説明

Rhの回収方法

【課題】 重金属及びアルカリ土類金属のうち何れか1種以上の不純物と、Agを含有するRh溶液を精製する方法を提供する。
【解決手段】 重金属、アルカリ土類金属のうち何れか1種以上の不純物と、Agを含むRhの塩酸水溶液について、アルカリを添加しpHを7〜12に調整し、
Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離し、塩酸で再溶解する時のRhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように塩酸添加量を調整した液を、ろ過してAgを沈殿物として除去した後、DEHPAで抽出するRh溶液の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rhを含有する溶液、例えば、銅電解スライムからの貴金属回収プロセスの中間品残渣を処理して得られる重金属、アルカリ土類金属、Agを含むRh塩酸溶液の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようにRh等の貴金属を含む溶液からRhを効率良く回収する技術は、
多くは開示されていない。
【0003】
しかしながら、例えば、特開2005-97695号「白金族元素の相互分離方法」(特許文献1)には、Pd、Pt、Ir、Rh等の白金族元素の相互分離方法が、開示されている。
【0004】
この処理液においては、Agが含まれる場合を開示されていない。このため抽出剤によりRhを回収する際に、抽出時のトラブルが示されていない。
【0005】
本発明者等は、Agが含まれている溶液からRhを回収する場合には、分相性が悪く、Rhを効率的に回収できない。 Fe、Pb等の不純物が抽出後液中に残存し、効率的なRhの回収ができないことを知見した。
【特許文献1】特開2005-97695号「白金族元素の相互分離方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術の欠点である、分相性の悪化、及びFe、Pb等の不純物の残存を無くし、重金属及びアルカリ土類金属、Agを含有するRh溶液を効率的に精製するし、高純度のRhを回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく以下の発明をなした。
即ち、本発明は、
(1)重金属、アルカリ土類金属のうち何れか1種以上の不純物と、Agを含むRhの塩酸水溶液について、アルカリを添加しpHを7〜12に調整し、
Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離し、塩酸で再溶解する時のRhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように塩酸添加量を調整した液を、ろ過してAgを沈殿物として除去した後、DEHPAで抽出するRh溶液の精製方法。
【0008】
(2)上記(1)において、Rhの塩酸水溶液中にアルカリを添加しpHを7〜12に調整し、Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離したのち、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが2.7〜3.5になるように塩酸で溶解したRh溶液をろ過してAgを沈殿物として除去した後に、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが4〜8になるように塩酸を補加した液を、DEHPAで抽出するRh溶液の精製方法。
【0009】
(3)上記(1)において、Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離し、塩酸で再溶解する時のRhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように塩酸添加量を調整する際に、90℃以上で加熱後に、冷却してからAgを沈殿物として除去した後、DEHPAで抽出するRh溶液の精製方法。
(4)上記(2)において、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが4〜8になるように塩酸を補加する際に90℃以上で加熱後に、室温まで冷却してからDEHPAで抽出するRh溶液の精製方法。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、Rh中和沈殿物を塩酸で再溶解した液中のRu濃度を20mg/l以下とし、DEHPAで抽出することにより、Rhの水相への回収率を高く保ちつつ、重金属、アルカリ土類金属を除去するRh溶液の精製方法。
上記(1)、(2)において、Rh中和沈殿物を塩酸で再溶解した液をDEHPA
で抽出する際に、溶液中のRu濃度を20mg/l以下とし、DEHPAで抽出することにより、Rhの水相への回収率を高く保ちつつ、Rhを精製する方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のRh塩酸溶液の精製方法は、
(1)重金属、アルカリ土類金属のうち何れか1種以上の不純物等を含むRhの塩酸溶液におけるRhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように調整したものをDEHPAで抽出することにより、Rhロスを低く保ちつつ、重金属およびアルカリ土類金属を十分に除去することができる。
【0011】
(2)塩酸の添加を2回に分けて、Agがクロロ錯体として溶解することを抑制することで、更にDEHPA抽出によるRhロスを低減できる。
【0012】
(3)DP抽出前液中のRu濃度を20mg/l以下にし、DEHPAで抽出することにより、Rhロスを低く保ちつつ、重金属およびアルカリ土類金属を十分に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明に関して、詳細に説明する。
本発明における処理対象液は、銅電解スライムから貴金属を回収する際に発生する溶液の処理或いは、廃触媒中から貴金属を回収する際等に発生する溶液の処理であって、Agを含有する溶液である。
【0014】
例えば、Ptを50mg/Lから1g/L、Pdを50から400mg/L、Ruを1から30mg/L、Irを15mg/Lから3g/L、Rhを100mg/Lから40g/L、Agを0.5から1.5g/L、Feを0.5から2g/L、Pbを50mg/Lから2g/L等を含む液である。
【0015】
本発明における対象処理液は、塩酸酸性である。塩酸の濃度は、特に限定されるものではないが、0.1から8.0mol/Lである。
【0016】
処理対象のRh含有塩酸溶液に、アルカリ剤を添加する。アルカリ剤は、苛性ソーダ等である。
【0017】
アルカリ剤の添加は、Rhその他の成分を中和物として回収する際のpHを7〜12にする。
これにより、Rhを中和後液中に溶解ロスすることなく、中和物としてろ過分離回収することができる。尚この時、Agの一部はろ液中に分離される。
【0018】
(塩酸1回添加法)
Rh及びその他の成分を含む中和物を塩酸で再溶解する際に、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4程度になるように調整する。
このモル比であると、Rhのロスが極めて少ないと知見した。
Cl/Rhモル比が3より低い場合、DEHPAで抽出する際に中間相が生成し、Rhロスが増大するとともに、抽出後液に残留する重金属濃度が高くなる。
Cl/Rhモル比が4より高い場合、Rhロスの点からは問題ないが、Rhに対して不純物であるAgの溶解度が上がってAg濃度が高くなる。
【0019】
また、Rh及びその他の成分を含む中和物を塩酸で再溶解する際の温度と加熱時間は、90℃以上で1時間以上加熱すれば十分である。加熱温度および加熱時間は、Rh溶液の色の変化の仕方より容易に調整できる。例えば、90℃以上に加熱すると明らかに赤みが増して溶液は赤褐色になるからである。
100℃まで加熱した場合、黒緑色であった溶液が80℃付近でわずかに赤みを帯び始め、上記のように90℃以上となると赤みを増す。
この色の変化はRhへのCl配位が進んだためと推測され、Cl/Rhモル比が3以上になるよう塩酸を添加することで、[RhCl3(H2O)3]等のRhクロロ錯体を生成すると考えられる。
RhへのCl配位数は、溶液中のCl濃度と、加熱温度及び加熱時間によって変化すると考えられるが、溶液中のCl濃度が適正であれば、加熱温度が高いほど、RhへのCl配位が十分に進むのに必要な加熱時間が短くなると考えられる。
【0020】
加熱したRh溶液を室温まで冷却した後、沈殿しているAgClをろ過分離することにより、ろ液中のAg濃度を45〜80mg/lにすることができる。なお、AgCl沈殿物の粒度は小さいので、なるべく目の細かいフィルターでろ別することが好ましく、0.1μmメンブランフィルターでろ過することにより、完全に除去することができる。
【0021】
(塩酸2回添加法)
Rhの中和沈殿物を塩酸で溶解する際に、塩酸の添加を2回に分けることにより、Agがクロロ錯体として溶解することを抑制しつつ、DEHPA抽出におけるRhロスを更に低減することができる。
Rhその他の成分を含む中和物を塩酸で再溶解する際に、Rhに対するClのモル数が2.7〜3.5になるように塩酸の添加量を調整し、溶解したRh塩酸溶液をろ過し、Agを沈殿物として除去することにより、Rhの未溶解ロスをほとんど出すことなく、ろ液中のAg濃度を80mg/l以下にすることができる。
この時の塩酸添加量が多いとAg溶解度が上がり、ろ液中のAg濃度が高くなる。塩酸添加量が少ないと中和物中のRhが全量溶解せず、ろ過した時に、ろ過残渣としてRhの未溶解ロスが発生する。
【0022】
さらに、このろ液に対し、Cl/Rhのモル比が4〜8になるように塩酸を添加し、90℃以上で加熱した液を、DEHPAで抽出することにより、水相中のRhをわずかしかロスすることなく、4N程度のRhを製造することが可能なレベルまで、重金属およびアルカリ土類金属を除去できる。
塩酸の補加、加熱なしで、DEHPAで抽出すると、RhへのCl配位が不足しているため、中間相が生成して水相からのRhロスが増大する。
【0023】
なお、上記の中和沈殿物にNaClが含まれる場合には、塩酸で中和沈殿物を溶解する際のCl濃度を下げAgを沈殿除去しやすくするとともに、抽出操作時に塩析することを防止するため、中和沈殿物を純水でリパルプ洗浄後にろ過してNaClをろ液中に分離してから塩酸で溶解する。
【0024】
(予めRuを除去する法)
さらに、DEHPAで抽出する際のRh塩酸溶液にRuが含まれていると、抽出時に、廃油状のドロドロした粘性の高い中間相が生成し、Rhロスが増大する。原因ははっきりしないが、抽出操作時にRuが水相中に安定に存在できずにスラッジを生成するためと考えられる。
従って、抽出操作に先立ち、例えば蒸留等の方法により、あらかじめRuを20mg/l程度まで除去しておく必要がある。
【実施例】
【0025】
(塩酸1回添加法)
塩酸1回添加法について、図1に示すフローシートに沿って説明する。なお、以下の実施例および比較例の分析は、いずれもICP発光分光分析装置によって行なった。
【0026】
(実施例1)
原料として表1に示すRh塩酸溶液を使用した。
【表1】

この溶液250mLにNaOH水溶液を添加し90℃でpH7に調整した後、1晩放冷した。中和沈殿物を5Cろ紙で真空ろ過し、ろ液中にAgの一部を除去した。中和沈殿物は純水でリパルプ水洗後、ろ紙で真空ろ過する操作を2回繰返し、NaClを十分に除去した。
【0027】
中和沈殿物をCl/Rhモル比が3.1になるよう塩酸を添加し、60℃に加熱し溶解した。溶液のRh濃度が40g/l程度になるよう純水を添加したのち、90℃で1時間加熱し、RhへのCl配位反応を促進させた。溶液の色は黒緑色から赤褐色に変化した。1晩放冷した後、0.1μmメンブランフィルターでろ過し、AgClを主成分とする沈殿物をろ過分離した。
ろ過後のろ液中のAgは、表1に示すように37mg/Lとろ過前の4346mg/Lに比べ、大きく低減していることが把握される。
【0028】
溶媒抽出は、抽出剤DEHPAとしてDP−8R(大八化学製)をケロシンで20%に希釈したものを使用した。O/A=2:1で塩酸再溶解液に20%DP−8Rを添加し、撹拌しながらNaOHを添加し、pH3.8に調整した。30分間撹拌後、分液ロートに移して静置し、有機相と水相を分離した。
この操作を2回繰返した後の水相をDP−8R抽出後液とした。分相性は抽出2段とも良好であった。分析値を表1に示す。Agを除く重金属、アルカリ土類金属を10mg/l以下、Feは、9mg/L、Pbは、4mg/Lまで除去することができた。
この抽出操作によるRhロスは0.1%であった。
尚抽出操作におけるRhロスは、以下の計算式によって計算される。
抽出時のRhロス(%)=(C−D)÷ C×
100
C:抽出前液中のRh量(g)
=抽出前液量(L)×抽出前液Rh濃度分析値(mg/L)
÷1000
D:抽出後液中のRh量(g)
=抽出後液量(L)×抽出後液Rh濃度分析値(mg/L)
÷1000
中和物の塩酸再溶解条件を適正にすることで、抽出操作によるRhロスは低減できるが、それでも多少は有機相にRhが分配されるので、有機相へのRhロスが発生する。
【0029】
なお、上記の中和操作時の各pHに対する中和物へのRh回収率を
図2に示す。中和処理のpHを7〜12にすることで中和物へのRh回収率を99.9%以上にすることができることがわかる。
【0030】
さらに、上記の処理における塩酸添加量は、塩酸を補加する際のCl/Rhモル比を2.2〜3.6まで変えて、その他の操作は上記と同様に処理した後、上記と同様にDEHPAで抽出した時のRhロスを図3に示す。
Cl/Rhモル比を3.1〜3.6に調整した場合、抽出におけるRhロスは10%未満であり、また抽出後液中の重金属およびアルカリ金属は10mg/l未満であった。
Cl/Rhモル比が3未満では、抽出時の分相が悪化してRhロスは高くなり、極端な場合は分相しなくなる。
【0031】
Cl/Rhモル比が大きい場合は、DEHPAによる抽出時のRhロスおよび不純物除去には問題ないが、Cl濃度増加により、溶液中に含まれるAg濃度が高くなり好ましくない。
中和沈殿物を塩酸で溶解する際のCl/Rhモル比を1.3〜4.4まで変えて、上記と同様に、中和物を塩酸で再溶解、ろ過した液のAg濃度及びRh未溶解ロスを図4に示す。
中和物を塩酸で再溶解する際に、Agの溶解度を下げるために、塩酸の添加量を抑えると中和物中のRhが全量溶解せずに、ろ過操作時にろ過残渣中へRhロスが発生する。
中和物を塩酸再溶解する際のCl/Rhモル比を3〜4にすることで、Rhロス0.5%以下に保ちつつ、Ag濃度を45〜80mg/lまで低くできることが分かる。
尚、中和物の塩酸溶解時のRhロスは以下の式により計算する。
中和物溶解時のRhロス(%)=(A−B)÷ A×
100
A:Rh塩酸溶液(中和前液)中のRh量(g)
= Rh塩酸溶液量(L) × Rh塩酸溶液Rh濃度分析値(mg/L)÷1000
B:中和物溶解液中のRh量(g)
= 溶解液量(L) × 溶解液Rh濃度分析値(mg/L) ÷1000
Rh塩酸溶液をNaOHで中和し、Rhを中和物として沈殿させたものを、純水でリパルプ・ろ過した後、中和物を塩酸で再溶解することにより、NaClを除去して、Rhを10
g/lから50〜80g/lに濃縮している。
ここで、中和条件を適正にすることにより、中和後液中Rh濃度は<1mg/lとなるので、中和操作によるRhロスはゼロと見なせる。また、純水で中和物をリパルプしてNaClをろ液中に除去する際のRhロスもゼロと見なせる。
【0032】
以上より、Rhの塩酸水溶液中にアルカリを添加しpHを7〜12に調整し、Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離したのち、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように塩酸で溶解したRh溶液をろ過することでAgを沈殿物として除去し、ろ液中のAg濃度を80mg/l以下にし、DEHPAで抽出することにより、Rhロスを10%未満とし、抽出後液中の重金属、アルカリ土類金属濃度を10mg/l未満まで除去できることが分かる。
【0033】
(比較例1)
原料として表2に示すRh塩酸溶液を使用した。
【表2】

中和沈殿物を塩酸で再溶解するときに、Cl/Rhモル比が2.2になるよう塩酸を添加量し、濃度調整後の加熱を90℃で1時間にした以外は、実施例1と同様に処理した塩酸再溶解液を抽出前液とした。
溶液の色は緑がかった赤褐色であった。20%DP−8Rで、O/A=2:1で混合撹拌しながらNaOHを添加してpH3.8に調整後30分間撹拌し、分液ロートに移して30分間静置したが、有機相と水相が激しく懸濁し、分相しなかった。
塩酸の添加量が足りないため、水相中の各成分が抽出操作時に水相中で安定的に溶解することができず一部が析出したためと推測される。
【0034】
(比較例2)
原料として表3に示すRh塩酸溶液を使用した。
【表3】

中和沈殿物を塩酸で再溶解するときに、Cl/Rhモル比が2.5になるよう塩酸を添加し、純水を添加し濃度調整した後の加熱を60℃で30分間にした以外は、実施例1と同様に処理した塩酸再溶解液を抽出前液とした。
溶液の色は黒緑色であった。20%DP−8Rで、O/A=2:1で混合撹拌しながらNaOHを添加してpH3.8に調整後30分間撹拌し、分液ロートに移して30分間静置した後、有機相と水相を分離した。
この操作を2回繰返した後の水相をDP−8R抽出後液とした。分相性は抽出2段とも界面に懸濁相が生成した。抽出前後の水相の分析値を表3に示す。抽出後液水相中のFe濃度10mg/l、Pb濃度18mg/lとFe、Pbの除去が不十分であった。
この抽出操作によるRhロスは19.7%であった。塩酸添加量が不足し、加熱が不十分であったため、と考えられる。
【0035】
実施例1及び比較例1,2の条件とDP抽出における分相性、不純物除去、Rhロスについて、表4にまとめる。
【表4】

実施例1のように、Rh中和物の塩酸溶解時にCl/Rhモル比を3〜4に調整し、90℃以上で1時間加熱することにより、DEHPAで抽出した時のRhロスを10%以下にし、なおかつ重金属、アルカリ土類金属を10mg/l未満まで除去することができる。
比較例1、2のように、Cl/Rhモル比が3未満の場合、加熱温度に関わらず、DEHPAで抽出した時に、まともに分相せず抽出操作ができなかったり、分相できても、中間相が生成し、Rhロスが増大し、不純物の抽出分離が悪化する。
【0036】
なお、Cl/Rhモル比を4以上にすると、AgClの溶解度が上がり、Rh塩酸再溶解液のろ液中Ag濃度が上がり、Rh最終製品中のAg品位が上がることがあり好ましくない。Cl/Rhモル比とRh塩酸再溶解液Ag濃度の関係を図4に示す。
Rh塩酸再溶解において、Cl/Rhモル比4以下、60℃以上の条件で再溶解し、室温まで冷却してから、0.1μmメンブランフィルタでろ過すると、Ag濃度を80mg/l未満まで除去することができる。
Cl/Rhモル比3〜4において、Ag濃度を45〜80mg/lにすることができ、この時のRh未溶解ロスは、0.5%以下である。
以上により、請求項1により、Rhをわずかしかロスすることなく、重金属およびアルカリ土類金属を効果的に除去できることが分かる。
【0037】
(実施例2)
(塩酸添加2回法)
塩酸添加2回法について、図5に示すフローシートに沿って説明する。
原料として表5に示すRh塩酸溶液を使用した。
【表5】

この溶液9LにNaOH水溶液を添加し90℃でpH7に調整した後、1晩放冷した。中和沈殿物を5Cろ紙で真空ろ過し、ろ液中にAgの一部を除去した。中和沈殿物は純水でリパルプ水洗後、ろ紙で真空ろ過する操作を2回繰返し、NaClを十分に除去した。
【0038】
Cl/Rhモル比が3.5になるよう塩酸を中和沈殿物に添加し、溶液のRh濃度が50g/l程度になるよう純水を添加したのち、80℃で30分間加熱し、中和物を完全に溶解した。溶液の色は赤褐色であった。
1晩放冷した後、0.1μmメンブランフィルターでろ過し、AgClを主成分とする沈殿物をろ過分離した。ろ液のAg濃度は45mg/lと、実施例1のAg濃度37mg/lと同程度の値であった。この時のRh未溶解ロスは0.1%であった。
【0039】
上記のろ液に、Cl/Rhモル比が4.0になるように塩酸を補加し、95℃で2時間加熱し、RhへのCl配位反応を促進させた。溶液の色は赤褐色から更に赤みを増した。室温まで放冷した液を抽出前液とした。
溶媒抽出は、DP−8R(大八化学製)をケロシンで20%に希釈したものを使用した。O/A=1:1で抽出前液に20%DP−8Rを添加し、撹拌しながらNaOHを添加し、pH3.8に調整した。
30分間撹拌後、分液ロートに移して静置し、有機相と水相を分離した。この操作を2回繰返した後の水相をDP−8R抽出後液とした。分相性は抽出2段とも良好であった。
分析値を表5に示す。Agを除く重金属、アルカリ土類金属を10mg/l以下まで除去することができた。この抽出操作によるRhロスは0.8%であった。
【0040】
なお、中和沈殿物を塩酸で溶解する際のCl/Rhモル比を1.3〜4.4まで変えて、実施例2と同様に、中和物を塩酸で再溶解、ろ過した液のAg濃度及びRh未溶解ロスを図6に示す。
中和物を塩酸再溶解する際のCl/Rhモル比を2.7〜3.5にすることで、Rhロスを0.5%以下に保ちつつ、Ag濃度を80mg/l未満まで低くできることが分かる。
【0041】
さらに、実施例2において、塩酸を補加する際のCl/Rhモル比を3.1〜7.1まで変えて、その他の操作は実施例1と同様に処理した後、実施例1と同様にDEHPAで抽出した時のRhロスを図7に示す。
Cl/Rhモル比4〜7.1において、抽出におけるRhロスは3%未満であった。また抽出後液中の重金属およびアルカリ金属は10mg/l未満であった。
【0042】
Cl/Rhモル比が大きい分には、DEHPAによる抽出でのRhロス、不純物除去には問題ないが、Cl濃度増加により、続けて実施する他の抽出操作においてNaOHを添加する際に、NaClが析出する原因となり好ましくない。
従って、Cl/Rhモル比は8以下にすることが好ましい。
【0043】
以上より、請求項2に示すとおり、Rhの塩酸水溶液中にアルカリを添加しpHを7〜12に調整し、Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離したのち、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが2.7〜3.5になるように塩酸で溶解したRh溶液をろ過することでAgを沈殿物として除去し、ろ液中のAg濃度を80mg/l以下にし、さらに、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが4〜8になるように塩酸を補加し加熱した液を、DEHPAで抽出することにより、Rhロスを4%未満とし、抽出後液中の重金属、アルカリ土類金属濃度を10mg/l未満まで除去できることが分かる。
【0044】
(比較例3)
原料として表6に示すRh塩酸溶液を使用した。
【表6】

中和沈殿物を塩酸で再溶解するときに、Cl/Rhモル比が4.0になるよう塩酸を添加し、純水を添加し濃度調整した後の加熱を60℃で30分間にした以外は、実施例1と同様に処理した塩酸再溶解液を抽出前液とした。
溶液の色は赤褐色であった。20%DP−8Rで、O/A=2:1で混合撹拌しながらNaOHを添加してpH3.8に調整後30分間撹拌し、分液ロートに移して30分間静置した後、有機相と水相を分離した。
【0045】
この操作を2回繰返した後の水相をDP−8R抽出後液とした。分相性は抽出2段とも界面に懸濁相が生成した。抽出前後の水相の分析値を表4に示す。抽出後液水相中のPb濃度13mg/lとPbの除去が不十分であった。
この抽出操作によるRhロスは7.7%であった。塩酸再溶解後の加熱が不十分であったため、RhへのCl配位が不十分になり、Rhクロロ錯体の一部が析出し懸濁相に取り込まれたか、DP−8Rへ一部抽出されてしまったことが考えられる。
【0046】
実施例1,2及び比較例3の条件とDP抽出における分相性、不純物除去、Rhロスについて、表7にまとめる。
【0047】
比較例3のように、Cl/Rhモル比が3〜4の範囲にあっても、実施例1に対して加熱温度が低く、加熱時間が短い場合には、DEHPA抽出時に中間相が生成し、不純物の抽出分離が悪化するとともにRhロスは7.7%と増大する。
一方、実施例1及び実施例2のように、Cl/Rhモル比3以上において、90℃以上で、1時間以上加熱すれば、DEHPA抽出におけるRhロスを1%未満に低減できることから、RhへのCl配位は十分に進んでいると考えられ、加熱温度及び加熱時間は十分であることがわかる。
【0048】
(実施例3)
(予め抽出処理前にRuを除去する法)
以下に予め抽出処理前にRuを除去する方法について実施例により、詳細に説明する。
原料として表8〜12に示すRh塩酸溶液を使用した。
Rh塩酸溶液のRu濃度が0mg/l及び10〜800mg/l程度ある以外は、実施例2と同様に処理した塩酸再溶解液を抽出前液とした。溶液の色は赤褐色であった。
20%DP−8Rで、O/A=1:1で混合撹拌しながらNaOHを添加してpH3.8に調整後30分間撹拌し、分液ロートに移して30分間静置した後、有機相と水相を分離した。
【0049】
この操作を1回実施した後の水相をDP−8R抽出後液とした。
処理対象液(塩酸再溶解(ろ過後))のRu濃度を変化させ、該液を抽出処理した後の水相及び処理前の分析値を表7〜12に示す。
【表7】

【表8】

【表9】



【表10】

【表11】

【表12】

処理結果について、抽出前液のRu濃度と、DP抽出における分相性、不純物除去、Rhロスについて、表13及び図8に示す。
【表13】

【0050】
抽出前液中Ru濃度が20mg/l以下であれば、DP抽出において、分相性がよく、Pb等重金属及びアルカリ土類金属を10mg/l未満まで除去でき、なおかつRhロスを6%未満にできることが分かる。
原因は、不明確であるが、抽出操作時にRuが水相中に安定的に存在できずにスラッジを生成するためと考えられる。
抽出操作前に行うべきRuの除去は、例えば蒸留操作により実施できる。
【0051】
以上により、実施例1,2,3によりDP抽出において、分相性良く、重金属、アルカリ土類金属を除去でき、なおかつRhロスも少ないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のフローシートの一態様を示す。
【図2】Rh塩酸溶液の中和処理pHとRhロスの関係を示す。
【図3】抽出前液のCl/Rhモル比に対するDP-8R抽出時のRhロスの関係を示す。
【図4】Rh中和物溶解時のCl/Rhモル比と溶解液中のAg濃度とRh未溶解ロスとの関係を示す。
【図5】本発明のフローシートの一態様であって、図1に示す態様と異なる態様を示す。
【図6】Rh中和物溶解時のCl/Rhモル比とAg濃度とRh未溶解ロスとの関係を示す。
【図7】抽出前液のCl/Rhモル比とDP-8R抽出時のRhロスの関係を示す。
【図8】抽出前液のRu濃度に対するDP-8R抽出時のRhロスの関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属、アルカリ土類金属のうち何れか1種以上の不純物と、Agを含むRhの塩酸水溶液について、アルカリを添加しpHを7〜12に調整し、
Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離し、塩酸で再溶解する時のRhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように塩酸添加量を調整した液を、ろ過してAgを沈殿物として除去した後、DEHPAで抽出することを特徴とするRh溶液の精製方法。
【請求項2】
請求項1において、Rhの塩酸水溶液中にアルカリを添加しpHを7〜12に調整し、Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離したのち、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが2.7〜3.5になるように塩酸で溶解したRh溶液をろ過してAgを沈殿物として除去した後に、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが4〜8になるように塩酸を補加した液を、DEHPAで抽出することを特徴とするRh溶液の精製方法。
【請求項3】
請求項1において、Rhその他の成分を沈殿させた中和沈殿物をろ過分離し、塩酸で再溶解する時のRhに対するClのモル比Cl/Rhが3〜4になるように塩酸添加量を調整する際に、90℃以上で加熱後に、冷却してからAgを沈殿物として除去した後、DEHPAで抽出することを特徴とするRh溶液の精製方法。
【請求項4】
請求項2において、Rhに対するClのモル比Cl/Rhが4〜8になるように塩酸を補加する際に90℃以上で加熱後に、室温まで冷却してからDEHPAで抽出することを特徴とするRh溶液の精製方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、Rh中和沈殿物を塩酸で再溶解した液中のRu濃度を20mg/l以下とし、DEHPAで抽出することにより、Rhの水相への回収率を高く保ちつつ、重金属、アルカリ土類金属を除去することを特徴とするRh溶液の精製方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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