説明

RFIDタグ

【課題】金属製コンテナ壁面等の金属物体上に設置した場合にも十分な通信距離を確保できるRFIDタグを提供する。
【解決手段】RFIDタグ1は、アンテナ層2、電気絶縁スペーサ層3、軟磁性粉末を有機結合材に混入して形成される磁性材からなる電波吸収層4、および金属の薄膜からなる電波反射層5をこの順に積層してなり、アンテナ層2はリーダライタに対し返信波を発するアンテナ22を備えており、電波反射層5は返信波のうち当該電波反射層5へ向かったものを電波吸収層4へ向けて反射するものであり、かつ電波吸収層4は電波反射層5で反射されて至った電波を減衰吸収するものである。電波反射層5は金属物体6に接合される。電波反射層5としては金属薄膜が使用でき、金属薄膜としては銅材ないしアルミニウム材の薄膜が使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はRFID(Radio Frequency Identification)タグに関し、特に、金属製のコンテナ壁面等の金属物品(以下、金属物品には、金属単体以外に金属を含有する物品も含む)に設置した場合にも十分に長い通信距離を確保できるUHF帯のRFIDタグに関する。
【背景技術】
【0002】
RFIDタグは無線通信を利用して、これを付した物品に接触することなくリーダライタによって物品情報を得ることができるもので、従来の接触式バーコードに代わるものとして注目されている。かかるRFIDタグを使用した通信システムの概略は以下の通りである。すなわち、コンピュータ等の上位システムから指令を受けたリーダライタが上記タグに対して要求信号を出力する。リーダライタからの要求信号を受信可能なエリア(無線フィールド)内に入ったタグに、リーダライタからの電力が供給され(パッシブ型の場合)、タグはリーダライタの要求信号に対応する自身のIDデータを出力する。リーダライタはタグからのIDデータを受信し、これをコンピュータに送信する。コンピュータは送信されたIDデータを照合して特定の操作を実行する。なお、以下の明細書中においては、リーダライタから出力される要求信号を含む電波を送信波といい、タグから出力されるIDデータを含む電波を返信波という。このようなRFIDタグの中でUHF帯を使用したものはその波長が身の回りの物品の大きさと近いために物品背後への電波の回り込みにより通信距離を確保するのに有利である。
【0003】
しかし、一方では、こうしたRFIDタグを鉄製コンテナ壁面等の金属物品に直接設置するなど、磁性金属に近接させると、その影響を受けて作動しない。この問題に対応するため、アンテナと金属物品との間にスペーサを設け、金属物品から一定距離隔てることで、その影響を緩和する方法が採られているが、これではタグ全体の厚みが増してしまう。そこで、特許文献1では、アンテナと金属物品との間に軟磁性層を介在させて、金属の影響を軟磁性層によって緩和することが提案されている。
【特許文献1】特開2005−309811号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記提案のRFIDタグは、磁性金属物品上に設置した場合にも通信が可能にはなるものの、その通信距離は未だ十分ではないという問題があった。その理由は、図7に示すように、リーダライタ8からの送信波Sdに応答してアンテナ層71のアンテナから発せられた返信波はリーダライタへ向かうものSr1以外にその一部Sr2が金属物品6方向へも向かう。スペーサ層72を経て軟磁性層73に至った返信波Sr2は一部がここで吸収されるものの、残部が金属物品6内に入射して磁路Mpを形成し、再び金属物品6表面から放射され(以下、放射電波Rwという)、この放射電波Rwがリーダライタ方向へ向かう。これがアンテナからリーダライタ方向へ向かった返信波Sr1に混入して通信距離を低下させるのである。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、金属製コンテナ壁面等の金属物品上に設置した場合にも十分な通信距離を確保できるRFIDタグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のRFIDタグ(1)では、アンテナ層(2)、電気絶縁スペーサ層(3)、軟磁性粉末を有機結合材に混入して形成される磁性材からなる電波吸収層(4)、および金属の薄膜からなる電波反射層(5)をこの順に積層してなり、アンテナ層(2)はリーダライタに対し返信波を発するアンテナ(22)を備えており、電波反射層(5)は返信波のうち当該電波反射層(5)へ向かったものを電波吸収層(4)へ向けて反射するものであり、かつ電波吸収層(4)は電波反射層(5)で反射されて至った電波を減衰吸収するものである。上記電波反射層としては金属薄膜が使用できる。金属薄膜としては銅材ないしアルミニウム材の薄膜が好ましい。なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0007】
上記構成のRFIDタグは電波反射層側を金属物品に接合して使用される。リーダライタに対してアンテナ層のアンテナから発せられた返信波のうち金属物品方向へ向かったものは電波吸収層で一部が減衰吸収されつつ電波反射層へ入射して金属物品に入射することなく反射される。電波反射層で反射された反射波は再び電波吸収層に入射してここで減衰吸収される。このようにして、本発明によれば、アンテナから発射された返信波のうち、RFIDタグが設置される金属物品に向かったものが、当該金属物品に入射することがない。したがって、金属物品内での磁路形成による放射電波を生じることはなく、リーダライタに向かう返信波が放射電波の影響を受けて通信可能距離が短くなるという問題は生じない。
【0008】
上記金属物品がアルミ等の非磁性金属の場合は、従来のような例えばアンテナ層、スペーサ層、軟磁性層を積層した構造のRFIDタグを使用しても、金属物品表面に到達した返信波は当該表面で反射されて軟磁性層で吸収されるから、金属物品内へ入射して磁路を形成し放射電波を発するという問題は生じない。ところが非磁性金属物品の場合であっても、その表面に凹凸があると、これに入射した返信波が乱反射されることによってやはり放射電波を生じる。ここにおいて本発明によれば、電波反射層を設けたことにより、返信波が金属物品に入射するのが阻止されるから、リーダライタに向かう返信波が金属物品からの放射電波の影響を受けて通信可能距離が短くなるという問題は生じない。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明のRFIDタグによれば、金属製コンテナ壁面等の金属物品上に設置した場合にも十分な通信距離を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
RFIDタグを構成するアンテナ層は絶縁性樹脂フィルム上に蒸着、スパッタ、型抜き、メッキ、印刷やエッチングによって銅材、銀ペースト(印刷インキ)あるいはアルミ材のアンテナを形成するとともに、ICチップを搭載したもので、ICチップには識別情報等を記憶したメモリ回路や、パッシブ型の場合には電源用整流回路等が備えられる。このアンテナ層は25μm程度の厚みで形成される。
【0011】
電気絶縁スペーサ層はゴムシートや発泡体で構成することができる。ここで、発泡体は、誘電率を1に近い値まで小さくでき、透磁率を十分に大きくできるから好ましい。発泡体の基材としてはポリスチレン、ウレタン、炭酸カルシウム等が使用できる。この電気絶縁スペーサ層の厚みは0.3〜0.5mm程度とする。0.3mmより薄いと後述する電波吸収層の影響がアンテナ層に及んでリーダライタに対する返信波が弱められ、通信距離が短くなってしまう。一方、0.5mmよりも厚くするとタグの全体厚が厚くなって好ましくない。
【0012】
電波吸収層はFe−Si系、Fe−Si−Cr系、Fe−Cr系等の軟磁性材の金属粉末を樹脂材ないしゴム材に混入させてシート状にすることにより実現される。金属粉末は、アトマイズにより生成された粉粒をアトライターボールミル等で偏平化処理して、平均粒径D50が30μmとなるように分級して得る。このような金属粉末をさらに焼鈍処理した後、酸化膜等の非良導性皮膜で覆ったものが好ましい。このような金属粉末をゴム材等と混合してニーダーで混練し、シート状に圧延した後、加熱架橋させることによって電波吸収層を得ることができる。この電波吸収層の複素透磁率は、通信周波数の950MHzにおいて、その実数部μ´が10より大きく、磁気損失項の虚数部μ´´が10より小さいものである必要がある。電波吸収に寄与するのは虚数部μ´´であるから、この値は大きい方が好ましいが、この値が10以上になると、電波吸収層の影響がアンテナ層に及んでリーダライタに対する返信波そのものが弱められ、通信距離が短くなってしまうからである。一方、返信波の強度を維持するには上記実数部μ´の値は10より大きくしておく必要がある。
【0013】
電波反射層は導電率の大きい金属薄膜で構成することができる。金属薄膜としては、銅材やアルミ材、あるいは鉄材等が使用できる。ここで、鉄材は磁性材であるからRFIDタグ全体のインダクタンスが変化し、アンテナの共振点がずれる可能性がある。この場合にはアンテナ層のアンテナ形状を変更してそのリアクタンス(L成分)を調整することにより上記共振点のずれを修正することができる。電波反射層の厚みは0.01〜0.1mmとする。0.01mmより薄いと電波反射の効果が小さくなり、一方、0.1mm以上にしても電波反射の効果は変わらない上にRFIDタグ全体の厚みが増すから好ましくない。
【0014】
上記アンテナ層、電気絶縁スペーサ層、電波吸収層、および電波反射層をこの順に積層して構成されるRFIDタグは全体の厚みを2mm以下と十分薄くできるとともに、湾曲させて使用することができるから設置場所が限定されない。
【実施例】
【0015】
図1にパッシブ型RFIDタグ1の断面図を示し、図2にはその平面図を示す。RFIDタグ1は直方体状に成形されており、最上層がアンテナ層2となっている。当該アンテナ層2は長方形のPET樹脂フィルムの中間位置に識別情報を備えたICチップ21が搭載され、当該ICチップ21の両側にダイポールアンテナ22が印刷等によって延伸形成されて、全体がPET樹脂フィルムでラミネートされている。このアンテナ層2は厚みが20μmである。
【0016】
アンテナ層2の下面には電気絶縁スペーサ層3が接着剤で接合されている。当該スペーサ層3はウレタンの発泡体であり、その厚みは0.5mmである。
【0017】
電気絶縁スペーサ層3の下面には電波吸収層4が接着剤で接合されている。電波吸収層4は平均粒径D50が30μm、アスペクト比が20のFe−13Crの軟磁性材粉末を塩素化ポリエチレンに含有させたものである。混合割合は軟磁性材粉末を約55体積%、塩素化ポリエチレンを約45体積%とし、これに架橋材、架橋助材を適量添加して、カレンダー圧延によりシート化する。その複素透磁率は通信周波数の950MHz帯において、実数部μ´が11、虚数部μ´´が7であった。電波吸収層4の厚みは0.5mmとした。
【0018】
電波吸収層4の下面に電波反射層5が接着剤で接合されている。電波反射層5は銅の薄膜で、その厚みは60μmとした。
【0019】
以上の構造のRFIDタグ1の電波反射層5を、滑らかな表面(表面最大高さRmax100μm)の鉄製の金属物品6上に接着剤で接合して950MHzのUHF帯で通信試験を行った。この試験は、電波暗室内でリーダライタ(NECトーキン製 ICT−5055)と上記タグ1を所定距離離して設置し、上記タグ1を0.1m単位で移動させてこれとリーダライタとの間の通信が可能か否かを判定した。なお、リーダライタにはパーソナルコンピュータ(PC)が接続されており、当該PC上で通信強度を判定するソフトウエアを起動して上記判定を行った。試験結果を図3に示す。電波反射層5を設けた本発明のRFIDタグ1では、通信可能距離は6mに達している(図中X)。これに対して、本実施例と同様のアンテナ層2、電気絶縁スペーサ層3、電波吸収層4のみを設け、60μmの上記電波反射層5を設けていないRFIDタグでは、金属物品6からの放射電波の影響を受けて通信可能距離は5.3m程度に短くなる(図中Y)という結果が得られた。これは、電波反射層5を設けた本実施形態のタグでは、アンテナ層2のアンテナから発せられた返信波のうち金属物品6方向へ向かったものが電波反射層5で全て反射されて金属物品6に入射しないから当該物品6内での磁路形成による放射電波が生じず、返信波が放射電波の影響を受けない。これに対して、電波反射層5が無いと、金属物品6方向へ向かった返信波の一部が当該物品6内に入射して磁路を形成し、放射電波を生じて、これが返信波に混入して通信可能距離を低下させるのである。
【0020】
次に、上記と同様のタグ(電波反射層5を設けた本実施例のものと、電波反射層5を設けていないもの)を準備し、これらを滑らかな表面のアルミ製の金属物品6に貼り付け、同様に通信試験を行った。その結果を図4に示す。図示するように、電波反射層5を設けたRFIDタグ1(図4のX)と設けないもの(図4のY)とで通信距離はいずれも6mと有意差は生じなかった。これは、アルミ製の金属物品6は非磁性金属であるため、その表面が滑らかであると、送信波がその表面に到達しても内部に進入することなく反射され、電波吸収層4で吸収されるためである。
【0021】
これに対し、上記と同様のタグを、図5に示すような表面に凹凸を形成したアルミ製金属物品6上に設置して同様の通信試験を行った結果を図6に示す。なお、上記金属物品6として凹凸の表面最大高さRmaxが500μmのものを使用した。図6に示すように、電波反射層5を設けた本実施形態のRFIDタグ1では通信可能距離は6mを維持している(図中X)のに対して、電波反射層5を設けないものでは、通信可能距離は4.6m程度に短くなる(図中Y)という結果が得られた。これは、金属物品6の凹凸面での乱反射により放射電波が生じ、これが返信波に混入して通信可能距離を低下させるためであると考えられる。
【0022】
以上のように、本実施例のRFIDタグ1は、アンテナ層2、電気絶縁スペーサ層3、電波吸収層4、電波反射層5をこの順に接着した構造で、電波反射層5を金属物品6に接着することによって当該金属物品6に取り付けられる。このような構造によれば、アンテナ層2のアンテナ22から発射された返信波のうち金属物品6方向へ向かったものは電波反射層5で反射されて、金属物品6内に入射することなく電波吸収層4で減衰吸収される。したがって、金属物品6が鉄等の磁性体である場合に、これに入射した返信波が当該金属物品6内に磁路を形成し、放射電波としてリーダライタ方向へ向かって、返信波に混入し通信距離を低下させるという問題は生じず、リーダライタとの間で十分な通信距離を確保することができる。一方、金属物品6がアルミ等の非磁性体である場合にも、その表面に凹凸があると、電波反射層5を備えていない構造のタグでは、入射した返信波が乱反射されてやはり放射電波を生じる。この場合にも、本実施例のRFIDタグ1によれば、電波反射層5によって返信波が金属物品6の表面に入射するのが防止されるから、乱反射により生じた放射電波がリーダライタ方向へ向かって返信波に混入し通信距離を低下させるという問題は生じず、リーダライタとの間で十分な通信距離を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例を示す鉄製金属物品上に設けたRFIDタグの概念的断面図である。
【図2】RFIDタグの概念的平面図である。
【図3】RFIDタグを鉄製金属物品上に設けた場合の、電波反射層の有無による通信可能距離を比較した図である。
【図4】RFIDタグをアルミ製金属物品上に設けた場合の、電波反射層の有無による通信可能距離を比較した図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す、凹凸のあるアルミ製金属物品上に設けたRFIDタグの概念的断面図である。
【図6】RFIDタグを凹凸のあるアルミ製金属物品上に設けた場合の、電波反射層の有無による通信可能距離を比較した図である。
【図7】鉄製金属物品上に設けた従来のRFIDタグの概念的断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1…RFIDタグ、2…アンテナ層、21…ICチップ、22…ダイポールアンテナ、3…スペーサ層、4…電波吸収層、5…電波反射層、6…金属物品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ層、電気絶縁スペーサ層、軟磁性粉末を有機結合材に混入して形成される磁性材からなる電波吸収層、および金属の薄膜からなる電波反射層をこの順に積層してなり、前記アンテナ層はリーダライタに対し返信波を発するアンテナを備えており、前記電波反射層は前記返信波のうち当該電波反射層へ向かったものを前記電波吸収層へ向けて反射するものであり、かつ前記電波吸収層は前記電波反射層で反射されて至った電波を減衰吸収するものであることを特徴とするRFIDタグ。
【請求項2】
前記金属薄膜は銅材ないしアルミニウム材の薄膜である請求項1に記載のRFIDタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−72957(P2010−72957A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239836(P2008−239836)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】