説明

N−アルキルボラジンの製造方法

【課題】ハライドイオンの含有量が非常に少ないN−アルキルボラジンを製造する手段を提供する。
【解決手段】ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアルキルアミン塩とを溶媒中で反応させてN−アルキルボラジンを合成する工程を含むN−アルキルボラジンの製造方法であって、反応後の第1溶液からハライドイオンの含有量を前記N−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下に低減させた第2溶液を得る工程、および前記第2溶液から蒸留精製によってN−アルキルボラジンを精製する工程を含む、N−アルキルボラジンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−アルキルボラジンの製造方法に関する。N−アルキルボラジンは、例えば、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層を形成するために用いられる。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高性能化に伴い、LSIのデザインルールは、年々微細になっている。微細なデザインルールのLSI製造においては、LSIを構成する材料も高性能で、微細なLSI上でも機能を果たすものでなければならない。
【0003】
例えば、LSI中の層間絶縁膜に用いられる材料に関していえば、高い誘電率は信号遅延の原因となる。微細なLSIにおいては、この信号遅延の影響が特に大きい。このため、層間絶縁膜として用いられ得る、新たな低誘電材料の開発が所望されていた。また、層間絶縁膜として使用されるためには、誘電率が低いだけでなく、耐湿性、耐熱性、機械的強度などの特性にも優れている必要がある。
【0004】
かような要望に応えるものとして、分子内にボラジン環骨格を有するボラジン化合物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。ボラジン環骨格を有するボラジン化合物は分子分極率が小さいため、形成される被膜は低誘電率である。その上、形成される被膜は、耐熱性にも優れる。
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2003−119289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ボラジン化合物の1つとして、ボラジン環を構成する窒素原子がアルキル基と結合しているN−アルキルボラジンがある。N−アルキルボラジンは、それ自体が半導体用層間絶縁膜などの原料として用いられうる。また、他のボラジン化合物を製造する際の中間体ともなる。例えば、N−アルキルボラジンのホウ素に結合している水素原子をアルキル基で置換することによって、ヘキサアルキルボラジンが製造される。
【0006】
ここで、ボラジン化合物が、例えば上述したような半導体用層間絶縁膜として用いられる場合には、用いられるボラジン化合物中のハライドイオンは少ないほど好ましい。例えば半導体の層間絶縁膜として用いる場合に、用いられるボラジン化合物中のハライドイオンが多すぎると、配線金属の腐食等により、得られる半導体としての性能が低下してしまう虞がある。
【0007】
合成されたN−アルキルボラジンは、合成の終了後、使用用途に応じて蒸留精製や昇華精製などの方法によって精製される。このような精製方法によって、ある程度の純度のN−アルキルボラジンを得ることが可能である。しかしながら、より純度の高いN−アルキルボラジンを得るための精製方法の開発が所望されている。特に、半導体材料に適用される際には、ハライドイオンの混入量が非常に少ないことが求められる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ハライドイオンの混入量の非常に少ないN−アルキルボラジンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアルキルアミン塩とを反応させてN−アルキルボラジンを合成する工程を含むN−アルキルボラジンの製造方法であって、反応後の液からハライドイオンの含有量を前記N−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下に低減させた溶液を得る工程、および得られた溶液から蒸留精製によってN−アルキルボラジンを精製する工程を含む、N−アルキルボラジンの製造方法である。
【0010】
また、本発明は、ハライドイオンの含有量が1質量ppm以下である、N−アルキルボラジンである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、ハライドイオンの含有量が非常に少ないN−アルキルボラジンが得られる。ハライドイオンの含有量が非常に少ないN−アルキルボラジンを用いることにより、N−アルキルボラジンを用いて製造される層間絶縁膜などの特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第1は、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアルキルアミン塩とを溶媒中で反応させてN−アルキルボラジンを合成する工程を含むN−アルキルボラジンの製造方法であって、反応後の第1溶液からハライドイオンの含有量を前記N−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下に低減させた第2溶液を得る工程、および前記第2溶液から蒸留精製によってN−アルキルボラジンを精製する工程を含む、N−アルキルボラジンの製造方法である。
【0013】
上記反応においては、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアルキルアミン塩とを原料とする反応であり、下記反応式に示すように、N−アルキルボラジンが生成すると同時にAXで表される塩も副生する。
【0014】
【化1】

【0015】
水素化ホウ素アルカリと、アルキルアミン塩とを原料としてN−アルキルボラジンを製造する場合、反応後の液には、目的化合物であるN−アルキルボラジンに加えて、未反応の原料や副生する塩等が含まれる。反応後の液中のハライドイオンは主として、副生する塩および未反応のアルキルアミン塩の形で存在する。この反応後の液から直接蒸留精製によってN−アルキルボラジンを精製しようとした場合、得られた精製N−アルキルボラジンには、相当量のハライドイオンが含まれる場合があり、電子材料用途には使用できないことがある。この原因として、副生する塩および未反応のアルキルアミン塩の飛沫同伴や、昇華性のあるアルキルアミン塩の蒸気圧により、ハライドイオンが混入することが考えられる。本発明においては、これらのハライドイオンを効果的に除去し、高純度のN−アルキルボラジンを製造する方法を提供する。
【0016】
本発明の第1においては、反応後の液のハライドイオンの含有量を、生成したN−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下に低減させた溶液を得る工程を行い、その後蒸留精製することによって、生成物中に含まれるハライドイオンの含有量を低減する。
【0017】
次に、本発明の第1について詳細に説明する。
【0018】
まず、ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアルキルアミン塩とを、溶媒中で反応させてN−アルキルボラジンを合成する。
【0019】
水素化ホウ素アルカリ(ABH)において、Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である。水素化ホウ素アルカリの例としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウムおよび水素化ホウ素カリウムが挙げられる。
【0020】
アルキルアミン塩(RNHX)において、Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよい。アルキル基の有する炭素数は、特に限定されないが、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1個である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、またはシクロヘキシル基などが挙げられる。これら以外のアルキル基が用いられてもよい。アルキルアミン塩の例としては、モノメチルアミン塩酸塩(CHNHCl)、モノエチルアミン塩酸塩(CHCHNHCl)、モノメチルアミン臭化水素酸塩(CHNHBr)、またはモノエチルアミンフッ化水素酸塩(CHCHNHF)などが挙げられる。
【0021】
N−アルキルボラジンは、下記式で表される化合物である。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、Rは、アルキルアミン塩について記載した通りであるため、ここでは説明を省略する。N−アルキルボラジンの例としては、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリ(n−プロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(sec−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(イソブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(t−ブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(2−メチルブチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(ネオペンチル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1,2−ジメチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(1−エチルプロピル)ボラジン、N,N’,N”−トリ(n−ヘキシル)ボラジン、N,N’,N”−トリシクロヘキシルボラジン、N,N’−ジメチル−N”−エチルボラジン、N,N’−ジエチル−N”−メチルボラジン、またはN,N’−ジメチル−N”−プロピルボラジンなどが挙げられる。
【0024】
使用する水素化ホウ素アルカリおよびアルキルアミン塩は、合成するN−アルキルボラジンの構造に応じて選択すればよい。例えば、ボラジン環を構成する窒素原子にメチル基が結合しているN−メチルボラジンを製造する場合には、アルキルアミン塩として、モノメチルアミン塩酸塩などの、Rがメチル基であるアルキルアミン塩を用いればよい。
【0025】
水素化ホウ素アルカリとアルキルアミン塩との混合比は、特に限定されないが、アルキルアミン塩の使用量を1モルとした場合に、水素化ホウ素アルカリの使用量を1〜1.5モルとすることが好ましい。
【0026】
用いられうる溶媒としては、特に制限されないが、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、等が挙げられる。
【0027】
水素化ホウ素アルカリとアルキルアミン塩との反応条件は、特に限定されない。反応温度は、好ましくは20〜250℃、より好ましくは50〜240℃、さらに好ましくは100〜220℃である。上記範囲で反応させると、水素発生量の制御が容易である。反応温度は、K熱電対などの温度センサーを用いて測定されうる。
【0028】
上述の水素化ホウ素アルカリ、アルキルアミン塩、および副生する塩はいずれも有機溶媒に対する溶解度が小さいため、合成によって得られたN−アルキルボラジンを含む反応後の液(第1溶液)は、スラリー状である。このスラリー状の反応後の液に含まれるハロゲン成分の大部分はアルキルアミン塩または副生する塩の形態であり、そのうちの大部分は有機溶媒に溶解しない固体部分として、一部は有機溶媒に溶解して存在する。したがって、固体部分を除去することによって、前記反応後の液に含まれるハライドイオンを大幅に低減させた第2溶液を得て、さらにその後前記第2溶液を蒸留精製することで、ハライドイオンの含有量の非常に少ないN−アルキルボラジンを製造することができる。
【0029】
反応後の液からハライドイオンの含有量を低減させた溶液を得る工程は、特に制限されないが、例えば、濾過、蒸発もしくは蒸留による濃縮、または吸着などの方法で行われうる。
【0030】
濾過の条件は、特に限定されない。環境や規模に応じて、常圧濾過、加圧濾過、減圧濾過などの手段を選択すればよい。濾過材の種類も、特に限定されず、環境や規模に応じて、濾紙、濾過板、カートリッジフィルターなどを用いればよい。また、濾紙の材質についても、特に限定されないが、合成するボラジン化合物の反応性を考慮すると、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製やグラスファイバー製の濾紙等を用いることが好ましい。濾過材の孔径は、析出物の量や大きさに応じて決定すればよい。段階的に濾過材の孔径を小さくしていってもよい。濾過によってN−アルキルボラジンの大部分が溶解した液体成分と、ハライドイオンが多く含まれる固体成分とを分離することができるため、N−アルキルボラジンの質量に対するハライドイオンの含有量を大幅に低減させることができる。
【0031】
吸着の条件は、特に限定されない。ハライドイオンを吸着処理によって除去するには、例えば、イオン交換樹脂などの吸着剤によってハライドイオンを吸着する。吸着剤による処理は、バッチ式でも連続式でもよく、さらには流動床、固定床のいずれの組み合わせでも使用できる。特に、吸着剤を連続式固定床として使用すれば、メンテナンス性に優れるため有利である。このような吸着剤として市販品を使用することもできる。吸着時間や吸着剤の使用量は、含まれるハライドイオンの含有量に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
蒸発または蒸留による濃縮の工程を実施する場合は、反応で副生した塩や未反応のアルキルアミン塩の大部分が含まれる、ハライドイオンの多い固体部分を除去できる。さらに、液体中に溶解しているハライドイオン含有成分のうち、N−アルキルボラジンより蒸気圧の小さい化合物の含有量をも低減することができる。
【0033】
蒸発または蒸留による濃縮のための装置や蒸留条件については特に限定されない。目的とするN−アルキルボラジンに応じて、常圧蒸留や減圧蒸留などの手法を選択すればよい。
【0034】
操作圧力は、混合物の組成、加熱源、冷却源の温度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、副反応の抑制という観点から、減圧下で行うことが好ましい。具体的には60kPa以下が好ましく、30kPa以下がより好ましい。また、同様に塔底温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0035】
または、前記スラリー状の反応後の液から液体成分を蒸発させることによって、液体成分と固体成分とを完全に分離した後に、前記液体成分について蒸留による濃縮を行って粗生成物を得てもよい。反応で副生する塩は、主に前記固体成分中に残るため、液体成分中のハライドイオンの含有量を低減させることができる。
【0036】
また、蒸発または蒸留による濃縮の工程を実施することにより第1溶液から、N−アルキルボラジンを濃縮した第2溶液を取得することができる。蒸発や蒸留による濃縮の工程では、前記第1溶液に含まれるN−アルキルボラジンのうち、少なくとも50質量%以上を前記第2溶液に回収することが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上を回収する。また、得られた第2溶液中のN−アルキルボラジンの濃度は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。これにより第2溶液の蒸留精製時の塔底温度を低く維持できるため、N−アルキルボラジンの品質の安定化に寄与し、用役費の削減の効果がある。
【0037】
ハライドイオンの含有量を低減させた溶液(第2溶液)を得る工程は、上述の濾過、蒸発もしくは蒸留による濃縮、または吸着を組み合わせて行ってもよい。例えば、はじめに前記スラリー状の反応後の液を濾過してすることによってN−アルキルボラジンの濃度の高い液体成分と、ハライドイオンの濃度の高い固体成分とに分離し、その後前記液体成分を蒸留によって濃縮してもよい。
【0038】
前記ハライドイオンの含有量を低減させた溶液を得る工程によって、前記溶液中のハライドイオンの含有量を、前記N−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以下に低減させる。ここで、ハライドイオンの含有量は、イオンクロマトグラフィーによって測定した値を、N−アルキルボラジンの含有量はガスクロマトグラフィーによって測定した値を採用するものとする。
【0039】
次いで、上述の工程によって得られた溶液について蒸留精製を行う。蒸留精製を行うことによって、ハライドイオンの含有量をさらに低減させ、高純度のN−アルキルボラジンを得る。
【0040】
得られたN−アルキルボラジンを蒸留精製するために用いられうる蒸留装置は、多段式蒸留塔のような回分式(バッチ式)蒸留装置または連続式蒸留装置が好適である。多段式蒸留塔である場合における蒸留塔の段数は、特に限定されるものではないが、塔頂(最上段)と塔底(最下段)とを除いた段数が2段以上であることが好ましい。このような蒸留塔としては、例えばラシヒリング、ポールリング、インタロックスサドル、ディクソンパッキング、マクマホンパッキング、スルーザーパッキング等の充填物が充填された充填塔、泡鐘トレイ、シーブトレイ、バルブトレイ等のトレイ(棚段)を使用した棚段塔等、一般的に用いられている蒸留塔が好適である。中でも、オルダーショウ式蒸留塔などのシーブトレイを使用した棚段塔が好ましく用いられうる。また、棚段と充填物層とを併せ持つ複合式の蒸留塔も採用することができる。上記の段数とは、棚段塔においては棚段の数を示し、充填塔においては理論段数を示す。上記段数は、好ましくは3〜100段であり、より好ましくは5〜50段である。
【0041】
蒸留塔の構成としては、リボイラ、コンデンサ等を備えた一般的な構成を採用できる。蒸留塔の本数は限定的ではなく、1本または2本の蒸留塔が使用できる。
【0042】
蒸留塔における圧力操作は、混合物の組成、加熱源、冷却源の温度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、副反応の抑制という観点から、減圧下で行うことが好ましい。具体的には60kPa以下が好ましく、30kPa以下がより好ましい。また、同様に塔底温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。蒸留塔の塔頂における還流比は限定的ではないが、好ましくは0.1〜50、より好ましくは0.3〜30とすればよい。その他の操作条件は、公知の蒸留条件に従えばよい。
【0043】
また、回分式の蒸留を行う際に、除去したい軽沸点成分の濃度が低い場合には、蒸留塔を全還流で保持して還流槽に軽沸点成分を濃縮し、還流槽の組成が安定したところで、槽内の液を短時間で抜き出す方式で軽沸点成分を除去してもよい。この操作を複数回繰り返すことで、軽沸点成分をさらに除去することができる。全還流にて保持する時間は、装置によって異なるが、還流槽の液量に対して、2倍の液が塔頂より留出する時間より長くすることが望ましい。本操作の終了後に、塔底から残存する液を抜きだすか、塔頂から留出させることで、軽沸点成分を低減した液を得ることができる。
【0044】
本発明によって提供されるN−アルキルボラジンは、好ましくは、純度が99.9質量%以上であり、より好ましくは99.92質量%以上であり、特に好ましくは99.95質量%以上である。ここで、N−アルキルボラジンの純度の値は、ガスクロマトグラフィーによって測定した値を採用するものとする。このような高純度のN−アルキルボラジンを用いることにより、半導体素子などの製品の性能を向上させることができる。
【0045】
本発明の第1の製造方法によれば、ハライドイオンの含有量が非常に低いN−アルキルボラジンが得られる。すなわち、本発明の第2は、ハライドイオンの含有量が1質量ppm以下である、N−アルキルボラジンである。ハライドイオンの含有量は、好ましくは0.5質量ppm以下であり、より好ましくは0.1質量ppm以下であり、さらに好ましくは0.05質量ppm以下であり、特に好ましくは0.03質量ppm以下である。ハライドイオンの含有量が少ないほど、半導体用層間絶縁膜などに用いられた場合に半導体の寿命を長くすることができるため、本発明のN−アルキルボラジンは、電子材料などの高純度が要求される用途に適しているといえる。なお、この値は、N−アルキルボラジンの質量を基準として算出される。ハライドイオンの含有量の下限値については特に限定されない。不純物であるため、一般には少ないほど好ましいが、実質的には、0.1質量ppb以上である。複数のハライドイオンが含有される場合には、それらの合計量が上述の範囲であればよい。なお、本願発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであって、上述した本発明の第1の製造方法の技術的範囲が、本発明の第2のN−アルキルボラジンが得られる形態のみに制限されることはない。
【0046】
ハライドイオンは、さまざまな理由でN−アルキルボラジン中に混入されうるが、主な由来は未反応のアルキルアミン塩および副生成物であるアルカリ塩に由来するハライドイオンである。例えばアルキルアミン塩として塩化物を用いた場合、塩化物イオンがN−アルキルボラジン中に混入しうる。
【0047】
N−アルキルボラジン中に混入しているハライドイオンは、イオンクロマトグラフィーを用いて測定されうる。イオンクロマトグラフィーの種類や測定条件については特に限定されない。なお、用いる装置や測定条件によって値が異なる場合には、実施例に記載されている方法で測定した値を採用するものとする。
【0048】
製造されたN−アルキルボラジンは、特に限定されないが、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層、エッチストッパー層などの形成に用いられうる。その際には、N−アルキルボラジンがそのまま用いられてもよいし、N−アルキルボラジンに改変を加えた化合物が用いられてもよい。N−アルキルボラジンまたはN−アルキルボラジンの誘導体を重合させた重合体を、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層の原料として用いてもよい。以下、「N−アルキルボラジン」、「N−アルキルボラジンの誘導体」および「これらに起因する重合体」をまとめて、「ボラジン環含有化合物」と称する。
【0049】
ボラジン環含有化合物を用いて、半導体用層間絶縁膜、バリアメタル層またはエッチストッパー層を形成する手法としては、例えば、ボラジン環含有化合物を含む溶液状またはスラリー状の組成物を調製し、これを所望の部位に塗布することによって、塗膜を形成する手法や化学気相成長成膜法(CVD法)が用いられうる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0051】
<実施例1>
還流管を備えた100Lの反応器を窒素置換した後、アルキルアミン塩として乾燥したメチルアミン塩酸塩8.40kg、トリグライム30.1kgを仕込み、150℃まで昇温した。その後、水素化ホウ素アルカリである水素化ホウ素ナトリウム5.26kgとトリグライム22.2kgとの混合物を、7.5時間かけて供給した。その後、170℃まで昇温し、2時間熟成した。反応中に生成した水素は還流管にて冷却した後、系外へ除去した。得られたスラリー状の反応液(第1溶液)には、N,N’,N”−トリメチルボラジンが3.34kg含まれていた。前記第1溶液中の塩化物イオンの濃度は6.3質量%であった。
【0052】
得られた第1溶液から6.7kPaの減圧下、エバポレータにて液体成分を留去し、液体成分と固体残渣とに分離した。
【0053】
得られた液体成分を蒸留してN,N’,N”−トリメチルボラジンを濃縮した。圧力13kPaにて溶液を加熱し、N,N’,N”−トリメチルボラジンを含んだ留分(第2溶液)を留出させた。留分中のN,N’,N”−トリメチルボラジンの濃度は80質量%であった。また、得られた留分中の塩化物イオンの含有量は、N,N’,N”−トリメチルボラジンの質量に対して15質量ppmであった。
【0054】
得られた留分を内径32mm、20段のガラス製オルダーショウ式蒸留塔を用いて蒸留精製した。塔頂圧力27kPa、還流比5にて蒸留精製を行った。得られたN,N’,N”−トリメチルボラジン中の塩化物イオンの含有量は25質量ppbであった。
【0055】
なお、塩化物イオンの含有量の測定は、イオンクロマトグラフィーによって行った。具体的には、まず、ボラジン化合物をメチルアルコール(関東化学株式会社製;電子工業用メチルアルコール)で20倍に希釈分解させ、さらに超純水で分解物を20倍に希釈することにより分析用加水分解液を調製する。この液を、陽イオン吸着カラムを通過させた後、イオンクロマトグラフィーであるISC−1500(日本ダイオネクス株式会社製)を用いて測定した。
【0056】
<実施例2>
実施例1の反応にて得られたスラリー状の第1溶液から、蒸留にてN,N’,N”−トリメチルボラジンを濃縮した。圧力13kPaにて前記第1溶液を加熱し、N,N’,N”−トリメチルボラジンを含んだ留分(第2溶液)を留出させた。第2溶液は全て液体で固体成分は含まれていなかった。前記第2溶液中のN,N’,N”−トリメチルボラジンの濃度は84質量%であった。また、前記第2溶液中の塩化物イオンの含有量はN,N’,N”−トリメチルボラジンの質量に対して20質量ppmであった。
【0057】
得られた第2溶液を内径32mm、20段のガラス製オルダーショウ式蒸留塔を用いて蒸留精製した。塔頂圧力27kPa、還流比5にて蒸留精製を行った。得られたN,N’,N”−トリメチルボラジン中の塩化物イオンの含有量は30質量ppbであった。
【0058】
<実施例3>
実施例1の反応にて得られたスラリー状の第1溶液を濾過により、液体成分と固体残渣とに分離した。得られた濾液を蒸留してN,N’,N”−トリメチルボラジンを濃縮した。圧力13kPaにて前記濾液を加熱し、N,N’,N”−トリメチルボラジンを含んだ留分(第2溶液)を留出させた。前記第2溶液中のN,N’,N”−トリメチルボラジンの濃度は75質量%であった。また、前記第2溶液中の塩化物イオンの含有量はN,N’,N”−トリメチルボラジンの質量に対して30質量ppmであった。
【0059】
得られた第2溶液を内径32mm、20段のガラス製オルダーショウ式蒸留塔を用いて蒸留精製した。塔頂圧力27kPa、還流比5にて蒸留精製を行った。得られたN,N’,N”−トリメチルボラジン中の塩化物イオンの含有量は25質量ppbであった。
【0060】
<比較例1>
実施例1の反応で得られたスラリー状の反応液を、20段のオルダーショウ式蒸留塔を用いて蒸留した。塔頂圧力27kPa、還流比5にて蒸留を行った。得られたN,N’,N”−トリメチルボラジン中の塩化物イオンの含有量は2質量ppmであった。
【0061】
以上の実施例および比較例に示す結果から、ハライドイオンの含有量をN−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下に低減させた後蒸留精製することによって、ハライドイオンを効果的に除去できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABH(Aは、リチウム原子、ナトリウム原子またはカリウム原子である)で表される水素化ホウ素アルカリと、RNHX(Rはアルキル基であり、Xはハロゲン原子である)で表されるアルキルアミン塩とを溶媒中で反応させてN−アルキルボラジンを合成する工程を含むN−アルキルボラジンの製造方法であって、
反応後の第1溶液からハライドイオンの含有量を前記N−アルキルボラジンに対して1000質量ppm以下に低減させた第2溶液を得る工程、および前記第2溶液から蒸留精製によってN−アルキルボラジンを精製する工程を含む、N−アルキルボラジンの製造方法。
【請求項2】
前記第2溶液を得る工程は、濾過、蒸発もしくは蒸留による濃縮、または吸着によって行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ハライドイオンの含有量が1質量ppm以下である、N−アルキルボラジン。

【公開番号】特開2008−162926(P2008−162926A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352945(P2006−352945)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】