説明

Perna属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体

【課題】 Perna属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ又はその作製方法、Perna属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体又はそのフラグメント、並びに、Perna属に属するイガイ幼生の検出用試薬、検出方法、検出キット、及び検出器を提供すること。
【解決手段】 ミドリイガイウンボ期幼生の粗抽出液を腹腔内に投与して免疫したマウスから脾臓細胞を単離し、この脾臓細胞とマウスミエローマ細胞とを融合してハイブリドーマを作製する。この中から、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生に反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Perna属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ又はその作製方法、Perna属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体又はそのフラグメント、並びに、Perna属に属するイガイ幼生の検出用試薬、検出方法、検出キット、及び検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚貝類の種の判別や同定は、形態学的手法に基づいて専門家によって行われていた。しかしながら、各種二枚貝の付着期幼生は形態が非常に似ており、専門家においても種の判別や同定が困難とされている。そのため、二枚貝の付着期幼生の判別や同定を容易に行うことができる手法の開発が求められている。
【0003】
現在までに、アサリ浮遊幼生を同定する方法として、アサリ浮遊幼生に特異的なモノクローナル抗体の開発がなされている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ミドリイガイ等のPerna属に属するイガイ幼生に特異的なモノクローナル抗体の開発はなされておらず、また、ミドリイガイ等のPerna属に属するイガイ幼生を迅速かつ簡便に同定する方法の開発も行われていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-196866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、その抗体及びそのフラグメント、並びに、その利用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これまで、Perna属とMytilus属は同じイガイ科に属し、分類上非常に近縁の二枚貝であるため、当業者にとっても、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しない抗体が得られるかどうか、全く不明であったし、むしろ、そのような近縁のイガイを区別する抗体が得られるとは考えられていなかった。
【0007】
本発明者らは、ミドリイガイ幼生を抗原とすることで、Perna属に属するイガイの幼生を認識し、Mytilus属に属するイガイの幼生は認識しないモノクローナル抗体が得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメントである。ここで、前記Perna属に属するイガイ幼生がミドリイガイ(Perna viridis)幼生であり、前記Mytilus属に属するイガイ幼生がムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)幼生であることが好ましい。また、前記モノクローナル抗体又はそのフラグメントは、ミドリイガイ幼生の面盤に反応することが好ましい。また、アサリ幼生、甲殻類プランクトン又はフジツボ幼生にも反応しないことが好ましい。前記モノクローナル抗体又はそのフラグメントとしては、例えば、受託番号FERM P−21805で寄託されているハイブリドーマ、および、受託番号FERM P−21806から産生されるモノクローナル抗体又はそのフラグメント等が挙げられる。
【0009】
また、本発明にかかる検出用試薬は、Perna属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出用試薬であって、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを有効成分として含有する。
【0010】
また、本発明にかかる検出キットは、Perna属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出キットであって、前記いずれかのモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む。
【0011】
さらに、本発明にかかる検出器は、Perna属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出器であって、前記いずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明にかかるハイブリドーマは、前記いずれかのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。このようなハイブリドーマとしては、例えば、受託番号FERM P−21805で寄託されているハイブリドーマ、および、受託番号FERM P−21806で寄託されているハイブリドーマ等が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、その抗体及びそのフラグメント、並びに、その利用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例における、ハイブリドーマB(1)A2培養上清のミドリイガイウンボ期幼生、および、ムラサキイガイ付着期幼生の粗抽出液との反応性を表すELISAの結果を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施例における、ハイブリドーマE1−A培養上清のミドリイガイウンボ期幼生、および、ムラサキイガイ付着期幼生の粗抽出液との反応性を表すELISAの結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施例における、ハイブリドーマB(1)A2培養上清を精製して得られた精製モノクローナル抗体と、ミドリイガイウンボ期幼生、および、ムラサキイガイ付着期幼生の粗抽出液との反応性を表すELISAの結果を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例における、ハイブリドーマE1−A培養上清を精製して得られた精製モノクローナル抗体と、ミドリイガイウンボ期幼生、および、ムラサキイガイ付着期幼生の粗抽出液との反応性を表すELISAの結果を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施例における、ハイブリドーマB(1)A2培養上清、あるいは、ハイブリドーマE1−A培養上清の、ミドリイガイD型幼生に対する反応性を、免疫組織化学染色法により調べた結果を示す顕微鏡写真である。
【図6】本発明の一実施例における、ハイブリドーマB(1)A2培養上清、あるいは、ハイブリドーマE1−A培養上清の、ミドリイガイウンボ期〜付着期幼生に対する反応性を、免疫組織化学染色法により調べた結果を示す顕微鏡写真である。
【図7】本発明の一実施例における、ハイブリドーマB(1)A2培養上清、あるいは、ハイブリドーマE1−A培養上清の、ムラサキイガイD型幼生に対する反応性を、免疫組織化学染色法により調べた結果を示す顕微鏡写真である。
【図8】本発明の一実施例にける、ハイブリドーマB(1)A2培養上清、あるいは、ハイブリドーマE1−A培養上清の、ムラサキイガイ付着期〜ウンボ期幼生に対する反応性を、免疫組織化学染色法により調べた結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0016】
==モノクローナル抗体又はそのフラグメント==
本発明にかかるモノクローナル抗体は、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないことを特徴とする。ここで、イガイは二枚貝類のイガイ目イガイ科に属する貝の総称であって、イガイ科Perna属には、ミドリイガイ(Perna viridis)、モエギイガイ(Perna canaliculatus)等が属し、イガイ科Mytilus属には、イガイ(Mytilus coruscus)、ムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)等が属している。なお、モノクローナル抗体が幼生に反応するというとき、その幼生の形状は、whole-mountであっても、組織切片であっても、粗抽出液(超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物)であっても、当業者が抗体反応に用いる形状であれば、特に限定されない。また、その幼生に対して行う処理(固定、溶解、抽出等)も、当業者が抗体反応に用いるために通常行う処理であれば、特に限定されない。
【0017】
この抗体は、イガイ以外の二枚貝類(特に、マガキ、アサリ、及びバカガイ)幼生には反応しない方が好ましく、甲殻類プランクトンやフジツボ幼生にも反応しない方が好ましい。それによって、捕獲したプランクトンの中に、多種類の幼生が混在していても、Perna属に属するイガイ幼生のみを同定できる。
【0018】
本発明にかかるフラグメントとしては、前述のモノクローナル抗体の一部からなり、可変領域を含む抗原結合部位であれば特に制限されるものではないが、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント等を用いることができる。これらのフラグメントは、例えば、前述のモノクローナル抗体をタンパク質分解酵素によって部分消化することにより得ることができる。なお、タンパク質分解酵素としては、FabフラグメントやF(ab’)フラグメントを得ることができるものであればどのようなものであってもよいが、例えば、ペプシン、フィシン等の分解酵素を用いることができる。
【0019】
==モノクローナル抗体の製造方法==
本発明のモノクローナル抗体は、Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(以下、「本発明にかかるハイブリドーマ」と称する。)から得ることができる。
【0020】
本発明にかかるハイブリドーマを用いたモノクローナル抗体の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、該ハイブリドーマを適当な培養培地で培養し、培養上清を回収することにより行ってもよいが、前述のハイブリドーマを哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の腹腔内に投与し、腹水を回収することにより行ってもよい。なお、モノクローナル抗体の精製は、前述のハイブリドーマの培養上清又は培養したハイブリドーマを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物、又は前述のハイブリドーマを腹腔内に投与した哺乳類動物から採取した腹水を、常法、例えば、硫安塩析、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィー等)、ゲル濾過等の方法、又はこれらの方法を適宜組み合わせた方法により行うことができる。
【0021】
前述のハイブリドーマとしては、例えば、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて受託番号FERM P−21805で寄託されているB(1)A2、あるいは、受託番号FERM P−21806で寄託されているE1-Aを用いることができる。
【0022】
===ハイブリドーマの作製===
本発明にかかるハイブリドーマは、常法により作製することができる。以下に一例を示す。
【0023】
まず、ミドリイガイウンボ期(付着前駆期)幼生を集める。具体的には、ミドリイガイウンボ期幼生が含まれているミドリイガイ幼生集団を飼育ビーカーから取り出し、顕微鏡観察によって、殻頂(ウンボ)が形成されたウンボ期の個体を選別し、収集を行なう。なお、幼生を育成するための卵は、例えば、天然から採取した成貝を人工授精して得ることができる。
【0024】
次に、ミドリイガイウンボ期幼生又はその粗抽出液等を抗原として用い、適当な量の抗原(アジュバントを使用してもよい。)を哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の静脈内、皮下、腹腔内等に(1〜複数回)投与して免疫する。
【0025】
その後、免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、採取した抗体産生細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを融合させてハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中で、ムラサキイガイ幼生には反応性を示さないが、ミドリイガイ幼生には反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選定することにより、本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0026】
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等の細胞融合促進剤を用いて細胞融合することができるが、エレクトロポレーション等の電気刺激を利用して細胞融合することもできる。なお、細胞融合の効率を高めるために、ジメチルスルホキシドやレシチン等の補助剤を細胞融合促進剤に含ませてもよい。
【0027】
前記抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等を用いることができる。これらの細胞は、動物から脾臓、リンパ節、胸腺、又は末梢血を摘出し、摘出した組織を破砕、濾過、遠心分離等することにより得ることができる。また、前記ミエローマ細胞としては、各種動物由来の細胞株を用いてもよいが、それ自身薬剤に対して抵抗性を示さないが、融合すると薬剤に対して抵抗性を示す細胞株を用いることが好ましい。これにより、細胞融合した後、薬剤を添加した培養培地(例えば、HAT培地等)で培養することにより、細胞融合によって得られたハイブリドーマの選択が容易となる。なお、融合させる抗体産生細胞とミエローマ細胞は、同種の動物由来の細胞を用いることが望ましいが、異なる種の動物由来の細胞を用いてもよい。
【0028】
前述のハイブリドーマの選定は、常法のスクリーニングやクローニングにより行うことができる。ハイブリドーマのスクリーニングには、例えば、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme ImmunoAssay、ELISA:Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、放射線免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)、ウエスタンブロッティング等を用いることができ、ハイブリドーマのクローニングには、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等を用いることができる。本発明にかかるハイブリドーマの選定において、上記スクリーニング及びクローニングを繰り返し行うことにより、ミドリイガイ幼生又はその粗抽出液に対して特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することが可能となる。
【0029】
なお、前述のハイブリドーマのスクリーニングでは、最低限ミドリイガイ幼生(ウンボ期幼生)及びムラサキイガイ幼生との反応性を調べればよいが、さらに、他の二枚貝類の幼生、フジツボ幼生(キプリス幼生)、甲殻類プランクトン等の他の幼生若しくはプランクトンとの反応性を調べることがより好ましい。これにより、Perna属に属するイガイ幼生に対してより特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができ、このハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体を用いることにより、様々な幼生又はプランクトンを含む試料(例えば、海水等)中からPerna属に属するイガイ幼生を特異的に検出することができるようになる。すなわち、Perna属に属するイガイ幼生の存在の有無の確認、Perna属に属するイガイ幼生の同定、Perna属に属するイガイ幼生の量の測定等を行うことができるようになる。
【0030】
==モノクローナル抗体又はそのフラグメントの使用==
本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応性を示さないが、Perna属に属するイガイ幼生に対して特異的に反応性を示す。従って、イガイ科に属する生物間において、Perna属に属するイガイ幼生の属特異的な検出に有用であると考えられる。
【0031】
また、本発明にかかるモノクローナル抗体は、イガイ以外の二枚貝類(特に、マガキ、アサリ、及びバカガイ)の幼生には反応性を示さない方が好ましい。このようなモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、類似の生物間におけるPerna属に属するイガイ幼生の特異的な検出にも有用であると考えられる。
【0032】
さらに、本発明にかかるモノクローナル抗体又はフラグメントは、Perna属に属するイガイ幼生を効率的に選択して回収するのに有用であると考えられる。Perna属に属するイガイ幼生の回収は、モノクローナル抗体又はそのフラグメントとの親和性を利用して行うことができる。例えば、磁性体を結合させた本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントをPerna属に属するイガイ幼生に作用させ、その後、磁石を用いて本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを回収することにより行うことができる。なお、前記磁性体としては、例えば、鉄、酸化鉄等を用いることができる。その他、Perna属に属するイガイ幼生の回収において、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)、panning等の方法を用いてもよい。
【0033】
本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生の検出は、試料(例えば、海水若しくは川水又はそれを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物等)に、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを加えて試料中のPerna属に属するイガイ幼生由来の抗原と反応させることにより、その抗原を同定することにより行うことができる。
【0034】
従って、Perna属に属するイガイ幼生に特異的に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む試薬、キット、又は器具は、Perna属に属するイガイ幼生の検出用試薬、検出キット、及び検出器として利用可能である。
【0035】
なお、本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生の検出用試薬は、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりPerna属に属するイガイ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体又はそのフラグメント以外に抗原の検出用試薬に含ませる一般的な物質が1又は2以上、さらに含まれていてもよい。
【0036】
本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生の検出器は、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントが媒体(例えば、濾紙等の紙、ガラス、繊維、ニトロセルロース等の変性セルロース、ナイロン、プラスチック等から成るフィルター、メンブレン、プレート、ディッシュ等)に固定化されているものを含めばどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりPerna属に属するイガイ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体又はそのフラグメント以外に抗原の検出器に含ませる一般的な物質が1又は2以上、さらに含まれていてもよい。
【0037】
本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生の検出器の一例としては、試料を滴下する部分又は試料を浸す第一の部分と、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化された第二の部分と、本発明にかかるモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体等が固定化された第三の部分を有し、第二の部分が第一の部分と第三の部分との間に備えられ、第一の部分には、金属コロイド粒子(例えば、金コロイド粒子等)、重金属(例えば、金、白金等)、蛍光物質(例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミン、ファロイジン等)、着色ラテックス粒子等の標識物質で標識された、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むクロマトグラフ媒体を挙げることができる。前記クロマトグラフ媒体としては、例えば、ガラスやシリカ等の無機繊維からなる濾紙、ニトロセルロース等の変性セルロース等を用いることができる。このようなクロマトグラフ媒体を用いることにより、試料中にPerna属に属するイガイ幼生が存在するかどうかを検出することが可能になる。
【0038】
その原理としては、Perna属に属するイガイ幼生又はその溶解物を含む試料をクロマトグラフ媒体の第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のPerna属に属するイガイ幼生又はその溶解物は、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体又はそのフラグメントと反応して複合体を形成し、液が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された前述のモノクローナル抗体又はそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質によりPerna属に属するイガイ幼生の検出が可能となる。第一の部分からくるフリーの抗体は、第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分で発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出の陽性対照となる。これに対して、Perna属に属するイガイ幼生由来の抗原を含まない試料を第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体又はそのフラグメントが、第二の部分を素通りして第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分でのみ発色が生じる。このように、第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にPerna属に属するイガイ幼生が存在するかどうかを判定することが可能となる。
【0039】
一方、本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生の検出キットは、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメント以外に、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりPerna属に属するイガイ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の抗原の検出キットに含ませる一般的な物質、若しくは前述のような本発明にかかるモノクローナル抗体又はそのフラグメントが媒体に固定化されている検出器、又はこれらのうち2以上を組み合わせたものが含まれていてもよい。
【0040】
なお、標識物質としては、例えば、蛍光物質(例えば、FITC、ローダミン、ファロイジン等)、金等のコロイド粒子、重金属(例えば、金、白金等)、色素タンパク質(例えば、フィコエリトリン(PE)、フィコシアニン(PC)等)、放射性同位元素(例えば、H、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジン等の物質を用いることができるがこれらに制限されるものではなく、公知の標識物質を用いてもよい。また、発色基質としては、前述の酵素に対する発色基質であれば特に制限されるものではなく、例えば、ジアミノベンジジン(DAB)、o-フェニレンジアミン(o-Phenylenediamine)、過酸化水素水、BCIP/Nitro-TB(5-Bromo-4-chloro-3-indolylphosphate/Nitrotetrazolium blue)、pNPP(para-nitorophenylphosphate)等を用いることができる。発色増強剤としては、前述の基質の発色を増強させることができるものであればどのようなものでもよく、例えば、硫酸等を用いることができ、二次抗体としては、例えば、本発明にかかるモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体、抗IgG(H+L)、抗IgG(Fc)等を用いることができる。
また、前述の免疫学的手法としては、EIA(Enzyme Immunoassay)、蛍光免疫測定法、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、RIA(Radioimmuno assay)、ウエスタンブロッティング、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、サンドイッチ法等の公知の方法を用いることができる。
【0041】
以上のように、本発明にかかるPerna属に属するイガイ幼生の検出方法を用いることにより、Perna属に属するイガイ幼生の同定やPerna属に属するイガイ幼生の分離及び量の測定が可能となるが、検出キットや検出器を用いることにより、より容易にPerna属に属するイガイ幼生を同定することができるようになる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
<実施例1>
本実施例では、ミドリイガイ幼生に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。
【0044】
==ミドリイガイ幼生の飼育方法==
ミドリイガイ成貝を、高知県深浦港にて採取した。これらの成貝の放卵・放精によって受精した卵を回収した。受精卵をろ過海水にて洗浄後、20μmメッシュを用いて繰り返し洗浄を行った。さらに、抗生物質(最終濃度、ストレプトマイシン 26.4mg/l、ペニシリン 12mg/ml)を添加したろ過海水を満たしたビーカーに収容し、エアレーションしながら飼育した。この際、水温は23〜25℃で、イソクソリシス(Isochrysis galbana、約1000細胞/ml)およびパブロバを給餌し、1〜2日毎に換水を行った。受精卵の飼育開始12日後、ウンボ期幼生にまで成長したミドリイガイ幼生を凍結し、マウスに接種する時まで凍結保存した。
【0045】
==ミドリイガイ幼生によるマウス免疫方法==
凍結保存したミドリイガイウンボ期幼生を滅菌PBSで洗浄し、300〜400μl滅菌PBSあたり200〜300個体になるように調製した。1回の注射につき、この全量をBALB/cマウス(メス、7週齢)の腹腔内に接種し、これを平成19年11月19日から3〜4週間毎に4回繰り返した。さらに、平成20年8月22日、11月14日、12月12日に同量のミドリイガイウンボ期幼生を接種し、マウスを免疫した。
【0046】
==ハイブリドーマの作製==
最終接種から3日後に抗体価が上がったマウスを解剖して脾臓を摘出し、1%の抗生物質(Antibiotic-Antimycotic、GIBCO社)を添加した10%のFBS(Fetal Bovine Serum、GIBCO社)含有(FBS+)RPMI1640培地(GIBCO社)中で滅菌ステンレスメッシュにより裏漉した後、分散・懸濁することにより浮遊細胞を得た。この浮遊細胞を1% Antibiotic-Antimycotic添加RPMI1640(FBS+)培地で洗浄・遠心した後、RPMI1640(FBS-)培地(抗生物質無添加)で3回遠心・洗浄し、ハイブリドーマ作製のための脾臓細胞(10個程度)を回収した。この脾臓細胞を37℃で維持した。
【0047】
セルバンカーを用いて−80℃凍結保存しておいたミエローマ細胞(P3U1細胞株)を融解し、遠心法(1000rpm、5分)を用いて洗浄後、1% Antibiotic-Antimycotic(GIBCO社)添加RPMI1640(FBS+)培地で約5×10 細胞/mlの密度で培養した。対数増殖期のミエローマ細胞を回収し、1% Antibiotic-Antimycotic(GIBCO社)添加RPM1640(FBS-)培地で遠心、洗浄した後、37℃で維持した。
【0048】
このように調製したミエローマ細胞(5×10細胞)と脾臓細胞(10細胞)を混合し、その後遠心して上清を除去し、細胞ペレット(沈殿)を作製した。
【0049】
オートクレーブ滅菌後に低温保存していた1gのPEG4000(ポリエチレングリコール、MERCK社、Article No.9727)を使用当日加熱融解し、RPMI1640(FBS-)培地1mlを混合してPEG液を調製し、37℃で維持した。
上記細胞ペレットに、このPEG液1mlを加え、1分間かけてゆっくりと添加しながら撹拌した。さらに、37℃に加温したRPM1640(FBS-)培地を2ml加え、1分間攪拌した。その後、37℃に加温したRPM1640(FBS-)培地を8ml加え、1000rpmで20分間遠心分離し、細胞融合を行った。ここで上清を除去し、RPM1640(FBS+)培地10mlを添加して沈殿を懸濁、攪拌し、融合細胞懸濁液とした。この融合細胞懸濁液を、RPM1640(FBS+)培地10mlの入った分室シャーレ10枚に、各1mlずつ播種しCOインキュベータで37℃で静置培養した。培養開始から1日、各シャーレから5mlずつ培地を取り、この培地に1×HAT培地10mlを添加(最終濃度0.7×HAT培地)した後COインキュベータで静置培養した。さらに、その翌日、2×HAT培地を添加し最終濃度1×HAT培地とした後、5日間〜10日間、37℃で培養を続けた。
【0050】
==ハイブリドーマ細胞のスクリーニング==
各セル内で明瞭な増殖が確認されたハイブリドーマ細胞のコロニーのうち、各セル内で単一のコロニーを形成しているコロニーをピックアップし、選択増殖培地(10%の細胞増殖因子(conditioned medium from J774A.1 cells)添加1×HT培地、Sigma-aldrich社)の入った96ウェルプレートに移し、ハイブリドーマの培養を行った。その後、明瞭なハイブリドーマの増殖が確認されたウェルについて、その培養上清を採取し、ELISA法により抗体の産生を確認した。
【0051】
==ELISA法==
以下に記載のELISA法において、特に記載がない過程は室温にて処理(反応を含む)を行った。
【0052】
(1)「ミドリイガイ幼生の飼育方法」に記載した方法で調製し、凍結保存したミドリイガイウンボ期幼生500個体に100μlの50mM Tris-HCl(pH 7.5)を加え、氷中でホモジナイズ・超音波(数秒×5回)処理を行い、5000rpmで20分間遠心することにより得たミドリイガイウンボ期幼生粗抽出液をタンパク質濃度50μg/mlになるように調製した。
(2)(1)で得られたミドリイガイウンボ期幼生粗抽出液50μlを、96穴イワキELISAプレートの各ウェルに加え、4℃一晩インキュベートして抗原をウェル底面に吸着させた。
(3)(2)で吸着処理した各ウェルをTBS(0.5 M NaCl及び20mM Tris-HCl(pH7.5))200μlで洗浄した。
(4)各ウェルを1% BSAを含むTBS 100μlで1時間ブロッキングした。
(5)各ウェルをTTBS(0.05% Tween20を含むTBS)200μlで3回洗浄した。
(6)ハイブリドーマを培養することにより得られた培養上清(一次抗体)50μlを、B(1)A2については1(希釈なし)、10、20、50、あるいは100倍、E1−1については、10、20、50、あるいは100倍に希釈して各ウェルに加え、2時間反応させた。
(7)各ウェルをTTBS 200μlで4回洗浄した。
(8)各ウェルに2次抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗体、ZYMED laboratory 社)溶液(TBSで1000倍に希釈した溶液)50μlを加えて1時間反応させた。
(9)各ウェルをTTBS 200μlで5回洗浄した。
(10)各ウェルに基質(アルカリフォスファターゼ基質キット、BIO-RAD 社)溶液 100μlを加え、1時間振盪することにより発色させた。
(11)マイクロプレートリーダー(BIO-RAD Model550)を用いて、各ウェルの溶液の405nmにおける吸光度を測定した。
【0053】
本ELISA法により高い抗体産生能が確認されたハイブリドーマについて、段階的に希釈した培養液をさらにELISA法により抗体価を測定し、抗体産生能が高いハイブリドーマをピックアップするという操作を3回繰り返して行い(2回目及び3回目の培養は、HTを含まない10% FBS、1% Antibiotic-Antimycotic(GIBCO社)、及び10% 細胞増殖因子(conditioned medium from J774A.1 cells、Sigma-aldrich社)を含むRPMI1640を用いた。これにより、ミドリイガイウンボ期幼生粗抽出液に対して結合性の高い抗体を産生するハイブリドーマ(B(1)A2、および、E1−A)を得た。
【0054】
==抗体精製法==
上記ハイブリドーマ(B(1)A2、および、E1−A)培養上清を、アフィニティクロマトグラフィー法により精製し、各精製モノクローナル抗体を得た。B(1)A2については20、あるいは100μg/ml、E1−1については5、20、あるいは100μg/mlに調製した各精製モノクローナル抗体を用いて上記ELISA法を行い、ミドリイガイウンボ期幼生粗抽出液およびムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液との反応性を調べた。なお、ムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液(50μg/ml)は、ミドリイガイと同様にして飼育したムラサキイガイを顕微鏡で観察して眼点および足が形成されている付着期幼生を選別し、上記ミドリイガイと同様の方法で調製した。
【0055】
図1および図2に示すように、ハイブリドーマB(1)A2およびハイブリドーマE1−Aの培養上清は、どちらもミドリイガイウンボ期幼生粗抽出液との反応性が顕著に高いが、ムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液との反応性が低い。
【0056】
また、図3および図4に示すように、ハイブリドーマB(1)A2およびハイブリドーマE1−Aの培養上清を精製して調製した精製モノクローナル抗体は、どちらもミドリイガイウンボ期幼生粗抽出液との反応性が顕著に高いが、ムラサキイガイ付着期幼生粗抽出液との反応性が低い。
【0057】
以上の結果は、本実施例で作製したハイブリドーマB(1)A2およびE1−Aクローンが産生するモノクローナル抗体はムラサキイガイ幼生に対して反応性が低く、ミドリイガイ幼生に特異的に反応することを示している。よって、これらのモノクローナル抗体によって、ミドリイガイ幼生を特異的に検出することができる。
【0058】
<実施例2>
本実施例では、実施例1において得られた2つのハイブリドーマの培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、ミドリイガイ幼生に対して特異的に反応することを示す。
【0059】
アカフジツボ(Megabalanus rosa)キプリス幼生、甲殻類プランクトン(アルテミア(Artemia salina)ノープリウス幼生)、アサリ(Ruditapes philippinarum)付着期幼生の粗抽出液との反応性を、実施例1に記載のELISA法に従って確認した。
【0060】
各粗抽出液は、各幼生又はプランクトンを50mM Tris−HCl(PH7.5)に加えてホモジナイズ・超音波(数秒×5回)処理し、5000rpmで20分間の遠心を行うことにより得た。これをタンパク質濃度100μg/mlに調製し、上記ELISA法に従い50μlを各ウェルに滴下した。陰性対照として、タンパク質を含まない50mM Tris−HCl(pH 7.5)を用いた。また、陽性対照として同様の方法で調製したミドリイガイウンボ期幼生又はD型幼生の粗抽出液(タンパク質濃度:50μg/ml)を用いた。
ELISAの結果(OD405値)を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されるように、B(1)A2、および、E1−A共に吸光度測定値は、アカフジツボ(Megabalanus rosa)キプリス幼生、甲殻類プランクトン(アルテミア(Artemia salina)ノープリウス幼生)、アサリ(Ruditapes philippinarum)付着期幼生ではミドリイガイウンボ期幼生、D型幼生の粗抽出液よりも高濃度のタンパク質粗抽出液を用いたにも関わらず、ミドリイガイ幼生に比較して顕著に低く、対照群と同程度であった。この測定結果は、いずれのハイブリドーマの培養上清も、アカフジツボ、甲殻類プランクトン、アサリの粗抽出液に対して反応性が低いことを示している。
【0063】
この結果は、実施例1で作製したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が、フジツボ、甲殻類プランクトン、アサリ等の幼生には反応しないことを示している。さらに、ムラサキイガイ幼生にも反応しないという実施例1の結果を考慮すると、このモノクローナル抗体がミドリイガイ幼生に高度に特異的な抗体であることを示している。
【0064】
<実施例3>
本実施例では、実施例1で得られたハイブリドーマであるA2(1)およびE1−Aが産生するモノクローナル抗体がミドリイガイ幼生に特異的に反応することを免疫組織化学的に示す。
【0065】
==免疫組織化学染色法==
ハイブリドーマA2(1)およびE1−Aが産生するモノクローナル抗体を用いて、ミドリイガイ(D型幼生およびウンボ期〜付着期幼生)、およびムラサキイガイ(D型幼生およびウンボ期〜付着期幼生)に対する免疫染色を以下のように行った。また、以下において、特に記載がない過程については室温にて処理を行った。
【0066】
(1)75%エタノールで固定されたミドリイガイ(D型幼生、ウンボ期〜付着期幼生)、およびムラサキイガイ(D型幼生、ウンボ期〜付着期幼生)を、50%エタノールを経て20%エタノールに置換した。
(2)固定した各幼生を、TBSおよびTTBSで洗浄した。
(3)1%BSAを含むTTBSで、1時間半ブロッキングした。
(4)実施例1で作製したハイブリドーマ(B(1)A2あるいはE1−A)の培養上清を1%BSAを含むTTBSで20倍に希釈し、これを一次抗体溶液として幼生を1時間半インキュベートした。
(5)TTBSで4回洗浄した。
(6)二次抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗体(ZYMED社)、1% BSAを含むTTBSで5000倍に希釈、で1時間インキュベートした。
(7)TTBSで4回洗浄した。
(7)アルカリフォスファターゼ基質キット(BIO-RAD社)を加え、5〜30分インキュベートして発色させた。
(8)蒸留水で洗浄して発色を停止した。
なお、対照群の幼生は(4)において一次抗体溶液のかわりに1%BSAを含むTTBSを用い、その他の工程は同様に行った。
【0067】
図5および図6に示すように、ミドリイガイD型幼生(図5)およびミドリイガイウンボ期〜付着期幼生(図6)においてはB(1)A2およびE1−Aの培養上清が幼生の面盤に免疫反応を示した(矢印)。一方、ムラサキイガイD型幼生(図7)およびムラサキイガイウンボ期〜付着期幼生(図8)においてはいずれのハイブリドーマの培養上清も反応を示さなかった。
【0068】
この結果は、実施例1で作製されたハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体は、サンプルがwhole-mountであっても、ミドリイガイ幼生には反応するが、ムラサキイガイ幼生には反応しないことを示している。従って、これらのモノクローナル抗体により、ミドリイガイ幼生を特異的に検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Perna属に属するイガイ幼生に反応し、Mytilus属に属するイガイ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項2】
Perna属に属するイガイ幼生がミドリイガイ(Perna viridis)幼生であり、Mytilus属に属するイガイ幼生がムラサキイガイ(Mytilus galloprovincialis)幼生であることを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項3】
ミドリイガイ幼生の面盤に反応することを特徴とする請求項2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項4】
アサリ幼生、甲殻類プランクトン、およびフジツボ幼生に反応しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項5】
受託番号FERM P−21805で寄託されているハイブリドーマ、あるいは、受託番号FERM P−21806で寄託されているハイブリドーマから産生されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項6】
Perna属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出用試薬であって、
請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを有効成分として含有する検出用試薬。
【請求項7】
Perna属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出キットであって、
請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むことを特徴とする検出キット。
【請求項8】
Perna属に属するイガイ幼生を特異的に検出する検出器であって、
請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化されていることを特徴とする検出器。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項10】
受託番号FERM P−21805、あるいは、受託番号FERM P−21806で寄託されていることを特徴とする請求項9に記載のハイブリドーマ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−1285(P2011−1285A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144627(P2009−144627)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(507030863)株式会社セシルリサーチ (11)
【Fターム(参考)】