NOxセンサの診断システム
【課題】バッテリー寿命やNOxセンサの寿命を延ばすことができるNOxセンサの診断システムを提供すること。
【解決手段】内燃機関の排気通路に配置され、排気ガス中のNOx濃度を検知するNOxセンサ100の診断システムであって、前記内燃機関の稼働中に、前記NOxセンサ100が異常であるか否を診断する第1診断手段170と、前記第1診断手段170が前記NOxセンサ100を異常と診断した場合、前記内燃機関が停止しているときに前記NOxセンサ100が異常であるか否かを診断する第2診断手段170と、を備えることを特徴とするNOxセンサ100の診断システム。
【解決手段】内燃機関の排気通路に配置され、排気ガス中のNOx濃度を検知するNOxセンサ100の診断システムであって、前記内燃機関の稼働中に、前記NOxセンサ100が異常であるか否を診断する第1診断手段170と、前記第1診断手段170が前記NOxセンサ100を異常と診断した場合、前記内燃機関が停止しているときに前記NOxセンサ100が異常であるか否かを診断する第2診断手段170と、を備えることを特徴とするNOxセンサ100の診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気中におけるNOx濃度を検知するNOxセンサの診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路にNOxセンサを配置し、そのNOxセンサで検知したNOx濃度に基づき、様々な制御を行う技術が知られている。例えば、排気通路に取り付けられたNOx触媒の下流側にNOxセンサを配置し、それで検出したNOx濃度に基づき、排気の空燃比を調整し、NOx触媒を制御する技術や、NOx触媒の上流側に設置したNOxセンサで検知したNOx濃度に基づき、NOx触媒に添加する尿素量を制御する技術が知られている。
【0003】
ところで、排気中のNOxは低濃度であり、その低濃度のNOxを検知するNOxセンサは非常にセンシティブである。そのため、NOxセンサの劣化(センサ出力のドリフト)が問題となりやすい。そこで、内燃機関が停止後、余動中にNOxセンサの診断を行う技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−105965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、余動中にNOxセンサの診断を行う場合、内燃機関が停止している状態で、NOxセンサの活性状態維持のためにNOxセンサに通電する必要があり、これを毎回実施するとバッテリー寿命が短くなってしまう。また、NOxセンサの通電時間も延びるため、NOxセンサの寿命も短くなってしまう。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、バッテリー寿命やNOxセンサの寿命を延ばすことができるNOxセンサの診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1の発明は、
内燃機関の稼働中に、NOxセンサが異常であるか否を診断し、異常であると判断した場合、内燃機関が停止しているときに、NOxセンサが異常であるか否かを診断する。そのため、内燃機関の停止後に、毎回、NOxセンサの異常を診断する場合に比べて、NOxセンサに通電するバッテリー寿命が長くなり、また、NOxセンサの通電時間が短くなるため、NOxセンサの寿命が長くなる。
【0007】
また、本発明では、内燃機関の稼働中に、NOxセンサが異常であると判断した場合、内燃機関の停止後に、再度、NOxセンサが異常であるか否かを診断する。内燃機関の停止後における診断は、内燃機関が稼働中の診断に比べ、外乱が少ないので、精度良く診断を行うことができる。
(2)請求項2の発明では、
NOxセンサが、チャンバーに導入した排気ガス中の酸素を排出又は汲み込むためのポンプセルと、ポンプセルを通過した後のガスからNOx濃度を検出するためのセンサセルと、チャンバー内の残留酸素濃度を検出するためのモニタセルとを備え、ポンプセルへの電圧印加時にセンサセル電流、モニタセル電流を各々計測してその時のセンサセル電流からNOx濃度を検知する限界電流式のNOxセンサである。
【0008】
そして、本発明では、請求項2記載の手段でNOxセンサが異常であるか否かを診断するので、早期診断が可能になり、その結果として、NOxセンサの寿命が長くなり、NOxセンサに通電するバッテリーの寿命が長くなる。
(3)請求項3の発明では、
内燃機関の稼働中に、予め設定された特定異常と診断した場合、内燃機関の停止後における診断を行わない。このことにより、内燃機関の稼働中に、明らかな異常(例えば断線)を検出した場合は、内燃機関の停止後における診断を無駄に行わなくて済む。
【0009】
内燃機関の稼働中に、予め設定された特定異常と診断した場合、例えば、エラー信号を出力するようにすれば、早期に、NOxセンサが異常であることをドライバーに伝えることができる。
(4)請求項4の発明では、
内燃機関の稼働中に、予め設定された特定異常と診断した場合、NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する。このことにより、NOxセンサの異常により生じ得る(不正確なNOx値を用いることで生じ得る)2次故障を防止できる。
(5)請求項5の発明では、
内燃機関の停止後に、特定異常と診断した場合、NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する。このことにより、NOxセンサの異常により生じ得る2次故障を防止できる。
【0010】
NOx濃度の使用を停止する方法としては、NOxセンサの制御を停止し、NOx濃度を検知しないようにする方法や、検知したNOx濃度を各種制御に使用しないようにする方法が挙げられる。
(6)請求項6の発明では、
内燃機関の停止後、NOxセンサを診断しているときに、内燃機関が始動した場合、診断を中止する。こうすることにより、内燃機関の始動、及びそれにともなう排気ガスの流入により、NOxセンサの診断が不正確になってしまうことがない。また、NOxセンサの状態を、早期に、NOx濃度を検出する状態に戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.NOxセンサの診断システムの構成
NOxセンサの診断システムの全体構成を図1及び図2に基づいて説明する。NOxセンサの診断システムは、車両に搭載されたエンジンの排気ガス中におけるNOx濃度を検出するNOxセンサを診断するシステムであり、図1に示すように、NOxセンサ100、センサ制御回路170、エンジンECU180から構成される。
【0012】
NOxセンサ100は、エンジンの排気通路200(図2参照)に配置され、排気ガス中のNOx濃度を検知するためのセンサである。なお、NOxセンサ100の構成及び作用は後に詳述する。
【0013】
センサ制御回路170は、図示しない車両のバッテリーを用いて、NOxセンサ100への印加電圧、及びヒータ電力供給を行うとともに、NOxセンサ100のセンサ出力を取得する。また、センサ制御回路170は、後述するNOxセンサ100の診断、異常判定、及び補正の各処理を実行する。
【0014】
エンジンECU180は、エンジン情報(水温、速度、回転数等)を取得し、そのエンジン情報に基づき、 センサ制御回路170に対し、各種要求(センサ駆動開始要求、ゼロ検出要求、センサ診断要求、センサ停止要求)等を行う。また、エンジンECU180は、センサ制御回路170から取得したNOxセンサ100の出力値に基づき、排気ガスへの尿素添加量を算出し、尿素の添加量が算出した値となるように、尿素の添加弁190(図2参照)を駆動する。また、エンジンECU180は、センサ制御回路170から、NOxセンサ100の異常有無情報を受信し、異常がある場合は、図示しないダイアグを点灯する。
【0015】
次に、NOxセンサ100、尿素の添加弁190のエンジンの排気通路における配置を図2に基づいて説明する。図2(a)に示すように、エンジンの排気通路200には、上流側から順に、添加弁190、触媒210、NOxセンサ100、及びDOC220が直列に取り付けられている。触媒210は、NOx触媒であって、さらに詳しくは、SCR(Selective catalytic reduction)触媒である。なお、図2(b)に示すように、NOxセンサ100を、触媒210よりも上流側に取り付けても良い。
【0016】
次に、NOxセンサ100の構成を図3に基づいて詳細に説明する。NOxセンサ100は、ポンプセル、モニタセル及びセンサセルからなる3セル構造を有し、排気ガス中の酸素濃度とNOx濃度とを同時に検出可能な、いわゆる限界電流式の複合型ガスセンサとして具体化されている。
【0017】
NOxセンサ100において、酸素イオン伝導性材料からなる固体電解質(固体電解質素子)141、142は板状をなし、アルミナ等の絶縁材料からなるスペーサ143を介して図3の上下に所定間隔を隔てて積層されている。このうち、図3の上側の固体電解質141にはピンホール141aが形成されており、このピンホール141aを介して当該センサ周囲の排気ガスが第1チャンバー144内に導入される。第1チャンバー144は、拡散通路としての絞り部145を介して第2チャンバー146に連通している。符号147は多孔質拡散層である。
【0018】
また、図3の下側の固体電解質142には、ポンプセル110及びモニタセル120が設けられており、ポンプセル110は、第1チャンバー144内に導入した排気ガス中の酸素を排出又は汲み込む働きをすると共に、その際に排気ガス中の酸素濃度を検出する。モニタセル120は、第2チャンバー146内の酸素濃度に応じた起電力、又は電圧印加時に電流出力を発生する。ここで、ポンプセル110は、固体電解質142を挟んで上下一対の電極111、112を有し、そのうち特に第1チャンバー144側の電極111はNOx不活性電極(NOxガスを分解し難い電極)である。また、モニタセル120も同様に、固体電解質142を挟んで上下一対の電極121、122を有し、そのうち特に第2チャンバー146側の電極121はNOx不活性電極(NOxガスを分解し難い電極)である。これらポンプセル110及びモニタセル120は、チャンバー144、146内に存在する酸素を分解して電極112、122より大気通路150側に排出する。
【0019】
センサセル130は、前記モニタセル120に対向して設けられており、固体電解質141を挟んで上下一対の電極131、132を有する。センサセル130は、ポンプセル110を通過した後のガスからNOx濃度を検出するものであり、第2チャンバー146内でNOxを分解した時に発生する酸素を電極132より大気通路148側に排出する。
【0020】
固体電解質142の図3における下面には絶縁層149が設けられ、この絶縁層149により大気通路150が形成されている。また、絶縁層149には、センサ全体を加熱するためのヒータ151が埋設されている。
【0021】
次に、NOxセンサ100によるNOxの測定原理を説明する。上記構成のNOxセンサ100において、排気ガスは多孔質拡散層147及びピンホール141aを通って第1チャンバー144に導入される。そして、この排気ガスがポンプセル110近傍を通過する際、ポンプセル110の電極111、112間に電圧を印加することで分解反応が起こり、第1チャンバー144内の酸素濃度に応じてポンプセル110を介して酸素が出し入れされる。なおこのとき、第1チャンバー144側の電極111がNOx不活性電極であるので、ポンプセル110では排気ガス中のNOxは分解されず、酸素のみが分解されて大気通路150に排出される。
【0022】
その後、ポンプセル110近傍を通過した排気ガスは第2チャンバー146に流れ込み、モニタセル120では、ガス中の残留酸素濃度に応じた出力が発生する。モニタセル120の出力は、該モニタセル120の電極121、122間に所定の電圧を印加することで、モニタセル電流として検出される。また、センサセル130の電極131、132間に所定の電圧を印加することでガス中のNOxが還元分解され、その際発生する酸素が大気通路148に排出される。その際、センサセル130に流れた電流が排気ガス中に含まれるNOx濃度として検出される。
【0023】
また、センサ制御回路170は、CPU、メモリ、A/D及びD/A変換器等を備える周知の論理演算回路で構成されている。ポンプセル110、モニタセル120及びセンサセル130はそれぞれに電源回路を有しており、各電源回路において、ポンプセル電流Ipが電流検出器171で測定され、モニタセル電流Imが電流検出器172で測定され、センサセル電流Isが電流検出器173で測定される。これら各電流検出器171〜173で測定された電流値はそれぞれセンサ制御回路170に取り込まれる。
【0024】
センサ制御回路170は、電流検出器171で測定したポンプセル電流Ipにより排気ガス中の酸素濃度を検出すると共に、予め規定した印加電圧特性を用い、ポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpを随時設定する。また、センサ制御回路170は、電流検出器173で測定したセンサセル電流Isにより排気ガス中のNOx濃度を検出する。
【0025】
次に、NOxセンサ100の出力特性について図4を用いて説明する。図4において、(a)にはポンプセル電圧Vpに対するポンプセル電流Ipの特性(Vp−Ip特性)を示し、(b)には同じくポンプセル電圧Vpに対するモニタセル電流Im、センサセル電流Isの特性(Vp−Im特性、Vp−Is特性)を示す。なお、図4(a)、(b)は、酸素濃度及びNOx濃度が一定のもとでの特性を示す。
【0026】
図4(a)に示すように、ポンプセル110に流れるポンプセル電流Ipはポンプセル電圧Vpに対して限界電流特性を有している。限界電流域はV軸に対して僅かに右上がりの直線部分からなり、その領域は酸素濃度が濃いほど(リーンであるほど)ポンプセル電流Ipが大きくなる方向にシフトする。限界電流域よりも低Vp側は抵抗支配域であり、その抵抗支配域の傾きは概ねポンプセル110の素子インピーダンスRipに一致する。
【0027】
ポンプセル110の印加電圧特性として印加電圧直線LX1が規定されており、印加電圧直線LX1上でその時々のポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpが可変に制御される。因みに、ポンプセル110の電極111(第1チャンバー144側の電極)はNOx不活性電極であるが、ポンプセル電圧Vpが大きすぎるとNOxが分解されてしまうことから、印加電圧直線LX1はポンプセル110でNOxガスを分解しないことを条件に設定される。実際には、第1チャンバー144内を所定の低酸素濃度(ストイキ近傍)に保持するべく印加電圧直線LX1が設定されており、例えば数ppm〜数10ppm程度の僅かな残留酸素(余剰酸素)が第1チャンバー144内に残るようポンプセル電圧Vpが制御される。
【0028】
また、図4(b)において、ポンプセル電圧Vpに対するモニタセル電流Imの特性(Vp−Im特性)を見ると、ポンプセル電圧Vpが低い領域ではモニタセル電流Imが急激に増大し、ポンプセル電圧Vpがある程度高くなるとモニタセル電流Imがほぼ一定になる。つまり、図4(a)の特性からも分かるように低Vp領域(抵抗支配域)ではポンプセル電流Ipが小さく、第1チャンバー144内の残留酸素量が増大する。また、ポンプセル特性の限界電流域ではポンプセル電流Ipがほぼ一定になることから第1チャンバー144内の残留酸素量がほぼ一定となる。それ故、ポンプセル電圧Vpに対してモニタセル電流Imが図示の如く変化する。この場合、モニタセル電流Imが急変する変曲点(図4のA)が存在する。なお、モニタセル電流Imの特性上どこを変曲点とみなすかは、基準となるモニタセル電流Imの変化率(傾き)を適宜設定し、その基準の変化率を満たすかどうかにより判断されれば良い。
【0029】
また、ポンプセル電圧Vpに対するセンサセル電流Isの特性(Vp−Is特性)を見ると、ポンプセル電圧Vpに対して平坦な電流域(平坦領域)があり、その平坦領域ではセンサセル電流Isが安定する。故に、図4の制御点Bでポンプセル電圧Vpが制御されれば、排気ガス中のNOx濃度が精度良く検出できる。この場合、モニタセル電流Imの変曲点Aは、センサセル電流Isの平坦領域から僅かに離れて存在している。また、変曲点Aと制御点Bとは「オフセット値」だけ離れており、このオフセット値はセンサ機種毎に固有の数値である。但し、オフセット値は、如何なる基準でモニタセル電流Imの変曲点が設定されるかに応じて変わるものである。
【0030】
次に、NOxセンサ100の個体差や経時変化(劣化)等によりポンプセル110の素子インピーダンスRipが増加又は減少した場合について、NOxセンサ100の出力特性を図6に基づいて説明する。なお、図6において、実線で示す特性は前記図4で説明した基本特性であり、一点鎖線で示す特性はインピーダンス増加時の特性である。
【0031】
ポンプセル110の素子インピーダンスRipが増加した場合、図6(a)のようにポンプセル特性が図示の如く傾くため、ポンプセル電流Ipが低下する。すると、第1チャンバー144内の残留酸素量が増大することから、図6(b)に示すように、モニタセル電流Im、センサセル電流Isが一点鎖線のように変化するようになる。この場合、センサセル電流Isの値が上昇し、センサセル電流Isの検出精度が低下する。
【0032】
また、ポンプセル110の素子インピーダンスRipが減少した場合には、ポンプセル特性が図示の如く立ち上がるため、ポンプセル電流Ipが上昇する。すると、第1チャンバー144内の残留酸素量が減少することから、図6(b)の場合とは反対に、モニタセル電流Im、センサセル電流Isが変化するようになる。この場合、センサセル電流Isの値が低下し、やはりセンサセル電流Isの検出精度が低下する。
【0033】
上記の通り、ポンプセル110の素子インピーダンスRipが不用意に変化すると、センサセル電流Isの検出精度が低下し、ひいてはNOx濃度が誤検出されてしまう。これは、素子インピーダンスRipの変化に伴いセンサセル電流Isの平坦領域が変動し、所定のポンプセル電圧Vpを印加してもセンサセル電流Isが正しく検出できないことによる。
【0034】
2.NOxセンサの診断システムが実行する診断処理
NOxセンサの診断システムが実行する処理を図5のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、所定時間毎(例えば、数秒毎)に、センサ制御回路170により実施される。本処理は、NOx濃度を検出するためのガス濃度検出期間とは異なる「ポンプセル電圧診断期間」に、センサ制御回路170により実施される。つまり、通常のガス濃度検出期間では、印加電圧特性に基づきその時々のポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpが制御されて定期的(例えば4msec毎)にNOx濃度が検出される。また、ポンプセル電圧診断期間では、NOx濃度検出が一時的に中断され、後述する処理が実行される。
【0035】
ステップ10では、エンジンの稼働状態について、検出条件が成立したか否かを判断する。検出条件とは、減速時に燃料供給がカットされた状態、またはアイドリング時である。検出条件が成立した場合はステップ20に進み、成立しない場合はステップ10に留まる。
【0036】
ステップ20では、検出条件におけるNOxセンサ100の実際の出力値(NOx濃度)Aと、検出条件が成立したときの出力値として予め設定された基準出力値(NOx濃度)Bとの偏差を算出する。
【0037】
ステップ30では、前記ステップ20で算出した偏差に基づき、NOxセンサ100が異常であるか否かを判断する。すなわち、上記偏差が所定の基準値L1を超えていれば、NOxセンサ100が異常であると判断し、上記偏差が所定の基準値L1を超えていなければ、NOxセンサ100が正常であると判断する。NOxセンサ100が異常であると判断した場合はステップ40に進み、正常であると判断した場合はステップ10に戻る。
【0038】
ステップ40では、前記ステップ20で算出した偏差に基づき、NOxセンサ100に対し本診断を行うことが必要であるか否かを判断する。具体的には、上記偏差が、特定異常基準値L2(上述した基準値L1よりも大きい値)を超えていなければ、本診断が必要であると判断し、上記偏差が所定の特定異常基準値L2を超えていれば、明らかな異常であるから、本診断が必要でないと判断する。本診断が必要であると判断した場合はステップ50に進み、本診断が必要でないと判断した場合はステップ90に進む。なお、上記偏差が所定の特定異常基準値L2を超えている場合としては、NOxセンサ100の配線が断線している場合がある。
【0039】
ステップ50ではエンジンが停止しているか否かを判断する。エンジンが停止していると判断した場合はステップ60に進み、エンジンが停止していないと判断した場合はステップ50に留まる。
【0040】
ステップ60では、NOxセンサ100を、エンジン停止後でも継続駆動するようにする。つまり、バッテリーにより、NOxセンサ100への通電を続ける。
ステップ70では、エンジン停止後の余動中に、NOxセンサ異常検出(本診断)を行う。このNOxセンサ異常検出については、後に詳述する。
【0041】
ステップ80では、前記ステップ70のNOxセンサ異常検出の結果、NOxセンサ100が異常であると判断されたか否かを判断する。NOxセンサ100が異常であると判断された場合はステップ100に進み、NOxセンサ100が異常ではないと判断された場合は本処理を終了する。
【0042】
一方、前記ステップ40にて本診断が必要でないと判断された場合はステップ90にてエラー信号を出力する。そのエラー信号に応じて、車内の図示しないダイアグを点灯させることにより、エラー報知がなされる。
【0043】
また、前記ステップ80にてNOxセンサ100が異常であるとされた場合は、ステップ100にて、NOxセンサ100の制御を停止する。すなわち、NOxセンサ100によるNOx濃度の検出は、この時点以降、行われなくなる。
【0044】
ステップ110では、エラー信号を出力する。そして、そのエラー信号に応じて、車内の図示しないダイアグを点灯させることによりエラー報知がなされる。
次に、図7のフローチャートに基づき、前記ステップ70において実行される、停止時のNOxセンサ異常検出処理を詳細に説明する。この処理は、モニタセル電流Imの変曲点とセンサセル電流Isの平坦領域との相関関係が素子インピーダンスRipの変化によらず不変であることに着目し、モニタセル電流Imの変曲点の位置に応じて診断を行うものである。
【0045】
図7において、先ずステップ210では、図4に示した印加電圧直線LX1(印加電圧特性)を用い、その都度のポンプセル電流Ipに対応するポンプセル電圧Vpを初期設定する(マップ演算する)。そして、そのポンプセル電圧Vpをポンプセル110に印加する。また、ステップ220は、ポンプセル電圧Vpを所定の振幅ΔVで正負両側に掃引させる。ステップ230では、その都度のモニタセル電流の変化量ΔImを計測する。この場合、例えば200msec以下の周期(周波数5Hz以上)でポンプセル電圧Vpを掃引させることとし、より望ましくは100msec以下の周期(周波数10Hz以上)で掃引させると良い。
【0046】
ステップ240では、前記ステップ230で計測したモニタセル電流の変化量ΔImが、所定の基準値を超えていれば、NOxセンサ100が異常であると判定し、基準値以下であれば、正常であると判定する。
【0047】
次に、上記図7の処理についてその動作手順をより具体的に説明する。図8に示すように、先ず始めに印加電圧特性に基づいてポンプセル電圧Vpとして電圧値V1が初期設定され、その時の電圧値V1を基準にポンプセル電圧Vpが正負両側に一時的に振られる。すなわち、ポンプセル電圧Vpに短時間の掃引波形が加えられる。このとき、センサ個体差や経時変化等によりモニタセル電流Imの特性が変化すると、モニタセル電流Imの変曲点が電圧値V1に近づき、Vp掃引に伴いモニタセル電流Imが大きく変化する。
【0048】
例えば、電圧値V1の近くに変曲点が存在しない場合(変曲点が電圧値V1に近づいていない場合)、図9(a)に示すように、Vp掃引に伴いモニタセル電流Im及びセンサセル電流Isが僅かに変化する。この場合、NOxセンサ100が正常であると判定される。
【0049】
これに対し、電圧値V1の近くに変曲点が存在する場合(変曲点が電圧値V1に近づいた場合)、図9(b)に示すように、Vp掃引に伴いモニタセル電流Im及びセンサセル電流Isの変化が正負両側で不均一となる。この場合、NOxセンサ100が異常であると判定される。
【0050】
なお、ステップ240の後、前記ステップ230で計測したモニタセル電流の変化量ΔImに基づき、NOxセンサ100の出力を補正してもよい。この補正は以下のようにして行うことができる。
【0051】
すなわち、前記ステップ230で計測したモニタセル電流の変化量ΔIm応じて電圧補正値KVを算出する。このとき、例えば図10の関係を用い、モニタセル電流の変化量ΔImに応じて電圧補正値KVを算出する。次に、電圧補正値KVを用いて印加電圧特性を補正する。なおこの場合、電圧補正値KVをバックアップRAMやフラッシュROM等のバックアップメモリに記憶保持しても良いし、或いは、電圧補正値KVにより印加電圧特性自体を更新しても良い。
【0052】
上記の如く補正又は更新された結果は、それ以降のNOx濃度検出時に適用される。すなわち、ガス濃度検出期間におけるポンプセル電圧制御に際し、センサ制御回路170は、バックアップRAM等に格納された電圧補正値KVを用いてポンプセル電圧Vpを補正する。あるいは、センサ制御回路170は、特性更新済みの印加電圧特性を用い、その時々のポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpを制御する。
【0053】
3.NOxセンサの診断システムが奏する効果
NOxセンサの診断システムが奏する効果を説明する。
(1)NOxセンサの診断システムは、エンジン稼働中に、NOxセンサ100が異常であるか否を診断し(図5のステップ10〜40)、異常であると判断した場合のみ、エンジン停止後に、NOxセンサ異常検出(本診断、図5のステップ70)を行う。そのため、エンジン停止後に、毎回、NOxセンサ異常検出を行う場合に比べて、NOxセンサ100に通電するバッテリーの寿命が長くなり、また、NOxセンサ100の通電時間が短くなるため、NOxセンサ100の寿命も長くなる。
(2)NOxセンサの診断システムは、エンジン稼働中に、NOxセンサ100が異常であると判断した場合、エンジン停止後に、再度、NOxセンサ異常検出を行う。エンジン停止後のNOxセンサ異常検出は、エンジン稼働中の診断に比べ、外乱が少ないので、精度良く診断を行うことができる。
(3)NOxセンサの診断システムは、図7のフローチャートに示す方法で、NOxセンサ異常検出を行う。そのことにより、早期診断が可能になり、その結果として、NOxセンサ100の寿命が長くなり、NOxセンサ100に通電するバッテリーの寿命が長くなる。
(4)NOxセンサの診断システムは、NOxセンサ100の実際の出力値Aと、検出条件が成立したときの出力値として予め設定された基準出力値Bとの偏差が、特定異常基準値L2を超えていれば、エンジン停止後のNOxセンサ異常検出を行わず、エラー信号を出力する(図5のステップ40、90)。つまり、エンジン稼働中の診断結果から、明らかに異常であると判断される場合は、エンジン停止後のNOxセンサ異常検出を行わず、直ちにエラー信号を出力する。このことにより、早期に、NOxセンサ100が異常であることをドライバーに伝えることができる。
(5)NOxセンサの診断システムは、エンジン停止後のNOxセンサ異常検出により、NOxセンサ100が異常であると判断した場合は、NOxセンサ100の制御を停止する(図5のステップ80、100)。このことにより、NOxセンサ100の異常により生じ得る2次故障を防止できる。
【0054】
4.変形例1
NOxセンサの診断システムは、図5のフローチャートに示す処理の代わりに、図11のフローチャートに示す処理を実行するものであってもよい。
【0055】
図11のフローチャートにおいて、ステップ310〜380の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ10〜80と同様である。また、図11のフローチャートにおいて、ステップ400〜420の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ90〜110と同様である。
【0056】
図11に示すフローチャートでは、ステップ340においてNOxセンサ100の本診断が必要と判断した場合、NOxセンサ100の制御を停止する。すなわち、NOxセンサ100によるNOx濃度の検出は、これ時点以降、行われなくなる。このように、エンジン稼働中に明らかな異常を検出した場合は、NOxセンサ100の制御を停止し、この時点以降、NOxセンサ100によるNOx濃度の検出は行われなくなるから、NOxセンサ100の異常により生じ得る2次故障を早期に防止できる。
【0057】
5.変形例2
NOxセンサの診断システムは、図5のフローチャートに示す処理の代わりに、図12のフローチャートに示す処理を実行するものであってもよい。
【0058】
図12のフローチャートにおいて、ステップ510〜560の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ10〜60と同様である。また、図12のフローチャートにおいて、ステップ600〜630の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ80〜110と同様である。
【0059】
図12に示すフローチャートでは、NOxセンサ異常検出(ステップ580)を実行しているとき、所定時間ごとに、そのNOxセンサ異常検出が終了したか否かを判断し(ステップ590)、終了していなければ、エンジン始動の有無を判断し、エンジンが始動していれば、NOxセンサ異常検出を、たとえ途中であっても終了する(ステップ570)。こうすることにより、NOxセンサ異常検出の途中での、エンジンの始動、及びそれにともなう排気ガスの流入により、NOxセンサ異常検出が不正確になってしまうことがない。また、エンジンの始動後、NOxセンサ100の状態を、早期に、NOx濃度を検出する状態に戻すことができる。
【0060】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】NOxセンサの診断システムを適用した車両の構成を表すブロック図である。
【図2】排気通路におけるNOxセンサ100の配置を表す説明図である。
【図3】NOxセンサ100の概要を示す構成図である。
【図4】NOxセンサ100の出力特性を示す説明図である。
【図5】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【図6】NOxセンサ100の出力特性を示す説明図である。
【図7】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【図8】ポンプセル電圧に対するモニタセル電流の変化を示す特性図である。
【図9】ポンプセル電圧の変化に伴うモニタセル電流、センサセル電流の変化を示すタイムチャートである。
【図10】電圧補正値KVを設定するための図である。
【図11】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【図12】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
100・・・NOxセンサ、110・・・ポンプセル、111、112・・・電極、
120・・・モニタセル、121・・・電極、130・・・センサセル、
131、132・・・電極、141・・・固体電解質、141a・・・ピンホール、
142・・・固体電解質、143・・・スペーサ、144・・・第1チャンバー、
145・・・絞り部、146・・・第2チャンバー、147・・・符号、
148、150・・・大気通路、149・・・絶縁層、151・・・ヒータ、
170・・・センサ制御回路、171、172、173・・・電流検出器、
190・・・添加弁、200・・・排気通路、210・・・触媒、220・・・DOC、
180・・・エンジンECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気中におけるNOx濃度を検知するNOxセンサの診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路にNOxセンサを配置し、そのNOxセンサで検知したNOx濃度に基づき、様々な制御を行う技術が知られている。例えば、排気通路に取り付けられたNOx触媒の下流側にNOxセンサを配置し、それで検出したNOx濃度に基づき、排気の空燃比を調整し、NOx触媒を制御する技術や、NOx触媒の上流側に設置したNOxセンサで検知したNOx濃度に基づき、NOx触媒に添加する尿素量を制御する技術が知られている。
【0003】
ところで、排気中のNOxは低濃度であり、その低濃度のNOxを検知するNOxセンサは非常にセンシティブである。そのため、NOxセンサの劣化(センサ出力のドリフト)が問題となりやすい。そこで、内燃機関が停止後、余動中にNOxセンサの診断を行う技術が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−105965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、余動中にNOxセンサの診断を行う場合、内燃機関が停止している状態で、NOxセンサの活性状態維持のためにNOxセンサに通電する必要があり、これを毎回実施するとバッテリー寿命が短くなってしまう。また、NOxセンサの通電時間も延びるため、NOxセンサの寿命も短くなってしまう。
【0005】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、バッテリー寿命やNOxセンサの寿命を延ばすことができるNOxセンサの診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1の発明は、
内燃機関の稼働中に、NOxセンサが異常であるか否を診断し、異常であると判断した場合、内燃機関が停止しているときに、NOxセンサが異常であるか否かを診断する。そのため、内燃機関の停止後に、毎回、NOxセンサの異常を診断する場合に比べて、NOxセンサに通電するバッテリー寿命が長くなり、また、NOxセンサの通電時間が短くなるため、NOxセンサの寿命が長くなる。
【0007】
また、本発明では、内燃機関の稼働中に、NOxセンサが異常であると判断した場合、内燃機関の停止後に、再度、NOxセンサが異常であるか否かを診断する。内燃機関の停止後における診断は、内燃機関が稼働中の診断に比べ、外乱が少ないので、精度良く診断を行うことができる。
(2)請求項2の発明では、
NOxセンサが、チャンバーに導入した排気ガス中の酸素を排出又は汲み込むためのポンプセルと、ポンプセルを通過した後のガスからNOx濃度を検出するためのセンサセルと、チャンバー内の残留酸素濃度を検出するためのモニタセルとを備え、ポンプセルへの電圧印加時にセンサセル電流、モニタセル電流を各々計測してその時のセンサセル電流からNOx濃度を検知する限界電流式のNOxセンサである。
【0008】
そして、本発明では、請求項2記載の手段でNOxセンサが異常であるか否かを診断するので、早期診断が可能になり、その結果として、NOxセンサの寿命が長くなり、NOxセンサに通電するバッテリーの寿命が長くなる。
(3)請求項3の発明では、
内燃機関の稼働中に、予め設定された特定異常と診断した場合、内燃機関の停止後における診断を行わない。このことにより、内燃機関の稼働中に、明らかな異常(例えば断線)を検出した場合は、内燃機関の停止後における診断を無駄に行わなくて済む。
【0009】
内燃機関の稼働中に、予め設定された特定異常と診断した場合、例えば、エラー信号を出力するようにすれば、早期に、NOxセンサが異常であることをドライバーに伝えることができる。
(4)請求項4の発明では、
内燃機関の稼働中に、予め設定された特定異常と診断した場合、NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する。このことにより、NOxセンサの異常により生じ得る(不正確なNOx値を用いることで生じ得る)2次故障を防止できる。
(5)請求項5の発明では、
内燃機関の停止後に、特定異常と診断した場合、NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する。このことにより、NOxセンサの異常により生じ得る2次故障を防止できる。
【0010】
NOx濃度の使用を停止する方法としては、NOxセンサの制御を停止し、NOx濃度を検知しないようにする方法や、検知したNOx濃度を各種制御に使用しないようにする方法が挙げられる。
(6)請求項6の発明では、
内燃機関の停止後、NOxセンサを診断しているときに、内燃機関が始動した場合、診断を中止する。こうすることにより、内燃機関の始動、及びそれにともなう排気ガスの流入により、NOxセンサの診断が不正確になってしまうことがない。また、NOxセンサの状態を、早期に、NOx濃度を検出する状態に戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.NOxセンサの診断システムの構成
NOxセンサの診断システムの全体構成を図1及び図2に基づいて説明する。NOxセンサの診断システムは、車両に搭載されたエンジンの排気ガス中におけるNOx濃度を検出するNOxセンサを診断するシステムであり、図1に示すように、NOxセンサ100、センサ制御回路170、エンジンECU180から構成される。
【0012】
NOxセンサ100は、エンジンの排気通路200(図2参照)に配置され、排気ガス中のNOx濃度を検知するためのセンサである。なお、NOxセンサ100の構成及び作用は後に詳述する。
【0013】
センサ制御回路170は、図示しない車両のバッテリーを用いて、NOxセンサ100への印加電圧、及びヒータ電力供給を行うとともに、NOxセンサ100のセンサ出力を取得する。また、センサ制御回路170は、後述するNOxセンサ100の診断、異常判定、及び補正の各処理を実行する。
【0014】
エンジンECU180は、エンジン情報(水温、速度、回転数等)を取得し、そのエンジン情報に基づき、 センサ制御回路170に対し、各種要求(センサ駆動開始要求、ゼロ検出要求、センサ診断要求、センサ停止要求)等を行う。また、エンジンECU180は、センサ制御回路170から取得したNOxセンサ100の出力値に基づき、排気ガスへの尿素添加量を算出し、尿素の添加量が算出した値となるように、尿素の添加弁190(図2参照)を駆動する。また、エンジンECU180は、センサ制御回路170から、NOxセンサ100の異常有無情報を受信し、異常がある場合は、図示しないダイアグを点灯する。
【0015】
次に、NOxセンサ100、尿素の添加弁190のエンジンの排気通路における配置を図2に基づいて説明する。図2(a)に示すように、エンジンの排気通路200には、上流側から順に、添加弁190、触媒210、NOxセンサ100、及びDOC220が直列に取り付けられている。触媒210は、NOx触媒であって、さらに詳しくは、SCR(Selective catalytic reduction)触媒である。なお、図2(b)に示すように、NOxセンサ100を、触媒210よりも上流側に取り付けても良い。
【0016】
次に、NOxセンサ100の構成を図3に基づいて詳細に説明する。NOxセンサ100は、ポンプセル、モニタセル及びセンサセルからなる3セル構造を有し、排気ガス中の酸素濃度とNOx濃度とを同時に検出可能な、いわゆる限界電流式の複合型ガスセンサとして具体化されている。
【0017】
NOxセンサ100において、酸素イオン伝導性材料からなる固体電解質(固体電解質素子)141、142は板状をなし、アルミナ等の絶縁材料からなるスペーサ143を介して図3の上下に所定間隔を隔てて積層されている。このうち、図3の上側の固体電解質141にはピンホール141aが形成されており、このピンホール141aを介して当該センサ周囲の排気ガスが第1チャンバー144内に導入される。第1チャンバー144は、拡散通路としての絞り部145を介して第2チャンバー146に連通している。符号147は多孔質拡散層である。
【0018】
また、図3の下側の固体電解質142には、ポンプセル110及びモニタセル120が設けられており、ポンプセル110は、第1チャンバー144内に導入した排気ガス中の酸素を排出又は汲み込む働きをすると共に、その際に排気ガス中の酸素濃度を検出する。モニタセル120は、第2チャンバー146内の酸素濃度に応じた起電力、又は電圧印加時に電流出力を発生する。ここで、ポンプセル110は、固体電解質142を挟んで上下一対の電極111、112を有し、そのうち特に第1チャンバー144側の電極111はNOx不活性電極(NOxガスを分解し難い電極)である。また、モニタセル120も同様に、固体電解質142を挟んで上下一対の電極121、122を有し、そのうち特に第2チャンバー146側の電極121はNOx不活性電極(NOxガスを分解し難い電極)である。これらポンプセル110及びモニタセル120は、チャンバー144、146内に存在する酸素を分解して電極112、122より大気通路150側に排出する。
【0019】
センサセル130は、前記モニタセル120に対向して設けられており、固体電解質141を挟んで上下一対の電極131、132を有する。センサセル130は、ポンプセル110を通過した後のガスからNOx濃度を検出するものであり、第2チャンバー146内でNOxを分解した時に発生する酸素を電極132より大気通路148側に排出する。
【0020】
固体電解質142の図3における下面には絶縁層149が設けられ、この絶縁層149により大気通路150が形成されている。また、絶縁層149には、センサ全体を加熱するためのヒータ151が埋設されている。
【0021】
次に、NOxセンサ100によるNOxの測定原理を説明する。上記構成のNOxセンサ100において、排気ガスは多孔質拡散層147及びピンホール141aを通って第1チャンバー144に導入される。そして、この排気ガスがポンプセル110近傍を通過する際、ポンプセル110の電極111、112間に電圧を印加することで分解反応が起こり、第1チャンバー144内の酸素濃度に応じてポンプセル110を介して酸素が出し入れされる。なおこのとき、第1チャンバー144側の電極111がNOx不活性電極であるので、ポンプセル110では排気ガス中のNOxは分解されず、酸素のみが分解されて大気通路150に排出される。
【0022】
その後、ポンプセル110近傍を通過した排気ガスは第2チャンバー146に流れ込み、モニタセル120では、ガス中の残留酸素濃度に応じた出力が発生する。モニタセル120の出力は、該モニタセル120の電極121、122間に所定の電圧を印加することで、モニタセル電流として検出される。また、センサセル130の電極131、132間に所定の電圧を印加することでガス中のNOxが還元分解され、その際発生する酸素が大気通路148に排出される。その際、センサセル130に流れた電流が排気ガス中に含まれるNOx濃度として検出される。
【0023】
また、センサ制御回路170は、CPU、メモリ、A/D及びD/A変換器等を備える周知の論理演算回路で構成されている。ポンプセル110、モニタセル120及びセンサセル130はそれぞれに電源回路を有しており、各電源回路において、ポンプセル電流Ipが電流検出器171で測定され、モニタセル電流Imが電流検出器172で測定され、センサセル電流Isが電流検出器173で測定される。これら各電流検出器171〜173で測定された電流値はそれぞれセンサ制御回路170に取り込まれる。
【0024】
センサ制御回路170は、電流検出器171で測定したポンプセル電流Ipにより排気ガス中の酸素濃度を検出すると共に、予め規定した印加電圧特性を用い、ポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpを随時設定する。また、センサ制御回路170は、電流検出器173で測定したセンサセル電流Isにより排気ガス中のNOx濃度を検出する。
【0025】
次に、NOxセンサ100の出力特性について図4を用いて説明する。図4において、(a)にはポンプセル電圧Vpに対するポンプセル電流Ipの特性(Vp−Ip特性)を示し、(b)には同じくポンプセル電圧Vpに対するモニタセル電流Im、センサセル電流Isの特性(Vp−Im特性、Vp−Is特性)を示す。なお、図4(a)、(b)は、酸素濃度及びNOx濃度が一定のもとでの特性を示す。
【0026】
図4(a)に示すように、ポンプセル110に流れるポンプセル電流Ipはポンプセル電圧Vpに対して限界電流特性を有している。限界電流域はV軸に対して僅かに右上がりの直線部分からなり、その領域は酸素濃度が濃いほど(リーンであるほど)ポンプセル電流Ipが大きくなる方向にシフトする。限界電流域よりも低Vp側は抵抗支配域であり、その抵抗支配域の傾きは概ねポンプセル110の素子インピーダンスRipに一致する。
【0027】
ポンプセル110の印加電圧特性として印加電圧直線LX1が規定されており、印加電圧直線LX1上でその時々のポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpが可変に制御される。因みに、ポンプセル110の電極111(第1チャンバー144側の電極)はNOx不活性電極であるが、ポンプセル電圧Vpが大きすぎるとNOxが分解されてしまうことから、印加電圧直線LX1はポンプセル110でNOxガスを分解しないことを条件に設定される。実際には、第1チャンバー144内を所定の低酸素濃度(ストイキ近傍)に保持するべく印加電圧直線LX1が設定されており、例えば数ppm〜数10ppm程度の僅かな残留酸素(余剰酸素)が第1チャンバー144内に残るようポンプセル電圧Vpが制御される。
【0028】
また、図4(b)において、ポンプセル電圧Vpに対するモニタセル電流Imの特性(Vp−Im特性)を見ると、ポンプセル電圧Vpが低い領域ではモニタセル電流Imが急激に増大し、ポンプセル電圧Vpがある程度高くなるとモニタセル電流Imがほぼ一定になる。つまり、図4(a)の特性からも分かるように低Vp領域(抵抗支配域)ではポンプセル電流Ipが小さく、第1チャンバー144内の残留酸素量が増大する。また、ポンプセル特性の限界電流域ではポンプセル電流Ipがほぼ一定になることから第1チャンバー144内の残留酸素量がほぼ一定となる。それ故、ポンプセル電圧Vpに対してモニタセル電流Imが図示の如く変化する。この場合、モニタセル電流Imが急変する変曲点(図4のA)が存在する。なお、モニタセル電流Imの特性上どこを変曲点とみなすかは、基準となるモニタセル電流Imの変化率(傾き)を適宜設定し、その基準の変化率を満たすかどうかにより判断されれば良い。
【0029】
また、ポンプセル電圧Vpに対するセンサセル電流Isの特性(Vp−Is特性)を見ると、ポンプセル電圧Vpに対して平坦な電流域(平坦領域)があり、その平坦領域ではセンサセル電流Isが安定する。故に、図4の制御点Bでポンプセル電圧Vpが制御されれば、排気ガス中のNOx濃度が精度良く検出できる。この場合、モニタセル電流Imの変曲点Aは、センサセル電流Isの平坦領域から僅かに離れて存在している。また、変曲点Aと制御点Bとは「オフセット値」だけ離れており、このオフセット値はセンサ機種毎に固有の数値である。但し、オフセット値は、如何なる基準でモニタセル電流Imの変曲点が設定されるかに応じて変わるものである。
【0030】
次に、NOxセンサ100の個体差や経時変化(劣化)等によりポンプセル110の素子インピーダンスRipが増加又は減少した場合について、NOxセンサ100の出力特性を図6に基づいて説明する。なお、図6において、実線で示す特性は前記図4で説明した基本特性であり、一点鎖線で示す特性はインピーダンス増加時の特性である。
【0031】
ポンプセル110の素子インピーダンスRipが増加した場合、図6(a)のようにポンプセル特性が図示の如く傾くため、ポンプセル電流Ipが低下する。すると、第1チャンバー144内の残留酸素量が増大することから、図6(b)に示すように、モニタセル電流Im、センサセル電流Isが一点鎖線のように変化するようになる。この場合、センサセル電流Isの値が上昇し、センサセル電流Isの検出精度が低下する。
【0032】
また、ポンプセル110の素子インピーダンスRipが減少した場合には、ポンプセル特性が図示の如く立ち上がるため、ポンプセル電流Ipが上昇する。すると、第1チャンバー144内の残留酸素量が減少することから、図6(b)の場合とは反対に、モニタセル電流Im、センサセル電流Isが変化するようになる。この場合、センサセル電流Isの値が低下し、やはりセンサセル電流Isの検出精度が低下する。
【0033】
上記の通り、ポンプセル110の素子インピーダンスRipが不用意に変化すると、センサセル電流Isの検出精度が低下し、ひいてはNOx濃度が誤検出されてしまう。これは、素子インピーダンスRipの変化に伴いセンサセル電流Isの平坦領域が変動し、所定のポンプセル電圧Vpを印加してもセンサセル電流Isが正しく検出できないことによる。
【0034】
2.NOxセンサの診断システムが実行する診断処理
NOxセンサの診断システムが実行する処理を図5のフローチャートに基づいて説明する。本処理は、所定時間毎(例えば、数秒毎)に、センサ制御回路170により実施される。本処理は、NOx濃度を検出するためのガス濃度検出期間とは異なる「ポンプセル電圧診断期間」に、センサ制御回路170により実施される。つまり、通常のガス濃度検出期間では、印加電圧特性に基づきその時々のポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpが制御されて定期的(例えば4msec毎)にNOx濃度が検出される。また、ポンプセル電圧診断期間では、NOx濃度検出が一時的に中断され、後述する処理が実行される。
【0035】
ステップ10では、エンジンの稼働状態について、検出条件が成立したか否かを判断する。検出条件とは、減速時に燃料供給がカットされた状態、またはアイドリング時である。検出条件が成立した場合はステップ20に進み、成立しない場合はステップ10に留まる。
【0036】
ステップ20では、検出条件におけるNOxセンサ100の実際の出力値(NOx濃度)Aと、検出条件が成立したときの出力値として予め設定された基準出力値(NOx濃度)Bとの偏差を算出する。
【0037】
ステップ30では、前記ステップ20で算出した偏差に基づき、NOxセンサ100が異常であるか否かを判断する。すなわち、上記偏差が所定の基準値L1を超えていれば、NOxセンサ100が異常であると判断し、上記偏差が所定の基準値L1を超えていなければ、NOxセンサ100が正常であると判断する。NOxセンサ100が異常であると判断した場合はステップ40に進み、正常であると判断した場合はステップ10に戻る。
【0038】
ステップ40では、前記ステップ20で算出した偏差に基づき、NOxセンサ100に対し本診断を行うことが必要であるか否かを判断する。具体的には、上記偏差が、特定異常基準値L2(上述した基準値L1よりも大きい値)を超えていなければ、本診断が必要であると判断し、上記偏差が所定の特定異常基準値L2を超えていれば、明らかな異常であるから、本診断が必要でないと判断する。本診断が必要であると判断した場合はステップ50に進み、本診断が必要でないと判断した場合はステップ90に進む。なお、上記偏差が所定の特定異常基準値L2を超えている場合としては、NOxセンサ100の配線が断線している場合がある。
【0039】
ステップ50ではエンジンが停止しているか否かを判断する。エンジンが停止していると判断した場合はステップ60に進み、エンジンが停止していないと判断した場合はステップ50に留まる。
【0040】
ステップ60では、NOxセンサ100を、エンジン停止後でも継続駆動するようにする。つまり、バッテリーにより、NOxセンサ100への通電を続ける。
ステップ70では、エンジン停止後の余動中に、NOxセンサ異常検出(本診断)を行う。このNOxセンサ異常検出については、後に詳述する。
【0041】
ステップ80では、前記ステップ70のNOxセンサ異常検出の結果、NOxセンサ100が異常であると判断されたか否かを判断する。NOxセンサ100が異常であると判断された場合はステップ100に進み、NOxセンサ100が異常ではないと判断された場合は本処理を終了する。
【0042】
一方、前記ステップ40にて本診断が必要でないと判断された場合はステップ90にてエラー信号を出力する。そのエラー信号に応じて、車内の図示しないダイアグを点灯させることにより、エラー報知がなされる。
【0043】
また、前記ステップ80にてNOxセンサ100が異常であるとされた場合は、ステップ100にて、NOxセンサ100の制御を停止する。すなわち、NOxセンサ100によるNOx濃度の検出は、この時点以降、行われなくなる。
【0044】
ステップ110では、エラー信号を出力する。そして、そのエラー信号に応じて、車内の図示しないダイアグを点灯させることによりエラー報知がなされる。
次に、図7のフローチャートに基づき、前記ステップ70において実行される、停止時のNOxセンサ異常検出処理を詳細に説明する。この処理は、モニタセル電流Imの変曲点とセンサセル電流Isの平坦領域との相関関係が素子インピーダンスRipの変化によらず不変であることに着目し、モニタセル電流Imの変曲点の位置に応じて診断を行うものである。
【0045】
図7において、先ずステップ210では、図4に示した印加電圧直線LX1(印加電圧特性)を用い、その都度のポンプセル電流Ipに対応するポンプセル電圧Vpを初期設定する(マップ演算する)。そして、そのポンプセル電圧Vpをポンプセル110に印加する。また、ステップ220は、ポンプセル電圧Vpを所定の振幅ΔVで正負両側に掃引させる。ステップ230では、その都度のモニタセル電流の変化量ΔImを計測する。この場合、例えば200msec以下の周期(周波数5Hz以上)でポンプセル電圧Vpを掃引させることとし、より望ましくは100msec以下の周期(周波数10Hz以上)で掃引させると良い。
【0046】
ステップ240では、前記ステップ230で計測したモニタセル電流の変化量ΔImが、所定の基準値を超えていれば、NOxセンサ100が異常であると判定し、基準値以下であれば、正常であると判定する。
【0047】
次に、上記図7の処理についてその動作手順をより具体的に説明する。図8に示すように、先ず始めに印加電圧特性に基づいてポンプセル電圧Vpとして電圧値V1が初期設定され、その時の電圧値V1を基準にポンプセル電圧Vpが正負両側に一時的に振られる。すなわち、ポンプセル電圧Vpに短時間の掃引波形が加えられる。このとき、センサ個体差や経時変化等によりモニタセル電流Imの特性が変化すると、モニタセル電流Imの変曲点が電圧値V1に近づき、Vp掃引に伴いモニタセル電流Imが大きく変化する。
【0048】
例えば、電圧値V1の近くに変曲点が存在しない場合(変曲点が電圧値V1に近づいていない場合)、図9(a)に示すように、Vp掃引に伴いモニタセル電流Im及びセンサセル電流Isが僅かに変化する。この場合、NOxセンサ100が正常であると判定される。
【0049】
これに対し、電圧値V1の近くに変曲点が存在する場合(変曲点が電圧値V1に近づいた場合)、図9(b)に示すように、Vp掃引に伴いモニタセル電流Im及びセンサセル電流Isの変化が正負両側で不均一となる。この場合、NOxセンサ100が異常であると判定される。
【0050】
なお、ステップ240の後、前記ステップ230で計測したモニタセル電流の変化量ΔImに基づき、NOxセンサ100の出力を補正してもよい。この補正は以下のようにして行うことができる。
【0051】
すなわち、前記ステップ230で計測したモニタセル電流の変化量ΔIm応じて電圧補正値KVを算出する。このとき、例えば図10の関係を用い、モニタセル電流の変化量ΔImに応じて電圧補正値KVを算出する。次に、電圧補正値KVを用いて印加電圧特性を補正する。なおこの場合、電圧補正値KVをバックアップRAMやフラッシュROM等のバックアップメモリに記憶保持しても良いし、或いは、電圧補正値KVにより印加電圧特性自体を更新しても良い。
【0052】
上記の如く補正又は更新された結果は、それ以降のNOx濃度検出時に適用される。すなわち、ガス濃度検出期間におけるポンプセル電圧制御に際し、センサ制御回路170は、バックアップRAM等に格納された電圧補正値KVを用いてポンプセル電圧Vpを補正する。あるいは、センサ制御回路170は、特性更新済みの印加電圧特性を用い、その時々のポンプセル電流Ipに応じてポンプセル電圧Vpを制御する。
【0053】
3.NOxセンサの診断システムが奏する効果
NOxセンサの診断システムが奏する効果を説明する。
(1)NOxセンサの診断システムは、エンジン稼働中に、NOxセンサ100が異常であるか否を診断し(図5のステップ10〜40)、異常であると判断した場合のみ、エンジン停止後に、NOxセンサ異常検出(本診断、図5のステップ70)を行う。そのため、エンジン停止後に、毎回、NOxセンサ異常検出を行う場合に比べて、NOxセンサ100に通電するバッテリーの寿命が長くなり、また、NOxセンサ100の通電時間が短くなるため、NOxセンサ100の寿命も長くなる。
(2)NOxセンサの診断システムは、エンジン稼働中に、NOxセンサ100が異常であると判断した場合、エンジン停止後に、再度、NOxセンサ異常検出を行う。エンジン停止後のNOxセンサ異常検出は、エンジン稼働中の診断に比べ、外乱が少ないので、精度良く診断を行うことができる。
(3)NOxセンサの診断システムは、図7のフローチャートに示す方法で、NOxセンサ異常検出を行う。そのことにより、早期診断が可能になり、その結果として、NOxセンサ100の寿命が長くなり、NOxセンサ100に通電するバッテリーの寿命が長くなる。
(4)NOxセンサの診断システムは、NOxセンサ100の実際の出力値Aと、検出条件が成立したときの出力値として予め設定された基準出力値Bとの偏差が、特定異常基準値L2を超えていれば、エンジン停止後のNOxセンサ異常検出を行わず、エラー信号を出力する(図5のステップ40、90)。つまり、エンジン稼働中の診断結果から、明らかに異常であると判断される場合は、エンジン停止後のNOxセンサ異常検出を行わず、直ちにエラー信号を出力する。このことにより、早期に、NOxセンサ100が異常であることをドライバーに伝えることができる。
(5)NOxセンサの診断システムは、エンジン停止後のNOxセンサ異常検出により、NOxセンサ100が異常であると判断した場合は、NOxセンサ100の制御を停止する(図5のステップ80、100)。このことにより、NOxセンサ100の異常により生じ得る2次故障を防止できる。
【0054】
4.変形例1
NOxセンサの診断システムは、図5のフローチャートに示す処理の代わりに、図11のフローチャートに示す処理を実行するものであってもよい。
【0055】
図11のフローチャートにおいて、ステップ310〜380の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ10〜80と同様である。また、図11のフローチャートにおいて、ステップ400〜420の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ90〜110と同様である。
【0056】
図11に示すフローチャートでは、ステップ340においてNOxセンサ100の本診断が必要と判断した場合、NOxセンサ100の制御を停止する。すなわち、NOxセンサ100によるNOx濃度の検出は、これ時点以降、行われなくなる。このように、エンジン稼働中に明らかな異常を検出した場合は、NOxセンサ100の制御を停止し、この時点以降、NOxセンサ100によるNOx濃度の検出は行われなくなるから、NOxセンサ100の異常により生じ得る2次故障を早期に防止できる。
【0057】
5.変形例2
NOxセンサの診断システムは、図5のフローチャートに示す処理の代わりに、図12のフローチャートに示す処理を実行するものであってもよい。
【0058】
図12のフローチャートにおいて、ステップ510〜560の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ10〜60と同様である。また、図12のフローチャートにおいて、ステップ600〜630の処理は、図5のフローチャートにおけるステップ80〜110と同様である。
【0059】
図12に示すフローチャートでは、NOxセンサ異常検出(ステップ580)を実行しているとき、所定時間ごとに、そのNOxセンサ異常検出が終了したか否かを判断し(ステップ590)、終了していなければ、エンジン始動の有無を判断し、エンジンが始動していれば、NOxセンサ異常検出を、たとえ途中であっても終了する(ステップ570)。こうすることにより、NOxセンサ異常検出の途中での、エンジンの始動、及びそれにともなう排気ガスの流入により、NOxセンサ異常検出が不正確になってしまうことがない。また、エンジンの始動後、NOxセンサ100の状態を、早期に、NOx濃度を検出する状態に戻すことができる。
【0060】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】NOxセンサの診断システムを適用した車両の構成を表すブロック図である。
【図2】排気通路におけるNOxセンサ100の配置を表す説明図である。
【図3】NOxセンサ100の概要を示す構成図である。
【図4】NOxセンサ100の出力特性を示す説明図である。
【図5】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【図6】NOxセンサ100の出力特性を示す説明図である。
【図7】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【図8】ポンプセル電圧に対するモニタセル電流の変化を示す特性図である。
【図9】ポンプセル電圧の変化に伴うモニタセル電流、センサセル電流の変化を示すタイムチャートである。
【図10】電圧補正値KVを設定するための図である。
【図11】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【図12】NOxセンサの診断システムが実行する処理を表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
100・・・NOxセンサ、110・・・ポンプセル、111、112・・・電極、
120・・・モニタセル、121・・・電極、130・・・センサセル、
131、132・・・電極、141・・・固体電解質、141a・・・ピンホール、
142・・・固体電解質、143・・・スペーサ、144・・・第1チャンバー、
145・・・絞り部、146・・・第2チャンバー、147・・・符号、
148、150・・・大気通路、149・・・絶縁層、151・・・ヒータ、
170・・・センサ制御回路、171、172、173・・・電流検出器、
190・・・添加弁、200・・・排気通路、210・・・触媒、220・・・DOC、
180・・・エンジンECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気中におけるNOx濃度を検知するNOxセンサの診断システムであって、
前記内燃機関の稼働中に、前記NOxセンサが異常であるか否を診断する第1診断手段と、
前記第1診断手段が前記NOxセンサを異常と診断した場合、前記内燃機関が停止しているときに前記NOxセンサが異常であるか否かを診断する第2診断手段と、
を備えることを特徴とするNOxセンサの診断システム。
【請求項2】
前記NOxセンサが、
チャンバーに導入した排気ガス中の酸素を排出又は汲み込むためのポンプセルと、ポンプセルを通過した後のガスからNOx濃度を検出するためのセンサセルと、チャンバー内の残留酸素濃度を検出するためのモニタセルとを備え、ポンプセルへの電圧印加時にセンサセル電流、モニタセル電流を各々計測してその時のセンサセル電流からNOx濃度を検知する限界電流式のNOxセンサであって、
前記第1診断手段は、
前記内燃機関が予め設定された稼働状態にあるとき、前記NOxセンサにより検知したNOx濃度が、前記予め設定された稼働状態に応じて予め設定された、基準NOx濃度範囲内にあるか否かに基づき、前記NOxセンサが異常であるか否かを判断するものであるとともに、
前記第2診断手段は、
予め規定した印加電圧特性を用い、その都度のポンプセル電流に応じてポンプセル電圧を初期設定する手段と、前記初期設定したポンプセル電圧を正負少なくとも何れかに一時的に変化させ、その時のモニタセル電流の変化量を検出する手段と、前記モニタセル電流の変化量に基づいて前記NOxセンサが異常であるか否かを判断する手段と、を備えるものであることを特徴とする請求項1記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項3】
前記第1診断手段は、前記NOxセンサが異常であるか否かを診断するとともに、前記異常のうち、予め設定された特定異常であるか否かを診断し、
前記第2診断手段は、前記第1診断手段が前記NOxセンサを前記特定異常と診断した場合、診断を行わないことを特徴とする請求項1又は2記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項4】
前記第1診断手段は、前記NOxセンサが異常であるか否かを診断するとともに、前記異常のうち、予め設定された特定異常であるか否かを診断し、
前記第1診断手段が前記NOxセンサを前記特定異常と診断した場合、前記NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する第1停止手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項5】
前記第2診断手段が、前記NOxセンサを異常と診断した場合、前記NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する第2停止手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項6】
前記第2診断手段は、診断中に前記内燃機関が始動した場合、診断を中止することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項1】
内燃機関の排気中におけるNOx濃度を検知するNOxセンサの診断システムであって、
前記内燃機関の稼働中に、前記NOxセンサが異常であるか否を診断する第1診断手段と、
前記第1診断手段が前記NOxセンサを異常と診断した場合、前記内燃機関が停止しているときに前記NOxセンサが異常であるか否かを診断する第2診断手段と、
を備えることを特徴とするNOxセンサの診断システム。
【請求項2】
前記NOxセンサが、
チャンバーに導入した排気ガス中の酸素を排出又は汲み込むためのポンプセルと、ポンプセルを通過した後のガスからNOx濃度を検出するためのセンサセルと、チャンバー内の残留酸素濃度を検出するためのモニタセルとを備え、ポンプセルへの電圧印加時にセンサセル電流、モニタセル電流を各々計測してその時のセンサセル電流からNOx濃度を検知する限界電流式のNOxセンサであって、
前記第1診断手段は、
前記内燃機関が予め設定された稼働状態にあるとき、前記NOxセンサにより検知したNOx濃度が、前記予め設定された稼働状態に応じて予め設定された、基準NOx濃度範囲内にあるか否かに基づき、前記NOxセンサが異常であるか否かを判断するものであるとともに、
前記第2診断手段は、
予め規定した印加電圧特性を用い、その都度のポンプセル電流に応じてポンプセル電圧を初期設定する手段と、前記初期設定したポンプセル電圧を正負少なくとも何れかに一時的に変化させ、その時のモニタセル電流の変化量を検出する手段と、前記モニタセル電流の変化量に基づいて前記NOxセンサが異常であるか否かを判断する手段と、を備えるものであることを特徴とする請求項1記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項3】
前記第1診断手段は、前記NOxセンサが異常であるか否かを診断するとともに、前記異常のうち、予め設定された特定異常であるか否かを診断し、
前記第2診断手段は、前記第1診断手段が前記NOxセンサを前記特定異常と診断した場合、診断を行わないことを特徴とする請求項1又は2記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項4】
前記第1診断手段は、前記NOxセンサが異常であるか否かを診断するとともに、前記異常のうち、予め設定された特定異常であるか否かを診断し、
前記第1診断手段が前記NOxセンサを前記特定異常と診断した場合、前記NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する第1停止手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項5】
前記第2診断手段が、前記NOxセンサを異常と診断した場合、前記NOxセンサにより検知したNOx濃度の使用を停止する第2停止手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のNOxセンサの診断システム。
【請求項6】
前記第2診断手段は、診断中に前記内燃機関が始動した場合、診断を中止することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のNOxセンサの診断システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【公開番号】特開2009−128237(P2009−128237A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304678(P2007−304678)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
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