説明

Pu定量分析方法

【課題】Ca等のα線計測を妨害する夾雑元素を多く含む分析対象試料溶液であっても、α線スペクトロメトリー等の放射線計測を用いてPuを定量分析することが可能なPu定量分析方法を提供すること。
【解決手段】分析対象試料溶液10のPuを定量分析するPu定量分析方法において、分析対象試料溶液10に希土類化合物および鉄化合物を添加して、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を生成する水酸化鉄共沈工程S101と、水酸化鉄共沈物12を溶解した水酸化鉄共沈物溶解液13にフッ化物を添加して希土類フッ化物共沈物15を生成する希土類フッ化物共沈工程S104と、希土類フッ化物共沈物15から作製した測定用試料16を放射線計測してPuを定量分析する放射線計測工程S107と、を有するPu定量分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pu(プルトニウム)定量分析方法に関し、特に、環境から採取した試料のPu量を、α線スペクトロメトリー等の放射線計測により定量分析するPu定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プルトニウム(Pu)は主に原子力発電の燃料に含まれるウラン238(238U)から生成される。
【0003】
Puは、放射性廃棄物を埋設処分した場合における安全評価の対象核種の一種に指定されている。このため、埋設処分場近辺の土壌や水等の環境試料について、Pu濃度分析が実施されている。
【0004】
従来、Pu濃度分析法の一つとして共沈法が知られている。共沈法は、たとえば、環境試料から作製したPuを含む分析対象試料溶液に、ランタン(La)、 ネオジム(Nd)等の希土類元素を加え、さらにフッ化水素(HF)を添加することにより、分析対象試料溶液中のPuを希土類フッ化物との共沈物(希土類フッ化物共沈物)に取り込んだ後、α線スペクトロメトリー等の放射線計測を行って希土類フッ化物共沈物中のPuを定量分析するものである。分析対象となるPuは、たとえば、238Pu、239Pu、240Pu等である。
【0005】
共沈法では、分析精度を高めるために、Puの回収率をなるべく正確に評価することが好ましい。ここで、Puの回収率とは、分析対象試料溶液中のPu量に対する希土類フッ化物共沈物中のPu量の割合である。Puの回収率をなるべく正確に評価するため、Pu濃度分析の分析対象試料溶液には、通常、トレーサとして242Puが混入される。
【0006】
242Puは、Pu同位体であるため測定対象である238Pu、239Pu、240Pu等の核種と化学的挙動が同等であるとともに、通常の環境試料に含まれる量が微量である。このため、環境試料から作製した分析対象試料溶液にトレーサとして242Puを加えても、242Puの測定量に悪影響を与えるおそれが小さい。
【0007】
具体的には、通常の環境試料は242Puの含有量が微量であるため、この環境試料から作製した分析対象試料溶液に242Puトレーサを添加しても242Puの回収率を正確に算出しやすい。
【0008】
また、この242Puトレーサ自体の回収率は、242Puと化学的挙動が同等である238Pu、239Pu、240Pu等のPu同位体の回収率とほぼ同じであるとみなすことができる。
したがって、242Puは、Puの定量分析のトレーサとして好適である。
【0009】
このように、242Pu等のPuのトレーサを含む希土類フッ化物共沈物から作製した測定試料に対してα線スペクトロメトリー等の放射線計測を行うと、238Pu、239Pu、240Pu等のPu同位体の定量分析が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−317290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、環境試料が放射性廃棄物の埋設環境で採取されたものである場合、環境試料中に埋設環境のセメントから溶出したカルシウム(Ca)が多く含まれることがある。
【0012】
このCa濃度が高い環境試料から作製した分析対象試料溶液を共沈法で分析すると、分析対象試料溶液へのHFの添加時にCaFが多量に生成し、希土類フッ化物共沈物に取り込まれて、CaFを多く含む希土類フッ化物共沈物が生成する。
【0013】
しかし、CaFはα線計測等の放射線計測を妨害するため、このようなCaFを多く含む希土類フッ化物共沈物では、α線スペクトロメトリー等の放射線計測を用いてPuを定量分析することが困難であるという課題があった。
【0014】
また、トレーサとして放射性核種である242Puを用いると、Pu定量分析の分析操作の場所が放射線管理区域内に限られることになる。このため、トレーサとして242Puを用いた場合は、Pu定量分析の効率が悪くなるという課題があった。
【0015】
本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、Ca等のα線計測を妨害する夾雑元素を多く含む分析対象試料溶液であっても、α線スペクトロメトリー等の放射線計測を用いてPuを定量分析することが可能なPu定量分析方法を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、上述の事情を考慮してなされたものであり、242Pu等のPu同位体からなるトレーサを用いずにPuを定量分析することが可能なPu定量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、分析対象試料溶液に鉄(Fe)を添加してPuを含む鉄共沈物を作製し、このPuを含む鉄共沈物と、ろ液中に含まれるCa等の放射線計測を妨害する夾雑元素とを分離すれば、Ca等の放射線計測を妨害する夾雑元素を実質的に含まない希土類フッ化物共沈物を作製ができ、α線スペクトロメトリー等の放射線計測によるPu定量分析が可能になることを見出して完成されたものである。
【0018】
また、本発明は、希土類フッ化物共沈物を作製するための希土類元素としてSmを用い、このSm中の天然放射性同位体147Smを、242Pu等のPu同位体からなるトレーサの代わりとして用いれば、147Smの回収率をPuの回収率として評価することが可能であることを見出して完成されたものである。
【0019】
すなわち、本発明のPu定量分析方法は、上記課題を解決するためのものであり、分析対象試料溶液のPuを定量分析するPu定量分析方法において、前記分析対象試料溶液に希土類化合物および鉄化合物を添加して、前記希土類元素を含む水酸化鉄共沈物を生成する水酸化鉄共沈工程と、前記水酸化鉄共沈物を溶解した水酸化鉄共沈物溶解液にフッ化物を添加して希土類フッ化物共沈物を生成する希土類フッ化物共沈工程と、前記希土類フッ化物共沈物から作製した測定用試料を放射線計測してPuを定量分析する放射線計測工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のPu定量分析方法によれば、Ca等の放射線計測を妨害する夾雑元素を多く含む分析対象試料溶液でも、α線スペクトロメトリー等の放射線計測によるPu定量分析が可能になる。
【0021】
また、本発明のPu定量分析方法によれば、トレーサとして242Pu等の放射性物質を用いずに147Sm等の希土類元素を用いるため、放射線管理区域外でα線スペクトロメトリー等の放射線計測によるPu定量分析が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態のPu定量分析方法の操作手順を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態のPu定量分析方法の操作手順を示す図である。
【図3】実施例1のPu定量分析方法の操作手順を示す図である。
【図4】実施例1のα線スペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例2のPu定量分析方法の操作手順を示す図である。
【図6】比較例1のPu定量分析方法の操作手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[Pu定量分析方法]
本発明のPu定量分析方法は、分析対象試料溶液のPuを定量分析するPu定量分析方法であり、前記分析対象試料溶液に希土類化合物および鉄化合物を添加して、前記希土類元素を含む水酸化鉄共沈物を生成する水酸化鉄共沈工程と、前記水酸化鉄共沈物を溶解した水酸化鉄共沈物溶解液にフッ化物を添加して希土類フッ化物共沈物を生成する希土類フッ化物共沈工程と、前記希土類フッ化物共沈物から作製した測定用試料を放射線計測してPuを定量分析する放射線計測工程と、を有する。
本発明のPu定量分析方法について、図面を参照して説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態のPu定量分析方法の操作手順1を示す図である。
【0025】
<分析対象試料溶液の調製>
第1の実施形態のPu定量分析方法では、はじめに分析対象試料溶液10を調製する。第1の実施形態のPu定量分析方法に用いられる分析対象試料溶液10としては、たとえば、環境試料から作製した水溶液が挙げられる。なお、環境試料が水や水溶液等の液体試料であるときは、環境試料をそのまま分析対象試料溶液10として用いてもよい。
【0026】
環境試料としては、たとえば、大気中の降下物、海水、埋設処分場近辺の土壌、埋設処分場近辺の陸水等が挙げられる。
【0027】
なお、埋設処分場近辺の土壌や陸水は、埋設処分場のセメントから溶出したカルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属が夾雑元素として多く含まれやすい。Ca等のアルカリ土類金属は、α線スペクトロメトリー等の放射線計測を妨害する夾雑元素となるおそれがある。
【0028】
たとえば、Caを多く含む分析対象試料溶液10は、従来の共沈法で分析すると、分析対象試料溶液へのHF35の添加時にα線スペクトロメトリー等の放射線計測を妨害するCaFが多量に生成し、このCaFは希土類フッ化物共沈物に取り込まれる。このため、従来の共沈法ではα線スペクトロメトリー等の放射線計測によるPuの定量分析が困難であった。
【0029】
これに対し、本発明の第1の実施形態のPu定量分析方法では、分析対象試料溶液10からCaを除去する工程を有しているため、Caを多く含む分析対象試料溶液10でも共沈法でα線スペクトロメトリー等の放射線計測によるPuを定量分析することが可能になっている。
【0030】
分析対象試料溶液10としては、たとえば、Ca(OH)を0.5g/L以上、好ましくは1.0g/L以上、さらに好ましくは1.5g/L以上含むものであってよく、また、より好ましくはCa(OH)の飽和水溶液であってもよい。
【0031】
<水酸化鉄共沈工程>
水酸化鉄共沈工程S101は、分析対象試料溶液10に希土類化合物41および鉄化合物32を添加して、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を生成する工程である。
【0032】
水酸化鉄共沈工程S101で分析対象試料溶液10に添加する希土類化合物41としては、たとえば、放射性同位体を含む希土類元素の化合物が挙げられ、より具体的には、天然放射性同位体147Smを含むサマリウム(Sm)の化合物が挙げられる。希土類化合物41を構成する希土類元素が放射性同位体を含むものであると、放射線計測工程S107において、希土類元素の放射性同位体42の同定および定量と、Puの同定とを同時かつ精度良く行うことができるため好ましい。
【0033】
サマリウム(Sm)の化合物としては、硝酸サマリウム(Sm(NO)41等の水溶性のサマリウム(Sm)化合物や、サマリウムが挙げられる。
【0034】
サマリウム(Sm)化合物は、Sm中に天然放射性同位体として含まれる147Smの希土類フッ化物共沈における挙動がPuの希土類フッ化物共沈における挙動と類似するとともに、147Smが天然放射性同位体であり放射線計測が可能であるため、SmをPuのトレーサとして用いることができるため好ましい。たとえば、サマリウム(Sm)中の147SmをPuのトレーサとして用いることにより、共沈における147Smの回収率を共沈におけるPuの回収率とみなすことができる。
【0035】
水酸化鉄共沈工程S101で分析対象試料溶液10に添加する鉄化合物32としては、たとえば、硝酸鉄(Fe(NO)32等の水溶性の鉄(Fe)化合物が挙げられる。水溶性の鉄(Fe)化合物の溶解により分析対象試料溶液10中に鉄イオンが生じると、分析対象試料溶液10をアルカリ性にするpH調整剤33の添加により、水酸化鉄(Fe(OH))の沈殿が生成する。
【0036】
なお、分析対象試料溶液10中にはサマリウム等の希土類元素またはそのイオンが存在するため、水酸化鉄(Fe(OH))の沈殿生成の際に、サマリウム等の希土類元素が水酸化サマリウム等の希土類水酸化物として共沈することにより、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12が生成される。また、分析対象試料溶液10がPuを含む場合には、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12は、さらにPuも含むものとなる。
【0037】
一方、分析対象試料溶液中のカルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属からなる夾雑元素23は、実質的に沈殿しないため、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12にほとんど含まれない。
【0038】
このため、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12が生成した液11をろ過することにより、ろ滓として得られた希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12と、ろ液22として得られカルシウム(Ca)等の夾雑元素23を含む水溶液とを、分離することができる。また、分析対象試料溶液10がPuを含む場合には、Puは希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12に含まれるため、Puおよび希土類元素と、カルシウム(Ca)等の夾雑元素23とを、分離することができる。
【0039】
分析対象試料溶液10に添加されるpH調整剤33としては、たとえば、NaOH水溶液、NH水溶液およびKOH水溶液の少なくとも1種からなるpH調整剤が用いられる。
【0040】
これらのpH調整剤は、分析対象試料溶液10を、通常pH10以上、好ましくはpH10.5以上、さらに好ましくはpH11以上にpH調整するまで、分析対象試料溶液10に添加される。これにより、分析対象試料溶液10中に水酸化鉄共沈物12が生成される。
【0041】
なお、本工程において、分析対象試料溶液10は、希土類化合物41およびpH調整剤33を添加する前に、酸31を加えて予め酸性にしておくことが好ましい。分析対象試料溶液10を予め酸性にしておくと、pH調整剤33の添加前に分析対象試料溶液10中に沈殿が生じ難くなるため、Puの定量分析の精度が高くなる。希土類化合物41およびpH調整剤33を添加する前に分析対象試料溶液10に予め加えられる酸31としては、たとえば、塩酸および硝酸の少なくとも1種からなる酸が挙げられる。
【0042】
<ろ過・水酸化鉄共沈物回収工程>
ろ過・水酸化鉄共沈物回収工程S102は、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12が生成した液11をろ過することにより、水酸化鉄共沈物12を回収するとともに、カルシウム(Ca)等の夾雑元素23を含むろ液22を、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12から分離する工程である。
【0043】
本工程のろ過方法としては、たとえば、孔径が、通常0.3μm以上、好ましくは0.4μm以上、さらに好ましくは0.45μm以上のメンブレンフィルター等のろ紙を用いたろ過方法が用いられる。
また、ろ過方法は、吸引ろ過であると、ろ過速度が高いため好ましい。
【0044】
ろ紙を用いたろ過方法では、ろ滓として希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12が得られ、ろ液22としてカルシウム(Ca)等の夾雑元素23を含む水溶液が得られる。
【0045】
<水酸化鉄共沈物溶解工程>
水酸化鉄共沈物溶解工程S103は、回収した希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を酸34で溶解して水酸化鉄共沈物溶解液13を作製する工程である。
希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を溶解する酸34としては、たとえば、塩酸および硝酸の少なくとも1種からなる酸が挙げられる。
【0046】
希土類元素を含む水酸化鉄共沈物溶解液13は、鉄イオンに加え、少なくとも希土類元素イオンを含む。また、分析対象試料溶液10がPuを含む場合には、水酸化鉄共沈物溶解液13は、さらにPuも含む。
【0047】
<希土類フッ化物共沈工程>
希土類フッ化物共沈工程S104は、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を溶解した水酸化鉄共沈物溶解液13にフッ化物35を添加して希土類フッ化物共沈物15を生成する工程である。
【0048】
水酸化鉄共沈物溶解液13にフッ化物35を添加すると、水酸化鉄共沈物溶解液13中の希土類元素イオンとフッ化物イオンとが反応して、液14中に希土類フッ化物の沈殿が生成する。たとえば、希土類元素がサマリウムであれば、フッ化サマリウム(SmF)の沈殿が生成される。
【0049】
また、分析対象試料溶液10がPuを含む場合には、希土類フッ化物の沈殿はPuを含む希土類フッ化物共沈物15となる。
【0050】
Puを含む希土類フッ化物共沈物15が生成される際において、希土類フッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中の希土類元素量に対する希土類フッ化物共沈物15の生成後の希土類フッ化物共沈物15中の希土類元素量の比率と、希土類フッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中のPu量に対する希土類フッ化物共沈物15の生成後の希土類フッ化物共沈物15中のPu量の比率とは、類似する。
【0051】
特に、希土類元素がサマリウムである場合は、サマリウムフッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中の147Sm量、に対するサマリウムフッ化物共沈物15の生成後のサマリウムフッ化物共沈物15中の147Sm量の比率と、サマリウムフッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中のPu量、に対するサマリウムフッ化物共沈物15の生成後のサマリウムフッ化物共沈物15中のPu量の比率とは、ほぼ同一になる。
【0052】
このため、希土類元素がサマリウムであると、分析対象試料溶液10に添加された147Sm量に対するサマリウムフッ化物共沈物15中の147Sm量の回収率、すなわち147Smの回収率と、分析対象試料溶液10に含まれるPu量に対するサマリウムフッ化物共沈物15中のPu量の回収率、すなわちPuの回収率とはほぼ同一であると評価することができる。
【0053】
これにより、サマリウムに含まれる天然放射性同位体147Smを、共沈法におけるPuのトレーサとして用いることが可能になる。
【0054】
サマリウムフッ化物共沈物15中の147Sm量の回収率は、放射線計測工程S107で測定用試料16中の147Sm量を測定することにより算出される。
【0055】
<ろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程>
ろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程S105は、希土類フッ化物共沈物15が生成した液14をろ過することにより、希土類フッ化物共沈物15を回収する工程である。
【0056】
本工程のろ過方法としては、たとえば、孔径が0.1μmのメンブレンフィルター等のろ紙を用いたろ過方法が用いられる。
また、ろ過方法は、吸引ろ過であると、ろ過速度が高いため好ましい。
【0057】
<乾燥工程>
乾燥工程S106は、希土類フッ化物共沈物15を乾燥させる工程である。希土類フッ化物共沈物15を乾燥させると、放射線計測工程に用いられる測定用試料16が得られる。
【0058】
希土類フッ化物共沈物15の乾燥方法としては、たとえば、高温乾燥機内に希土類フッ化物共沈物15をろ紙ごと載置する方法や、室温で希土類フッ化物共沈物15をろ紙ごと常温下で放置する方法、たとえば風乾が挙げられる。
【0059】
<放射線計測工程>
放射線計測工程S107は、希土類フッ化物共沈物15から作製した測定用試料16を放射線計測してPuを定量分析する工程である。
ここで、放射線計測方法としては、たとえば、α線スペクトロメトリーが用いられる。
【0060】
測定用試料16に対してα線スペクトロメトリー等の放射線計測を行うと、測定用試料16中の放射性核種の同定およびその定量が可能になるため、測定用試料16中の147Sm等の希土類元素の放射性同位体42の同定および定量と、Puの同定が可能になる。
【0061】
次に、この希土類元素の放射性同位体42の定量結果と分析対象試料溶液10中の希土類元素の放射性同位体42量とから、希土類元素の放射性同位体42の回収率を算出する。たとえば希土類元素の放射性同位体42が147Smである場合は、147Smの回収率は、測定用試料16中の147Sm量を、分析対象試料溶液10に添加された147Sm量で除することにより算出される。
【0062】
さらに、希土類元素の放射性同位体42の回収率を各Pu同位体の回収率と同一値であると評価した上、α線スペクトロメトリー等の放射線計測による希土類元素の放射性同位体42のカウンター値と、各Pu同位体のカウンター値とを比例計算することにより、各Pu同位体の定量分析が可能になる。
【0063】
たとえば、希土類元素の放射性同位体42が147Smである場合は、147Smの回収率を各Pu同位体の回収率と同一値であると評価した上で、α線スペクトロメトリー等の放射線計測による147Smのカウンター値と、各Pu同位体のカウンター値とを比例計算することにより、各Pu同位体の定量分析が可能になる。
【0064】
ここで、希土類元素の放射性同位体42の回収率をPu量の回収率として評価することが可能なのは、上記のように、希土類フッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中の希土類元素の放射性同位体42量、に対する希土類フッ化物共沈物15の生成後の希土類フッ化物共沈物15中の希土類元素の放射性同位体42量の比率と、希土類フッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中のPu量、に対する希土類フッ化物共沈物15の生成後の希土類フッ化物共沈物15中のPu量の比率とが、類似するからである。
【0065】
特に希土類元素の放射性同位体42が、147Smである場合は、サマリウムフッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中の147Sm42量、に対するサマリウムフッ化物共沈物15の生成後のサマリウムフッ化物共沈物15中の147Sm42量の比率と、サマリウムフッ化物共沈物15の生成前の水酸化鉄共沈物溶解液13中のPu量、に対するサマリウムフッ化物共沈物15の生成後のサマリウムフッ化物共沈物15中のPu量の比率とが、ほぼ同一になる。
【0066】
このように、本発明の第1の実施形態では、分析対象試料溶液10に添加した希土類元素化合物41中の希土類元素の放射性同位体42に対する希土類フッ化物共沈物15中の希土類元素の放射性同位体42の回収率、すなわち希土類元素の放射性同位体42の回収率を、分析対象試料溶液10中のPu量に対する希土類フッ化物共沈物15中のPuの回収率、すなわちPuの回収率として評価することができる。
【0067】
<第1の実施形態の効果>
本発明の第1の実施形態のPu定量分析方法によれば、Puのトレーサとして、242Puトレーサに加えてまたは242Puトレーサに代えて、147Sm等の希土類元素の放射性同位体42を用いることにより、Puの回収率およびPuの定量分析が可能になる。
【0068】
すなわち、本発明の第1の実施形態のPu定量分析方法によれば、分析対象試料溶液10に添加するSm化合物41中の147Sm等の希土類元素の放射性同位体42を、Pu量の回収率を評価するトレーサとして用いることにより、242Puトレーサを用いずに、Puの回収率を評価することができる。
【0069】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態のPu定量分析方法の操作手順1Aを示す図である。
第2の実施形態のPu定量分析方法の操作手順1Aは、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1に比較して、Pu定量分析方法の操作手順1の水酸化鉄共沈工程S101に代えて、分析対象試料溶液10に精製242Puトレーサ43をさらに加える操作である水酸化鉄共沈工程S201を行う点、およびPu定量分析方法の操作手順1の放射線計測工程S107に代えて、242Pu44の計測をさらに行う操作である放射線計測工程S207を行う点で異なり、他の点は実質的に同じである。
【0070】
このため、図2に第2の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1Aと、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1とで、同じ構成には同じ符号を付し、符号および作用の説明を省略または簡略化する。
【0071】
図2に第2の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1Aの分析対象試料溶液の調製は、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の分析対象試料溶液の調製と同じであるため、説明を省略する。
【0072】
<水酸化鉄共沈工程>
水酸化鉄共沈工程S201は、分析対象試料溶液10に希土類化合物41および鉄化合物32、ならびに精製242Puトレーサ43を添加して、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aを生成する工程である。
【0073】
水酸化鉄共沈工程S201は、精製242Puトレーサ43を添加して、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aを生成する点以外は、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の水酸化鉄共沈工程S101と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0074】
分析対象試料溶液10に添加される精製242Puトレーサ43としては、共沈法でのPu定量分析の際に通常に用いられる精製242Puトレーサが用いられる。
【0075】
分析対象試料溶液10に添加された精製242Puトレーサ43は、水酸化鉄(Fe(OH))および希土類水酸化物とともに共沈するため、得られる水酸化鉄共沈物12Aは、水酸化鉄、希土類元素に加え精製242Puトレーサ43を含む共沈物となる。
【0076】
図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の水酸化鉄共沈工程S101では、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12が生成した液11が得られるが、図2に示した水酸化鉄共沈工程S201では、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aが生成した液11Aが得られる。
【0077】
<ろ過・水酸化鉄共沈物回収工程>
ろ過・水酸化鉄共沈物回収工程S202は、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aが生成した液11Aをろ過することにより、水酸化鉄共沈物12Aを回収するとともに、カルシウム(Ca)等の夾雑元素23を含むろ液22を、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aから分離する工程である。
【0078】
ろ過・水酸化鉄共沈物回収工程S202は、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12が生成した液11をろ過することにより水酸化鉄共沈物12を回収することに代えて、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aが生成した液11Aをろ過することにより水酸化鉄共沈物12Aを回収する点以外は、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1のろ過・水酸化鉄共沈物回収工程S102と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0079】
<水酸化鉄共沈物溶解工程>
水酸化鉄共沈物溶解工程S203は、回収した希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aを酸34で溶解して精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物溶解液13Aを作製する工程である。
【0080】
水酸化鉄共沈物溶解工程S203は、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を酸34で溶解して水酸化鉄共沈物溶解液13を作製することに代えて、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aを酸34で溶解して精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物溶解液13Aを作製する点以外は、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の水酸化鉄共沈物溶解工程S103と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0081】
<希土類フッ化物共沈工程>
希土類フッ化物共沈工程S204は、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aを溶解した精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物溶解液13Aに、フッ化物35を添加して、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを生成する工程である。
【0082】
希土類フッ化物共沈工程S204は、希土類元素を含む水酸化鉄共沈物12を溶解した水酸化鉄共沈物溶解液13に代えて、希土類元素および精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物12Aを溶解した精製242Puトレーサ43を含む水酸化鉄共沈物溶解液13Aを用いる点、および希土類フッ化物共沈物15に代えて、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを生成する点、以外は図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の希土類フッ化物共沈工程S104と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0083】
<ろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程>
ろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程S205は、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aが生成した液14Aをろ過することにより、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを回収する工程である。
【0084】
ろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程S205は、希土類フッ化物共沈物15を含む液14をろ過することに代えて、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aが生成した液14Aをろ過する点、および希土類フッ化物共沈物15を回収することに代えて、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを回収する点、以外は図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1のろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程S105と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0085】
<乾燥工程>
乾燥工程S206は、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを乾燥させる工程である。
精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを乾燥させると、放射線計測工程に用いられる、242Pu44を含む測定用試料16Aが得られる。
【0086】
乾燥工程S206は、希土類フッ化物共沈物15を乾燥させて測定用試料16を得ることに代えて、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aを乾燥させて242Pu44を含む測定用試料16Aを得る点以外は図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の乾燥工程S106と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0087】
<放射線計測工程>
放射線計測工程S207は、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aから作製した242Pu44を含む測定用試料16Aを放射線計測してPuを定量分析する工程である。
【0088】
放射線計測工程S207は、希土類フッ化物共沈物15から作製した測定用試料16を放射線計測することに代えて、精製242Puトレーサ43を含む希土類フッ化物共沈物15Aから作製した242Pu44を含む測定用試料16Aを放射線計測する点以外は図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1の放射線計測工程S107と同じであるため、説明および作用を省略する。
【0089】
242Pu44を含む測定用試料16Aに対してα線スペクトロメトリー等の放射線計測を行うと、測定用試料16A中の放射性核種の同定およびその定量が可能になるため、測定用試料16A中の147Sm等の希土類元素の放射性同位体42および242Pu44の同定および定量が可能になる。
【0090】
すなわち、測定用試料16A中の242Pu44の定量結果と、分析対象試料溶液10A中の精製242Puトレーサ43に含まれる242Pu44量とから、242Pu44の回収率を算出する。たとえば、242Pu44の回収率は、測定用試料16A中の242Pu44量を、分析対象試料溶液10に添加された精製242Puトレーサ43に含まれる242Pu44量で除することにより算出される。
【0091】
また、242Pu44の回収率を各Pu同位体の回収率と同一値であると評価した上で、α線スペクトロメトリー等の放射線計測による242Pu44のカウンター値と、各Pu同位体のカウンター値とを比例計算することにより、各Pu同位体の定量分析が可能になる。
【0092】
一方、測定用試料16A中の希土類元素の放射性同位体42の定量結果と分析対象試料溶液10中の希土類元素の放射性同位体42量とから、希土類元素の放射性同位体42の回収率を算出する。たとえば希土類元素の放射性同位体42が147Smである場合は、147Smの回収率は、測定用試料16A中の147Sm量を、分析対象試料溶液10に添加された147Sm量で除することにより算出される。
【0093】
このようにして測定した147Sm等の希土類元素の放射性同位体42の回収率と、242Pu44の回収率とを比較し、147Sm等の希土類元素の放射性同位体42の回収率に、242Pu44の回収率とのズレがなくなるような適切な補正係数を掛けたり足したりする。
【0094】
このように補正係数により補正された希土類元素の放射性同位体42の回収率を算出すると、補正された希土類元素の放射性同位体42の回収率をPuの回収率として評価することが可能になる。すなわち、以後は、分析対象試料溶液10に精製242Puトレーサ43を添加せずに、147Sm等の希土類元素の放射性同位体42を添加することにより、Puの回収率およびPuの定量分析が可能になる。
【0095】
<第2の実施形態の効果>
本発明の第2の実施形態のPu定量分析方法によれば、本発明の第1の実施形態のPu定量分析方法と同様の効果に加え、希土類元素の放射性同位体42の回収率と、Puの回収率とのズレを補正するため、より精度の良いPuの定量分析が可能になる。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0097】
(実施例1)
[α線計測用試料の作製]
図3は、実施例1のPu定量分析方法の操作手順1Bを示す図である。
図3に示されるPu定量分析方法の操作手順1Bは、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1に比較して、分析対象試料溶液10に代えて25℃での飽和Ca(OH)水溶液10Aを用いた点で異なり、その他の点は同じである。
【0098】
このため、図3に示した実施例1のPu定量分析方法の操作手順1Bと、図1に第1の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1とで、同じ構成には同じ符号を付し、符号および作用の説明を省略または簡略化する。
【0099】
なお、25℃での飽和Ca(OH)水溶液10Aは、147Smの挙動を観察するために、Puを含まない分析対象試料溶液10を模して作製したものである。この25℃での飽和Ca(OH)水溶液10Aは、以下の実施例2および比較例1においても実施例1と同様の理由で用いる。
【0100】
25℃での飽和Ca(OH)水溶液10Aを100ml用意し、この飽和Ca(OH)水溶液10Aに35%HClを1ml添加して液性を酸性とし、さらにSm換算値で0.2mgのSm(NO)を添加した。
【0101】
次に、この液に、Fe濃度が1000ppmのFe(NO)水溶液を10ml加えた後、1mol/LのNaOH水溶液を徐々に添加して液性をpH>10のアルカリ性にしたところ、Fe(OH)沈殿(鉄共沈物)が生成した。
【0102】
得られた沈殿を孔径0.45μmのフィルタでろ過し、ろ滓を回収した。このろ滓を6mol/LのHCl水溶液(塩酸)の15mlに溶解した後、溶解液に46%のHF(フッ化水素酸)を2.5ml滴下したところ、SmF沈殿(希土類フッ加物共沈物)が生成した。
得られた沈殿を孔径0.1μmのフィルタでろ過し、ろ滓を回収し、乾燥させた。
【0103】
[α線計測]
乾燥させたろ滓について、α線スペクトロメトリーでα線計測(80000sec)を行った。
得られたα線スペクトルを図4に示す。図4に示されるように、147Smの明瞭なピークが確認できるため、本方法によれば、α線スペクトロメトリーにおいてCaの影響を排除できることが確認できた。
【0104】
(実施例2)
[α線計測用試料の作製]
図5は、実施例2のPu定量分析方法の操作手順1Cを示す図である。
図5に示されるPu定量分析方法の操作手順1Cは、図2に第2の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1Aに比較して、分析対象試料溶液10に代えて飽和Ca(OH)水溶液10Aを用いた点で異なり、その他の点は同じである。
【0105】
このため、図5に示した実施例2のPu定量分析方法の操作手順1Cと、図2に第2の実施形態として示したPu定量分析方法の操作手順1Aとで、同じ構成には同じ符号を付し、符号および作用の説明を省略または簡略化する。
【0106】
25℃での飽和Ca(OH)水溶液10Aを100ml用意し、この飽和Ca(OH)水溶液10Aに35%HClを1ml添加して液性を酸性とし、さらに0.08Bqの242Puと、Sm換算値で0.2mgのSm(NO)とを添加した。
【0107】
次に、この液に、Fe濃度が1000ppmのFe(NO)水溶液を10ml加えた後、1mol/LのNaOH水溶液を徐々に添加して液性をpH>10のアルカリ性にしたところ、Fe(OH)沈殿(鉄共沈物)が生成した。
【0108】
得られた沈殿を孔径0.45μmのフィルタでろ過し、ろ滓を回収した。このろ滓を6mol/LのHCl水溶液(塩酸)の15mlに溶解した後、溶解液に46%のHF(フッ化水素酸)を2.5ml滴下したところ、SmF沈殿(希土類フッ加物共沈物)が生成した。
得られた沈殿を孔径0.1μmのフィルタでろ過し、ろ滓を回収し、乾燥させた。
【0109】
[α線計測]
乾燥させたろ滓について、α線スペクトロメトリーでα線計測(75000sec)を行った。
得られたα線スペクトルには、242Puおよび147Smの明瞭なピークが確認できた。
【0110】
次に、得られたα線スペクトルのカウント数から、242Puおよび147Smを定量した。また、この242Puおよび147Smの定量結果と、飽和Ca(OH)水溶液10Aに添加した242Pu量およびSm中の147Sm量とから、242Puおよび147Smの回収率をそれぞれ算出した。
さらに、242Puの回収率を147Smの回収率で除することにより、収率比(242Pu/147Sm)を算出した。
【0111】
上記の[α線計測用試料の作製]および[α線計測]の試験を1セットとし、この試験を繰り返して合計6セット行った。
試験を6セット行ったときの242Puおよび147Smの回収率は、242Puの回収率が90.1±5.9%、147Smの回収率が86.4±4.9%であった。また、試験を6セット行ったときの収率比(242Pu/147Sm)は1.04±0.02%であった。
これらの結果より、147Smの回収率を、242Puの回収率に対して誤差±10%以下の精度で評価できることが分かった。
【0112】
(比較例1)
[α線計測用試料の作製]
図6は、比較例1のPu定量分析方法の操作手順5を示す図である。
図6に示されるPu定量分析方法の操作手順5は、水酸化鉄共沈工程S101またはS201を行わない比較例である。
【0113】
25℃での飽和Ca(OH)水溶液10Aを100ml用意し、この飽和Ca(OH)水溶液10Aに35%HCl(符号71)を1ml添加して液性を酸性とし、さらにSm換算値で0.2mgのSm(NO)(符号41)を添加した。
【0114】
次に、この液に、46%のHF(フッ化水素酸、符号72)を2.5ml滴下したところ、液51中にSmF沈殿(希土類フッ加物共沈物、符号52)が生成した。
得られた沈殿(符号52)を孔径0.1μmのフィルタでろ過し、ろ滓を回収し、乾燥(風乾)させた。SmF沈殿は多量のCaFを含むため、フィルタ上のろ滓は、厚さが1mm程度と非常に厚くなった。
【0115】
[α線計測]
乾燥させたろ滓(符号53)について、α線スペクトロメトリーでα線計測(80000sec)を行った。
乾燥させたろ滓は多量のCaFを含むため、α線の自己吸収が大きく、147Sm(符号42)の明瞭なα線スペクトルは得られなかった。
【0116】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
1、1A、1B、1C、5 Pu定量分析フロー
10 分析対象試料溶液
10A 飽和Ca(OH)水溶液
11 Fe(OH)共沈物が生成した液(希土類元素を含む水酸化鉄共沈物が生成した液)
11A Fe(OH)共沈物が生成した液(希土類元素および精製242Puトレーサを含む水酸化鉄共沈物が生成した液)
12 Fe(OH)共沈物(希土類元素を含む水酸化鉄共沈物)
12A Fe(OH)共沈物(希土類元素および精製242Puトレーサを含む水酸化鉄共沈物)
13 Fe(OH)共沈物の溶解液(水酸化鉄共沈物溶解液)
13A Fe(OH)共沈物の溶解液(精製242Puトレーサを含む水酸化鉄共沈物溶解液)
14、51 SmF共沈物が生成した液
14A 精製242Puトレーサを含むSmF共沈物が生成した液
15、52 SmF共沈物(希土類フッ化物共沈物)
15A SmF共沈物(精製242Puトレーサを含む希土類フッ化物共沈物)
16、53 乾燥したSmF共沈物(測定用試料、α線計測用試料)
16A 乾燥し、精製242Puトレーサを含むSmF共沈物(測定用試料、α線計測用試料)
22 Ca(夾雑元素)を含むろ液
23 Ca(夾雑元素)
31、34、71 HCl(酸)
32 Fe(NO(鉄化合物)
33 NaOH(pH調整剤)
35、72 HF(フッ化物)
41 Sm(NO(希土類化合物)
42 Sm−147(147Sm)
43 精製Pu−242トレーサ(242Puトレーサ)
44 Pu−242(242Pu)
S101、S201 Fe(OH)共沈工程(水酸化鉄共沈工程)
S102、S202 ろ過・沈殿回収工程(ろ過・水酸化鉄共沈物回収工程)
S103、S203 溶解工程(水酸化鉄共沈物溶解工程)
S104、S204 SmF共沈工程(希土類フッ化物共沈工程)
S105、S205 ろ過工程(ろ過・希土類フッ化物共沈物回収工程)
S106、S206 乾燥工程
S107、S207 α線計測工程(放射線計測工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象試料溶液のPuを定量分析するPu定量分析方法において、
前記分析対象試料溶液に希土類化合物および鉄化合物を添加して、前記希土類元素を含む水酸化鉄共沈物を生成する水酸化鉄共沈工程と、
前記水酸化鉄共沈物を溶解した水酸化鉄共沈物溶解液にフッ化物を添加して希土類フッ化物共沈物を生成する希土類フッ化物共沈工程と、
前記希土類フッ化物共沈物から作製した測定用試料を放射線計測してPuを定量分析する放射線計測工程と、を有することを特徴とするPu定量分析方法。
【請求項2】
前記放射線計測工程で行われる放射線計測方法は、α線スペクトロメトリーであることを特徴とする請求項1に記載のPu定量分析方法。
【請求項3】
前記分析対象試料溶液は、α線スペクトロメトリーを妨害する夾雑元素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のPu定量分析方法。
【請求項4】
前記夾雑元素は、アルカリ土類金属であることを特徴とする請求項3に記載のPu定量分析方法。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属は、Caであることを特徴とする請求項4に記載のPu定量分析方法。
【請求項6】
前記分析対象試料溶液は、Ca(OH)を0.5g/L以上含むことを特徴とする請求項5に記載のPu定量分析方法。
【請求項7】
前記希土類化合物はSm化合物であり、前記希土類元素はSmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のPu定量分析方法。
【請求項8】
前記水酸化鉄共沈工程は、前記分析対象試料溶液に、NaOH水溶液、NH水溶液およびKOH水溶液の少なくとも1種からなるpH調整剤を添加して、前記水酸化鉄共沈物を生成する工程であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のPu定量分析方法。
【請求項9】
前記水酸化鉄共沈工程は、前記分析対象試料溶液をpH10以上にpH調整することにより前記水酸化鉄共沈物を生成する工程であることを特徴とする請求項8に記載のPu定量分析方法。
【請求項10】
前記水酸化鉄共沈工程の後に、前記水酸化鉄共沈物を酸で溶解して水酸化鉄共沈物溶解液を作製する水酸化鉄共沈物溶解工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のPu定量分析方法。
【請求項11】
前記酸は、塩酸および硝酸の少なくとも1種からなる酸であることを特徴とする請求項10に記載のPu定量分析方法。
【請求項12】
前記分析対象試料溶液に添加したSm化合物中の147Sm量に対する前記希土類フッ化物共沈物量中の147Sm量の回収率を、前記分析対象試料溶液中のPu量に対する前記希土類フッ化物共沈物中のPu量の回収率として評価することを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のPu定量分析方法。
【請求項13】
前記分析対象試料溶液に添加したSm化合物中の147Smを、Pu量の回収率を評価するトレーサとして用いることにより、242Puトレーサを用いずに、Puの回収率を評価することを特徴とする7〜12のいずれか1項に記載のPu定量分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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