説明

Snめっきが施された銅又は銅合金及びその製造方法

【課題】炭素粒子を含有するSnめっき皮膜を備えたSnめっき材において、嵌合作業を低挿入力で行うことができると共に及びプレス加工時に炭素粒子の粉落ちが少ないSnめっき材を提供する。
【解決手段】Snめっきが施された銅又は銅合金であって、該Snめっきはその表面に炭素粒子が凝集してできた突起物を複数有し、該突起物は断面から観察したときのアスペクト比の平均が0.2〜0.6である銅又は銅合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、特にコネクタや端子等の導電性ばね材として好適なSnめっき材に関する。また、本発明はそのようなSnめっき材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電気部品の回路数増大により、回路に電気信号を供給するコネクタの多極化が進んでいる。Snめっき材は、導電性、耐食性及び半田付け性に優れており、コネクタ用の部材として重宝されているが、その軟らかさからコネクタの接点においてオスとメスを凝着させるガスタイト(気密)構造が採られるため、金めっき等で構成されるコネクタに比べ、1極当たりのコネクタの挿入力が高い。このためコネクタの多極化によるコネクタ挿入力の増大が問題となっている。現在、コネクタを嵌合させる作業はほとんど人力で行われおり、コネクタの挿入力が大きくなると、組み立てラインで作業者に負担がかかり、作業効率が低下する。このことから、Snめっき材の挿入力の低減が強く望まれている。
【0003】
この問題を解決するため、Snめっき層中に炭素を含むことにより挿入力を低下させる技術が知られている。
【0004】
特許第2971035号公報(特許文献1)には錫又は錫合金めっき皮膜中のC量及びめっき厚さを制御することによって、低摩擦係数で端子の挿入力が小さくて済む錫又は錫合金めっき銅合金を得ることができることが記載されている。めっき皮膜中のCはめっき浴中の光沢剤の種類及び量、電解条件(特に電流密度)等を適宜コントロールすることでコントロール可能であるとされている。
【0005】
特開2006−265642号公報(特許文献2)には、炭素粒子および芳香族カルボニル化合物を添加した錫めっき液を使用して電気めっきを行うことにより、錫層中に炭素粒子を含有する複合材からなる皮膜を素材上に形成し、摩擦係数が極めて低い錫めっき材を製造することができることが記載されている。そして、錫めっき液に芳香族カルボニル化合物を添加することによって、めっき皮膜の表面には、互いに離間した複数の炭素粒子を含有する島状の突起部が形成されるとされている。実施例では、平均粒径3.4μm又は5μmの鱗片状グラファイト粒子20g/Lとベンズアルデヒド30mL/Lを錫めっき液に添加したことが記載されている。
【0006】
更に、特開2007−2285号公報(特許文献3)には、炭素粒子および芳香族カルボニル化合物を添加した錫めっき液を使用して電気めっきを行う際、錫めっき液中の炭素粒子の濃度を20g/L未満、好ましくは1〜10g/L、さらに好ましくは5〜10g/Lにすることにより、錫層中に炭素粒子が分散した複合材からなる皮膜を素材上に形成し、インデント加工した場合でも、錫リフロー材などの他の種類の錫めっき材との間の摩擦係数が極めて低い錫めっき材を製造することができることが記載されている。実施例では、平均粒径3.4μmの鱗片状グラファイト粒子20g/L又は10g/Lとベンズアルデヒド30mL/Lを錫めっき液に添加したことが記載されている。
【特許文献1】特許第2971035号公報
【特許文献2】特開2006−265642号公報
【特許文献3】特開2007−2285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように光沢剤のコントロール等によってC含有量を調節する方法では挿入力の低下が十分にとはいえない。また、特許文献2や3のように錫層中に炭素粒子が分散した複合材からなる皮膜を素材上に形成する手法は有効であるが、Snめっき皮膜上に形成された突起が鋭くなるため、例えば端子に加工され、端子として嵌合される時に突起が崩壊して、炭素粒子の粉落ちが発生しやすいことが分かった。
【0008】
そこで、本発明は炭素粒子を含有するSnめっき皮膜を備えた銅又は銅合金において、嵌合作業を低挿入力で行うことができると共に炭素粒子の粉落ちが少ない銅又は銅合金を提供することを課題の一つとする。また、本発明はそのような銅又は銅合金の製造方法を提供することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、Snめっき皮膜表面に炭素粒子が凝集してできる突起物の形状を適正化することが有効であることを見いだした。具体的には各突起物のアスペクト比、すなわち突起物の幅に対する突起物の高さの比を平均で0.2〜0.6に調節することが有効である。アスペクト比は、特に突起物を形成する炭素粒子の粒径を調節することで制御可能である。更に、突起物の大きさやSnめっき表面における炭素(C)の面積率等を調節することで、挿抜性、半田付け性及び粉落ち特性のバランスに優れたSnめっき材が得られる。
【0010】
かかる知見を基礎として完成した本発明は一側面において、Snめっきが施された銅又は銅合金であって、該Snめっきはその表面に炭素粒子が凝集してできた突起物を複数有し、該突起物は断面から観察したときのアスペクト比の平均が0.2〜0.6である銅又は銅合金である。
【0011】
本発明に係る銅又は銅合金の更に別の一実施態様においては、Snめっき断面から観察したとき、前記突起物の平均粒径が1〜10μmである。
【0012】
本発明に係る銅又は銅合金の更に別の一実施態様においては、Snめっき表面から観察したとき、Cの占める面積が10〜50%である。
【0013】
本発明に係る銅又は銅合金の更に別の一実施態様においては、表面粗さが1〜6μmである。
【0014】
本発明は別の一側面において、請求項1〜8何れか一項に記載の銅又は銅合金を備えた電子部品である。
【0015】
本発明は更に別の一側面において、平均粒径が0.05〜1.0μmである炭素粒子を0.1〜5g/Lと、1種又は2種以上のアルデヒド化合物を合計で0.1〜10g/L添加したSnめっき浴を用いて銅又は銅合金に電気めっきすることを含む銅又は銅合金を製造するための方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、挿抜性に優れ、粉落ちが少ないSnめっき材を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
1.銅又は銅合金
めっき母材として使用する銅又は銅合金は、コネクタや端子等の電子部品に使われる母材として公知である任意の銅又は銅合金としてよいが、電気・電子機器の接続端子等に用いられることを考慮すれば、電気伝導率の高いもの(例えば、IACS(International Anneild Copper Standerd:国際標準軟銅の導電率を100としたときの値)が15〜80%程度)を用いるのが好ましく、例えばCu−Sn−P系(例えば燐青銅)、Cu−Zn系(例えば黄銅、丹銅)、Cu−Ni−Zn系(例えば洋白)、Cu−Ni−Si系(コルソン合金)、Cu−Fe−P系合金などが挙げられる。また、母材の形状には特に制限はないが、一般には板、条、プレス品などの形態として提供され、前めっき及び後めっきの何れでも構わない。
【0018】
また、銅又は銅合金としては、各種下地めっきを施したものも使用することができ、例えば、限定的ではないが、Cu下地めっき、Ni下地めっき、Ni−Cu合金下地めっき、Cu−Zn合金下地めっき、Ni及びCuを順に積層した下地めっきを施した銅又は銅合金を使用することができる。これらの下地めっきは耐熱性の確保のほか、母材やめっき成分の拡散を防止して導電率、挿抜性、半田付け性を向上させために適宜施される。下地めっきの方法は当業者に知られた何れの方法を用いてもよい。
【0019】
2.Snめっき
本発明に係る銅又は銅合金はSnめっきされる。本発明においては、銅又は銅合金に施されるSnめっき皮膜の表面には炭素粒子が凝集してできた突起物が複数存在する。本発明では突起物のアスペクト比を規定する。アスペクト比とは突起物の幅に対する突起物の高さの比であり、突起物の高さは、(頂点から母材までの高さ)−(平均めっき膜厚)として、突起物の幅は突起高さの1/2だけ頂点から下がったところで水平線をひいたときのめっき面との交点間の距離として測定される値である。アスペクト比が低すぎる、すなわち突起が平坦だと挿入力が十分に低下しない。逆に、アスペクト比が高すぎる、すなわち突起が鋭くなると端子嵌合時に突起が崩壊して、炭素粒子の粉落ちが発生しやすい。そこで、本発明では該突起物の断面から観察したときのアスペクト比の平均を0.2〜0.6とした。アスペクト比の平均は好ましくは0.3〜0.5であり、より好ましくは0.4〜0.45である。
【0020】
突起物を構成する炭素粒子は粒径が大きくなると前記アスペクト比が大きくなり、粒径が小さくなるとアスペクト比が小さくなる傾向にある。そこで、本発明で規定するアスペクト比を達成するには、使用する炭素粒子の平均粒径を0.03〜1.0μmとするのが好ましく、0.03〜0.5μmとするのがより好ましく、0.05〜0.1μmとするのが更により好ましい。
【0021】
Snめっき皮膜の表面に存在する突起物はその数が多いほど挿抜性が良好になる。具体的には、Snめっき表面から観察したとき、前記突起物が50μm×50μmの視野中に10個以上分布しているのが好ましい。一方、突起物はその数が多くなると半田付け性が悪影響を受ける傾向にある。そこで、挿抜性と半田付け性の両立を図る上では、前記突起物が50μm×50μmの視野中に10〜100個分布しているのがより好ましく、10〜50個分布しているのが更により好ましい。
ここで、突起物とは表面からSEMにて500倍で観察し、突起と確認できるものの内、AESによる炭素のマッピングで炭素が検出できる突起とした。さらに、Snめっき表面からのSEM観察は、めっき表面が平滑でないことから焦点が合わせづらく、正確にカウントしづらいことが予想される。そこで、同一視野において、突起物が観察できる範囲で任意に5回焦点をずらして観察した結果、1回以上前記突起物が10〜100個の範囲にあれば、本発明の範囲内であると考えることができる。
【0022】
突起物の平均粒径も、Snめっき皮膜の特性に影響を与える。突起物の平均粒径が小さくなると、挿抜性が低下する傾向にある。一方、粗大な突起となると、半田付け性に悪影響を与えやすい。そこで、挿抜性と半田付け性との両立を図る観点からは、Snめっき断面から観察したとき、前記突起物の平均粒径を1〜10μmとするのが好ましく、2〜8μmとするのがより好ましく、3〜6μmとするのが更により好ましい。また、前記突起物の高さは、5μm以下であることが好ましい。平均高さは1.0μmとするのが好ましく、1.5μmとするのがより好ましい、2.0μmとするのが更により好ましい。
突起物の粒径は、突起高さの1/2だけ頂点から下がったところで水平線をひいたときのめっき面との交点間の距離とし、その平均値を平均粒径とする。
突起物の平均粒径及び高さは断面観察像から実測することができる。
【0023】
挿抜性をより効果的に向上させるには炭素粒子の凝集度合いも重要であり、突起物中のC凝集体の大きさを一定程度の大きさとする必要がある。ただし、突起物中のC凝集体の大きすぎるとSnめっきとの一体性が失われ、粉落ちの原因となったり半田付け性及び導電性を悪化させたりする場合がある。そこで、突起物を断面から観察したときに、突起物の幅に対するC凝集体の幅の割合を20〜120%以上とするのが好ましく、30〜100%とするのがより好ましく、50〜80%とするのが更により好ましい。
突起物中のC凝集体の幅はFIB加工により突起物断面を露出させ,EPMAにより断面をマッピングすることにより観察することができる。
【0024】
Snめっき表面に占めるCの量も挿抜性や半田付け性に影響を与える。Snめっき表面上に存在するCの量が多くなると、挿抜性は向上するが、半田付け性には悪影響を与えやすい。本発明においては、抜性と半田付け性との両立を図る観点からは、Snめっき表面から観察したとき、Cの占める面積を10〜50%とするのが好ましく、20〜40%とするのがより好ましく、25〜35%とするのが更により好ましい。但し、本発明では突起物のアスペクト比を適正化しているため、Cの量が少なくても優れた挿抜性を得ることができ、半田付け性との両立を図ることが可能となる。
【0025】
上記のような突起物を表面に有する本発明に係る銅又は銅合金の表面粗さRzを測定すると、一般に1〜6μm、典型的には2〜5μm、より典型的には3〜4μmである。
【0026】
コネクタの挿入力はSnめっき厚さにも依存し、めっきが薄いほど挿入力は低くなる。一方、Snめっきが薄くなると半田付け性等が悪くなる。従って、Snめっき厚さは目標とする特性に合わせて調節すればよいが、一般にはSnめっきの平均厚みは0.3〜3.0μmであり、挿抜性を重視するならば0.3〜1.5μmとすればよく、半田付け性を重視するならば1.5〜3.0μmとすればよい。Snめっき厚みは、突起物の形成されていない箇所の断面をSEM観察することにより実測することができる。
【0027】
本発明において、Snめっきとは、Snめっきのみならず、添加元素としてAg、Bi、In、Pb、Cuなどを微量添加したSn合金めっき、例えばこれらの1種又は2種以上を合計で5〜1000ppm程度添加したSn合金めっきも含まれる。Sn合金めっきとすることでウィスカーの発生を抑制することができる。
【0028】
本発明に係る銅又は銅合金は各種の電子部品の材料として利用することができ、特に端子、コネクタといった挿抜性の要求される導電性ばね材として好適に利用することができる。
【0029】
3.製造方法
本発明に係る銅又は銅合金を製造するための基本的な方法は、炭素粒子を添加したSnめっき浴を用いて銅又は銅合金に電気めっきすることである。
【0030】
Snめっき浴は、それ自体公知のものを使用することができるが、例えば有機酸浴(例えばフェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴及びアルカノールスルホン酸浴)、硼フッ酸浴、ハロゲン浴、硫酸浴、ピロリン酸浴等の酸性浴、或いはカリウム浴やナトリウム浴等のアルカリ浴を用いて電気めっきすることができる。めっきの厚みは電流密度、電着時間、浴組成等を調節することで変化させることができる。
【0031】
アスペクト比は主としてSnめっき浴に添加する炭素粒子の粒径によって調節することができ、炭素粒子の粒径を小さくすればアスペクト比が小さくなり、大きくすればアスペクト比が大きくなる傾向にある。本発明で規定するアスペクト比をもつ突起物を得るには炭素粒子の平均粒径を0.03〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.1μmとするのが有利である。炭素粒子の形態は球形でも鱗片状でもよいが、コストの観点から鱗片状とするのが好ましい。また、添加する炭素粒子の粒径が比較的小さいことから、めっき浴中で沈殿しにくく、排液管の詰まりを防止する効果もある。
【0032】
また、アスペクト比は炭素粒子の凝集度合いにも影響を受けることから炭素粒子の凝集度合いを制御することが望ましい。凝集度合いが高くなると、突起物が粗大となってアスペクト比が高くなる傾向にある。逆に、凝集度合いが低くなりすぎると、突起物が微細となってアスペクト比が低くなる傾向にある。また、凝集度合いは突起物の平均粒径にも影響を与える。炭素粒子の凝集度合いは、めっき浴中に添加する凝集剤の種類及び添加量や、電流密度によって制御可能である。
【0033】
本発明で規定するようなアスペクト比や突起物の平均粒径を得る上では、凝集剤としてパラアルデヒド、ナフトアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドのようなアルデヒド化合物から、1種または複数種選択し、Snめっき浴中の濃度が0.1〜10g/L、好ましくは1〜5g/L、より好ましくは2〜4g/Lとなるように添加するのが有利である。添加量が少なくなると凝集効果が不十分となる一方、添加量が多くなると過剰に凝集する。また、選択するアルデヒド化合物としては芳香族アルデヒドが好ましく、特にパラアルデヒドが好ましい。
また、Snめっき時の電流密度は2〜6A/dm2、好ましくは3〜5A/dm2、より好ましくは3.5〜4.5A/dm2とする。電流密度が低すぎると炭素粒子は取り込まれにくくなる上に、めっき効率が低下、生産性が悪化する。逆に電流密度が高すぎると粗大な突起物が形成されめっきやけを生じ、はんだ付け等の性能及び外観を損なう。
【0034】
Snめっき表面に占めるCの量はSnめっき浴に添加する炭素粒子の添加量によって調節することができ、添加量を少なくすれば突起物の数が少なくなり、Snめっき表面に占めるCの量も少なくなる。添加量を多くすれば突起物の数は多くなり、Snめっき表面に占めるCの量も多くなる。Snめっき表面に占めるCの量を上述した範囲にするためには、炭素粒子を0.1〜5g/L、好ましくは0.5〜3g/L、より好ましくは1〜3g/L添加するのが有利である。
また、使用する炭素粒子の粒径が大きくなるとSnめっき皮膜中に取り込まれにくくなるため、十分な量の突起物を形成するために必要な炭素粒子の添加量が増大する。添加量が増大すると、めっき浴中で炭素粒子が沈殿しやすくなり、排液管を詰まらせる原因となるが、本発明では比較的小さな粒径の炭素粒子を使用していることから、Snめっき皮膜に取り込まれやすく、少量の炭素粒子を添加することで十分な量の突起物を形成することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0036】
作製方法
Zn:30質量%−残部Cu及び不可避的不純物の組成を有する銅合金条(板厚0.64mm×幅50mm×長さ100mm)を13枚用意し、それぞれに対して以下の手順でめっきを施した。
・電解脱脂:アルカリ水溶液中で試料をカソードとして、電解脱脂を行った。
・酸洗:10質量%硫酸水溶液を用いて酸洗した。
・めっき:酸化第一錫40g/L、フェノールスルホン酸270g/L、界面活性剤5g/L、パラアルデヒドおよびナフトアルデヒド(種類及び添加量は表1に記載)、鱗片状炭素粒子(平均粒径0.05μmのものは電気化学工業株式会社製で、その他はSECカーボン株式会社製)(平均粒径及び添加量は表1に記載)を含有するSnめっき浴を用いて、温度45℃、電流密度4.0A/dm2の条件でSnめっきを施した。Snめっき層の厚みは、電着時間により調整した。めっき厚みはいずれも1.0±0.1μmであった。
【0037】
【表1】

【0038】
評価方法
Snめっき材の形態及び特性は以下の方法で評価した。結果は表2に示した。
(1)アスペクト比及び凝集体の幅
各試料について、表面に形成された突起物のうち任意の10ヶ所を株式会社日立ハイテクノロジーズ製集束イオンビーム加工観察装置(FIB)FB−2100により加工し、断面を露出させ、SEM観察した。それぞれについてアスペクト比(突起物の高さ/突起物の幅)を算出し、10ヶ所の平均値をその試料の平均アスペクト比とした。ここで、
突起物の高さ:(頂点から母材までの高さ)−(平均めっき膜厚)
突起物の幅:突起高さの1/2だけ頂点から下がったところで水平線をひいたとき、めっき面との交点間の距離である。参考用に、実施例3及び比較例4の突起物の断面を観察したときのSEM像(倍率14000倍)を図1及び図2に示す。
上記観察に合わせて、突起物断面をEPMAによりマッピングし、炭素の検出される幅を測定し、上記突起物の幅より、凝集体の幅(%)=凝集体の幅(μm)/突起物の幅(μm)×100と算出した。
(2)炭素粒子の平均粒径
各炭素粒子についてレーザー光拡散方式粒度分布測定機(大塚電子株式会社製LPA3100)により粒径分布を測定し、累積分布50%の粒径を平均粒径とした。
(3)突起物の平均粒径
アスペクト比の評価方法における突起物の幅を粒径とした。10ヶ所の平均を平均粒径とした。
(4)突起物の平均高さ
アスペクト比の評価方法における突起物の高さと同様の方法で測定した。10ヶ所の平均を平均高さとした。
(5)Snめっき表面に占めるCの量
各試料について、EPMAによる表面の元素マッピングを行なった。元素マッピングの結果から炭素が検出された部分の面積を測定し、炭素が占める面積の割合を算出した。3箇所の平均値を測定結果とした。
(6)Snめっき厚み(平均めっき膜厚)
各試料について、突起物の形成されていない任意の10ヶ所を株式会社日立ハイテクノロジーズ製集束イオンビーム加工観察装置FB−2100により加工し、断面を露出させ、SEM観察した。それぞれの断面のSEM像においてSnめっき厚みを実測し、その平均値をSnめっき厚みとした。
(7)挿入力
各試料を090型オス端子(幅:2.3mm,厚さ:0.64mm)の形状にプレス加工した後に、アイコーエンジニアリング製の卓上荷重測定器1310NRを使用して、メス端子と嵌合させたときの荷重を測定した。メス端子:住友電装製090型SMTS端子、挿入速度:50mm/min、挿入距離:5mm
(8)半田付け性
レスカ社製ソルダーチェッカーSAT−5000を使用し、各試料の半田濡れ時間を測定した。試料サイズ:幅10mm×長さ20mm、フラックス:25%ロジン−メタノール溶液、半田温度:250℃、半田組成:Sn−3.0Ag−0.5Cu(千住金属製705M)、浸漬速さ:20mm/sec、浸漬時間:10秒間、浸漬深さ:2mm。
(9)粉落ち
各試料に24mm幅のセロハン粘着テープを貼り付け、めっき面に対して垂直方向に引き剥がした。引き剥がしたテープを観察し、炭素の付着有無により判定した。光学顕微鏡(倍率50倍,400倍)による観察でテープ表面にカーボンの付着が確認できた場合を×、確認できない場合を○とした。
(10)表面粗さRz
三鷹光器株式会社製非接触式3次元形状測定装置NH−3(He−Neレーザー,波長:633nm,出力:1.8mW)により、表面形状を測定し算出した。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例1〜3
粒径0.05μmの炭素粒子を0.5〜1.5g/L添加したSnめっき浴でめっきしたものであり、挿入力は炭素粒子を添加しなかった比較例4に比べて顕著に低く、半田付け性は良好であり、粉落ちも見られなかった。
【0041】
実施例4、5
粒径0.5μmの炭素粒子を1.5〜2.0g/L添加したSnめっき浴でめっきしたものであり、挿入力は炭素粒子を添加しなかった比較例4に比べて顕著に低く、半田付け性は良好であり、粉落ちも見られなかった。
【0042】
実施例6
粒径1.0μmの炭素粒子を3.0g/L添加したSnめっき浴でめっきしたものであり、挿入力は炭素粒子を添加しなかった比較例4に比べて顕著に低く、半田付け性は良好であり、粉落ちも見られなかった。
【0043】
実施例7
実施例1〜3と同様、粒径0.05μmの炭素粒子を添加したSnめっき浴でめっきしたものである。アスペクト比0.3の突起物が形成されており、挿入力の低下及び粉落ち防止の効果が得られた。しかしながら、添加量が0.1g/Lと少なかったために突起の分布が少なく、挿入力低下に寄与する高さ2μm以上の突起が形成されなかったため、挿入力の低下が実施例1〜6に比べて小さかった。
【0044】
実施例8、9
実施例4、5と同様、粒径0.5μmの炭素粒子を添加したSnめっき浴でめっきしたものである。アスペクト比0.4の突起物が形成されており、挿入力の低下及び粉落ち防止の効果が得られた。しかしながら、実施例8では添加量が0.5g/Lと少なかったために、挿入力低下に寄与する高さ2μm以上の突起の形成量が少なかったため、挿入力の低下が実施例1〜6に比べて小さかった。また、実施例9では添加量が10g/Lと多かったため、炭素の占める面積が多くなったため、半田付け性が実施例1〜6に比べて劣っていた。
【0045】
比較例1
炭素粒子の添加量は実施例2と同様であるが、粒径が0.02μmと小さいため、形成される突起物のアスペクト比が小さく、挿入力低下の効果が得られない。
【0046】
比較例2
炭素粒子の添加量は実施例1と同様であるが、粒径が5.0μmと大きいため、炭素粒子が効率的にSnめっき皮膜中に取り込まれないため突起の分布が少なく、挿入力低下に寄与する高さ2μm以上の突起が形成されなかったため、挿入力が低下しなかった。
【0047】
比較例3、4
添加量を調整したが、添加する炭素粒子の粒径が大きいため、突起のアスペクト比が大きくなり、粉落ちが発生した。
【0048】
比較例5
凝集剤の添加量が多いため、炭素の占める面積が多くなり、はんだ付け性が悪く、アスペクト比が大きくなり、粉落ちが発生した。
【0049】
比較例6
実施例1〜3と同様、粒径0.05μmの炭素粒子を添加したSnめっき浴でめっきしたものである。凝集剤の添加量が多く、炭素の占める面積が多くなったため、半田付け性が実施例1〜6に比べて劣っていた。
【0050】
比較例7
炭素粒子を添加しなかった例であり、挿入力及び半田付け性の基準となる例である。
【0051】
比較例8
炭素粒子、添加剤を添加しなかった例であり、挿入力及び半田付け性の基準となる例である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例3の突起物の断面を観察したときのSEM像(倍率14000倍)である。
【図2】比較例4の突起物の断面を観察したときのSEM像(倍率14000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snめっきが施された銅又は銅合金であって、該Snめっきはその表面に炭素粒子が凝集してできた突起物を複数有し、該突起物は断面から観察したときのアスペクト比の平均が0.2〜0.6である銅又は銅合金。
【請求項2】
Snめっき断面から観察したとき、前記突起物の平均粒径が1〜10μmである請求項1記載の銅又は銅合金。
【請求項3】
Snめっき表面から観察したとき、Cの占める面積が10〜50%である請求項1又は2記載の銅又は銅合金。
【請求項4】
表面粗さが1〜6μmである請求項1〜3何れか一項に記載の銅又は銅合金。
【請求項5】
請求項1〜4何れか一項に記載の銅又は銅合金を備えた電子部品。
【請求項6】
平均粒径が0.03〜1.0μmである炭素粒子を0.1〜5g/Lと、1種又は2種以上のアルデヒド化合物を合計で0.1〜10mL/L添加したSnめっき浴を用いて銅又は銅合金に電気めっきすることを含む請求項1〜3何れか一項記載の銅又は銅合金を製造するための方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−242925(P2009−242925A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93860(P2008−93860)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】