説明

Niろう材合金

【課題】 耐食性が良好で、比較的大きな強度を有し、ステンレス鋼と銅をろう付けできる程度に低い液相線温度を有するNiろう材合金を提供する。
【解決手段】 以下の組成のNiろう材合金により、上記課題が解決される。
重量%でCrを5〜16%、Pを2〜9%、Siを1〜6%、Bを0.5〜2.5%含み、且つP、Si及びBの合計重量が8〜11%の範囲にあり、不可避不純物を含む残部のNiの重量が73〜87%であるNiろう材合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に比べて低温でろう付けが可能で、耐食性にも優れ且つ適度な強度を有するバランスの取れた特性を有するNiを主成分とするろう材合金に関する。
【背景技術】
【0002】
日本工業規格(JIS Z3265)には、Ni系のろう材合金として、例えばNi−Cr−Fe−Si−B系(BNi−2)、Ni−Cr−Si系(BNi−5)、Ni−Cr−P系(BNi−7)などが規定されている。
【0003】
しかしながら、BNi−2は融点が比較的低く、強度も問題ないが、Bを多く含むために耐食性の問題がある。BNi−5においては耐食性が良好であるが、融点が高いため用途が限定されるという問題がある。BNi−7は融点が低く、耐食性も良好であるが、Pを多く含むため強度が低い点が問題となる。
【0004】
また、特許文献1に開示されたNi−Cr−P−Si系のろう材は上記特性のバランスは取れているが、液相線温度がやや高いため、ステンレス鋼と銅をろう付けできない場合がある。更に、Crを多く含むため連続式水素炉において量産する際に作業性が劣ることがある。
【特許文献1】特許第3354922号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題点に着目して為されたものであり、耐食性が良好で、比較的大きな強度を有し、且つNi系の耐熱ろう材の長所を保つと共にステンレス鋼と銅をろう付けできる程度に低い液相線温度を有するNiろう材合金を提供することを目的としている。更に、本発明の提供するNiろう材合金は連続式水素炉における量産へも使用が可能で、その特性においてバランスの取れたNiろう材合金を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
下記の構成により本発明のNiろう材合金を提供できる。
【0007】
(1)重量%でCrを5〜16%、Pを2〜9%、Siを1〜6%、Bを0.5〜2.5%含み、不可避不純物を含む残部のNiの重量が73〜87%であることを特徴とするNiろう材合金。
【0008】
(2)P、Si及びBの合計重量が8〜11%の範囲にあることを特徴とする(1)記載のNiろう材合金。
【0009】
(3)前記不可避的不純物は重量%でFeを5%以下、Coを1%以下、Cuを1%以下、Mnを1%以下、Cを0.15%以下含むことを特徴とする(1)又は(2)記載のNiろう材合金。
【0010】
本発明のNiろう材合金において、Crは耐食性を改善する効果があるが、5%未満では効果が薄く、16%を超ええると液相線温度が1050℃を超え、銅のろう付けができなくなるので、5〜16%の範囲とした。
【0011】
Pは本発明のNiろう材合金の融点を低下させ、流動性が良くなるが、2%未満では効果が十分には発揮できず、9%を超えると合金が脆くなるので、2〜9%の範囲とした。
【0012】
SiとBは本発明のNiろう材合金の融点を低下させ、フラックス作用を発揮してろう付け作業性を改善するが、Siが1%未満、Bが0.5%未満では効果が発揮されず、Siが6%、Bが2.5%を超えるとNiやCrとの金属間化合物が過剰に形成され強度や耐食性の低下を招くので、Siは1〜6%、Bは0.5〜2.5%の範囲とした。
【0013】
PとSiとBは同じく本発明のNiろう材合金の融点及び作業性に影響を及ぼす成分であり、3成分の合計が8%未満では液相線温度が1050℃以上となる場合が多く、11%を超えると強度の低下を招くことが多いので、合計を8〜11%の範囲とした。
【0014】
不可避不純物を含むNiは、本発明のNiろう材合金の基本成分であり、上述の各成分とのバランスにより73〜83%の範囲に限定される。また本発明のNiろう材合金の特性に悪影響を及ぼさない不純物の範囲は、Feが5%以下、Coが1%以下、Cuが1%以下、Mnが1%以下、Cが0.15%以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるNiろう材合金はその特性のバランスが良く、以下の特徴を有しているので、広範な用途への適用が可能となる。
(1)耐食性が良好。
(2)適度な強度を有する。
(3)ろう付けが比較的低温(1050℃以下)で行える。
(4)ろうの流動性が良好。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ベースのNi、添加成分としてのCr、P、Si、Bの夫々が所定の重量%となるように調整した混合物を溶融して液状の合金とした後、アトマイズ法により粉末とするか、所定の型に鋳込んで板状、棒状としてNiろう材合金を得ることができる。粉末、板あるいは棒状の合金はそのままろう材として使用できるが、ろう付けする環境、対象物に応じて更に加工したろう材を用いてもよい。例えば粉末にバインダーレジンを混合してペースト状あるいはシート状とすることも可能であり、板は圧延して箔状にしてからろう材として用いることもできる。
【実施例】
【0017】
上記のように調整した、Niろう材合金の実施例1〜13の組成を表1に示す。表1には各実施例の合金のろう付け温度の目安となる液相線温度(℃)及び固相線温度(℃)、合金の強度の指標としての抗析力(kgf/mm)、ろう付作業性及び塩水噴霧試験による耐食性の評価結果を併せて示している。
【0018】
【表1】

【0019】
液相線及び固相線温度は、Niろう材合金をアルゴンガス雰囲気の電気炉で溶解し、溶解した合金中に熱伝対を挿入して、合金の冷却曲線を測定し、その曲線を解析して得た。
【0020】
抗析力は、電気炉内アルゴンガス雰囲気中で試験すべき合金を溶解し、溶融した合金を内径5mmの石英管に吸い上げて凝固させた後、約35mmの長さに切断して試験片とした。この試験片を抗析力試験治具(三点支持、支点間距離:25.4mm)に設置し、万能試験機により荷重を掛けて破断させ、破断荷重を試験片の断面積で割った値(kgf/mm)を抗析力として算出した。
【0021】
ろう付作業性は、連続式水素炉を1050℃、純水素ガス雰囲気(露天−50℃)に設定し、メッシュベルト上に設置したろう流れ用の試験片を炉内に挿入し、試験片が実際にろう付けされた状態(拡がり及び濡れ)を目視観察することにより判定した。
【0022】
耐食性はJIS Z2371の「塩水噴霧試験方法」により、ろう付けを完了した試験片を48時間塩水噴霧した後、試験片を観察してサビの発生状態を観察し、良否を判定した。48時間塩水噴霧後、サビの無いものを「良好」、塩水噴霧の途中でサビの発生したものを「不良」とした。
【0023】
本発明による実施例と比較するため、表2には従来から用いているNiろう材合金BNi−2、BNi−7及び本発明の組成範囲外の合金(比較例a〜d)の値も併せて示した。
【0024】
【表2】

【0025】
表1と表2の比較から、本発明による実施例1〜13は液相線温度が1040℃以下で抗析力はBNi―7の1.5倍以上と強度が大きいことがわかる。
【0026】
また、1050℃での連続水素炉において、従来の合金BNi−7はろう拡がりが大きすぎ、BNi−2は小さすぎるのに対し、本発明による合金は適度のろう拡がりを示し作業性が良好であることも確認された。
【0027】
塩水噴霧試験においては、BNi−7は良好な耐食性を示し、BNi−2は耐食性が劣るとの結果となったが、本発明による合金は全て良好な耐食性を示した。比較例aはCr量が多すぎるために液相線温度が高く、比較例b、cはP、Si、Bの合計重量が少ないため液相線温度が高かった。また、比較例dはP、Si、Bの合計重量が多すぎるため液相線温度は1050℃と比較的低い値であったが、実用に供せないほど強度が著しく低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上、述べたように、本発明によるNiろう材合金はバランスの取れた特性を有しているので、広範な用途に適用できる。連続水素炉は炉内と大気を遮断する炉心管及びその中を移動する駆動用のメッシュベルトを有しており、通常それらの部材は耐熱系のステンレス鋼やニッケル合金製なので、1100℃以上で連続的に使用すると極端に寿命が短くなる。従って、本発明によるNiろう材合金を使用することにより、1050℃以下においてろう付け作業ができるので、水素炉を連続運転して大量生産することが可能となりなる。また、この温度においてはステンレス鋼と純銅のろう付けが可能となるので、冷凍空調部品、自動車用配管部品などへも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%でCrを5〜16%、Pを2〜9%、Siを1〜6%、Bを0.5〜2.5%含み、不可避不純物を含む残部のNiの重量が73〜87%であることを特徴とするNiろう材合金。
【請求項2】
P、Si及びBの合計重量が8〜11%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載のNiろう材合金。
【請求項3】
前記不可避的不純物は重量%でFeを5%以下、Coを1%以下、Cuを1%以下、Mnを1%以下、Cを0.15%以下含むことを特徴とする請求項1又は2記載のNiろう材合金。