説明

PDK4結晶及びその結晶化方法

【課題】糖尿病との関連が論じられているピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)の4種類のアイソザイムの中、創薬標的として注目されるPDK4選択的な阻害剤の開発に資する結晶を提供する。
【解決手段】単位格子定数がa=71±4Å、b=69±2Å、c=80±6Å、β=101±2°であるPDK4の結晶であって、空間群P21に属する単斜晶系であることを特徴とする結晶。また、ATPアナログ又はPDK4活性調節物質の何れか一つが結合した複合体結晶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDK4(ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4;pyruvate dehydorogenase
kinase 4)の結晶、結晶化方法、結晶化に必要な蛋白質高濃度の溶液の安定方法、その結
晶を構造解析することによって得られるPDK4の構造座標、該構造座標を用いたPDK4特異的
阻害剤のスクリーニング方法及び設計方法の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ(PDK)は、ピルビン酸からアセチルCoAへの脱水
素-脱カルボキシル反応を触媒する複合酵素であるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(P
DC)を、ATPを用いて特異的にリン酸化し、不活性化する酵素である。該酵素によりPDCの
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)αサブユニットの3つのセリン残基がリン酸化を受け
、その結果、PDCが不活性化され、グルコースの酸化が抑制される(非特許文献1及び2)
。また、PDKは生理的条件下で二量体として存在することが知られている。
【0003】
PDKにはPDK1、PDK2、PDK3(非特許文献3)及びPDK4(非特許文献4)の4種類のアイソザ
イムが存在するが、その組織分布はアイソザイムにより異なり(非特許文献5)、E1リン
酸化部位特異性も異なることから(非特許文献6)、PDKは組織特異的なPDC調節機能を有
していると考えられている。PDKの作用及び治療標的としての可能性については種々報告
されているが(非特許文献7)、中でも骨格筋には4種類のアイソザイムのうちPDK2とPDK4
が発現しており、糖尿病との関連が盛んに論じられている。特に、PDK4は筋肉で重要な働
きを担っていると考えられており、糖尿病患者において筋肉と肝臓におけるグルコース酸
化能の低下に伴いPDK4の活性及び発現が増加することが報告されている。また、インスリ
ン耐性とPDK4の関連も報告されており、糖尿病治療の標的遺伝子としてPDK4が注目されて
いる(非特許文献8)。
【0004】
これらのアイソザイムのうち、PDK2についてヒト及びラット酵素の結晶構造についての
報告がある(特許文献1及び非特許文献9、10)。また、PDK3についてはPDCのE2pのL2ド
メインとの複合体結晶構造についての報告がある(非特許文献11)。PDK阻害剤の開発は
複数報告があるが、アイソザイム選択的な阻害剤の報告は多くなく、PDK2特異的な阻害剤
も上市されるまでには至ってない。一方、PDK4も含むこれらのアイソザイムはほぼ同時期
に遺伝子がクローニングされているにも関わらず、創薬標的として注目されているPDK4に
関しては結晶構造の報告は未だなく、PDK4特異的な阻害剤の開発も成功したとの報告がな
い。
【0005】
【特許文献1】特開2003-24084号公報
【非特許文献1】Patel MS et al. (2001) Exp Mol Med 33,191-197
【非特許文献2】Sugden MC et al. (2003) Am J Physiol Endocrinol Metab 284,E855-862
【非特許文献3】Gudi R et al. (1995) J Biol Chem 270,28989-28994
【非特許文献4】Rowles J et al. (1996) J Biol Chem 271,22376-22382
【非特許文献5】Bowker-Kinley MM et al. (1998) Biochem J 329,191-196
【非特許文献6】Korotchkina LG et al. (2001) J Biol Chem 276,37223-37229
【非特許文献7】Sugden MC et al. (2002) Curr Drug Targets Immune Endocr Metabol Disord 2,151-165
【非特許文献8】Holness MJ et al. (2003) Biochem Soc Trans 31,1143-1151
【非特許文献9】Steussy CN et al. (2001) J Biol Chem 276,37443-37450
【非特許文献10】Knoechel TR et al. (2006) Biochemistry 45,402-415
【非特許文献11】Kato M et al. (2005) EMBO J 24,1763-1774
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようにPDK4特異的な阻害剤は、肝臓及び中枢への副作用を軽減した血糖降下剤と
いう新たなプロファイルを有する糖尿病治療薬になると期待される。かかるPDK4阻害剤の
創薬手法には、まず、生理的条件下の極めて低濃度のPDK4蛋白質溶液(約50μg/mL)を用
いたバイオアッセイが考えられるが、仮に選択的阻害化合物が見つかったとしてもPDK4
と結合する際の試験化合物のコンフォメーションをなんら提示してはくれない。
【0007】
このため、次には、コンピュータを用いてのドラッグデザインの役割が期待される。そ
してこのドラッグデザインには、PDK4蛋白質の詳細な立体構造を示す原子座標を得ること
が不可欠である。
【0008】
しかしながら、PDK4については、これまでヒトをはじめとする哺乳類のPDK4蛋白質の結
晶、又は、PDK4蛋白質とPDK4リガンド(例えばATPアナログ又はPDK4活性調節物質)との
複合体結晶については全く報告が無く、従って望まれる原子座標の入手が達成されていな
かった。
【0009】
そこで、ドラッグデザインに有用な原子座標を解析しうる良好なPDK4蛋白質の結晶を取
得することが切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、結晶化に必要なPDK4の高濃度蛋白質溶液の調製に取り組んだ。本発明者
らは、PDK4がPDK2とは異なり精製過程において著しく沈殿を生じやすいことに注目した。
すなわち、PDK2は容易に高濃度蛋白質溶液を調製することが可能であったが、PDK4は同様
な条件では精製過程や保存中に沈殿が生じてしまい、活性が消失してしまった。当初、PD
K4蛋白質の疎水性アミノ酸のいくつかを水溶性アミノ酸に改変して溶解性を調整すること
を試み、沈殿形成をやや緩和する傾向のある置換体を見出したが、沈殿形成を完全に抑制
するまでには至らず、試みは失敗した。
【0011】
そこで、次に蛋白質の高濃度溶液を安定化させることを鋭意検討した結果、後述するPD
K4を精製ないし溶解する際に、溶媒中に5〜30容量%量のグリセロールを添加することによ
り、PDK4の安定な高濃度溶液を調製することに成功した。
【0012】
この改善により、本発明者らは初めてPDK4の結晶を得ることに成功し、更に結晶化条件
を最適化することで、ドラッグデザインに必要な原子座標を与えてくれる分解能の高いPD
K4の結晶を作製し、該結晶の3次元構造を得て、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明の態様は哺乳類のPDK4の安定化溶液、結晶及び結晶の作製方法であり
、具体的には以下の通りである。
【0014】
[1] PDK4(ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4)の結晶であって、空間群P21に属す
る単斜晶系であることを特徴とする結晶。
[2] 単位格子定数がa=71±4Å、b=69±2Å、c=80±6Å、β=101±2°であることを特徴
とする[1]の結晶。
[3] ATPアナログ又はPDK4活性調節物質のいずれかが結合した複合体結晶であることを特
徴とする[1]又は[2]の結晶。
[4] 共結晶化によって作製された複合体結晶であることを特徴とする[3]の結晶。
[5] ソーキング法によって作製された複合体結晶であることを特徴とする[3]の結晶。
[6] AMPPNPとの複合体結晶であることを特徴とする[3]〜[5]のいずれかの結晶。
[7] ADPとの複合体結晶であることを特徴とする[3]〜[5]のいずれかの結晶。
[8] 3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4-(4-メトキシフェニル)-5-メチル-1H-ピラゾール
との複合体結晶であることを特徴とする[3]〜[5]のいずれかの結晶。
[9] PDK4が配列番号6に示されるアミノ酸配列の16番目のバリン〜407番目のメチオニン
からなるアミノ酸配列を含むPDK4である、[1]〜[8]のいずれかの結晶。
[10] PDK4が配列番号6に示されるアミノ酸配列の14番目のグリシンから407番目のメチオ
ニンからなるアミノ酸配列で表されるPDK4である、[1]〜[9]のいずれかの結晶。
【0015】
[11] PDK4が配列番号6に示されるアミノ酸配列の14番目のグリシン、15番目のプロリン
、あるいは16番目のバリン〜407番目のメチオニンからなるアミノ酸配列のいずれかにお
いて、1個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列で表わされ、か
つ、PDK4活性を有するものである、[9]〜[10]のいずれかの結晶。
[12] 表1に表される原子座標を有する[6]の結晶。
[13] 表5に表される原子座標を有する[7]の結晶。
[14] 表3に表される原子座標を有する[8]の結晶。
[15] 3.4Å又はそれより良好な分解能にX線を回折する[1]〜[14]のいずれかの結晶。
[16] 2.8Å又はそれより良好な分解能にX線を回折する[15]の結晶。
[17] 2.2Å又はそれより良好な分解能にX線を回折する[15]の結晶。
[18] 5〜30容量%グリセロールを含むことを特徴とする0.1〜30mg/mLのPDK4蛋白質溶液を
用いて、好ましくは7〜25容量%グリセロールを含むことを特徴とする0.5〜25mg/mLのPDK4
蛋白質溶液を用いて、更に好ましくは10〜20容量%グリセロールを含むことを特徴とする1
〜20mg/mLのPDK4蛋白質溶液を用いて、PDK4を結晶化させることを特徴とするPDK4の結晶
の作製方法。
[19] 1.4〜2.0M 硫酸アンモニウム、0.1M Na-HEPES(pH7.1〜8.1)、1〜5容量%ポリエチ
レングリコール400を含む沈殿剤溶液に1〜20mg/mLのPDK4を溶解させた溶液から、PDK4を
結晶化させることを特徴とするPDK4の結晶の作製方法。
[20] ATPアナログ又はPDK4活性調節物質を溶解させた溶液を添加したPDK4蛋白質溶液を
用い、PDK4複合体結晶を得ることを特徴とする[18]又は[19]の結晶の作製方法。
【0016】
[21] ATPアナログ又はPDK4活性調節物質がAMPPNP、ADP又は3-(2,4-ジヒドロキシフェニ
ル)-4-(4-メトキシフェニル)-5-メチル-1H-ピラゾールのいずれか一つである、[20]の結
晶の作製方法。
[22] ATPアナログ又はPDK4活性調節物質を溶解させた溶液に[1]〜[17]のいずれかの結晶
を浸漬させた溶液から、PDK4複合体結晶を得ることを特徴とするPDK4の結晶の作製方法。
[23] ATPアナログ又はPDK4活性調節物質がAMPPNP、ADP又は3-(2,4-ジヒドロキシフェニ
ル)-4-(4-メトキシフェニル)-5-メチル-1H-ピラゾールのいずれか一つである、[22]の結
晶の作製方法。
[24] [18]〜[23]のいずれかの方法により得られたPDK4の結晶。
[25] PDK4の構造座標を用いることを特徴とする、PDK4活性調節物質のスクリーニング方
法。
[26] 5〜30容量%グリセロールを含むことを特徴とする0.1〜30mg/mLのPDK4蛋白質溶液。
より好ましくは、7〜25容量%グリセロールを含むことを特徴とする0.5〜25mg/mLのPDK4蛋
白質溶液、更に好ましくは10〜20容量%グリセロールを含むことを特徴とする1〜20mg/mL
のPDK4蛋白質溶液である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、PDK4蛋白質の安定な高濃度溶液を調製することができる。当該高濃度溶
液は、とりわけ従来取得することが困難であったPDK4の結晶作製に用いることができる。
また、本発明のPDK4の結晶は、再度溶解させた場合でも活性を保持しうる。なお、本発明
のPDK4の結晶を用いて得られた原子座標データに基づいて、PDK4の活性を調節する化合物
、特にPDK4の活性を特異的に阻害する化合物をスクリーニング又は設計することができる
。これらの化合物は糖尿病、高血糖、肥満あるいは高脂血症などの治療剤や予防剤あるい
は試薬として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
1.結晶及びその作製方法
本発明はPDK4の結晶を提供する。本発明に用いるPDK4は哺乳動物、特に好ましくはヒト
由来のものである。ヒトPDK4のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0020】
1−1 蛋白質精製
本発明において結晶構造解析に使用するPDK4の採取源は特に限定されず哺乳類の骨格筋
等のPDK4発現臓器を用いることができる。上記採取源をホモジナイズし、可溶化成分を数
種類のカラムクロマトグラフにより精製することにより、PDK4を単離精製することができ
る。また、遺伝子工学的手法を用いて、PDK4をコードする遺伝子を細菌、昆虫細胞、動物
細胞等により発現させて大量生産することも可能である。例えば、PDK4遺伝子が組み込ま
れた組換えDNAを、PDK4遣伝子が発現し得るように大腸菌、酵母、Sf9細胞、チャイニーズ
ハムスター卵巣(CHO)細胞などの宿主中に導入して形質転換体を得、その形質転換体を
培養することにより培養物からPDK4を得ることができる。ここで、「培養物」とは、培養
上清のほか、培養細胞若しくは培養菌自体、又は細胞若しくは菌体の破砕物をいう。
【0021】
本発明の結晶作製に用いるのに好適なPDK4は哺乳類のPDK4であり、好ましくはマウス、
ラットやハムスター等のげっ歯類、サル、チンパンジーやヒヒ等の霊長類あるいはイヌ、
ウサギやブタのPDK4であり、より好ましくはヒトのPDK4である。ヒト以外の種のPDK4は、
PDK4活性調節物質をスクリーニングする際に種選択性を考慮する目的に有用であり、医薬
品開発における薬理実験に供する際に有用な情報を得ることができる。具体的には、配列
番号2、4及び6に示すアミノ酸配列で表される蛋白質である。また、配列番号6に示すアミ
ノ酸配列からなる蛋白質をPreScission プロテアーゼにて処理することで得られるアミノ
酸配列からなる蛋白質が、より好適なPDK4である。すなわち、配列番号2及び4に示すアミ
ノ酸配列は天然のヒトPDK4のアミノ酸配列を表す。配列番号6に示すアミノ酸配列は、天
然のPDK4のアミノ酸配列の20番目のバリン以降のアミノ酸配列(配列番号2及び4で表され
るアミノ酸配列の20番目のバリンから411番目のメチオニン、及び配列番号6で表されるア
ミノ酸配列の16番目のバリンから407番目のメチオニンに該当)のN末端に、ヒスチジンタ
グ(精製用タグ)及びPreScission プロテアーゼ認識配列を付加させたPDK4のアミノ酸配
列を表す。配列番号6に示すアミノ酸配列からなるPDK4から、PreScission プロテアーゼ
を用いてヒスチジンタグを除去したPDK4のアミノ酸配列は、望ましくは配列番号6で表さ
れるアミノ酸配列の14番目のグリシンから407番目のメチオニンに相当する。これは、天
然のPDK4のアミノ酸配列の20番目のバリン以降のアミノ酸配列(配列番号6で表されるア
ミノ酸配列の16番目のバリンから407番目のメチオニンに該当)のN末端に、PreScission
プロテアーゼ認識配列由来のアミノ酸(14番目のグリシン及び15番目のプロリン)が付加
したアミノ酸配列である。
【0022】
但し、このアミノ酸配列に限定されるものではなく、上記アミノ酸配列の部分配列も本
発明の結晶作製に用いることができるPDK4に含まれる。例えば、天然のPDK4のアミノ酸配
列の20番目のバリンは最初の二次構造であるα1ヘリックスの開始残基であると推定され
ることから、この20番目のバリン以降のアミノ酸配列(配列番号2及び4で表されるアミノ
酸配列の20番目のバリンから411番目のメチオニン、及び配列番号6で表されるアミノ酸配
列の16番目のバリンから407番目のメチオニンに該当)がPDK4の立体構造維持には重要で
あると推察され、当該アミノ酸配列を含むアミノ酸配列がPDK4の部分配列としてあげられ
る。また、C末端側においても同様に、C末端側最後の二次構造の末端残基である384番目
のリジン又は385番目のヒスチジンまでを含むアミノ酸配列もPDK4の部分配列であり、20
番目のバリンから384番目のリジン又は385番目のヒスチジンまでを含むアミノ酸配列(配
列番号2及び4で表されるアミノ酸配列の20番目のバリンから384番目のリジン又は385番目
のヒスチジンまでを含むアミノ酸配列、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列の16番目
のバリンから380番目のリジン又は381番目のヒスチジンに該当)もPDK4の部分配列として
あげられる。
【0023】
さらに、上記アミノ酸配列又はその部分配列において1個又は数個(例えば1個〜9個、
好ましくは1個〜5個、さらに好ましくは1又は2個)のアミノ酸に欠失、置換又は付加等の
変異が生じ、かつ、PDK4活性を有するものも、本発明に使用することができる。PDK4活性
とは、ピルビン酸からアセチルCoAへの脱水素-脱カルボキシル反応を触媒する複合酵素で
あるピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体を、ATPを用いて特異的にリン酸化し、不活性化
する活性をいう。
【0024】
このようなアミノ酸の変異は、当業者に周知の設計手法により設計することができる。
例えば、グリシンとアラニン、バリン、ロイシンとイソロイシン、アスパラギンとグルタ
ミン、システインとメチオニン又はリジンとアルギニン等、同族に分類されるアミノ酸同
士の置換は、PDK4活性が維持されやすいと理解される。また、PDK2やPDK3等の構造情報か
らホモロジーモデリング手法を用いてPDK4の構造を推定し、アミノ酸置換に伴う立体構造
変化の影響を考慮し、ループ領域より変異位置を選定することが好ましい。
【0025】
このようなアミノ酸の変異は、当業者に周知の部位特異的突然変異誘発法により変異さ
せることができ、そのためのキットを使用することができる(例えばMutan-G、Mutan-K(
いずれもタカラバイオ株式会社)など)。また、当業者に周知の遺伝子工学的手法を用い
て、アミノ酸変異をコードするDNA断片を導入・置換することができる。例えば、PCR反応
や制限酵素反応、ライゲーション反応等を組み合わせることで変異体を作製することがで
きる。
【0026】
また、発現させた蛋白質の精製を容易にするために精製用のタグを付加した融合蛋白質
も、本発明の結晶作製に使用することができる。特定のリガンドに親和性を持った蛋白質
やペプチド配列(アフィニティー精製用タグ)との融合蛋白質として生産することにより
、該融合蛋白質を該リガンドを担体に用いたアフィニティークロマトグラフィー等により
効率的に精製することができる。例えば精製用タグとして、ヒスチジンタグ、FLAGタグ、
GST(グルタチオンS-トランスフェラーゼ)タグ、マルトース結合蛋白質やプロテインAな
どがある。また、目的とする蛋白質と精製用タグとの間に特異的プロテアーゼにより認識
され、切断を受けるアミノ酸配列を予め挿入しておくことにより、該融合蛋白質を開裂さ
せて目的蛋白質のみを回収することが可能である。例えば、PreScission プロテアーゼ、
ファクターXa、トロンビン、エンテロキナーゼやコラゲナーゼ等を特異的プロテアーゼと
して用いたものがある。これらのプロテアーゼで切断された後、数個のアミノ酸が目的蛋
白質の末端に残存することがあるが、活性に影響を及ぼさない限りは目的蛋白質として本
発明の結晶作製に使用することができる。例えばPreScission プロテアーゼ認識配列を目
的蛋白質のN末端に付加させるとグリシン-プロリンの2アミノ酸がN末端に残存し、トロン
ビンを用いるとグリシン-セリンの2アミノ酸が残存する。
【0027】
作製された変異体又はタグ付加体、プロテアーゼ切断後蛋白質等がPDK4活性を有するも
のであるとの確認は、例えば実施例12に記載した方法や、非特許文献4にて報告されてい
る方法で行うことができる。
【0028】
本発明にて結晶化を試みたPDK4は、本来溶解性が低く、通常の蛋白質調製溶液及び保存
条件では沈殿が生じやすい。よって、本発明の結晶化可能なPDK4は、なるべくは結晶化が
可能な蛋白質濃度を溶液状態で長期間維持することができ、沈殿形成を生じないものが好
ましい。更に好ましくは、当該溶液状態において長時間PDK4活性を維持しているPDK4が好
ましい。
【0029】
本発明のグリセロールにより安定化させたPDK4の溶液としては、例えば、結晶化に用いら
れる蛋白質濃度においても動的光散乱法において単分散状態を示す溶液が好ましい。
【0030】
本発明のPDK4の安定化溶液は、5〜30容量%グリセロールを含むことを特徴とする0.1〜3
0mg/mLの(濃度の)PDK4蛋白質溶液であり、より好ましくは、7〜25容量%グリセロールを
含むことを特徴とする0.5〜25mg/mLのPDK4蛋白質溶液、更に好ましくは10〜20容量%グリ
セロールを含むことを特徴とする1〜20mg/mLのPDK4蛋白質溶液である。
【0031】
本発明のグリセロールにより安定化されたPDK4蛋白質溶液は、必要量のグリセロールと
PDK4の他、適当な組成試薬を含んでいてもよい。当業者であれば適切な組成試薬及び濃度
を適宜選択し、好ましいPDK4蛋白質溶液を調製することができる。例えば、精製水に対し
必要量のグリセロールとPDK4の他、
(a)緩衝剤:1〜500mMのNa-HEPES、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、Tris-HClなど
(b)添加塩:0.05〜1Mの塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウムなど
(c)還元剤:0.1〜10mMのβ-メルカプトエタノール、ジチオスレイトールなど
を単独又は任意に組み合わせて添加することで、pH4〜11、好ましくはpH7〜10のPDK4蛋白
質溶液が調製される。尚、各溶質成分の添加の順序は特に問われない。
【0032】
かかる溶液は、結晶化に用いる蛋白質溶液としてそのまま、又は、必要に応じ更に、保
存剤や安定化剤、界面活性剤等を添加してもよい。本発明には、これらのいずれの安定化
されたPDK4蛋白質溶液をも包含される。
【0033】
また、本発明の結晶作製に供するPDK4蛋白質を精製する工程において用いる各種緩衝液
(溶解緩衝液、洗浄緩衝液、透析緩衝液、希釈緩衝液、ゲルろ過緩衝液等)は、必要量の
グリセロールを含む溶液が好ましく、上記の蛋白質溶液と同様に、当業者であれば適切な
組成試薬及び濃度を適宜選択し、必要に応じ界面活性剤等の他の試薬を添加することで、
好ましい緩衝液を調製することができる。
【0034】
なお、こうして調製された本発明の安定化されたPDK4蛋白質溶液には、結晶化に必要な
工程、例えばPDK4蛋白質溶液の濃縮・希釈・蒸気拡散等のいずれかひとつ以上の工程にお
いて形成され又は再現されたものが含まれるが、好ましくは、結晶化の開始時点(沈殿剤
添加前)の蛋白質溶液として調製されたものであり、結晶化に適当な4℃〜30℃までの間
のいずれかの温度にて、30分以上、好ましくは1時間以上沈殿を形成することなく溶液状
態が安定に保たれる性質を満たしていれば、一旦溶液が形成された後は、その後の溶媒や
試薬の蒸発・混合等による経時的組成の変化は問わない。
【0035】
本発明の結晶化可能なPDK4は、それを用いて得られる結晶がX線結晶構造解析に供した
際に少なくとも10Å以下の分解能、好ましくは4.0Å以下の分解能、より好ましくは3.4Å
以下の分解能、更に好ましくは2.8Å以下の分解能、特に好ましくは2.2Å以下の分解能を
与えるだけの品質を有していることが好ましい(「Introduction to Protein Structure
タンパク質の構造入門」Carl Brandon & John Tooze, 勝部幸輝ら翻訳、教育社、1992年
、276-277頁)。
【0036】
1−2 蛋白質の結晶の作製
次いで、PDK4の結晶を作製する。蛋白質を結晶化する方法としては、蒸気拡散法、バッ
チ法、透析法などの一般的な蛋白質結晶手法を用いることができる。また、蛋白質の結晶
化においては、蛋白質濃度、塩濃度、pH、沈殿剤の種類、温度等の物理的及び化学的因子
の決定が重要であり、これらの因子の決定については当業者に一般的に知られている。従
って、複数のパラメーター(例えば沈殿剤、pH及び塩濃度)を能率よく調べるために、フ
ェーズダイアグラムを作成しておくことが好ましい。一旦結晶が析出した後は、さらにパ
ラメーターを細かく変えて最良の結晶が出現する条件を精密化する。
【0037】
(1)「蒸気拡散法」とは、沈殿剤を含む蛋白質溶液の液滴を、より高濃度の沈殿剤を含
む緩衝液(外液)の入った容器中に置き、密封後静置する方法である。液滴の置き方によ
って、ハンギングドロップ法及びシッティングドロップ法があるが、本発明ではいずれの
方法も採用することが可能である。ハンギングドロップ法は、蛋白質溶液の小さな液滴を
カバーグラス上に配置し、カバーグラスを溶液溜め(リザーバー)上で反転させ、密封す
る方法である。一方、シッティングドロップ法は、リザーバー内部に適切な液滴台を設置
し、蛋白質溶液の小滴を液滴台上に配置し、カバーグラス等でリザーバーを密封する方法
である。この場合、リザーバー中の溶液には沈殿剤を含有させ、また沈殿剤は蛋白質小滴
中にも少量含有させることが好ましい。
【0038】
蒸気拡散法で使用する沈殿剤溶液は、当業者であれば適切なものを任意に調製すること
ができる。例えば以下の(a)〜(c)の成分を含有するように適宜組合せて調製する。
【0039】
(a)沈殿剤:分子量400〜10000、1〜50容量%のポリエチレングリコール(PEG)又は0.2
〜3Mの硫酸アンモニウムや、1〜20容量%のMPD(メチルペンタンジオール)、5〜10容量%
のイソプロパノールなど
(b)添加塩:0.05〜0.3Mの塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウムなど
(c)緩衝剤:pH3〜9、1〜500mMのNa-HEPES、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、Tris
-HCl、酢酸ナトリウム、クエン酸など
なお、成分としては上記に限られるわけではなく、当業者が通常使用する成分を適宜使用
し得る。
【0040】
(2)「バッチ法」とは、蛋白質溶液に沈殿剤溶液を少しずつ加え、わずかに濁ったとこ
ろで不溶物を遠心分離して除去し、上清を小さな試験管に入れて密封した後に静置する方
法である。
【0041】
(3)「透析法」とは、蛋白質溶液を沈殿剤の入った緩衝液(外液)に対して、半透膜を
用いて透析する方法である。
【0042】
PDK4が溶解している溶液(蛋白質溶液)に、沈殿剤を添加してPDK4の結晶を析出させる
ことができる。上記蛋白質溶液の溶媒としては、水又は緩衝液等が挙げられる。緩衝液と
しては、例えば20mM Tris-HCl pH8.0、150mM NaCl等が使用可能である。「添加して」と
は、蛋白質溶液と緩衝剤溶液を接触させることも含む。例えば、以下の条件に限定するも
のではないが、PDK4の場合、蒸気拡散法を用い、pH=7.0〜10.0、蛋白質濃度1〜20mg/mL、
温度20℃の条件下で、沈殿剤として硫酸アンモニウムを用いた場合に、X線結晶解析に適
した結晶を得ることができる。結晶作製に好ましい条件としては、1.4〜2.0M 硫酸アンモ
ニウム、0.1M Na-HEPES(pH 7.1〜8.1)、1〜5容量%ポリエチレングリコール400を含む沈
殿剤溶液、及び1〜20mg/mLのPDK4を溶解させた溶液を用いた場合に、適した結晶を得るこ
とができる。さらに好ましい沈殿剤溶液として、1.7M 硫酸アンモニウム及び0.1M Na-HEP
ES(pH 7.1)、2容量%ポリエチレングリコール400を含む溶液を選択することができる。
本発明の結晶作製方法は、PDK4の精製過程において糖鎖処理をする工程を含むことが好ま
しい。
【0043】
本発明のPDK4の結晶は、配列番号2及び4で示すアミノ酸配列で表わされる天然のPDK4の
結晶、配列番号6に示されるアミノ酸配列の14番目のグリシンから407番目のメチオニンか
らなるアミノ酸配列で表わされるPDK4の結晶、及び配列番号6で表されるアミノ酸配列の1
6番目のバリンから407番目のメチオニンを含むアミノ酸配列で表されるPDK4の結晶等を含
む。
【0044】
本発明のPDK4の結晶は、ATPや活性調節物質等が結合していないPDK4のアポ結晶及びPDK
4リガンドが結合した複合体結晶を含む。さらにPDK4リガンドが結合した複合体結晶とは
、ATPアナログが結合した複合体結晶、及びPDK4活性調節物質が結合した複合体結晶を含
む。
【0045】
尚、複合体結晶を作り得るATPアナログとは、ATP様の骨格構造を持つものであり、ATP
結合サイトに結合でき得る限り、化学修飾が施されたものや塩を形成させたものであって
も良い。例えば、ATP、ADP、AMP、AMPPNP(5’-アデニリルイミドジホスフェート)、AMP
-PCP(5’-アデニリルメチレンジホスフェート)、AMP-PCF2P(5’-アデニリルジフルオ
ロメチレンジホスフェート)、ATPαS、ATPγS、ジブチリル-cAMP、GTPγSなどである。PDK4活性調節物質とは、PDK4に結合することでPDK4の活性に程度に関わらず何らかの影響を及ぼす物質のことであり、PDK4の活性を抑制するPDK4阻害剤、活性を促進するPDK4活性促進剤、PDK4安定化剤などを含む。好ましいPDK4阻害剤は、実施例12に示す測定系に添加するとPDK4の活性に阻害効果を示す化合物であり、例えば3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4-(4-メトキシフェニル)-5-メチル-1H-ピラゾール(化合物A、LaboTest)である。
【0046】
アポ結晶は酵素反応が始まる前の状態を表わし、ATPアナログが結合した結晶は酵素反
応を開始するための準備が整い、基質を受け入れる直前の状態を表わす。
【0047】
PDKはホモ二量体として存在し、活性を示す酵素であり、本発明のPDK4もホモ二量体と
して存在し得る。
【0048】
複合体結晶は、ATPアナログ又はPDK4活性調節物質を溶解させた溶液をPDK4蛋白質溶液
に添加した溶液を用いて、下記に示すような共結晶化によって作製することができる。
【0049】
複合体結晶の作製は、(A)結晶化可能なPDK4を調製する工程;及び(B)PDK4と結合し得る
化合物とPDK4を接触させる工程、並びに(C)PDK4と他の化合物の複合体を結晶化する工程
を含み、上述した蒸気拡散法、バッチ法、透析法などの一般的な蛋白質結晶化手法を採用
して当該複合体を結晶化させることができる。
【0050】
(C)の工程はさらに、(C-1)PDK4の複合体を含有する溶液と沈殿剤を含有する溶液を接触
させる工程;(C-2)結晶を生成させる工程;及び(C-3)結晶を単離する工程;を含み得る。
PDK4を含有する溶液と沈殿剤を含有する溶液を接触させる工程は、例えば、透析膜を介し
た接触、ハンギングドロップ法におけるシールされた空間を介する接触、溶液同士の混合
などにより行うことができる。結晶を生成させる工程は、PDK4と他の化合物を含有する溶
液における蛋白質及び沈殿剤の濃度の緩やかな上昇による蛋白質の過飽和状態を生じさせ
ることにより実現される。またこの工程は、蛋白質溶液に種結晶を導入することによって
も実現され得る。
【0051】
本発明のPDK4の結晶は、ほとんど不純物を含まず、再度溶解した場合にも活性を有して
いる。
【0052】
また、上述の共結晶化法以外にもソーキング法(浸漬法)を用いることで複合体結晶を
作製することができる。すなわち、本発明のPDK4の結晶を作製した後に、化合物等を溶解
させた当該結晶が安定に存在しうる溶液(人工母液)に当該結晶を浸漬させることで化合
物等の導入や置換を行い、複合体結晶を作製することができる。
【0053】
本発明の結晶は、X線結晶構造解析に供した際に少なくとも10Å以下の分解能、好まし
くは4.0Å以下の分解能、より好ましくは3.4Å以下の分解能、更に好ましくは2.8Å以下
の分解能、特に好ましくは2.2Å以下の分解能を与えるだけの品質を有していることが好
ましい。
【0054】
1−3 結晶のX線結晶回折
蛋白質の3次元構造を明らかにする手法として最も一般的に行われているものは、X線
結晶構造解析の手法である。すなわち、蛋白質を結晶化し、その結晶に単色化されたX線
を当て、得られたX線の回折像をもとに、蛋白質の3次元構造を明らかにしていくもので
ある。本発明はPDK4の構造座標を決定する方法を提供する。当該方法は、以下の工程を含
むことを特徴とする:
(A)PDK4の結晶を作製する工程;及び
(B)(A)により得られた結晶を用いたX線結晶構造解析によりPDK4の構造座標を取得する工

(A)の工程は上記「1−2」において説明したとおりである。(B)の工程はさらに、(b-1)(
A)により得られた結晶にX線を照射し回折データを取得する工程;(b-2)(b-1)により得ら
れた回折データの解析により蛋白質の電子密度図を取得する工程;及び(b-3)(b-2)により
得られた電子密度図の解析により蛋白質の構造座標を取得する工程;を含み得る。複合体
結晶の構造解析は、実験室のX線回折計又は大型放射光施設(ESRF、APS、SPring-8、PF
、ALS、CHESS、SRS、LLNL、SSRL、Brookhavenなど)を用いて、振動写真法やラウエ法に
よってイメージングプレート又はCCDカメラなどの2次元検出器を用いて回折データの収
集を行い、該データより蛋白質の3次元構造をX線結晶構造解析により明らかにすること
ができる。具体的には、X線回折実験により収集された回折イメージをデータ処理ソフト
ウェアで処理することで、個々の回折斑点の指数と積分によって得られた回折強度を算出
できる。これらの回折斑点の回折強度と位相情報を用いて逆フーリエ変換を行うことで3
次元空間の電子密度を導くのであるが、回折実験では電子密度の計算に必要な各回折斑点
の位相の情報を測定することは原理的に不可能である。そこで電子密度を得るために、分
子置換法、重原子同型置換法、多波長異常分散法(MAD法)又はそれらの改変法によって
、失われた情報である位相を推定する。こうして得られた電子密度図に合わせて、3次元
モデルをグラフィックスワークステーション上で稼動するソフトウェアを用いて構築する
。このモデル構築の後、最小二乗法、最尤法、Simulated Annealing法などによる構造の
精密化を行うことで最終的な複合体の3次元構造を得る。
【0055】
MAD法においては放射光を使って、入射X線波長を変えて結晶の回折データを測定する
。MAD法に使うことのできる放射光は、例えば大型放射光施設SPring-8構造生物学ビーム
ラインI(BL41XU)により発生させることができる。
【0056】
蛋白質結晶はX線照射により損傷を受け、回折能が劣化する場合が多いため、低温測定
により高分解能のX線回折を行うことが好ましい。低温測定とは、結晶を急激に-173℃程
度に冷却凍結して、その状態で回折データを収集する方法である。一般に、蛋白質結晶の
凍結には、凍結による結晶の崩壊を防ぐ目的で、グリセロールなどの保護剤を含む溶液で
処理するなどの工夫がなされる。凍結結晶は、例えば保護剤を添加した保存液に浸漬した
結晶を、液体窒素に直接浸漬して瞬時に凍結させることにより調製することができる。
【0057】
X線回折データは、蛋白質の3次元構造を詳細に解析できるように、少なくとも10Å以
下の分解能、好ましくは4.0Å以下、より好ましくは3.4Å以下、更に好ましくは2.8Å以
下、特に好ましくは2.2Å以下の分解能に回折する結晶で収集する。
【0058】
一旦、特定の結晶化条件で結晶化したPDK4の結晶構造を解析すれば、該構造データに基
づいて、他の結晶条件で結晶化した他の結晶タイプのPDK4の結晶構造は、分子置換法(例
えば、Blundell,T.L.及びJohnson,L.N.,PROTEIN CRYSTALLOGRAPHY,第443-464頁(1976),Ac
ademic Press, New York.)の手法により解析することができる。分子置換法とは、同じ
機能を有する既知の蛋白質構造を初期モデルとして構造が未知の蛋白質の位相角結晶構造
を決定する方法であり、具体的な手法は、Methods in Enzymology, 115, 55-77(1985), M
.G. Rossman編等に記載されている。分子置換法を行う際には、分子置換法に用いるプロ
グラムが動作するように調整されているコンピュータを用いる。該プログラムは、例えば
X-PLOR(アクセルリス社より市販)やAMORE(CCP4(Collaborative Computational Project
,Number4.Acta Crystallogr. D50, 670-673(1994))のプログラム群の1つ)などがあるが
、その他のプログラムを用いても良い。
【0059】
本発明者は、PDK4の結晶の構造を、X線による結晶構造解析技術を用いて解析した。配
列番号6に示されるアミノ酸配列の14番目のグリシンから407番目のメチオニンからなるア
ミノ酸配列を有する。PDK4の結晶は、単斜晶系P21に属するものであり、単位格子としてa
軸、b軸及びc軸の方向格子長とβの角度がa=71±4Å、b=69±2Å、c=80±6Å、β=101±2
°の大きさを有する。すなわち、本発明のPDK4の結晶は、単位格子定数がa=71±4Å、b=6
9±2Å、c=80±6Å、β=101±2°であることを特徴とする。更に、PDK4の結晶を用いたX
線回折による結晶構造解析の手法により、PDK4の3次元構造座標(各原子の空間的な位置
関係を示す値)が得られる。得られた構造座標を、当業者において一般的に用いられてい
る蛋白質の3次元の構造座標の表記方法に従って表したものを表1、表3及び表5に示す。
表1はPDK4-AMPPNP複合体結晶を用いて1.85Åの分解能で決定された原子座標(構造座標)
であり、表3はPDK4-化合物A複合体結晶を用いて2.53Åの分解能で決定された原子座標(
構造座標)であり、表5はPDK4-ADP複合体結晶を用いて2.40Åの分解能で決定された原子
座標(構造座標)である。
【0060】
表1、表3及び表5のデータは、プロテインデータバンク(PDB)のフォーマット(http://ww
w.wwpdb.org/documentation/format23/v2.3.html)に準じて記載されているものである。P
DBフォーマットは、蛋白質分子を構成するそれぞれの原子の座標等を記載したものであり
、生体高分子の座標を扱う際の標準的形式の一つである。表1に記載の記号又は数字にお
いて、最も左側の列(第1列目)に記載の「ATOM」又は「HETATM」は、原子座標の原子一
つ一つを意味する。その右側の列(第2列目)の数字は原子の通し番号であり、その右側
の列(第3列目)に記載のアルファベットは原子の種類を意味する(下記参照)。
C:炭素原子、N:窒素原子、O:酸素原子、S:硫黄原子、等
【0061】
ここで、上記原子の右側に併記したアルファベット(A、B、D、G等)は、その原子の位置
関係を示すものであり、例えばCA、CB、NE、NZ、OE、SG等のように記載する。
【0062】
さらに、上記原子の種類を示すアルファベットの右側の列(第4列目)に記載したアル
ファベットは、この原子が属するアミノ酸残基又は化合物、水分子を意味し、3文字表記
されている(例えば「GLU」「LYS」「VAL」「HOH」等)。さらにその右側の列(第5列目
)のアルファベット(A、B、C、D等)は、蛋白質鎖又は化合物、水分子等の識別記号であ
る。さらにその右側の列(第6列目)に記載の数字は、蛋白質鎖においては配列番号2に示
されるアミノ酸配列のN末端からのアミノ酸残基番号を意味し(但し、19と記してあるプ
ロリンはプロテアーゼ処理後に残存した付加配列由来のアミノ酸であり、便宜上19番目と
記してある)、蛋白質鎖以外の化合物や水分子等においては分子識別番号を意味する。さ
らに、この数字の右側の列(第7列目)から第9列目までは、順にX座標(a座標)(オング
ストローム単位)、Y座標(b座標)(オングストローム単位)、Z座標(c座標)(オング
ストローム単位)を示す。さらにその右側の列(第10列目)から最も右側の列(第12列目
)に向かって、順に占有率(「1.00」等)、等方性温度因子、原子記号(C、N、O、S等)
を意味する。
【0063】
2.PDK4の構造座標
本発明はPDK4の構造座標、具体的には、PDK4の二量体であって、AMPPNP、ADP又は化合
物Aが2分子結合している複合体の結晶を用いたX線結晶構造解析により得られるPDK4の構
造座標を提供する。
【0064】
本発明において「構造座標」とは、結晶形態における蛋白質の原子に含まれる電子によ
るX線の回折により得られる個々の回折点の回折強度を数値化し、解析することによって
導かれる数学的座標であって、上記蛋白質の原子の位置を3次元座標として表したものを
意味する。すなわち構造座標とは、実質的には化学構造を構成する分子(原子)間の各距
離によって定まる空間配置を意味する。この空間配置をコンピュータ上で情報として処理
する場合には、相対的な配置をある座標系における特定座標として数値情報化する(座標
化という)が、これはコンピュータ処理を行うにあたり便宜上必要な処理であって、構造
座標の本質は、先に示した通り各分子(原子)間相互の距離によって定まる配置であって
、コンピュータ処理時に一時的に特定される座標値ではないと理解されるべきである。ま
た、本明細書中において原子座標とは、物質(蛋白質、アミノ酸など)を構成する個々の
原子についての座標を意味する。
【0065】
本発明において、上記原子座標で表される立体構造のほか、これの派生物も含まれる。
ここで、派生物とは上記原子座標を用いてコンピュータ上でホモロジーモデリング等によ
り得られる原子座標を有するものをいい、天然型のPDK4のアミノ酸配列(配列番号2及び4
からなる配列)と95%以上、好ましくは90%以上の相同性を有する蛋白質、又は天然型PD
K4のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸に欠失、置換又は付加等を有するアミノ
酸配列を有し、かつ天然型のPDK4と同等の生物学的活性を有する蛋白質の立体構造を示す
立体構造座標が含まれる。ここで、相同性は、例えば、BLASTプログラム(Basic Local A
lignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立
生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))を、例えばデフォルト
の条件で用いれば検定できる。
【0066】
これら派生物のアミノ酸配列の立体構造を構成するPDK4の原子座標が、天然型PDK4の立
体構造を構成する原子座標の派生物に含まれるか否かは、天然型PDK4の立体構造と、対象
となるPDK4派生物の立体構造とを比較し、蛋白質の主鎖を構成する原子群の位置のずれを
指標として解析することができる。主鎖を構成する原子群としては、Cα原子(アミノ酸
のα炭素原子)のみを採用してもよいし、又はN、Cα、C及びO原子を採用してもよい。具
体的には、天然型PDK4の原子座標により構成される立体構造及び派生物の原子座標により
構成される立体構造を、各立体構造の原子座標に基づいてそれぞれコンピュータ上で作成
し、それぞれの立体構造をコンピュータ画面上で重ね合わせ、各原子の位置どうしのずれ
を求める。
【0067】
原子座標のずれを表す指標として、構造座標ホモロジーRMSD(root-mean-square devia
tion/distance/displacement)を用いることができる。「RMSD」とは、任意の2分子の3次
元構造の類似性を表す最小自乗偏差の値をいい、ペプチドのRMSDは、例えば、ペプチドの
主鎖構造を構成する原子群(Cα原子のみ、あるいはN、Cα、C、O原子)の原子座標につ
いて求め得る。異なるアミノ酸配列を有するペプチド間において、ペプチド構造トポロジ
ーが類似している場合、RMSDは概ね3.0Å以内に収まることが多い。また、同一アミノ酸
配列を有するペプチドにおいても、空間群、格子定数などが異なる結晶から得られた原子
座標間のRMSDは、主鎖構造を構成する原子群から求めた場合、0.1〜1.0Åの範囲を取り得
る。
【0068】
蛋白質の立体構造はその構造を構成する原子の相対的な空間配置により定義されるもの
であり、構造座標化は立体構造をコンピュータ等で扱う上で必要な便宜的処理である。し
たがって、当業者であれば明らかなように、本発明のPDK4の構造座標を回転及び/又は並
進操作して得られる構造座標も、操作前の構造座標と全く同一の立体構造を表すものであ
る。
【0069】
さらに、本発明は上述の構造座標を格納(記録)したコンピュータ読み取り可能な記憶
媒体(記録媒体)を提供する。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体としては、格納した
構造座標をコンピュータ上の各種プログラム(例えば構造座標を利用するプログラム)上
に導くことができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、メモリと呼ばれ
る電気的な一時記憶媒体でも、フロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁
気ディスク、磁気テープなどの半永久的な記憶媒体でも良い。
【0070】
本発明の構造座標及び構造座標を格納した記憶媒体は、PDK4の活性調節作用を有する化
合物、特にPDK4の特異的な阻害剤のスクリーニング又は設計に使用することができ、有用
である。さらに本発明は、上述の構造座標により特徴付けられる立体構造を有するPDK4を
提供するものである。
【0071】
3. 構造情報を用いたスクリーニング又は設計方法
本発明のPDK4の構造座標を用いたPDK4活性調節物質のスクリーニング又は設計方法は、
以下の段階:
(a)被験物質の立体構造を構造座標化する段階;並びに
(b)(a)の構造座標及びPDK4の構造座標の全部又は一部を同一座標系上で重ね合わせ
て、両者の適合状態を評価する段階;
を含むことを特徴とする。すなわち、本発明の方法は、上記のPDK4の構造座標と任意の被
験物質の立体構造を表す構造座標とをコンピュータ上で適合させ、その適合状態を、例え
ば経験的スコアリング関数を指標とすることで数値化して、該被験物質のPDK4に対する結
合能を評価する方法である。ここでPDK4の構造座標としては、該構造座標の全体、及びPD
K4二量体化部位などの一部を利用することができる。
【0072】
本発明の方法は、スクリーニング又は設計されたPDK4活性調節物質を生化学的アッセイ
に供し、PDK4活性調節作用について評価する段階を更に含めることができる。
【0073】
本明細書においてPDK4活性調節物質とは、好ましくはPDK4特異的阻害剤をいう。
【0074】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質としては、蛋白質、ペプチド、オリゴ
ヌクレオチド、合成化合物、天然由来化合物、醗酵生成物、細胞抽出液、植物抽出液、動
物組織抽出液などが挙げられるがこれに限定されず、新規物質でも公知物質でもよい。
【0075】
本発明によるPDK4の結晶から得られる構造座標を、分子の3次元構造座標を表現するコ
ンピュータプログラムが動作するコンピュータ又はそのコンピュータの記憶媒体に入力す
ることで、PDK4の3次元的な化学的相互作用の様式を詳細に表現することが可能になる。
コンピュータの記憶媒体としては、PDK4の結晶から得られる構造座標をコンピュータの該
プログラム上に導くことができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、メ
モリと呼ばれる電気的な一時記憶媒体でも、フロッピーディスク、ハードディスク、光デ
ィスク、光磁気ディスク、磁気テープなどの半永久的な記憶媒体でも良い。蛋白質分子の
3次元構造座標を表現するコンピュータプログラムは多数市販されているが、これらプロ
グラムは、一般に、分子の3次元構造座標の入力手段、該座標をコンピュータ画面に視覚
的に表現する手段、表現された分子内における各原子間の距離や結合角などを測定する手
段、該座標の追加修正を行う手段などを提供する。更に、分子の座標を元に分子の構造エ
ネルギーを計算する手段、水分子などの溶媒分子を考慮して自由エネルギーを計算する手
段を提供することができるように作成されたプログラムを用いることも可能である。アク
セルリス社から市販されているコンピュータプログラムであるInsightIIやQUANTAは、該
目的に好適なプログラムの例であるが、本発明はこれらのプログラムに限定されるもので
はない。また、該プログラムは、通常シリコングラフィクス社やサンマイクロシステムズ
社などから供給されているワークステーションと呼ばれるコンピュータに導入されて使用
されるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
目視及び/又はコンピュータプログラムによりPDK4活性部位、PDK4活性中心等のリガン
ド又は化合物等の結合部位を構成するアミノ酸残基を特定する段階とは、蛋白質とリガン
ド又は化合物等の分子間の接触面を目視/又はコンピュータプログラムにより解析し、そ
れらの相互作用に関わっているアミノ酸残基を特定する段階である。このとき、アミノ酸
残基間の相互作用の距離、強さ、種類等を考慮して、相互作用に関わるアミノ酸を特定す
る。たとえば、PDK4結晶構造において、リガンド又は化合物等から数オングストローム以
内の距離に存在するPDK4のアミノ酸残基を抽出すれば、直接的な相互作用を有しているPD
K4上のアミノ酸残基を抽出可能である。相互作用の種類としては、静電相互作用、疎水性
相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合などがある。また、単に距離により相
互作用を特定するだけではなくアミノ酸側鎖の配向も考慮して相互作用を特定することが
好ましい。相互作用の強さは、距離、相互作用の種類、側鎖の配向、さらには水分子の存
在などにより影響される。コンピュータプログラムにより解析する場合は、リガンド又は
化合物等とアミノ酸残基間の距離を計算するプログラムや、分子軌道計算によりリガンド
又は化合物等とPDK4の各アミノ酸残基との相互作用エネルギーを見積もるプログラムなど
を用いることが可能である。また、モレキュラーダイナミクス(MD)計算により、水分子
を結晶構造中に配して動的解析計算(シミュレーション)を行うことによって動的な相互
作用情報を取得することが可能となる。MDから得られる平均構造やインデユースドフィッ
トに関する情報は、リガンドや化合物の探索やデザインに有用である。また、近接した距
離に、相互作用可能な複数のアミノ酸残基が存在する場合、どの残基のいかなる相互作用
が重要であるかを計算のみで導き出すのは難しい場合もある。その場合には目視により相
互作用の距離、強さ、種類等を総合的に考慮して、相互作用に関わるアミノ酸を特定する
ことが好ましい。
【0077】
被験物質の構造座標及びPDK4の構造座標の全部又は一部を同一座標系上で重ね合わせて
、両者の適合状態を評価する段階は、上述のような市販パッケージソフトウェアと、該ソ
フトウェアを作動可能なコンピュータシステムを用いることにより実施可能である。当該
コンピュータシステムは、例えば、化合物の構造式を格納する記憶手段、化合物の立体構
造を構造座標化する手段、化合物の構造座標を格納する記憶手段、PDK4の構造座標を格納
する記憶手段、評価結果を格納する記憶手段、各記憶手段の内容を表示させる手段、キー
ボード等の入力手段、ディスプレイ等の表示手段、中央処理装置等の、目的のソフトウェ
アを作動させるのに必要な各種手段を適宜含むものである。
【0078】
本明細書においては、解析用ソフトウェアとしてDOCKを用いた具体例を示すが、コンピ
ュータ上で蛋白質にリガンドをドッキングさせる操作が可能なソフトウェアであれば何を
用いても良く、例えばFlexX(トライポス社)、LigandFit(アクセルリス社)、Ludi(ア
クセルリス社)等を用いてもよい。
【0079】
まず、SPHGENプログラムを用いてPDK4活性調節物質が結合し得ると考えられるポケット
及びクレーブの周囲に対してスフェアと呼ばれる仮想の球体を配置する。この球体は、リ
ガンドをドッキングさせる際のアンカー(錨)として機能する。なお、スフェアの発生部
位は特定のポケット、クレーブに限定することも可能であるし、複数の部位に発生させる
こともできる。発生したスフェアの数が多い際には、近接するスフェアを手動で除去する
ことも可能である。
【0080】
次に、GRIDプログラムを用いてPDK4が相互作用を起こしている部分とその周囲に対して
グリッド(格子)を発生させ、指定された範囲の受容体残基における電子的及び立体的な
環境を、各グリッド上のスカラー値として表現する。なお、各グリッドの値を算出するた
めにAMBER(http://www.amber.ucsf.edu/amber/amber.html)等の力場を利用するが、他の
力場を使用してもよく、必ずしもAMBERに限定するものではない。また、蛋白質側の形状
によっては、グリッド情報を改変し、化合物のドッキングがより現実に近い形で表現され
るように調節することも可能である。
【0081】
次に、化合物データベースに対して検索を行う。DOCKプログラムを用いて、ポケット及
びクレーブの周囲に存在するスフェアの近傍に位置し、かつ、グリッド上の立体的要素又
は電子的要素と反発しないような3次元配座を取るような化合物を探索する。この際、ド
ッキングされた化合物の3次元配座は、DOCKプログラムに内蔵された配座発生機能により
最適化されるが、最終的に適切なドッキングが行われたかどうかは、ドッキング時のスコ
ア、目視等によって経験的な判断を加味して総合的に判断し、決定する。このようにして
適切なドッキングが行われていると判断された一連のヒット化合物群は、PDK4活性調節物
質と一定の確率でなり得る。
【0082】
以上の方法は、創薬開発の効率化を推進する。すなわち、PDK4の相互作用部位の性質及
び形状に適合する構造座標配置を予測し、これを埋めることの可能な構造を有する化合物
を計算により選択することで、多数の化合物からPDK4に特異的な活性制御物質を効率的に
選択することが可能となる。
【0083】
PDK4に対する活性調節作用の有無を確認しようとする候補物質(被験物質)は、公知又
は新規いずれであっても差し支えなく、その構造、由来、物性等にも特に制限はない。天
然化合物、合成化合物、高分子化合物、低分子化合物、ペプチド、核酸類似物のいずれで
もよい。将来的に医薬開発を行う上では低分子化合物であることが好ましく、例えばAvai
lable Chemicals Directory(ACD)(MDL information systems,Inc.,San Leandro,CA)、CMC
(Comprehensive Medical Chemistry)、MDDR(MDL Drug Data Report)等に登録されている
化合物情報は有益である。
【0084】
この様な低分子化合物の立体構造を座標化するプログラムとしては、CORINA(http://ww
w2.chemie.uni-erlangen.de/software/corina/index.html)、Concord(http://www.tripos
.com/sciTech/inSilicoDisc/chemInfo/concord.html)、あるいはConverter等が利用可能
である。この様にして座標化した低分子化合物とPDK4との結合は、分子ドッキングパッケ
ージDOCK等を使用して自動的に行わせることも可能であるし、InsightII等の分子表示ソ
フトウェアを用いて対話的に行うことも可能である。その際、これらのプログラムを用い
て適合状態を評価する際の指標としては、結合体全体の自由エネルギー計算値、経験的ス
コアリング関数、形の相補性の評価などを任意に選んで使用することができる。この指標
により、結合の良否を客観的に評価することが可能となる。
【0085】
4.ファルマコフォアを用いたPDK4活性調節物質のスクリーニング方法・設計方法
ファルマコフォアとは、標的蛋白質に結合するために必要とされる、化合物上の物理化
学的特徴である。ファルマコフォアは、化合物の構造上の物理化学的特徴を特性球として
表し、特性球間の相対距離を決定することで定義することができるし、特定の官能基間の
相対距離を決定することで定義することも可能である。その他、当業者が通常用い得る手
法を任意に使用してファルマコフォアを定義可能であり、前述の方法に限定されるもので
はない。
【0086】
特性球は、疎水性、帯電性、水素結合を形成し得る能力、などの種々の物理化学的性質
を保持した空間的領域を意味する。例えば、ファルマコフォア構築プログラムであるCata
lyst(Accelrys Inc.,San Diego,CA)においては、「Hydrogen-bond Acceptor(さらに、Hy
drogen-bond Acceptor lipidを分類することもできる)」、「Hydrogen-bond Donor」、
「Hydrophobic(さらに、Hydrophobic AromaticとHydrophobic Aliphaticを分類すること
もできる)」、「Negative Charge」、「Negative Ionizable」、「Positive Charge」、
「Positive Ionizable」、「Ring Aromatic」の8種類の特性球が示されているが、該プ
ログラムのユーザーが新たな定義を加えることも可能であり、上記の構成要素以外を利用
することも可能である。すなわち、疎水性領域、水素結合受容体領域、陽イオン領域、環
状芳香族性領域、等を物理化学的性質として規定し、これら該物理化学的性質を有するÅ
半径の球状の領域として、特性球を表すことができる。各特性球に適合する原子や官能基
の例は、例えばCatalystなどのプログラムに付属のマニュアルに定義されている(Accelry
s Inc.,Catalyst Documentation Release 4.5,1999)。
【0087】
PDKファミリーには少なくとも四つの異なるリガンド結合部位が確認されており、それ
らは触媒ドメイン上のATP結合部位、並びに調節ドメイン上に位置するピルビン酸デヒド
ロゲナーゼ複合体のE2のL2ドメイン結合部位、アロステリック結合部位及びDCA結合部位
を含む。換言すれば、本発明のPDK4活性調節物質は、PDK4のこれらのリガンド結合部位に
選択的に適合可能な、一定の物理化学的性質を有する特性球相互の構造座標を満足させる
化学構造で表される物質として規定される。
【0088】
PDK4の複合体結晶構造情報を解析することで、既に記述したアミノ酸残基の立体的配置
や構造水の三次元的な配置が与える性質をファルマコフォアとして規定することにより、
PDK4活性調節物質をコンピュータによってスクリーニングが可能となる。また、複合体を
形成する上で、分子間に存在する水分子(構造水)も、複合体形成に役割を果たすことが
あり、これを介した蛋白質間の相互作用は、グラフィックス観察などによって特定される
。更に、相互作用可能なアミノ酸残基や水分子のうち、特に、疎水的な相互作用・イオン
結合・水素結合を形成している部位やアミノ酸残基、更には、複合体構造のPDK4の活性コ
ンフォメーションが与える分子形状(ポケットや、クレーブ)を解析することで、分子設
計や、コンピュータスクリーニングに必要なファルマコフォアを提示することが可能とな
る。
【0089】
4−1 ファルマコフォアの設計方法
本発明は、PDK4構造座標を用いることを特徴とする、ファルマコフォアの設計方法を提
供する。ここでいうファルマコフォアとは、PDK4のファルマコフォアを意味する。ファル
マコフォアの設計方法は、PDK4の構造座標により表される3次元構造を(目視及び/又は
適切なコンピュータプログラムにより)解析し、ファルマコフォアとして使用し得る部分
構造(アミノ酸残基、構造水、ポケット、クレーブ等)を特定する工程;及び、該部分構
造を特性球に変換し、ファルマコフォアを発生させる工程を含み得る。ファルマコフォア
として使用し得る部分構造を特定する工程は、上記の手段に準ずる。部分構造を特性球に
変換し、ファルマコフォアを発生させる工程は、Catalystなどの市販のソフトウェアと該
ソフトウェアを作動可能なコンピュータシステムを用いることにより実施可能である。
【0090】
特性球の3次元空間上における相対的な位置関係を設定することによって、Catalyst上
の検索式(ファルマコフォア)が構築可能である。なお、規定の方法は、座標(x,y,
z)による規定でも、各点を結ぶ直線距離の集合による規定であっても構わない。また、
実際に受容体と相互作用可能な距離、計算上の誤差等を考慮にいれると、各々の化学的機
能の距離関係は必ずしも厳密である必要はない。Catalystでは各化学的機能の位置は、各
点を中心とした半径1.5〜2.0Åの球内、あるいは、各点を結ぶ直線距離±3〜4Å
の範囲によって定義されるのが一般的であるが、この数値は適宜変更することもできる。
【0091】
本発明のPDK4の構造座標を用いたファルマコフォアの設計方法において、PDK4の構造座
標としては、上記の方法で同定したPDK4の構造座標を用いることができる。後述するホモ
ロジーモデリング法や分子置換法によりPDK4の構造座標を用いて取得したリガンド/受容
体複合体の構造座標を用いることにより、PDK4の活性調節物質のスクリーニングに有用な
ファルマコフォアの設計を同様の方法で行うことが可能である。
【0092】
又はファルマコフォアは、前述のコンピュータを用いたスクリーニング方法や実験的ス
クリーニング方法で得られたPDK4活性調節作用を示す化合物を基に、これら化合物に共通
して存在する化合物に共通する構造上の特徴を特性球として表し、特性球間の相対距離を
決定することで定義することができるし、特定の官能基間の相対距離を決定することで定
義することも可能である。
【0093】
また、化合物により蛋白質に結合する部位が異なると、全ての化合物に共通する物理化
学的性質が存在しない場合がある。この場合は、化合物を適切にクラスタリングした後、
各クラスター内で共通する物理化学的性質を決定する必要がある。
【0094】
4−2 ファルマコフォアを用いたスクリーニング方法
本発明はファルマコフォアを用いたPDK4活性調節物質のスクリーニング方法を提供する
。特定されたファルマコフォアを用いて、PDK4活性調節物質を見出すことが可能となる。
ここでは、解析用ソフトウェアとしてCatalyst(アクセルリス社)を使用した例を示すが
、リガンドからの化学的機能の抽出及び抽出した化学的機能と類似した空間配置を取り得
る化合物の検索が可能なソフトウェアであれば何を用いても良く、例えばSybyl(トライ
ポス社)のモジュールであるUnity等を用いてもよい。この際、化合物のクラスタリング
が必要であれば、Daylight Clustering Package(Daylight Chemical Information System
s,Inc.,Mission Viejo,CA)等のプログラムを使用することが可能である。
【0095】
設計したファルマコフォアを用いて、あらかじめ準備したコンピュータスクリーニング
用の化合物構造データベースを対象としてスクリーニングを実施する。ファルマコフォア
の情報とある化合物の立体構造の空間配置とを比較し、該化合物がファルマコフォアの性
質を満足させるものであるかどうかを計算により決定する。コンピュータスクリーニング
の利点として、検索対象が理論上考え得る全ての化合物の部分集合であることが挙げられ
る。通常は、自社で保有する化合物のデータベース、市販化合物データベース、例えばAv
ailable Chemical Directory(MDL社)や各化合物販売会社・代理店が作成したデータベ
ース、又はバーチャルコンビナトリアル合成手法等を用いて発生させた仮想化合物のデー
タベース、天然物由来の化合物データベース、医薬品データベース等をコンピュータ検索
用に変換して用いる。
【0096】
上記コンピュータスクリーニングによりヒットした化合物群はPDK4のファルマコフォア
に結合する可能性を有する化合物であるため、PDK4活性調節物質となり得る可能性が、一
定の確率で発生する。
【0097】
ファルマコフォアを用いたスクリーニング方法は、(1)被験物質の立体構造を構造座
標化する段階、及び(2)(1)の構造座標とファルマコフォアを規定する特性球の構造
座標とを同一座標系上で重ね合わせ、両者の適合状態を評価する段階を含み得る。ここで
ファルマコフォアとは、PDK4活性調節物質のファルマコフォアを指す。このとき、(1)
の構造座標がファルマコフォアにおける少なくとも3点以上の特性球の相対配置及び特性
を満足させることが望ましい。これらの工程は上述した市販のソフトウェア及び当該ソフ
トウェアを作動可能なコンピュータシステムを用いることにより実行可能である。
【0098】
また、検索式でヒットした化合物群をデータベース化し、引き続き蛋白質構造を市販の
ドッキングソフトウェアに適用することによってヒット率を増すこともできる。
【0099】
また、PDK4に対して結合する化合物は、DOCK等を用いてコンピュータスクリーニングす
る際に有効なフィルターとして使用することができるし、各ファルマコフォアに対して適
合するフラグメントを配置した後に各フラグメントを適当な官能基で結合させて化合物を
構築するDe Novo設計的使用も可能である。
【0100】
4−3 ファルマコフォアを用いた設計方法
本発明のPDK4の構造座標を用いることでPDK4活性調節物質の分子設計(活性上昇、選択
性付与など)も可能となる。
スクリーニングでヒットした化合物や、その誘導体の結合モデルを構築することで、得
られた化合物の誘導最適化に活用することが可能となる。例えば、スクリーニングによっ
て得られたPDK4活性調節物質を、PDK4とコンピュータによってドッキングモデル構造を予
測することも可能である。このモデル構造は、化合物と近傍のアミノ酸残基との相互作用
を増強させるような誘導方向性を見出す上で、また、活性には影響を与えずに、代謝、毒
性などの改善を進める上で適当な方向性を提示しうるため、非常に有用である。加えて、
薬理試験や代謝試験における種差の考察や、副作用軽減を目的として標的蛋白質に対する
選択性を向上させるための誘導合成を支援する上で最も有用な情報を提供する。
【0101】
ファルマコフォアを用いたPDK4活性調節物質の設計方法は、(1)ファルマコフォアの
各特性球に対応する官能基を有する各フラグメント群を作成する段階;及び(2)(1)
で作成した各フラグメント群より一つずつ選択された各フラグメントを結合させて、化合
物を設計する段階;を含み得る。さらに、(3)設計した化合物の構造座標とPDK4構造座
標又はファルマコフォアを同一座標系上で重ね合わせて両者の適合状態を評価する段階;
(4)化合物の1つ以上のフラグメントを、近傍のアミノ酸残基との相互作用を増強又は
減弱させる性質を有するフラグメントに置換する段階;並びに(5)(3)及び(4)を
反復する段階;を含んでもよい。
【0102】
(1)の工程は、ファルマコフォアの各特性球に対応する官能基を有するフラグメント群
を作成する工程である。本発明においてフラグメントとは、化合物の部分構造を意味する
。例えば、一つのファルマコフォアの特性球に相当する官能基を有するフラグメントを収
集し、フラグメント群とする。また別のファルマコフォアの特性球に相当する官能基を有
するフラグメントを収集し、フラグメント群とする。このようにして、各条件に相当する
官能基を有する各フラグメント群を作成する。この時複数のファルマコフォアを満たす官
能基を有するフラグメント、又はファルマコフォアを満たす官能基ともう一つのファルマ
コフォアを満たす官能基を同時に有するフラグメントを収集してもよい。フラグメントの
収集の仕方は特に限定するものではない。例えば、PDK4活性調節物質からフラグメントを
収集してもよい。収集した一つのフラグメントに置換基をつける、炭素鎖を伸張又は縮減
する、原子を置換する等の操作により、新たなフラグメントを作成してもよい。このとき
には、既知のPDK4活性調節物質を改善するようなフラグメントの作成がより有用である。
例えば、PDK4活性調節物質との間に存在する水分子(構造水)もまた、両者の複合体形成
に役割を果たすことがあり、これを介したPDK4活性調節物質間の相互作用は、グラフィッ
クス観察などによって特定できる。更に、相互作用可能なアミノ酸残基や水分子のうち、
特に、疎水的な相互作用・イオン結合・水素結合を形成している部位やアミノ酸残基、更
には、複合体構造のPDK4活性調節物質の活性コンフォメーションが与える分子形状を解析
することよって観察できる。このようにして、既知PDK4活性調節物質と近傍のアミノ酸残
基との相互作用を増強させるような誘導の方向性を見出したり、又は、活性には影響を与
えずに、代謝、毒性などの薬理学的な改善を進める上で適当な方向性を提示するための新
たなフラグメントの創作が可能である。
【0103】
次に、上述のように作成したフラグメント群より一つずつ選択された各フラグメントを
結合させて、化合物をモデル構築する。例えば、紙上において、段階(1)で決定した各
フラグメント群より一つずつ選択された各フラグメントを結合させて、化合物をモデル構
築してもよい。好ましくはコンピュータソフトウェアを用いて化合物をモデル構築する。
用いるソフトウェアは、化合物の構造を構築可能なソフトウェアであればいずれのソフト
ウェアを用いてもよく、例えばLudi(アクセルリス社)又はSybyl(トライポス社)のモ
ジュールであるCombiLibMaker等を用いることができる。
【0104】
フラグメントを結合させるとは、フラグメント同士を直接結合させること、及びフラグ
メントの間にリンカーを用いることによりリンカーを介して両者を結合させることが含ま
れる。使用するリンカーは特に限定されず、例えば、直鎖又は側鎖を有する炭化水素の基
、前記炭化水素の基がヘテロ化合物で置換された基等が挙げられる。
【0105】
また、PDK4結晶構造とL2ドメインとのドッキングモデル中の連続した配列中に存在する
相互作用に関わるL2ドメインのアミノ酸残基を有するペプチドを設計することによって、
低分子化合物にミミックすることも可能である。
【0106】
上記方法は、単独で用いるのみでなく、組み合わせたり反復して用いることが可能であ
る。例えばPDK4の構造座標を用いた化合物のスクリーニングを行った後、ヒット化合物を
さらにファルマコフォアを用いたスクリーニング方法に供することができる。複数の手法
を組み合わせたり反復することにより、より確からしいPDK4活性調節物質を同定すること
が可能となる。
【0107】
5.生化学的アッセイによる評価
上記のPDK4構造座標を用いたPDK4活性調節物質の設計又はスクリーニング方法、ファル
マコフォアを用いたPDK4活性調節物質の設計又はスクリーニング方法は、コンピュータ上
での迅速なスクリーニングを可能とするが、コンピュータを利用したスクリーニングによ
り選択された化合物群は、期待される活性を有する確率が高くはなるが、全ての化合物が
活性を有するとは限らないため、多くの化合物を実験的に(生化学的アッセイを用いて)
評価することが望ましい。すなわち、構造情報・ファルマコフォアを用いたスクリーニン
グ・設計方法は、生化学的アッセイに供する段階を含まない場合、PDK4活性調節「候補」
物質をスクリーニングする方法であると言える。
【0108】
したがって、コンピュータスクリーニングの結果から実験的に評価する化合物を選択す
る際には、評価の結果期待される活性化合物数を考慮の上、実際に実験的に評価を行う化
合物数を決定する必要がある。
【0109】
一般的に、コンピュータスクリーニングを行うプログラムには評価システムが含まれる
が、評価システムは、対応するプログラムのアルゴリズムに合わせた独自の手法が多い。
評価システムとして各化合物の活性値が得られる場合は、その値を基準として実験的評価
に供する化合物を選択することが可能であるが、活性値ではなく経験的な数値しか得られ
ない評価システムも数多く存在する。一方で、コンピュータスクリーニングの目的が、実
験的評価に供する化合物数を絞り込むことと考えると、評価システムにより順位付けられ
た化合物を、上位から実験に供することが可能な数だけ選択することも有意義である。例
えばコンピュータスクリーニングにより選択された化合物が期待する活性を有する確率を
5%〜30%と考えた場合、10化合物の活性制御物質を得るためには約30〜200の候補化合物
を選択すれば良いし、50化合物の活性制御物質を得るためには約160〜1000の候補化合物
を選択すれば良い。この際、最終的に得られる活性制御化合物に多様性を持たせることを
目的として、評価の上位化合物を構造・物性等の類似度によりクラスタリングした後、各
クラスターから実験的評価に供する化合物数を選択することも有意義である。
【0110】
すなわち、コンピュータ上でスクリーニングし選別したPDK4活性調節(候補)物質を、
更にPDK4を用いた生化学的アッセイに供することにより、より効果的にPDK4活性調節物質
を選別することが可能になる。生化学的アッセイを用いるに際して、被験物質がPDK4活性
調節作用を示すかどうかは、蛋白質の活性を確認できる系に該化合物を添加した場合と無
添加の場合の蛋白質の活性に差があるかどうかを調べればよい。活性調節作用を有すると
は、蛋白質の活性の測定値が、被験化合物添加群と、被験化合物無添加群との間で差があ
ることをいう。たとえば、下記の式で計算される阻害(又は抑制)率あるいは増強(又は
促進)率が10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70
%以上、特に好ましくは90%以上であることをいう。
阻害(抑制)率又は増強(促進)率(%)=(無添加群の測定値−被験化合物添加群の測
定値)の絶対値/無添加群の測定値×100
【0111】
生化学的アッセイの例としては、PDK4と活性調節(候補)物質とを接触させ、PDK4の酵素
活性を測定する系等が挙げられる。例えば、実施例12に示す測定系や非特許文献4にて報
告されている測定系がある。
【0112】
本発明のスクリーニング方法により、PDK4の活性を調節する化合物、特にPDK4の活性を
阻害し得る化合物を得ることができる。このような、化合物は生体内でグルコースの酸化
を調節し、血糖降下剤あるいは血糖調整成分として用いることができる。すなわち肝臓及
び中枢への副作用が軽減された、糖尿病、高血糖、肥満あるいは高脂血症等における治療
剤、症状改善薬、予防薬あるいは試薬として用いることができる。また、効果がマイルド
な化合物は、栄養ドリンク等の健康食品に添加することができる。
【実施例】
【0113】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって
限定されるものではない。
【0114】
PDK4の調製
実施例1.組換えトランスファーベクターの作製
(1) PDK4遺伝子のクローニング
PDK4の全長遺伝子をPCR反応にて得るために、ヒトPDK4の配列をもとにセンスプライマ
ー1(5’-ACCACTGCATCTCCGACTCT-3’、配列番号7)及びアンチセンスプライマー1(5’-
GACCCACTTTGATCCCGTAA-3’、配列番号8)を合成した。センスプライマーはヒトPDK4遺伝
子の5’非翻訳領域内に、アンチセンスプライマーは3’非翻訳領域内に位置するように設
計した。これらのプライマーを用いて、ヒト脳のcDNAを鋳型としたPCR反応を行った。得
られたDNA断片をTAクローニングにてプラスミドpCR2.1-TOPOへ導入し、ヒトPDK4をコード
するDNA断片を含むクローンP18-3を得た。以上のクローニングはユニーテック株式会社に
委託して実施した。図1にクローニングしたPDK4の配列を示す。また、配列番号1及び2にP
18-3におけるPDK4のDNA配列及びアミノ酸配列を示す。
【0115】
(2) PDK4発現プラスミドの作製
(1)で得られたP18-3のプラスミドDNAを制限酵素XhoI及びKpnIにて消化し、PDK4をコー
ドするDNAを含むDNA断片を得た。このDNA断片を昆虫細胞用発現トランスファーベクター
であるpBlueBac4.5のXhoI及びKpnIサイト間に挿入し、pBlueBac4.5/nativePDK4を得た(
プラスミド構築はインビトロジェン株式会社に委託)。図2にpBlueBac4.5/nativePDK4に
おけるPDK4配列近傍の構造を示し、図3にpBlueBac4.5/nativePDK4におけるXhoI及びKpnI
サイトへの挿入断片の配列(PDK4配列を含む)を示す。また、配列番号3及び4にpBlueBac
4.5/nativePDK4における挿入断片(PDK4配列を含む)のDNA配列及びアミノ酸配列を示す

【0116】
(3) ヒスチジンタグ付加PDK4(HNP1)発現プラスミドの作製
XhoIサイトに続きATG翻訳開始コドン、6個のヒスチジン残基、PreScissionプロテアー
ゼ認識配列、及びPDK4のDNA配列断片(ヒトPDK4の開始コドンから数えて20番目のアミノ
酸バリン以降をコードするDNA配列、配列番号3の304番目のGから319番目のGに該当)をコ
ードしたセンスプライマー2(5’-TCCGAGCTCGAGATGCATCATCACCATCACCATCTGGAAGTTCTGTTCC
AGGGCCCGGTGCCCCGAGAGGTGG-3’、配列番号9)、及びPDK4遺伝子内部配列(配列番号3の8
03番目のGから824番目のGに該当)に対する相補配列をコードするアンチセンスプライマ
ー2(5’-CTTCCAATGTGGCTTGGGTTTC-3’、配列番号10)を用いて、(2)で得られたpBlueB
ac4.5/nativePDK4を鋳型としたPCR反応を行った。得られたDNA断片を制限酵素XhoI及びEc
oT22Iで処理し、約140bpのDNA断片を単離精製した。同様にpBlueBac4.5/nativePDK4をXho
I及びEcoT22Iで処理し、得られた長鎖DNA断片と上記の約140bpのDNA断片をライゲーショ
ンすることで、ヒスチジンタグ付加PDK4(HNP1)発現プラスミドpBlueBac4.5/HisPDK4を作
製した。
【0117】
図4にpBlueBac4.5/HisPDK4におけるPDK配列近傍の構造を示し、図5にpBlueBac4.5/HisP
DK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列(PDK4配列を含む)を示す。図5中、
下線を付した配列はヒスチジンタグ配列であり、囲み線を付した配列はPreScission Prot
ease認識配列であり、網掛けを付した部分はEcoT22Iサイトである。また配列番号5及び6
にpBlueBac4.5/HisPDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片(PDK4配列を含む)のD
NA配列及びアミノ酸配列を示す。
【0118】
実施例2.組換えバキュロウイルスの作製
バキュロウイルスBac-N-Blue(登録商標)DNAと実施例1で作製した組換えpBlueBac4.5
プラスミドDNAの培養細胞内での相同組換えを利用して組換えバキュロウイルスを作製し
た。これは「Bac-N-BlueTM Transfection and Expression Guide」(invitrogen)中の方
法に従った。
【0119】
(1) DNA transfectionによる組換えバキュロウイルスの作製
(i) 細胞の調製
Sf9 昆虫細胞2×106cellsを35mm細胞培養ディッシュに播種し、27℃で60分間静置した
。細胞がディッシュに接着したのを確認した後、1mLの無血清培地(Sf-900II FSM)に交
換し、27℃で60分間静置した。
【0120】
(ii) トランスフェクション
実施例1で作製した組換えpBlueBac4.5プラスミドDNA 4μgとバキュロウイルスBac-N-Bl
ue(登録商標)ゲノムDNA 250μgをリポフェクション法により、Sf9 細胞にトランスフェ
クションした。室温で無血清培地中にCellfectin Reagent(invitrogen)と両DNAを混合
し、1mLのCellfectin-DNA複合体を細胞に添加し、27℃で5時間吸着させた。2.5容量%ウシ
胎仔血清を含む培地2mLに交換し、27℃で3日間培養した。培養終了後、ウイルスを含む上
清を回収し、初期バキュロウイルス株とした。
【0121】
(iii) 挿入の確認
感染細胞のウイルス上清より、QIAamp MinElute Virus Spin Kit(QIAGEN)を用いて、キ
ットの方法に従ってウイルスDNAを精製し、Polyhedrin promoter-T7 terminator増幅プラ
イマーを用いるPCR分析により、HNP1遺伝子のウイルスDNAへの組換えを確認した。
【0122】
(2) 組換えバキュロウイルスの純化
初期ウイルス株には非組換え体も含まれるため、「Bac-N-Blue(登録商標) Transfect
ion and Expression Guide」(invitrogen)の方法に従い、プラークアッセイによる純化
(プラーク単離)を行った。
【0123】
(i) Sf9昆虫細胞4×106cellsを60mm細胞培養ディッシュに播種し、27℃で60分間静置して
細胞をディッシュに接着させた。
【0124】
(ii) 上清を除いた後、初期バキュロウイルス株の100〜104倍希釈液0.5 mLを各ディッシ
ュに添加し、1時間感染させた。
【0125】
(iii) 感染液を除いた後、37℃に保温した0.3重量%SeakemGold (FMC)アガロース添加培地
4mLを各ディッシュに加え、室温で60分間放置して固化させ、表面を乾かし、28℃で7日間
培養した。
【0126】
(iv) 培養終了後、肉眼でプラークを観察し、独立したプラークをピペットマンにより吸
引回収し500μl培地に懸濁し、純化ウイルス株とした。
【0127】
(3) 組換えバキュロウイルスの増殖と力価測定
純化ウイルス株を3回増殖させ、高力価ウイルス株(作業ウイルス株)を得た。始めの
2回のウイルスの増殖は、以下のように行った。60mm細胞培養ディッシュに接着したSf9
昆虫細胞4×(2回目は8×)106cellsに500μl(100μl)純化ウイルス株を感染し、6日後(3日
後)にその上清のウイルス液を遠心分離により収穫した。3回目は、125mL三角フラスコ(
Corning)中のSf9昆虫細胞2×106cells/mL懸濁液40mLへ2回増殖純化ウイルス株を添加し
、27℃、125rpmの撹拌で増殖させた。感染の72時間後、その上清を遠心分離により収穫し
、作業ウイルス株として4℃に貯蔵した。この株の力価は、「Bac-N-Blue(登録商標) T
ransfection and Expression Guide」(invitrogen)の方法に従い、通常のプラークアッ
セイ分析により測定した。
【0128】
実施例3.昆虫細胞を用いた蛋白質の発現
組換えバキュロウイルスによる蛋白質発現は、感染多重度(MOI)及び収穫時間を種々
変えながら、Sf9昆虫培養細胞を用い、125mL三角フラスコ培養で最適化し、次いで見出さ
れた最適条件を3L三角フラスコ培養へスケールアップして行った。
【0129】
3L三角フラスコ(Corning)中の生細胞密度2×106cells/mLのSf9昆虫細胞懸濁液1Lに対
して、該作業ウイルス株を感染多重度1(MOI=1)で感染させ、27℃、125rpmの撹拌で48時
間浮遊培養した。培養終了後、発現蛋白質を含む感染細胞を2000gで20分間の遠心分離に
より収穫し、PBSに懸濁、800gで20分間の遠心後、該昆虫細胞ペレットを精製用に-80℃で
貯蔵した。
【0130】
実施例4.PDK4の精製
実施例3で得られた昆虫細胞ペレットを用いて、PDK4を以下に記す7工程で精製した:
(1)感染昆虫細胞培養500mL分の細胞ペレットを、100mLの溶解緩衝液中に懸濁し、超音
波細胞破砕器を用いて粉砕した。溶解緩衝液は、20mM Tris-HCl(pH8)、400mM 塩化ナトリ
ウム、20mM イミダゾール、0.05容量%トライトンX-100、2mM β-メルカプトエタノール、
20容量%グリセロールに設定した。細胞破砕液を4℃、16,000gで20分間遠心分離して、細
胞残渣を除去した。(2)上清を集め、予め洗浄緩衝液で平衡化したNickel-NTA superfl
owカラム(QIAGEN)に付した。洗浄緩衝液は、20mM Tris-HCl(pH8)、400mM 塩化ナトリウ
ム、20mM イミダゾール、2mM β-メルカプトエタノール、20容量%グリセロールに設定し
た。カラムを洗浄緩衝液で洗った後、45mLの溶出緩衝液で溶出した。溶出緩衝液は、20mM
Tris-HCl(pH8)、400mM 塩化ナトリウム、500mM イミダゾール、2mM β-メルカプトエタ
ノール、20容量%グリセロールに設定した。(3)次いでヒトPDK4のヘキサ・ヒスチジン
タグを切断した。すなわち、溶出画分に250ユニットのPreScissionプロテアーゼ(GE Hea
lthcare Bio-Sciences)を添加し、4℃で18時間インキュベーションを行った。(4)次
いで試料を透析緩衝液に対して4℃で一晩、透析を行った。透析緩衝液は、20mM Tris-HCl
(pH8)、100mM 塩化ナトリウム、20mM イミダゾール、2mM β-メルカプトエタノール、20
容量%グリセロールに設定した。透析内液を集め、予め透析緩衝液で平衡化したGSTrapカ
ラム(1 mL)(GE Healthcare Bio-Sciences)に付し、通過液を集めた。この処理によっ
て、PreScissionプロテアーゼを除去することが出来た。(5)次いで試料を、予め透析
緩衝液で平衡化したHisTrapカラム(5mL)(GE Healthcare Bio-Sciences)に付し、通過
液を集めた。この処理によって、切断後のヒスチジンタグを除去することが出来た。(6
)次いで試料を希釈緩衝液で3倍に希釈し、予め希釈緩衝液で平衡化したMONO Q 10/100 G
Lカラム(GE Healthcare Bio-Sciences)に付した。希釈緩衝液は20mM Tris-HCl(pH8)
、20mM イミダゾール、2mM β-メルカプトエタノール、20容量%グリセロールに設定した
。カラムを希釈緩衝液で洗った後、希釈緩衝液に溶解した20mM〜1M塩化ナトリウムの濃度
勾配により溶出した。(7)PDK4を含む溶出画分を集め、濃縮した後、予めゲルろ過緩衝
液で平衡化したHiLoad 16/60 Superdex75カラム(GE Healthcare Bio-Sciences)へ付し
、同緩衝液で溶出した。ゲルろ過緩衝液は20mM Tris−HCl(pH8)、150mM 塩化ナトリウ
ム、1mM ジチオスレイトール、20容量%グリセロールに設定した。PDK4を含む溶出画分を
集め、20mg/mLまで濃縮した。
【0131】
実施例5.PDK4とAMPPNPの共結晶化
実施例5-1. 結晶化に先立って、実施例4で得られた20mg/mLのPDK4を、20mM Tris-HCl(
pH8)、150mM 塩化ナトリウム、1mM ジチオスレイトールで10mg/mLに希釈するとともに、
10mM 塩化マグネシウム、5mM AMPPNPを添加し、4℃で2時間インキュベーションを行った
。結晶化は20℃でのハンギングドロップ蒸気拡散法を用いた。沈殿剤溶液は1.7M 硫酸ア
ンモニウム、0.1M Na-HEPES(pH7.1)、2容量%ポリエチレングリコール400に設定した。1μ
Lの沈殿剤溶液と1μLの上述のAMPPNP添加PDK4蛋白質溶液をカバーグラス上で混合し、400
μLの沈殿剤溶液に対してハンギングドロップを作成した。結晶は、格子次元a=72.5Å,b
=69.6Å,c=80.7Å,β=101.4°で空間群P21に属した。
【0132】
実施例5-2.
実施例5-1の方法に準じて、5 mg/mLのPDK4蛋白質溶液を用いて、PDK4-AMPPNP複合体結
晶を作製した。結晶は、格子次元a=71.1Å,b=68.5Å,c=79.8Å, β= 101.1°で空間
群P21に属した。
【0133】
実施例6.PDK4-AMPPNP複合体結晶のデータ収集
データ収集のために、90容量%パラトン-N及び10容量%グリセロールから成る低温保護溶
液(Cryoprotectant solution)を用い、実施例5-1及び実施例5-2で得られた複合体結晶
を100Kで瞬時に凍結した。X線回折データはSPring-8(播磨)のBL32B2で、波長1.0Åにて
、Jupiter210(リガク)CCD検出器により収集した。反射データはHKL2000プログラム(Otwi
nowski, Z. et al., (1997) Methods Enzymol. 276, 307-326)により処理した。
【0134】
実施例7.PDK4-AMPPNP複合体結晶の構造決定及び精密化
PDK4-AMPPNP複合体の構造は、実施例6で収集したデータをもとに、ラットPDK2-ADP複合
体の立体構造(PDB ID:1JM6)をサーチモデルとして、プログラムMolrep(CCP4i)を利用
した分子置換法により決定した。立体構造モデルの構築はプログラムO(Jones, T. A. e
t al., (1991) Acta Crystallogr. Sect. A 47, 110-118)上で行い、構造精密化はプロ
グラムCNS(Bru¨nger, A. T. et al., (1998) Acta Crystallogr. Sect. D 54, 905-921
)を使った。実施例5-2で得られた複合体結晶から、分解能1.85Åの立体構造モデルを得
た。複合体構造は非対称単位あたりPDK4とAMPPNPをそれぞれ2分子ずつ含んでいた。
【0135】
表1に原子座標(構造座標)を示し、表2にX線回折のデータを示す。
【表1】

【0136】

【0137】

【0138】

【0139】

【0140】

【0141】

【0142】

【0143】

【0144】

【0145】

【0146】

【0147】

【0148】

【0149】

【0150】

【0151】

【0152】

【0153】

【0154】

【0155】

【0156】

【0157】

【0158】

【0159】

【0160】

【0161】

【0162】

【0163】

【0164】

【0165】

【0166】

【0167】

【0168】

【0169】

【0170】

【0171】

【0172】

【0173】

【0174】

【0175】

【0176】

【0177】

【0178】

【0179】

【0180】

【0181】

【0182】

【0183】

【0184】

【0185】

【0186】

【0187】

【0188】

【0189】

【0190】

【0191】

【0192】

【0193】

【0194】

【0195】

【0196】

【0197】

【0198】

【0199】

【0200】

【0201】

【0202】

【0203】

【0204】

【0205】

【0206】

【0207】

【0208】

【0209】

【0210】

【0211】

【0212】

【0213】

【0214】

【0215】

【0216】

【0217】

【0218】

【0219】

【0220】

【0221】

【0222】

【0223】

【0224】

【0225】

【0226】

【0227】

【0228】

【0229】

【0230】

【0231】

【0232】

【0233】

【0234】

【0235】

【0236】

【0237】

【0238】

【表2】

【0239】
実施例8.PDK4-化合物A複合体結晶の作製
PDK4-化合物A複合体結晶は以下の方法で得た。1mM 化合物Aを含む沈殿剤溶液(実施例5
を参照)を調製し、PDK4-AMPPNP複合体結晶を密閉条件下で浸漬し、20℃でインキュベー
ションすることにより得た。
【0240】
実施例9.PDK4-化合物A複合体結晶のデータ収集
PDK4-AMPPNP複合体結晶と同様に、90容量%パラトン-N及び10容量%グリセロールから成
るCryoprotectant solutionを用いて、実施例8で得られた複合体結晶を100Kで瞬時に凍結
した。X線回折データはSPring-8(播磨)のBL32B2で、波長1.0Åにて、Jupiter210(リガ
ク)CCD検出器により収集した。反射データはHKL2000プログラムにより処理した。結晶は
、格子次元a=68.1Å,b=69.1Å,c=85.6Å, β= 99.7°で空間群P21に属した。
【0241】
実施例10.PDK4-化合物A複合体結晶の構造決定及び精密化
PDK4-化合物A複合体の構造は、実施例9で収集したデータをもとに、ヒトPDK3-E2pL2ド
メイン複合体の立体構造(PDB ID:1Y8N)のPDK3構造をサーチモデルとして、プログラムM
olrep(CCP4i)を利用した分子置換法により決定した。立体構造モデルの構築はQuanta(
Quanta98(1998) Quanta, version98.1111 ed, Accelrys Inc., San Diego, CA 92121-375
2)上で行った。構造精密化はプログラムCNX(Accelrys Inc.,San Diego, CA 92121-3752
)を使い、分解能2.53Åの立体構造モデルを得た。複合体構造は非対称単位あたりPDK4と
化合物Aをそれぞれ2分子ずつ含んでいた。
【0242】
表3に原子座標(構造座標)を示し、表4にX線回折のデータを示す。
【表3】

【0243】

【0244】

【0245】

【0246】

【0247】

【0248】

【0249】

【0250】

【0251】

【0252】

【0253】

【0254】

【0255】

【0256】

【0257】

【0258】

【0259】

【0260】

【0261】

【0262】

【0263】

【0264】

【0265】

【0266】

【0267】

【0268】

【0269】

【0270】

【0271】

【0272】

【0273】

【0274】

【0275】

【0276】

【0277】

【0278】

【0279】

【0280】

【0281】

【0282】

【0283】

【0284】

【0285】

【0286】

【0287】

【0288】

【0289】

【0290】

【0291】

【0292】

【0293】

【0294】

【0295】

【0296】

【0297】

【0298】

【0299】

【0300】

【0301】

【0302】

【0303】

【0304】

【0305】

【0306】

【0307】

【0308】

【0309】

【0310】

【0311】

【0312】

【0313】

【0314】

【0315】

【0316】

【0317】

【0318】

【0319】

【0320】

【0321】

【0322】

【0323】

【0324】

【0325】

【0326】

【0327】

【0328】

【表4】

【0329】
実施例11.PDK4-化合物A複合体結晶構造の相互作用解析
実施例10で得られたPDK4-化合物A複合体結晶構造をプログラムInsightII(Accelrys In
c.,San Diego, CA 92121-3752)を用いて可視化し、目視によって相互作用の抽出を行っ
た。図6にPDK4-化合物A複合体の化合物A結合部位周辺を示す。補酵素であるATPのアデノ
シンが結合しているサイトを中心に化合物Aが結合していることを確認した。PDK4と化合
物Aの結合モードは、化合物Aの有するレゾルシノール基の1位の水酸基がPDK4のAsp293側
鎖及び水分子18と水素結合を形成しており、さらに水分子18はAsp293、Gly297の主鎖、Th
r358の側鎖のいずれか1残基ないし2残基と水素結合を形成していた。さらに、レゾルシノ
ール基の3位の水酸基は水分子2と、水分子2は水分子31と、水分子31はAsp293とそれぞれ
水素結合を形成していることから、化合物AとAsp293を中心に水素結合のネットワークを
形成していると考えられる。また、ピラゾール基は上記の水分子18との水素結合を介して
PDK4と相互作用していた。一方、アニソール基はAsn258, Arg261, Leu306の側鎖が形成す
る空間を埋めるようにはまり込んでいる。
【0330】
PDK4-化合物A複合体構造とヒトPDK2の立体構造(PDB ID:2BTZ)とを重ね合わせることで
、化合物に関してPDK2との選択性を見出すことが可能かどうかを解析した結果、化合物を
中心とした周囲6Å以内の配列は相同で構造にも差異が無いことを確認した。しかし、化
合物との水素結合を形成している水分子2を含めると、約5.5Åの距離にあるPDK4のIle291
がPDK2ではMetであることが確認できた。水分子2は水素結合ネットワークを形成している
ことから、レゾルシノール基の3位の水酸基から極性残基を付与し、さらに立体的な炭素
鎖を構築すれば、高活性化とPDK2との選択性を見出すことが可能になる。
【0331】
さらに、今回PDK4のATP結合サイトにおけるATPのコンフォメーションがPDKファミリー
以外のキナーゼとは異なるコンフォメーションを有することが明らかになったことから、
アデノシン結合部位以外のATP結合サイトを利用することも、より強いアフィニティーと
高い選択性を有する有効な化合物を設計していく上で重要である。
【0332】
実施例12.PDK4活性測定
キナーゼ活性測定は以下のようにして行うことができる。反応緩衝液(50mM Tris-HCl p
H 8.0, 22mM KH2PO4, 0.56mM EDTA, 2mM MgCl2, 33mM KCl, 11mM NaF, 2.2mM DTT)に、ペ
プチド基質、放射性同位体でラベルされた[γ-32P]-ATPとATPを混合させた溶液及びPDK4
を添加して、25℃で20分間インキュベートする。化合物の阻害活性を測定する際には、適
当な希釈率の化合物DMSO溶液を上記反応液に添加した上で、インキュベートする。425mM
のリン酸で反応停止後、反応溶液を陽イオン交換ろ紙に吸着させ、70mMのリン酸で洗浄後
、Micro Beta(PerkinElmer)を用いて放射活性を測定する。
【0333】
実施例13.PDK4-ADP複合体結晶の作製
PDK4-ADP複合体結晶は実施例8と同様に以下の方法で得た。5mM ADPを含む沈殿剤溶液(
実施例5を参照)を調製し、PDK4-AMPPNP複合体結晶を密閉条件下で浸漬し、20℃でインキ
ュベーションすることにより得た。
【0334】
実施例14.PDK4-ADP複合体結晶のデータ収集
PDK4-AMPPNP複合体結晶と同様に、90容量%パラトン-N及び10容量%グリセロールから成
るCryoprotectant solutionを用いて、実施例13で得られた複合体結晶を100Kで瞬時に凍
結した。X線回折データはSPring-8(播磨)のBL32B2で、波長1.0Åにて、Jupiter210のCC
D検出器により収集した。反射データはHKL2000プログラムにより処理した。結晶は、格子
次元a=70.7Å,b=69.1Å,c=81.5Å, β= 99.7°で空間群P21に属した。
【0335】
実施例15.PDK4-ADP複合体結晶の構造決定及び精密化
PDK4-ADP複合体の構造は、実施例14で収集したデータをもとに、PDK4-AMPPNP複合体構
造をサーチモデルとして、プログラムMolrepを利用した分子置換法により決定した。立体
構造モデルの構築はQuanta上で行った。構造精密化はプログラムCNXを使い、分解能2.40
Åの立体構造モデルを得た。複合体構造は非対称単位あたりPDK4とADPをそれぞれ2分子ず
つ含んでいた。
【0336】
図7に二回回転軸方向からみたPDK4二量体の結晶構造のリボンダイアグラム、図8に図7
の側面図を示す。さらに、図9にPDK4-ADP複合体のADP結合部位周辺を示す。
【0337】
表5に原子座標(構造座標)を示し、表6にX線回折のデータを示す。
【表5】

【0338】

【0339】

【0340】

【0341】

【0342】

【0343】

【0344】

【0345】

【0346】

【0347】

【0348】

【0349】

【0350】

【0351】

【0352】

【0353】

【0354】

【0355】

【0356】

【0357】

【0358】

【0359】

【0360】

【0361】

【0362】

【0363】

【0364】

【0365】

【0366】

【0367】

【0368】

【0369】

【0370】

【0371】

【0372】

【0373】

【0374】

【0375】

【0376】

【0377】

【0378】

【0379】

【0380】

【0381】

【0382】

【0383】

【0384】

【0385】

【0386】

【0387】

【0388】

【0389】

【0390】

【0391】

【0392】

【0393】

【0394】

【0395】

【0396】

【0397】

【0398】

【0399】

【0400】

【0401】

【0402】

【0403】

【0404】

【0405】

【0406】

【0407】

【0408】

【0409】

【0410】

【0411】

【0412】

【0413】

【0414】

【0415】

【0416】

【0417】

【0418】

【0419】

【0420】

【0421】

【0422】

【0423】

【0424】

【0425】

【0426】

【表6】

【0427】
実施例16.PDK4アポ結晶の作製
以下の結晶化条件又はこれに準じた方法にて、アポ結晶が得られる。
【0428】
蛋白質溶液の条件を、1-20mg/mL PDK4、10〜50mM Tris-HCl(pH7〜10)、50〜300mM 塩化
ナトリウム、1〜5mM ジチオスレイトール、5〜30容量%グリセロールに設定する。結晶化
は、20℃でのハンギングドロップ蒸気拡散法を用いる。沈殿剤溶液は1.4〜2.0M 硫酸アン
モニウム、0.1M Na-HEPES (pH7.1〜8.1)、1〜5容量%ポリエチレングリコール400に設定し
、1μLの沈殿剤溶液と1μLのPDK4蛋白質溶液をカバーグラス上で混合し、400μLの沈殿剤
溶液に対してハンギングドロップを作製する。
【図面の簡単な説明】
【0429】
【図1−1】クローニングしたPDK4の配列を示す図である。
【図1−2】クローニングしたPDK4の配列を示す図である(図1−1の続き)。
【図1−3】クローニングしたPDK4の配列を示す図である(図1−2の続き)。
【図2】pBlueBac4.5/nativePDK4におけるPDK4配列近傍の構造を示す図である。
【図3−1】pBlueBac4.5/nativePDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列を示す図である。
【図3−2】pBlueBac4.5/nativePDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列を示す図である(図3−1の続き)。
【図3−3】pBlueBac4.5/nativePDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列を示す図である(図3−2の続き)。
【図4】pBlueBac4.5/HisPDK4におけるPDK4配列近傍の構造を示す図である。
【図5−1】pBlueBac4.5/HisPDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列を示す図である。
【図5−2】pBlueBac4.5/HisPDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列を示す図である(図5−1の続き)。
【図5−3】pBlueBac4.5/HisPDK4におけるXhoI及びKpnIサイトへの挿入断片の配列を示す図である(図5−2の続き)。
【図6】PDK4-化合物A複合体の化合物A結合部位周辺を示す図である。
【図7】二回回転軸方向からみたPDK4二量体の結晶構造のリボンダイアグラムを示す図である。
【図8】図7の側面図である。
【図9】PDK4-ADP複合体のADP結合部位周辺を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDK4(ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4)の結晶であって、空間群P21に属する単
斜晶系であることを特徴とする結晶。
【請求項2】
単位格子定数がa=71±4Å、b=69±2Å、c=80±6Å、β=101±2°であることを特徴とす
る請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
ATPアナログ又はPDK4活性調節物質の何れか一つが結合した複合体結晶であることを特
徴とする請求項1又は2に記載の結晶。
【請求項4】
共結晶化によって作製された複合体結晶であることを特徴とする請求項3に記載の結晶

【請求項5】
ソーキング法によって作製された複合体結晶であることを特徴とする請求項3記載の結
晶。
【請求項6】
AMPPNPとの複合体結晶であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の結
晶。
【請求項7】
ADPとの複合体結晶であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の結晶

【請求項8】
3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4-(4-メトキシフェニル)-5-メチル-1H-ピラゾールとの
複合体結晶であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項9】
PDK4が配列番号6に示されるアミノ酸配列の16番目のバリン〜407番目のメチオニンか
らなるアミノ酸配列を含むPDK4である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項10】
PDK4が配列番号6に示されるアミノ酸配列の14番目のグリシン〜407番目のメチオニン
からなるアミノ酸配列で表わされるPDK4である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の結
晶。
【請求項11】
PDK4が配列番号6に示されるアミノ酸配列の14番目のグリシン、15番目のプロリン、或
いは16番目のバリン〜407番目のメチオニンからなるアミノ酸配列のいずれかにおいて、1
個又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列で表わされ、かつ、PDK4
活性を有するものである、請求項9又は10に記載の結晶。
【請求項12】
表1に表される原子座標を有する請求項6に記載の結晶。
【請求項13】
表5に表される原子座標を有する請求項7に記載の結晶。
【請求項14】
表3に表される原子座標を有する請求項8に記載の結晶。
【請求項15】
3.4Å又はそれより良好な分解能にX線を回折する請求項1〜14のいずれか1項に記載
の結晶。
【請求項16】
2.8Å又はそれより良好な分解能にX線を回折する請求項15に記載の結晶。
【請求項17】
2.2Å又はそれより良好な分解能にX線を回折する請求項15に記載の結晶。
【請求項18】
5〜30容量%グリセロールを含む0.1〜30mg/mLのPDK4蛋白質溶液を用いて、PDK4を結晶化
させることを特徴とするPDK4の結晶の作製方法。
【請求項19】
1.4〜2.0M 硫酸アンモニウム、0.1M Na-HEPES(pH7.1〜8.1)、1〜5容量%ポリエチレン
グリコール400を含む沈殿剤溶液に1〜20mg/mLのPDK4を溶解させた溶液から、PDK4を結晶
化させることを特徴とするPDK4の結晶の作製方法。
【請求項20】
ATPアナログ又はPDK4活性調節物質を溶解させた溶液を添加したPDK4蛋白質溶液を用い
、PDK4複合体結晶を得ることを特徴とする請求項18又は19に記載の結晶の作製方法。
【請求項21】
ATPアナログ又はPDK4活性調節物質がAMPPNP、ADP又は3-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4
-(4-メトキシフェニル)-5-メチル-1H-ピラゾールのいずれか一つである請求項20に記載
の結晶の作製方法。
【請求項22】
請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法により得られたPDK4の結晶。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−283865(P2008−283865A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120017(P2007−120017)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、タンパク3000委託研究「タンパク質基本構造の網羅的解析プログラム」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】