説明

PTC素子

【課題】 定格電圧よりも高い電圧がポリマーPTC素子に印加され、導電性ポリマー要素が破壊されたときでも、ヒューズを併用することなく、回路を保護することが可能なポリマーPTC素子を提供する。
【解決手段】 PTC特性を有する導電性ポリマー要素(3)と、導電性ポリマー要素(3)を挟んでいる2つの電極箔(3a,3b)と、2つの電極箔表面にそれぞれ配置されている2つの端子(1,2)とを備えるPTC素子を、温度上昇により不可逆的に電気抵抗が高くなる導電性接着剤(4,5)を用いて、端子(1,2)を、電極箔(3a,3b)の表面に接合することにより作製する。電極箔および端子の表面には、導電性接着剤の接着力を向上させるために、金属薄膜(1a,2a,3c,3d)を形成してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にポリマーPTC素子として提供されるPTC素子、過電流保護素子および過熱保護素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
「PTC素子」とは、電気/電子回路技術の分野において知られているように、正の温度係数(Positive Temperature Coefficient)を有するサーミスタを言う。PTC素子は、比較的低い温度条件下(例えば常温時)ではその電気抵抗(またはインピーダンス)は低いが、ある温度(以下、トリップ温度と言う)を超えると電気抵抗が急激に増加する。本明細書において、PTC素子の前者の状態をロー状態、後者の状態をハイ状態とも
言うものとする。さらに、PTCは、トリップしている状態で、さらに電圧を印加されて、ある温度(以下、熱暴走開始温度という)を超えると、熱暴走する。ここで、熱暴走とは、トリップ後、電気抵抗の上昇が飽和して電気抵抗の上昇率が低くなり、その結果、電圧上昇に伴う消費電力(P=V/R:ここで、Pは消費電力、Vは印加電圧、RはPTC素子の抵抗値)が著しく大きくなってPTC素子の温度が上昇する状態をいう。PTCは熱暴走すると破壊する。
【0003】
PTC特性を有する導電性ポリマー(以下、このポリマーを「PPTC」と呼ぶ)からなる要素が2枚の電極箔に挟まれ、2つの端子が2枚の電極箔それぞれに半田付けされた構成のポリマーPTC素子(以下、「PPTC素子」とも呼ぶ)は広く知られており、様々の分野で使用されている。この素子は所定温度以上になると、その電気抵抗値が急激に増加し、電流の流れを実質的に遮断するという特性を有する。この特性を利用して、PPTC素子は、電気回路の保護を目的として電気回路において使用されている。PPTC素子を接続した回路に過電流が流れてPPTC素子の温度が上昇すると、PPTC素子の抵抗が大きくなって電流の流れを遮断し、それにより回路が保護されることとなる。
【0004】
従来のPPTC素子が過電流によって動作する(即ち、電気抵抗が高くなる)と、PTC素子に実質的に回路全体の電圧が印加されることになる。この時、PPTC素子に印加される電圧が定格電圧を超えた非常に大きい電圧である場合、PPTC素子の熱暴走により素子が破壊されて電極箔同士が接触し、短絡する可能性がある。かかる事態を避けるために、PPTC素子は、その最大定格電圧が回路(または系)の電圧よりも大きくなるように選択または設計される。しかし、PPTC素子の定格電圧を回路の最大電圧を考慮して選択したとしても、回路には予見できない大きな電圧が不可避的に印加されることがある。その場合、PPTC素子における2つの電極箔の短絡を防止することが、回路保護の観点からは望ましい。そのため、過充電、過熱または過電流から回路を保護するために、電池パック等においては、バックアップとしてヒューズを併用することが行われている。
【0005】
ヒューズはPPTC素子と直列に接続される。ヒューズは、一般には、熱により溶融して回路を切断する(オープンにする)ものであるが、熱により高抵抗化するものであってよい。例えば、特許文献1は、熱的変化に対応して導電率が変化する機能によりスイッチング機構を構成する硬化ペースト層を形成する導電性ペーストを提案し、これのヒューズ的使用に言及している。但し、特許文献1に記載の導電性ペーストは、本来的にスイッチング機能を有するものであり、不可逆的に電気抵抗値が上昇するものではないので、周囲温度が下がったときに短絡を防止することができない。
【特許文献1】特開平6−163203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようにヒューズを併用した場合には、雷サージ等の大電流等によりヒューズが先に動作する、あるいは衝撃等によりヒューズが破壊される等の問題があった。本発明は、PTC特性を有する導電性ポリマー要素が極めて低い確率で熱暴走して破壊されるときでも、ヒューズを併用することなく、PPTC素子全体としての性能低下を抑制することが可能な構成のPPTC素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、PTC特性を有する導電性ポリマー要素と、当該導電性ポリマー要素を挟んでいる2つの電極箔と、当該2つの電極箔表面にそれぞれ配置されている2つの端子とを備えるPTC素子において、当該端子が、温度上昇により不可逆的にその電気抵抗が高くなる特性を有する導電性接着剤を介して、当該電極箔の表面に接合されているPTC素子を提供する。
【0008】
本発明のPTC素子は、加熱等により温度が上昇すると、不可逆的に電気抵抗が高くなる導電性接着剤を、端子と電極箔とを電気的に接続するために使用していることを特徴とする。ここで、導電性接着剤の温度上昇は、その周囲の温度上昇により知ることができる。導電性接着剤の温度は、例えば、熱電対を使用して測定することができる。
【0009】
前述のとおり、本発明のPPTC素子は、そのPTC特性により、過電流が流れた時または周囲温度が上昇した時に動作して高抵抗となって、通過する電流量を急減させる。この時、PPTCには実質的には回路全体の電圧が印加されることになる。この電圧が過電圧、即ち、定格を超えた過大な電圧の場合、PPTCの表面温度が上昇していき熱暴走をして破壊に至る場合がある。PPTCが熱暴走している間の発熱または破壊時の発熱は、前記導電性接着剤を加熱して高温にし、その電気抵抗を不可逆的に高くする。その結果、PPTC素子が破壊された後でも、導電性接着剤が高抵抗体となるので、PPTC素子の電極箔同士が接触するような状態になっても、PPTC素子内の短絡を有効に防止して、回路を保護することが可能となる。換言すれば、高抵抗体になり得る導電性接着剤は、バックアップ・ヒューズ的な役割をする。したがって、本発明で使用する導電性接着剤は、PPTC素子に過電圧が印加されて破壊に至るまでの短時間で、十分に高い電気抵抗を有するようになるものであることが好ましい。導電性接着剤はまた、そのような短時間で、トリップしているPPTCの電気抵抗と同じ又はそれよりも高い電気抵抗を有するように、その電気抵抗が上昇する性質を有することが好ましい。
【0010】
導電性接着剤は、PPTCの熱暴走開始温度よりも低い温度領域では、小さい電気抵抗上昇率(Ω/℃)にて電気抵抗が高くなり、熱暴走開始温度以上の温度領域では、大きい電気抵抗上昇率(Ω/℃)にて電気抵抗が高くなることが好ましい。PPTC素子は、PPTCが熱暴走していない限り、低い電気抵抗を有する導電体として機能すべきところ、熱暴走開始温度未満で導電性接着剤の抵抗が高くなると、回路に好ましくない影響を及ぼすことがある。換言すれば、導電性接着剤の電気抵抗の上昇は、導電性接着剤の劣化を意味するから、PPTCが正常状態にある間またはトリップしている間には、できるだけ劣化しにくい特性を有することが好ましい。このことはまた、PPTC素子を繰り返し使用するためにも必要とされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPPTC素子を用いれば、PPTCが熱暴走して破壊する場合でも、導電性接着剤が高抵抗体となるため、PPTCの両面に配置される電極箔の間で短絡が生じることを実質的に防止できる。したがって、本発明のPPTC素子は、定格電圧以上の電圧が印加された場合でも、ヒューズを使用することなく、それ自体で回路を保護することができ、より高い回路保護機能を発揮する。また、ストレスがPTC素子に作用する等の理由により熱暴走が開始するときの抵抗(R)と常温時の抵抗(R)との比(R/R)が低下して耐圧が低くなった場合でも、本発明の構成のPPTC素子によれば、回路を良好に保護することができる。さらに、本発明のPPTC素子はヒューズを不要にするものであるから、これを使用することにより、回路の省スペース化、組み立てコストの削減および部品コストの削減を図ることができる。さらにまた、本発明のPPTC素子においては、電極箔と端子との間が導電性接着剤により接続され、半田付けが不要となるから、半田付けに必要とされるリフロー炉が必要なくなり、設備費用の削減ができる。また、半田付け時に使用される窒素が必要なくなり、窒素代の削減、および窒素を使用するための設備費用の削減も可能となる。さらにまた、製品および治具の洗浄工程も無くすことができるので、洗浄液及び洗浄設備費用の削減もできる。得られるPTC素子については、導電性接着剤を使用する場合には半田付けを使用する場合と比較して製造工程中での熱履歴が少なくなるので、PTC素子の低抵抗化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態を図1および図2を参照して説明する。
図1は、本発明のPPTC素子の一例の平面図であり、図2はその断面図である。本発明のPPTC素子10は、PTC特性を有する導電性ポリマー要素3およびその両面に配置された電極箔3aおよび3b、ならびに端子1および2を有する。端子1および2はそれぞれ導電性接着剤4および5によって、電極箔3aおよび3bに接合されている。図示したPPTC素子10においては、端子1および2の表面にそれぞれ金属薄膜1aおよび2aが形成され、電極箔3aおよび3bの表面にそれぞれ金属薄膜3cおよび3dが形成されている。
【0013】
導電性ポリマー要素3は、例えば、ポリオレフィンまたはフッ素系樹脂とカーボンブラックとを混練した後、放射線を照射して架橋することにより構成された高分子樹脂体である。なお、図示した構成のPPTC素子の製造においては、一般的に、前記混練後、放射線を照射する前に、電極箔3aおよび3bが熱圧着されることにより一体化される。導電性ポリマー要素3の内部には、常温の環境下ではカーボンブラックの粒子が繋がって存在するために電流が流れる多数の導電パスが形成され、それにより導電性ポリマー要素3は良好な導電性を発揮する。この導電パスを流れる電流の超過によって導電性ポリマー要素3が熱膨張すると、カーボンブラックの粒子間距離が拡大して導電パスが切断され、抵抗値が急激に増大する(正の抵抗温度特性;PTC)。図示した形態では、導電性ポリマー要素は矩形の板状物である。その寸法は、例えば、タテが3〜10mm、ヨコが7〜15mm、厚さが0.2〜1mm程度である。導電性ポリマー要素は、常套的に採用されている他の形態、例えば、円盤形態としてもよい。
【0014】
導電性ポリマー要素3の対向する2つの表面に配置された電極箔3aおよび3bは、金属箔である。金属箔は、例えば、ニッケル箔もしくは銅箔またはニッケルメッキした銅箔である。金属箔の厚さは一般に0.025〜0.040mm程度である。金属箔1および2は、例えば、前述のように、導電性ポリマー要素の混練後架橋前に、プレスもしくはローラを用いた熱圧着により、導電性ポリマー要素3と一体化させる。
【0015】
端子1および2は、実装用のリードとして使用される。端子1および2は、例えば、ニッケル、真鍮、または表面に銅メッキした鉄もしくはニッケルメッキしたSUSから成る。図示した形態において、端子は矩形の帯状物であり、その寸法は、例えば、タテが2〜8mm、ヨコが16〜20mm、厚さが0.1〜0.3mm程度である。端子は他の形状であってよく、例えば、板状体としてよい。
【0016】
導電性接着剤4および5は、合成樹脂と導電性粉末とを含み、必要に応じて粘度調整用等の添加剤を含む。合成樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、およびビニルウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂を使用できる。また、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、α−オレフィン無水マイレン酸樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等が使用可能である。さらに、ここに列挙した樹脂から選択した二種以上の樹脂を混合して使用することも可能である。導電性粉末としては、例えば、金粉末、銀粉末、ニッケル粉末、カーボン粉末、パラジウム粉または少なくとも表面が導電性である粉末を使用できる。いずれの材料を選択する場合も、導電性接着剤は温度上昇により不可逆的にその電気抵抗が高くなるように構成することを要する。導電性接着剤4および5は、導電性ポリマー要素3が熱暴走したときに電流を遮蔽する高抵抗体として作用するような厚さの層を電極箔3aおよび3bと端子1および2との間で形成するような量で塗布する必要がある。具体的な厚さは、導電性ポリマー要素3の種類および寸法、ならびに導電性接着剤が塗布される面積等に応じて選択される。例えば、上記の寸法を有する導電性ポリマー要素および端子を使用する場合には、厚さ0.01〜0.1mm程度の層が形成されるように、導電性接着剤を塗布することが好ましい。
【0017】
金属薄膜1a、2a、3cおよび3dは、各部材表面の酸化を防止するとともに、良好な導電性を確保しつつ接着剤4および5による接着をより強固にするためのものである。これらの金属薄膜は、例えば、金をメッキすることにより形成され、あるいはパラジウム銀、または銅等の適切な導電材料を用いて、メッキ等により形成される。金属薄膜は、必ずしも形成される必要はない。金属薄膜は、例えば、一方または両方の端子にのみ形成してよく、あるいは一方または両方の電極箔の表面にのみ形成してよい。
【0018】
上記のポリマーPTC素子に過電圧が印加される等の理由により、導電性ポリマー要素3が熱暴走して破壊される場合でも、導電性ポリマー要素3が熱暴走している間に放出した熱および/または破壊時に導電性ポリマー要素3が放出した熱によって導電性接着剤4および5の温度が上昇して電気抵抗が高くなる。それにより、導電性ポリマー要素3が破壊したために電極箔3aおよび3bが互いに接触することになっても、導電性接着剤4および5が抵抗体となって、端子1と端子2との間を流れる電流量を好ましくはポリマーPTC素子が熱暴走する前と同じくらい小さい量に維持する。かかる導電性接着剤4および5の作用により、ポリマーPTC素子が置かれた回路、およびその回路を内蔵する機器の安全が保たれる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のPPTC素子は、導電性ポリマー要素の熱暴走による破壊に起因して電極箔の間で短絡が生じるような場合でも、導電性接着剤が高い電気抵抗を示して、電流量が減少した状態を維持することができるので、電池パックおよびその他の一般電子機器、通信機器およびコンピュータ等の種々の機器またはデバイスをより安全に保護するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明のPTC素子の一例の平面図である。
【図2】図2は、本発明のPTC素子の一例の断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1,2...端子、1a,2a...金属薄膜、3...導電性ポリマー要素、3a,3b...電極箔、3c,3d...金属薄膜、4,5...導電性接着剤、10...PTC素子。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
PTC特性を有する導電性ポリマー要素と、当該導電性ポリマー要素を挟んでいる2つの電極箔と、当該2つの電極箔の表面にそれぞれ配置されている2つの端子とを備えるPTC素子において、当該端子が導電性接着剤を介して当該電極箔の表面に接合され、当該導電性接着剤が、温度上昇により不可逆的にその電気抵抗が高くなるものであることを特徴とするPTC素子。
【請求項2】
前記導電性接着剤は、導電性ポリマー要素の熱暴走時の発熱および/または導電性ポリマー要素の破壊時の発熱により温度上昇するものである、請求項1に記載のPTC素子。
【請求項3】
前記導電性接着剤は、導電性ポリマー要素の熱暴走時の発熱および/または導電性ポリマー要素の破壊時の発熱により温度上昇して、その電気抵抗がPTC特性を有する導電性ポリマー要素のトリップ時の電気抵抗と同じまたはそれ以上となるものである、請求項2に記載のPTC素子。
【請求項4】
前記導電性接着剤は、導電性ポリマー要素の熱暴走開始温度よりも低い低温度領域における電気抵抗上昇率が、導電性ポリマー要素の熱暴走開始温度以上の高温度領域における電気抵抗上昇率よりも小さいものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のPTC素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−128277(P2006−128277A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312338(P2004−312338)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(592142669)タイコ エレクトロニクス レイケム株式会社 (14)
【Fターム(参考)】