説明

OFDM受信装置

【課題】マルチパス干渉の影響を除くとともに、高速移動に伴い発生するレイリーフェーディングの影響を除いて、受信信号を高い精度で復調可能なOFDMの受信装置を提供することを課題とする。
【解決手段】伝送路推定回路20は、マルチパスの最大遅延時間と最大ドップラーシフト値に基づくフェーディング情報を検出する。マルチパスの最大遅延時間が閾値τより小さく、かつ、最大ドップラーシフト値が閾値fd以上である場合には、周波数方向補間回路25および周波数方向補間回路29により伝送路関数が推定される。それ以外の条件の場合には、時間方向補間回路25および周波数方向補間回路29により伝送路関数が推定される。また、周波数方向補間回路25と周波数補間回路29との間にノイズ除去フィルタ28が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFDM伝送方式において、受信信号の伝送路関数を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の地上波デジタルテレビ放送では、伝送方式としてはOFDM(直交周波数分割多重;Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式が採用されている。OFDM方式は、送信データを複数の搬送波に分割して送信するマルチキャリア伝送方式の1つであり、マルチパス伝送路の周波数選択性フェーディングに強い、各サブチャネルのスペクトルが密に配置でき、周波数利用効率が高い、などの利点がある。
【0003】
地上波デジタルテレビ放送の日本の規格であるISDB−Tおよびヨーロッパの規格であるDVB−T/Hでは、同期変調方式をとっているため、パイロットデータを使った伝送路推定と信号の等化が必要である。
【0004】
OFDM信号には、振幅および位相が既知であるパイロットデータが埋め込まれている。受信装置は、受信したOFDM信号からパイロットデータを抽出する。そして、受信信号から抽出したパイロットデータと、あらかじめ保持しているパイロットパターンとを比較することで、伝送路関数を算出する。
【0005】
さらに、受信装置は、パイロットデータに関して算出した伝送路関数を、他のデータに関しても補間することで、受信した全てのデータに対する伝送路関数を推定する。そして、受信装置は、受信したOFDM信号を伝送路関数で除算することで、受信信号を等化するのである。
【0006】
また、最近では、携帯電話機においてもワンセグ用(1セグメント受信用)の地上デジタル放送受信装置が搭載されている。あるいは、車載用のワンセグ用受信装置が販売されている。これら携帯電話機用などの受信装置は、移動しながらの受信に対応する必要がある。
【0007】
高速で移動しながらOFDM信号を受信する場合、時間領域でのレイリーフェーディング(フラットフェーディング)が発生するため、レイリーフェーディング特性を向上させる必要がある。
【0008】
また、高速移動での受信に限る問題ではないが、OFDMにおいては、一般に、マルチパスの遅延波による干渉に対しても、高い復調精度が求められている。
【0009】
【特許文献1】特許第3842614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、OFDMの受信装置は、伝送路関数を補間することで、全てのデータに関する伝送路関数を求める。この伝送路関数の補間方法としては、伝送路関数を時間方向に補間する方法と周波数方向に補間する方法とがある。
【0011】
伝送路関数を時間方向に補間することにより、遅延の大きいマルチパス干渉の影響を除去することが可能である。しかし、時間方向の補間は、時間領域でのレイリーフェーディングに弱いという問題がある。
【0012】
伝送路関数を周波数方向のみに補間することにより、時間領域でのレイリーフェーディングに対する耐性を高めることが可能である。しかし、周波数方向のみの補間は、遅延の大きいマルチパス干渉の影響を受けやすいという問題がある。つまり、周波数選択性フェーディングに弱いという問題がある。
【0013】
上記特許文献1では、時間方向および周波数方向を組み合わせて補間を実行する場合と、周波数方向のみの補間を実行する場合とを切り替えて、伝送路を推定する技術が開示されている。この文献では、等化器の起動時には、時間方向および周波数方向に関する補間を行う2次元内挿フィルタの出力を用いて等化を行い、2回目以降は、周波数方向のみに関して補間を行う1次元内挿フィルタの出力を用いるようにしている。このようにして、等化器の動作を高速化させるようにしている。
【0014】
そこで、本発明は前記問題点に鑑み、マルチパス干渉の影響を除くとともに、高速移動に伴い発生するレイリーフェーディングの影響を除いて、受信信号を高い精度で復調可能なOFDMの受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1記載のOFDM受信装置は、受信信号からマルチパスの最大遅延時間を検出するマルチパス検出部と、受信信号からフェーディング情報を検出するフェーディング検出部と、受信信号から抽出したパイロットデータを用いて受信信号の伝送路関数を算出する伝送路関数算出部と、前記マルチパス検出部により検出したマルチパスの最大遅延時間が第1の閾値よりも小さく、かつ、前記フェーディング検出部により検出したフェーディング情報が第2の閾値以上である場合には、周波数方向の補間により全てのデータに関する伝送路関数を補間する第1の補間方法を選択する切替部と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のOFDM受信装置において、前記切替部は、前記マルチパス検出部により検出したマルチパスの最大遅延時間が前記第1の閾値以上である場合には、時間方向の補間と周波数方向の補間を組み合わせることで全てのデータに関する伝送路関数を補間する第2の補間方法を選択することを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のOFDM受信装置において、前記切替部は、前記マルチパス検出部により検出したマルチパスの最大遅延時間が前記第1の閾値よりも小さく、かつ、前記フェーディング検出部により検出したフェーディング情報が前記第2の閾値よりも小さい場合には、時間方向の補間と周波数方向の補間を組み合わせることで全てのデータに関する伝送路関数を補間する第2の補間方法を選択することを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のOFDM受信装置において、さらに、伝送路関数を周波数方向に補間する第1補間回路と、伝送路関数を周波数方向に補間する第2補間回路と、を備え、前記第1の補間方法が選択された場合、前記第1補間回路により伝送路関数を周波数方向に補間した後、さらに前記第2補間回路により伝送路関数を周波数方向に補間することで全てのデータに関する伝送路関数を補間することを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載のOFDM受信装置において、さらに、伝送路関数を時間方向に補間する第3補間回路、を備え、前記第2の補間方法が選択された場合、前記第3補間回路により伝送路関数を時間方向に補間した後、さらに前記第2補間回路により伝送路関数を周波数方向に補間することで全てのデータに関する伝送路関数を補間することを特徴とする。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項4または請求項5に記載のOFDM受信装置において、さらに、前記第1補間回路と前記第2補間回路との間に配置され、前記第1補間回路において補間された伝送路関数のノイズを除去するノイズ除去部、を備えることを特徴とする。
【0021】
請求項7記載の発明は、請求項5に記載のOFDM受信装置において、さらに、前記第3補間回路と前記第2補間回路との間に配置され、前記第3補間回路において補間された伝送路関数のノイズを除去するノイズ除去部、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のOFDM受信装置は、マルチパスの最大遅延時間とフェーディング情報に基づいて、伝送路関数の補間方法を切り替える。これにより、マルチパス特性を確保しながら、高速移動に伴うレイリーフェーディング環境においても、品質のよい放送信号を受信可能である。
【0023】
また、本発明のOFDM受信装置は、周波数方向のみの補間により伝送路関数を推定する場合であっても、2つの周波数方向補間回路により伝送路を推定するので、補間回路の回路規模を縮小させることができる。
【0024】
さらに、2つの周波数方向補間回路の間にノイズ除去部を介在させることが可能であるので、伝送路関数のノイズ特性を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
{OFDM受信装置の全体構成と処理の流れ}
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るOFDM受信装置を示すブロック図である。OFDM送信装置(図示せず)から送信されたRF(Radio Frequency)信号1は伝送路を通って受信アンテナ2で受信される。受信RF信号は、チューナー3でIF(Intermediate Frequencyc)信号に周波数変換される。そのIF信号は、BPF(バンドパスフィルタ)4を介してミキサー5に入力され、搬送波発振器6から供給される信号と乗算された後にLPF(ローパスフィルタ)7に出力される。
【0026】
LPF7において高周波成分が除去された受信信号はA/D変換器8に対して出力され、A/D変換器8において所定のサンプリング周波数でデジタル信号(シンボル信号)に変換される。デジタル信号に変換された受信信号は、直並列変換器においてパラレル信号に変換された後、FFT(高速フーリエ変換)演算器9に出力される。
【0027】
FFT演算器9は、入力する時間領域のシンボル信号を周波数領域の信号(以下、この信号を受信OFDM信号と呼ぶ。)にフーリエ変換する。周波数領域の受信OFDM信号は、波形等化を実行する等化器10に入力される。等化器10は、伝送路推定回路20における演算結果に基づいて、受信OFDM信号の等化を行う。伝送路推定回路20については後述するが、本発明の特徴的部分である。
【0028】
一方、等化器10において等化処理が行われた受信OFDM信号は、チャンネル復号器11でビタビ復号化やリードソロモン復号化を施され、次いで、ソース復号器12でMPEG(Moving Picture Experts Group)−2方式などの復号化を施された後、D/A変換器13でアナログ化され出力される。
【0029】
{2.伝送路推定回路の構成}
次に、伝送路推定回路20の構成について説明する。図2は、本実施の形態に係る伝送路推定回路20のブロック図である。
【0030】
マルチパス検出回路21は、A/D変換器8から出力されたシンボル信号を入力し、マルチパスの最大遅延時間を検出する。受信信号には、複数の遅延波が含まれる場合があるが、マルチパス検出回路21は、複数の遅延波の中で、直接波から最も遅れて到達する遅延波の遅延時間を検出する。マルチパス検出回路21は、受信信号のガードインターバルを利用してマルチパスの最大遅延時間を算出する。
【0031】
パイロット抽出回路22は、FFT演算器9から出力された受信OFDM信号を入力し、受信OFDM信号に含まれるパイロット信号を抽出する。日本や欧州における地上波デジタル放送の規格で採用されているパイロットシンボルは、スキャッタードパイロットシンボル(SP)と呼ばれている。パイロットシンボルは、図3に示すように、周波数方向(キャリア方向)に関して12キャリア間隔で挿入されている。また、パイロットシンボルが挿入されるキャリアの位置は、時間方向に関して3キャリアずつずらして配置されている。
【0032】
パイロットシンボルの位相および振幅は予め決められており、伝送路推定回路20は、パイロットパターンPPを所定の記憶部に保持している。伝送路推定回路20は、後で説明するように、パイロット抽出回路22において抽出したパイロットシンボルの位相および振幅値と、パイロットパターンPPの位相および振幅値とを比較することで、パイロットシンボルに関する伝送路関数を算出することができる。
【0033】
時間方向補間回路24は、パイロットシンボルに関して算出された伝送路関数を、時間方向(シンボル方向)に補間する回路である。図3に示したように、パイロットシンボルが挿入されるキャリア(搬送波)の位置は、周波数方向に関して12キャリア間隔であり、時間方向で3キャリアずつずれている。このため、同一のキャリアに注目すれば、時間方向で、4シンボル間隔でパイロットシンボルが挿入されることになる。このパイロットシンボルについて算出された伝送路関数を時間方向で補間するのである。
【0034】
つまり、12キャリアごとにパイロットシンボルが挿入されていることにより、12キャリアごとに伝送路関数を算出することが可能であるが、時間方向に伝送路関数を補間することで、3キャリアごとの伝送路関数を推定することができるのである。このように、時間方向補間回路24は、結果的には、伝送路関数を周波数方向に関して4倍補間することになる。補間方法としては、リニア補間を行っても良いし、FIRフィルタを用いてもよい。
【0035】
たとえば、図4の例であれば、シンボル番号K=4のシンボルについては、キャリア番号L=3については、シンボル番号K=1、キャリア番号L=3に対応するパイロットシンボルの伝送路関数を利用して補間を行う。また、キャリア番号L=6については、シンボル番号K=2、キャリア番号L=6に対応するパイロットシンボルの伝送路関数を利用して補間を行う方法などが挙げられる。このようにして、3キャリアごとの伝送路関数が推定される。
【0036】
周波数方向補間回路25は、パイロットシンボルに関して算出された伝送路関数を、周波数方向(キャリア方向)に補間する回路である。図3に示したように、パイロットシンボルが挿入されるキャリアの位置は、12キャリア間隔である。このパイロットシンボルについて算出された伝送路関数を周波数方向で補間するのである。
【0037】
つまり、12キャリアごとにパイロットシンボルが挿入されていることにより、12キャリアごとに伝送路関数を算出することが可能であるが、周波数方向に伝送路関数を補間することで、3キャリアごとの伝送路関数を推定することができるのである。このように、周波数方向補間回路25は、伝送路関数を周波数方向に4倍補間する処理を実行する。補間方法としては、リニア補間を行っても良いし、FIRフィルタを用いてもよい。
【0038】
たとえば、図5の例であれば、シンボル番号K=4のシンボルについては、キャリア番号L=3、L=6、L=9については、シンボル番号K=4、キャリア番号L=0に対応するパイロットシンボルの伝送路関数を利用して補間を行う方法などが挙げられる。このようにして、3キャリアごとの伝送路関数が推定される。
【0039】
フェーディング検出回路26は、FFT演算後の受信OFDM信号を入力し、フェーディング情報を検出する。フェーディング検出回路26は、最大平均ドップラーシフト値を演算することにより、フェーディング情報を検出する。最大平均ドップラーシフト値は、パイロットシンボルのパワーの変化率から推定する。たとえば、フェーディング検出回路26は、各シンボルにおいてパイロットシンボルの平均パワーを算出し、複数のシンボルに亘って、パイロットシンボルの平均パワーの変化率を求め、この変化率から最大ドップラーシフト値を推定する。あるいは、フェーディング検出回路26は、周波数同期回路の演算結果に基づいて最大ドップラーシフト値を推定するようにしてもよい。
【0040】
切替回路27は、時間方向補間回路24あるいは周波数方向補間回路25の出力結果を選択的にノイズ除去フィルタ28に出力する。切替回路27は、後で説明するように、マルチパス検出回路21から出力されたマルチパスの最大遅延時間の情報と、フェーディング検出回路26から出力された最大ドップラーシフト値に基づいて、補間回路24、25の出力を切替える。
【0041】
ノイズ除去フィルタ28は、時間方向補間回路24あるいは周波数方向補間回路25において4倍補間された伝送路関数からノイズ成分を除去する。
【0042】
周波数方向補間回路29は、時間方向補間回路24あるいは周波数方向補間回路25において4倍補間された伝送路関数を、さらに、周波数方向に3倍補間する回路である。
【0043】
図4あるいは図5に示したように、時間方向補間回路24あるいは周波数方向補間回路25において伝送路関数が4倍補間されることで、各シンボルについては、3キャリアごとの伝送路関数が推定されている。周波数方向補間回路29は、3キャリアごとに推定されている伝送路関数を、さらに、周波数方向に3倍補間するのである。これにより、各シンボルについて、全てのキャリアについて伝送路関数が推定されることになる。補間方法としては、リニア補間を行っても良いし、FIRフィルタを用いてもよい。
【0044】
たとえば、図4あるいは図5の例であれば、シンボル番号K=4のシンボルについては、キャリア番号L=1、2については、キャリア番号L=0のシンボルの伝送路関数を利用して補間を行う。キャリア番号L=4、5については、キャリア番号L=3のシンボルの伝送路関数を利用して補間を行う方法などが挙げられる。
【0045】
{伝送路推定処理の流れ}
次に、伝送路推定回路20において実行される伝送路推定処理の流れについて図2等を参照しながら説明する。A/D変換器8においてデジタル信号に変換された受信信号は、FFT演算器9およびマルチパス検出回路21に入力される。FFT演算器9において時間領域の受信信号が、周波数領域の受信OFDM信号に変換される。一方、マルチパス検出回路21において、A/D変換後の受信信号からマルチパスの最大遅延時間が算出される。
【0046】
FFT演算器9から出力された受信OFDM信号は、等化器10、パイロット抽出回路22、フェーディング検出回路26に出力される。マルチパス検出回路21が算出したマルチパスの最大遅延時間の情報は、切替回路27に出力される。
【0047】
パイロット抽出回路22は、入力した受信OFDM信号からパイロットシンボル(SP)を抽出し、除算器23に出力する。除算器23は、パイロット抽出回路22から出力されたパイロットシンボルの信号値を、記憶部に格納されているパイロットパターンPPの信号値で除算することで、パイロットシンボルの伝送路関数を算出する。除算器23において算出された伝送路関数は、時間方向補間回路24および周波数方向補間回路25に出力される。上述したように、除算器23は、各シンボルについて12キャリアごとのパイロットシンボルについて伝送路関数を算出する。
【0048】
時間方向補間回路24は、除算器23において算出されたパイロットシンボルの伝送路関数を時間方向に補間する。これにより、図4で示すように、各シンボルについて、周波数方向で3キャリアごとの伝送路関数が推定される。
【0049】
周波数方向補間回路25は、除算器23において算出されたパイロットシンボルの伝送路関数を周波数方向に補間する。これにより、図5で示すように、各シンボルについて周波数方向で3キャリアごとの伝送路関数が推定される。
【0050】
また、フェーディング検出回路26において、最大平均ドップラーシフト値が算出され、切替回路27に出力される。
【0051】
切替回路27は、マルチパス検出回路21から入力したマルチパスの最大遅延時間の情報と、フェーディング検出回路26から入力した最大ドップラーシフト値に基づいて、補間方法の切り替えを行う。
【0052】
図6は、補間方法の切り替え基準を示す判定テーブル271を示す図である。切替回路27は、図示せぬ記憶部に格納されている判定テーブル271を利用して補間方法の切替制御を行う。
【0053】
マルチパスの最大遅延時間(μs)が、所定の閾値τ以上である場合には、切替回路27は、スイッチS1側に切り替えられる。これにより、図2に示すように、切替回路27は、時間方向補間回路24から出力された伝送路関数をノイズ除去フィルタ28に出力する。
【0054】
マルチパスの最大遅延時間(μs)が、所定の閾値τよりも小さく、かつ、最大ドップラーシフト値(Hz)が、所定の閾値fdより小さい場合には、切替回路27は、スイッチS1側に切り替えられる。これにより、図2に示すように、切替回路27は、時間方向補間回路24から出力された伝送路関数をノイズ除去フィルタ28に出力する。
【0055】
マルチパスの最大遅延時間(μs)が、所定の閾値τよりも小さく、かつ、最大ドップラーシフト値(Hz)が、所定の閾値fd以上の場合には、切替回路27は、スイッチS2側に切り替えられる。これにより、切替回路27は、周波数方向補間回路25から出力された伝送路関数をノイズ除去フィルタ28に出力する。
【0056】
続いて、ノイズ除去フィルタ28は、図4および図5に示すように、4倍補間された伝送路関数からノイズ成分を除去する。
【0057】
ノイズ成分を除去された伝送路関数は、周波数方向補間回路29に出力される。そして、周波数方向補間回路29において、伝送路関数が周波数方向に3倍補間され、全てのキャリアに対応する伝送路関数が推定される。
【0058】
このようにして、全キャリアについての伝送路関数が推定されると、推定された伝送路関数が等化器10に出力される。等化器10は、FFT演算器9から出力された全てのシンボルデータを伝送路関数で除算することにより、信号の等化を行う。
【0059】
このように、本実施の形態に係るOFDM受信装置は、マルチパスの最大遅延時間とフェーディング情報に基づいて、補間方法を選択する。
【0060】
第1には、マルチパスの最大遅延時間が所定の閾値τ以上である場合には、時間方向補間回路24の出力を利用する。つまり、伝送路推定回路20は、時間方向補間回路24における補間処理と、周波数方向補間回路29における補間処理により、全てのキャリアに関する伝送路関数を推定する。
【0061】
このように、マルチパスの最大遅延時間が所定の閾値τ以上となる場合には、マルチパスの影響が大きいので、時間方向の補間を利用することで、マルチパス干渉の影響を低減させるようにしている。つまり、マルチパスにより周波数選択性フェーディングが発生している場合であっても、同一のキャリアにおける伝送路関数を補間することで、品質の高い信号を得られるようにしている。OFDMでは、マルチパス環境においても、高い品質の放送信号を復調可能とすることを特徴としているので、この特徴を損なわないためにも、マルチパスの最大遅延時間が大きい場合には、時間方向の補間を利用するのである。
【0062】
第2には、マルチパスの最大遅延時間が所定の閾値τより小さく、かつ、最大ドップラーシフト値が所定の閾値fdより小さい場合には、時間方向補間回路24の出力を利用する。つまり、伝送路推定回路20は、時間方向補間回路24における補間処理と、周波数方向補間回路29における補間処理により、全てのキャリアに関する伝送路関数を推定する。
【0063】
このように、マルチパスの最大遅延時間が所定の閾値τより小さい場合であっても、最大ドップラーシフト値が所定の閾値fdより小さい場合は、マルチパス環境において高い品質の放送信号を復調可能とするOFDMの特徴を損なわないよう、時間方向の補間を利用するのである。なお、所定の閾値fdは、実験等を通じて最適な値を選択すればよい。つまり、時間方向の補間を行った場合でも、伝送路関数の推定に誤りが生じない範囲で、最大ドップラーシフト値の閾値fdが設定される。
【0064】
第3には、マルチパスの最大遅延時間が所定の閾値τより小さく、かつ、最大ドップラーシフト値が所定の閾値fd以上である場合には、周波数方向補間回路25の出力を利用する。つまり、伝送路推定回路20は、周波数方向補間回路25における補間処理と、周波数方向補間回路29における補間処理により、全てのキャリアに関する伝送路関数を推定する。
【0065】
このように、マルチパスの最大遅延時間が所定の閾値τより小さい場合であって、かつ、最大ドップラーシフト値が所定の閾値fd以上である場合は、レイリーフェーディング特性を向上させるために、周波数方向のみによる補間方法を選択するのである。つまり、1シンボル内の内挿により伝送路関数を推定するのである。これにより、高速移動中などにおいても、高い品質の放送信号を復調可能である。たとえば、実験によれば、最大ドップラーシフト値が200Hzの場合であっても、品質のよい放送信号を復調することができた。なお、閾値τは、実験等を通じて最適な値を選択すればよい。つまり、周波数方向のみの補間を行なって伝送路関数を推定した場合であっても、マルチパスの影響が大きくでないような範囲で、閾値τが設定される。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態のOFDM受信装置は、マルチパスの最大遅延時間と最大ドップラーシフト値に基づくフェーディング情報の両方を判定することで、補間方法の切り替えを行っている。これにより、基本的には、マルチパスの影響を低減させることを重視しながら、高速移動時などにはレイリーフェーディング特性を向上させることができる。
【0067】
また、周波数方向のみの補間を行う場合であっても、周波数方向補間回路25と周波数方向補間回路29の2つの補間回路を用いる構成となっている。つまり、周波数方向補間回路25において周波数方向に4倍補間した後、周波数方向補間回路29において周波数方向にさらに3倍補間を行っている。このような構成とすることで、単一の補間回路で周波数方向に12倍補間する場合と比べて、回路規模を小さくすることが可能である。従来のように、周波数方向に一度に12倍補間する方法をとる場合には、補間フィルタとして多くのタップ数が要求され、回路規模が増大していたが、本実施の形態の構成によれば、回路規模を増大させることなく、周波数方向のみの補間処理を実行可能である。
【0068】
さらには、周波数方向補間回路25および周波数方向補間回路29において、補間フィルタを共有させることも可能であり、さらなる回路規模の縮小を実現することが可能である。
【0069】
また、周波数方向補間回路25と周波数方向補間回路29の間にノイズ除去フィルタ28を介在させることが可能であり、ノイズ特性も向上させることが可能である。周波数方向に一度に12倍補間する従来の方法では、中間データに対してノイズ除去処理を行うことができなかったが、本実施の形態のように、周波数方向補間回路を2つに分散させることで、中間データに対してノイズ除去処理を実行することも可能となった。
【0070】
また、同様に、時間方向補間回路24と周波数方向補間回路29との間にノイズ除去フィルタ28が介在されているので、中間データに対してノイズ除去処理を実行することが可能である。そして、周波数方向補間回路25と周波数方向補間回路29との間に介在させるノイズ処理フィルタと、時間方向補間回路24と周波数方向補間回路29との間に介在させるノイズ処理フィルタとを共通化させることが可能であり、回路規模を縮小させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施の形態におけるOFDM受信装置のブロック図である。
【図2】伝送路推定回路の機能ブロック図である。
【図3】パイロットシンボルの配置を示す図である。
【図4】伝送路関数を時間方向に補間する場合の補間方向を示す図である。
【図5】伝送路関数を周波数方向に補間する場合の補間方向を示す図である。
【図6】伝送路の補間方法の切り替え判定基準を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
9 FFT演算器
10 等化器
20 伝送路推定回路
21 マルチパス検出回路
22 パイロット抽出回路
23 除算器
24 時間方向補間回路
25 周波数方向補間回路
26 フェーディング検出回路
27 切替回路
28 ノイズ除去フィルタ
29 周波数方向補間回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号からマルチパスの最大遅延時間を検出するマルチパス検出部と、
受信信号からフェーディング情報を検出するフェーディング検出部と、
受信信号から抽出したパイロットデータを用いて受信信号の伝送路関数を算出する伝送路関数算出部と、
前記マルチパス検出部により検出したマルチパスの最大遅延時間が第1の閾値よりも小さく、かつ、前記フェーディング検出部により検出したフェーディング情報が第2の閾値以上である場合には、周波数方向の補間により全てのデータに関する伝送路関数を補間する第1の補間方法を選択する切替部と、
を備えることを特徴とするOFDM受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載のOFDM受信装置において、
前記切替部は、前記マルチパス検出部により検出したマルチパスの最大遅延時間が前記第1の閾値以上である場合には、時間方向の補間と周波数方向の補間を組み合わせることで全てのデータに関する伝送路関数を補間する第2の補間方法を選択することを特徴とするOFDM受信装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のOFDM受信装置において、
前記切替部は、前記マルチパス検出部により検出したマルチパスの最大遅延時間が前記第1の閾値よりも小さく、かつ、前記フェーディング検出部により検出したフェーディング情報が前記第2の閾値よりも小さい場合には、時間方向の補間と周波数方向の補間を組み合わせることで全てのデータに関する伝送路関数を補間する第2の補間方法を選択することを特徴とするOFDM受信装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のOFDM受信装置において、さらに、
伝送路関数を周波数方向に補間する第1補間回路と、
伝送路関数を周波数方向に補間する第2補間回路と、
を備え、
前記第1の補間方法が選択された場合、前記第1補間回路により伝送路関数を周波数方向に補間した後、さらに前記第2補間回路により伝送路関数を周波数方向に補間することで全てのデータに関する伝送路関数を補間することを特徴とするOFDM受信装置。
【請求項5】
請求項4に記載のOFDM受信装置において、さらに、
伝送路関数を時間方向に補間する第3補間回路、
を備え、
前記第2の補間方法が選択された場合、前記第3補間回路により伝送路関数を時間方向に補間した後、さらに前記第2補間回路により伝送路関数を周波数方向に補間することで全てのデータに関する伝送路関数を補間することを特徴とするOFDM受信装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のOFDM受信装置において、さらに、
前記第1補間回路と前記第2補間回路との間に配置され、前記第1補間回路において補間された伝送路関数のノイズを除去するノイズ除去部、
を備えることを特徴とするOFDM受信装置。
【請求項7】
請求項5に記載のOFDM受信装置において、さらに、
前記第3補間回路と前記第2補間回路との間に配置され、前記第3補間回路において補間された伝送路関数のノイズを除去するノイズ除去部、
を備えることを特徴とするOFDM受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−188603(P2009−188603A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24976(P2008−24976)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(591128453)株式会社メガチップス (322)
【Fターム(参考)】