説明

TR1細胞、間葉系幹細胞およびその使用

【課題】 本発明は、Tr1細胞および間葉系幹細胞を含む組成物と、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患の治療方法とに関する。
【解決手段】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tr1細胞および間葉系幹細胞に関する。より詳細には、本発明は、過度の、機能障害のまたは無制御の自己または非自己T細胞性反応(例えば、自己免疫性疾患または炎症性疾患)の治療のためのTr1細胞および間葉系幹細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系の機能とは、自己抗原に対する非応答または免疫寛容を維持しつつ、病原菌を含み得る異質細胞を除去することである。免疫寛容は、自己反応性T細胞の枯渇またはアネルギーによって顕在化し、後者は、T細胞が生存してはいるものの低応答性であることにより、特徴付けられる。しかし、いくつかの状況において、免疫系が自己成分を攻撃して、自己免疫性疾患が発生する場合がある。自己免疫性疾患は、自己抗原に対する異常な免疫反応に起因すると考えられ、その原因は、自己抗原の免疫原性容量の変化または交差反応性様抗原への露出のうちいずれかである。
【0003】
抗TNF化合物、コルチコステロイド、アザチオプリン、またはシクロスポリンAのような一般的な免疫抑制剤を用いた、自己免疫性疾患または他の望ましくない免疫反応に対する現在の治療方法を向上させることが望まれている。これらの治療は非選択性であり、正常な免疫反応と異常な免疫反応とを区別しない。これらの薬剤は、副作用(例えば、包括的な免疫系の抑制による感染症および腫瘍形成の危険性増大、糖尿病、骨粗しょう症、白血球減少症および高血圧などの疾患の発生)を伴うことが多い。従来の非特異的薬剤治療に耐えることができないかまたはこのような治療に反応しない患者のために、これらの治療条件に代わる代替的アプローチが必要とされている。これらの代替的アプローチは、免疫抑制および/または特異的免疫寛容の誘導に基づいており、宿主防衛機構を無傷に保持しつつ、自己抗原に対する病原菌反応を≪サイレンシング≫させることを目的とする。
【0004】
MSCを用いた代替的アプローチが検討されている。
【0005】
間葉系幹細胞(MSC)は多能性幹細胞であり、系統(例えば、骨芽細胞、筋細胞、軟骨細胞および脂肪細胞)に容易に分化することができる。MSCは、その表面上に主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)クラスI抗原を発現し、僅かなクラスIIを発現し、B7またはCD40副刺激分子は発現しない。これは、これらの細胞の免疫原性容量が低いことを示している。MSCはまた、MHCから独立した様態で、T細胞増殖反応を抑制する。これらのMSCの免疫学的特性により、MSCの移植物生着が向上し得、また、移植後にレシピエントの免疫系が同種異系細胞を認識および拒絶する能力が限定され得る。
【0006】
特許出願US2002/044923において、抗原を搬送することで不要なまたは異常な免疫反応(例えば、自己免疫性疾患において発生するもの)を治療または抑制するように改変されたMSCの使用についての開示がある。共刺激シグナルの不在下で抗原をT細胞に提示すると、抗原特異的な低応答性状態またはさらにはT細胞における非反応性またはアネルギーが発生し、その後、前記抗原によって前記T細胞が攻撃される。
【0007】
特許出願WO2005/093044(Pittengerら)において、免疫系に関わる病態および疾患の治療においてMSCを用いる方法についての記載がある。Pittengerらの考えによれば、1/MSCによって樹枝状細胞(DC)を刺激することで、腫瘍抑制およびウイルス感染症に対する免疫を促進するインターフェロンベータ(IFN−β)を産生することができ、2/MSCは、制御性T細胞(Treg細胞)および/またはDCからのインターロイキン10(IL−10)の放出を発生させることにより、自己免疫性疾患を抑制することができる。しかし、例中に記載されている実験は全てインビトロで実現されており、また、Pittengerらは、同特許出願において、MSCの注入により、免疫系に関わる病態および疾患を効果的に治療することが可能であることを実証していない。
【0008】
特許出願US2002/085996は、拒絶反応および/または移植片対宿主反応の回避、低減または治療のためのMSCの使用に関するが、自己免疫状態に関しては言及していない。
【0009】
制御性T細胞を用いた他の代替的アプローチが検討されている。
【0010】
明確な表現型を持ったいくつかの制御性T(Treg)細胞サブセットと、明確な作用機構とが特定されている。その一例としてCD4+CD25+Treg細胞があり、これらの細胞は、細胞間接触を通じて免疫反応を抑制し、Th3細胞は主にTGF−βを分泌し、Tr1細胞は、高レベルのIL−10を分泌し、低レベルから中レベルのTGF−βを分泌する。これらのTr1細胞は、TGF−βと共にまたはTGF−β無しにIL−10、IL−5およびIFN−γを産生するが、IL−2またはIL−4はほとんど産生せず、多クローン性TCR媒介活性化後もあまり増殖しない。
【0011】
特許出願US2007/009497および特許出願WO2006/090291において、自己免疫および炎症状態の治療のためのCD4+CD25+Treg細胞の使用についての開示がある。特許US6281012において、宿主の移植物拒絶を低減または抑制するためのサプレッサーT細胞の使用についての開示がある。これらのサプレッサーT細胞は、混合リンパ球反応においてアロ抗原への露出により感作された後に間葉系幹細胞と共に培養されたT細胞として定義される。そのため、これらのサプレッサーT細胞は、同種異系Tr1細胞を含む。
【0012】
特許出願WO2006/018674を通じて、出願人は、アテローム性動脈硬化症の治療のためのTr1細胞の使用について開示している。また、出願人は、消化フローラの共生細菌に方向付けられた炎症性細胞を有するクローン病のマウスモデルにおいて、食べ物内の抗原に方向付けられたTr1細胞をマウスに投与すると、大腸の慢性炎症を回避することができることを見出した。
【0013】
ここで、出願人は、自己免疫性疾患または他の望ましくない免疫反応の既存の治療を向上させるための新規な代替的治療を提供することを目的とする。この新規な治療も、基本は免疫抑制および/または特異的免疫寛容の誘導であり、その目的は、宿主防衛機構を無傷で保持しつつ、自己抗原に対する病原菌反応を≪サイレンシング≫させることである。この新規な治療は、Tr1細胞および間葉系幹細胞を含む組成物の使用に基づく。出願人は、驚くべきことに、Tr1細胞および間葉系幹細胞を含む組成物による治療を行った場合、MSCまたはTr1細胞のみを用いた治療よりも良好な結果が得られることを発見した。理論に縛られることを恐れずにいえば、出願人は、この組成物は、対象者において抗原特異的免疫寛容を誘導し得、これにより、異なる経路(例えば、以下のようなもの)を介して、過度の、機能障害のまたは無制御の自己または非自己T細胞性免疫反応を治療することができる、と考える。
1/抗原から独立した様態での、MSCによるT細胞増殖反応の抑制
2/Tr1細胞から分泌されるIL−10による、T細胞増殖反応の抑制およびT細胞免疫寛容の誘導
3/MSCによるTr1細胞のインビボ誘導
【発明の概要】
【0014】
よって、本発明は、Tr1細胞および間葉系幹細胞を含む組成物に関する。
【0015】
本発明の一実施形態において、前記組成物は、Tr1細胞が特異的である抗原をさらに含む。
【0016】
本発明の一実施形態において、Tr1細胞は、健康な対象者において通常許容される抗原について特異的である。
【0017】
本発明の好適な実施形態において、健康な対象者において通常許容される前記抗原は、アレルゲン、自己抗原、食物抗原または微生物抗原である。好適には、前記アレルゲンは、花粉、ハウスダストダニ、ネコ科動物またはげっ歯動物アレルゲン、湿気を含む群から選択され、前記自己抗原は、インスリン、ミエリンタンパク質、熱ショックタンパク質、デスモグレイン、関節タンパク質、並びにそれらの断片、変異体および混合物を含む群から選択され、前記食物抗原は、オボアルブミン、カゼイン、大豆タンパク質、グリアジン、並びにそれらの断片、変異体および混合物を含む群から選択され、前記微生物抗原は、大腸菌、エンテロバクターアエロゲネス、エンテロバクタークロアカおよび共生細菌からのタンパク質を含む群から選択される。
【0018】
本発明の別の実施形態において、前記Tr1細胞およびMSCは自家である。
【0019】
本発明の別の実施形態において、Tr1細胞およびMSCは、逐次的にまたは同時に投与されるよう、別個にパッケージされる。
【0020】
本発明はまた、上述したような組成物を含む薬剤にも関する。
【0021】
本発明はまた、上述したような組成物を1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤と共に含む薬学的組成物にも関する。
【0022】
本発明の別の目的は、過度の、機能障害のまたは無制御の自己または非自己T細胞性免疫反応に関わる疾患に罹患している対象者において抗原免疫特異的免疫寛容を誘発する方法である。前記方法は、上述したような薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記疾患は、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患である。
【0024】
好適な実施形態において、前記自己免疫性疾患は、ヴェーゲナー病、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、クローン病、関節リウマチ、多発性硬化症およびインスリン抵抗性糖尿病を含む群から選択される。
【0025】
好適な実施形態において、前記アレルギー性疾患は、ぜんそく、鼻炎、じんましん、アトピー性皮膚炎、線維症および食物アレルギーを含む群から選択される。
【0026】
好適な実施形態において、前記炎症性疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病を含む群から選択される。
【0027】
本発明の一実施形態において、前記Tr1細胞および前記MSCは、同時にまたは逐次的に投与される。
【0028】
本発明の別の目的は、必要としている対象者において組織再生を促進する方法であって、本発明の薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0029】
本発明の別の目的は、必要としている対象者において線維症を治療する方法であって、本発明の薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0030】
本発明の別の目的は、必要としている対象者の臓器または組織において血管形成を促進する方法を提供することである。前記方法は、本発明の薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
本明細書中に用いられる「制御性T細胞」または「Tサプレッサー」という用語は、活性化を抑制または回避するT細胞集団を指し、または、別の実施形態において、別のTリンパ球のエフェクター機能および増殖を指す。
【0032】
本明細書中に用いられる「Tr1細胞」という用語は、静止状態でありかつCD4+CD25−FoxP3−を有する以下の表現型の細胞を指し、これらの細胞は、活性化すると、高レベルのIL−10および低レベルから中レベルのTGF−βを分泌することができる。Tr1細胞は、そのユニークなサイトカインプロファイルによって部分的に特徴付けられ、高レベルのIL−10、顕著なレベルのTGF−βおよび中程度のレベルのIFN−γを産生するが、IL−4またはIL−2はほとんど産生しない。このサイトカイン産生は典型的には、Tリンパ球の多クローン性活性剤(例えば、抗CD3+抗CD28抗体またはインターロイキン−2、PMA+イオノマイシン)による活性化の後、細胞の培養において評価される。あるいは、前記サイトカイン産生は、抗原提示細胞によって提示される特異的T細胞抗原による活性化後、細胞の培養において評価される。高レベルのIL−10は、少なくとも約500pg/ml(典型的には、約1、2、4、6、8、10、12、14、16、18、または20、000pg/ml以上)に対応する。顕著なレベルのTGF−βは、少なくとも約100pg/ml(典型的には、約200、300、400、600、800、または1000pg/ml以上)に対応する。中程度のレベルのIFN−γは、0pg/mlから少なくとも400pg/mlの濃度(典型的には、約600、800、1000、1200、1400、1600、1800、または2000pg/mlまたは以上の濃度)に対応する。IL−4またはIL−2がほとんど無いまたは全く無いとは、約500pg/ml未満(好適には、約250、100、75、または50pg/ml未満)に対応する。
【0033】
本明細書中に用いられる「抗原」という用語は、本発明の細胞を用いて調節しようとしているかまたは本発明の方法のいずれかにおいて用いられる特定の疾患と関連付けられたタンパク質またはペプチドを指す。1つの実施形態において、「抗原」という用語は、合成的に誘導された分子または天然由来の分子を指し得、前記分子は、対象抗原との配列相同性または対象抗原との構造的相同性またはその組み合わせを共有する。1つの実施形態において、前記抗原はミメトープであり得る。
【0034】
本明細書中に用いられる「抗原特異的」という用語は、細胞の集団の性質を指し、前記性質により、特定の抗原の供給またはこの抗原の断片に起因して、1つの実施形態において、MHCの文脈において抗原が提示された場合、特異的制御性T細胞の増殖が発生する。別の実施形態において、抗原またはその断片が供給されると、制御性T細胞のIL−10産生がもたらされる。1つの実施形態において、前記制御性T細胞集団は、モノクローナルT細胞受容体を発現する。別の実施形態において、前記制御性T細胞集団は、多クローン性T細胞受容体を発現する。
【0035】
本明細書中に用いられる「自己抗原」という用語は、対象者の体内において通常発現する抗原を指す。1つの実施形態において、自己抗原は抗原を指し、前記抗原が体内で発現した場合、自己反応性T細胞が教育され得る。1つの実施形態において、自己抗原は、自己免疫性疾患の標的である臓器中に発現する。1つの実施形態において、前記自己抗原は、膵臓、甲状腺、結合組織、腎臓、肺、肝臓、消化器系または神経系において発現する。別の実施形態において、自己抗原は、膵臓β細胞において発現する。
【0036】
「健康な対象者において通常許容される抗原」という用語は、健康な対象者において炎症性反応を誘発しなかった全ての自己分子または非自己分子またはエンティティを指す。これらの許容される抗原は、自己抗原、摂取抗原、吸入抗原、細菌叢抗原または接触抗原であり得る。
【0037】
本明細書中に用いられる「対象者」という用語は、哺乳類(特にヒト)を指す。
【0038】
本明細書中に用いられる「有効量」という用語は、有益なまたは所望の臨床結果(例えば、臨床状態の向上)を発生させるのに十分な量を指す。
【0039】
本明細書中に用いられる「治療」または「治療する」という用語は一般的には、治療をされている個人または細胞の自然経過を変更しようとする臨床介入を指し、予防のためまたは臨床病理において行われ得る。望ましい効果を非限定的に挙げると、疾患の発生または再発の回避、症状の軽減、疾患のあらゆる直接的または間接的な病理学的帰結の鎮静化、低減または抑制、転移の回避、疾患進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、寛解または予後改善の提供がある。
【0040】
本明細書中に用いられる「自己免疫性疾患」という用語は、自己抗原に対する免疫反応を指す。
【0041】
本明細書中に用いられる「炎症状態」または「炎症性疾患」という用語は、1つの実施形態において、「炎症反応」に起因するあらゆる疾患を指す。「炎症反応」は、別の実施形態において「炎症」とも呼ばれ、あるいは、別の実施形態において、炎症が含まれるものを指す。一例として、炎症に起因する炎症性疾患は敗血症ショックであり得、炎症を含む炎症性疾患は関節リウマチであり得る。
【0042】
本明細書中に用いられる「アレルギー反応」という用語は、一般的には無害かつ無毒の抗原またはアレルゲンに対する免疫系攻撃を指す。1つの実施形態において、アレルギーの例を非限定的に挙げると、花粉症、ぜんそく、アトピー性湿疹およびウルシおよびツタ、ハウスダストダニ、ハチ毒、ナッツ、貝類、ペニシリンまたは他の薬物に対するアレルギー、または、アレルギー反応を誘発する他の任意の化合物または化合物がある。
【0043】
本発明
本発明は、Tr1細胞および間葉系幹細胞(MSC)を含む組成物に関する。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、MSCは、MSC含有組織を採取し、前記MSCを単離および拡大(expand)することにより、入手され得る。
【0045】
入手されたMSCは、均質集団であり得るか、または、高濃度のMSCを含む混合細胞集団であり得る。均質MSCは、粘着性髄質または骨膜細胞または脂肪組織の間質血管細胞群の培養によって入手され得、前記MSCは、特異的細胞表面マーカによって特定され得る。前記均質MSC組成物は、脂肪組織の粘着性髄質、間質血管細胞群、または、造血細胞または分化間充織細胞のいずれかと関連付けられたマーカの無い骨膜細胞の正の選択により、入手される。これらの単離された間充織細胞集団は、間葉系幹細胞のみと関連付けられたエピトープ特性を示し、培養において分化無しに再生する能力を持ち、かつ、インビトロで誘発された場合または損傷組織部位にインビボで配置された場合、特異的間充織系統に分化する能力を持つ。対象者のヒト間葉系幹細胞を得るためには、骨髄中の他の細胞または他のMSCソースから希少な多能性間葉系幹細胞を単離する必要がある。骨髄細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊柱、肋骨または他の髄腔から入手され得る。ヒト間葉系幹細胞の他のソースを挙げると、胎生初期の卵黄嚢、胎盤、臍帯、胎児の皮膚および若者の皮膚、血液および脂肪組織がある。
【0046】
高濃度のMSCを含む細胞集団を得る方法(参照することにより本明細書に援用される)について、例えば特許US5486359中に記載がある。
【0047】
本発明の1つの実施形態において、Tr1細胞は、以下のステップにより、入手され得る。
a)対象者から前駆細胞集団を単離するステップと、
b)IL−10の存在下で前記前駆細胞集団を培養することにより、樹枝状細胞の集団を得るステップと、
c)抗原の存在下でステップb)の細胞を前記対象者から単離されたCD4+Tリンパ球集団と接触させて、前記CD4+T細胞をTr1細胞集団に分化させるステップと、
d)ステップc)からの前記Tr1細胞集団を回復させるステップ。
【0048】
ステップb)において、IL−10は、50〜250U/mlで(好適には、培地中に100U/ml)で存在する。このTr1細胞を得る方法については、Wakkachら(Immunity、2003年5月、18(5):605‐17)において記載がある(参照することにより本明細書に援用される)。
【0049】
前記方法は、ステップb)のDCの代わりにデキサメタゾン、ビタミンD3、または免疫寛容原性(tolerogenised)のまたは未成熟のDCを用いて実施することもできる。
【0050】
本発明の別の実施形態において、Tr1細胞は、以下のステップにより入手され得る。
a)対象者から単離されたCD4+T細胞集団を適切な量のIFN−αを含む培地中で培養するステップ、
b)前記Tr1細胞集団を回復させるステップ。
【0051】
IFN−αは好適には、培地中に5ng/mlで存在する。ステップa)において、培地は、適切な量のIL−10(好適には100U/ml)をさらに含み得る。
【0052】
ステップb)において、Tr1細胞集団をIL−15を含む培地中で培養して増殖させ、IL−15は好適には培地中で5ng/mlである。Tr1細胞を得る方法(参照することにより本明細書に援用される)について、特許US6746670中に記載がある。
【0053】
本発明のさらに別の実施形態において、Tr1細胞は、以下のステップにより入手され得る。
a)人工抗原提示細胞によって提示された抗原の存在下でCD4+T細胞集団をインビトロ活性化させるステップ、および
b)少なくとも10%のTr1細胞を含む活性化されたCD4+T細胞を回復させるステップ。
【0054】
好適には、人工抗原提示細胞は、HLAII系分子およびヒトLFA−3分子を発現し、副刺激分子B7−1、B7−2、B7−H1、CD40、CD23およびICAM−1を発現しない。
【0055】
Tr1細胞を得るプロセス(参照することにより本明細書に援用される)について、特許出願WO02/.92793中に記載がある。
【0056】
本発明のさらに別の実施形態において、Tr1細胞は、以下のステップにより入手され得る。
a)抗原の存在および適切な量のIL−10の下でCD4+T細胞集団をインビトロ活性化させるステップ、
b)前記Tr1細胞集団を回復させるステップ。
【0057】
好適には、IL−10は、培地中に100U/mlで存在する。前記方法について、Grouxら(Nature1997、389(6652):737−42)において記載がある(参照することにより本明細書に援用される)。
【0058】
本発明のさらに別の実施形態において、抗原特異的Tr1細胞は、以下のステップにより入手され得る。
a)白血球集団または末梢血単核球(PBMC)集団を抗原で刺激するステップ、
b)前記刺激を受けた集団から、抗原特異的Tr1細胞集団を回復させるステップ、および
c)前記抗原特異的Tr1細胞集団を必要に応じて拡大させるステップ。
【0059】
白血球は、いくつかの種類の細胞を包含し、これらの細胞は、その重要性、その分布、その数、その寿命およびその可能性により、特徴付けられる。これらの種類は、以下のものである:多核または顆粒白血球(そのうち、好酸性白血球、好中性白血球および好塩基性白血球、および単核細胞または末梢血単核球(PBMC)(これらは、大型の白血球細胞であり、免疫系の細胞種類(リンパ球および単球)にある)がある)。白血球またはPBMCは、当業者に公知の任意の方法により、末梢血から分離することができる。有利には、PBMCの分離のために、遠心分離法(好適には密度勾配遠心分離法、好適には不連続密度勾配遠心分離法)が用いられ得る。別の方法として、特異的モノクローナル抗体の使用がある。特定の実施形態において、PBMCは典型的には、標準的な手順を用いたフィコールハイパックにより、血液製剤全体から単離される。他の実施形態において、PBMCは、白血球除去輸血により回復される。
【0060】
前記方法(参照することにより本明細書に援用される)について、特許出願WO2007/010406中に記載がある。
【0061】
さらに別の実施形態において、Tr1細胞は、以下のステップにより入手され得る。
a)白血球集団または末梢血単核球(PBMC)集団を抗原の存在下で間葉系幹細胞と共に培養するステップ、および
b)前記Tr1細胞集団を回復させるステップ。
【0062】
前記方法は、PBMCまたは白血球の代わりにナイーブT細胞または記憶T細胞と共に行ってもよい。
【0063】
このようにして得られたTr1細胞集団は、サイトカイン(例えば、インターロイキン−2およびインターロイキン−4)の存在下で、培養により拡大され得る。あるいは、インターロイキン−15およびインターロイキン−13をTr1細胞拡大培養において用いてもよい。
【0064】
さらに別の実施形態において、Tr1細胞は、以下のステップにより入手され得る。
a)CD4+T細胞を事前処理された樹枝状細胞と共にデキサメタゾン(約10−7M)および選択された抗原で培養するステップ、
b)前記培養開始後1週間後に前記Tr1細胞集団を回復させるステップ。
【0065】
上記の方法において、Tr1細胞は、WO2005/000344中に記載の特定方法により、特徴付けることができる。前記Tr1細胞の特定方法は、CD4分子をコードする遺伝子の発現産物と、CD18および/またはCD11aおよびCD49bを含む群からの分子との同時存在の検出に基づく。Tr1細胞は、Elisa、フローサイトメトリーまたはマーカに方向付けられる抗体を用いた免疫アフィニティー精製方法により、特定および/または精製することができる。
【0066】
Tr1細胞は、フローサイトメトリーまたは磁気ビーズを用いた正の選択または負の選択により、高濃度化することもできる。このような方法(参照することにより本明細書に援用される)については、WO2005/000344中にも記載がある。
【0067】
本発明の別の実施形態において、前記Tr1細胞およびMSCを含む組成物は、MSCおよび自家T細胞の共培養を1〜2週間行うことにより、得ることができる。
【0068】
本発明の好適な実施形態において、前記Tr1細胞および前記MSCを含む組成物は、Tr1細胞が特異的である抗原をさらに含む。
【0069】
本発明の1つの実施形態において、Tr1細胞が特異的である前記抗原は、本発明の組成物に別個に投与され得、例えば、食餌性抗原を対象者への食物中に投与することができる。別の実施形態において、Tr1細胞が特異的である前記抗原を本発明の組成物中に加える。
【0070】
本発明の好適な実施形態において、Tr1細胞が特異的である前記抗原は、健康な対象者において通常許容される抗原である。
【0071】
本発明の1つの実施形態において、健康な対象者において通常許容される抗原はアレルゲンである。アレルゲンのリストは、http://www.allergen.org/.において見つけることができる。
【0072】
好適な実施形態において、前記アレルゲンは、花粉、ハウスダストダニ、ネコ科動物またはげっ歯動物アレルゲンおよび湿気の群から選択される。
【0073】
本発明の別の実施形態において、健康な対象者において通常許容される抗原は、食物抗原である。
【0074】
「食物抗原」という用語は、免疫原性ペプチドを指し、食物由来のものであり、例えば、以下の非限定的リストの食物抗原:ウシ抗原(例えば、リポカリン、Ca結合SlOO、αラクトアルブミン、βラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、免疫グロブリンまたはカゼイン)。食物抗原はまた、大西洋サケ抗原(例えば、パルブアルブミン)、ニワトリ抗原(例えば、オボムコイド、オボアルブミン、Ag22、コンアルブミン、リゾチームまたはニワトリ血清アルブミン)、ピーナッツ、エビ抗原(例えば、トロポミオシン)、コムギ抗原(例えば、凝集素またはオメガ5グリアジン)、セロリ抗原(例えば、セロリプロフィリン)、ニンジン抗原(例えば、ニンジンプロフィリン)、リンゴ抗原(例えば、タウマチン、リンゴ脂質伝達タンパク質、リンゴプロフィリン)、ナシ抗原(例えば、ナシプロフィリン、イソフラボンレダクターゼ)、アボカド抗原(例えば、エンドキチナーゼ)、アンズ抗原(例えば、アンズ脂質伝達タンパク質)、モモ抗原(例えば、モモ脂質伝達タンパク質またはモモプロフィリン)、ダイズ抗原(例えば、HPS、ダイズプロフィリンまたは(SAM22)PR−10タンパク質)であってもよい。
【0075】
本発明の別の実施形態において、健康な対象者において通常許容される抗原は自己抗原である。
【0076】
「自己抗原」という用語は、個人のタンパク質から導出された免疫原性ペプチドを指し、一例として、以下の非限定的リストの自己抗原であり得る:アセチルコリン受容体、アクチン、アデニンヌクレオチド輸送体、βアドレナリン受容体、生体アミン生合成酵素、アシアロ糖タンパク質受容体、殺菌性/浸透性増大タンパク質(BPi)、カルシウム感知受容体、コレステロール側鎖切断酵素、コラーゲン型IVOy鎖、シトクロムP4502D6、デスミン、デスモグレイン−1、デスモグレイン−3、F−アクチン、GM−ガングリオシド、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、グルタミン酸受容体、H/KATPアーゼ、17アルファヒドロキシラーゼ、21ヒドロキシラーゼ、IA−2(ICAS12)、インスリン、インスリン受容体、内因子型1、白血球機能抗原1、ミエリン関連糖タンパク質、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、ミオシン、P80−coilin、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症E2(PDC−E2)、ナトリウムヨードシンポータ、SOX−10、甲状腺および眼筋共有タンパク質、チログロブリン、甲状腺ペルオキシダーゼ、チロトロピン受容体、組織トランスグルタミナーゼ、転写補助活性化因子p75、トリプトファンヒドロキシラーゼ、チロシナーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、ACTH、アミノアシル−tPvNA−ヒスチジル合成酵素、カルジオリピン、炭酸脱水酵素II型、セントロメア関連タンパク質、DNA依存的ヌクレオソーム刺激性ATPase、フィブリラリン、フィブロネクチン、グルコース6リン酸イソメラーゼ、ベータ2−糖タンパク質I、ゴルギン(95、97、160、180)、熱ショックタンパク質、半接着斑タンパク質180、ヒストンH2A、H2B、ケラチン、IgE受容体、Ku−DNAタンパク質キナーゼ、Ku−核タンパク質、Laリンタンパク質、ミエロペルオキシダーゼ、プロテイナーゼ3、RNAポリメラーゼI−III、シグナル認識タンパク質、トポイソメラーゼI、チューブリン、vimenscin、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)、プロテオリピドタンパク質、オリゴデンドロサイト特異的タンパク質(OSP/クローディン11)、環状ヌクレオチド3’ホスホジエステラーゼ(CNPase)、BP抗原1(BPAGl−e)、トランスアルドラーゼ(TAL)、ヒトミトコンドリア自己抗原PDC−E2(Novo1および2)、OGDC−E2(Novo3)、およびBCOADC−E2(Novo4)、水疱性類天疱瘡(BP)180、ラミニン5(LN5)、DEADボックスタンパク質48(DDX48)またはインスリノーマ関連抗原−2。
【0077】
好適には、食物抗原または自己抗原は、組み換え体または合成抗原である。
【0078】
好適には、抗原は、オボアルブミン、カゼイン、大豆タンパク質、グリアジン、ピーナッツ、並びにそれらの断片、変異体および混合物を含む群から選択された食物抗原である。
【0079】
好適には、抗原は、インスリン、ミエリンタンパク質、熱ショックタンパク質、デスモグレイン、関節タンパク質、プロテイナーゼ3、並びにそれらの断片、変異体および混合物を含む群から選択された自己抗原である。
【0080】
本明細書中、食物抗原または自己抗原の「変異体」は、天然抗原とほとんど同一の抗原でありかつ同一の生物活性を共有する抗原である。天然抗原とその変異体との間のごくわずかな違いは、例えばアミノ酸置換、欠失、および/または付加にあり得る。このような変異体は、例えばアミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基と置換された保存アミノ酸置換を含み得る。類似の側鎖を有するアミノ酸残基族が当該分野において規定されている(例えば、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、電荷を持たない極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン))。
【0081】
本発明の1つの実施形態において、健康な対象者において通常許容される抗原は微生物抗原である。
【0082】
微生物抗原を非限定的に挙げると、微生物から導出された抗原(例えば、バクテリア、始原細菌、真菌、ウイルス、原生動物、寄生生物、藻、粘菌、またはプリオン)がある。
【0083】
前記微生物の例としては、肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、クロストリジウムディフィシレ、インフルエンザ菌、緑膿菌、髄膜炎菌、大腸菌、ピロリ菌、カタラリス菌、マイコバクテリア、サルモネラ菌、ビブリオ属細菌、ストレプトミセス、ヘリコバクター属、ラクトコッカス属およびリステリア菌がある。
【0084】
好適には、抗原は、大腸菌、エンテロバクターアエロゲネス、エンテロバクタークロアカおよび共生細菌からのタンパク質を含む群から選択された微生物抗原である。
【0085】
本発明の好適な実施形態において、前記Tr1細胞およびMSCは自家である。
【0086】
すなわち、MSCおよびTr1細胞またはそれらの前駆体は、同一対象者から入手され、入手元となった当該対象者に投与される。
【0087】
自家のMSCおよびTr1細胞により、第1に長期生着が可能となり、細胞の拒否反応および同種異系反応が無くなる。第2に、MSCによる抗原提示が必要になった場合、自家という状況がそれを可能にする。
【0088】
本発明はまた、上述したような組成物に関し、前記組成物において、Tr1細胞およびMSCは、逐次的にまたは同時に投与されるよう、別個にパッケージされる。
【0089】
「逐次的に」とは、MSCが第1に注入され得、第2に(好適にはMSC注入後24〜48時間後に)Tr1細胞が注入され得ることが意味される。
【0090】
本発明はまた、上述した組成物を含む薬剤に関する。
【0091】
本発明はまた、1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤と組み合わされた上述したような組成物を含む薬学的組成物に関する。
【0092】
本発明の別の目的は、過度の、機能障害または無制御自己または非自己T細胞性免疫反応を伴う疾患に罹患している対象者において抗原免疫特異的免疫寛容を誘発する方法を提供することである。前記方法は、上述したような薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0093】
適切なキャリアおよび希釈剤を挙げると、等張食塩水溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)がある。前記組成物は、非経口、筋肉内、静脈内、腹腔内、注入、鼻腔内、肺吸入、皮内、関節内、髄腔内または消化管経由に合わせて製剤化され得る。
【0094】
本発明の薬剤または薬学的組成物の患者への投与は、典型的には筋肉内、腹腔内または静脈内注入によって行われるか、あるいは、好適には静脈内注入による患者のリンパ節内への直接注入によって行われる。
【0095】
典型的には10/kg〜10/kgの細胞(好適には10/kg〜10/kg細胞、より好適には約10/kg)の細胞が対象者に投与される。
【0096】
上記の投与経路および投与量は、ひとえに当業者が任意の特定の対象者の例えば年齢、体重および患者状態に応じて最適な投与経路および投与量を決定することができるように目安として示したものに過ぎない。
【0097】
好適な実施形態において、前記過度の、機能障害または無制御自己または非自己T細胞性免疫反応を伴う疾患は、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患である。
【0098】
自己免疫性疾患を非限定的に挙げると、糖尿病、多発性硬化症および関節リウマチがある。自己免疫性疾患に関連する治療可能な特定状態を挙げると、自己免疫性(橋本)甲状腺炎、甲状腺機能高進症(グレーブス病)I型真性糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、自己免疫性副腎不全(アジソン病)、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性寒冷血色素尿症、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性好中球減少症、悪性貧血、赤芽球癆、自己免疫性凝固障害、重症筋無力症、自己免疫性多発性神経炎、多発性硬化症、天疱瘡および他の水疱性疾患、リウマチ性心臓炎、グッドパスチャー症候群、心術後症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性閉塞性肺疾患、慢性炎症性疾患、セリアック病(Coelic disease)、ヴェーゲナー病、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、自己免疫性肝炎、脊椎関節炎がある。好適には、前記自己免疫性疾患は、ヴェーゲナー病、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、クローン病、関節リウマチ、多発性硬化症およびインスリン抵抗性糖尿病を含む群において選択される。
【0099】
アレルギー性疾患を非限定的に挙げると、ぜんそく、鼻炎、じんましん、アトピー性皮膚炎、線維症および食物アレルギーがある。
【0100】
炎症性疾患を非限定的に挙げると、心臓血管疾患、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、敗血症ショック、移植片対宿主病、移植片対宿主病、ぜんそく、鼻炎、乾癬、癌性悪液質、または湿疹がある。好適には、前記炎症性疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症およびクローン病を含む群から選択される。
【0101】
本発明の方法の1つの実施形態において、前記許容される抗原特異的Tr1細胞および前記MSCは、同時にまたは逐次的に投与される。
【0102】
「逐次的に」とは、先ずMSCを注入し、その後(好適にはMSC注入後24〜48時間後に)Tr1細胞を注入し得ることを意味する。
【0103】
本発明の方法の別の実施形態において、本発明の薬剤または薬学的組成物は、従来の治療と組み合わせて投与してもよいし、あるいは、別の実施形態においてこのような従来の治療の投与量を低減して投与してもよい。例えば、本発明の方法を行う際に、免疫抑制剤の投与、免疫抑制剤の投与量または免疫抑制剤の数が低減され得る。
【0104】
本発明の別の目的は、対象者における組織再生を促進する方法を提供することである。前記方法は、上述したような薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0105】
治療対象となる組織の例を非限定的に挙げると、筋肉、骨および軟骨の再生がある。
【0106】
適切なキャリアおよび希釈剤を挙げると、等張食塩水溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)がある。前記組成物は、非経口、筋肉内、静脈内、腹腔内、注入、鼻腔内、肺吸入、皮内、関節内、髄腔内、または消化管経由(例えば、パイエル板経由)に合わせて製剤化され得る。好適には、本発明の薬剤または薬学的組成物は、変性組織に直接投与され得る。
【0107】
典型的には10/kg〜10/kgの細胞(好適には、10/kg〜10/kgの細胞、より好適には約10/kgの細胞)が、対象者に投与される。
【0108】
上述した投与経路および投与量は、ひとえに当業者が、例えば患者の年齢、体重および状態ならびに治療中の創傷の範囲および重症度に応じて、任意の特定の対象者のために最適な投与経路および投与量を決定することができるように目安として示したものに過ぎない。
【0109】
本発明の別の目的は、対象者における線維症を治療する方法を提供することである。前記方法は、上述したような薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0110】
治療対象となる線維症の例を非限定的に挙げると、肝硬変、末期腎不全に関連する腎臓線維症および肺線維症がある。適切なキャリアおよび希釈剤を挙げると、等張食塩水溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)がある。前記組成物は、非経口、筋肉内、静脈内、腹腔内、注入、鼻腔内、肺吸入、皮内、関節内、髄腔内、または消化管経由に合わせて製剤化され得る。
【0111】
本発明の薬剤または薬学的組成物の患者への投与は、典型的には、筋肉内、腹腔内または静脈内注入、または患者のリンパ節内への直接注入(好適には、直接静脈内注入)によって行われる。
【0112】
典型的には、10/kg〜10/kgの細胞(好適には、10/kg〜10/kgの細胞、より好適には約10/kgの細胞)を対象者に投与する。
【0113】
上述した投与経路および投与量は、ひとえに当業者が、例えば患者の年齢、体重および状態ならびに治療中の線維症の範囲および重症度に応じて、任意の特定の対象者のために最適な投与経路および投与量を決定することができるように目安として示したものに過ぎない。
【0114】
本発明の別の目的は、対象者内の組織または臓器における血管形成を促進する方法を提供することである。前記方法において、このような組織または臓器は血管形成を必要としており、前記方法は、上述したような薬剤または薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む。
【0115】
血管形成の誘導は、冠動脈および末梢動脈不全の治療に用いることができ、よって、冠動脈疾患、虚血性心疾患および末梢動脈疾患に対して非侵襲的で治療的なアプローチとなり得る。血管形成は、心臓以外の組織および臓器における疾患および疾病の治療ならびに心臓以外の臓器の形成および/または維持において、役割を果たし得る。血管形成は、内的創傷および外的創傷ならびに皮膚潰瘍の治療において、役割を果たし得る。血管形成はまた、軟骨吸収と骨形成との連結に欠かせないものであり、また、正しい成長板形態形成にも欠かせない。血管形成はまた、胚着床および胎盤成長ならびに脈管構造発生の形成においても役割を果たす。
【0116】
適切なキャリアおよび希釈剤を挙げると、等張食塩水溶液(例えば、リン酸緩衝生理食塩水)がある。前記組成物は、非経口、筋肉内、静脈内、腹腔内、注入、鼻腔内、肺吸入、皮内、関節内、髄腔内または消化管経由に合わせて製剤化され得る。
【0117】
本発明の薬剤または薬学的組成物の患者への投与は、典型的には、筋肉内、腹腔内または静脈内注入、または患者のリンパ節内への直接注入(好適には、直接静脈内注入)により、行われる。
【0118】
典型的には、lO/kg〜10/kgの細胞(好適には、10/kg〜10/kgの細胞、より好適には約10/kgの細胞)を対象者に投与する。
【0119】
上述した投与経路および投与量は、ひとえに当業者が、例えば患者の年齢、体重および状態に応じて、任意の特定の対象者のために最適な投与経路および投与量を決定することができるように目安として示したものに過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】T細胞MSCおよび/またはTr1細胞の存在または不在下で活性化されたT細胞によって性壊死されたIFNガンマの検出。 Mトランスウェルの下側ウェル中で単独で、または、MSC、Tr1またはMSCの存在下でかつTr1を上側ウェル中に配置した状態で、MLRを培養した。4日後に上清を収集し、IFNγ分泌をELISAによって測定した。
【図2】MSCの同時投与により、マウスの大腸炎モデルにおいてTr1細胞治療の有効性が向上する。 飲用水中にDSSを入れてBalb/cマウスを7日間処理した。初日に、Tr1細胞およびMSCを静脈内注入した。臨床スコアおよび体重を毎日モニタリングした。
【0121】

例1
MSCの調製
【0122】
Balb/cマウスの脂肪組織の間質血管細胞群から間葉系幹細胞を抽出した。脂肪組織を0.1%のコラゲナーゼで30分間消化し、70μメッシュで濾過した。接着細胞を10%のFCSと10%のウマ血清とを含み、グルタミンおよびペニシリンおよびストレプトマイシンが添加されたRPMI培地中で培養した。当該細胞が脂肪細胞系および骨芽細胞系の双方に分化する能力を見るために、細胞を頻繁に観察した。
Tr1細胞の調製
【0123】
オボアルブミン特異的Tr1細胞を、照射された同系抗原提示細胞の存在下でオボアルブミンペプチド323−339およびIL−10で活性化した後、DO11−10オボアルブミン特異的TCRトランスジェニックマウスからのナイーブCD4+Tリンパ球から分化させた。その後、限界希釈法により細胞をクローン化して、オボアルブミン特異的Tr1細胞のモノクローナル集団を得た。実験1および実験2において用いた細胞は、Tr1クローンの培養から抽出した。
T細胞の活性化アッセイ
【0124】
Tr1細胞およびMSCの抑制能について、MLRの抑制について評価した。トランスウェルの下側ウェル中に、10個の反応細胞(Balb/cマウス)およびC57BL6マウスからの106個の照射された脾細胞と共にMLRをセットした。MSC(3x10個の細胞)およびTr1細胞(10個の細胞)を上側ウェル内に付加した。4日後、MLRの上清を収集し、IFNガンマ分泌をELISAによって測定した。
IFNガンマ産生を決定する方法
【0125】
活性化したTリンパ球によるIFNガンマの産生を、市販のELISA(BD Biosciencesから購入)によって評価した。
観察結果(図1)
【0126】
結果から、MSC細胞およびTr1細胞のどちらも、T細胞活性化を個別に抑制したことが分かる。T細胞活性化は、炎症性Tリンパ球から放出されたIFNガンマの減少によって測定した。MSC細胞およびTr1細胞の共培養により、MSC細胞またはTr1細胞の単独使用時と比較してより高い抑制が得られ、これら2種類の細胞は、T細胞活性化およびIFNガンマ放出の向上に繋がる相乗作用を示すことが分かる。
例2
【0127】
BALB/cマウスをデキストラン硫酸ナトリウム(DSS、飲用水中5%)で処理して、急性大腸炎を発生させた。複数のマウス群を、未処置のまま放置するかまたは第1日目に10個のオボアルブミン特異的Tr1細胞の静脈内注入によって処置し、その際、脂肪組織抽出MSC(0.5x10/マウス)を使用または不使用にした。7日後、以下の採点法に基づいて、マウスの臨床徴候を評価した。
0−臨床徴候無し
1−体重減少
2−体重減少+軽い下痢
3−体重減少+重度の下痢
4−体重減少+重度の下痢+血便
【0128】
結果から、MSCの同時投与により、この大腸炎モデルにおけるTr1細胞治療の有効性が向上していることが分かる(図2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tr1細胞および間葉系幹細胞を含む組成物。
【請求項2】
Tr1細胞が特異的である前記抗原をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Tr1細胞は、健康な対象者において通常許容される抗原に対して特異的である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記健康な対象者において通常許容される抗原は、アレルゲン、自己抗原、食物抗原または微生物抗原である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記Tr1細胞およびMSCは自家である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
Tr1細胞およびMSCは、逐次的にまたは同時に投与されるよう、別個にパッケージされる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物を含む薬剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物を1つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤と共に含む薬学的組成物。
【請求項9】
過度の、機能障害または無制御自己または非自己T細胞性免疫反応に係る疾患に罹患している対象者において、抗原免疫特異的寛容を誘導する方法であって、請求項7に記載の薬剤または請求項8に記載の薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む、方法。
【請求項10】
前記疾患は、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患または炎症性疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記疾患は、ヴェーゲナー病、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、クローン病、関節リウマチ、多発性硬化症およびインスリン抵抗性糖尿病を含む群から選択された自己免疫性疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記疾患は、関節リウマチ、多発性硬化症、クローン病を含む群から選択された炎症性疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記疾患は、ぜんそく、鼻炎、じんましん、アトピー性皮膚炎、線維症および食物アレルギーを含む群から選択されたアレルギー性疾患である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記Tr1細胞および前記MSCは、同時にまたは逐次的に投与される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
組織再生を必要としている対象者において組織再生を促進する方法であって、請求項7に記載の薬剤または請求項8に記載の薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む、方法。
【請求項16】
治療を必要としている対象者において線維症を治療する方法であって、請求項7に記載の薬剤または請求項8に記載の薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む、方法。
【請求項17】
血管形成の促進を必要としている対象者の臓器または組織における血管形成を促進する方法であって、請求項7に記載の薬剤または請求項8に記載の薬学的組成物の有効量を前記対象者に投与するステップを含む、方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−500045(P2011−500045A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529403(P2010−529403)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/064065
【国際公開番号】WO2009/050282
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(510087944)
【Fターム(参考)】