説明

SQUID磁束計出力の雑音除去方法及びその装置

【目的】 SQUID磁束計Bを極低温冷凍機Aにより冷却する場合において、冷凍機Aの防振対策、或いは繁雑なハードやソフトを要することなく簡単なシステム構成で、SQUID磁束計Bの出力信号から冷凍機Aの振動による雑音を除去できるようにする。
【構成】 極低温冷凍機Aで冷却されるSQUID磁束計Bの出力信号を冷凍機Aの振動周期分ずつ加算平均して該冷凍機Aによる周期性雑音のテンプレートを作り、このテンプレートを元の磁束計Bの出力信号から引算して雑音を除去する。上記出力信号の加算時に信号の位相合せを行う。また、目的とする信号が加算平均可能であるとき、テンプレート生成前に目的とする信号の加算平均波形を磁束計Bの出力信号より引算する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、極低温レベルで超電導状態となる超電導量子干渉素子(SQUID;Superconductive Quantum Interference Device )を備えたSQUID磁束計を冷凍機で冷却する場合において、その冷凍機の振動による雑音を磁束計出力から除去する方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、超電導デバイスの1つとして、ジョセフソン効果を利用した超電導量子干渉素子が知られている。この超電導量子干渉素子に超電導ピックアップコイルを有する磁束入力回路を接続することにより、例えば生体内に流れる微小電流に伴う磁界や体内の微小磁性体からの磁界等、極めて微弱な磁束を測定するようにしたSQUID磁束計を得ることができる。
【0003】このSQUID磁束計を極低温レベル、つまり超電導量子干渉素子及び超電導コイルが超電導状態に転移する温度レベルまで冷却する場合、低温保持容器(クライオスタット)内に極低温レベルの液体ヘリウムを蓄え、該液体ヘリウムにSQUID磁束計を浸漬して冷却する方法がある。尚、その場合、通常は低温保持容器内に寒冷発生用の冷凍機の冷却器を挿入して、容器内で蒸発したヘリウムガスを冷凍機により凝縮液化させることが行われる。
【0004】この方法では、SQUID磁束計を液体ヘリウムに浸漬するので、そのSQUID磁束計を全体に亘って安定してかつ短時間で冷却することができる。しかし、その反面、SQUID磁束計の冷却のために低温保持容器内のヘリウムを介在させるため、冷却システムが大型化し、操作性も悪くなる。このことから、上記SQUID磁束計を冷凍機の冷却器に直接伝熱可能に接触させて冷却する方法が注目されている(例えば特開平2―302680号公報参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、その場合、冷凍機は運転時に振動する部分を有しており、その振動を完全になくすことは難しい。このため、磁束計の出力信号に冷凍機の振動による雑音が混入して、磁束計本来の信号検出が不正確になるのは避けられないという問題があった。
【0006】この問題は、磁束計の信号系を2チャンネルにし、その一方で通常の測定を行い、同時に他方のチャンネルで冷凍機の振動による雑音を測定して、両者を比較することで解決できる。しかし、この方法では信号系のチャンネル数が多くなる難がある。
【0007】また、信号チャンネル数は1つとしたままで、通常の測定を行った後に冷凍機の振動による雑音を測定し、両者を比較するようにしてもよいが、そのときには、測定時期が大幅にずれるので、冷凍機の振動特性が変化したりすることは免れ得ず、正確な検出は難しい。
【0008】本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記SQUID磁束計の出力信号自体を基に冷凍機の振動による雑音を検出してそれを除去するようにすることで、冷凍機の防振対策或いは繁雑なハードやソフトを要することなく簡単なシステム構成で、SQUID磁束計の出力信号から冷凍機の振動による雑音を除去できるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、この発明では、冷凍機の振動による雑音が周期性を持っていることに着目し、磁束計の出力信号を冷凍機の振動周期分ずつ加算平均して周期性雑音のテンプレートを作り、このテンプレートを磁束計の出力信号から引算することとした。
【0010】すなわち、請求項1の発明では、図1及び図2に示すように、極低温レベルで超電導状態となる超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)を備え、上記超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)が極低温冷凍機(A)により冷却されるSQUID磁束計(B)の出力信号から上記冷凍機(A)の振動による周期性雑音を除去して目的の信号を得るSQUID磁束計出力の雑音除去方法として、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動による雑音の基本周期分ずつ加算平均して、信号や他の雑音等が除去された周期性雑音のテンプレートを生成し、磁束計(B)の出力信号からテンプレートを引算して目的の信号を得る方法とする。
【0011】また、請求項4の発明では、図1に示すように、極低温レベルで超電導状態となる超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)を備え、上記超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)が極低温冷凍機(A)により冷却されるSQUID磁束計(B)の出力信号から上記冷凍機(A)の振動による周期性雑音を除去して目的の信号を得るようにしたSQUID磁束計出力の雑音除去装置として、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動による雑音の基本周期分ずつ加算平均して、信号や他の雑音等が除去された周期性雑音のテンプレートを生成する雑音テンプレート生成手段(46)と、上記磁束計(B)の出力信号から、上記雑音テンプレート生成手段(46)により生成された雑音テンプレートを引算して目的の信号を得る周期性雑音除去手段(47)(加算器又は減算器)とを備えたことを特徴とする。
【0012】請求項2の発明では、冷凍機の振動による雑音のふらつきを補償するために、上記請求項1のSQUID磁束計出力の雑音除去方法において、磁束計(B)の出力信号の加算時に、信号の位相合せを行うこととする。
【0013】また、請求項5の発明では、同様に、請求項4記載のSQUID磁束計出力の雑音除去装置において、雑音テンプレート生成手段(46)は、磁束計(B)の出力信号の加算時に信号の位相合せを行うように構成する。
【0014】請求項3の発明では、請求項1のSQUID磁束計出力の雑音除去方法において、目的とする信号が加算平均可能である場合、雑音テンプレートに含まれる目的とする信号の影響を減少させるために、周期性雑音のテンプレート生成時に出力信号から平均の目的信号を差し引いたデータを用いることとする。
【0015】請求項6の発明では、同様に、請求項4記載のSQUID磁束計出力の雑音除去装置において、目的とする信号が加算平均可能である場合、雑音テンプレートを生成する前にSQUID磁束計出力から目的とする信号の加算平均波形を差し引くように構成する。
【0016】
【作用】上記の構成により、請求項1の発明では、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動周期分ずつ加算平均することで、信号や他の雑音等が除去された、冷凍機(A)の振動のみによる周期性雑音のテンプレートが生成される。その後、このテンプレートを元の磁束計(B)の出力信号から引算すると、目的の信号が得られる。こうして磁束計(B)の出力信号を加工して雑音テンプレートを作り、この雑音テンプレートにより磁束計(B)出力信号から雑音を除去するので、冷凍機(A)に振動があっても、その防振対策を要することなく、磁束計(B)の出力信号から冷凍機(A)の振動による雑音を除去して、目的の信号を正確に得ることができる。また、信号系統が1チャンネルで済み、しかも測定回数も1回で済み、単純なシステム構成となる。
【0017】請求項4の発明では、雑音テンプレート生成手段(46)において、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動周期分ずつ加算平均して、冷凍機(A)の振動による周期性雑音のテンプレートが生成され、周期性雑音除去手段(47)により、テンプレートが元の磁束計(B)の出力信号から引算されて、目的の信号が得られる。この場合でも請求項1の発明と同様の作用効果を奏することができる。
【0018】請求項2又は5の発明では、上記磁束計(B)の出力信号の加算時に信号の位相合せを行うので、冷凍機(A)の振動周期にふらつきがあっても、冷凍機(A)の振動による雑音とテンプレートの周期を正確にマッチングさせることができ、より正確な雑音の除去を行うことができる。
【0019】請求項3又は6の発明では、上記磁束計(B)に含まれる目的とする信号が加算平均可能である場合、雑音テンプレートの生成前に磁束計出力信号から目的とする信号の加算平均波形を差し引くことにより、雑音テンプレートに含まれる目的とする信号の影響をさらに抑えることができる。その結果として、上記請求項1又は4の発明による雑音除去によって得られる波形に含まれる波形歪みを小さく抑えることができる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図3は本発明の実施例に係るSQUID磁束計及びその周辺機器の構成を示し、この実施例ではSQUID磁束計は人体の心磁波(心臓から発せられる生体磁気の一種)を検出するために使用される。同図において、(1)は心磁波を検出する被験者(M)を上載する支持台で、電磁シールドルーム(R)(或いは磁気シールドルーム)の内部に設置されている。支持台(1)の下方には受台(2)が設置され、この受台(2)上に密閉状の真空容器(3)が下端部を受台(2)内に没入せしめて固定支持されている。この真空容器(3)の内部は真空状態に保たれていて、その内部上端にSQUID磁束計(B)が収容されている。(A)はSQUID磁束計(B)を作動可能な極低温レベルに冷却する2元回路のヘリウム冷凍機である。
【0021】上記真空容器(3)には冷凍機(A)の一部を構成する予冷冷凍回路(4)の膨張機(5)及びJ−T回路(10)の膨張ユニット(11)が取り付けられている。上記予冷冷凍回路(4)は、G−M(ギフォード・マクマホン)サイクルの冷凍機で構成されていて、J−T回路(10)におけるヘリウムガスを予冷するためにヘリウムガスを圧縮膨張させるものであり、図外の予冷用圧縮機と上記膨張機(5)とを閉回路に接続してなる。上記膨張機(5)は真空容器(3)の底壁に対し振動を絶縁された状態で取り付けられている。この膨張機(5)は、真空容器(3)の底壁下面に固定配置されたケーシング(6)と、該ケーシング(6)の上部に連設された2段構造のシリンダ(7)とを有し、上記ケーシング(6)には予冷用圧縮機の吐出側に接続される高圧ガス入口(6a)と、同吸入側に接続される低圧ガス出口(6b)とが開口されている。上記シリンダ(7)は真空容器(3)の底壁を気密状に貫通して内部に上方に延びており、その大径部の上端部には55〜60Kの温度レベルに保持される第1ヒートステーション(8)が、また小径部の上端には上記第1ヒートステーション(8)よりも低い15〜20Kの温度レベルに保持される第2ヒートステーション(9)がそれぞれ形成されている。
【0022】そして、図示しないが、上記シリンダ(7)内には、シリンダ(7)内に上記ヒートステーション(8),(9)に対応する位置に膨張室を区画形成するディスプレーサ(置換器)が往復動可能に嵌挿されている。一方、上記ケーシング(6)内には、回転する毎に開弁して上記高圧ガス入口(6a)から流入したヘリウムガスを上記シリンダ(7)内の膨張室に供給し又は膨張室内で膨張したヘリウムガスを低圧ガス出口(6b)から排出するように切り換わるロータリバルブと、該ロータリバルブを駆動するバルブモータとが嵌装されている。そして、膨張機(5)におけるロータリバルブの開弁により高圧ヘリウムガスをシリンダ(7)内の膨張室でサイモン膨張させて、その膨張に伴う温度降下により極低温レベルの寒冷を発生させ、その寒冷をシリンダ(7)における第1及び第2ヒートステーション(8),(9)にて保持する。よって、予冷用圧縮機から吐出された高圧のヘリウムガスを膨張機(5)に供給し、その膨張機(5)での断熱膨張によりヒートステーション(8),(9)の温度を低下させて、J−T回路(10)における後述の予冷器(15),(16)を予冷するとともに、膨張した低圧ヘリウムガスを圧縮機に戻して再圧縮するようにした閉回路の予冷冷凍回路(4)が構成されている。
【0023】一方、上記J−T回路(10)は、約4Kの極低温レベルの寒冷を発生させるためにヘリウムガスを圧縮してジュール・トムソン膨張させる冷凍回路であって、ヘリウムガスを圧縮するJ−T圧縮機(図示せず)と、その圧縮されたヘリウムガスをジュール・トムソン膨張させる上記膨張ユニット(11)とを備えている。この膨張ユニット(11)は上記真空容器(3)の底壁を気密状に貫通する第1のJ−T熱交換器(12)を有し、該第1のJ−T熱交換器(12)には、真空容器(3)の内部に配置された第2及び第3のJ−T熱交換器(13),(14)が接続されている。上記各J−T熱交換器(12)〜(14)は1次側及び2次側をそれぞれ通過するヘリウムガス間で互いに熱交換させるもので、第1のJ−T熱交換器(12)の1次側は上記J−T圧縮機の吐出側に接続されている。また、第1及び第2のJ−T熱交換器(12),(13)の各1次側同士は、上記膨張機(5)の第1ヒートステーション(8)外周に配置した熱交換器からなる第1予冷器(15)を介して接続されている。同様に、第2及び第3のJ−T熱交換器(13),(14)の各1次側同士は、膨張機(5)の第2ヒートステーション(9)外周に配置した熱交換器からなる第2予冷器(16)を介して接続されている。さらに、上記第3のJ−T熱交換器(14)の1次側は、高圧のヘリウムガスをジュール・トムソン膨張させるJ−T弁(17)を介して冷却器(18)に接続されている。上記J−T弁(17)は真空容器(3)外から図外の操作ロッドによって開度が調整される。上記冷却器(18)は受冷プレート(19)下面の受冷部(19a)外周に巻かれたコイル状の配管からなるもので、この構造によって受冷プレート(19)が冷却器(18)と伝熱可能に接触して、それと同じ温度の約4Kステージに保たれる。また、受冷プレート(19)の上面に上記SQUID磁束計(B)が伝熱可能に一体的に取り付けられている。
【0024】さらに、上記冷却器(18)は上記第3及び第2のJ−T熱交換器(14),(13)の各2次側を経て第1のJ−T熱交換器(12)の2次側に接続され、該第1のJ−T熱交換器(12)の2次側は上記J−T圧縮機の吸入側に接続されている。よって、J−T回路(10)では、J−T圧縮機によりヘリウムガスを高圧に圧縮して真空容器(3)側に供給し、それを真空容器(3)の第1〜第3のJ−T熱交換器(12)〜(14)において圧縮機側に戻る低温低圧のヘリウムガスと熱交換させるとともに、第1及び第2予冷器(15),(16)でそれぞれ膨張機(5)の第1及び第2ヒートステーション(8),(9)と熱交換させて冷却したのち、J−T弁(17)でジュール・トムソン膨張させて冷却器(18)で1気圧、約4Kの気液混合状態のヘリウムとなし、このヘリウムの蒸発潜熱により受冷プレート(19)及びそれに接触するSQUID磁束計(B)を約4Kの極低温レベルに冷却保持し、しかる後、上記膨張によって低圧となったヘリウムガスを第1〜第3のJ−T熱交換器(12)〜(14)の各2次側を通してJ−T圧縮機に吸入させて再圧縮するように構成されている。
【0025】上記SQUID磁束計(B)は、極低温レベルで超電導状態となる超電導量子干渉素子(31)と、該超電導量子干渉素子(31)に接続される磁束入力回路(32)とを備えてなり、上記超電導量子干渉素子(31)は上記受冷プレート(19)の上面に伝熱可能に取付固定されている。一方、磁束入力回路(32)は、円筒状のボビン(34)にループ状に巻き付けられた超電導線からなるピックアップコイル(33)を有し、このピックアップコイル(33)はループが例えば合計4つとされていて、そのうち上下のループの各々と中央の2つのループとを電流が互いに交互に逆向きに流れるよう一定間隔をあけて直列に接続した2回差動形のもので構成されている。つまり、SQUID磁束計(B)は、4つのループに巻かれたピックアップコイル(33)で磁場勾配を測定するグラジオメータを構成している。
【0026】そして、上記受冷プレート(19)の上面には伝熱ブラケット(20)が超電導量子干渉素子(31)を上方から覆うように取り付けられ、このブラケット(20)の上面に上記ボビン(34)が立設されている。このボビン(34)は200〜300mm程度の長さのもので、真空容器(3)の上壁中心に形成した上方膨出部(3a)内を上方に延び、その上側部分にピックアップコイル(33)が巻き付けられており、このボビン(34)を介してピックアップコイル(33)をその超電導転移温度以下まで冷却するようにしている。
【0027】尚、上記真空容器(3)の膨出部(3a)の上端は支持台(1)中心の開口(1a)に臨んでおり、この開口(1a)を通して支持台(1)上面の被験者(M)の心磁波を測定するようにしている。
【0028】また、図3中、(21)は受冷プレート(19)、超電導量子干渉素子(31)、ブラケット(20)、ボビン(34)の下部等を覆うように真空容器(3)内上部に配置された輻射シールドで、予冷冷凍回路(32)の膨張機における第1ヒートステーション(8)に接触して80K程度に保持される。
【0029】上記SQUID磁束計(B)の超電導量子干渉素子(31)の出力信号はFLLコントローラ(41)、光アイソレーション・アンプ(42)、アンチ・エリアス・フィルタ(43)及びAD変換器(44)を介してコンピュータ(45)に入力されている。このコンピュータ(45)において磁束計(B)の出力信号を処理するときの手順について図2に示すフローチャート図により説明する。
【0030】まず、目的とする信号と周期性雑音(基本周波数成分及びその高調波成分からなる雑音)とからなる計測データ(D)について考える。目的とする信号が心磁波や誘発脳磁波のように加算平均可能な信号であるYESの場合、スタート後のステップS0 からステップS1 へと処理を進める。一方、不整脈波や自発脳磁波のように加算平均が不可能なNOの場合には、ステップS0 からステップS3 で計測データ(D)を目的のデータ(D′)とした後、ステップS4 へ進む。
【0031】上記ステップS1 では、計測データ(D)から目的の信号に同期した波形をトリガーとして(雑音に比べ信号が十分に大きい場合、データ(D)自身をトリガーとして)、信号についての加算平均波形(Sa)を得る。
【0032】次に、ステップS2 において、上記データ(D)から信号の影響を除き、大部分が雑音からなる波形(D′)を得るために、データ(D)の信号部分から上記の加算平均波形(Sa)をそれぞれ引算する。この引算により、得られるデータ(D′)に不連続な部分が生じる場合があり得るが、引算する波形(Sa)から直流成分を除去したり、或いは両端の値と勾配が0に収束するような窓関数を掛けることにより、この不連続性の発生を防ぐことができる。
【0033】この後、ステップS4 において、データ(D)のデータ長(p)(=サンプリング周波数/雑音の基本周波数)の任意の位置(n)に含まれる、雑音波形になるべく近い波形を得るために、以下の処理を行う。つまり、ステップS0 からステップS1 への経路を経た場合にはデータ(D)についての、またそれ以外の場合にはステップS2 で得た波形(D′)についての同時刻の区間(n)から前後に(k)区間、データ長(p)ずつ加算平均することにより、平均の雑音波形(Na)を得る。
【0034】そして、ステップS5 で、これをデータ(D)の同区間(n)から引算することにより、データ(D)の任意の区間(n)から雑音を除去することができる。
【0035】ステップS6 では、ステップS4 ,S5 をデータ(D)の全ての区間に施すことにより、雑音を殆ど含まない波形(D″)を得る。
【0036】尚、ステップS4 ,S5 について、雑音が多少の周波数変動を含む場合、雑音についての加算平均時に、上記データ(D′)の区間(n)の部分との相互相関を各々の区間について計算することにより、その変動分を考慮することができる。また、周波数のずれといっても雑音源が冷凍機(A)の振動である場合、基本周波数の1周期に対して隣り合う雑音のずれは通常0.1%以下であるので、全区間に亘って相互相関を計算する必要はなく、雑音の基本周波数の1周期の1%程度に対応する区間について計算すれば十分であり、僅かな処理時間しか必要としない。
【0037】また、ステップS0 からステップS3 を経由してステップS4 への経路をとる場合、ステップS4 における加算平均回数(2k+1)は十分に多くとらなければならない。なぜなら、ステップS1 ,S2 を省略したとき、平均の雑音波形(Na)に含まれる信号の影響は(2k+1)に反比例するからである。
【0038】この実施例では、上記ステップS4 により、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動の基本周波数ずつ位相合せを行いながら加算平均し、目的とする信号やその他の雑音が除去された周期性雑音のテンプレートを生成するようにした雑音テンプレート生成手段(46)が構成される。
【0039】また、ステップS5 ,S6 により、上記磁束計(B)の出力信号から、上記雑音テンプレート生成手段(46)により生成された雑音テンプレートを位相合せを行いながら引算して目的の信号を得るようにした周期性雑音除去手段(47)が構成される。
【0040】次に、上記実施例の作用について説明する。ヘリウム冷凍機(A)の運転に伴ってSQUID磁束計(B)が冷却され、そのSQUID磁束計(B)の温度が約4Kの極低温レベルまで降下すると、該SQUID磁束計(B)が作動状態になる。
【0041】すなわち、まず、予冷冷凍回路(4)及びJ−T回路(10)の各圧縮機が起動されてヘリウム冷凍機(A)が定常運転状態になると、予冷冷凍回路(4)における膨張機(5)で予冷用圧縮機から供給された高圧のヘリウムガスが膨張し、このガスの膨張に伴う温度降下によりシリンダ(7)の第1ヒートステーション(8)が55〜60Kの温度レベルに、また第2ヒートステーション(9)が15〜20Kの温度レベルにそれぞれ冷却される。
【0042】一方、これと同時に、J−T回路(10)では、圧縮機から吐出された高圧のヘリウムガスが真空容器(3)側に供給され、この真空容器(3)側に供給された高圧ヘリウムガスは、第1のJ−T熱交換器(12)の1次側に入り、そこで圧縮機側へ戻る2次側の低圧ヘリウムガスと熱交換されて常温300Kから約70Kまで冷却され、その後、上記膨張機(5)の55〜60Kに冷却されている第1ヒートステーション(8)外周の第1予冷器(15)に入って約55Kまで冷却される。この冷却されたガスは第2のJ−T熱交換器(13)の1次側に入って、同様に2次側の低圧ヘリウムガスとの熱交換により約20Kまで冷却された後、膨張機(5)の15〜20Kに冷却されている第2ヒートステーション(9)外周の第2予冷器(16)に入って約15Kまで冷却される。さらに、ガスは第3のJ−T熱交換器(14)の1次側に入って2次側の低圧ヘリウムガスとの熱交換により約5Kまで冷却され、しかる後にJ−T弁(17)に至る。このJ−T弁(17)では高圧ヘリウムガスは絞られてジュール・トムソン膨張し、1気圧、約4Kの気液混合状態のヘリウムとなってJ−T弁(17)下流の冷却器(18)へ供給される。そして、この冷却器(18)において、上記気液混合状態のヘリウムにおける液部分の蒸発潜熱により受冷プレート(19)が冷却される。この受冷プレート(19)が冷却されると、該受冷プレート(19)に伝熱可能に接触しているSQUID磁束計(B)の超電導量子干渉素子(31)、ボビン(34)及び磁束入力回路(32)のピックアップコイル(33)も冷却される。
【0043】そして、上記蒸発した低圧ヘリウムガスは冷却器(18)から第3のJ−T熱交換器(14)の2次側に戻ってその間に約4Kの飽和ガスとなり、このヘリウムガスは第2及び第1のJ−T熱交換器(13),(12)の2次側を通って順に1次側の高圧ヘリウムガスを冷却しながら最後に約300K(室温)まで温度上昇し、しかる後、圧縮機の吸入側へ戻る。以上で予冷冷凍回路(4)及びJ−T回路(10)の1サイクルが終了し、以後、同様なサイクルが繰り返されて冷凍機(A)の冷凍運転が行われる。このような冷凍運転の継続によりSQUID磁束計(B)の温度が極低温レベル(作動温度レベル)に向かって降下し、その極低温レベルへの到達の後にSQUID磁束計(B)が作動状態となる。
【0044】この実施例において、上記SQUID磁束計(B)の出力信号データ(D)から冷凍機(A)の振動による雑音を消去して目的の心磁波信号を得るための処理過程を図4によって説明する。まず、波形1は、心磁波信号と冷凍機(A)の振動による雑音とを含むデータ(D)である。この心磁波信号は加算平均であるから、図2のフローチャートではステップS0 からステップS1 へと進み、心磁波についてデータ(D)を加算平均して波形2(加算平均波形(Sa))を得る。
【0045】次に、波形1から波形2を引算し(フローチャートのステップS2 参照)、心磁波信号を含まない殆ど雑音のみからなる波形3(データ(D′))を得る。
【0046】波形1のデータ長(p)(=サンプリング周波数/雑音の基本周波数)の任意の部分(c)に含まれる雑音波形になるべく近い雑音テンプレート(Na)を得るために、波形3(データ(D′))の同時刻の同区間(c)を中心に2(=k)区間ずつ雑音について加算平均を行い、波形4(平均の雑音波形(Na))を得る。このとき、雑音の周波数変動を考慮するために、区間(c)と各区間(a),(b),(d),(e)とについてデータ長(p)の1%程度ずつ相互相関をとりながら加算平均が行われる。
【0047】波形1(データ(D))の区間(c)から波形4(平均の雑音波形(Na))を引算することにより、波形1(データ(D))の区間(c)から雑音を除去できる。これを全区間について施すことにより、波形5(雑音を殆ど含まない波形(D″))を得る。
【0048】したがって、このように、磁束計(B)の出力信号データを加工して雑音テンプレートを作り、この雑音テンプレートにより磁束計(B)出力信号から冷凍機(A)の振動による雑音を除去するので、冷凍機(A)に振動があっても、その防振対策を要することなく、磁束計(B)の出力信号から冷凍機(A)の振動による雑音を除去でき、目的の心磁波信号を正確に得ることができる。また、信号系統が1チャンネルで済み、しかも測定回数も1回で済み、単純なシステム構成となる。
【0049】また、上記磁束計(B)の出力信号の加算時及び磁束計(B)の出力信号からの雑音テンプレートの引算時に信号の位相合せを行って、信号と雑音との周期を正確にマッチングさせるので、より正確な検出を行うことができる。
【0050】尚、本発明は、心磁波測定用以外のSQUID磁束計に対しても適用できるのは勿論である。
【0051】
【発明の効果】以上説明した如く、請求項1又は4の発明によると、極低温冷凍機により冷却されるSQUID磁束計において、その出力信号を冷凍機の振動周期分ずつ加算平均して該冷凍機による周期性雑音のテンプレートを作り、このテンプレートを元の磁束計の出力信号から引算して雑音を除去するので、冷凍機に振動があっても、その防振対策或いは繁雑なハードやソフトを要することなく簡単なシステム構成で、磁束計の出力信号から冷凍機の振動による雑音を除去して、目的の信号を正確に得ることができる。
【0052】また、請求項2又は5の発明によると、上記磁束計の出力信号の加算時、及び磁束計の出力信号からの雑音テンプレートの引算時に信号の位相合せを行うので、冷凍機の振動周期にふらつきがあっても、信号と雑音との周期を正確にマッチングでき、より正確な雑音除去が行える。
【0053】請求項3又は6の発明によれば、上記磁束計(B)に含まれる目的とする信号が加算平均可能である場合、雑音テンプレートの生成前に磁束計出力信号から目的とする信号の加算平均波形を差し引くことにより、雑音テンプレートに含まれる目的とする信号の影響をさらに抑えることができ、結果として、上記請求項1又は4の発明による雑音除去によって得られる波形に含まれる波形歪みを小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例においてコンピュータで行われる信号処理手順を示すフローチャート図である。
【図3】実施例における極低温冷凍機、SQUID磁束計及びその信号系を概略的に示す図である。
【図4】実施例において区間kをk=2としたときの実際の処理手順を波形によって示す特性図である。
【符号の説明】
(A) ヘリウム冷凍機
(3) 真空容器
(4) 予冷冷凍回路
(5) 膨張機
(10) J−T回路
(17) J−T弁
(18) 冷却器
(19) 受冷プレート
(B) SQUID磁束計
(31) 超電導量子干渉素子
(32) 磁束入力回路
(45) コンピュータ
(46) 雑音テンプレート生成手段
(47) 周期性雑音除去手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 極低温レベルで超電導状態となる超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)を備え、上記超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)が極低温冷凍機(A)により冷却されるSQUID磁束計(B)の出力信号から上記冷凍機(A)の振動による周期性雑音を除去して目的の信号を得るSQUID磁束計出力の雑音除去方法であって、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動による雑音の基本周期分ずつ加算平均して、信号や他の雑音等が除去された周期性雑音のテンプレートを生成し、磁束計(B)の出力信号から上記雑音テンプレートを引算して目的の信号を得ることを特徴とするSQUID磁束計出力の雑音除去方法。
【請求項2】 請求項1記載のSQUID磁束計出力の雑音除去方法において、磁束計(B)の出力信号の加算時に、信号の位相合せを行うことを特徴とするSQUID磁束計出力の雑音除去方法。
【請求項3】 請求項1記載のSQUID磁束計出力の雑音除去方法において、目的とする信号が加算平均可能である場合、周期性雑音のテンプレート生成時に出力信号から平均の目的信号を差し引いたデータを用いることを特徴とするSQUID磁束計出力の雑音除去方法。
【請求項4】 極低温レベルで超電導状態となる超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)を備え、上記超電導量子干渉素子(31)及び磁束入力回路(32)が極低温冷凍機(A)により冷却されるSQUID磁束計(B)の出力信号から上記冷凍機(A)の振動による周期性雑音を除去して目的の信号を得るようにしたSQUID磁束計出力の雑音除去装置であって、SQUID磁束計(B)の出力信号を冷凍機(A)の振動による雑音の基本周期分ずつ加算平均して、信号や他の雑音等が除去された周期性雑音のテンプレートを生成する雑音テンプレート生成手段(46)と、上記磁束計(B)の出力信号から、上記雑音テンプレート生成手段(46)により生成された雑音テンプレートを引算して目的の信号を得る周期性雑音除去手段(47)とを備えたことを特徴とするSQUID磁束計出力の雑音除去装置。
【請求項5】 請求項4記載のSQUID磁束計出力の雑音除去装置において、雑音テンプレート生成手段(46)は、磁束計(B)の出力信号の加算時に信号の位相合せを行うように構成されていることを特徴とするSQUID磁束計出力の雑音除去装置。
【請求項6】 請求項4記載のSQUID磁束計出力の雑音除去装置において、目的とする信号が加算平均可能である場合、雑音テンプレートを生成する前にSQUID磁束計出力から目的とする信号の加算平均波形を差し引くように構成されていることを特徴とするSQUID磁束計出力の雑音除去装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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