説明

SrB4O7:Eu蛍光体から不純物を除去する方法

【課題】UV発光SrB47:Eu蛍光体の発光強度を低下させる望ましくない不純物相を該蛍光体から除去することを課題とする。
【解決手段】この課題を解決するために、本発明は、SrB47:Eu蛍光体から不純物を除去する方法において、SrB610:Eu不純物相を含有するSrB47:Eu蛍光体を酸性溶液に添加し、該SrB610:Eu不純物相を溶解させ、そして該溶解した不純物から蛍光体を分離することを含む、SrB47:Eu蛍光体から不純物を除去する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、紫外発光蛍光体を製造する方法及びその輝度を改善させる方法に関するものである。より具体的には、本発明は、SrB47:Eu蛍光体から不純物相を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
UV発光SrB47:Eu蛍光体の製造は、複雑なプロセスである。正確な化学量論性を生じさせるために必要な大量の硼素含有試薬のため、固体状態での反応は困難である。硼酸及び/又は酸化硼素反応体は、比較的低い温度で融解するが、これは相分離に至り、そしてより高い温度で該蛍光体を製造するのに必要なさらなる反応を妨害するであろう。この反応の冷却中に、硬質のガラス状物質が一般に形成される。この蛍光体の従来の固体状態合成は、該蛍光体を製造するために加熱と摩砕の反復サイクルを必要とする。
【0003】
これらの加熱及び摩砕の反復サイクルを回避するための化学的沈殿方法が米国特許第4719033号及び同5068055号に記載されているが、この方法は、それに特有のユニークな問題をも有する。特に、この方法は、SrCO3−Eu23混合物を〜95℃の濃縮硼酸溶液に添加することを伴い、それによって(Sr・Eu)B610・5H2OとCO2ガスとを形成する交換反応が生じる。このSrCO3−Eu23混合物の注意深く制御された過剰量を添加して(Sr・Eu)B610・5H2OとSrCO3−Eu23の均質な混合物を生じさせ、次いでこのものを乾燥させ、そして顆粒化させてから還元雰囲気中で焼成して最終SrB47:Eu蛍光体を生じさせる。しかしながら、この混合物が焼成前に十分に均質でない場合には、SrB610:Euの形成が生じ得る。SrB610:Euは、非常に貧弱なUV発光性の蛍光体であることが知られており、しかもこの相の存在は、該蛍光体のUV発光強度を大幅に減少させる。
【0004】
過去に、SrB47:Eu蛍光体が不純物相SrB610:Euを含有するこの問題に直面し、そしてこのような材料のUV発光強度を改善させるための溶液が提案されてきた。米国特許第5378398号は、SrCO3又はSrF2又はNH4Fとこのような蛍光体材料とを混合させ、次いで該混合物を還元雰囲気中で焼成してSrB610:Eu相をSrB47:Euに変換させ、そして発光特性を改善させることを教示している。実際に、この発光特性は大幅に改善されるが、しかしこの処理は、仕上げるのが困難である蛍光体の非常に焼成された硬質ケークを生じさせる。摩砕後でさえも、この蛍光体の粒度は容認できないほどに大きい。
【特許文献1】米国特許第4719033号明細書
【特許文献2】米国特許第5068055号明細書
【特許文献3】米国特許第5378398号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の要約
本発明は、SrB47:Eu蛍光体のUV発光強度を低下させるSrB610:Eu及びその他の不純物を溶解させるために酸性溶液を使用する。この酸による洗浄処理後に、該蛍光体は、改善されたUV発光強度を有する。該蛍光体の平均粒度は、主として細かな粒子の除去のために、ほんの僅かに又は中程度に増大するに過ぎない。
【0006】
本発明の方法では、該酸性溶液のpHは、SrB47:Eu蛍光体相の大部分を溶解させないであろうレベルに調整される。硝酸(NHO3)が好ましいが、その他の強酸も好適なpHにまで希釈され、そして同一の効果のために使用できる。この酸で処理された材料は、改善されたUV発光の結果を得るために再焼成される必要はなく、そのため容認できないほどの粒度の成長は生じない。さらになお、この方法のために必要な酸の量は、該材料中に存在するSrB610:Eu不純物の量に対して調節できる。少量の不純物相は少量の酸を必要とするであろう。その逆も同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図面の簡単な説明
この図面は、SrB610:Eu不純物相の除去を証明するいくつかのX線回折像のグラフ図である。
【0008】
発明の詳細な説明
本発明をその他の及びさらなる目的、利点及び能力と共により良く理解するために、上記の図面と共に次の開示及び特許請求の範囲を参照されたい。
【0009】
SrB610:Eu不純物相は、実験によって、SrB47:Eu相よりも塩基性であることが判明している。さらに、低い輝度の蛍光体ロット中にも存在し得るその他の硼素を多く含むSr−B−O−Eu相及びSr(Eu)−OもSrB47:Euよりも塩基性であると考えられる。従って、好適なpHでの酸洗浄は、不純物相を優先的に溶解させるであろう。好ましくは、この酸性溶液のpHは、該酸洗浄が約65℃〜約70℃の温度で実行されるときに約0.8〜約1.5の範囲内にある。約65℃以下の温度では、大量の酸、しかしてより低いpHがこの方法を十分に完了させるために必要であり得る。より高いpHの溶液は、少量のSrB610:Eu不純物相が存在するときに有用である。より低いpHの溶液は、大量のSrB610:Eu不純物相が存在するときに有用である。所定の不純物レベルのために適切なpHは、実験で決定できる。好ましくは、蛍光体スラリーのpHは、この酸洗浄手順後に、約4以上である。約4以下のpHは、過剰の酸が使用されたことを示す。
【実施例】
【0010】
異なったレベルのSrB610:Eu不純物相を有するSrB47:Euの2種の試料(試料1及び2)を2種の異なる濃度のHNO3酸で酸洗浄した。特に、2種の溶液を作製した:1000mLの溶液当たり5mLの酸を有する一方のもの(5mL洗浄)及び1000mL溶液当たり20mLの酸を有する他方のもの(20mL洗浄)。これらの酸溶液をまず撹拌し、そして70℃に加熱し、次いで200gの蛍光体を撹拌しつつそれぞれの溶液に添加した。これらのスラリーを70℃で保持し、そして1時間撹拌した。1時間後に、その熱を除去し、500mLの脱イオン水を添加し、そして撹拌を15分間続行した。次いで、これらの試料をデカントし、沈降させ、そしてさらに水で洗浄した。少量の細かな粒子は沈降しなかったが、これをデカントした。次いで試料を焼成し、そして120℃で8時間乾燥させた。
【0011】
図は、初期の試料及び酸洗浄試料から得られたX線回折(XRD)像を示している。比較的純粋なSrB610:Eu試料(少量のSrB47:Eu相を含有する)からのXRD像を、不純物相の相対的なピークの位置を示すために含めている。この蛍光体試料について観察される主要相は、SrB47:Eu相である。しかしなら、洗浄前の初期試料も少量の不純物回折ピークを含有している。最も容易に認められる不純物ピークは、およそ8.1、24.4、26.1及び26.6度2シータで生じている。また、およそ16.2、17.7及び19.5度2シータでの不純物ピークも観察できる。これらの試料中に存在するSrB610:Eu不純物相の量の相対的な測定値は、おおよそ24.4度2シータでのSrB610:Eu回折ピークの強度対おおよそ21.8度2シータでのSrB47:Eu回折ピークの強度の比を算出することによって得られ得る(バックグラウンドの減算後に)。この算出された比を粒度の結果と共に表1に載せている。表2は、これらの試料についてのUV発光の結果を提供している。UV発光スペクトルは、254nmの励起放射を使用して得た。積分UV発光強度及び相対的な量子効率(QE)は、標準的な商用SrB47:Eu蛍光体を基準にして与えられる。この量子効率(QE)に関して、QEは、一般に、放出された量子の数対吸収された量子の数の比であると定義される。絶対QEは、実験で決定するのが困難であり得るが、相対QEは、特に蛍光体試料が全体的な強度においてのみ異なる同等の発光スペクトルを有する場合に決定できる。これらの試料の発光スペクトルを測定し、そして光の放出を商用の基準物に対して算出する。次いで、反射スペクトルをこれらの試料について追加の反射基準物(この場合には、光学等級であるAl23)と共に測定する。吸収が1マイナス反射率に等しい(Abs=1−R)近似値を使用して、254nmでの吸収を様々な蛍光体試料について算出する。次いで、蛍光体の光の放出を相当する吸収値で割ることによって、QE値を算出する。表2のQE値は、標準的な商用蛍光体を基準にして報告している。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
不純物SrB610:Eu相対SrB47:Eu相についてのXRD回折ピーク強度の比は、これらの試料のUV発光強度と概ね相関がある。存在する不純物相が多ければ多いほどUV発光強度は低い。50%の粒度は、主として細かな粒子の数の減少のため、僅か〜中程度に増大する。不純物相を完全に溶解させるのに必要な酸の量は、最初にさらに多くの不純物相が存在する試料2について、より多い。しかしながら、UV発光の輝度は、不純物相が除去された後に同等である。また、試料2は、不純物が除去されたときに、より大きな粒度の増大をも示した。表1及び2における結果は、酸洗浄が、粒度を大きく増大させることなく、これらの試料中に存在するSrB610:Eu不純物相の量を減少させ、且つ、UV発光強度を増加させることを示している。
【0015】
現時点で本発明の好ましい具体例であると思われるものを示し且つ記載してきたが、当業者であれば、特許請求の範囲に規定するような本発明の範囲から逸脱することなく、その範囲内で様々な変更及び改変をなし得ることは自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】SrB610:Eu不純物相の除去を証明するいくつかのX線回折像のグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SrB47:Eu蛍光体から不純物を除去する方法において、該方法が
(a)SrB610:Eu不純物相を含有するSrB47:Eu蛍光体を酸性溶液に添加し、
(b)該SrB610:Eu不純物相を溶解させ、そして
(c)該溶解した不純物から蛍光体を分離すること
を含む、SrB47:Eu蛍光体から不純物を除去する方法。
【請求項2】
酸性溶液が約0.8〜約1.5のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸性溶液が硝酸を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸性溶液のpHが、不純物相を溶解させた後に約4以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液を約65℃〜約70℃の温度に加熱して不純物相を溶解させる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
SrB47:Eu蛍光体からSrB610:Eu不純物相を除去する方法において、該方法が
(a)硝酸溶液と、SrB610:Eu不純物相を含有するSrB47:Eu蛍光体とのスラリーを形成させ、
(b)該SrB610:Eu不純物相を溶解させ、そして
(c)該溶解された不純物から蛍光体を分離すること
を含む、SrB47:Eu蛍光体からSrB610:Eu不純物相を除去する方法。
【請求項7】
硝酸溶液が、スラリーを形成させる前に約0.8〜約1.5のpHを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液のpHが、不純物相を溶解させた後に約4以上である、請求項6に記載の方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−257398(P2006−257398A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20497(P2006−20497)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(394001685)オスラム・シルバニア・インコーポレイテッド (68)
【Fターム(参考)】