S421におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害することによりハンチントン病を処置するための方法
本発明は、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させ、それによりポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を減少させる薬物によりハンチントン病にかかっている患者を処置するための方法に関する。有用な化合物は、シクロスポリンA、FK506、FK520、L685、818、FK523、15−0−DeMe−FK520、Lie120、フェンバレレート、レスメトリン、シペルメトリン、デルタメトリンからなる群から選択される。ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を選択、同定またはスクリーニングするための方法もまた開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンチントン病を処置するための方法、そのような方法において有用な医薬組成物、およびハンチントン病を処置するのに有用な化合物を同定するためのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンチントン病(HD)は、脳の一定の領域における遺伝的にプログラムされたニューロンの変性から生じる。西洋世界におけるHDの罹患率は、1万人中1人である。この変性は、制御されない運動、知能の喪失、および感情障害を生じる。HDは、常染色体優性神経変性疾患である。HD遺伝子を受け継いでいる人は、遅かれ早かれ疾患を発症する。HDのいくつかの初期症状は、気分変動、うつ、易興奮性、あるいは運転すること、新たに物事を学ぶこと、事実を記憶すること、もしくは決断することにおける困難である。疾患が進行すると、知的作業に対する集中力が次第に困難になり、次いで患者は自分で食事を取ることおよび嚥下することが困難となり得る。疾患の進行速度および発症年齢は人によってばらつきがある。完全な病歴ならびに神経学的および臨床的検査を合わせた遺伝子検査は、医師がHDを診断するのに役立つ。HD遺伝子を保因する危険性のある個体では、発症前検査が利用可能である。HDにかかっている個体の1〜3パーセントでは、HDの家族暦を見出すことができない。
【0003】
現時点において、HDの経過を停止または反転するための方法は存在しない。HDを処置するために使用される薬物は、症状を緩和するのみであり、疲労、焦燥感、または過剰興奮のような副作用を有する。従って、HD処置に対する強い必要性が存在している。
【0004】
HDは、タンパク質のハンチンチン(htt)においてポリグルタミン鎖をコードする染色体4p16.3に局在するIT15遺伝子のコーディング領域における異常に伸長したCAG鎖によって生じる。ハンチンチンが異常なポリQ伸長を含有する場合、それは毒性になる。ポリQ−ハンチンチンは細胞質において切断され、その後、核に移動し、ここで、それはユビキチン免疫陽性の核凝集体を形成する。核における場合、ポリQ−ハンチンチンは、機能機構の獲得を通して、転写調節障害およびニューロン死を誘導する(非特許文献1)。ハンチンチンの保護機能の喪失は、新たな毒性機能の獲得に伴って付随的および/または相乗的に作用し得る(非特許文献2)。これと一致して、BDNF転写の調節障害は、ハンチンチンの正常な機能の喪失に関連する。さらに、ハンチンチンがポリQ伸長を含有する場合、BDNF含有小胞を輸送し、ニューロン生存を促進する能力は喪失する(非特許文献3)。最終的に、凝集体は神経軸索でも見出され、また、微小管ネットワーク動力学および/または軸索輸送を変化させることによっても、ニューロン機能障害に寄与し得る(非特許文献4)。
【0005】
タンパク質分解、ユビキチン化およびスモ化のようないくつかの翻訳後修飾は、ハンチンチンの毒性を改変する。疾患において重要な役割を果たす別の翻訳後修飾は、リン酸化である。特に、Ser/Thrキナーゼ、Aktならびに血清およびグルココルチコイド誘導性キナーゼ、SGKは、セリン421(S421)においてハンチンチンをリン酸化する(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。S421におけるリン酸化は、続いて、HDの細胞モデルにおいてポリQ−ハンチンチン誘導性の毒性を無効にする(非特許文献5;非特許文献6)。しかし、S421のリン酸化がインビボにおいて不可欠であるかどうかについては不明である。さらに、ハンチンチンはサイクリン依存性キナーゼCdk5によりセリン434においてリン酸化され、このことがカスパーゼ類によるその切断を減少させる(非特許文献8)。
【0006】
FK506およびシクロスポリンのようなイムノフィリンリガンドは、最近、神経再生および神経保護のための推定上の治療ストラテジーとして記載されている(非特許文献9;非特許文献10)。従って、イムノフィリンリガンドは、神経変性疾患を処置することが示唆される。イムノフィリンリガンドは、2種類の活性を示す:1)それらはペプチジル−プロリルイソメラーゼ(PPIまたはロタマーゼ)を阻害する;2)それらはカルシニューリンを阻害し、それにより免疫抑制機能を示す。しかし、神経保護および神経再生におけるこれらの2種類の活性の役割については、まだ明らかにされていない。
【0007】
カルシニューリンは、ニューロンの酸化窒素シンターゼ(nNOS)の活性化に関与する。nNOSは、脂質、タンパク質、およびDNAに構造的損傷を引き起こす一酸化窒素(NO)を生成する。その他の点では、カルシニューリンは、BADを脱リン酸化し、Bcl−XLとのそのヘテロダイマー形成を増進し、アポトーシスを引き起こす。従って、カルシニューリンの阻害は、細胞死の下流メディエーターを阻止することができる。同様に、ミトコンドリア機能の安定化もまた、神経保護を介在することができる。
【0008】
カルシニューリン阻害活性を有していない非免疫抑制薬イムノフィリンリガンド(例えば、GPI−1046およびV10,367)が神経障害を処置するために開発されている。特に、パーキンソン病を処置するためのGPI−1046およびV10,367による臨床治験は成功していない。
【0009】
HD処置に関する具体的なデータは、非特許文献11を除いて報告されていない。この文献は、3NP(3−ニトロプロピオン酸)により処置された皮質細胞(ハンチンチン変異を再生しないHDの化学モデル)におけるインビトロ研究について報告している。3NP処置は細胞死を誘導し、次いでこの細胞死は、S421位におけるハンチンチンのリン酸化に直接関連しない不明な機構を介するFK506により阻害することができる。
【非特許文献1】ロスCA(Ross CA)(2002年)Neuron35:819−822.
【非特許文献2】カッターネオE(Cattaneo E)ら(2001年)Trends Neurosci24:182−188.
【非特許文献3】ゴーティエルLR(Gauthier LR)ら(2004年)Cell 118:127−138.
【非特許文献4】チャリンBC(Charrin BC)ら(2005年)Pathol Biol(Paris)53:189−192.
【非特許文献5】ハンバートS(Humbert S)ら(2002年)Dev Cell2:831−837.
【非特許文献6】ランゴンH(Rangone H)ら(2004年)Eur J Neurosci19:273−279.
【非特許文献7】ワービーSC(Warby SC)ら(2005年)Hum Mol Genet.
【非特許文献8】ルオS(Luo S)ら(2005年)J Cell Biol169:647−656.
【非特許文献9】クレットナーA(Klettner A)、ヘルダーゲンT(Herdegen T)(2003年)Curr Drug Targets CNS Neurol Disord2:153−162.
【非特許文献10】ポンK(Pong K)、ザレスカMM(Zaleska MM)(2003年)Curr Drug Targets CNS Neurol Disord2:349−356.
【非特許文献11】アルメイダS(Almeida S)ら(2004年)Neurobiol Dis17:435−444.
【0010】
本発明者らは、S421位におけるハンチンチンのリン酸化がインビボにおいて神経保護的であること、およびカルシニューリン(CaN)がS421を脱リン酸化することを実証する。CaN活性の阻害は、S421におけるハンチンチンのリン酸化の増加をもたらし、次いでニューロンのポリQ−ハンチンチン誘導性死を防止する。従って、本発明者らは、ポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を減少させることによるHDを処置する臨床アプローチとして、S421位のハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の利益を示す。
【0011】
従って、本発明は、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のために、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の使用に関する。特に、薬物は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止するかまたは減少させることを目的としている。S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、キナーゼAkt、タンパク質キナーゼA、ポロキナーゼ1、オーロラAおよびオーロラBならびに/またはSGKの活性を増加させる薬物であり得る。好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物である。より好ましくは、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物は、カルシニューリン阻害剤またはカルシニューリンとハンチンチンとの間の相互作用を阻害する薬物またはカルシニューリンの優勢な干渉形態である。最も好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物はカルシニューリン阻害剤である。一の実施態様では、カルシニューリン阻害剤は、シクロスポリンA、FK506、FK520、L685,818、FK523、15−0−DeMe−FK−520、Lie120、フェンバレレート、レスメトリン、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体からなる群から選択される。好ましくは、カルシニューリン阻害剤は、FK506、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体からなる群から選択される。より好ましくは、カルシニューリン阻害剤はFK506である。代替的に、カルシニューリン阻害剤は、カルシニューリンに特異的なRNA干渉であり得る。ハンチントン病にかかっている対象は、ハンチントン病変異を保因する。特に、HD変異は、IT15遺伝子のコーディング領域におけるCAG反復の異常な伸長(35を超える)である。この対象は前駆症状であり得るか、またはHD症状も発症している。この場合、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、ハンチントン病の症状を緩和する薬物との併用で使用することができる。
【0012】
最も好適な実施態様では、本発明は、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害することによって、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のためのFK506の使用に関する。
【0013】
さらなる実施態様では、本発明は、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させることが可能な化合物の選択もしくは同定を含んでなる、ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を同定またはスクリーニングするための方法に関する。
【0014】
図1。S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化は、インビボにおいて神経保護的である。ラット線条体に、480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入した。ラット線条体におけるポリQ−ハンチンチン誘導性病巣を、注入24週間後に分析した。DARPP−32抗体による免疫組織化学的分析を実施し、病巣のサイズをすべての構築物について調べ、次いで480−68Q構築物によって誘導される病巣の百分率として表した。予想どおり、DARPP−32−免疫応答性ニューロンの極端な喪失が、480−68Q−が感染された線条体において観察されたが、野生型タンパク質の発現は影響を示さなかった(対応のあるステューデントt検定;t[7]=6.95;***P<0.001)。S421におけるリン酸化の不在(480−68Q−S421A)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの増加を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[6]=3.17;*P<0.05)。対照的に、S421における構成性(480−68Q−S421D)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの減少を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[7]=3.46;*P<0.05)。抗HA免疫組織化学的分析は、すべての構築物が同様のレベルで発現されることを示した(下方のパネル)。
【0015】
図2。カルシニューリンは、インビトロでS421を脱リン酸化する。精製されたカルシニューリンによるS421の時間経過(図2A)および用量依存的(図2B)脱リン酸化。ヒトハンチンチンのGST−結合フラグメント(アミノ酸384−467)を、組み換えAkt(0.2μg/サンプル)でリン酸化し、次いで、2μg(A)または異なる量(B)の精製されたカルシニューリンと共に示された時間(A)または60分間(B)、インキュベートした。抗ホスホハンチンチン−S421−763または抗ハンチンチン(1259)抗体を使用して、イムノブロッティング実験を実施した。
【0016】
図3。カルシニューリンは、細胞においてハンチンチンのS421を脱リン酸化する。図3A、マウス線条体(+/+細胞)を、ハンチンチンのN末端フラグメント(480−17Q)、Akt、カルシニューリンの構成性活性形態(CaNA−ΔCaM/CaNB)または対応する空ベクターでトランスフェクトし、抗ホスホハンチンチン−S421−714または抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロット分析のために処理した。3つの独立した実験からのデータは、カルシニューリンの構成性活性形態は、Aktによって誘発されるS421のリン酸化を有意に減少させることを示す(ステューデントt検定;t[3]=3.63;*P<0.05)。図3B、SHSY−5Y細胞を、カルシニューリンの触媒不活化形態(CaNA−D130N)、Aktまたは対応する空ベクターでトランスフェクトし、次いで抗ホスホハンチンチン−S421−763で分析した。データは3つの独立した実験から得たものである(分散分析(ANOVA);F[2,6]=17.31;P=0.032)。S421に対する内因性ハンチンチンのリン酸化は、カルシニューリンの触媒不活化構築物(ステューデントt検定;t[4]=4.34;*P<0.05)およびAkt(t[4]=5.26;**P<0.01)によって有意に増加した。
【0017】
図4。ハンチンチンはカルシニューリンと共局在し、Ca2+誘導性カルシニューリン活性化により脱リン酸化される。図4A、イオノマイシン(Io、下方のパネル)は、野生型CaNA/CaNBでトランスフェクトされた細胞におけるハンチンチンS421リン酸化を減少させた。SHSY−5Y細胞を、非処置細胞(N.T.、上部パネル)との比較で、野生型形態のCaNA/CaNBで共トランスフェクトした。グラフは、32細胞から放出されるホスホ−S421−htt(763抗体)シグナルの平均蛍光強度の定量化に相当し(ANOVA;F[3,28]=7,05;P=0.0011)、次いでハンチンチンのイオノマイシン誘導性脱リン酸化が有意であることを示す(フィッシャーの事後検定;***P<0.001)。図4B、ハンチンチンは、小胞構造に対するカルシニューリンの触媒サブユニット(CaNA)と共局在する。線条体ニューロンにおけるハンチンチン(1259抗体)、ホスホ−S421−ハンチンチン(714抗体)およびCaNAに対する免疫染色。神経突起に沿った小胞構造において実質的な共局在が観察された(拡大図を参照のこと)。スケールバー、5μm。
【0018】
図5。カルシニューリンの優勢な干渉形態は、線条体ニューロンにおいて、S421のリン酸化依存的様式でポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を阻害する。図5A、線条体ニューロンにおいて、野生型ハンチンチン(480−17Q)またはポリQ−ハンチンチン(480−68Q)を、触媒不活性形態のカルシニューリンをコードする発現ベクター(CaNA−D130N)または対応する空ベクターとともに共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,56]=6.99;P=0.0004)は、CaNA−D130Nが、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死を有意に減少させたことを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、***P<0.0001)。図5B、線条体ニューロンを、CaNAα、CaNAβまたは両方のアイソフォームに対するsiRNAでヌクレオフェクト(nucleofected)し、次いで30時間後、図5Aのように480−68Qでトランスフェクトした。CaNの両方のアイソフォームに対するsiRNAの組み合わせは、ウエスタンブロット分析による検出では、CaNA発現を効率的に減少させた。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,6]=5.33;P=0.039)は、ポリQ依存的毒性に対する保護効果を実証した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。図5C、線条体ニューロンを、480−68Qまたはリン酸化不能形態(480−68Q−S421A)およびCaNA−D130Nで共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[2,41]=4.30;P=0.0004)は、触媒不活形態のカルシニューリンが480−68Q−S421A構築物によって誘発されるポリQ依存的細胞死を妨げないことを実証し(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、**P<0.01)、神経保護がS421のリン酸化に依存することを示した。
【0019】
図6。FK506によるカルシニューリンの阻害は、S421の脱リン酸化を防止する。ジャーカット(Jurkat)細胞におけるFK506による処置(20分間、1μM)は、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化を増加させた(左)。カルシウムイオノフォアイオノマイシン(Io、2.5μM)は、ジャーカット(Jurkat)細胞におけるS421の迅速な脱リン酸化を誘導した。Io誘発性S421脱リン酸化は、FK506(1μM)によって妨げられた(右)。処置されたジャーカット(Jurkat)細胞の全細胞抽出物を、抗ホスホハンチンチン−S421−763および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。図6B、ラット線条体ニューロンのFK506処置後のS421の時間経過および用量依存的リン酸化。ニューロンを、1μMのFK506で異なる時間(上)または示された濃度で2時間(下)処置した。全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的(抗ホスホハンチンチン−S421−714)および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。
【0020】
図7。109Q/109Q細胞は、FK506によって増加され得るS421におけるハンチンチンのリン酸化の減少を示す。図7A、野生型(+/+)または変異マウス(109Q/109Q)から生じる不死化ノックイン細胞の全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的および抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロットによって分析した。図7B、FK506(0.2μM、48時間)は、野生型およびポリQ−ハンチンチンにおけるS421のリン酸化を増加させた。図7C、FK506は、ニューロンをポリQ仲介細胞死から保護した。線条体ニューロンを、異なる用量のFK506またはビヒクルの存在下で、480−68Qでトランスフェクトした。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[5,68]=8.02;P=0.0001)は、FK506が、480−68Qによって誘導されるニューロン死を有意に減少させることを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。
【0021】
図8。FK506のマウスへの投与は、脳におけるS421のリン酸化の増加を生じる。FK506をマウスに腹腔内または経口的に投与した(5mg/kg)。動物を、投与後の示された時間に屠殺し、脳を切開し、ホモジェナイズし、次いでウエスタンブロット分析用に処理した。脳全体の抽出物を抗−ホスホ−S421、抗ホスホ−S473−Akt、抗全ハンチンチンおよび抗全Akt抗体で調べた。下のパネルは、2回反復で実施した2つの独立した実験の濃度測定分析に対応する。合計で18匹のマウスを屠殺した。上から下へおよび左から右へ:(ANOVA;F[3,4]=11.52、P=0.019);(ANOVA;F[3,4]=8.694、P=0.031);(ANOVA;F[3,4]=1,668、P=0.31);(ANOVA;F[3,4]=0.97、P=0.4);*P<0.05、**P<0.01。
【0022】
図9。多様な480フラグメントの注入プロトコルの概要を表す図。29匹の動物に対して実験を行った。注入1週間後、2匹のラットを分析して、ハンチンチンの発現を制御した。注入12週間後、各グループの1匹の動物において病巣を評価した。この時点では病巣は有意ではなかったため、すべての動物の最終的評価を、注入24週間後に実施した。グルタミンの数(17Qまたは68Q)およびハンチンチンの各注入されたフラグメントに対するセリン421の変異を、ラット脳切片上の各半球上に示す。nは、条件あたりの動物の数を示す。
【0023】
図10。480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入したラット線条体を、注入24週間後に、抗DARPP−32および抗ホスホ−S473−Akt(9277,Cell Signaling Technology)抗体を使用する免疫組織化学によって分析した。ポリQ−ハンチンチン感染領域においてDARPP−32のダウンレギュレーションが観察されるが、リン酸化形態のAktに対するニューロンの免疫陽性の存在によって示されるように、ニューロン喪失の徴候は観察されなかった。
【0024】
図11。IGF−1およびAktは、主要なニューロンおよびHDニューロン細胞における輸送のポリQ−ハンチンチン誘導性の変化をレスキューする。図11A、IGF−1は、FL−htt−75Qを発現する皮質ニューロンの初代培養物において、BDNF含有小胞の平均速度(左)を有意に増加させ、それらの休止時間(右)を減少させた。図11B、109Q/109Q細胞において変化されたBDNF輸送は、速度(左)を増加させ、休止時間(右)を減少させるIGF−1によって改善される。図11C、Aktは、速度(左)を有意に増加させ、休止時間(右)を減少させる(*P<0.05)ことによって、109Q/109Q細胞における輸送の欠如を完全に阻害する。
【0025】
図12。S421におけるハンチンチンのリン酸化は、輸送を調節し、ポリQ−ハンチンチンの機能の喪失を回復する。図12A、コントロール条件(BDNF単独)、ならびにニューロン細胞において17もしくは75Qを伴うFL−htt、または17もしくは68Qを伴うN末端フラグメント480のトランスフェクション後におけるBDNF含有小胞の平均速度(左)および休止時間(右)の測定は、480アミノ酸のhttのN末端フラグメントが輸送を刺激することができるが、ポリQ伸長を含有する場合、変化されることを実証する。図12B、480−S421A構築物の存在下におけるBDNF含有小胞の速度(左)における有意な減少および休止時間(右)における増加により示されるように、S421がリン酸化されない場合、輸送を促進する野生型480フラグメント(480−17Q)の能力は失われる。図12C、480−17Q構築物と比較して、480−17Q−S421A構築物では、Aktの存在下におけるBDNF小胞の平均速度が減少させ、そして小胞の休止時間が増加させるため、BDNF輸送を増強するAktの能力は、httのS421のリン酸化により介在される。図12D、480−68Q構築物におけるS421D変異は、480−68Q構築物と比較して、小胞の平均速度(左)および休止時間(右)をレスキューする。(*P<0.05)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
線条体においてポリQ−ハンチンチンフラグメントのレンチウイルス介在の発現に基づくHDのラットモデルを使用して、本発明者らは、S421のリン酸化がインビボにおいて神経保護的であることを実証する。本発明者らはまた、カルシニューリン(CaN)、カルシウム/カルモジュリン調節Ser/Thrタンパク質ホスファターゼがインビトロおよび細胞においてS421を脱リン酸化することを実証する。重要なことに、優勢な干渉形態の過剰発現、RNA干渉または特異的インヒビターFK506のいずれかによるCaN活性の阻害は、S421におけるハンチンチンのリン酸化の増加をもたらし、線条体ニューロンのポリQ介在死を防止する。最終的に、本発明者らは、FK506のマウスへの投与が、脳におけるハンチンチンS421のリン酸化を増加させることを示す。まとめれば、これらのデータは、S421リン酸化の調節におけるCaNの重要性を強調し、それがポリQ誘導性毒性を減少させる場合、HDを処置する臨床アプローチとしてのCaN阻害の使用可能性を示唆する。
【0027】
タンパク質ホスファターゼ2B(PP2B)としても公知であるカルシニューリン(CaN)は、Ca2+−カルモジュリンによって生理学的に活性化されるリン酸化タンパク質Ser/Thrホスファターゼである(総説については、マンシー(Mansuy)、2003年を参照のこと)。従って、それは、細胞内カルシウムと、転写因子(活性化T細胞の核因子、NFAT)、イオンチャンネル(イノシトール−1,4,5三リン酸受容体)、小胞輸送に関与するタンパク質(アンフィフィシン、ダイナミン)、構造タンパク質(AKAP79)およびホスファターゼインヒビター(DARPP−32、インヒビター−1)を含む選択された脱リン酸化の基質とを結合させる。CaNは、哺乳動物のすべての組織に存在し、脳においては特に高レベルであり、いくつかの研究は、それが、脳の全タンパク質含有量の1%を占め得ることを示している。触媒サブユニットは、皮質、線条体および海馬において主に発現される。中枢神経系内において、それが長期記憶のためのネガティブ制限と考えられるため、CaN活性はシナプス可塑性に関与している。神経末端では、CaNは、Ca2+に応答して、小胞および細胞膜タンパク質を脱リン酸化することによりシナプス小胞エンドサイトーシスを誘発する。最終的に、CaNは、これらの薬物のそれらの適切な受容体(イムノフィリン類)への結合を介し、シクロスポリンAおよびFK506のような薬物によって阻害される;ハマウィ(Hamawy)、2003年)。FK506およびその誘導性イムノフィリンリガンドは、シクロスポリンとは異なり、血液−脳関門を容易に通過することができる(ポン(Pong)およびザレスカ(Zaleska)、2003年)。
【0028】
本発明者らは、以前、ハンチンチンが、脳由来神経栄養因子(BDNF)のような小胞の細胞内輸送のための作用因子(processivity factor)であることを示した。HDでは、皮質ニューロンにおけるBDNF小胞の輸送が変化され、線条体における栄養支持の減少およびニューロン毒性がもたらされる。本発明では、本発明者らは、IGF−1/Akt経路によるS421におけるハンチンチンのリン酸化がポリQ伸長によって変化された輸送をレスキューし、次いで外部へのBDNFの流動を促進することにより、神経栄養の支持を増加させることを実証する。これらの結果は、HDにおけるS421リン酸化の神経保護効果を解明し、S421のリン酸化が輸送におけるハンチンチン機能をレスキューすることから、ハンチンチンリン酸化を増強する薬物が治療上重要であることを示唆する。さらに、本発明者らは、セリン421におけるAktによるハンチンチンのリン酸化が、正常なハンチンチンだけではなくポリQ−ハンチンチンの能力を調節して輸送を促進することを実証する。
【0029】
本発明は、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のために、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の使用に関する。好ましくは、薬物は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止するかまたは減少させることを目的としている。薬物はまた、軸索輸送におけるハンチンチンの活性を回復することを目的としている。
【0030】
本発明はまた、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる治療量の薬物を投与し、それによりポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させることによって、ハンチントン病にかかっている対象を処置するための方法に関する。特に、薬物は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止または減少させることを目的としている。薬物はまた、軸索輸送におけるハンチンチンの活性を回復することを目的としている。
【0031】
ハンチントン病にかかっている対象は、ハンチントン病遺伝子を保因するHD変異を保因する対象である。ハンチントン病を発症する変異は、ハンチンチン遺伝子(IT15遺伝子とも呼ばれる)における異常な(anormal)CAG反復伸長である。実際、正常な個体では、反復は6〜35回の間で生じる。HDにかかっている対象では、反復は、36回を超えて、一般的には、40回〜80回を超えて生じる。この変異は、ハンチンチンと命名されたタンパク質におけるポリグルタミン(ポリQ)伸長を生じる。
【0032】
ハンチントン病にかかっている対象は前駆症状であり得る。前駆症状の対象は、遺伝子検査によって同定される。米国特許第4,666,828号明細書は、対象におけるハンチントン病の遺伝子の存在を検出するための方法を開示し、それはヒト第4染色体におけるハンチントン病に関連するDNA多型、特に、RFLPの分析を含んでなる。好適な実施態様では、検査は、ハンチントン病変異の存在についてDNAを直接分析する(クレーメル(Kremer)ら、1994年)。もちろん、対象が異常な(anormal)ハンチンチンタンパク質または遺伝子を有するかどうかを調べうる任意の検査が、本発明において想定される。
【0033】
従って、本発明はHD対象を処置するための方法であって:対象におけるHD変異の存在を検出すること;次いでS421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる治療量の薬物をHD変異にかかっている対象に投与し、それによりポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止または減少させることを含んでなる方法に関する。特に、対象におけるHD変異の存在を検出することは、IT15遺伝子におけるCAG反復の数の決定を含んでなる。36を超える反復、好ましくは、40を超える反復にかかっている対象は、HD変異を有するものとみなされる。代替的に、対象におけるHD変異の存在を検出することはまた、ポリグルタミン伸長のサイズを決定することにより、ハンチンチンタンパク質レベルにおいても行うことができる。
【0034】
代替的に、ハンチントン病にかかっている対象はHD症状を示し得る。HD症状は当業者に周知である。例えば、それらは、制御されない運動、知能の喪失(例えば、認知症)、および感情障害(例えば、うつ)を含んでなる。この場合、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、ハンチントン病の症状を緩和する薬物との併用で使用することができる。例えば、HD症状を処置するそのような薬物は、抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジン、オランザピン)、抗うつ薬(フルオキセチン、塩酸セルトラリン、ノルトリプチリン)、精神安定剤(ベンゾジアゼピン系薬剤、パロキセチン、ベンラファキシン、β遮断薬)、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)、およびボツリヌス毒素であり得る。
【0035】
好ましくは、対象は、霊長類、より好ましくは、高等な霊長類、最も好ましくは、ヒトである。
【0036】
HDにかかっている対象の処置は、運動協調性の改善、生存率の上昇、前駆症状HD対象におけるハンチントン病の発症の防止、HD発達の遅延もしくは停止および/またはHDの軽減を生じ得る。実際に、本発明に従う処置により、ポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止しまたは減少させ、それによってポリQ−ハンチンチンにより誘導されるニューロン死を阻止するかまたは減少させる。従って、前駆症状段階のようなHDの初期段階において、HD発達は防止されるべきである。HDの後期段階において、HD発達は阻害または減速されるべきである。本発明者らはまた、本発明において、S421におけるハンチンチンのリン酸化の増加は、軸索輸送、特に、正常なハンチンチンの抗アポトーシス作用に関連するBDNF輸送におけるその活性の完全または部分回復を生じることを示した。
【0037】
本発明に従う処置後はその軸索輸送能力の増加によりハンチンチンの抗ニューロン死の役割が増加するため、本発明は、さらに、神経変性疾患にかかっているまたはこの疾患の危険性のある対象におけるハンチンチンによる軸索輸送を増加させるための医薬品の製造のためのS421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の使用を想定する。神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病からなる群から選択され得る。本発明はまた、神経変性疾患を患うまたはこの疾患の危険性のある対象を処置するための方法であって、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる治療量の薬物を投与し、それによりハンチンチンによる軸索輸送を増加させることを含んでなる方法を想定する。ハンチンチンによる軸索輸送の増加は、抗アポトーシス効果を示すことを目的としている。
【0038】
S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、キナーゼAkt、タンパク質キナーゼA、ポロキナーゼ1、オーロラA、オーロラBおよび/またはSGKの活性を増加させる薬物であり得る。しかし、好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物である。より好ましくは、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物は、カルシニューリン阻害剤またはカルシニューリンとハンチンチンとの間の相互作用を阻害する薬物である。最も好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物はカルシニューリン阻害剤である。
【0039】
カルシニューリン阻害剤として、シクロスポリンA(Novartis International AG、瑞国)、FK506(Fujisawa Healthcare,Inc.,Deerfield、イリノイ州、米国)、FK520(Merck&Co,Rathway、ニュージャージー州、米国)、L685,818(Merck&Co)、FK523、15−0−DeMe−FK−520(リュウ(Liu)、Biochemistry,31:3896−3902(1992年))、Lie120、フェンバレレート(Merck&Co)、レスメトリン(Merck&Co)、シペルメトリン(Merck&Co)およびデルタメトリン(Merck&Co)が挙げられるが、これらに限定されない。国際公開第2005087798号パンフレットには、カルシニューリンを阻害するシクロスポリン誘導体が記載されている。
【0040】
カルシニューリンは、触媒サブユニット(カルシニューリンA)および調節因子サブユニット(カルシニューリンB)からなるヘテロダイマーである。次いで、カルシニューリンの活性はまた、その発現、特に、そのサブユニットの発現を阻止することによっても、阻害することができる。好適な実施態様では、カルシニューリンの活性はまた、調節因子サブユニットBの発現を阻止することによっても阻害することができる。代替的な好適な実施態様では、カルシニューリンの活性はまた、調節因子サブユニットA、CaNAαまたはCaNAβのいずれかの発現を阻止することによっても阻害することができる。発現は、当業者に公知の任意の手段、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、短鎖干渉RNA(siRNA)および短鎖ヘアピンRNA(shRNA)のような化学的に合成されたオリゴヌクレオチドによって阻止することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的mRNAに相補的であり、典型的には10〜50merの長さ、好ましくは15〜30merの長さ、より好ましくは18〜20merの長さを有する短い一本鎖分子である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは、開始コドン、標的遺伝子の転写開始部位またはイントロン−エキソン接合部位を標的として設計される(総説については、カーレック(Kurreck)、2003年)。リボザイムは、触媒活性を保持する一本鎖RNA分子である。リボザイム作用の機構は、リボザイム分子の相補的標的RNAへの配列特異的相互作用、それに続くエンドヌクレアーゼ切断に関与する。リボザイムは、切断NUHトリプレット、好ましくはGUCを含んでなる目的の標的RNAと相互作用するように操作される(総説については、ウスマン(Usman)ら、2000年)。siRNAは、通常、21または23ヌクレオチド長であり、19もしくは21ヌクレオチド二重鎖配列および2ヌクレオチド長の3’オーバーハングを伴う。shRNAは、siRNAの2本鎖間にループを形成するさらなるいくらかのヌクレオチドを除いて、siRNAをコードする配列についてのものと同じ規則で設計される。(総説については、ミッタル(Mittal)、2004年を参照のこと)。特定の実施態様では、阻害するオリゴヌクレオチドは、ベクター、好ましくは、阻害するオリゴヌクレオチドの発現を可能にする構築物を含んでなるウイルスベクターによって発現される。例えば、ウイルスベクターは、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスまたはHSVであり得る。実施例では、siRNAによってカルシニューリン阻害を実施するための1つの方法を詳細に開示した。
【0041】
特定の実施態様では、本発明は、医薬品としてのカルシニューリンに特異的なRNA干渉に関する。好適な実施態様では、本発明は、ハンチントン病を処置するための医薬品の製造のためのカルシニューリンに特異的なRNA干渉の使用に関する。そのようなRNA干渉は、CaNAα(NM_000944)および/またはCaNAβ(NM_021132)が対象とされる。
【0042】
カルシニューリン阻害剤はまた、カルシニューリン、特に、CaNAおよび/またはCaNBの優勢な干渉形態であり得る。カルシニューリンの優勢な干渉形態は、例えば、CaNA−D130Nであり得る。カルシニューリンの優勢な干渉形態の他の例には、CaNA−H101Q(ワング(Wang)ら、1999年、Science284、339−343)、CaNA−H160QおよびCaNA−H290Q(シバサキ(Shibasaki)ら、1996年、Nature、6589、370−373;ニシムラ(Nishimura)およびタナカ(Tanaka)、2001年、J.Biol.Chem..、276、19921−19928)、H160Q(チュー(Zhu)ら、2000n J.Biol.Chem.、275、15239−15245)、D148−152(ヤマシタ(Yamashita)、2000年、J.Exp.Med.、191、1869−1880)ならびにDnter−DcaM(ムラマツ(muramatsu)およびキンカイド(Kincaid)、1996年、BBRC、218、466−472;ムサロ(Musaro)ら、1999年、Nature、6744、581−585)がある。従って、カルシニューリンの優勢な干渉形態は、ベクター、好ましくは、その発現を可能にする構築物を含んでなるウイルスベクターによって発現される。例えば、ウイルスベクターは、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスまたはHSVであり得る。
【0043】
代替的に、カルシニューリンの活性は、カルシニューリンサブユニット間の相互作用、特に、サブユニットAおよびBの間の相互作用を阻害する薬物により阻害することができる。カルシニューリンの活性は、カルシニューリンとカルモジュリンとの間の相互作用を阻害する薬物によって阻害することができる。カルシニューリン阻害はまた、キャビン1(cabin1)、カルシプレッシン(calcipressin)類およびAKAP79を含むカルシニューリンの内因性インヒビターの活性化によっても得ることができる。
【0044】
薬物の「類似体」とは、類似の構造的特徴を有し、特にカルシニューリンを阻害する同じ生物学的活性を有する化合物が意図される。
【0045】
カルシニューリンを阻害する他の薬物は、当該技術分野において既に開示されているスクリーニング方法によって同定することができる。例示として、米国特許第6,875,581号明細書および同第6,338,946号明細書は、カルシニューリン活性のモジュレーターを同定するのに有用なスクリーニング方法について記載している。
【0046】
従って、本発明はまた、ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を同定またはスクリーニングするための方法であって、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させることが可能な化合物の選択もしくは同定を含んでなる方法に関する。
【0047】
本方法は以下を含んでなることができる:
a)ハンチンチンタンパク質またはS421を含んでなる少なくとも50個の連続アミノ酸のそのフラグメントを提供することであって、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントがリン酸化S421を有すること;
b)カルシニューリンを提供すること;
c)候補化合物と、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントおよび前記カルシニューリンとを接触させること;次いで、
d)カルシニューリンによるハンチンチンS421の脱リン酸化を阻害する候補化合物を選択すること。
【0048】
代替的に、本方法は以下を含んでなることができる:
a)候補化合物と、ハンチンチンタンパク質を発現し、S421位においてハンチンチンをリン酸化するキナーゼおよびカルシニューリンを含んでなる細胞とを接触させること;
b)S421位においてリン酸化されるハンチンチンの量および/またはS421位においてリン酸化されないハンチンチンの量を評価すること;次いで、
c)候補化合物と接触されていないコントロール細胞を比較して、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる候補化合物を選択すること。
【0049】
好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンのリン酸化は、S421位においてリン酸化されたハンチンチン特異的な抗体、特にウエスタンブロットにより検出される。好ましくは、細胞はニューロン、特に、線条体ニューロンである。しかし、いかなる種類の細胞が本発明において想定される。
【0050】
カルシニューリンを阻害する薬物は、様々な起源のもの、天然物および組成物であり得る。それは、単離されたもしくは他の物質との混合において、脂質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、小分子などのごときいずれの有機または無機物質であり得る。好適な実施態様では、薬物は小分子である。他の好適な実施態様では、薬物はペプチドまたはポリペプチドである。さらなる実施態様では、薬物は、核酸、例えば、アンチセンス、siRNA、リボザイムである。別の実施態様では、薬物はアプタマーである。好適な実施態様では、カルシニューリンを阻害する薬物は、血液−脳関門を通過する。
【0051】
本発明において使用される薬物は、一般的に医薬上許容されるキャリアを含んでなる医薬組成物として製剤化されうる。医薬上許容されるキャリアとは、処置される哺乳動物に生理学的に許容可能である一方、それと共に投与される薬物の治療特性を保持するキャリアを意図する。例えば、医薬上許容されるキャリアは、生理食塩溶液であり得る。他の医薬上許容されるキャリアは当業者に公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第20版、A.R.ゲンナロAR.(A.R.Gennaro AR.)、2000年、Lippincott Williams & Wilkins)に記載される。
【0052】
本発明の組成物は、経口的、非経口的、吸入スプレーにより、局所的、直腸内、経鼻的、頬側的、膣内にまたは移植リザーバを通して投与することができる。本明細書で使用される用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内および頭蓋内注入または輸注技術を含む。好ましくは、組成物は、経口的、腹腔内または静脈内に投与される。血液−脳関門を通過しない薬物については、例えば、定位注入によって脳に薬物を注入することを必要とする。
【0053】
「治療量」とは、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させるのに十分である薬物の量を意図する。薬物の有効量は、投与形態、対象の年齢、体重、性別および総合的な健康状態に依存して変動する。好適な実施態様では、それは、カルシニューリン活性を効率的に阻害し、それによりポリQ−ハンチンチン毒性を阻止または減少させるのに十分な量である。効果は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死による、S421位におけるハンチンチンのリン酸化状態によって評価することができる。所定の適用に対する治療量を決定するために当該技術分野に公知の多くの方法が存在することが理解される。例えば、FK506の用量は、0.001mg/kg/日〜10mg/kg/日、好ましくは、経口投与による0.01〜10mg/kg/日の間および静脈内注入による0.001〜1mg/kg/日の間、好ましくは、0.01〜0.5mg/kg/日の間であり得る。投与プロトコルは当業者に周知である。特定の実施態様では、血中FK506レベルは、5〜40ng/mlの間、好ましくは、15〜20ng/mlの間に含まれる。従って、FK506の投与用量は、上記の血中FK506レベルを得るために適合されうる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は本発明を例示する。
【0055】
材料および方法
構築物。pSIN−480−17Q、pSIN−480−68Q、pSIN−480−68Q−S421AおよびpSIN−480−68QS421Dを、それぞれ、480−17Q、480−68Q、480−68Q−S421Aおよび480−68Q−S421Dプラスミドから作製した(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。これらのプラスミドは、17もしくは68グルタミンおよび421位におけるセリンからアラニンへの変異(S421A)またはセリンからアスパラギン酸への変異(S421D)を伴うハンチンチンの最初の480アミノ酸のフラグメントをコードする。最初に、PCRストラテジーを用いて、順方向プライマー:5’GCAGCTCACTCTGGTTCAAGAAGAG3’(配列番号1)およびヘマグルチニン−タグ(HA)を含有する逆方向プライマー:
5’CTCGAGTTAAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGGTAGGATCTAGGCTGCTCAGTG3’(配列番号2)を使用して、480構築物のC末端部を改変した(QuickChange部位特異的変異誘発;Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州、米国)。様々なフラグメントを、親480−17Q/68Qプラスミドにクローン化することにより、C末端HAタグを有し、S421、S421AおよびS421D変異を伴うベクター480−17Q/68Qを作製し、次いで、SINW−PGK−GDNFにサブクローン化した(BamHI−XhoI;デグロン(Deglon)ら、2000年)。
【0056】
以前報告したように、レンチウイルス粒子を293T細胞において生成し、リン酸緩衝食塩水(PBS)/1%ウシ血清アルブミン(BSA)中で再懸濁した。ウイルスバッチの粒子含有量を、p24抗原ELISA(PerkinElmer Life Sciences、Boston、マサチューセッツ州、米国)により決定した。
【0057】
野生型Akt、構成的に活性なAkt(Akt c.a.)、野生型CaNA、構成的に活性な(Ca2+−非感受性)形態のCaNA(CaNA−ΔCaM)、触媒不活性の優勢な干渉形態のCaNA(CaNA−D130N)とCaNB、BDNF−eGFP、ならびに様々なハンチンチン構築物480−17Q、480−68Q、480−17Q−S421A、480−68Q−S421A、480−17Q−S421D、480−68Q−S421D、WTおよびポリQ−FL−httをコードするベクターをすでに記載している。
【0058】
動物。体重約180〜200gの成体雌のWistarラット(Iffa−Credo/Charles River、Les Oncins、仏国)を使用した。動物を12時間の明/暗サイクルに維持された温度制御された部屋で飼育した。食物および水を自由に摂取させた。
【0059】
FK506(Alexis、Lausen、瑞国)を、5〜6週齢のC57/BL6雄マウス(Iffa−Credo/Charles River、Les Oncins、仏国)に、経口または腹腔内注入(5mg/kg)により投与した(ダン(Dunn)ら、1999年;シング(Singh)ら、2003年)。経口投与では、FK506を100μlの0.5%カルボキシメチルセルロース(Sigma)に溶解した。腹腔内投与では、FK506を200μlのCremophor(登録商標)(Sigma)に溶解させた。マウスを、投与後の示された時間後に屠殺した。脳全体を、1μMオカダ酸(Sigma)、1μM FK506(Alexis)、1μMシクロスポリンA(Sigma)および40nMトートマイシン(Calbiochem、Darmstadt、独国)を添加した1%TritonX−100溶解緩衝液(ウエスタンブロット分析のセクションを参照のこと)中でホモジェナイズし、次いで20,000×g(5分間;4℃)で遠心分離した。上清のアリコートを6%SDS−PAGEにより分離させた。
【0060】
動物を使用する研究は、ヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki)、ならびに米国の国立衛生研究所(National Institutes of Health)で採用され、推奨される実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従い実施した。
【0061】
レンチウイルスの注入。濃縮されたウイルスストックを融解し、ピペッティングの反復により再懸濁させた。レンチウイルスベクターを、34ゲージのブラントチップ針を伴うHamiltonシリンジ(Hamilton、Reno、ネバダ州、米国)を使用して、ケタミン(75mg/kg、腹腔内)およびキシラジン(10mg/kg、腹腔内)麻酔した動物の線条体に定位注入した(David Kopf Instruments、Tujunga、カリフォルニア州、米国)。各ベクターについて、粒子含有量を200,000ng p24/mlに合わせた。ウイルス懸濁液(4μl)を、自動注入機(Stoelting Co.、Wood Dale、イリノイ州、米国)により0.2μl/分で注入し、次いで針をさらに5分間留置した。定位座標は:ブレグマに対し0.5mm吻側;正中線に対し3mm外側および頭蓋表面より5mmであった。6−0Prolene(登録商標)縫合糸(Ethicon,Johnson and Johnson、Brussels、白国)を用いて皮膚を縫合した。
【0062】
組織学的処理。レンチウイルス注入1、12および24週間後、動物に過剰用量のペントバルビタールナトリウムを投与し、生理食塩水および4%パラホルムアルデヒド/10%ピクリン酸により心臓潅流(transcardially perfused)した。脳を取り出し、4%パラホルムアルデヒド/10%ピクリン酸中に約24時間固定後、最後に、25%スクロース/0.1Mリン酸緩衝液中で48時間凍結保護した。脳をドライアイスで凍結させ、−20℃において、スライディングミクロトームクラリオスタット(Cryocut 1800、Leica Microsystems AG、Glattbrugg、瑞国)上で25μmの冠状切片に切断した。線条体全体を通しての切片を採取し、48ウェルトレイ(Costar、Cambridge、マサチューセッツ州、米国)において、0.12μMアジ化ナトリウムを添加したPBS中で浮遊切片として貯蔵した。免疫組織学的処理まで、トレイを4℃で貯蔵した。
【0063】
注入したラット由来の線条体切片を、ドーパミンおよび32kDaの分子量のcAMP調節リン酸化タンパク質(DARPP−32;1:7500;Chemicon International Inc.,Temecula、カリフォルニア州、米国)について、ならびに以前記載されたベンザドウン(Bensadoun)ら、2001年)のごときHA−タグ(モノクローナル抗HA抗体;1:1000;Covance Research Products,Berkeley カリフォルニア州、米国)について、免疫化学により処理した。続いて、切片を、ビオチン化された二次ヤギ抗マウスまたはヤギ抗ウサギ抗体(Vector laboratories,バーリンガム、カリフォルニア州、米国)によりインキュベートし、以前記載したように視覚化を行った。
【0064】
DARPP−32欠失領域の定量化および統計解析。DARPP−32のダウンレギュレーションを、病巣を含有する各切片において、画像解析プログラム(NIH Image1.63)を用いて測定した。各切片について、最初に、T値を得るために、線条体の標的化された領域、およびウイルスに感染しなかった線条体の非感染領域(NI)において、吸光度を調べる。次いで、DARPP−32非発現領域(B、皮質)からバックグランド値を得る。続いて、以下の式:病巣の%=100−((NI−B)/(T−B)×100)を用いて病巣の百分率を算出し、病巣の百分率を表す;100%病巣は、480−68Q構築物により生じた病巣に相当する。同じ動物に注入された2つの構築物間の比較を、対応のあるt検定を用いて行った。24週間目では、線条体の体積は様々なレンチウイルスにより改変されない(データ示さず)。
【0065】
インビトロリン酸化/脱リン酸化アッセイ。キナーゼアッセイを、組み換えAkt(Upstate Biotechnology、シャーロッツビル、米国)および基質として精製された短縮形態のハンチンチンタンパク質(GSTと融合したアミノ酸384〜467のヒトハンチンチン;1時間のインキュベーション、30℃)を用いて記載(ランゴン(Rangone)ら、2004年)されるように実施した。精製されたカルシニューリン(ウシ脳から単離された天然型タンパク質、Upstate Biotechnology,Temecula、カリフォルニア州、米国)を上述のとおり添加した。反応生成物を12%SDS−PAGEによって分離させた。
【0066】
細胞培養、トランスフェクションおよび薬物処置。線条体ニューロンの初代培養を、E17のスプラーグドーリー系ラットから調製し、インビトロ4日で、改変されたリン酸カルシウム技術(サウドウ(Saudou)ら、1998年)によってトランスフェクトした。野生型ハンチンチンマウス(ニューロン細胞、+/+)およびHdhQ109ノックインマウス(109Q/109Q)由来のマウスニューロン細胞を、以前に記載された通りに培養し(トレッテル(Trettel)ら、2000年)、Lipofectamine2000(Invitrogen、Breda、蘭国)でトランスフェクトした。共トランスフェクトした場合(図3A)、480−17Q/Akt/CaNA−ΔCaM/CaNBの比率は、1:0.5:1:1であった。ヒトHEK293細胞を、10%仔ウシ血清(BCS)を添加したDMEM中で培養し、リン酸カルシウム技術によってトランスフェクトした。SHSY−5Y細胞およびジャーカット(Jurkat)T細胞を、10%BCSを添加したRPMI中で増殖させた。FK506(1μM)および/またはイオノマイシン(2.5μM)の添加前に、ジャーカット(Jurkat)T細胞をタイロード緩衝液(137mM NaCl、3mM KCl、20mM Hepes、2mM MgCl2、1mM CaCl2、5.6mM グルコース、0.3mg/ml BSA;4×106細胞/ml)に移した。
【0067】
ウエスタンブロット分析。トランスフェクション/薬物とのインキュベーション後、剥離(scraping)および溶解の前に、細胞を氷冷リン酸緩衝食塩水で洗浄した。溶解緩衝液は、50mM Tris−HCl、pH7.5であり、0.1%TritonX−100、2mM EDTA、2mM EGTA、50mM NaF、10mM β−グリセロリン酸、5mM ピロリン酸ナトリウム、1mM オルトバナジン酸ナトリウム、0.1%(v/v) β−メルカプトエタノール、250μM PMSF、10mg/ml アプロチニンおよびロイペプチンを含有した。細胞溶解物を4℃において20,000×gで5分間遠心分離させた。等量のタンパク質(40μg)をSDS−PAGEにかけ、PVDF膜(Immobilon−P、Millipore)に電気泳動的に移行させた。ブロットしたものを、5%ウシ血清アルブミン(BSA)/TBST緩衝液(20mM Tris−HCl、0.15M NaCl、0.1%Tween−20)中でブロックし、次いで抗α−チューブリン(1:1000;DM1A,Sigma)、抗カルシニューリンPanA(1:1000;Chemicon)、抗ホスホハンチンチン−S421−763(ハンバート(Humbert)ら、2002年)、抗ホスホハンチンチン−S421−714(以下を参照のこと)、抗ハンチンチン1259(1:1000))およびMAB2166(1:5000;Chemicon)抗体で1時間免疫ブロットした。続いて、ブロットしたものを、抗ウサギIgG:HRP(Jackson ImmunoResearch、West Grove、米国)で標識し、洗浄し、製造業者の説明書に従い、SuperSignal WestPico Chemiluminescent Substrate(Pierce、Erembodegem、白国)と5分間インキュベートさせた。この膜をKodak Biomaxフィルムに感光させ、現像した。ImageJソフトウェアを使用するフィルムの濃度測定走査によりシグナルの定量化を行った。
【0068】
免疫蛍光実験。SHSY−5Y細胞を、コーティングされていないガラスカバースリップ上で増殖させ、野生型CaNA/Bで24時間トランスフェクトし、次いで1μMイオノマイシン(Sigma)で15分処置するか、または処置しないままにした。細胞を(PIPES、120;HEPES、50、EGTA、20;酢酸Mg 4:mM中の)4%パラホルムアルデヒド−PHEM緩衝液で20分間固定し、抗ホスホ−S421−ハンチンチン−763(1:100)および抗CaNA(1:200;カタログ番号C1956、Sigma)抗体とインキュベートさせた。先に記載される(ゴーティエル(Gauthier)ら、2004年)ように、画像を3次元デコンボリューション画像システムで捕捉した。次に、ホスホ−S421シグナルの平均蛍光強度を、Metamorphソフトウェア(Universal Imaging Corp、Princeton、ニュージャージー州、米国)を用いて定量化した。各対の細胞(トランスフェクトされた/トランスフェクトされていない)について、トランスフェクされた細胞由来のシグナルを、100の値をトランスフェクトされていない細胞に付与することにより標準化した。ほとんど同じサイズの非有糸分裂細胞のみを考慮した。合計30を超える細胞を、2つの独立した実験で解析した。
【0069】
ニューロンを、ラミニンおよびポリD−リジンでコートされたガラスカバースリップ上で増殖させ、先に記載されるように固定し、次いで以下の一次抗体とインキュベートさせた:抗ホスホ−S421−ハンチンチン−714(1:100)、N−ter1259(1/500)およびCaNA(1:200)。二次抗体は、抗マウスAlexaFluor−488(1:200)および抗ウサギAlexaFluor−555(1:200;Molecular Probes、Eugene、オレゴン州、米国)であった。3次元デコンボリューション画像システムで画像を捕捉した。
【0070】
ニューロン生存率の測定。プレーティングの4日後、線条体ニューロンの初代培養物を、野生型またはポリQ−ハンチンチンおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)でトランスフェクトして、トランスフェクトされた細胞を同定した。GFPを合成する各ニューロンがハンチンチン構築物を発現することを確実にするためにも、ハンチンチンDNAのGFP DNAとの高い比率(10:1比)による派生したリン酸カルシウム法(ハンバート(Humbert)ら、2002年)を用いてトランスフェクションを行った。これらの条件下で、95%を超えるGFP陽性ニューロンがハンチンチン構築物をも発現する(データ示さず)。トランスフェクションの16時間および36時間後に、盲験様式で蛍光顕微鏡を用いてGFP陽性ニューロンをスコア化した。GFP陽性細胞内で起こる細胞死を、2時点間の生存ニューロン数の差異として調べ、次いで480−17Q構築物によって誘導される死と比べたニューロン細胞死の増加倍率として表した。各グラフは、3回反復で実施した2〜4回の独立した実験を示す。得られたグラフにおける各バーは、約2000個のニューロンのスコアに相当する。RNA干渉実験では、ニューロン細胞死は、480−68Q/スクランブル条件と比べて、様々なsiRNAの存在下において生存した480−68Qトランスフェクト細胞の数として表される。データを完全な統計解析にかけた。
【0071】
カルシニューリンに対するsiRNA。ラットCaNAαおよびCaNAβを標的とするsiRNA配列は各々、コーディング領域677〜695(受託番号NM017041)および448〜466(受託番号NM017042)に対応する。より詳細には、CaNAαを標的とするsiRNA配列は、以下のとおりである:
5’−CAGAGUAUUUCACGUUUAAdTdT−3’(配列番号3)
3’−dTdTGUCUCAUAAAGUGCAAAUU−5’(配列番号4)
CaNAβを標的とするsiRNA配列は、以下のとおりである:
5’−GGGUUGAUGUUCUGAAGAAdTdT−3’(配列番号5)
3’−dTdTCCCAACUACAAGACUUCUU−5’(配列番号6)
3μgのsiRNAまたはスクランブルRNAを、4×106個の新たに単離された線条体ニューロンと混合し、製造者の説明書(Amaxa Biosystems、独国)に従ってヌクレオフェクトし、12ウェルプレートに撒き、次いで40時間インキュベートさせた。スクランブルRNAは、CaNAα siRNAと同じヌクレオチド組成を有するが、他のいずれの遺伝子に対して有意な配列相同性を欠如する。
【0072】
S421をリン酸化されたハンチンチンに対する抗体。ヒト特異的抗ホスホハンチンチン−S421−763抗体は、以前に記載されている(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。マウス特異的抗ホスホハンチンチン−S421−714抗体の作製:マウスハンチンチン配列(CARGRSGS[PO3H2]IVELL)に対応するホスホペプチドを合成し、キーホールリンペットヘモシニアン(Neosystem、Strasbourg、仏国)に結合させ、ウサギに注入した。ポリクローナル抗体を血清から得、ホスホペプチドカラムによりアフィニティー精製した。簡単に説明すると、血清をろ過し(0.22μmフィルター)、1M Tris(pH8.0)を100mMの最終濃度まで添加した後、それをリン酸化ペプチドが結合されたSulfolinkカラム(Pierce、Erembodegem、白国)に適用した。保持された抗体を100mMグリシン緩衝液(pH2.7)で溶出し、1M Tris pH9でpHを迅速に中和した。抗体を濃縮(Vivaspin濃縮装置10000MW、Viva Sience、Hannover、独国)し、50%グリセロール中で保存した。
【0073】
ビデオ顕微鏡実験および分析。ビデオ実験では、ラットの一次皮質ニューロン、+/+、およびHdhQ111ノックインマウスから樹立された109Q/109Q細胞を調製し、培養し、次いで先に記載された(ゴーティエル(Gauthier)ら、2004年;ハンバート(Humbert)ら、2002年;サウドウ(Saudou)ら、1998年;トレッテル(Trettel)ら、2000年)ようにトランスフェクトした。いくつかの場合では、皮質ニューロンの初代培養物を、供給者の手引き書(Amaxa、Cologne)に従って、ラットニューロンNucleofector(登録商標)キットによりエレクトロポレートする。トランスフェクション5時間後に、Forskolin(10M;Sigma)およびIBMX(100M;Sigma)を培養物に添加した。
【0074】
トランスフェクションの2または4日後に、ビデオ顕微鏡実験を行った。細胞を、BDNF−eGFPおよびhttの様々な構築物または1:4のDNA比を伴う対応する空ベクターで共トランスフェクトした。先に詳述(ゴーティエル(Gauthier)ら、2004年)されている画像化システムを使用して、生体ビデオ顕微鏡を行った。細胞を、Ludinチャンバにマウントされたガラスカバースリップ上で増殖させた。顕微鏡およびチャンバを37℃(ノックイン細胞では33℃)で保持した。0.3μmのZ工程を伴う10〜15画像のスタックを、圧電性デバイス(PI)を繋げた100×PlanApoN.A.1.4油浸対物レンズにより獲得した。画像を、50〜100ミリ秒の露光時間(2の頻度)で2×2ビニングに設定されたCool Snap HQカメラ(Ropper Scientific)を使用して、ストリームモードで収集した。すべてのスタックを、光学システムのPSFを使用する自動バッチデコンボリューションにより処理した。ImageJソフトウェアを使用して、投影図、アニメーションおよび解析を作成した。動力学を、特別開発プラグイン(http://rsb.info.nih.gov/ij/plugins/track/track.html)で、時間の関数として細胞におけるeGFP小胞の位置を追跡することにより特徴付けた。追跡の間、小胞の中心のデカルト座標を使用して、動力学パラメータ(速度、休止時間、指向性)を算出した。
【0075】
結果
セリン421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化は、インビボにおいて神経保護的である
本発明者らは以前、IGF1/Akt経路が、HDの細胞モデルにおいて神経保護的であることを実証している(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。実際にIGF−1活性化時、Aktは、S421においてポリQ−ハンチンチンをリン酸化し、線条体ニューロンの初代培養においてその毒性を阻止する。S421におけるリン酸化がインビボにおいて役割を果たし、それにより治療上の標的になり得るかどうかを調べるために、本発明者らは、線条体におけるポリQ−ハンチンチンのレンチウイルス介在発現に基づくHDのラットモデルを使用した。このモデルは、神経炎および核内封入体、ニューロン機能障害および死を呈するHD患者において観察されるいくらかの特徴を再現する。本発明者らは、無傷(intact)なS421、S421からアラニン(S421A)またはS421からアスパラギン酸(S421D)への変異のいずれかを伴う17(野生型、480−17Q)または68グルタミン残基(変異、480−68Q)を含有するハンチンチンの最初の480アミノ酸をコードするHAタグ化レンチウイルス構築物を作製した。次いで、レンチウイルスをラット線条体に注入して、480−17Q/480−68Q、480−68Q/480−68Q−S421Aおよび480−68Q/480−68Q−S421D構築物間で所定のラットについて直接比較することを可能にした(図9)。注入1週間後、様々なハンチンチン構築物の固有の発現を、抗ハンチンチン免疫染色によって制御したところ、それらの発現レベルにおいて差異が認められなかった(データ示さず)。12週間目の病巣の中間評価(データ示さず)に従って、本発明者らは、注入24週間後のラット線条体におけるポリQ−ハンチンチン誘導性の病巣を分析した。免疫組織化学的分析は、すべての構築物が同様のレベルで発現されたこと、および導入遺伝子の発現が24週において維持されたことを示した(図1)。この段階で、HAおよびAkt免疫陽性ニューロンの注入された領域の存在により示されるように、有意な細胞死は検出されなかった(図1および図10)。次いで、DARPP−32をマーカーとして使用して、病巣を評価した。DARPP−32は、線条体中型有棘ニューロンの約96%に存在するドーパミンシグナル伝達の調節因子である。DARPP−32のダウンレギュレーションは疾患の様々なモデルで観察されるため、DARPP−32は、HDのこれらの投射ニューロンの機能障害のマーカーである。DARPP−32抗体による免疫組織化学的分析を実施し、病巣のサイズをすべての構築物について調べ、480−68Q構築物により誘導される病巣の百分率として表した。予想どおり、480−68Q構築物は、野生型ハンチンチンとは対照的に、有意な病巣を誘導した。本発明者らは、S421におけるリン酸化の不在が、480−68Q構築物により誘導されるDARPP−32欠失領域のサイズの強力な増加(2倍)を生じたことを見出した。対照的に、S421における構成性リン酸化は、ポリQ誘導性DARPP−32欠失領域における有意な減少(約30%)をもたらした。まとめて考えると、本発明者らは、ハンチンチンにおけるS421のリン酸化が疾患の進行をインビボで調節するのに不可欠であると結論付ける。
【0076】
カルシニューリンは、インビトロにおいてハンチンチンのホスホS421を脱リン酸化する
ホスファターゼ活性はS421リン酸化の動的調節を可能にし得るため、本発明者らは、S421を脱リン酸化するホスファターゼを同定することを目的とした。タンパク質ホスファターゼ2B(PP2B)としても公知であるカルシニューリンは、カルシウムおよびカルモジュリン依存性ホスファターゼである(総説については、マンシー(Mansuy)、2003年を参照のこと)。カルシニューリンがS421に作用するかどうかを評価するために、本発明者らは、最初に、インビトロでの脱リン酸化実験を行った。このため、本発明者らは、ハンチンチンタンパク質におけるS421のホスホ−セリンのみに結合するポリクローナル抗体(抗ホスホハンチンチン−S421−763)を使用した(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。さらに、本発明者らは以前、S421上のAktおよびSGKによりリン酸化されるGST融合形態のハンチンチン(GST−ハンチンチン、GSTに融合したヒトハンチンチンのアミノ酸384〜467)を作成した(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。本発明者らは、このハンチンチンフラグメントをAktの構成性活性形態(Akt c.a.)と共にインキュベートして、抗ホスホハンチンチン−S421−763抗体で検出されるようなS421におけるGST−ハンチンチンのリン酸化を生じさせた(図2A、B)。次に、ハンチンチンのこのリン酸化されたフラグメントを、精製されたカルシニューリンと共に異なる時間で(図2A)、および60分間異なる濃度のカルシニューリンでインキュベートした(図2B)。観察されるように、カルシニューリンは、時間および用量依存的様式でハンチンチンのS421をインビトロで脱リン酸化する。
【0077】
カルシニューリンは、細胞においてハンチンチンのホスホS421を脱リン酸化する
カルシニューリンは、60kDaの触媒サブユニット(CaNA)および19kDAの調節サブユニット(CaNB)からなるヘテロダイマーである(ルスナク(Rusnak)およびメルツ(Mertz)、2000年)。ヘテロダイマーのホロ酵素は、そのホスファターゼ活性に必要である。S421におけるハンチンチンのカルシニューリン脱リン酸化が細胞で生じるかどうかを調べるために、本発明者らは、不死化マウス線条体細胞(+/+細胞)を480−17Q、カルシニューリンAの構成性活性形態(CaNA−ΔCaM)、CaNBおよび/またはAktで共トランスフェクトした(図3A)。予想どおり、Aktは、選択的にマウス配列を認識する本発明者らの新たに作製した抗ホスホハンチンチン−S421−714抗体によるウエスタンブロッティングにより検出されるようなS421におけるハンチンチンのリン酸化を誘導した。Aktによって誘発されるS421のリン酸化は、活性なカルシニューリン(CaNA−ΔCaM/CaNB)の共トランスフェクションにより減少した。両方のカルシニューリン構築物は以前、NFAT活性のルシフェラーゼレポーターを使用して検証され、CaNA−ΔCaM/CaNBがHEK293細胞に共トランスフェクトされた場合、15倍のNFAT活性化を誘導した(示さず)。それゆえ、本発明者らは、カルシニューリンが、Akt−リン酸化S421においてハンチンチンの480−17Q形態を脱リン酸化することを実証する。
【0078】
内因性ハンチンチンがカルシニューリンの標的であるかどうかを試験するために、本発明者らは、アスパラギン酸130がアスパラギンに変異されるCaNAの優勢な干渉形態(CaNA−D130N)を使用した。HEK293細胞におけるこの構築物とNFATレポーターとの共トランスフェクションは、内因性NFAT活性を60%まで減少させた(示さず)。CaNA−D130Nをコードする構築物をヒト神経芽腫SHSY−5Y細胞系統にトランスフェクトした場合、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化が増加した(図3B)。従って、内因性ハンチンチンのリン酸化S421は、カルシニューリンの生理学的基質である。
【0079】
カルシニューリンが実際に、細胞で、S421においてハンチンチンを脱リン酸化することをさらに実証するために、本発明者らは、ニューロン細胞を野生型CaNA/CaNBでトランスフェクトし、コントロール条件において抗ホスホハンチンチン−S421−763抗体を使用する免疫蛍光により、またはカルシウムイオノフォアイオノマイシンによるカルシニューリンの活性化後に内因性ハンチンチンのリン酸化を分析した(図4A、上のパネル)。ハンチンチンがカルシニューリンの存在下でリン酸化されたままであった一方、本発明者らは、カルシニューリントランスフェクト細胞をイオノマイシンで処置した場合、S421におけるハンチンチンリン酸化の減少を観察した(図4A、下のパネル)。2つの独立した実験からの30を超える細胞における蛍光強度の定量化は、S421における内因性ハンチンチンリン酸化の統計的に有意な減少を示した(図4、グラフ)。これは、ニューロン細胞におけるCa2+によるカルシニューリンの活性化が、ハンチンチンのS421の脱リン酸化をもたらすことを実証する。
【0080】
最終的に、本発明者らは、本発明者らの実験系において、カルシニューリンおよびハンチンチンが同じ線条体ニューロンに存在することを実証することにより、本発明者らの知見したことの関連性を確認した。本発明者らは、線条体ニューロンの初代培養を調製し、続いて、CaNA、ハンチンチンおよびホスホS421−ハンチンチンについて免疫染色した。本発明者らは、すべてではないがほとんどのカルシニューリン免疫陽性線条体細胞が、すべてのおよびS421においてリン酸化されたハンチンチンについても免疫反応性であることを見出した(図4B)。細胞内では、ホスホハンチンチンおよびハンチンチンが小胞構造において、細胞体および神経突起に沿って広がっていることが見出された。この突出した小胞の局在に加えて、ハンチンチンはまた、GM130との共局在により示されるようにシス−ゴルジにおいても見出された(示さず)。興味深いことに、本発明者らは、神経突起に沿った小胞において特に認められた内因性ハンチンチンおよびカルシニューリンの部分的な共局在を観察した(図4Bにおける拡大図を参照のこと)。
【0081】
カルシニューリンの優勢な干渉形態はポリQ−ハンチンチン誘導性の毒性を減少させる
本発明者らは以前、S421におけるハンチンチンのリン酸化が神経保護的であることを示した。従って、本発明者らは、カルシニューリンの優勢な干渉形態が、疾患の主な特徴を再現するHDのニューロンモデルを研究することにより神経保護特性を持つかどうかについて調べた(図5A)。本発明者らは、線条体ニューロンの初代培養を、構築物480−17Qおよび480−68Q単独かまたはCaNA−D130Nの存在下でトランスフェクトし、次いでトランスフェクション24時間後のニューロン死を分析した。予想どおり、480−68Q構築物は、480−17Q構築物と比較して、ニューロン死の統計的に有意な増加を誘導した。興味深いことに、CaNA−D130Nのトランスフェクションは、ハンチンチンの480−68Qフラグメントによって誘導されるニューロン死を減少させた(図5A)。これらの知見は、S421においてハンチンチンのリン酸化を増加させるカルシニューリンの優勢な干渉形態が、ポリQ−ハンチンチンにより誘導されるニューロン死に対して神経保護効果を及ぼすことを示す。
【0082】
ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死に対するカルシニューリン阻害の役割をさらに確認するために、本発明者らは、RNA干渉によりカルシニューリンのレベルを減少させた。カルシニューリンAサブユニットの2つのアイソフォームは、脳において見出すことができる(CaNAαおよびCaNAβ)。従って、本発明者らは、RNA干渉によるαおよびβサブユニットの両方を標的とし、両方のsiRNAの存在がCaNAのレベルの有意な減少を確実にするのに必要であることを見出した(図5B)。これらの条件において、本発明者らは、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死の有意な減少を観察し、このことはさらにこのプロセスにおけるカルシニューリンの役割を支持する。
【0083】
CaNA−D130Nによって仲介される神経保護は、S421に依存するであろうか?この質問に答えるために、本発明者らは、線条体ニューロンにおいてCaNA−D130Nを、480−68Q構築物またはS421がアラニンに変異されている480−68Q構築物、480−68Q−S421Aのいずれかで共トランスフェクトした(図5C)。先に述べたように、CaNA−D130N構築物はポリQ−ハンチンチン誘導性毒性からニューロンを保護するが、421位がリン酸化され得ない場合、この構築物はニューロンを保護することができない。
【0084】
従って、カルシニューリンは、ポリQ−ハンチンチン上のS421の脱リン酸化を通して少なくとも部分的にその効果を及ぼす。
【0085】
カルシニューリンの阻害は、細胞中のS421におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる。
FK506は、移植後のヒトの処置において日常的に使用される免疫抑制薬である。この化合物は、NFATのCaN介在の脱リン酸化を阻害することにより免疫抑制を調節する。ここで、NFATは、IL−2の発現を調節し、次いでT−リンパ球の増殖を調節する転写因子である。ジャーカット(Jurkat)T細胞系統は、カルシニューリンが関与するカルシウムシグナル伝達経路を研究するために広範に使用されるTリンパ球細胞系統である。S421上のハンチンチンのリン酸化におけるカルシニューリンを阻害する効果を調べるために、本発明者らは、ジャーカット(Jurkat)T細胞をFK506で処置した。図6Aで見られるように、FK506は、内因性ハンチンチンにおけるS421のリン酸化を増加させた。次に、本発明者らは、ジャーカット(Jurkat)T細胞をカルシウムイオノフォアイオノマイシンで処置することによりカルシニューリンを活性化させた(図6A、下のパネル)。このことが、結果としてFK506により阻害されたS421におけるハンチンチンの迅速な脱リン酸化を生じた。
【0086】
次に、本発明者らは、FK506がまた、疾患により関連する細胞型においてS421のリン酸化を誘導し得るかどうかについて試験した。それゆえ、本発明者らは、初代培養の線条体ニューロンを、異なる時間および濃度についてFK506で処置した(図6B)。ジャーカット(Jurkat)細胞に関して、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化が経時的に増加し、少なくとも6時間持続したままであった。本発明者らはまた、FK506の濃度増加がS421のリン酸化の増加を生じることを見出した。まとめると、これらのデータは、FK506によるCaN活性の阻害がS421における内因性ハンチンチンのリン酸化の増加を生じることを示す。
【0087】
ポリQ伸長は、FK506によって増加させることができるS421におけるハンチンチンのリン酸化の減少をもたらす:ポリQ誘導性ニューロン毒性に関する結果
次に、本発明者らは、病理学的状況におけるハンチンチンのリン酸化レベルを評価した。本発明者らは、ノックインマウスに由来するマウスニューロン細胞を使用した。ここで、前記ノックインマウスは、109グルタミン残基をコードするCAG伸長が内因性マウスハンチンチン遺伝子に挿入された(109Q/109Q)。この細胞系統は、これらの細胞においてポリQハンチンチンが内在レベルで発現されるため、HD患者の状況に非常に類似する。本発明者らは、本発明者らの抗ホスホハンチンチン−S421−714抗体を用いて+/+または109Q/109Q細胞に対してイムノブロッティング実験を行い、ポリQ−ハンチンチンのリン酸化が、野生型のハンチンチンと比較して極端に減少したことを観察した(図7A)。このことは、一過的にトランスフェクトされたHEK293細胞に関する先の研究(ワービー(Warby)ら、2005年)と一致し、ポリQ−ハンチンチンのS421のリン酸化が野生型ハンチンチンより低かったことを示す。次いで、本発明者らは、カルシニューリンを阻害することが、S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化を増加させるかどうかについて求めた。興味深いことに、109Q/109Q細胞のFK506による処置は、S421のリン酸化の増加を生じた(図7B)。本発明者らは以前、S421におけるハンチンチンのリン酸化が神経保護的であることを示した。従って、FK506がポリQ−ハンチンチンのリン酸化を増加させることから、本発明者らは、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死に対するこの免疫抑制剤の効果について試験した(図7C)。線条体ニューロンの初代培養を、480−68Q構築物でトランスフェクトし、ビヒクルまたは様々な用量のFK506で処置した。0.3および1μMのFK506による細胞の処置は、ポリQ誘導性ニューロン死の減少を生じた。まとめると、これらのデータは、S421におけるポリQ−ハンチンチンの脱リン酸化を予防することにより、FK506がHDの細胞モデルにおいて神経保護的であることを示す。
【0088】
FK506の単回投与は脳におけるハンチンチンS421のリン酸化を増加させる。
ハンチンチンのリン酸化は、インビトロおよびインビボでポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を調節し、疾患モデルにおいてリン酸化が減少することを考慮することが不可欠であることから、本発明者らは、FK506投与がインビボにおけるハンチンチンのリン酸化を誘導し得るかどうかを調べることを目的とした。マウスを、腹腔内または経口的にFK506で処置し、投与後、異なる時間で屠殺した。脳を免疫ブロッティングのために処理し、S421におけるハンチンチンのリン酸化について分析した(図8)。特に、FK506の腹腔内および経口投与の両方は、脳におけるS421での内因性httの持続的なリン酸化を誘導した(2/3倍増加)。ハンチンチンのリン酸化に対するカルシニューリンの特異的効果と一致して、本発明者らは、S473におけるAktリン酸化のレベルがFK506によって調節されないことを見出した。これらの結果は、FK506投与によるカルシニューリンの阻害がインビボで内因性ハンチンチンのリン酸化をもたらすことを実証する。
【0089】
IGF−1およびAktは、HDにおける輸送欠損をレスキューする
IGF−1/Akt経路がHDに関するハンチンチン介在輸送を調節し得る可能性を試験するために、本発明者らは、高速3Dビデオ顕微鏡、続いてデコンボリューションを用いてBDNF含有小胞を動力学的に分析した。皮質ニューロンの初代培養を、BDNF−eGFPおよび野生型全長htt(wt−FL−htt、17Qの場合)、ポリQ−FL−htt(75Qの場合)または対応するベクターのいずれかでトランスフェクトした。本発明者らは、3D画像を取得することによりBDNF含有小胞の運動をモニターした。デコンボリューション後、各時点の2D再構築を行い、個々の小胞を追跡して、細胞内輸送の2つの最も関連する動的パラメータを調べた。第1のパラメータは、それらが(即ち、0を超える速度を伴って)移動している場合、小胞の平均速度であり、第2は、小胞の休止時間(移動を伴わない小胞によって費やされる時間)の百分率に相当する。以前報告されたように、wt−FL−httと比較して、httにおけるポリQ伸長の存在は、BDNF含有小胞の平均速度の減少および休止時間の増加を生じる。IGF−1によるニューロンの処置は、BDNF小胞の速度の統計的に有意な増加を誘導し、小胞の休止時間を減少させた(図11A)。IGF−1の存在下において、ポリQ−FL−httによる細胞内輸送の動的パラメータが野生型の状況と区別できないことは注目に値し、IGF−1処置による輸送において、ハンチンチン機能のほとんど完全な回復が示唆される。
【0090】
次に、本発明者らは、ノックインマウス由来のニューロン細胞系統を使用して、HDの遺伝学的状況におけるIGF−1処置の結果を評価した。ここで、前記ノックインマウスはCAG伸長が内因性マウスhtt遺伝子に挿入されていた。これらの細胞系統は、野生型htt(野生型ニューロン細胞、+/+)の2つのコピーまたは変異htt(ホモ接合変異ニューロン細胞、109Q/109Q)の2つのコピーのいずれかを保持する。これらの細胞は、これらの細胞において野生型またはポリQ−httが内因性レベルで発現されるため、これらの細胞系統はHD患者に最も酷似した状況を反映する。BDNF小胞の速度および休止時間が、+/+細胞と比較して109Q/109Q細胞で有意に減少する(図11B)一方、本発明者らは、IGF−1処置が、BDNF含有小胞の速度を統計的に増加させ、休止時間を減少させることにより小胞輸送を有意に回復することを見出した。
【0091】
次に、本発明者らは、AktがHDの病理学的状況における細胞内輸送に対して有益な効果を示すかどうかを試験した。AktおよびBDNF−eGFPの共トランスフェクション実験により、本発明者らは、Aktが、野生型の値に戻るまでBDNF含有小胞の速度を増加させ、休止時間を減少させることにより109Q/109Q細胞における細胞内輸送を完全にレスキューすることを見出した(図11C)。以上より、これらの知見は、IGF−1/Akt経路が、HD病理学的状況で観察されるBDNF含有小胞の細胞内輸送の変化をレスキューすることが可能であることを示す。
【0092】
S421のリン酸化は輸送におけるハンチンチンの機能を調節する
次に、本発明者らは、IGF−1およびAktが、HD変異細胞におけるBDNF輸送の欠失をレスキューする機構を調べた。先に、本発明者らは、AktがS421においてハンチンチンをリン酸化し、この残基のリン酸化がニューロン細胞におけるポリQ−htt−誘導性毒性を調節することを示している{ハンバート(Humbert)、2002年}。これらの実験では、本発明者らは、ポリQストレッチを含有するN末端480アミノ酸フラグメントにより誘導されるニューロン毒性が、S421のリン酸化によってインビトロで廃止されることを見出した。従って、本発明者らは、始めに、そのようなN末端フラグメントが輸送を促進することが可能であるかどうか、およびそれがポリQ伸長により影響されるかどうかについて調べた。本発明者らは、ニューロン細胞において、正常な(17Q)または伸長されたポリQストレッチ(68Q)を伴う480フラグメントの能力を分析し、細胞内輸送の動力学を、wt−およびポリQ−FL−htt構築物により得られるものと比較した。興味深いことに、本発明者らは、httの野生型480フラグメントが、野生型httの完全長フラグメントと同様に効率的に、BDNF含有小胞の速度を増加させ、休止時間を減少させることが可能であることを見出した(図12A)。さらに、本発明者らは、そのようなフラグメントがポリQ伸長を含有する場合、輸送が変化することを見出した。本発明者らは、httの480アミノ酸のN末端フラグメントが、輸送を促進することができ、輸送動力学について完全長httで観察される特徴を再現すると結論付ける。このことと一致して、このフラグメントはアミノ酸171〜231に相当するHAP1干渉領域を含有する。
【0093】
次に、本発明者らは、セリンからアラニンへの変異を含有する構築物を用いることにより、S421におけるリン酸化の不在の結果を分析した。特に、本発明者らは、野生型htt(480〜17)がS421においてリン酸化されない場合、速度の減少および休止時間の百分率の増加により示されるように、もはや細胞内輸送を促進することができないことを見出した(図12B)。興味深いことに、480−17−S421Aにより得られる動的パラメータが、セリンを無傷(intact)で伴うかまたはアラニンへ変異されたポリQ伸長を含有する構築物により得られる動的パラメータとは、統計的に有意ではなかったことから、S421におけるリン酸化の不在がhttを輸送の促進能力について不活性な形態にすることを示す。
【0094】
リン酸化はハンチンチン機能の喪失を回復する
109Q/109Q細胞におけるBDNF輸送の変化は、Aktによってレスキューされる(図11C)。従って、本発明者らは、この効果がAktによるS421のリン酸化によって仲介されるかどうかについて調べたところ、httがS421においてリン酸化され得ない場合、輸送を促進するAktの能力が失われることを見出した(図12C)。AktがS421におけるhttのリン酸化によりハンチンチン介在輸送をレスキューすることを示したことから、次に、本発明者らは、S421の構成性リン酸化がBDNF含有小胞を輸送するhttの能力を回復するのに十分である可能性について試験した。特に、本発明者らは、速度の増加および休止時間の減少によって実証されるように、構成性リン酸化を模倣するセリンからアスパラギン酸への変異を伴うポリQ−htt構築物(480−68−S421D)が、対応する480〜68構築物とは対照的に、BDNF含有小胞を輸送する能力を完全に回復することを見出した(図12D)。
【0095】
以上より、これらの結果は、輸送に対するhttの機能的活性が、S421におけるそのリン酸化によって調節されることを示す。さらに、本発明者らは、疾患の状態における輸送の変化が、httのS421のリン酸化を通してAktにより回復され得ることを示す。
【0096】
考察
本発明者らは、本発明において、S421におけるハンチンチンのリン酸化が、インビボで疾患の進行を調節するために不可欠であることを示した。ハンチンチンのN末端フラグメントを線条体に直接送達するためにレンチウイルスアプローチを使用して、本発明者らは、構成的にリン酸化されるポリQ−ハンチンチン(480−68Q−S421D)をコードする構築物が、無傷(intact)なセリン421を伴うポリQ−ハンチンチンと比較して、より小さなDARPP−32欠失領域を誘導することを示した。対照的に、リン酸化され得ないポリQ−ハンチンチン(480−68Q−S421A)はより毒性である。本発明者らは以前、S421上で陽性に作用することができるAktおよびSGKを同定している(ハンバート(Humbert)ら、2002年;ランゴン(Rangone)ら、2004年)。本発明者らはまた、Aktが、HD患者由来の死後脳サンプルにおいて切断されることを報告し(ハンバート(Humbert)ら、2002年)、疾患の進行中、Akt活性がダウンレギュレーションされることを見出した(コリン(Colin)ら、2005年)ことから、さらに、Aktによるハンチンチンのリン酸化の減少がHDにおいて生じ得ることが示される。このことと一致して、S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化の減少が、ポリQ伸長を含有するYACトランスジェニックマウスおよびHDの細胞モデルにおいて観察される(ワービー(Warby)ら、2005年)(図7A)。このことは、疾患の進行中に、S421におけるハンチンチンのリン酸化が減少し、それによりポリQ−ハンチンチンの毒性が増加することを意味する。従って、S421におけるハンチンチンのリン酸化を制御する細胞機構を同定することは、疾患中の過剰なハンチンチンの脱リン酸化を防止するのに役に立ち得る。本発明では、本発明者らは、カルシニューリン(CaN)がS421においてハンチンチンを標的とするホスファターゼであることを示した。このことは、カルシニューリンが、S421におけるハンチンチンのリン酸化を制御し、HDの病因に関与し得る新規の細胞エレメントであることを示す。
【0097】
特定の残基のリン酸化は、通常、厳密に調節されたキナーゼおよびホスファターゼの活性における均衡に依存する。ハンチンチンのリン酸化において観察される減少は、Akt活性の減少(コリン(Colin)ら、2005年)、さらにまたカルシニューリンホスファターゼ活性の過剰から生じ得る。実際、カルシニューリンホスファターゼは、線条体、特に、中型有棘ニューロン(MSN)、HDで変性される最初の細胞(ゴトウ(Goto)ら、1989年)において強く発現され、それゆえに、これらの細胞においてハンチンチンを脱リン酸化し易くし得る。カルシニューリンはCa2+により活性化され(マンシー(Mansuy)、2003年)、いくらかの研究は、線条体ニューロンにおける過剰なCa2+進入がHDにおいて役割を果たし得ることを示す。ポリQ−ハンチンチンは、I型イノシトール1,4,5−三リン酸受容体(InsP3R1)およびNR2BサブタイプNMDA受容体の活性を促進し、それにより細胞質Ca2+レベルの増加をもたらす。MSNでは、InsP3R上の変異体ハンチンチンの効果には、ハンチンチン関連タンパク質−1、HAP1が必要である。乱されたCa2+シグナル伝達とアポトーシスとの間の関連は十分に確立されていることから、皮質線条体の投射ニューロンから放出されるグルタミン酸が、HD患者由来のMSNにおいて過剰なCa2+応答を誘発し、ミトコンドリア透過性遷移ポア(MPTP)の開口およびカスパーゼ依存性アポトーシスカスケードの活性化を生じることが提唱された。本発明では、本発明者らは、この機構に加えて、カルシニューリンを活性化することによる、Ca2+が、S421におけるハンチンチンの脱リン酸化をもたらし、病原機構に寄与することを提唱する。これと一致して、本発明者らは、細胞質Ca2+濃度の増加が、FK506により阻止され得るハンチンチンの脱リン酸化をもたらすことを示し、S421のCa2+依存性脱リン酸化がCaN活性に依存することを実証した。興味深いことに、HDにおいてカルシニューリンが活性化される別の経路は、カルパインに関与し得る。カルパインはHDにおいて活性化される。カルパインは、カルシニューリンを切断することにより活性形態に直接的に、またはカルシニューリンの強力な内因性インヒビターであるキャビン1(Cabin1)/カイン(cain)を切断および不活化することにより、カルシニューリン活性を調節することができる。まとめて考えると、本研究は、HDにおいて初めて興奮毒性およびCa2+をハンチンチンのリン酸化と関連付ける。
【0098】
インビボでの疾患の進行におけるS421でのハンチンチンリン酸化の有益な役割に関する本発明者らの知見は、ハンチンチンが病理学的ポリQ伸長を含有する場合、ハンチンチンのリン酸化が減少するため、ハンチンチンのリン酸化を促進することは、HD患者における疾患の進行に影響を及ぼし得ることを示す(ワービー(Warby)ら、2005年)(図7A)。ハンチンチンのリン酸化を増加させるための1つのストラテジーは、AktまたはSGK経路を活性化する薬物に関与し得る。しかしながら、Aktのようなキナーゼの過剰活性は癌に関連し(フランケ(Franke)ら、2003年)、これらの経路を活性化する薬物は、所望しない増殖効果を誘導することによる有害効果を示しうる。従って、S421のリン酸化を増加させるためのより合理的な薬理学的アプローチは、その同一性が既知であれば、ホスファターゼの阻害である。多くのカルシニューリン阻害剤について説明してきたが、これらのうちのシクロスポリンA(CsA)およびFK506が最も強力、特異的および周知である。
【0099】
本研究では、本発明者らはFK506に注目し、FK506がインビトロおよびインビボの両方でS421におけるハンチンチンのリン酸化を誘導すること、ならびにポリQ−ハンチンチン誘導性ニューロン死を阻止することに効果的であることを見出した。このことは、FK506がHD患者による治療上の利益を有することを示唆する。
【0100】
先に示したように、FK506は血液−脳関門を通過し、CsAとは異なり、化合物の直接的な脳への輸送を必要としない。FK506が移植手術時に日常的に用いられるという事実は、かかる化合物の安全性および許容性を確立し、それゆえにHDにおいて同様の治験のための基礎としての役割を果たし得る。
【0101】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化は、インビボにおいて神経保護的である。ラット線条体に、480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入した。ラット線条体におけるポリQ−ハンチンチン誘導性病巣を、注入24週間後に分析した。DARPP−32抗体による免疫組織化学的分析を実施し、病巣のサイズをすべての構築物について調べ、次いで480−68Q構築物によって誘導される病巣の百分率として表した。予想どおり、DARPP−32−免疫応答性ニューロンの極端な喪失が、480−68Q−感染線条体において観察されたが、野生型タンパク質の発現は影響を示さなかった(対応のあるステューデントt検定;t[7]=6.95;***P<0.001)。S421におけるリン酸化の不在(480−68Q−S421A)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの増加を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[6]=3.17;*P<0.05)。対照的に、S421における構成性(480−68Q−S421D)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの減少を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[7]=3.46;*P<0.05)。抗HA免疫組織化学的分析は、すべての構築物が同様のレベルで発現されることを示した(下方のパネル)。
【図2】カルシニューリンは、インビトロでS421を脱リン酸化する。精製されたカルシニューリンによるS421の時間経過(図2A)および用量依存的(図2B)脱リン酸化。ヒトハンチンチンのGST−結合フラグメント(アミノ酸384−467)を、組み換えAkt(0.2μg/サンプル)でリン酸化し、次いで、2μg(A)または異なる量(B)の精製されたカルシニューリンと共に示された時間(A)または60分間(B)、インキュベートした。抗ホスホハンチンチン−S421−763または抗ハンチンチン(1259)抗体を使用して、イムノブロッティング実験を実施した。
【図3】カルシニューリンは、細胞においてハンチンチンのS421を脱リン酸化する。図3A、マウス線条体(+/+細胞)を、ハンチンチンのN末端フラグメント(480−17Q)、Akt、カルシニューリンの構成性活性形態(CaNA−ΔCaM/CaNB)または対応する空ベクターでトランスフェクトし、抗ホスホハンチンチン−S421−714または抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロット分析のために処理した。3つの独立した実験からのデータは、カルシニューリンの構成性活性形態は、Aktによって誘発されるS421のリン酸化を有意に減少させることを示す(ステューデントt検定;t[3]=3.63;*P<0.05)。図3B、SHSY−5Y細胞を、カルシニューリンの触媒不活化形態(CaNA−D130N)、Aktまたは対応する空ベクターでトランスフェクトし、次いで抗ホスホハンチンチン−S421−763で分析した。データは3つの独立した実験から得たものである(分散分析(ANOVA);F[2,6]=17.31;P=0.032)。S421に対する内因性ハンチンチンのリン酸化は、カルシニューリンの触媒不活化構築物(ステューデントt検定;t[4]=4.34;*P<0.05)およびAkt(t[4]=5.26;**P<0.01)によって有意に増加した。
【図4】ハンチンチンはカルシニューリンと共局在し、Ca2+誘導性カルシニューリン活性化により脱リン酸化される。図4A、イオノマイシン(Io、下方のパネル)は、野生型CaNA/CaNBでトランスフェクトされた細胞におけるハンチンチンS421リン酸化を減少させた。SHSY−5Y細胞を、非処置細胞(N.T.、上部パネル)との比較で、野生型形態のCaNA/CaNBで共トランスフェクトした。グラフは、32細胞から放出されるホスホ−S421−htt(763抗体)シグナルの平均蛍光強度の定量化に相当し(ANOVA;F[3,28]=7,05;P=0.0011)、次いでハンチンチンのイオノマイシン誘導性脱リン酸化が有意であることを示す(フィッシャーの事後検定;***P<0.001)。図4B、ハンチンチンは、小胞構造に対するカルシニューリンの触媒サブユニット(CaNA)と共局在する。線条体ニューロンにおけるハンチンチン(1259抗体)、ホスホ−S421−ハンチンチン(714抗体)およびCaNAに対する免疫染色。神経突起に沿った小胞構造において実質的な共局在が観察された(拡大図を参照のこと)。スケールバー、5μm。
【図5】カルシニューリンの優勢な干渉形態は、線条体ニューロンにおいて、S421リン酸化依存的様式でポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を阻害する。図5A、線条体ニューロンにおいて、野生型ハンチンチン(480−17Q)またはポリQ−ハンチンチン(480−68Q)を、触媒不活性形態のカルシニューリンをコードする発現ベクター(CaNA−D130N)または対応する空ベクターとともに共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,56]=6.99;P=0.0004)は、CaNA−D130Nが、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死を有意に減少させたことを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、***P<0.0001)。図5B、線条体ニューロンを、CaNAα、CaNAβまたは両方のアイソフォームに対するsiRNAでヌクレオフェクト(nucleofected)し、次いで30時間後、図5Aのように480−68Qでトランスフェクトした。CaNの両方のアイソフォームに対するsiRNAの組み合わせは、ウエスタンブロット分析による検出では、CaNA発現を効率的に減少させた。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,6]=5.33;P=0.039)は、ポリQ依存的毒性に対する保護効果を実証した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。図5C、線条体ニューロンを、480−68Qまたはリン酸化不能形態(480−68Q−S421A)およびCaNA−D130Nで共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[2,41]=4.30;P=0.0004)は、触媒不活形態のカルシニューリンが480−68Q−S421A構築物によって誘発されるポリQ依存的細胞死を妨げないことを実証し(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、**P<0.01)、神経保護がS421のリン酸化に依存することを示した。
【図6】FK506によるカルシニューリンの阻害は、S421の脱リン酸化を防止する。ジャーカット(Jurkat)細胞におけるFK506による処置(20分間、1μM)は、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化を増加させた(左)。カルシウムイオノフォアイオノマイシン(Io、2.5μM)は、ジャーカット(Jurkat)細胞におけるS421の迅速な脱リン酸化を誘導した。Io誘発性S421脱リン酸化は、FK506(1μM)によって妨げられた(右)。処置されたジャーカット(Jurkat)細胞の全細胞抽出物を、抗ホスホハンチンチン−S421−763および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。図6B、ラット線条体ニューロンのFK506処置後のS421の時間経過および用量依存的リン酸化。ニューロンを、1μMのFK506で異なる時間(上)または示された濃度で2時間(下)処置した。全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的(抗ホスホハンチンチン−S421−714)および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。
【図7】109Q/109Q細胞は、FK506によって増加され得るS421におけるハンチンチンのリン酸化の減少を示す。図7A、野生型(+/+)または変異マウス(109Q/109Q)から生じる不死化ノックイン細胞の全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的および抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロットによって分析した。図7B、FK506(0.2μM、48時間)は、野生型およびポリQ−ハンチンチンにおけるS421のリン酸化を増加させた。図7C、FK506は、ニューロンをポリQ仲介細胞死から保護した。線条体ニューロンを、異なる用量のFK506またはビヒクルの存在下で、480−68Qでトランスフェクトした。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[5,68]=8.02;P=0.0001)は、FK506が、480−68Qによって誘導されるニューロン死を有意に減少させることを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。
【図8】FK506のマウスへの投与は、脳におけるS421のリン酸化の増加を生じる。FK506をマウスに腹腔内または経口的に投与した(5mg/kg)。動物を、投与後の示された時間に屠殺し、脳を切開し、ホモジェナイズし、次いでウエスタンブロット分析用に処理した。脳全体の抽出物を抗−ホスホ−S421、抗ホスホ−S473−Akt、抗全ハンチンチンおよび抗全Akt抗体で調べた。下のパネルは、2回反復で実施した2つの独立した実験の濃度測定分析に対応する。合計で18匹のマウスを屠殺した。上から下へおよび左から右へ:(ANOVA;F[3,4]=11.52、P=0.019);(ANOVA;F[3,4]=8.694、P=0.031);(ANOVA;F[3,4]=1,668、P=0.31);(ANOVA;F[3,4]=0.97、P=0.4);*P<0.05、**P<0.01。
【図9】多様な480フラグメントの注入プロトコルの概要を表す図。29匹の動物に対して実験を行った。注入1週間後、2匹のラットを分析して、ハンチンチンの発現を制御した。注入12週間後、各グループの1匹の動物において病巣を評価した。この時点では病巣は有意ではなかったため、すべての動物の最終的評価を、注入24週間後に実施した。グルタミンの数(17Qまたは68Q)およびハンチンチンの各注入されたフラグメントに対するセリン421の変異を、ラット脳切片上の各半球上に示す。nは、条件あたりの動物の数を示す。
【図10】480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入したラット線条体を、注入24週間後に、抗DARPP−32および抗ホスホ−S473−Akt(9277,Cell Signaling Technology)抗体を使用する免疫組織化学によって分析した。ポリQ−ハンチンチン感染領域においてDARPP−32のダウンレギュレーションが観察されるが、リン酸化形態のAktに対するニューロンの免疫陽性の存在によって示されるように、ニューロン喪失の徴候は観察されなかった。
【図11】IGF−1およびAktは、主要なニューロンおよびHDニューロン細胞における輸送のポリQ−ハンチンチン誘導性の変化をレスキューする。図11A、IGF−1は、FL−htt−75Qを発現する皮質ニューロンの初代培養物において、BDNF含有小胞の平均速度(左)を有意に増加させ、それらの休止時間(右)を減少させる。図11B、109Q/109Q細胞において変化されたBDNF輸送は、速度(左)を増加させ、休止時間(右)を減少させるIGF−1によって改善される。図11C、Aktは、速度(左)を有意に増加させ、休止時間(右)を減少させる(*P<0.05)ことによって、109Q/109Q細胞における輸送の欠如を完全に阻害する。
【図12】S421におけるハンチンチンのリン酸化は、輸送を調節し、ポリQ−ハンチンチンの機能の喪失を回復する。図12A、コントロール条件(BDNF単独)、ならびにニューロン細胞において17もしくは75Qを伴うFL−htt、または17もしくは68Qを伴うN末端フラグメント480のトランスフェクション後におけるBDNF含有小胞の平均速度(左)および休止時間(右)の測定は、480アミノ酸のhttのN末端フラグメントが輸送を刺激することができるが、ポリQ伸長を含有する場合、変化されることを実証する。図12B、480−S421A構築物の存在下におけるBDNF含有小胞の速度(左)における有意な減少および休止時間(右)における増加により示されるように、S421がリン酸化されない場合、輸送を促進する野生型480フラグメント(480−17Q)の能力は失われる。図12C、480−17Q構築物と比較して、480−17Q−S421A構築物では、Aktの存在下におけるBDNF小胞の平均速度が減少させ、そして小胞の休止時間が増加させるため、BDNF輸送を増強するAktの能力は、httのS421のリン酸化により介在される。図12D、480−68Q構築物におけるS421D変異は、480−68Q構築物と比較して、小胞の平均速度(左)および休止時間(右)をレスキューする。(*P<0.05)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンチントン病を処置するための方法、そのような方法において有用な医薬組成物、およびハンチントン病を処置するのに有用な化合物を同定するためのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンチントン病(HD)は、脳の一定の領域における遺伝的にプログラムされたニューロンの変性から生じる。西洋世界におけるHDの罹患率は、1万人中1人である。この変性は、制御されない運動、知能の喪失、および感情障害を生じる。HDは、常染色体優性神経変性疾患である。HD遺伝子を受け継いでいる人は、遅かれ早かれ疾患を発症する。HDのいくつかの初期症状は、気分変動、うつ、易興奮性、あるいは運転すること、新たに物事を学ぶこと、事実を記憶すること、もしくは決断することにおける困難である。疾患が進行すると、知的作業に対する集中力が次第に困難になり、次いで患者は自分で食事を取ることおよび嚥下することが困難となり得る。疾患の進行速度および発症年齢は人によってばらつきがある。完全な病歴ならびに神経学的および臨床的検査を合わせた遺伝子検査は、医師がHDを診断するのに役立つ。HD遺伝子を保因する危険性のある個体では、発症前検査が利用可能である。HDにかかっている個体の1〜3パーセントでは、HDの家族暦を見出すことができない。
【0003】
現時点において、HDの経過を停止または反転するための方法は存在しない。HDを処置するために使用される薬物は、症状を緩和するのみであり、疲労、焦燥感、または過剰興奮のような副作用を有する。従って、HD処置に対する強い必要性が存在している。
【0004】
HDは、タンパク質のハンチンチン(htt)においてポリグルタミン鎖をコードする染色体4p16.3に局在するIT15遺伝子のコーディング領域における異常に伸長したCAG鎖によって生じる。ハンチンチンが異常なポリQ伸長を含有する場合、それは毒性になる。ポリQ−ハンチンチンは細胞質において切断され、その後、核に移動し、ここで、それはユビキチン免疫陽性の核凝集体を形成する。核における場合、ポリQ−ハンチンチンは、機能機構の獲得を通して、転写調節障害およびニューロン死を誘導する(非特許文献1)。ハンチンチンの保護機能の喪失は、新たな毒性機能の獲得に伴って付随的および/または相乗的に作用し得る(非特許文献2)。これと一致して、BDNF転写の調節障害は、ハンチンチンの正常な機能の喪失に関連する。さらに、ハンチンチンがポリQ伸長を含有する場合、BDNF含有小胞を輸送し、ニューロン生存を促進する能力は喪失する(非特許文献3)。最終的に、凝集体は神経軸索でも見出され、また、微小管ネットワーク動力学および/または軸索輸送を変化させることによっても、ニューロン機能障害に寄与し得る(非特許文献4)。
【0005】
タンパク質分解、ユビキチン化およびスモ化のようないくつかの翻訳後修飾は、ハンチンチンの毒性を改変する。疾患において重要な役割を果たす別の翻訳後修飾は、リン酸化である。特に、Ser/Thrキナーゼ、Aktならびに血清およびグルココルチコイド誘導性キナーゼ、SGKは、セリン421(S421)においてハンチンチンをリン酸化する(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。S421におけるリン酸化は、続いて、HDの細胞モデルにおいてポリQ−ハンチンチン誘導性の毒性を無効にする(非特許文献5;非特許文献6)。しかし、S421のリン酸化がインビボにおいて不可欠であるかどうかについては不明である。さらに、ハンチンチンはサイクリン依存性キナーゼCdk5によりセリン434においてリン酸化され、このことがカスパーゼ類によるその切断を減少させる(非特許文献8)。
【0006】
FK506およびシクロスポリンのようなイムノフィリンリガンドは、最近、神経再生および神経保護のための推定上の治療ストラテジーとして記載されている(非特許文献9;非特許文献10)。従って、イムノフィリンリガンドは、神経変性疾患を処置することが示唆される。イムノフィリンリガンドは、2種類の活性を示す:1)それらはペプチジル−プロリルイソメラーゼ(PPIまたはロタマーゼ)を阻害する;2)それらはカルシニューリンを阻害し、それにより免疫抑制機能を示す。しかし、神経保護および神経再生におけるこれらの2種類の活性の役割については、まだ明らかにされていない。
【0007】
カルシニューリンは、ニューロンの酸化窒素シンターゼ(nNOS)の活性化に関与する。nNOSは、脂質、タンパク質、およびDNAに構造的損傷を引き起こす一酸化窒素(NO)を生成する。その他の点では、カルシニューリンは、BADを脱リン酸化し、Bcl−XLとのそのヘテロダイマー形成を増進し、アポトーシスを引き起こす。従って、カルシニューリンの阻害は、細胞死の下流メディエーターを阻止することができる。同様に、ミトコンドリア機能の安定化もまた、神経保護を介在することができる。
【0008】
カルシニューリン阻害活性を有していない非免疫抑制薬イムノフィリンリガンド(例えば、GPI−1046およびV10,367)が神経障害を処置するために開発されている。特に、パーキンソン病を処置するためのGPI−1046およびV10,367による臨床治験は成功していない。
【0009】
HD処置に関する具体的なデータは、非特許文献11を除いて報告されていない。この文献は、3NP(3−ニトロプロピオン酸)により処置された皮質細胞(ハンチンチン変異を再生しないHDの化学モデル)におけるインビトロ研究について報告している。3NP処置は細胞死を誘導し、次いでこの細胞死は、S421位におけるハンチンチンのリン酸化に直接関連しない不明な機構を介するFK506により阻害することができる。
【非特許文献1】ロスCA(Ross CA)(2002年)Neuron35:819−822.
【非特許文献2】カッターネオE(Cattaneo E)ら(2001年)Trends Neurosci24:182−188.
【非特許文献3】ゴーティエルLR(Gauthier LR)ら(2004年)Cell 118:127−138.
【非特許文献4】チャリンBC(Charrin BC)ら(2005年)Pathol Biol(Paris)53:189−192.
【非特許文献5】ハンバートS(Humbert S)ら(2002年)Dev Cell2:831−837.
【非特許文献6】ランゴンH(Rangone H)ら(2004年)Eur J Neurosci19:273−279.
【非特許文献7】ワービーSC(Warby SC)ら(2005年)Hum Mol Genet.
【非特許文献8】ルオS(Luo S)ら(2005年)J Cell Biol169:647−656.
【非特許文献9】クレットナーA(Klettner A)、ヘルダーゲンT(Herdegen T)(2003年)Curr Drug Targets CNS Neurol Disord2:153−162.
【非特許文献10】ポンK(Pong K)、ザレスカMM(Zaleska MM)(2003年)Curr Drug Targets CNS Neurol Disord2:349−356.
【非特許文献11】アルメイダS(Almeida S)ら(2004年)Neurobiol Dis17:435−444.
【0010】
本発明者らは、S421位におけるハンチンチンのリン酸化がインビボにおいて神経保護的であること、およびカルシニューリン(CaN)がS421を脱リン酸化することを実証する。CaN活性の阻害は、S421におけるハンチンチンのリン酸化の増加をもたらし、次いでニューロンのポリQ−ハンチンチン誘導性死を防止する。従って、本発明者らは、ポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を減少させることによるHDを処置する臨床アプローチとして、S421位のハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の利益を示す。
【0011】
従って、本発明は、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のために、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の使用に関する。特に、薬物は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止するかまたは減少させることを目的としている。S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、キナーゼAkt、タンパク質キナーゼA、ポロキナーゼ1、オーロラAおよびオーロラBならびに/またはSGKの活性を増加させる薬物であり得る。好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物である。より好ましくは、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物は、カルシニューリン阻害剤またはカルシニューリンとハンチンチンとの間の相互作用を阻害する薬物またはカルシニューリンの優勢な干渉形態である。最も好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物はカルシニューリン阻害剤である。一の実施態様では、カルシニューリン阻害剤は、シクロスポリンA、FK506、FK520、L685,818、FK523、15−0−DeMe−FK−520、Lie120、フェンバレレート、レスメトリン、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体からなる群から選択される。好ましくは、カルシニューリン阻害剤は、FK506、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体からなる群から選択される。より好ましくは、カルシニューリン阻害剤はFK506である。代替的に、カルシニューリン阻害剤は、カルシニューリンに特異的なRNA干渉であり得る。ハンチントン病にかかっている対象は、ハンチントン病変異を保因する。特に、HD変異は、IT15遺伝子のコーディング領域におけるCAG反復の異常な伸長(35を超える)である。この対象は前駆症状であり得るか、またはHD症状も発症している。この場合、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、ハンチントン病の症状を緩和する薬物との併用で使用することができる。
【0012】
最も好適な実施態様では、本発明は、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害することによって、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のためのFK506の使用に関する。
【0013】
さらなる実施態様では、本発明は、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させることが可能な化合物の選択もしくは同定を含んでなる、ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を同定またはスクリーニングするための方法に関する。
【0014】
図1。S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化は、インビボにおいて神経保護的である。ラット線条体に、480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入した。ラット線条体におけるポリQ−ハンチンチン誘導性病巣を、注入24週間後に分析した。DARPP−32抗体による免疫組織化学的分析を実施し、病巣のサイズをすべての構築物について調べ、次いで480−68Q構築物によって誘導される病巣の百分率として表した。予想どおり、DARPP−32−免疫応答性ニューロンの極端な喪失が、480−68Q−が感染された線条体において観察されたが、野生型タンパク質の発現は影響を示さなかった(対応のあるステューデントt検定;t[7]=6.95;***P<0.001)。S421におけるリン酸化の不在(480−68Q−S421A)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの増加を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[6]=3.17;*P<0.05)。対照的に、S421における構成性(480−68Q−S421D)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの減少を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[7]=3.46;*P<0.05)。抗HA免疫組織化学的分析は、すべての構築物が同様のレベルで発現されることを示した(下方のパネル)。
【0015】
図2。カルシニューリンは、インビトロでS421を脱リン酸化する。精製されたカルシニューリンによるS421の時間経過(図2A)および用量依存的(図2B)脱リン酸化。ヒトハンチンチンのGST−結合フラグメント(アミノ酸384−467)を、組み換えAkt(0.2μg/サンプル)でリン酸化し、次いで、2μg(A)または異なる量(B)の精製されたカルシニューリンと共に示された時間(A)または60分間(B)、インキュベートした。抗ホスホハンチンチン−S421−763または抗ハンチンチン(1259)抗体を使用して、イムノブロッティング実験を実施した。
【0016】
図3。カルシニューリンは、細胞においてハンチンチンのS421を脱リン酸化する。図3A、マウス線条体(+/+細胞)を、ハンチンチンのN末端フラグメント(480−17Q)、Akt、カルシニューリンの構成性活性形態(CaNA−ΔCaM/CaNB)または対応する空ベクターでトランスフェクトし、抗ホスホハンチンチン−S421−714または抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロット分析のために処理した。3つの独立した実験からのデータは、カルシニューリンの構成性活性形態は、Aktによって誘発されるS421のリン酸化を有意に減少させることを示す(ステューデントt検定;t[3]=3.63;*P<0.05)。図3B、SHSY−5Y細胞を、カルシニューリンの触媒不活化形態(CaNA−D130N)、Aktまたは対応する空ベクターでトランスフェクトし、次いで抗ホスホハンチンチン−S421−763で分析した。データは3つの独立した実験から得たものである(分散分析(ANOVA);F[2,6]=17.31;P=0.032)。S421に対する内因性ハンチンチンのリン酸化は、カルシニューリンの触媒不活化構築物(ステューデントt検定;t[4]=4.34;*P<0.05)およびAkt(t[4]=5.26;**P<0.01)によって有意に増加した。
【0017】
図4。ハンチンチンはカルシニューリンと共局在し、Ca2+誘導性カルシニューリン活性化により脱リン酸化される。図4A、イオノマイシン(Io、下方のパネル)は、野生型CaNA/CaNBでトランスフェクトされた細胞におけるハンチンチンS421リン酸化を減少させた。SHSY−5Y細胞を、非処置細胞(N.T.、上部パネル)との比較で、野生型形態のCaNA/CaNBで共トランスフェクトした。グラフは、32細胞から放出されるホスホ−S421−htt(763抗体)シグナルの平均蛍光強度の定量化に相当し(ANOVA;F[3,28]=7,05;P=0.0011)、次いでハンチンチンのイオノマイシン誘導性脱リン酸化が有意であることを示す(フィッシャーの事後検定;***P<0.001)。図4B、ハンチンチンは、小胞構造に対するカルシニューリンの触媒サブユニット(CaNA)と共局在する。線条体ニューロンにおけるハンチンチン(1259抗体)、ホスホ−S421−ハンチンチン(714抗体)およびCaNAに対する免疫染色。神経突起に沿った小胞構造において実質的な共局在が観察された(拡大図を参照のこと)。スケールバー、5μm。
【0018】
図5。カルシニューリンの優勢な干渉形態は、線条体ニューロンにおいて、S421のリン酸化依存的様式でポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を阻害する。図5A、線条体ニューロンにおいて、野生型ハンチンチン(480−17Q)またはポリQ−ハンチンチン(480−68Q)を、触媒不活性形態のカルシニューリンをコードする発現ベクター(CaNA−D130N)または対応する空ベクターとともに共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,56]=6.99;P=0.0004)は、CaNA−D130Nが、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死を有意に減少させたことを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、***P<0.0001)。図5B、線条体ニューロンを、CaNAα、CaNAβまたは両方のアイソフォームに対するsiRNAでヌクレオフェクト(nucleofected)し、次いで30時間後、図5Aのように480−68Qでトランスフェクトした。CaNの両方のアイソフォームに対するsiRNAの組み合わせは、ウエスタンブロット分析による検出では、CaNA発現を効率的に減少させた。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,6]=5.33;P=0.039)は、ポリQ依存的毒性に対する保護効果を実証した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。図5C、線条体ニューロンを、480−68Qまたはリン酸化不能形態(480−68Q−S421A)およびCaNA−D130Nで共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[2,41]=4.30;P=0.0004)は、触媒不活形態のカルシニューリンが480−68Q−S421A構築物によって誘発されるポリQ依存的細胞死を妨げないことを実証し(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、**P<0.01)、神経保護がS421のリン酸化に依存することを示した。
【0019】
図6。FK506によるカルシニューリンの阻害は、S421の脱リン酸化を防止する。ジャーカット(Jurkat)細胞におけるFK506による処置(20分間、1μM)は、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化を増加させた(左)。カルシウムイオノフォアイオノマイシン(Io、2.5μM)は、ジャーカット(Jurkat)細胞におけるS421の迅速な脱リン酸化を誘導した。Io誘発性S421脱リン酸化は、FK506(1μM)によって妨げられた(右)。処置されたジャーカット(Jurkat)細胞の全細胞抽出物を、抗ホスホハンチンチン−S421−763および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。図6B、ラット線条体ニューロンのFK506処置後のS421の時間経過および用量依存的リン酸化。ニューロンを、1μMのFK506で異なる時間(上)または示された濃度で2時間(下)処置した。全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的(抗ホスホハンチンチン−S421−714)および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。
【0020】
図7。109Q/109Q細胞は、FK506によって増加され得るS421におけるハンチンチンのリン酸化の減少を示す。図7A、野生型(+/+)または変異マウス(109Q/109Q)から生じる不死化ノックイン細胞の全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的および抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロットによって分析した。図7B、FK506(0.2μM、48時間)は、野生型およびポリQ−ハンチンチンにおけるS421のリン酸化を増加させた。図7C、FK506は、ニューロンをポリQ仲介細胞死から保護した。線条体ニューロンを、異なる用量のFK506またはビヒクルの存在下で、480−68Qでトランスフェクトした。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[5,68]=8.02;P=0.0001)は、FK506が、480−68Qによって誘導されるニューロン死を有意に減少させることを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。
【0021】
図8。FK506のマウスへの投与は、脳におけるS421のリン酸化の増加を生じる。FK506をマウスに腹腔内または経口的に投与した(5mg/kg)。動物を、投与後の示された時間に屠殺し、脳を切開し、ホモジェナイズし、次いでウエスタンブロット分析用に処理した。脳全体の抽出物を抗−ホスホ−S421、抗ホスホ−S473−Akt、抗全ハンチンチンおよび抗全Akt抗体で調べた。下のパネルは、2回反復で実施した2つの独立した実験の濃度測定分析に対応する。合計で18匹のマウスを屠殺した。上から下へおよび左から右へ:(ANOVA;F[3,4]=11.52、P=0.019);(ANOVA;F[3,4]=8.694、P=0.031);(ANOVA;F[3,4]=1,668、P=0.31);(ANOVA;F[3,4]=0.97、P=0.4);*P<0.05、**P<0.01。
【0022】
図9。多様な480フラグメントの注入プロトコルの概要を表す図。29匹の動物に対して実験を行った。注入1週間後、2匹のラットを分析して、ハンチンチンの発現を制御した。注入12週間後、各グループの1匹の動物において病巣を評価した。この時点では病巣は有意ではなかったため、すべての動物の最終的評価を、注入24週間後に実施した。グルタミンの数(17Qまたは68Q)およびハンチンチンの各注入されたフラグメントに対するセリン421の変異を、ラット脳切片上の各半球上に示す。nは、条件あたりの動物の数を示す。
【0023】
図10。480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入したラット線条体を、注入24週間後に、抗DARPP−32および抗ホスホ−S473−Akt(9277,Cell Signaling Technology)抗体を使用する免疫組織化学によって分析した。ポリQ−ハンチンチン感染領域においてDARPP−32のダウンレギュレーションが観察されるが、リン酸化形態のAktに対するニューロンの免疫陽性の存在によって示されるように、ニューロン喪失の徴候は観察されなかった。
【0024】
図11。IGF−1およびAktは、主要なニューロンおよびHDニューロン細胞における輸送のポリQ−ハンチンチン誘導性の変化をレスキューする。図11A、IGF−1は、FL−htt−75Qを発現する皮質ニューロンの初代培養物において、BDNF含有小胞の平均速度(左)を有意に増加させ、それらの休止時間(右)を減少させた。図11B、109Q/109Q細胞において変化されたBDNF輸送は、速度(左)を増加させ、休止時間(右)を減少させるIGF−1によって改善される。図11C、Aktは、速度(左)を有意に増加させ、休止時間(右)を減少させる(*P<0.05)ことによって、109Q/109Q細胞における輸送の欠如を完全に阻害する。
【0025】
図12。S421におけるハンチンチンのリン酸化は、輸送を調節し、ポリQ−ハンチンチンの機能の喪失を回復する。図12A、コントロール条件(BDNF単独)、ならびにニューロン細胞において17もしくは75Qを伴うFL−htt、または17もしくは68Qを伴うN末端フラグメント480のトランスフェクション後におけるBDNF含有小胞の平均速度(左)および休止時間(右)の測定は、480アミノ酸のhttのN末端フラグメントが輸送を刺激することができるが、ポリQ伸長を含有する場合、変化されることを実証する。図12B、480−S421A構築物の存在下におけるBDNF含有小胞の速度(左)における有意な減少および休止時間(右)における増加により示されるように、S421がリン酸化されない場合、輸送を促進する野生型480フラグメント(480−17Q)の能力は失われる。図12C、480−17Q構築物と比較して、480−17Q−S421A構築物では、Aktの存在下におけるBDNF小胞の平均速度が減少させ、そして小胞の休止時間が増加させるため、BDNF輸送を増強するAktの能力は、httのS421のリン酸化により介在される。図12D、480−68Q構築物におけるS421D変異は、480−68Q構築物と比較して、小胞の平均速度(左)および休止時間(右)をレスキューする。(*P<0.05)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
線条体においてポリQ−ハンチンチンフラグメントのレンチウイルス介在の発現に基づくHDのラットモデルを使用して、本発明者らは、S421のリン酸化がインビボにおいて神経保護的であることを実証する。本発明者らはまた、カルシニューリン(CaN)、カルシウム/カルモジュリン調節Ser/Thrタンパク質ホスファターゼがインビトロおよび細胞においてS421を脱リン酸化することを実証する。重要なことに、優勢な干渉形態の過剰発現、RNA干渉または特異的インヒビターFK506のいずれかによるCaN活性の阻害は、S421におけるハンチンチンのリン酸化の増加をもたらし、線条体ニューロンのポリQ介在死を防止する。最終的に、本発明者らは、FK506のマウスへの投与が、脳におけるハンチンチンS421のリン酸化を増加させることを示す。まとめれば、これらのデータは、S421リン酸化の調節におけるCaNの重要性を強調し、それがポリQ誘導性毒性を減少させる場合、HDを処置する臨床アプローチとしてのCaN阻害の使用可能性を示唆する。
【0027】
タンパク質ホスファターゼ2B(PP2B)としても公知であるカルシニューリン(CaN)は、Ca2+−カルモジュリンによって生理学的に活性化されるリン酸化タンパク質Ser/Thrホスファターゼである(総説については、マンシー(Mansuy)、2003年を参照のこと)。従って、それは、細胞内カルシウムと、転写因子(活性化T細胞の核因子、NFAT)、イオンチャンネル(イノシトール−1,4,5三リン酸受容体)、小胞輸送に関与するタンパク質(アンフィフィシン、ダイナミン)、構造タンパク質(AKAP79)およびホスファターゼインヒビター(DARPP−32、インヒビター−1)を含む選択された脱リン酸化の基質とを結合させる。CaNは、哺乳動物のすべての組織に存在し、脳においては特に高レベルであり、いくつかの研究は、それが、脳の全タンパク質含有量の1%を占め得ることを示している。触媒サブユニットは、皮質、線条体および海馬において主に発現される。中枢神経系内において、それが長期記憶のためのネガティブ制限と考えられるため、CaN活性はシナプス可塑性に関与している。神経末端では、CaNは、Ca2+に応答して、小胞および細胞膜タンパク質を脱リン酸化することによりシナプス小胞エンドサイトーシスを誘発する。最終的に、CaNは、これらの薬物のそれらの適切な受容体(イムノフィリン類)への結合を介し、シクロスポリンAおよびFK506のような薬物によって阻害される;ハマウィ(Hamawy)、2003年)。FK506およびその誘導性イムノフィリンリガンドは、シクロスポリンとは異なり、血液−脳関門を容易に通過することができる(ポン(Pong)およびザレスカ(Zaleska)、2003年)。
【0028】
本発明者らは、以前、ハンチンチンが、脳由来神経栄養因子(BDNF)のような小胞の細胞内輸送のための作用因子(processivity factor)であることを示した。HDでは、皮質ニューロンにおけるBDNF小胞の輸送が変化され、線条体における栄養支持の減少およびニューロン毒性がもたらされる。本発明では、本発明者らは、IGF−1/Akt経路によるS421におけるハンチンチンのリン酸化がポリQ伸長によって変化された輸送をレスキューし、次いで外部へのBDNFの流動を促進することにより、神経栄養の支持を増加させることを実証する。これらの結果は、HDにおけるS421リン酸化の神経保護効果を解明し、S421のリン酸化が輸送におけるハンチンチン機能をレスキューすることから、ハンチンチンリン酸化を増強する薬物が治療上重要であることを示唆する。さらに、本発明者らは、セリン421におけるAktによるハンチンチンのリン酸化が、正常なハンチンチンだけではなくポリQ−ハンチンチンの能力を調節して輸送を促進することを実証する。
【0029】
本発明は、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のために、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の使用に関する。好ましくは、薬物は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止するかまたは減少させることを目的としている。薬物はまた、軸索輸送におけるハンチンチンの活性を回復することを目的としている。
【0030】
本発明はまた、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる治療量の薬物を投与し、それによりポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させることによって、ハンチントン病にかかっている対象を処置するための方法に関する。特に、薬物は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止または減少させることを目的としている。薬物はまた、軸索輸送におけるハンチンチンの活性を回復することを目的としている。
【0031】
ハンチントン病にかかっている対象は、ハンチントン病遺伝子を保因するHD変異を保因する対象である。ハンチントン病を発症する変異は、ハンチンチン遺伝子(IT15遺伝子とも呼ばれる)における異常な(anormal)CAG反復伸長である。実際、正常な個体では、反復は6〜35回の間で生じる。HDにかかっている対象では、反復は、36回を超えて、一般的には、40回〜80回を超えて生じる。この変異は、ハンチンチンと命名されたタンパク質におけるポリグルタミン(ポリQ)伸長を生じる。
【0032】
ハンチントン病にかかっている対象は前駆症状であり得る。前駆症状の対象は、遺伝子検査によって同定される。米国特許第4,666,828号明細書は、対象におけるハンチントン病の遺伝子の存在を検出するための方法を開示し、それはヒト第4染色体におけるハンチントン病に関連するDNA多型、特に、RFLPの分析を含んでなる。好適な実施態様では、検査は、ハンチントン病変異の存在についてDNAを直接分析する(クレーメル(Kremer)ら、1994年)。もちろん、対象が異常な(anormal)ハンチンチンタンパク質または遺伝子を有するかどうかを調べうる任意の検査が、本発明において想定される。
【0033】
従って、本発明はHD対象を処置するための方法であって:対象におけるHD変異の存在を検出すること;次いでS421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる治療量の薬物をHD変異にかかっている対象に投与し、それによりポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死を阻止または減少させることを含んでなる方法に関する。特に、対象におけるHD変異の存在を検出することは、IT15遺伝子におけるCAG反復の数の決定を含んでなる。36を超える反復、好ましくは、40を超える反復にかかっている対象は、HD変異を有するものとみなされる。代替的に、対象におけるHD変異の存在を検出することはまた、ポリグルタミン伸長のサイズを決定することにより、ハンチンチンタンパク質レベルにおいても行うことができる。
【0034】
代替的に、ハンチントン病にかかっている対象はHD症状を示し得る。HD症状は当業者に周知である。例えば、それらは、制御されない運動、知能の喪失(例えば、認知症)、および感情障害(例えば、うつ)を含んでなる。この場合、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、ハンチントン病の症状を緩和する薬物との併用で使用することができる。例えば、HD症状を処置するそのような薬物は、抗精神病薬(ハロペリドール、クロルプロマジン、オランザピン)、抗うつ薬(フルオキセチン、塩酸セルトラリン、ノルトリプチリン)、精神安定剤(ベンゾジアゼピン系薬剤、パロキセチン、ベンラファキシン、β遮断薬)、気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)、およびボツリヌス毒素であり得る。
【0035】
好ましくは、対象は、霊長類、より好ましくは、高等な霊長類、最も好ましくは、ヒトである。
【0036】
HDにかかっている対象の処置は、運動協調性の改善、生存率の上昇、前駆症状HD対象におけるハンチントン病の発症の防止、HD発達の遅延もしくは停止および/またはHDの軽減を生じ得る。実際に、本発明に従う処置により、ポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止しまたは減少させ、それによってポリQ−ハンチンチンにより誘導されるニューロン死を阻止するかまたは減少させる。従って、前駆症状段階のようなHDの初期段階において、HD発達は防止されるべきである。HDの後期段階において、HD発達は阻害または減速されるべきである。本発明者らはまた、本発明において、S421におけるハンチンチンのリン酸化の増加は、軸索輸送、特に、正常なハンチンチンの抗アポトーシス作用に関連するBDNF輸送におけるその活性の完全または部分回復を生じることを示した。
【0037】
本発明に従う処置後はその軸索輸送能力の増加によりハンチンチンの抗ニューロン死の役割が増加するため、本発明は、さらに、神経変性疾患にかかっているまたはこの疾患の危険性のある対象におけるハンチンチンによる軸索輸送を増加させるための医薬品の製造のためのS421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物の使用を想定する。神経変性疾患は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病からなる群から選択され得る。本発明はまた、神経変性疾患を患うまたはこの疾患の危険性のある対象を処置するための方法であって、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる治療量の薬物を投与し、それによりハンチンチンによる軸索輸送を増加させることを含んでなる方法を想定する。ハンチンチンによる軸索輸送の増加は、抗アポトーシス効果を示すことを目的としている。
【0038】
S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、キナーゼAkt、タンパク質キナーゼA、ポロキナーゼ1、オーロラA、オーロラBおよび/またはSGKの活性を増加させる薬物であり得る。しかし、好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物は、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物である。より好ましくは、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物は、カルシニューリン阻害剤またはカルシニューリンとハンチンチンとの間の相互作用を阻害する薬物である。最も好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物はカルシニューリン阻害剤である。
【0039】
カルシニューリン阻害剤として、シクロスポリンA(Novartis International AG、瑞国)、FK506(Fujisawa Healthcare,Inc.,Deerfield、イリノイ州、米国)、FK520(Merck&Co,Rathway、ニュージャージー州、米国)、L685,818(Merck&Co)、FK523、15−0−DeMe−FK−520(リュウ(Liu)、Biochemistry,31:3896−3902(1992年))、Lie120、フェンバレレート(Merck&Co)、レスメトリン(Merck&Co)、シペルメトリン(Merck&Co)およびデルタメトリン(Merck&Co)が挙げられるが、これらに限定されない。国際公開第2005087798号パンフレットには、カルシニューリンを阻害するシクロスポリン誘導体が記載されている。
【0040】
カルシニューリンは、触媒サブユニット(カルシニューリンA)および調節因子サブユニット(カルシニューリンB)からなるヘテロダイマーである。次いで、カルシニューリンの活性はまた、その発現、特に、そのサブユニットの発現を阻止することによっても、阻害することができる。好適な実施態様では、カルシニューリンの活性はまた、調節因子サブユニットBの発現を阻止することによっても阻害することができる。代替的な好適な実施態様では、カルシニューリンの活性はまた、調節因子サブユニットA、CaNAαまたはCaNAβのいずれかの発現を阻止することによっても阻害することができる。発現は、当業者に公知の任意の手段、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、短鎖干渉RNA(siRNA)および短鎖ヘアピンRNA(shRNA)のような化学的に合成されたオリゴヌクレオチドによって阻止することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的mRNAに相補的であり、典型的には10〜50merの長さ、好ましくは15〜30merの長さ、より好ましくは18〜20merの長さを有する短い一本鎖分子である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは、開始コドン、標的遺伝子の転写開始部位またはイントロン−エキソン接合部位を標的として設計される(総説については、カーレック(Kurreck)、2003年)。リボザイムは、触媒活性を保持する一本鎖RNA分子である。リボザイム作用の機構は、リボザイム分子の相補的標的RNAへの配列特異的相互作用、それに続くエンドヌクレアーゼ切断に関与する。リボザイムは、切断NUHトリプレット、好ましくはGUCを含んでなる目的の標的RNAと相互作用するように操作される(総説については、ウスマン(Usman)ら、2000年)。siRNAは、通常、21または23ヌクレオチド長であり、19もしくは21ヌクレオチド二重鎖配列および2ヌクレオチド長の3’オーバーハングを伴う。shRNAは、siRNAの2本鎖間にループを形成するさらなるいくらかのヌクレオチドを除いて、siRNAをコードする配列についてのものと同じ規則で設計される。(総説については、ミッタル(Mittal)、2004年を参照のこと)。特定の実施態様では、阻害するオリゴヌクレオチドは、ベクター、好ましくは、阻害するオリゴヌクレオチドの発現を可能にする構築物を含んでなるウイルスベクターによって発現される。例えば、ウイルスベクターは、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスまたはHSVであり得る。実施例では、siRNAによってカルシニューリン阻害を実施するための1つの方法を詳細に開示した。
【0041】
特定の実施態様では、本発明は、医薬品としてのカルシニューリンに特異的なRNA干渉に関する。好適な実施態様では、本発明は、ハンチントン病を処置するための医薬品の製造のためのカルシニューリンに特異的なRNA干渉の使用に関する。そのようなRNA干渉は、CaNAα(NM_000944)および/またはCaNAβ(NM_021132)が対象とされる。
【0042】
カルシニューリン阻害剤はまた、カルシニューリン、特に、CaNAおよび/またはCaNBの優勢な干渉形態であり得る。カルシニューリンの優勢な干渉形態は、例えば、CaNA−D130Nであり得る。カルシニューリンの優勢な干渉形態の他の例には、CaNA−H101Q(ワング(Wang)ら、1999年、Science284、339−343)、CaNA−H160QおよびCaNA−H290Q(シバサキ(Shibasaki)ら、1996年、Nature、6589、370−373;ニシムラ(Nishimura)およびタナカ(Tanaka)、2001年、J.Biol.Chem..、276、19921−19928)、H160Q(チュー(Zhu)ら、2000n J.Biol.Chem.、275、15239−15245)、D148−152(ヤマシタ(Yamashita)、2000年、J.Exp.Med.、191、1869−1880)ならびにDnter−DcaM(ムラマツ(muramatsu)およびキンカイド(Kincaid)、1996年、BBRC、218、466−472;ムサロ(Musaro)ら、1999年、Nature、6744、581−585)がある。従って、カルシニューリンの優勢な干渉形態は、ベクター、好ましくは、その発現を可能にする構築物を含んでなるウイルスベクターによって発現される。例えば、ウイルスベクターは、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスまたはHSVであり得る。
【0043】
代替的に、カルシニューリンの活性は、カルシニューリンサブユニット間の相互作用、特に、サブユニットAおよびBの間の相互作用を阻害する薬物により阻害することができる。カルシニューリンの活性は、カルシニューリンとカルモジュリンとの間の相互作用を阻害する薬物によって阻害することができる。カルシニューリン阻害はまた、キャビン1(cabin1)、カルシプレッシン(calcipressin)類およびAKAP79を含むカルシニューリンの内因性インヒビターの活性化によっても得ることができる。
【0044】
薬物の「類似体」とは、類似の構造的特徴を有し、特にカルシニューリンを阻害する同じ生物学的活性を有する化合物が意図される。
【0045】
カルシニューリンを阻害する他の薬物は、当該技術分野において既に開示されているスクリーニング方法によって同定することができる。例示として、米国特許第6,875,581号明細書および同第6,338,946号明細書は、カルシニューリン活性のモジュレーターを同定するのに有用なスクリーニング方法について記載している。
【0046】
従って、本発明はまた、ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を同定またはスクリーニングするための方法であって、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させることが可能な化合物の選択もしくは同定を含んでなる方法に関する。
【0047】
本方法は以下を含んでなることができる:
a)ハンチンチンタンパク質またはS421を含んでなる少なくとも50個の連続アミノ酸のそのフラグメントを提供することであって、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントがリン酸化S421を有すること;
b)カルシニューリンを提供すること;
c)候補化合物と、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントおよび前記カルシニューリンとを接触させること;次いで、
d)カルシニューリンによるハンチンチンS421の脱リン酸化を阻害する候補化合物を選択すること。
【0048】
代替的に、本方法は以下を含んでなることができる:
a)候補化合物と、ハンチンチンタンパク質を発現し、S421位においてハンチンチンをリン酸化するキナーゼおよびカルシニューリンを含んでなる細胞とを接触させること;
b)S421位においてリン酸化されるハンチンチンの量および/またはS421位においてリン酸化されないハンチンチンの量を評価すること;次いで、
c)候補化合物と接触されていないコントロール細胞を比較して、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる候補化合物を選択すること。
【0049】
好適な実施態様では、S421位におけるハンチンチンのリン酸化は、S421位においてリン酸化されたハンチンチン特異的な抗体、特にウエスタンブロットにより検出される。好ましくは、細胞はニューロン、特に、線条体ニューロンである。しかし、いかなる種類の細胞が本発明において想定される。
【0050】
カルシニューリンを阻害する薬物は、様々な起源のもの、天然物および組成物であり得る。それは、単離されたもしくは他の物質との混合において、脂質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、小分子などのごときいずれの有機または無機物質であり得る。好適な実施態様では、薬物は小分子である。他の好適な実施態様では、薬物はペプチドまたはポリペプチドである。さらなる実施態様では、薬物は、核酸、例えば、アンチセンス、siRNA、リボザイムである。別の実施態様では、薬物はアプタマーである。好適な実施態様では、カルシニューリンを阻害する薬物は、血液−脳関門を通過する。
【0051】
本発明において使用される薬物は、一般的に医薬上許容されるキャリアを含んでなる医薬組成物として製剤化されうる。医薬上許容されるキャリアとは、処置される哺乳動物に生理学的に許容可能である一方、それと共に投与される薬物の治療特性を保持するキャリアを意図する。例えば、医薬上許容されるキャリアは、生理食塩溶液であり得る。他の医薬上許容されるキャリアは当業者に公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(第20版、A.R.ゲンナロAR.(A.R.Gennaro AR.)、2000年、Lippincott Williams & Wilkins)に記載される。
【0052】
本発明の組成物は、経口的、非経口的、吸入スプレーにより、局所的、直腸内、経鼻的、頬側的、膣内にまたは移植リザーバを通して投与することができる。本明細書で使用される用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内および頭蓋内注入または輸注技術を含む。好ましくは、組成物は、経口的、腹腔内または静脈内に投与される。血液−脳関門を通過しない薬物については、例えば、定位注入によって脳に薬物を注入することを必要とする。
【0053】
「治療量」とは、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させるのに十分である薬物の量を意図する。薬物の有効量は、投与形態、対象の年齢、体重、性別および総合的な健康状態に依存して変動する。好適な実施態様では、それは、カルシニューリン活性を効率的に阻害し、それによりポリQ−ハンチンチン毒性を阻止または減少させるのに十分な量である。効果は、ポリQ−ハンチンチンによって誘導されるニューロン死による、S421位におけるハンチンチンのリン酸化状態によって評価することができる。所定の適用に対する治療量を決定するために当該技術分野に公知の多くの方法が存在することが理解される。例えば、FK506の用量は、0.001mg/kg/日〜10mg/kg/日、好ましくは、経口投与による0.01〜10mg/kg/日の間および静脈内注入による0.001〜1mg/kg/日の間、好ましくは、0.01〜0.5mg/kg/日の間であり得る。投与プロトコルは当業者に周知である。特定の実施態様では、血中FK506レベルは、5〜40ng/mlの間、好ましくは、15〜20ng/mlの間に含まれる。従って、FK506の投与用量は、上記の血中FK506レベルを得るために適合されうる。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は本発明を例示する。
【0055】
材料および方法
構築物。pSIN−480−17Q、pSIN−480−68Q、pSIN−480−68Q−S421AおよびpSIN−480−68QS421Dを、それぞれ、480−17Q、480−68Q、480−68Q−S421Aおよび480−68Q−S421Dプラスミドから作製した(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。これらのプラスミドは、17もしくは68グルタミンおよび421位におけるセリンからアラニンへの変異(S421A)またはセリンからアスパラギン酸への変異(S421D)を伴うハンチンチンの最初の480アミノ酸のフラグメントをコードする。最初に、PCRストラテジーを用いて、順方向プライマー:5’GCAGCTCACTCTGGTTCAAGAAGAG3’(配列番号1)およびヘマグルチニン−タグ(HA)を含有する逆方向プライマー:
5’CTCGAGTTAAGCGTAATCTGGAACATCGTATGGGTAGGATCTAGGCTGCTCAGTG3’(配列番号2)を使用して、480構築物のC末端部を改変した(QuickChange部位特異的変異誘発;Stratagene、La Jolla、カリフォルニア州、米国)。様々なフラグメントを、親480−17Q/68Qプラスミドにクローン化することにより、C末端HAタグを有し、S421、S421AおよびS421D変異を伴うベクター480−17Q/68Qを作製し、次いで、SINW−PGK−GDNFにサブクローン化した(BamHI−XhoI;デグロン(Deglon)ら、2000年)。
【0056】
以前報告したように、レンチウイルス粒子を293T細胞において生成し、リン酸緩衝食塩水(PBS)/1%ウシ血清アルブミン(BSA)中で再懸濁した。ウイルスバッチの粒子含有量を、p24抗原ELISA(PerkinElmer Life Sciences、Boston、マサチューセッツ州、米国)により決定した。
【0057】
野生型Akt、構成的に活性なAkt(Akt c.a.)、野生型CaNA、構成的に活性な(Ca2+−非感受性)形態のCaNA(CaNA−ΔCaM)、触媒不活性の優勢な干渉形態のCaNA(CaNA−D130N)とCaNB、BDNF−eGFP、ならびに様々なハンチンチン構築物480−17Q、480−68Q、480−17Q−S421A、480−68Q−S421A、480−17Q−S421D、480−68Q−S421D、WTおよびポリQ−FL−httをコードするベクターをすでに記載している。
【0058】
動物。体重約180〜200gの成体雌のWistarラット(Iffa−Credo/Charles River、Les Oncins、仏国)を使用した。動物を12時間の明/暗サイクルに維持された温度制御された部屋で飼育した。食物および水を自由に摂取させた。
【0059】
FK506(Alexis、Lausen、瑞国)を、5〜6週齢のC57/BL6雄マウス(Iffa−Credo/Charles River、Les Oncins、仏国)に、経口または腹腔内注入(5mg/kg)により投与した(ダン(Dunn)ら、1999年;シング(Singh)ら、2003年)。経口投与では、FK506を100μlの0.5%カルボキシメチルセルロース(Sigma)に溶解した。腹腔内投与では、FK506を200μlのCremophor(登録商標)(Sigma)に溶解させた。マウスを、投与後の示された時間後に屠殺した。脳全体を、1μMオカダ酸(Sigma)、1μM FK506(Alexis)、1μMシクロスポリンA(Sigma)および40nMトートマイシン(Calbiochem、Darmstadt、独国)を添加した1%TritonX−100溶解緩衝液(ウエスタンブロット分析のセクションを参照のこと)中でホモジェナイズし、次いで20,000×g(5分間;4℃)で遠心分離した。上清のアリコートを6%SDS−PAGEにより分離させた。
【0060】
動物を使用する研究は、ヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki)、ならびに米国の国立衛生研究所(National Institutes of Health)で採用され、推奨される実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従い実施した。
【0061】
レンチウイルスの注入。濃縮されたウイルスストックを融解し、ピペッティングの反復により再懸濁させた。レンチウイルスベクターを、34ゲージのブラントチップ針を伴うHamiltonシリンジ(Hamilton、Reno、ネバダ州、米国)を使用して、ケタミン(75mg/kg、腹腔内)およびキシラジン(10mg/kg、腹腔内)麻酔した動物の線条体に定位注入した(David Kopf Instruments、Tujunga、カリフォルニア州、米国)。各ベクターについて、粒子含有量を200,000ng p24/mlに合わせた。ウイルス懸濁液(4μl)を、自動注入機(Stoelting Co.、Wood Dale、イリノイ州、米国)により0.2μl/分で注入し、次いで針をさらに5分間留置した。定位座標は:ブレグマに対し0.5mm吻側;正中線に対し3mm外側および頭蓋表面より5mmであった。6−0Prolene(登録商標)縫合糸(Ethicon,Johnson and Johnson、Brussels、白国)を用いて皮膚を縫合した。
【0062】
組織学的処理。レンチウイルス注入1、12および24週間後、動物に過剰用量のペントバルビタールナトリウムを投与し、生理食塩水および4%パラホルムアルデヒド/10%ピクリン酸により心臓潅流(transcardially perfused)した。脳を取り出し、4%パラホルムアルデヒド/10%ピクリン酸中に約24時間固定後、最後に、25%スクロース/0.1Mリン酸緩衝液中で48時間凍結保護した。脳をドライアイスで凍結させ、−20℃において、スライディングミクロトームクラリオスタット(Cryocut 1800、Leica Microsystems AG、Glattbrugg、瑞国)上で25μmの冠状切片に切断した。線条体全体を通しての切片を採取し、48ウェルトレイ(Costar、Cambridge、マサチューセッツ州、米国)において、0.12μMアジ化ナトリウムを添加したPBS中で浮遊切片として貯蔵した。免疫組織学的処理まで、トレイを4℃で貯蔵した。
【0063】
注入したラット由来の線条体切片を、ドーパミンおよび32kDaの分子量のcAMP調節リン酸化タンパク質(DARPP−32;1:7500;Chemicon International Inc.,Temecula、カリフォルニア州、米国)について、ならびに以前記載されたベンザドウン(Bensadoun)ら、2001年)のごときHA−タグ(モノクローナル抗HA抗体;1:1000;Covance Research Products,Berkeley カリフォルニア州、米国)について、免疫化学により処理した。続いて、切片を、ビオチン化された二次ヤギ抗マウスまたはヤギ抗ウサギ抗体(Vector laboratories,バーリンガム、カリフォルニア州、米国)によりインキュベートし、以前記載したように視覚化を行った。
【0064】
DARPP−32欠失領域の定量化および統計解析。DARPP−32のダウンレギュレーションを、病巣を含有する各切片において、画像解析プログラム(NIH Image1.63)を用いて測定した。各切片について、最初に、T値を得るために、線条体の標的化された領域、およびウイルスに感染しなかった線条体の非感染領域(NI)において、吸光度を調べる。次いで、DARPP−32非発現領域(B、皮質)からバックグランド値を得る。続いて、以下の式:病巣の%=100−((NI−B)/(T−B)×100)を用いて病巣の百分率を算出し、病巣の百分率を表す;100%病巣は、480−68Q構築物により生じた病巣に相当する。同じ動物に注入された2つの構築物間の比較を、対応のあるt検定を用いて行った。24週間目では、線条体の体積は様々なレンチウイルスにより改変されない(データ示さず)。
【0065】
インビトロリン酸化/脱リン酸化アッセイ。キナーゼアッセイを、組み換えAkt(Upstate Biotechnology、シャーロッツビル、米国)および基質として精製された短縮形態のハンチンチンタンパク質(GSTと融合したアミノ酸384〜467のヒトハンチンチン;1時間のインキュベーション、30℃)を用いて記載(ランゴン(Rangone)ら、2004年)されるように実施した。精製されたカルシニューリン(ウシ脳から単離された天然型タンパク質、Upstate Biotechnology,Temecula、カリフォルニア州、米国)を上述のとおり添加した。反応生成物を12%SDS−PAGEによって分離させた。
【0066】
細胞培養、トランスフェクションおよび薬物処置。線条体ニューロンの初代培養を、E17のスプラーグドーリー系ラットから調製し、インビトロ4日で、改変されたリン酸カルシウム技術(サウドウ(Saudou)ら、1998年)によってトランスフェクトした。野生型ハンチンチンマウス(ニューロン細胞、+/+)およびHdhQ109ノックインマウス(109Q/109Q)由来のマウスニューロン細胞を、以前に記載された通りに培養し(トレッテル(Trettel)ら、2000年)、Lipofectamine2000(Invitrogen、Breda、蘭国)でトランスフェクトした。共トランスフェクトした場合(図3A)、480−17Q/Akt/CaNA−ΔCaM/CaNBの比率は、1:0.5:1:1であった。ヒトHEK293細胞を、10%仔ウシ血清(BCS)を添加したDMEM中で培養し、リン酸カルシウム技術によってトランスフェクトした。SHSY−5Y細胞およびジャーカット(Jurkat)T細胞を、10%BCSを添加したRPMI中で増殖させた。FK506(1μM)および/またはイオノマイシン(2.5μM)の添加前に、ジャーカット(Jurkat)T細胞をタイロード緩衝液(137mM NaCl、3mM KCl、20mM Hepes、2mM MgCl2、1mM CaCl2、5.6mM グルコース、0.3mg/ml BSA;4×106細胞/ml)に移した。
【0067】
ウエスタンブロット分析。トランスフェクション/薬物とのインキュベーション後、剥離(scraping)および溶解の前に、細胞を氷冷リン酸緩衝食塩水で洗浄した。溶解緩衝液は、50mM Tris−HCl、pH7.5であり、0.1%TritonX−100、2mM EDTA、2mM EGTA、50mM NaF、10mM β−グリセロリン酸、5mM ピロリン酸ナトリウム、1mM オルトバナジン酸ナトリウム、0.1%(v/v) β−メルカプトエタノール、250μM PMSF、10mg/ml アプロチニンおよびロイペプチンを含有した。細胞溶解物を4℃において20,000×gで5分間遠心分離させた。等量のタンパク質(40μg)をSDS−PAGEにかけ、PVDF膜(Immobilon−P、Millipore)に電気泳動的に移行させた。ブロットしたものを、5%ウシ血清アルブミン(BSA)/TBST緩衝液(20mM Tris−HCl、0.15M NaCl、0.1%Tween−20)中でブロックし、次いで抗α−チューブリン(1:1000;DM1A,Sigma)、抗カルシニューリンPanA(1:1000;Chemicon)、抗ホスホハンチンチン−S421−763(ハンバート(Humbert)ら、2002年)、抗ホスホハンチンチン−S421−714(以下を参照のこと)、抗ハンチンチン1259(1:1000))およびMAB2166(1:5000;Chemicon)抗体で1時間免疫ブロットした。続いて、ブロットしたものを、抗ウサギIgG:HRP(Jackson ImmunoResearch、West Grove、米国)で標識し、洗浄し、製造業者の説明書に従い、SuperSignal WestPico Chemiluminescent Substrate(Pierce、Erembodegem、白国)と5分間インキュベートさせた。この膜をKodak Biomaxフィルムに感光させ、現像した。ImageJソフトウェアを使用するフィルムの濃度測定走査によりシグナルの定量化を行った。
【0068】
免疫蛍光実験。SHSY−5Y細胞を、コーティングされていないガラスカバースリップ上で増殖させ、野生型CaNA/Bで24時間トランスフェクトし、次いで1μMイオノマイシン(Sigma)で15分処置するか、または処置しないままにした。細胞を(PIPES、120;HEPES、50、EGTA、20;酢酸Mg 4:mM中の)4%パラホルムアルデヒド−PHEM緩衝液で20分間固定し、抗ホスホ−S421−ハンチンチン−763(1:100)および抗CaNA(1:200;カタログ番号C1956、Sigma)抗体とインキュベートさせた。先に記載される(ゴーティエル(Gauthier)ら、2004年)ように、画像を3次元デコンボリューション画像システムで捕捉した。次に、ホスホ−S421シグナルの平均蛍光強度を、Metamorphソフトウェア(Universal Imaging Corp、Princeton、ニュージャージー州、米国)を用いて定量化した。各対の細胞(トランスフェクトされた/トランスフェクトされていない)について、トランスフェクされた細胞由来のシグナルを、100の値をトランスフェクトされていない細胞に付与することにより標準化した。ほとんど同じサイズの非有糸分裂細胞のみを考慮した。合計30を超える細胞を、2つの独立した実験で解析した。
【0069】
ニューロンを、ラミニンおよびポリD−リジンでコートされたガラスカバースリップ上で増殖させ、先に記載されるように固定し、次いで以下の一次抗体とインキュベートさせた:抗ホスホ−S421−ハンチンチン−714(1:100)、N−ter1259(1/500)およびCaNA(1:200)。二次抗体は、抗マウスAlexaFluor−488(1:200)および抗ウサギAlexaFluor−555(1:200;Molecular Probes、Eugene、オレゴン州、米国)であった。3次元デコンボリューション画像システムで画像を捕捉した。
【0070】
ニューロン生存率の測定。プレーティングの4日後、線条体ニューロンの初代培養物を、野生型またはポリQ−ハンチンチンおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)でトランスフェクトして、トランスフェクトされた細胞を同定した。GFPを合成する各ニューロンがハンチンチン構築物を発現することを確実にするためにも、ハンチンチンDNAのGFP DNAとの高い比率(10:1比)による派生したリン酸カルシウム法(ハンバート(Humbert)ら、2002年)を用いてトランスフェクションを行った。これらの条件下で、95%を超えるGFP陽性ニューロンがハンチンチン構築物をも発現する(データ示さず)。トランスフェクションの16時間および36時間後に、盲験様式で蛍光顕微鏡を用いてGFP陽性ニューロンをスコア化した。GFP陽性細胞内で起こる細胞死を、2時点間の生存ニューロン数の差異として調べ、次いで480−17Q構築物によって誘導される死と比べたニューロン細胞死の増加倍率として表した。各グラフは、3回反復で実施した2〜4回の独立した実験を示す。得られたグラフにおける各バーは、約2000個のニューロンのスコアに相当する。RNA干渉実験では、ニューロン細胞死は、480−68Q/スクランブル条件と比べて、様々なsiRNAの存在下において生存した480−68Qトランスフェクト細胞の数として表される。データを完全な統計解析にかけた。
【0071】
カルシニューリンに対するsiRNA。ラットCaNAαおよびCaNAβを標的とするsiRNA配列は各々、コーディング領域677〜695(受託番号NM017041)および448〜466(受託番号NM017042)に対応する。より詳細には、CaNAαを標的とするsiRNA配列は、以下のとおりである:
5’−CAGAGUAUUUCACGUUUAAdTdT−3’(配列番号3)
3’−dTdTGUCUCAUAAAGUGCAAAUU−5’(配列番号4)
CaNAβを標的とするsiRNA配列は、以下のとおりである:
5’−GGGUUGAUGUUCUGAAGAAdTdT−3’(配列番号5)
3’−dTdTCCCAACUACAAGACUUCUU−5’(配列番号6)
3μgのsiRNAまたはスクランブルRNAを、4×106個の新たに単離された線条体ニューロンと混合し、製造者の説明書(Amaxa Biosystems、独国)に従ってヌクレオフェクトし、12ウェルプレートに撒き、次いで40時間インキュベートさせた。スクランブルRNAは、CaNAα siRNAと同じヌクレオチド組成を有するが、他のいずれの遺伝子に対して有意な配列相同性を欠如する。
【0072】
S421をリン酸化されたハンチンチンに対する抗体。ヒト特異的抗ホスホハンチンチン−S421−763抗体は、以前に記載されている(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。マウス特異的抗ホスホハンチンチン−S421−714抗体の作製:マウスハンチンチン配列(CARGRSGS[PO3H2]IVELL)に対応するホスホペプチドを合成し、キーホールリンペットヘモシニアン(Neosystem、Strasbourg、仏国)に結合させ、ウサギに注入した。ポリクローナル抗体を血清から得、ホスホペプチドカラムによりアフィニティー精製した。簡単に説明すると、血清をろ過し(0.22μmフィルター)、1M Tris(pH8.0)を100mMの最終濃度まで添加した後、それをリン酸化ペプチドが結合されたSulfolinkカラム(Pierce、Erembodegem、白国)に適用した。保持された抗体を100mMグリシン緩衝液(pH2.7)で溶出し、1M Tris pH9でpHを迅速に中和した。抗体を濃縮(Vivaspin濃縮装置10000MW、Viva Sience、Hannover、独国)し、50%グリセロール中で保存した。
【0073】
ビデオ顕微鏡実験および分析。ビデオ実験では、ラットの一次皮質ニューロン、+/+、およびHdhQ111ノックインマウスから樹立された109Q/109Q細胞を調製し、培養し、次いで先に記載された(ゴーティエル(Gauthier)ら、2004年;ハンバート(Humbert)ら、2002年;サウドウ(Saudou)ら、1998年;トレッテル(Trettel)ら、2000年)ようにトランスフェクトした。いくつかの場合では、皮質ニューロンの初代培養物を、供給者の手引き書(Amaxa、Cologne)に従って、ラットニューロンNucleofector(登録商標)キットによりエレクトロポレートする。トランスフェクション5時間後に、Forskolin(10M;Sigma)およびIBMX(100M;Sigma)を培養物に添加した。
【0074】
トランスフェクションの2または4日後に、ビデオ顕微鏡実験を行った。細胞を、BDNF−eGFPおよびhttの様々な構築物または1:4のDNA比を伴う対応する空ベクターで共トランスフェクトした。先に詳述(ゴーティエル(Gauthier)ら、2004年)されている画像化システムを使用して、生体ビデオ顕微鏡を行った。細胞を、Ludinチャンバにマウントされたガラスカバースリップ上で増殖させた。顕微鏡およびチャンバを37℃(ノックイン細胞では33℃)で保持した。0.3μmのZ工程を伴う10〜15画像のスタックを、圧電性デバイス(PI)を繋げた100×PlanApoN.A.1.4油浸対物レンズにより獲得した。画像を、50〜100ミリ秒の露光時間(2の頻度)で2×2ビニングに設定されたCool Snap HQカメラ(Ropper Scientific)を使用して、ストリームモードで収集した。すべてのスタックを、光学システムのPSFを使用する自動バッチデコンボリューションにより処理した。ImageJソフトウェアを使用して、投影図、アニメーションおよび解析を作成した。動力学を、特別開発プラグイン(http://rsb.info.nih.gov/ij/plugins/track/track.html)で、時間の関数として細胞におけるeGFP小胞の位置を追跡することにより特徴付けた。追跡の間、小胞の中心のデカルト座標を使用して、動力学パラメータ(速度、休止時間、指向性)を算出した。
【0075】
結果
セリン421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化は、インビボにおいて神経保護的である
本発明者らは以前、IGF1/Akt経路が、HDの細胞モデルにおいて神経保護的であることを実証している(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。実際にIGF−1活性化時、Aktは、S421においてポリQ−ハンチンチンをリン酸化し、線条体ニューロンの初代培養においてその毒性を阻止する。S421におけるリン酸化がインビボにおいて役割を果たし、それにより治療上の標的になり得るかどうかを調べるために、本発明者らは、線条体におけるポリQ−ハンチンチンのレンチウイルス介在発現に基づくHDのラットモデルを使用した。このモデルは、神経炎および核内封入体、ニューロン機能障害および死を呈するHD患者において観察されるいくらかの特徴を再現する。本発明者らは、無傷(intact)なS421、S421からアラニン(S421A)またはS421からアスパラギン酸(S421D)への変異のいずれかを伴う17(野生型、480−17Q)または68グルタミン残基(変異、480−68Q)を含有するハンチンチンの最初の480アミノ酸をコードするHAタグ化レンチウイルス構築物を作製した。次いで、レンチウイルスをラット線条体に注入して、480−17Q/480−68Q、480−68Q/480−68Q−S421Aおよび480−68Q/480−68Q−S421D構築物間で所定のラットについて直接比較することを可能にした(図9)。注入1週間後、様々なハンチンチン構築物の固有の発現を、抗ハンチンチン免疫染色によって制御したところ、それらの発現レベルにおいて差異が認められなかった(データ示さず)。12週間目の病巣の中間評価(データ示さず)に従って、本発明者らは、注入24週間後のラット線条体におけるポリQ−ハンチンチン誘導性の病巣を分析した。免疫組織化学的分析は、すべての構築物が同様のレベルで発現されたこと、および導入遺伝子の発現が24週において維持されたことを示した(図1)。この段階で、HAおよびAkt免疫陽性ニューロンの注入された領域の存在により示されるように、有意な細胞死は検出されなかった(図1および図10)。次いで、DARPP−32をマーカーとして使用して、病巣を評価した。DARPP−32は、線条体中型有棘ニューロンの約96%に存在するドーパミンシグナル伝達の調節因子である。DARPP−32のダウンレギュレーションは疾患の様々なモデルで観察されるため、DARPP−32は、HDのこれらの投射ニューロンの機能障害のマーカーである。DARPP−32抗体による免疫組織化学的分析を実施し、病巣のサイズをすべての構築物について調べ、480−68Q構築物により誘導される病巣の百分率として表した。予想どおり、480−68Q構築物は、野生型ハンチンチンとは対照的に、有意な病巣を誘導した。本発明者らは、S421におけるリン酸化の不在が、480−68Q構築物により誘導されるDARPP−32欠失領域のサイズの強力な増加(2倍)を生じたことを見出した。対照的に、S421における構成性リン酸化は、ポリQ誘導性DARPP−32欠失領域における有意な減少(約30%)をもたらした。まとめて考えると、本発明者らは、ハンチンチンにおけるS421のリン酸化が疾患の進行をインビボで調節するのに不可欠であると結論付ける。
【0076】
カルシニューリンは、インビトロにおいてハンチンチンのホスホS421を脱リン酸化する
ホスファターゼ活性はS421リン酸化の動的調節を可能にし得るため、本発明者らは、S421を脱リン酸化するホスファターゼを同定することを目的とした。タンパク質ホスファターゼ2B(PP2B)としても公知であるカルシニューリンは、カルシウムおよびカルモジュリン依存性ホスファターゼである(総説については、マンシー(Mansuy)、2003年を参照のこと)。カルシニューリンがS421に作用するかどうかを評価するために、本発明者らは、最初に、インビトロでの脱リン酸化実験を行った。このため、本発明者らは、ハンチンチンタンパク質におけるS421のホスホ−セリンのみに結合するポリクローナル抗体(抗ホスホハンチンチン−S421−763)を使用した(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。さらに、本発明者らは以前、S421上のAktおよびSGKによりリン酸化されるGST融合形態のハンチンチン(GST−ハンチンチン、GSTに融合したヒトハンチンチンのアミノ酸384〜467)を作成した(ハンバート(Humbert)ら、2002年)。本発明者らは、このハンチンチンフラグメントをAktの構成性活性形態(Akt c.a.)と共にインキュベートして、抗ホスホハンチンチン−S421−763抗体で検出されるようなS421におけるGST−ハンチンチンのリン酸化を生じさせた(図2A、B)。次に、ハンチンチンのこのリン酸化されたフラグメントを、精製されたカルシニューリンと共に異なる時間で(図2A)、および60分間異なる濃度のカルシニューリンでインキュベートした(図2B)。観察されるように、カルシニューリンは、時間および用量依存的様式でハンチンチンのS421をインビトロで脱リン酸化する。
【0077】
カルシニューリンは、細胞においてハンチンチンのホスホS421を脱リン酸化する
カルシニューリンは、60kDaの触媒サブユニット(CaNA)および19kDAの調節サブユニット(CaNB)からなるヘテロダイマーである(ルスナク(Rusnak)およびメルツ(Mertz)、2000年)。ヘテロダイマーのホロ酵素は、そのホスファターゼ活性に必要である。S421におけるハンチンチンのカルシニューリン脱リン酸化が細胞で生じるかどうかを調べるために、本発明者らは、不死化マウス線条体細胞(+/+細胞)を480−17Q、カルシニューリンAの構成性活性形態(CaNA−ΔCaM)、CaNBおよび/またはAktで共トランスフェクトした(図3A)。予想どおり、Aktは、選択的にマウス配列を認識する本発明者らの新たに作製した抗ホスホハンチンチン−S421−714抗体によるウエスタンブロッティングにより検出されるようなS421におけるハンチンチンのリン酸化を誘導した。Aktによって誘発されるS421のリン酸化は、活性なカルシニューリン(CaNA−ΔCaM/CaNB)の共トランスフェクションにより減少した。両方のカルシニューリン構築物は以前、NFAT活性のルシフェラーゼレポーターを使用して検証され、CaNA−ΔCaM/CaNBがHEK293細胞に共トランスフェクトされた場合、15倍のNFAT活性化を誘導した(示さず)。それゆえ、本発明者らは、カルシニューリンが、Akt−リン酸化S421においてハンチンチンの480−17Q形態を脱リン酸化することを実証する。
【0078】
内因性ハンチンチンがカルシニューリンの標的であるかどうかを試験するために、本発明者らは、アスパラギン酸130がアスパラギンに変異されるCaNAの優勢な干渉形態(CaNA−D130N)を使用した。HEK293細胞におけるこの構築物とNFATレポーターとの共トランスフェクションは、内因性NFAT活性を60%まで減少させた(示さず)。CaNA−D130Nをコードする構築物をヒト神経芽腫SHSY−5Y細胞系統にトランスフェクトした場合、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化が増加した(図3B)。従って、内因性ハンチンチンのリン酸化S421は、カルシニューリンの生理学的基質である。
【0079】
カルシニューリンが実際に、細胞で、S421においてハンチンチンを脱リン酸化することをさらに実証するために、本発明者らは、ニューロン細胞を野生型CaNA/CaNBでトランスフェクトし、コントロール条件において抗ホスホハンチンチン−S421−763抗体を使用する免疫蛍光により、またはカルシウムイオノフォアイオノマイシンによるカルシニューリンの活性化後に内因性ハンチンチンのリン酸化を分析した(図4A、上のパネル)。ハンチンチンがカルシニューリンの存在下でリン酸化されたままであった一方、本発明者らは、カルシニューリントランスフェクト細胞をイオノマイシンで処置した場合、S421におけるハンチンチンリン酸化の減少を観察した(図4A、下のパネル)。2つの独立した実験からの30を超える細胞における蛍光強度の定量化は、S421における内因性ハンチンチンリン酸化の統計的に有意な減少を示した(図4、グラフ)。これは、ニューロン細胞におけるCa2+によるカルシニューリンの活性化が、ハンチンチンのS421の脱リン酸化をもたらすことを実証する。
【0080】
最終的に、本発明者らは、本発明者らの実験系において、カルシニューリンおよびハンチンチンが同じ線条体ニューロンに存在することを実証することにより、本発明者らの知見したことの関連性を確認した。本発明者らは、線条体ニューロンの初代培養を調製し、続いて、CaNA、ハンチンチンおよびホスホS421−ハンチンチンについて免疫染色した。本発明者らは、すべてではないがほとんどのカルシニューリン免疫陽性線条体細胞が、すべてのおよびS421においてリン酸化されたハンチンチンについても免疫反応性であることを見出した(図4B)。細胞内では、ホスホハンチンチンおよびハンチンチンが小胞構造において、細胞体および神経突起に沿って広がっていることが見出された。この突出した小胞の局在に加えて、ハンチンチンはまた、GM130との共局在により示されるようにシス−ゴルジにおいても見出された(示さず)。興味深いことに、本発明者らは、神経突起に沿った小胞において特に認められた内因性ハンチンチンおよびカルシニューリンの部分的な共局在を観察した(図4Bにおける拡大図を参照のこと)。
【0081】
カルシニューリンの優勢な干渉形態はポリQ−ハンチンチン誘導性の毒性を減少させる
本発明者らは以前、S421におけるハンチンチンのリン酸化が神経保護的であることを示した。従って、本発明者らは、カルシニューリンの優勢な干渉形態が、疾患の主な特徴を再現するHDのニューロンモデルを研究することにより神経保護特性を持つかどうかについて調べた(図5A)。本発明者らは、線条体ニューロンの初代培養を、構築物480−17Qおよび480−68Q単独かまたはCaNA−D130Nの存在下でトランスフェクトし、次いでトランスフェクション24時間後のニューロン死を分析した。予想どおり、480−68Q構築物は、480−17Q構築物と比較して、ニューロン死の統計的に有意な増加を誘導した。興味深いことに、CaNA−D130Nのトランスフェクションは、ハンチンチンの480−68Qフラグメントによって誘導されるニューロン死を減少させた(図5A)。これらの知見は、S421においてハンチンチンのリン酸化を増加させるカルシニューリンの優勢な干渉形態が、ポリQ−ハンチンチンにより誘導されるニューロン死に対して神経保護効果を及ぼすことを示す。
【0082】
ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死に対するカルシニューリン阻害の役割をさらに確認するために、本発明者らは、RNA干渉によりカルシニューリンのレベルを減少させた。カルシニューリンAサブユニットの2つのアイソフォームは、脳において見出すことができる(CaNAαおよびCaNAβ)。従って、本発明者らは、RNA干渉によるαおよびβサブユニットの両方を標的とし、両方のsiRNAの存在がCaNAのレベルの有意な減少を確実にするのに必要であることを見出した(図5B)。これらの条件において、本発明者らは、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死の有意な減少を観察し、このことはさらにこのプロセスにおけるカルシニューリンの役割を支持する。
【0083】
CaNA−D130Nによって仲介される神経保護は、S421に依存するであろうか?この質問に答えるために、本発明者らは、線条体ニューロンにおいてCaNA−D130Nを、480−68Q構築物またはS421がアラニンに変異されている480−68Q構築物、480−68Q−S421Aのいずれかで共トランスフェクトした(図5C)。先に述べたように、CaNA−D130N構築物はポリQ−ハンチンチン誘導性毒性からニューロンを保護するが、421位がリン酸化され得ない場合、この構築物はニューロンを保護することができない。
【0084】
従って、カルシニューリンは、ポリQ−ハンチンチン上のS421の脱リン酸化を通して少なくとも部分的にその効果を及ぼす。
【0085】
カルシニューリンの阻害は、細胞中のS421におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる。
FK506は、移植後のヒトの処置において日常的に使用される免疫抑制薬である。この化合物は、NFATのCaN介在の脱リン酸化を阻害することにより免疫抑制を調節する。ここで、NFATは、IL−2の発現を調節し、次いでT−リンパ球の増殖を調節する転写因子である。ジャーカット(Jurkat)T細胞系統は、カルシニューリンが関与するカルシウムシグナル伝達経路を研究するために広範に使用されるTリンパ球細胞系統である。S421上のハンチンチンのリン酸化におけるカルシニューリンを阻害する効果を調べるために、本発明者らは、ジャーカット(Jurkat)T細胞をFK506で処置した。図6Aで見られるように、FK506は、内因性ハンチンチンにおけるS421のリン酸化を増加させた。次に、本発明者らは、ジャーカット(Jurkat)T細胞をカルシウムイオノフォアイオノマイシンで処置することによりカルシニューリンを活性化させた(図6A、下のパネル)。このことが、結果としてFK506により阻害されたS421におけるハンチンチンの迅速な脱リン酸化を生じた。
【0086】
次に、本発明者らは、FK506がまた、疾患により関連する細胞型においてS421のリン酸化を誘導し得るかどうかについて試験した。それゆえ、本発明者らは、初代培養の線条体ニューロンを、異なる時間および濃度についてFK506で処置した(図6B)。ジャーカット(Jurkat)細胞に関して、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化が経時的に増加し、少なくとも6時間持続したままであった。本発明者らはまた、FK506の濃度増加がS421のリン酸化の増加を生じることを見出した。まとめると、これらのデータは、FK506によるCaN活性の阻害がS421における内因性ハンチンチンのリン酸化の増加を生じることを示す。
【0087】
ポリQ伸長は、FK506によって増加させることができるS421におけるハンチンチンのリン酸化の減少をもたらす:ポリQ誘導性ニューロン毒性に関する結果
次に、本発明者らは、病理学的状況におけるハンチンチンのリン酸化レベルを評価した。本発明者らは、ノックインマウスに由来するマウスニューロン細胞を使用した。ここで、前記ノックインマウスは、109グルタミン残基をコードするCAG伸長が内因性マウスハンチンチン遺伝子に挿入された(109Q/109Q)。この細胞系統は、これらの細胞においてポリQハンチンチンが内在レベルで発現されるため、HD患者の状況に非常に類似する。本発明者らは、本発明者らの抗ホスホハンチンチン−S421−714抗体を用いて+/+または109Q/109Q細胞に対してイムノブロッティング実験を行い、ポリQ−ハンチンチンのリン酸化が、野生型のハンチンチンと比較して極端に減少したことを観察した(図7A)。このことは、一過的にトランスフェクトされたHEK293細胞に関する先の研究(ワービー(Warby)ら、2005年)と一致し、ポリQ−ハンチンチンのS421のリン酸化が野生型ハンチンチンより低かったことを示す。次いで、本発明者らは、カルシニューリンを阻害することが、S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化を増加させるかどうかについて求めた。興味深いことに、109Q/109Q細胞のFK506による処置は、S421のリン酸化の増加を生じた(図7B)。本発明者らは以前、S421におけるハンチンチンのリン酸化が神経保護的であることを示した。従って、FK506がポリQ−ハンチンチンのリン酸化を増加させることから、本発明者らは、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死に対するこの免疫抑制剤の効果について試験した(図7C)。線条体ニューロンの初代培養を、480−68Q構築物でトランスフェクトし、ビヒクルまたは様々な用量のFK506で処置した。0.3および1μMのFK506による細胞の処置は、ポリQ誘導性ニューロン死の減少を生じた。まとめると、これらのデータは、S421におけるポリQ−ハンチンチンの脱リン酸化を予防することにより、FK506がHDの細胞モデルにおいて神経保護的であることを示す。
【0088】
FK506の単回投与は脳におけるハンチンチンS421のリン酸化を増加させる。
ハンチンチンのリン酸化は、インビトロおよびインビボでポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を調節し、疾患モデルにおいてリン酸化が減少することを考慮することが不可欠であることから、本発明者らは、FK506投与がインビボにおけるハンチンチンのリン酸化を誘導し得るかどうかを調べることを目的とした。マウスを、腹腔内または経口的にFK506で処置し、投与後、異なる時間で屠殺した。脳を免疫ブロッティングのために処理し、S421におけるハンチンチンのリン酸化について分析した(図8)。特に、FK506の腹腔内および経口投与の両方は、脳におけるS421での内因性httの持続的なリン酸化を誘導した(2/3倍増加)。ハンチンチンのリン酸化に対するカルシニューリンの特異的効果と一致して、本発明者らは、S473におけるAktリン酸化のレベルがFK506によって調節されないことを見出した。これらの結果は、FK506投与によるカルシニューリンの阻害がインビボで内因性ハンチンチンのリン酸化をもたらすことを実証する。
【0089】
IGF−1およびAktは、HDにおける輸送欠損をレスキューする
IGF−1/Akt経路がHDに関するハンチンチン介在輸送を調節し得る可能性を試験するために、本発明者らは、高速3Dビデオ顕微鏡、続いてデコンボリューションを用いてBDNF含有小胞を動力学的に分析した。皮質ニューロンの初代培養を、BDNF−eGFPおよび野生型全長htt(wt−FL−htt、17Qの場合)、ポリQ−FL−htt(75Qの場合)または対応するベクターのいずれかでトランスフェクトした。本発明者らは、3D画像を取得することによりBDNF含有小胞の運動をモニターした。デコンボリューション後、各時点の2D再構築を行い、個々の小胞を追跡して、細胞内輸送の2つの最も関連する動的パラメータを調べた。第1のパラメータは、それらが(即ち、0を超える速度を伴って)移動している場合、小胞の平均速度であり、第2は、小胞の休止時間(移動を伴わない小胞によって費やされる時間)の百分率に相当する。以前報告されたように、wt−FL−httと比較して、httにおけるポリQ伸長の存在は、BDNF含有小胞の平均速度の減少および休止時間の増加を生じる。IGF−1によるニューロンの処置は、BDNF小胞の速度の統計的に有意な増加を誘導し、小胞の休止時間を減少させた(図11A)。IGF−1の存在下において、ポリQ−FL−httによる細胞内輸送の動的パラメータが野生型の状況と区別できないことは注目に値し、IGF−1処置による輸送において、ハンチンチン機能のほとんど完全な回復が示唆される。
【0090】
次に、本発明者らは、ノックインマウス由来のニューロン細胞系統を使用して、HDの遺伝学的状況におけるIGF−1処置の結果を評価した。ここで、前記ノックインマウスはCAG伸長が内因性マウスhtt遺伝子に挿入されていた。これらの細胞系統は、野生型htt(野生型ニューロン細胞、+/+)の2つのコピーまたは変異htt(ホモ接合変異ニューロン細胞、109Q/109Q)の2つのコピーのいずれかを保持する。これらの細胞は、これらの細胞において野生型またはポリQ−httが内因性レベルで発現されるため、これらの細胞系統はHD患者に最も酷似した状況を反映する。BDNF小胞の速度および休止時間が、+/+細胞と比較して109Q/109Q細胞で有意に減少する(図11B)一方、本発明者らは、IGF−1処置が、BDNF含有小胞の速度を統計的に増加させ、休止時間を減少させることにより小胞輸送を有意に回復することを見出した。
【0091】
次に、本発明者らは、AktがHDの病理学的状況における細胞内輸送に対して有益な効果を示すかどうかを試験した。AktおよびBDNF−eGFPの共トランスフェクション実験により、本発明者らは、Aktが、野生型の値に戻るまでBDNF含有小胞の速度を増加させ、休止時間を減少させることにより109Q/109Q細胞における細胞内輸送を完全にレスキューすることを見出した(図11C)。以上より、これらの知見は、IGF−1/Akt経路が、HD病理学的状況で観察されるBDNF含有小胞の細胞内輸送の変化をレスキューすることが可能であることを示す。
【0092】
S421のリン酸化は輸送におけるハンチンチンの機能を調節する
次に、本発明者らは、IGF−1およびAktが、HD変異細胞におけるBDNF輸送の欠失をレスキューする機構を調べた。先に、本発明者らは、AktがS421においてハンチンチンをリン酸化し、この残基のリン酸化がニューロン細胞におけるポリQ−htt−誘導性毒性を調節することを示している{ハンバート(Humbert)、2002年}。これらの実験では、本発明者らは、ポリQストレッチを含有するN末端480アミノ酸フラグメントにより誘導されるニューロン毒性が、S421のリン酸化によってインビトロで廃止されることを見出した。従って、本発明者らは、始めに、そのようなN末端フラグメントが輸送を促進することが可能であるかどうか、およびそれがポリQ伸長により影響されるかどうかについて調べた。本発明者らは、ニューロン細胞において、正常な(17Q)または伸長されたポリQストレッチ(68Q)を伴う480フラグメントの能力を分析し、細胞内輸送の動力学を、wt−およびポリQ−FL−htt構築物により得られるものと比較した。興味深いことに、本発明者らは、httの野生型480フラグメントが、野生型httの完全長フラグメントと同様に効率的に、BDNF含有小胞の速度を増加させ、休止時間を減少させることが可能であることを見出した(図12A)。さらに、本発明者らは、そのようなフラグメントがポリQ伸長を含有する場合、輸送が変化することを見出した。本発明者らは、httの480アミノ酸のN末端フラグメントが、輸送を促進することができ、輸送動力学について完全長httで観察される特徴を再現すると結論付ける。このことと一致して、このフラグメントはアミノ酸171〜231に相当するHAP1干渉領域を含有する。
【0093】
次に、本発明者らは、セリンからアラニンへの変異を含有する構築物を用いることにより、S421におけるリン酸化の不在の結果を分析した。特に、本発明者らは、野生型htt(480〜17)がS421においてリン酸化されない場合、速度の減少および休止時間の百分率の増加により示されるように、もはや細胞内輸送を促進することができないことを見出した(図12B)。興味深いことに、480−17−S421Aにより得られる動的パラメータが、セリンを無傷(intact)で伴うかまたはアラニンへ変異されたポリQ伸長を含有する構築物により得られる動的パラメータとは、統計的に有意ではなかったことから、S421におけるリン酸化の不在がhttを輸送の促進能力について不活性な形態にすることを示す。
【0094】
リン酸化はハンチンチン機能の喪失を回復する
109Q/109Q細胞におけるBDNF輸送の変化は、Aktによってレスキューされる(図11C)。従って、本発明者らは、この効果がAktによるS421のリン酸化によって仲介されるかどうかについて調べたところ、httがS421においてリン酸化され得ない場合、輸送を促進するAktの能力が失われることを見出した(図12C)。AktがS421におけるhttのリン酸化によりハンチンチン介在輸送をレスキューすることを示したことから、次に、本発明者らは、S421の構成性リン酸化がBDNF含有小胞を輸送するhttの能力を回復するのに十分である可能性について試験した。特に、本発明者らは、速度の増加および休止時間の減少によって実証されるように、構成性リン酸化を模倣するセリンからアスパラギン酸への変異を伴うポリQ−htt構築物(480−68−S421D)が、対応する480〜68構築物とは対照的に、BDNF含有小胞を輸送する能力を完全に回復することを見出した(図12D)。
【0095】
以上より、これらの結果は、輸送に対するhttの機能的活性が、S421におけるそのリン酸化によって調節されることを示す。さらに、本発明者らは、疾患の状態における輸送の変化が、httのS421のリン酸化を通してAktにより回復され得ることを示す。
【0096】
考察
本発明者らは、本発明において、S421におけるハンチンチンのリン酸化が、インビボで疾患の進行を調節するために不可欠であることを示した。ハンチンチンのN末端フラグメントを線条体に直接送達するためにレンチウイルスアプローチを使用して、本発明者らは、構成的にリン酸化されるポリQ−ハンチンチン(480−68Q−S421D)をコードする構築物が、無傷(intact)なセリン421を伴うポリQ−ハンチンチンと比較して、より小さなDARPP−32欠失領域を誘導することを示した。対照的に、リン酸化され得ないポリQ−ハンチンチン(480−68Q−S421A)はより毒性である。本発明者らは以前、S421上で陽性に作用することができるAktおよびSGKを同定している(ハンバート(Humbert)ら、2002年;ランゴン(Rangone)ら、2004年)。本発明者らはまた、Aktが、HD患者由来の死後脳サンプルにおいて切断されることを報告し(ハンバート(Humbert)ら、2002年)、疾患の進行中、Akt活性がダウンレギュレーションされることを見出した(コリン(Colin)ら、2005年)ことから、さらに、Aktによるハンチンチンのリン酸化の減少がHDにおいて生じ得ることが示される。このことと一致して、S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化の減少が、ポリQ伸長を含有するYACトランスジェニックマウスおよびHDの細胞モデルにおいて観察される(ワービー(Warby)ら、2005年)(図7A)。このことは、疾患の進行中に、S421におけるハンチンチンのリン酸化が減少し、それによりポリQ−ハンチンチンの毒性が増加することを意味する。従って、S421におけるハンチンチンのリン酸化を制御する細胞機構を同定することは、疾患中の過剰なハンチンチンの脱リン酸化を防止するのに役に立ち得る。本発明では、本発明者らは、カルシニューリン(CaN)がS421においてハンチンチンを標的とするホスファターゼであることを示した。このことは、カルシニューリンが、S421におけるハンチンチンのリン酸化を制御し、HDの病因に関与し得る新規の細胞エレメントであることを示す。
【0097】
特定の残基のリン酸化は、通常、厳密に調節されたキナーゼおよびホスファターゼの活性における均衡に依存する。ハンチンチンのリン酸化において観察される減少は、Akt活性の減少(コリン(Colin)ら、2005年)、さらにまたカルシニューリンホスファターゼ活性の過剰から生じ得る。実際、カルシニューリンホスファターゼは、線条体、特に、中型有棘ニューロン(MSN)、HDで変性される最初の細胞(ゴトウ(Goto)ら、1989年)において強く発現され、それゆえに、これらの細胞においてハンチンチンを脱リン酸化し易くし得る。カルシニューリンはCa2+により活性化され(マンシー(Mansuy)、2003年)、いくらかの研究は、線条体ニューロンにおける過剰なCa2+進入がHDにおいて役割を果たし得ることを示す。ポリQ−ハンチンチンは、I型イノシトール1,4,5−三リン酸受容体(InsP3R1)およびNR2BサブタイプNMDA受容体の活性を促進し、それにより細胞質Ca2+レベルの増加をもたらす。MSNでは、InsP3R上の変異体ハンチンチンの効果には、ハンチンチン関連タンパク質−1、HAP1が必要である。乱されたCa2+シグナル伝達とアポトーシスとの間の関連は十分に確立されていることから、皮質線条体の投射ニューロンから放出されるグルタミン酸が、HD患者由来のMSNにおいて過剰なCa2+応答を誘発し、ミトコンドリア透過性遷移ポア(MPTP)の開口およびカスパーゼ依存性アポトーシスカスケードの活性化を生じることが提唱された。本発明では、本発明者らは、この機構に加えて、カルシニューリンを活性化することによる、Ca2+が、S421におけるハンチンチンの脱リン酸化をもたらし、病原機構に寄与することを提唱する。これと一致して、本発明者らは、細胞質Ca2+濃度の増加が、FK506により阻止され得るハンチンチンの脱リン酸化をもたらすことを示し、S421のCa2+依存性脱リン酸化がCaN活性に依存することを実証した。興味深いことに、HDにおいてカルシニューリンが活性化される別の経路は、カルパインに関与し得る。カルパインはHDにおいて活性化される。カルパインは、カルシニューリンを切断することにより活性形態に直接的に、またはカルシニューリンの強力な内因性インヒビターであるキャビン1(Cabin1)/カイン(cain)を切断および不活化することにより、カルシニューリン活性を調節することができる。まとめて考えると、本研究は、HDにおいて初めて興奮毒性およびCa2+をハンチンチンのリン酸化と関連付ける。
【0098】
インビボでの疾患の進行におけるS421でのハンチンチンリン酸化の有益な役割に関する本発明者らの知見は、ハンチンチンが病理学的ポリQ伸長を含有する場合、ハンチンチンのリン酸化が減少するため、ハンチンチンのリン酸化を促進することは、HD患者における疾患の進行に影響を及ぼし得ることを示す(ワービー(Warby)ら、2005年)(図7A)。ハンチンチンのリン酸化を増加させるための1つのストラテジーは、AktまたはSGK経路を活性化する薬物に関与し得る。しかしながら、Aktのようなキナーゼの過剰活性は癌に関連し(フランケ(Franke)ら、2003年)、これらの経路を活性化する薬物は、所望しない増殖効果を誘導することによる有害効果を示しうる。従って、S421のリン酸化を増加させるためのより合理的な薬理学的アプローチは、その同一性が既知であれば、ホスファターゼの阻害である。多くのカルシニューリン阻害剤について説明してきたが、これらのうちのシクロスポリンA(CsA)およびFK506が最も強力、特異的および周知である。
【0099】
本研究では、本発明者らはFK506に注目し、FK506がインビトロおよびインビボの両方でS421におけるハンチンチンのリン酸化を誘導すること、ならびにポリQ−ハンチンチン誘導性ニューロン死を阻止することに効果的であることを見出した。このことは、FK506がHD患者による治療上の利益を有することを示唆する。
【0100】
先に示したように、FK506は血液−脳関門を通過し、CsAとは異なり、化合物の直接的な脳への輸送を必要としない。FK506が移植手術時に日常的に用いられるという事実は、かかる化合物の安全性および許容性を確立し、それゆえにHDにおいて同様の治験のための基礎としての役割を果たし得る。
【0101】
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【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】S421におけるポリQ−ハンチンチンのリン酸化は、インビボにおいて神経保護的である。ラット線条体に、480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入した。ラット線条体におけるポリQ−ハンチンチン誘導性病巣を、注入24週間後に分析した。DARPP−32抗体による免疫組織化学的分析を実施し、病巣のサイズをすべての構築物について調べ、次いで480−68Q構築物によって誘導される病巣の百分率として表した。予想どおり、DARPP−32−免疫応答性ニューロンの極端な喪失が、480−68Q−感染線条体において観察されたが、野生型タンパク質の発現は影響を示さなかった(対応のあるステューデントt検定;t[7]=6.95;***P<0.001)。S421におけるリン酸化の不在(480−68Q−S421A)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの増加を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[6]=3.17;*P<0.05)。対照的に、S421における構成性(480−68Q−S421D)は、DARPP−32−免疫欠失領域のサイズの減少を生じた(対応のあるステューデントt検定;t[7]=3.46;*P<0.05)。抗HA免疫組織化学的分析は、すべての構築物が同様のレベルで発現されることを示した(下方のパネル)。
【図2】カルシニューリンは、インビトロでS421を脱リン酸化する。精製されたカルシニューリンによるS421の時間経過(図2A)および用量依存的(図2B)脱リン酸化。ヒトハンチンチンのGST−結合フラグメント(アミノ酸384−467)を、組み換えAkt(0.2μg/サンプル)でリン酸化し、次いで、2μg(A)または異なる量(B)の精製されたカルシニューリンと共に示された時間(A)または60分間(B)、インキュベートした。抗ホスホハンチンチン−S421−763または抗ハンチンチン(1259)抗体を使用して、イムノブロッティング実験を実施した。
【図3】カルシニューリンは、細胞においてハンチンチンのS421を脱リン酸化する。図3A、マウス線条体(+/+細胞)を、ハンチンチンのN末端フラグメント(480−17Q)、Akt、カルシニューリンの構成性活性形態(CaNA−ΔCaM/CaNB)または対応する空ベクターでトランスフェクトし、抗ホスホハンチンチン−S421−714または抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロット分析のために処理した。3つの独立した実験からのデータは、カルシニューリンの構成性活性形態は、Aktによって誘発されるS421のリン酸化を有意に減少させることを示す(ステューデントt検定;t[3]=3.63;*P<0.05)。図3B、SHSY−5Y細胞を、カルシニューリンの触媒不活化形態(CaNA−D130N)、Aktまたは対応する空ベクターでトランスフェクトし、次いで抗ホスホハンチンチン−S421−763で分析した。データは3つの独立した実験から得たものである(分散分析(ANOVA);F[2,6]=17.31;P=0.032)。S421に対する内因性ハンチンチンのリン酸化は、カルシニューリンの触媒不活化構築物(ステューデントt検定;t[4]=4.34;*P<0.05)およびAkt(t[4]=5.26;**P<0.01)によって有意に増加した。
【図4】ハンチンチンはカルシニューリンと共局在し、Ca2+誘導性カルシニューリン活性化により脱リン酸化される。図4A、イオノマイシン(Io、下方のパネル)は、野生型CaNA/CaNBでトランスフェクトされた細胞におけるハンチンチンS421リン酸化を減少させた。SHSY−5Y細胞を、非処置細胞(N.T.、上部パネル)との比較で、野生型形態のCaNA/CaNBで共トランスフェクトした。グラフは、32細胞から放出されるホスホ−S421−htt(763抗体)シグナルの平均蛍光強度の定量化に相当し(ANOVA;F[3,28]=7,05;P=0.0011)、次いでハンチンチンのイオノマイシン誘導性脱リン酸化が有意であることを示す(フィッシャーの事後検定;***P<0.001)。図4B、ハンチンチンは、小胞構造に対するカルシニューリンの触媒サブユニット(CaNA)と共局在する。線条体ニューロンにおけるハンチンチン(1259抗体)、ホスホ−S421−ハンチンチン(714抗体)およびCaNAに対する免疫染色。神経突起に沿った小胞構造において実質的な共局在が観察された(拡大図を参照のこと)。スケールバー、5μm。
【図5】カルシニューリンの優勢な干渉形態は、線条体ニューロンにおいて、S421リン酸化依存的様式でポリQ−ハンチンチン誘導性毒性を阻害する。図5A、線条体ニューロンにおいて、野生型ハンチンチン(480−17Q)またはポリQ−ハンチンチン(480−68Q)を、触媒不活性形態のカルシニューリンをコードする発現ベクター(CaNA−D130N)または対応する空ベクターとともに共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,56]=6.99;P=0.0004)は、CaNA−D130Nが、ポリQ−ハンチンチン誘導性細胞死を有意に減少させたことを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、***P<0.0001)。図5B、線条体ニューロンを、CaNAα、CaNAβまたは両方のアイソフォームに対するsiRNAでヌクレオフェクト(nucleofected)し、次いで30時間後、図5Aのように480−68Qでトランスフェクトした。CaNの両方のアイソフォームに対するsiRNAの組み合わせは、ウエスタンブロット分析による検出では、CaNA発現を効率的に減少させた。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[3,6]=5.33;P=0.039)は、ポリQ依存的毒性に対する保護効果を実証した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。図5C、線条体ニューロンを、480−68Qまたはリン酸化不能形態(480−68Q−S421A)およびCaNA−D130Nで共トランスフェクトした。4つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[2,41]=4.30;P=0.0004)は、触媒不活形態のカルシニューリンが480−68Q−S421A構築物によって誘発されるポリQ依存的細胞死を妨げないことを実証し(フィッシャーの事後検定;*P<0.05、**P<0.01)、神経保護がS421のリン酸化に依存することを示した。
【図6】FK506によるカルシニューリンの阻害は、S421の脱リン酸化を防止する。ジャーカット(Jurkat)細胞におけるFK506による処置(20分間、1μM)は、S421における内因性ハンチンチンのリン酸化を増加させた(左)。カルシウムイオノフォアイオノマイシン(Io、2.5μM)は、ジャーカット(Jurkat)細胞におけるS421の迅速な脱リン酸化を誘導した。Io誘発性S421脱リン酸化は、FK506(1μM)によって妨げられた(右)。処置されたジャーカット(Jurkat)細胞の全細胞抽出物を、抗ホスホハンチンチン−S421−763および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。図6B、ラット線条体ニューロンのFK506処置後のS421の時間経過および用量依存的リン酸化。ニューロンを、1μMのFK506で異なる時間(上)または示された濃度で2時間(下)処置した。全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的(抗ホスホハンチンチン−S421−714)および抗ハンチンチン(1259)抗体で分析した。
【図7】109Q/109Q細胞は、FK506によって増加され得るS421におけるハンチンチンのリン酸化の減少を示す。図7A、野生型(+/+)または変異マウス(109Q/109Q)から生じる不死化ノックイン細胞の全細胞抽出物を、マウスホスホ特異的および抗ハンチンチン(1259)抗体によるウエスタンブロットによって分析した。図7B、FK506(0.2μM、48時間)は、野生型およびポリQ−ハンチンチンにおけるS421のリン酸化を増加させた。図7C、FK506は、ニューロンをポリQ仲介細胞死から保護した。線条体ニューロンを、異なる用量のFK506またはビヒクルの存在下で、480−68Qでトランスフェクトした。3つの独立した実験からのデータ(ANOVA;F[5,68]=8.02;P=0.0001)は、FK506が、480−68Qによって誘導されるニューロン死を有意に減少させることを表した(フィッシャーの事後検定;*P<0.05)。
【図8】FK506のマウスへの投与は、脳におけるS421のリン酸化の増加を生じる。FK506をマウスに腹腔内または経口的に投与した(5mg/kg)。動物を、投与後の示された時間に屠殺し、脳を切開し、ホモジェナイズし、次いでウエスタンブロット分析用に処理した。脳全体の抽出物を抗−ホスホ−S421、抗ホスホ−S473−Akt、抗全ハンチンチンおよび抗全Akt抗体で調べた。下のパネルは、2回反復で実施した2つの独立した実験の濃度測定分析に対応する。合計で18匹のマウスを屠殺した。上から下へおよび左から右へ:(ANOVA;F[3,4]=11.52、P=0.019);(ANOVA;F[3,4]=8.694、P=0.031);(ANOVA;F[3,4]=1,668、P=0.31);(ANOVA;F[3,4]=0.97、P=0.4);*P<0.05、**P<0.01。
【図9】多様な480フラグメントの注入プロトコルの概要を表す図。29匹の動物に対して実験を行った。注入1週間後、2匹のラットを分析して、ハンチンチンの発現を制御した。注入12週間後、各グループの1匹の動物において病巣を評価した。この時点では病巣は有意ではなかったため、すべての動物の最終的評価を、注入24週間後に実施した。グルタミンの数(17Qまたは68Q)およびハンチンチンの各注入されたフラグメントに対するセリン421の変異を、ラット脳切片上の各半球上に示す。nは、条件あたりの動物の数を示す。
【図10】480−17Q(野生型)、480−68Q(ポリQ)、480−68Q−S421Aまたは480−68Q−S421Dレンチウイルスを注入したラット線条体を、注入24週間後に、抗DARPP−32および抗ホスホ−S473−Akt(9277,Cell Signaling Technology)抗体を使用する免疫組織化学によって分析した。ポリQ−ハンチンチン感染領域においてDARPP−32のダウンレギュレーションが観察されるが、リン酸化形態のAktに対するニューロンの免疫陽性の存在によって示されるように、ニューロン喪失の徴候は観察されなかった。
【図11】IGF−1およびAktは、主要なニューロンおよびHDニューロン細胞における輸送のポリQ−ハンチンチン誘導性の変化をレスキューする。図11A、IGF−1は、FL−htt−75Qを発現する皮質ニューロンの初代培養物において、BDNF含有小胞の平均速度(左)を有意に増加させ、それらの休止時間(右)を減少させる。図11B、109Q/109Q細胞において変化されたBDNF輸送は、速度(左)を増加させ、休止時間(右)を減少させるIGF−1によって改善される。図11C、Aktは、速度(左)を有意に増加させ、休止時間(右)を減少させる(*P<0.05)ことによって、109Q/109Q細胞における輸送の欠如を完全に阻害する。
【図12】S421におけるハンチンチンのリン酸化は、輸送を調節し、ポリQ−ハンチンチンの機能の喪失を回復する。図12A、コントロール条件(BDNF単独)、ならびにニューロン細胞において17もしくは75Qを伴うFL−htt、または17もしくは68Qを伴うN末端フラグメント480のトランスフェクション後におけるBDNF含有小胞の平均速度(左)および休止時間(右)の測定は、480アミノ酸のhttのN末端フラグメントが輸送を刺激することができるが、ポリQ伸長を含有する場合、変化されることを実証する。図12B、480−S421A構築物の存在下におけるBDNF含有小胞の速度(左)における有意な減少および休止時間(右)における増加により示されるように、S421がリン酸化されない場合、輸送を促進する野生型480フラグメント(480−17Q)の能力は失われる。図12C、480−17Q構築物と比較して、480−17Q−S421A構築物では、Aktの存在下におけるBDNF小胞の平均速度が減少させ、そして小胞の休止時間が増加させるため、BDNF輸送を増強するAktの能力は、httのS421のリン酸化により介在される。図12D、480−68Q構築物におけるS421D変異は、480−68Q構築物と比較して、小胞の平均速度(左)および休止時間(右)をレスキューする。(*P<0.05)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害することによって、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のためのFK506の使用。
【請求項2】
ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のための、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物の使用。
【請求項3】
S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物が、カルシニューリン阻害剤であるかまたはカルシニューリンとハンチンチンとの間の相互作用を阻害する薬物である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
カルシニューリン阻害剤が、FK506、シクロスポリンA、FK520、L685,818、FK523、15−0−DeMe−FK−520、Lie120、フェンバレレート、レスメトリン、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体よりなる群から選択される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
カルシニューリン阻害剤が、FK506、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体からなる群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
カルシニューリン阻害剤がカルシニューリン特異的なRNA干渉である、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
カルシニューリン阻害剤がカルシニューリンの優勢な干渉形態である、請求項3に記載の使用。
【請求項8】
ハンチントン病にかかっている対象が前駆症状である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
ハンチントン病にかかっている対象がハンチントン病の症状を示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物が、ハンチントン病の症状を緩和する薬物との併用で使用される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させることが可能な化合物の選択もしくは同定を含んでなる、ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を選択、同定またはスクリーニングするための方法。
【請求項12】
前記方法が、
a)ハンチンチンタンパク質またはS421を含んでなる少なくとも50個の連続アミノ酸のそのフラグメントを提供することであって、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントがリン酸化されたS421を有すること、
b)カルシニューリンを提供すること、
c)候補化合物と、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントおよび前記カルシニューリンとを接触させること、次いで、
d)カルシニューリンによるハンチンチンS421の脱リン酸化を阻害する候補化合物を選択すること、
を含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、
a)候補化合物と、ハンチンチンタンパク質を発現し、S421位においてハンチンチンをリン酸化するキナーゼおよびカルシニューリンを含む細胞とを接触させること、
b)S421位においてリン酸化されるハンチンチンの量および/またはS421位においてリン酸化されないハンチンチンの量を評価すること、次いで、
c)候補化合物と接触されていないコントロール細胞を比較して、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる候補化合物を選択すること、
を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項1】
S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害することによって、ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のためのFK506の使用。
【請求項2】
ハンチントン病にかかっている対象におけるポリQ−ハンチンチンの毒性を阻止するかまたは減少させるための医薬品の製造のための、S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物の使用。
【請求項3】
S421位におけるハンチンチンの脱リン酸化を阻害する薬物が、カルシニューリン阻害剤であるかまたはカルシニューリンとハンチンチンとの間の相互作用を阻害する薬物である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
カルシニューリン阻害剤が、FK506、シクロスポリンA、FK520、L685,818、FK523、15−0−DeMe−FK−520、Lie120、フェンバレレート、レスメトリン、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体よりなる群から選択される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
カルシニューリン阻害剤が、FK506、シペルメトリン、デルタメトリンおよびそれらの類似体からなる群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
カルシニューリン阻害剤がカルシニューリン特異的なRNA干渉である、請求項3に記載の使用。
【請求項7】
カルシニューリン阻害剤がカルシニューリンの優勢な干渉形態である、請求項3に記載の使用。
【請求項8】
ハンチントン病にかかっている対象が前駆症状である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
ハンチントン病にかかっている対象がハンチントン病の症状を示す、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる薬物が、ハンチントン病の症状を緩和する薬物との併用で使用される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させることが可能な化合物の選択もしくは同定を含んでなる、ハンチントン病にかかっている対象を処置するのに有用な化合物を選択、同定またはスクリーニングするための方法。
【請求項12】
前記方法が、
a)ハンチンチンタンパク質またはS421を含んでなる少なくとも50個の連続アミノ酸のそのフラグメントを提供することであって、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントがリン酸化されたS421を有すること、
b)カルシニューリンを提供すること、
c)候補化合物と、前記ハンチンチンタンパク質またはそのフラグメントおよび前記カルシニューリンとを接触させること、次いで、
d)カルシニューリンによるハンチンチンS421の脱リン酸化を阻害する候補化合物を選択すること、
を含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、
a)候補化合物と、ハンチンチンタンパク質を発現し、S421位においてハンチンチンをリン酸化するキナーゼおよびカルシニューリンを含む細胞とを接触させること、
b)S421位においてリン酸化されるハンチンチンの量および/またはS421位においてリン酸化されないハンチンチンの量を評価すること、次いで、
c)候補化合物と接触されていないコントロール細胞を比較して、S421位におけるハンチンチンのリン酸化を増加させる候補化合物を選択すること、
を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2009−523763(P2009−523763A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550755(P2008−550755)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050488
【国際公開番号】WO2007/082909
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(506413937)
【出願人】(592236245)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク (8)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050488
【国際公開番号】WO2007/082909
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(506413937)
【出願人】(592236245)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク (8)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】
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