説明

PCB混入絶縁油の無害化処理設備

【課題】廃棄物、廃液及び排水を発生させることなく不純物を含むPCB混入絶縁油を浄化し、PCB混入絶縁油の無害化処理を安定的に行うことが可能でかつ金属ナトリウムの消費量を低減可能なPCB混入絶縁油の無害化処理設備を提供する。
【解決手段】本発明に係るPCB混入絶縁油の無害化処理設備は、PCB混入絶縁油中の不純物を吸着剤52で吸着除去する油浄化装置50を有し、不純物が除去又は低減されたPCB混入絶縁油を金属ナトリウムと反応させPCBを無害化させる。油浄化装置50は、吸着剤52を洗浄する水を供給する水循環ライン72と、不純物を含む洗浄後の水を電気分解する電解装置64と、洗浄後の吸着剤52を乾燥させる減圧装置68とを含み構成される吸着剤52の再生装置56を備えるので、吸着剤52を再生しながら使用することができると共に廃棄物、廃液及び排水が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB混入絶縁油を金属ナトリウムで無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていたが、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油などについても、平成13年に制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」により、平成28年7月までに処理を完了することが義務付けられている。
【0003】
PCBの脱塩素化技術は、これまでに多くの方法が提案されており、幾つかの方法は実用化されている。金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化させる方法は、PCB混入絶縁油の無害化処理に使用され、処理プラントも稼働中である。金属ナトリウムとPCBとを反応させるとPCBが脱塩素化され、ビフェニル、塩化ナトリウム、ビフェニルが重合したビフェニル重合物、水酸化ナトリウムが生成するが、この生成物に関しては幾つかの問題が指摘され、これに対する対策案が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また不純物を含むPCB混入絶縁油を処理すると処理設備、処理プロセスに悪影響を及ぼす。例えば、PCB混入絶縁油を抜き出した後に柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液には水溶性の有機酸が含まれ、これが配管を腐食させることがある。またPCBと金属ナトリウムとを反応させるに先立ち行なわれる被処理油中の水分除去操作により、タール状のスラッジが析出し、これがストレーナを閉塞させることがある。これに対し本出願人は、既に有機酸を除去する装置を開発し特許出願中である(特願2008−318114)。またPCB汚染物を真空加熱し回収される回収物には、PCBを含む炭化水素系油状物の他、熱分解生成物である木酢液、タール状物質が含まれ、これらがPCBの分解処理に悪影響を及ぼすとし、PCBの分解処理に先立ち、蒸留操作により低沸点熱分解生成物を除去し、さらに吸着剤を使用しタール状物質を吸着除去する技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−319415号公報
【特許文献2】特開2004−174294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記以外に不純物を含むPCB混入絶縁油を金属ナトリウムで無害化処理すると、反応槽内にスケールが析出し、これが剥離し配管を閉塞させる、さらには金属ナトリウムの消費量が多くなる等の問題が発生する。以上のように不純物を含むPCB混入絶縁油を無害化処理するとき、無害化処理設備、運転に多くのトラブル又は悪影響が発生するが、これまでこのような問題点は指摘されておらず、これらを効果的に防止する方法の開発が待たれている。上記問題を解決する手段が廃棄物、廃液又は排水を発生させるとこれらに対する新たなPCB汚染対策が必要となるため、上記問題を解決する手段は、廃棄物、廃液及び排水を発生することなく上記問題を解決できることが非常に重要である。
【0007】
本発明の目的は、廃棄物、廃液及び排水を発生させることなく不純物を含むPCB混入絶縁油を浄化し、PCB混入絶縁油の無害化処理を安定的に行うことが可能でかつ金属ナトリウムの消費量を低減可能なPCB混入絶縁油の無害化処理設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、PCB混入絶縁油の無害化処理において、不純物を含むPCB混入絶縁油を被処理油とするとき発生する種々のトラブル、悪影響は、被処理油に含まれる酸化変質油に起因し、この酸化変質油を取り除くことでトラブル、悪影響を抑制することができること、この酸化変質油は極性を持つため吸着剤で吸着除去可能なこと、さらに酸化変質油を吸着した吸着剤を廃棄物、廃液及び排水を発生させることなく再生可能な手段を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、PCB混入絶縁油に含まれる不純物を化学吸着及び/又は物理吸着する吸着剤と、廃棄物、廃液及び排水を発生させることなく前記吸着剤を再生する再生手段とを備える油浄化装置と、前記油浄化装置で浄化されたPCB混入絶縁油及び/又は前記油浄化装置で浄化されたPCB混入絶縁油を含むPCB混入絶縁油を金属ナトリウムと反応させPCBを無害化する無害化処理装置と、を備えることを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理設備である。
【0010】
また本発明において、前記再生手段は、前記吸着剤を洗浄する水を供給する洗浄水供給手段と、不純物を含む洗浄後の水を電気分解する電解装置と、洗浄後の吸着剤を乾燥させる乾燥手段とを含み、吸着剤を洗浄する水は、不純物を含む洗浄後の水を電気分解した水であり、水を循環使用し系外に排出しないことを特徴とする。
【0011】
また本発明において、前記水は、硫酸塩、炭酸塩、塩化ナトリウムのうち1種以上の電解質を含み、前記電気分解で過酸化物が生成し、該過酸化物が前記不純物を酸化分解することを特徴とする。
【0012】
また本発明において、前記不純物は、酸化変質油であり、C=O結合及びC−O結合を含むことを特徴とする。
【0013】
また本発明において、前記酸化変質油は、PCB汚染物を真空加熱し回収される回収絶縁油に含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るPCB混入絶縁油の無害化処理設備は、PCB混入絶縁油中の不純物を吸着剤で吸着除去する油浄化装置を有するので、不純物が除去又は低減されたPCB混入絶縁油を金属ナトリウムと反応させることが可能となる。これにより従来見られた不純物に起因するPCB混入絶縁油無害化処理設備のトラブルを解消又は低減させ、PCB混入絶縁油の無害化処理を安定的に行うことができる。さらに金属ナトリウムの消費量を低減させることができる。また前記油浄化装置は、吸着剤を再生する再生手段を備えるので吸着剤を繰り返し使用することが可能であり、さらに吸着剤の再生を廃棄物、廃液及び排水を発生させることなく行うことができるので、新たな廃棄物、廃液及び排水処理対策が不要であり実用的である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の一形態であるPCB混入絶縁油無害化処理設備1の概略的構成を示す図である。
【図2】図1のPCB混入絶縁油無害化処理設備1の油浄化装置50の概略的構成を示す図である。
【図3】紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。
【図4】酸化変質油の有無による金属ナトリウム注入量とPCB分解後の油中のPCB濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の一形態であるPCB混入絶縁油無害化処理設備1の概略的構成を示す図である。図2は、PCB混入絶縁油無害化処理設備1の油浄化装置50の概略的構成を示す図である。
【0017】
PCB混入絶縁油無害化処理設備1は、PCB混入絶縁油、さらにはPCB汚染物に付着するPCB混入絶縁油を回収し、これらを金属ナトリウムで無害化する設備であり、PCB汚染物を真空加熱し汚染物に付着する絶縁油を回収する絶縁油回収装置2と、絶縁油回収装置2で回収される回収絶縁油及び柱上変圧器から抜き出されたPCB混入絶縁油等を無害化する無害化処理装置3と、回収絶縁油を浄化する油浄化装置50とを含み構成される。油浄化装置50を除いた他の装置は、従来から使用されているPCB混入絶縁油無害化処理設備と基本的に同じ構成である。柱上変圧器に充填されたPCB微量混入絶縁油及び柱上変圧器に付着するPCB微量混入絶縁油を回収し、これらを無害化処理する場合を例に採り、まず油浄化装置50を除いたPCB混入絶縁油無害化処理設備の構成、無害化処理プロセス、従来、酸化変質油を含むPCB混入絶縁油を処理するとき発生していたトラブル、悪影響について説明し、続いて油浄化装置50の構成及び作用効果について説明する。
【0018】
絶縁油回収装置2は、PCB汚染物を真空加熱し汚染物に付着する絶縁油を回収する装置であり、PCB汚染物を真空加熱する真空加熱炉11、真空加熱炉11で蒸発させた絶縁油等を凝縮させる凝縮器13、凝縮器13で凝縮回収した凝縮液に含まれる水を分離する油水分離器15及び回収絶縁油を貯蔵する回収油貯蔵タンク17を含む。
【0019】
PCB汚染物である柱上変圧器は、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後、解体、破砕されケース、銅線、金具、碍子、紙木などに分けられた後、各々真空加熱炉11に投入される。真空加熱炉11内は加熱され、さらに真空ポンプを含む減圧装置により減圧状態となっている。ケース等に付着するPCBを含む絶縁油は、真空加熱炉11内で蒸発し、凝縮器13で冷却され凝縮した後、油水分離器15に送られる。柱上変圧器は、銅線、金具などの金属のほか紙木を含むため、真空加熱炉11で加熱されるとPCBを含む絶縁油のほか、紙木が乾留されこれらが凝縮液となって油水分離器15に送られる。このため凝縮液には、PCBを含む絶縁油のほか水、紙木類乾留物を含む。油水分離器15では凝縮液が静置され比重差により油相と水相とに分離され、油相は、回収絶縁油として回収油貯蔵タンク17に送られる。なお回収絶縁油にはPCBを含む絶縁油の他、紙木類乾留物及び少量の水が含まれる。回収油貯蔵タンク17の回収絶縁油は、タンクローリー19で無害化処理装置3の処理タンク21に送られる。
【0020】
無害化処理装置3は、SPプロセス(soduim pulverulent dispersion)法を用いてPCB混入絶縁油を無害化する装置であり、金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化する。無害化処理装置3は、被処理油を貯蔵する処理タンク21、被処理油に含まれる水を除去する減圧蒸留槽23、PCBを金属ナトリウムと反応させ脱塩素化する反応槽25、PCBの脱塩素化を確認するための分解確認槽27、処理済油に含まれる残存金属ナトリウムを水和させ、さらに中和する抽出中和槽31、処理済油と水とを分離する油水分離槽33、水を回収する洗浄水再生設備35を備える。
【0021】
被処理油は、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油、又は柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と絶縁油回収装置2で回収される回収絶縁油との混合物であり、これらは処理タンク21に貯蔵された後、減圧蒸留槽23に送られる。
【0022】
減圧蒸留槽23は、ジャケット付き攪拌槽であり、ジャケットに加熱した熱媒を供給することで被処理油を加熱する。また減圧蒸留槽23は、槽内を減圧し被処理油に含まれる水を蒸発させ凝縮し回収する減圧装置(図示を省略)を備え、処理タンク21から送られた被処理油は、ここで90℃程度に加熱、0.0142Mpa程度に減圧され、被処理油に含まれる水が除去される。減圧蒸留槽23で水分が除去された被処理油は反応槽25に送られる。
【0023】
反応槽25は、ジャケット付き攪拌槽であり、ここで減圧蒸留槽23で水分が除去された被処理油に金属ナトリウムが添加される。金属ナトリウムは、絶縁油中に金属ナトリウムの微粒子を分散させた金属ナトリウム分散体(SD:soduim dispersion)として反応槽25に添加される。被処理油と金属ナトリウムとは、攪拌されながらジャケットに供給される加熱した熱媒により90℃程度まで加熱され、PCBは金属ナトリウムと反応し脱塩素化し、被処理油は無害化される。なお、金属ナトリウム分散体を添加し所定の時間経過後に、反応促進剤として所定量の水が添加される。反応槽25の気相部には窒素ガスが供給されている。
【0024】
反応槽25でPCBが脱塩素化された被処理油(処理済油)は、分解確認槽27に送られ、サンプリングライン29を介してサンプリングされ、処理済油中のPCB濃度が所定の濃度以下になっているか確認される。ここでPCBが所定濃度以下に達していないことが確認されると、処理済液を反応槽25に返送し再度、PCBの脱塩素化を行う。処理済油は、PCB濃度が所定の濃度以下であることが確認されると冷却され、その後に抽出中和槽31に送られる。
【0025】
分解確認槽27から送られる処理済油は、抽出中和槽31で多量の水と混合され、処理済油中に残存する金属ナトリウムが水和される。さらに金属ナトリウムが水和され生成した水酸化ナトリウムを中和させるための炭酸ガスが吹き込まれ所定のpHに調整された後、油水分離槽33に送られる。
【0026】
油水分離槽33に送られる多量の水を含む処理済油は、油水分離槽33で静置され比重差により油相37と水相39とに分離される。上層の油相37は、処理済油タンク41に送られ貯蔵される。一方、下層の水相39は、水を回収する洗浄水再生設備35に送られる。
【0027】
洗浄水再生設備35は、乾燥機43を備え、水を蒸発させ回収すると共に水に含まれる塩化ナトリウム等を蒸発乾固させる。油水分離槽33から送られる水は静置分離水受槽45に一度、貯留された後、乾燥機43に送られ加熱される。蒸発した水は、凝縮器47で凝縮し凝縮水槽49に貯留される。この水は抽出中和槽31に送られ、金属ナトリウムを水和させるための水として使用される。一方、水に溶解していた塩化ナトリウム等は乾燥汚泥として回収される。このように無害化設備3は、水を系外に排出しないクローズドシステムとなっている。
【0028】
PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される回収絶縁油が含まれるPCB微量混入絶縁油を被処理油とする場合、被処理油には、C=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれる。C=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれるのは、柱上変圧器に紙、木が含まれ、これらの乾留物が回収絶縁油に含まれることによる。図3は、紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。紙木類乾留物を含む絶縁油にはC=Oのピーク1750cm−1が強く表れている。C=O結合を含む油酸化変質物としては、カルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトンがある。酸化変質油はカルボン酸、アルコール類など水溶性の酸化変質油、非水溶性の酸化変質油を含み、極性が強いため、一部の酸化変質油は時間経過と共に酸化変質油同士が凝集、合体しスラッジとなり析出する。
【0029】
油浄化装置50を備えない従来のPCB混入絶縁油無害化処理設備を用いて酸化変質油を含むPCB混入絶縁油を処理する場合、析出するスラッジはタール状で粘性が高いため、例えば回収油貯蔵タンク17から回収絶縁油を払出すラインに設けられたストレーナ(図示を省略)を閉塞させる。また酸化変質油に含まれる酸性成分又はスラッジは被処理油中の水と交わり酸性を呈するため、例えば回収油貯蔵タンク17から回収絶縁油を払出すラインの配管等を腐食させる。さらに減圧蒸留槽23で水分を除去すると水溶性の酸化変質油もスラッジとなって析出し、減圧蒸留槽23と反応槽25を結ぶラインに設けられたストレーナ(図示を省略)を閉塞させる。また酸化変質油を含むPCB微量混入絶縁油を被処理油とし、これを金属ナトリウムさらに反応促進剤である水と反応させると、酸化変質油も金属ナトリウムと反応するため、図4に示すように金属ナトリウムの消費量が多くなる。酸化変質油を含むPCB微量混入絶縁油と金属ナトリウム、反応促進剤である水との代表的な反応は、次式で示される。さらに酸化変質油が金属ナトリウム、反応促進剤と反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等は、絶縁油には溶解せずかつ極性が強いため金属面に付着し易く、これらが壁面に付着、成長しスケールとなることで種々のトラブルが発生する。
【0030】
【化1】

【0031】
本実施形態に示すPCB混入絶縁油無害化処理設備1は、油浄化装置50が回収絶縁油に含まれる酸化変質油を除去又は低減させ、従来のPCB混入絶縁油無害化処理で見られたトラブルを防止する。
【0032】
油浄化装置50は、回収油貯蔵タンク17に貯蔵する回収絶縁油を浄化するための装置であり、回収絶縁油に含まれる酸化変質油を吸着する吸着剤52が充填された吸着塔54(54a、54b)と、酸化変質油を吸着し吸着能力が低下した吸着剤52を再生する再生装置56を備える。
【0033】
吸着塔54は2塔設けられ、油循環ポンプ58が介装された油循環ライン60を通じて、回収油貯蔵タンク17と結ばれる。また吸着塔54は、回収油貯蔵タンク17に比べ高い位置に設置されており、吸着塔54内の回収絶縁油を全て抜き出し回収油貯蔵タンク17に返送することができる油回収ライン62(62a、62b)が設けられている。油循環ライン60には2塔の吸着塔54a、54bのそれぞれに回収絶縁油を単独に供給できるようにバルブが設けられている。油回収ライン62(62a、62b)もそれぞれの吸着塔54a、54b内の回収絶縁油を回収可能に設けられている。
【0034】
ここで使用する吸着剤52は、酸化変質油を化学吸着及び/又は物理吸着できるものであればよく、特定の吸着剤に限定されるものではない。吸着性能に優れる吸着剤が好ましいことは言うまでもない。酸化変質油は極性を有するため化学吸着及び/又は物理吸着が容易であり、化学吸着剤としてCaO、MgO、Al、Ca(OH)、Mg(OH)、Al(OH)などが、物理吸着剤としてゼオライト、シリカゲル、活性炭等が例示される。
【0035】
吸着塔54の大きさは、酸化変質油の濃度、回収絶縁油の量に基づき適宜設定すればよく、吸着塔54の構造も回収絶縁油がショートパスすることなく、また充填する吸着剤52全体と均一に接触可能なものであれば特定の構造のものに限定されない。また吸着塔54内を上下2段に区切り、各々の段に化学吸着剤、物理吸着剤を分けて充填するようにしてもよい。
【0036】
再生装置56は、吸着塔54に洗浄(再生)水を送る洗浄水供給手段と、吸着剤52を洗浄した酸化変質油を含む洗浄後の水を電気分解する電解装置64と、洗浄後の吸着剤52に付着する水を蒸発させ乾燥させる減圧装置68を備える。
【0037】
電解装置64と再生用水タンク66と吸着塔54とは、水循環ポンプ70が介装された水循環ライン72で結ばれ、水循環ポンプ70が介装された水循環ライン72が洗浄水供給手段として機能する。電解装置64で電気分解された水を貯蔵する再生用水タンク66は、吸着塔54に比べ低い位置に設置されており、洗浄に使用した吸着塔54内の水を全て抜き出し再生用水タンク66に返送することができる水回収ライン74(74a、74b)が設けられている。水循環ライン72にはそれぞれの吸着塔54a、54bに洗浄用の水を単独に供給できるようにバルブが設けられている。水回収ライン74(74a、74b)もそれぞれの吸着塔54a、54b内の水を回収可能に設けられている。
【0038】
洗浄に使用する水には、電気分解により過酸化物が生成する電解質を含む水を使用する。このような電解質としてNaSO,KSOなどの硫酸塩、NaCO,KCOなどの炭酸塩、NaClなどが例示され、水に溶解したとき中性を示すものが好ましい。NaSO,KSOなどの硫酸塩、NaCO,KCOなどの炭酸塩、NaClなどを含む水を電解することで、ペルオキソ一硫酸(HSO)、過炭酸(HCO・3/2H)、次亜塩素酸(HOCl)などの過酸化物が生成する。これら過酸化物は、強い酸化作用を有するので、水に溶解した酸化変質油を酸化分解することができる。電解質として硫酸塩、炭酸塩等を添加せず、水に溶解した酸化変質油に含まれるカルボン酸等を利用することもできるが分解速度が遅いため、硫酸塩、炭酸塩等の電気分解により過酸化物が生成する電解質を添加することが好ましい。
【0039】
電解装置64は、電解電極76と電解電極76に電源を供給する電源供給装置(図示を省略)とを備える。電解電極76は、電食防止のためのシールド型の電解電極であり、電源供給装置から所定の電圧が印加され、電解質を含む水を電気分解し過酸化物を生成させ、生成する過酸化物で水に溶解する酸化変質油を酸化分解する。
【0040】
減圧装置68は、真空ポンプ(図示を省略)及び蒸発した水を凝縮させる凝縮器(図示を省略)を備え、各吸着塔54a、54bとガスライン78を介して結ばれる。ガスライン78は、ライン途中にバルブが設けられ、吸着塔54a、54bを個別に減圧可能に構成されている。
【0041】
油浄化装置50の運転要領の一例を示す。吸着塔54aが吸着工程、吸着塔54bが再生工程であるとする。
【0042】
回収油貯蔵タンク17に貯蔵する回収絶縁油は、油循環ライン60を通じて吸着塔54aにのみ供給される。回収絶縁油は、吸着塔54a内を上昇する過程で吸着剤52と接触し、回収絶縁油に含まれる酸化変質油が吸着剤52に吸着され、浄化された回収絶縁油が油循環ライン60を通じて回収油貯蔵タンク17に返送される。油循環ライン60を介して回収油貯蔵タンク17と吸着塔54aとの間を回収絶縁油を循環させながら回収絶縁油を浄化する。
【0043】
吸着塔54bには、水循環ライン72を通じて再生用水タンク66から洗浄用の水が供給される。吸着塔54bに供給された水は、吸着塔54b内を降下する過程で吸着剤52と接触し吸着剤52を洗浄する。吸着剤52を洗浄した酸化変質油を含む水は、電解装置64に送られ、ここで電気分解される。水には電解質が含まれ電気分解されることで過酸化物が生成し、水に溶解した酸化変質油は過酸化物で酸化分解される。電気分解後の水は、再生用水タンク64に送られ循環使用される。
【0044】
洗浄が終了した吸着塔54bは、水循環ライン72が閉止され、続いて水回収ライン74bを通じて、吸着塔54b内の全ての水が再生用水タンク66へ送られる。吸着塔54b内の全ての水が排出された後、水回収ライン74bが閉止され、続いて減圧装置68と吸着塔54bとが連通され、吸着塔54bが減圧される。これにより吸着剤52に付着又は吸着した水が蒸発し吸着剤52が乾燥する。吸着剤52の洗浄、乾燥により吸着剤52の再生が終了する。
【0045】
再生が終了した吸着塔54bを吸着工程するには、油循環ライン60を通じて吸着塔54bに回収絶縁油を供給すればよい。一方、吸着塔54aの吸着剤52を再生するには、油循環ライン60を閉止した後、油回収ライン62aを通じて、吸着塔54a内の全ての回収絶縁油を回収油貯蔵タンク17に送る。吸着塔54a内の全ての回収絶縁油が排出された後、油回収ライン62aを閉止し、水循環ライン72を通じて再生用水タンク66から洗浄用の水を供給すればよい。
【0046】
以上のように油浄化装置50は、2塔の吸着塔54a、54bを備えるので、一方の吸着塔54a(54b)が吸着工程の間、他方の吸着塔54b(54a)を再生工程としこれを交互に繰り返すことで連続的に油浄化を行うことができる。
【0047】
基礎実験において、酸化変質油を含むPCB微量混入絶縁油を吸着剤と長時間接触させた後、この油をロータリーエバポレータで減圧蒸留したところ、フラスコ内には殆ど残渣が見られなかった。一方、酸化変質油を含むPCB微量混入絶縁油をそのままロータリーエバポレータで減圧蒸留したところ、フラスコ内に比較的多くの褐色の残渣が認められた。また酸化変質油を含むPCB微量混入絶縁油を吸着剤と長時間接触させた後、この油を金属ナトリウムと反応させたところ、PCBの分解に必要な金属ナトリウム量は、酸化変質油を含まないPCB微量混入絶縁油とほぼ同等であった。また酸化変質油を吸着した吸着剤を水で洗浄可能なことも基礎実験で確認済みである。
【0048】
上記基礎実験から分かるように油浄化装置50で酸化変質油を含むPCB混入絶縁油を浄化することで、酸化変質油が低減され、従来、問題となっていたストレーナの閉塞を防止することができる。また酸化変質油に含まれる酸性成分も低減されるため従来、問題となっていた回収絶縁油を払出すラインの配管等の腐食を防止することができる。さらに金属ナトリウムの消費量を低減することができる。また従来問題となっていた反応槽25の壁面に付着するスケールも酸化変質油が低減されるので抑制することができる。上記のように油浄化装置50を備えるPCB混入絶縁油無害化処理設備1は、従来、酸化変質油を含むPCB混入絶縁油を処理するとき発生していたトラブル、設備及び運転上の悪影響を防止又は抑制することができるので、PCB混入絶縁油の無害化処理を安定的に行うことができる。
【0049】
また油浄化装置50は、吸着剤52を再生しながら使用するので廃棄物とならない。また吸着剤52の洗浄に使用した水も、水に含まれる酸化変質油を酸化分解し循環使用するので、酸化変質油を含むPCB混入絶縁油を浄化した後も廃棄物、廃液及び排水が排出されない。PCBを取り扱う装置、設備の場合、系外に排出される物にPCBが付着していないか又はPCBで汚染されていないかが問題となるが、油浄化装置50は、廃棄物、廃液及び排水を排出しないのでこのような心配は不要である。
【0050】
なお本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で上記実施形態を変更してもよい。例えば、吸着塔54にヒータを取付け、再生時の吸着剤52の乾燥を促進するようにしてもよい。また吸着剤の種類に応じた吸着温度を設定し、吸着性を高めるようにしてもよい。また吸着塔54へ供給する洗浄用の水は、吸着塔54の下方から供給し上方から排出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 PCB混入絶縁油無害化処理設備
2 絶縁油回収設備
3 無害化設備
11 真空加熱炉
13 凝縮器
15 油水分離器
17 回収油貯蔵タンク
19 タンクローリー
21 処理タンク
23 減圧蒸留槽
25 反応槽
27 分解確認槽
29 サンプリングライン
31 抽出中和槽
33 油水分離槽
35 洗浄水再生設備
37 油相
39 水相
41 処理済油タンク
43 乾燥機
45 静置分離水受槽
47 凝縮器
49 凝縮水槽
50 油浄化装置
52 吸着剤
54、54a、54b 吸着塔
56 再生装置
58 油循環ポンプ
60 油循環ライン
62、62a、62b 油回収ライン
64 電解装置
66 再生用水タンク
68 減圧装置
70 水循環ポンプ
72 水循環ライン
74、74a、74b 水回収ライン
76 電解電極
78 ガスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCB混入絶縁油に含まれる不純物を化学吸着及び/又は物理吸着する吸着剤と、廃棄物、廃液及び排水を発生させることなく前記吸着剤を再生する再生手段とを備える油浄化装置と、
前記油浄化装置で浄化されたPCB混入絶縁油及び/又は前記油浄化装置で浄化されたPCB混入絶縁油を含むPCB混入絶縁油を金属ナトリウムと反応させPCBを無害化する無害化処理装置と、
を備えることを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理設備。
【請求項2】
前記再生手段は、前記吸着剤を洗浄する水を供給する洗浄水供給手段と、不純物を含む洗浄後の水を電気分解する電解装置と、洗浄後の吸着剤を乾燥させる乾燥手段とを含み、
吸着剤を洗浄する水は、不純物を含む洗浄後の水を電気分解した水であり、水を循環使用し系外に排出しないことを特徴とする請求項1に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理設備。
【請求項3】
前記水は、硫酸塩、炭酸塩、塩化ナトリウムのうち1種以上の電解質を含み、前記電気分解で過酸化物が生成し、該過酸化物が前記不純物を酸化分解することを特徴とする請求項2に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理設備。
【請求項4】
前記不純物は、酸化変質油であり、C=O結合及びC−O結合を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理設備。
【請求項5】
前記酸化変質油は、PCB汚染物を真空加熱し回収される回収絶縁油に含まれることを特徴とする請求項4に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−254867(P2011−254867A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129601(P2010−129601)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】