説明

NF3又は塩化フッ素化合物の製造方法

【課題】ハロゲン化窒素の合成方法のさらに改良された方法を提供することを課題とする。
【解決手段】NF又は塩化フッ素化合物の製造方法であり、該NF又は塩化フッ素化合物は、一般式[NFCl3-x(X=1又は2)]で表されるフッ化塩化窒素と、HF又はFとの反応によって得られ、該製造方法は
1〜15体積%の前記フッ化塩化窒素を含むガスと、HF又はFを含むガスとを反応器に導入することでNF、ClFおよびClFを含む混合ガスを得る工程
を有すること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD装置等の半導体製造装置の内部洗浄や薄膜のドライエッチングに有用なNF、ClFおよびClFの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化窒素の新たな合成方法として、本出願人は特許文献1に開示された方法を提案している。該発明は、有益な用途を有するハロゲン化窒素やNFを容易にかつ安価に製造せしめるものとして可能性を有している。
【特許文献1】特開2007−308357
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特許文献1に開示されたハロゲン化窒素の合成方法のさらに改良された方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のNF又は塩化フッ素化合物の製造方法では、該NF又は塩化フッ素化合物は、一般式[NFCl3-x(X=1又は2)]で表されるフッ化塩化窒素と、HF又はFとの反応によって得られ、該製造方法は
1〜15体積%、好ましくは1〜10体積%の前記フッ化塩化窒素を含むガスと、 HF又はFを含むガスとを反応器に導入することでNF、ClFおよびClFを含む混合ガスを得る工程
を有することを特徴とする。
【0005】
特許文献1での開示にあるように前記フッ化塩化窒素と、HF又はFとを反応させるとNFとClF等のインターハロゲン化合物が生成する。この生成反応を利用する工業化の検討にあたり、各原料を単に反応器に導入しただけでは、反応を効率良く行えないことがあることがわかった。
【0006】
反応器に導入される前記フッ化塩化窒素を含んだガスを、前記フッ化塩化窒素を1〜15体積%、好ましくは1〜10体積%含むガスとすることにより、フッ化塩化窒素と、HF又はFとの反応を効率良くなすことができるようになることが、本発明の検討により明らかになった。前記フッ化塩化窒素を、当該濃度含むガスは、自己分解等が生じにくく安定なものとなり、当該化合物がHF又はFとの反応に消費されやすくなる。また、前記フッ化塩化窒素の自己分解が生じにくくなることから、原料気体を扱いやすくなり、反応器や、反応器に通じる導入管等を防爆構造とする必要性を低減させることもできる。
【0007】
前記フッ化塩化窒素を含むガスにおいて、フッ化塩化窒素が1体積%未満では、反応物質の濃度が低くなりすぎ反応速度が低下するため好ましくない。他方、15体積%超では、フッ化塩化窒素自身の安定性が低いものとなりやすい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のNF又は塩化フッ素化合物の製造方法は、これら化合物の生産性の向上、さらには生産時の安全性の向上に効果を奏す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、NF又は塩化フッ素化合物の製造方法であり、該NF又は塩化フッ素化合物は、一般式[NFCl3-x(X=1又は2)]で表されるフッ化塩化窒素と、HF又はFとの反応によって得られ、該製造方法は
1〜15体積%、好ましくは1〜10体積%の前記フッ化塩化窒素を含むガスと、H F又はFを含むガスとを反応器に導入することでNF、ClFおよびClFを 含む混合ガスを得る工程
を有することを特徴とする。
【0010】
前記フッ化塩化窒素を含むガスは、該フッ化塩化窒素と反応性が低い気体、例えば、NF、N、CO、He、Ne、Ar、又はこれらの混合物等を85〜99体積%、好ましくは90〜99体積%含んでなることが好ましい。これらの中で、NFは最終生成物の一つなので、これをもちいて混合ガスとすると、分離回収等の労力が少なくなり好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記フッ化塩化窒素を、NHF・nHF、(NH)yMFz・mHF、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた液状アンモニウム錯化合物と、ClFを含むガスとの反応によって得る工程を有するものとすることが好ましい。ただし、1≦x≦3、1<n、1≦y≦4、2≦z≦8、0.1≦mを表し、Mは、元素周期律表の1族から16族の元素、並びにそれらの混合元素を表す。
【0012】
前記の液状アンモニウムと、ClFを含むガスとの反応は、本出願人による特許文献1により提案されたものであるが、本発明での混合ガスを得る工程に使用される前記フッ化塩化窒素を、当該反応によって得られたものとすることにより、NF生産が効率化する。また、本発明で得られたClF等のインターハロゲン化物を当該反応の原料物にすることで、NFの生産性がさらに向上する。
【0013】
さらには、前記フッ化塩化窒素を得る当該反応に用いられるClFを含むガス中のClFを1〜36体積%、好ましくは1〜21体積%とすることが好ましい。ClFを当該濃度にすることにより、前記フッ化塩化窒素を1〜15体積%、好ましくは1〜10体積%含むガスを得やすくなる。
【0014】
前記ClFを含むガスは、NF、N、CO、He、Ne、Ar、又はこれらの混合物等を64〜99体積%、好ましくは79〜99体積%含んでなることが好ましい。これらの中で、NFは最終生成物の一つなので、これをもちいて混合ガスとすると、分離回収等の労力が少なくなり好ましい。
【0015】
また、本発明においては、記フッ化塩化窒素と、HF又はFとの反応の進行の効率化の観点から、前記反応器内の温度は好ましくは130〜400℃、さらに好ましく250〜400℃とされる。130℃未満では、反応の進行が遅いことがある。また、当該反応器では、通常はNiやモネルなどの金属材料が使用されることとなるので、これら金属の腐食を生じにくくするために、反応器内の温度を400℃以下とすることが好ましい。
【0016】
さらには、本発明は、NF、ClFおよびClFを含む混合ガスを分離回収してNF、ClF又はClFの濃度を高濃度化する工程を有することが好ましい。分離回収には、外部から冷却できるステンレス製トラップなどを使用し、ClFのみを回収する場合には、−10℃〜−76℃に冷却することで選択的にClF3を捕集できる。ClFは、ClFを回収した後のガスを−100℃〜−155℃に冷却したトラップを通過させることで回収できる。以上の操作により、ClFおよびClFを分離回収できるため、分離回収後のガスとして高濃度のNFが得られる。
【実施例】
【0017】
図1に実験装置図を示す。室温のNi製500mL容器11を圧力が10Paとなるまで減圧した後、NFCl3-x(X=1又は2)およびFおよびNFを合計で1000mmHgになるように混合し、混合ガスを得た。次に、外部から加熱できる構造としたNi製500mLシリンダ12を用意し、圧力が10Paとなるまで減圧した後、先ほど調整した混合ガスを加熱したシリンダ12に導入した。導入後は容器内の圧力を、圧力計15を用いてモニタリングし、爆発が生じないかを確認した。容器間の配管およびガス導入配管にはステンレス配管を用いた。
【0018】
実施例1乃至5
150℃に加熱したNi製シリンダ12に、シリンダ11で表中の実施例1乃至5に示すガス組成になるように調製した混合ガスを導入したところ、10分経過後も急激な圧力上昇は確認されなかった。表1に結果を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
比較例1乃至5
150℃に加熱したNi製シリンダ12に、シリンダ11で表中の比較例1乃至5に示すガス組成になるように調製した混合ガスを導入したところ、導入直後に圧力が2〜3倍に上昇する様子が観察され、爆発を生じていることを確認した。表1に結果を示す。
【0021】
実施例6乃至8
300℃に加熱したNi製シリンダ12に、シリンダ11で表中の実施例6乃至8に示すガス組成になるように調製した混合ガスを導入したところ、10分経過後も急激な圧力上昇は確認されなかった。結果を表1に示す。
【0022】
比較例6及び7
300℃に加熱したNi製シリンダ12に、シリンダ11で表中の比較例6及び7に示すガス組成になるように調製した混合ガスを導入したところ、導入直後に圧力が2〜3倍に上昇する様子が観察され、爆発を生じていることを確認した。
【0023】
実施例9
上記結果を踏まえて、NF、ClFおよびClFを含む混合ガスを得るための合成試験を行った。装置概略図を図2に示す。反応器21は外部ヒーターで加熱できる構造となっている円筒型のニッケル製反応器で、容積が4Lのものを使用した。NFCl3−xガス、Fガス、Nガスを各々マスフローコントローラー24、25、26により反応器21に供給し流通させた。
【0024】
捕集器22は、ステンレス製で容積が4Lのトラップを使用し、入口ガス側の配管をディップ構造として、液化捕集できるものを使用した。冷却充填用デュアー瓶23に充填した冷媒はエタノールであり、ドライアイスを添加することにより−50℃に冷却した。反応器21から放出されるガスは、捕集器22に導入されClFが捕集される。
【0025】
捕集器22の出口ガスは、フロート式流量計27を使用し流量測定を行った。系内の圧力は圧力計28に連動させたコントロール弁29によりゲージ圧で−0.01MPaに保つように制御される。また、配管には全てステンレス配管を使用した。
【0026】
反応器21に供給させるガスの流量は、NFCl3−xガスを0.3SLM、Fガスを0.9SLM、Nガスを2.1SLMとし同時に流通させた。
【0027】
結果、反応中の圧力上昇は見られず、安定に合成が可能であった。
【0028】
実施例10
実施例9のN2ガスをNFガスへと変更し、それ以外は同条件で試験を行ったところ、実施例9と同様に圧力上昇は見られず、安定に合成が可能であった。
【0029】
比較例8
実施例9の条件において、Nガスの流通を止め、NFCl3−xガス、Fガスのみを流通させたところ、反応器の圧力が上昇し、反応を継続することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1〜8、比較例1〜7で用いた装置の概略を示す模式図である。
【図2】実施例9〜10、比較例8で用いた装置の概略を示す模式図である。
【符号の説明】
【0031】
11 Ni製シリンダ
12 Ni製シリンダ
13 自動弁
14 圧力計
15 圧力計
21 反応器
22 捕集器
23 冷媒充填用デュアー瓶
24 マスフローコントローラー
25 マスフローコントローラー
26 マスフローコントローラー
27 フロート式流量計
28 圧力計
29 コントロール弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NF又は塩化フッ素化合物の製造方法であり、該NF又は塩化フッ素化合物は、一般式[NFCl3-x(X=1又は2)]で表されるフッ化塩化窒素と、HF又はFとの反応によって得られ、該製造方法は
1〜15体積%の前記フッ化塩化窒素を含むガスと、HF又はFを含むガスとを反応器に導入することでNF、ClFおよびClFを含む混合ガスを得る工程
を有することを特徴とするNF又は塩化フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記フッ化塩化窒素を、NHF・nHF、(NH)yMFz・mHF、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた液状アンモニウム錯化合物と、ClFを含むガスとの反応によって得る工程を有することを特徴とする請求項1に記載のNF又は塩化フッ素化合物の製造方法。
ただし、1≦x≦3、1<n、1≦y≦4、2≦z≦8、0.1≦mを表し、
Mは、元素周期律表の1族から16族の元素、並びにそれらの混合元素を表す。
【請求項3】
前記ClFを含むガス中のClFを1〜36体積%とすることを特徴とする請求項2に記載のNF又は塩化フッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記反応器内の温度を130〜400℃とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のNF又は塩化フッ素化合物の製造方法。
【請求項5】
NF、ClFおよびClFを含む混合ガスを分離回収してNF、ClF又はClFの濃度を高濃度化する工程を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のNF又は塩化フッ素化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138029(P2010−138029A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315258(P2008−315258)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)