説明

N,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミドにより分離プロセス溶媒中の3,4のアクチノイドイオンを高濃度の硝酸溶液に一括逆抽出する方法

【課題】
原子力分野では、使用済み核燃料又は高レベル放射性廃液中に含まれる様々な元素を抽出・回収し、その後取り扱いやすいように水相に逆抽出する簡便な方法が求められている。一般的に溶媒抽出したアクチノイドイオンを水相に逆抽出するには、希硝酸系で取り扱うことが有効となるが、比較的高い酸性条件で逆抽出できれば加水分解抑制や酸化性雰囲気維持のために都合が良い。
【解決手段】
ジグリコールアミド化合物の一種であるN,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミドを用いて、高い濃度の硝酸溶液中に3,4価のアクチノイドイオンを一括抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
原子力分野では、使用済み核燃料又は高レベル放射性廃液中に含まれる様々な元素を抽出・回収し、その後取り扱いやすいように水相に逆抽出する簡便な方法が求められている。一般的に溶媒抽出したアクチノイドイオンを水相に逆抽出するには、希硝酸系で取り扱うことが有効となるが、比較的高い酸性条件で逆抽出できれば加水分解抑制や酸化性雰囲気維持のために都合が良い。
【0002】
本発明は、分離プロセス溶媒中の3,4価のアクチノイドイオンを高い濃度の硝酸溶液中に一括抽出する方法に関するものである。本発明における一括抽出とは、使用済み核燃料又は高レベル放射性廃液から溶媒抽出されたNp(IV)、Pu(IV)、Am(III)、Cm(III)等の3,4価のアクチノイドを一度に水相中に逆抽出することである。
【背景技術】
【0003】
従来、溶媒抽出したアクチノイドイオンを水相に逆抽出するのには、希硝酸溶液、クエン酸、アミノポリカルボン酸やテトラメチルジグリコールアミド(TMDGA)などの水溶性錯形成剤を用いる方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分離プロセスにおいて、3,4価のアクチノイドイオンを抽出した後に速やかに酸性溶液に逆抽出することは、分離プロセス開発において重要である。従来の課題は次のとおりである。
【0005】
(1)酸性度が薄い場合、Pu(IV)は水酸化物を形成し沈殿する。
(2)クエン酸のような錯形成剤では使用できるpH条件が高く(pH>3)、Pu(IV)の水酸化物が沈殿する可能性がある。ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)に関しては硝酸溶液への溶解度が低い(最大50mM程度)。これらの錯形成剤は下記の文献で参照できる(非特許文献1〜2)。
【0006】
(3)酸性溶液中では、N,N,N’,N’−テトラオクチルジグリコールアミド (TODGA)の抽出能力が高いが、大変強い中性の錯形成剤が必要である。これまでに特許出願した化合物TMDGAでは特に高い濃度の硝酸溶液からAm(III)を逆抽出することができない(非特許文献3)。
【非特許文献1】R.Malmback,etc., Partitioning of minor actinides from HLLW using the DIAMEX process. Part 2-"Hot" continuous counter-current experiment. Radiochim. Acta 88, 865-871 (2000)
【非特許文献2】Morita, etc. Diisodecylphosphoric acid, DIDPA, as an extractant for transuranium elements, Proc. Of Int. Conf. on Evaluation of Engineering Fuel Systems (GLOBAL 1995)
【特許文献1】特願2004−172218号
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジグリコールアミド(DGA)化合物の一種であるN,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミド(TEDGA)を用いて、高い濃度の硝酸溶液中に3,4価のアクチノイドイオンを一括抽出する方法である。本発明のTEDGAは、比較的高濃度の硝酸溶液中でも高い錯形成能力を持っており、又その水溶液は、N,N,N’,N’−テトラオクチルジグリコールアミド(TODGA)を含めた強力な抽出剤を用いて有機溶媒に抽出したAm(III)、Pu(IV)等の3,4価のアクチノイドイオンを稀硝酸から硝酸酸性溶液までの広範囲(0.2〜3M硝酸濃度範囲)な条件で一括逆抽出することができるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の錯形成剤であるTEDGAは、使用済み核燃料(SF)或いは高レベル放射性廃液(HLLW)のような硝酸水溶液から金属イオンを溶媒抽出する際に、溶媒抽出した後のAm(III)、(IV)を0.2〜3M硝酸濃度範囲である広範な硝酸酸性領域の水相に逆抽出することができ、分離プロセスに応用できる。又TEDGAは水溶性化合物でもあることから、現在使用されるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等に代わる放射能除染剤としても使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明においては、次の抽出能力特性を有する錯形成剤を見いたした。
(1)本発明の錯形成剤が、3M硝酸濃度条件でもAm(III)、(IV)の分配比を十分に下げることのできる化合物である。逆抽出の際に水酸化物の沈殿形成を完全に抑制できる。
【0010】
(2)本発明の錯形成剤が3M硝酸溶液に十分溶解可能であり、この時に4MのTEDGAの溶液を調整することが可能である。一方、有機相には殆ど溶解しない。
(3)本発明の錯形成剤が2次廃棄物発生量を低減できる。炭素、水素、酸素、窒素からなる化合物である。
【0011】
(4)本発明の錯形成剤が中性の化合物であり、錯形成時にPu(IV)と水酸化物の沈殿を生成しない。
(5)本発明の錯形成剤が使用後に適切な有機溶媒を用いて回収可能で、再利用することができる。この時にアクチノイドイオンは有機溶媒に移行しない。
【0012】
即ち、本発明の錯形成剤は、ジグリコールアミド(DGA)化合物の一つである、N,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミド(TEDGA)を開発した。この化合物を用いて、0.2MのTODGA/n−ドデカン溶媒から、0.1M以上のTEDGAを溶解した3M硝酸溶液へのAm(III)、Pu(IV)の分配比は、0.1以下であることを確認した。このことは、上の条件で3,4価のアクチノイドイオンを3M硝酸溶液に一括抽出できることを示す。上記分配比は、有機相の金属濃度を水相の金属濃度で割った比で示される。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
TEDGAを用いて、Pu(IV)及びAm(III)の抽出分配比を測定した。水相に各アクチノイドイオンとTEDGAを含む3M硝酸溶液を、有機相に0.2MのTODGA/n―ドデカン溶媒を用いて、得られた分配比をTEDGA濃度に対してプロットした。即ち、上記水相に含まれるアクチノイドを上記有機相に抽出する分配比を検討した。TEDGA濃度が増加するとともにPu(IV)、Am(III)分配比は減少し、TEDGA濃度0.1Mでそれぞれ分配比は概ね0.1かそれ以下あった。
【0014】
なお、TEDGAが存在しない条件で、水相に各アクチノイドイオンを含む3M硝酸溶液を、有機相に0.2MのTODGA/n―ドデカン溶媒を用いて得られた分配比はPu(IV)、Am(III)ともに1000以上である。即ち、水相にTEDGAが存在しない場合には、アクチノイドイオンが有機相に移行して分配比が高いので、分配比が低い方が、Pu(IV)、Am(III)が水相から有機相に抽出されないことを示している。
【0015】
(実施例2)
TEDGAを溶解した水溶液から、各種有機溶媒を用いてTEDGAの回収を検討した。有機溶媒アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノールを用いた場合に1回の抽出操作でのTEDGAの回収量はそれぞれ72,69,53%であった。この回収時にアクチノイドイオンは有機相に移行しない。
【0016】
なお、これにより親水性の高いTMDGAは殆ど有機溶媒に回収できず、また疎水性の高いテトラプロピルジグリコールアミド(TPDGA)はドデカン溶媒にも溶解し、水溶性錯形成剤としての利用が難しいことが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明のTEDGAを逆抽出に使用することにより、SF溶解液又はHLLWから抽出し、有機相に存在する3,4価アクチノイドイオンを第三相、沈殿生成なしに簡便に逆抽出できる。又この逆抽出できる条件を大幅に改善でき、更に水酸化物沈殿などの問題を解決し、円滑な分離プロセス運転を可能にする。本発明のTEDGAは回収・再利用もできるので、経済性の観点からも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】Pu(IV)、及びAm(III)分配比のTEDGA濃度依存性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリコールアミド化合物の一種であるN,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミドを用いて、高い濃度の硝酸溶液中に3,4価のアクチノイドイオンを一括抽出する、N,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミドにより分離プロセス溶媒中の3,4のアクチノイドイオンを高濃度の硝酸溶液に一括逆抽出する方法。
【請求項2】
使用済み核燃料又は高レベル放射性廃液中に含まれるアクチノイドを分離プロセスにおいて有機溶媒により分離抽出し、その分離プロセス溶媒中の3,4価のアクチノイドイオンを水相に逆抽出する際に、N,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミドを含有する高濃度の硝酸溶液を使用することを特徴とする、N,N,N’,N’−テトラエチルジグリコールアミドにより分離プロセス溶媒中の3,4のアクチノイドイオンを高濃度の硝酸溶液に一括逆抽出する方法。
【請求項3】
硝酸溶液の硝酸濃度が0.2〜3Mである請求項2記載の方法。














【図1】
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【公開番号】特開2006−153790(P2006−153790A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−348138(P2004−348138)
【出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】