説明

Pt高分散担持触媒及びその製造方法

【課題】TiCなどの担体表面に、Pt粒子が微細かつ均一に担持されたPt高分散担持触媒及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】電子伝導性を有する担体(但し、Cを除く)を容器内に保持し、前記容器にPt錯体の蒸気を導入し、前記担体表面に前記Pt錯体を吸着させる。次いで、前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記Pt錯体を排出する。次に、前記容器内に水素を含む還元ガスを導入し、前記Pt錯体を還元する。次いで、前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記還元ガスを排出する。次に、前記容器内にCOを含む吸着ガスを導入し、前記Pt錯体の還元により生成したPt粒子表面にCOを吸着させる。さらに、前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記吸着ガスを排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pt高分散担持触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる電極触媒には、一般に、比表面積の高いカーボン粉末に、粒子径数ナノメートルのPtあるいはPt合金を担持した触媒(Pt担持カーボン(Pt/C))が利用されている。Pt/C触媒は、Pt粒子の表面近傍にある原子のみが触媒として機能するため、高価なPtの利用率が低いという問題がある。そのため、Ptの使用を粒子表面から数原子層に限り、粒子内部を別の材料で代替する技術が、いくつか提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、グラッシーカーボン表面に粒径40nm程度のTiC粒子を担持させ、電析法によりTiC表面にPtを担持させた電極(GC/TiC/Pt)が開示されている。
同文献の図1には、GC/TiC/Ptの1000倍のSEM像が記載されている。このSEM像において、凝集したPt粒子が確認できる。
また、同文献の図2には、GC/TiC/Ptのサイクリックボルタモグラムが記載されている。Pt電析量と同図のサイクリックボルタモグラムの水素吸着量とから求めたPt重量当たりの電気化学表面積(ECSA)は、3.7m2/gである。
【0004】
非特許文献1に記載されているように、電析法を用いると、TiC表面にPt粒子を担持させることができる。しかしながら、電析法では、Pt粒子の大きさにばらつきがあり、かなり大きなPt粒子も生じている。Pt粒子が大きいと、比表面積が小さく、触媒として働くことができる面積が少ないため、Pt重量当たりの触媒が低くなる。PtをTiC粒子表面に、より細かく、均一に担持することができれば、Pt重量当たりの触媒活性が向上すると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"Titaniumu carbide nanoparticles supported Pt catalysts for methanol electrooxidation in acidic media" Y. Ou, et al., J.Power Sources, 2010, 195, 1365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、TiCなどの担体表面に、Pt粒子が微細かつ均一に担持されたPt高分散担持触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係るPt高分散担持触媒の製造方法は、
電子伝導性を有する担体(但し、Cを除く)を容器内に保持し、前記容器にPt錯体の蒸気を導入し、前記担体表面に前記Pt錯体を吸着させるPt錯体吸着工程と、
前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記Pt錯体を排出する第1パージ工程と、
前記容器内に水素を含む還元ガスを導入し、前記Pt錯体を還元するPt錯体還元工程と、
前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記還元ガスを排出する第2パージ工程と、
前記容器内にCOを含む吸着ガスを導入し、前記Pt錯体の還元により生成したPt粒子表面にCOを吸着させるCO吸着工程と、
前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記吸着ガスを排出する第3パージ工程と
を備えている。
また、本発明に係るPt高分散担持触媒は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
【発明の効果】
【0008】
担体表面にPt錯体を吸着させ、Pt錯体を還元させると、担体表面にPt粒子が析出する。次いで、析出したPt粒子をCO雰囲気に曝すと、Pt粒子表面にCOが吸着する。Pt粒子表面に吸着したCOは、既に析出したPt粒子の上に、Pt錯体の還元により新たに生成したPtが析出するのを妨げる作用がある。そのため、Pt錯体の吸着、Pt錯体の還元、及びCO吸着を複数回繰り返すと、担体表面にPt粒子を微細かつ均一に析出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るPt高分散担持触媒の製造方法の工程図である。
【図2】本発明に係る方法により得られたPt/TiC触媒のTEM像である。
【図3】TEM像から求めたPt粒子(CO吸着あり)及びPt粒子(CO吸着なし)の粒度分布である。
【図4】Pt/TiC(CO吸着あり)、Pt/TiC(CO吸着なし)、TiC及びPt/Cのサイクリックボルタモグラムである。
【図5】ALDのプロセス温度とCO吸着量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Pt高分散担持触媒]
本発明に係るPt高分散担持触媒は、担体表面にPt粒子が高分散に担持されたものからなる。このようなPt高分散担持触媒は、後述する方法により得られる。
【0011】
[1.1. 担体]
本発明において、担体には、電子伝導性を有する材料(但し、Cを除く)が用いられる。このような担体としては、例えば、TiCがある。
担体の粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、担体の粒径が小さくなるほど、重量当たりの活性が高い触媒が得られる。
【0012】
[1.2. Pt粒子]
Pt粒子は、担体表面に担持される。後述する方法を用いると、担体表面にPtを高分散に担持することができる。
Ptの分散の程度は、COパルス測定でのCO吸着量、又は、CV測定時の水素吸着波面積から求めた電気化学表面積(ECSA)で表すことができる。CO吸着量及びECSAは相互に相関があり、いずれもその値が高いほどPt粒子が微細であることを表す。
後述する方法を用いる場合において、製造条件を最適化すると、
(1)COパルス測定でのCO吸着量が30mL/g以上、及び/又は、
(2)CV測定時の水素吸着波面積から求めたECSAが75m2/g以上
である触媒が得られる。
【0013】
[2. Pt高分散担持触媒の製造方法]
図1に、本発明に係るPt高分散担持触媒の製造方法の工程図を示す。図1において、本発明に係るPt高分散担持触媒の製造方法は、Pt錯体吸着工程と、第1パージ工程と、Pt錯体還元工程と、第2パージ工程と、CO吸着工程と、第3パージ工程とを備えている。
【0014】
[2.1. Pt錯体吸着工程]
Pt錯体吸着工程は、図1(a)に示すように、電子伝導性を有する担体(但し、Cを除く)を容器(図示せず)内に保持し、前記容器にPt錯体の蒸気を導入し、前記担体表面に前記Pt錯体を吸着させる工程である。
本発明において、担体には、電子伝導性を有する材料(但し、Cを除く)が用いられる。担体の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0015】
「Pt錯体」とは、Ptイオンに配位子が結合している化合物をいう。本発明において、原料に用いられるPt錯体は、プロセス温度において、分解することなく、所定の蒸気圧を生じさせるものである必要がある。原料として使用するPt錯体は、分解温度T(K)の90%の温度における蒸気圧が100Pa以上であるものが好ましい。
このような条件を満たすPt錯体としては、例えば、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金、シクロペンタジエニルトリメチル白金、エチルシクロペンタジエニルトリメチル白金、テトラキス(トリフルオロホスフィン)白金などがある。
【0016】
Pt錯体を所定の温度(例えば、25〜80℃)に保たれた蒸気発生用の容器内に封入し、蒸気発生用の容器内にキャリアガス(不活性ガス)を導入すると、Pt錯体蒸気を含んだキャリアガスが得られる。このようにして得られたPt錯体蒸気+キャリアガスを、担体を保持した容器内へと導入する。
【0017】
担体を保持した容器内にPt錯体蒸気+キャリアガスを導入すると、図1(a)に示すように、担体表面に1分子層のPt錯体が吸着する。この時、担体を保持した容器内の温度(吸着温度)に応じて、担体表面への吸着量が変化する。
一般に、吸着温度が低すぎると、Pt錯体が凝集して担体表面に均一に吸着せず、Ptが粗大粒子になって蒸着する。従って、吸着温度は、100℃以上が好ましい。
一方、吸着温度が高すぎると、Pt錯体が熱分解するおそれがある。従って、吸着温度は、200℃以下が好ましい。
【0018】
担体を保持した容器内にPt錯体蒸気+キャリアガスを導入する時間(吸着時間)は、担体表面に1分子層のPt錯体が吸着可能な時間であればよい。吸着温度にもよるが、吸着時間は、通常、10〜40分程度である。
【0019】
[2.2. 第1パージ工程]
第1パージ工程は、図1(b)に示すように、前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記Pt錯体を排出する工程である。
容器内にPt錯体蒸気が残った状態で、後述するPt錯体の還元を行うと、容器内に浮遊しているPt錯体蒸気がPtとなり、担体表面に析出する場合がある。従って、担体表面にPtを高分散担持させるためには、Pt錯体の還元を行う前に、容器内から余分なPt錯体蒸気を排出する必要がある。
【0020】
余分なPt錯体蒸気の排出は、容器内に不活性ガス(例えば、N2ガス、Arなどの希ガス)を流すことにより行う。この時、容器内の温度は、特に限定されるものではなく、余分なPt錯体蒸気を排出可能な温度であれば良い。しかしながら、パージ前後において容器内の温度が大きく変動すると、担体表面に吸着したPt錯体の脱離が生ずるおそれがある。また、不必要な温度の変動は、温度制御を煩雑化させる。従って、第1パージ工程において、容器内の温度は、Pt錯体吸着工程と同一温度に維持するのが好ましい。
不活性ガスの流量、パージ時間等は、特に限定されるものではなく、余分なPt錯体蒸気が容器外に排出される条件であれば良い。
【0021】
[2.3. Pt錯体還元工程]
Pt錯体還元工程は、図1(c)に示すように、前記容器内に水素を含む還元ガスを導入し、前記Pt錯体を還元する工程である。
還元ガスには、水素を含むガスを用いる。還元ガスには、水素以外のガスが含まれていても良い。水素以外のガスは、Pt錯体の還元を妨げないガス(例えば、不活性ガス)であれば良い。Pt錯体の還元を効率良く行うためには、還元ガス中の水素濃度は高いほど良く、100%(純水素)が特に好ましい。
【0022】
Pt錯体の還元温度は、Pt錯体が還元ガスによって還元可能な温度であればよい。例えば、還元ガスとして濃度100%の水素ガスを用いる場合、25℃以上であれば、Pt錯体の還元が進行する。また、Pt錯体を還元すると、Ptの凝集が起こるので、還元温度は、Pt粒子の大きさに影響を与える。
一般に、還元温度が高くなるほど、還元反応の反応速度が速くなる。短時間で処理を完了させるためには、還元温度は、100℃以上が好ましい。
一方、還元温度が高すぎると、粒子が粗大化する。従って、還元温度は、200℃以下が好ましい。
【0023】
還元ガスの流量、還元時間等は、特に限定されるものではなく、Pt錯体が完全に還元される条件であれば良い。還元温度や還元ガスの濃度にもよるが、還元時間は、通常、10〜30分程度である。
所定の条件下でPt錯体の還元を行うと、図1(c)に示すように、理想的には担体表面に1原子層のPtが生成する。実際には、析出したPtが凝集し、微細なPt粒子となることが多い。
【0024】
[2.4. 第2パージ工程]
第2パージ工程は、図1(d)に示すように、前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記還元ガスを排出する工程である。
容器内に還元ガスが残った状態で、次工程に移行すると、容器内に残存している還元ガスと容器内に新たに導入されたガスとが反応する場合がある。例えば、Pt錯体蒸気の導入及びPt錯体の還元を複数回繰り返す場合において、容器内に還元ガスが残った状態で新たにPt錯体蒸気を導入すると、担体表面へのPt錯体の吸着が起こる前にPt錯体蒸気の還元が起こる。従って、担体表面にPtを高分散担持させるためには、CO吸着を行う前に、容器内から余分な還元ガスを排出する必要がある。
【0025】
余分な還元ガスの排出は、容器内に不活性ガスを流すことにより行う。この時、容器内の温度は、特に限定されるものではなく、余分な還元ガスを排出可能な温度であれば良い。しかしながら、パージ前後において容器内の温度が大きく変動すると、温度制御が煩雑になる。従って、容器内の温度は、Pt錯体還元工程と同一温度に維持するのが好ましい。
不活性ガスの流量、パージ時間等は、特に限定されるものではなく、余分な還元ガスが容器外に排出される条件であれば良い。
【0026】
[2.5. CO吸着工程]
CO吸着工程は、図1(e)に示すように、前記容器内にCOを含む吸着ガスを導入し、前記Pt錯体の還元により生成したPt粒子表面にCOを吸着させる工程である。
Ptが析出した担体をCO雰囲気に曝すと、Pt表面には、COが吸着する。Pt表面に吸着したCOは、担体表面に析出したPtの上に、さらに新たなPtが析出するのを妨げる作用がある。
【0027】
吸着ガスには、COを含むガスを用いる。吸着ガスには、CO以外のガスが含まれていても良い。CO以外のガスは、Pt表面へのCOの吸着を妨げないガス(例えば、不活性ガス)であれば良い。
吸着ガスに含まれるCO濃度は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、CO濃度が低すぎると、COの効率的な吸着が困難となる。従って、CO濃度は、100ppm以上が好ましい。
【0028】
担体を保持した容器内に吸着ガスを導入すると、図1(e)に示すように、Pt表面にCOが吸着する。この時、担体を保持した容器内の温度(吸着温度)に応じて、Pt表面へのCO吸着量が変化する。
一般に、吸着温度が高くなるほど、Pt表面にCOが吸着しにくくなる。従って、吸着温度は、200℃以下が好ましい。
担体を保持した容器内に吸着ガスを導入する時間(吸着時間)は、Pt表面にCOが吸着可能な時間であればよい。吸着温度にもよるが、吸着時間は、通常、1〜3時間程度である。
【0029】
[2.6. 第3パージ工程]
第3パージ工程は、図1(f)に示すように、前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記吸着ガスを排出する工程である。
容器内に吸着ガスが残った状態で、次工程に移行すると、容器内に残存するCOと新たに導入されたPt錯体とが反応し、担体表面へのPt錯体の吸着が起こる前にPt錯体が還元される可能性がある。従って、担体表面にPtを高分散担持させるためには、次工程に移行する前に、容器内から余分な吸着ガスを排出する必要がある。
【0030】
余分な吸着ガスの排出は、容器内に不活性ガスを流すことにより行う。この時、容器内の温度は、特に限定されるものではなく、余分な吸着ガスを排出可能な温度であれば良い。しかしながら、パージ前後において容器内の温度が大きく変動すると、Pt表面に吸着したCOの脱離が生ずるおそれがある。また、不必要な温度の変動は、温度制御を煩雑化させる。従って、容器内の温度は、CO吸着工程と同一温度に維持するのが好ましい。
不活性ガスの流量、パージ時間等は、特に限定されるものではなく、余分な吸着ガスが容器外に排出される条件であれば良い。
【0031】
[2.7. プロセスの繰り返し回数]
上述した各工程は、少なくとも1回行うだけでも良い。しかしながら、1回の処理では、担体表面へのPt担持量に限界がある。従って、担体表面に所定量のPtを担持させるためには、上述した各工程を複数回繰り返すのが好ましい。
一般に、プロセスの繰り返し回数が多くなるほど、Pt担持量が増大する。しかしながら、必要以上の繰り返しは、実益がない。繰り返し回数は、担体の粒径や、各工程で使用するガスの濃度等に応じて、最適な回数を選択する。
【0032】
なお、上述した一連のプロセスを複数回繰り返す場合、最後のCO吸着工程及び第3パージ工程は省略することができる。
また、最後のCO吸着工程及びパージ工程を行った場合、得られた触媒のPt表面にはCOが吸着した状態になっている。一般に、Pt表面に吸着したCOは、Ptを被毒させる原因となる。しかしながら、得られた触媒を燃料電池のカソードに用いる場合、COが酸素で酸化されるため、COが触媒性能を低下させるおそれはない。また、触媒をアノードに用いる場合であっても、使用前に酸化処理を行うことによって、触媒性能の低下を抑制することができる。
【0033】
[2.8. プロセス温度]
上述した各工程は、必ずしも同一温度で行う必要はなく、各工程毎に、独立して温度を設定しても良い。しかしながら、工程毎に温度を変更すると、吸着させたガスの脱離や温度制御の煩雑化を招く。従って、Pt錯体吸着工程、第1パージ工程、前記Pt錯体還元工程、前記第2パージ工程、前記CO吸着工程、及び、前記第3パージ工程は、それぞれ、100℃以上200℃以下の温度において行うのが好ましい。
意図しない吸着ガスの脱離や温度制御の煩雑化を回避するためには、これらの工程は、それぞれ、一定の温度Tで行うのが好ましい。この場合、Tは、100℃以上200℃以下が好ましい。
【0034】
[3. Pt高分散担持触媒及びその製造方法の作用]
薄膜を原子層単位で形成する方法として、原子層堆積(ALD)法が知られている。
例えば、2種類の反応物質を原料に用いる場合、ALD法を用いた薄膜の製造は、
(a)第1反応物質を基板表面に吸着させる工程、
(b)第1反応物質を排気する工程、
(c)基板表面に吸着した第1反応物質を第2反応物質と反応させる工程、及び、
(d)第2反応物質を排気する工程
を1サイクルとして、これらの工程を複数回繰り返すことにより行われる。膜厚の制御は、サイクル数の制御により行われる。
【0035】
このようなALD法を担体表面へのPtの担持に応用すると、担体表面にPtを比較的高分散に担持させることができる。しかしながら、従来のALD法をそのままPtの担持に適用すると、担体表面に析出したPt原子の凝集が起こり、Pt粒子が粗大化する。
【0036】
これに対し、担体表面にPt錯体を吸着させ、Pt錯体を還元させると、担体表面にPt粒子が析出する。次いで、析出したPt粒子をCO雰囲気に曝すと、Pt粒子表面にCOが吸着する。Pt粒子表面に吸着したCOは、既に析出したPt粒子の上に、Pt錯体の還元により新たに生成したPtが析出するのを妨げる作用がある。そのため、Pt錯体の吸着、Pt錯体の還元、及びCO吸着を複数回繰り返すと、担体表面にPt粒子を微細かつ均一に析出させることができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1、比較例1〜3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
以下の(1)〜(6)の工程を4回繰り返すことにより、Ptを担持させたTiC粒子(Pt/TiC)を作製した。容器温度は、100〜200℃の範囲とした。
(1)Pt錯体(メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金)の蒸気を含むArガスを、TiC粒子を入れた容器に導入し、TiC粒子にPt錯体を吸着させた。ガス流量は0.3L/minとし、吸着時間は35minとした。
(2)容器内をArガスでパージした。ガス流量は1L/minとし、パージ時間は5minとした。
(3)H2ガスを容器に導入し、Pt錯体の還元を行った。ガス流量は0.2L/minとし、還元時間は30minとした。
(4)容器内をArガスでパージした。ガス流量は1L/minとし、パージ時間は5minとした。
(5)N2バランスのCOガス(CO濃度100ppm)を容器に導入し、蒸着させたPtにCOを吸着させた。ガス流量は0.5L/minとし、吸着時間は3hとした。
(6)容器内をArガスでパージした。ガス流量は1L/minとし、パージ時間は5minとした。
【0038】
[1.2. 比較例1〜3]
CO吸着及びその後のArパージを行わなかった以外は、実施例1と同様にして、Pt/TiCを作製した(比較例1)。
さらに、比較として、TiC(比較例2)及び市販のPt担持カーボン(Pt/C)(比較例3)も試験に供した。
【0039】
[2. 試験方法]
[2.1. TEM観察]
得られた粒子のTEM観察を行った。
[2.2. 粒径分布]
TEM像から無作為に100個のPt粒子を選び、粒径を測定した。
[2.3. CO吸着量]
COパルス測定により、CO吸着量を求めた。
[2.4. ECSA]
各粒子について、電位幅:0.05〜1.0V、電位掃引速度:100mV/sの条件下でサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。CV測定時の水素吸着波面積から、電気化学表面積(ECSA)を求めた。
【0040】
[3. 結果]
[3.1. TEM観察]
図2に、実施例1で得られたPt/TiC触媒のTEM像を示す。図2より、2nm程度のPt粒子がTiC表面に高分散に担持されていることがわかる。
[3.2. 粒径分布]
図3に、TEM像から測定したPt/TiC触媒のPt粒子の粒径分布を示す。図3より、CO吸着を行ったPt/TiC触媒(実施例1)は、CO吸着を行わなかったPt/TiC触媒(比較例1)に比べて、2.6nm以上のPt粒子が少ないことがわかる。これは、CO吸着過程によって、Pt粒子の成長が抑制されたためと考えられる。
【0041】
[3.3. CO吸着量]
実施例1で得られたPt/TiCの場合、COパルス測定により求めたCO吸着量は、32mL/gであった。これをPt粒径に換算すると1.8nmであった。
[3.4. ECSA]
図4に、各種粒子のサイクリックボルタモグラムを示す。また、表1に、CV時の水素吸着波から求めたECSAを示す。
実施例1で得られたPt/TiCのECSAは87.9m2/gであり、従来のPt/C(比較例3)に比べて2割程度大きかった。
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
実施例1と同様の手順に従い、Pt/TiCを作製した。但し、プロセス温度(容器温度)は、一定(室温、100℃、150℃、又は、200℃)とした。
[2. 試験方法]
COパルス測定により、CO吸着量を求めた。
[3. 結果]
図5に、ALDのプロセス温度とCO吸着量との関係を示す。室温(25℃)では、CO吸着量は、10mL/g以下であった。一方、プロセス温度を100〜200℃とすると、CO吸着量は、30mL/g以上となった。これは、100〜200℃の範囲では、Pt錯体が担体表面に1層均一に吸着するのに対し、室温ではPt錯体が担体表面に均一に吸着せず、凝集するためと考えられる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係るPt高分散担持触媒は、燃料電池用の電極触媒として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子伝導性を有する担体(但し、Cを除く)を容器内に保持し、前記容器にPt錯体の蒸気を導入し、前記担体表面に前記Pt錯体を吸着させるPt錯体吸着工程と、
前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記Pt錯体を排出する第1パージ工程と、
前記容器内に水素を含む還元ガスを導入し、前記Pt錯体を還元するPt錯体還元工程と、
前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記還元ガスを排出する第2パージ工程と、
前記容器内にCOを含む吸着ガスを導入し、前記Pt錯体の還元により生成したPt粒子表面にCOを吸着させるCO吸着工程と、
前記容器内に不活性ガスを流し、残存する前記吸着ガスを排出する第3パージ工程と
を備えたPt高分散担持触媒の製造方法。
【請求項2】
前記Pt錯体吸着工程、前記第1パージ工程、前記Pt錯体還元工程、前記第2パージ工程、前記CO吸着工程、及び、前記第3パージ工程を複数回繰り返す
請求項1に記載のPt高分散担持触媒の製造方法。
但し、最後の前記CO吸着工程及び前記第3パージ工程は、省略することができる。
【請求項3】
100℃以上200℃以下の温度において、前記Pt錯体吸着工程、前記第1パージ工程、前記Pt錯体還元工程、前記第2パージ工程、前記CO吸着工程、及び、前記第3パージ工程を行う請求項1又は2に記載のPt高分散担持触媒の製造方法。
【請求項4】
前記担体は、TiCである請求項1から3までのいずれかに記載のPt高分散担持触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれかに記載の方法により得られるPt高分散担持触媒。
【請求項6】
COパルス測定でのCO吸着量が30mL/g以上、及び/又は、
CV測定時の水素吸着波面積から求めたECSAが75m2/g以上である
請求項5に記載のPt高分散担持触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−46883(P2013−46883A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185428(P2011−185428)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】