説明

NDフィルタ及び光学装置

【課題】薄膜中の酸素が移動する事で生じる光学特性の経時変化を改善し、環境安定性を向上させたNDフィルタを提供する。また、NDフィルタを用いた光学装置の撮像結果に対する経時変化の影響を低減させる。
【解決手段】光透過性を有する基板13と、可視波長領域の少なくとも一部の領域において光を吸収する金属化合物を含んで構成される屈折率傾斜薄膜12と、を有し、屈折率傾斜薄膜12は、少なくとも、前記金属化合物と、前記金属化合物とは異なる化合物と、からなる組成その膜厚方向へ連続的に変化するNDフィルタ。また、本発明のNDフィルタ14を用いた光学系を用いることで、撮像素子で得られる撮影像の経時変化を低減させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNDフィルタに関するものである。また本発明はNDフィルタを用いて撮像素子で撮像する光学系に用いられる光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光量絞りは銀塩フィルム、或いはCCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものであり、被写界が明るくなるにつれ、より小さく絞り込まれていく構造になっている。
【0003】
したがって、快晴時や高輝度の被写界を撮影する際、絞りはいわゆる小絞り状態となり、絞りのハンチング現象や光の回折現象などの影響を受け易い事から、像性能に劣化を生じさせる場合がある。
【0004】
これに対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタを配置するか、若しくはNDフィルタを絞り羽根に直接貼り付ける事で光量の制御を行い、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる様な工夫をしている。
【0005】
近年では撮像素子の感度が向上するに従い、NDフィルタの濃度を濃くして、光の透過率をさらに低下させ、高感度の撮像素子を使用した場合であっても、絞りの開口が小さくなり過ぎないようにする改善がなされてきた。
【0006】
NDフィルタを形成する基板には、ガラスなどの透明基板が用いられる場合もあるが、任意形状への加工性や、小型化・軽量化などの要望が高い場合は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)と言った様々なプラスチック材料が使用されるようになってきている。これらの中でも特に、耐熱性や柔軟性、さらにはコスト的な要素も含めた総合的な観点より、Arton(JSR社製:製品名)やZeonex(日本ゼオン社製:製品名)などに代表されるノルボルネン系の樹脂や、ポリイミド系の樹脂などが好適な基材の1つである。
【0007】
吸収タイプのNDフィルタには、基板中に光を吸収する有機色素または顔料を混ぜて練り込むタイプのものや、光を吸収する有機色素または顔料を塗布するタイプのものなどがあるが、これらのタイプでは、分光透過率の波長依存性が大き過ぎると言った致命的な欠点がある。したがって、現在では蒸着法やスパッタ法など真空成膜法により、プラスチックやガラスなどの透明基板上に、多層膜を生成する事でNDフィルタを作製するのが最も一般的な作製手法となっている。
【0008】
以上のような、多層膜により構成された吸収タイプのNDフィルタは、光の吸収を発現する吸収層に、比較的消衰係数の大きい金属膜や金属酸化膜が用いられている。しかし、金属膜や金属酸化膜は酸化が進み易く、その結果消衰係数が減少する事で吸収が減り、透過が上昇する事が知られている。このような酸素は、基板や大気などの周囲環境、さらには吸収層を挟み込んでいる誘電体層から供給される。
【0009】
これらの中でも特に薄膜中においては、組成が大きく変わる界面付近で酸素の移動が起こり易い。このような環境性の向上策として、特許文献1では、酸化による影響の少ない金属窒化膜により吸収膜を作製する方法が提案されている。また特許文献2では酸素雰囲気で加熱する事で、所謂エージング効果から酸化を飽和させる事で環境性を改善する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−322709号公報
【特許文献2】特開2003−043211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1で示されたような、吸収層に低級金属窒化膜を用いて、透過率の変動を抑制する方法の場合、低級金属窒化膜は金属膜や金属酸化膜と比較し、消衰係数が小さい為、膜厚が厚くなってしまう事から、膜応力が大きくなったり、生産性が悪くなったりする問題が生じる。
【0012】
また、特許文献2で示されている、エージング効果によって透過変化を抑制する方法の場合、応力的な問題やプロセス上の熱的な問題などから吸収層を薄く構成する必要がある場合などには、吸収層の界面付近のみを酸化させ安定させる事が難しく、内部まで酸化が進行してしまい、高い濃度を実現する事が困難になる場合が多い。
【0013】
以上より、本発明の目的は、薄膜中の酸素が移動する事で生じる光学特性の経時変化を抑制し、環境安定性を向上させたNDフィルタを提供する事にある。また、このようなNDフィルタを用いることで撮影画像の画質安定性を改善した光学装置を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のNDフィルタは、光透過性を有する基板と、前記基板上に可視波長領域の少なくとも一部の領域において光を吸収する金属化合物を含んで構成される屈折率傾斜薄膜と、を備え、前記屈折率傾斜薄膜は、少なくとも、前記金属化合物と、前記金属化合物とは異なる化合物と、からなる組成がその膜厚方向に連続的に変化していることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の光学装置は、上述のNDフィルタを光学系に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、薄膜中に界面が無く、薄膜中の前後位置で非常に近い組成を持つ構造とする事で、酸素の移動が起こり難い安定した状態を維持できる為、光学特性の経時変化など、環境安定性を向上させたNDフィルタを得る事が可能である。また、このようなNDフィルタを光学装置に用いることで撮影画像の安定性を向上させた光学装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率分布例である。
【図2】本発明に係る光学フィルタの構成例である。
【図3】本発明に係る光学フィルタの構成の変形例である。
【図4】本発明に係る屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイル例である。
【図5】本多層膜と屈折率傾斜薄膜の電子顕微鏡図である。
【図6】本発明に係るTiOとTiの分光透過率特性の例である。
【図7】本発明の実施に用いたスパッタ装置の概略平面図である。
【図8】実施例1により作製された光学フィルタの分光反射率特性である。
【図9】比較例1としての光学フィルタの構成図である。
【図10】比較例1により作製されたNDフィルタの分光反射率特性である。
【図11】実施例1と実施例2の分光透過特性の比較図である。
【図12】ピラ−アレイ状の微細周期構造体の概略図である。
【図13】微細周期構造体の配列例である。
【図14】実施例3により作製された光学フィルタの構成図である。
【図15】実施例3に記載の光学フィルタの構成例である。
【図16】実施例3における屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイルである。左方に基板が配置され、右方に反射防止構造体が配置される。
【図17】実施例3により作製された光学フィルタの分光反射率特性である。
【図18】実施例4のNDフィルタを用いた光量絞り装置の説明図である。
【図19】実施例4のNDフィルタを用いた光学撮影装置の光学系の説明図である。
【図20】実施例5のNDフィルタを用いた光学測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかるNDフィルタは、光透過性を有する基板と、光吸収性を有する金属酸化膜を含んで構成される屈折率傾斜薄膜を有する。屈折率傾斜薄膜上に反射防止構造体を設けてもよい。
【0019】
基板としては、光学フィルタの基板としての強度や光学特性を有するものであり、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の形成用の基体として機能可能であるものが利用される。基板としては、ガラス系の材料からなる基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルホン)、PC(ポリカーボネート)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)及びPMMA(ポリメチルメタクリレート)等から選択した樹脂材料からなる基板を用いることができる。
【0020】
屈折率傾斜薄膜は光吸収性を有する薄膜であり、その厚さ方向において屈折率傾斜薄膜の光吸収性は、目的とする光学フィルタの機能や特性に応じて設定される。入射光の所定の波長に対して、少なくともおよそ1%程度が吸収される場合に、当該波長に対して光吸収性を持つといえる。
【0021】
屈折率傾斜薄膜は可視波長領域の少なくとも一部の領域において光を吸収する金属化合物を含んで構成され、屈折率傾斜薄膜の組成を連続的に変化させることで隣合う組成が近くなり酸素の移動が低減される。
【0022】
屈折率傾斜薄膜は、その厚さ方向において連続的かつ周期的に変化する屈折率変化を有する。この屈折率変化は、
(1)連続的な屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜内の膜厚方向に対して膜厚当たり最大の変化率になる部分と、
(2)前記屈折率傾斜薄膜の前記基板近傍及び前記屈折率傾斜薄膜の前記基板から離れて隣接する媒質近傍において、(1)の部分の屈折率変化に比べて屈折率変化が緩やかになる部分と、
(3)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように変化する部分と、
(4)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように変化する部分とを有することが好ましい。
【0023】
屈折率傾斜薄膜は、基板の屈折率に近づくように膜厚方向に連続的または段階的に屈折率変化し、基板と、大気又は屈折率傾斜薄膜に隣接する構造体(例えば反射防止構造体)との屈折率差を低減しても良い。
この膜厚方向の屈折率変化を膜厚方向において複数の領域に分けた場合に、屈折率傾斜薄膜は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域とを有する。好ましくは、屈折率傾斜薄膜の組成は、膜厚方向へ連続的に変化する。組成が連続的に変化することによって、反射防止効果や環境安定性が向上する効果を得られる。また、屈折率傾斜薄膜に隣接している構造体が反射防止構造体である場合は、屈折率傾斜薄膜は、基板と反射防止構造体の屈折率差を低減する。屈折率傾斜薄膜の基板側端部の屈折率と屈折率傾斜薄膜の反射防止構造体側端部の屈折率差が、基板と反射防止構造体の屈折率差より小さくなるように設定する。特に好ましくは、基板の屈折率と反射防止構造体の屈折率を連続的に繋ぐように変化する。また基板の片面に設けた屈折率傾斜薄膜の反対側の面に少なくとも反射防止構造体及び屈折率傾斜薄膜のいずれか一方を備えることで基板両面の反射を低減してもよい。
【0024】
なお、上記の屈折率変化の基板側終点とは、例えば、図1におけるAで示された点であり、反射防止構造体側の終点はBで示された点である。図1に示す例では、屈折率分布の変化の基板側終点(あるいは起点)Aを含む末端部分において、この点Aを含む末端部分において屈折率傾斜膜の屈折率が基板の屈折率に近づくように変化している。屈折率分布の変化の反射防止構造体終点(あるいは起点)Bを含む末端部分においても同様に、この点Bを含む末端部分において屈折率傾斜膜の屈折率が反射防止構造体の屈折率に近づくように変化している。なお、点Aは基板側界面に位置してもよい。また、点Bも反射防止構造体側の界面に位置してもよい。また図1のA及びB近傍は、隣接する媒体の近傍であるため、屈折率変化がA及びBの間の屈折率を連続して変化させる膜厚当たりの最大の屈折率変化となる部分Cの屈折率変化より屈折率変化が緩やかな変化となっている。隣接媒体の近傍で屈折率変化が緩やかになっているため、屈折率傾斜薄膜の構造体内部よりも酸化が起こりやすい部分で、さらに組成を安定させ環境安定性を向上させることができる。
また反射防止構造体を設けた場合、反射防止構造体の屈折率に近づけることで、反射防止構造体との屈折率差による反射も低減させることができる。
【0025】
なお、上記の屈折率変化の基板側終点とは、例えば、図1におけるAで示された点であり、反射防止用の微細周期構造体側の終点はBで示された点である。図1に示す例では、屈折率分布の変化の基板側終点(あるいは起点)Aを含む末端部分において、屈折率傾斜膜の屈折率が基板の屈折率に近づくように変化している。屈折率分布の変化の反射防止構造体終点(あるいは起点)Bを含む末端部分においても同様に、屈折率傾斜膜の屈折率が反射防止構造体の屈折率に近づくように変化している。なお、点Aは基板側界面に位置してもよい。また、点Bも反射防止構造体側の界面に位置してもよい。また、連続的な変化や微小な屈折率差であれば反射は大きく低減でき、屈折率変化が滑らかで隣接する構造体、すなわち基板または微細周期構造体の屈折率に、屈折率が大きい方から近づいても、屈折率が小さい方から近づいてもよい。屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における基板側の端部の屈折率と基板の屈折率の差aと、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向における微細周期構造体側の端部の屈折率と微細周期構造体の屈折率の差bとの和(a+b)が、屈折率傾斜薄膜の両面に隣接する2つの構造体間の屈折率差よりも小さくなっていればよい。
つまり、屈折率傾斜薄膜の屈折率が、基板の屈折率と微細構造体を構成する材料の屈折率との屈折率差を低減するように膜厚方向に屈折率変化するとは、基板の屈折率Aと微細周期構造体の屈折率Bとの屈折率差|A−B|と(a+b)の関係が、|A−B|>a+bが成り立つことである。なお、この関係は、後述する図2及び図14における基板、他の屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の場合おいても同様である。
【0026】
なお、成膜方法によっては、基板上に形成される薄膜の最初の部分での厚さ方向の屈折率が一定である部分が生じても良い。例えば、後述するとおり、基板上に屈折率傾斜薄膜を成膜する際に、複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させて膜厚方向での屈折率の連続的な変化を形成する。その際、一定の成膜材料濃度で成膜を開始してから、ある時間経過後に複数の薄膜形成用材料の配合比を変化させることができる。その場合には、上記のような厚さ方向における屈折率の変化がない部分が生じてもよい。
【0027】
基板側の屈折率変化の終点における屈折率は、基板の屈折率と同じか、あるいは、基板の屈折率に対して、目的とするNDフィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。反射防止構造体側の屈折率変化の終点における屈折率も同様に、反射防止構造体の屈折率と同じか、あるいは、反射防止構造体の屈折率に対して、透過光の波長または波長領域における目的とするNDフィルタの特性において許容される屈折率差の範囲内の屈折率であればよい。これらの屈折率差は0.05以下が好ましい。従って、上述した厚さ方向における屈折率の変化がない部分が基板側の界面に接して存在する場合についても、この屈折率変化のない部分の屈折率が、基板の屈折率に対して0.05以内の屈折率差を有することが好ましい。この点は、反射防止構造体側の界面に接して厚さ方向における屈折率の変化がない部分が存在する場合においても同様である。
【0028】
屈折率傾斜薄膜の厚さ方向の屈折率の変化の幅は、目的とする光学フィルタの特性や屈折率傾斜薄膜形成用の材料の種類やその組合せなどによって各種設定できる。例えば、屈折率傾斜薄膜の厚さ方向において、3種類の元素を用いて、SiOからなる領域からTiOからなる領域に変化させる場合は1.47〜2.70程度の範囲内で変化させることができる。
屈折率傾斜膜の膜厚は、目的とする機能に応じて適宜選択できる。屈折率傾斜膜の膜厚は、10〜4000nm、より好ましくは100〜1000nmとすることができる。
【0029】
反射防止構造体は、所望のNDフィルタの光学特性を得るために必要とされる反射防止機能を有するものであればよい。反射防止構造体としては、可視光の波長よりも短いピッチで多数の微細な突起が配列された面を有する微細構造体、あるいは可視光の波長よりも短いピッチでの凹凸の繰り返しを設けた面を有する微細構造体を用いることができる。この微細構造体としては、ランダムに形成された針状体及び柱状体等の突起、階段形状に微細に形成された凹凸構造の突出部または凹部によって大気や隣接する媒体との屈折率差を低減したものも含む。この微細構造体としては、公知の微細構造体から目的に応じて選択したものを用いることができる。例えば、基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期で配置された多数の突起からなる周期構造、あるいは基板を透過する可視光の波長よりも短い繰返し周期の凹凸構造からなる周期構造を持つ微細周期構造体であれば、光ナノインプリントなどの方法を用いて再現性良く作成することができる。その他の反射防止構造体としては、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜を用いることができる。単層または複数層の反射防止膜では、屈折率傾斜薄膜に隣接する層の屈折率と前記基板の屈折率との屈折率差を低減するように、屈折率傾斜薄膜は膜厚方向に屈折率変化する。
【0030】
なお、基板と、膜厚方向に屈折率が連続的に変化する屈折率傾斜薄膜と、所望の光の波長領域において反射防止効果を発現する反射防止構造体とを、それぞれこの順番に隣接させ配置する事で、NDフィルタ内での光の反射率を著しく低減させることができる。そこで、本発明では、膜厚方向において連続的に、好ましくは連続的かつ周期的に屈折率が変化する薄膜を用い、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の屈折率の関係を上記の(3)及び(4)のように設定している。
【0031】
しかしながら、光吸収性を屈折率傾斜薄膜に持たせたNDフィルタとする場合には、単に、基板と微細周期構造体との間に屈折率傾斜薄膜を配置した構成では、色バランスなど、高画質化に必要とされる、分光透過特性を調整し向上させる事は大変困難である。そこで、本発明の好ましい構成では、基板への入射光に対して、分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域が、前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向に配置されていることにより、屈折率傾斜薄膜の分光透過特性分光透過特性の平坦性を向上させたNDフィルタを得る事が可能となる。
【0032】
また、基板の両面の各々に前記屈折率傾斜薄膜を有する構成とすることで、それぞれの膜応力を相殺させ、基板の反り等を防止することができる。
【0033】
本発明にかかるNDフィルタの構成は、特に経時劣化が問題となる光学装置に用いられるNDフィルタに用いることで、環境安定性を向上させ画像劣化を防止することができる。
【0034】
なお、基板と、膜厚方向に屈折率が連続的に変化する屈折率傾斜薄膜と、所望の光の波長領域において反射防止効果を発現する反射防止構造体とを、それぞれこの順番に隣接させ配置する事で、光学フィルタ内での光の反射率を著しく低減させることができる。光吸収性を屈折率傾斜薄膜に持たせた光学フィルタにおける色バランスなど、高画質化に必要とされる、分光透過特性を調整し向上させるためには、膜厚方向において段階的または連続的に、好ましくは連続的かつ周期的に屈折率が変化する薄膜を用い、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の屈折率の関係を上記の(1)〜(4)のように設定することが好ましい。この好ましい構成により、反射を著しく低減し、分光透過特性の平坦性を向上させた吸収タイプの光学フィルタを得る事が可能となる。
【0035】
(実施例1)
図2のように構成した、吸収タイプのNDフィルタについて、以下に詳しく記載する。
【0036】
なお、以下に説明する実施態様及び各実施例における屈折率は、基板、屈折率傾斜薄膜及び反射防止構造体の構成材料から540nmの波長の光での屈折率として特定できるものである。
【0037】
図2に示したように、基板13の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜12を配置した。また、屈折率傾斜薄膜12上に反射防止構造体111を配置し、基板13の裏面にも反射防止構造体112を配置した場合、さらに反射防止効果を得ることができる。また、屈折率傾斜薄膜12は膜中の少なくても一部に吸収を持っている。
【0038】
図2のような構成の場合、基板の裏面での反射が大きくなってしまう為、この面にも何らかの反射防止構造体112が必要となる場合が多い。このような反射防止構造体111、112としては、図3(a)〜(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体151、152や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜161、162が挙げられる。更には、図3(c)〜(d)中に示したように、微細周期構造体15と反射防止膜16を併用した構成などが挙げられる。適宜最適な構成を選択すれば良い。このような構成であれば、例えば撮像素子側にフィルタのどちらの面を向けても、フィルタの反射に起因したゴ−スト光の発生を抑制する事ができるなど、フィルタの方向を選ばず光学系内に配置する事も可能となる。
【0039】
図3(a)〜(d)中でも、反射低減の観点からは図3(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、後述する本発明の実施例3では反射防止構造体として、基板の両側の面で微細周期構造体を形成した。
【0040】
ここで、例えば図3(b)のような多層膜構成の反射防止膜161や162と同様の効果を持つ機能を屈折率傾斜薄膜12中に組み込む事も可能である。その場合は、表層の界面付近における所定の領域内で、屈折率を周期的に、且つ連続的に複数回増減させ、外気との界面反射防止用の屈折率プロファイルが必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設けた構成とみなすことができる。また、反射防止膜の作成に際して、屈折率傾斜薄膜上に、屈折率傾斜薄膜の作成に使用する材料と異なる材料を使用し、屈折率が周期的かつ連続的に変化する反射防止膜を作成してもよい。
【0041】
<屈折率傾斜薄膜について>
屈折率傾斜薄膜12は、メタモ−ドスパッタ法により、SiOとTiOx膜の成膜レ−トを調整しながら、この2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で連続的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。
【0042】
このような連続的な屈折率プロファイルを持つ屈折率傾斜薄膜の例が図1及び図4である。図1では、比較的高屈折率を持つ基板から、屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体の順に積層されている。そして、膜厚方向に対し、基板側から連続的に屈折率が増減するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。
【0043】
このような屈折率傾斜薄膜の設計手法は以前より各種様々な方法が検討されており、連続的な変化とは異なり、階段状に徐々に屈折率が変化するステップ型の屈折率分布であっても、この屈折率分布を調整する事で、連続的なインデックス変化を持たせた膜と、略同様の光学特性を得る事も可能である事が判明している。しかし、反射低減などにおいては、連続的な屈折率変化を持った方が、より理想的な特性を得る事ができ、さらに薄膜中で界面が無くなり前後の膜組成が非常に近くなる事から、膜の密着強度の向上や、環境安定性の改善などの効果が現れる。このような観点からは、屈折率が連続的に変化する屈折率分布を選択する方が良い。
【0044】
このような屈折率傾斜薄膜の屈折率プロファイル例が図1である。図1では比較的高屈折率を持つ基板から、屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体のような反射防止構造体の順に積層されている場合を示した。そして、膜厚方向に対し、基板側から連続的に屈折率が増減するような変化を持っており、屈折率傾斜薄膜両端の界面に向かうにつれ、それぞれ隣接する構造体の屈折率に近づくような変化をとっている。図1に示した構成では、構造体として図1の左側に基板が右側に反射防止構造体が配置されている。反射防止構造体を形成しない場合では、隣接する媒質である例えば大気、水、有機媒体等に近づくように屈折率を変化させる。この際、隣接する媒質近傍では、屈折率変化が緩やかであることが好ましい。屈折率変化が緩やかであることで、膜厚方向前後の組成が近づき環境安定性がさらに向上する。また、隣接する媒質近傍で、酸素供給が行われやすい環境である場合、さらに経時変化の影響を低減させることができる。そのため図1のA及びB近傍は、屈折率変化がA及びBの間の屈折率を連続して変化させる膜厚当たりの最大の屈折率変化となる部分Cの屈折率変化よりも、膜厚当たりの屈折率変化が緩やか、すなわち小さな変化としている。膜厚当たりの最大の屈折率変化となる部分Cは、吸収特性等を考えA、B間で適宜設計することができる。
【0045】
本発明の光学フィルタの構成とすると環境安定性の向上とともに、膜厚当たりの屈折率差を小さくすることで屈折率傾斜薄膜内での内部反射を低減することができる。
【0046】
屈折率傾斜薄膜は、膜面に垂直な方向、つまり膜厚方向に屈折率が連続的、好ましくは連続的かつ周期的に変化している薄膜の事である。膜厚方向に屈折率が、連続的かつ周期的に変化している膜は、ルゲ−ト膜、ルゲ−トフィルタなどとして呼ぶことも可能である。図5に多層膜と屈折率傾斜薄膜の電子顕微鏡写真の模式図を示す。図5(a)は多層膜の膜厚方向断面の模式図であり、図5(b)が屈折率傾斜薄膜の断面の模式図である。例えば、色の濃い部分がSiOで、色の薄い(白抜き)部分がTiOとすると多層膜は、膜の界面が明確に分かれているのに対して、屈折率傾斜薄膜は、多層膜と異なり、膜の界面が明確に分かれていない。また、屈折率傾斜薄膜の屈折率変化の大きい部分ではコントラストが強くなる。
【0047】
また、深さ方向分析によって得られた結果を、縦軸に濃度(強度)、横軸に深さ(膜厚など対応するパラメーター)を取ったプロットをデプス・プロファイルという。
【0048】
測定試料の表面から内側に向かって組成分布を調べる深さ方向分析において、ミクロンオーダー以下の分析には加速イオンを用いて表面を削り取りながら分析する手法が良く用いられる。この方法はイオンスパッタリング法と呼ばれ、X線光電子分光法(XPS)やオ−ジェ電子分光法(AESまたはESCA)などとして知られており、基板表面に層を形成した構造を持った光学部品や電子部品、機能材料の評価に多く用いられている。
【0049】
これらのX線光電子分光法では、超高真空中で試料にX線を照射し、放出される電子(光電子)を検出する。放出される光電子は、対象となる原子の内殻電子に起因するものであり、そのエネルギーは元素ごとに定まることから、エネルギ−値を知ることで定性分析を行う事が可能である。このように屈折率傾斜薄膜中の膜厚方向における組成の変化を評価し、デプス・プロファイルを得る事により、所望の屈折率分布を得る事ができているのかを確かめる事が可能である。
【0050】
このような屈折率傾斜薄膜の設計手法は以前より各種様々な方法が検討されており、連続的な変化とは異なり、階段状に徐々に屈折率が変化するステップ型の屈折率分布であっても、この屈折率分布を調整する事で、連続的なインデックス変化を持たせた膜と、略同様の光学特性を得る事も可能である事が判明している。しかし、反射低減などにおいては、連続的な屈折率変化を持った方が、より理想的な特性を得る事ができる。さらに薄膜中で界面が無くなり前後の膜組成が非常に近くなる事から、膜の密着強度の向上や、環境安定性の改善などの効果が現れる。このような観点からは、屈折率が連続的に変化する屈折率分布を選択する方が良い。
【0051】
スパッタ法や蒸着法など、近年の成膜手法の発展により、屈折率の範囲は限定される事があるものの、少なくてもその範囲内では任意の屈折率を得ることができる。
例えばスパッタ法においては、2種類の材料に対して同時に放電し、各材料の放電パワー、つまりターゲットへの投入パワ−を変化させ、混合比を変える事で、2つの物質の間の屈折率を持つ、中間屈折率材料を作製する事が可能である。また、混合する種類は2種類以上であっても良い。
【0052】
このようなスパッタ法の場合、1つの材料を低パワ−としていくと、放電が不安定になる場合がある。メタモードスパッタの場合は、反応モードになってしまったりするなどの不具合が生じる。従って、2物質間の全ての屈折率を実現する為には、例えばマスク法により成膜量をコントロ−ルするなど、投入パワ−以外の要素も並行して調整し、膜厚を制御する必要があるが、この場合は、装置の機構や、制御が少なからず複雑化する。
【0053】
以上より、メタモードスパッタ法においては、放電を安定的に維持、制御できる範囲内で屈折率を変化させた。また、膜厚方向に屈折率を連続的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させることも可能である。このように、本実施態様の構成においては、屈折率傾斜薄膜の膜厚方向において、Ti、Si、Oの3種元素の組成比を連続的に変化させる事で、屈折率及び消衰係数を連続的に変化させる事ができる。他の物質を使用した場合や、屈折率傾斜薄膜を構成する物質の種類が増えた場合であっても、同様に調整する事が可能である。また、薄膜の密度を連続的に変化させる事でも組成を連続変化させる事が可能である。
【0054】
また、膜厚方向に屈折率を連続的に変化させる事に加え、TiOxのxを膜厚方向で変化させ、消衰係数も変化させる事で、屈折率傾斜薄膜12中の吸収特性を調整した。後述する実施例2及び3では、可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、膜総体として分散が小さい平坦な特性となるようにした。
【0055】
一例を示すと、xが1相当となるTiOでは可視波長領域での分光透過特性が図6中の(a)のように、長波長側につれ徐々に高くなるような特性になる傾向がある。xが1.5相当となるTiでは可視波長領域での分光透過特性が図6中の(b)のように、長波長側になるにつれ徐々に低くなるような特性になる傾向がある。そこで、これらのように、分散形状が相反する領域を屈折率傾斜薄膜12の膜厚方向に配置した組合せを1以上設ける事で、総体として分光透過特性を平坦に調整した。一般的な光学薄膜に使用される金属酸化物において金属と酸素の割合が変化する場合には同様な傾向を示す。透過率に関連する係数である消衰係数の異なる2種類以上の金属酸化物の透過率の波長依存性が互いに変化を相殺し合う関係にあることにより、多層膜構成であれば、平坦な透過率特性を得るという発想が、特許第3359114号に開示されている。金属酸化物のこの特性を利用して平坦性を改善にするように膜設計を行うことができる。ここで、xの値を可変させる事で、屈折率も変化する為、これを踏まえ、予め得た基礎デ−タより、SiOとの成膜比を決定し制御を行う必要がある。xの値を膜厚方向で可変させる具体的な手段については、酸化源のパワ−を調整したり、成膜方法によっては導入するガス量を調整する事などで制御する事が可能である。
【0056】
さらに、基板から最も遠い位置となる膜表層における反射や、基板裏面の反射が問題となる場合には、図2に示したNDフィルタ14のように、屈折傾斜薄膜12の表層側に反射防止構造体111、112を形成すれば良い。この反射防止構造体111、112としては、例えば反射防止効果を持つ微細周期構造体であるモスアイ構造体や、単層または多層で構成された反射防止膜などが考えられる。更には、多層構成の反射防止膜における屈折率分布のように、複数回増減させるような屈折率分布を、多層膜構成とは異なり連続的に形成させる事でも略同様の効果を得る事も可能である。ここで、例えば図4のような反射防止構造体111や112と同様の効果を持つ機能を屈折率傾斜薄膜中に組み込む事も可能である。その場合は、表層の界面付近における所定の領域内で、屈折率を連続的に複数回増減させ、外気との界面反射防止用の屈折率プロファイルが必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜上に別途反射防止構造体を設けた構成とみなすことができる。しかし、本実施例1では屈折率傾斜薄膜中における酸素等の移動に伴う光学特性の変化を低減する事を課題とした為、可能な限り、それ以外の特性変化要因を取り除く意図から、このような反射防止構造体は形成せず、図1に示した反射防止構造体111、112を設けず、基板11と屈折率傾斜薄膜12のみのシンプルな構成とした。
【0057】
<スパッタ装置構成>
図7は、屈折率傾斜薄膜の作製に用いたスパッタ成膜装置の基板搬送装置の回転軸に直交する面での平面断面図である。
【0058】
スパッタ成膜装置としては、薄膜が形成される基板51を保持する回転可能な円筒状の基板搬送装置52を真空槽53内に備え、基板搬送装置52の外周部とその外側の真空槽53との間の環状空間に、2箇所のスパッタ領域54、55と、反応領域57が設けられている装置を用いた。領域59から基板を搬入する。
【0059】
基板51は成膜される面が外側を向くように基板搬送装置52に搭載させた。スパッタ領域54、55には、ACダブル(デュアル)カソードタイプのターゲット54a、55aが装備されている。真空槽53の外側に高周波電源56が配置されている。ターゲット材の形状は平板型に限らず、円筒型のシリンドリカルタイプであっても良い。また、これらの他に、別途領域58には、例えばグリッド電極を有する高周波励起によるイオンガングリッドや、基板への正イオンの電荷蓄積を防ぐために正イオンを中和する低エネルギー電子を放出するニュートラライザ等を設ける事も可能である。本発明に用いるスパッタ装置は、例えばスパッタ領域を3領域以上設けても良く、上記装置以外の構成でも実施可能である。
【0060】
図7で示したスパッタ装置を用い、スパッタ領域54にSiターゲット、スパッタ領域55にTiターゲットを配置し、反応領域57には酸素を導入した構成で屈折率傾斜薄膜を形成した。基板搬送装置52に固定された基板51を高速回転させ、スパッタ領域54、55において、基板51上にSiとTiの極薄膜を形成した後、反応領域57でSiとTiの極薄膜を酸化させる。これにより、SiとTiの酸化膜を形成し、この動作を繰り返す事でSi酸化膜とTi酸化膜の混合膜を作製した。さらに、各スパッタ領域でのスパッタレートや酸化レートを、成膜中に連続的に変化させる事で、膜厚方向において連続的に屈折率が変化する屈折率傾斜薄膜を形成した。また、SiOとTiOxのそれぞれ単独での成膜条件を基に、SiとTiのスパッタレート、及び酸化レートを制御する事で、SiOとTiOx相当となる混合膜を作製する事も可能である。また、SiO膜単体の屈折率からTiOx膜単体の屈折率まで、屈折率を連続的に変化させる場合には、投入パワ−を低くすると放電が不安定になる事がある為、酸化レートの制御時に、投入電力の制御だけではなくカソード上設けたマスク機構を併用した。
【0061】
(実施例1)
図2のように構成した、吸収タイプのNDフィルタについて、以下に詳しく記載する。本実施例では、基板13の片面側に、薄膜中の少なくても一部に吸収を持つ屈折率傾斜薄膜12を配置した。反射防止構造体は設けない構成とした。
【0062】
このようなNDフィルタ14を形成する基板13には厚さ1.0mm、屈折率1.81のSFL−6ガラスを使用した。特に本実施例のような片面膜構成の為、基板の吸水による影響を小さくする目的でガラス材料を使用した。
【0063】
屈折率傾斜薄膜12は、メタモードスパッタ法により、SiOとTiOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させて作製した。膜厚方向において連続的に組成を変化させる事で、屈折率を膜厚方向で連続的に変化させ、所望の吸収特性を得るように調整した。また屈折率傾斜薄膜12の膜厚は200nmとなるように調節した。
【0064】
本実施例においては、屈折率傾斜薄膜12の膜厚方向の屈折率変化は、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。図8に示すような吸収を持たすために、基板13の屈折率から屈折率を上昇させ下降させる山が一つとなる屈折率プロファイルとした。膜厚当たりの屈折率変化の最大値を設定した場合、基板13(高屈折率)側に、山を一つとして変曲点を持つ方が、山谷を複数持つような複雑なプロファイルより、屈折率傾斜薄膜12の隣接する媒質(基板13も含む)に対して、屈折率を緩やかに変化させ易い。基板13はガラス製で大気や一般的なプラスチックよりも屈折率が高い。そのため、変曲点は、所定の吸収を持たせるために屈折率傾斜薄膜12内でも基板13に近い方に、すなわち屈折率傾斜薄膜の膜厚方向での中心位置よりも基板13側に、屈折率を上昇させて下降させる山を設けた。山から図1のC点で示すような屈折率傾斜薄膜内の膜厚方向に対して膜厚当たり最大の変化率になる部分を経て、大気側に向かって緩やかな屈折率変化となるように構成した。屈折率傾斜薄膜12の終点は、反射防止と環境安定性の観点からSiOの薄膜となるように構成した。そのため、屈折率傾斜薄膜12の終点の屈折率は、およそ1.47となる。
【0065】
実施例1で作製されたNDフィルタの分光透過率特性が図8である。実施例1のNDフィルタをドライ窒素雰囲気下での高温試験に投入し、1000時間経過後の波長540nmでの透過率を試験前後で比較した。透過率は17.2%から17.4%となり、その上昇率は0.1割程度となった。ここでは、透過率の変化をNDフィルタの環境安定性の指標として評価しており、透過率の変化が小さい方が、環境安定性が良いことを示している。
【0066】
尚、本実施例においては、本構成での効果を明確化する為に、比較的酸化し易いとされるTiを使用したが、より酸化し難い材料、例えばNbやNiなどを用いる事で、より透過率変化を小さくする事が可能となる。
【0067】
また、本実施例では、単濃度のNDフィルタを作成した。グラデーションNDフィルタを作成する場合は、マスク面と成す角度の調節が可能な遮蔽板を有するマスクを使用する。そして、マスクでターゲットの面に対して膜材料の一部を遮蔽することによって、基板上にグラデーション濃度分布を成膜する方法を用いることにより形成できる。
【0068】
(比較例1)
実施例1での環境安定性の効果を考察する為に、図8と略同様となる分光透過率特性を多層膜構成を用いて、膜厚200nmで作製し、その他材料やプロセスは可能な限り実施例1と同様となるように作製したNDフィルタ4について以下に記載する。
【0069】
実施例1と同様に、図9に示すように、基板3の片面側に、SiOとTiOxを交互に7層積層した光学多層膜2を形成した。膜設計は、図10に示すように、実施例1で作製したNDフィルタ14と略同様の分光透過率特性を持つNDフィルタ4を作製した。このようなNDフィルタ4を形成する基板3には屈折率が1.81の厚さ1.0mmのSFL−6ガラスを使用した。SiOとTiOxはメタモードスパッタ法により形成した。
【0070】
このように作製したNDフィルタをドライの窒素雰囲気下での高温試験に投入し、1000時間経過後の波長540nmでの透過率の上昇率を確認したところ、その透過率は試験前後で16.9%から17.6%となり、0.4割程度の変化となった。特に実施例1で作製されたNDフィルタと比較すると、非常に大きな変化を示す結果となった。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同様に基板13には厚さ1.0mmのSFL−6ガラスを用い、基板13と屈折率傾斜薄膜12からなるNDフィルタを作製した。屈折率傾斜薄膜12は膜厚が200nmとなるように、メタモードスパッタ法により、SiOとTiOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させ、連続的に組成を変化させる事で、屈折率を膜厚方向で連続的に変化させ、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。これに加え、TiOxのxを変化させる事で、可視波長領域における分光透過率が、長波長側になるにつれ高くなる領域と、長波長側になるにつれ低くなる領域とを、屈折率傾斜薄膜12中に設ける構成とした。このように、特定の波長領域における分光透過率において、同一膜中に相反する分散形状を持つ領域を設ける事で、例えばNDフィルタであれば、より波長分散の小さい、より平坦な分光透過特性を得る事が可能となる。
【0072】
また本実施例においては、実施例1と同様に、屈折率傾斜薄膜12の屈折率プロファイルが複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。基板11の屈折率から屈折率を上昇させ下降させる山が一つとなる屈折率プロファイルとした。屈折率傾斜薄膜12は基板11との界面では、基板13に近い屈折率である1.81となるように、SiOとTiO相当の混合膜の組成比を調整した。そして、基板11から膜厚方向に離れていくにつれ、SiOに対しTiO相当の組成比を徐々に増やし、屈折率が2.1となったところで、これら2種材料の組成比の連続的な変化から、TiOの酸価の変化に変え、連続的にTi相当となるまで変化させた。その後、SiOとTiの混合膜相当の組成となったところで、徐々にTiに対しSiO相当の組成比を増やしていく事で、酸価の変化から、これら2種材料の組成比の連続的な変化に変え、屈折率傾斜薄膜12の終点では、反射防止と環境安定性の観点からSiOとなるように構成した。そのため、屈折率傾斜薄膜12の終点の屈折率は、およそ1.47となる。
【0073】
このように、TiOの影響を強く受けた分光透過を示す領域と、Tiの影響を強く受けた分光透過を示す領域とを、屈折率傾斜薄膜中に構成した。その結果、可視波長領域において図6で例示したような異なる分散特性を持つ領域を混在させる事で、所望の透過特性を得る事が可能となる。本実施例においては、可視波長領域において、実施例1よりも分光透過特性が平坦な形状となるように、これらを調整した。
【0074】
以上によって作製されたNDフィルタの分光透過率特性が図11である。図11より、実施例1で作製したNDフィルタと比較して、可視波長領域の分光透過率の平坦性が向上している事が確認できる。
【0075】
これをドライ窒素雰囲気下での高温試験に投入し、1000時間経過後の波長540nmでの透過率を試験前後で比較した。透過率は15.7%から15.9%となり、その上昇率は0.1割程度となった。
(実施例3)
【0076】
<反射防止構造体について>
基板13上に屈折率傾斜薄膜12の形成後、UV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法により、屈折率傾斜薄膜12上に、反射防止効果を持つサブミクロンピッチの反射防止構造体としての微細周期構造体151と152を形成した。
【0077】
微細周期構造体は、近年の微細加工技術の向上とともに作製されるようになってきた。
このような構造体の1つである、反射防止効果を持つ微細周期構造体は、モス・アイ構造体などと呼ぶことも可能である。構造体の形状を擬似的に屈折率の変化が連続的となる形状とする事で、物質間の屈折率差に起因した反射の低減を図ったものである。
【0078】
図12は基板上にピラ−アレイ状に円錐体が配置された、反射防止効果を持つ微細周期構造体の概略例を示す上方向からの斜視図である。これと同様にホ−ルアレイ状に配置した微細周期構造体の形成も可能である。このような構造体は、真空成膜法などで薄膜を単層、または複数層積層する事により作製する反射防止膜とは別の手段として、例えば物質表面などに生成される事が多い。
【0079】
このような微細周期構造体の作製に関しては、様々な方法が提案されているが、本実施例ではUV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法を用いた。
【0080】
微細周期構造体は図12のように円錐体を周期的に配置したピラ−アレイ状とし、NDフィルタの用途を考慮し、少なくても可視波長領域の反射率は低減できる構造となるように、高さ350nm、周期250nmとなるように設計した。さらに、突起構造体のマトリックス状の配列に関して、図13(a)の平面図で示すように正方配列や、図13(b)の平面図で示すように三方(六方)配列などが考えられるが、三方配列の方が基板材料の露出面が少ない事などから、反射防止効果が高いと言われている。従って、本実施例では三方配列のピラ−アレイとした。
【0081】
図14のように基板両面に屈折率傾斜膜を形成したフィルタの作製について以下に記載する。
【0082】
図14に示したように、本実施例では、基板23の片面(上面)側に屈折率傾斜薄膜221を配置し、屈折率傾斜薄膜221上に反射防止構造体211を配置した。その後、基板23の裏面側にも同様に屈折率傾斜薄膜222(他の屈折率傾斜薄膜)と反射防止構造体212(他の反射防止構造体)を配置した。NDフィルタ24における所望の波長領域に所望の吸収を持つ機能は、屈折率傾斜薄膜221、222の両方に持たせた。場合によっては屈折率傾斜薄膜221と222のどちらか一方のみであっても同様の特性を得る事は可能である。このような反射防止構造体211、212としては、図15(a)及び(b)中に示したように、反射防止効果を持つ微細周期構造体251、252や、単層、若しくは複数層の薄膜で形成された反射防止膜261、262を挙げることができる。更には、図15(c)中に示したように、微細周期構造体25と反射防止膜26を併用した構成などが挙げられる。適宜最適な構成を選択すれば良い。
【0083】
図15(a)〜(c)中でも、反射低減の観点からは図15(a)に示したような構成にする事がより望ましい。従って、本実施例では図15(a)のように、反射防止構造体として、基板23の両側の面で微細周期構造体251、252を形成した。
先に設計された形状を反転させたホ−ルアレイ形状を持つモ−ルドとしての石英基板に、UV硬化性樹脂を適量滴下した。その後、インプリントを施す基板に石英モ−ルドを押し付けた状態でUV光を照射する事で樹脂を硬化させ、図15(a)に示すように、サブミクロンピッチのピラ−アレイ状の微細周期構造体251、252を作製した。各種のUV硬化性樹脂を用いることができるがここでは、東洋合成製PAK−01(商品名)を用いて、重合硬化後に、屈折率が1.50となるように調整した。
【0084】
ここで、屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との密着性を向上させるために、プライマー処理を行い、屈折率傾斜薄膜上と微細周期構造体との間に密着層を設けた。プライマー液としては、界面活性剤である信越化学社製のKBM−503(商品名)をベースに、IPA(イソプロピルアルコール)や硝酸を適量加え、塗工後の硬化した密着層の屈折率が1.45となるように調整したものを用いた。これを、0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルタを介し屈折率傾斜薄膜上に滴下し、スピンコートにより極薄膜となるように塗工した。更に密着力を強化する必要がある場合は、前述のプライマー液の成分に更にTEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などを加えても良い。また、プライマー液をより均一に塗工する為に、プライマー液塗工前に、基板にはUVオゾンによる親水化処理を施す事がより好ましい。さらに、基板両面に設ける場合は、濃度を適宜調整し、ディップコートにより塗工しても良いし、スピンコートで片面塗工した後に基板の表裏を変え、もう一方の面を再度スピンコートで塗工しても良いが、本実施例では後者を選択した。密着層と隣接する構造体との屈折率差も0.05以内とすることが好ましい。
【0085】
また、NDフィルタのように可視波長全域に吸収を持つフィルタの場合、紫外域にも吸収を持っている場合が多い。従って、使用するUV光の波長によっては、フィルタの基板側から光を照射した場合、NDフィルタがその光の少なくとも一部を吸収してしまい、十分な光が樹脂まで届かない場合がある。従って、そのような場合はモ−ルド側からUV光を照射する必要があり、必要なUV光の波長を十分に透過する材質のモ−ルドを選択する必要がある。
【0086】
更に、光ナノインプリントのプロセスを考慮すると、基板23の片面にインプリントを施し、その後もう一方の面にインプリントすると、最初に形成した微細周期構造体に欠けやクラックなどのダメ−ジを与えてしまう事が想定される。従って、基板両面にそれぞれインプリント用のモ−ルドを配置し、両面同時に光ナノインプリントを実施する手法を選択した。この場合、UV光源も基板両面に2つ配置することで生産性を高めることができる。
【0087】
このような実施例3のNDフィルタ24を形成する基板23には屈折率が1.60程度となるように厚さ0.1mmのPETフィルムを使用した。本実施例ではPETフィルムを使用したが、これらに限らずガラス系の材料でも良いし、POやPI系、PEN、PES、PC、PMMA系などの樹脂材料であっても良い。
【0088】
図14(a)の屈折率プロファイルにおいて、基板側の界面点P0から点P1にかけては、TiOxのxは約1.5で固定されており、SiOとの組成比を変化させる事で連続的な屈折率変化を形成した。
次に、点P1から点P2を通過し点P3に近づくにつれ、TiOxのxは1.5から1.0に連続的に変化させている。これと同時にSiOとの組成比を変化させ、点P1から点P2に近づくにつれTiOxに対しSiOの組成比を増やし、更に点P2から点P3に近づくにつれ、TiOxに対しSiOの組成比を減少させる事で連続的な屈折率変化を形成した。
さらに、点P3から反射防止構造体側の界面点P4にかけては、TiOxのxは約1.0で固定されており、SiOとの組成比を変化させる事で連続的な屈折率変化を形成した。
点P1付近ではTiの影響を大きく受けた分光透過を示し、点P3付近ではTiOの影響を大きく受けた分光透過を示す。従って、このように構成する事で、屈折率傾斜薄膜中に、可視波長領域において図6で例示したような異なる分散特性を持つ領域を混在させ、膜厚や組成比により影響度を調整する事で、所望の透過特性を得る事が可能となる。本実施例においては、可視波長領域において分光透過特性が平坦な形状となるように、これらを調整した。
【0089】
本実施例においては、上述したとおり屈折率傾斜薄膜22は、図16(a)で示すような屈折率のプロファイルを持つ構成とした。図16(a)中の山谷を複数形成したような図16(b)に示すプロファイルを形成する事も可能であるが、制御の容易性などを考慮して、複雑化しないよう必要最低限の増減となるように設計した。また、基板と反射防止構造体の界面は、屈折率差が生じ易い。反射防止の観点から基板と反射防止構造体に近い領域は、屈折率変化が緩やかな膜設計を行った。反射防止の観点からは図1に示した概念図のように屈折率差をできるだけ生じさせないように設計することが好ましい。しかしながら、所望の吸収を得るためには、屈折率が高い領域が必要となる。そのため、屈折率傾斜薄膜は基板に近い方から屈折率が緩やかに上昇し、変曲点を経て、反射防止構造体に向かって反射防止構造体の屈折率に緩やかに近づくことが好ましい。
【0090】
一方、基板と屈折率傾斜薄膜との界面、および屈折率傾斜薄膜と微細周期構造体との界面においても、屈折率が異なるとその屈折率差に応じて反射が発生する。そこで、これらの界面での反射が問題となる場合は、屈折率差は出来るだけ小さくする事が望ましい。本実施例では、屈折率傾斜薄膜の成膜開始直後と成膜終了間際でのSiOとTiOxとのレ−ト比を調整する事で、2つの界面での屈折率差をそれぞれで0.05以下となるように調整した。また、屈折率傾斜薄膜221の膜厚は200nmとなるように調整した。屈折率傾斜薄膜の膜厚は、薄い方が基板から反射防止構造体までの屈折率の変化率が急峻になる。そのため、反射防止の観点からは、膜厚が厚い方が好ましい。反射をより低減する必要がある場合は、400nm程度までに厚くする事で対応できる。
【0091】
実施例1、2と同様に、まずは基板23上の片面側に、屈折率傾斜薄膜221を、メタモードスパッタ法により、SiOとTiOx膜の成膜レートを調整しながら、この2種類を混合させ、屈折率を膜厚方向で連続的に変化させる事で、所望の吸収特性を得るように調整し作製した。その後、基板の表裏を変えて、再度同様にSiOとTiOxの混合膜を作製した。分光透過特性が膜総体として平坦となるように成膜を行った。
ここで、屈折率傾斜薄膜221は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなるようにTiを多く含むように作成し、屈折率傾斜薄膜222は、可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなるようにTiOを多く含むように作成してもよい。つまり可視波長領域である400nm〜700nmにおける分光透過特性が、両面の屈折率傾斜薄膜総体として分散が小さい平坦な特性となるように膜設計を行っても良い。TiOxのxは1.5から1.0に連続的に変化させるように、分光透過特性が膜厚方向で変化する点を設けた場合は、平坦性に対する設計の自由度を向上させることができる。また、xが1.0から1.5に連続的に変化させるように、分光透過特性の変化が膜厚方向に逆になっても良い。
【0092】
その後、基板両面に形成された屈折率傾斜薄膜上にUV硬化性樹脂を用いた光ナノインプリント法により反射防止効果を持つサブミクロンピッチの微細周期構造体251、252を形成した。ND膜を形成した基板両面にそれぞれインプリント用のモ−ルドを配置し、両面同時に光ナノインプリントを実施した。屈折率傾斜薄膜と屈折率傾斜薄膜の上に対応する微細周期構造体との間に、プライマー処理し、密着層を設けた。
【0093】
<光学フィルタの特性>
実施例3で作製されたNDフィルタの分光反射率特性、及び分光透過率特性が図17である。濃度は約0.4程度であり、反射が大きくなり易い低濃度タイプであるにも関わらず、可視波長領域において反射率が約0.5%以下になっている。本構成により、非常に低い反射率を実現できた。測定には、分光光度計(U4100(株)日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた。
【0094】
さらに、可視領域全域において、分光透過特性が平坦であり、この平坦性の指標である、{(400〜700nmにおける透過率の最大値)−(400〜700nmにおける透過率の最小値)}÷(500〜600nmにおける透過率の平均値)を平坦性と定義した場合、本実施例において作製されたフィルタの平坦性は約1.6%程度と小さな値であり、平坦性に優れたフィルタを得る事ができた。
【0095】
実施例3で作製されたNDフィルタを、ドライの大気環境下での高温試験に投入し、1000時間後の波長550nmでの分光透過率特性を比較した。試験前後で透過率は40.9%から41.3%となり、その上昇率は0.10割程度となった。実施例1及び比較例と比較し、濃度が薄い事もあるが、濃度換算でも0.004の変化と小さい変化であり、非常に環境安定性に優れたNDフィルタを得る事ができた。(ここで、透過(T)と濃度(D)との関係は、D=−log10Tである。)
【0096】
実施例1〜3に示すように、本発明にかかるNDフィルタの製造方法としては、基板上に屈折率傾斜薄膜を設ける工程と、を有し、前記屈折率傾斜薄膜を3種以上の元素を用いた成膜法によりこれらの材料の混合比を変化させ、膜厚方向に屈折率を連続的に変化させて形成することを特徴とする製造方法を用いることができる。また、環境安定性の向上と反射を低減するためには、前記屈折率傾斜薄膜上に、反射防止構造体を設ける工程を行うことが好ましい。
【0097】
また本実施例1〜3ではメタモードスパッタ法によりSiO2とTiOxの混合膜を作製し、膜厚方向でその混合比率を変える事で連続的な屈折率を持つ傾斜薄膜を形成したが、これに限らず、NbやTa、Zr、Al、Ni、Cr、Cu、Mg、W、Moなど、他の様々な金属材料の酸化物を使用する事でも同様の効果を得る事が可能である。前述したような屈折率傾斜薄膜と界面をなす構造体の屈折率などの関係から、必要とされる屈折率を実現できる材料であれば良く、プロセス上の制約やコスト面などを考慮し、時々で最適な材料を選択すれば良い。
【0098】
また、3種類以上の金属または半金属の元素を含んだ材料を組合せても良い。3種類以上の材料を組合せると安定的に屈折率を傾斜させることが可能となり、吸収の低減など消衰係数の調整も行い易くなり設計の自由度が広がる。
【0099】
さらに、反応性蒸着などを用いる場合は、その導入ガスを制御し、屈折率や消衰係数を制御する事で傾斜薄膜を形成する事も可能である。膜厚方向で傾斜薄膜中の一部に吸収を持たせる構成でも良いし、全体的に吸収を持ちつつ屈折率を連続的に変化させても良い。成膜手法もメタモードスパッタ法だけに限らず、他のスパッタ法や、各種の蒸着法などでも良い。
【0100】
本実施例のように形成された屈折率傾斜薄膜は、高密度の膜となり膜応力が問題となる事がある。その場合は本実施例のように、剛性の高いガラスなどの基板を用いると膜応力による反りなどの不具合を低減できる。また、屈折率傾斜薄膜を基板の両面に設けることで、それぞれの膜応力を打ち消しあい安定したNDフィルタを製造することができる。
【0101】
特に、本実施例に用いた基板の両面に屈折率傾斜薄膜、微細周期構造体を設ける構成は、膜応力に対する基板の安定性を得られる。加えて、微細周期構造体を両面から光ナノインプリントにより反射防止構造体を一連の連続または同時の工程で形成することができるため生産性に優れる。
【0102】
また、スパッタ法を用いることで、蒸着法などと比べて、密度の高い薄膜を安定的に形成することができる。
【0103】
また、本実施例において、屈折率の制御に酸化物を用いたが窒化物でも良く屈折率傾斜薄膜として、連続的、周期的に屈折率が変化すれば各種の化合物を用いることができる。
【0104】
また、基板と屈折率傾斜薄膜との間、及び/または屈折率傾斜薄膜と反射防止構造体の間に、バッファ層を設けて、密着性や耐久性を改善することなども可能である。その場合はバッファ層を考慮した設計を行えば良い。バッファ層の屈折率は、これに隣接する基板または反射防止構造体と同じ、あるいは屈折率差を近接させる、好ましくはこれらの屈折率差を0.05以下とする。このようなバッファ層は、図14に示す他の屈折率傾斜薄膜を有する構造においても同様に用いることができる。 バッファ層として密着層を設ける場合における密着層形成用の材料としては、シランカップリング剤の他には、Cr、Ti、TiOx、TiNx、SiOx、SiNx、AlOx、SiOxNyなどの無機材料や各種の有機材料が挙げられる。密着性を高める層の材質に応じて公知の材料から密着層形成用の材料を適宜選択して用いることができる。密着層の膜厚は、目的とするフィルタの光学的機能及び密着性が得られるように設定すればよい。密着層は、例えば10nm以下の薄膜として形成してもよい。
【0105】
(実施例4)
図18に光量絞り装置を示す。ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影光学系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根31を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ34を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。入射光がこの光量絞り装置33を通過し、固体撮像素子(不図示)に到達する事で電気的な信号に変換され画像が形成される。
【0106】
この絞り装置33内の例えばNDフィルタ34の位置に、実施例1〜3で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板32に固定するように配置する事も可能である。
図19に光学撮影装置の撮影光学系の構造を示す。この撮影光学系41は、レンズユニット41A〜41D、CCD等の固体撮像素子42、光学ローパスフィルタ43を有する。固体撮像素子42は、撮影光学系41によって形成される光線a、bの像を受光し、電気信号に変換する。撮影光学系41は、NDフィルタ44、絞り羽根45,46、絞り羽根支持板47で構成される光量絞り装置を有している。
【0107】
ビデオカメラあるいはデジタルスチルカメラ等の撮影系に使用するに適した光量絞り装置の絞りは、CCDやCMOSセンサと言った固体撮像素子への入射光量を制御するために設けられているものである。被写界が明るくなるにつれ、絞り羽根45、46を制御し、より小さく絞り込まれていく構造になっている。このとき、小絞り状態時に発生する像性能の劣化に対する対策として、絞りの近傍にNDフィルタ44を配置し、被写界の明るさが同一であっても、絞りの開口をより大きくできる構造にしている。
【0108】
入射光がこの光量絞り装置を通過し、固体撮像素子に到達することで電気的な信号に変換され画像が形成される。この絞り装置内の例えばNDフィルタ44の位置に、本実施例1〜4で作製されたNDフィルタを配置する。ただし、配置場所はこれに限らず、絞り羽根支持板47に固定するように配置する事も可能である。
【0109】
以上の実施例の構成によれば、撮影画像の経時変化の可能性を低減することができるNDフィルタを搭載した撮影装置を提供することができる。NDフィルタ44に本実施例1〜3で作成した屈折率傾斜薄膜を用いたNDフィルタを用いたものは、組み立て後に撮影した画像と組み立てから1ヶ月経過した画像を比較してもカラーバランスの違いは認識できなかった。
【0110】
一方、図9の比較例1で作成した光学多層膜構成のNDフィルタ4をNDフィルタ44として搭載し、NDフィルタ44を使用した光学装置で撮影した画像について評価した。その結果、光学装置の組み立て直後に撮影した画像と、組み立てから1ヶ月経過した後に同一対象を撮影した画像を比較するとカラーバランスが異なっていた。
【0111】
本発明のNDフィルタは、環境安定性を向上させているため、持ち運ばれて利用される環境変化の大きな、カメラ、ビデオカメラなどの光学撮影装置に用いることで撮影画像の品位を保つことができる。
【0112】
これにより作製された光量絞り装置33は、フィルタの反射に起因したゴ−ストなどの不具合を著しく低減する事ができ、また透過特性に起因する、例えば色バランスの向上などを、同時に実現する事が可能である。
【0113】
これに限らず、他の光学装置であっても、実施例1〜3で作製されたような反射率を低減した光学フィルタを用いることで、フィルタの反射に起因した装置上の不具合を低減する事が可能であり、同時に透過に起因した不具合を低減する事ができる。
【0114】
特に、実施例3に記載の微細周期構造と屈折率傾斜薄膜を両面に備えた構成を撮影光学系に備えた場合、CCD等への反射を抑え良好な撮影画像を得られるとともに、NDフィルタの設置の方向性を考えることなく組み立てることができ組み立て性に優れる。
【0115】
(実施例5)
図20は光学測定装置である干渉顕微鏡の機能及び構成を示す。光源910は光源として所定の波長を出力する。この光源910から出力された観察光から、フィルタ911にて一定の波長成分のみが抽出される。その後、観察光は、それぞれ異なる透過率を有するNDフィルタ912を保持したフィルタホルダ913の回転位置に応じて選択的に光路上に配置されたNDフィルタ912を介して、適宜光量が調節される。光源としては、単色波長のレーザ光源等も光源として用いることができる。
【0116】
このフィルタホルダ913は、それぞれ透過率の異なる複数のNDフィルタ912、を配置し、不図示のCPU等からの制御に基づいて動作する回転駆動部914の回転駆動によっていずれかの透過率のNDフィルタ912を上記光路上に選択的に配置する。また光源のスポット径とグラデーションの範囲が対応していれば、グラデーションNDフィルタの位置決めで透過率を変更しても良い。その場合は、実施例4で示した絞り装置のようにNDフィルタが動作するように構成することもできる。このNDフィルタ912を介した光は、同じく光路上に配置された偏光板915を介して偏光角が変化される。この偏光板915は、偏光板回転駆動部916により回転駆動されることで透過する光の偏光角を所望する角度となるように変化させるもので、偏光板回転駆動部916もまた、CPU等からの制御に基づいて動作する。
【0117】
偏光板915を介した光は、ハーフミラー917で試料方向に反射された後にプリズム918で偏光方向によって2つの平行な光路に分割される。2つの光路に分割された光は共に対物レンズ919を介して、焦点を調節するための焦点観察機構921上に載置された観察物体920に照射される。
【0118】
観察物体920から反射した光は、対物レンズ919、プリズム918を介して今度はハーフミラー917を透過し、結像レンズ922によってCCD等の撮像素子924に結像される。結像レンズ922と撮像素子924の間の光路上には回転可能な偏光素子としての検光子923が配置される。
【0119】
撮像素子924の出力はデジタル信号化され、CPU等で処理され観測された干渉縞を分析することで表面構造や屈折率分布等を分析することができる。また、光学測定装置として、本実施例に限定されるものでなく、本発明のNDフィルタを用いることで、測定精度の信頼性が長期に渡って必要な光学装置である光学測定装置において、NDフィルタの経時変化による悪影響を抑えた測定を行うことができる。その結果、長期使用で測定結果への悪影響が懸念される光学測定装置などの光学装置による撮影画像である干渉縞等の画質安定性を向上させることができる。
【0120】
(他の実施例)
実施例1〜3で記載したNDフィルタ以外の光学フィルタにおいても、吸収を持つタイプで透過光の平坦性を課題とする光学フィルタであれば同様の効果を期待でき、例えばカラ−フィルタなどに応用する事が可能である。これらの光学フィルタに本発明を適用する事で、反射率を低減しつつ、所望の透過特性を得る事が可能となる。また、これらの光学フィルタを搭載する事で、前述の不具合を改善した各種の光学装置を得る事が可能となる。
【符号の説明】
【0121】
111、112、211、212.反射防止構造体
12、221、222.屈折率傾斜薄膜
3、13、23、51.基板
15、151、152、251、252.微細周期構造体
16、161、162.反射防止膜
31.絞り羽根
32.絞り羽根支持板
33.光量絞り装置
4、14、24、34.44、912.NDフィルタ
41.撮影光学系
41A、41B、41C、41D.レンズユニット
42.固体撮像素子
43.光学ローパスフィルタ
45、46.絞り羽根
52.基板搬送装置
53.真空槽
54,55.スパッタ領域
54a、55a.ターゲット
56.高周波電源
57.反応領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する基板と、前記基板上に可視波長領域の少なくとも一部の領域において光を吸収する金属化合物を含んで構成される屈折率傾斜薄膜と、を備え、
前記屈折率傾斜薄膜は、少なくとも、前記金属化合物と、前記金属化合物とは異なる化合物と、からなる組成がその膜厚方向に連続的に変化することを特徴とするNDフィルタ。

【請求項2】
光透過性を有する基板と、前記基板上に可視波長領域の少なくとも一部の領域において光を吸収する金属化合物を含んで構成される屈折率傾斜薄膜と、を有し、
前記屈折率傾斜薄膜はその膜厚方向に、屈折率が連続的に変化することを特徴とするNDフィルタ。

【請求項3】
前記屈折率傾斜薄膜は、その膜厚方向において、
可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域と、
可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のNDフィルタ。

【請求項4】
前記屈折率傾斜薄膜の、その膜厚方向に連続的に変化する前記組成を構成する構成物質の変化は、少なくとも、前記構成物質を構成する複数の元素の組成比と、前記構成物質の種類と、前記構成物質の密度と、のいずれか一つの変化であることを特徴とする請求項1または請求項3に記載のNDフィルタ。

【請求項5】
前記屈折率傾斜薄膜は、その膜厚方向において、
可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて高くなる領域から
可視波長領域の分光透過特性が長波長側になるにつれて低くなる領域へ変化する部分を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項6】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(1)連続的な屈折率変化が前記屈折率傾斜薄膜内の膜厚方向に対して膜厚当たり最大の変化率になる部分と、
(2)前記屈折率傾斜薄膜の前記基板近傍及び前記屈折率傾斜薄膜の前記基板から離れて隣接する媒質近傍において(1)の部分の屈折率変化に比べて屈折率変化が緩やかになる部分を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項7】
前記屈折率傾斜薄膜の表層側に、可視波長領域において光の反射低減効果を持つ、
反射防止構造体を有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項8】
前記反射防止構造体が、可視光の波長以下の周期で形成された微細周期構造体、
または単層もしくは、多層膜の薄膜により形成された反射防止膜のいずれかであることを特徴とする請求項7に記載のNDフィルタ。

【請求項9】
前記反射防止構造体と前記屈折率傾斜薄膜の間もしくは前記基板と前記屈折率傾斜薄膜の間に、酸素移動低減層が挿入されていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のNDフィルタ。

【請求項10】
前記酸素移動低減層が窒化膜を含み構成されていることを特徴とする請求項9に記載のNDフィルタ。

【請求項11】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(3)前記基板側において、前記屈折率変化の前記基板側の終点まで、前記屈折率が前記基板の屈折率に近づくように変化する部分を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項12】
前記屈折率傾斜薄膜の前記基板側の前記屈折率変化の終点と前記基板との屈折率差は、0.05より小さいことを特徴とする請求項11に記載のNDフィルタ。

【請求項13】
前記屈折率傾斜薄膜の膜厚方向の屈折率の変化は、
(4)前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点まで、前記屈折率が前記反射防止構造体の屈折率に近づくように変化する部分を有することを特徴とする請求項7〜12のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項14】
前記反射防止構造体側において、前記屈折率変化の前記反射防止構造体側の終点と前記反射防止構造体との屈折率差は、0.05より小さいことを特徴とする請求項13に記載のNDフィルタ。

【請求項15】
前記基板の両面上に前記反射防止構造体を備え、前記基板の両面上の各々の前記反射防止構造体との間に前記屈折率傾斜薄膜を有することを特徴とする請求項7〜14のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項16】
前記金属酸化物を形成する物質が、
Ti、Nb、Ta、Zr、Al、Ni、Cr、Cu、Mg、Mo、Wの内、
少なくても1つを含んでいることを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項17】
前記屈折率傾斜膜の屈折率変化が、周期的であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項に記載のNDフィルタ。

【請求項18】
前記屈折率傾斜薄膜が3種類以上の元素から構成されていることを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項に記載のNDフィルタ

【請求項19】
NDフィルタを光学系に用いた光学装置であって、
前記NDフィルタが、請求項1〜18のいずれか一項に記載のNDフィルタであることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図5】
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