説明

PTC素子およびその製造方法

【課題】過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ないPTC素子およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体4と、素子本体4の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板6および8とを有するPTC素子である。第1電極板6および第2電極板8の少なくとも一方には、素子本体4が接触する表面に、凸部10が多数形成してあり、凸部10の間に形成してある凹部12には、導電材を含まず素子本体4よりもゲル分率の高い埋込層14が形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電池や電子回路を過電流から保護すること等を目的として使用されるPTC素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PTC(positive temperature coefficient)素子は、所定の温度領域において、素子の温度が上昇すると、素子の抵抗値が増加する特性を有する。特に、PTC素子の温度が素子本体を構成するポリマーの融解温度に達すると、PTC素子の抵抗が急激に増加する。このような性質はPTC特性と呼ばれる。
【0003】
PTC素子は、電子機器等の電気回路に組み込まれる。電子機器の使用中に、何らかの理由によって回路に過剰電流が流れた場合、電子機器の温度が上昇し、それに伴いPTC素子自体の温度も上昇する。そして、PTC素子の温度が素子本体を構成するポリマーの融解温度に達すると、PTC素子の抵抗値が急激に増加する。その結果、電気回路において、PTC素子が過剰電流を遮断する。よって、電気機器が過剰電流によって故障することを未然に防止できる。
【0004】
このように、PTC素子は、過熱、過剰電流に対する安全保護装置として使用される。具体的には、PTC素子は、携帯電話の電源である2次電池を過電流から保護するための回路(保護回路)に組み込まれたりする。2次電池の充電中または放電中に過剰電流が流れた場合、PTC素子は電流を遮断して2次電池を保護する。
【0005】
このようなPTC素子の一例としては、ポリマー材料(結晶性重合体)に導電性粒子を分散させた素子本体(重合体正温度係数抵抗体)を、電極板(あるいは金属箔)で挟んだ構造を有するポリマーPTC素子が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
ポリマーPTC素子は、従来、以下のような方法によって製造される。まず、金属粒子、カーボンブラック等の導電性フィラーを含む高分子(高密度ポリエチレン等)をシート化して、素子本体を形成する。次に、素子本体の表裏面に、電極板を熱圧着することによって、ポリマーPTC素子が完成する。
【0007】
電極板と素子本体との接合力を高めるために、電極板の表面にアンカー用微小凸部を形成することがある。そのような場合において、アンカー用微小凸部が形成してある電極板表面を素子本体と熱圧着すると、微小凸部間の隙間に空気が抜けきれずに残り、電極板と素子本体との界面に空隙が多数形成される場合がある。
【0008】
そのようなポリマーPTC素子に対して、過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験を行うと、短絡などの不具合が発生するおそれがある。その原因としては、電極板と素子本体との界面に位置する空隙が、オンオフ試験による加熱と冷却の繰り返しに曝され、素子本体と電極板との間に部分的な剥離が生じ、剥離していない領域に電界が集中するためと考えられる。
【0009】
なお、特許文献2に示すように、電極板の内表面に凹凸を形成し、素子本体と電極板との間に、導電性粉末が分散してある高分子材料から成る中間層を形成することが提案されている。また、特許文献3では、電極板の内表面に凹凸を形成し、素子本体と電極板との間に、最初の短絡事故で発生するアーク発熱によってほぼ消滅する絶縁物を介在させることが提案されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2の技術では、では、中間層が導電性粉末を含むことから、PTC組成物と中間層との抵抗の違いや、界面抵抗が発生するためオンオフ試験では部分的に発熱挙動が変わり、ショート発生しやすくなると言う課題を有する。また、特許文献3の技術では、絶縁物が、最初の短絡事故で発生するアーク発熱によってほぼ消滅する絶縁物であるために、最初の限流動作前後で特性(抵抗値等)が変化する。発熱によって消滅した部分は空洞になり、オンオフで不安定となりショートの問題があると言う課題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開番号2005−122190号公報
【特許文献2】特開2005−79411号公報
【特許文献3】特開2003−37002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ないPTC素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るPTC素子は、
導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子であって、
前記第1電極板および第2電極板の少なくとも一方には、前記素子本体が接触する表面に、凸部が多数形成してあり、
前記凸部の間に形成してある凹部には、導電材を含まず前記素子本体よりもゲル分率の高い埋込層が形成してあることを特徴とする。
【0014】
本発明の第1の観点に係るPTC素子では、微小な凸部が多数形成してある電極板と素子本体との界面には、素子本体よりもゲル分率の高い埋込層が形成してある。そのため、その界面に空隙などが生じにくくなり、過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ない。
【0015】
また、微小な凸部が多数形成してある電極板と素子本体とが、ゲル分率の高い埋込層を介して接合され、微小な凸部の一部が素子本体に食い込むことになり、電極板と素子本体との接合強度が向上する。さらに、この埋込層には、導電材をほとんど含まないことから、素子と埋込層の界面抵抗による発熱をしない。PTC以外で発熱するなどの不都合もない。
【0016】
好ましくは、前記埋込層のゲル分率と前記素子本体のゲル分率との差異が、3%以上、さらに好ましくは5〜22%である。ゲル分率の差異が低すぎると、本発明の効果が小さく、差異が大きすぎると、PTCの室温抵抗値が上昇しやすい傾向にある。
【0017】
本発明の第2の観点に係るPTC素子は、
導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子であって、
前記第1電極板および第2電極板の少なくとも一方には、前記素子本体が接触する表面に、凸部が多数形成してあり、
前記凸部の間に形成してある凹部には、埋込層が形成してあり、
前記埋込層が、トリアリルイソシアヌレートの重合体、トリメタリルイソシアヌレートの重合体、ノナンジオールジアクリレートの重合体、ネオペンチルグリコールジメタクリレートの重合体の少なくとも一種を主成分とすることを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の観点に係るPTC素子では、微小な凸部が多数形成してある電極板と素子本体との界面には、上述した特定の重合体で構成された埋込層が形成してある。そのため、その界面に空隙などが生じにくくなり、過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ない。
【0019】
また、微小な凸部が多数形成してある電極板と素子本体とが、埋込層を介して接合され、微小な凸部の一部が素子本体に食い込むことになり、電極板と素子本体との接合強度が向上する。
【0020】
好ましくは、前記凸部が節瘤である。節瘤とは、たとえば凹凸差が0.5〜15μm程度で、頭部に対して中間部または基部がくびれている凸部を意味する。この節瘤状の凹凸を電極板における素子本体との接合界面に形成することによって、素子本体表面と、電極板側接合面とが良好に接合し、両者間の接合強度を向上させることができる。
【0021】
本発明に係るPTC素子の製造方法は、
導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体と、前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子を製造する方法であって、
前記第1電極板および第2電極板の少なくとも一方に、前記素子本体が接触する表面に、凸部を多数形成する工程と、
前記凸部の間に形成してある凹部に、埋込層となる液状塗膜を形成する工程と、
前記素子本体となる柔軟な原料シートが前記液状塗膜に接触するように、当該原料シートを前記第1および第2電極板で挟み込む工程と、
前記原料シートに含まれる有機物と前記液状塗膜に含まれる有機物とを架橋させる工程とを有する。
【0022】
本発明に係るPTC素子の製造方法では、素子本体を電極板で挟み込む際に、微小な凸部が多数形成してある電極板と素子本体との界面に、埋込層となる液状塗膜が形成してある。そのため、素子本体を電極板で挟み込む際に、余分な液状塗膜は、空気と共に電極板の側方から排除され、素子本体と電極板との界面に空隙などが生じにくくなる。そのため、得られたPTC素子における過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ない。
【0023】
また、微小な凸部が多数形成してある電極板と素子本体とが、埋込層を介して接合され、微小な凸部の一部が素子本体に食い込むことになり、電極板と素子本体との接合強度が向上する。
【0024】
好ましくは前記液状塗膜が、分子の端に二重結合を二つ以上持つ有機物を主成分とし、さらに好ましくは、前記液状塗膜が、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートの少なくとも一種を主成分とする。
【0025】
これらの特定の有機物は、室温では液状であり、電極板の内表面に形成してある凸部の間に存在する凹部に、埋込層となる一定膜厚の液状塗膜を容易に形成することができる。そのため、素子本体を電極板で挟み込む際に、余分な液状塗膜は、空気と共に電極板の側方から排除され易くなり、素子本体と電極板との界面に空隙などが生じにくくなる。
【0026】
しかも、これらの有機物は、架橋後に、素子本体よりもゲル分率の高い埋込層となる。そのため、電極板と素子本体との界面に空隙などが生じにくくなり、過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るPTC素子の断面図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は図2に示すPTC素子の製造過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1に示すポリマーPTC素子2は、たとえば携帯電話の電源である2次電池セルと、その二次電池セルを過電流から保護するための保護回路との間に組み込まれる。ポリマーPTC素子2は、過充電によるセル温度の異常上昇やセルの外部短絡による過電流が流れた場合、保護回路と二次電池セルとの間の電流を遮断して2次電池セルを保護する。
【0029】
以下では、まず、ポリマーPTC素子2の全体構成について説明する。
【0030】
図1に示すポリマーPTC素子2は、正の抵抗温度特性(PTC特性)を有する導電性ポリマーで構成してある素子本体4を備えている。この素子本体4の表裏面には、第1電極板6および第2電極板8が接合されている。このように、素子本体4は、第1電極板6と第2電極板8との間に挟まれるように配置される。
【0031】
素子本体4の形状は、特に限定されず、直方体型、円柱型等が例示される。素子本体4の形状が直方体の場合、素子本体4の寸法は、縦3〜5mm×横1.5〜5mm×厚さ0.2〜1.0mm程度である。
【0032】
第1電極板6は、素子本体4との接合面6aを有し、接合面6aには微小凸部10が形成してある。第2電極板8は、第1電極6と同様に、素子本体4との接合面8aを有し、接合面8aには微小凸部10が形成してある。微小凸部10の形成方法については後述する。微小凸部10は、各電極板6および8の接合面6a,8a以外の表面にも形成してあっても良いが、好ましくは、接合面6aおよび8aのみに形成してある。
【0033】
各電極板6および8の接合面6aおよび8aにおいて、微小凸部10間の隙間に位置する凹部12には、埋込層14が形成してあり、素子本体4と電極板6および8の接合面6a,8aとは、埋込層14を介して接合してある。各埋込層14は、素子本体4よりもゲル分率の高い重合体で構成してある。
【0034】
埋込層14のゲル分率と素子本体4のゲル分率との差異は、好ましくは3%以上、さらに好ましくは5〜22%である。ゲル分率は、架橋度合いを示す。
【0035】
第1電極板6および第2電極板8は、たとえばニッケルまたはニッケル合金で構成してあるが、クラッド板などの複合板で構成しても良い。これらの電極板66および8の厚みは、特に限定されないが、通常100〜300μm程度である。
【0036】
本実施形態においては、図1に示すように、第1電極板6および第2電極板8で覆われていない素子本体4の露出面には、保護膜20が形成されている。保護膜20を形成することで、大気中の酸素による素子本体4の酸化を防止し、素子本体4の劣化を防止することができる。また、素子本体4の酸化を防止することにより、ポリマーPTC素子2の室温抵抗値の上昇を防止することができる。また、保護膜20によって、素子本体4の機械的強度を向上させることができる。
【0037】
保護膜20の種類としては、酸素を遮蔽する機能を有するものであれば特に限定されないが、エポキシ樹脂、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)、PVA(ポリビニルアルコール)等が例示される。
【0038】
保護膜20の厚さは、特に限定されないが、50〜150μm程度である。厚さが薄過ぎると、保護膜20が、素子本体4の酸化を充分に防止できない。また、厚さが厚過ぎると、保護膜20を形成するための樹脂が、第1電極板6および第2電極板8の表面に塗布されて、他の端子電極とのスポット溶接の作業性を阻害する恐れがある。そこで、厚さを上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止できる。
【0039】
次に、図1に示すポリマーPTC素子2の製造方法について説明する。素子本体4は、通常、主成分である重合体(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の高分子化合物)および導電材を含む樹脂組成物(導電性ポリマー)から構成される。なお、素子本体4は、重合体として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との両方を含んでもよい。
【0040】
まず、高分子化合物(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)、導電材(金属粉、カーボンブラック等)、低分子有機化合物および、高分子化合物同士を架橋反応させるための反応開始剤等を秤量、混練し、PTC組成物を調整する。混練の方法としては、特に限定されないが、ニーダ、押出機、ミル等が例示される。また、PTC組成物に含有させる導電材としては、ふるい機等によって所定の粒径をもつ導電材のみを分級し、これを用いてもよい。次に、このPTC組成物を成形し、図1および図2に示す素子本体4となる柔軟な原料シート4a(図3参照)を得る。なお、PTC組成物は、反応開始剤を含有していなくても良い。
【0041】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂及びフェノール樹脂等が挙げられる。好ましくは、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂を用いることによって、ポリマーPTC素子が、十分な抵抗変化量及び耐熱性を有することができる。熱硬化性樹脂の分子量は、通常、重量平均分子量Mwが300〜10000程度である。上記の熱硬化性樹脂は単独で用いてもよく、また複数種の樹脂を用いてもよい。また、異なる種類の熱硬化性樹脂同士が架橋された構造を有する化合物を用いてもよい。
【0042】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、好ましくは、結晶性ポリマーを用いる。熱可塑性樹脂の融点は、特に限定されないが、好ましくは、70〜200℃程度である。融点がこの範囲にある樹脂を用いることによって、ポリマーPTC素子動作時における熱可塑性樹脂の融解、流動、素子本体4の変形を防止することができる。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニルコポリマー等のコポリマー、ポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド等のハロゲン化ビニルおよびビニリデンポリマー、12−ナイロン等のポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンオキサイド、ポリアセタール、熱可塑性変性セルロース、ポリスルホン類、ポリメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、好ましくは、10000〜5000000である。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、また複数種の樹脂を用いてもよい。また、異なる種類の熱可塑性樹脂同士が架橋された構造を有する化合物を用いてもよい。
【0045】
素子本体4を構成する原料シート4aに含まれる導電材としては、特に限定されないが、金属粉、カーボンブラック等が例示される。好ましくは、導電材として金属粉あるいは金属フィラメントを用いる。この金属粉としては、好ましくは、ニッケルを主成分とするものを用いる。金属粉の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5〜4.0μm程度である。金属フィラメントとしては、フィラメント状ニッケルが好ましく、その線径は、好ましくは0.5〜3.0μm、その線長は、好ましくは5〜20μmである。
【0046】
素子本体4を構成する原料シート4aにおいて、樹脂組成物中の導電材の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは、20〜90質量%である。導電材の含有量を、この範囲内とすることによって、非動作時の室温抵抗値を十分に低くすることができ、また、大きな抵抗変化量を得ることができる。さらには、素子抵抗のバラツキを十分に減少させることができる。
【0047】
原料シート4aに含まれる樹脂組成物は、上記の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および導電材以外に、例えば、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコ−ル等の低分子有機化合物を更に含んでもよい。その結果、素子本体4の温度上昇に伴う抵抗変化量を増大させることができる。
【0048】
原料シート4aは、上記樹脂組成物を充填することが可能な基材を含んでもよい。このような基材としては、特に制限されず、織布、不織布、連続多孔質体等が例示される。
【0049】
金属板6および8は、たとえば所定厚みのニッケル金属板あるいはニッケル合金板を打ち抜き成型して形成される。あるいは、金属板6および8は、クラッド板で構成され、ニッケル層とアルミ層とを圧延して成型された積層板を打ち抜き成型して形成されてもよい。
【0050】
次に、これらの金属板6および8の接合面6a,8aに微小凸部10を形成する。微小凸部10の形成方法としては、特に限定されないが、めっき法、酸による表面処理、切削、ブラスト、あるいはエッチング等が挙げられる。好ましくは、接合面6a,8aには、凸部10としての節瘤を形成する。節瘤は、好ましくは、めっき法によって形成することができる。たとえば、電解めっき法を用いる場合、以下のような手順で節瘤を形成する。
【0051】
(電解ニッケルの製造方法)
電解液にドラム(筒状の陰極)を半分沈め、それを囲むように陽極を設け、このドラム上にNiを電析させながら、ドラムを回転させ、電解液からでている部分で析出したNiをひきはがし、巻き取る。ドラム側面は光沢があり電析した側は凹凸ができる(節瘤面となる)。
【0052】
節瘤(めっき液の成分)の組成としては、特に限定されないが、電極板6および8の接合面6a,8aと同組成であるニッケルであることが好ましい。節瘤の組成をニッケルとすることによって、接合面6および8の表面に節瘤を形成し易くなる。
【0053】
電極板6および8の接合面6a,8aに形成された凸部10としての節瘤は、図3に示すように、接合面6a,8aからの高さ(凹凸差)t1が、好ましくは0.5〜15μm程度であり、各節瘤の高さは均一ではない。
【0054】
次に、各接合面6a,8aにおいて、凸部10としての節瘤の間に存在する凹部12に入り込むように、図1および図2に示す埋込層14となる液状塗膜14a(図3参照)を形成する。液状塗膜14aは、たとえばスプレー塗布法、スピンコート、ディスペンサーによる滴下、マスク印刷、ディップ法などにより形成される。
【0055】
液状塗膜14aを構成するための塗布液は、分子の端に二重結合を二つ以上持つ有機物を主成分とし、さらに好ましくは、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートの少なくとも一種を主成分とする。
【0056】
トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、ノナンジオールジアクリレートおよびネオペンチルグリコールジメタクリレートの各化学式は、たとえば以下の化学式1〜4に示される。
【0057】
【化1】

【0058】
【化2】

【0059】
【化3】

【0060】
【化4】

【0061】
これらの特定の有機物は、室温では液状であり、電極板6および8の接合面6a,8aに形成してある凸部10の間に存在する凹部12に、埋込層14となる一定膜厚の液状塗膜14aを容易に形成することができる。
【0062】
なお、液状塗膜14aを構成するための塗布液において、上記の「特定の有機物を主成分とする」との意味は、上記の特定の有機物を100%含むものでも良いし、上記の特定の有機物以外に、溶剤などのその他の添加物を、5〜90重量%程度含んでも良い趣旨である。
【0063】
素子本体4となる原料シート4aと熱圧着前の液状塗膜14aの厚みt2は、特に限定されないが、凸部10の高さt1の平均に対して、10〜60%程度の平均厚みが好ましい。あるいは、液状塗膜14aの厚みt2は、凸部10の高さt1の最大高さに対して、10〜50%程度の平均厚みが好ましい。
【0064】
なお、液状塗膜14aの厚みt2は、図1および図2に示す埋込層14の厚みと同程度であるが、必ずしも一致しなくても良い。液状塗膜14aが架橋して埋込層14となるが、原料シート4aも架橋して素子本体4となり、架橋は同時に行われ、埋込層14と素子本体4との境界は必ずしも明確ではない。
【0065】
次に、素子本体4を構成する原料シート4aを、第1電極板6および第2電極板8により熱圧着する。熱圧着時には、図3に示すように、各電極板6および8の接合面6a,8aが素子本体4に向き合うようにする。熱圧着時の加熱温度は、素子本体4の材質にもよるが、好ましくは、130〜180°C程度である。また、熱圧着時の圧力は、好ましくは1×10〜20×10Pa程度である。
【0066】
なお、熱圧着時には、圧力により原料シート4aが厚み方向に多少潰れて、第1電極板6および第2電極板8の側方に多少はみ出すこともあるが、不要部分は、容易に除去することができる。
【0067】
その後に、原料シート4aに、必要に応じて、電子線照射を行う。この電子線照射によって、反応開始剤が機能し、高分子同士の架橋反応が促進される。架橋反応のエネルギー源としては、電子線に限定されず、ガンマ線、紫外線、熱等も用いられる。照射する電子線の加速電圧及び電子線照射量は、原料シート4aに含まれる高分子化合物の種類、あるいは素子本体の寸法等に応じて、適宜調整すればよい。このような架橋処理により原料シート4aは、素子本体4となり、液状塗膜14aは埋込層14となる。
【0068】
次に、第1電極板6および第2電極板8で覆われていない素子本体4の露出面に、図1に示すように、保護膜20を形成する。保護膜20の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、前述した樹脂を塗布して乾燥させる方法が例示される。このようにして、図1に示すように、本実施形態に係るポリマーPTC素子2が完成する。
【0069】
本実施形態に係るポリマーPTC素子の製造方法によれば、素子本体4となる原料シート4aを電極板6および8で挟み込む際に、節瘤からなる凸部10が多数形成してある電極板の接合面6a,8aと原料シート4aとの界面に、液状塗膜14aが形成してある。そのため、原料シート4aを電極板6および8で挟み込む際に、余分な液状塗膜14aは、空気と共に電極板6および8の側方から排除され、原料シート4aと電極板6および8との界面に空隙などが生じにくくなる。そのため、得られたPTC素子2における過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ない。
【0070】
また、図1および図2に示すように、節瘤からなる微小な凸部10が多数形成してある電極板6および8と素子本体4とが、埋込層14を介して接合され、微小な凸部10の一部が素子本体4に食い込むことになり、電極板6および8と素子本体4との接合強度が向上する。
【0071】
さらに本実施形態では、液状塗膜14aが、分子の端に二重結合を二つ以上持つ有機物を主成分とし、さらに好ましくは、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートの少なくとも一種を主成分とする。
【0072】
これらの特定の有機物は、室温では液状であり、電極板6および8の接合面6a,8aに形成してある凸部10の間に存在する凹部12に、一定膜厚t2の液状塗膜14aを容易に形成することができる。しかも、これらの有機物は、架橋後に、素子本体4よりもゲル分率の高い埋込層14となる。そのため、電極板6および8と素子本体4との界面に空隙などが生じにくくなり、得られたPTC素子2は、過負荷の使用状態特性を試験するためのオンオフ試験時に、短絡などの不具合が発生するおそれが少ない。
【0073】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、ポリマーPTC素子2は、2次電池セルの過電流保護素子としてのみならず、自己制御型発熱体、温度センサー、限流素子、過電流保護素子等としても使用されることが可能である。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1a
【0075】
まず、素子本体4となる原料シート4aを準備した。原料シート4aを製造するために、まず、高分子化合物(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)、導電材(金属粉、カーボンブラック等)、低分子有機化合物および、高分子化合物同士を架橋反応させるための反応開始剤等を秤量、混練し、PTC組成物を調整した。
【0076】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いた。熱可塑性樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)を用いた。素子本体4に含まれる導電性粒子としては、ニッケルを主成分とするものを用いた。金属粉の平均粒径は、0.5〜4.0μmであった。素子本体4において、樹脂組成物中の導電性粒子の含有量は、樹脂組成物全体に対して、85質量%であった。
【0077】
次に、第1電極板6および第2電極板8を準備した。これらの第1電極板6および第2電極板8としては、所定厚みのニッケル金属板を打ち抜き成型して形成されたものを用いた。これらの第1電極板6および第2電極板8の各接合面6a,8aには、電解めっき法により、高さt1が、0.5〜15μmの節瘤状の凸部10を多数形成した。
【0078】
次に、これらの各接合面6a,8aに、液状塗膜14aをディスペンサーによる滴下法により形成した。液状塗膜14aを形成するための塗布液として、トリアリルイソシアヌレート原液100%(導電性粒子などの導電材を含まない)を用いた。液状塗膜14aの厚みt2は5μmであった。
【0079】
次に、原料シート4aを、液状塗膜14aが形成してある電極板6および8で挟み込み、熱プレス機等により、熱圧着した。熱圧着時の原料シート4aの加熱温度は、熱圧着開始温度T1が120℃であり、最終加熱温度T2は150℃近くであった。また、熱圧着処理時間は約4分であった。温度T1前の加圧力は、12MPaであり、温度T1以降の熱圧着時の加圧力は、36MPaである。
【0080】
次に、原料シート4aおよび液状塗膜14aに電子線照射を行い、これらを架橋させて、図1に示すように、電極板6および8の間に埋込層14を介して挟まれた素子本体4を有するポリマーPTC素子2を得た。
【0081】
素子本体4のゲル分率と、埋込層14のゲル分率とを、以下のようにして測定した。すなわち、素子本体4の厚み方向の中心付近200μmの厚みで、素子本体4の材料をサンプリングし、そのサンプル品のゲル分率を測定した。また、埋込層14に関しては、各電極板6および8の接合面6a,8aから25μmの領域に位置する埋込層をサンプリングし、そのサンプル品のゲル分率を測定した。
【0082】
ゲル分率の測定は、各サンプル品を、最初に重量測定し、その測定重量を重量αとする。次に、そのサンプル品を沸騰トルエンに1時間浸漬し、未架橋成分を溶出させた。そのサンプル品を取り出し、100℃で減圧乾燥させ、再度、重量を測定し、その測定重量を重量βとする。
【0083】
次に、そのサンプル品を、窒素ガス雰囲気中で、450℃以上で3時間加熱し、素地中に含まれるゲル成分を加熱分解させた。加熱後の重量を測定し、その測定重量を重量γとした。ゲル分率(%)は、{(β−γ)/(α−γ)}×100で表せる。素子本体4および埋込層14の各ゲル分率と、その差異を表1に示す。各サンプル品の個数は、100個であり、表1中のゲル分率は、平均値を示す。
【0084】
また、得られたポリマーPTC素子について、オンオフ試験を行った。オンオフ試験は、PTC素子に対して、6Vおよび50Aで、15秒通電後に、通電を止めて165秒冷却し、これを50サイクル繰り返し、短絡(ショート)が発生したか否かを調べた。短絡が発生したか否かは、試験終了サンプルの電極6または8を剥離し、目視でショート痕を見ることにより判断した。5個のPTC素子に対して、短絡が発生したPTC素子は、0個であり、短絡発生率は、表1に示すように、0%であった。
比較例1
【0085】
液状塗膜14a(埋込層14)を形成しない以外は、実施例1と同様にしてPTC素子を作製し、同様な測定を行った。結果を表1に示す。
比較例2
【0086】
液状塗膜14a(埋込層14)を形成するための塗布液を、平均粒径が0.36μmのカーボンブラック(導電材)と、エチレン−酢酸ビニル共重合体を、体積比で60/40となるように秤量して混合し、4倍重量のトルエンに溶解した塗布液で構成した以外は、実施例1と同様にしてPTC素子を作製し、同様な測定を行った。結果を表1に示す。
実施例1b
【0087】
液状塗膜14a(埋込層14)を形成するための塗布液を、ポリエチレンを10倍重量のトルエンから成る希釈液に溶解した塗布液で構成した以外は、実施例1aと同様にしてPTC素子を作製し、同様な測定を行った。結果を表1に示す。
実施例2〜7
【0088】
液状塗膜14a(埋込層14)を形成するための塗布液を、トリアリルイソシアヌレート原液100%ではなく、トリアリルイソシアヌレート原液に対して、所定量の低密度ポリエチレンを混合し、塗布液中のトリアリルイソシアヌレートの重量%を、表2のように変化させた以外は、実施例1aと同様にしてPTC素子を作製し、同様な測定を行った。結果を表2に示す。表2に示す結果から、埋込層のゲル分率は、塗布液中のトリアリルイソシアヌレートの重量%に応じて変化し、埋込層と素子本体とのゲル分率の差が、好ましくは3%以上、さらに好ましくは5〜22%の時に良好な結果が得られることが確認できた。
実施例8
【0089】
液状塗膜14a(埋込層14)を構成するトリアリルイソシアヌレート原液100%の代わりに、トリメタリルイソシアヌレート、ノナンジオールジアクリレート、またはネオペンチルグリコールジメタクリレートを用いた以外は、実施例1aと同様にしてPTC素子を作製し、同様な測定を行った。この場合にも、実施例1aと同様な結果が得られたことが確認された。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【符号の説明】
【0092】
2… ポリマーPTC素子
4… 素子本体
4a… 原料シート
6… 第1電極板
6a… 接合面
8… 第2電極板
8a… 接合面
10… 凸部
12… 凹部
14… 埋込層
14a… 液状塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子であって、
前記第1電極板および第2電極板の少なくとも一方には、前記素子本体が接触する表面に、凸部が多数形成してあり、
前記凸部の間に形成してある凹部には、導電材を含まず前記素子本体よりもゲル分率の高い埋込層が形成してあることを特徴とするPTC素子。
【請求項2】
前記埋込層のゲル分率と前記素子本体のゲル分率との差異が、3%以上である請求項1に記載のPTC素子。
【請求項3】
導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子であって、
前記第1電極板および第2電極板の少なくとも一方には、前記素子本体が接触する表面に、凸部が多数形成してあり、
前記凸部の間に形成してある凹部には、埋込層が形成してあり、
前記埋込層が、トリアリルイソシアヌレートの重合体、トリメタリルイソシアヌレートの重合体、ノナンジオールジアクリレートの重合体、ネオペンチルグリコールジメタクリレートの重合体の少なくとも一種を主成分とすることを特徴とするPTC素子。
【請求項4】
前記凸部が節瘤である請求項1〜3のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項5】
導電材と重合体とを含み、温度と共に抵抗値が増加する特性を有する素子本体と、前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子を製造する方法であって、
前記第1電極板および第2電極板の少なくとも一方に、前記素子本体が接触する表面に、凸部を多数形成する工程と、
前記凸部の間に形成してある凹部に、埋込層となる液状塗膜を形成する工程と、
前記素子本体となる柔軟な原料シートが前記液状塗膜に接触するように、当該原料シートを前記第1および第2電極板で挟み込む工程と、
前記原料シートに含まれる有機物と前記液状塗膜に含まれる有機物とを架橋させる工程とを有するPTC素子の製造方法。
【請求項6】
前記液状塗膜が、分子の端に二重結合を二つ以上持つ有機物を主成分とする請求項5に記載のPTC素子の製造方法。
【請求項7】
前記液状塗膜が、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートの少なくとも一種を主成分とする請求項5または6に記載のPTC素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−186964(P2010−186964A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31727(P2009−31727)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】