説明

SiO粉体の製造方法及び製造装置

【課題】0.1μm以上のSiO粉体を、高純度で効率よく製造する方法および装置を提供する。
【解決手段】減圧下において、a)SiO気体を発生させる工程、およびb)該SiO気体をSiO粉体として析出させる工程を含むSiO粉体の製造方法であって、前記b)工程は、SiO気体を複数の流路を介してSiO粉体を析出させる析出部へ輸送し、当該析出部で前記流路を合流してSiO気体同士を衝突させつつ固化させる工程であり、かつ前記析出部におけるSiO気体の過飽和度は10以上であることを特徴とする方法によりSiO粉体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO粉体を製造する方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一酸化珪素(SiO)粉体を製造する従来技術としては、主にSiO気体を断熱膨張させるか、非酸化性のガスを用いてSiO気体を急冷し凝縮させる方法が知られている。前者の方法として、例えば、特許文献1に開示された方法がある。これは炭素(C)と二酸化珪素(SiO)、あるいはシリコン(Si)とSiOの混合物を1500℃以上の温度で減圧雰囲気で反応させてSiO蒸気を発生させ、これをノズルに通すことによって、断熱膨張急冷してSiOの超微粉を得るものである。しかしながら、この方法は大量生産時にノズル内にSiO蒸気が凝縮して閉塞したり、逆にノズルがSiO蒸気により浸食されノズルとしての役割を果たさなくなってしまう可能性があり、量産化技術としては不適であると指摘されている。
【0003】
この問題を解決すべく、特許文献2には、非酸化性のガスを用いて、SiO気体を急冷し凝縮させる方法が提案されている。これはSiO系原料とC含有物、又はSiO系原料とSi粉体との混合物を、0.1気圧以下の非酸化性雰囲気で、1300〜2000℃に加熱し、SiO蒸気を発生させ、これを非酸化性ガスで急冷することによりSiO蒸気を凝縮させ、SiO微粉を生成させる方法である。
【0004】
前述の二つの方法はSiO蒸気を急冷してSiOの微粉を生成させる点で共通しており、得られるSiOの粒径は0.1μm、実際は0.05μm以下と小さい。一方、SiO粉は酸化されやすいことが知られており、例えば、SiO粉回収後大気中に曝した場合、粉体表面が酸化されて、SiO層が形成される。例えば、2nm厚さのSiO層が表面に形成されたとしても、SiOの粒径が0.01μmの場合、当該層の割合は全体積の約80%となり、粒径0.05μmの場合は、当該層の割合は約20%になってしまう。そのため、特許文献1で示されているようにSiO粉の表面を窒化あるいは炭化などの処理をする必要がある。
【0005】
上記の製造方法においてSiO気体の発生させる方法には、CとSiO、あるいはSiとSiOを反応させる方法が知られているが、SiO気体を効率よく発生させる方法として、50μm以下の粉末のSiとSiOを原料として用いる方法が提案されている(特許文献3)。
【0006】
しかしこれらの文献に記載の方法は、SiO気体を急冷してSiO粉体を得る方法であるため、SiO粉体は成長しにくく、粒径制御も困難である。
【0007】
また一度得られたSiO粉体を1400〜1800℃で加熱し、蒸留してSiOの粒度を調整する方法も知られている(特許文献4)。この方法は、蒸発室と捕集室からなる装置において、蒸発室に入れられたSiO粉体を前記温度に加熱し、捕集室を加熱せずに減圧状態にして、蒸発室で蒸発したSiOガスを捕集室に導入し粉末とする方法である。
しかし、特許文献4に記載の方法では、平均粒径が500オングストロームの非常に粒径の小さいSiO粉体しか得られず、比較的粒径の大きいSiO粉体をえることは困難であった。
【特許文献1】特公昭59−50601号公報
【特許文献2】特開昭62−27318号公報
【特許文献3】特開平6−57417号公報
【特許文献4】特開昭60−215514号公報
【非特許文献1】「超微粒子 粉体物理/金属物理セミナー 別冊特集号」、超微粒子編集委員会編、アグネ技術センター出版、1984年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術であるSiO蒸気を断熱膨張もしくは非酸化性ガスを用いて急冷してSiOの微粉を生成させる方法では、0.1μm以下、実際は0.05μm以下のものしか得られない。さらに、本発明者らの検討によれば、前記方法では、SiOは粉体よりも容器壁に膜状に析出しやすく、SiO粉体の歩留まりが悪いことも確認されている。
本発明は、上記問題を解決すべく、0.1μm以上のSiO粉体を、効率よく製造する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意研究を行った結果、以下の手段により目的を達成するに到った。
[1]減圧下において、
a)SiO気体を発生させる工程、およびb)該SiO気体をSiO粉体として析出させる工程を含むSiO粉体の製造方法であって、
前記b)工程は、SiO気体を複数の流路を介してSiO粉体を析出させる析出部へ輸送し、当該析出部で前記流路を合流してSiO気体同士を衝突させつつ固化させる工程であり、かつ前記析出部におけるSiO気体の過飽和度は10以上であることを特徴とするSiO粉体の製造方法。
[2]前記析出部の温度が、1000〜1300℃である[1]記載のSiO粉体の製造方法。
[3]前記析出部において、SiO気体の過飽和度は50以上10万以内に制御されていることを特徴とする[1]記載のSiO粉体の製造方法。
[4]真空ポンプを備えた減圧室内に、
Siを含む原料とSiOを含む原料を収容する複数の原料容器と、
前記原料容器をそれぞれ加熱する手段と、
原料容器から発生するSiO気体をそれぞれ輸送する流路と、
前記複数の流路を合流させてSiO気体同士を複数の方向から衝突させつつ、SiO気体を固化するSiO析出部とを少なくとも備えることを特徴とするSiO粉体の製造装置。
[5]真空ポンプを備えた減圧室内に、
Siを含む原料とSiOを含む原料を収容する原料容器と、
前記原料容器を加熱する手段と、
前記原料容器から発生するSiO気体を輸送する流路であって、2つ以上に分岐させられている流路と、
前記分岐された流路を合流させてSiO気体同士を複数の方向から衝突させつつ、SiO気体を固化するSiO析出部とを少なくとも備えるSiO粉体の製造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のSiO粉体の製造方法及び製造装置によれば、大気中に曝された時の表面酸化量の割合が少なくなる、粒径0.1μm以上の粒子を主とするSiO粉体が、SiO粉体を粉砕することなく製造できる。従って本発明で製造されるSiO粉体は、高純度Si製造原料、セラミックス成形材料、蒸着用原料、リチウム二次電池負極活性材等に、安価で好適に利用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、a)減圧下においてSiO気体を発生させる工程、およびb)減圧下において該SiO気体をSiO粉体として析出させる工程を含むSiO粉体の製造方法であって、前記b)工程において、SiO気体を複数の流路を介してSiO粉体を析出させる析出部へ輸送し、当該析出部で前記流路を合流してSiO気体同士を衝突させつつ固化させること、および前記析出部におけるSiO気体の過飽和度が10以上であることを特徴とする。
これによりSiO固体を0.1μm以上の粉体で析出させる。特に、平均粒径が0.1〜10μmの範囲のSiO粉体が容易に製造できる。ここで、SiO粒子の粒径は、酸化物粒子の粒径を測定する通常の方法で測定できるが、例えば、レーザー回折法、遠心沈降法等により測定される。また、平均粒子径とは、質量累積粒度分布の50%径である。
【0012】
SiO気体を発生させるための原料としては、SiO粉体や、SiとSiOの混合物、CとSiOの混合物がある。SiO粉体は減圧下で1000℃以上に加熱すると実用的な量で昇華するので、SiO粉体を製造するために十分な量でSiO気体が得られる。SiとSiOの混合物はそれぞれの大きさ、SiO気体の輸送経路の形状にもよるが、減圧下でSiの溶融温度以上に加熱すれば、両者の反応が起こりSiO気体が得られる。CとSiOの混合物は1300℃以上で5000Pa以下にすれば両者が反応してSiO気体が得られる。
これらの方法により得られたSiO気体は、気体が発生させられた温度での飽和蒸気圧を有する。
【0013】
SiO気体を発生させる方法は上記のいずれを用いてもよいが、SiとSiOの混合物を用いることが好ましい。SiとSiOの混合物は、前述のとおり減圧下でSiの溶融温度以上に加熱すればSiO気体を得ることができるからである。すなわち、SiとSiOの混合物は、Siを溶融させれば、溶融したSi中にSiOが分散し、両者の界面で反応が起こるため、SiとSiOの粒径を厳密に制御する必要がない。従って、本発明で用いられるSiとSiOの混合物は、通常入手できる粒径(Siは10〜50mm程度、SiOは3〜7mm程度)のSiとSiOを混合して得たものでよい。特許文献3には50μm以下のSi微粉末と微粉末SiOを混合して得た混合体が開示されているが、このようにSi微粉末と微粉末SiOを混合して得た混合体は、粉砕工程において不純物が混入しやすくなり、結果として得られるSiO粉体も不純物を含んでしまうからである。
以下、特に断りがない限りSiO気体を発生する方法として、SiとSiOの混合物を用いる場合について説明する。
【0014】
本発明では、析出部においてSiO気体の過飽和度が10以上に制御されていることを特徴とする。温度TでのSiO気体の圧力をP(T)、SiO固体の平衡蒸気圧をP(T)eqとすると、過飽和度Sは以下の式により定義される。
【0015】
【数1】

気相中での臨界核生成速度Jは、過飽和度Sに大きく依存し、次式で与えられる(非特許文献1)。P(T)≫P(T)eqの場合は、過飽和度S=P(T)/P(T)eqと近似できる。
【0016】
【数2】

ここで、σ:表面エネルギー、m:一個の分子の質量、v:一個の分子の体積、k:ボルツマン定数である。
【0017】
温度TにおけるSiO固体の平衡蒸気圧P(T)eq(単位:Pa)は(3)式で表される(特許文献1)。
【数3】

【0018】
(3)式を用いて、温度が1000℃の場合のSiO固体の平衡蒸気圧P(1000) eqを算出した。次にSiOの表面エネルギーσを0.5J/mとして、(2)式のP(T)eqに先ほど求めたP(1000) eqを代入し、種々の過飽和度S(例えば5、8、10、100)における核生成速度Jを算出した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
その結果、過飽和度Sが10未満、例えば8の場合、臨界核生成速度Jは3.8×10−5(m−3−1)となる。これは、1個の核が生成した後、次の核が生成するまでに、約10sかかることを意味し、この条件では実質的に粉体を製造することができない。したがって、粉体を製造するためには、過飽和度Sを10以上として核生成速度を大きくする必要がある。
【0021】
過飽和度Sは、SiO気体の圧力とSiO固体の平衡蒸気圧で決定されるため、SiO気体の温度と析出部の温度を制御することで調整できる。SiO気体の温度は、例えばSiとSiOの反応温度で調整することができる。
【0022】
例えば反応温度を1800℃として析出温度を1000℃とすると、析出部におけるSは1.6×10に上げることができる。この値は以下の計算に基づく。
反応温度1800℃におけるSiO気体の蒸気圧は、飽和蒸気圧と考えられ、(3)式よりP(1800)eq=9.9×10と算出できる。一方、析出部(1000℃)での飽和蒸気圧は(3)式より、P(1000)eq=0.6と算出できる。 反応により発生したSiO気体はP(1800)eq=9.9×10で析出部に移動するので、析出部におけるSは、式(1)を用いて、1.6×10と算出される。
【0023】
SiO気体の温度は、当該気体を輸送する流路にヒータを設けて調整してもよい。
析出部の温度は、ヒータを配備して調整できるが、析出部を断熱材でカバーして、SiO気体が有する熱により調整してもよい。
過飽和度Sは、10以上であれば限定されないが、10以上200000以下であることが好ましく、50以上100000以下であることがより好ましい。得られるSiO粉体の粒径が適切な範囲(数〜数十μm)となり、かつ生産性にも優れるからである。
【0024】
前述した、SiO気体を断熱膨張させるか、非酸化性のガスを用いて、SiO気体を急冷し析出させる方法の場合、析出部の温度Tが低く、P(T)>> P(T)eqとなり、過飽和度Sが非常に大きくなる。このためSiO粉体の核生成速度Jが高くなる。しかし核の存在密度も高くなってしまうため、もはや、核周辺にSiO分子が枯渇してしまい、核が成長できず、微細な粉体しか形成されない場合がある。そこで、核同士を合体させ、成長させることにより、粒径を大きくする必要がある。核同士を合体させ、成長させるには析出部をある程度の高温にすることが必要である。しかしながら、析出部を1300℃を越える高温にすると蒸気圧が高くなり、粉体が分解してしまう場合がある。
【0025】
一般にSiO固体は、その結晶構造が未だ明確でなく、結晶性も高くないので、結晶質あるか非晶質であるかも不明確である。結晶質と非晶質の中間状態である可能性もある。よって、ここでいう「核」とは結晶核、「非晶質の微小な固体」、または前記の中間状態を意味する。この核が成長して粒子となり、さらに粒子が成長して大粒子となる。
【0026】
以上から、本発明における析出部の温度の好適な温度範囲は1000から1300℃である。また、析出部の温度が前記範囲であれば、原料から発生する不純物元素気体の凝縮係数が充分低いことから、不純物元素がSiO固体に取り込まれにくく、純度の高いSiO粉体をより好適に得ることができる。
【0027】
一方、SiO固体を成長させるためには、核が成長するための時間を確保しなければならない。SiO気体の流速は、原料からのSiO気体の発生速度や、SiO気体の通過する断面積にもよるが、発明者らの試算によると、数十から数百m/sと非常に大きい。このため、SiO気体から核が発生し、その核から大きな粒子に成長するまで析出部にとどまっていることが困難であり、通常析出部に設けてある排気口より反応系外へ排出されてしまう。これを避けるにはSiO気体の析出部を巨大なものにしなければならないが、装置が大きくなってしまうので好ましくない。
【0028】
そこで発明者らは過飽和度が10以上の領域で、SiO気体を複数の流路で移送し、流路を合流させることにより気体同士を衝突させることにより粒径の大きなSiO粒子が得られることを見出した。気体を衝突させることにより気体の流速を急激に低下させ、核の成長する時間を確保できるからである。
【0029】
SiO気体を複数の流路で移送するには、SiOおよびSiを反応容器にて加熱して得た気体を分岐構造を有するノズルに導入すればよい。また、複数の反応容器を用いて発生させたSiO気体をそれぞれの反応容器に接続されたノズルに導入してもよい。
【0030】
前記複数の流路は合流されるため、そこでSiO気体を衝突させることができる。複数の流路を合流させる方法は特に限定されない。例えば図1に示すとおり、二つの流路を左右から合流させることができる。図1はSiO粉体を析出させるための装置(析出器)の一例を示す。図中、1は流路(気体搬送部ともいう)、2は析出部、3はSiO気体の流れ、4は排気管である。図1においては、SiO気体は対面する方向から衝突させられる。
【0031】
また図2に示すような装置によりSiO気体を衝突させることもできる。図2はSiO粉体を析出させるための装置(析出器)の別の例を示す。図2に示す装置は、円柱状容器(円柱ともいう)と、当該円柱よりも底面半径が小さく、高さの低い管、および流路1からなる。
前記管は円柱の内部であって、円柱の底面よりも上に配置される。円柱の底面21は閉鎖されている。また円柱の上面における円周と管の円周で挟まれた領域22も閉鎖されている。このようにして円柱の内側面と管の外側面との間に流路が形成される。管は上面と底面が開放されているため排気管4となる。
【0032】
SiO気体を輸送する流路1は、例えば前記円柱の外側面に接続される。
輸送された気体は、導入口の円柱の底面および上面の中心を通る直線(軸ともいう)に対して対称の位置で合流させられ、衝突させられる。さらに、当該装置の底面21近傍においても気体は衝突させられる。
気体は衝突させられると同時に固化され、核を生成する。前述の通り、気体の流速はきわめて遅くなっているため前記のとおり生成した核同士が合体しやすくなり、ある程度粒径の大きな粒子からなる粉体が得られると考えられる。
【0033】
SiO粉体が析出させられる部位を析出部という。図1では2が析出部であり、流路合流部と同じである。析出したSiO粉体は析出部2において粒子同士が固着することなく得られる。
図2では、導入口の円柱の軸に対称の位置でおよび底面部近傍で気体が衝突させられるが、析出は装置における、円柱の内側面と管の外側面との間で形成される空間、および円柱の底面部近傍が析出部となる。
さらに、図1に示す方法および図2に示す方法を組み合わせてSiO気体を衝突させてもよい。
【0034】
以上から、当該領域のSiO気体の過飽和度を10以上とし、かつ当該領域において複数の流路で輸送したSiO気体を、当該流路を合流させて衝突させることで粒径の大きいSiO粉体が形成できる。さらに、前述のように前記領域の温度を1000〜1300℃の範囲にすれば、前述のとおり、粉体が分解しにくくなることから、SiO粉体を効率よく形成できるのでより好ましい。
前記領域では瞬時にSiO気体が固体に変化するので、圧力上昇による原料からのSiO気体の供給が停止することはない。
【0035】
通常、原料中には不純物が存在しており、原料から不純物気体を全く発生させないようにすることは不可能である。例えば、SiO気体を断熱膨張させて、急冷することによりSiO粉体を製造する場合、不純物気体のうち、低温でも非常に高い蒸気圧を有するものを除き、大部分の不純物はSiO粉体の中にトラップされることになる。
【0036】
また、特許文献4に示されるように、蒸発室と捕集室からなる装置において、蒸発室に入れられたSiO粉体を1400〜1800℃で蒸留する方法は、捕集室を加熱せずに減圧状態にして行うので、蒸発室で蒸発したSiOガスは捕集室に導入され粉末を形成する。しかし、この方法だと蒸発室の温度で蒸発してしまう不純物も捕集室に導入されることになるため、高純度のSiO粉体を得ることは難しい。本方法では、純度99.9%程度のSiOしか得られない。
【0037】
一方、本発明においては、析出部を加熱するために、原料から発生したB,Fe,Ni,CrなどはSiO固体表面への付着係数(吸着係数)に温度依存性があり、温度が高くなるとも付着係数が小さくなることから、前記不純物がSiO固体に取り込まれることを低減できる。特に、析出温度を1000℃以上とすると、前記不純物がSiO固体に取り込まれることをより低減できるので好ましい。
【0038】
上述した方法によるSiO粉体の製造を可能にすべく、第1の装置は、真空ポンプを備えた減圧室内に、
A)Siを含む原料とSiOを含む原料を収容する複数の原料容器と、
B)前記原料容器をそれぞれ加熱する手段と、
C)各原料容器から発生するSiO気体をそれぞれ輸送する流路(例えば気体搬送部)と、
D)前記複数の流路を合流させてSiO気体同士を複数の方向から衝突させつつ、SiO気体を固化するSiO析出部とを少なくとも備えることを特徴とするSiO粉体の製造装置である。
【0039】
また、第2の装置は真空ポンプを備えた減圧室内に、
E)Siを含む原料とSiOを含む原料を収容する原料容器と、
F)前記原料容器を加熱する手段と、
G)前記原料容器から発生するSiO気体を輸送する流路であって、2つ以上に分岐させられている流路と、
H)前記分岐された流路を合流させることにより、輸送されたSiO気体同士を複数の方向から衝突させつつ、SiO気体を固化するSiO析出部とを少なくとも備えるSiO粉体の製造装置である。
【0040】
前記A)およびE)における原料容器は、原料とする固体SiOまたはSiOとCの混合物を収容する容器であってもよい。
【0041】
第1及び第2の装置において、真空ポンプは容器内を少なくともSiOの蒸気圧以下に減圧できる能力を有し、SiおよびSiO原料を収容する容器には1420℃超に加熱できるヒータが具備され、SiO気体を固化するSiO析出部は1000から1300℃の範囲に制御することができ、SiO気体が原料部から析出部まで移動する空間は少なくともSiOが固化しない1300℃超に設定することができるようになっている。また、第2の装置において、各原料を収容する容器を複数にして、前記容器をそれぞれ加熱できる手段を備えることもできる。
【0042】
減圧室には石英ガラス、カーボン製のものが、原料を収納する容器には、石英ガラス、カーボン製のものが使用できる。また、流路には石英ガラス等の材質のものが、析出部には石英ガラス製のものが使用できる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
図3の装置により本発明を実施した。当該装置は、石英製の内径20mmの原料充填部5とSiO気体搬送部1(流路)をそれぞれ2箇所有し、気体搬送部間に断熱材11で覆われた内径40mmの析出部2が設置されている。
【0044】
Si粉とケイ砂をモル比1:1で混練し、1300℃で焼結させた原料6を各原料充填部5に10gずつ装入した。
容器9を真空ポンプで排気口10より圧力が1Pa以下になるまで排気した後、それぞれの原料充填部5に設置されたヒータ7及び、SiO気体搬送部1に設置されたヒータ8の昇温を開始した。ヒータ7、8が1000℃になった時点で、ヒータ7を1000℃に保持したまま、ヒータ8を1300℃まで昇温した。その後、ヒータ7を1500℃に昇温し、原料6を反応させSiO気体を発生させた。このときの析出部2の温度は1100℃であった。
【0045】
2箇所の原料充填部5から発生したSiO気体は、それぞれSiO気体搬送部1を経由して、析出部2内で衝突させられた。このようにしてSiO粉体が形成された。この場合、原料充填部5でのSiO気体の圧力は、ほぼSiOの飽和蒸気圧と考えると、析出部2での過飽和度Sは約670となり、充分大きくなるため、最大粒径10μmのSiO粉を製造することができた。この実施例での原料と得られたSiO粉体の不純物濃度は表2に示される通りであった。
【0046】
(実施例2)
図4の装置により本発明を実施した。当該装置は、カーボン製の原料室および石英製析出部2を有する。前記原料室は上部原料室14に外径200mmの枝管15を有する。当該枝管15は、内径210mmの石英製気体搬送部1に覆われるように接続されている。さらに気体搬送部1は石英製析出部2に接続されている。析出部2は図2に示す装置と同様の構造とした。析出部2の円柱の内径は300mm、深さは400mmである。排気管4の外径は200mmであった。
【0047】
内径130mm、深さ30mmのカーボン製原料容器12を8枚用意した。それぞれの原料容器に、Si粉とケイ砂をモル比1:1で混練したもの300gを充填した。これら8枚の原料容器12をカーボン製下部原料室13に装入した。
容器9を真空ポンプで排気口10より圧力が1Pa以下になるまで排気した後、下部原料室13に設置されたヒータ16、上部原料室14に設置されたヒータ17及び、析出部2に設置されたヒータ18の昇温を開始した。それぞれが1100℃になった時点で、ヒータ18を1100℃に保持したまま、ヒータ17を1450℃まで昇温した。その後、ヒータ16を1600℃に昇温し、原料容器12よりSiO気体を発生させた。
【0048】
SiO気体は気体搬送部1を経由して析出部2に送り込まれ、排気管4の外側の領域でSiO気体同士が衝突させられた。こうしてSiO粉体が形成された。下部原料室13でのSiO気体の圧力は、ほぼSiOの飽和蒸気圧と考えられ、析出部2での過飽和度Sは約2200と充分大きくなるため、最大粒径10μmのSiO粉体を製造することができた。この実施例での原料と、得られたSiO粉体の不純物濃度は表2に示される通りである。
【0049】
(実施例3)
図4の装置を用い、次のような実験を実施した。実施例2と同じ原料を用い、同じ手順で、ヒータの昇温を開始し、それぞれが900℃になった時点で、ヒータ18を900℃に保持したまま、ヒータ17を1400℃まで昇温し、その後、ヒータ16を1500℃に昇温し、原料容器12よりSiO気体を発生させた。析出部2の過飽和度Sは約92000となり、最大粒径は3μmのSiO粉体が析出した。この実施例で得られたSiO粉体は、過飽和度が実施例2より大きかったものの、析出部の温度が低かったため粒径は実施例2で得られたものに比べて小さくなった。また、不純物濃度は表2に示される通りであり、析出部の温度が実施例2より低かったため、不純物濃度は実施例1で得られたものよりも高くなった。
【0050】
(実施例4)
図4の装置を用い、次のような実験を実施した。実施例2と同じ原料を用い、同じ手順で、ヒータの昇温を開始し、それぞれが1350℃になった時点で、ヒータ18を1350℃に保持したまま、ヒータ17を1500℃まで昇温し、その後、ヒータ16を1700℃に昇温し、原料容器12よりSiO気体を発生させた。析出部2の過飽和度は約75となり、最大粒径は20μmの粉体が得られた。しかし、析出部の温度が高めであったためSiO気体の一部は析出部2で析出せずに、排気管4から排出された。この実施例で得られたSiO粉の不純物濃度は表2に示される通りである。得られたSiO粉体の純度は高いが、SiO収率は実施例2のSiO収率の4/5であった。
【0051】
(実施例5)
図4の装置を用い、次のような実験を実施した。内径130mm、深さ30mmのカーボン製原料容器12を8枚用意した。それぞれの原料容器に、SiO粉末250gを充填した。これら8枚の原料容器12をカーボン製下部原料室13に装入した。
容器9を真空ポンプで排気口10より圧力が1Pa以下になるまで排気した後、下部原料室13に設置されたヒータ16、上部原料室14に設置されたヒータ17及び、析出部2に設置されたヒータ18の昇温を開始した。それぞれが1100℃になった時点で、ヒータ18を1100℃に保持したまま、ヒータ17を1450℃まで昇温した。その後、ヒータ16を1600℃に昇温し、原料容器12よりSiO気体を発生させた。
SiO気体は気体搬送部1を経由して析出部2に送り込まれ、排気管4の外側の領域でSiO気体同士が衝突させられた。こうしてSiO粉体が形成された。下部原料室13でのSiO気体の圧力は、ほぼSiOの飽和蒸気圧と考えられ、析出部2での過飽和度Sは約2200と充分大きくなるため、最大粒径10μmのSiO粉体を製造することができた。
【0052】
(比較例1)
図4の装置を用い、比較実験を実施した。実施例2と同じ原料を用い、同じ手順で、ヒータの昇温を開始し、それぞれが1300℃になった時点で、ヒータ18を1300℃に保持したまま、ヒータ17を1400℃まで昇温し、その後、ヒータ16を1450℃に昇温し、原料容器12よりSiO気体を発生させた。この場合は、過飽和度Sが10以下の8となったため、SiO気体から粉体は形成されず、SiO気体は排気管4から排出された。
【0053】
(比較例2)
図4の装置のうち、析出器を内径210mm、長さ500mmの石英製円筒に変更した装置を用い、比較実験を実施した。昇温は実施例2と同様にして実験を行った。この場合、析出部の過飽和度は実施例2と同じだが、当該析出器は単純な円筒容器であり、流路を分岐し合流させる構造ではないため、SiO気体の流れが一方向となり、気体同士の衝突はおこらなかった。そのため粉体は形成されず、析出容器内に板状のSiOが析出した。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、高純度のSiO粉体、とりわけ0.1μm以上のSiO粉体を製造できる。本発明において得られるSiO粉体は高純度Si製造原料、セラミックス成形材料、蒸着用原料、リチウム二次電池負極活性材等に応用される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のSiO粉体析出器の概念図である。
【図2】本発明のSiO粉体析出器の概念図である。
【図3】本発明を実施するSiO粉体製造装置の概念図である。
【図4】本発明を実施するSiO粉体製造装置の概念図である。
【符号の説明】
【0057】
1 気体搬送部(流路)
2 析出部
3 SiO気体の流れ
4 排気管
5 原料充填部
6 原料
7 ヒータ
8 ヒータ
9 容器
10 排気口
11 断熱材
12 原料容器
13 下部原料室
14 上部原料室
15 枝管
16〜18 ヒータ
21 底面
22 円柱の上面における円周と管の円周で挟まれた領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下において、
a)SiO気体を発生させる工程、およびb)該SiO気体をSiO粉体として析出させる工程を含むSiO粉体の製造方法であって、
前記b)工程は、SiO気体を複数の流路を介してSiO粉体を析出させる析出部へ輸送し、当該析出部で前記流路を合流してSiO気体同士を衝突させつつ固化させる工程であり、かつ前記析出部におけるSiO気体の過飽和度は10以上であることを特徴とするSiO粉体の製造方法。
【請求項2】
前記析出部の温度が、1000〜1300℃である請求項1記載のSiO粉体の製造方法。
【請求項3】
前記析出部において、SiO気体の過飽和度は50以上10万以内であることを特徴とする請求項1記載のSiO粉体の製造方法。
【請求項4】
真空ポンプを備えた減圧室内に、
Siを含む原料とSiOを含む原料を収容する複数の原料容器と、
前記原料容器をそれぞれ加熱する手段と、
原料容器から発生するSiO気体をそれぞれ輸送する流路と、
前記複数の流路を合流させてSiO気体同士を複数の方向から衝突させつつ、SiO気体を固化するSiO析出部とを少なくとも備えることを特徴とするSiO粉体の製造装置。
【請求項5】
真空ポンプを備えた減圧室内に、
Siを含む原料とSiOを含む原料を収容する原料容器と、
前記原料容器を加熱する手段と、
前記原料容器から発生するSiO気体を輸送する流路であって、2つ以上に分岐させられている流路と、
前記分岐された流路を合流させてSiO気体同士を複数の方向から衝突させつつ、SiO気体を固化するSiO析出部とを少なくとも備えるSiO粉体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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