説明

RF電力増幅回路および移動体通信端末装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、無線通信用のRF電力増幅回路、さらにはGaAs・FET(電界効果トランジスタ)を使用するRF電力増幅回路に適用して有効な技術に関するものであって、たとえばCDMA(符号分割多次元接続)技術を使ったデジタル方式の携帯電話端末に利用して有効な技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】携帯電話端末などの移動体通信端末装置では、1GHz以上のマイクロ波領域の無線信号を送信するために、従来のシリコン・バイポーラ・トランジスタよりも動作速度の速いデプレッション型GaAs・FETを採用したRF増幅電力増幅回路が使用される。
【0003】また、通信方式としては、周波数利用効率を高めるために、従来の周波数分割多元接続方式や時分割多元接続方式に代わって、スペクトル拡散を行う符号分割多元接続方式いわゆるCDMA技術が注目されている。
【0004】この種の移動体通信端末装置では、まず、携帯性を高めるために、小型軽量であるとともに、電力消費が少なくて電池寿命の長いことが要求される。これとともに、生産適性および動作の安定性を高めるために、無調整であることも要求される。
【0005】また、セルラー方式の携帯電話システム、とくにCDMA方式のシステムでは、送信電力を必要最小限に抑えることが、周波数利用効率を高める上で非常に有効となる。つまり、端末局が基地局のすぐ近くにあるときは送信電力を小さくし、離れているときは大きくすることで、CDMA復調の妨げとなる雑音レベルを抑えることができる。
【0006】このためには、送信電力をきめ細かく制御できるようにすればよい。送信電力の制御は、RF電力増幅回路の入力レベルを制御するとともに、たとえば0.02mW〜200mWといった非常に広い出力範囲にわたって良好な直線性を呈する線形のRF電力増幅回路を使用すればよい。CDMA方式の移動体通信端末装置では、最大出力時にも線形動作するようにバイアス設定された線型動作のRF電力増幅回路が使用される。
【0007】なお、移動体通信端末装置については、たとえば日経BP社刊行「日経エレクトロニクス 1997年1月13日号(no.680)」65〜90ページ(特集:携帯電話)などに、その概要が記載されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した技術には、次のような問題のあることが本発明者らによってあきらかとされた。
【0009】すなわち、線型増幅回路のバイアス電流は出力に関係なく一定となる。したがって、最大出力時に線形動作するようにバイアス設定された線型RF電力増幅回路は、送信電力がその最大出力を大きく下回っている場合でも、つまり小電力出力時でも、常に、最大出力時のバイアス電流を流し続ける。これは消費電力の上で無駄である。そこで、送信電力が小さい場合はバイアス電流も小さくすることが検討されている。
【0010】しかし、RF電力増幅回路を構成するFETの特性は必ずしも一定ではなく、製造プロセスあるいは実装等の諸条件によるバラツキがある。このため、バイアス電流の設定に際しては、製品ごとに精密なバイアス設定を行うか、あるいは送信電力に対して十分なバラツキ余裕を持たせたバイアス設定を行う必要があった。
【0011】ところが、前者の場合は、製品ごとに面倒な調整が必要となるため、生産適性が著しく低下してしまうという問題が生じる。後者の場合は、送信出力に対して十分な余裕を持つべく、大きなバイアス電流を流すようにしなければならないため、消費電力を増大させて電池寿命を短くしてしまうという問題が生じる。
【0012】なお、バイアス電圧を無調整で供給する技術としては、たとえばIEEE Trans. Circuit Theory,vol.CT−12,pp.586−590,Dec.1965に記載されているように、シリコン・バイポーラ・トランジスタのコレクタ電圧/電流特性を利用したバイアス回路が知られている。しかし、そこで開示されているバイアス回路は、シリコン・バイポーラ・トランジスタ固有の特性(コレクタ電圧/電流特性やベース・エミッタ間電圧など)を利用したものであって、FETには適用できないことが本発明者らによってあきらかにされた。
【0013】本発明の目的は、たとえば1GHz以上のマイクロ波領域での無線信号を用いる移動体通信端末装置の小型軽量化と電池での長時間動作化に有効であるとともに、生産適性を著しく低下させる個別の調整を必要することなく、単一電源の使用条件下でも安定かつ効率的なRF電力増幅を可能にする、という技術を提供することにある。
【0014】本発明の前記ならびにそのほかの目的と特徴は、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【0015】
【課題を解決するための手段】本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
【0016】すなわち、ソース接地およびデプレッション動作によりRF電力増幅回路を形成する第1のFETとともに、この第1のFETに対して同種のFETであって、チャネル長が等しく、かつチャネル幅が小さく形成された第2のFETと、正電源電圧から負電圧を発生して第1のFETと第2のFETの各ゲートに負バイアス電圧を分配する可変電圧発生回路と、第2のFETのドレイン電流が所定の設定値となるように上記可変電圧発生回路を制御する負帰還回路を設け、この負帰還回路の動作によってRF電力増幅回路のバイアス設定を行わせる、というものである。
【0017】上述した手段によれば、RF電力増幅回路を構成するFETの特性に製造プロセスあるいは実装等の諸条件によるバラツキがあったとしても、そのFETに所定の増幅動作を高効率で行わせるのに必要なバイアス電圧を、無調整でもって自己整合的に再現性良く設定することができる。
【0018】これにより、たとえば1GHz以上のマイクロ波領域での無線信号を用いる移動体通信端末装置の小型軽量化と電池での長時間動作化に有効であるとともに、生産適性を著しく低下させる個別の調整を必要することなく、単一電源の使用条件下でも安定かつ効率的なRF電力増幅を可能にする、という目的が達成される。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明の請求項1に記載の発明は、ソース接地されデプレッション動作によりRF電力増幅を行なう第1のFET(J1,J2)と、第1のFET(J1,J2)と同種のFETであってチャネル長が等しくかつチャネル幅が小さく形成された第2のFET(Jx)と、該第2のFETのドレイン電圧と基準電圧との差分を増幅して出力する電圧比較回路(16)と、該電圧比較回路の出力に基づき、正電源電圧から負電圧を発生して上記第1のFET(J1,J2)および第2のFET(Jx)の各ゲートに負バイアス電圧(Vo)を分配する可変電圧発生回路(17)と、上記第1のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第1の抵抗(R1,R2)と、上記第2のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第2の抵抗(Rx)と、上記可変電圧発生回路の出力電圧を上記第2のFETのゲートに上記第2の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与え、上記ドレイン電圧が上記基準電圧と等しくなるような帰還制御を、上記第1のFETのゲートと上記第2のFETのゲートとの間が互いに交流的に遮断された状態で行なうことにより、上記第2のFET(Jx)のドレイン電流(Ix)が所定の設定値となるように上記可変電圧発生回路(17)を制御する負帰還回路(18)とを具備してなり、上記負帰還回路を形成する上記可変電圧発生回路の出力電圧が上記第1のFETのゲートに上記第1の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与えられるように構成されたものであり、これにより、携帯電話端末などの移動体通信端末装置の小型軽量化と電池での長時間動作化に有効であるとともに、生産適性を著しく低下させる個別の調整を必要することなく、単一電源の使用条件下でも安定かつ効率的なRF電力増幅を可能にするという作用が得られる。
【0020】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のものに加えて、第1のFET(J1,J2)は線型増幅回路を形成することを特徴としたものであり、これにより、たとえばCDMA方式の通信に適した電力増幅特性を確保することができるという作用が得られる。
【0021】請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のものに加えて、第1のFET(J1,J2)と第2のFET(Jx)を同一半導体チップ上に熱的な結合状態で形成したものであり、これにより、第1のFET(J1,J2)と第2のFET(Jx)の互いの相似関係が一層緊密となって、バイアス設定の精度がさらに高められるという作用が得られる。
【0022】請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載のものに加えて、負帰還回路(18)によって制御される第2のFET(Jx)のドレイン電流(Ix)値を外部(60)からの信号に応じて設定する可変設定回路を備えたものであり、これにより、RF電力増幅回路のバイアス条件を外部(60)からきめ細かく設定することができるという作用が得られる。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】請求項5に記載の発明は、ソース接地されデプレッション動作によりRF電力増幅を行なう第1のFET(J1,J2)と、第1のFET(J1,J2)と同種のFETであってチャネル長が等しくかつチャネル幅が小さく形成された第2のFET(Jx)と、該第2のFETのドレイン電圧と基準電圧との差分を増幅して出力する電圧比較回路(16)と、該電圧比較回路の出力に基づき、正電源電圧から負電圧を発生して第1のFET(J1,J2)および第2のFET(Jx)の各ゲートに負バイアス電圧(Vo)を分配する可変電圧発生回路(17)と、上記第1のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第1の抵抗(R1,R2)と、上記第2のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第2の抵抗(Rx)と、上記可変電圧発生回路の出力電圧を上記第2のFETのゲートに上記第2の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与え、上記ドレイン電圧が上記基準電圧と等しくなるような帰還制御を、上記第1のFETのゲートと上記第2のFETのゲートとの間が互いに交流的に遮断された状態で行なうことにより、上記第2のFET(Jx)のドレイン電流(Ix)が所定の設定値となるように上記可変電圧発生回路(17)を制御する負帰還回路(18)とを有するとともに、上記負帰還回路を形成する上記可変電圧発生回路の出力電圧が上記第1のFETのゲートに上記第1の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与えられるように構成され、送信出力に応じて上記設定値を可変制御する制御手段(50,60)を具備するようにしたものであり、これにより、携帯電話端末などの移動体通信端末装置の小型軽量化と電池での長時間動作化を達成できるとともに、個別の調整を不要にしてその生産適性を向上させることができるという作用が得られる。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】以下、本発明の好適な実施態様を図面を参照しながら説明する。
【0041】なお、図において、同一符号は同一あるいは相当部分を示すものとする。
【0042】図1は本発明の技術が適用された移動体通信端末装置の概略構成を示す。
【0043】同図に示す移動体通信端末装置はCDMA方式による携帯電話端末として構成され、RF電力増幅回路10、出力整合回路13、RF受信プリアンプ20、分波器(またはアンテナ切換器)31、無線送受信アンテナ32、送信側周波数変換回路(アップバータ)41、受信側周波数変換回路(ダウンバータ)42、周波数変換用のローカル信号を発生する周波数合成回路43、送受信IF部および各種制御信号の送受信機能を含むベースバンドユニット50、論理制御ユニット60、操作部および表示部を含む操作パネル61、送話器と受話器からなるヘッドセット62、および装置全体の動作電源(Vdd)を賄う内蔵電池70などを有する。
【0044】ここで、装置全体は内蔵電池70から供給される正電圧電源(Vdd)によって動作するように構成されている。
【0045】RF電力増幅回路10は、前段12と終段11の多段構成であり、各増幅段11,12はそれぞれ、デプレッション動作する接合型のGaAs・FETJ1,J2を用いて構成されている。
【0046】各増幅段11,12のFETJ1,J2はそれぞれ、ソース接地型の線型増幅回路を形成し、共通のバイアス発生回路14から分配されるゲートバイアス電圧(Vo)で線型増幅動作するようにバイアスされならがら、周波数変換回路41にて所定の送信周波数に変換された無線信号Rinを一定利得で電力増幅する。
【0047】各FETJx,J1,J2のゲートバイアス電圧供給路にはそれぞれ抵抗Rx,R1,R2が直列に介在させられているとともに、各抵抗Rx,R1,R2と可変電圧発生回路17の間に容量素子Cpが並列に挿入さている。これにより、各FETJx,J1,J2のゲート間が互いに交流(高周波)的に遮断(デカップリング)され、FETでの回り込み干渉が防止されるようになっている。
【0048】FETの種類によっては、各FETJx,J1,J2にゲートリークがあって、そのゲートリークによる抵抗Rx,R1,R2での電圧降下が無視できないような場合もある。このような場合は、R1とRxの抵抗値比がFETJ1とJxのチャネル幅比の逆数となるように設定し、同様に、R2とRxの抵抗値比がFETJ2とJxのチャネル幅比の逆数となるように設定することにより、上記ゲートリークによる影響を相殺させることができる。
【0049】バイアス発生回路14は、FETJx、可変設定回路15、電圧比較回路16、可変電圧発生回路17、容量素子C1、抵抗R3などにより構成されている。
【0050】FETJxはバイアス発生のためのダミーFETである。このダミーFETJxは、RF電力増幅を行うFETJ1,J2に対して、同一半導体チップ上に熱的な結合状態で形成された同種のFETであって、チャネル長が等しく、かつチャネル幅が小さく形成されている。
【0051】抵抗R3は、ダミーFETJxのドレインと電源電位Vddの間に接続されてドレイン負荷をなす。この抵抗R3の両端には、ダミーFETJxのドレイン電流Ixに応じた電圧Vx(=R3×Ix)が現れる。つまり、抵抗R3は、ダミーFETJxのドレイン電流Ixを電圧変換する。
【0052】可変設定回路15は、外部からの信号により出力電圧Vrが電気的に可変設定される可変電圧源151を用いて構成されている。この可変電圧源151の出力電圧Vrは、論理制御ユニット60が送信電力に応じて生成するデジタル制御信号によって可変設定される。
【0053】電圧比較回路16は、十分に大きな増幅利得を有する演算増幅器を用いて構成され、ダミーFETJxのドレイン電圧Vxと可変電圧源151の出力電圧Vrを比較してその差分を増幅・出力する。この電圧比較回路16の出力は可変電圧発生回路17に制御信号として与えられる。
【0054】可変電圧発生回路17は、正電源電圧(Vdd)から負電圧(Vo)を発生する回路であって、比較回路16の出力によって出力電圧Voが可変制御されるように構成されている。容量素子C1はバイアス発生回路17の出力電圧Voを平滑(直流化)する。
【0055】上記出力電圧Voは、抵抗Rxを直列に介して上記ダミーFETJxのゲートにバイアス電圧として与えられる。これにより、上記ドレイン電流Ixが上記可変電圧源151によって与えられる設定値(Vr)と等しくなるような直流負帰還制御が行われるようになっている。すなわち、FETJx、可変設定回路15、電圧比較回路16、可変電圧発生回路17、容量素子C1、抵抗R3は、ダミーFETJxのドレイン電流Ixが所定の設定値(Vdd−R3×Ix=Vr)となるように上記バイアス電圧(Vo)を可変制御する負帰還回路18を形成する。
【0056】ベースバンドユニット50は、詳細な図示は省略するが、CDMA方式の無線送信信号の発生および受信・復調の機能に加えて、無線受信信号の電界強度レベルを検出する検出手段、および/または無線通信相手局からフィードバックされてくる自局送信電波の電界強度情報を取得する受信手段を内蔵している。
【0057】論理制御ユニット60は、これも詳細な図示は省略するが、携帯電話端末として通常必要となるシステム制御機能に加えて、上記検出手段が検出した受信電界強度レベル、または上記受信手段が受信した受信電界強度情報に基づいて、送信電力が必要最小限となるような最適化設定を行う制御手段と、この制御手段の設定に連動して、FETJ1,J2のドレインバイアス電流が線型増幅動作の維持に最低必要な大きさとなるようにFETJxのドレイン電流を設定する制御手段を備えている。
【0058】上記制御手段からの制御情報は、デジタル信号の形でRF電力増幅回路10の可変設定回路15に外部制御信号として与えられる。
【0059】なお、上記の制御手段は、マイクロ回路化された汎用制御手段いわゆるMPUあるいはCPUを用いてソフトウェア的に構成することができる。
【0060】次に、動作について説明する。
【0061】上述したように、ダミーFETJxのゲートバイアス電圧(Vo)は、そのFETJxに流れるドレイン電流Ixが所定の大きさとなるように可変制御される。このダミーFETJxは、RF増幅段をなすFETJ1,J2に対して、同種のFETであって、チャネル長が等しく、かつチャネル幅が小さく形成されている。
【0062】したがって、ダミーFETJxに与えられるゲートバイアス電圧(Vo)を上記FETJ1,J2のゲートバイアス電圧(Vo)として与えることにより、上記FETJ1,J2には、ダミーFETJxに流れるドレイン電流Ixに対して常に一定の比例関係を持つドレイン電流がバイアス電流として流れるようになる。これにより、FETJ1,J2のゲートバイアス電圧(Vo)も、ダミーFETJxの場合と同様、そのFETJ1,J2に流れるドレインバイアス電流が所定の大きさとなるように可変制御される。このドレインバイアス電流の制御値は上記可変設定回路15により設定される。
【0063】このように、上述したRF電力増幅回路10では、増幅段11,12を構成するFETJ1,J2にゲートバイアス電圧(Vo)を与えるに際し、目的とするドレインバイアス電流を最初に設定することで、この設定したドレインバイアス電流が流れるようなゲートバイアス電圧が負帰還制御動作によって自己整合的に可変設定される。そして、そのドレインバイアス電流の設定は、上記可変設定回路15にて任意に行うことができる。
【0064】これにより、RF電力増幅回路10の増幅段11,12を構成するFETJ1,J2の特性に製造プロセスあるいは実装等の諸条件によるバラツキがあったとしても、そのFETJ1,J2に所定の増幅動作を行わせるのに最適なバイアス電圧(Vo)を、無調整でもって自己整合的に再現性良く設定することができる。
【0065】したがって、たとえば1GHz以上のマイクロ波領域での無線信号を用いる移動体通信端末装置の小型軽量化と電池での長時間動作化に有効であるとともに、生産適性を著しく低下させる個別の調整を必要することなく、単一電源の使用条件下でも安定かつ効率的なRF電力増幅を行わせることができる。
【0066】また、上述したRF電力増幅回路10を用いてCDMA方式の移動体通信端末装置を構成した場合、送信電力を最適化のために大幅に可変設定しても、それによって設定された送信電力に応じて常に最適化されたバイアス条件を自動的に与えるようにすることができる。
【0067】さらに、FETJ1,J2,Jxを同一半導体チップ上に熱的な結合状態で形成することにより、J1,J2とJxの互いの相似関係が一層緊密となり、これによりバイアス設定の精度をさらに高めることが可能となる。
【0068】図2は、図1に示したRF電力増幅回路10の動作特性を示す。
【0069】同図(A)(B)において、IdはFETJ1(J2)のドレイン電流、VgはそのFETJ1(J2)のゲートバイアス電圧を示す。
【0070】同図(A)は最大出力が得られるようにドレインバイアス電流Ioを設定した場合を示す。この場合、ドレインバイアス電流Ioは、ドレイン電流の線形変化領域のほぼ中心に設定される。ゲートバイアス電圧(Vo)は、上述したバイアス発生回路14にて行われる負帰還動作により、所定のドレインバイアス電流Ioが流れるように可変制御される。FETJ1(J2)は、そのドレインバイアス電流Ioが流れる中で入力信号を線型増幅する。
【0071】同図(B)はドレインバイアス電流Ioを小さく設定した場合を示す。この場合、ドレインバイアス電流Ioは、ドレイン電流の線形変化領域の中心をかなり下回ったところに設定される。これにより、線型増幅が行われるドレイン電流の振幅範囲は狭くなるが、低出力動作時においては、ドレインバイアス電流Ioが小さいことによる消費電力の削減が可能となる。この場合も、ゲートバイアス電圧(Vo)は、上述したバイアス発生回路14にて行われる負帰還動作により、小さく設定されたドレインバイアス電流Ioが流れるように可変制御される。
【0072】ここで注目すべきことは、まずドレインバイアス電流Ioを設定することで、その設定したドレインバイアス電流Ioが流れるようなゲートバイアス電圧(Vo)が自動的に設定されることである。つまり、通常はゲートバイアスの結果として現れるドレインバイアス電流Ioを、ここではそのゲートバイアスを意識することなく、いきなり設定することができる。これにより、線型増幅動作を行わせるのに必要最小限のドレインバイアス電流Ioをきめ細かく設定して、必要以上のバイアス電流を流し続ける無駄を回避することが可能となる。
【0073】図3は、図1のバイアス発生回路14付近に着目したRF電力増幅回路10の詳細回路図を示す。
【0074】同図において、可変電圧発生回路17は、発振回路171、可変利得回路(VCA)172、チャージポンプ回路173により構成される。チャージポンプ回路173は、受動素子である容量素子C1,C2とダイオードD1,D2により構成される。発振回路171の発振出力は可変利得回路172を介してチャージポンプ回路173に与えられる。
【0075】チャージポンプ回路173では、発振回路171から可変利得回路172を介して出力されるパルス電流を、ダイオードD1,D2で電流方向別にスイッチングしてC1,C2に流すことにより、容量素子C1に負電圧をチャージさせる。このC1にチャージされた負電圧がゲートバイアス電圧(Vo)として出力され、FETJx,J1,J2の各ゲートに分配される。
【0076】C2にチャージされる負電圧(Vo)の大きさは、可変利得回路172の伝達利得によって変化する。可変利得回路172の伝達利得は、ダミーFETJ1のドレイン電流Ixを所定の設定値(Vr)と比較する比較回路16の出力によって可変制御される。これにより、上記ゲートバイアス電圧(Vo)は、FETJx,J1,J2にそれぞれ所定のドレイン電流が流れるような大きさに負帰還制御される。可変利得回路172は、たとえばMOSトランジスタによる可変抵抗減衰回路を使うことができる。
【0077】抵抗R4は、容量素子C1に並列に接続してC1の放電回路を形成することにより、上記ゲートバイアス電圧(Vo)の立ち下がり応答を速くする。
【0078】この場合、能動回路である発振回路171と可変利得回路172は共に正電源電圧(Vdd)で動作する回路で構成されている。これにより、負電圧の可変制御を正電圧系のシステムおよび回路によって簡単かつ円滑に行わせることができる。
【0079】上記ゲートバイアス電圧(Vo)は、可変設定回路15によって設定されるドレイン電流が流れるように負帰還制御される。したがって、受信信号の電界強度あるいは無線通信相手局からフィードバックされてくる自局送信電波の電界強度情報に応じて送信電力の最適化制御を行うに際し、その制御に連動して上記可変設定回路15の設定値も最適化制御すれば、どのような送信電力でも常に、最小限の消費電力でもって線型動作による電力増幅を行わせることができる。
【0080】図4は、本発明で使用するFETJx,J1,J2のレイアウトパターンを模式的に示す。
【0081】同図において、GはFETのゲート電極パターン、Lはそのチャネル長、Wはそのチャネル幅をそれぞれ示す。同図に示すように、バイアス発生回路14のダミーFETJxは、RF電力増幅段11,12のFETJ1,J2に対して、同一半導体チップ上に熱的な結合状態で形成されるとともに、チャネル長Lが等しく、かつチャネル幅が小さく形成されている。
【0082】このように、FETJ1,J2,Jxを同一半導体チップ上に熱的な結合状態で形成することにより、J1,J2とJxの互いの相似関係が一層緊密となり、これによりバイアス設定の精度をさらに高めることができる。
【0083】図5は、可変設定回路15に用いられる可変電圧源151の構成例を示す。
【0084】同図に示す可変電圧源151は、固定抵抗R5と可変抵抗回路R6による分圧回路によって構成されている。可変抵抗回路R6は、複数の抵抗素子r1〜r4をそれぞれスイッチ回路S1〜S4を介して選択的に並列接続させるようにしたもので、各スイッチS1〜S4はそれぞれ、外部(論理制御ユニット60)から与えられるデジタル制御信号によって個別にオン/オフ設定されるようになっている。これにより、複数の抵抗素子r1〜r4の任意の組合わせによる合成抵抗を電気的に可変設定することができる。
【0085】図6は、バイアス発生回路14の別の構成例を示す。
【0086】同図に示すバイアス発生回路14は、ダミーFETJxのドレインに電流を供給するドレイン負荷抵抗R3と、この抵抗R3から供給される電流Ixの一部を上記ドレインの外へ分流させる分流抵抗R9を有するとともに、この分流抵抗R9を電気的に可変設定可能な抵抗を用いて形成してある。
【0087】上記ダミーFETJxのドレイン電圧Vxは、比較回路16にて所定の設定電圧Vrと比較され、この比較出力で可変電圧制御回路14を制御する。これにより、上記ダミーFETJxのドレイン電圧Vxが所定の設定電圧Vrとなるような負帰還制御が行われる。
【0088】この場合、比較回路16の基準電圧Vrには、電源電圧(Vdd)を抵抗R7,R8で分割して得られる一定電圧が使用される。Jxのドレイン電流Vxは分流抵抗R9を流れる電流Ix2の大きさによって設定される。
【0089】分流抵抗R9は、複数の抵抗素子r1〜r4をそれぞれスイッチ回路S1〜S4を介して選択的に並列接続させる可変抵抗回路で構成されている。この可変抵抗回路の各スイッチS1〜S4を外部(論理制御ユニット60)から与えられるデジタル制御信号によって個別にオン/オフ設定することにより、ダミーFETJxのドレイン電流Ix1を可変設定することができる。このようにしてダミーFETJxに所定のドレイン電流Ix1を流すように負帰還制御されるバイアス電圧(Vo)により、増幅段11,12のFETJ1,J2を所定のドレインバイアス電流下で精度良く線型動作させることができる。
【0090】以上、本発明者によってなされた発明を実施態様にもとづき具体的に説明したが、本発明は上記実施態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0091】たとえば、ドレインバイアス電流Ioを可変設定する手段は、ダミーFETJxのチャネル幅を可変設定する切換手段を備えることによっても実現できる。すなわち、Jxのチャネル幅を切換可変することで、JxとJ1のドレイン電流比、およびJxとJ2間のドレイン電流比を任意に可変設定することができるようになる。
【0092】また、ドレイン電流検出手段として用いるダミーFETはその直流動作点に影響が発生しない範囲で小信号増幅回路としても兼用させることができる。
【0093】以上の説明では主として、本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野である携帯電話端末に適用した場合について説明したが、それに限定されるものではなく、たとえば太陽電池などで電源バックアップされるPHS基地局、あるいは無線ビーコン発信装置などにも適用できる。
【0094】
【発明の効果】 本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
【0095】すなわち、たとえば1GHz以上のマイクロ波領域での無線信号を用いる移動体通信端末装置の小型軽量化と電池での長時間動作化に有効であるとともに、生産適性を著しく低下させる個別の調整を必要することなく、単一電源の使用条件下でも安定かつ効率的なRF電力増幅が可能になる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の技術が適用された移動体通信端末装置の概要を示す回路図
【図2】本発明の技術が適用されたRF電力増幅回路の動作特性を示す図
【図3】本発明によるRF電力増幅回路の詳細回路例を示す図
【図4】本発明で使用するFETのレイアウトパターンを模式的に示す図
【図5】バイアス設定を行う可変電圧源の構成例を示す図
【図6】バイアス発生回路の別の構成例を示す図
【符号の説明】
10 RF電力増幅回路
J1,J2 第1のFET
11 多段RF電力増幅回路の終段
12 多段RF電力増幅回路の前段
13 出力整合回路
14 バイアス発生回路
Jx 第2のFET(ダミーFET)
15 可変設定回路
151 可変電圧源
16 比較回路
17 可変電圧発生回路
171 発振回路
172 可変利得回路
173 チャージポンプ回路
18 負帰還回路
Rx,R1〜R9 抵抗
Cp,C1,C2 容量素子
D1,D2 ダイオード
20 RF受信プリアンプ
31 分波器(またはアンテナ切換器)
32 無線送受信アンテナ
41 送信側周波数変換回路(アップバータ)
42 受信側周波数変換回路(ダウンバータ)
43 周波数合成回路
50 ベースバンドユニット
60 論理制御ユニット
61 操作パネル
62 ヘッドセット
70 内蔵電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ソース接地されデプレッション動作によりRF電力増幅を行なう第1のFETと、第1のFETと同種のFETであってチャネル長が等しくかつチャネル幅が小さく形成された第2のFETと、該第2のFETのドレイン電圧と基準電圧との差分を増幅して出力する電圧比較回路と、該電圧比較回路の出力に基づき、正電源電圧から負電圧を発生して上記第1のFETおよび第2のFETの各ゲートに負バイアス電圧を分配する可変電圧発生回路と、上記第1のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第1の抵抗と、上記第2のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第2の抵抗と、上記可変電圧発生回路の出力電圧を上記第2のFETのゲートに上記第2の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与え、上記ドレイン電圧が上記基準電圧と等しくなるような帰還制御を、上記第1のFETのゲートと上記第2のFETのゲートとの間が互いに交流的に遮断された状態で行なうことにより、上記第2のFETのドレイン電流が所定の設定値となるように上記可変電圧発生回路を制御する負帰還回路とを具備してなり、上記負帰還回路を形成する上記可変電圧発生回路の出力電圧が上記第1のFETのゲートに上記第1の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与えられるように構成されていることを特徴とするRF電力増幅回路。
【請求項2】 上記第1のFETは線型増幅回路を形成することを特徴とする請求項1に記載のRF電力増幅回路。
【請求項3】 上記第1のFETと上記第2のFET同一半導体チップ上に熱的な結合状態で形成されていことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のRF電力増幅回路。
【請求項4】 上記負帰還回路によって制御される上記第2のFETのドレイン電流値を外部からの信号に応じて設定する可変設定回路を具備することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のRF電力増幅回路。
【請求項5】 ソース接地されデプレッション動作によりRF電力増幅を行なう第1のFETと、第1のFETと同種のFETであってチャネル長が等しくかつチャネル幅が小さく形成された第2のFETと、該第2のFETのドレイン電圧と基準電圧との差分を増幅して出力する電圧比較回路と、該電圧比較回路の出力に基づき、正電源電圧から負電圧を発生して上記第1のFETおよび第2のFETの各ゲートに負バイアス電圧を分配する可変電圧発生回路と、上記第1のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第1の抵抗と、上記第2のFETのゲートと上記可変電圧発生回路の出力側との間に直列に接続された第2の抵抗と、上記可変電圧発生回路の出力電圧を上記第2のFETのゲートに上記第2の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与え、上記ドレイン電圧が上記基準電圧と等しくなるような帰還制御を、上記第1のFETのゲートと上記第2のFETのゲートとの間が互いに交流的に遮断された状態で行なうことにより、上記第2のFETのドレイン電流が所定の設定値となるように上記可変電圧発生回路を制御する負帰還回路とを有するとともに、上記負帰還回路を形成する上記可変電圧発生回路の出力電圧が上記第1のFETのゲートに上記第1の抵抗を直列に介してバイアス電圧として与えられるように構成さ、送信出力に応じて上記設定値を可変制御する制御手段を具備することを特徴とする移動体通信端末装置。

【図2】
image rotate


【図1】
image rotate


【図3】
image rotate


【図5】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【特許番号】特許第3517766号(P3517766)
【登録日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【発行日】平成16年4月12日(2004.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−35903
【出願日】平成9年2月20日(1997.2.20)
【公開番号】特開平10−233633
【公開日】平成10年9月2日(1998.9.2)
【審査請求日】平成15年2月27日(2003.2.27)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【参考文献】
【文献】特開 平2−90707(JP,A)
【文献】特開 平5−152978(JP,A)