説明

O−マンノース型糖鎖プローブ

【課題】O−マンノース型糖鎖を部分構造とする新規なO−マンノース型糖鎖プローブの提供。
【解決手段】O−マンノース型糖鎖の還元末端に、オリゴエチレングリコール鎖を介して、末端にアミノ基、アミノ基の塩、アジド基、またはチオール基を有するアルキル鎖を結合してなるO−マンノース型糖鎖プローブ。より詳しくは、式(1)で示されるもの。


また、これらの糖鎖プローブを支持体に固定化してなるO−マンノース型糖鎖提示素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O−マンノース型糖鎖を部分構造とする新規なオリゴ糖誘導体である糖鎖プローブに関するものであり、その糖鎖プローブを支持体に固定化してなるO−マンノース型糖鎖提示素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
O−マンノース型糖鎖(Siaα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−2Man)は、哺乳類の脳、神経、筋細胞、そして酵母の細胞壁などにみられる糖タンパク質糖鎖の一種である。それらの中で、ウシ末梢神経のα―ジストログリカンに多く含まれているO−マンノース型糖鎖は、細胞外マトリックスであるラミニンのリガンドであることが報告された(非特許文献1参照)。すなわち、O−マンノース型糖鎖とラミニンが相互作用することによって、筋細胞骨格構造が維持されていると考えられている。また、O−マンノース型糖鎖の合成に関わる酵素の遺伝子不全が、先天性筋ジストロフィーなどの疾患要因であることが明らかになっている(非特許文献2参照)。先天性筋ジストロフィーは、筋肉の働きが徐々に弱まり失われてしまう遺伝子疾患であり、治療法が見出されていない難病である。この疾患には、福山型先天性筋ジストロフィー、Muscle−eye−brain病、Walker−Warburg症候群などの亜型があるが、その全てにおいてO−マンノース型糖鎖の異常が示唆されている(非特許文献3参照)。したがって、筋ジストロフィー発生メカニズムの解明とその治療法開発には、O−マンノース型糖鎖の詳細な機能解明が必要となる。
【0003】
糖鎖機能を解析する有効な手法として、表面プラズモン共鳴法が用いられており、すでに様々な糖鎖と生体成分との相互作用解析が報告されている(非特許文献4参照)。この方法を用いてO−マンノース型糖鎖の機能解析を行うためには、カルボン酸やアミノ基で修飾された支持体、または金基盤などの支持体に固定化できる糖鎖プローブが必要となる。
【0004】
これまでに報告されているO−マンノース型糖鎖の調製法には、酵素化学的合成法や化学的合成法が報告されている(非特許文献5、6参照)。しかし、これらの手法で合成されたO−マンノース型糖鎖は、表面プラズモン共鳴法に用いるために開発されたものではなく、支持体への固定化については検討されていない。糖鎖と生体成分との相互作用解析を行う場合、生体成分中に含まれる評価対象物質以外の夾雑物質と、リンカー部分との非特異的相互作用がしばしば問題になる。したがって、表面プラズモン共鳴法を用いて糖鎖機能を解析するためには、非特異的相互作用を軽減できるリンカーの開発が求められる。一方、支持体へ固定化するためのリンカーを有するO−マンノース型糖鎖誘導体の調製法が報告されている(特許文献1参照)。この糖鎖誘導体は、O−マンノース型糖鎖を有する糖ペプチドにリンカーが結合したものである。しかし、その調製には化学合成だけでなく、入手の難しい糖転移酵素の使用や、固相合成反応が必要であり、量的な調製は困難と考えられる。以上のことから、量的な入手が可能であり、かつ生体成分中の評価対象以外の夾雑物質との非特異的相互作用を軽減することができるO−マンノース型糖鎖プローブの開発が強く求められている。
【0005】
生体成分中に含まれる評価対象以外の夾雑物質と、リンカー部分との非特異的相互作用を抑制する方法として、オリゴエチレングリコール鎖、またはポリエチレングリコール鎖を介して、糖鎖を支持体へ固定化する方法が見出されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−215207号公報
【特許文献2】特開2006−335652号公報
【特許文献3】特開2008−074720号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Chiba,K.Matsumura,H.Yamada,T.Inazu,T.Shimizu,S.Kusunoki,I.Kanazawa,A.Kobata,T.Endo、J.Biol.Chem.、1997年、272巻、p.2156−2162.
【非特許文献2】H.Manya,K.Sakai,K.Kobayashi,K.Taniguchi,M.Kawakita,T.Toda,T.Endo、Biochem.Biophys,Res.Commun.、2003年、306巻、p.93−97.
【非特許文献3】H.Kano,K.Kobayashi,R.Herrmann,M.Tachikawa,H.Manya,I.Nishino,I.Nonaka,V.Straub,B.Talim,T.Voit,H.Topaloglu,T.Endo,H.Yoshikawa,T.Toda、Biochem.Biophys,Res,Commun.、2002年、291巻、p.1283−1286.
【非特許文献4】D.M.Ratner,E.W.Adams,M.D.Disney,P.H.Seeberger、ChemBioChem.、2004年、5巻、p.1375−1383.
【非特許文献5】I.Matsuo,M.Isomura,K.Ajisaka、Tetrahedron Lett.、1999年、40巻、p.5047−5050.
【非特許文献6】J.Seifert,T.Ogawa,S.Kurono,Y.Ito、Glycoconjugate J.、2000年、17巻、p.407−423.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、量的調製が可能であり、生体成分中に含まれる評価対象以外の夾雑物質との非特異的相互作用を軽減できる、O−マンノース型糖鎖を部分構造に有する新規な糖鎖プローブを提供することであり、その糖鎖プローブを支持体に固定化してなるO−マンノース型糖鎖提示素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鋭意検討した結果、本発明者らは、O−マンノース型糖鎖の還元末端にオリゴエチレングリコール鎖を有するアグリコンを結合した糖鎖プローブを完成して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、O−マンノース型糖鎖の還元末端に、オリゴエチレングリコール鎖を有し、末端にアミノ基、アミノ基の塩、またはチオール基を有するアグリコンを結合してなるO−マンノース型糖鎖プローブを提供するものであり、特に、O−マンノース型糖鎖の還元末端に、オリゴエチレングリコール鎖を介して、末端にアミノ基、アミノ基の塩、またはチオール基を有するアルキル鎖を結合してなるO−マンノース型糖鎖プローブ、より詳しくは、式(1)で示されるO−マンノース型糖鎖プローブを提供するものである。
【0010】
【化1】

(ただし、式中で、mは1から5までの整数を、nは2から20までの整数を、Rはアミノ基、アミノ基の塩、アジド基、またはチオール基を表す。)
また、本発明は、これらのO−マンノース型糖鎖プローブを支持体に固定化してなるO−マンノース型糖鎖提示素材を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明で提供される新規なO―マンノース型糖鎖プローブは、既存の方法に比べ量的調製が容易であり、かつ生体成分中に含まれる評価対象以外の夾雑物質との非特異的相互作用を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のO−マンノース型糖鎖プローブの合成は如何なる方法によってもよい。具体的な合成方法の一例として、式(1)で示される化合物の合成法を示す。式(1)に示される化合物は、既知の合成法(Glycoconjugate J.、2000年、17巻、p.407−423)や、実施例に示す方法に従って以下のように合成される。
【0013】
式(1)において、mは1から100までの整数が有効であるが、生体成分中に含まれる評価対象以外の夾雑物質との非特異的相互作用を軽減し、化合物の精製の容易さを考慮すると1から5の整数である。またnは1から100までの整数が有効であるが、化合物の調製に要する原料化合物の入手の容易さを考慮すると2から20の整数である。
【0014】
式(1)に示す化合物の糖鎖部分の調製は、如何なる方法を用いても構わない。例えば有機合成のみを用いて調製(Glycoconjugate J.、2000年、17巻、p.407−423)することも可能であり、加水分解酵素の逆反応生成物から有機合成を用いて調製(Tetrahedron Lett.、1999年、40巻、p.5047−5050)することも可能である。
【0015】
式(1)に示す化合物のRがチオール基であるアグリコン部分の調製には、市販の化合物を用いることができる。また、式(1)に示す化合物のRがアミノ基やアミノ基の塩であるアグリコン部分は、既知の化合物(Tetrahedron Lett.、2005年、46巻、p.4813−4816)の水酸基を周知の方法(例えば、社団法人日本化学会編、「実験化学講座、20巻」(丸善株式会社、東京、1992年)参照)に従ってアジド化することによって調製できる。
【0016】
式(1)で示される化合物は、上記の方法によって調製できる糖鎖部分とアグリコン部分を、通常用いられるグリコシル化(例えば、社団法人日本化学会編、「実験化学講座、26巻」(丸善株式会社、東京、1992年)参照)によって結合させたのち、糖鎖部分の脱保護、チオール基の脱保護、アミノ基の脱保護、あるいはアジド基のアミノ基への変換を行うことによって調製することができる。また、糖鎖部分とアグリコン部分の調製、そしてグリコシル化の順序は、上述の順序に限定されない。例えば、糖鎖の還元末端であるマンノース誘導体を既知の方法(Angew.Chem.、1994年、106巻、p.2289−2293)で調製したのち、上述のグリコシル化によってアグリコン部分と結合させる。引き続き、文献既知の手法で調製できるN−アセチルグルコサミン誘導体(Tetrahedron、2008年、64巻、p.1523−1535)とシアリルガラクトース誘導体(Glycocnjugate J.、2008年、25巻、p.269−278)を上述のグリコシル化によって順次結合させる。最後に糖鎖部分の脱保護、チオール基の脱保護、アミノ基の脱保護、あるいはアジド基のアミノ基への変換を行うことによって調製することができる。
【0017】
以上の方法で用いられる糖鎖部分、チオール基、そしてアミノ基の保護基は、周知の糖誘導体、チオール基、アミノ基の保護基(Protective Groups in Organic Synthesis、Third Edition、Wieley Interscience Publication、John−Wiely & Sons、New York(1999))を用いることができる。また、アジド基のアミノ基への変換方法は、周知の方法(例えば、社団法人日本化学会編、「実験化学講座、20巻」(丸善株式会社、東京、1992年)参照)で行うことができる。
【0018】
本発明のO−マンノース型糖鎖プローブの支持体への固定化は、既知の支持体、既知の方法を利用して行うことができる。例えば、式(1)に示す化合物でRがチオール基の場合には、金基盤プレートなどの支持体への固定化法(特開2008−105978)によって固定化できる。また、式(1)に示す化合物でRがアミノ基やアミノ基の塩の場合には、カルボン酸を有する支持体への固定化法(特開2003−226697)やアミノ基を有する支持体への固定化法(Bioorg.Med.Chem.Lett.、2004年、14巻、p.485−490)によって固定化できる。また、式(1)に示す化合物でRがアジド基の場合には、アルキン基を有する支持体への固定化法(特開2008−231013)によって固定化できる。
【0019】
本発明のO−マンノース型糖鎖プローブの支持体への固定化は、O−マンノース型糖鎖プローブを単独で固定化してもよいし、血清、スキムミルク、グリシン、ニコチンアミド、モノエタノールアミン、グルタミン酸ナトリウム、ポリエチレンイミンなどの既知のブロッキング剤、または上述のアグリコン部分との混合物を固定化してもよい。特に、上述のアグリコン部分との混合物は、生体成分中に含まれる評価対象物質以外の夾雑物質と支持体との非特異的吸着を効率的に軽減できる点で好ましい。
【0020】
以下に記載する実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
(O−マンノース型糖鎖プローブの合成)
アルゴン雰囲気化、式(2)で示されるアルコール誘導体(589.5mg、1.54mmol;Tetrahedron Lett.、2005年、46巻、p.4813−4816)を脱水ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解した。この溶液にアジ化ナトリウム(126.5mg、1.95mmol)を加え、40℃で18時間撹拌した。反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸マグネシウムで乾燥したのち、ろ過、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:2)で精製し、式(3)で示されるアルコール誘導体(500.7mg、74%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:3.71−3.76(m,2H),3.65−3.70(m,6H),3.56−3.64(m,4H),3.45(t,2H,J=6.9Hz),3.25(t,2H,J=6.9Hz),2.52(t,1H,J=6.2Hz),1.54−1.64(m,4H),1.23−1.40(m,14H).
【0022】
【化2】

【化3】

【0023】
アルゴン雰囲気下、式(4)で示されるマンノース誘導体(880.1mg、1.38mmol;Angew.Chem.、1994年、106巻、p.2289−2293)と式(3)で示されるアルコール誘導体(486.7mg、1.41mmol)を脱水ジクロロメタン(50ml)に溶解し、モレキュラーシーブス4A(3.04g)を加え、0℃に冷却した。トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート(50μl、276μmol)を加え、4時間撹拌した。セライトろ過によりモレキュラーシーブス4Aを除去し、ろ液をクロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥したのち、ろ過、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により精製し、式(5)で示される化合物(1.0591g、91%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.24−7.37(m,13H),7.13−7.17(m,2H),5.41(dd,1H,J=1.4,3.4Hz),4.88(d,1H,J=1.4Hz),4.85(d,1H,J=10.3Hz),4.70(d,1H,J=11.7Hz),4.68(d,1H,J=11.0Hz),4.53(d,1H,J=11.0Hz),4.50(d,1H,J=11.7Hz),4.47(d,1H,J=10.3Hz),4.00(dd,1H,J=3.4,9.6Hz),3.89(t,1H,J=9.6Hz),3.76−3.85(m,3H),3.67−3.73(m,1H),3.58−3.65(m,8H),3.54−3.57(m,2H),3.42(t,2H,J=6.9Hz),3.25(t,2H,J=6.9Hz),1.53−1.62(m,4H),1.23−1.39(m,14H).
【0024】
【化4】

【化5】

【0025】
式(5)で示されるマンノース誘導体(997.7mg、1.22mmol)をメタノール(20ml)に溶解し、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(40μl)を加えた。反応液を室温で5時間撹拌したのち、陽イオン交換樹脂を用いて中和した。ろ過、溶媒を留去したのち、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)により精製し、式(6)で示されるマンノース誘導体(940.6mg、99%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.24−7.38(m,13H),7.14−7.20(m,2H),4.93−4.97(m,1H),4.82(d,1H,J=10.3Hz),4.71(d,1H,J=11.0Hz),4.67(d,1H,J=11.0Hz),4.65(d,1H,J=12.4Hz),4.53(d,1H,J=12.4Hz),4.50(d,1H,J=10.3Hz),4.06−4.11(m,1H),3.90(dd,1H,J=3.4,9.6Hz),3.85(t,1H,J=9.6Hz),3.77−3.83(m,2H),3.75(dd,1H,J=4.8,11.0Hz),3.69(dd,1H,J=2.1,11.0Hz),3.58−3.67(m,8H),3.54−3.57(m,3H),3.42(t,2H,J=6.9Hz),3.25(t,2H,J=6.9Hz),2.44−2.51(m,1H),1.53−1.63(m,4H),1.22−1.39(m,14H).
【0026】
【化6】

【0027】
式(7)で示されるチオグリコシド誘導体(1.553g、2.39mmol;Tetrahedron、2008年、64巻、p.1523−1535)をアルゴン雰囲気下に脱水ジクロロメタン(40ml)に溶解した。モレキュラーシーブス4A(7.0g)を加え、室温で4.5時間撹拌した。−78℃に冷却し、トリエチルシラン(1.2ml、7.5mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸(700μl、7.9mmol)を加え1時間撹拌した。反応液にメタノール(1ml)とトリエチルアミン(1.2ml、8.6mmol)を加え、室温に戻した。セライトろ過、溶媒を留去したのちクロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、溶媒を留去したのち、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、式(8)で示されるチオグリコシド誘導体(1.4333g、92%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.80−7.85(m,1H),7.61−7.73(m,2H),7.43−7.46(m,1H),7.24−7.35(m,5H),7.12−7.16(m,1H),6.97−7.02(m,3H),6.86−6.95(m,3H),5.46(d,1H,J=10.3Hz),5.17(dd,1H,J=8.9,10.3Hz),4.60(d,1H,J=11.7Hz),5.49−5.55(m,2H),4.46(dd,1H,J=8.9Hz,10.3Hz),4.38(t,1H,J=10.3Hz),4.32(d,1H,J=11.7Hz),3.73−3.78(m,1H),3.56−3.65(m,2H),2.12(s,3H),1.92(s,3H),1.21(s,9H).
【0028】
【化7】

【化8】

【0029】
式(8)で示されるチオグリコシド誘導体(806.1mg、1.24mmol)をピリジン(4ml、49mmol)に溶解し、無水酢酸(2ml、mmol)を加えた。室温で4時間撹拌したのち、酢酸エチルで抽出した。有機層を1Mol塩酸水溶液、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、溶媒を留去したのち、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製し、式(9)で示されるチオグリコシド誘導体(745.9mg、87%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.82−7.86(m,1H),7.63−7.75(m,2H),7.41−7.45(m,1H),7.28−7.38(m,5H),7.12−7.16(m,1H),6.99−7.09(m,3H),6.90−6.98(m,3H),5.46(d,1H,J=10.3Hz),4.74(d,1H,J=12.4Hz),4.63(d,1H,J=11.7Hz),4.56(d,1H,J=11.7Hz),4.54(d,1H,J=12.4Hz),4.30(t,1H,J=10.3Hz),4.27(t,1H,J=10.3Hz),3.80−3.90(m,1H),3.83(dd,1H,J=4.8,10.3Hz),3.77(dd,1H,J=5.5,10.3Hz),3.62−3.69(m,1H),2.90−2.93(m,1H),2.10(s,3H),1.55(s,3H),1.22(s,9H).
【0030】
【化9】

【0031】
式(6)で示されるマンノース誘導体(202.7mg、261μmol)と式(9)で示されるチオグリコシド誘導体(179.8mg、259μmol;)をアルゴン雰囲気下に脱水ジクロロメタン(5ml)に溶解した。モレキュラーシーブス(270mg)を加え、室温にて15分間撹拌したのち0℃に冷却した。反応液にN―ヨードスクシンイミド(121.0mg、538μmol)とトリフルオロメタンスルホン酸(7μl、80μmol)を加え0℃で4時間撹拌した。セライトを用いてろ過し、ろ液をクロロホルムで抽出した。有機層をチオ硫酸ナトリウム溶液、飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。ろ過、溶媒を留去したのち残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=6:5)で精製し、式(10)で示される二糖誘導体(222.0mg、66%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.60−7.65(m,2H),7.51−7.59(m,2H),7.20−7.37(m,16H),7.07−7.14(m,4H),6.99−7.04(m,2H),6.88−6.96(m,3H),5.28(d,1H,J=7.6Hz),5.13−5.18(m,1H),4.79(d,1H,J=10.3Hz),4.77(d,1H,J=11.7Hz),4.60(d,1H,J=12.4Hz),4.49−4.53(m,1H),4.43(t,1H,J=7.6Hz),4.38−4.48(m,4H),4.36(d,1H,J=10.3Hz),4.34(d,1H,J=12.4Hz),4.15−4.18(m,1H),4.06(d,1H,J=12.4Hz),4.01(d,1H,J=12.4Hz),3.77−3.83(m,2H),3.66(dd,1H,J=6.2,11.0Hz),3.45−3.64(m,14H),3.41(t,2H,J=6.9Hz),3.37−3.44(m,2H),3.25(t,2H,J=6.9Hz),2.97(dd,1H,J=6.2,11.0Hz),1.95(s,3H),1.53−1.63(m,4H),1.22−1.39(m,14H).
【0032】
【化10】

【0033】
式(10)で示される二糖誘導体(222.0mg、172μmol)をアルゴン雰囲気下にエタノール(10ml)に溶解した。エチレンジアミン(2ml)を加え、90℃で5時間撹拌し、さらに室温で17時間撹拌した。減圧下に反応液を濃縮し、ジメチルホルムアミド(5ml)を加え濃縮した。残渣にピリジン(4ml、49mmol)、無水酢酸(2ml、21mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。反応液を酢酸エチルで抽出し、有機層を1Mol塩酸水溶液、水、飽和炭酸水素ナトリウム溶液で洗浄し、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、溶媒を留去したのち、残渣を薄層シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:4)で精製し、式(11)で示される二糖誘導体(182.9mg、88%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.35−7.38(m,2H),7.20−7.34(m,23H),5.66(br d,1H,J=6.9Hz),5.17(d,1H,J=8.2Hz),4.92(d,1H,J=9.6Hz),4.90(d,1H,J=11.0Hz),4.78(d,1H,J=11.0Hz),4.75(d,1H,J=2.1Hz),4.44−4.60(m,9H),4.18−4.22(m,1H),4.02(dd,1H,J=8.9,9.6Hz),3.93(dd,1H,J=2.7,8.9Hz),3.74−3.79(m,2H),3.65−3.73(m,2H),3.51−3.64(m,15H),3.41(t,2H,J=6.9Hz),3.25(t,2H,J=6.9Hz),3.00−3.07(m,1H),1.84(s,3H),1.70(s,3H),1.52−1.64(m,4H),1.23−1.38(m,14H).
【0034】
【化11】

【0035】
式(11)で示される二糖誘導体(182.9mg、152μmol)をメタノール(16ml)に溶解し、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(60μl)を加えた。室温で15時間撹拌したのち、陽イオン交換樹脂を用いて中和した。ろ過、溶媒を留去したのち、残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:7)で精製し、式(12)で示される二糖誘導体(155.7mg、88%)を得た。
1H NMR(600MHz,CDCl3)δ:7.20−7.39(m,25H),5.64(br d,1H,J=6.9Hz),5.11(d,1H,J=8.2Hz),4.89(d,1H,J=11.0Hz),4.77(d,1H,J=11.7Hz),4.75(d,1H,J=2.1Hz),4.70(d,1H,J=11.7Hz),4.67(d,1H,J=11.7Hz),4.53−4.60(m,4H),4.50(d,1H,J=11.0Hz),4.47(d,1H,J=11.7Hz),4.33(dd,1H,8.2,9.6Hz),4.15−4.17(m,1H),3.99(dd,1H,J=8.9,9.6Hz),3.92(dd,1H,J=2.7,8.9Hz),3.73−3.79(m,3H),3.68−3.72(m,1H),3.53−3.67(m,15H),3.41(t,2H,J=6.9Hz),3.24(t,2H,J=6.9Hz),3.00−3.07(m,1H),2.66−2.70(m,1H),1.73(s,3H),1.52−1.63(m,4H),1.21−1.39(m,14H).
【0036】
【化12】

【0037】
式(12)で示される二糖誘導体(155.7mg、134μmol)と式(13)で示される二糖誘導体(280.7mg、268μmol;Glycocnjugate J.、2008年、25巻、p.269−278)をアルゴン雰囲気下に脱水ジクロロメタン(5ml)に溶解した。モレキュラーシーブス4A(327mg)を加え、室温にて15分撹拌したのち、0℃に冷却した。0℃で5時間撹拌したのち、反応液をセライトろ過し、ろ液をクロロホルムで抽出した。抽出液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムを加え乾燥した。ろ過、溶媒を留去したのち、残渣を薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー(トルエン:酢酸エチル=1:7)で精製した。精製した化合物をメタノール(10ml)に溶解し、ナトリウムメトキシドのメタノール溶液(40μl)を加えた。45℃で23時間撹拌したのち、室温に戻し水(1.5ml)を加え45℃で3時間撹拌した。陽イオン交換樹脂を用いて中和したのち、ろ過、溶媒を留去した。残渣をジオキサン―水(7:5)の混合溶液に溶解し、水酸化パラジウム(96.3mg)、2Mol塩酸水溶液(31μl)を加え、水素を充てんした。17時間後セライトろ過し、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:水=20:10:0.5)、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(メタノール)で精製し、式(14)で示される四糖誘導体(22.2mg、3工程、14%)を得た。
1H NMR(600MHz,CD3OD)δ:4.82(d,1H,J=1.4Hz),4.47(d,1H,J=8.2Hz),4.44(d,1H,J=7.6Hz),4.05(dd,1H,J=3.4,9.6Hz),3.89−3.95(m,3H),3.80−3.88(m,5H),3.41−3.77(m,28H),3.47(t,2H,J=6.2Hz),2.91(dd,2H,J=7.6Hz),2.85(dd,1H,J=4.1,12.4Hz),2.01(s,3H),2.00(s,3H),1.72(dd,1H,J=12.4),1.61−1.68(m,2H),1.53−1.60(m,2H),1.27−1.44(m,14H).
【0038】
【化13】

【化14】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明であるO−マンノース型糖鎖プローブは、O−マンノース型糖鎖の機能解明に役立つことは確実である。とりわけ、従来は困難であったO−マンノース型糖鎖とラミニンとの相互作用解析を簡便にすることから、先天性筋ジストロフィーの治療薬開発など、産業的価値やその波及効果は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
O−マンノース型糖鎖の還元末端に、オリゴエチレングリコール鎖を有し、末端にアミノ基、アミノ基の塩、アジド基、またはチオール基を有するアグリコンを結合してなるO−マンノース型糖鎖プローブ。
【請求項2】
O−マンノース型糖鎖の還元末端に、オリゴエチレングリコール鎖を介して、末端にアミノ基、アミノ基の塩、アジド基、またはチオール基を有するアルキル鎖を結合してなるO−マンノース型糖鎖プローブ。
【請求項3】
式(1)で示されるO−マンノース型糖鎖プローブ。
【化15】

(ただし、式中で、mは1から5までの整数を、nは2から20までの整数を、Rはアミノ基、アミノ基の塩、アジド基、またはチオール基を表す。)
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3に記載したO−マンノース型糖鎖プローブを支持体に固定化してなるO−マンノース型糖鎖提示素材。

【公開番号】特開2011−178757(P2011−178757A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47147(P2010−47147)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000173924)公益財団法人野口研究所 (108)
【Fターム(参考)】