説明

RNAに基づくウイルスベクター系を提供するペスチウイルスレプリコン

本発明は、複製能を欠損するように操作され、それにより、感染性を欠如し、さらに、外来遺伝子を含むようになったペスチウイルスのレプリコン、特に、ブタコレラウイルスのレプリコンに関する。本発明のレプリコンは、その複製に必要とされる全ての遺伝情報を含むが、ウイルス構造タンパク質E1、E2、Erns又はCタンパク質をコードする遺伝子のうちの少なくとも一つの必須のコドン又は全てのコドンを欠如し、その結果、感染性のウイルス粒子を作製できない。細胞におけるインターフェロン誘導経路をもはや制御し得ない修飾Nproタンパク質をコードする変異遺伝子を用いて、特定のレプリコンが作製される。別の特定のレプリコンは、全ての構造タンパク質、p7タンパク質及びNS2タンパク質をコードする遺伝子を欠いており、且つ、形質導入細胞中で細胞病原性を有する。本発明のレプリコンは、裸のRNA又は任意の形態の送達ビヒクル中にパッケージされたRNAとして、哺乳類(例えば、ヒト)において、ワクチン接種、遺伝子送達及び遺伝子治療用途のために使用し得る新規なベクター系を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性ウイルス粒子を形成する能力を欠如するように操作され、さらに、外来遺伝子を含むようになったペスチウイルスのレプリコン、特に、ブタコレラウイルスのレプリコンに関する。これらのレプリコンは、裸のRNAとして、又は、適当な微粒子送達ビヒクル中にパッケージされたRNA(例えば、ペスチウイルス中に入れられたレプリコン)として、哺乳類(例えば、ヒト)において、ワクチン接種、遺伝子送達及び遺伝子治療用途のために使用し得る新規なベクター系を提供する。
【背景技術】
【0002】
ブタコレラウイルス(CSFV)
ブタコレラウイルス(CSFV)は、ブタ及びイノシシにおける、感染性の高い疾患の原因物質であるが、ヒトに対しては全く無害である。CSFVは、ウシウイルス性下痢症ウイルス及びヒツジのボーダー病ウイルスと共に、フラビウイルス科のペスチウイルス属に属する。フラビウイルス科に属する他のものとしては、フラビウイルス属(原型:黄熱病ウイルス)及びヘパシウイルス属(C型肝炎ウイルス)である。
【0003】
ペスチウイルスは、5’及び3’非翻訳領域に隣接する1つの大きなオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、正の極性を有する一本鎖の12.3kbのRNAゲノムを含む、小さなエンベロープを有するウイルスである。このORFは、NH−Npro−C−Erns−E1−E2−p7−NS2−NS3−NS4A−NS4B−NS5A−NS5B−COOH(図1A)の順番で、4つの構造タンパク質及び8つの非構造(NS)タンパク質から構成されるポリタンパク質をコードする。ビリオンの構造要素には、キャプシドタンパク質Cと、3つのエンベロープ糖タンパク質Erns、E1、及びE2を含む。リーダー自己タンパク質分解酵素Npro並びにErns(リボヌクレアーゼ活性を有する糖タンパク質であり、共に分泌され、ウイルスに付随する)は、ペスチウイルス属に固有である。Nproは、ウイルスの複製には必要とされないアクセサリータンパク質ではあるが、生来の免疫反応を干渉するその能力により、ウイルスの病原性における役割を有すると考えられている。さらに、Nproは、自分自身を切断して、新生ウイルスポリタンパク質を生成し、それによって、キャプシドタンパク質Cのアミノ末端を生成する自己タンパク質分解酵素である。タンパク質NS3〜NS5Bは、ウイルスRNAの複製のためには十分であり、RNA複製複合体を形成すると考えられる。切断されないNS2−NS3並びにp7は、ウイルス粒子形成のために必要である。
【0004】
RNAウイルスのゲノムの操作は、対応するcDNAクローンが、好ましくは、プラスミド中に挿入され、細菌細胞中で遺伝情報の安定的伝搬が利用可能な場合にのみ可能である。これらのクローンは、ウイルスRNAが複製し、最終的に、感染性ウイルスの生成をもたらす感受性細胞中へとトランスフェクトし得る真正の感染性ウイルスRNAのインビトロ転写を可能にするように設計される。過去15年間以上にわたり、フラビウイルス科の多くのウイルス(例えば、ペスチウイルス)のためのcDNAクローンが確立されてきた。
【0005】
ペスチウイルスcDNAクローンの開発に続き、安定的に挿入されたクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を伴うAlfort/187株(Ruggliら,J Virol 70,3478−3487,1996)由来の組み換えCSFVが作製され(Moserら,J Virol 72,5318−5322,1998)、ウイルス複製に影響を与えることなく、外来遺伝子を、Nproタンパク質と融合させて発現させ得ることが示された。また、CSFV中の全Npro遺伝子をマウスユビキチン遺伝子と置換することは、ウイルスの複製能を損なわなかった(Tratschinら,J Virol 72,7681−7684,1998)。
【0006】
CSFVレプリコン
定義により、レプリコンとは、宿主細胞中で自律的に複製する分子を表す。したがって、標準的なCSFVの全長RNAゲノムは、原型CSFVレプリコンである。操作されたCSFVのcDNAを用いた研究が、RNA複製のために必要とされるウイルスタンパク質を決定するために行われた。これにより、複製複合体が、5つのタンパク質NS3、NS4A、NS4B、NS5A、及びNS5Bから構成されることが結論付けられた。上記研究後、構造タンパク質、C、Erns、E1、又はE2のうちの1つのみ又は複数に対するコード配列を欠如する人工レプリコンを作製した(Freyら,Vet Res 37,655−70,2006)。かかるレプリコンは、ウイルスの欠如している構造タンパク質をそれぞれ構成的に発現する細胞系統において補完される必要があり、これにより、欠陥を有する(レプリコン)ゲノムを担持するウイルス粒子のレスキューを可能にする。これらの欠陥を有するCSFV粒子は、ウイルスレプリコン粒子(VRP)と呼ばれる。
【0007】
ワクチンとしてのCSFVレプリコン
VRPの形態のCSFVレプリコンを、ヒト又はその他の哺乳類に対するワクチン接種のためのベクターとしてではなく、ブタのCSFVに対する実験的ワクチンとして使用した。VRPは、ウイルス構造タンパク質をコードする遺伝子のうちの少なくとも1つ中に特定の欠失を有する、サブゲノムRNAを含む感染性ビリオンである。かかるRNAは、宿主細胞中で複製し、コードされたウイルスタンパク質を発現する。しかしながら、エンベロープタンパク質のうちの少なくとも1つの欠損によって、VRPは子孫VRPを生成できない。Erns又はE2遺伝子のいずれかを欠くゲノムを担持するVRPが、生弱毒化非伝染性CSFワクチンとして最近提案されている。VRPを非経口的にワクチン接種したブタに対する、伝染性の高いCSFVを用いた抗原投与接種によって、Erns遺伝子を欠如するVRPが防御的であり得ることが示されている(Freyら,Vet Res 37,655−70,2006)。これらのVRPワクチンが、液性免疫及び細胞性免疫の両方を誘導する能力を有することも知られている。
【0008】
今日使用されている多くのワクチンは、不活性化ウイルスに基づいており、これらは、細胞性の防御機構をほとんど又は全く発現させずに、液性免疫に有利に働く傾向がある。このことは、遊離ウイルス及びある程度ウイルスが感染した細胞を、抗体の作用によって除去することを可能にし得るが、抗体は、身体の全ての部分におけるウイルスと相互作用することはできない。小さな病巣のウイルス感染細胞の除去を確かにし得るのが細胞性免疫である。したがって、あるワクチンが、液性免疫及び細胞性免疫の両方を誘導し得る場合には、より確実な免疫防御の可能性が見込まれる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、感染性のウイルス粒子を形成する能力を欠如するように操作され(図1B〜1G)、さらに、外来遺伝子を含むようになったペスチウイルスのレプリコン、特に、ブタコレラウイルス(CSFV)のレプリコンに関する。このレプリコンは、哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)中にトランスフェクトした場合に、これらの細胞中で複製する能力を保持する。
【0010】
特に、このレプリコンは、ウイルス粒子を形成するために必要とされる1つ又はそれ以上の構造タンパク質をコードする必須のコドン又は全てのコドンを欠く。CSFVの構造タンパク質は、キャプシドタンパク質C並びに3つのエンベロープ糖タンパク質のErns、E1、及びE2である。しかしながら、対象となる任意の外来遺伝子の発現のために設計されたレプリコンは、哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)中でのその複製に必要とされる全ての遺伝情報を保持する。対象となる外来遺伝子は、外来タンパク質をコードする完全な遺伝子であっても、外来タンパク質の一部をコードするヌクレオチド配列であってもよい。外来遺伝子は、例えば、ウイルスコード配列、好ましくは、Npro遺伝子内の配列の、5’末端に、又は、バイシストロニックゲノムを構成している場合、Npro遺伝子の3’末端に挿入してもよい(図2B〜2E)。
【0011】
特定の形態のレプリコンは、さらに、Npro遺伝子中に変異コドン、例えば、Nproのアミノ酸位置112番におけるシステインからアルギニンへの置換(C112R)、又は、アミノ酸位置136番におけるアスパラギン酸からアスパラギンへの置換(D136N)を含み、その結果、コードされた変異体Nproタンパク質(図1及び2中、Npro’と記載する)は、I型インターフェロン(IFN)誘導を干渉する能力を喪失している。さらに特定の形態のレプリコンの場合は、I型IFN誘導を干渉し得るタンパク質をもはやコードしないレプリコンを作製するという同様の目的のために、Npro遺伝子は欠失されている(ΔNpro CSFVレプリコン)。
【0012】
さらに別の特定の形態のレプリコンは、非構造タンパク質NS2に対する必須のコドン、又は、さらなるヌクレオチドによって物理的に分離されているNS2及びNS3をコードする遺伝子を欠如しており、結果として、このレプリコンは細胞病原性である。特に、CからNS2までの全ての配列が欠如していてもよい(ΔC−NS2 CSFVレプリコン)(図1G)。細胞病原性の表現型は、細胞傷害性免疫防御の誘導に関して有利であり得ると言えよう。
【0013】
本発明のレプリコンは、裸のRNAとして、又は、適当な微粒子送達ビヒクルを伴うRNA(例えば、ペスチウイルス中にパッケージされたレプリコン)として、哺乳類(例えば、ヒト)において、ワクチン接種、遺伝子送達及び遺伝子治療用途のために使用し得る新規なベクター系を提供する。
【0014】
本発明はさらに、ペスチウイルスレプリコン単独、又は、ワクチンとしての用途価値を有する外来遺伝子をコードする適当な微粒子送達ビヒクルを伴うペスチウイルスレプリコンを含む医薬組成物に関する。したがって、本発明は、レプリコン単独、又は、適当な微粒子送達ビヒクルを伴うレプリコンを投与することによる、感染性物質により引き起こされる疾患の予防方法に関連し、この場合、レプリコン中に組み込まれている外来遺伝子は、感染性物質に対して免疫性を付与する遺伝子産物をコードする。
【0015】
さらに、本発明は、レプリコン単独、又は、適当な微粒子送達ビヒクルを伴うレプリコンを投与することによる、欠損遺伝子により引き起こされる疾患の治療方法に関連し、この場合、レプリコン中に組み込まれる外来遺伝子は、疾患に関連する機能性遺伝子である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】CSFV vA187−1の標準的な全長且つ欠陥を有するゲノム(レプリコン)の概略図。5’−及び3’−UTR(非翻訳領域)は、黒色の直線で表され、オープンリーディングフレームは、図示されるように、構造タンパク質及び非構造タンパク質をコードする個々のウイルス遺伝子から構成される四角形(灰色)として示され、非構造Nproタンパク質をコードする遺伝子は、黒色の四角形として示される。用語Npro’とは、コドンが変異しているNproタンパク質のことをいう。(A)標準的な全長CSFVゲノムの遺伝子配列の概略図。(B)〜(G)レプリコンの複製を損なうことなく、選択された遺伝子が欠失しているCSFVレプリコン構築物の例:(B)Erns遺伝子を欠如しているCSFVレプリコン(ΔErnsレプリコン);(C)E1遺伝子を欠如しているCSFVレプリコン(ΔE1レプリコン);(D)E2遺伝子を欠如しているCSFVレプリコン(ΔE2レプリコン);(E)C遺伝子を欠如しているCSFVレプリコン(ΔCレプリコン);(F)C、Erns、E1及びE2遺伝子を欠如しているCSFVレプリコン(ΔC−E2レプリコン);(G)C、Erns、E1、E2及びNS2遺伝子を欠如しているCSFVレプリコン(ΔC−NS2レプリコン−細胞病原性又はcpレプリコン)。
【図2】標準的な全長CSFV vA187−1ゲノムの概略図(A)、並びに、異種遺伝子(対象遺伝子「Gene of Interest(GoI)」)が、モノシストロニック構築物(B,D)及びバイシストロニック構築物(C,E)中に挿入されている、この構築物(B〜E)に由来する欠陥を有するゲノム(レプリコン)の例。色の濃淡及び用語は図1中の通りであり、GoIは、縞模様の四角形として示されている。モノシストロニック構築物の場合、これは、Npro遺伝子の5’末端に位置する最初の12ヌクレオチド中に配置されている。バイシストロニック構築物の場合、GoIは、Npro遺伝子の直ぐ下流に配置されている。バイシストロニック構築物のために必要とされるEMCV IRESは、挿入されたGoIの3’末端に黒色の実線として示されている。
【図3】ブタ及びヒトの細胞両方におけるIFN−α/β誘導の調節に対するCSFV Nproタンパク質の重要性。IFN−α/β誘導に対するCSFV又はCSFVレプリコンによる調節は、Nproタンパク質依存的であり、Npro遺伝子が、全長ウイルスゲノムから又はレプリコンから欠失している場合(vA187−ΔNpro)には、存在しない。IFN−α/β誘導に対するNpro−依存性調節はまた、2つの独立したアミノ酸変化(各構築物中、Npro(C112R)又はNpro(D136N))のいずれかによりノックアウトされ得る。(A)ブタ腎臓細胞PK−15細胞を、x軸に示されるように、偽感染(「M」)させ、又は、2 TCID50/細胞のMOIにて、CSFV vA187−1を用いて感染させ、又は、Npro遺伝子を欠如するvA187−1由来の変異体(vA187−ΔNpro)、若しくは、Nproのアミノ酸位置112番にシステインからアルギニンへの置換を有するvA187−1由来の変異体(vA187−ΔNpro(C112R))、若しくは、アミノ酸位置136番にアスパラギン酸からアスパラギンへの置換を有するvA187−1由来の変異体(vA187−ΔNpro(O136N))を用いて感染させた。I型インターフェロン(IFN−α/β)の生物活性を、定量のために、Mx/CATレポーター遺伝子アッセイ、及び、基準物質としてブタIFN−αを用いて、細胞培養上清中、1mlあたりの単位(y軸)として測定した。検出限界は、2U/mlである。(B)ヒト胎児腎細胞であるHEK293T細胞を、x軸に示されるように、3種類のプラスミド:ヒトIFN−βプロモーター活性に対して、ホタルルシフェラーゼレポータープラスミドp125Luc(Ruggliら,Virology 340,265−276,2005);(正規化のために)ウミシイタケルシフェラーゼの構成的発現に対して、プラスミドphRL−SV40(Promega);並びに、Npro(Npro)又は変異Npro(Npro(C112R)、Npro(D136N))タンパク質の発現に対するプラスミド、の混合物を用いて、2連のウェル中でトランスフェクトした。「C」とは、キャプシドタンパク質Cをコードする発現プラスミドを用いたトランスフェクションのことを指し、「V」とは、Nproの発現のために使用されるが、Npro遺伝子を欠如するプラスミドを用いたトランスフェクションのことを指す。IFN−βを誘導させるために、24時間後に、一方のウェルを、2x10個の細胞あたり、400ngのポリ(IC)を用いてさらにトランスフェクトし、もう一方のウェルを偽トランスフェクトした。18時間後に、誘導性ホタルルシフェラーゼ活性を、構成的に発現されるウミシイタケルシフェラーゼ活性を用いて正規化し、偽処理した細胞に対するポリ(IC)処理した細胞の相対誘導比(「I」)を計算した。結果は、標準偏差を表すエラーバーを有する3つの独立した誘導比の平均である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、感染性ウイルス粒子を形成する能力を欠如するように操作され、外来遺伝子をさらに含む、ペスチウイルスのレプリコン、特に、ブタコレラウイルスのレプリコンに関する。このレプリコンは、哺乳類細胞中に導入された時に、その細胞中で複製する能力を保持する。
【0018】
「レプリコン」は、宿主細胞中で自律的に複製する分子である。本発明の目的のための、「レプリコン」は、細胞中での複製のために必要とされる全てのヌクレオチドを含む、対応するウイルス(ペスチウイルスレプリコンの場合、ペスチウイルス)由来のRNAである。「由来する」とは、そのレプリコンが、ゲノムの非翻訳5’−及び3’−末端領域、並びに、対応するウイルスのNS3−NS4A−NS4B−NS5A−NS5Bをコードする領域の全てのヌクレオチドを依然として含むが、複製を干渉しないさらなるヌクレオチドを含んでもよいことを意味する。
【0019】
本発明のレプリコンは、ブタコレラウイルス(CSFV)に由来するのが好ましい。CSFVレプリコンは、それが、ヒトには感染しないか、さもなければ、ヒトには害を及ぼさない動物ウイルスに由来するという事実により、ヒトへ適用するための外来遺伝子物質の担体としての利点を提供する。RNA分子と同様に、それは、細胞の細胞質中では複製するが、核内では複製しない。したがって、ウイルスDNAの場合と同様に、それは、ヒト、又はその他の動物、又はそれらの細胞に対してリスクをもたらさない。さらに、本発明のレプリコンは、担持された外来遺伝子を、機能的に活性を有し、且つ、完全なタンパク質へと翻訳し得るが、感染性の子孫ウイルスを生成するために複製することはできず、さらに別の安全的成分が本発明のレプリコンによって提供される。翻訳されたタンパク質によって、レプリコンは、治療的又は予防的用途のために利用し得るタンパク質をコードする遺伝子を送達し得るという利点を提供する。さらに、送達された遺伝子は、免疫系によるプロセシングのために、タンパク質へと翻訳し得る。レプリコンは、免疫系の樹状細胞中で複製し、タンパク質を翻訳する。このことは、免疫反応の発現をもたらし、免疫系へのかかるタンパク質の提示に極めて重要である。したがって、本レプリコンは、ワクチンとしての高い可能性を提供し、かかるワクチンは、本発明の主題でもある。
【0020】
特定の例として、ルシフェラーゼ遺伝子又はインフルエンザウイルス赤血球凝集素遺伝子を担持する、ブタコレラウイルス由来の本発明のレプリコンが、ワクチン送達系としての用途で使用することができることが、以下、本明細書において示される。特定の例において、外来遺伝子物質は、Nproの自己タンパク質分解活性を維持するために、レプリコンのNpro遺伝子の5’末端近くに挿入される(すなわち、モノシストロニックレプリコンを作製する)。モノシストロニックレプリコンの翻訳時、対象となる外来タンパク質は、Nproポリペプチド中に組み込まれた融合タンパク質として合成される。或いは、外来遺伝子は、Npro遺伝子の直ぐ下流に挿入される。この場合、外来遺伝子に続いて、終止コドン、及び、EMC(脳心筋炎)ウイルス(EMCV)由来のIRES(内部リボソーム侵入部位)が並び、これにより、残りのウイルスポリタンパク質の翻訳が可能となる。したがって、このタイプのレプリコンは、バイシストロニックであり、第1のシストロンは、Npro遺伝子及び対象となる外来遺伝子から構成され、第2のシストロンは、レプリコンの残りの遺伝情報を担持する。バイシストロニックレプリコンの翻訳時、Nproの自己タンパク質分解活性によって、対象となる真正の外来タンパク質を生じる。
【0021】
特に、本発明のレプリコンは、感染性ウイルス粒子の形成に必要とされる構造タンパク質をコードする遺伝子中の必須のコドン又は全てのコドンを欠如する。かかる構造タンパク質は、キャプシドタンパク質Cと、3つのエンベロープ糖タンパク質Erns、E1、及びE2である。4つの構造タンパク質C、Erns、E1、及びE2のうちの1つのみが欠陥を有する又は欠如している可能性もあり、又は、2つ、3つ又は全ての構造タンパク質が欠陥を有する且つ/又は欠如している可能性もある。「必須のコドン」とは、かかるコドンが欠如している場合に、その結果、コードされたタンパク質が欠陥を有し、構造タンパク質として、特に、構造タンパク質C、Erns、E1、又はE2として機能することができないことを意味する。
【0022】
本発明のレプリコンは、外来遺伝子を担持する。「外来遺伝子」は、少なくとも8個のアミノ酸からなる、例えば、8〜2000個のアミノ酸、好ましくは、20個以上のアミノ酸、特に100個以上のアミノ酸からなる外来ポリペプチドをコードする完全な外来遺伝子又は外来ヌクレオチド配列である。「外来」とは、対応する遺伝子又はヌクレオチド配列が、ペスチウイルス中には見られないが、別の供給源から切り出され、レプリコン中に導入されるか、又は最初から構築されて、レプリコン中に導入されることを示す。特定の外来遺伝子の例は、治療タンパク質(例えば、インスリン等のホルモン類、GM−CSF1等のサイトカイン類、レチナールデヒドロゲナーゼ等の酵素類、TNF受容体等のサイトカイン受容体)、並びに、疾患を引き起こす感染性物質中に存在するタンパク質、特に、疾患を引き起こすウイルス(例えば、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全症ウイルスHIV、C型肝炎ウイルスHCV、B型肝炎ウイルスHBV、ハシカウイルス、呼吸器合胞体ウイルスRSV等)、細菌(例えば、ボルデテラ属、ボレリア属)、又は、寄生虫(例えば、プラスモジウム属)及び真菌(例えば、カンジダ・アルビカンス、アスペルギルス・フミガタス)等の表面タンパク質、並びに、毒素(例えば、破傷風トキソイド)をコードする遺伝子である。さらに、上記した物質の公知の免疫原性エピトープのいずれか、例えば、インフルエンザウイルスHA糖タンパク質、RSV F糖タンパク質、又はHCV E糖タンパク質の免疫優勢エピトープ、をコードするヌクレオチドを導入してもよい。
【0023】
外来遺伝子は、例えば、ウイルスのコード配列の5’末端、Npro遺伝子の5’末端の最初の12ヌクレオチド中、又は、Npro遺伝子の直ぐ下流に挿入してもよい。或いは、外来遺伝子は、ウイルスゲノムのその他の部位、例えば、3’NTRの開始部に挿入してもよい。図2中に示されるようにして挿入された外来遺伝子(対象遺伝子:Gene of Interest,「GoI」)を有するモノシストロニック及びバイシストロニックレプリコンが好ましい。しかしながら、本発明は、図2のΔErns又はΔC−NS2構築物には限定されない。対応するモノシストロニック及びバイシストロニック構築物ΔE1、ΔE2、ΔC及びΔC−E2(図1C〜F参照)、又は、構造遺伝子の部分的欠失を有する構築物、又は、構造遺伝子の欠失のその他の組み合わせを有する構築物についても意図される。
【0024】
バイシストロニックレプリコンは、Nproがそれ自体をそのカルボキシ末端で切断し、下流のタンパク質を分離するという能力によって、レプリコンから真正の外来タンパク質を合成できるという利点を提供する。融合タンパク質として外来配列が発現されるモノシストロニックレプリコンは、短いペプチド又は免疫原性の低いペプチドについて発現を考慮した時、有利であり得る。
【0025】
レプリコンは、I型インターフェロンの誘導経路を阻害するというその遺伝子産物の能力の点から見て活性形態又は不活性形態であるNpro遺伝子を担持するように構築する。この構成において、レプリコンは、Npro遺伝子を欠如していてもよく(ΔNpro CSFVレプリコン)、又は、例えば、Nproのアミノ酸位置112番における、システインからアルギニンへの置換(C112R)、若しくは、アミノ酸位置136番における、アスパラギン酸からアスパラギンへの置換(D136N)を導入することにより、変異したNpro遺伝子(図1及び2中ではNpro’と示される)を有していてもよい。後者の場合、各変異それ自体が、Npro遺伝子産物のその他の機能を変えることなく、I型インターフェロンの誘導経路を阻害するというNpro遺伝子産物の能力を無効にする。しかしながら、両位置におけるNpro遺伝子の変異は、Npro遺伝子産物のその他の機能に影響を与えることなく、復帰変異の可能性に関して、変異体の安定性をさらに増大させる。用途に応じて、不活性なNpro遺伝子産物を有するレプリコンが、抗ウイルス剤及び/又は免疫調節タンパク質としての機能の点から見て、I型インターフェロン誘導に関して価値を有することになる。かかる用途は、レプリコンの機能に関して、例えば、ワクチンとしての価値を有する。一方、治療物質をコードする遺伝子を送達するレプリコンが、I型インターフェロンを誘導しないことがより望ましい場合もある。かかるレプリコンのためには、コードされる治療物質が、I型インターフェロンの誘導に続く面倒な事態を伴うことなく、活性を有し得る、活性Nproが望ましい。
【0026】
特定の形態のレプリコンは、C〜NS2をコードする配列を欠如し(ΔC−NS2)、したがって、細胞病原性である。死にかけている細胞は、細胞傷害性防御の誘導に関して重要な働きである交差提示のために免疫系を特に引き付けることが示されているように、このことは有利である(Racanelliら,Immunity 20,47−58,2004)。1つ又はそれ以上の構造タンパク質遺伝子が存在するが、NS2タンパク質がもはや機能的でないように、NS2をコードする遺伝子が必須又は全てのコドンを欠如しているか、又は、NS2及びNS3をコードする遺伝子が、さらなるヌクレオチド、例えば、IRESによって物理的に分離している細胞病原性レプリコンを作製してもよい。
【0027】
対象となる任意の外来遺伝子の発現のために設計されたレプリコンは、哺乳類細胞中、特に、ヒト細胞中でのその複製に必要とされる全ての遺伝情報を保持する。このレプリコンは、宿主細胞の細胞質中で複製することから、宿主細胞の核の分裂の必要性、宿主ゲノム中への組み込み、又は、ワクチンとしてのDNAベクターの使用に伴うその他の望ましくない効果を回避する。このレプリコンは、治療的又は予防的用途のためのタンパク質への、挿入された異種遺伝子の翻訳を引き起こす。
【0028】
実施例中に記載される特定のレプリコンは、CSFV株Alfort/187のプラスミドcDNAクローンpA187−1に基づいている。プラスミドpA187−1は、ウイルスゲノム配列の直ぐ上流に、T7プロモーターと、ゲノム配列の3’末端に、固有のSrfl制限部位を含む。したがって、SrflによるプラスミドDNAの線条化、続くランオフ転写によって、真正のウイルスRNAの合成が可能となる。Ruggliら(J Virol 70,3478−87,1996)によって示されるように、このRNAは、ブタ腎細胞系統(例えば、SK−6細胞)中で試験したところ、感染性を有しており、細胞へのトランスフェクション後に、感染性の子孫ウイルスの合成を引き起こす。しかしながら、この公知のRNAは、外来遺伝子を担持せず、CSFV株Alfort/187の遺伝子のみをコードしている。
【0029】
本発明において、外来遺伝子がレプリコン中に導入される。レプリコンRNAは、意図される用途、すなわち、免疫反応の促進という観点から見た、免疫系の細胞中、特に樹状細胞中での複製能又は翻訳能について試験する。外来遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を担持する本発明のレプリコンは、実際、ブタ樹状細胞中へトランスフェクション後に、機能的ルシフェラーゼタンパク質を翻訳する。
【0030】
試験した本発明の特定のレプリコンは、4つのウイルス構造タンパク質C、Erns、E1若しくはE2のうちのいずれか1つをコードする配列を欠如するか、又は、4つのウイルス構造タンパク質C、Erns、E1及びE2の全てをコードする配列を欠如する。細胞病原性レプリコンは、さらに、非構造タンパク質p7及びNS2をコードする遺伝子を欠如する。全てのレプリコンは、pA187−1から得られる公知の感染性RNAと同様の手段によって得られる。レプリコンのサイズに対する限定は予期されない。これらのレプリコンは、真核細胞中へのトランスフェクション後に、複製するが、構造タンパク質の欠如により、感染性ウイルスは生成されない。それぞれのタンパク質を発現するように安定的に形質導入された細胞系統中でレプリコンをパッケージすることは、依然として可能である。
【0031】
図1は、レプリコンの構築のために使用され得る欠失の例を示す。図2は、対象遺伝子(GoI)がどのようにレプリコンゲノム中に挿入され得るのかについての例を示す。この場合、図は、外来タンパク質の発現のために設計された、モノシストロニック又はバイシストロニックの2つの形態のレプリコンの例を示す。2つの形態のそれぞれに対して、図は、構造遺伝子領域における欠失の例についても示しており、単一の遺伝子、Erns遺伝子の欠失が例示されている。複数の遺伝子の欠失が使用されている例も示されている(CからNS2を含む遺伝子の欠失)。依然として活性NS2をコードするレプリコンはいずれも、非細胞病原性である。細胞病原性レプリコンを作製するためには、図1G及び図2D、Eに示されるように、NS2におけるさらなる欠失が必要とされる。
【0032】
図1及び2はまた、2つの形態のNpro遺伝子:インタクトなNpro遺伝子(その遺伝子産物は、I型IFN産生を誘導するという細胞の能力を損なう)、又は、変異Npro遺伝子(Npro’遺伝子)(その遺伝子産物は、I型IFNの誘導を干渉することはできない)、を表す。Npro遺伝子を有しない構築物を使用した場合は、I型IFN産生に対する細胞の誘導性に及ぼす影響という観点から見て、変異Npro遺伝子を有する構築物を使用した場合と同様の結果を示す。
【0033】
GoI挿入物の位置は、レプリコン遺伝子自体の複製及び翻訳を干渉してはならない。この外来遺伝子のための好ましい位置は、ウイルスコード配列の5’末端、Npro遺伝子内、又はNpro遺伝子の3’末端に近い位置への挿入である。挿入された外来遺伝子がレプリコン構築物中で許容されないという任意のリスクを回避するために、これらの挿入位置が選択される。これらの位置の外来遺伝子の存在は、レプリコンの複製及び翻訳を干渉しない。
【0034】
以下に記載される特定の例において、モノシストロニック又はバイシストロニックレプリコン構築物は、ルシフェラーゼ遺伝子又はインフルエンザウイルスHA遺伝子等の外来遺伝子配列の挿入のための固有のNotI部位を有する。モノシストロニックレプリコンの場合、挿入は、NproのN末端部分内で起こる。このようにして、Nproの11個のN末端アミノ酸、次に、残基Thr−Asn−Lys、外来タンパク質、残基Thr−Asn−Lys、及びNproの残りのC末端部分(アミノ酸残基15〜168)から構成される融合タンパク質が作製される。この位置への挿入は、Nproの2つの機能、すなわち、新生ポリタンパク質からのNproの切断を担う自己タンパク質分解活性、及び、細胞中でのI型IFNの誘導の干渉という観点から見た、生来の免疫反応に対する干渉、のいずれにも影響を及ぼさない。
【0035】
以下に記載される特定のバイシストロニックレプリコンの例において、外来遺伝子は、Npro遺伝子の直ぐ後に挿入され、終止コドン、及び、残りのウイルスポリタンパク質(C〜NS5B又はNS3〜NS5B)の翻訳開始のための、ピコルナウイルスである脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来の内部リボソーム侵入部位(IRES)が続く。このベクターの重要な特徴は、真正の外来タンパク質が発現され得る一方で、モノシストロニックレプリコンにおいては、それは、Nproタンパク質との融合タンパク質として合成されることである。
【0036】
Npro遺伝子を含む特定のモノシストロニック及びバイシストロニック構築物が、レプリコンの翻訳及び複製を障害することなく作製されている。レプリコンは、レプリコンの機能に従うことなく、この部位において遺伝子操作することができる。
【0037】
外来遺伝子挿入物は、機能を維持し、レプリコンにより安定して発現される必要がある。さらに、この挿入物は、ペスチウイルスレプリコン遺伝子の正しい働きを、特に、それらの複製及びそれらがコードする遺伝子の翻訳という観点から見た正しい働きを干渉してはならない。本発明は、(i)レプリコン中での外来遺伝子挿入物の認容性、(ii)コードされたタンパク質へのその正しい翻訳という観点から見た、外来遺伝子による機能の保持、(iii)外来遺伝子挿入物内に含まれる場合、大きな遺伝情報の挿入後、レプリコンによる機能の保持、を示す解決法を提供する。
【0038】
ペスチウイルスレプリコンは、ワクチンとしての高い可能性を有する。それらは非感染性であり(感染性ウイルスを生じない)、したがって、非伝染性であるという事実により、それらは、安全なワクチンのための重要な条件も満たす。
【0039】
本発明はまた、活性成分としての、本明細書中に上記されるようなペスチウイルスレプリコンと、任意で、薬学的に許容し得る成分をさらに含む医薬組成物に関する。温血動物、特にヒトに対する、腸内投与、例えば、経鼻、口腔、直腸、又は、特に経口投与のための組成物、並びに、非経口的投与(特に好ましい)、例えば、静脈内、筋肉内又は皮下投与のための組成物が好ましい。
【0040】
医薬調製物(例えば、ワクチン)中でのレプリコンの使用のために、レプリコンは、裸のRNAとして使用してもよい。このことは、RNaseによる分解に対するRNAの保護、例えば、RNAキャッピングによる保護、を必要とする。或いは、ペスチウイルスレプリコンを、適当な微粒子送達ビヒクルと伴わせてもよい。これらは、RNAの保護を促進し得る一方で、RNAがそのコードタンパク質を翻訳し得る細胞へのRNAの送達の効率増大を促進し得る。この目的のために、RNAは、後者のタイプを作製する時に、微粒子送達ビヒクル中に封入するか、又は、予め形成された粒子中に添加する。それぞれの場合において、RNA及び粒子の補完的添加を利用することにより、RNAの粒子との相互作用を増加させることができる。或いは、RNAは、ポリエチレングリコール修飾粒子表面等のリンカーを介して、粒子と物理的に結合させることができる。RNA送達の可能性を有するかかる粒子ビヒクルの例は、リポソーム、マイクロ粒子、ナノ粒子又はナノカプセルである。薬物担体としてのリポソーム、マイクロ粒子、ナノ粒子又はナノカプセルは、当技術分野において周知であり、これらは、本発明において、微粒子送達ビヒクルと考えられる。
【0041】
上記微粒子送達ビヒクルは、ペスチウイルスの構造タンパク質を組み込むように改変してもよい。この意味において、考えられる別の微粒子送達ビヒクルは、本発明のレプリコンを含むウイルスレプリコン粒子(VRP)である。ウイルスレプリコン粒子は、ペスチウイルスの構造タンパク質から構成される。かかるウイルスレプリコン粒子は、本発明のレプリコンによっては適切な状態でコードされない構造タンパク質を発現する細胞系統中で、本発明のレプリコンを培養することにより取得し得る。得られたウイルスレプリコン粒子は、次に、医薬調製物中で使用してもよいし、哺乳類に適用してもよい。ウイルスレプリコン粒子の一部である本発明のレプリコンの特徴は、ウイルスレプリコン粒子は感染性ではないが、複製して、ウイルスレプリコン粒子の送達点において外来遺伝子を発現することを確実なものにする。
しかしながら、さらなる修飾を有しないCSFV粒子に基づくVRPは、CSFV自体はヒト細胞に感染しないことから、ヒト細胞を標的とする効率的送達ビヒクルであるという可能性は低い。かかるVRPは、ヒト細胞への標的化を促進するタンパク質又はタンパク質配列を含むように改変される。考えられる例は、ヘパラン硫酸構造及びマンノシル化を標的とするためのテトラリジンペプチドの組み込み、又は、C型レクチン受容体の標的化を促進するためのN−アセチルグルコサミン誘導体の添加である。
【0042】
本発明のペスチウイルスレプリコン粒子の調製のために考えられる細胞系統は、本発明のレプリコンによってはコードされないか、又は、欠陥を有する形態でのみコードされる構造タンパク質を提供するように、安定的に形質導入されているブタ又はヒト細胞系統である。かかるウイルスレプリコン粒子は、それらが感染性ウイルス粒子へと複製することができないという点で安全である。
【0043】
医薬組成物は、ペスチウイルスレプリコンのみを、又は、適当な微粒子送達ビヒクルを伴い、好ましくは、薬学的に許容し得る担体と共に、ペスチウイルスレプリコンを含む。ペスチウイルスレプリコンの投与量は、治療する疾患、種、その年齢、体重、個々の状態、個々の薬物体内動態データ、及び投与様式によって左右される。
【0044】
非経口的投与のためには、ペスチウイルスレプリコンの溶液が好ましく、懸濁液又は分散液、特に、例えば、ペスチウイルスレプリコンのみを、又は、マンニトール等の担体と共に含む、用時調製し得る、凍結乾燥させた組成物の場合には、等張性水溶液、分散液又は懸濁液も好ましい。医薬組成物は、滅菌してもよく、且つ/又は、添加剤、例えば、保存剤、安定化剤、湿潤剤、及び/又は、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調切するための塩、及び/又は、バッファーを含んでもよく、それ自体公知の様式で、例えば、従来の溶解及び凍結乾燥工程によって調製される。前記溶液又は懸濁液は、増粘剤、典型的には、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン、又は、ゼラチン類を、又は可溶化剤、例えば、Tween80(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)も含んでよい。好ましい保存剤は、例えば、アスコルビン酸等の抗酸化剤、又は、ソルビン酸若しくは安息香酸等の殺菌剤である。
【0045】
油中懸濁液は、油成分として、注射用として慣例的な、植物油、合成油、半合成油を含む。そのような物のうち、酸成分として、8〜22個、特に、12〜22個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸含む液体脂肪酸エステルが、特記され得る。これらの脂肪酸エステルのアルコール成分は、最大6個の炭素原子を有し、一価又は多価であり、例えば、一価、二価又は三価のアルコール、特に、グリコール及びグリセロールである。脂肪酸エステルの混合物としては、綿実油、アーモンドオイル、オリーブ油、ヒマシ油、ゴマ油、大豆油及び落花生油等の植物性油が特に有用である。
【0046】
注射用調製物の製造は、例えば、アンプル又はバイアル中への充填時、及び、容器の密閉時のように、通常は無菌条件下で行われる。例えば、非経口的投与のために使用される溶液は、輸液として使用することもできる。
【0047】
考えられる特定の医薬組成物は、ワクチンであり、この場合、本発明のレプリコンは、疾患を引き起こす感染性粒子中に存在するタンパク質、特に、疾患を引き起こすウイルス、細菌、若しくはその他の感染性物質の表面タンパク質、又はその他の公知の免疫原性エピトープをコードする。かかるワクチンは、ワクチン中に通常使用されるアジュバント、抗菌ペプチド、及び、適応的免疫反応を容易にし得る、且つ/又は、強化し得る免疫刺激性核酸を含んでもよい。例えば、レプリコンによってコードされるGM−CSF、又は、油性アジュバント、CpG−オリゴデオキシヌクレオチド、リポペプチド、免疫調節性ペプチド等の公知の免疫調節成分中に含まれる若しくは免疫調節性成分と一緒に存在するレプリコン処方物等が挙げられる。
【0048】
さらに、本発明は、本発明のペスチウイルスレプリコンを投与する工程を含む、感染性物質により引き起こされる疾患に対する予防方法に関し、この場合、前記の外来遺伝子は、感染性物質に対して免疫性を付与する遺伝子産物をコードする。考えられる特定の疾患は、例えば、インフルエンザウイルス、HIV、HCV、HBV、ハシカウイルス、RSV、ボルデテラ属、ボレリア属、プラスモジウム属、カンジダ・アルビカンス、アスペルギルス・フミガタス、破傷風トキソイド等によって引き起こされる疾患である。本発明の方法において、投与されるペスチウイルスレプリコンは、上記した感染性物質に由来する適当なエピトープ又は遺伝子産物を含む。
【0049】
さらに、本発明は、レプリコンのみを、又は、適当な微粒子送達ビヒクルを伴って、投与することによる、欠陥を有する遺伝子により引き起こされる疾患の治療方法に関し、この場合、レプリコン中に組み込まれる外来遺伝子は、疾患に関連する機能性遺伝子である。例えば、冠動脈疾患の治療のための、血管新生を促進する血管新生タンパク質であるFGF4;内耳治療のためのカリウムチャンネル遺伝子;XSCID、ADA欠損SCID及び慢性肉芽腫症を有する患者のための遺伝子治療;肝臓でのHMBシンターゼ発現を促進するためのアルファ1Me/アルファ1ATp;肺外傷に対する肺血管の反応を調節するための、アンジオポイエチン−1による遺伝子治療等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
実施例1:CSFVレプリコンの構築
CSFVレプリコンは、標的細胞中で複製することができるが、インビトロにおいては特別の「パッケージング」細胞系統中で増殖させることによって補助しないかぎり、感染性ウイルスを生成することができない。このことは、E1タンパク質、又はE2タンパク質、又はErnsタンパク質、又はCタンパク質、或いは、それらの組み合わせ又は部分以外のペスチウイルスの全ての構造タンパク質をレプリコンが発現することを特徴とする。
【0051】
プラスミド構築物
変異CSFVゲノムは、全長cDNAクローンpA187−1に基づいて構築する。プラスミドは、大腸菌XL−1Blue細胞(Stratagene)中で増幅し、プラスミドDNAは、Nucleobond DNA精製システム(Macherey Nagel)を用いて精製する。これらの構築物は、全長cDNAクローンpA187−1の公開されている配列に基づく(Ruggliら,J Virol 70,3478−3487,1996)。全長ウイルスcDNAを含むプラスミドは、Srf1(Stratagene)を用いて線条化し、フェノール−クロロホルムによる抽出及びエタノールによる沈殿により精製する。ペレットは、最終濃度500ng/mlのRNase不含HO中で再懸濁する。インビトロ転写は、MEGAscript T7キット(Ambion)を用いて実施する。サプライヤーの教示の通り、1.5μgの線条化プラスミドDNA、13μlの転写バッファー、各7.5mMのATP、CTP、GTP、及びUTP、並びに2μlのT7ポリメラーゼ−RNase阻害剤混合物を含有する20μlの反応混合物を、37℃でインキュベートする。テンプレートDNAの除去のために、次に、この反応混合物を、2単位のDNaseIの存在下で、15分間、37℃でインキュベートする。転写反応からのRNAを、500mM 酢酸アンモニウム、10mM EDTA、及び1容量のイソプロパノールの存在下で、フェノール−クロロホルムによる抽出及びエタノールによる沈殿により精製する。或いは、DNaseIによる切断後、転写産物を、MicroSpin S−400 HRカラム(Pharmacia)を用いて精製し、GeneQuant II光度計(Pharmacia)を用いて定量する。
【0052】
レプリコン構築物
rns遺伝子を欠如する(或いは、E1、若しくはE2、若しくはC、又はこれらの任意の組み合わせを欠如する)ウイルスcDNAを、レプリコンとして使用する(図1)。モノシストロニック構築物のために、外来遺伝子(例えば、インフルエンザウイルスHA遺伝子)は、Npro遺伝子のアミノ末端領域中に導入された唯一のNotl部位中に挿入される。得られた融合タンパク質は、739個のアミノ酸(aa)を有し、Npro’(aa 1−11)−Ser−Gly−Arg−HA(aa 1−568)−Gly−Gly−Arg−Npro’(aa 15−168)から構成される。Nproの既知の活性−例えば、自己タンパク質分解酵素活性、1型IFN−誘導経路の干渉、及び、インターフェロン調節因子3(IRF3)の分解−は維持される。1型IFNの誘導又は産生を調節しないレプリコンを作製するために、C112R又はD136Nに対する変異をNpro’’配列中に導入することにより、様々な構築物が得られる。
【0053】
rns遺伝子を欠如するバイシストロニックなウイルスcDNA遺伝子もまた、レプリコンとして使用される(E2又はCの欠失も可能である)。第1のシストロンは、フレーム中で外来遺伝子(インフルエンザウイルスHA遺伝子)と融合したNpro遺伝子、その後に、残りのウイルスポリタンパク質(C〜NS5B)の翻訳を開始するEMCV IRESを含む。このレプリコンからは、Npro及びインフルエンザウイルスHA遺伝子の両方が、それらの真正の形態で発現される。Npro、自己タンパク質分解酵素の活性、及び、1型IFNの誘導又は産生の調節は維持される。1型IFNの誘導又は産生を調節しないレプリコンを作製するために、C112R又はD136Nに対する変異をNpro配列中に導入することにより、様々な構築物が得られる。或いは、Nproは、コード配列の大部分を欠失させることにより、C末端を切断することができる。このことにより、再度、1型IFNの誘導又は産生を調節する能力を失ったレプリコンが生成される。次に、残りのN末端のNpro配列を、外来遺伝子産物であるインフルエンザウイルスHAタンパク質への融合物として発現させる。
【0054】
実施例2:細胞病原性及び非細胞病原性のブタコレラウイルスのRNAレプリコン
プラスミド構築物
図1G中に示されるものにより例示される変異CSFVゲノムは、全長cDNAクローンpA187−1(Ruggliら,J Virol 70,3478−3487,1996)に基づいて構築する。プラスミドDNA構築物は、大腸菌XL−1 Blue細胞(Stratagene)中で増幅する。制限酵素は、Srf1(Stratagene)以外は、New England Biolabs社による。プラスミドDNAは、Wizard Mini−又はMaxiprepキット(Promega)を用いて精製する。逆転写(RT)及びPCRのために使用されるプライマーは、公開されている(Ruggliら,J Virol 70,3478−3487,1996)。これらの変異CSFVゲノムの起源は、公開されている(Moserら,J Virol 73,7787−7794,1999)。
【0055】
インビトロ転写及びエレクトロポレーション
SrfI 12298−又はNrul 11301−線条化プラスミドからのインビトロ転写を、T7 Megascriptキット(Ambion)を用いて行う。DNaseIによる切断後、転写産物を、MicroSpin S−400 HRカラム(Pharmacia)を用いて精製し、GeneQuant II光度計(Pharmacia)を用いて定量する。SK−6細胞を、2度洗浄し、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で再懸濁する。0.8mlの容量中、合計2x10個の細胞を、15μgのRNAと混合し、0.4cmのキュベット(Bio−Rad)に移して直ぐに、450V及び500μFの条件で、Gene Pulser(Bio−Rad)セットを用いてエレクトロポレーションを行う。或いは、10細胞/mlの密度の0.4mlの細胞懸濁液を、5mgのRNAと混合し、0.2cmのキュベット中に移して、200V及び500μFの条件で、2度、エレクトロポレーションを行う。エレクトロポレーション後、細胞懸濁液を、室温にて10分間維持し、次に、5%(v/v)ウシ血清を含むDulbecco変法Eagle培地中に希釈して、播種し、エレクトロポレーション後の様々な時間における分析のために回収する。
【0056】
RNA分析
全RNAは、Trizol試薬(Gibco)を用いて、エレクトロポレーションを行った5x10個の細胞から抽出する。RNA濃度に関係なく、エレクトロポレーションした細胞の数に基づいてサンプルを標準化するために、各サンプルの3分の1を、ノーザンブロッティングのために使用する。ノーザンブロッティング及びハイブリダイゼーションは、32P−標識されたリボプローブ:CSFV Alfort/187ゲノムのプラス鎖ウイルスRNAの検出のための、JL1、これは、3’−末端の204ヌクレオチド(nt)に対して相補的である、又は、マイナス鎖RNAの検出のための、GM、CSFV Alfort/187ゲノムのnt327〜582に相当する、いずれかを用いて行う。RT反応は、Expand RTキット(Boehringer Mannheim)、プライマーHR3、及び、続くcDNA精製のためにMicroSpin S−400 HRカラムを用いて行う。PCRのためには、Expand long−template PCRキット(Boehringer Mannheim)、又は、1kbよりも短い断片のためには、Taq DNAポリメラーゼ(Promega)を使用する。
【0057】
タンパク質分析
SK−6細胞を、低張緩衝液(20mM MOPS[モルホリノプロパンスルホン酸]、10mM NaCl、1.5mM MgCl、1% Triton X−100[pH6.5])中で溶解し、抽出物をウェスタンブロッティングのために使用する。ブタ抗ペスチウイルス高力価血清N8T12及びペスチウイルスNS3タンパク質に対するMAb 49DEが、NS3タンパク質検出のために役立つ。
【0058】
レプリコンRNAのパッケージング
欠陥を有するゲノムと共に全長ヘルパーA187−CAT RNAをエレクトロポレーションした後、培養液の凍結融解によりウイルスを回収する前に、48時間、5x10個のSK−6細胞をインキュベートする。低速での遠心分離後、前日に播種した2x10個のSK−6細胞を感染させるために、1mlの希釈していない上清を使用し、接種材料を1時間後に交換する。細胞培養液のアリコートを、RNA抽出及びRT−PCRのために、感染させてから48時間後に回収する。
【0059】
実施例3:CSFV欠失変異体の構築
E2欠失変異体
E2欠失変異体、例えば、pA187−E2del373及びpA187−E2del68、は、以下の通りにして構築される(Maurerら,Vaccine 23,3318−3328,2005)。それらの概略図を図1Dに示す。E2の373アミノ酸をコードする完全なE2遺伝子(CSFV vA187−1ゲノムのヌクレオチド2441−3559)又はE2の68アミノ酸をコードするヌクレオチド3248−3451、いずれかの欠失が、テンプレートとしてcDNAプラスミドクローンpA187−1を使用するPCRに基づく部位特異的突然誘発法により得られる。ヌクレオチド番号は、vA187−1のゲノムについて参照している(GeneBank受入番号X87939)。それらの5’末端において20ヌクレオチドのオーバラップを有する2つの相補的オリゴヌクレオチドプライマー、並びに、所要の欠失に相当する5’及び3’配列が使用される。各PCR断片を作製するために、2つの突然変異誘発プライマーそれぞれを、各欠失の上流又は下流に位置する配列に相当する正方向又は逆方向プライマーと共に使用される。この反応は、Pfu Turboポリメラーゼを用いて、20〜30回の増幅サイクル行う。アセンブリのために、2つのPCR断片を、アガロースゲル電気泳動により単離し、予想される融合産物に隣接する各プライマーを用いて、さらに30サイクルのPCRに供する。その後、アガロースゲルからの精製及びプラスミドpCR−XL−TOPO(Invitrogen)中への挿入前に、5’末端がアデノシル化されたPCR産物を得るために、Taqポリメラーゼ(Promega)を、15分間、72℃にて、添加する。各挿入物は、Thermo SequenaseTM DYEnamicダイレクトサイクル配列決定キット(Amersham Biosciences)を使用して配列決定し、e−Seq及びAlignIRソフトウェア(LI−COR Biosciences)を用いてLI−COR 4200配列決定装置を使用することにより分析する。所要の制限断片を、pCR−XL−TOPOサブクローンから単離し、E2欠失変異体を得るために、全長cDNAクローンpA187−1中の対応する配列と置換するために使用する。RNAの特異的感染性(RNA1μgあたりの感染単位(IU)として表される)を、インビトロ合成したCSFV RNAについて使用する感染中心アッセイにおいて決定する(以下参照)。
【0060】
rns欠失変異体
227アミノ酸をコードする完全なErns遺伝子(CSFV vA187−1ゲノムのヌクレオチド1175−1855)の欠失が、PCRに基づく部位特異的突然誘発法により得られる(Freyら,Vet Res 37,655−70,2006)。それらの概略図を図1Bに示す。変異pA187delErnsを得るために、Erns欠失を含むPCR断片を、全長cDNAクローンpA187−1中の対応する領域と置換するために使用する。SrfIによって線条化したpA187delErnsのランオフ・インビトロ転写を行う。
【0061】
欠失変異体RNAの特性決定
インビトロ合成したRNA(10μg)を、エレクトロポレーションすることによりSK−6細胞中に入れる。エレクトロポレーションした細胞の10分の1を、抗NS3 mAb C16又は抗E2 mAb HC/TC26を用いた免疫ペルオキシダーゼアッセイ又は免疫蛍光アッセイによる染色のために、24穴プレートの2つのウェルに播種する。RNAの特異的感染性(インビトロ合成したCSFV RNAに対して使用。RNA1μgあたりの感染単位(IU)として表される。)を、感染中心アッセイにおいて決定する。このようにして、エレクトロポレーションした細胞の10分の1を、2mlのEMEM−HS中で希釈し、6穴プレートに播種して、連続希釈する。37℃にて3日間のインキュベーション後、細胞を固定化し、陽性の細胞を、抗NS3 mAb C16又は抗E2 mAb HC/TC26を用いた免疫ペルオキシダーゼアッセイ又は免疫蛍光アッセイにより可視化させる。
【0062】
CSFV−VRPの欠失変異体の特性決定
レプリコン自体の構築に加えて、所要の場合には、ウイルスレプリコン粒子(VRP)を作製することも可能である。変異RNAを、エレクトロポレーションにより、ウイルスのE2又はErnsタンパク質を安定して発現する「補完細胞系統」であるSK−6細胞中に入れ、CSFVウイルスレプリコン粒子(CSFV−VRP)と呼ばれる、変異RNAがパッケージされたウイルス様粒子を作製する。CSFVレプリコンが補完細胞中で安定していることを検証するために、CSFV−VRPゲノム(=レプリコン)の各領域を、RT−PCRにより増幅し、配列決定を行う。この目的のために、VRPを感染させたSK−6細胞培養のTrizol抽出(Invitrogen)により、細胞質RNAを得る。RT−PCRは、Expand逆転写酵素(Boehringer)及びTaqポリメラーゼ(Promega)を用いて行う。E2欠失変異体のために使用されるプライマーは、cDNA合成に対しては、ZR4(CSFVゲノムのヌクレオチド4178−4148)であり、PCRに対しては、ML5(ヌクレオチド2196−2213)/ZR5(ヌクレオチド3892−3862)である。これらのプライマーは、E2遺伝子の隣接領域中に位置し、SK−6(補完)細胞中に含まれるE2とアニールするとは予想されない。Erns欠失変異体のために使用されるプライマーは、cDNA合成に対しては、PR1(CSFV Alf/187ゲノムのヌクレオチド6454−6434)であり、PCRに対しては、ML1(ヌクレオチド992−1022)/MR3(ヌクレオチド1956−1940)である。後の2つのプライマーは、ウイルスゲノム上のErns遺伝子の隣接領域に位置し、したがって、SK−6(補完)細胞中に含まれるErnsDNAとアニールするとは予想されない。増幅したDNA断片を、アガロースゲル電気泳動により特性決定する。
【0063】
実施例4:CSFVリーダープロテイナーゼNproがレプリコンの複製には必要とされないことの立証
proがレプリコン、したがって、ウイルスの生存能力に必須でないことを確かめるために、変異CSFVゲノム vA187−Ubiを構築し、この場合、Npro遺伝子は、プラスミドpTM3/HCV/Ubi−NS5Bから放出されたマウスユビキチン遺伝子と置換されている(Tratschinら,J.Virol 72,7681−84,1998)。感染性vA187−Ubiウイルスの作製のために、pA187−Ubi DNAを、SrfIを用いて線条化し、次いで、インビトロRNA転写、及び、RNAをブタSK−6細胞中へリポフェクチンする。トランスフェクションの48時間後、免疫ペルオキシダーゼアッセイにより、ウイルスエンベロープタンパク質E2の発現について、細胞を試験する。ウイルスRNAの分析は、逆転写(RT)−PCRによる。
【0064】
2つのさらなる変異体が作製されている:Npro遺伝子が、残基メチオニン及びグリシンと置換されている、CSFV vA187−ΔNpro;pEy−37 cDNAクローン中のNpro遺伝子を欠失させることによる、vA187−ΔNproと類似する、CSFV vEy−ΔNpro(Ruggliら,J.Virol 77,7645−54,2003)。任意のこれらのウイルスにおけるNproの置換は、ウイルスが複製するのを妨げない。vA187−Ubiウイルス(vA187−ΔNpro−Ubi又はΔNpro−Ubiウイルスとも呼ばれる)は、非インターフェロン産生SK−6細胞を使用する場合、親vA187−1ウイルスの力価と同様の力価まで複製する。ΔNproウイルスは、インターフェロン産生PK−15細胞中及びブタマクロファージ中でも複製する。これらの細胞においては、複製サイクル中、より長い誘導期が存在し、親ウイルスと比較して、1mlあたり1.5〜2log10TCID50低い力価が得られる。それにもかかわらず、ΔNproウイルスは、明らかに複製可能である。このより低い力価は、I型インターフェロンの誘導を調節し得ないことによる(以下実施例5参照)。
【0065】
実施例5:細胞による抗ウイルス防御に対するNpro依存性の干渉に関して、CSFVリーダープロテイナーゼNproを含む、及び、含まないレプリコンの特性決定
vA187−Ubiウイルス(ΔNpro−Ubiウイルスとも呼ばれる)は、vA187−ΔNpro及びvEy−ΔNpro(実施例4参照)と共に、細胞による抗ウイルス防御の調節におけるNproの役割を示すために使用されている(Ruggliら,J.Virol 77,7645−54,2003)。マクロファージは、偽感染させるか、又は、標準的なCSFV若しくは変異ウイルスのいずれかにより感染させ、次に、インターフェロン(IFN)誘導物質であるポリ(IC)を用いて細胞を刺激する。細胞は、ウイルスゲノム又はレプリコンRNAを用いてエレクトロポレーションすることも可能である。感染させた細胞培養からの上清を、Mx/CATレポーター遺伝子アッセイのいずれかにおいて、抗ウイルス活性について試験する。同じ結果が両アッセイ中で得られた。
【0066】
標準的なCSFVは、抗ウイルス活性又はI型IFN産生を誘導しない(図3A;vA187−1)。ウイルスのNpro遺伝子が欠失している場合(vA187−ΔNpro)、又は、Npro遺伝子が位置112番(vA187−Npro(C112R))若しくは136番(vA187−Npro(Dl36N))において変異している場合、今度は、ウイルスは、I型IFN産生を誘導する(図3A)。この所見は、I型IFNの誘導をもたらす細胞経路を調節するNproタンパク質の能力による(Ruggliら,J.Virol 77,7645−54,2003)。このことは、インタクトなNproタンパク質、又は、Nproのアミノ酸位置112番におけるシステインからアルギニンへの置換(Npro(C112R))若しくは位置136番におけるアスパラギン酸からアスパラギンへの置換(Npro(D,36N))を有する変異体をコードするプラスミドのトランスフェクションを利用することにより、確認されている。マクロファージを、ポリ(IC)を用いて刺激する場合、1mlあたり40UまでのI型IFNを検出することができる。マクロファージ中におけるCSFV感染の存在は、このポリ(IC)によるIFNの誘導により消失し得るが、ΔNpro及び変異Nproウイルスは、ポリ(IC)によるI型IFNの誘導を干渉し得ない。同様に、細胞(例えば、ヒトHEK293T細胞)を、Nproタンパク質をコードする構築物を用いてトランスフェクトした場合、ポリ(IC)によるI型IFNの誘導に対する阻害が生じる(図3B)。Nproタンパク質の変異体(Npro(C112R);(Npro(D136N))をコードする構築物を用いて細胞をトランスフェクトした場合、細胞は、I型IFNの産生に関してポリ(IC)に反応する能力を取り戻す(図3B)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染性ウイルスの形成に必要とされる1つ又はそれ以上の構造タンパク質に対する必須のコドンを欠如し、外来遺伝子を担持する、ペスチウイルスレプリコン。
【請求項2】
感染性ウイルスの形成に必要とされる1つ又はそれ以上の構造タンパク質に対する全てのコドンを欠如する、請求項1に記載のレプリコン。
【請求項3】
前記外来遺伝子が、Npro遺伝子内、又は、Npro遺伝子の3’末端に挿入される、請求項1又は2に記載のレプリコン。
【請求項4】
非構造タンパク質NS2に対するコドンを欠如する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレプリコン。
【請求項5】
NS2及びNS3をコードする遺伝子が、さらなるヌクレオチドによって物理的に分離されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレプリコン。
【請求項6】
前記Npro遺伝子が、変異しているか又は欠失している、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレプリコン。
【請求項7】
ヒト細胞中にトランスフェクトされた場合に、該ヒト細胞中で複製する能力を保持する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレプリコン。
【請求項8】
前記ペスチウイルスがブタコレラウイルスである、請求項1〜7のいずれか一項に記載のレプリコン。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のレプリコンを含んでなる微粒子送達ビヒクル。
【請求項10】
ペスチウイルスの構造タンパク質からなる、請求項9に記載の微粒子送達ビヒクル。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のレプリコン又は請求項9若しくは10に記載の微粒子送達ビヒクルを含んでなる医薬組成物。
【請求項12】
ワクチンである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレプリコン、又は、請求項9若しくは10に記載の微粒子送達ビヒクルを投与することによる、遺伝子の欠如により引き起こされる疾患の治療方法であって、前記外来遺伝子が前記欠如する遺伝子である、前記治療方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のレプリコン、又は、請求項9若しくは10に記載の微粒子送達ビヒクルを投与することによる、感染性物質により引き起こされる疾患の予防方法であって、前記外来遺伝子が、前記感染性物質又は疾患原因成分に対して免疫性を与える遺伝子産物をコードする、前記予防方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−521654(P2011−521654A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512010(P2011−512010)
【出願日】平成21年5月30日(2009.5.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003892
【国際公開番号】WO2009/146867
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(510319960)
【Fターム(参考)】