファージに導入した際のATP量(c)及び運動能(d)に対する影響の解析。MT1−/−マクロファージにレンチウイルスベクターでMT1−MMP欠損変異体発現遺伝子を導入し、MT1−MMP変異体の発現をRT−PCRで確認した(c、下パネル)。ATP量を遺伝子導入72時間後に測定した(c、上パネル)。運動能は、マトリゲルをコートしていないトランスウェル上に細胞を撒き2時間後に下のチャンバーに移動した細胞をカウントした(d)。(b−d)データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。*p< 0.05、**p < 0.01。
【図2】図2はMT1−MMP細胞内領域変異体のHIF−1α CADの活性化能の解析結果を示す。(a、b):MT1−MMPの細胞内領域(CP)変異体のCAD活性化能の解析。MT1−MMP−CP連続欠損変異体(a)及びCP13−16のアラニン置換変異体(b)のCADレポーターに対する影響を解析した。コンストラクトを左側のパネルに、CADレポーターに対する影響を右のパネルに表示した。各変異体の発現をイムノブロッティングで確認した(下パネル)。データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。*p< 0.05、**p < 0.01。
【図3】図3は、MT1−MMPによるHIF−1αの転写活性の上昇はFIH−1を介したものであることを示す。(a):HEK293細胞におけるFIH−1の発現抑制。2つの異なるshRNA(#1及び#2配列)を発現させ、FIH−1の発現量をイムノブロティングで解析した。(b):CADレポーター活性におけるshRNAの影響。(c):WT及びMT1−/−マクロファージにおけるFIH−1の発現抑制。マクロファージにレンチウイルスベクターを用いてshRNAを発現させ、FIH−1のmRNA量をリアルタイムPCRで解析した。(d):WT及びMT1−/−マクロファージのATP量におけるFIH−1の発現抑制の影響。FIH−1の発現量を減少させることにより、WT及びMT1−/−マクロファージのATP量に変化が無くなった。(b,d)データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。**p < 0.01。
【図4】図4は、MT1−MMPの細胞内領域がFIH−1に直接結合することを示す。(a):MT1−MMPの細胞内領域(CP)とFIH−1との直接的結合の解析。Inインビトロ プルダウンアッセイをGST−CP融合タンパク及び(His)6標識したFIH−1タンパクを用いて行った。CPに結合したFIH−1をイムノブロッティン(IB)で検出した。FIH−1とGST−CPとの結合はCPペプチドで競合されたがコントロールペプチドでは競合されなかった。(b):CP14でのR/A置換のCP−FIH−1結合に対する影響をプルダウンアッセイを用いて解析した。(c)R/A置換MT1−MMPをMT1−/−マクロファージに導入した際のATP量に対する影響。マクロファージに図中に示したコンストラクトをレンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入した。上パネル:RT−PCRによるMT1−/−マクロファージにおけるMT1−MMPmRNAの発現の確認。下パネル:ATP量。データは平均値±標準偏差で示し、スチューデントt検定で解析した。*p< 0.05。
【図5】図5は、APBA3/iFIHがFIH−1と結合することを示す。(a):ヒト胎盤cDNAライブラリーを用いたYeast two hybrid スクリーニングの後、8つのタンパクをFIH−1と結合する候補として選んだ。これらのタンパクにFLAGタグを付加してHEK293細胞に発現させ、Mycタグ標識したFIH−1との結合能を解析した。候補タンパクをセルライセートから抗FLAG抗体を用いて免疫沈降(IP)し(上パネル)、沈降物中の候補タンパクを抗FLAG抗体を用いたイムノブロティング(IB)で検出した。免疫沈降(IP)物中のFIH−1およびセルライセート(WCL)中のFIH−1をイムノブロッティングで検出した(下パネル)。FIH−1,factor inhibiting HIF−1;mock,mock−transfected;APBA3,amyloid precursor protein−binding member 3;CCM2,cerebral cavernous malformation 2;EHD1,EH−domain containing 1;MCM4,minichromosome maintenance deficient 4;MRPL38,mitochondrial ribosomal protein L38;NFKBIA,nuclear factor of kappa light polypeptide gene enhancer inB−cells inhibitor alpha;PAFAH1B2,Homo sapiens platelet−activating factor acetylhydrolase isoform Ib beta subunit 30kDa;SH3BLG1,SH3−domain GRB2−like endophilin B1.FIH−1はAPBA3/iFIHとのみ共沈降した。(b):V5タグ標識した APBA3/iFIH とFLAGタグ標識したFIH−1をHEK293細胞に発現させた。免疫沈降(IP)を上述の通りに行い、イムノブロッティング(IB)を図中に示した抗体を用いて行った。APBA3/iFIHはFIH−1と共沈降した。
【図6】図6は、MT1−MMPおよびMT5−MMPの細胞内領域のGST融合タンパクを用いたAPBA3/iFIHのプルダウンアッセイの結果である。 His6標識したAPBA3/iFIHをGST融合タンパク(GST、GST−MT1CP、GST−MT5CP、GST−FIH−1)付加セファロースビーズを用いてプルダウンアッセイで解析した。GST、グルタチオンSトランスフェラーゼ、GST−MT1CP,MT1−MMP細胞内領域−GST融合タンパク;GST−MT5CP,MT5−MMP細胞内領域−GST融合タンパク;GST−FIH−1,FIH−1−GST融合タンパク。ビーズに結合したAPBA3/iFIHを抗His6抗体を用いてイムノブロッティングで検出した(上パネル)。ビーズに付加したGSTタンパクを抗GST抗体で検出した。GST−FIH−1がAPBA3/iFIHと最もよく結合し、GST−MT5CPがそれより少なく結合した。この実験条件ではGST−MT1CPとAPBA3/iFIHとの結合は検出できなかった。
【図7】図7は、APBA3とHIF−1αがFIH−1と競合的に結合することを示す。(a):APBA3および各フラグメントの構造:全長(full)、N末端(N)及びC末端(C)領域(上パネル)。N末端領域(N)には既知のドメイン構造は含まれない。C末端領域(C)にはPTBドメイン1つとPDZドメイン2つが含まれる。図中に示した数字はアミノ酸番号を表す。FIH−1およびN末端フラグメントの構造(下パネル):CUPIN;酵素活性を担うcupin様ドメイン、黒ボックス;二量体化ドメイン;FIH−1N,N末端フラグメント。(b):In Mycタグ標識したFIH−1とFLAGタグ標識したAPBA3の全長(full)、N末端フラグメント(N)又はC末端フラグメント(C)をHEK293細胞に発現させた。FLAGタグ標識したタンパクを免疫沈降(IP)し抗FLAG抗体を用いてイムノブロット(IB)により検出した(上パネル)。沈降物(IP)およびセルライセート(WCL)中のFIH−1を抗Myc抗体を用いてイムノブロティング(IB)で検出した(下パネル)。(c):GST、GST−FIH−1、GST−FIH−1Nを付加したビーズを用いたプルダウンアッセイ。イムノブロティングによりHis6タグ標識したAPBA3Nフラグメント、HIF−1α CAD、又はVHLを検出した。(d):GST−FIH−1を付加したビーズを用いてHis6タグ標識したHIF−1αCADのプルダウンアッセイを図中に示した量のHis6標識APBA3Nフラグメント存在下で行った。(e):GST−FIH−1を付加したビーズを用いてHis6タグ標識したVHLタンパクのプルダウンアッセイを図中に示した量のHis6標識APBA3Nフラグメント存在下で行った。
【図8】図8は、APBA3がFIH−1のHIF−1αに対する転写活性抑制機能を阻害することを示す。(a):HEK293にAPBA3発現コンストラクト(APBA3、白ボックス)又はコントロールベクター(mock、黒ボックス)を遺伝子導入し、相対的ルシフェラーゼ活性を測定した。内因性のFIH−1の発現をshRNA配列shFIH#1及びshFIH#2を用いて抑制した。ネガティブコントロールとしてβガラクトシダーゼをコードする遺伝子(LacZ)に対するshRNA(shLacZ)を使用した。MockベクターおよびshLacZを導入した細胞を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を示した。(b):shLacZ、shFIH#1、shFIH#2発現HEK293細胞のFIH−1の発現をイムノブロッティングで解析した。(c):ルシフェラーゼの発現を用いてAPBA3全長、N末端、C末端フラグメントのHIF−1α CAD の転写活性に対する影響を測定した。コントロールベクターを遺伝子導入した細胞を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を示した。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p < 0.01。
【図9】図9は、iFIH/APBA3がMT1−MMPによるFIH−1の抑制に必要であることを示す。(a):iFIHに対するsiRNA(iFIHsiRNA;オープンボックス)又はコントロール用のsiRNA(control siRNA;黒ボックス)をHEK293細胞に導入した後にMT1−MMP(MT1F)又はコントロールベクター(mock)とレポータープラスミドを遺伝子導入した。コントロールsiRNAおよびmock導入細胞のルシフェラーゼ活性を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を求めた。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p< 0.01。(b):イムノブロッティングによりiFIH、MT1−MMP、actin (loading control)を検出した。
【図10】図10は、iFIH/APBA3がMT1−MMPと協調的に働くには膜への局在が必要であることを示す。(a):MT1−MMP、iFIH,iFIH N末端フラグメント(iFIH−N)をHEK293細胞に共発現させた。HIF−1αCADの活性をルシフェラーゼ活性でモニターし、mockベクターを導入した細胞のルシフェラーゼ活性を100%とした相対的ルシフェラーゼ活性を示した(上パネル)。MT1−MMP又はiFIHの発現をイムノブロッティングで確認した(下パネル)。矢印は内因性のiFIHである。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p<0.01。(b):APBA3/iFIH、APBA3−N/iFIH−N及びMyr−APBA3−N /Myr−iFIH−Nの局在。FLAGタグ標識したiFIH、iFIH−N及びMyr−iFIH−NをHEK293細胞に発現させた。これらタンパクの細胞内での局在を抗FLAG抗体を用いて解析した。核をHoechst33342で対比染色した。iFIH−Nに比べ、Myr−iFIH−Nは細胞の周辺部により局在している。
【図11】図11は、マクロファージにおいてiFIHがMT1−MMPによるATP産生の促進に必要であることを示す。shRNA用いてWT及びMT1−/−マクロファージのiFIHの発現を抑制した。LacZ遺伝子に対するshRNA(shLacZ)をネガティブコントロールとして用いた。細胞内ATP量を測定し(上パネル)、タンパクの発現を図中に示した抗体を用いてイムノブロッティングで確認した(下パネル)。データは平均値±標準偏差(n=3)で示し、スチューデントt検定で解析した。**p < 0.01。
【図12】図12は、MT1−MMPが細胞内領域依存的にFIH−1とiFIHとの結合を促進することを示す。HEK293細胞にFLAGタグ標識したFIH−1と、ネガティブコントロール(EGFP)、MT1−MMP(MT1)、又はMT1−MMP−CP欠損変異体(dCP)を共発現させた。セルライセート(WCL)および抗FLAG抗体免疫沈降物(IP)を図中に示した抗体を用いてイムノブロッティングで解析した。内因性のFIH−1(矢印)がFLAG標識したFIH−1とホモ二量体を形成しているのが観察される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のiFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法。
【請求項2】
前記FIH−1タンパク質がMT1−MMP−CPと相互作用している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RNAi法によりiFIH−1タンパク質の発現を低下させて、iFIHタンパク質とFIH−1との相互作用を低下させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞内のMT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法。
【請求項5】
前記MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用の低下が、配列番号12で表されるアミノ酸配列で表されるペプチド、又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質と相互作用を行い、かつ、FIH−1タンパク質によるHIF−1αの活性化を阻害しないペプチドによる競合で達成される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が免疫系の細胞又は腫瘍細胞である請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下において、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとを接触させる工程、
(b)FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を検出する工程、及び
(c)被検試料の非存在下において相互作用を検出した場合と比較して、該相互作用が増強又は低下した場合に該被検試料中に該化合物候補が存在すると判断する工程、
を含む方法。
【請求項8】
FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用をFIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの結合の有無を基準として検出する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
得られた候補化合物が、細胞内のHIF−1α活性を促進又は阻害することを確認する工程をさらに含む請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載の方法により単離される化合物。
【請求項11】
前記化合物が抗体であることを特徴とする請求項10に記載の化合物。
【請求項1】
細胞内のiFIHタンパク質とFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法。
【請求項2】
前記FIH−1タンパク質がMT1−MMP−CPと相互作用している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RNAi法によりiFIH−1タンパク質の発現を低下させて、iFIHタンパク質とFIH−1との相互作用を低下させる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞内のMT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用を増強又は低下させて、HIF−1αの活性を促進又は阻害する方法。
【請求項5】
前記MT1−MMP−CPとFIH−1タンパク質との相互作用の低下が、配列番号12で表されるアミノ酸配列で表されるペプチド、又は配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失若しくは挿入をもつアミノ酸配列からなり、FIH−1タンパク質と相互作用を行い、かつ、FIH−1タンパク質によるHIF−1αの活性化を阻害しないペプチドによる競合で達成される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が免疫系の細胞又は腫瘍細胞である請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
HIF−1活性を促進又は阻害する化合物をスクリーニング方法であって、
(a)被検試料の存在下において、FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとを接触させる工程、
(b)FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用を検出する工程、及び
(c)被検試料の非存在下において相互作用を検出した場合と比較して、該相互作用が増強又は低下した場合に該被検試料中に該化合物候補が存在すると判断する工程、
を含む方法。
【請求項8】
FIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの相互作用をFIH−1タンパク質とiFIHタンパク質又はMT1−MMP−CPとの結合の有無を基準として検出する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
得られた候補化合物が、細胞内のHIF−1α活性を促進又は阻害することを確認する工程をさらに含む請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載の方法により単離される化合物。
【請求項11】
前記化合物が抗体であることを特徴とする請求項10に記載の化合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−195684(P2010−195684A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162272(P2007−162272)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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