説明

NK細胞の増幅方法

【課題】採取された血球細胞から、試験管内でNK細胞を増幅させて、細胞療法の最適数のNK細胞を調製する方法を提供する。
【解決手段】NK細胞を含む細胞集団を調製するステップと、前記NK細胞を含む細胞集団からT細胞を除去するステップと、前記T細胞が除去された残りの細胞を、2500IU/mLないし2813IU/mLのIL−2を含む培地で培養するステップとを含む、NK細胞の増幅方法と、調製されるNK細胞、および細胞療法のための医薬品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い細胞傷害活性を有するナチュラルキラー細胞(NK細胞)を、高い純度及び高い増幅倍率で増幅する方法と、該方法によって得られるNK細胞を含む医薬品組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
NK細胞は、MHCクラスI分子を発現する正常細胞は攻撃しないで、MHCクラスI分子の発現が低下及び欠損した細胞を主に攻撃する。そこで癌及び感染症の細胞療法に同種NK細胞を用いると、GVH(Graft−versus−host)病の副作用を回避できる利点がある。実際、Millerら(非特許文献1)及びRubnitzら(非特許文献2)の報告によると、癌患者をレシピエントとし、その近縁の健常者のドナーの新鮮な末梢血単核球をNK細胞を濃縮したうえで移植したとき、移植されたNK細胞は、レシピエントに副作用を起こすことなく、一時的に生着し、細胞傷害活性を保持した。しかし、NK細胞の移植療法の有効性を示す臨床治験の報告はまだない。その理由の1つは、ドナーからリンパ球アフェレーシスで回収できる細胞数に限度があるため、癌細胞及び病原体感染細胞のような標的細胞を死滅させるのに十分な数のNK細胞を標的細胞が死滅するまでの期間レシピエント体内に滞留させることができないからである。
【0003】
正常な成人の末梢血の1回のアフェレーシスからは約1×1010個の単核球が回収でき、末梢血単核球中のNK細胞の構成比率を約7%とすると、7×10個のNK細胞が得られる(非特許文献3)。一方、NK細胞の移植には、1×10個/kgないし2×10個/kg(非特許文献1)か、5×10個/kgないし8.1×10個/kg(非特許文献2)かのオーダーのNK細胞が用いられる。患者の体重を60kgとすると、6×10個ないし4.8×10個のNK細胞が必要となる。これは、正常な成人の末梢血の1回のアフェレーシスから得られるNK細胞の0.0086倍ないし6.86倍に相当する。しかし、例えば非特許文献2によると、NK細胞の生着期間は投与されたNK細胞の数とは相関がみられず、2日ないし189日で、中央値は10日にすぎなかった。すると、癌細胞及び病原体感染細胞のような標的細胞を死滅させるのに十分な数のNK細胞を、標的細胞が死滅するまでの期間レシピエント体内に滞留させるためには、NK細胞の移植が頻繁に繰り返される必要があり、これは患者に大きな負担となる。
【0004】
そこで、ドナーから得たNK細胞をいったん試験管内で培養増幅して、標的細胞を死滅させるのに十分なNK細胞を得る技術の開発が進められている。Terunuma,H.ら(特許文献1)は、ヒトCD3に対するアゴニスト抗体であるOKT3と、IL−2と、抗CD16抗体との存在下で健常者の末梢血単核球を13日間培養して、NK細胞を純度81.2%、130倍に増幅した。また、K562細胞に対する前記NK細胞の細胞傷害活性(E:T=3:1)は66%だった。Tanaka,J.ら(特許文献2)は、IL−2、IL−15、抗CD3抗体、5%のヒトAB型血清、タクロリムス及びダルテパリンが添加された培地を用いる方法によって、健常者の末梢血単核球細胞を21日間培養して、NK細胞を純度73.4%、6268倍に増幅した。また、K562細胞に対する前記NK細胞の細胞傷害活性(E:T=1:1)は約55%だった。Carlens,S.ら(非特許文献4)は、ヒトCD3に対するアゴニスト抗体であるOKT3と、IL−2との存在下で健常者の末梢血単核球を21日間培養して、NK細胞を純度55%、193倍に増幅したと報告した。また、K562細胞に対する前記NK細胞の細胞傷害活性(E:T=1:1)は45%だった。Alici,E.ら(非特許文献5)は、同様の条件でミエローマ患者の末梢血単核球を20日間培養して、NK細胞を純度65%、1625倍に増幅したと報告した。また、K562細胞に対する前記NK細胞の細胞傷害活性(E:T=1:1)は約10%だった。Fujisaki,H.ら(非特許文献6)は、NK細胞を活性化する因子を発現するように遺伝的に改変された白血病細胞をフィーダー細胞として用いる培養条件で健常者の末梢血単核球を21日間培養して、NK細胞を純度96.8%、277倍に増幅したと報告した。また、K562細胞に対する前記NK細胞の細胞傷害活性(E:T=1:1)の最大値は約90%だった。
【0005】
Terunuma,H.ら(特許文献1)、Tanaka,J.ら(特許文献2)、Carlens,S.ら(非特許文献4)及びAlici,E.ら(非特許文献5)の方法で増幅されたNK細胞の細胞傷害活性(E:T=1:1)は、それぞれ、66%、約55%、45%及び約10%であった。したがって、従来技術では、NK細胞の細胞傷害活性が低いため、治療効果が低く、NK細胞の投与数が増大するので好ましくない。Fujisaki,H.ら、(非特許文献6)の方法では、増幅されたNK細胞の細胞傷害活性は約90%(最大値)であった。しかし、遺伝的に改変された腫瘍細胞がフィーダー細胞として用いられるため、該細胞が最終産物に混入するリスクがあるので好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−297291号公報
【特許文献2】特願2011−140504号出願明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Miller,J.S.ら、Blood、105:3051(2005)
【非特許文献2】Rubnitz,J.E.ら、J.Clin.Oncol.、28:955(2010)
【非特許文献3】Cho,D.及びCampana,D.、Korean J.Lab.Med.、29:89(2009)
【非特許文献4】Carlens,S.ら、Hum.Immunol.、62:1092(2001)
【非特許文献5】Alici,E.ら、Blood、111:3155(2008)
【非特許文献6】Fujisaki,H.ら、Cancer Res.、69:4010(2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、フィーダー細胞を用いないで、臍帯血からでも、末梢血からでも、高い細胞傷害活性を有するNK細胞を高純度で増幅できる技術を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はNK細胞の増幅方法を提供する。本発明のNK細胞の増幅方法は、NK細胞を含む細胞集団を調製するステップと、前記NK細胞を含む細胞集団からT細胞を除去するステップと、前記T細胞が除去された残りの細胞を、2500IU/mLないし2813IU/mLのIL−2を含む培地で培養するステップとを含む。
【0010】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記NK細胞を含む細胞集団から前記T細胞を除去するステップは、CD3陽性細胞を除去するステップによって達成される場合がある。
【0011】
本発明のNK細胞の増幅方法は、前記NK細胞を含む細胞集団から造血前駆細胞を除去するステップを含む場合がある。
【0012】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記NK細胞を含む細胞集団から前記造血前駆細胞を除去するステップは、CD34陽性細胞を除去するステップによって達成される場合がある。
【0013】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記培地は、自家血清、AB型血清、及び/又は、血清アルブミンを含む場合がある。
【0014】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記NK細胞を含む細胞集団を調製するステップは、被験者から採取された血球細胞から単核球を分離するステップによって達成される場合がある。
【0015】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記血球細胞は、末梢血、臍帯血、骨髄及び/又はリンパ節から採取される場合がある。
【0016】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記血球細胞は末梢血からアフェレーシス法により採取される場合がある。
【0017】
本発明のNK細胞の増幅方法において、前記NK細胞を含む細胞集団は、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞と、臍帯血単核球と、末梢血単核球とからなる群から選択される少なくとも1種類の細胞から調製される場合がある。前記NK細胞を含む細胞集団のドナーは、レシピエントである患者自身か、該患者の近縁者か、患者とは血縁関係のない者かに由来する場合がある。前記NK細胞は、レシピエントの主要組織適合性抗原(MHC)と、キラー免疫グロブリン様受容体(Killer Immunoglobulin−like Receptor:KIR)とが不一致であるドナーに由来する場合がある。
【0018】
本発明は、本発明の増幅方法によって調製されるNK細胞を含む、細胞療法のための医薬品組成物を提供する。本発明の医薬品組成物は、増幅されたNK細胞の他に、NK細胞前駆体、T細胞、NKT細胞、造血前駆細胞等を含む場合がある。
【0019】
本発明の医薬品組成物は、感染症及び/又は癌を治療するために用いられる場合がある。
【0020】
本発明の医薬品組成物は、本発明の増幅方法によって調製されるNK細胞と異なるHLA遺伝子型を有する、患者に投与される場合がある。
【0021】
本発明は、前記NK細胞を含む細胞集団を調製するステップと、前記NK細胞を含む細胞集団からT細胞を除去するステップと、前記T細胞が除去された残りの細胞を、2500IU/mLないし2813IU/mLのIL−2を含む培地で培養するステップと、前記残りの細胞から増幅されたNK細胞を患者に移植するステップとを含む、細胞療法を提供する。前記細胞療法は、前記NK細胞を含む細胞集団から造血前駆細胞を除去するステップを含む場合がある。前記NK細胞を患者に移植するステップにおいて、増幅されたNK細胞は、NK細胞前駆体、T細胞、NKT細胞、造血前駆細胞等とともに移植される場合がある。本発明の細胞療法は、感染症及び/又は癌を治療及び/又は予防するために用いられる場合がある。本発明の細胞療法は、本発明の増幅方法によって調製されるNK細胞と異なるHLA遺伝子型を有する患者に移植するステップを含む場合がある。本発明の細胞療法において、前記NK細胞を患者に移植するステップは、本発明の医薬品組成物を患者に投与するステップによって達成される場合がある。
【0022】
本発明の細胞療法において、前記NK細胞を含む細胞集団は、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞と、臍帯血単核球と、末梢血単核球とからなる群から選択される少なくとも1種類の細胞から調製される場合がある。前記NK細胞を含む細胞集団のドナーは、レシピエントである患者自身か、該患者の近縁者か、患者とは血縁関係のない者かに由来する場合がある。前記NK細胞は、レシピエントの主要組織適合性抗原(MHC)と、キラー免疫グロブリン様受容体(Killer Immunoglobulin−like Receptor:KIR)とが不一致であるドナーに由来する場合がある。
【0023】
本明細書において「NK細胞」とは、CD3陰性CD56陽性の単核球をいい、特にMHCクラスI分子の発現が少ないか、該発現が消失している細胞に対する細胞傷害活性を有する。
【0024】
本発明の増幅方法において、前記NK細胞を含む細胞集団は、当業者に知られたさまざまな手順を用いて調製することができる。例えば、臍帯血及び末梢血のような血液から単核球を回収する際には、比重遠心法を用いることができる。またNK細胞は、免疫磁気ビーズを用いて採取することができる。さらに前記NK細胞は、細胞表面マーカーに対する特異的抗体で免疫蛍光染色を行い、FACS(Fluorescence activated cell sorter)又はフローサイトメーターを用いて単離・同定できる。また、前記NK細胞は、Invitrogen社から販売されるDynal社製Dynabeads(商標)や、ミルテニーバイオテック社のCliniMACS(商標)を含むがこれらに限定されない免疫磁気ビーズを用いて、細胞表面抗原CD3及び/又はCD34を発現する細胞を分離除去して調製されてもかまわない。また、T細胞及び/又は造血前駆細胞に対する特異的結合パートナーを利用して、T細胞及び/又は造血前駆細胞を選択的に傷害又は死滅させる場合がある。なお、前記T細胞を前記単核球から除去するステップは、他の細胞タイプ、例えば、造血前駆細胞、B細胞及び/又はNKT細胞をT細胞とともに除去するステップであってもかまわない。造血前駆細胞を前記単核球から除去するステップは、他の細胞タイプ、例えば、T細胞、B細胞及び/又はNKT細胞を造血前駆細胞とともに除去するステップであってもかまわない。
【0025】
本発明の増幅方法において、臍帯血及び末梢血から分離された単核球は凍結保存され、患者への移植時期に応じて解凍され、NK細胞の増幅に供される場合がある。あるいは、前記単核球は、本発明のNK細胞の増幅方法によって増幅される途中か、増幅が終わった後かに凍結され、患者への移植時期に応じて解凍され、患者への移植に供される場合がある。血球細胞の凍結及び解凍は当業者に周知のいかなる方法を用いてもかまわない。前記細胞の凍結には、いずれかの市販の細胞凍結保存液が用いられる場合がある。
【0026】
本発明の細胞療法において、生きているNK細胞を懸濁するための溶液は、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地、血清等が一般的である。前記溶液は、医薬品及び医薬部外品として薬学的に許容される担体を含む場合がある。本発明のNK細胞療法は、NK細胞に感受性を有するさまざまな疾患の治療及び/又は予防に適用することができる。前記疾患は、例えば、口腔癌、胆嚢癌、胆管癌、肺癌、肝臓癌、大腸癌、腎臓癌、膀胱癌、白血病や、ウイルス、細菌等による感染症を含むが、これらに限定されない。本発明の細胞療法は、単独か、あるいは外科療法、化学療法、放射線療法等と組み合わせて実施される場合がある。本発明の細胞療法において、NK細胞は、例えば、静脈、動脈、皮下、腹腔内等への投与によって移植される場合がある。
【0027】
本発明のNK細胞を調製するための細胞培養用培地は、KBM501培地(コージンバイオ株式会社)、CellGro SCGM培地(セルジェニックス、岩井化学薬品株式会社)、X−VIVO15培地(ロンザ、タカラバイオ株式会社)、IMDM、MEM、DMEM、RPMI−1640等を含むが、これらに限定されない。
【0028】
前記培地には、インターロイキン−2(IL−2)が、本発明の目的を達成できる濃度で添加される場合がある。前記IL−2の濃度は、2500IU/mLないし2813IU/mLの場合がある。前記IL−2は、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。
【0029】
本明細書において、IL−2の濃度は、国内標準単位(JRU)及び国際単位(IU)で示される場合がある。1IUが約0.622JRUであるから、1750JRU/mLは約2813IU/mLである。
【0030】
前記培地には、被験者の自家血清、BioWhittaker社その他から入手可能なヒトAB型血清や、日本赤十字社から入手可能な献血ヒト血清アルブミンが添加される場合がある。前記自家血清及び前記ヒトAB型血清は1ないし10%の濃度で添加されることが好ましく、前記献血ヒト血清アルブミンは1ないし10%の濃度で添加されることが好ましい。前記被験者は、健常者と、前記疾患に罹患した患者との場合がある。
【0031】
前記培地には、NK細胞の増幅効果を損なわないことを条件として、適切なタンパク質、サイトカイン、抗体、化合物その他の成分が含まれる場合がある。前記サイトカインは、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン12(IL−12)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−21(IL−21)、幹細胞因子(SCF)、及び/又は、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(Flt3L)の場合がある。前記IL−3、IL−7、IL−12、IL−15、IL−21、SCF及びFlt3Lは、ヒトのアミノ酸配列を有することが好ましく、安全上、組換えDNA技術で生産されることが好ましい。前記培地の交換は、所望のNK細胞の細胞数が得られることを条件として、培養開始後いつ行われてもかまわないが、3−5日毎が好ましい。
【0032】
本発明の増幅方法において、培養容器は、商業的に入手可能なディッシュ、フラスコ、プレート、マルチウェルプレートを含むが、これらに限定されない。培養条件は、NK細胞の増幅効果を損なわないことを条件として特に限定されないが、37°C、5%CO及び飽和水蒸気雰囲気下の培養条件が一般的である。本発明の目的はNK細胞を大量に調製することであるため、前記培地で培養する期間が長いほどより多くのNK細胞が得られるので有利である。培養期間は、NK細胞を所望の細胞数まで増幅することを条件として、特に限定されない。
【0033】
本発明の増幅方法において、前記NK細胞を含む細胞集団は、NK細胞に加えて、NK細胞前駆体、T細胞、NKT細胞、造血前駆細胞等を含む場合がある。所望のNK細胞が、増幅後、例えば、比重遠心法、免疫磁気ビーズ、FACS、フロー・サイトメトリー等を用いて選択される場合がある。例えば、前記NK細胞は、抗CD3抗体、抗CD16抗体、抗CD34抗体、抗CD56抗体、抗CD69抗体、抗CD94抗体、抗CD107a抗体、抗KIR3DL1抗体、抗KIR3DL2抗体、抗KIR2DL3抗体、抗KIR2DL1抗体、抗KIR2DS1抗体、抗KIR2DL5抗体、抗NKp46抗体、抗NKp30抗体、抗NKG2D抗体等を用いて、前記細胞集団から選択的に分離される場合がある。前記抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体等の場合がある。NK細胞の選択は、T細胞、NKT細胞、造血前駆細胞その他の細胞を選択的に除去して行われる場合がある。
【0034】
本発明の方法及び医薬品組成物の製造は、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則に適合した条件(good manufacturing practice、GMP)で実施されることが好ましい。
【0035】
増幅されたNK細胞の細胞傷害活性は、当業者に周知の方法によって評価できる。前記細胞傷害活性は、前記NK細胞(エフェクター細胞)と、放射性物質、蛍光色素等で標識した標的細胞とをインキュベーションした後、放射線量又は蛍光強度を測定することによって定量することが一般的である。前記標的細胞は、K562細胞、急性骨髄性白血病細胞、慢性骨髄性白血病細胞の場合があるが、これらに限定されない。増幅されたNK細胞の性質は、RT−PCR法、固相雑種形成法、ELISA法、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、免疫比濁法、FACS、フロー・サイトメトリー法等を用いて調べられる場合がある。
【0036】
本発明において、臍帯血及び末梢血の全血の採取と、自家血清の調製と、前記全血からの単核球の調製と、該単核球の培養前後の細胞数の測定と、培養前後の前記単核球中のNK細胞、T細胞、造血前駆細胞その他の細胞タイプの構成比率の測定と、NK細胞の増幅倍率の算出と、測定誤差や有意性についての統計解析とは、当業者に周知のいかなる方法を使用して実施されてもかまわない。
【0037】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】CD3陽性細胞の除去前に、CD3及びCD56に対する抗体で2重染色しフロー・サイトメトリー法で測定した結果図。
【図1B】CD3陽性細胞の除去後に、CD3及びCD56に対する抗体で2重染色しフロー・サイトメトリー法で測定した結果図。
【図2A】健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の細胞数それぞれの増殖曲線。
【図2B】健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の細胞数の平均増殖曲線。
【図3A】健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の増幅倍率それぞれの増殖曲線。
【図3B】健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の増幅倍率の平均増殖曲線。
【図4A】健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の増幅倍率それぞれの増殖曲線。
【図4B】健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の増幅倍率の平均増殖曲線。
【図5A】健常者5人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定した結果図。
【図5B】健常者5人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定し、平均化した結果図。
【図6A】進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者3人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定した結果図。
【図6B】進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者3人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の増幅倍率の平均増殖曲線。
【図7】CD69のフロー・サイトメトリー解析結果を比較したグラフ。
【図8】CD69のフロー・サイトメトリー解析結果を比較した平均蛍光強度(MFI)の測定値のグラフ。
【図9】CD16のフロー・サイトメトリー解析結果を比較したグラフ。
【図10】CD16のフロー・サイトメトリー解析結果を比較した平均蛍光強度(MFI)の測定値のグラフ。
【図11】さまざまな細胞表面マーカーのフロー・サイトメトリー解析結果を比較したグラフ。
【図12】KBM培地と、CellGro培地とで培養されたNK細胞の増幅倍率の増殖曲線。
【図13】本発明の方法で増幅された末梢血由来NK細胞のK562に対する細胞傷害活性を調べた実験結果を示すグラフ。
【図14】健常者から分離されたCD107a陽性細胞の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定した結果図。
【図15】CD3陽性細胞の1回除去及び2回除去後のNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率を示す棒グラフ。
【図16A】増幅前のCD3陰性細胞と、CD3及びCD34陰性細胞とにおけるCD34陽性細胞の構成比率を示す棒グラフ。
【図16B】増幅前のCD3陰性細胞と、CD3及びCD34陰性細胞とにおけるCD3陽性細胞の構成比率を示す棒グラフ。
【図17】増幅後のCD3陰性細胞と、CD3及びCD34陰性細胞とにおけるNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率を示す棒グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例1】
【0040】
NK細胞の増幅(1)
1.材料及び方法
(1)末梢血からの採血
末梢血が、健常者と、進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者とから採取された。本実験は、九州大学医系地区部局臨床研究倫理審査委員会の承認(承認番号22−176、承認日:平成23年3月31日)を得て実施された。書面による同意が、前記健常者及び前記患者から得られている。採血、凍結保存、及び、解凍は当業者に周知の方法で行われた。
【0041】
(2)末梢血からの単核球の分離
得られた血液は、常温に保たれた希釈液(1mM EDTA及び2%ウシ胎仔血清が添加されたPBS)で2倍希釈され、各遠心管に、希釈血20ないし35mLが、10ないし15mLのFicoll Paque(比重1.077)に重層された。遠心は、500×g、室温で20分間行われ、ブレーキをかけずに停止された。遠心上清(血漿部分)は数mLを残して除去され、中間層が回収された。遠心管1ないし2本から回収された前記中間層が1本の新たな遠心管に集められ、前記希釈液により体積が50mLに調整された。2回目の遠心は、500×g、室温、5分間又は15分間の条件で行われた。上清は除去され、ペレットが、前記希釈液30mLに懸濁された。3回目の遠心は、280×g、室温10分間の条件で行われた。上清は除去され、ペレットは、細胞濃度が1×10個/mLになるように、2mM EDTAと、0.1%BSAとが添加されたPBSに懸濁された(以下、「単核球懸濁液」という。)。
【0042】
(3)CD3陽性細胞の除去
抗CD3抗体が固定化された磁気ビーズ(Dynabeads CD3)は、0.1%BSAが添加されたPBSで1回洗浄された後、前記単核球懸濁液に細胞10個あたり50μLが添加された。前記ビーズを含む単核球懸濁液は、4°Cで30分間ローテーターにて攪拌された。その後、前記磁気ビーズは磁石によって前記懸濁液から分離され、CD3を細胞表面に発現する細胞(CD3陽性細胞)が除去された。
【0043】
(4)CD3陽性細胞が除去された細胞集団の培養
前記懸濁液中の残りの細胞(以下、「CD3陰性細胞」という。)は、5%自家血清が添加された細胞培養用培地(KBM501、16025015、コージンバイオ株式会社;1750JRU/mLのIL−2含有)(以下、「KBM培地」という。)で5×10個/mLになるように希釈され、6ウェルの培養プレート(140675、nunc、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)に播種された。細胞培養は、37°C、5%CO及び飽和水蒸気雰囲気下で21日間行われた。培地交換が、培養5日目、9日目、13日目及び17日目に行われた。前記細胞は、フィーダー細胞なしで培養された。
【0044】
(5)細胞数及び細胞表面マーカーの解析
前記末梢血単核球の細胞数は、培養開始時から21日目までの間に血球計算盤を用いて生細胞数を計測することにより決定された。前記細胞の細胞表面マーカーは、抗CD3抗体(317308、BioLegend Japan 株式会社)、抗CD16抗体(556618、BD Pharmingen、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)、抗CD56抗体(304607、318321、BioLegend Japan 株式会社)、抗CD69抗体(310905、BioLegend Japan 株式会社)、抗KIR3DL1/KIR3DL2抗体(130−095−205、ミルテニーバイオテク株式会社)、抗KIR2DL3抗体(FAB2014P、R&D SYSTEMS社、コスモ・バイオ株式会社)、抗KIR2DL1/KIR2DS1抗体(339505、BioLegend Japan 株式会社)、抗KIR2DL5抗体(341303、BioLegend Japan 株式会社)、抗NKp46抗体(331907、BioLegend Japan 株式会社)、抗NKp30抗体(325207、BioLegend Japan 株式会社)、及び、抗NKG2D抗体(320805、BioLegend Japan 株式会社)を用いて、フロー・サイトメトリー法で解析された。
【0045】
2.結果
(1)健常者のNK細胞の増幅
図1Aは、CD3陽性細胞の除去前に、CD3及びCD56に対する抗体で2重染色し、フロー・サイトメトリー法で測定した実験結果である。図1Bは、CD3陽性細胞の除去後に、CD3及びCD56に対する抗体で2重染色しフロー・サイトメトリー法で測定した実験結果である。「CD3陽性細胞の構成比率」では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全培養細胞中のCD3陽性細胞の割合が百分率で表される。CD3陽性細胞の構成比率(%)は、CD3陽性細胞の除去前には69.37%であり、CD3陽性細胞の除去後には0.68%であった。これらの結果から明らかなとおり、CD3陽性細胞は単核球懸濁液から顕著に除去された。
【0046】
図2Aは、健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の細胞数それぞれの増殖曲線である。図2Bは、健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の細胞数の平均増殖曲線である。5人の健常者から採取された末梢血1mLあたりのCD3陰性細胞の細胞数が、培養開始時、5日間培養後、9日間培養後、13日間培養後、17日間培養後及び21日間培養後に測定された。各実験条件の標準偏差は、同一条件で5回繰り返した実験結果の測定値から算出された。CD3陰性細胞は、培養開始時から21日目後まで増加し続けた。増加速度が13日目までは上昇し続け、13日目後には低下した。CD3陰性細胞は、培養開始時の約5×10個から21日間培養後の約700×10個に増加した。
【0047】
図3Aは、健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の増幅倍率それぞれの増殖曲線である。図3Bは、健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたCD3陰性細胞の増幅倍率の平均増殖曲線である。前記増幅倍率は、5日間培養後、9日間培養後、13日間培養後、17日間培養後及び21日間培養後のCD3陰性細胞の細胞数を、培養開始時のCD3陰性細胞の細胞数で除算した商として算出された。各実験条件の標準偏差は、同一条件で5回繰り返した実験結果の測定値から算出された。CD3陰性細胞の増幅倍率は、培養開始時から21日目まで増大し続けた。前記増幅倍率は13日目までは顕著に増大し続け、21日間培養後には約150倍に増大した。
【0048】
図4Aは、健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の増幅倍率それぞれの増殖曲線である。図4Bは、健常者5人の末梢血中の単核球から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の増幅倍率の平均増殖曲線である。図4A及び図4Bでは、CD3陰性細胞が、CD3及びCD56に対する抗体で2重染色しフロー・サイトメトリー法で解析された。前記増幅倍率は、7日間培養後、14日間培養後及び21日間培養後のNK細胞の細胞数を、培養開始時のNK細胞の細胞数で除算した商として算出された。各実験条件の標準偏差は、同一条件で5回繰り返した実験結果の測定値から算出された。NK細胞の増幅倍率は、培養開始時から21日目まで増大し続けた。前記増幅倍率は14日目までは顕著に増大し続け、21日間培養後には約400倍に増大した。
【0049】
図5Aは、健常者5人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定した実験結果である。図5Bは、健常者5人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率の平均値の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定し、平均化した実験結果である。図5A及び図5Bでは、CD3陰性細胞が、CD3及びCD56に対する抗体で2重染色しフロー・サイトメトリー法で解析された。「NK細胞の構成比率」では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全培養細胞中のNK細胞の割合が百分率で表される。グラフの縦軸は培養細胞全体に対するNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の構成比率(%)で、横軸は培養日数である。各実験条件の標準偏差は、同一条件で5回繰り返した実験結果の測定値から算出された。NK細胞の構成比率は、培養開始時から21日目まで増大し続けた。前記NK細胞の構成比率は14日目までは顕著に増大し続け、14日間培養後には約90%に増大した。本発明は、NK細胞を選択的かつ経時的に増幅することが示された。
【0050】
(2)患者のNK細胞の増幅
図6Aは、進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者3人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定した実験結果である。図6Bは、進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者3人から分離されたNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の増幅倍率の平均増殖曲線である。「NK細胞の構成比率」では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全培養細胞中のNK細胞の割合が百分率で表される。図6Aのグラフでは、縦軸は培養細胞全体に対するNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の構成比率(%)で、横軸は培養日数である。「NK細胞の増幅倍率」では、増幅後のNK細胞の細胞数を増幅前に末梢血単核球中に存在したNK細胞の細胞数で除算した結果が表される。図6Bのグラフでは、縦軸はNK細胞の増幅倍率で、横軸は培養日数である。各実験条件の標準偏差は、同一条件で3回繰り返した実験結果の測定値から算出された。図6Aに示されるとおり、NK細胞の構成比率は、培養開始時から14日目まで顕著に増大し続け、14日間培養後には約85%に増大した。また、図6Bに示されるとおり、NK細胞の増幅倍率は、培養開始時から14日目まで顕著に増大し続け、14日間培養後には約140倍に増大した。21日間培養後には、CD3陽性細胞が増殖したために、NK細胞の構成比率が低下した。しかし、前記CD3陽性細胞の増殖は、NK細胞の増幅にはほとんど影響しなかった。以上の結果から、進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者から分離されたNK細胞は、経時的に増幅することが示された。また、本発明は、癌、感染症等に罹患した患者から分離されたNK細胞を経時的に増幅できることが示唆された。
【0051】
(3)NK細胞の分化マーカーの発現
図7、9及び11に、各細胞表面マーカーのフロー・サイトメトリー解析結果を比較したグラフを示す。また、図8及び10に、CD69及びCD16のフロー・サイトメトリー解析結果を比較した平均蛍光強度(MFI)の測定値のグラフを示す。各実験条件の標準偏差は、同一条件で3回繰り返した実験結果の測定値から算出された。図7ないし11から明らかなとおり、本発明の方法で増幅された細胞は、増幅前の細胞と比較して、CD69、KIR2DL3、KIR2DL1/KIR2DS1、KIR2DL5、NKp30、及び、NKG2Dを強く発現していた。特に、前記増幅された細胞では、CD69の発現は、約100%であった。これらの図から明らかなとおり、本発明の方法で調製された細胞は、NK細胞としての分化マーカーを発現することが示された。また、前記NK細胞は、高い細胞傷害活性を備えていることが示唆された。
【0052】
本実施例の実験結果から、CD3陽性細胞、すなわちT細胞を除去したうえで前記KBM培地で培養することにより、ほぼNK細胞だけを選択的かつ効率的に増幅できることが示された。大量のNK細胞が、健常者だけでなく、癌、感染症等に罹患した患者から調製できることが示唆された。また、本発明の方法は、末梢血由来のNK細胞だけでなく、他の組織・器官由来の細胞、特に臍帯血由来のNK細胞を顕著に増幅できることが示唆された。
【実施例2】
【0053】
NK細胞の増幅(2)
1.材料及び方法
NK細胞は実施例1で説明された方法に従って健常者から調製された。2500IU/mLのIL−2(AF−200−02−2、PeproTech、東洋紡績株式会社)と、5%自家血清とを添加したCellGro SCGM(2001、セルジェニックス、岩井化学薬品株式会社)(以下、「CellGro培地」という。)が細胞培養用培地として調製された。前記NK細胞は、実施例1で説明された方法に従って前記KBM培地及び前記CellGro培地で増幅された。
【0054】
2.結果
図12は、KBM培地と、CellGro培地とで培養されたNK細胞の増幅倍率の増殖曲線である。前記増幅倍率は、7日間培養後、14日間培養後及び21日間培養後のNK細胞の細胞数を、培養開始時のNK細胞の細胞数で除算した商として算出された。各実験条件の標準偏差は、同一条件で2回繰り返した実験結果の測定値から算出された。NK細胞の増幅倍率は、KBM培地及びCellGro培地で、培養開始時から21日目まで増大し続けた。21日間培養後、前記増幅倍率は、KBM培地では約670倍であり、CellGro培地では約140倍であった。
【0055】
本実施例の実験結果から、NK細胞は、前記KBM培地と、前記CellGro培地とで十分に増幅することが示された。したがって、NK細胞は、細胞培養用培地のタイプにかかわらず、2500IU/mLないし2813IU/mLのIL−2を含む培地で増幅できることが示唆された。
【実施例3】
【0056】
増幅されたNK細胞の細胞傷害活性
1.材料及び方法
(1)細胞傷害活性の定量
NK細胞が、実施例1で説明された方法に従って調製され、エフェクター細胞として用いられた。K562細胞(慢性骨髄性白血病細胞)が当業者に周知の方法で調製され、標的細胞として用いられた。増幅されたNK細胞と、増幅されていないNK細胞(以下、「非増幅NK細胞」という。)との細胞傷害活性が、当業者に周知の方法で定量された。簡潔には、前記標的細胞は、3−3’−ジオクタデシロキサカルボシアニン(D4292、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)(終濃度:0.01mM)を添加したRPMI−1640培地で10分間培養することによって標識された。前記標的細胞は、標識後、PBS(−)及び無血清IMDM培地を用いて3回洗浄された。前記エフェクター細胞と、前記標的細胞とは、丸底の96ウェルの培養プレートに播種され、無血清IMDM培地で2時間共培養された。エフェクター細胞と標的細胞との比(E:T比)は、3対1、2対1、1対1、1対5、及び、1対10に調製された。細胞傷害活性(%)は、抗MHCクラスI抗体(311409、BioLegend Japan 株式会社)及び7−アミノ−アクチノマイシンD(A9400、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)を用いてフロー・サイトメトリー法によって定量された。
【0057】
(2)NK細胞の分化マーカーの発現
NK細胞は、実施例1で説明された方法に従って増幅された。培養開始時、3日間培養後、7日間培養後、14日間培養後及び21日間培養後に、前記NK細胞と、前記K562細胞とは、2対1のE:T比で2時間共培養された。その後、前記NK細胞におけるCD107a陽性細胞の構成比率が、抗CD107a抗体(328606、BioLegend Japan 株式会社)を用いてフロー・サイトメトリー法で解析された。
【0058】
2.結果
(1)細胞傷害活性の定量
図13は、本発明の方法で増幅された末梢血由来NK細胞のK562に対する細胞傷害活性を調べた実験結果を示すグラフである。縦軸は細胞傷害活性(単位:%)である。白色棒は非増幅NK細胞の細胞傷害活性を示し、黒色棒は増幅されたNK細胞の細胞傷害活性を示す。横軸は、増幅されたNK細胞又は非増幅NK細胞と、K562細胞とのE:T比である。E:T比が3対1であるとき、前記細胞傷害活性は、非増幅NK細胞では約30%であり、増幅されたNK細胞では約110%であった。E:T比が2対1であるとき、前記細胞傷害活性は、非増幅NK細胞では約20%であり、増幅されたNK細胞では約107%であった。E:T比が1対1であるとき、前記細胞傷害活性は、非増幅NK細胞では約10%であり、増幅されたNK細胞では約100%であった。E:T比が、1対5及び1対10であるとき、増幅されたNK細胞の前記細胞傷害活性は、それぞれ、約25%及び約15%であった。
【0059】
(2)NK細胞の分化マーカーの発現
図14は、健常者から分離されたCD107a陽性細胞の培養細胞全体に対する構成比率の経時的な変化をフロー・サイトメトリー法で測定した実験結果である。各実験条件の標準偏差は、同一条件で5回繰り返した実験結果の測定値から算出された。「CD107a陽性細胞の構成比率」では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全培養細胞中のCD107a陽性細胞の割合が百分率で表される。図14のグラフでは、縦軸は培養細胞全体に対するCD107a陽性細胞の構成比率(%)で、横軸は培養日数である。CD107a陽性細胞の構成比率は、培養開始時から3日目までに約35%まで増大され、前記構成比率は、21日目でも維持された。
【0060】
本実施例の実験結果から、本発明によって増幅されたNK細胞は、高い細胞傷害活性を有していることが示された。したがって、本発明は、フィーダー細胞、外来分子をトランスフェクションしたNK細胞等を用いることなく、細胞傷害活性が高いNK細胞を選択的かつ効率的に増幅できることが示された。また、NK細胞が、末梢血由来の細胞だけでなく、他の組織・器官由来の細胞、特に臍帯血由来の細胞から増幅されたときにも、細胞傷害活性が高いことが示唆された。
【実施例4】
【0061】
NK細胞の増幅(3)(CD3陽性細胞の繰り返し除去)
実施例1ないし3の実験後、さらにNK細胞の増幅実験を重ねるなかで、CD3陽性細胞が非選択的に増大し、CD3陽性細胞の培養細胞全体に対する構成比率が本実施例の結果のように30%を超える場合があるとの知見が得られた。このCD3陽性細胞の非選択的な増大の頻度は、進行癌の患者よりアフェレーシス法で採取された末梢血単核球細胞を利用してNK細胞を増幅した実験のうち約30%であった(データは示されない。)。そこで、NK細胞を選択的に増幅するために、CD3陽性細胞を除去するステップを繰り返すことが試みられた。
【0062】
1.材料及び方法
実施例1で説明された方法に従って、NK細胞は増幅され、細胞数及び細胞表面マーカーが解析された。単核球懸濁液は進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者から調製された。CD3陽性細胞の除去が、1回又は2回実施された。CD3陰性細胞は前記KBM培地で14日間培養された。
【0063】
2.結果
図15は、CD3陽性細胞の1回除去及び2回除去後のNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率を示す棒グラフである。各実験条件の誤差棒は同一条件で3回繰り返した実験結果の測定値の標準誤差を示す。NK細胞、CD3陽性細胞及び他の細胞の構成比率では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全培養細胞中のNK細胞、CD3陽性細胞及び他の細胞の割合それぞれが百分率で表される。グラフの縦軸は培養細胞全体に対するNK細胞、CD3陽性細胞及び他の細胞の構成比率(%)であり、横軸はCD3陽性細胞の除去回数である。NK細胞の培養細胞全体に対する構成比率(%)は、CD3陽性細胞の1回除去では約50%であり、CD3陽性細胞の2回除去では約65%であった。
【0064】
本実施例の実験結果から、CD3陽性細胞の繰り返し除去はCD3陽性細胞の培養細胞全体に対する構成比率を低下させ、NK細胞の培養細胞全体に対する構成比率を増大できることが示された。しかし、前記CD3陽性細胞の繰り返し除去はNK細胞を選択的に増幅するのに十分とはいえない。そこで、前記CD3陽性細胞の繰り返し除去以外の他の処理を併用することが試みられた。
【実施例5】
【0065】
NK細胞の増幅(4)(CD3陽性細胞及びCD34陽性細胞の除去)
1.材料及び方法
実施例1で説明された方法に従って、NK細胞は増幅され、細胞数及び細胞表面マーカーが解析された。単核球懸濁液は進行癌(口腔癌、胆嚢癌及び胆管癌)の患者から調製された。CD3陽性細胞の除去後、造血前駆細胞が除去された。前記造血前駆細胞の除去は、CD34を細胞表面に発現する細胞(CD34陽性細胞)を、ビオチン化抗CD34抗体(343523、BioLegend Japan 株式会社)と、磁気ビーズ(Dynabeads biotin binder、110−47、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)とを用いて行われた。簡潔には、前記CD34陽性細胞と、前記ビオチン化抗CD34抗体とが反応された。その後、遠心分離が行われ、上清が除去され、前記抗体が結合した細胞の懸濁液が調製された。前記磁気ビーズは、0.1%BSAが添加されたPBSで1回洗浄後、細胞10個あたり50μLが前記懸濁液に添加された。前記磁気ビーズを含む懸濁液は、4°Cで30分間ローテーターにて攪拌された。前記磁気ビーズは磁石によって前記懸濁液から分離され、CD34陽性細胞が除去された。前記懸濁液中の残りの細胞(以下、「CD3及びCD34陰性細胞」という。)は前記KBM培地で14日間培養された。フロー・サイトメトリー法での計測では、抗CD34抗体(343505、BioLegend Japan 株式会社)が追加的に用いられた。
【0066】
2.結果
図16Aは、増幅前のCD3陰性細胞と、CD3及びCD34陰性細胞とにおけるCD34陽性細胞の構成比率を示す棒グラフである。図16Bは、増幅前のCD3陰性細胞と、CD3及びCD34陰性細胞とにおけるCD3陽性細胞の構成比率を示す棒グラフである。各実験条件の誤差棒は同一条件で3回繰り返した実験結果の測定値の標準誤差を示す。CD34陽性細胞及びCD3陽性細胞の構成比率では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全細胞中のCD34陽性細胞及びCD3陽性細胞の割合が百分率で表される。グラフの縦軸は細胞全体に対する増幅前のCD34陽性細胞及びCD3陽性細胞の構成比率(%)である。グラフの横軸は、増幅用の各実験群の細胞タイプを示す。増幅前のCD34陽性細胞の構成比率(%)は、CD3陰性細胞では約0.15%であり、CD3及びCD34陰性細胞では約0.02%であった。増幅前のCD3陽性細胞の構成比率(%)は、CD3陰性細胞では約0.15%であり、CD3及びCD34陰性細胞では約0.25%であった。
【0067】
図17は、増幅後のCD3陰性細胞と、CD3及びCD34陰性細胞とにおけるNK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率を示す棒グラフである。各実験条件の誤差棒は同一条件で3回繰り返した実験結果の測定値の標準誤差を示す。NK細胞、CD3陽性細胞及び他の細胞の構成比率では、フロー・サイトメトリー法により計測された、各実験群の全培養細胞中のNK細胞、CD3陽性細胞及び他の細胞の割合それぞれが百分率で表される。グラフの縦軸は培養細胞全体に対するNK細胞、CD3陽性細胞及び他の細胞の構成比率(%)である。グラフの横軸は、増幅に用いた各実験群の細胞タイプを示す。増幅後のNK細胞の培養細胞全体に対する構成比率(%)は、CD3陰性細胞では約60%であり、CD3及びCD34陰性細胞では約90%であった。
【0068】
本実施例の実験結果から、NK細胞(CD3陰性/CD56陽性)の培養細胞全体に対する構成比率は、CD3陽性細胞及びCD34陽性細胞を除去することによって顕著に増大することが示された。また、NK細胞がアフェレーシス法で採取された末梢血単核球細胞を利用して増幅されるときであっても、NK細胞は、CD3陽性細胞及びCD34陽性細胞を除去することによって高純度で増幅できることが示された。
【0069】
結論
以上の実験結果から明らかなとおり、末梢血由来の単核球からCD3陽性細胞(T細胞)を除去することによって、NK細胞を大量に調製することができた。また本発明の方法で増幅された細胞は、本実施例の実験結果で明らかにされたとおり、非常に高い細胞傷害活性を有した。さらに、末梢血由来の単核球からCD3陽性細胞(T細胞)及びCD34陽性細胞(造血前駆細胞)を除去することによって、NK細胞を高純度で調製することができた。
【0070】
現在報告されているNK細胞の増幅方法では、NK細胞の細胞傷害活性が低いことが知られている。例えば、Terunuma、H.らのNK細胞の増幅成績は、健常者の末梢血由来のNK細胞に関して、純度81.2%、増幅倍率130倍、細胞傷害活性66%(E:T=3:1)だった(特許文献1)。Tanaka,J.らのNK細胞の増幅成績は、健常者の末梢血単核球細胞に関して、純度73.4%、増幅倍率6268倍、細胞傷害活性約55%(E:T=1:1)だった(特許文献2)。Carlens,S.らのNK細胞の増幅成績は、ミエローマ患者の末梢血由来のNK細胞に関して、純度55%、増幅倍率193倍、細胞傷害活性45%(E:T=1:1)だった(非特許文献4)。Alici、E.らのNK細胞の増幅成績は、ミエローマ患者の末梢血由来のNK細胞に関して、純度65%、増幅倍率1625倍、細胞傷害活性約10%(E:T=1:1)だった(非特許文献5)。Fujisaki,H.らのNK細胞の増幅成績は、健常者の末梢血由来のNK細胞に関して、遺伝的に改変された腫瘍細胞がフィーダー細胞として用いられるとき、純度96.8%、増幅倍率277倍、細胞傷害活性の最大値約90%(E:T=1:1)だった(非特許文献6)。これに対して、本発明のNK細胞の増幅成績は、健常者の末梢血由来のNK細胞に関して、純度約90%、増幅倍率400倍、細胞傷害活性約100%(E:T=1:1)だった。従来技術では、K562細胞に対するNK細胞の細胞傷害活性は、遺伝的に改変された腫瘍細胞がフィーダー細胞として用いられるとき、最大値で約90%(E:T=1:1)であり、フィーダー細胞を用いないとき、66%(E:T=3:1)であった。しかし、本発明のNK細胞はフィーダー細胞なしで増幅され、K562細胞に対する細胞傷害活性がほぼ100%(E:T=1:1)であった。したがって、本発明は、NK細胞の細胞傷害活性が高く、フィーダー細胞が最終産物に混入するリスクがないため、従来技術と比較して顕著に優れている。よって、本発明は、高い細胞傷害活性を有するNK細胞を、採取された血球細胞から高純度で大量に調製するのに有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NK細胞を含む細胞集団を調製するステップと、
前記NK細胞を含む細胞集団からT細胞を除去するステップと、
前記T細胞が除去された残りの細胞を、2500IU/mLないし2813IU/mLのIL−2を含む培地で培養するステップとを含むことを特徴とする、NK細胞の増幅方法。
【請求項2】
前記NK細胞を含む細胞集団から前記T細胞を除去するステップは、CD3陽性細胞を除去するステップによって達成されることを特徴とする、請求項1に記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項3】
前記NK細胞を含む細胞集団から造血前駆細胞を除去するステップを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項4】
前記NK細胞を含む細胞集団から前記造血前駆細胞を除去するステップは、CD34陽性細胞を除去するステップによって達成されることを特徴とする、請求項3に記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項5】
前記培地は、自家血清、AB型血清、及び/又は、血清アルブミンを含むことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項6】
前記NK細胞を含む細胞集団を調製するステップは、被験者から採取された血球細胞から単核球を分離するステップによって達成されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項7】
前記血球細胞は、末梢血、臍帯血、骨髄及び/又はリンパ節から採取されることを特徴とする、請求項6に記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項8】
前記血球細胞は末梢血からアフェレーシス法により採取されることを特徴とする、請求項7に記載のNK細胞の増幅方法。
【請求項9】
前記NK細胞を含む細胞集団は、胚性幹細胞、成体幹細胞及び人工多能性幹(iPS)細胞からなるグループから選択されるいずれかの幹細胞由来の造血幹細胞と、臍帯血由来の造血幹細胞と、末梢血由来の造血幹細胞と、骨髄血由来の造血幹細胞と、臍帯血単核球と、末梢血単核球とからなる群から選択される少なくとも1種類の細胞から調製されることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1つに記載の増幅方法によって調製されるNK細胞を含むことを特徴とする、細胞療法のための医薬品組成物。
【請求項11】
感染症及び/又は癌を治療するために用いられることを特徴とする、請求項10に記載の医薬品組成物。


【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−27385(P2013−27385A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21972(P2012−21972)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(510134938)テラ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】