説明

SSII活性が低下したオオムギならびにアミロペクチン含有量が低下したデンプンおよびデンプン含有生成物

【課題】高いアミロース含有量を示し、食品製造に適したオオムギを提供する。
【解決手段】SSII活性の低下したオオムギは、アミロペクチン含有量が低下しているために高い相対アミロース含有量を伴うデンプン構造を有する。さらに、穀粒は、相対的に高いβグルカン含有量を有することができる。デンプンの構造はまた、低いゼラチン化温度を有するが膨潤性が低下していることによって特性化されることができる多くの方法で改変してもよい。デンプンのうちゼラチン化したデンプンの粘度も減少する。アミロペクチン含有物の鎖長分布および低い結晶性のデンプンが認められる。デンプンはまた、極めて高いレベルのV形態の結晶性デンプンを示す高いレベルの脂質会合デンプンを有することによって特性化される。デンプンの食物繊維含有量は高い。これは、好ましい規定食および食品加工の特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロペクチン含有量の低下したデンプンをもたらす、SSII酵素活性が低下したオオムギ植物に関する。本発明はまた、この植物から得られるデンプンおよび穀粒ならびに食品に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養科学における1つの所見は、難消化性デンプンが腸の健康、特に大腸の健康に重要な意味を有することである。難消化性デンプンの有益な効果は栄養素の大腸への供給により生じ、ここで、腸内フローラにエネルギー源が与えられ、このエネルギー源は発酵して特に短鎖脂肪酸を形成する。これらの短鎖脂肪酸は、大腸粘膜細胞に栄養素を供給し、大腸を横切るある種の栄養素の取り込みを増強し、結腸の生理学的活性を促進する。一般に難消化性デンプンまたは他の食物繊維が提供されない場合、結腸は代謝的に比較的不活性である。
【0003】
近年、腸の健康に取り組むために、様々な供給源由来の難消化性デンプンを提供することに注目する傾向がある。従って、トウモロコシなどのある種の穀粒において、腸の健康を促進するための手段として食物において使用するための高アミロースデンプンが開発されている。
【0004】
デンプンの物理的構造は、食品のためのデンプンの栄養学的な、および取り扱い上の特性に重要な影響を与え得る。ある種の特性は、アミロペクチン鎖長、結晶化度、およびデンプン結晶のV複合形状(V-complex form)のような結晶形状の存在を含むデンプン構造の指標とみなすことができる。また、これらの特性の形態は、これらのデンプンを含有する食物の栄養学的な、および取り扱い上の特性の指標とみなすこともできる。従って、低アミロペクチン鎖長は、低結晶性および低ゼラチン化の指標であり得、また、アミロペクチンの老化の低減に相関性を有すると考えられる。さらに、より短いアミロペクチンの鎖長分布は、有意な量でデンプンが含まれる食物の官能特性(organoleptic properties)に反映すると思われる。デンプンの結晶性の低下はまた、デンプンのゼラチン化温度の低下を示唆し得、さらに、それは官能特性(organoleptic properties)の増強に関連すると思われる。V複合結晶または他の脂質会合デンプンは、難消化性デンプン、従って食物繊維のレベルを増強する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高アミロースデンプン含有量を示すオオムギの系統は過去に同定されている。これらの株では、ハイアミロースグレーシャー(High Amylose Glacier)(AC38)として公知であるオオムギ変種などにおいて、最大で全デンプンの約45%までの比較的中等度のアミロース含有量の増加しかもたらさない。そのタイプのアミロースデンプンの増加は有用であるが、さらに高いアミロース含有量を示すデンプンがやはり好ましく、いくつかの他の種の穀粒が90パーセンタイル(percentile)の範囲のレベルでより高いアミロース含有デンプンを示すように育種されている。これらは、消化に対し極めて抵抗性であり、より大きな健康上の利益をもたらす。
【0006】
既知の高アミロースデンプンは高いゼラチン化温度をも有するため、高アミロースデンプンの提供には問題がある。ゼラチン化温度は、そのような食物を加工するのに必要な粉砕エネルギーを反映する。従って、そのような穀粒またはデンプンから食物を製造するために穀粒もしくは粉を加工するためには、通常、より高い温度が必要とされる。従って、一般に、高アミロースデンプンを有する製品はより高価である。同様に、消費者の見地から、製造された食品を調理するか、または高アミロースデンプンを有する粉から食品を調理するには、さらに長い時間および高い温度を必要とするだろう。従って、高アミロースデンプンを食品に提供するには、重要な欠点がある。
【0007】
穀粒、特にオオムギのもう1つの栄養成分はβ−グルカンである。β−グルカンは、β(1−4)および/またはβ(1−3)グリコシド結合によって結合したグルコース単位から成り、かつヒト消化消化酵素によって分解されないため、食物繊維の供給源として適切である。β−グルカンは内在性大腸細菌によって部分的に消化され得、発酵過程により腸および結腸内膜の粘膜細胞に有益な短鎖脂肪酸(主に、酢酸、プロピオン酸および酪酸)を生じる(SakataおよびEngelhard Comp. Biochem Physiol.74a:459−462(1983))。
【0008】
また、β−グルカンの摂取は、総血清コレステロールおよび低密度リポタンパク質(LDL)の減少をもたらす胆汁酸の分泌を増加し、これにより冠動脈疾患の危険性を低減させる。同様に、β−グルカンは、食後に血中グルコース濃度の変動を弱めることによって作用する。これらの効果は、両方とも胃および腸の内容物の粘度の上昇に基づく。
【0009】
デンプンを含有する食物の組成およびこれらのデンプンと他の栄養または他の成分との間の密接な関係は、それらの食物の栄養価または食物の調理もしくは構造におけるそれらの成分の機能的特性に重要な影響をもたらすことができる。
【0010】
改変されたデンプンまたはβグルカンは、例えば、改変されていない供給源では通常付与されない機能性を提供する食物に利用することができる一方、そのような加工は、価値のある他の成分を変化させるか、または改変に関与する加工に起因して望ましくないという認識をもたらす傾向を有する。従って、食物において改変されない形態で使用することができる構成分の供給源を提供することが望ましい。
【0011】
オオムギ変種MK6827は、バーレイガームプラズマコレクション(Barley Germplasma Collection)(USDA−ARS National Small Grain Germplasma Research Facility Aberdeen,Idaho 831290 USA)より入手することができる。MK6827の穀粒は皺形(shrunken)であり、濃色の包皮および狭長な形状を有し、本発明者らの見解では、本穀粒は加工が極めて困難であり、粉砕に対して極めて抵抗性である。MK6827穀粒の特性については以前に特性化されておらず、また、変異の性質についても確かめられておらず、食品製造に適切であるとみなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、オオムギ植物のSSII変異体の単離および特性化から生じ、この変異体の穀粒は、アミロペクチン含有量の低下、および、それ故の高い相対レベルのアミロースを有し、それ故に食物繊維のレベルが増大しているデンプンを含有することが見出されている。
【0013】
変異体の穀粒およびある種の遺伝的背景への交雑から生じる穀粒は、βグルカンのレベルが増大している。本発明者らは、βグルカンレベルの増大と高食物繊維に寄与する難消化性デンプンとの組合わせは、本発明の特色であると考えている。
【0014】
さらに、少なくともいくつかの遺伝的背景において、そのような変異体由来の穀粒は、高い相対レベルのアミロースを有し、かつ低ゼラチン化温度を有するデンプンを含有することが見出されている。ゼラチン化中および後のそのようなデンプンの低膨潤性はまた、ある種の規定食および食品加工用途において有利である。
【0015】
さらに、そのような変異体由来の穀粒は、高い相対レベルのアミロースを有するデンプンを含有することが見出され、このアミロースレベルは、デンプン含有量の50%より高い。このようなレベルは、オオムギ由来の改変されていないデンプンにおいて従来見出されていなかったものである。
【0016】
変異体および変異体由来の戻し交雑株(戻し交雑が試験されていることを限度として)のデンプンは、難消化性デンプンを示し、その構造の改変は、高い相対アミロース含有量、高β−グルカン含有量であることにより物理的に接近不能であること、顆粒形態の改変、および脂質会合デンプンの存在を含む群のうちの1つまたはそれ以上を含む特定の物理的特性によって示され、また、この構造の改変は、低結晶性、低アミロペクチン鎖長分布および検出可能な脂質会合デンプンの存在を含む群のうちの一つまたはそれ以上から選択される特性によって示される。
【0017】
さらに、これまでのところ、変異オオムギ植物由来の穀粒は、食品加工工程に容易に使用することができる。
【0018】
本発明の一態様は、オオムギ植物の穀粒から得られるデンプンにあると言うことができ、このオオムギ植物はSSII活性のレベルが低下しており、前記デンプン顆粒は、アミロペクチン含有量が低下しているために高アミロース含有量を示す。
【0019】
本発明のもう一つの態様は、オオムギ植物から得られる食品に有用な穀粒にあると概ね言うことができ、このオオムギ植物はSSII活性のレベルが低下しており、前記デンプン顆粒は、アミロペクチン含有量が低下しているために高アミロース含有量を示す。
【0020】
さらに、他の態様において、本発明は、SSII活性が低下したオオムギ植物にあると概ね言うことができ、前記オオムギ植物は穀粒を有することが可能であり、前記穀粒のデンプンは、アミロペクチン含有量が低下しているために高アミロース含有量を示し、前記穀粒は食品に適切である。
【0021】
あるいは、本発明は、オオムギSSIIタンパク質をコードする単離された核酸分子、ストリンジェントな条件下で配列表の配列番号1に示されたものとハイブリダイズすることが可能な前記核酸、または前記核酸分子を担持する複製可能な組換えベクターを担持する細胞にあるといえる。さらなる態様において、本発明は、配列表の配列番号1に示されたものに特異的にハイブリダイズすることが可能な単離された核酸分子であってもよい。
【0022】
よりよい理解のために、多くの実施例を参考にして本発明を説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】90%DMSO中のデンプンのHPLC分離によって決定されるデンプンの分子サイズの分析を示す。(a)ヒマラヤ(Himalaya)、(b)AC38、(c)342、(d)292。
【図2】変異体および親系統の穀粒形態を示す写真を示す。(a)ヒマラヤ(Himalaya)、(b)AC38、(c)292、(d)ワキシロ(Waxiro)、(e)342、(f)タンタンガラ(Tantangara)、(g)MK6827、(h)スループ(Sloop)。穀粒の長さ(L)、幅(W)および厚さ(T)の寸法をパネル(a)に示す。
【図3】FACEを使用した様々な変異および野生型デンプンの鎖長分布の分析を示す。(a)正規化された鎖長分布、(b)差分プロットによる鎖長分布の比較。サンプルは、342(■)、292(●)、タンタンガラ(Tantangara)(s)、AC38(°)、MK6827(◆)およびヒマラヤ(Himalaya)(+)であった。
【図4】オオムギデンプンサンプルのRVA分析。サンプルは、ヒマラヤ(Himalaya)(°)、ナモイ(Namoi)(△)、AC38(○)、342(▽)、292(▲)およびMK6827(■)であった。プロフィール中に使用した温度プロフィールを実線で示す。
【図5】変異および野生型系統のX線回折データを示す。
【図6】単離されたオオムギデンプンの走査電子顕微鏡写真を示す。(a)ヒマラヤ(Himalaya)、(b)ワキシロ(Waxiro)、(c)AC38、(d)292、(e)342、(f)MK6827。
【図7】nud1およびsex6座の近傍を示すオオムギ染色体7Hの遺伝子座を示す。GrainGenes(http://wheat.pw.usda.gov/)Barley morphological genes,7H map,著者;Franckowiak JDに従った図。
【図8】292×タンタンガラ(Tantangara)半数体倍加系統の種子の寸法とデンプン鎖長分布との間の関係を示す。(+)で示した系統はヒマラヤ(Himalaya)のPCRパターンを生じ、(○)で示した系統は292のPCR結果を生じた。パネル(A)、6〜11のDPを有するデンプン鎖の百分率に対してプロットした種子の長さ対厚さの比;パネル(B)、6〜11のDPを有するデンプン鎖の百分率に対してプロットした種子重量。
【図9】ヒマラヤ(Himalaya)品種由来のオオムギSSIIcDNA(配列表の配列番号1)の配列を示す。
【図10】(1)T.タウシイ(T.tauschii)(二倍体コムギ)、(2)オオムギモレックス(Morex)品種由来のSSII遺伝子の構造を示す。太い線はエキソンを表し、細い線はイントロンを表す。それぞれの例の直ぐ下の直線は、遺伝子配列の領域を示す。点線は、配列は決定されていないが、PCR分析によって長さ鎖が約3kbであると決定されているイントロン7由来のオオムギSSII遺伝子の領域を表す。
【図11−1】MK6827(配列表の配列番号2)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号3)および292(配列表の配列番号4)、ならびにヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号1)のcDNA配列由来の推定されたSSIIcDNAの比較を示す。推定された配列は、ヒマラヤ(Himalaya)SSIIcDNAに存在するゲノム配列の領域を同定することによって作製した。ATG開始コドンおよび野生型終止コドンを示し、それぞれMK6827(#)および292(&)に存在するさらなる終止コドンである。
【図11−2】MK6827(配列表の配列番号2)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号3)および292(配列表の配列番号4)、ならびにヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号1)のcDNA配列由来の推定されたSSIIcDNAの比較を示す。推定された配列は、ヒマラヤ(Himalaya)SSIIcDNAに存在するゲノム配列の領域を同定することによって作製した。ATG開始コドンおよび野生型終止コドンを示し、それぞれMK6827(#)および292(&)に存在するさらなる終止コドンである。
【図11−3】MK6827(配列表の配列番号2)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号3)および292(配列表の配列番号4)、ならびにヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号1)のcDNA配列由来の推定されたSSIIcDNAの比較を示す。推定された配列は、ヒマラヤ(Himalaya)SSIIcDNAに存在するゲノム配列の領域を同定することによって作製した。ATG開始コドンおよび野生型終止コドンを示し、それぞれMK6827(#)および292(&)に存在するさらなる終止コドンである。
【図11−4】MK6827(配列表の配列番号2)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号3)および292(配列表の配列番号4)、ならびにヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号1)のcDNA配列由来の推定されたSSIIcDNAの比較を示す。推定された配列は、ヒマラヤ(Himalaya)SSIIcDNAに存在するゲノム配列の領域を同定することによって作製した。ATG開始コドンおよび野生型終止コドンを示し、それぞれMK6827(#)および292(&)に存在するさらなる終止コドンである。
【図11−5】MK6827(配列表の配列番号2)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号3)および292(配列表の配列番号4)、ならびにヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号1)のcDNA配列由来の推定されたSSIIcDNAの比較を示す。推定された配列は、ヒマラヤ(Himalaya)SSIIcDNAに存在するゲノム配列の領域を同定することによって作製した。ATG開始コドンおよび野生型終止コドンを示し、それぞれMK6827(#)および292(&)に存在するさらなる終止コドンである。
【図11−6】MK6827(配列表の配列番号2)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号3)および292(配列表の配列番号4)、ならびにヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号1)のcDNA配列由来の推定されたSSIIcDNAの比較を示す。推定された配列は、ヒマラヤ(Himalaya)SSIIcDNAに存在するゲノム配列の領域を同定することによって作製した。ATG開始コドンおよび野生型終止コドンを示し、それぞれMK6827(#)および292(&)に存在するさらなる終止コドンである。
【図12−1】オオムギ系統292(配列表の配列番号7)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号5)、MK6827(配列表の配列番号8)、ヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号8)由来のSSIIをコードする遺伝子から推定されるアミノ酸配列の比較を示す。292およびMK6827におけるさらなる終止コドンを、それぞれ記号(&)および(#)で示す。
【図12−2】オオムギ系統292(配列表の配列番号7)、モレックス(Morex)(配列表の配列番号5)、MK6827(配列表の配列番号8)、ヒマラヤ(Himalaya)(配列表の配列番号8)由来のSSIIをコードする遺伝子から推定されるアミノ酸配列の比較を示す。292およびMK6827におけるさらなる終止コドンを、それぞれ記号(&)および(#)で示す。
【図13】オオムギSSII遺伝子におけるMK6827(配列表の配列番号2)および292(配列表の配列番号4)の変異の位置を示す。
【図14】292変異に対するPCRアッセイの開発および使用を示す。(a)プライマーZLSS2P4およびZLBSSIIP5によって増幅されたヒマラヤ(Himalaya)由来のSSII領域の概略図、(b)ZLSS2P4およびZLBSSIIP5を使用して292由来のSSII遺伝子から増幅された領域(NlaIV部位の1つが欠けている)の図。(c)オオムギ由来のNlaIV消化産物のアガロースゲル電気泳動;レーンM;DNAマーカーラダー、レーン1:MK6827、レーン2:ヒマラヤ(Himalaya);レーン3、タンタンガラ(Tantangara);レーン4、292;レーン5、342。
【図15】デンプン顆粒タンパク質のSDS−PAGE電気泳動を示す。パネル(A)コムギ由来の精製された顆粒−結合SSIIタンパク質に対して産生されたSSII抗体によってエレクトロブロットおよびプロービングされた8%アクリルアミド(37.5:1アクリル/ビス)SDS−PAGEゲル。(B)銀染色された12.5%アクリルアミド(30:0.135アクリル/ビス)。規定された質量(単位はkdである)の分子量標準の泳動は、各数値の側に示している。
【図16】オオムギの安定な形質転換後のSSII発現をダウンレギュレートするように設計されたDNA構築物の概略図を示す。(1)ヌクレオチド1〜2972(配列のための図9を参照のこと)由来のSSII遺伝子はセンス方向でプロモーターとターミネーターとの間に挿入されている。(2)SSII遺伝子は、ヌクレオチド2972〜1(配列のための図9を参照のこと)由来のアンチセンス方向でプロモーターとターミネーターとの間に挿入されている。(3)モレックス(Morex)SSIIゲノム配列のオオムギSSII遺伝子(ヌクレオチド1559と2851との間)のイントロン3がヒマラヤ(Himalaya)由来のオオムギSSIIcDNA由来のエキソン2および3(図9のヌクレオチド363〜1157)の間に挿入されている二重構造。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
グリセミック指数は、血中グルコース濃度の変動に対する白パンおよびグルコースなどの試験食物の効果の比較である。グリセミック指数は、食後の血清グルコース濃度に関する食物の予想される効果および血中グルコースホメオスタシスのためのインシュリンに対する要求の指標となり得る。
【0025】
難消化性デンプン。
健康なヒトの小腸では吸収されずに大腸に進入するデンプンおよびデンプンの消化産物の合計。従って、難消化性デンプンは、消化され、小腸で吸収される産物を含まない。
【0026】
難消化性デンプンは4つのグループに分類することができる。
RS1
物理的に接近不能なデンプン。このデンプンの形態の例は、デンプンがタンパク質または同様なマトリックス内かもしくは植物細胞壁内に補足される場合に生じ、または穀粒の粉砕が部分的であるかもしくは冷却後の豆果中にあるために生じ得る。
RS2
難消化性顆粒。これらは、一般に、生ポテトまたは青いバナナから生じるデンプンなどの生のデンプン、いくつかの豆果および高アミロースデンプンである。
RS3
老化デンプン。これらは、デンプンまたはデンプン食物の熱/蒸気処理によって生じ、調理され冷えたポテト、パンおよびコーンフレークにおいて認められる。
RS4
化学修飾されたもの。これらは、置換または架橋などの化学修飾により生じる。この形態のデンプンは、しばしば加工食品において使用される。
【0027】
食物繊維は、本明細書では、健康なヒトの小腸では吸収されずに大腸に進入する炭水化物または炭水化物消化産物の合計である。これには、難消化性デンプン、β−グルカンおよび他の可溶性および難溶性炭水化物高分子が含まれる。大腸内において住み付いている微生物によって、少なくとも部分的に発酵可能である一部の炭水化物を含むことが意図される。
【0028】
ゼラチン化は、顆粒の膨潤、微結晶融解、複屈折の消失、粘度の上昇ならびにデンプンの可溶化などの特性の同時および非可逆的変化を伴うデンプン顆粒内での分子オーダーの崩壊(破壊)である。
【0029】
本発明は、SSII変異オオムギ植物の単離および特性化から生じ、その穀粒は、アミロペクチン含有量の低下とそれによる高い相対レベルのアミロースを示し、従って食物繊維のレベルが増大したデンプンを含有することを見出している。
【0030】
そのような変異体は、多くの極めて望ましい特性を有することが見出されており、他の様々な遺伝的背景への交雑は、これらの少なくともいくつかの特性を維持することが明らかにされている。
【0031】
変異体の穀粒および特定の遺伝的背景への交雑由来の穀粒は、さらに、βグルカンのレベルが増大している。本発明者らは、βグルカンレベルの増大と高食物繊維との組合わせは本発明の特色であると考えている。
【0032】
さらに、少なくともいくつかの遺伝的背景において、そのような変異体由来の穀粒は、高い相対レベルのアミロースを有し、かつ低ゼラチン化温度を示すことが見出されていることが明らかにされている。そのようなデンプンのゼラチン化の膨潤特性はまた、低膨潤性であるという利点を有し、そのことはある種の食物および食品加工用途において有益である。
【0033】
さらに、そのような変異体由来の穀粒は、高い相対レベルのアミロースを有するデンプンを含有することが見出され、このアミロースレベルは、デンプン含有量の50%より高い。このようなレベルは、オオムギ由来の改変されていないデンプンにおいて従来見出されていなかったものである。
【0034】
変異体および変異体由来の戻し交雑株(戻し交雑が試験されていることを限度として)のデンプンは、難消化性デンプンを示し、その構造の改変は、高い相対アミロース含有量、高β−グルカン含有量であることにより物理的に接近不能であること、顆粒形態の改変、および脂質会合デンプンの存在を含む群のうちの1つまたはそれ以上を含む特定の物理的特性によって示され、また、この構造の改変は、低結晶性、低アミロペクチン鎖長分布および検出可能な脂質会合デンプンの存在を含む群のうちの一つまたはそれ以上から選択される特性によって示される。
【0035】
さらに、これまでのところ、変異オオムギ植物由来の穀粒は、食品加工工程に容易に使用することができる。
【0036】
そのような変異体由来の穀粒の一形態は、好ましくは、高い相対レベルの食物繊維、より詳細にはアミロースおよび高いレベルのβグルカンを有するデンプンを含有する。本発明者らは、βグルカンレベルの増大と高アミロースレベルとの組合わせは、本発明の特色であると考えており、少なくとも本発明のより広範な形態において、βグルカンと可溶性食物繊維とを共に混合することかまたは構成成分の改変を必要としないβ−グルカンと難消化性デンプンとの組合わせによる独自の供給源を提供する。
【0037】
本発明者らが知る限りにおいて、本発明のオオムギ植物は、アミロースレベルが増大した難消化性デンプンの形態中で相対食物繊維レベルが増大したオオムギ穀粒であって、かつ、βグルカンの典型的なレベルの上限かまたはそのレベルを超える高いレベルに増大したβグルカンを有する上記穀粒が存在することをはじめて示すものである。さらに高いβグルカン含有量を有する穀粒は、モチ性表現型であり、従って、低レベルのアミロースを有する。
【0038】
オオムギにおけるβーグルカンレベルはオオムギ重量の約4重量%〜約8重量%の範囲で幅広く変化するが、より典型的には4%〜約8%であることが知られている(Izydorcykら、(2000)Journal of Agricultural and Food Chemistry 48,982−989;Zhengら、(2000)Cereal Chemistry 77,140−144;Elfversonら、(1999)Cereal Chemistry 76,434−438;Anderssonら、(1999)Journal of the Science of Foods and Agriculture 79,979−986;Oscarssonら、(1996)J Cereal Science 24,161−170;Fastnaughtら、(1996)Crop Science 36,941−946)。改良されたオオムギ株が開発されており、例えば、プロワショヌパナ(Prowashonupana)は、約15重量%〜18重量%のβ−グルカンを有するが、モチ性表現型を有する。これは、SustagrainTMの名称で市販されている(ConAgraTM Specially Grain Products Company,Omaha,Neb. USA)。
【0039】
本発明が意図するβグルカンのレベルは、アミロペクチン合成酵素活性が減少する遺伝的背景に依存するだろう。しかし、アミロペクチン合成活性の減少は、部分的にアミロースの形態を取る食物繊維の相対レベルを上昇させ、同時にβグルカンのレベルを上昇させる効果を有することが提唱されている。相対アミロースレベルとβグルカンとが同時に上昇することに対する1つの説明は、そのような上昇が内乳を減少させる濃度効果の結果であり、デンプン合成からβグルカン合成への炭素の転換によってさらに強められるであろうことである。
【0040】
従って、オオムギの穀粒は、好ましくは、外皮を有さない穀粒(non-hulled grain)の全重量の6%を超えるか、またはより好ましくは7%を超え、最も好ましくは8%を超えるβグルカン含有量を示す。モチ性変異体のβグルカンのレベルは、15〜18%という高い値が測定されるが、本発明はそれと同じかまたはそれより高いレベルを意図することができる。
【0041】
第2の好適な形態では、オオムギ植物の穀粒は、相対的に高いアミロース含有量に加えて、ゼラチン化温度(示差走査熱量測定によって測定される)の低下を示す。例示したオオムギについて示されたデータにおいて、このゼラチン化温度の低下は、若干高いアミロース含有量を有するオオムギから産生されるデンプンと比較した場合だけではなく、通常のレベルのアミロースを有するデンプンを有するオオムギ由来のデンプンと比較した場合よりも低い。従って、本発明は、対応する高アミロースデンプンに比較してのゼラチン化温度の低下を意図する一方、通常のアミロースレベルを有するデンプンのゼラチン化温度に比較しても低いゼラチン化温度を意図することもできる。
【0042】
さらに、これまで確認された遺伝的背景において、このデンプンはまた、加熱した過剰の水中において、試験した他のデンプンの膨潤よりも低い膨潤を示すことを特徴とする。
【0043】
第3の好適な形態では、デンプンは、アミロースレベルがデンプン含有量の50%より高い。このようなレベルは、オオムギ由来の改変されていないデンプンにおいて従来見出されていなかったものである。
【0044】
本発明のオオムギ植物のデンプンは、高い相対アミロース含有量を有し、SSII遺伝子または他のデンプンシンターゼ遺伝子に変異があることが大いに予想され得る。従って、コムギでは、SSIIの変異体は相対アミロースレベルがデンプンの約35%となる。デンプン中のアミロース含有量が、通常のオオムギ穀粒に存在している25%程度よりも有意に高く、従って全デンプンの約30%(w/w)を超える場合、デンプンのアミロース含有量は増大しているとみなすことができる。高アミロースであるとみなされる既知のオオムギ植物は、35〜45%の含有量を示す。しかし、本発明は、オオムギ由来の改変されていないデンプンにおいて従来見出されていないレベルである、50%より高いアミロース含有量を示すオオムギを提供する。
【0045】
相対アミロース含有量は60%を超え、より好ましくは70%を超えてもよい。この含有量はより高いレベルであることが望ましく、従って、単一の変異で育種することによって、他の植物においてより高いレベル、例えば90%に達するようなレベルを達成することが可能である。従って、本発明は、80%または90%を超えるアミロースレベルを包含するであろう。
【0046】
第4の好適な形態では、デンプンはまた、難消化性デンプンを増加させる改変された構造を有する。このことは、高いアミロース含有量から生じるのであろう。難消化性デンプンはまた、おそらくβ−グルカンが高いレベルで存在し、βグルカンとデンプン顆粒との会合によって保護効果を発揮するために生じるであろう。会合が緊密であることは、デンプンの保護効果を潜在的に提供し、それゆえ、消化が若干困難であるRS1型として特性化される難消化性を提供する。同様に、V−複合結晶(V-complex crystallinity)によって検出されるデンプン−脂質会合の存在も、おそらく難消化性デンプンのレベルに寄与する。この場合、難消化性は、おそらく脂質の存在によりデンプンが物理的に接近不能になるために生じ、従って、これは、RS1デンプンと認識することができる。V−複合形状を取る老化デンプンは消化に対して高度に抵抗性であることが既知であり、従って、V−複合結晶性構造の一部を形成するアミロペクチンも消化に対して抵抗性であることが予想される。例示したオオムギ植物のデンプンは、デンプン顆粒の構造のために消化に対して抵抗性であり、従って、RS2デンプンであるだろう。これらの特徴のそれぞれは、個別かまたはこれらの特徴の2つ以上の組合わせとして存在してもよい。
【0047】
増加した食物繊維は、少なくとも部分的に、上記したようなデンプン顆粒の高アミロース含有量によって特性化される難消化性デンプンの形態を取るだろう。
【0048】
相対アミロース含有量は60%を超え、より好ましくは70%を超えてもよい。この含有量はより高いレベルであることが望ましく、従って、単一の変異で育種することによって、他の植物においてより高いレベル、例えば90%に達するようなレベルを達成することが可能である。従って、本発明は、80%または90%を超えるアミロースレベルを包含するであろう。
【0049】
オオムギ植物は、1つ以上のアミロース合成酵素または他の酵素の改変されたレベルの活性がさらに発現されることにより、アミロースの相対レベルがさらに増強されることが望まれるだろう。従って、オオムギ植物は、アミロペクチンの生合成をさらに減少もしくは改変するもう1つの変異か、またはアミロース生合成を増加する変異もしくは遺伝的背景を担持してもよい。例えば、オオムギ植物は、amo1変異を担持するオオムギ植物などの高アミロース(amylose extender)遺伝子型を示してもよい。そのような植物の例には、AC38(ハイアミロースグレーシャー(High Amylose Glacier)としても公知である)として知られている亜種がある。
【0050】
上記のアミロースの相対レベルは全デンプン含有量に対するものであり、従って、残りのデンプンは主に中間型のデンプンであってもよく、または主にアミロペクチンもしくは両方の混合物であってもよいことが理解されるであろう。分析したオオムギにおいて、アミロースのレベルの増大は、アミロペクチンレベルの低下から生じ、従って、アミロースの相対レベルは、アミロース合成の増大に由来するものではない。
【0051】
βグルカンは、単に他の食物成分と共に存在する場合、小腸における消化を遅延させる効果を有することは公知である。同様に、デンプン顆粒に接近して並列する難消化性分子はデンプンを遮蔽し、デンプンを物理的に接近不能にすることによってその難消化性に寄与することが公知である。アミロースおよび脂質との会合から生じる他の形態のデンプンのレベルの増大は、それゆえ、その存在およびデンプン顆粒との物理的並列によってさらに増強されるだろう。従って、難消化性デンプンの効果が有意に増強され、同様に高βグルカンレベルによる他の有益な効果が生じる。
【0052】
さらに、難消化性デンプンおよびβグルカンの有益な効果という点で用量反応(dose response)が存在することが公知である。従って、難消化性デンプンのレベルの増大と合わせてβグルカンのレベルが増大することにより、健康上の有益性を増大することが提示される。
【0053】
本発明の少なくとも好ましい形態のβグルカンおよび難消化性デンプンのレベルの組合わせは、何らかの改変および精製を伴わない1つの供給源からは、以前には全く見出されていない。したがって、本発明の形態は、これらの有益性の唯一の実用的な供給源を提供する。
【0054】
このデンプンのもう1つの好ましい態様は、高い相対アミロース含有量にもかかわらず、示差走査熱量測定で測定される低ゼラチン化温度を示すことである。このことは、高アミロースデンプンが、高アミロースデンプンを利用することができる方法に制限を加えるゼラチン化温度の上昇を引き起こす傾向があるという一般的知見とは対照的である。例示したオオムギについて示されたデータにおいて、このゼラチン化温度の低下は、若干高いアミロース含有量を有する系統から産生されるデンプンと比較した場合だけではなく、通常のレベルのアミロースを有するデンプンを有するオオムギ由来のデンプンと比較した場合よりも低い。従って、本発明の好適な態様は、対応する高アミロースデンプンに比較して低ゼラチン化温度を意図する一方、通常のアミロースレベルを有するデンプンのゼラチン化温度に比較しても低いゼラチン化温度を意図することができる。高アミロースデンプンでは、加工のためにより高い温度が必要とされ、従って、高価であり、かつ他の食物成分の機能性を破壊する可能性のあるより高いエネルギーの入力を本質的に必要とする。同様に、最終消費者の見地から、高アミロースデンプン食品は、調理のためにより高温または長い時間が要求されるため、不便であるだろう。従って、例えば、本発明のこの好適な形態では、カップなどの容器に沸騰水または熱湯を加えることが必要であり、長期間加熱する必要はない麺製品などの製品を提供し、同時に大腸に難消化性デンプンおよび栄養価値のある他の成分を送達することが今や可能である。
【0055】
これらのデンプンの低ゼラチン化温度の主な効果は、より低い温度要求性であり、従って、食物のより低い粉砕エネルギー要求性である。必然の結果として、室温で混合を行い、次いでこの混合物を加熱するというある種の食品加工工程に典型的なケースにおいても、より低いゼラチン化温度によりゼラチン化を達成するのに必要な時間も減少するだろう。さらに、通常のデンプンの完全ゼラチン化の温度よりも低い温度範囲で、本発明のデンプンは通常のデンプンよりも完全にゼラチン化するだろう。
【0056】
ゼラチン化能の1つの測定は、DSC(示差走査熱量測定)により測定される熱特性に反映される。DSCの第1のピーク(ゼラチン化ピーク)の開始(onset)は、53℃未満、より好ましくは50℃未満および最も好ましくは約47℃未満であってもよい。第1のピークの開始は、ゼラチン化の開始と認識することができる。オオムギ穀粒から産生されるデンプンは、約60℃未満、より好ましくは55℃未満および最も好ましくは52℃未満で第1のピークを有してもよい。第1のピークのΔH(エンタルピー)は、約3.5未満、より好ましくは約1.0未満および最も好ましくは約0.5未満であってもよい。
【0057】
本発明のデンプンを含有する粉のゼラチン化に関するもう1つの知見は、それらが低膨潤性を示すことである。膨潤体積は、一般的に、デンプンまたは粉のいずれかと過剰の水とを混合し、高温、一般的に90℃を超えるまで加熱することによって測定する。次いで、サンプルを遠心分離によって回収し、膨潤体積は、沈降した物質の質量をサンプルの乾燥重量で割った値で表す。モチ性および通常のオオムギのデンプン由来の粉の膨潤体積は、約5.5を超えることが見出されている。高アミロース穀粒である穀粒(AC38)から作製される粉の膨潤体積は約3.75である。試験した変異体および交雑種の穀粒は3.2未満、好ましくは3.0未満であるが、一般に約2を超える。
【0058】
この低い膨潤ゼラチン化特性は、食品の調理物、特に水和した食品の調理物のデンプン含有量を増加することが所望される場合に有用である。現段階においては、食品調理物の送達に制限があるゾルまたは他の液体調製物の食物繊維含有量を増加させることが望まれるかもしれない。
【0059】
この特性は、本発明のデンプンによって示されるゼラチン化温度の低下と組み合わせて、インスタントスープおよびインスタント麺などの迅速な調理が要求される食物の栄養学的な利益を顕著に増大することが期待される。
【0060】
ゼラチン化温度の効果は、穀粒の内乳におけるアミロペクチン構造の改変の結果であることを前提としており、この構造の1つの測定法は、イソアミラーゼによる脱分枝後のデンプン分子の鎖長(重合度)分布である。例示したSSII変異体のデンプンのアミロペクチン含有物の鎖長の分析により、脱分枝された場合、それらは、脱分枝された非変異系統から得られるデンプンの分布より短い5〜60の範囲の鎖長分布を有することが示された。より短い鎖長を有するデンプンはまた、脱分枝の頻度もそれだけ増加する。従って、このデンプンはまた、より短いアミロペクチン鎖長の分布をも有してもよい。6〜11残基の範囲にある重合度を有するデンプン鎖の割合は、25%を超え、より好ましくは30%を超え、最も好ましくは35%を超えてもよい。12〜30残基の範囲にある重合度を有するデンプン鎖の割合は、65%未満、より好ましくは60%未満、最も好ましくは55%未満でもよい。31〜60残基の範囲にある重合度を有するデンプン鎖の割合は、約10%未満、より好ましくは約8%未満かつ好ましくは約5%を超え、より好ましくは約6%を超えてもよい。個々のものとしてみるよりは、3つの鎖長範囲の割合の組み合わせをもって、デンプンが本発明に一致するタイプのデンプンであることの指標と見ることができる。
【0061】
鎖長分布の減少は、より低いゼラチン化温度を導くだろう。鎖長の低下はまた、特に口あたりにおけるデンプンの官能特性(organoleptic properties)を向上すると思われ、従って、おそらく滑らかな製品に寄与している。さらに、アミロペクチン鎖長の低下がアミロペクチン分解の程度を減少することを前提としており、これは、食物の品質に影響し、例えば、パンの劣化に重要であると思われる。
【0062】
例示したデンプンのデンプン構造は、さらに、オオムギから単離された通常のデンプンと比較して結晶化度が低下しているという点で異なることが明らかにされている。アミロペクチン鎖長分布の低下と組み合わせた場合、顆粒の結晶性の低下はゼラチン温度が低くなるであろうことを示し得る。デンプンの結晶性の低下はまた、官能特性(organoleptic properties)の向上に関連すると思われ、例えば、よりアミロペクチン鎖長が短いほどより滑らかな口あたりに寄与する。従って、デンプンはさらに、1つ以上のアミロペクチン合成酵素の活性レベルの低下から生じる低結晶性を示すだろう。結晶性を示すデンプンの割合は、約20%未満、好ましくは約15%未満であってもよい。
【0063】
本発明の特性のさらなる測定は、粘度の測定である。ラピッドビスコアナライザー(Rapid Visco Analyser)を使用して、本発明のデンプンの最高粘度は、通常およびモチ性デンプンならびにオオムギから得られる高アミロースデンプンの最高粘度とは有意に異なることが見出された。これらの測定は全麦に対して行われたが、デンプンの特性は、これらの測定を支配するだろう。通常の、およびモチ性のデンプンは約900〜約500RVA単位(RVA units)の最高粘度を有し、既知の高アミロースデンプンは200を超える最高粘度を有する一方、本発明のオオムギ植物は100未満の最高粘度を有し、大部分は約50未満であり、いくつかの植物においては10RVA単位と低かった。当業者であれば、実験単位として引用したパラメータおよび引用した結果は、RVA装置またはアミログラフなどの類似の装置におけるこれらのデンプンの相対的性能を示すためのものであると理解するだろう。
【0064】
上記の結晶性の低下に加えて、本発明のデンプンは、デンプンのV−複合型の存在を特徴とすることができる。本発明者らは、デンプンのこの形態が、穀粒のデンプン顆粒において検出可能な量で示されるのは初めてであると考えている。デンプンのこの形態は、通常、老化デンプンと関連し、特にそこでは、脂質との接触が存在する。本発明の場合、デンプンの構造は、植物脂質とデンプンとの間の緊密な関係の形成を可能にするものであり、その結果としてV−複合構造が生じる。デンプンのこの形態は、消化性を低下させ、従って、難消化性デンプンに寄与し得るため、健康上の利益を有するであろうと考えられる。
【0065】
構造の他の形態もまた、脂質−デンプン相互作用から生じ、非結晶性の脂質−デンプン複合体を含むことができる。従って、本発明は、1つ以上のアミロペクチン合成酵素の活性のレベルの低下から生じる穀粒の内乳のデンプン含有物において検出可能な量のデンプン−脂質複合体を示すオオムギ植物にあるということもできる。デンプン−脂質複合体を含むデンプンは、それはV−複合構造を示すデンプンを含むが、通常消化に対して抵抗性であり、従って、食物繊維レベルに寄与する。おそらく、デンプン−脂質複合体に特徴的な結晶性形状を示す結晶性デンプンの割合は、約50%を超え、より好ましくは約80%を超える。
【0066】
このデンプンではまた、V−複合型のデンプンの存在に加えて、検出可能な量のA複合型のデンプンを示さない。A−複合が不在であることは、本発明のデンプンの存在の指標とみなすことができる。
【0067】
さらに、本発明の穀粒由来のデンプンおよび本発明の穀粒から作製される製品の糊化温度はかなり上昇することが見出されている。既知のデンプンの糊化温度は70℃未満であり、これは、通常および高アミロースデンプンの両方についていえる。しかし、本発明のデンプンは、好ましくは、約75℃を超えるかまたはより好ましくは約80℃を超える糊化温度を示す。これは実験的な測定値であり、他のデンプンについてのそれらの測定値に対する比較として解釈できることに留意されたい。
【0068】
例示したオオムギ植物のデンプンは、有意な量の食物繊維および難消化性デンプンを有することが見出されており、おそらくこの増加は、少なくとも部分的には高い相対レベルのアミロースによるものであるが、しかし、V−複合を含むデンプン/脂質複合による食物繊維も寄与しているだろうし、あるいは、アミロースもしくはアミロペクチンとβグルカンとの緊密な会合によるものであろう。同様に、単にβグルカンのレベルの増大は食物繊維の有意な増大に寄与しているであろう。
【0069】
例示したオオムギ植物の内乳における高い相対アミロースレベルは、おそらく、SSII酵素の活性のレベルの減少の結果として改変されたアミロペクチン産生から生じる。
【0070】
この酵素をコードする遺伝子の変異は、アミロース含有量の増大および/またはアミロペクチンのレベルの減少を示すと予想される。ただアミロペクチン合成のみが減少し、デンプンはアミロースの相対レベルの増大を示す。
【0071】
アミロペクチン合成酵素の活性の低下は、それぞれの遺伝子またはこの遺伝子の調節塩基配列内の適切な変異によって達成されるだろう。遺伝子が阻害される程度は、作製されるデンプンの特性をある程度決定する。SSII変異である例示した本発明の変異は短縮型変異であり、これらは、デンプンの性質に重要な影響を及ぼすことが公知であるが、しかし、改変されたアミロペクチン構造はまた、オオムギのデンプンまたは穀粒における目的の特性を提供するためにアミロペクチン合成酵素を有意に減少する漏出変異体から生じる。他の染色体再配列も有効であり得、これらには、欠失、逆位、重複または点変異が含まれてもよい。
【0072】
そのような変異は、目的の変種を変異誘導することによって、より確実には変異体と所望の遺伝的背景の植物とを交雑し、適切な数の戻し交雑を実施して、本来所望しない親背景を削除することによって、所望の遺伝的背景に導入することができる。変異の単離は、変異誘導した植物をスクリーニングすることによって達成されるだろう。
【0073】
分子生物学的アプローチは、従来の方法に対する代替的方法とみなすことができる。SSIIの配列は、本明細書に示されている。所望の変異および選択マーカーを担持するベクターは、組織培養植物か、またはプロトプラストなどの適切な植物系に導入することができるだろう。変異が染色体に組込まれ、現存の野生型対立遺伝子が置き換えられている植物は、例えば、変異および表現型の観察に適切な核酸プローブを使用することによって、スクリーニングすることができる。オオムギなどの単子葉植物の形質転換およびプロトプラストまたは未成熟植物胚からの植物の再生方法については、当該分野において周知であり、例えば、Nehraによるカナダ特許出願第2092588号、National Research Council of Canadaによるオーストラリア特許出願第61781/94号、Japan Tobacco Inc.によるオーストラリア特許第667939号、Monsanto Companyによる国際特許出願PCT/US97/10621、米国特許第5589617号に見ることができる。また、他の方法が特許明細書WO99/14314に記されている。
【0074】
変異を使用する以外に、アミロペクチン合成酵素の活性を改変するための他の公知のアプローチを適応してもよい。従って、これは、例えば、アミロペクチン合成酵素をコードする遺伝子(単数または複数)の転写またはプロセシングを阻害する適切なアンチセンス分子の発現によって可能である。これらは、オオムギSSII遺伝子について本明細書において解明されたDNA配列を基礎とすることができる。これらのアンチセンス配列は、構造遺伝子かまたは遺伝子発現もしくはスプライシング事象の制御に影響を及ぼす配列に対するものであってもよい。これらの配列については上記で言及している。アンチセンス配列を考案する方法は当該分野において周知であり、これらの例は、例えば、米国特許第5190131号、欧州特許明細書第0467349 AI号、欧州特許第0223399 AI号および欧州特許第0240208号において見出すことができ、上記文献は、アンチセンス技術を行うための方法を提供する目的で本明細書において参考として援用される。そのような配列を植物において導入しおよび維持するための方法についても公開されており、公知である。
【0075】
アンチセンス技術のバリエーションはリボザイムを利用することである。リボザイムは、アンチセンスによって規定される特異的部位で他のRNA分子を切断することができる酵素的機能を有するRNA分子である。RNAの切断は、標的遺伝子の発現を阻止する。参考として欧州特許明細書第0321201号および明細書WO 97/45545が挙げられる。
【0076】
使用することができるもう1つの分子生物学的アプローチは、コサプレッション(cosuppression)のアプローチである。コサプレッションの機構についてはあまり理解されていないが、この機構は、植物に通常の方向で過剰コピーの遺伝子を配置することと関係する。例えば、付加された遺伝子のコピーは、標的植物の遺伝子の発現を阻害する。コサプレッションのアプローチを実行するための方法の参考として特許明細書WO 97/20936および欧州特許明細書第0465572号が挙げられる。
【0077】
DNA配列を使用して用いることができるさらなる方法は、二重または二本鎖RNA仲介遺伝子抑圧(duplex or double stranded RNA mediated gene suppression)である。この方法では、二本鎖RNA産物の合成を指令するDNAを使用する。二本鎖分子の存在は、二本鎖RNA、さらには標的植物遺伝子由来のRNAの両方を破壊する植物の防御システムからの応答を誘発し、標的遺伝子の活性を効率的に減少または排除する。この技術を実行するための方法の参考として豪州特許明細書99/292514−Aおよび特許明細書WO 99/53050が挙げられる。
【0078】
本発明は、分子生物学的アプローチを使用して、2つ以上の上記遺伝子の活性のレベルを減少させることにより生まれることが理解されよう。
【0079】
特に高アミロースおよび高βグルカン含有量の結果として予想され得る1つの重要な生成物は、低いグリセミック指数を有する低カロリー生成物である。低カロリー生成物は、粉砕された穀物から生成される粉を含有することに基づく。しかし、まず穀粒を精白して、おそらく穀粒の10重量%または20重量%を取り除き、それによってアリューロン層を取り除き、さらに除去することによって胚をも取り除くことが望まれ得る。精白工程の効果は、脂質含有量を減少し、それにより食物のカロリー値を減少することである。そのような食物は、腸の健康を充足し、増強し、食後の血清グルコースおよび脂質濃度を減少し、ならびに低カロリー食品を提供する効果を有するだろう。精白生産物を使用すれば、アリューロン層および胚から提供される栄養学上の利益が減少する。精白生産物から生成される粉は、おそらく、そのように作製される生産物がより白化する傾向があるため、外観が良くなるだろう。
【0080】
本発明の態様は、アリューロン層と胚との組合わせにさらに高レベルの食物繊維が組合わせられたものからも生じる。具体的には、これは、例示した穀粒にアリューロン層または胚が若干高い相対レベルで存在していることから生じる。第1に、オオムギは、他の市販の穀粒よりも有意に高いアリューロン層を有し、これは3つの細胞アリューロン層を有する結果である。第2に、例示したオオムギも皺形(shrunken)であり、このことは内乳が低い量で存在することを意味し、その必然的な結果として、アリューロン層および胚が高い相対量で存在する。従って、オオムギは、難消化性デンプン送達系における組合わせにおいて比較的高いレベルの特定の有益な要素またはビタミンを有し、この要素は、生体利用可能なCa++などの2価のカチオンならびに葉酸などのビタミンまたはトコフェロールおよびトコトリエノールなどの抗酸化剤を含む。従って、カルシウムは、骨および他の石灰化組織の成長および沈着のための材料の提供ならびに生涯の後半における骨粗鬆症の危険性を低下させることが認められている。葉酸は妊娠前から妊娠早期まで(periconceptually)に摂取していると神経管欠損症を予防すること、循環器系疾患の危険性を減少することが見出されており、それゆえに、難消化性デンプンおよびβ−グルカンの組合わせの効果を増強する。葉酸はまた、特定の癌の危険性を低下する効果を有すると考えられている。トコフェロールおよびトコトリエノールは、抗酸化剤としての利点を持ち、癌および心臓疾患の危険性を低下させると考えられており、かつ酸敗を生じる脂肪酸などの食物の成分の酸化の望ましくない効果を減少する効果も有する。この場合、オオムギ穀粒またはそれから作製される製品のこの好適なこれらの成分は、1つの穀粒による簡便なパッキングを構成する。粉砕生成物の1つの具体的な形態は、粉砕生成物中にアリューロン層が含まれるものである。ある種の粉砕過程は、粉砕生成物中のアリューロン層の量を増強すると評価されるだろう。そのような方法はFenechら、((1999)J Nutr 129:1114−1119)において言及されている。従って、アリューロン層および胚を含むように粉砕または他の加工を施された穀粒に由来するいずれの製品も、個別の供給源からこれらの要素を添加する必要性を伴うことなく、さらなる栄養学上の利点を有するだろう。
【0081】
本発明のオオムギ植物は、好ましくは食物生産、特に商業用食物生産に有用な穀粒を有するオオムギ植物であることが理解されよう。そのような生産は、商業用食物生産の材料であり得る粉または他の生産物の作製を含み得る。有用なデンプン含有量の下限値は、約12%を超えるかまたは約15%を超えるだろう。あるいは、同様に、そのような生産は、穀粒を粉砕する可能性を含み得る。従って、精白されたオオムギは、ほとんどの穀粒から生成され得るが、ある種の形状の穀粒は粉砕に対して特に抵抗性である。商業的に使用可能な穀粒を産生する変種に影響を及ぼし得るもう1つの特性は、生成される生成物の脱色である。従って、穀粒の包皮または他の部分が顕著な彩色(例えば、紫色)を示す場合、この彩色が製品上に表れ、商業的用途を、例えば、色彩を有する全粒穀物または粗挽きされた穀粒を含有するパンの成分にするなどの特定の用途に限定する。また、オオムギ穀粒上の包皮の存在は、穀粒の加工をより困難にするため、オオムギ植物は裸性である方が、一般的により簡便である。より価値のあるオオムギ植物を作製し得るもう1つの態様は、穀粒由来のデンプン抽出物に基づくものであり、抽出比率が高いほど有用である。穀粒の形状も植物の商業的有用性に影響を及ぼし得るもう1つの特性であり、従って、穀粒の形状は、穀粒粉砕の容易さその他に影響を及ぼし、従って、例えば、MK6827植物のオオムギ穀粒は、通常、粉砕および加工が困難である極めて狭長な穀粒形態を有する。この狭長な形状および使用可能性の簡便な指標は、2つの形態的特性である穀粒の長さと穀粒の厚さの比率(L/T比)である。この比率は、しばしば、デンプンの性質によって決定される。本発明者らは、MK6827が6を超えるL/T比を有することを見出した。このようにしてスクリーニングされた変異SSII遺伝子を担持するオオムギ植物は、約4〜約5の範囲のL/T比を有するが、この比はより大きな範囲に拡大し、そしてなお有用(おそらく約5.8未満または少なくとも5.5では)であることが予想される。
【0082】
望ましい遺伝的背景には、商業的収量に関する配慮および他の特性が含まれるだろう。そのような特性は、オオムギが冬または春型であること、芳香性、耐病性および非生物的ストレス耐性(abiotic stress resistance)を望むかどうかという問題を含む。豪州では、スループ(Sloop)、スクーナー(Schooner)、チェベック(Chebec)、フランクリン(Franklin)、アラピレス(Arapiles)、タンタンガラ(Tantangara)、ガレオン(Galleon)、ガードナー(Gairdner)またはピコラ(Picola)などのオオムギ品種への交雑を所望することができる。上記の例は、豪州生産地域に固有のものであるが、他の変種も他の栽培地域に適切であろう。
【0083】
より高い収量の達成という観点からは、より充填された穀粒(a fuller grain)が望ましく、本発明のある種の有益性、例えば、高レベルのアミロースまたは改変された鎖長分布を有する代替的なデンプンの生産を達成することができる。しかし、本発明の他の態様は、あまり充填されていない穀粒によってより良好に達成することができる。従って、アリューロン層または胚のデンプンに対する割合は、あまり充填されていない穀粒においてより高く、それによってアリューロン層の有益な構成分がより高いオオムギ粉または他の生産物が提供される。従って、高アリューロン層生成物は、葉酸などの特定のビタミンがより高く、またはカルシウムなどのある種のミネラルがより高く、より高い難消化性デンプンレベルおよび/またはより高いβグルカンレベルと組み合わされたこの生産物は、大腸におけるミネラルの吸収を増大させるなどの相乗効果を提供することができる。
【0084】
アミロースの量を最大にするために、オオムギ植物が、1つ以上のアミロペクチン合成酵素の活性の低下に加えて、他の表現型特性をも有することが望ましい。従って、遺伝的背景は、例えば、AC38のamo1変異(原因遺伝子は不明)およびモチ変異(例えば、ワキシロ(Waxiro)変種において見出される)に対する高アミロース表現型をさらに含んでもよい。さらに、原因遺伝子が不明な皺形(shrunken)内乳を有する利用可能な他のオオムギ変異体において二重変異を作製することが望ましい。
【0085】
さらなる態様において、本発明は、本明細書において言及したオオムギ植物から産生される穀粒にあるということができる。
【0086】
本発明は、粉砕された穀粒、挽かれた穀粒、粗挽きされた穀粒、精白されたかまたは圧延された穀粒を含む加工された穀粒または粉を含む上記のオオムギ植物の加工された穀粒もしくは全穀粒から得られる生成物を包含するだろう。これらの生成物は、様々な食品、例えば、パン、ケーキ、ビスケットなどの穀粉製品、もしくは増粘剤などの食品添加物において、または麦芽または他のオオムギ飲料、麺類および即席スープを作製するために、使用することができる。
【0087】
あるいは、本発明は、上記のオオムギ植物の穀粒から単離されるデンプンを包含する。デンプンは、既知の技術によって単離することができる。
【0088】
本発明の1つの有益性は、本発明がある種の栄養学上の利点を有する1つ以上の生成物を提供すること、さらに、オオムギ穀粒のデンプンまたは他の成分を改変する必要なくそれを行うことであることが理解されよう。
【0089】
しかし、穀粒のデンプン、βグルカンまたは他の成分に対する改変を所望してもよく、本発明はそのような改変された成分を包含してもよい。
【0090】
改変方法は公知であり、従来の方法によるデンプンまたはβグルカンまたは他の成分の抽出およびデンプンの所望の難消化性型への改変を含む。
【0091】
従って、デンプンまたはβグルカンを、加熱および/または蒸気、物理的(例えば、ボール粉砕)、酵素的(例えば、αまたはβアミラーゼ、プララナーゼ(pullalanase)など)、化学的加水分解(液体またはガス状の試薬を使用する湿潤法または乾燥法)、酸化、二官能性試薬(例えば、トリメタリン酸ナトリウム、オキシ塩化リン)による架橋、またはカルボキシメチル化を含むが、これらに限定されない群から選択される処置を単独で、または組み合わせて使用することによって改変することができる。
【0092】
例示したオオムギの食物繊維含有物は、ただ相対内乳アミロース含有量の増加だけにより生じるのではない。主な原因の1つは、β−グルカンが高いレベルで存在し、食物繊維のレベルに顕著に寄与することである。また、おそらくβグルカンのデンプン顆粒との会合による保護効果もあり、会合が緊密であることは、消化が若干困難であるRS1型として特性化される難消化性を提供するデンプンの保護効果を潜在的に提供する。同様に、V−複合結晶(V-complex crystallinity)によって検出されるデンプン−脂質会合の存在も、おそらく難消化性デンプンのレベルに寄与する。この場合、難消化性は、おそらく脂質の存在によりデンプンが物理的に接近不能になるために生じ、従って、これは、RS1デンプンと認識することができる。V−複合形状を取る老化デンプンは消化に対して高度に抵抗性であることが既知であり、従って、V−複合結晶性構造の一部を形成するアミロペクチンも消化に対して抵抗性であることが予想される。例示したオオムギ植物のデンプンは、デンプン顆粒の構造のために消化に対して抵抗性であることができ、従って、RS2デンプンであるだろう。
【0093】
本発明の態様について多様な指標が与えられている一方、本発明は、本発明の2つ以上の態様の組合わせにあってもよいことが理解されよう。
【0094】
実施例1
背景
高等植物の内乳でのデンプンの合成は、4つの重要な工程を触媒する1組の酵素によって行われる。第1に、ADPグルコースピロホスホリラーゼは、G−1−PおよびATPからのADPグルコースの合成によってデンプンのモノマー前駆体を活性化する。第2に、活性化されたグルコシル供与体であるADPグルコースは、デンプンシンターゼによって、既存のα−1、4結合の非還元末端に転移される。第3に、デンプン分枝酵素は、α−1,4結合グルカンの領域の切断、続いて、切断された鎖の受容鎖への転移で新たなα−1,6結合を形成することによって、分岐点を導入する。最後に、遺伝研究は、デンプン脱分枝酵素が、高等植物における通常量のデンプンの合成に必須であることを実証しているが、脱分枝酵素が作用する機構については解明されていない(Myersら、2000)。
【0095】
少なくともこれらの4つの活性が高等植物における通常のデンプン顆粒合成に必要であることが明らかである一方、4つの活性のそれぞれの複数のイソ型が高等植物の内乳において見出されており、変異分析(Wangら、1998、Buleonら、1998)に基づくかまたはトランスジェニックアプローチを使用する遺伝子発現レベルの改変(Abelら、1996、Joblingら、1999、Scwallら、2000)により、個々のイソ型についての特定の役割が提唱されている。しかし、デンプンの生合成に対するそれぞれの活性のそれぞれのイソ型の正確な寄与についてはなお不明であり、これらの寄与が種間で顕著に異なるかどうかについても知られていない。穀類の内乳には、ADPグルコースピロホスホリラーゼの2つのイソ型が存在し、1つの型はアミロプラスト内にあり、1つの型は細胞質にある(Denyerら、1996、Thorbjornsenら、1996)。それぞれの型は2つのサブユニット型から成る。トウモロコシの皺形(sh2)および脆性(bt2)変異は、それぞれ大小のサブユニットにおける損傷を意味する(GirouzおよびHannah、1994)。穀類の内乳では4つのクラスのデンプンシンターゼが見出されており、それらは、顆粒結合型デンプンシンターゼ(GBSS)内に排他的に局在化するイソ型、顆粒と可溶性画分との間で分割される2つの形態(SSI、Liら、1999a、SSII、Liら、1999b)および可溶性画分であるSSIIIに専ら配置される第4の形態(Caoら、2000、Liら、1999b、Liら、2000)である。GBSSは、アミロース合成に必須であることが明らかにされており(Shureら、1983)、SSIIおよびSSIIIの変異はアミロペクチンの構造を改変することが明らかにされている(Gaoら、1998、Craigら、1998)。SSI活性の役割を規定する変異については記載されていない。
【0096】
穀類の内乳では3つの形態の分枝酵素が発現され、それらは、分枝酵素I(BEI)、分枝酵素IIa(BEIIa)および分枝酵素IIb(BEIIb)である(HedmanおよびBoyer、1982、BoyerおよびPreiss、1978、Mizunoら、1992、Sunら、1997)。トウモロコシおよびイネでは、高アミロース表現型は、BEIIb遺伝子の損傷から生じることが明らかにされている(BoyerおよびPreiss、1981、Mizunoら、1993)。これらの変異体では、アミロース含有量が顕著に上昇し、残存するアミロペクチンの分枝頻度は減少する。さらに、アミロースとアミロペクチンとの間の「中間型」として規定される材料が大量に存在する(Boyerら、1980、Takedaら、1993)。BEIIaおよびBEIの役割を規定する変異についてはまだ記載されていないが、ポテトでは、BEI単独のダウンレギュレーションは、デンプンの構造に対しごくわずかな影響を引き起こす(Filpseら、1996)。しかし、ポテトでは、BEIIおよびBEIのダウンレギュレーションの組合わせは、BEII単独のダウンレギュレーションよりもはるかに高いアミロース含有量を提供する(Schwallら、2000)。高等植物には2つのタイプの脱分枝酵素が存在し、それらはその基質特異性に基づいて規定される。すなわちイソアミラーゼ型脱分枝酵素、およびプルラナーゼ型脱分枝酵素である(Myersら、2000)。トウモロコシおよびイネのsugary−1変異は、両脱分枝酵素の欠損に関連する(Jamesら、1995、Kuboら、1999)が、原因変異は、イソアミラーゼ型脱分枝酵素の遺伝子と同じ場所に位置する。コナミドリムシ(Chlamydomonas)のsta−7変異体(Mouilleら、1996)では、それはトウモロコシのsugary−1変異の類似体であるが、イソアミラーゼ活性のみがダウンレギュレートされる。
【0097】
オオムギデンプン構造の既知の変種は、トウモロコシにおいて利用可能な変種に比べて限定される。最も高度に特徴的な変異は、モチ性およびAC38において同定される高アミロース変異である。二重変異体も構築され、分析されている(Schondelmaierら、1992、Fujitaら、1999)。デンプンの構造および特性(Czuchajowskaら、1992;Schondelmaierら、1992;VasanthanおよびBhatty、1995;Morrisonら、1984;GerringおよびDeHaas、1974;Bankesら、1971;PerssonおよびChristerson、1997;VasanthanおよびBhatty、1998;Czuchajowskaら、1998;SongおよびJane、2000;Andreevら、1999;Yoshimotoら、2000)、ならびに穀粒特性(Swantson 1992、Ahokas 1979;Oscarssonら、1997;Oscarssonら、1998;Anderssonら、1999;Elfversonら、1999;Bhatty 1999;Zhengら、2000;Izydorczykら、2000;Anderssonら、2000)についての変種の幅広い特性が報告されており、動物給餌試験(Xueら、1996;Newmanら、1978;Calvertら、1976;Wilsonら、1975;Sundbergら、1998;Berghら、1999)、ヒト食物(Swanstonら、1995;Fastnaughtら、1996;Perssonら、1996;Pomeranzら、1972)およびヒト栄養物(Pomeranz 1992;Granfeldtら、1994;Oscarssonら、1996;Akerbergら、1998)における変異体の有用性が調べられている。
【0098】
本実施例では、本発明者らは、オオムギから新規のクラスの高アミロース変異体を単離した。変異系統は、典型的なハイアミロースグレーシャー(High Amylose Glacier)(AC38)変異体の充分に特性化されたアミロース含有量(45〜48%)(Walkerら、1968)を超えるアミロース含有量(65〜70%)を含有し、デンプンの分枝度が増大したアミロペクチン構造を有するデンプンを有するが、これは、分枝度の低下がトウモロコシの高アミロース(amylose extender)変異体に関連すること(Takedaら、1993)と対照的である。
【0099】
本発明の穀粒およびデンプン特性については詳細に調べられており、原因変異がマップされている。単離された変異は、オオムギにおける既知の皺形(shrunken)変異、sex6に対立的(allelic)であり、原因変異は、デンプンシンターゼII遺伝子内に配置されることが明らかにされている。本変異の効果は、デンプン生合成の過程を新たに解明し、特定の遺伝子の変異が、種ごとのデンプン構造に対してどのように異なる影響を有するかについて示す。
【0100】
材料および方法変異誘発およびスクリーニング
ZwarおよびChandler(1995)に従って、アジ化ナトリウムを使用して、外皮を欠くオオムギ変種ヒマラヤ(Himalaya)を変異誘発した。改変された穀粒形態を有する変種の選抜は、Greenら、(1997)に従って行った。Greenら、(1997)に従って、皺形(shrunken)内乳表現型を有する合計で75種の系統を同定し、維持した。
【0101】
デンプンの単離
Schulmanら(1991)の方法を使用して、オオムギ穀粒からデンプンを単離した。
【0102】
アミロース決定の方法
脱分枝されたデンプンを分離するためのHPLC法によるアミロース/アミロペクチン比の決定、およびヨウ素結合法は、BateyおよびCurtin、(1996)による記載の通りに行った。非脱分枝デンプンに関する分析によるアミロース/アミロペクチン比の分析は、Caseら、(1998)に従って行った。
【0103】
デンプン含有量の測定
デンプンは、Megazyme(Bray,Co Wicklow,Republic of Ireland)より供給される全デンプン分析キットを使用して決定した。
【0104】
タンパク質含有量
窒素はケルダール法によって決定し、タンパク質含有量は係数5.7を使用して算出した。
【0105】
β−グルカンのレベル
β−グルカンは、Megazyme(Bray,Co Wicklow, Republic of Ireland)より供給されるキットを使用して決定した。
【0106】
デンプン鎖長分布
デンプンを脱分枝し、Morellら(1998)に従い、キャピラリー電気泳動を使用する蛍光ラベル糖鎖電気泳動(FACE)を使用して、鎖長分布を分析した。
【0107】
DSC
ゼラチン化は、Pyris 1示差走査熱量計(Perkin Elmer, Norwalk CT,USA)中で測定した。デンプンを、水2部:デンプン1部の比率で水と混合し、この混合物(40〜50mg、正確に秤量する)をステンレス製天秤皿中に置き、密閉した。サンプルを、空のステンレス製天秤皿を対照として、20℃から140℃まで、1分間当たり10℃で走査した。Pyrisソフトウェアを使用して、ゼラチン化温度およびエンタルピーを決定した。
【0108】
RVA分析
粘度は、Bateyら、1997により全麦粉について報告された条件を使用し、ラピッドビスコアナライザー(Rapid−Visco−Analyser)(RVA,Newport Scientific Pty Ltd,Warriewood,Sydney)で測定した。α−アミラーゼを阻害するために、すべてのアッセイに12mMの濃度で硝酸銀を含めた。測定したパラメータは、最高粘度(最大熱糊化粘度)、最低粘度、最終粘度および糊化温度であった。さらに、ブレークダウン(最高粘度−最低粘度)およびセットバック(最終粘度−最低粘度)を算出した。
【0109】
粉膨潤
粉膨潤体積は、Konik−Roseら(2001)に従って決定した。
【0110】
X線データ
標準的な技術(Buleonら、1998)を使用して、X線回折データを回収した。
【0111】
走査電子顕微鏡観察
Joel JSM 35C装置上で走査電子顕微鏡観察を行った。精製したデンプンを金でスパッタコートし、15kV、室温で走査した。
【0112】
半数体倍加の生成
半数体倍加は、Dr P.Davies,Waite Institute,Adelaide,Australiaにより、292とホルデウム・バルガレのタンタンガラ品種(Hordeum vulgare cv Tantangara)との間、および342とH.バルガレのタンタンガラ品種(H. vulgare cv Tantangara)との間の交雑から誘導されるF1植物から生成された。
【0113】
連結分析
MapManagerを使用して、遺伝子連結データを算出した。
【0114】
オオムギcDNAライブラリーの構築
プロトコル(Life Technology)に従い、開花10、12および15日後のオオムギ内乳組織由来の5mgのポリ(A)+mRNAをcDNA合成に使用した。NotI−(dT)18プライマー(Pharmacia Biotech)を、cDNA合成の第1鎖に使用した。二本鎖cDNAをSalI−XhoIアダプター(Stratagene)に連結させ、NotIによるcDNAの消化、続いてサイズ分画(Pharmacia Biotech製SizeSep 400スパンカラム)の後にZipLox(Life Technology)のSalI−NotIアームにクローン化した。連結したcDNAをGigapack III Goldパッケージング抽出(Stratagene)でパッケージングした。ライブラリーの力価は、大腸菌(E.coli)のY1090(ZL)株による試験で2×106pfuであった。
【0115】
PCRを使用するオオムギデンプンシンターゼIIの特定のcDNA領域のクローン化
cDNAクローン、wSSIIp1を、オオムギのcDNAライブラリーのスクリーニングに使用した。cDNAクローン、wSSIIp1を、プライマーssIIa(TGTTGAGGTTCCATGGCACGTTC 配列表の配列番号9)およびssIIb(AGTCGTTCTGCCGTATGATGTCG 配列表の配列番号10)を使用するPCRにより作製し、wSSIIA(GenBank受託番号AF155217)のヌクレオチド1,435位〜1,835位の領域を増幅した。
【0116】
増幅は、FTS−1サーマルシークエンサー(Corbett,Australia)を使用して、95℃で2分間を1サイクル;95℃で30秒間、60℃で1分間、72℃で2分間を35サイクルおよび25℃で1分間を1サイクルとして実施した。フラグメントwSSIIp1をpGEM−Tベクター(Promega)にクローン化した。
【0117】
オオムギcDNAライブラリーのスクリーニング
オオムギヒマラヤcv(cv Himalaya)品種の内乳由来のRNAから構築したcDNAライブラリーを、先に記載のハイブリダイゼーション条件(Rahmanら、1998)で、347bpのcDNAフラグメントでスクリーニングした。ハイブリダイゼーションは、50%ホルムアルデヒド、6×SSPE、0.5%SDS、5×デンハルト溶液および1.7μg/mLサケ精子DNA中で、42℃、16時間行い、次いで、0.1%SDSを含有する2×SSCで、65℃、1回の洗浄あたり1時間で3回洗浄した。
【0118】
オオムギゲノムライブラリーのスクリーニング
オオムギ(オオムギモレックス(Morex)品種)ゲノムライブラリーを構築し、プローブとしてオオムギSSII cDNAを使用して、基本的にGublerら(2000)に記載の通りにスクリーニングした。
【0119】
ゲノムクローンの配列決定 モレックス(Morex)SSII遺伝子をプラスミドベクターにサブクローン化し、配列決定した。292およびMK6827遺伝子を、モレックス(Morex)の配列に基づいて設計したプライマーを使用して、遺伝子の重複領域のPCR増幅によって配列決定した。PCRフラグメントは、直接配列決定するか、またはサブクローン化して、プラスミドから配列決定した。
【0120】
発現領域の決定
cDNA中に存在することが推定される292およびMK6827ゲノム配列の領域を、ヒマラヤ(Himalaya)cDNA配列およびモレックス(Morex)ゲノム配列を参考にして決定した。
【0121】
SSII遺伝子のG→A変異のPCR分析
292において同定されるG→Aトランジション変異を含有する領域を増幅するPCRプライマーを設計した。プライマー配列は、ZLSS2P4(CCTGGAACACTTCAGACTGTACG 配列表の配列番号11)およびZLBSSII5(CTTCAGGGAGAAGTTGGTGTAGC 配列表の配列番号12)である。増幅は、FTS−1サーマルシークエンサー(Corbett,Australia)を使用して、95℃で2分間を1サイクル;95℃で30秒間、60℃で1分間、72℃で2分間を35サイクルおよび25℃で1分間を1サイクルとして実施した。
【0122】
オオムギ内乳タンパク質のSDS−PAGE分析
オオムギならびにコムギの発育および成熟内乳からデンプンを調製し、記載(Rahmanら、1995)のように、プロテイナーゼKで表面タンパク質を除去した。50mMのTris pH6.8、10%のSDSおよび10%の2−メルカプトエタノールを含有する0.5mlの抽出緩衝液を使用して、乾燥重量20mgのデンプンからデンプン顆粒タンパク質を抽出した。10分間の煮沸によるゼラチン化、および遠心分離によるデンプンの回収後、15マイクロリットルの上清を各レーンにロードした。
【0123】
半数体倍加の生成
半数体倍加は、Dr P.Davies,Waite Institute,Adelaide,Australiaにより、292とホルデウム・バルガレのタンタンガラ品種(Hordeum vulgare cv Tantangara)との間、および342とH.バルガレのタンタンガラ品種(H.vulgare cv Tantangara)との間の交雑から誘導されるF1植物から生成された。
【0124】
戻し交雑の戦略
292とホルデウム・バルガレのスループ品種(Hordeum vulgare cv Sloop)との間で交雑を行い、F1種子を作製した。F1種子由来の植物を自殖させて、F2種子の集団を作製した。これらのF2種子から成長する植物を、PCRアッセイを使用して試験し、292変異に対してホモ接合の植物をスループ(Sloop)に戻し交雑させた(BC1)。BC1から生じるF1植物を再度PCRで試験し、292変異に対してヘテロ接合の植物を選抜し、スループ(Sloop)に戻し交雑させた(BC2)。BC2由来のF1植物を再度PCRにより分析し、292変異に対してヘテロ接合の植物を選抜した。これらの植物を自殖させてBC2F2集団を作製するか、または再度スループ(Sloop)に戻し交雑させた(BC3)。BC3由来のF1植物を再度PCRにより分析し、292変異に対してヘテロ接合の植物を選抜した。これらの植物を自殖させてBC3F2集団を作製した。これらの種子由来の植物をPCRにより試験し、単粒法および種子増加のために292変異に対してホモ接合の植物を選抜した。
【0125】
結果変異体の選抜
アジ化ナトリウム処理によって誘導される外皮を欠くかまたは裸性のオオムギの変種"ヒマラヤ(Himalaya)"の多数の変異体の同定については、先にZwarおよびChandler(1995)により報告されている。本発明者らは、75の皺形(shrunken)穀粒変異のグループを同定し、皺形(shrunken)種子由来のデンプンのアミロース含有量をHPLCにより決定した(図1)。2つの系統292および342は、それぞれ71および62.5%のアミロース含有量を示すことが見出された(表1)。292および342のアミロース含有量は、従来の良く特性化されたAC38系統(47%アミロース、表1を参照のこと)よりも有意に高かった。本研究では、292および342によって表される新規の高アミロース表現型の遺伝的基礎を規定し、穀粒ならびにデンプンの構造および機能性に対する原因変異の効果について説明する。
【0126】
穀粒の特性穀粒のサイズおよび形態:
穀粒の重量および形態に対する変異の効果について記す(表2)。穀粒の重量は、親系統ヒマラヤ(Himalaya)の51mgから292の32mgおよび342の35mgに減少する。変異体は、野生型の長さおよび幅を保持するが、比較すると(ヒマラヤ(Himalaya)の平均2.82mmの厚さから、292および342のそれぞれ1.58および1.75mmへ)平坦になっており、基本的に非充填の中心領域を有する。図2は、変異体および野生型穀粒の写真を示す。穀粒の寸法については、図2に示すように穀粒の長さ(L)、最も幅が広い点での穀粒の幅(W)、および厚さ(T)を定期的に測定した。穀粒の長さ(L)対厚さ(T)の比は、変異の診断に有用であり、292または342変異をもつ種子では典型的に>3.5の値が見出され、非変異オオムギでは<3.5の値が見出される。
【0127】
穀粒の組成:
変異系統のデンプン含有量は、ヒマラヤ(Himalaya)の49.0%から292および342のそれぞれ17.7および21.9%に減少する(表1を参照のこと)。穀粒の全重量からデンプンの重量を差し引いて穀粒の非デンプン分の全量を求めたところ、非デンプン重量は、ヒマラヤ(Himalaya)、292および342でそれぞれ26.0、26.3および27.3であり、穀粒重量の消失の原因がデンプン含有量の消失であることが示された。
【0128】
292および342のタンパク質含有量は、親系統ヒマラヤ(Himalaya)に比較して増加するが(表1)、この効果は、穀粒からデンプンが消失したことによるものであり、穎果あたりのタンパク質合成の増加によるものではない。
【0129】
292および342変異体のβ−グルカンレベルも増加しており、これはデンプン含有量の減少の効果から期待されるレベルよりも高い(表1)。いずれの場合においても、β−グルカン含有量は穎果あたり約20%増加しており、これはおそらく、デンプン合成からβ−グルカン合成へ僅かな割合で入ってくる炭素の転用の存在を示している。
【0130】
デンプンの組成および機能性アミロースおよびアミロペクチン含有量
2つの技術、第1に、90%(v/v)DMSO中でのサイズ排除HPLC、および、第2に、ヨード呈色度(iodine blue value)を使用して、アミロース含有量を決定した。それぞれの方法によって決定されたアミロース含有量は同様であったが、HPLCのデータを表1に示す。
【0131】
変異体および野生型系統の穀粒重量およびアミロース含有量から、穀粒あたりに蓄積されたアミロース量を算出することができる。この分析では、ヒマラヤ(Himalaya)の6.2mg/穎果から、292の4.0mg/穎果および342の4.8mg/穎果へのアミロース量の減少が認められる。対照的に、ヒマラヤ(Himalaya)の18.7mgから、292の1.6mgおよび342の2.9mgへの穎果あたりのアミロペクチン合成の劇的な減少が認められる。
【0132】
鎖長分布
イソアミラーゼ脱分枝後のデンプンの鎖長分布を、蛍光ラベル糖鎖電気泳動(FACE)を使用して行った。292および342変異体、ならびにヒマラヤ(Himalaya)の鎖長分布を図3aに示す。図3bは、292および342変異体について正規化した鎖長分布をヒマラヤ(Himalaya)の正規化した分布から差し引いた差分プロットを示す。DP6〜11、DP12〜30およびDP31〜65からの鎖長の百分率(percentages)を算出し、表3に示す。鎖長分布において292および342では顕著なシフトが認められ、例えば、DP12〜30と比較して、DP6〜11由来の領域のほうが、鎖の百分率が高い。
【0133】
示差走査熱量測定
示差走査熱量測定を使用して、変異体のゼラチン化温度について調べたが、そのデータを表4に示す。292および342の両方とも、ゼラチン化ピーク開始(onset)、ピークおよび最終温度に関し、ヒマラヤ(Himalaya)デンプンより顕著に低いゼラチン化温度を有するデンプンを生じる。292および342変異体のゼラチン化ピークのエンタルピーも、野生型と比較して劇的に減少している。アミロース/脂質ピークの開始温度(onset temperature)も292および342では減少するが、しかし、変異体のアミロース含有量の増加にあわせて、エンタルピーは増加する。
【0134】
RVAによるデンプンの粘度
オオムギ全麦サンプルの糊化粘度を検討するために、オオムギ全麦サンプルのRVA分析を行った。従来の研究では、全麦サンプルの分析は、単離されたデンプンの分析と強く相関することが明らかにされている(Bateyら、1997)。分析は、研究したオオムギ遺伝子型の間に大きな差異があることを示した(表5および図4を参照のこと)。野生型デンプンであるヒマラヤ(Himalaya)およびナモイ(Namoi)を含有する2つのオオムギ変種は、顕著な最高粘度、これに続く最低粘度への粘度の低下、これに続く冷却時の最終粘度への粘度の増加が認められる典型的なRVAプロフィールを示した。オオムギデンプンについて一般に観察されるように、野生型の最終粘度は、最高粘度に等しいか、またはそれ未満であった(表5)。AC38では、はっきりした最高粘度が観察されたが、この系統はアミロース含有量が高いため、観察された最終粘度は最高粘度よりも高かった。しかし、292、342およびMK6827では、極めて異なるプロフィールが観察された。他のオオムギデンプンで示されたような最高粘度に対応する初期の粘度の顕著な増加は観察されず、従って、ブレークダウンの値は算出されなかった。292、342およびMK6827については、表5に示す最高粘度の値は、ヒマラヤ(Himalaya)において最高粘度を示した時間に記録された粘度であり、粘度は、分析全体を通して、他の全麦サンプルに匹敵する最終粘度に到達するまで増加した。デンプン含有量に基づいて正規化した場合、292および342デンプンは、極めて高い最終粘度を有した(表5を参照のこと)。
【0135】
膨潤体積は、粉およびデンプンの特性を測定する方法であって、熱および過剰の水に暴露されたときの材料の挙動を探査する。規定の温度で水中にサンプルを混合し、続いてゼラチン化した材料を回収する前後にサンプルを秤量することによって、水の取り込みの増加を測定する。分析は、対照サンプルであるヒマラヤ(Himalaya)およびタンタンガラ(Tantangara)が乾燥重量の6倍〜8倍に膨潤するのとは対照的に、292および342は乾燥重量のただ2〜3倍だけ膨潤することを示した(表9)。
【0136】
結晶性 X線結晶解析を使用して、デンプンの構造をさらに調べた(表6および図5を参照のこと)。ヒマラヤ(Himalaya)は、主として「A」型結晶を有する穀類デンプンの予想されるパターンを示し、AC38およびワキシロ(Waxiro)は互いに極めて類似なX線回折パターンを示したが、結晶性のレベルは、AC38のほうが低く、ワキシロ(Waxiro)の方が高かった。292および342変異体では、X線回折パターンはVおよびBパターンの混合型にシフトした。回折パターンのシフトに加えて、結晶の量は、292および342において、それぞれ9および12%まで急激に低下した。この結果は、292および342の低いアミロペクチン含有量に一致する。
【0137】
顆粒の形態
走査電子顕微鏡を使用して、デンプンの顆粒形態について調べた(図6)。ヒマラヤ(Himalaya)(図6、パネルA)、モチ性オオムギ(ワキシロ(Waxiro)、図6、パネルb)、ならびにAC38(図6、パネルc)由来の顆粒のサイズおよび形状は、通常のオオムギ系統のデンプン顆粒について従来公開されている観察と一致した。変異系統である292(図6、パネルd)、342(図6、パネルe)、およびMK6827(図6、パネルf)の「A」型デンプン顆粒の形態は、通常のオオムギの平滑なレンズ状形状と比較して、回旋状の表面を有する顆粒に明らかに改変されている。
【0138】
食物繊維
AOACの手順に従って食物繊維分析を行ったところ、292および342に食物繊維の増加があることが示され、食物繊維のこの増加は、可溶性食物繊維よりもむしろ不溶性食物繊維の増加によるものであることが示され(表1)、これは食物繊維の成分が難消化性デンプンおよびβ−グルカンであることと一致した。食物繊維のこの測定は化学的に決定されるものであって、栄養学的な見地に関連する生理学的測定とはかなり異なることに留意すべきである。
【0139】
変異の遺伝的基礎分離比
292または342の皺形(shrunken)内乳表現型を示さないオオムギ変種への変異の交雑により、この変異は、他殖集団のF2種子において通常3:皺形(shrunken)1の比および単一の他殖後に発育した半数体倍加集団の種子において通常1:皺形(shrunken)1の比を示す明白な劣性変異であることが実証された(表6を参照のこと)。通常種子を<3.5のL/T比を有する種子と規定し、皺形(shrunken)種子を>3.5のL/T比を有する種子と規定する。
【0140】
変異体の対立的性質
292および342変異は、292および342の交雑由来の子孫の分析により、対立的(allelic)であることを明らかにした。相反交雑由来のすべてのF1種子は、親292および342系統について観察されるサイズならびに形状の範囲内であり、かつ親ヒマラヤ(Himalaya)系統について見いだされる種子サイズならびに形状の範囲外である穀粒重量および穀粒形態表現型を示した。さらに、292×342F1植物由来のすべてのF2種子は、292および342変異体に典型的な皺形(shrunken)種子表現型を示した。
【0141】
バーレイガームプラズマコレクション(Barley Germplasm Collection)(USDA−ARS,National Small Grains Germplasm Research Facility,Aberdeen,Idaho 83120 USA)より入手可能な一連の皺形(shrunken)穀粒変異体の穀粒形態およびデンプン特性の分析より、sex6変異を担持するMK6827系統(BGS31、またGSHO2476とも言う)は、292および342変異に高度に類似する一組のデンプンおよび穀粒の特性を示すことが示唆された。交雑は、292およびMK6827の間で樹立され、すべてのF1穀粒は、穀粒重量および皺形(shrunken)種子表現型に関して典型的な292表現型を示した。292×MK6827F1植物由来のF2種子はすべて、>4のL/T比を有する皺形(shrunken)内乳表現型を示した。対照的に、292と市販のオオムギスループ(Sloop)品種の間の交雑由来のF2種子は、皺形(shrunken)および充填型種子間で3:1の分離比を示す2峰性分布を生じた(表6)。292と皺形(shrunken)内乳表現型を有する他の5つの系統(BGS380、皺形(shrunken)内乳4、7HL(Jarviら、1975);BGS381、皺形(shrunken)内乳5、7HS(Jarviら1975);BGS382、sex1、6HL(EslickおよびRies 1976);BGS396、皺形(shrunken)内乳6、3HL(RamageおよびEslick 1975);BGS397、皺形(shrunken)内乳7、マップされず(RamageおよびEslick 1975))との交雑から作製されるF1種子はすべて、充填型種子形態を有する穀粒を生じた。このことに基づいて、292、342およびMK6827変異は、対立的(allelic)であると考えられ、sex6座の位置について従来公開されている地図上の位置に基づき、292および342変異は、オオムギの染色体7Hの短腕(セントロメアから約4cM)にマップされることが推定される(Netsvetaev 1990、NetsvetaevおよびKrestinkov、1993、Biyashevら、1986、Netsvetaev、1992)。
【0142】
連結分析
292と市販の醸造用オオムギ変種、タンタンガラ(Tantangara)との間の交雑から半数体倍加集団を作製し、90子孫系統を継代させた(表8)。
【0143】
種子形態(充填型(filled)対皺形(shrunken)種子)、FACEによる鎖長分布(DP6〜11の鎖の百分率)、種子の被覆(裸性(naked)または皮性(husked))、およびPCRマーカー(以下を参照のこと)について、系統を評価した。データを表8に示す。皺形(shrunken)種子の特質および292FACE分布は、この集団において正確に共分離した。これは、改変された穀粒サイズおよび形状が改変されたデンプン蓄積の結果であるならば、予想され得ることである。特質の共分離については図8に示している。パネルAは、デンプン鎖長(DP6〜11の鎖の百分率によって示されている)と長さ対厚さの比との間の関係を示す。白丸印は、292変異に対するPCRマーカーを有する系統を指し、十字印は、野生型PCRマーカーを担持する系統を指す。系統の2つのグループの間には明確な定義が存在する。図8パネルBは、デンプン鎖長と種子重量との間の関係を示し、種子重量は、変異について長さ対厚さの比ほどには診断的ではないことを示す。
【0144】
オオムギでは、包皮の有無は、染色体7H上のnud座によって制御され、例えば、タンタンガラ(Tantangara)は皮性(husked)オオムギであり、292は裸性(naked)型であり、この特質は半数体倍加子孫に記録され得る。裸性/皮性(naked/husked)特性間の連結の分析およびFACEデータは、この交雑において292変異がnud座の16.3cMでマップされることを示した。この位置は、対立遺伝子sex6変異についての従来のマッピングデータと一致する(Netsvetaev、1990、NetsvetaevおよびKrestinkov、1993、Biyashevら、1986、Netsvetaev、1992)。
【0145】
原因遺伝子の同定
nud遺伝子は、オオムギ染色体7H上に位置することが実証されている(図8、Fedakら、1972)。コムギでは、3つのデンプンシンターゼ(GBSS、SSIおよびSSII)、ならびにイソアミラーゼ型脱分枝酵素(S.Rahmanより個人的に入手)は、相同染色体である染色体7の短腕上に位置する(YamamoriおよびEndo、1996、Liら、1999a、Liら、1999b、Liら、2000))。nud座への密接な連結により、最も可能性の高い候補遺伝子はSSII遺伝子であることが示唆された。コムギSSII遺伝子は、cDNAレベル(Liら、1999b;Genbank受託番号AF155217)およびゲノムレベル(Liらより個人的に入手)でクローン化されており、オオムギcDNAは、単離され、クローン化されている(図9)。オオムギおよびコムギSSIIゲノム配列の配列決定は、遺伝子が極めて類似のエキソン/イントロン構造を有するが、イントロン領域の長さは、配列間で異なることを示している(図10)。モレックス(Morex)のゲノム配列とヒマラヤ(Himalaya)由来のcDNAの配列(図9)とを比較することにより、モレックス(Morex)、292およびMK2827由来の推定cDNA配列が同定される。
【0146】
292由来のSSII遺伝子において、図11に示すアラインメントの1829位に相当する位置でG→Aトランジション変異体が見出された。この変異は、292SSIIオープンリーディングフレーム(図12)に終止コドンを導入する。タンタンガラ(Tantangara)およびヒマラヤ(Himalaya)の配列分析は、両野生型遺伝子がこの領域で同定され、292および342はともに同じG→Aトランジション変異を含有することが示された。導入された終止コドンは、デンプンシンターゼII遺伝子の全C末端触媒ドメインが翻訳されないように遺伝子産物を短縮し、従って、おそらくSSII活性がこの変異によって廃されるだろう。
【0147】
G→Aトランジション変異はまた、MK6827にも図11に示すアラインメントの242位に存在し、図9のヒマラヤ(Himalaya)cDNA配列にも存在した。この変異も292SSIIオープンリーディングフレーム(図12)に終止コドンを導入し、SSII遺伝子の90%を超えて翻訳を阻害し、この遺伝子によってコードされるSSII活性を止める。
【0148】
292のG→Aトランジション変異は、オオムギSSII遺伝子の制限酵素認識部位(NlaIV)を破壊した。診断的NlaIVサイトの位置を図14に示す(パネル(a)および(b))。図14cは、オオムギ由来のNlaIV消化産物のアガロースゲル電気泳動を示す。これは、292変異の診断パターンが292および342内に存在し、MK6827、ヒマラヤ(Himalaya)またはタンタンガラ(Tantangara)には存在しないことを示している。
【0149】
G→Aトランジション変異のPCRマーカーは、292×タンタンガラ(Tantangara)半数体倍加集団のうち90系統に記録され、皺形(shrunken)種子およびFACE鎖長分布表現型によって正確に共分離されることが見出されたが、このことは、292変異が完全にこのデンプン表現型に結び付けられ、この変異がおそらく292表現型の基礎になる原因変異であることを示す。図14dは、292×タンタンガラ(Tantangara)半数体倍加集団由来の系統の分析を示す。
【0150】
SSII活性の消失の生化学的証拠
ゲル電気泳動技術の範囲で、変異体および通常のオオムギ系統におけるデンプン生合成酵素の組成について調べた。発育中の内乳の可溶性画分の分析により、すべての系統がBEI、BEIIa、BEIIb、SSIおよびSSIIIを含有すること、ならびにBEおよびSSにおけるこれらのイソ型の内容物のそれぞれは、本質的に改変されていないことが実証された。しかし、デンプン顆粒の分析により、いくつかのバンドが失われていることが示された。第1に、SDS−PAGE分析(図16、パネルB)は、ヒマラヤ(Himalaya)、タンタンガラ(Tantangara)およびAC38には存在する90kDのバンドが292、342またはMK6827には存在しないことを示した。このバンドは、インムノブロッティングによってSSII(図16、パネルB)ならびにBEIIaおよびBEIIbを含有することが明らかにされた。BEIIaおよびBEIIbが可溶性画分に存在し、顆粒には存在しないという知見は、発現を止める変異があるのではなく、むしろ292、342およびMK6827変異体におけるこれらの酵素の分布に改変があることを示す。対照的に、可溶性または顆粒画分のいずれかにSSII発現が認められるという証拠はなく(図16、パネルAおよびB)、このことは、292、342およびMK6827において観察される表現型にSSII変異を直接結び付ける遺伝的証拠と一致する。
【0151】
292変異を担持する系統の育種
2つの戦略を使用して、292変異を代替のオオムギ遺伝子型に伝達した。
【0152】
第1の例では、292とタンタンガラ(Tantangara)との間の交雑から半数体倍加系統を作製した。種子被覆のためのデータ、種子重量、L:T比、鎖長分布およびSSIIのDNAマーカーの状態を表8に示す。これらの系統の構成のさらに包括的な分析(RVA分析、β−グルカン含有量および粉膨潤体積を含む)を表9に示す。データは、292変異を担持する系統が有意に異なるRVAパラメータ(最高/最終粘度比によって例示される)、より高いβ−グルカン含有量、および改変された粉膨潤体積を有することを示す。
【0153】
第2の例では、292から通常のデンプン特性を有する品種(スループ品種(cv Sloop))への2つの戻し交雑を実施することによって、変異を伝達した。3つの戻し交雑2F1植物の由来のF2種子を分析のために回収した。F2種子を、>3.5のL:T比および<3.5のL:T比を有する種子に分類した。これらのクラス間の種子の分布は、単一劣性遺伝子についての予想と一致した。それぞれの植物由来の種子の範疇に対する粉膨潤体積データを図10に示した。これらのデータは、平均で75%のスループ(Sloop)背景を有する系統への育種過程を通して、デンプン膨潤形質が明らかに伝達されたことを示す。
【0154】
考察
本発明者らは、皺形(shrunken)内乳表現型を有するオオムギの新規の変異体、292および342の単離について述べる。穀粒組成の分析により、皺形(shrunken)表現型はデンプン含有量の有意な減少によるものであることが実証され、デンプン組成の分析により、この減少は、アミロペクチン合成の減少のために生じる高アミロース表現型として出現することが示されている。
【0155】
292および342変異体は、穀粒ならびにデンプン特性の独特な組合わせを有し、β−グルカンレベルおよび難消化性デンプンの双方の増大を示す。この系統のβ−グルカンレベルは、デンプン含有量の減少の効果によって期待されるレベルよりも約15%超増加するが、これは、デンプンへ転換することができない炭素がβ−グルカンの合成に転用されることを示唆している。食物繊維レベルの決定により、変異体由来の穀粒は食物繊維のレベルが上昇し、この上昇は不溶性食物繊維の上昇によることが実証されている。
【0156】
特性のこのような組合わせは、これらの変異体が、ヒト食餌の成分として極めて興味深い能力を有することを示す。第1に、β−グルカンのレベルの増大は、コレステロールレベルの減少における既知のβ−グルカンの作用を介して、コレステロールを低下させるのにこの系統が有用であることを示唆する。第2に、難消化性デンプンの存在は、結腸での発酵を促進する難消化性デンプンの既知の能力により、腸の健康の見地からこの系統が有益であることを示す(Toppingら、1997、Topping 1999)。第3に、穀粒成分は、この系統が低エネルギー密度を有し、それらは緩徐に消化されることを示し、そのことはこの系統が低いグリセミック指数を有する食物の設計に寄与することを示す。
【0157】
例示したこの系統のデンプン特性も、それらが低ゼラチン化温度をも有する高アミロースデンプンを組み合わせる点で独特である。これは、トウモロコシの高アミロース(amylose extender)変異のような、ゼラチン化温度が典型的に増加する分枝酵素IIbの変異から生じる高アミロース変異とは対照的である(Ngら、1997、Katzら、1993、Kruegerら、1987、Fuwaら、1999)。292のアミロース含有量は、高アミロース(amylose extender)系統に匹敵するが、デンプンのアミロペクチン成分の構成は劇的に異なる(Wangら、1993)。292および342では、アミロペクチンの鎖長分布はより低い重合度にシフトするのに対し、高アミロース(amylose extender)では、鎖長分布は高い重合度にシフトする。このことは、アミロース含有量ではなく、アミロペクチンがゼラチン化温度の主要な決定因子であり、この効果はアミロペクチン分子の外部鎖間の相互作用の強さによって仲介されることを示唆する。同様の効果は、多数のデンプンについてJaneら、1999によって報告されている。
【0158】
RVA分析の粘度データは、SSII変異体系統由来のデンプンが通常のオオムギおよびAC38とは顕著に異なることを示す。SSII変異オオムギは、RVA温度プロファイルのはじめに温度が95℃まで上昇する際に典型的に認められる最高粘度を本質的に示さない。その代わりこれらの変異体では、もし存在するならば最終粘度まで、粘度が安定的に増加する。これらのデータは、顆粒の低アミロペクチン含有量、顆粒における低レベルのアミロペクチン結晶性、ならびに示差走査熱量測定において観察される低ゼラチン化温度およびエンタルピーに一致する。過剰の水中で加熱し、撹拌することによって、一旦、アミロースが顆粒から放出されると、高い最終粘度に達する。これらのRVA特性は、穀類のデンプンに独特であり、低い糊化粘度にもかかわらず高い最終粘度が要求される食物および産業用途に新規のデンプンの供給源を提供する。
【0159】
DSCにおけるゼラチン化温度の観察は、X線回折研究の結果に反映される。292および342の顆粒は、低いレベルの結晶性を有し、結晶形態は、穀類デンプンに典型的なA型からVおよびBの混合型にシフトする。V型はアミロースに典型的であり、脂肪酸と複合したデンプンのアミロース成分に反映するが、B形態はアミロペクチンから誘導され、おそらくデンプンの残りのアミロペクチン含有物に反映する(Buleonら、1998)。
【0160】
292および342変異の遺伝的基礎の分析により、この変異は、他殖実験で典型的なメンデル比を生じる単純な劣性変異であることが実証されている。交雑研究では、292および342は対立的(allelic)であることが実証された。交雑実験における292と他の皺形(shrunken)内乳変異との間の相互作用のさらなる分析により、292/342変異もMK6827系統のSex6変異に対立的であることが実証された。この変異は従来マップされており、染色体7Hの短腕上のセントロメアの3cM内に位置することが明らかにされている(Netsvetaev,1990、NetsvetaevおよびKrestinkov,1993、Biyashevら1986、Netsvetaev,1992)。
【0161】
皮麦(husked barley)であるタンタンガラ(Tantangara)と裸性(naked)の292変異体との間の半数体倍加集団が樹立され、皺形(shrunken)内乳変異が染色体7HSの短腕に対しnud遺伝子の16cM内にマップされ、位置はSex6変異の地図上の位置に一致する。
【0162】
染色体7Hの短腕上のセントロメア付近の領域に遺伝子が位置決定されたことは、原因変異(sex6)が染色体1HにマップされているAC38(amo1)において高アミロース表現型を生じる変異とは異なる遺伝子にあることを実証する(Schondelmeierら 1992)。地図の位置は、sex6/292変異において破壊された遺伝子の1つの候補が、コムギにおいて染色体の同じ領域に位置決定されるデンプンシンターゼIIであることを示唆するものであった(YamamoriおよびEndo 1996、Liら、1999b)。292および342変異体の配列分析は、酵素の活性部位を含有するC末端領域が翻訳されず、おそらく完全に不活性なタンパク質の合成が生じるような遺伝子の短縮を引き起こす遺伝子中のG→Aトランジション変異が存在することを示した。さらに、MK6827のSSII遺伝子の配列決定により、242位で遺伝子の短縮も生じるG→Aトランジション変異が示された。この結果により、292およびMK6827変異の対立的性質が確認される。
【0163】
SSII遺伝子の変異の同定は、292の変異のためのPCRマーカー診断の開発をもたらす。このPCRマーカーは292×タンタンガラ(Tantangara)集団のうち91の子孫にわたって記録され、皺形(shrunken)内乳表現型およびデンプンの短鎖長分布表現型との100%共分離が示された。同様な表現型を生じる多様なバックグラウンドのオオムギ(292およびMK6827)由来のSSII遺伝子に対立的変異が発見され、かつ変異が皺形(shrunken)穀粒表現型に完全連鎖していれば、292、342およびMK6827のSSII遺伝子に存在する変異は、皺形(shrunken)内乳の特性を生じる原因変異である確実性が高い。
【0164】
オオムギのSSII変異についてここで観察される表現型は、いくつかの点で他の植物におけるSSII変異の表現型に類似するが、SSII変異は、292/342において見出されるほどの高いアミロース含有量を生じない。SSII変異は、エンドウ(rug5、Craigら、1998)およびコナミドリムシ(Chlamydomonas)(Fontaineら、1993)において公知であり、ここで観察されるように、鎖長分布の低下したアミロペクチンを生じる。SSII遺伝子の変異を介してトウモロコシのShrunken−2変異が生じることを示唆する証拠もあるが、これはまだ最終的に実証されていない(Harnら、1998、Knightら、1998)。トウモロコシでは、Shrunken−2変異はゼラチン化温度の低下したデンプンを生じる(Cambellら、1994)。コムギでは、Yamamoriが、Liら(Liら、1999b)によってSSII遺伝子の産物であることが明らかにされているSgp−1タンパク質を欠く三重ヌル系統(triple null line)(Yamamori、1998)を開発している。コムギでは、アミロース含有量が約35%に増加し、異常デンプン顆粒、結晶性の変化、ゼラチン化温度の変化が観察される(Yamamori、1998)。オオムギSSII変異と他の種由来のSSII変異との間に特性の差があることはまったく予想外である。
【0165】
SSII変異は、1つの遺伝子背景から別の遺伝子背景へ育種することによって転移することができ、本来の292、342およびMK6827において典型的な診断的穀粒形態、および組成を生じる。表(9)において、L/T比、βグルカン含有量、鎖長分布、RVA、および粉膨潤体積パラメータに関する292×タンタンガラ(Tantangara)半数体倍加系統のデータは、292変異を担持する系統が、292親株に典型的な表現型を表すことを実証している。さらなる実証により、292のスループ(Sloop)への戻し交雑第2代の自殖子孫から種子を分離したところ、正常(L/T比<3.5の74種子)および皺形(shrunken)表現型(21種子、L/T比>3.5)の3:1の分離に一致する分離比が示された。
【0166】
SSII遺伝子およびオオムギの形質転換系の利用可能性は、SSII変異により見出される表現型に匹敵する表現型を生成するために、遺伝子抑圧技術を使用してSSII遺伝子をノックアウトするのに必要なツールを提供する。最近開発された高度に効果的な戦略は、内因性SSII活性を抑制する二本鎖RNAを生成するために設計されたヘアピン構築物を生成することである。ここに記載した変異体に類似の完全ノックアウト変異は興味深いものであるが、多様なプロモーターを有するDNA構築物を使用すること、および多様なレベルのヘアピン構築物発現を有する導入遺伝子を回収することにより、通常のレベルから完全なノックダウンレベルまで遺伝子の発現を調整する効果を評価することが可能である。
【0167】
この変異は、オリジナルの292変異の本質的な特性を保持しながら、292から別のオオムギ遺伝的背景に転移させることができることが明らかにされた。表9および10に、292×タンタンガラ(Tantangara)半数体倍加子孫、およびスループ(Sloop)への戻し交雑第2代由来の種子の表現型データを示す。これらのデータは、表現型が育種過程を通して転移されることを示す。
【0168】
【表1】

【0169】
【表2】

【0170】
【表3】

【0171】
【表4】

【0172】
【表5】

【0173】
【表6】

【0174】
【表7】

【0175】
【表8−1】

【0176】
【表8−2】

【0177】
【表8−3】

【0178】
【表9】

【0179】
【表10】

【0180】
実施例2
ベクターの設計および構築
オオムギSSII遺伝子の領域(図15において規定される)を、形質転換のためのベクターにクローン化した。各標的に対し3つの構築物を調製し、遺伝抑圧戦略に取り組んだ:(1)センスコサプレッション(sense cosuppression)、(2)アンチセンスおよび(3)二重鎖仲介抑制(duplex-mediated suppression)。
【0181】
図16には、内因性標的遺伝子の発現を抑圧するために構築したDNA構築物の配列の構成を示す。プロモーターは、内乳に特異的な(例えば、高分子量グラテニン(High Molecular Weight Glutenin)プロモーター、コムギSSIプロモーター、コムギBEIIプロモーター)または内乳に非特異的なプロモーター(例えば、ユビキチンもしくは35S)のいずれかから選択することができる。また、構築物は、OCSのnos3因子などの転写を増強する他の因子を含有してもよい。示したDNAの領域は、適切な選択マーカー遺伝子配列および他の因子を含有するベクターか、またはこれらの配列を含有するベクターで同時形質転換されるベクターに組み入れられてもよい。
【0182】
穀類の形質転換
オオムギ(Tingayら、1997;Wanら、1994)、エンバク(Somersら、1992、1994;Glessら、1998;Zhangら、1999,Choら、1999)およびライムギ(Castilloら、、1994;Penaら、1984)の形質転換方法については記載されており、これらを使用してDNA構築物を転移し、トランスジェニック植物を作製することができる。
【0183】
トランスジェニク体の分析
トランスジェニック植物の同定は、PCRまたはサザンハイブリダイゼーションによるDNA構築物のDNAの同定によって行われる。個々のオオムギデンプン生合成遺伝子の発現のレベルは、mRNAおよびタンパク質レベルの両方で、それぞれノーザンハイブリダイゼーションおよびウエスタンブロッティングなどの標準的な技術によって測定される。デンプンならびに穀粒の含有量および組成は、実施例1で例示した技術などの標準的な技術を使用して測定される。
【0184】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異SSII遺伝子を備えるオオムギ植物由来の穀粒であって、全デンプン含有量に対してアミロース含有量が少なくとも60重量%である穀粒。
【請求項2】
前記変異SSII遺伝子が配列表の配列番号1に示す配列を備えるとともに、変異が短縮型変異、漏出型変異から選ばれるものであるか、または欠失、逆位、重複または点変異を含むものである、請求項1に記載の穀粒。
【請求項3】
前記変異SSII遺伝子が、前記変異SSII遺伝子のC末端触媒ドメインが翻訳されない短縮型変異体である、請求項2に記載の穀粒。
【請求項4】
前記変異SSII遺伝子のcDNA配列が配列表の配列番号4に示す配列を備えるものである、請求項1に記載の穀粒。
【請求項5】
a)前記穀粒中のデンプンに含まれるものであって、6〜11残基の範囲の長さをもつアミロペクチン鎖の含有量が少なくとも30%である、および/または
b)前記穀粒中のデンプンに含まれるものであって、12〜30残基の範囲の長さをもつアミロペクチン鎖の含有量が60%未満である、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項6】
a)前記穀粒中のデンプンに含まれるものであって、6〜11残基の範囲の長さをもつアミロペクチン鎖の含有量が少なくとも35%である、および/または
b)前記穀粒中のデンプンに含まれるものであって、12〜30残基の範囲の長さをもつアミロペクチン鎖の含有量が65%未満である、および/または、
c)前記穀粒中のデンプンに含まれるものであって、31〜60残基の範囲の長さをもつアミロペクチン鎖の含有量が8%未満である、
請求項5に記載の穀粒。
【請求項7】
前記穀粒から作られた粉(flour)または全麦(wholemeal)の膨潤体積が3.2未満である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項8】
前記穀粒から作製される粉(flour)または全麦(wholemeal)の膨潤体積が少なくとも2である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項9】
外皮を有さない穀粒(non-hulled grain)の全重量の少なくとも6%のβ−グルカンを含む、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項10】
デンプン含有量が裸性穀種の12%を超えること、容易に粉砕可能であること、紫色の色彩を示さないこと、裸性であること、厚さに対する長さの比率が5.8未満であること、からなる群より選択される特性を有する、請求項1〜請求項9のうちいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項11】
厚さに対する長さの比率が5.5未満である、請求項1〜請求項10のうちいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項12】
厚さに対する長さの比率の範囲が4から5である、請求項11に記載の穀粒。
【請求項13】
前記穀粒中のデンプンが次のうち少なくとも1つによって特徴付けられる、請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の穀粒;
a)示差走査熱量測定による第1の糊化ピークの開始(onset)が53℃未満である、
b)示差走査熱量測定による第1の糊化ピークの頂点が60℃未満である、および、
c)示差走査熱量測定による第1の糊化ピークのエンタルピー(ΔH)が3.5未満である。
【請求項14】
前記穀粒のデンプンの糊化温度が75℃以上である、請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項15】
結晶性を示すデンプンの割合が20%未満である、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項16】
前記穀粒のデンプンに含まれ、デンプン−脂質複合体に特徴的な結晶性形状を示す結晶性デンプンの割合が50%以上である、請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項17】
前記穀粒のデンプンに含まれ、31−60残基の範囲の長さをもつアミロペクチン鎖の割合が5%以上である、請求項1〜請求項16のいずれか1項に記載の穀粒。
【請求項18】
請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の穀粒を産生可能なオオムギ植物。
【請求項19】
請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の穀粒または請求項18に記載の植物から得られるデンプン。
【請求項20】
脂質会合デンプンを含み、その脂質が会合したデンプンがV−複合結晶形を示し、そのV−複合結晶形が結晶性デンプンの少なくとも10%に相当する、請求項19に記載のデンプン。
【請求項21】
請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の穀粒から得られる加工された穀粒。
【請求項22】
粉砕された、挽かれた、粗挽きされた、精白されたかまたは圧延されたものである、請求項21に記載の加工された穀粒。
【請求項23】
請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載された全穀粒から得られる加工された穀粒、または、請求項21もしくは請求項23に記載された加工された穀粒から得られる生産物。
【請求項24】
前記生産物が粉である、請求項23に記載された生産物。
【請求項25】
請求項23もしくは請求項24に記載された生産物、または、請求項21もしくは請求項23に記載された加工された穀粒から得られる食品、または食品添加物。
【請求項26】
パン、ケーキ、ビスケット、増粘剤、麦芽飲料、オオムギ飲料、麺類、即席めん類または即席スープからなる群から選択されるものである、請求項25に記載の食品または食品添加物。
【請求項27】
請求項23もしくは請求項24に記載された生産物、または請求項21もしくは請求項23に記載された加工された穀粒の、食品の調理のための使用方法。
【請求項28】
オオムギ食物のSSII変異体の、全デンプン含有量に対するアミロース含有量が少なくとも60重量%であるオオムギ穀粒を産生するための使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【図11−5】
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【図11−6】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−201516(P2009−201516A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137418(P2009−137418)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2002−540557(P2002−540557)の分割
【原出願日】平成13年11月9日(2001.11.9)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】