説明

T細胞に遺伝子を導入する方法

本発明は、パラミクソウイルスベクターと活性化したT細胞とを接触させる工程を含む、T細胞に遺伝子を導入する方法を提供する。また本発明は、外来遺伝子が導入されたT細胞の製造方法であって、パラミクソウイルスベクターと活性化したT細胞とを接触させる工程を含む方法を提供する。また本発明は、この方法により製造された、外来遺伝子が導入されたT細胞を提供する。本発明により、効率的な活性化T細胞特異的な遺伝子送達が可能となり、T細胞を指向した遺伝子送達による免疫学的な改変戦略への適用が期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、T細胞に遺伝子を導入する方法に関する。
【背景技術】
造血細胞の遺伝的改変は、自己免疫疾患、免疫不全、さらには抗腫瘍免疫の活性化を介した腫瘍に対する治療の魅力的な戦略である。様々な血液細胞の中でもTリンパ球は、アデノシンデアミナーゼ(adenosine−deaminase;ADA)欠損症による重症複合型免疫不全(ADA−SCID)に対する遺伝子治療の初期段階から遺伝子送達の標的の1つとされてきた(Blaese,R.M.et al.,Science,1995,270:475−480;Altenschmidt,U.et al.,J.Mol.Med.,1997,75:259−266;Misaki,Y.et al.,Mol.Ther.,2001,3:24−27)。しかしながら、レトロウイルスなどの現在使用可能なベクターによる遺伝子送達に対して、T細胞は比較的抵抗性を示すことが、現在の障壁となっている。
自己免疫疾患、移植後のアロ器官拒絶、または腫瘍などの治療における臨床場面を考えると、活性化Tリンパ球のサブセットは遺伝的改変の標的として理想的であるに違いない(Altenschmidt,U.et al.,J.Mol.Med.,1997,75:259−266;Hege,K.M.and Roberts,M.R.,Curr.Opin.Biotechnol.,1996,7:629−634;Tuohy,V.K.et al.,J.Neuroimmunol.,2000,107:226−232)。遺伝子マーキングに関する初期の臨床報告により、腫瘍抗原により活性化される腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocytes;TILs)が、腫瘍を持つ個体内において腫瘍に移動することが実証されたことから、TILsは治療遺伝子を腫瘍へと移動させる理想的な担体ビークルであることが示唆される(Rosenberg,S.A.et al.,N.Engl.J.Med.,1990,323:570−578)。活性化Tリンパ球の類似した特徴は、自己免疫および器官移植においても期待されるものの、その研究はここ10年ほとんどなされておらず、それは現在のベクターの活性化T細胞への遺伝子送達の効率が低いことが原因と予想される。
最近では、新しく登場したTリンパ球への遺伝子送達ビークル、すなわちヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとするレンチウイルスベクターに多くの注目が集まっているが、これはHIVがCD4リンパ球に指向したトロピズムを持つからである。近年の努力の結果、ベクターゲノムの核へのインポートおよび染色体へのインテグレーションを促進するセントラルDNAフラップを構築することを介して、HIVの活性化T細胞への遺伝子送達効率は飛躍的に向上した(従来のHIVベクターでは平均15%に対して、このベクターでは平均51%)(Dardalhon,V.et al.,Gene Ther.,2001,8:190−198)。しかしながら、特にHIVを含む病原性ウイルスをベースとしたレンチウイルスの場合には、潜在的な安全性に関する関心が臨床適用を遅らせている(Buchschacher,G.L.Jr.and Wong−Staal,F.,Blood 2000,95:2499−2504)。より効率的に遺伝子送達が可能で、より安全な他の選択肢を開発する努力を続けることが必要であることは明らかである。
【発明の開示】
T細胞へ効率的に遺伝子導入が可能なベクターを探し出すため、T細胞に対して種々の条件でベクターの導入を行い、遺伝子導入効率を測定した。その結果、本発明者らは、パラミクソウイルスベクターが、抗原活性化T細胞に対して高い遺伝子導入効率を示すことを見いだした。遺伝子導入は活性化T細胞に特異的、すなわちベクターの遺伝子導入効率はナイーブT細胞と比べ活性化T細胞に対して顕著に高かった。パラミクソウイルスベクターは、抗原活性化T細胞への遺伝子導入のためのベクターとして好適に用いられる。
Tリンパ球を指向した遺伝子治療は、様々な免疫学的疾患に対する治療の可能性を持っているが、これまでのT細胞の遺伝子治療においては、複雑な操作を行うにも関わらず遺伝子導入(ジーントランスダクション)の効率が低いことが大きな制約となっていた。本発明により、パラミクソウイルスベクターは、非常に単純な手順で、活性化T細胞に特異的に外来遺伝子を発現できることが実証され、T細胞の遺伝子治療における上記の問題を克服することが可能となった。本発明により、活性化T細胞特異的な遺伝子送達を効率的に実施することが可能となり、免疫疾患におけるT細胞を指向した遺伝子送達による改変戦略への適用が期待される。
すなわち本発明は、T細胞に遺伝子を導入する方法に関し、より具体的には、
(1)T細胞に遺伝子を導入する方法であって、該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターと活性化したT細胞とを接触させる工程を含む方法、
(2)パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである、(1)に記載の方法、
(3)外来遺伝子が導入されたT細胞の製造方法であって、該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターと活性化したT細胞とを接触させる工程を含む方法、
(4)パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである、(3)に記載の方法、
(5)(3)または(4)に記載の方法により製造された、外来遺伝子が導入されたT細胞、
(6)活性化T細胞への遺伝子送達のために用いる、パラミクソウイルスベクター、
(7)パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである、(6)に記載のベクター、に関する。
本発明は、パラミクソウイルスベクターを用いるT細胞への遺伝子導入方法を提供する。この方法は、導入したい遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターを、活性化したT細胞に接触させる工程を含む方法である。本発明者等は、パラミクソウイルスベクターが極めて高い効率で活性化T細胞へ遺伝子を導入できることを見出した。ナイーブT細胞に対しては、パラミクソウイルスベクターによる遺伝子導入効率は低く、このベクターによる遺伝子導入は、抗原活性化T細胞に特異的であることが判明した。従って、本発明の方法は、活性化T細胞への選択的な遺伝子導入に好適に利用することができる。T細胞は、癌およびその他の疾患の治療において免疫系を制御するための標的として重要であり、本発明の方法はこれら疾患の遺伝子治療に好適に用いられ得る。遺伝子導入は培養液、生理食塩水、血液、体液など所望の生理的水溶液中で行うことができる。
また本発明は、T細胞に所望の遺伝子を導入する方法であって、(a)該T細胞を活性化させる工程、および(b)該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターを、活性化させたT細胞に接触させる工程、を含む方法を提供する。この方法も、本発明におけるT細胞に遺伝子を導入する方法に含まれる。T細胞は、抗原刺激により活性化することができる。T細胞を活性化させる工程は、パラミクソウイルスベクターによる効率的な遺伝子導入を可能にする。T細胞の活性化は、パラミクソウイルスベクターをこのT細胞に接触させる前に行ってもよいし、パラミクソウイルスベクターの存在下で行ってもよい。
単純な技術により高い効率で遺伝子送達が起こることは、パラミクソウイルスベクターを介したT細胞標的化遺伝子送達の重要な優位性の1つである。以前に報告されているように、レトロウイルスおよびレンチウイルスを介したT細胞への遺伝子送達は、最適な遺伝子送達のためには遠心で濃縮しなくてはならず、毒性のある薬剤であるポリブレンなどを必要とする(Bunnell,B.A.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,92:7739−7743;Chuck,A.S.,Hum.Gene Ther.,1996,7:743−750;Chinnasamy,D.et al.,Blood 2000,96:1309−1316;Fehse,B.et al.,Br.J.Haematol.,1998,102:566−574)。一方でパラミクソウイルスベクター溶液は特別な薬剤に助けられることなく、単に添加するだけでより優れた遺伝子送達を達成することができた。さらに、活性化T細胞へのセンダイウイルスベクター(SeV)を介する最適な遺伝子送達は、鼻腔粘膜(nasal mucosa)(Yonemitsu,Y.et al.,Nat.Biotechnol.,2000,18:970−973)、血管(vasculature)(Masaki,I.et al.,FASEB J.,2001,15:1294−1296)、網膜組織(retinal tissue)(Ikeda,Y.et al.,Exp.Eye Res.,2002,75:39−48)等で見られた代表的な結果と同様、比較的短い暴露で行うことができた(30分未満、データ省略)。臨床場面を考えると、パラミクソウイルスベクターを介した遺伝子送達のこれらの特徴は、本発明においても、Tリンパ球のex vivoでの遺伝的改変を単純化し、操作に依存した細胞生存性の喪失を最小化し得るものである。
本発明者らは、in vitroでヒトリンパ球の細胞濃度を低くするほど、遺伝子導入細胞の比率が低くなることを見いだしたが、この結果はマウス細胞でも見られた。従って、遺伝子導入においては、細胞濃度は比較的高いことが好ましい。細胞濃度は、例えば1×10/ml〜4×10/ml、好ましくは4×10/ml〜8×10/ml、好ましくは8×10/ml〜1×10/ml程度にするとよい。
MOIは1〜500の間で投与することが好ましく、より好ましくは2〜300、さらに好ましくは3〜200である。ベクターとT細胞との接触は短い時間でも十分であり、例えば1分以上、好ましくは3分以上、5分以上、10分以上、または20分以上接触させればよく、例えば1〜60分程度、より特定すれば5分〜30分程度であってよい。もちろん、それ以上の時間接触させてもよく、例えば数日間またはそれ以上接触させてもよい。
最近、免疫学的シナプス(immunological synaps)を用いて抗CD3、抗CD28、および4−1BBリガンドによりT細胞を刺激できるユニバーサルアーティフィシャル抗原提示細胞(APC)システム(Maus,M.V.et al.,Nat.Biotechnol.,2002,20:143−148)を含む、幾つかの洗練された効率的な技術により、十分な量のT細胞株をより容易に調製することが可能となった。そのような技術を組み合わせれば、SeVに由来するベクター系は、様々な免疫学的疾患に対するT細胞指向性の遺伝子治療の臨床適用のための重要な治療的可能性を持つ。
また本発明は、活性化T細胞に選択的に遺伝子を導入する方法であって、該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターを、活性化T細胞およびナイーブT細胞を含む細胞集団中に共存させる工程を含む方法を提供する。活性化T細胞に選択的とは、ナイーブT細胞に比べ活性化T細胞へ有意に遺伝子が導入されることを言う。例えば本発明は、該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターを、活性化T細胞およびナイーブT細胞を含む細胞集団中に添加する工程を含む方法を提供する。パラミクソウイルスベクターは、ナイーブT細胞に比べ活性化T細胞へ優先的に遺伝子を導入するので、この方法により活性化T細胞に選択的に遺伝子を導入することができる。あるいは、予めT細胞とベクターを共存させておき、その後このT細胞を活性化させる処理を行うことにより、活性化されたT細胞の選択的にベクターを導入することができる。これらの方法も、本発明におけるT細胞に遺伝子を導入する方法に含まれる。
T細胞はTリンパ球ともいい、組織主要適合抗原(Major Histocompatibility Complex;MHC)上にのった抗原のペプチド複合体を認識するレセプターであるT細胞レセプターを発現したリンパ球である。主として、骨髄の幹細胞より分化し、胸腺にてポジティブセレクション(自己のMHCを認識できるレパーターの選択)、ネガティブセレクション(自己抗原を認識するレパーター排除)を受け、成熟ナイーブT細胞として末梢血液、及びリンパ組織に出現する。T細胞は蛋白抗原、腫瘍抗原、アロ抗原、病原体などから由来するペプチドを認識し、抗原特異的な個体の免疫応答(適応免疫)を発生させる主たるリンパ球であり、ペプチドに対する抗体産生を援助(液性免疫)、あるいはそれ自身が武装化T細胞となって細胞性免疫を発動する。
活性化T細胞とは、抗原またはマイトジェンなどの刺激により、増殖分化へと導かれる状態となったTリンパ球を言う。つまり、T細胞レセプターの結合、あるいは直接的な酵素活性化により細胞内チロシンリン酸化酵素の活性化、これに続くイノシトールリン脂質代謝の亢進、細胞内カルシウム濃度の上昇を経て、インターロイキン(IL)−2産生、IL−2レセプターの発現、及びそれに伴う細胞シグナルにより、DNA合成、細胞分裂を開始し、増殖分化しているT細胞を言う。活性化時の生体環境により種々のサイトカインを産生する種々のT細胞へと分化する。
また、本発明において活性化T細胞は、好ましくは抗原により活性化されたT細胞である。センダイウイルスベクターによる導入は抗原活性化T細胞に選択的であり、抗原非特異的T細胞には、ex vivoにおいて抗原に応答した特異的T細胞からバイスタンダーに活性化される場合においては遺伝子導入効率は低い。従って、T細胞を抗原により活性化することにより、あるいはこれと同等の活性化を行うことにより、ベクターによる遺伝子導入効率を劇的に向上させることができる。
抗原活性化T細胞とは、先に述べた抗原提示細胞のMHCと、ある特定の抗原由来のペプチドなどとの複合体と適切なアフィニティーのあるT細胞レセプターを持ったT細胞が、両者の結合を介して、活性化シグナルを伝達したT細胞を言い、好ましくは、CD28、4−1BB等の適切なコレセプターよりのシグナルを伝達する事によって活性化したT細胞である。抗原活性化T細胞は、好ましくは、増殖、芽球化、IL−2、IL−4、IFN−γなどの各種サイトカイン産生、Fas Ligand、perforinなどの細胞傷害分子発現、及びCD40 Ligand等の抗原提示細胞および/またはB細胞を活性化するなどの能力を有する。抗原特異的T細胞はリンパ節等ではMHCとペプチドを提示した抗原提示細胞のもとで、抗原提示細胞の活性化および/またはB細胞の活性化、抗体産生刺激を行い、末梢組織の局所ではその産生サイトカインおよび細胞傷害分子による細胞傷害、炎症の促進などの作用により、生体から非自己蛋白、非自己細胞、病原体の排除に主要な作用を及ぼす。
活性化T細胞は、分画により調製することができる。例えばヒトT細胞は、活性化に伴いCD抗原の表現パターンを変化させるという特徴があるため、これにより活性化T細胞とナイーブT細胞とを選別することが可能である。具体的方法として、T細胞をネガティブセレクションで採取し、活性化T細胞に表出するCD45ROに対する抗体を用い、マグネットビーズ分離法あるいはflow cytometryによるソーティングを行うことで、好ましくは、CD45RA及び、CD62LダブルポジティブT細胞はナイーブT細胞、それ以外は活性化あるいはメモリーT細胞と考えられていることから、両者に対する抗体を用いて、マグネットビーズ分離法あるいはflow cytometryによるソーティングを行うことで、活性化T細胞あるいはナイーブT細胞を分画できる。分画に用いる抗体は、既知の活性化関連マーカーを組み合わせたすべての方法で可能である。また、ケモカインレセプター、サイトカインレセプターなどの活性化T細胞の中のある特殊な機能をもったポピュレーションを分画する方法も含まれる。分画法に関しては、その他、比重を用いた方法など、既存の方法を含む。
また活性化T細胞は、ナイーブT細胞を抗原刺激により活性化して調製することもできる。例えばナイーブT細胞は、抗CD3抗体(10μg/ml)と抗CD28抗体(10μg/ml)を固着させたプレートに以下に述べる濃度で培養することで、好ましくは末梢血単球より分化させた成熟樹状細胞を同時に添加することで活性化させることができる。また、腫瘍抗原による活性化の項で述べるように、樹状細胞とペプチド、あるいは蛋白抗原を添加された培養でも活性化させることができる。
抗原活性化T細胞の調製は、例えばヒトアロ抗原を用いる場合は、ドナー、レシピエント末梢血を採取し、それぞれを末梢血リンパ球分離液でリンパ球を分離し、それぞれ1×10/mlの濃度に調整、ドナー由来の細胞浮遊液を30Gyの放射線照射を行い、24穴のプレートに各穴にそれぞれ500μlづつ注入し、ヒトIL−2(5〜100U/ml)で約7日間培養することで得られる。継代は約7日間ごとのドナー放射線照射リンパ球で再刺激することで可能である。抗原特異的T細胞株としては、少なくとも3回の抗原刺激(初回を含め、)を受けたものが望ましい。あるいは、2回の抗原刺激以降は抗CD3抗体と抗CD28抗体が固着化されたビーズあるいは細胞などを用いて刺激、増殖させたものも、抗原活性化T細胞に含まれる。
腫瘍抗原などによる活性化の場合は、4回以上の迅速な凍結融解をくり返して腫瘍細胞を溶解した溶液を末梢血より分化させた樹状細胞に添加した後、放射線照射20Gy〜30Gyを照射したものを抗原提示細胞とし、それに末梢血より分離したT細胞をIL−2(5〜100U/ml)単独あるいは、その他IL−7等の至適サイトカインの存在下で7日間共培養、7日ごとの再刺激を3回行うことによって得られる(Fields,R.C.et al.,Proc.Natl.Acad.Aci.USA,1998,95:9482−9487)。ここで用いられる樹状細胞は、末梢血単球あるいは骨髄、臍帯血、動化末梢血などの造血幹細胞よりGM−CSF、IL−4等のサイトカインを用いて増殖分化させる既知の方法により得られたものすべてを含む。
末梢血のT細胞の分離は、T細胞分離液での分離でも良いし、抗原内の有効なペプチドが分かっているならば、ClassIあるいはClassIIのテトラマーとペプチド複合体による抗原特異的T細胞の分離方法により得られたものであってもよい。
活性化T細胞の調製に関して、以上の他に、既知の特異的抗原が明らかなものに関して、その抗原あるいは抗原由来の蛋白、ペプチドを使用して、T細胞を活性化する方法により調製することもできる。その他、活性化T細胞の作成には、レクチン等を用いた非特異的な活性化方法など、既知のT細胞活性化方法が使用可能である。本発明において抗原活性化T細胞には、このようにして得られた細胞も含まれる。
これら活性化されたT細胞は、適切な増殖因子、サイトカインと抗原及び抗原提示細胞(フィーダー細胞、分化させた樹状細胞、アーティフィシャルAPCなどを含む)での共培養、または、抗原のない抗原提示細胞などとの共培養で継代が可能である。その他、種々の治療対象疾患にあった継代法を用いてもよい。例えば、感染免疫等に対する移入免疫治療の場合は、抗原で活性化されている最中のT細胞は様々なサイトカインを産生しているため、生体内へ移入した際、発熱等の副作用があらわれる可能性が有る。また、移入免疫としてのT細胞は生体の感染時にのみその機能を発現すべきである。そのため、抗原で活性化したT細胞にパラミクソウイルスベクターを用いて遺伝子導入した後、一旦、抗原のない状態でAPCと共培養で継代し、静止状態の活性化T細胞(いわゆるメモリーT細胞)を継代によって作成する方法等がある。
本発明においてパラミクソウイルスベクターとは、パラミクソウイルスをベースとする感染力を持つウイルス粒子であって、遺伝子を細胞に導入するための担体である。ここで「感染力」とは、パラミクソウイルスベクターが細胞への接着能を保持しており、接着した細胞の内部にベクターに含まれる遺伝子を導入することのできる能力のことを言う。好ましい態様では、本発明のパラミクソウイルスベクターは、ベクターのゲノムRNA中に外来遺伝子が発現できるように組み込まれている。本発明のパラミクソウイルスベクターは、複製能を有していてもよく、複製能を有さない欠損型ベクターであってもよい。「複製能を有する」とは、ウイルスベクターが宿主細胞に感染した場合、該細胞においてウイルスが複製され、感染性ウイルス粒子が産生されることを指す。
組み換えウイルスとは、組み換えポリヌクレオチドを介して生成したウイルスを言う。組み換えポリヌクレオチドとは、両端または片端が自然の状態と同じようには結合していないポリヌクレオチドを言う。具体的には、組み換えポリヌクレオチドは、人の手によってポリヌクレオチド鎖の結合が改変(切断および/または結合)されたポリヌクレオチドである。組み換えポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド合成、ヌクレアーゼ処理、リガーゼ処理等を組み合わせて、公知の遺伝子組み換え方法により生成させることができる。組み換えウイルスは、遺伝子操作により構築されたウイルスゲノムをコードするポリヌクレオチドを発現させ、ウイルスを再構築することによって生成することができる。例えば、組換えパラミクソウイルスは、cDNAから再構成して生成することができる(Y.Nagai,A.Kato,Microbiol.Immunol.,43,613−624(1999))。
本発明において遺伝子とは遺伝物質を指し、転写単位をコードする核酸を言う。遺伝子はRNAであってもDNAであってもよい。本発明において蛋白質をコードする核酸は、該蛋白質の遺伝子と呼ぶ。また遺伝子は蛋白質をコードしていなくてもよく、例えば遺伝子はリボザイムまたはアンチセンスRNAなどの機能的RNAをコードするものであってもよい。遺伝子は天然由来または人為的に設計された配列であり得る。また、本発明において「DNA」とは、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAを含む。また蛋白質をコードするとは、ポリヌクレオチドが該蛋白質を適当な条件下で発現できるように、該蛋白質のアミノ酸配列をコードするORFをセンスまたはアンチセンスに含むことを言う。
本発明においてパラミクソウイルスとはパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属するウイルスまたはその誘導体を指す。パラミクソウイルスは、非分節型ネガティブ鎖RNAをゲノムに持つウイルスのグループの1つで、パラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)(レスピロウイルス属(パラミクソウイルス属とも言う)、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)およびニューモウイルス亜科(Pneumovirinae)(ニューモウイルス属およびメタニューモウイルス属を含む)ウイルスを含む。本発明を適用可能なパラミクソウイルスとしては、具体的にはセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型等が挙げられる。より具体的には、例えば Sendai virus(SeV)、human parainfluenza virus−1(HPIV−1)、human parainfluenza virus−3(HPIV−3)、、phocine distemper virus(PDV)、canine distemper virus(CDV)、dolphin molbillivirus(DMV)、peste−des−petits−ruminants virus(PDPR)、measles virus(MV)、rinderpest virus(RPV)、Hendra virus(Hendra)、Nipah virus (Nipah)、human parainfluenza virus−2(HPIV−2)、simian parainfluenza virus 5(SV5)、human parainfluenza virus−4a(HPIV−4a)、human parainfluenza virus−4b(HPIV−4b)、mumps virus(Mumps)、およびNewcastle disease virus (NDV)などが含まれる。より好ましくは、Sendai virus(SeV)、human parainfluenza virus−1(HPIV−1)、human parainfluenza virus−3(HPIV−3)、phocine distemper virus(PDV)、canine distemper virus(CDV)、dolphin molbillivirus(DMV)、peste−des−petits−ruminants virus(PDPR)、measles virus(MV)、rinderpest virus(RPV)、Hendra virus(Hendra)、およびNipah virus(Nipah)からなる群より選択されるウイルスが例示できる。本発明のウイルスは、好ましくはパラミクソウイルス亜科(レスピロウイルス属、ルブラウイルス属、およびモービリウイルス属を含む)に属するウイルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウイルス属(genus Respirovirus)(パラミクソウィルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウイルスまたはその誘導体である。本発明を適用可能なレスピロウイルス属ウイルスとしては、例えばヒトパラインフルエンザウイルス1型(HPIV−1)、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(HPIV−3)、ウシパラインフルエンザウイルス3型(BPIV−3)、センダイウイルス(Sendai virus;マウスパラインフルエンザウイルス1型とも呼ばれる)、およびサルパラインフルエンザウイルス10型(SPIV−10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウイルスは、最も好ましくはセンダイウイルスである。これらのウイルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などに由来してもよい。
パラミクソウイルスベクターはゲノムRNAに搭載遺伝子をアンチセンスにコードしている。ゲノムRNAとは、パラミクソウイルスのウイルス蛋白質と共にリボヌクレオプロテイン(RNP)を形成し、該蛋白質によりゲノム中の遺伝子が発現し、このRNAが複製されて娘RNPが形成される機能を持つRNAである。一般にパラミクソウイルスのゲノムは、3’リーダー領域と5’トレイラー領域の間に、ウイルス遺伝子がアンチセンスとして並んだ構成をしている。各遺伝子のORFの間には、転写終結配列(E配列)−介在配列(I配列)−転写開始配列(S配列)が存在し、これにより各遺伝子のORFをコードするRNAが別々のシストロンとして転写される。
パラミクソウイルスのウイルスタンパク質をコードする遺伝子としては、NP、P、M、F、HN、およびL遺伝子が含まれる。「NP、P、M、F、HN、およびL遺伝子」とは、それぞれヌクレオキャプシド、ホスホ、マトリックス、フュージョン、ヘマグルチニン−ノイラミニダーゼ、およびラージ蛋白質をコードする遺伝子のことを指す。パラミクソウイルス亜科に属する各ウイルスにおける各遺伝子は、一般に次のように表記される。一般に、NP遺伝子は「N遺伝子」と表記されることもある。
レスピロウイルス属 NP P/C/V M F HN − L
ルブラウイルス属 NP P/V M F HN (SH)L
モービリウイルス属 NP P/C/V M F H − L
例えばセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NP遺伝子についてはM29343、M30202,M30203,M30204,M51331,M55565,M69046,X17218、P遺伝子についてはM30202,M30203,M30204,M55565,M69046,X00583,X17007,X17008、M遺伝子についてはD11446,K02742,M30202,M30203,M30204,M69046,U31956,X00584,X53056、F遺伝子についてはD00152,D11446,D17334,D17335,M30202,M30203,M30204,M69046,X00152,X02131、HN遺伝子についてはD26475,M12397,M30202,M30203,M30204,M69046,X00586,X02808,X56131、L遺伝子についてはD00053,M30202,M30203,M30204,M69040,X00587,X58886を参照のこと。またその他のウイルスがコードするウイルス遺伝子を例示すれば、N遺伝子については、CDV,AF014953;DMV,X75961;HPIV−1,D01070;HPIV−2,M55320;HPIV−3,D10025;Mapuera,X85128;Mumps,D86172;MV,K01711;NDV,AF064091;PDPR,X74443;PDV,X75717;RPV,X68311;SeV,X00087;SV5,M81442;およびTupaia,AF079780、P遺伝子については、CDV,X51869;DMV,Z47758;HPIV−1,M74081;HPIV−3,X04721;HPIV−4a,M55975;HPIV−4b,M55976;Mumps,D86173;MV,M89920;NDV,M20302;PDV,X75960;RPV,X68311;SeV,M30202;SV5,AF052755;およびTupaia,AF079780、C遺伝子についてはCDV,AF014953;DMV,Z47758;HPIV−1.M74081;HPIV−3,D00047;MV,AB016162;RPV,X68311;SeV,AB005796;およびTupaia,AF079780、M遺伝子についてはCDV,M12669;DMV Z30087;HPIV−1,S38067;HPIV−2,M62734;HPIV−3,D00130;HPIV−4a,D10241;HPIV−4b,D10242;Mumps,D86171;MV,AB012948;NDV,AF089819;PDPR,Z47977;PDV,X75717;RPV,M34018;SeV,U31956;およびSV5,M32248、F遺伝子についてはCDV,M21849;DMV,AJ224704;HPN−1.M22347;HPIV−2,M60182;HPIV−3.X05303,HPIV−4a,D49821;HPIV−4b,D49822;Mumps,D86169;MV,AB003178;NDV,AF048763;PDPR,Z37017;PDV,AJ224706;RPV,M21514;SeV,D17334;およびSV5,AB021962、HN(HまたはG)遺伝子についてはCDV,AF112189;DMV,AJ224705;HPIV−1,U709498;HPIV−2.D000865;HPIV−3,AB012132;HPIV−4A,M34033;HPIV−4B,AB006954;Mumps,X99040;MV,K01711;NDV,AF204872;PDPR,Z81358;PDV,Z36979;RPV,AF132934;SeV,U06433;およびSV−5,S76876が例示できる。但し、各ウイルスは複数の株が知られており、株の違いにより上記に例示した以外の配列からなる遺伝子も存在する。
これらのウイルス蛋白質をコードするORFおよび外来遺伝子のORFは、ゲノムRNAにおいて上記のE−I−S配列を介してアンチセンスに配置される。ゲノムRNAにおいて最も3’に近いORFは、3’リーダー領域と該ORFとの間にS配列のみが必要であり、EおよびI配列は必要ない。またゲノムRNAにおいて最も5’に近いORFは、5’トレイラー領域と該ORFとの間にE配列のみが必要であり、IおよびS配列は必要ない。また2つのORFは、例えばIRES等の配列を用いて同一シストロンとして転写させることも可能である。このような場合は、これら2つのORFの間にはE−I−S配列は必要ない。野生型のパラミクソウイルスの場合、典型的なRNAゲノムは、3’リーダー領域に続き、N、P、M、F、HN、およびL蛋白質をアンチセンスにコードする6つのORFが順に並んでおり、それに続いて5’トレイラー領域を他端に有する。本発明のゲノムRNAにおいては、ウイルス遺伝子の配置はこれに限定されるものではないが、好ましくは、野生型ウイルスと同様に、3’リーダー領域に続き、N、P、M、F、HN、およびL蛋白質をコードするORFが順に並び、それに続いて5’トレイラー領域が配置されることが好ましい。ある種のパラミクソウイルスにおいては、ウイルス遺伝子が異なっているが、そのような場合でも上記と同様に各ウイルス遺伝子を野生型と同様の配置とすることが好ましい。一般にN、P、およびL遺伝子を保持しているベクターは、細胞内で自律的にRNAゲノムから遺伝子が発現し、ゲノムRNAが複製される。さらにFおよびHN遺伝子等のエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子、およびM遺伝子の働きにより、感染性のウイルス粒子が形成され、細胞外に放出される。従って、このようなベクターは複製能を有するウイルスベクターとなる。T細胞に導入したい外来遺伝子は、後述するように、このゲノム中の蛋白質非コード領域に挿入すればよい。
また、本発明のパラミクソウイルスベクターは、野生型パラミクソウイルスが持つ遺伝子のいずれかを欠損したものであってよい。例えば、M、F、またはHN遺伝子、あるいはそれらの組み合わせが含まれていないパラミクソウイルスベクターも、本発明のパラミクソウイルスベクターとして好適に用いることができる。このようなウイルスベクターの再構成は、例えば、欠損している遺伝子産物を外来的に供給することにより行うことができる。このようにして製造されたウイルスベクターは、野生型ウイルスと同様に宿主細胞に接着して細胞融合を起こすが、細胞に導入されたベクターゲノムはウイルス遺伝子に欠損を有するため、最初と同じような感染力を持つ娘ウイルス粒子は形成されない。このため、一回限りの遺伝子導入力を持つ安全なウイルスベクターとして有用である。ゲノムから欠損させる遺伝子としては、例えばF遺伝子および/またはHN遺伝子が挙げられる。例えば、F遺伝子が欠損した組み換えパラミクソウイルスベクターゲノムを発現するプラスミドを、F蛋白質の発現ベクターならびにNP、P、およびL蛋白質の発現ベクターと共に宿主細胞にトランスフェクションすることにより、ウイルスベクターの再構成を行うことができる(WO00/70055およびWO00/70070;Li,H.−O.et al.,J.Virol.74(14)6564−6569(2000))。また、例えば、F遺伝子が染色体に組み込まれた宿主細胞を用いてウイルスを製造することもできる。これらの蛋白質群は、そのアミノ酸配列はウイルス由来の配列そのままでなくとも、核酸の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
また、本発明のウイルスベクターとして、ベクターゲノムが由来するウイルスのエンベロープ蛋白質とは異なる蛋白質をエンベロープに含むベクターを作製することもできる。例えば、ウイルス再構成の際に、ベクターのベースとなるウイルスのゲノムがコードするエンベロープ蛋白質以外のエンベロープ蛋白質を細胞で発現させることにより、所望のエンベロープ蛋白質を有するウイルスベクターを製造することができる。このような蛋白質に特に制限はない。例えば、他のウイルスのエンベロープ蛋白質、例えば水疱性口内炎ウイルス(VSV)のG蛋白質(VSV−G)を挙げることができる。本発明のウイルスベクターには、VSV−G蛋白質などのように、ゲノムが由来するウイルス以外のウイルスに由来するエンベロープ蛋白質を含むシュードタイプウイルスベクターが含まれる。ウイルスのゲノムRNAにはこれらのエンベロープ蛋白質をゲノムにコードされないように設計すれば、ウイルス粒子が細胞に感染した後は、ウイルスベクターからこの蛋白質が発現されることはない。
また、本発明のウイルスベクターは、例えば、エンベロープ表面に特定の細胞に接着しうるような接着因子、リガンド、受容体等の蛋白質、抗体またはその断片、あるいはこれらの蛋白質を細胞外領域に有し、ウイルスエンベロープ由来のポリペプチドを細胞内領域に有するキメラ蛋白質などを含むものであってもよい。これにより、ベクターのT細胞への特異性を制御し得る。これらはウイルスゲノムにコードされていてもよいし、ウイルスベクターの再構成時に、ウイルスゲノム以外の遺伝子(例えば別の発現ベクターまたは宿主染色体上などにある遺伝子)の発現により供給されてもよい。
また本発明のベクターは、例えばウイルス蛋白質による免疫原性を低下させるために、またはRNAの転写効率または複製効率を高めるために、ベクターに含まれる任意のウイルス遺伝子が野生型遺伝子から改変されていてよい。具体的には、例えばパラミクソウイルスベクターにおいては、複製因子であるN、P、およびL遺伝子の中の少なくとも一つを改変し、転写または複製の機能を高めることが考えられる。また、エンベロープ蛋白質の1つであるHN蛋白質は、赤血球凝集素であるヘマグルチニン(hemagglutinin)活性とノイラミニダーゼ(neuraminidase)活性との両者の活性を有するが、例えば前者の活性を弱めることができれば、血液中でのウイルスの安定性を向上させることが可能であろうし、例えば後者の活性を改変することにより、感染能を調節することも可能である。また、F蛋白質を改変することにより膜融合能を調節することもできる。また、例えば、細胞表面の抗原分子となりうるF蛋白質またはHN蛋白質の抗原提示エピトープ等を解析し、これを利用してこれらの蛋白質に関する抗原提示能を弱めたウイルスベクターを作製することもできる。
また本発明のベクターにおいては、アクセサリー遺伝子が欠損したものであってよい。例えばSeVのアクセサリー遺伝子の1つであるV遺伝子をノックアウトすることにより、培養細胞における遺伝子発現および複製は障害されることなく、マウス等の宿主に対するSeVの病原性が顕著に減少する(Kato,A.et al.,1997,J.Virol.71:7266−7272;Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578−587;Curran,J.et al.,WO01/04272,EP1067179)。このような弱毒化ベクターは、in vivoまたはex vivoにおける毒性のない遺伝子導入用ウイルスベクターとして特に有用である。
パラミクソウイルスは遺伝子導入ベクターとして優れており、宿主細胞の細胞質でのみ転写・複製を行い、DNAフェーズを持たないため染色体への組み込み(integration)は起こらない(Lamb,R.A.and Kolakofsky,D.,Paramyxoviridae :The viruses and their replication.In:Fields BN,Knipe DM,Howley PM,(eds).Fields of virology.Vol.2.Lippincott−Raven Publishers:Philadelphia,1996,pp.1177−1204)。このため染色体異常による癌化および不死化などの安全面における問題が生じない。パラミクソウイルスのこの特徴は、ベクター化した時の安全性に大きく寄与している。異種遺伝子発現の結果では、例えばセンダイウイルス(SeV)を連続多代継代しても殆ど塩基の変異が認められず、ゲノムの安定性が高く、挿入異種遺伝子を長期間に渡って安定に発現する事が示されている(Yu,D.et al.,Genes Cells 2,457−466(1997))。また、カプシド構造蛋白質を持たないことによる導入遺伝子のサイズまたはパッケージングの柔軟性(flexibility)など性質上のメリットがある。このように、パラミクソウイルスベクターは、ヒトの遺伝子治療のための高効率ベクターの新しいクラスとなることが示唆される。複製能を有するSeVベクターは、外来遺伝子を少なくとも4kbまで導入可能であり、転写ユニットを付加することによって2種類以上の遺伝子を同時に発現する事も可能である。
またセンダイウイルスは、齧歯類にとっては病原性で肺炎を生じることが知られているが、人に対しては病原性がない。これはまた、野生型センダイウイルスの経鼻的投与によって非ヒト霊長類において重篤な有害作用を示さないというこれまでの報告によっても支持されている(Hurwitz,J.L.et al.,Vaccine 15:533−540,1997)。センダイウイルスのこれらの特徴は、センダイウイルスベクターが、ヒトの治療へ応用できることを示唆し、センダイウイルスベクターが、ヒトT細胞を標的とした遺伝子治療の有望な選択肢の一つとなることを結論づけるものである。
本発明のウイルスベクターは、ゲノムRNA中に外来遺伝子をコードし得る。外来遺伝子を含む組換えパラミクソウイルスベクターは、上記のパラミクソウイルスベクターゲノムに外来遺伝子を挿入することによって得られる。外来遺伝子としては、標的とするT細胞において発現させたい所望の遺伝子を用いることができる。外来遺伝子は天然型蛋白質をコードする遺伝子であってもよく、あるいは欠失、置換または挿入により天然型蛋白質を改変した蛋白質をコードする遺伝子であってもよい。外来遺伝子の挿入位置は、例えばウイルスゲノムの蛋白質非コード領域の所望の部位を選択することができ、例えばゲノムRNAの3’リーダー領域と3’端に最も近いウイルス蛋白質ORFとの間、各ウイルス蛋白質ORFの間、および/または5’端に最も近いウイルス蛋白質ORFと5’トレイラー領域の間に挿入することができる。また、FまたはHN遺伝子などを欠失するゲノムでは、その欠失領域に外来遺伝子をコードする核酸を挿入することができる。パラミクソウイルスに外来遺伝子を導入する場合は、ゲノムへの挿入断片のポリヌクレオチドの鎖長が6の倍数となるように挿入することが望ましい(Journal of Virology,Vol.67,No.8,4822−4830,1993)。挿入した外来遺伝子とウイルスORFとの間には、E−I−S配列が構成されるようにする。E−I−S配列を介して2またはそれ以上の遺伝子をタンデムに並べて挿入することができる。
ベクターに搭載する外来遺伝子の発現レベルは、その遺伝子の上流(ネガティブ鎖の3’側)に付加する転写開始配列の種類により調節することができる(WO01/18223)。また、ゲノム上の外来遺伝子の挿入位置によって制御することができ、ネガティブ鎖の3’の近くに挿入するほど発現レベルが高く、5’の近くに挿入するほど発現レベルが低くなる。このように、外来遺伝子の挿入位置は、該遺伝子の所望の発現量を得るために、また前後のウイルス蛋白質をコードする遺伝子との組み合わせが最適となる様に適宜調節することができる。一般に、外来遺伝子の高い発現が得られることが有利と考えられるため、外来遺伝子は、効率の高い転写開始配列に連結し、ネガティブ鎖ゲノムの3’端近くに挿入することが好ましい。具体的には、3’リーダー領域と3’に最も近いウイルス蛋白質ORFとの間に挿入される。あるいは、3’に一番近いウイルス遺伝子と2番目の遺伝子のORFの間に挿入してもよい。野生型パラミクソウイルスにおいては、ゲノムの3’に最も近いウイルス蛋白質遺伝子はN遺伝子であり、2番目の遺伝子はP遺伝子である。逆に、導入遺伝子の高発現が望ましくない場合は、例えばベクターにおける外来遺伝子の挿入位置をネガティブ鎖のなるべく5’側に設定したり、転写開始配列を効率の低いものにするなどして、ウイルスベクターからの発現レベルを低く抑えることで適切な効果が得られるようにすることも可能である。
本発明のベクターを製造するには、哺乳動物細胞においてパラミクソウイルスの成分であるRNPの再構成に必要なウイルス蛋白質、すなわちN、P、およびL蛋白質の存在下、パラミクソウイルスのゲノムRNAをコードするcDNAを転写させる。転写によりネガティブ鎖ゲノム(すなわちウイルスゲノムと同じアンチセンス鎖)を生成させてもよく、あるいはポジティブ鎖(ウイルス蛋白質をコードするセンス鎖)を生成させても、ウイルスRNPを再構成することができる。ベクターの再構成効率を高めるには、好ましくはポジティブ鎖を生成させる。RNA末端は、天然のウイルスゲノムと同様に3’リーダー配列と5’トレイラー配列の末端をなるべく正確に反映させることが好ましい。転写産物の5’端を正確に制御するためには、例えば転写開始部位としてT7 RNAポリメラーゼ認識配列を利用し、該RNAポリメラーゼを細胞内で発現させればよい。転写産物の3’端を制御するには、例えば転写産物の3’端に自己切断型リボザイムをコードさせておき、このリボザイムにより正確に3’端が切り出されるようにすることができる(Hasan,M.K.et al.,J.Gen.Virol.78:2813−2820,1997、Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578−587及びYu,D.et al.,1997,Genes Cells 2:457−466)。
例えば外来遺伝子を有する組み換えセンダイウイルスベクターは、Hasan,M.K.et al.,J.Gen.Virol.78:2813−2820,1997、Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578−587及びYu,D.et al.,1997,Genes Cells 2:457−466の記載等に準じて、次のようにして構築することができる。
まず、目的の外来遺伝子のcDNA塩基配列を含むDNA試料を用意する。DNA試料は、25ng/μl以上の濃度で電気泳動的に単一のプラスミドと確認できることが好ましい。以下、NotI部位を利用してウイルスゲノムRNAをコードするDNAに外来遺伝子を挿入する場合を例にとって説明する。目的とするcDNA塩基配列の中にNotI認識部位が含まれる場合は、部位特異的変異導入法などを用いて、コードするアミノ酸配列を変化させないように塩基配列を改変し、NotI部位を予め除去しておくことが好ましい。この試料から目的の遺伝子断片をPCRにより増幅し回収する。2つのプライマーの5’部分にNotI部位を付加しておくことにより、増幅された断片の両端をNotI部位とする。ウイルスゲノム上に挿入された後の外来遺伝子のORFとその両側のウイルス遺伝子のORFとの間にE−I−S配列が配置されるように、プライマー中にE−I−S配列を含めるように設計する。
例えば、フォワード側合成DNA配列は、NotIによる切断を保証するために5’側に任意の2以上のヌクレオチド(好ましくはGCGおよびGCCなどのNotI認識部位由来の配列が含まれない4塩基、更に好ましくはACTT)を選択し、その3’側にNotI認識部位gcggccgcを付加し、さらにその3’側にスペーサー配列として任意の9塩基または9に6の倍数を加えた数の塩基を付加し、さらにその3’側に所望のcDNAの開始コドンATGからこれを含めてORFの約25塩基相当の配列を付加した形態とする。最後の塩基はGまたはCとなるように該所望のcDNAから約25塩基を選択してフォワード側合成オリゴDNAの3’の末端とすることが好ましい。
リバース側合成DNA配列は5’側から任意の2以上のヌクレオチド(好ましくはGCGおよびGCCなどのNotI認識部位由来の配列が含まれない4塩基、更に好ましくはACTT)を選択し、その3’側にNotI認識部位gcggccgcを付加し、さらにその3’側に長さを調節するための挿入断片のオリゴDNAを付加する。このオリゴDNAの長さは、最終的なPCR増幅産物のNotI断片の鎖長が6の倍数になるように塩基数を設計する(いわゆる「6のルール(rule of six)」;Kolakofski,D.et al.,J.Virol.72:891−899,1998;Calain,P.and Roux,L.,J.Virol.67:4822−4830,1993;Calain,P.and Roux,L.,J.Virol.67:4822−4830,1993)。このプライマーにE−I−S配列を付加する場合には、挿入断片のオリゴDNAの3’側にセンダイウイルスのS配列、I配列、およびE配列の相補鎖配列、好ましくはそれぞれ5’−CTTTCACCCT−3’(配列番号:1)、5’−AAG−3’、および5’−TTTTTCTTACTACGG−3’(配列番号:2)を付加し、さらにその3’側に所望のcDNA配列の終始コドンから逆に数えて約25塩基相当の相補鎖の最後の塩基がGまたはCになるように長さを選択して配列を付加し、リバース側合成DNAの3’の末端とする。
PCRは、Taqポリメラーゼまたはその他のDNAポリメラーゼを用いる通常の方法を用いることができる。増幅した目的断片はNotIで消化した後、pBluescript等のプラスミドベクターのNotI部位に挿入する。得られたPCR産物の塩基配列をシークエンサーで確認し、正しい配列のプラスミドを選択する。このプラスミドから挿入断片をNotIで切り出し、ゲノムcDNAを含むプラスミドのNotI部位にクローニングする。またプラスミドベクターを介さずにゲノムcDNAのNotI部位に直接挿入し、組み換えセンダイウイルスcDNAを得ることも可能である。
例えば、組み換えセンダイウイルスゲノムcDNAであれば、文献記載の方法に準じて構築することができる(Yu,D.et al.,Genes Cells 2:457−466,1997;Hasan,M.K.et al.,J.Gen.Virol.78:2813−2820,1997)。例えば、NotI制限部位を有する18bpのスペーサー配列(5’−(G)−CGGCCGCAGATCTTCACG−3’)(配列番号:3)を、クローニングされたセンダイウイルスゲノムcDNA(pSeV(+))のリーダー配列とN蛋白質のORFとの間に挿入し、デルタ肝炎ウイルスのアンチゲノム鎖(antigenomic strand)由来の自己開裂リボザイム部位を含むプラスミドpSeV18b(+)を得る(Hasan,M.K.et al.,1997,J.General Virology 78:2813−2820)。pSeV18b(+)のNotI部位に外来遺伝子断片を挿入し、所望の外来遺伝子が組み込まれた組み換えセンダイウイルスcDNAを得ることができる。
このようにして作製した組み換えパラミクソウイルスのゲノムRNAをコードするDNAを、上記のウイルス蛋白質(L、P、およびN)存在下で細胞内で転写させることにより、本発明のベクターを再構成することができる。本発明は、本発明のベクターの製造のための、本発明のベクターのウイルスゲノムRNAをコードするDNAを提供する。また本発明は、本発明のベクターの製造に適用するための、該ベクターのゲノムRNAをコードするDNAの使用に関する。組み換えウイルスの再構成は公知の方法を利用して行うことができる(WO97/16539;WO97/16538;Durbin,A.P.et al.,1997,Virology 235:323−332;Whelan,S.P.et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:8388−8392;Schnell.M.J.et al.,1994,EMBO J.13:4195−4203;Radecke,F.et al.,1995,EMBO J.14:5773−5784;Lawson,N.D.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:4477−4481;Garcin,D.et al.,1995,EMBO J.14:6087−6094;Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569−579;Baron,M.D.and Barrett,T.,1997,J.Virol.71:1265−1271;Bridgen,A.and Elliott,R.M.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:15400−15404)。これらの方法により、パラインフルエンザ、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、リンダーペストウイルス、センダイウイルスなどを含むマイナス鎖RNAウイルスをDNAから再構成させることができる。これらの方法に準じて、本発明のベクターを再構成させることができる。ウイルスベクターDNAにおいて、F遺伝子、HN遺伝子、および/またはM遺伝子を欠失させた場合には、そのままでは感染性のウイルス粒子を形成しないが、宿主細胞に、これら欠失させた遺伝子および/または他のウイルスのエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子などを別途、細胞に導入し発現させることにより、感染性のウイルス粒子を形成させることが可能である。
具体的な手順は、(a)パラミクソウイルスゲノムRNA(ネガティブ鎖RNA)またはその相補鎖(ポジティブ鎖)をコードするcDNAを、N、P、およびL蛋白質を発現する細胞で転写させる工程、(b)生成したパラミクソウイルスを含む培養上清を回収する工程、により製造することができる。転写のために、ゲノムRNAをコードするDNAは適当なプロモーターの下流に連結される。転写されたゲノムRNAはN、L、およびP蛋白質の存在下で複製されRNP複合体を形成する。そしてM、HN、およびF蛋白質の存在下でエンベロープに包まれたウイルス粒子が形成される。ゲノムRNAをコードするDNAは、例えばT7プロモーターの下流に連結させ、T7 RNAポリメラーゼによりRNAに転写させる。プロモーターとしては、T7ポリメラーゼの認識配列を含むもの以外にも所望のプロモーターを利用することができる。あるいは、インビトロで転写させたRNAを細胞にトランスフェクトしてもよい。
DNAからのゲノムRNAの最初の転写に必要なT7 RNAポリメラーゼ等の酵素は、これを発現するプラスミドまたはウイルスベクターの導入によって供給することができるし、または、例えば細胞の染色体にRNAポリメラーゼ遺伝子を、発現を誘導できるように組み込んでおき、ウイルス再構成時に発現を誘導することにより供給することもできる。またゲノムRNA、およびベクター再構成に必要なウイルス蛋白質は、例えばこれらを発現するプラスミドの導入によって供給する。これらのウイルス蛋白質の供給において、野生型またはある種の変異パラミクソウイルスなどのヘルパーウイルスを用いる。
ゲノムRNAを発現するDNAを細胞内に導入する方法には、例えば次のような方法、▲1▼目的の細胞が取り込めるようなDNA沈殿物を作る方法、▲2▼目的の細胞による取りこみに適し、かつ細胞毒性の少ない陽電荷特性を持つDNAを含む複合体を作る方法、▲3▼目的の細胞膜に、DNA分子が通り抜けられるだけに十分な穴を電気パルスによって瞬間的に開ける方法などがある。
▲2▼としては、種々のトランスフェクション試薬が利用できる。例えば、DOTMA(Roche)、Superfect(QIAGEN #301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Roche #1811169)などが挙げられる。▲1▼としては例えばリン酸カルシウムを用いたトランスフェクション法が挙げられ、この方法によって細胞内に入ったDNAは貧食小胞に取り込まれるが、核内にも十分な量のDNAが入ることが知られている(Graham,F.L.and Van Der Eb,J.,1973,Virology 52:456;Wigler,M.and Silverstein,S.,1977,Cell 11:223)。ChenおよびOkayamaはトランスファー技術の最適化を検討し、1)細胞と共沈殿物のインキュベーション条件を2〜4%CO、35℃、15〜24時間、2)DNAは直鎖状より環状のものが活性が高く、3)沈殿混液中のDNA濃度が20〜30μg/mlのとき最適な沈殿が得られると報告している(Chen,C.and Okayama,H.,1987,Mol.Cell.Biol.7:2745)。▲2▼の方法は、一過的なトランスフェクションに適している。古くはDEAE−デキストラン(Sigma #D−9885 M.W.5×10)混液を所望のDNA濃度比で調製し、トランスフェクションを行う方法が知られている。複合体の多くはエンドソームの中で分解されてしまうため、効果を高めるためにクロロキンを加えることもできる(Calos,M.P.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:3015)。▲3▼の方法は電気穿孔法と呼ばれる方法で、細胞選択性がないという点で▲1▼または▲2▼の方法に比べて汎用性が高い。効率はパルス電流の持続時間、パルスの形、電界(電極間のギャップ、電圧)の強さ、バッファーの導電率、DNA濃度、細胞密度の最適条件下で良いとされている。
以上、3つのカテゴリーの中で▲2▼の方法は操作が簡便で多量の細胞を用いて多数の検体を検討することができるので、ベクター再構成のためのDNAの細胞への導入には、トランスフェクション試薬が適している。好適にはSuperfect Transfection Ragent(QIAGEN,Cat No.301305)、またはDOSPER Liposomal Transfection Reagent(Roche,Cat No.1811169)が用いられるが、これらに制限されない。
cDNAからのウイルスの再構成は具体的には例えば以下のようにして行うことができる。
24穴から6穴程度のプラスチックプレートまたは100mmペトリ皿等で、10%ウシ胎児血清(FCS)および抗生物質(100units/mlペニシリンGおよび100μg/mlストレプトマイシン)を含む最少必須培地(MEM)を用いてサル腎臓由来細胞株LLC−MK2をほぼ100%コンフルエントになるまで培養し、例えば1μg/ml psoralen(ソラレン)存在下、紫外線(UV)照射処理を20分処理で不活化した、T7 RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルスvTF7−3(Fuerst,T.R.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8122−8126,1986、Kato,A.et al.,Genes Cells 1:569−579,1996)を2 PFU/細胞で感染させる。ソラレンの添加量およびUV照射時間は適宜調整することができる。感染1時間後、2〜60μg、より好ましくは3〜20μgの組換えセンダイウイルスのゲノムRNAをコードするDNAを、ウイルスRNPの生成に必須なトランスに作用するウイルス蛋白質を発現するプラスミド(0.5〜24μgのpGEM−N、0.25〜12μgのpGEM−P、および0.5〜24μgのpGEM−L)(Kato,A.et al.,Genes Cells 1:569−579,1996)と共にSuperfect(QIAGEN社)を用いたリポフェクション法等によりトランスフェクションする。N、P、およびLをコードする発現ベクターの量比は例えば2:1:2とすることが好ましく、プラスミド量は、例えば1〜4μgのpGEM−N、0.5〜2μgのpGEM−P、および1〜4μgのpGEM−L程度で適宜調整する。
トランスフェクションを行った細胞は、所望により100μg/mlのリファンピシン(Sigma)及びシトシンアラビノシド(AraC)、より好ましくは40μg/mlのシトシンアラビノシド(AraC)(Sigma)のみを含む血清不含のMEMで培養し、ワクシニアウイルスによる細胞毒性を最少にとどめ、ウイルスの回収率を最大にするように薬剤の最適濃度を設定する(Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569−579)。トランスフェクションから48〜72時間程度培養後、細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して細胞を破砕した後、RNPを含む破砕物をLLC−MK2細胞に再度トランスフェクションして培養する。または、培養上清を回収し、LLC−MK2細胞の培養液に添加して感染させ培養する。トランスフェクションは、例えばリポフェクトアミンまたはポリカチオニックリポソームなどと共に複合体を形成させて細胞に導入することが可能である。具体的には、種々のトランスフェクション試薬が利用できる。例えば、DOTMA(Roche)、Superfect(QIAGEN #301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Roche #1811169)などが挙げられる。エンドソーム中での分解を防ぐため、クロロキンを加えることもできる(Calos,M.P.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:3015)。RNPが導入された細胞では、RNPからのウイルス遺伝子の発現およびRNPの複製の過程が進行しベクターが増幅する。得られたウイルス溶液を希釈(例えば10倍)して再増幅を繰り返すことにより、ワクシニアウイルスvTF7−3は完全に除去することができる。再増幅は、例えば3回以上繰り返す。得られたベクターは−80℃で保存することができる。エンベロープ蛋白質をコードする遺伝子を欠損した複製能を持たないウイルスベクターを再構成させるには、エンベロープ蛋白質を発現するLLC−MK2細胞をトランスフェクションに使用するか、またはエンベロープ発現プラスミドを共にトランスフェクションすればよい。また、トランスフェクションを行った細胞にエンベロープ蛋白質を発現するLLC−MK2細胞を重層して培養することによって欠損型ウイルスベクターを増幅することもできる(国際公開番号WO00/70055およびWO00/70070参照)。
回収されたウイルスの力価は、例えばCIU(Cell−Infected Unit)測定または赤血球凝集活性(HA)の測定することにより決定することができる(WO00/70070;Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569−579;Yonemitsu,Y.& Kaneda,Y.,Hemaggulutinating virus of Japan−liposome−mediated gene delivery to vascular cells.Ed.by Baker AH.Molecular Biology of Vascular Diseases.Method in Molecular Medicine:Humana Press:pp.295−306,1999)。また、GFP(緑色蛍光蛋白質)などのマーカー遺伝子を搭載したベクターについては、マーカーを指標に直接的に感染細胞をカウントすることにより力価を定量することができる(例えばGFP−CIUとして)。このようにして測定した力価は、CIUと同等に扱うことができる(WO00/70070)。
ウイルスベクターが再構成する限り、再構成に用いる宿主細胞は特に制限されない。例えば、センダイウイルスベクター等の再構成においては、サル腎由来のLLCMK2細胞およびCV−1細胞、ハムスター腎由来のBHK細胞などの培養細胞、ヒト由来細胞等を使うことができる。これらの細胞に適当なエンベロープ蛋白質を発現させることで、そのエンベロープを有する感染性ウイルス粒子を得ることもできる。また、大量にセンダイウイルスベクターを得るために、上記の宿主から得られたウイルスベクターを発育鶏卵に感染させ、該ベクターを増幅することができる。鶏卵を使ったウイルスベクターの製造方法は既に開発されている(中西ら編,(1993),「神経科学研究の先端技術プロトコールIII,分子神経細胞生理学」,厚生社,大阪,pp.153−172)。具体的には、例えば、受精卵を培養器に入れ9〜12日間37〜38℃で培養し、胚を成長させる。ウイルスベクターを尿膜腔へ接種し、数日間(例えば3日間)卵を培養してウイルスベクターを増殖させる。培養期間等の条件は、使用する組み換えセンダイウイルスにより変わり得る。その後、ウイルスを含んだ尿液を回収する。尿液からのセンダイウイルスベクターの分離・精製は常法に従って行うことができる(田代眞人,「ウイルス実験プロトコール」,永井、石浜監修,メジカルビュー社,pp.68−73,(1995))。
例えば、F遺伝子を欠失したセンダイウイルスベクターの構築と調製は、以下のように行うことができる(WO00/70055およびWO00/70070参照)。
〈1〉F遺伝子欠失型センダイウイルスゲノムcDNAおよびF発現プラスミドの構築
センダイウイルス(SeV)全長ゲノムcDNA、pSeV18b(+)(Hasan,M.K.et al.,1997,J.General Virology 78:2813−2820)(「pSeV18b(+)」は「pSeV181」ともいう)のcDNAをSphI/KpnIで消化してフラグメント(14673bp)を回収し、pUC18にクローニングしてプラスミドpUC18/KSとする。F遺伝子欠損部位の構築はこのpUC18/KS上で行う。F遺伝子の欠損は、PCR−ライゲーション方法の組み合わせで行い、結果としてF遺伝子のORF(ATG−TGA=1698bp)を除いて例えばatgcatgccggcagatga(配列番号:4)で連結し、F遺伝子欠失型SeVゲノムcDNA(pSeV18/ΔF)を構築する。PCRは、Fの上流には[forward:5’−gttgagtactgcaagagc/配列番号:5,reverse:5’−tttgccggcatgcatgtttcccaaggggagagttttgcaacc/配列番号:6]、F遺伝子の下流には[forward:5’−atgcatgccggcagatga/配列番号:7,reverse:5’−tgggtgaatgagagaatcagc/配列番号:8]のプライマー対を用いたPCRの産物をEcoT22Iで連結する。このように得られたプラスミドをSacIとSalIで消化して、F遺伝子欠損部位を含む領域の断片(4931bp)を回収してpUC18にクローニングし、pUC18/dFSSとする。このpUC18/dFSSをDraIIIで消化して、断片を回収してpSeV18のF遺伝子を含む領域のDraIII断片と置き換え、ライゲーションしてプラスミドpSeV18/ΔFを得る。
外来遺伝子は、例えばpUC18/dFSSのF遺伝子欠失部位にある制限酵素NsiIおよびNgo MIV部位に挿入する。このためには、例えば外来遺伝子断片を、NsiI−tailedプライマーおよびNgo MIV−tailedプライマーで増幅すればよい。
〈2〉SeV−F蛋白を誘導発現するヘルパー細胞の作製
センダイウイルスのF遺伝子(SeV−F)を発現するCre/loxP誘導型発現プラスミドの構築はSeV−F遺伝子をPCRで増幅し、Cre DNAリコンビナーゼにより遺伝子産物が誘導発現されるように設計されたプラスミドpCALNdlw(Arai,T.et al.,J.Virology 72,1998,p1115−1121)のユニークサイトSwaI部位に挿入し、プラスミドpCALNdLw/Fを構築する。
F遺伝子欠損ゲノムから感染ウイルス粒子を回収するため、SeV−F蛋白を発現するヘルパー細胞株を樹立する。細胞は、例えばSeVの増殖によく用いられているサル腎臓由来細胞株LLC−MK2細胞を用いることができる。LLC−MK2細胞は、10%の熱処理した不動化ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリンGナトリウム50単位/ml、およびストレプトマイシン50μg/mlを添加したMEMで37℃、5%COで培養する。SeV−F遺伝子産物は細胞傷害性を有するため、Cre DNAリコンビナーゼによりF遺伝子産物を誘導発現されるように設計された上記プラスミドpCALNdLw/Fを、リン酸カルシウム法(mammalian transfection kit(Stratagene))により、周知のプロトコールに従ってLLC−MK2細胞に遺伝子導入を行う。
10cmプレートを用い、40%コンフルエントまで生育したLLC−MK2細胞に10μgのプラスミドpCALNdLw/Fを導入後、10mlの10%FBSを含むMEM培地にて、37℃の5%COインキュベーター中で24時間培養する。24時間後に細胞をはがし、10ml培地に懸濁後、10cmシャーレ5枚を用い、5ml 1枚、2ml 2枚、0.2ml 2枚に蒔き、G418(GIBCO−BRL)を1200μg/mlを含む10mlの10%FBSを含むMEM培地にて培養を行い、2日毎に培地交換しながら、14日間培養し、遺伝子の安定導入株の選択を行う。該培地により生育してきたG418に耐性を示す細胞はクローニングリングを用いて回収する。回収した各クローンは10cmプレートでコンフルエントになるまで拡大培養を続ける。
F蛋白質の発現誘導は、細胞を6cmシャーレにてコンフルエントまで生育させた後、アデノウイルスAxCANCreを斉藤らの方法(Saito et al.,Nucl.Acids Res.23:3816−3821(1995);Arai,T.et al.,J.Virol 72,1115−1121(1998))により例えばmoi=3で感染させて行う。
〈3〉F遺伝子欠失SeVウイルスの再構築及び増幅
上記pSeV18/ΔFの外来遺伝子が挿入されたプラスミドを以下のようにしてLLC−MK2細胞にトランスフェクションする。LLC−MK2細胞を5×10cells/dishで100mmのシャーレに播く。T7 RNAポリメラーゼによりゲノムRNAの転写を行わせる場合には、細胞培養24時間後、ソラレン(psoralen)と長波長紫外線(365nm)で20分間処理したT7 RNAポリメラーゼを発現するリコンビナントワクシニアウイルス(PLWUV−VacT7:Fuerst,T.R.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83,8122−8126(1986))をMOI 2程度で室温で1時間感染させる。ワクシニアウイルスへの紫外線照射には、例えば15ワットバルブを5本が装備されたUV Stratalinker 2400(カタログ番号400676(100V),ストラタジーン社,La Jolla,CA,USA)を用いることができる。細胞を無血清のMEMで洗浄した後、ゲノムRNAを発現するプラスミド、およびパラミクソウイルスのそれぞれN、P、L、F、およびHN蛋白質を発現する発現プラスミドを、適当なリポフェクション試薬を用いてこの細胞にトランスフェクトする。プラスミドの量比は、これに限定されないが、好適には順に6:2:1:2:2:2とすることができる。例えば、12μgのゲノムRNAを発現するプラスミド、並びにN、P、L、およびFプラスHN蛋白質を発現する発現プラスミド(pGEM/NP,pGEM/P,pGEM/L及びpGEM/F−HN;WO00/70070,Kato,A.et al.,Genes Cells 1,569−579(1996))を、それぞれ12μg,4μg,2μg,4μg及び4μg/dishの量比トランスフェクトする。数時間培養後、血清を含まないMEMで細胞を2回洗浄し、40μg/mLのCytosine β−D−arabinofuranoside(AraC:Sigma,St.Louis,MO)及び7.5μg/mLのTrypsin(Gibco−BRL,Rockville,MD)を含むMEMで培養する。これらの細胞を回収し、ペレットをOptiMEMに懸濁する(10cells/ml)。凍結融解を3回繰り返してlipofection reagent DOSPER (Boehringer mannheim)と混合し(10cells/25μl DOSPER)室温で15分放置した後、上記でクローニングしたF発現ヘルパー細胞にトランスフェクション(10cells/well 12−well−plate)し、血清を含まないMEM(40μg/ml AraC,7.5μg/mlトリプシンを含む)で培養し、上清を回収する。F以外の遺伝子、例えばHNまたはM遺伝子を欠損したウイルスも、これと同様の方法で調製することができる。
ウイルス遺伝子欠損型ベクターを調製する場合、例えば、ベクターに含まれるウイルスゲノム上で欠損しているウイルス遺伝子が異なる2種またはそれ以上のベクターを同じ細胞に導入すれば、それぞれで欠損するウイルス蛋白質が、他のベクターからの発現により供給されるため、互いに相補しあって感染力のあるウイルス粒子が形成され、複製サイクルがまわりウイルスベクターが増幅される。すなわち、2種またはそれ以上の本発明のベクターを、ウイルス蛋白質を相補する組み合わせで接種すれば、それぞれのウイルス遺伝子欠損型ウイルスベクターの混合物を大量かつ低コストで生産することができる。これらのウイルスは、ウイルス遺伝子が欠損しているため、ウイルス遺伝子を欠損していないウイルスに比べゲノムサイズが小さくなりサイズの大きい外来遺伝子を保持することができる。また、ウイルス遺伝子の欠損により増殖性がないこれらのウイルスは細胞外で希釈され共感染の維持が困難であることから、不稔化するため、環境放出管理上の利点がある。
本発明のパラミクソウイルスにより導入する外来遺伝子としては、特に制限はないが、天然の蛋白質としては、例えばホルモン、サイトカイン、増殖因子、受容体、細胞内シグナル分子、酵素、ペプチドなどが挙げられる。蛋白質は分泌蛋白質、膜蛋白質、細胞質蛋白質、核蛋白質などであり得る。人工的な蛋白質としては、例えば、キメラ毒素などの融合蛋白質、ドミナントネガティブ蛋白質(受容体の可溶性分子または膜結合型ドミナントネガティブ受容体を含む)、欠失型の細胞接着分子および細胞表面分子などが挙げられる。また、分泌シグナル、膜局在化シグナル、核移行シグナル等を付加した蛋白質であってもよい。導入遺伝子としてアンチセンスRNA分子またはRNA切断型リボザイムなどを発現させて、T細胞で発現する特定の遺伝子の機能を抑制することもできる。外来遺伝子として疾患の治療用遺伝子を用いてウイルスベクターを調製すれば、このベクターを投与して遺伝子治療を行うことが可能となる。本発明のウイルスベクターの遺伝子治療への応用としては、直接投与による遺伝子発現、間接(ex vivo)投与による遺伝子発現のいずれの方法によっても、治療効果を期待できる外来遺伝子もしくは患者の体内で供給が不足している内在遺伝子等を発現させることが可能である。また本発明の方法は、再生医療における遺伝子治療ベクターとしても利用できる。
なお、複製性のパラミクソウイルスベクターを個体または細胞に投与後、治療が完了するなどウイルスベクターの増殖を抑止する必要が生じた際には、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤を投与すれば、宿主に障害を与えずにウイルスベクターの増殖だけを特異的に抑止することもできる。
本明細書に記載したウイルス製造方法に従えば、本発明のウイルスベクターは、例えば1×10CIU/mL以上、好ましくは1×10CIU/mL以上、より好ましくは5×10CIU/mL以上、より好ましくは1×10CIU/mL以上、より好ましくは5×10CIU/mL以上、より好ましくは1×10CIU/mL以上、より好ましくは5×10CIU/mL以上の力価でウイルス産生細胞の細胞外液中に放出させることが可能である。ウイルスの力価は、本明細書および他に記載の方法により測定することができる(Kiyotani,K.et al.,Virology 177(1),65−74(1990);WO00/70070)。
回収したパラミクソウイルスベクターは実質的に純粋になるよう精製することができる。精製方法はフィルトレーション(濾過)、遠心分離、およびカラム精製等を含む公知の精製・分離方法またはその組み合わせにより行うことができる。「実質的に純粋」とは、ウイルスベクターが、それが存在する試料中の成分として主要な割合を占めることを言う。典型的には、実質的に純粋なウイルスベクターは、試料中に含まれる全蛋白質(但しキャリアーまたは安定剤として加えた蛋白質は除く)のうち、ウイルスベクター由来の蛋白質の割合が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上を占めることにより確認することができる。パラミクソウイルスの具体的な精製方法としては、例えばセルロース硫酸エステルまたは架橋ポリサッカライド硫酸エステルを用いる方法(特公昭62−30752号公報、特公昭62−33879号公報、および特公昭62−30753号公報)、およびフコース硫酸含有多糖および/またはその分解物に吸着させる方法(WO97/32010)等を例示することができる。
ベクターを含む組成物の製造においては、ベクターは必要に応じて薬理学的に許容される所望の担体または媒体と組み合わせることができる。「薬学的に許容される担体または媒体」とは、ベクターと共に投与することが可能であり、ベクターによる遺伝子導入を有意に阻害しない材料である。例えばベクターを生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、または培養液などで適宜希釈して組成物とすることができる。ベクターを鶏卵で増殖させた場合等においては尿液を含んでよい。またベクターを含む組成物は、脱イオン水、5%デキストロース水溶液等の担体または媒体を含んでいてもよい。さらに、その他にも、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、殺生物剤等が含有されていてもよい。また保存剤またはその他の添加剤を添加することができる。本発明のベクターを含む組成物は試薬として、および医薬として有用である。
本発明のベクターを用いたT細胞への遺伝子導入は、様々な疾患に対する遺伝子治療に適用することが期待される。このような遺伝子治療には、例えば、遺伝子欠損による細胞での発現の異常を補正するために、また、外来遺伝子を細胞に導入することにより新しい機能を付加させるために、あるいは、ある遺伝子に対して抑制的に働く遺伝子を導入することにより細胞における望ましくない作用を抑制するために行い得る。
本発明の方法は、例えば自己免疫疾患等において拒絶反応を抑制するために有用である。例えばアロ抗原、あるいは自己免疫疾患の原因となる主要な抗原を認識する活性化T細胞樹立株を用いて、そのT細胞に本発明の方法に従って抑制性サイトカイン、例えばIL−10等を強発現させることによって、生体内のT細胞のアロ反応を抑制、あるいは抑制性樹状細胞の誘導により、拒絶反応をコントロールできると予想される。また、本発明の方法によるT細胞への遺伝子導入を介した癌治療も期待される。例えば、腫瘍特異的抗原を認識するT細胞に血管増殖抑制遺伝子をコードするベクターを導入することにより、局所の腫瘍増殖抑制効果が期待される。あるいは脱髄疾患である多発性硬化症などの場合にはそのターゲットとなる抗原で活性化したT細胞を用い、oligodendrocyteを幹細胞より分化させ得るPDGF(platelet derived growth factor−A)などの遺伝子を導入し、局所でのoligodendrocyte再生を促し、病勢のコントロールが可能と予想される(Vincent,K.T.et al.,Journal of Neuroimmunology,2000,107:226−232)。その他にも、抗原活性化T細胞あるいは抗原非特異的活性化T細胞(抗体またはマイトゲンを使用する活性化T細胞)を用い、遺伝子導入することにより治療効果が期待されるすべての疾患・傷害に対して、本発明の方法を適用することが可能である。
パラミクソウイルスにより導入された遺伝子の転写は、インターフェロン(IFNs)などの宿主由来の因子により影響を受ける(Kato,A.et al.,J.Virol.,2001,75:3802−3810)。アロ抗原で刺激したT細胞株からは大量のIFNが産生されることから、IFN−γなどのIFNがパラミクソウイルスベクターからの遺伝子の転写に影響を与える可能性がある(Biron,C.A.and Sen,G.C.,Interferons and other cytokine.In:Fields BN,Knipe DM,Howley PM,(eds).Fields of virology.Vol.2.Lippincott−Raven Publishers:Philadelphia,1996.321−351)。実際、本発明者らは、IFN−γ受容体欠損マウスからのアロ活性化T細胞株は、3週間以上にわたってEGFPの比較的高い発現が持続することを見いだした。従って、T細胞を指向した遺伝子治療において、標的遺伝子の高いレベルの発現が必要な場合には、IFN−γのシグナル伝達を抑制することが有効と考えられる。
ベクターの投与量は、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与目的、投与組成物の形態、投与方法、導入遺伝子等により異なるが、当業者であれば適宜決定することが可能である。投与経路は適宜選択することができる。また局所あるいは全身に投与し得る。投与されるベクターは好ましくは約10CIU/mlから約1011CIU/ml、より好ましくは約10CIU/mlから約10CIU/ml、最も好ましくは約1×10CIU/mlから約5×10CIU/mlの範囲内の量を薬学上容認可能な担体中で投与することが好ましい。ヒトにおいては1回当たりの投与量は2×10CIU〜2×1011CIUが好ましく、投与回数は、1回または臨床上容認可能な副作用の範囲で複数回可能であり、1日の投与回数についても同様である。ヒト以外の動物についても、例えば目的の動物とヒトとの体重比または投与標的部位の容積比(例えば平均値)で上記の投与量を換算した量を投与することができる。エクスビボ投与の場合は、体外(例えば試験管またはシャーレ内)でT細胞にベクターを接触させる。MOIは1〜500の間で投与することが好ましく、より好ましくは2〜300、さらに好ましくは3〜200である。本発明のベクターを含む組成物の投与対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ウシ、イヌなど全ての哺乳動物が含まれる。
【図面の簡単な説明】
図1は、マウスT細胞におけるSeVによる遺伝子導入効率を示す図である。活性化またはナイーブT細胞における遺伝子導入効率を示す。マウスリンパ球を2.5×10PFU(MOI 62.5)のSeV−EGFPの存在下または非存在下で2日間培養し、細胞を回収してAPC結合抗CD3およびPE結合抗CD4(上パネル)または抗CD8(下パネル)抗体で染色した。ドットプロットは、生存しているCD3CD4またはCD3CD8リンパ球中のそれぞれCD4またはCD8と、GFPの発現を示す。四分割したそれぞれの右上の隅に、EGFP陽性細胞の割合として遺伝子導入効率を示した。左のパネル:抗体をコートしていないウェルで細胞を培養した。中央のパネル:活性化抗体(抗CD3および抗CD28抗体)をコートしたウェルで細胞を培養した。右のパネル:活性化抗体(抗CD3および抗CD28抗体)をコートしたウェルで、SeV−EGFPなしで細胞を培養した。陰性対照として、ルシフェラーゼを発現するSeV−luciと共に培養した細胞からも類似したデータを取得した。4回より多い独立した実験から、再現性のあるデータが得られた。
図2は、T細胞株へのSeVによる遺伝子導入効率を示す図である。T細胞株を2.5×10PFU(MOI 62.5)のSeV−EGFPの存在下または非存在下で2日間培養し、細胞を回収してAPC結合抗CD3およびPE結合抗CD4(上パネル)または抗CD8(下パネル)抗体で染色した。最も左のパネルのドットプロットは、ゲート(区分)された生存しているリンパ球中のCD3およびCD4またはCD8の発現を示す。それぞれの四分割の割合が示されている。他のパネルのドットプロットはゲートされたCD3陽性の生存リンパ球中のCD4またはCD8 T細胞のEGFPの発現を示す。左から2番目のパネルでは、細胞を照射B6スティミュレーター(刺激細胞)と共に培養した。3番目のパネルでは、細胞を照射Balb/cスティミュレーター(刺激細胞)と共に培養した。最後のパネルでは、細胞を照射Balb/cスティミュレーター(刺激細胞)と共にSeV−EGFPなしで培養した。4回より多い独立した実験から、再現性のあるデータが得られた。
図3は、ナイーブT細胞およびT細胞株のアロ抗原特異的活性化における遺伝子導入効率を示す図である。ナイーブ2Cリンパ球(上パネル;″1x″の文字)または2CT細胞株(下パネル;″3x″の文字)を2.5×10PFUのSeV−EGFPの存在下または非存在下で2日間培養し、細胞を回収して、APC結合抗CD8およびビオチン結合抗クロノタイプT細胞レセプターmAb(1B2)で染色し、さらにPEストレプトアビジンで染色した。一番左のパネルは、ゲートされた生存リンパ球中のCD81B2T細胞の割合を示す。他のパネルのドットプロットは、生存しているクロノタイプT細胞のEGFPの発現を示す。左から2番目のパネルでは、細胞を照射B6スティミュレーター(刺激細胞)と共に培養した。3番目のパネルでは、細胞を照射Balb/cスティミュレーター(刺激細胞)と共に培養した。最後のパネルでは、細胞を照射Balb/cスティミュレーター(刺激細胞)と共にSeV−EGFPなしで培養した。2回の独立した実験から、再現性のあるデータが得られた。
図4は、SeVによる遺伝子導入におけるバイスタンダー活性化の効果を示す図である。50μlの2Cナイーブリンパ球(1×10/ml)および50μlのB6ナイーブリンパ球(1×10/ml)を、2.5×10PFUのSeV−EGFPの存在下(X軸の表示が+のもの)または非存在下(X軸の表示が−のもの)、100μlの照射したBalb/c(黒いバー)、B6(灰色のバー)、またはC3H(チェックのバー)リンパ球(1×10/ml)またはリンパ球なし(白のバー)で2日間刺激した。ゲートされた生存しているCD81B2T細胞からEGFP陽性細胞の割合を得た。Y軸はEGFP陽性のクロノタイプ細胞の割合を示す。個々のデータは3連にしたウェル(n=3)の平均±標準誤差(SEM)として示し、2回の独立した実験で類似した結果を得た。C3Hで刺激した2C T細胞とBalb/cで刺激した2C T細胞との間には統計学的有意差(p<0.01)があったが、C3Hで刺激した2C T細胞とB6で刺激した2C T細胞との間にはそれがなかった。統計学的有意性は一元配置分散分析法及びFisher’s PLSD testを用いて決定した。
図5は、SeV−EGFPにより遺伝子導入されたT細胞のGFP発現の維持を示す図である。2C−tgマウスからのT細胞株を、SeV−EGFPの存在下、B6(左カラム)またはBalb/c(右カラム)の照射したリンパ球で6日間刺激し、遺伝子導入したT細胞を新しい培地で洗浄後、SeVなしで、照射したB6またはBalb/cスティミュレーターで6または7日間再刺激した。ドットプロットは生存しているクロノタイプT細胞中のEGFPの発現を示す。四分割の各右上の隅の数字は、day13(上パネル)およびday20(中央パネル)におけるEGFP陽性または陰性のクロノタイプT細胞の割合を示す。陰性対照として、20日間刺激した非感染2C T細胞株からのデータを示した(下パネル)。データは2回の独立した実験の代表例である。
図6は、ヒトT細胞へのSeVによる遺伝子導入効率を示す図である。活性化またはナイーブT細胞における遺伝子導入効率を示す。200μlのヒトリンパ球(4×10/ml)を2.5×10PFU(MOI 31)のSeV−EGFPの存在下または非存在下、2日間培養し、細胞を回収してAPC結合抗CD3およびPE結合抗CD4(上パネル)または抗CD8(下パネル)抗体で染色した。ドットプロットは、生存しているCD3CD4またはCD3CD8Tリンパ球中のそれぞれCD4またはCD8と、GFPの発現を示す。遺伝子導入効率は、示されているT細胞中のEGFP陽性細胞の割合として示した。左のパネル:抗体をコートしていないウェルで細胞を培養した。中央のパネル:活性化抗体(抗CD3および抗CD28抗体)をコートしたウェルで細胞を培養した。右のパネル:活性化抗体(抗CD3および抗CD28抗体)をコートしたウェルで、SeV−EGFPなしで細胞を培養した。陰性対照として、SeV−luciと共に培養した細胞からも同様にデータを取得した。四分割の各右隅の数字はその集団の割合を示す。4回より多い独立した実験から、再現性のあるデータが得られた。
図7は、ヒトナイーブまたはメモリー/活性化T細胞への遺伝子導入の効率を示す図である。新しく単離したT細胞を抗体をコートしていないウェルでSeV−EGFPと共に2日間培養し、細胞を回収してAPC結合抗CD62L、PE結合抗CD3、およびビオチン化抗CD45RA抗体で染色し、続いてストレプトアビジンPerCPで染色した。左のパネルで、ドットプロットはゲート(区分)された生存CD3陽性T細胞中のCD62LおよびCD45RAの発現を示す。右のパネルで、ドットプロットは、ナイーブT細胞であるCD62LhighおよびCD45RAhighT細胞中(上パネル)、またはメモリー/活性化T細胞であるその他の細胞中(下パネル)のCD3およびEGFPの発現を示す。健常者ドナーからの3回の実験において再現性のあるデータが得られた。
図8は、ヒトT細胞株への遺伝子導入効率を示す図である。ヒトT細胞株を図6のようにSeV−EGFPの存在下または非存在下、2日間培養し、図6のように解析した。CD4(上パネル)あるいはCD8(下パネル)T細胞中のEGFP発現割合を示した。左のパネル;抗体をコートしてないウェルで細胞を培養した。中央パネル;抗体(ヒト抗CD3およびヒト抗CD28抗体)をコートしたウェルで細胞を培養した。右パネル;抗体(ヒト抗CD3およびヒト抗CD28抗体)をコートしたウェルでSeV−EGFP非存在下に細胞を培養した。
図9は、ナイーブまたは活性化T細胞へのSeVの侵入(entry)の評価を示す図である。B6リンパ球(4×10/ml)をUVで不活化したSeV−luciの存在下(白および灰色のバー)または非存在下(黒のバー)で30分37℃でインキュベートした後、細胞をよく洗浄し、SeV−EGFP(MOI=62.5)を共に30分37℃でインキュベートした。細胞を3回洗浄した後、200μlの細胞懸濁液(2×10/ml)をマウス抗CD3およびマウス抗CD28抗体をコートした活性化ウェル中でウイルスなしで2日間培養した。陽性対照として、調製した細胞を2.5×10PFUのSeV−EGFPと共に活性化ウェル中で2日間培養した(白いバー)。回収した細胞は、APC結合抗CD3およびPE結合抗CD8抗体で染色した。ゲート(区分)した生存CD3CD4またはCD3CD8T細胞からEGFP陽性細胞の割合を得た。Y軸は、EGFP陽性のCD4(左の3つのバー)またはCD8(右の3つのバー)T細胞の割合を示す。個々のデータは3連にしたウェル(n=3)の平均の割合±SEMとして示した。各群間で統計学的有意差があった(p<0.01)。統計学的有意性は一元配置分散分析法及びFisher’s PLSD testを用いて決定した。
図10は、ナイーブまたは活性化T細胞へのSeVの侵入(entry)の評価を示す図である。B6リンパ球をSeV−EGFP(MOI=100)の非存在下(X軸の一番左のスケール)または存在下(X軸のその他のスケール)、30分4℃でインキュベートし、細胞をよく洗浄し、SeVなしで0、15、30、45、および90分37℃でインキュベートした。3回洗浄後、それぞれ図示した期間インキュベートした細胞を、マウス抗CD3およびマウス抗CD28抗体をコートした活性化ウェル中で2日間培養した。細胞を回収し、図9に記載した通りに染色した(CD4 T細胞は黒い円、CD8 T細胞は黒い四角)。陽性対照として、調製した細胞を2.5×10PFU(MOI=62.5)のSeV−EGFPと共に培養した(CD4 T細胞は白い円、CD8 T細胞は白い四角)。値は3連にしたウェル(n=3)の平均の割合±SEMとして示した。CD4 T細胞およびCD8 T細胞の両方において、37℃0分のインキュベーションにおける値と15分のインキュベーションにおける値との間に統計学的有意差があった(p<0.01)。さらに、37℃0分のインキュベーションにおける値と90分のインキュベーションにおける値との間にも統計学的有意差があった(p<0.01)。統計学的有意性は一元配置分散分析法及びFisher’s PLSD testを用いて決定した。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、本明細書の一部として組み込まれる。統計的有意性は一元配置分散分析法及びFisher’s PLSD testを用いて決定した。P<0.05を統計的有意とした。
動物
近交系雌C57BL/6(H−2)(B6と略記する)、C3H(H−2)、および雌Balb/c(H−2)マウス(Charles Riverグレードマウス)はKBTオリエンタル(Tosu,Japan)より得た。クラスI MHC抗原L反応性T細胞レセプター(TCR)のトランスジェニックマウスである2Cトランスジェニックマウス(2c−tg,H−2)は文献Sha,W.C.et al.,Nature,1988,335:271−274に記載されている。マウスは全て人道的に扱い、特定病原菌フリーで維持し、標準的なげっ歯類用の餌および水道水を与えた。7から9週齢のマウスを使用した。動物実験は、九州大学における動物実験倫理委員会(Commitee of Ethics on Animal Experiments)および組み換えDNA実験委員会(Commitee of Recombinant DNA Experiments)の検査を受け、九州大学の「動物実験ガイドライン」に従って実施した。また、アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health)の「研究室動物のケアの原則」(Principles of Laboratory Animal Care)および「研究室動物のケアおよび使用のための指針」(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)にも従った。
組み換えSeVの構築
EGFP(クラゲ増強緑色蛍光蛋白質)遺伝子またはホタルルシフェラーゼ遺伝子を持つSeV(それぞれSeV−EGFPまたはSeV−luci)は、文献の記載の通りに構築した(Kato,A.et al.,Genes Cells,1996,1:569−579;Sakai,Y.et al.,FEBS Lett.,1999,456:221−226)。具体的には、NotI制限酵素部位を含む18bpのスペーサー配列5’−(G)−CGGCCGCAGATCTTCACG−3’(配列番号:3)を、SeVのゲノムをコードするcDNAを含むベクターの5’非翻訳領域とヌクレオカプシド(N)遺伝子の開始コドンとの間に挿入した。クローン化されたSeVゲノムcDNAを含むこのベクターには、デルタ肝炎ウイルスのアンチゲノム鎖の自已切断型リボソーム部位も含まれている。NotI部位と、外来遺伝子の発現のための新しいSeVのEおよびSシグナル配列タグのセットを含むプライマーを用いて、EGFP(SeV−EGFPについて)またはルシフェラーゼ(SeV−luciについて)をコードする全cDNAをPCRにより増幅し、上記のクローン化したゲノムのNotI部位に挿入した。鋳型となるSeVゲノムの全長は、外来遺伝子を含めて6の倍数の塩基となるようにした(いわゆる″6のルール″(rule of six))(Kolakofsky,D.et al.,J.Virol.,1998,72:891−899)。外来遺伝子を持つ鋳型SeVゲノム、およびN、ホスホ(P)、およびラージ(L)蛋白質をコードするプラスミド(それぞれプラスミドpGEM−N,pGEM−P,およびpGEM−L)を商業的に入手可能なカチオニックリピッドと複合体を形成させ、ワクシニアウイルスvT7−3と共にCV−1またはLLCMK細胞にコトランスフェクトした(Fuerst,T.R.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1986,83:8122−8126)。40時間後、凍結融解を3回繰り返して細胞を破砕し、10日齢(10−day−old)の発育鶏卵の尿嚢(chorioallantoic cavity)に注入した。その後ウイルスを回収し、鶏卵中で2回継代してワクシニアウイルスを除去した。ニワトリ赤血球を用いたヘマグルチネーションアッセイによりウイルスのタイターを決定し(Yonemitsu,Y.& Kaneda,Y.,Hemaggulutinating virus of Japan−liposome−mediated gene delivery to vascular cells.Ed.by Baker AH.Molecular Biology of Vascular Diseases.Method in Molecular Medicine:Humana Press:pp.295−306,1999)、ウイルスは使用するまで−80℃で保存した。
モノクローナル抗体(mAb)
ビオチン化ヒトCD45 RA(HI100)mAb、アロフィコシアニン(allophycocyanin;APC)結合抗マウスCD3(145−2C11)、マウスCD8(53−6.7)、およびヒトCD62L(DREG−56)mAb、フィコエリスリン(PE)結合抗ヒトCD3(UCHT1)、ヒトCD4(RPA−T4)、マウスCD4(GK1.5)、およびマウスCD8(53.67)mAb、PE結合ストレプトアビジン、並びにペリジニンクロロフィルαプロテイン(perCP)結合ストレプトアビジンはPharMingen(San Diego,CA,USA)より購入した。
APC結合抗ヒトCD3(UCHT1)mAbはDAKO(Kyoto,Japan)より購入した。PE結合抗ヒトCD8(NU−Ts/c)mAbはニチレイ(Tokyo,Japan)より購入した。抗2CクロノタイプTCR決定因子(anti 2C clonotypic TCR determinant)mAbは、本発明者らがハイブリドーマ(1B2)(Sha,W.C.et al.,Nature,1988,335:271−274)の培養上清からHiTrap protein Gカラム(Amersham Pharmacia Bioscience Inc.,Buckinghamshire UK)を用いて精製し、EZ−LinkTM NHS−LC Biotin(PIERCE Biotechnology Inc.,Rockfold,IL,U.S.A.)を用いてビオチン化した。
T細胞の活性化のために、PharMingen(San Diego,CA,USA)より購入した精製抗マウスCD3(145−2C11)、マウスCD28(37.51)、ヒトCD3(HIT3a)、抗ヒトCD28(CD28.2)を用いた。
細胞の調製
20mM N−2−hydroxyethylpiperazine−N’−2−ethanesulfonic acid(HEPES),0.2%sodium bicarbonate,50μM 2−mercaptoethanol(2−ME),10μg/ml gentamicine sodium,および10%熱不動化ウシ胎児血清(FBS)(ICN Biomedicals,Inc.,Arora,OH,U.S.A.)を加えたRPMI 1640(SIGMA,St.Louis,MO,U.S.A.)培地を完全培地として用いた。
マウスリンパ球の調製のため、脾臓、リンパ節を回収し完全培地中、氷上に保持した。脾臓およびリンパ節は、培地中、2枚のガラススライドの間で組織断片に圧力をかけて破砕した。細胞懸濁液をステンレスメッシュで濾過し、培地で2回洗浄した。赤血球は塩化アンモニウム炭酸カリウムリシスバッファー(ammonium chloride potassium carbonate lysing buffer)を用いてリシスさせた。ヒト末梢血リンパ球(PBL)については、健常者ドナーより血液を採取し、Ficoll PaqueTM Plus(Pharmacia Biotech Inc.,Wikstroms,Sweden)によりリンパ球を分離した。標準的なトリパンブルー色素排除アッセイ系を用いて、生存している有核細胞をカウントした。
マウス及びヒトT細胞株の樹立
アロ反応性T細胞株を調製するため、B6または2C−tgマウスのリンパ球(5×10)を、30Gy(137Cs;Gammacell 40,Atomic Energy of Canada Limited,Ottawa,Canada)を照射したBalb/cリンパ球(5×10)と共に、50mlフラスコ(35−3014;FALCON,Beckton Dickinson Bioscience,Inc.,Franklin Lake,NJ,U.S.A.)中、総量10mlのRPMI 1640完全培地中で6日間共培養した。活性化したアロ反応性T細胞は、10ng/mlのヒトIL−2(Immuno−Biological Laboratories Co.,Ltd,Fujioka,Japan)を添加して、照射Balb/cリンパ球により週ごとに刺激した。この方法では、B6から得られるT細胞株は、ほとんどがCD8 T細胞からなることから、CD4 T細胞株を得るために、B6のCD8を枯渇させた(CD8−depleted)リンパ球を照射リンパ球で刺激した。CD8を枯渇させたリンパ球の調製のため、新しく単離したリンパ球を抗マウスCD8(Lyt−2.2:Meiji,Tokyo,Japan)mAbと共に30分4℃でインキュベートし、続いて Low−ToxTM−M Rabbit completent(Cedarlane,Ontario,Canada)と共に50分37℃でインキュベートした。3回以上刺激した、B6または2C−tgのアロ抗原活性化T細胞を、マウスT細胞株として用いた。
ヒトT細胞株を調製するため、ある健康人の末梢血リンパ球(5×10)を別の健康人の放射線照射(30Gy)末梢血リンパ球(5×10)と10ng/mlのhuman IL−2存在下に1mlのRPMI−1640感染培地中で7日間共培養した。その後、7日間ごとに少なくとも2回のリンパ球による再刺激を行ったものをT細胞株として使用した。
フローサイトメトリー解析
回収したマウス細胞を遠心分離し、抗マウスCD16/32mAbを産生する培養ハイブリドーマ(2.4G2;American type culture collection,Manassas,VA,U.S.A)の上清50μlと30分4℃でインキュベートした。ヒトリンパ球ではこのステップは排除した。細胞を完全培地で洗浄し、mAbを様々に組み合わせて30分4℃でインキュベートし、その後完全培地で2回洗浄した。ビオチン化mAbはPEストレプトアビジンまたはPerCPストレプトアビジンで検出した。標識した細胞はFACS CaliberによりCellQuestプログラム(Becton Dickinson,San Jose,CA,USA)およびFLOWJOプログラム(TREE STAR,Inc.,San Carlos,CA,USA)を用いて解析した。サイトメーターにアプライする直前に、死細胞を検出して排除するため250μlの細胞懸濁液に125ngのpropidium iodide(PI)を加えた。このステップは、ヒト活性化/メモリーT細胞からのナイーブT細胞の認識においては除外した。EGFPは蛍光1(fluorescence 1)で検出した。マウスまたはヒトの実験において、CD3CD4PI細胞の集団を生存CD4 T細胞と表し、CD3CD8PI細胞の集団を生存CD8 T細胞と表した。トランスジェニッククロノタイプT細胞であるCD81B2PI細胞を生存2cT細胞と表した。ナイーブヒトT細胞または活性化/メモリーヒトT細胞は、それぞれCD62LCD45RACD3細胞としてゲート(区分)されたものまたはCD3細胞の中のその他としてゲート(区分)されたものとした(Picker,L.J.et al.,J.Immunol.,1993,150:1105−1121;Ostrowski,M.A.et al.,J.Virol.,1999,73:6430−6435)。
マウスまたはヒトT細胞へのSeVによる遺伝子送達
活性化またはナイーブT細胞における遺伝子導入効率を評価するため、抗マウスCD3mAb(15μg/ml)および抗マウスCD28mAb(20μg/ml)でコートした、あるいはコートしていない96ウェル平底プレート(3860−096;IWAKI,Tokyo,Japan)中で、200μlのマウスリンパ球(2×10/ml)の懸濁液を、2.5×10plaque forming unit(PFU)のSeV−EGFPと共に2日間培養した。ヒトリンパ球では、抗ヒトCD3mAb(10μg/ml)および抗ヒトCD28mAb(10μg/ml)でコートした、あるいはコートしていない96ウェル平底プレート中で、200μlのヒト末梢血リンパ球(PBL)(4×10/ml)またはヒトT細胞株(4×10/ml)の懸濁液を、2.5×10PFUのSeV−EGFPと共に2日間培養した。アロ活性化T細胞株の導入効率の評価では、2.5×10PFUのSeV−EGFPと共に100μlのB6または2C−tgマウスのT細胞株(2×10/ml)をB6またはBalb/cマウスの30Gyを照射したリンパ球(1×10/ml)100μlと2日間共培養するか、あるいは200μlのB6または2C−tgマウスのT細胞株(2×10/ml)を抗体(抗CD3抗体および抗CD28抗体)をコートした96ウェル平底プレートで2日間、2.5×10PFUのSeV−EGFPと共培養して行った。ナイーブT細胞のアロ抗原特異的活性化における遺伝子導入効率の評価では、2C−tgマウスから新しく単離したリンパ球を用いた。別の実験では、6×10PFUのSeV−EGFPの存在下、2C−tgマウスからのT細胞株(2×10/ml)2.5mlをB6またはBalb/cマウスからの30Gy照射リンパ球(1×10/ml)2.5mlで6日間刺激し(3または4日毎に、半分の培地を新しい培地に交換した)、遺伝子導入を行ったT細胞を新しい培地で洗浄し、SeVなしで6または7日間、照射B6またはBalb/cリンパ球で再刺激した(再刺激は6または7日毎に行った)。バイスタンダー活性化の効果を評価するためには、50μlの2Cナイーブリンパ球(1×10/ml)および50μlのB6ナイーブリンパ球(1×10/ml)の混合液を、2.5×10PFUのSeV−EGFPの存在下、100μlの照射Balb/c、B6、またはC3Hリンパ球(1×10/ml)100μlで2日間刺激した。
各サンプルを3つのウェルに重複させ、5%COを含む湿大気中で37℃で培養した。SeVの感染後48時間でEGFPの発現は最大となった。適当な濃度の活性化mABまたは最適化した用量のSeVを、タイトレーション実験により決定した。最大の割合でT細胞にEGFPを導入するSeVの最低の用量は、多重感染度(Multiplicity of infection;MOI)12.5であり、500より高いMOIのSeVはT細胞に対して細胞変性効果(cytopathic effect)を有していた。
ナイーブまたは活性化T細胞へのSeVの侵入(entry)の評価
B6リンパ球(4×10/ml)を、2000mjのUV(UV crosslinker;Pharmacia Biotech Inc.,San Francisco,CA,USA)で不活化したSeV−luci(5×10PFU/ml)の1:1の比での存在下または非存在下、30分37℃でインキュベートした後、細胞を完全培地でよく洗浄し、SeV−EGFP(2.5×10PFU/ml)と1:1の比で30分37℃でインキュベートした。3回洗浄した後、200μlの細胞懸濁液(2×10/ml)を、抗マウスCD3mAb(15μg/ml)および抗マウスCD28mAb(20μg/ml)でコートした96ウェル平底プレート中で2日間培養した。最後の洗浄を行った培地中に混入しているSeVは、活性化ウェル中の前処理していないT細胞に対してほとんどEGFPを導入する能力がなかったことから、この洗浄過程は十分であったことが確認された。陽性対照として、調製した細胞を活性化ウェルにて、2.5×10PFUのSeV−EGFPと共に2日間培養した。ナイーブT細胞からの接着したSeVの解離を調べるため、10mlのB6リンパ球(2×10/ml)を2×10PFUのSeV−EGFPの存在下または非存在下、30分4℃でインキュベートし、細胞を完全培地でよく洗浄した後、SeVなしで0、15、30、45、および90分37℃でインキュベートした。3回洗浄した後、細胞を活性化ウェル中で37℃で2日間培養した。陽性対照として、調製した細胞を2.5×10PFUのSeV−EGFPと共に培養した。
[実施例1]組み換えSeVは高い効率でEGFPを活性化T細胞に導入する
センダイウイルスベクターがT細胞にEGFP遺伝子を導入できるかを調べた。まず、マウスリンパ球をSeV−EGFP(MOI=62.5)と共に48時間培養した。EGFP陽性の非刺激マウスCD3CD4またはCD3CD8T細胞(それぞれCD4 T細胞またはCD8 T細胞とも称す)の割合は低かった一方(それぞれ0.5〜1.5%または0.8〜2.0%)、固着化した抗CD3抗体および抗CD28抗体を用いて非特異的に活性化したCD3CD4またはCD3CD8T細胞は高い強度でEGFPを発現し、EGFP陽性細胞の割合は劇的に上昇した(それぞれ65〜85%または70〜92%)(図1)。CD4 T細胞およびCD8 T細胞の両方の場合で、EGFP陽性細胞の割合はSeVの用量依存的に上昇し、MOIが12.5の時にほぼプラトーのレベルに達した。
次に、抗原で活性化したT細胞株への遺伝子送達が可能か否かを調べるため、in vivoで免疫することなしに初代培養においてナイーブTリンパ球が応答し増殖することができるT細胞刺激抗原としてアロ抗原を用いた。C57BL/6からの非改変リンパ球とBalb/cからの照射リンパ球との共培養により生成したT細胞株は、ほとんどはCD8 T細胞からなるため、CD8 T細胞を枯渇させたリンパ球を照射した刺激リンパ球と共培養してCD4 T細胞株を得た。また、これとは別に、2c−tgマウスからのT細胞(2cT細胞)を用いたが、これはL特異的TCRを発現するナイーブT細胞クローンを大量に持っており、抗原特異的な初代T細胞の応答における遺伝子導入を観察することが可能であった。期待したように、アロ抗原で刺激したT細胞株は、照射を行ったアロジェニックなリンパ球の存在下、SeVにより効率的にEGFPが導入された(図2)。さらに、刺激するアロジェニックなリンパ球の非存在下でさえも、活性化T細胞は効率的に遺伝子導入された(図2)。この効果は、CD4 T細胞およびCD8 T細胞の両者で共通していたが、EGFP発現レベルおよび陽性細胞の割合は、CD8 T細胞株よりもCD4 T細胞株の方がわずかに低い傾向があった。これらの知見は、SeVはT細胞に対し、T細胞が活性化状態にあれば標的遺伝子を送達することができることを示している。
これらの知見をT細胞の抗原特異的応答において確認するため、Lに特異的に応答し、ナイーブな状態でもCD81B2集団としてバルクのリンパ球の中から区別することが可能な、2c−tgマウスからのT細胞を用いた。ナイーブ2cT細胞はアロであるBalb/c刺激細胞の存在下でのみEGFPを非常に強く発現し、シンジェニックであるB6刺激細胞ではほとんど発現が見られなかったが、Balb/c刺激細胞で3回以上刺激し、活性化した2cT細胞に対しては、B6あるいはBalb/cの刺激細胞どちらの存在下でもSeVは効率的にEGFPを導入した(図3)。それに加え、単純にT細胞株をSeVと共にたった30分37℃でインキュベートしても、EGFPを最大に発現させるのに十分であった(データ省略)。
さらに、SeVによるこの非常に強い導入が抗原特異的に活性化したT細胞に限られるのかを明らかにするため、以下のような実験を行った。非抗原特異的T細胞は、in vitroでの強力なアロ応答のバイスタンダー効果により活性化され得る。C3HスティミュレーターではなくBalb/cスティミュレーターに応答することができる抗原特異的T細胞としてナイーブ2cT細胞を用いた。C57BL/6および2CナイーブT細胞の混合物からなるレスポンダー(応答細胞)を、Balb/c、C57BL/6、C3H刺激細胞、または何もなしに共培養し、2.5×10PFUのSeV−EGFPを培養ウェルに添加した。この培養系において、混合リンパ球培養中でC57BL/6マウスからのT細胞がC3Hスティミュレーターに強く応答している時に、SeV−EGFPにより2cT細胞にEGFP遺伝子が導入されるかを調べることができた。C3H刺激細胞を用いると、C57BL/6T細胞のC3Hスティミュレーターに対する応答は起こっても、2cT細胞にEGFPは導入されず、C57BL/6刺激細胞を用いた場合または刺激細胞を何も用いなかった場合と同様であった(図4)。それに対して、Balb/cスティミュレーターを用いた場合、2cT細胞はEGFPを非常に強く発現した(図4)。従って、SeVによるこの遺伝子導入は特異的な抗原で活性化されたT細胞に限定されていた。
[実施例2]活性化T細胞におけるSeVによる導入遺伝子の発現期間
次に、導入遺伝子のin virtoでの維持について調べた。活性化2cT細胞をセンダイウイルスと共培養し、遺伝子導入されたT細胞をBalb/cスティミュレーターまたはC57BL/6スティミュレーターとin vitroで維持した。EGFPの発現は、48時間目に発現がピークとなった後は、発現レベルは急速に低下するものの、少なくとも20日間維持された(図5および省略したデータ)。EGFPの発現レベルは、Balb/cスティミュレーターにより抗原再刺激を行っても上昇しなかった。これらの知見は、アロ特異的活性化T細胞株においても観察された(データ省略)。
[実施例3]活性化ヒトT細胞およびT細胞株への遺伝子送達
健常者から新しく単離したヒトPBLを2.5×10PFUのEGFP発現SeVベクター(MOI=30)と共に48時間培養した。マウスT細胞の場合とは対照的にEGFPの発現強度は比較的低いものの、刺激していないヒトCD3CD4およびCD3CD8T細胞において比較的高いEGFP陽性率が得られた(それぞれ平均=23.1%、範囲15〜45%、および平均=34.0%、範囲18〜50%)(図6)。
本発明者らは、活性化/メモリーT細胞の集団は、特定病原菌フリー(Specific−Pathogen−Free)の条件下で維持されたマウスリンパ系組織におけるよりも、ヒトPBLにおける方が高いという仮説を立てた。活性化/メモリーT細胞からナイーブT細胞(CD45RACD62L)を識別し、これらの各T細胞集団のEGFPの発現を解析した。期待したように、EGFP陽性の活性化/メモリーT細胞中のEGFP陽性細胞の割合は、ナイーブT細胞中のEGFP陽性細胞よりもはるかに高く、ナイーブT細胞中のEGFP陽性細胞の割合は4%よりも低かった(図7)。マウス実験で示したように、既に抗原で活性化したT細胞は、抗原刺激がなくても効率良くEGFPが導入されたことから、活性化/メモリーの表現型を有するT細胞中の活性化T細胞がEGFPを発現したと考えられた。それに対して、固着化した抗CD3抗体および抗CD28抗体で刺激したCD3CD4またはCD3CD8T細胞は強い強度でEGFPを発現し、EGFP陽性細胞の割合は高かった(それぞれ範囲30〜69%または50〜70%)(図6)。
ヒトアロ抗原刺激T細胞株においては、CD4またはCD8 T細胞ともに固着化抗体存在のもとでは、それぞれ97%または98%と非常に効率のよい導入を示した(図8)。このT細胞株についても、単純に30分37℃のインキュベートでEGFPを最大に発現させるのに十分であった。
[実施例4]ベクターの接着後のSeVの侵入(entry)は活性化T細胞では起こるが、ナイーブT細胞では起こらない
SeVを介した活性化T細胞特異的な遺伝子送達の考えられる機構を調べた。遺伝子導入の効率に影響し得る要因としては、以下のようなものがありうる。(i)SeV特異的なレセプター(Markwell,M.A.and Paulson,J.C.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1980,77:5693−5697)、(ii)融合のための考えられるコレセプター(Kumar,M.et al.,J.Virol.,1997,71:6398−6406;Eguchi,A.et al.,J.Biol.Chem.,2000,275:17549−17555)、(iii)T細胞の活性化によるシグナル伝達の誘導、これはSeVが侵入(entry)した後のSeVの転写に影響し得る(Collins,P.L.et al.,Parainfluenza viruses.In:Fields BN,Knipe DM,Howley PM,(eds).Fields of virology.Vol.2.Lippincott−Raven Publishers:Philadelphia,1996:1205−1241)。これらを調べるため、マウスT細胞を用いた。活性化したマウスTリンパ球はSeVにより効率的に遺伝子導入されるが、新しく単離したマウスTリンパ球はSeVによりほとんど遺伝子導入されないため、マウスT細胞を用いたこれらの実験では、活性化/メモリーT細胞からナイーブT細胞を細胞分離するプロセスは行わなかった。
まず、新しく単離したリンパ球を紫外線(UV)で不活化したSeV−luci存在下(前処理したナイーブT細胞)または非存在下(前処理しないナイーブT細胞)で60分37℃でインキュベートし、T細胞の特異的レセプターを干渉させ、SeVのHNのノイラミニダーゼ活性によりシアル酸残基を遊離させた。その後、それらT細胞をSeV−EGFP(MOI=62.5)と共に30分37℃でインキュベートした。続いて、それらT細胞を、固着化した抗CD3および抗CD28抗体で刺激し、2日後にEGFPの発現レベルを調べた。SeV−EGFPで前処理したナイーブT細胞においては、続く活性化におけるCD4またはCD8 T細胞のEGFP陽性細胞の割合は、それぞれ35%または50%となった(図9)。しかしながら、UVで不活化したSeV−luciと共にインキュベートすると、活性化T細胞へのEGFPの遺伝子導入は妨げられた。不活化SeV−luciとプレインキュベーションしても、活性化の培養期間の間SeV−EGFPと共にT細胞をインキュベートするとほとんどのリンパ球はEGFPを発現したことから、前処理したT細胞でEGFPが発現しなかったのは、T細胞の生存が低下したためではない(図9)。この結果は、続くインキュベーション期間においてSeVのための特異的レセプターが回復したためであると考えられる。さらに、最後の洗浄培養液は、改変していない活性化T細胞にほとんどEGFPを導入しなかった(データ省略)ことから、洗浄の過程が不十分であった可能性は排除することができた。これらの知見は、SeVは遺伝子導入のためにT細胞上の特異的なレセプターを使用していることを示唆している。
T細胞とSeV−EGFPとのインキュベーションの時間を決定する予備的な実験において、インキュベーション時間を延ばすと、EGFP陽性T細胞の割合が低下することが観察された。この観察から、本発明者らはSeVはナイーブT細胞に接着することはできるが、恐らくコレセプターの欠損により融合できずに、37℃というノイラミニダーゼがよく働く温度でのインキュベーションにおいて、自身がもつHNのノイラミニダーゼ活性によりナイーブT細胞からSeVが離れてしまうという仮説をたてた。そこで、新しく単離したリンパ球を、ノイラミニダーゼがほとんど働かないが、SeVがシアル酸残基に接着することはできる4℃でSeV−EGFP(MOI=100)とインキュベートした後、それらのリンパ球を新しい培地で図示した期間37℃でインキュベートした(図10)。その後、細胞を3回洗浄し、それらT細胞を固着化した抗CD3および抗CD28抗体で刺激し、2日後、GFPの発現レベルを調べた。この実験では、全てのT細胞が均一に活性化されたことから、データは、細胞のキナーゼ活性などのようなSeVの遺伝子発現に関連する要因には影響されず、侵入(entry)に関連する要因によってのみ影響を受けた。期待したように、T細胞を4℃で一度インキュベートした後に活性化すると、EGFP陽性のCD4またはCD8 T細胞の割合は、それぞれ50%または70%であった。これに対して、4℃のインキュベーションに続いて37℃でインキュベートすると、EGFP陽性T細胞の割合は時間依存的に減少した(図10)。37℃で90分のインキュベーションによりEGFP陽性T細胞の割合は最低になり、これは最後の洗浄後の培養液に混入しているSeVと活性化ウェル中で共培養した前処理なしのT細胞の割合と同等であった。活性化のための培養期間の間SeV−EGFPと共にインキュベートした陽性対照のT細胞はすべて効率的に遺伝子導入された。さらに、活性化T細胞を用いた場合、30分37℃でインキュベートするだけで、EGFP陽性T細胞の割合は陽性対照と同じくらい高かった(データ省略)。侵入(enter)したSeVがナイーブT細胞から放出されることはありそうにないことから、これらの現象は、SeVは活性化T細胞に侵入(enter)することができる一方、ナイーブT細胞に接着することはできるが融合できないと説明することができる。ベクター粒子は、ナイーブTリンパ球ではなく活性化Tリンパ球に特異的にインターナリゼーション(internalization;内部化)が起こる可能性が高い。
【産業上の利用の可能性】
本発明により、T細胞に効率的に遺伝子を導入することが可能となった。T細胞への遺伝子導入は、免疫系が関与する様々な疾患の治療にとって重要であることから、これらの疾患における、T細胞を指向した遺伝子送達による改変戦略への本発明の適用が期待される。
【配列表】



【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞に遺伝子を導入する方法であって、該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターと活性化したT細胞とを接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
外来遺伝子が導入されたT細胞の製造方法であって、該遺伝子を保持するパラミクソウイルスベクターと活性化したT細胞とを接触させる工程を含む方法。
【請求項4】
パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法により製造された、外来遺伝子が導入されたT細胞。
【請求項6】
活性化T細胞への遺伝子送達のために用いる、パラミクソウイルスベクター。
【請求項7】
パラミクソウイルスベクターがセンダイウイルスベクターである、請求項6に記載のベクター。

【国際公開番号】WO2004/038029
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546441(P2004−546441)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013476
【国際出願日】平成15年10月22日(2003.10.22)
【出願人】(595155107)株式会社ディナベック研究所 (22)
【Fターム(参考)】