説明

PMMAペースト

A)1%未満のメタクリル酸含量および1%未満の水分含量を有するメタクリル酸メチルと、B)65℃を超えるTg(ガラス転移温度)および200,000g/mol以上のモル質量を有する少なくとも1つのポリメタクリル酸メチルとの混合物であって、このメタクリル酸メチル分率は、このPMMAペーストが自己滅菌性であるために十分であり、B:Aの重量比は10〜50% B:50〜90% Aである混合物、を含むPMMAペーストは、ペースト様の一成分系骨セメントまたは二成分系骨セメントを製造するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、PMMAペースト(ポリメタクリル酸メチルペースト)、その使用、およびこのペーストを含有するペースト様の一成分系骨セメントまたは二成分系骨セメントを包含する。
【背景技術】
【0002】
PMMA骨セメントは数十年にわたって知られており、Charnley卿の基礎研究(非特許文献1)に由来している。そのPMMA骨セメントの基本組成は、原理上はそのとき以来同じのままである。PMMA骨セメントは、液体モノマー成分および粉末成分を含む。このモノマー成分は、一般に、モノマーであるメタクリル酸メチルおよびこのモノマーに溶解された活性化剤(N,N−ジメチル−p−トルイジン)を含有する。上記粉末成分は、メタクリル酸メチルおよびコモノマー(スチレンおよびメチルアクリレートなど)に基づいて、重合、好ましくは懸濁重合により製造された1以上のポリマー、放射線不透過性物質、および開始剤ジベンゾイルパーオキシドを含む。この粉末成分が上記モノマー成分と混合されると、メタクリル酸メチルの中でのこの粉末成分のポリマー膨潤に起因して、塑性変形できるペーストが製造される。同時に、活性化剤であるN,N−ジメチル−p−トルイジンはこのジベンゾイルパーオキシドと反応し、このジベンゾイルパーオキシドはラジカルの形成を伴って分解する。形成されたラジカルはメタクリル酸メチルの重合を開始する。このメタクリル酸メチルの重合の進行に伴って、当該セメントペーストの粘度は、このペーストが固化しそして硬化するまで、上昇する。
【0003】
4点曲げ強度、曲げ弾性率、および圧縮強度などのPMMA骨セメントの基本的な力学的な要求事項はISO 5833に記載されている。PMMA骨セメントの使用者にとっては、この骨セメントの不粘着性という特性は非常に重要である。用語「不粘着性(Klebfreiheit)」は、ISO 5833に定義されている。従来のPMMA骨セメントでは、不粘着性は、成分の混合後に当該セメントが、そのセメント粉末の中に含有されるポリマーが当該モノマーの中で膨潤することによって加工段階に到達したということを示す。原理上は、PMMA骨セメントは、使用者がそのセメントを成形し施用することができるように、不粘着性のまま留まらなければならない。PMMA骨セメントは手袋や、混合システム、るつぼ、またはスパーテルなどの施用のための補助器具に付着してはいけない。
【0004】
セメント製造業者にとっての従来のPMMA骨セメントの1つの不都合は、粉末成分およびモノマー成分の両方が、各々、滅菌状態で製造され、滅菌状態で包装される必要があるということである。これは、1つの骨セメントの包装のために、少なくとも4つの滅菌された梱包手段が必要とされるということを意味する。
【0005】
医療関係の使用者にとっての先行技術のPMMA骨セメントの別の不都合は、その液体モノマー成分は、そのセメントの施用の直前に混合システムの中またはるつぼの中で粉末成分と混合しなければならないということにある。この場合、混合のエラーが容易に起こる可能性があり、これが起こるとそのセメントの品質に悪影響を及ぼしかねない。そのモノマー成分を粉末成分と混合した後、セメントの種類によっては、そのセメントペーストが不粘着性であり施用することができるようになるまで、ある時間が経過しなければならない。その後、その使用者には、椎骨形成術および椎体形成術において全置換用内部人工器官(Totalendoprothesen)を配置することができ、または骨空洞を充填することができる利用可能な加工時間があるが、それは程度の差はあるが短い。この加工時間の間、そのセメントペーストの粘度は、モノマーの中でのポリマー粒子の膨潤の増大およびそのモノマーの重合の進行に起因して変化する。この比較的短い加工時間は、先行技術の骨セメントの著しい不都合である。椎骨形成術および椎体形成術においては、短い加工時間はとりわけ不都合である。セメントの施用の間の数分間セメントペーストの粘度が実質的に一定で留まるセメント、特に椎体形成術および椎骨形成術用のセメントは望ましいであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Charnley、「Anchorage of the femoral head prosthesis of the shaft of the femur」、J.Bone Joint Surg.、1960年、第42巻、28−30頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえ本発明の目的は、公知のPMMA骨セメントの問題を克服することができる、ペースト様のPMMA骨セメントの製造のための出発物質として使用することができるPMMAペーストを開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この本発明の目的は、請求項1に記載のPMMAペーストによって達成される。有利な実施形態はさらなる請求項からもたらされる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るPMMAペーストは、
A)1%未満のメタクリル酸含量および1%未満の水分含量を有するメタクリル酸メチルと、
B)65℃を超えるTg(ガラス転移温度)および200,000g/mol以上のモル質量を有する少なくとも1つのポリメタクリル酸メチルと
の混合物であって、このメタクリル酸メチル部分は当該PMMAペーストが本質的に滅菌されているために十分高含量である混合物、から形成される。
【0010】
用語「メタクリル酸メチル」は、純粋なメタクリル酸メチルと、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、およびスチレンなどの少量の他のモノマーの不純物が5%という総含量を超えない限りは、これらの少量の他のモノマーの不純物が混入したメタクリル酸メチルとの両方として理解されたい。
【0011】
300,000g/molよりも大きいモル質量を有するポリメタクリル酸メチルが好ましく、500,000g/molよりも大きいモル質量を有するポリメタクリル酸メチルがとりわけ好ましい。
【0012】
有利には、このポリメタクリル酸メチルは、メタクリル酸メチルの中に少なくとも80重量%まで可溶である。
【0013】
驚くべきことに、50重量%以上のメタクリル酸メチル部分を有するペーストは本質的に滅菌されているということが見出された。これは、当該PMMAペーストの中でメタクリル酸メチルは微生物細胞に対して死滅効果を有するということを意味する。従って、10〜50%のポリメタクリル酸メチル 対 50〜90%のメタクリル酸メチルの重量比が存在するPMMAペーストが好ましい。
【0014】
本発明はまた、ペースト様の一成分系骨セメントおよび二成分系骨セメントの製造ための、上記のPMMAペーストの使用にも関する。この目的のために、当該PMMAペーストは、一成分系および二成分系骨セメントの製造のための、有機および/または無機のフィラー材料と、ならびにラジカル開始剤および/または硬化促進剤と混合される。
【0015】
好ましくは、メタクリル酸メチルの中で膨潤せずかつ25%未満のメタクリル酸メチル吸収を有する有機および無機のフィラー材料が、当該PMMAペーストと混合される。
【0016】
特に、本発明に係るPMMAペーストは、全置換用内部人工器官および再置換用内部人工器官(Revisionsendoprothesen)を固定するための薬剤の製造のために使用される。
【0017】
本発明に係るPMMAペーストの使用は、椎体形成術、椎骨形成術、および大腿骨頸増強(Femurhalsaugmentation)用の自己硬化型フィラー材料の製造にとってとりわけ有利である。
【0018】
本発明に係るPMMAペーストは、局所的有効成分放出システムの製造のためにも使用することができる。従って、例えば、抗生物質を含有しかつ本発明に係るPMMAペーストから製造されるPMMA骨セメントを用いてボール形状または豆粒形状のインプラントを形成することが可能である。この場合、これらのインプラントを局所的有効成分放出システムとして使用することができる。
【0019】
抗生物質、ホルモン、成長因子、および消炎薬の群からのさらなる薬学的活性成分を、本発明に係るPMMAペーストと混合することができる。抗生物質として、主にアミノグリコシド系抗生物質、糖ペプチド抗生物質、フルオロキノロン抗生物質、リコサミド(Licosamid)抗生物質、およびオキサゾリジノン抗生物質を考慮することができる。この場合、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、テイコプラニン、バンコマイシン、ラモプラニン、ダルババンシン、モキシフロキサシン、シプロフロキサシン、リンコサミン(Lincosamin)、クリンダマイシン、およびリネゾリドが好ましい。
【0020】
本発明は以下の実施例によって説明されるが、しかしながらそれらは本発明を限定するものではない。特に示さない限り、与えられる部数および百分率は、明細書の他の部分と同様に重量に関してのものである。
【実施例】
【0021】
(実施例1:PMMAペーストの製造1)
500mlのメタクリル酸メチル(Fluka)を、500mlの三角フラスコの中で2.0gのDowex 50WX2および2.0gの硫酸ナトリウムと一緒に室温で2時間撹拌し、次いでこのイオン交換体および硫酸ナトリウムを濾過により分離した。0.1%というこのメタクリル酸メチルの水分含量を、カールフィッシャー滴定によって測定した。ガスクロマトグラフィによって決定したメタクリル酸含量は0.08%であった。
【0022】
次に、105gのポリメタクリル酸メチル(モル質量は約500,000g/mol、Tg 100〜106℃)を、500mlの2つ口フラスコの中で、慎重に撹拌しながら室温で空気を排除して(窒素の流れ)、上で処理したメタクリル酸メチル195gの中に溶解した。気泡のない、非常に粘性の高い無色のペーストが生成した。
【0023】
このペーストの固有の滅菌性を試験するために、胞子ストリップ(枯草菌、ATCC 6633)をこのペーストの中へと挿入した。室温で72時間保存した後、この胞子ストリップを取り出してインキュベーションによって滅菌性を試験した。増殖なしという結果であった。
【0024】
(実施例2:PMMAペーストの製造2)
ペースト2をPMMAペースト1と同様に製造したが、しかしながら約700,000g/molのモル質量および100〜106℃のTgを有するPMMAを使用した。PMMA濃度は30%に設定した。
【0025】
(実施例3:PMMAペーストの製造3)
ペースト3をPMMAペースト1と同様に製造したが、しかしながら約1,200,000g/molのモル質量および100〜105℃のTgを有するPMMAを使用した。PMMA濃度は28%に設定した。
【0026】
(実施例4:二成分ペーストセメントの製造)
ペーストA:
22.80gのPMMAペースト1を、1.50gの1−シクロヘキシル−5−エチル−バルビツール酸、3.15gの二酸化ジルコニウム、および5.00gのポリメタクリル酸メチル(MMAに半溶解したもの)と一緒に混練した。
ペーストB:
22.80gのPMMAペースト1を、125mgのAliquat 336、0.5mgの2−エチルヘキサン酸銅(II)、3.15gの酸化ジルコニウム、および5.00gのポリメタクリル酸メチル(MMAに半溶解したもの)(粒径<63μm、MMA吸収 約10%)と一緒に混練した。
【0027】
30gのペーストAを、30gのペーストBとともに混練した。得られたセメントペーストは直ちに不粘着性となり、約5分間にわたって成形することができた。この後、4分以内にこのセメントの硬化が起こった。
【0028】
ISO 5833に従って4点曲げ強度および曲げ弾性率を測定するため、およびDynstat衝撃強度を試験するために、このセメントペーストを用いて試験体を製造した。4点曲げ強度および曲げ弾性率についての試験は、この試験体を室温で24時間保存した後、およびまたこの試験体を37°Cの水の中で24時間および48時間保存した後にも実施した。
【0029】
4点曲げ強度(空気/24時間/室温):49.9±0.8MPa
曲げ弾性率(空気/24時間/室温):1985±53MPa
4点曲げ強度(水/24時間/37°C):65.5±1.1MPa
曲げ弾性率(水/24時間/37°C):2604±29MPa
4点曲げ強度(水/48時間/37°C):71.8±1.7MPa
曲げ弾性率(水/48時間/37°C):2726±74MPa
Dynstat衝撃強度(空気/24時間/室温):3.47±0.35
Dynstat曲げ強度(空気/24時間/室温):72.71±2.33
【0030】
(実施例5:二成分ペーストセメントの製造)
ペーストA:
21.20gのPMMAペースト2を、1.50gの1−シクロヘキシル−5−エチル−バルビツール酸、3.15gの二酸化ジルコニウム、および6.60gのポリメタクリル酸メチル(MMAに半溶解したもの)と一緒に混練した。
ペーストB:
21.20gのPMMAペースト1を、125mgのAliquat 336、0.5mgの2−エチルヘキサン酸銅(II)、3.15gの二酸化ジルコニウム、および6.60gのポリメタクリル酸メチル(MMAに半溶解したもの)(粒径<63μm、MMA吸収 約10%)と一緒に混練した。
【0031】
30gのペーストAを、30gのペーストBとともに混練した。得られたセメントペーストは直ちに不粘着性となり、約5分間にわたって成形することができた。この後、4分以内にこのセメントの硬化が起こった。
【0032】
ISO 5833に従って4点曲げ強度および曲げ弾性率を測定するため、およびDynstat衝撃強度を試験するために、このセメントペーストを用いて試験体を製造した。4点曲げ強度および曲げ弾性率についての試験は、この試験体を室温で24時間保存した後、およびまたこの試験体を37°Cの水の中で24時間および48時間保存した後にも実施した。
【0033】
4点曲げ強度(空気/24時間/室温):52.0±1.2MPa
曲げ弾性率(空気/24時間/室温):2080±52MPa
4点曲げ強度(水/24時間/37°C):64.2±2.3MPa
曲げ弾性率(水/24時間/37°C):2548±51MPa
4点曲げ強度(水/48時間/37°C):72.1±1.5MPa
曲げ弾性率(水/48時間/37°C):2803±59MPa
Dynstat衝撃強度(空気/24時間/室温):4.11±0.29
Dynstat曲げ強度(空気/24時間/室温):81.23±1.77
【0034】
(実施例6:椎体形成術/椎骨形成術用の二成分ペーストセメントの製造)
ペーストA:
20.80gのPMMAペースト3を、1.50gの1−シクロヘキシル−5−エチル−バルビツール酸および13.0gの二酸化ジルコニウムと一緒に混練した。
ペーストB:
20.80gのPMMAペースト1を、125mgのAliquat 336、2.0mgの2−エチルヘキサン酸銅(II)、および13.0gの二酸化ジルコニウムと一緒に混練した。
【0035】
スタティックミキサー(statischen Mischer)が取り付けられているダブルカートリッジシステムを用いて、30gのペーストAを30gのペーストBと混合した。得られたセメントペーストは直ちに不粘着性となり、約7分間にわたって成形することができた。この後、6分以内にこのセメントの硬化が起こった。
【0036】
ISO 5833に従って4点曲げ強度および曲げ弾性率を測定するため、およびDynstat衝撃強度を試験するために、このセメントペーストを用いて試験体を製造した。4点曲げ強度および曲げ弾性率についての試験は、この試験体を、空気中室温で、および37°Cの水の中で24時間保存した後に実施した。
【0037】
4点曲げ強度(空気/24時間/室温):49.8±1.4MPa
曲げ弾性率(空気/24時間/室温):2271±112MPa
4点曲げ強度(水/24時間/37°C):62.0±3.8MPa
曲げ弾性率(水/24時間/37°C):3001±40MPa
Dynstat衝撃強度(空気/24時間/室温):3.67±0.24
Dynstat曲げ強度(空気/24時間/室温):65.78±4.41

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PMMAペーストであって、
A)1%未満のメタクリル酸含量および1%未満の水分含量を有するメタクリル酸メチルと、
B)65℃を超えるTgおよび200,000g/mol以上のモル質量を有する少なくとも1つのポリメタクリル酸メチルと、
の混合物であって、前記メタクリル酸メチル部分は、前記PMMAペーストが本質的に滅菌されている(自己滅菌性である)ために十分高含量であり、10〜50% B:50〜90% Aの重量比を有する混合物、から製造されるPMMAペースト。
【請求項2】
前記ポリメタクリル酸メチルは300,000g/molよりも大きいモル質量を有する、請求項1に記載のPMMAペースト。
【請求項3】
前記モル質量は500,000g/molよりも大きい、請求項2に記載のPMMAペースト。
【請求項4】
前記ポリメタクリル酸メチルBは前記メタクリル酸メチルAの中に少なくとも80重量%まで可溶である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のPMMAペースト。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のPMMAペーストを含有する、ペースト様の一成分系骨セメントおよび二成分系骨セメント。
【請求項6】
全置換用内部人工器官および再置換用内部人工器官を固定するための薬剤の製造のための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のPMMAペーストの使用。
【請求項7】
椎体形成術、椎骨形成術、および大腿骨頸増強用の自己硬化型フィラー材料の製造のための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のPMMAペーストの使用。
【請求項8】
局所的有効成分放出システムの製造のための、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のPMMAペーストの使用。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のPMMAペーストが、有機および/または無機のフィラー材料と、ならびにラジカル開始剤および/または硬化促進剤と混合されることを特徴とする、ペースト様の一成分系骨セメントまたは二成分系骨セメントの製造方法。
【請求項10】
メタクリル酸メチルの中で膨潤せずかつ25%未満のメタクリル酸メチル吸収を有する有機および無機のフィラー材料が、前記PMMAペーストと混合される、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2011−526171(P2011−526171A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515159(P2011−515159)
【出願日】平成21年6月13日(2009.6.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004272
【国際公開番号】WO2010/000384
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(510340506)ヘレウス メディカル ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】