説明

N,N,N’,N’−テトラキス(2−ピラジニルメチル)エチレンジアミン誘導体およびその中間体

【課題】酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を、効率よく有機相に抽出・分離することができる新しい化合物を提供すること。
【解決手段】下記式(I)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピラジニルメチル)エチレンジアミン誘導体〔式(I)中、R11〜R14は、各ピラジン環上において、並びに4つのピラジン環相互の間において、同一又は異なって、水素または炭化水素基を示す。但し各ピラジン環上には、少なくとも1つの炭化水素基が存在する。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を抽出するのに有用なN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピラジニルメチル)エチレンジアミン(以下「TPEN」)誘導体、およびその中間体に関するものである。さらに本発明は、前記TPEN誘導体を使用する抽出剤および抽出法も提供する。
【背景技術】
【0002】
マイナーアクチノイド元素とは、原子力発電所の使用済燃料を再処理する際に発生する高レベル廃液に含まれるアクチノイド元素のうちウランとプルトニウムを除いたもの(例えばAm等)であり、このマイナーアクチノイド元素の処理が問題になっている。詳しくは、マイナーアクチノイド元素は半減期が長くα崩壊をするため、地層処分するには、地下数百メートルの安定な深地層に充分な広さを持つ処分場を確保する必要がある。そこで、マイナーアクチノイド元素に高速中性子を照射して短半減期核種に変換する処理が検討されている。しかしマイナーアクチノイド元素の中性子処理に際してランタノイド元素が共存すると、マイナーアクチノイド元素よりもランタノイド元素が優先的に高速中性子を吸収してしまうため、マイナーアクチノイド元素を充分に変換・処理することができない。
【0003】
そこでマイナーアクチノイド元素およびランタノイド元素の混合物から、マイナーアクチノイド元素のみを抽出・分離することが求められている。そのための抽出剤として、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン誘導体(以下「TPEN’誘導体」)が検討されている。詳しくは、水相中のマイナーアクチノイド元素を、TPEN’誘導体が溶解している有機相に抽出・分離する液液抽出が検討されている。
【0004】
このようなTPEN’誘導体として、例えば非特許文献1では、下記式で示されるN,N,N’,N’−テトラキス[4−(2−ブトキシ)2−ピリジルメチル]エチレンジアミン誘導体(以下「TBPEN’誘導体」)などが開示されている。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ogata, T., Takeshita, K., Fugate, G. A., and Mori, A.,; “Extraction of Soft Metals from Acidic Media with Nitrogen-donor Ligand TPEN and its Analogs,”Sep. Sci. Technol., 43, (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ピリジン環を有する従来のTPEN’誘導体は、比較的容易にプロトン化されて水溶性が増大するため、酸性水溶液中のマイナーアクチノイド元素を有機相に抽出・分離する能力が低下するという問題がある。
【0008】
そこで上記非特許文献1などでは、疎水性を向上させるために、ピリジン環に更にブトキシ基を導入したTBPEN’誘導体を合成し、酸性水溶液中のマイナーアクチノイド元素の抽出効率を向上させることが検討されている。
【0009】
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を、より一層効率よく有機相に抽出・分離することができる新しい化合物、および該化合物を含有する抽出剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得た本発明の化合物とは、下記式(I)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピラジニルメチル)エチレンジアミン誘導体である。
【0011】
【化2】

【0012】
式(I)中、R11〜R14は、各ピラジン環上において、並びに4つのピラジン環相互の間において、同一又は異なって、水素または炭化水素基を示す。但し各ピラジン環上には、少なくとも1つの炭化水素基が存在する。
【0013】
本発明のTPEN誘導体において、前記R11〜R14は、同一又は異なって、炭素数が1以上12以下である飽和または不飽和の鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【0014】
さらに本発明は、(1)上記TPEN誘導体を含有することを特徴とする抽出剤、及び(2)この抽出剤を使用して、水相中の金属元素を有機相に抽出することを特徴とする抽出方法も提供する。前記金属元素はマイナーアクチノイド元素であることが好ましい。
【0015】
さらに本発明は、上記TPEN誘導体を製造するのに有用な新規中間体、即ち下記式(II)で表されるピラジン誘導体も提供する。
【0016】
【化3】

【0017】
式(II)中、各R21は、同一又は異なって、水素または炭素数が2以上12以下である炭化水素基を示す。但しピラジン環上には、少なくとも1つの炭化水素基が存在する。
Zは、ヒドロキシ基またはハロゲン原子を示す。
【0018】
前記R21は、飽和または不飽和の鎖状炭化水素基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
従来のピリジン環を有するTPEN’誘導体と比べて、本発明のTPEN誘導体はピラジン環を有しているため、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を有機相に効率よく抽出・分離することができる。さらに本発明のTPEN誘導体は、ピラジン環上に炭化水素基を有しているので疎水性が向上し、酸性水溶液中の金属元素の抽出・分離能力が高められている。
【0020】
さらに不飽和炭化水素基を有する本発明のTPEN誘導体から、金属元素の吸着ゲルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のTPEN誘導体は、上記式(I)に示すように、従来のTPEN’誘導体と比べて、ピリジン環ではなくピラジン環を有していることを特徴の1つとする。
【0022】
ピリジン環は金属元素と配位できる窒素原子を1個しか有さないが、ピラジン環は窒素原子を2個有する。そのため従来のTPEN’誘導体やTBPEN’誘導体は窒素原子を分子全体として6個しか有さないが、本発明のTPEN誘導体は、窒素原子を分子全体として10個有する。このような窒素原子数の違いにより本発明のTPEN誘導体は、従来のTPEN’誘導体と比べて、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を効率よく分離・抽出することができる。
【0023】
しかしピリジン環と同様にピラジン環も、酸性水溶液でプロトン化されてその疎水性が低下するという問題が内在する。そこで本発明のTPEN誘導体は、ピラジン環上に少なくとも1つの炭化水素基を有することによって、疎水性を高めていることを特徴の1つとする(上記式(I)中、R11〜R14は、各ピラジン環上において、並びに4つのピラジン環相互の間において、同一又は異なって、水素または炭化水素基を示す。但し各ピラジン環上には、少なくとも1つの炭化水素基が存在する)。
【0024】
TPEN誘導体のピラジン環上に複数の炭化水素基が存在する場合、それらの炭化水素基は同一でも異なっていても良い。また4つのピラジン環相互の間において、R11〜R14の炭化水素基は、同一でも異なっていても良い。
【0025】
本発明のTPEN誘導体の中でも、下記式(I−1)で示されるように、各ピラジン環上の炭化水素基が1つであるものが好ましい。
【0026】
【化4】

【0027】
式(I−1)中、R1〜R4は、同一又は異なって、炭化水素基を示す。R1〜R4が同一の炭化水素基であることが好ましい。R1〜R4の結合位置は、ピラジン環上の3位、5位または6位のいずれでも良いが、5位に結合していることが好ましい。
【0028】
式(I)及び式(I−1)中の炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上である。炭化水素基の炭素数が増加するほど、TPEN誘導体の疎水性が向上し、酸性水溶液からのマイナーアクチノイド元素の抽出・分離を効率よく遂行できる。一方、製造容易性等の観点から、炭化水素基の炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下である。
【0029】
上記炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでも良い。不飽和炭化水素基を有するTPEN誘導体は、これら炭化水素基を架橋させてゲル化することができる。このようにして得られるTPEN誘導体のゲルは、金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)の吸着ゲルとして使用できる。
【0030】
不飽和炭化水素基としては、末端がアリル基(CH2=CHCH2−)またはメタリル基(CH2=C(CH3)CH2−)であるものが好ましく、末端がメタリル基であるものがより好ましい。アリル基またはメタリル基(特にメタリル基)の二重結合は、架橋反応の反応性が高いため、末端にこれらを有する炭化水素基であれば、良好に架橋反応が進行し、TPEN誘導体のゲルを容易に製造できる。
【0031】
本発明のTPEN誘導体は、下記実験例に示すような合成法で製造できる。例えば下記実験例3→実験例4→実験例5という合成経路で、市販試薬の2−メチル−5−ヒドロキシメチルピラジン(化合物4)を出発原料として、3−ブテニル基(炭化水素基)がピラジン環上の5位に結合しているTPEN誘導体(化合物9)を合成している。この出発原料である2−メチル−5−ヒドロキシピラジン(化合物4)は、次式のような反応で合成できる。なお下記略号「mCPBA」は「メタクロロ過安息香酸」を表す。
【0032】
【化5】

【0033】
上記反応で2,5−ジメチルピラジン(化合物1)に換えて2,3−ジメチルピラジンまたは2,6−ジメチルピラジンを用いれば、2−メチル−3−ヒドロキシメチルピラジンまたは2−メチル−6−ヒドロキシメチルピラジンを合成できる。そして、これらを下記実験例に示す合成法の出発原料として用いれば、炭化水素基がピラジン環の3位または6位に結合しているTPEN誘導体を合成できる。
【0034】
また上記反応で化合物1に換えて2,3,5−トリメチルピラジンまたは2,3,5,6−テトラメチルピラジンを用い、そうして得られた化合物を、下記実験例に示す合成法の出発原料として用いれば、ピラジン環上に複数の炭化水素基を有するTPEN誘導体を合成できる。
【0035】
本発明のTPEN誘導体は、上記式(II)で示されるピラジン誘導体の中間体を経由して合成できる。そこで本発明は、上記TPEN誘導体を製造するために有用な中間体として、このピラジン誘導体も提供する。
【0036】
上記式(II)中、R21は、同一又は異なって、水素または炭素数が2以上12以下である炭化水素基を示す。Zはヒドロキシ基またはハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、塩素または臭素が好ましく、塩素がより好ましい。
【0037】
ピラジン誘導体に複数の炭化水素基が存在する場合、それらの炭化水素基は同一でも異なっていても良い。本発明のピラジン誘導体の中でも、下記式(II−1)で示されるように、炭化水素基が1つであるものが好ましい。
【0038】
【化6】

【0039】
式(II−1)中、R5は、炭化水素基を示す。R5の結合位置は、ピラジン環上の3位、5位または6位のいずれでも良いが、5位に結合していることが好ましい。Zは、上述したとおりである。
【0040】
式(II)及び式(II−1)中の炭化水素基の炭素数は、2以上(好ましくは3以上)であり、12以下(より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下)である。また炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでもよい。
【0041】
本発明のTPEN誘導体は、カドミウムやマイナーアクチノイド元素などの金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)の抽出剤として有用である。本発明のTPEN誘導体を含有する抽出剤を用いた抽出方法は、酸性水溶液中の金属元素を有機相に効率よく抽出・分離することができる。この液液抽出に用いる有機相は、本発明のTPEN誘導体を溶解できるものであれば、特に限定は無い。有機相としては、例えばクロロホルムおよびニトロベンゼンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実験例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
なお下記実験例では「式1で表される化合物」等を「化合物1」等と略称する。
【0043】
実験例1
市販の化合物4から、下記合成経路で化合物5を合成した。
【0044】
【化7】

【0045】
窒素ガス雰囲気下、50mL二口ナスフラスコ中で化合物4(504mg、4.06mmol、Ark Pharm;AK−24727市販試薬)を、塩化メチレン6mLに溶解させ、氷浴で0℃に冷却した。そこへ塩化メチレン3mLに溶解させたSOCl2(676mg、5.68mmol)をゆっくりと滴下した。0℃で2時間攪拌した後、イソプロピルアルコール(122mg、2.03mmol)を加えて30分間攪拌し、室温に戻した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水を加えて中和し、分液漏斗へ移し、水相を塩化メチレンで抽出した。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水、水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮した。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=3/1)で精製した。濃縮、真空乾燥を行い、化合物5(淡黄色透明液体)482mg(3.38mmol)を収率83%で得た。
【0046】
化合物5の物性データ
1H−NMR(CDCl3)δ 2.58(2H、s、−CH3)、4.66(2H、s、−CH2−Cl)、8.43(1H、s、Py)、8.59(1H、s、Py)
13C−NMR(CDCl3)δ 21.22、43.80、143.10.143.80、148.93、153.40
【0047】
実験例2
化合物5から、下記合成経路で化合物6(TPEN誘導体)を合成した。
【0048】
【化8】

【0049】
栓付試験管中、化合物5(234mg、1.64mmol、4.0当量)をTHF3.3mLに溶解させ、そこへエチレンジアミン(24.6mg、0.410mmol、1.0当量)、C1633(CH33NCl(52.5mg、0.164mmol、40mol%)、K2CO3(232mg、1.68mmol、4.1当量)を加えて攪拌し、最後にNaI(123mg、0.82mmol、2.0当量)を加えた。窒素雰囲気下、室温で14日間攪拌した後、セライトを用いて反応液を吸引ろ過し(洗液としてCHCl3を使用)、得られたろ液をナス型フラスコに移し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた液体をアルミナカラム(溶媒:CHCl3)で精製した。濃縮、真空乾燥を行い、化合物6(橙色透明液体)180mg(0.372mmol)を収率91%で得た。
【0050】
化合物6の物性データ
1H−NMR(CDCl3)δ 2.42(12H、s、CH3−)、2.71(4H、s、−N(CH2)2N−)、3.71(8H、s、−NCH2Py)、8.24(4H、s、Py)、8.39(4H、s、Py)
13C−NMR(CDCl3)δ 20.97、51.81、57.56、143.24、143.68、150.78、151.86
HREI(+)MS(CH2Cl2)m/z 484.2812(M+、C263010、Δ+0.1ppm/+0.0mmu)
【0051】
実験例3
化合物4から、下記合成経路で化合物7(ピラジン誘導体)を合成した。なお下記略号「LDA」は、系中で発生させた「リチウムジイソプロピルアミド」を表す。
【0052】
【化9】

【0053】
密栓付き二口フラスコ中、窒素雰囲気下、ジイソプロピルアミン(86.4mg、0.854mmol、3.5当量)を無水THF0.75mLに溶解させ、氷浴を用いて0℃に冷却し、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.57M、0.544mL、0.854mmol、3.5当量)をゆっくり滴下した。0℃で30分間攪拌した後、−78℃に冷却し、そこへ無水THF1mLに溶解させた化合物4(30.3mg、0.244mmol、1.0当量)をゆっくり滴下した。30分間攪拌した後、アリルブロマイド(207mg、1.708mmol、7.0当量)を加え、1時間半かけて室温に戻した。室温で1時間攪拌した後、50℃で30分間攪拌し、再度室温に戻し、エーテル2mL及び飽和塩化アンモニア水溶液2mLを加え、30分間攪拌した。その後、溶液を分液漏斗へ移し、有機相を分離した後、水相に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてアルカリ性にし、塩化メチレンで抽出した。有機相を分液漏斗へ移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、濃縮した。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル)で精製した。濃縮、真空乾燥を行い、化合物7(淡橙色透明液体)16mg(0.0974mmol)を収率40%で得た。
【0054】
化合物7の物性データ
1H−NMR(CDCl3)δ 2.50(2H、q、−CH2−)、2.91(2H、t、−CH2−)、3.46(1H、br、−OH)、4.79(2H、s、−CH2−OH)、5.01(2H、m、CH2=)、5.83(1H、m、=CH−)、8.38(1H、s、Py)、8.54(1H、s、Py)
13C−NMR(CDCl3)δ 33.18、34.38、62.64(−CH2OH)、115.78、136.88、141.97、142.94、151.87、155.51
【0055】
実験例4
化合物7から、下記合成経路で化合物8(ピラジン誘導体)を合成した。
【0056】
【化10】

【0057】
窒素ガス雰囲気下、50mL二口ナスフラスコ中で化合物7(204mg、1.24mmol)を塩化メチレン2mLに溶解させ、氷浴で0℃に冷却した。そこへ塩化メチレン1.0mLに溶解させたSOCl2(207mg、1.74mmol)をゆっくりと滴下した。0℃で2時間攪拌した後、イソプロピルアルコール(30mg、0.496mmol)を加えて30分間攪拌し、室温に戻した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水を加えて中和し、分液漏斗へ移し、水相を塩化メチレンで抽出した。有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水、水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮した。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製した。濃縮、真空乾燥を行い、化合物8(淡黄色透明液体)201mg(1.10mmol)を収率89%で得た。
【0058】
化合物8の物性データ
1H−NMR(CDCl3)δ 2.52(2H、q、−CH2−)、2.93(2H、t、−CH2−)、4.67(2H、s、−CH2−Cl)、5.03(2H、m、CH2=)、5.84(1H、m、=CH−)、8.42(1H、s、Py)、8.63(1H、s、Py)
13C−NMR(CDCl3)δ 33.05、34.49、43.91(−CH2Cl)、115.87、136.82、143.44、143.68、149.29、156.40
【0059】
実験例5
化合物8から、下記合成経路で化合物9(TPEN誘導体)を合成した。
【0060】
【化11】

【0061】
20mLナスフラスコ中で、化合物8(149mg、0.817mmol)をTHF1.6mLに溶解させ、そこへエチレンジアミン(11.9mg、0.199mmol)、C1633(CH33NCl(13.1mg、0.0409mmol)、水1.6mL、NaOH(32.7mg、0.817mmol)を加えて攪拌し、最後にKI(136mg、0.817mmol)を加えた。室温で7.5日間攪拌した後、反応液を分液漏斗へ移し、少量の飽和重曹水を加えた後、塩化メチレンで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、濃縮した。得られた液体をアルミナカラムクロマトグラフィー(溶媒:CHCl3)で精製した。濃縮、真空乾燥を行い、化合物9(淡橙色透明液体)123mg(0.175mmol)を収率88%で得た。
【0062】
化合物9の物性データ
1H−NMR(CDCl3)δ 2.46(8H、q、−CH2−)、2.85(8H、t、−CH2−)、3.82(8H、s)、4.99(8H、m、CH2=)、5.81(4H、m、=CH−)、8.31(4H、s、Py)、8.52(4H、s、Py)
13C−NMR(CDCl3)δ 33.09、34.32、51.96、57.64、115.61、137.02、143.23、144.04、151.21、155.02
【0063】
実験例6
化合物4から、下記合成経路で化合物10(ピラジン誘導体)を合成した。
【0064】
【化12】

【0065】
密栓付き二口フラスコ中、窒素雰囲気下、ジイソプロピルアミン(261mg、2.58mmol、5.0当量)を無水THF2.6mLに溶解させ、氷浴を用いて0℃に冷却し、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.57M、1.64mL、2.58mmol、5.0当量)をゆっくり滴下した。0℃で30分間攪拌した後、−78℃に冷却し、そこへ無水THF1mLに溶解させた化合物4(64mg、0.516mmol、1.0当量)をゆっくり滴下した。30分間攪拌した後、メタリルクロライド(234mg、2.58mmol、5.0当量)を−40℃で加え、1時間半かけて室温に戻した。室温で1時間攪拌した後、50℃で30分間攪拌し、再度室温に戻し、エーテル2mL及び飽和塩化アンモニア水溶液2mLを加え、30分間攪拌した。その後溶液を分液漏斗へ移し、有機相を分離した後、水相に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてアルカリ性にし、塩化メチレンで抽出した。有機相を集めて分液漏斗へ移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水、飽和食塩水で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過、濃縮した。得られた液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=3/1)で精製した。濃縮、真空乾燥を行い、化合物10(黄色透明液体)23.6mg(0.132mmol)を収率26%で得た。
【0066】
化合物10の物性データ
1H−NMR(CDCl3)δ 2.50(2H、q、−CH2−)、2.91(2H、t、−CH2−)、3.46(1H、br、−OH)、4.79(2H、s、−CH2−OH)、5.01(2H、m、CH2=)、5.83(1H、m、=CH−)、8.38(1H、s、Py)、8.54(1H、s、Py)
13C−NMR(CDCl3)δ 33.18、34.38、62.64(−CH2OH)、115.78、136.88、141.97、142.94、151.87、155.51
【0067】
実験例7
化合物9(TPEN誘導体)から、以下のようにしてゲル体を合成した。
化合物9(66.6mg、0.095mmol、5.0mol%)、N−イソプロピルアクリルアミド(215mg、1.9mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(10.8mg、5質量%)を無水DMF0.211mL(0.75mL/g)に溶解させ、窒素ガスで約15分間バブリングした。窒素置換した状態で試験管の栓を締め、60℃で18時間攪拌することで、橙色ゲルが生成した。室温に戻した後、蒸留水を加え、上澄みを除去する操作を5回繰り返した。この際、ゲルが低温で膨潤することを確認した。また蒸留水を加え、試験管を湯浴に浸すことによって、ゲルが収縮することを確認した。この収縮したゲルを試験管から取り出し、口広のサンプル瓶に移した。サンプル瓶を氷浴に浸しゲルを膨潤させ、その状態で上澄みを除去し、蒸留水を加える操作を5回繰り返した。室温で一晩放置し、ゲルが水に溶解していないことを確認した。再度上澄みを除去し、蒸留水を加えることで、温度変化に応答して体積相転移する化合物9の感温性ゲル(淡橙色)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のTPEN誘導体は、酸性水溶液中の金属元素(特にマイナーアクチノイド元素)を有機相に効率よく抽出・分離することができる。また不飽和炭化水素基を有する本発明のTPEN誘導体から、金属元素の吸着ゲルを製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるN,N,N’,N’−テトラキス(2−ピラジニルメチル)エチレンジアミン(以下「TPEN」)誘導体。
【化1】


〔式(I)中、R11〜R14は、各ピラジン環上において、並びに4つのピラジン環相互の間において、同一又は異なって、水素または炭化水素基を示す。但し各ピラジン環上には、少なくとも1つの炭化水素基が存在する。〕
【請求項2】
前記R11〜R14は、同一又は異なって、炭素数が1以上12以下である飽和または不飽和の鎖状炭化水素基である請求項1に記載のTPEN誘導体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のTPEN誘導体を含有することを特徴とする抽出剤。
【請求項4】
請求項3に記載の抽出剤を使用して、水相中の金属元素を有機相に抽出することを特徴とする抽出方法。
【請求項5】
前記金属元素はマイナーアクチノイド元素である請求項4に記載の抽出方法。
【請求項6】
下記式(II)で表されるピラジン誘導体。
【化2】


〔式(II)中、各R21は、同一又は異なって、水素または炭素数が2以上12以下である炭化水素基を示す。但しピラジン環上には、少なくとも1つの炭化水素基が存在する。
Zは、ヒドロキシ基またはハロゲン原子を示す。〕
【請求項7】
前記R21は、飽和または不飽和の鎖状炭化水素基である請求項6に記載のピラジン誘導体。

【公開番号】特開2010−189339(P2010−189339A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36792(P2009−36792)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】