説明

O−アセチル−ホモセリン生産菌株およびこれを用いてO−アセチチル−ホモセリンを生産する方法

【課題】ホモセリン生合成経路に関連したホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンを生合成する一連の酵素をコードする遺伝子を強化し、高い収率でO−アセチルホモセリンを生産する菌株を提供する。
【解決手段】ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、アスパルトキナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼ、並びにホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼよりなる群から選ばれた少なくとも1種の酵素の活性が導入および増進された、O−アセチルホモセリンを高収率で生産することが可能なエシェリキア属由来の菌株、及び、前記菌株を用いてO−アセチルホモセリンを生産する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O−アセチル−ホモセリンを高収率で生産することが可能なエシェリキア属菌株に関する。また、本発明は、前記菌株を用いてO−アセチル−ホモセリンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチオニン(methionine)は、動物飼料、食品および医薬品に適用するために、化学的または生物学的に合成できる。
化学合成において、メチオニンは、主に、5−(β−メチルメルカプトエチル)ヒダントインを加水分解させる反応によって生産される。ところが、このような化学合成によって生産されたメチオニンは、L型とD型の混合形態で生産され、それぞれを分離する難しい追加的工程があるという欠点がある。そこで、本発明者は、かかる問題点を解決するために、生物学的方法を用いてL−メチオニンを選択的に生産することが可能な技術を開発して特許を出願したことがある(国際特許公開公報第2008/013432号)。この方法は、簡便に「2段階工法」と命名し、発酵によるL−メチオニン前駆体生産工程、および酵素による前記L−メチオニン前駆体のL−メチオニンへの転換工程を含む。前記L−メチオニン前駆体は、好ましくはO−アセチルホモセリン(O-acetylhomoserine)およびO−スクシニルホモセリン(O-succinylhomoserine)を含む。このような2段階工法を開発することにより、既存の問題となった、硫化物特有の基質毒性問題、メチオニンとSAMeによるメチオニン合成におけるフィードバック調節問題、およびシスタチオニンガンマシンターゼ(cystathionine gamma synthase)、O−スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼ(O-succinylhomoserine sulfhydrylase)およびO−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼ(O-acetylhomoserine sulfhydrylase)特有の中間産物分解活性問題を全て解決することができた。また、L−メチオニンのみを選択的に生産することができるため、DL−メチオニンを同時に生産する既存の化学合成工程に比べて優れた工程であり、さらに同一の反応によって副産物として有機酸、例えば、コハク酸および酢酸を同時に生産することが可能な非常に優れた工程である。
【0003】
O−アセチルホモセリンは、メチオニン生産の前駆体として使用される物質であって、メチオニン生合成経路上にある中間体である(国際特許公開公報第2008/013432号)。O−アセチルホモセリンは、下記反応式のように、ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼ(O-acetyl transferase)によってL−ホモセリンおよびアセチル−CoAを基質として合成される。
L−ホモセリン+アセチル−CoA → O−アセチル−ホモセリン
本発明者の米国特許出願第12/062835号では、アスパラギン酸キナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼの活性を有するthrA遺伝子と、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードするデイノコックス由来のmetX遺伝子の発現強化によってL−ホモセリンとO−アセチルホモセリンの生合成経路を増幅して高収率のO−アセチルホモセリンを生産する菌株、および前記菌株を用いてO−アセチルホモセリンを生産する方法を提供したことがある。
【0004】
本発明者は、さらに高い収率でO−アセチルホモセリンを生産するために努力した結果、O−アセチルホモセリンの基質の一つであるホモセリンが合成される生合成経路のうち、ホスホエノールピルビン酸塩からホモセリンまでの生合成経路上に位置する3種の酵素、すなわちホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)の発現を同時に強化し、本発明者の従来の米国特許出願第12/062835号に開示した方法よりさらに高い収率でO−アセチルホモセリンを生産する方法と菌株を確認した。
本発明から提供するホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンに至る一連の酵素の同時発現強化と類似に、アスパラギン酸塩由来のアミノ酸であるL−リシン、L−トレオニン、L−メチオニン生合成経路上の重要合成酵素の同時発現強化によってL−アミノ酸の生産能を強化しようとする試みは、従前にもあった。
【0005】
ヨーロッパ特許EP00900872は、大腸菌において、ジヒドロピコリン酸シンターゼ(dihydropicolinate synthase、dapA)、アスパルトキナーゼ(aspartokinase、lysC)、ジヒドロピコリン酸レダクターゼ(dihydropicolinate reductase、dapB)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーセ(diaminopimelate dehydrogenase、ddh)、テトラヒドロピコリン酸スクシニルラーゼ(tetrahydropicolinate succinylase、dapD)、スクシニルジアミノピメリン酸ジアシラーゼ(succinyl diaminopimelate diacylase、lysE)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semi-aldehyde dehydrogenase、asd)およびホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(phosphoenolpyruvate carboxylase、ppc)の活性を増大してリシンの生産を増大することが可能な方法を特徴とする、L−リシンの効率的な生産を提供した。日本特許JP2006−520460とJP2000−244921は、大腸菌における、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパルトキナーゼ(thrA)、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)、ホモセリンキナーゼ(thrB)、およびトレオニンシンターゼ(thrC)の活性増大によってL−トレオニンの効率的な生産を開示している。また、国際特許公開公報第07012078号に開示されたL−メチオニン生産特許の場合、コリネバクテリアを用いてアスパルトキナーゼ(lysC)、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase、hom)、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(homoserine acetyl transferase、metX)、O−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼ(O-acetylhomoserine sulfhydrylase、metY)、シスタチオニンガンマシンターゼ(cystathionine gamma synthase、metB)、コバラミン要求性トランスメチラーゼ(cobalamin-dependent transmethylase、metH)、コバラミン非要求性メチオニンシンターゼ(cobalamin-independent methionine synthase、metE)、メチルテトラヒドロホレートレダクターゼ(methyltetrahydrofolate reductase、metF)、グルコース6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(glucose 6-phosphate dehydrogenase、zwf)などの遺伝子の発現増加、およびメチオニン抑制タンパク質(methionine repressor protein、mcbR)、ホモセリンキナーゼ(homoserine kinase、hsk)、S−アデノシルメチオニンシンテターゼ(S-adenosylmethionine synthetase、metK)、トレオニンデヒドラターゼ(threonine dehydratase、livA)などの遺伝子の発現減少によってL−メチオニンの生合成を増大した。
【0006】
ところが、前述したアスパラギン酸塩由来のL−アミノ酸の生産に関連した特許らの場合、いずれもアスパラギン酸塩に由来してそれぞれL−リシン、L−トレオニン、L−メチオニンを生産する特許であり、これら特許の場合、最終産物の種類に応じて、それぞれ異なる遺伝子の組み合わせによってその生産性を増大したことを開示しているだけである。しかし、本発明のホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンに至る一連の酵素の同時発現強化によってO−アセチルホモセリンをより効率よく生産する内容は、現在まで他の文献によって開示されたことがない。また、本発明者の酵素組み合わせは、前記L−アスパラギン酸塩由来のL−リシン、L−トレオニンおよびL−メチオニン生産方法では提供していない組み合わせであり、最終産物がL−リシン、L−トレオニンまたはL−メチオニンではないという差異点がある。
【0007】
このような背景の下に、本発明者は、O−アセチルホモセリンを最大収率で生産するために鋭意努力した結果、O−アセチルホモセリンを最終産物としており、最大の生産が可能となるように、アスパラギン酸キナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)およびホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(metX)に加えてホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)の少なくとも1種の酵素を大腸菌染色体DNAおよび/またはプラスミド形態で同時強化することにより、O−アセチルホモセリンの生産性を増大させる方法、およびO−アセチルホモセリンの収率および生産性が増加した菌株を開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許公開公報第2008/013432号
【特許文献2】米国特許出願第12/062835号
【特許文献3】ヨーロッパ特許EP00900872
【特許文献4】特開2006−520460
【特許文献5】特開2000−244921
【特許文献6】国際特許公開公報第07012078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ホモセリン生合成経路に関連したホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンを生合成する一連の酵素をコードする遺伝子を強化し、高い収率でO−アセチルホモセリンを生産する菌株を提供する。
本発明の他の目的は、前記菌株を用いてO−アセチルホモセリンを高収率で生産する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある観点によれば、(a)ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、アスパルトキナーゼ、およびホモセリンデヒドロゲナーゼ、並びに(b)ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼよりなる群から選ばれた少なくとも1種の酵素の活性が導入および増進された、O−アセチルホモセリンを高収率で生産することが可能なエシェリキア属(Escherichia sp.)菌株を提供する。
本発明の他の観点によれば、前記菌株を培養培地で発酵する段階を含む、当該培地内にO−アセチルホモセリンを生産する方法を提供する。
本発明の別の観点によれば、(a)前記O−アセチルホモセリン生産能が向上したエシェリキア属由来の菌株を培養し、発酵によってO−アセチルホモセリンを生産する段階と、(b)生産されたO−アセチルホモセリンを分離する段階と、(c)前記分離されたO−アセチルホモセリンをメチルメルカプタンと共に、シスタチオニンガンマシンターゼ、O−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼ、およびO−スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼよりなる群から選ばれた酵素の存在下に、L−メチオニンおよびアセテートに転換させることを含むL−メチオニンおよびアセテートを生産する方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明によれば、アスパラギン酸キナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(metX)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)の6種の酵素を大腸菌染色体DNAとプラスミド形態で同時強化する方法、および菌株によってさらに高い収率でO−アセチル−L−ホモセリンを生産することができ、このように生産されたO−アセチル−L−ホモセリンは、本発明者が2007年に出願した「L−メチオニ前駆体生産菌株および前記菌株を用いたL−メチオニンの生産方法」(国際特許公開公報第2008/013432号)に開示したように、O−アセチル−ホモセリンスルフヒドリラーゼによってメチオニンと酢酸の合成の前駆体として用いてL−メチオニンを高収率で生物転換することができる。
本発明の前記および他の目的、特徴および利点は、添付図面を参照する次の説明からさらに明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明に係るO−アセチルホモセリン生産菌株の生合成経路の模式図である。
【図2】図2は染色体挿入用pSG−2ppcベクターの遺伝子地図及び製作を示す概略図である。
【図3】図3は染色体挿入用pSG−2aspCベクターの遺伝子地図及び製作を示す概略図である。
【図4】図4は染色体挿入用ベクターpSG−2asdベクターの遺伝子地図及び製作を示す概略図である。
【図5】図5は発現用ベクターpCJ−thrA(M)−metX−CLの遺伝子地図及び製作を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一つの様態によれば、本発明は、(a)ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、アスパルトキナーゼ、およびホモセリンデヒドロゲナーゼの活性、並びに(b)ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼよりなる群から選ばれた少なくとも1種の酵素の活性が導入および増進された、O−アセチルホモセリンの生産能が向上したエシェリキア属(Escherichia sp.)菌株に関する。
本発明で使用される用語「L−メチオニン前駆体」とは、メチオニン特化生合成経路の一部分である代謝物質、またはこの誘導体、特に、O−アセチルホモセリンを意味する。
本発明で使用される用語「O−アセチルホモセリン生産菌株」とは、O−アセチルホモセリンを生物体内で生産することが可能な原核または真核微生物菌株であって、本発明に係る操作によってO−アセチルホモセリンを蓄積することが可能な菌株をいう。例えば、本発明で有用な菌株は、エシェリキア属(Escherichia sp.)、エルウィニア属(Erwinia sp.)、セラシア属(Serratia sp.)、プロビデンシア属(Providencia sp.)、コリネバクテリウム属(Corynebacteria sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、レプトスピラ属(Leptospira sp.)、サルモネラ属(Salmonellar sp.)、ブレビバクテリア属(Brevibacteria sp.)、ヒポモナス属(Hypomononas sp.)、クロモバクテリウム属(Chromobacterium sp.)、ノカルジア属(Norcardia sp.)、カビ類(fungi)または酵母類(yeast)に属する微生物菌株が含まれ得る。好ましくは、エシェリキア属、コリネバクテリウム属、レプトスピラ属の微生物菌株と酵母である。さらに好ましくはエシェリキア属の微生物菌株であり、一層さらに好ましくは大腸菌であり、より好ましくはL−リシン、L−トレオニン、L−イソロイシンまたはL−メチオニンを生産する菌株由来である。最も好ましくは、本発明によって提供された既存の特許(米国特許出願第12/062835号)に開示されている寄託番号KCCM10921Pまたは寄託番号KCCM10925P由来の菌株である。または、FTR2533(寄託番号KCCM10541)由来の菌株を用いることができる。
【0014】
本発明で使用される用語「活性の導入および増進」とは酵素の細胞内活性の増加を意味し、これは前記酵素をコードする遺伝子の過発現によって行われ得る。例えば、目的遺伝子の過発現は、前記遺伝子のプロモーター部位および/または5’−UTR地域の塩基配列を変形させることにより、タンパク質発現を増進させることができ、目的遺伝子を染色体上に追加導入することにより発現を強化させることができ、目的遺伝子をベクター上に自己プロモーターまたは強化された別個のプロモーターと共に導入して菌株に形質転換させることにより、タンパク質の発現量を強化させることができる。また、目的遺伝子のORF(open reading frame)地域に突然変異を導入することにより、目的遺伝子を過発現させることができる。過発現の測定によれば、相応するタンパク質の活性または濃度が野生型タンパク質または初期の微生物菌株における活性または濃度を基準として一般に最小10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%または500%、最大1000%または2000%まで増加することが分かる。好ましくは、酵素活性の導入および増進は当該酵素の遺伝子を有するプラスミドを導入し、或いは染色体上で当該酵素をコードしている遺伝子のコピー数を増加させ、或いは当該酵素の遺伝子のプロモーター配列を置換または変形させることにより、酵素の活性を導入および増進させることができる。
【0015】
好適な一実施態様として、本発明は、アスパラギン酸キナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)、ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(metX)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)の6種の酵素活性の導入および増進によってO−アセチルホモセリンをより高い収率で生産する微生物菌株、および前記菌株を用いてO−アセチルホモセリンを生産する方法を提供する。好ましくは、アスパラギン酸キナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)またはホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(metX)を発現するベクターを菌株に形質転換することができ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)よりなる群から少なくとも1種の酵素をコードする遺伝子が大腸菌染色体内で2コピー数以上に存在することができ、最も好ましくは、前記3種の遺伝子がいずれも大腸菌染色体内で2コピー数以上に存在して前記酵素の活性を導入および増進することができる。

具体的に、本発明では、L−メチオニン前駆体としてのO−アセチルホモセリンの合成を増加させるために、メチオニン生合成経路のうち、第1段階を媒介する酵素としてのホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼをコードするmetX遺伝子の発現を増進させる。metXは、ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼの活性を持つタンパク質をコードする遺伝子の通称であり、新しい外部ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼは、多様な微生物種から得られる。、ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を得られる菌株の例としては、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)、レプトスピラ属(Leptospira sp.)、デイノコックス属(Deinococcus sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、またはミコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)が含まれるが、これに限定されない。好ましくは、前記ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼは、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、レプトスピラメエリ(Leptospira meyeri)、デイノコックスラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、シュードモナスエアルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)またはミコバクテリウムスメグマティス(Mycobacterium smegmatis)からなる群から選ばれた菌株に由来の遺伝子によってコードされる。さらに好ましくは、前記ホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼは、UniProtデータベース登録番号Q9RVZ8(配列番号18)、NP_249081(配列番号19)、またはYP_886028(配列番号20)のアミノ酸配列を有する。レプトスピラメエリ(Leptospira meyeri)に由来のmetX遺伝子は、フィードバック阻害抵抗性(J Bacteriol. 1998 Jan;180(2):250-5. Belfaiza J et al.)があるものと知られている。他の様々なホモセリンO−アセチルトランスフェラーゼは以前の本発明者の研究からフィードバック阻害が解除されたことを確認した。
【0016】
例えば、metX遺伝子の導入および増進は、遺伝子の導入により、または目的遺伝子の5’−UTRおよび/またはプロモーター部位の変形により実現できる。好ましくは、metX遺伝子の導入および増進はmetX遺伝子を含む発現ベクター上に自己プロモーターまたは強化された別個のプロモーターと共に導入して菌株に形質転換させ、プラスミド形態で導入される。metX遺伝子発現の増進によってメチオニン前駆体の合成が増加する。
また、前記菌株は、O−アセチルホモセリンの前駆体であるホモセリンの合成を増加させるために、アスパルトキナーゼまたはホモセリンデヒドロゲナーゼの活性を増進させるように製作される。本願において、thrAは、アスパルトキナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼの活性を有するペプチドをコードする遺伝子の通称である。好ましくは、アスパルトキナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼは、Uniprotデータベース登録番号AP_000666の遺伝子によってコードされる。好ましくは前記thrA遺伝子を含む発現ベクターを菌株に形質転換させてプラスミド形態で導入し、最も好ましくは前記metXおよびthrA遺伝子を同時に含む発現ベクターを菌株に形質転換させ、プラスミド形態で導入して発現を導入および増進させることができる。
【0017】
本発明の具体的実施態様として、前記O−アセチル−L−ホモセリン生産菌株を製造する方法は次のとおりである。
まず、O−アセチル−L−ホモセリンを蓄積することを可能とするために、菌株から、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)をコードする遺伝子をそれぞれ染色体挿入ベクターpSGにクローニングした後、菌株に形質転換させることにより、前記母菌株の染色体内の該当遺伝子のコピー数を2コピー数以上に増大させて当該遺伝子の発現増加を誘導する。その結果、遺伝子の発現が増進される。次に、アスパラギン酸キナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)及びホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(metX)をコードする遺伝子は菌株内にプラスミドDNAとして導入される。これに関して、アスパラギン酸キナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼ(thrA)のプロモーターをCJ1プロモーターで置換し、デイノコックス由来のホモセリンアセチルトランスフェラーゼ(metX)をthrA−metXオペロン形態で製作し、低いコピープラスミドベクターとしてのpCL20プラスミドにクローニングしたプラスミドpCJ−thrA(M)−metX−Cを、前記で製作したホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(ppc)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspC)、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(asd)がそれぞれ2コピー数である菌株に形質転換することにより、ホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンに至る一連の生合成経路を全て強化した菌株を製造する。
【0018】
前記一連の酵素は、下記反応式に示すように、ホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンに合成する活性を持っている。よって、このような一連の合成を有する遺伝子の発現を強化する場合、細胞内にO−アセチルホモセリンの蓄積を誘導することができる。
ホスホエノールピルビン酸塩+HO+CO <−> オキサロ酢酸+リン酸塩
オキサロ酢酸+グルタミン酸塩 <−> アスパラギン酸塩+α−ケトグルタル酸塩
アスパラギン酸塩+ATP <−> アスパルチル−4−リン酸塩+ADP
アスパルチル−4−リン酸塩+NADPH<−> アスパラギン酸塩−セミアルデヒド+リン酸塩+NADP+
アスパラギン酸塩−セミアルデヒド+NADPH<−> ホモセリン
ホモセリン+アセチル−CoA <−> O−アセチル−ホモセリン+CoA
【0019】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アスパラギン酸キナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ、およびホモセリンアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子それぞれを通称ppc、aspC、asd、thrAおよびmetXと表記する。前記遺伝子は、文献『Mol Syst Biol. 2006; 2:2006.0007. Epub 2006 Feb 21., Science. 1999 Nov 19; 286(5444):1571-7』によって公開された大腸菌およびデイノコックスラディオデュランスR1のゲノム配列から得ることができる。また、前記遺伝子配列は、米国生物工学情報センター(NCBI)および日本DNAデータバンク(DDBJ)などのデータベースからも得ることができる。例えば、遺伝子銀行ID(GenBankID)は、ppc(89110074)、aspC(85674274)、asd(89110578)、thrA(89106886)、およびmetX(1799718)である。前記方法によって製作されたO−アセチルホモセリン生産菌株は、アスパラギン酸塩からO−アセチルホモセリンに至る一連の生合成経路の強化によってO−アセチル−L−ホモセリンを高収率で生産することが可能な菌株を製作することができる。前記方法によって製作したO−アセチルホモセリン生産菌株CJM−XPA2(pCJ−thrA(M)−metX−CL)菌株を「大腸菌CA05−0567」と命名し、KCCM(Korean Culture Center of Microorganism、韓国ソウル市西大門区弘済1洞ユリムビル361−221)に2009年8月11日付で寄託番号KCCM11025Pで寄託した。
【0020】
L−メチオニン前駆体生産菌株は、L−リシン、L−トレオニンまたはL−イソロイシンを生産する菌株を用いて製造することができる。好ましくは、L−トレオニンを生産する菌株を使用することにより製造することができる。この場合には、既にホモセリンまでの合成が円滑に行われた菌株であって、さらに多い量のメチオニン前駆体を合成することができる。また、metX遺伝子の発現を増進させてより多い量のメチオニン前駆体を合成することができる。
本願において使用される用語「L−トレオニン生産菌株」とは、生体内でL−トレオニンを生産することが可能な原核または真核微生物菌株をいう。例えば、エシェリキア属(Escherichia sp.)、エルウィニア属(Erwinia sp.)、セラシア属(Serratia sp.)、プロビデンシア属(Providencia sp.)、コリネバクテリウム属(Corynebacteria sp.)、またはブレビバクテリア属(Brevibacteria sp.)に属するL−トレオニン生産微生物菌株が含まれ得る。好ましくはエシェリキア属(Escherichia sp.)であり、最も好ましくは大腸菌(Escherichia coli)である。
【0021】
本発明の好適な実施態様として、国際特許公開公報第2005/075625号に開示されたL−トレオニン生産菌株としてのFTR2533を使用することができる。FTR2533は、大腸菌寄託番号KCCM10236から派生された大腸菌TFR7624に由来する。大腸菌寄託番号KCCM10236は大腸菌TF4076に由来する。大腸菌寄託番号KCCM10236は、PEPからの酢酸オキサロの形成を促進するppc遺伝子、およびアスパラギン酸塩からトレオニンを生合成するために必要な酵素、例えばthrA(アスパルトキナーゼ)および1−ホモセリンデヒドロゲナーゼ)、thrB(ホモセリンキナーゼ)、およびthrC(トレオニンシンターゼ)を高い水準に発現するので、L−トレオニン生産を増加させることができる。また、大腸菌TFR7624(KCCM10538)は、L−トレオニン生合成のために必要なtyrB遺伝子の発現を抑制する不活性化tyrR遺伝子を持っている。また、大腸菌FTR2533(KCCM10541)は、不活性化されたgalR遺伝子を持つL−トレオニン生産菌株、またはL−トレオニン生産大腸菌である。
本発明の好適な実施態様として、米国特許出願第12/062835号に開示された菌株CJM2−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10925P)を使用することができる。前記菌株は、大腸菌FTR2533菌株のmetB、thrB、metJ、およびmetA遺伝子を欠損させた後、metAの位置にデイノコックスラディオデュランス由来のmetX遺伝子を導入し、しかる後に、thrA発現ベクターで形質転換させた菌株であって、大腸菌寄託番号KCCM10925Pの菌株である。
【0022】
また、本発明の好適な実施態様として、米国特許出願第12/062835号に開示された菌株CJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)を使用することができる。前記菌株は、大腸菌CJM002(KCCM10568)菌株に由来するもので、metB、thrB、metJ、およびmetA遺伝子を欠損させ、metAの位置にデイノコックスラディオデュランス由来のmetX遺伝子を導入した後、thrA発現ベクターで形質転換させた菌株であって、大腸菌寄託番号KCCM10921Pの菌株である。
【0023】
本発明の具体的な実施例では、ppc遺伝子の2コピーを大腸菌の染色体上に挿入するための挿入用ベクターpSG−2ppcを製作し(図2)、aspC遺伝子の2コピーを大腸菌の染色体上に挿入するための挿入用ベクターpSG−2aspCを製作し(図3)、asd遺伝子の2コピーを大腸菌の染色体上に挿入するための挿入用ベクターpSG−2asdを製作した(図4)。また、thrA遺伝子と同時にmetX遺伝子の発現のためのpCJ−thrA(M)−metX−CLベクターを製作した(図5)。前記pSG−2ppc、pSG−2aspCおよびpSG−2asdベクターを、順次、米国特許出願第12/062835号に開示されたthrAおよびmetXの強化菌株CJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)に形質転換させ、前記菌株内にppc、aspCおよびasdが2コピーに増幅されて存在する菌株を製造することにより、CJM−XPA2と命名した。前記菌株にpCJ−thrA(M)−metX−CLベクターを形質転換することにより、O−アセチルホモセリンの生産能をフラスコ培養によって確認した。その結果、生産菌株の染色体内にホスホエノールピルビン酸塩からアスパラギン酸塩に至る遺伝子ppc、aspCおよびasdを2コピーに増幅すると、O−アセチルホモセリンの生成収率は、ppc、aspC、asd遺伝子が2コピーに増幅されていない菌株CJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)に比べて29.1%から32.7%に3.6%増加することを確認した。さらに、ホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンの生合成に至る全ての遺伝子ppc、aspC、asd、thrAおよびmetXを染色体またはプラスミドDNA形態で増幅するとき、O−アセチルホモセリンの生成収率がppc、aspCおよびasd遺伝子が2コピーに増幅されていないCJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)菌株に比べて29.1%から46%に非常に高く16.9%向上することを確認した。また、ホスホエノールピルビン酸塩からアスパラギン酸塩に至るppc、aspCおよびasdのみを増幅した場合にはO−アセチルホモセリンの収率が32.7%であり、ppc、aspCおよびasdの増幅なしでthrAおよびmetXのみを増幅した場合にはO−アセチルホモセリンの収率が37.5%である結果からみて、ホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンの生合成経路上に位置する全体遺伝子ppc、aspC、asd、thrAおよびmetXを染色体とプラスミド形態として遺伝子コピー数を増大して発現量を同時に増加させる場合、いずれか一つの遺伝子の発現量を増加させたことに比べてO−アセチルホモセリンの生産収率が46%と大きく増加させることができることを確認し(実施例2、表2)、本発明の方法で製造された菌株のO−アセチル生産能が大幅向上したことを確認した。
【0024】
別の様態として、本発明は、前記方法によって製造されたO−アセチル−ホモセリン生産能が向上した大腸菌を培養培地で発酵する段階を含み、培地にO−アセチル−ホモセリンを蓄積させることにより、O−アセチル−ホモセリンを生産する方法に関する。
別の様態として、本発明は、(a)前記方法によって製造されたO−アセチルホモセリン生産能が向上したエシェリキア属由来の菌株を培養し、発酵によってO−アセチルホモセリンを生産する段階、(b)生産されたO−アセチルホモセリンを分離する段階、および(c)前記分離されたO−アセチルホモセリンおよびメチルメルカプタンを基質として、シスタチオニンガンマシンターゼ、O−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼおよびO−スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼの活性を有する酵素よりなる群から選ばれた転換酵素を用いて酵素反応を起し、L−メチオニンおよびアセテートを生産する方法に関する。
【0025】
前記方法は、本発明者が2007年に出願した国際特許公開公報第2008/013432号に基づいた方法によるもので、メチオニン転換酵素としてのシスタチオニンガンマシンターゼ、O−アセチルホモセリンスルフヒドリラーゼ、またはO−スクシニルホモセリンスルフヒドリラーゼの活性を用いてL−メチオニンを生産する方法であって、本発明で提供する菌株を用いる場合、さらに高い収率でL−メチオニンを生産することができる。
前記で製造されたO−アセチル−L−ホモセリン生産菌株の培養過程は、当業界に知られている適切な培地と培養条件に応じて行われ得る。このような培養過程は、当業者であれば、選択される菌株に応じて容易に調整して使用することができる。前記培養方法の例には回分式、連続式および流加式培養が含まれるが、これに限定されない。このような各種培養方法は、例えば文献『“Biochemical Engineering” by James M. Lee, Prentice-Hall International Editions, pp 138-176』に開示されている。
【0026】
培養に使用される培地は、特定の菌株の要求条件を適切に満足させなければならない。多様な微生物の培地は、例えば文献『“Manual of Methods for General Bacteriology” by the American Society for Bacteriology, Washington D. C., USA, 1981』に開示されている。前記培地は多様な炭素源、窒素源、および微量元素成分を含む。炭素源は、ブドウ糖、乳糖、蔗糖、果糖、麦芽糖、澱粉およびセルロースなどの炭水化物;大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ヤシ油などの脂肪;パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸などの脂肪酸;グリセロールおよびエタノールなどのアルコールと酢酸などの有機酸を含む。これらの炭素源は単独でまたは組み合わせて使用できる。窒素源としては、ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、コーンスティープリカー((corn steep liquor)CSL)およびベスン粉(bean flour)などの有機窒素源、および尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムなどの無機窒素源を含む。これらの窒素源は、単独でまたは組み合わせて使用できる。前記培地にはリン酸源としてさらにリン酸二水素カリウム(potassium dihydrogen phosphate)、リン酸水素カリウム(dipotassium hydrogen phosphate)および相応するナトリウム含有塩(sodium-containing salts)を含むことができる。また、培地は硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄などの金属を含むことができる。また、アミノ酸、ビタミン、および適した前駆体などが添加できる。これらの培地または前駆体は、培養物に回分式または連続式で添加できる。
【0027】
また、培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸などの化合物を適切な方式で添加することにより、培養物のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を使用することにより、培養中の気泡生成を抑制することができる。また、培養液の好気性条件を保つために、培養液内に酸素または酸素含有ガス(例えば、空気)が注入できる。培養物の温度は一般に20〜45℃、好ましくは25〜40℃である。培養はL−メチオニン前駆体の生産が所望の水準に到達するまで続けることが可能であり、好ましい培養時間は10〜160時間である。
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。ところが、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲を限定するものとして解析してはいけない。
【0028】
実施例1:O−アセチルホモセリン生産菌株の製造
<1−1>ppc挿入用pSGベクターの製作
大腸菌の染色体上にppc DNAを挿入するために、挿入用ベクターとしてのpSG−2ppcを製作した。
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)に基づいてppc遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号gi:89110074)を確保し、これに基づいてppc遺伝子の−200部分からppc ORFを含有し、制限酵素EcoRIおよびSacI認知部位を含んでいるプライマー(配列番号1および2)と、SacIおよびKpnI認知部位を含んでいるプライマー(配列番号3および4)とを合成した。
大腸菌W3110の染色体DNAを鋳型とし、前記配列番号1および2と配列番号3および4のプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はPfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用した。PCRは変性96℃、30秒;アニーリング50℃、30秒;および重合反応72℃、4分を1サイクルとして30サイクル繰り返し行った。
【0029】
その結果、ppc遺伝子と制限酵素EcoRIおよびSacI、そしてSacIおよびKpnIを含有した約3.1kbの増幅された遺伝子を獲得した。
前記PCRによって獲得したppc遺伝子の末端に含まれた制限酵素EcoRVおよびSacI、そしてSacIおよびKpnIを処理し、制限酵素EcoRVおよびKpnIが処理されたpSG76−C(J Bacteriol. 1997 Jul; 179(13):4426-8)ベクターに接合によってクローニングし、最終的に2コピーのppc遺伝子がクローニングされたpSG−2ppc組み換えベクターを製作した。図2はppc染色体挿入用ベクターpSG−2ppcを示す図である。
【0030】
<1−2>aspC挿入用pSGベクターの製作
大腸菌の染色体上にaspC DNAを挿入するために、挿入用ベクターとしてのpSG−2aspCを製作した。
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)に基づいてaspC遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号gi:85674274)を確保し、これに基づいてaspC遺伝子の−200部分からppc ORFを含有し、制限酵素BamH認知部位を含んでいるプライマー(配列番号5および6)を合成した。
大腸菌W3110の染色体DNAを鋳型とし、前記配列番号5および6のプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はPfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用した。PCRは変性96℃、30秒;アニーリング50℃、30秒;および重合反応72℃、2分を1サイクルとして30サイクル繰り返し行った。
その結果、aspC遺伝子と制限酵素BamHIを含有した約1.5kbの増幅された遺伝子を獲得した。
前記PCRによって獲得したaspC遺伝子の末端に含まれた制限酵素BamHIを処理し、制限酵素BamHIが処理されたpSG76−Cベクターに接合によってクローニングした。最終的に2コピーのaspC遺伝子がクローニングされたpSG−2aspC組み換えベクターを製作した。図3はaspC染色体挿入用ベクターpSG−2aspCを示す図である。
【0031】
<1−3>asd挿入用pSGベクターの製作
大腸菌の染色体上にasd DNAを挿入するために、挿入用ベクターとしてのpSG−2asdを製作した。
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)に基づいてasd遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号gi:89110578)を確保し、これに基づいてasd遺伝子の−200部分からppc ORFを含有し、制限酵素EcoRIおよびXbaI認知部位を含んでいるプライマー(配列番号7および8)と、XbaIおよびEcoRI認知部位を含んでいるプライマー(配列番号9および10)とを合成した。
大腸菌W3110の染色体DNAを鋳型とし、前記配列番号7および8と配列番号9および10のプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はPfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用した。PCRは変性96℃、30秒;アニーリング50℃、30秒;および重合反応72℃、2分を1サイクルとして30サイクル繰り返し行った。
その結果、asd遺伝子と制限酵素EcoRIおよびXbaI、そしてXbaIおよびEcoRIを含有した約1.5kbの増幅された遺伝子を獲得した。
前記PCRによって獲得したasd遺伝子の末端に含まれた制限酵素EcoRIおよびXbaIを処理し、制限酵素EcoRIが処理されたpSG76−Cベクターに接合によってクローニングし、最終的に2コピーのppc遺伝子がクローニングされたpSG−2asd組み換えベクターを製作した。図4はasd染色体挿入用ベクターpSG−2asdを示す図である。
【0032】
<1−4>ThrAおよびMetX発現用pCJ−thrA(M)−metX−CLベクターの製作
O−アセチルホモセリンの合成のために、thrAおよびmetXを発現する組み換えベクターを導入して前記遺伝子の発現を強化した。
thrA遺伝子と同時にmetX遺伝子の発現のためのベクターを製作するために、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH GenBank)に基づいてmetX遺伝子の塩基配列情報(NCBI登録番号gi:1799718)を確保し、これに基づいてmetX遺伝子のATG部分からTAA部分までmetX ORFを含有し、両末端に制限酵素HindIII認知部位を含んでいるプライマー(配列番号11および12)を合成した。
デイノコックスラディオデュランスR1の染色体DNAを鋳型とし、前記配列番号11および12のプライマーを用いてPCRを行った。重合酵素はPfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用した。PCRは変性96℃、30秒;アニーリング50℃、30秒;および重合反応72℃、2分を1サイクルとして30サイクル繰り返し行った。
その結果、metX遺伝子と制限酵素HindIII部位を含有した約1kbの増幅された遺伝子を獲得した。
前記PCRによって獲得したmetX遺伝子に制限酵素HindIIIを処理し、本発明者によって出願された米国特許出願第12/062835号で製作されたthrA発現ベクターpCJ−thrA(M)−CLプラスミドに制限酵素HindIIIを処理した切片と接合によってクローニングし、最終的にthrAとmetXを同時に発現するベクターpCJ−thrA(M)−metX−CLを製作した(図5)。
【0033】
<1−5>O−アセチルホモセリン生産菌株の製作
実施例<1−1>で製作したppc染色体挿入ベクターとしてのpSG−2ppcをCJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)(米国特許出願第12/062835号)菌株に形質転換してLB−Cm(酵母抽出10g/L、NaCl5g/L、トリプトン10g/L、クロラムフェニコール25μg/L)培地で培養した後、クロラムフェニコール耐性を有するコロニーを選抜した。選抜された形質転換体はpSG−2ppcベクターが染色体内のppc部分に1次挿入された菌株である。前記で確保された2コピーのppc遺伝子が挿入された菌株に、pSGベクター内に存在するI−sceI部分を切断する制限酵素I−SceIを発現するベクターpAScepを形質転換し、LB−Ap(酵母抽出10g/L、NaCl5g/L、トリプトン10g/L、アンピシリン100μg/L)で生長する菌株を選別した。このように選別された菌株は、ppc遺伝子は2コピーに増幅され、1次挿入によってppc遺伝子と同時に挿入されたpST76−Cベクターが除去された形態である。このような方法を同様に、実施例<1−2>で製作したpST76C−2aspCおよび実施例<1−3>で製作したpST76C−2asdベクターに順次繰り返し行った。その結果、CJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)菌株から、ppc、asdおよびaspCが2コピーに増幅された菌株を製作した。こうして製作された菌株をCJM−XPA2と命名した。
【0034】
製作されたCJM−XPA2菌株を、実施例<1−4>で製作したpCJ−thrA(M)−metX−CLベクターで形質転換してLB−Sp(酵母抽出10g/L、NaCl5g/L、トリプトン10g/L、スペクチノマイシン100μg/L)培地で培養した後、スペクチノマイシンに耐性を有するコロニー10株を選抜し、O−アセチルホモセリンの生産性を比較した。CJM−XPA2(pCJ−thrA(M)−metX−CL)菌株を「大腸菌CA05−0567」と命名し、KCCM(Korean Culture Center of Microorganism、韓国ソウル市西大門区弘済1洞ユリムビル361−221)に2009年8月11日付で寄託番号KCCM11025Pで寄託した。それぞれのO−アセチルホモセリン生産能力を比較した。
【0035】
実施例2:O−アセチルホモセリンの生産のための発酵
実施例1で製作した菌株のメチオニン前駆体であるO−アセチルホモセリンの生産性を確認するために、三角フラスコ培養を行った。
表1に示したO−アセチル−ホモセリン力価培地を用いて三角フラスコでO−アセチルホモセリンの生産性を比較した。
【0036】
【表1】

【0037】
32℃の培養器でLB固体培地内に一晩培養した単一コロニーを25mLのO−アセチルホモセリン力価培地に1白金耳ずつ接種して32℃、250rpmで42〜64時間培養した。培養物からO−アセチルホモセリンをHPLCによって分析した。分析結果を表2に示した。
下記表2に示した結果のように、O−アセチルホモセリン生産菌株の染色体内にホスホエノールピルビン酸塩からアスパラギン酸塩に至る遺伝子ppc、aspCおよびasdを2コピーに増幅させるときに、O−アセチルホモセリンの生成収率は、ppc、aspCおよびasd遺伝子が2コピーに増幅されていない菌株CJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)に比べて29.1%から32.7%に3.6%増加することを確認した。さらに、ホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンの生合成に至る全ての遺伝子ppc、aspC、asd、thrBおよびmetXを染色体とプラスミド形態で増幅させるときに、O−アセチルホモセリンの生成収率は、ppc、aspC、asd遺伝子が2コピーに増幅されていないCJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)菌株に比べて29.1%から46%に非常に高い16.9%程度向上することを確認した。
【0038】
総合すれば、ホスホエノールピルビン酸塩からアスパラギン酸塩に至るppc、aspCおよびasdのみを増幅した場合には、O−アセチルホモセリンの収率が32.7%、ppc、aspCおよびasdの増幅なしでthrAおよびmetXのみを増幅した場合には、O−アセチルホモセリンの収率が37.5%である結果からみて、ホスホエノールピルビン酸塩からO−アセチルホモセリンの生合成経路上に位置する全体遺伝子ppc、aspC、asd、thrAおよびmetXを染色体とプラスミド形態として遺伝子コピー数を増大して発現量を同時に増加させる場合、いずれか一つの遺伝子の発現量を増加させたことに比べてO−アセチルホモセリンの生産収率が46%に大きく増加させることができることを確認した。
【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
上述したように、本発明は、培地内で発酵するときに培養培地で高収率にてO−アセチルホモセリンを生産するエシェリキア属菌株を提供する。また、O−アセチルホモセリンとメチルカプタンを基質として、2段階のL−メチオニン生産工法を用いて転換反応を起こす場合、高収率でL−メチオニンと酢酸を同時に生産することができる。
以上、本発明の好適な実施例について説明の目的で開示したが、当業者であれば、添付した請求の範囲に開示された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な変形、追加または置換を加え得ることを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、アスパルトキナーゼおよびホモセリンデヒドロゲナーゼ、および
(b)ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼよりなる群から選ばれた少なくとも1種の活性が導入および増進された、O−アセチルホモセリンを高収率で生産することが可能なエシェリキア属(Escherichia sp.)菌株。
【請求項2】
前記酵素活性の導入および増進は、当該酵素の遺伝子を有するプラスミドの導入、染色体上で当該酵素をコードしている遺伝子のコピー数の増加、当該酵素の遺伝子のプロモーター配列の置換、または当該酵素の遺伝子のプロモーター配列の変形によって行われることを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項3】
前記ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、アスパルトキナーゼ、およびホモセリンデヒドロゲナーゼの活性の導入および増進は、当該酵素をコードする遺伝子としてのmetXおよびthrAを含むプラスミドを導入することにより行われることを特徴とする、請求項2に記載の菌株。
【請求項4】
前記ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする3種の遺伝子が全て大腸菌の染色体上に2コピー以上存在することを特徴とする、請求項3に記載の菌株。
【請求項5】
前記ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ、アスパルトキナーゼ、およびホモセリンデヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、およびアスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素はそれぞれ大腸菌由来のmetX、thrA、ppc、aspCおよびasd遺伝子がコードすることを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項6】
前記ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ酵素は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)、レプトスピラ属(Leptospira sp.)、デイノコックス属(Deinococcus sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)、またはミコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)から選択された菌株に由来することを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項7】
前記ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ酵素は、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、レプトスピラメエリ(Leptospira meyeri)、デイノコックスラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)、シュードモナスエアルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)またはミコバクテリウムスメグマティス(Mycobacterium smegmatis)に由来することを特徴とする、請求項6に記載の菌株。
【請求項8】
前記ホモセリンアセチルトランスフェラーゼ酵素は、配列番号18、配列番号19または配列番号20のアミノ酸配列全体または一部を含むことを特徴とする、請求項7に記載の菌株。
【請求項9】
前記ホモセリンアセチルトランスフェラーゼは、デイノコックスラディオデュランスQ9RVZ8(Deinococcus radiodurans Q9RVZ8)由来のアミノ酸配列全体または一部を含むことを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項10】
前記菌株はL−トレオニン、L−イソロイシンまたはL−リシンを生産することが可能な菌株に由来する、請求項1に記載の菌株。
【請求項11】
前記菌株は大腸菌(Escherichia coli.)であることを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項12】
前記菌株は大腸菌CJM−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10921P)に由来することを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項13】
前記菌株は大腸菌CJM2−X/pthrA(M)−CL(寄託番号KCCM10925P)に由来することを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項14】
前記菌株は大腸菌FTR2533(寄託番号KCCM10541)に由来することを特徴とする、請求項1に記載の菌株。
【請求項15】
前記菌株は寄託番号KCCM11025Pであることを特徴とする、請求項1に記載の菌株。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−45360(P2011−45360A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−54801(P2010−54801)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(508081075)シージェイチェイルジェダンコーポレーション (6)
【Fターム(参考)】