Th1細胞分化促進剤
【課題】BCG菌体中に含まれる、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制する活性を有する成分を単離精製し、その特徴を明らかにし、Th1細胞分化促進剤やTh2細胞分化抑制剤として開発すること。
【解決手段】本発明は、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤及びヒトTh2細胞分化抑制剤を提供する。本発明の剤は、癌等の予防・治療剤として、また花粉症等のアレルギー疾患の治療剤として有用である。
【解決手段】本発明は、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤及びヒトTh2細胞分化抑制剤を提供する。本発明の剤は、癌等の予防・治療剤として、また花粉症等のアレルギー疾患の治療剤として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Th0細胞(ナイーブT)からTh1細胞への分化を促進するため、又はTh2細胞への分化を抑制するための、Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG)由来のリポアラビノマンナン(LAM)及び/又はリポマンナン(LM)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息や花粉症、食物アレルギー、アレルギー性皮膚炎等、各種アレルギー性疾患が最近増加し、大気汚染やストレス等とも重なって当該疾患の原因解明と根本的治療が強く望まれている。Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG)は、80年以上にわたって結核ワクチンとして世界中で広く用いられてきた弱毒生菌ワクチンで、結核発病を抑止することが知られている。この事実よりBCG生菌ワクチンは抗結核免疫即ちTh1(細胞性)免疫反応を強力に活性化することは公知である。しかし、BCG菌体中のどの成分がどのようにTh1免疫を刺激して予防効果を示すかについては明らかではない。また、ヒトに適用するには安全性をより考えて単離された菌体成分を用いるほうが優れている。アレルギー疾患の治療剤はステロイド製剤を始め極めて多数にのぼるがその多くは対症療法剤であり、Th1免疫反応を増強し、あるいはTh2免疫反応を抑制することによりアレルギー性疾患を予防・治療し得るような医薬はほとんど知られていない。
【0003】
リポアラビノマンナン(LAM)は細胞壁の主要な構成成分であり、感染した宿主内でのミコバクテリアの生存に好都合な多様な免疫制御及び抗炎症効果を介するモジュリンとして考えられている。これらの効果としては、抗原プロセッシングの妨害を介するTリンパ球増殖の抑制(非特許文献1)、インターフェロンγによるマクロファージ活性化の阻害(非特許文献2)、酸素由来のフリーラジカルのスカベンジングなどが挙げられる。LAMは、マクロファージ不活性化に責を負う病原性因子であるのみならず、貪食細胞内へのミコバクテリアの貪食にも関与している(非特許文献3)。加えて、リポマンナン(LM)及びLAMの前駆体であると考えられているホスファチジルイノシトールマンノシド(PIMs)がNKT細胞を動員し、肉芽腫性の反応における初期の役割を果たしていることが、近年提案されている(非特許文献4、5)。ホスファチジルイノシトール(PI)、PIMs、LM及びLAMの生合成的関係が、生化学的(非特許文献6、7)及び遺伝学的(非特許文献8、9)研究により近年裏付けられてきたが、しかしこの経路の詳細は、高度に推論的なままである。しかしながら、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium leprae、Mycobacterium bovis BCG、及びMycobacterium smegmatisを含む多くの種からのLAMの構造がこの十年の間に広く記載されてきた。LAMは、ミコバクテリアの細胞壁中の糖脂質へアンカーするPI部分に付着したD−マンナン及びD−アラビナンから構成される複雑な糖脂質である(非特許文献10)。
【0004】
LAM分子には3種類のキャッピングモチーフが知られている。1番目はM.tuberculosis、Mycobacterium kansasiiなどから分離されたマンノシルキャップを持つManLAM;2番目はM.smegmatisなどから分離されたホスファチジルイノシトールキャップを持つPILAM;3番目はM.chelonaeなどから分離精製されたキャッピングモチーフを持たないAraLAMである。
【0005】
ManLAMは、ヒト体内で蓄積してゆっくり増殖するミコバクテリアの持続性に貢献している。ManLAMの抗炎症活性は、ManLAMの、マンノース受容体及び/又はマンノースキャップモチーフを介して非インテグリンをつかんでいる樹状細胞特異的ICAM-3 (intracellular adhesion molecule-3)との相互作用を要することが示されている(非特許文献11、12、13)。逆に、PILAMは、Toll-like receptors 2 (TLR-2)の活性化を介して多様な炎症性サイトカインの放出を誘導できる(非特許文献14、15、16)。AraLAMは何ら活性を示さないので、この活性は、PIキャップを要するようである(非特許文献17)。LMは、TLR-2依存的、且つ、TLR-4及びTLR-6非依存的な様式でマクロファージを活性化させることが示されている(非特許文献18、19、20)。従って、ManLAM/LMバランスは、ミコバクテリアに対する正味の免疫反応に影響を与えるパラメーターであり得る。
【0006】
IL-12は、ナイーブCD4T細胞のTh1細胞(IFNγ産生細胞)への分化を促進し、Th2(IL-4産生細胞)への分化を阻害することにより、抗腫瘍免疫を増強し、アレルギー疾患等のTh2関連疾患を抑制し得ることが知られている。このIL-12産生に対するLAM及びLMの効果に関していくつかの知見が報告されている。
【0007】
非特許文献21には、ヒト単球から樹状細胞への分化の過程でのBCG感染やMannose-capped lipoarabinomannan (ManLAM)の添加が、その後の樹状細胞のIL-12合成を減少させること、IL-12 p35及びp40 mRNA合成が、AraLAMよりもManLAMによってより強力に抑制されたことが記載されている。
【0008】
非特許文献11には、Mycobacterium bovis BCG 及び Mycobacterium tuberculosis由来のManLAMが、LPSにより誘導されるヒト樹状細胞からのIL-12産生を、用量依存的に抑制したこと、この阻害活性が、Mannose cap又はGPI acyl残基を欠失させることにより失われたことが記載されている。
【0009】
非特許文献22には、Mycobacterium sp.由来のAraLAMがマウスマクロファージ(J774細胞株、腹腔内マクロファージ)におけるIL-12発現を誘導することができるが、Erdman strainに由来するManLAMは、IL-12発現を誘導することはできないことが記載されている。
【0010】
非特許文献20には、Mycobacteriumの種類に関わらず、ManLAMはマウスマクロファージ(RAW264.7、骨髄由来マクロファージ)のIL-12遺伝子発現を誘導しなかったが、PILAMはIL-12分泌を誘導したこと、Mycobacterium chelonaeから精製した非キャップLAMはIL-12分泌を誘導しなかったこと、LMはMycobacteriumの種類に関わらずIL-12を強力に誘導したことが記載されている。
【0011】
即ち、これらの知見によれば、LAMはマウスマクロファージのIL-12産生を誘導するが、ヒトマクロファージのIL-12産生に対しては抑制的に作用している。
【0012】
樹状細胞(DC)は、免疫系の哨兵として末梢組織をパトロールしていて、ミコバクテリアを含む細胞内病原体に対する細胞免疫の誘導に決定的に重要である(非特許文献23)。多くの証拠が、DCは初期T細胞反応の開始のための主要なAPCであり、ミコバクテリア感染におけるIL-12の初期の産生源であることが立証されている(非特許文献24、25、26)。ヒト又はマウスのミエロイドDCへのMycobacterium tuberculosis 及び M. bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG)の感染は、細胞成熟及びIL-12産生の上昇の調和したプロセスを誘導する(非特許文献27、28)。BCG感染したDCをマウスに移入すると、ミコバクテリア抗原に対する迅速なIFNγ反応が起こり(非特許文献27)、M. tuberculosisに感染したDCは、マウスにおける実験的結核に対して強力な免疫を誘導する(非特許文献29)。
【非特許文献1】Clin. Exp. Immunol., 74, 206-210 (1988)
【非特許文献2】Infect. Immun., 56, 1232-1236 (1988)
【非特許文献3】J. Immunol. , 152, 4070-4079 (1994)
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 96, 5141-5146 (1999)
【非特許文献5】J. Biol. Chem., 276, 34896-34904 (2001)
【非特許文献6】Glycobiology 5, 117-127 (1995)
【非特許文献7】J. Biol. Chem., 272, 18460-18466 (1997)
【非特許文献8】J. Biol. Chem., 274, 31625-31631 (1999)
【非特許文献9】Biochem. J., 363, 437-447 (2002)
【非特許文献10】J. Biol. Chem., 265, 9272-9279 (1990)
【非特許文献11】J. Immunol., 166, 7477-7485 (2001)
【非特許文献12】J. Exp. Med., 197, 7-17 (2003)
【非特許文献13】Trends Microbiol., 11, 259-263 (2003)
【非特許文献14】J. Biol. Chem., 272, 117-124 (1997)
【非特許文献15】Infect. Immun., 61, 4173-4181 (1993)
【非特許文献16】J. Immunol., 163, 6748-6755 (1999)
【非特許文献17】J. Biol. Chem., 277, 30635-30648 (2002)
【非特許文献18】J. Immunol., 171, 2014-2023 (2003)
【非特許文献19】J. Immunol. ,172, 4425-4434 (2004)
【非特許文献20】Infect. Immun., 72, 2067-74 (2004)
【非特許文献21】Immunol. Lett., 77, 63-6 (2001)
【非特許文献22】Infect Immun., 65, 1953-5, (1997)
【非特許文献23】Nature, 392, 245-252, (1998)
【非特許文献24】Curr. Opin. Immunol., 9, 10-16 (1997)
【非特許文献25】J. Exp. Med., 186, 1819-1829 (1997)
【非特許文献26】Curr. Opin. Immunol., 11, 392-399 (1999)
【非特許文献27】Eur. J. Immunol., 29, 1972-1979 (1999)
【非特許文献28】Int. J. Cancer, 70, 128-134 (1997)
【非特許文献29】Immunology, 99, 473-480 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記事情に鑑み、本発明は、BCG菌体中に含まれる、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制する活性を有する成分を単離精製し、その特徴を明らかにし、IFNγ産生ヘルパーT細胞分化促進剤やIL-4産生ヘルパーT細胞分化抑制剤として開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、BCG菌体中に含まれるLAM及びLMが、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制する活性の実体であることを見出し、以下の発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下に関する。
[1]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤。
[2]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、[1]記載の剤。
[3]リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、[1]又は[2]記載の剤。
[4]トリアシルリポマンナンが、式
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、[3]記載の剤。
[5]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh2細胞分化抑制剤。
[6]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、[5]記載の剤。
[7]リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、[5]又は[6]記載の剤。
[8]トリアシルリポマンナンが、式
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、[7]記載の剤。
[9]ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進する方法。
[10]ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法。
[11]該培地が更に抗原提示細胞を含む、[10]記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
BCG菌体中に含まれるLAM及びLMは、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制するので、癌等の予防・治療剤として、また花粉症等のアレルギー疾患の治療剤等としてさらには結核を初めとする感染症予防ワクチンアジュバントとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤、及びヒトTh2細胞分化抑制剤(以下、本発明の剤という)を提供する。
【0021】
本発明に用いることのできるリポアラビノマンナン(LAM)及びリポマンナン(LM)は、BCG菌体由来である。BCGの菌株の種類は、該菌株由来のリポアラビノマンナン及び/リポマンナンがヒトTh1細胞分化促進作用、及びヒトTh2細胞分化抑制作用を有する限り特に限定されないが、該種類としては、例えば、Tokyo-172株、コンノート株、タイス株、アーマンドフラッピア株、パスツール株、ロシア株、ブラジル株、グラクソ株、プラハ株、フィップス株等が挙げられる。各BCG菌株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)等から入手することができる。
【0022】
LAMは、BCG等のミコバクテリアの細胞壁や細胞膜を構成する主要なリポグリカンの1つである。LAMは、通常、マンノシルホスファチジルイノシトールアンカー(MPI)、D−マンナンコア及びD−アラビナンドメインを含む糖バックボーンとキャッピングモチーフを含む。BCG菌株由来のLAMには、分子内に含まれる糖(例えばマンノース)残基の数が異なる、数多くの種類のLAMが含まれる。BCG菌株由来のLAMを、MALDI-TOFF Massにより解析すると、脱プロトン化分子イオン[M-H]-が、分子量約m/z15000を中心とする約m/z 13000〜約m/z 17000の範囲に分布する。
【0023】
BCG菌株由来のLAMを構成するアシル基の数は、通常1〜3個である。即ち、該LAMには、モノアシルLAM、ジアシルLAM及びトリアシルLAMが含まれる。また、該アシル基は、通常C14〜20の脂肪酸由来のアシル基である。該脂肪酸としては、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデカン酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデカン酸(C17:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、ツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)等を挙げることができるが、好ましくは、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)又はツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)である。
【0024】
BCG菌株由来のLAMに含まれる糖鎖の分枝構造としては、末端アラビノース、2-アラビノース、5-アラビノース、3,5-アラビノース、末端マンノース、2-マンノース、6-マンノース、2,6-マンノース等を挙げることが出来るが、5-アラビノース、3,5-アラビノース、末端マンノース及び2,6-マンノースの含有量が相対的に高い。末端構造のほとんどはマンノースキャップであり、非キャップ(即ち末端アラビノース)構造がわずかに存在する。末端マンノース構造の割合は、末端アラビノース構造の、通常10倍以上、好ましくは20倍以上(例えば約40倍)である。
【0025】
LMも、LAMと同様に、BCG等のミコバクテリアの細胞壁や細胞膜を構成する主要なリポグリカンの1つである。LMは、LAMの生合成の前駆体である。BCG菌株由来のLMには、分子内に含まれる糖(例えばマンノース)残基の数が異なる、数多くの種類のLMが含まれる。BCG菌株由来のLMを、MALDI-TOFF Massにより解析すると、脱プロトン化分子イオン[M-H]-が、約m/z 4500〜約m/z 9000の範囲に分布し、マンノース残基を20〜48個含むものが主要(約90%以上(モル比))である。
【0026】
BCG菌株由来のLMを構成するアシル基の数は、通常1〜3個である。即ち、該LMには、モノアシルLM、ジアシルLM及びトリアシルLMが含まれるが、好ましくはトリアシルLMである。また、該アシル基は、通常C14〜20の脂肪酸由来のアシル基である。該脂肪酸としては、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデカン酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデカン酸(C17:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、ツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)等を挙げることができるが、好ましくは、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)又はツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)である。
【0027】
BCG菌株由来のLMに含まれる糖鎖の分枝構造としては、末端アラビノース、末端マンノース、2-マンノース、6-マンノース、2,6-マンノース等を挙げることが出来るが、末端マンノース、6-マンノース及び2,6-マンノースの含有量が相対的に高い。末端構造のほとんどはマンノースキャップであり、非キャップ(即ち末端アラビノース)構造がわずかに存在する。末端マンノース構造の割合は、末端アラビノース構造の、通常50倍以上、好ましくは100倍以上(例えば約360倍)である。
【0028】
本発明に用いることのできるLMは、好ましくは、少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルLMである。該トリアシルLMとしては、
【0029】
【化3】
【0030】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
R1〜R3のアシル基としては、上述のものを挙げることが出来る。上記化合物の中でも含有量が多いものとしては、R1〜R3のアシル基のうち、2つがパルミチン酸(C16:0)由来のアシル基であり、1つがツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)由来のアシル基である化合物を挙げることが出来る。より好ましくは、R1がツベルクロステアリン酸由来のアシル基であり、R2及びR3がパルミチン酸由来のアシル基である。
【0032】
LAM及びLMは、BCG菌体より、後述の実施例等の方法に従って、単離精製することができる。例えば、BCG菌体をフレンチプレス等により破砕し、細胞壁(CW)画分及び/又は細胞(CM)膜を分離する。得られたCW及び/又はCMを、αアミラーゼ、DNaseI、RNase、トリプシン等の分解酵素により酵素処理し、タンパク質、核酸、グルカンを除去する。反応後の抽出物をフェノール抽出に付す。次に、疎水性相互作用カラムを用いてグリカンを除去することによりLAM及びLMを含む画分を得ることができる。更に該画分をゲル濾過カラムに付すことにより精製されたLAM及びLMを得ることが出来る。BCG菌体からのLAM及びLMの精製方法の詳細については、J. Biol. Chem., 271, 28682-28690 (1996)、FEMS Immunol. Med. Microbiol., 24, 11-17 (1999)、J. Biol. Chem., 277, 31722-31733 (2002)、J. Bacteriol., 187, 854-861 (2005)などを参照のこと。
【0033】
BCG菌体由来のLAM及びLMは、ヒトTh1細胞分化を促進し、ヒトTh2細胞分化を抑制するので、ヒトTh1細胞分化促進剤及びヒトTh2細胞分化抑制剤として有用である。有効量のBCG菌体由来のLAM及び/又はLMをヒトに投与することにより、該ヒトにおいてTh1細胞分化が促進され、Th2細胞分化が抑制される。ここで、Th1細胞とは、ナイーブなCD4T細胞から分化した、IFNγを優勢に産生するCD4T細胞をいう。Th2細胞とは、ナイーブなCD4T細胞から分化した、IL-4を優勢に産生するCD4T細胞をいう。ナイーブなCD4T細胞とは、胸腺から移出し、抗原刺激を受けていないCD4T細胞をいい、例えば、末梢のCD4陽性CD45RO陰性(CD4+CD45RO-)細胞やCD4陽性CD45RA陽性(CD4+CD45RA+)細胞がこれに該当する。Th1細胞分化とは、ナイーブCD4T細胞からのTh1細胞の分化をいい、Th2細胞分化とは、ナイーブCD4T細胞からのTh2細胞の分化をいう。Th1細胞分化は、IL-2及びIL-12の存在下でナイーブCD4T細胞を抗原により刺激することにより誘導することができる。Th2細胞分化は、IL-2及びIL-4の存在下でナイーブCD4T細胞を抗原刺激することにより誘導することができる。Th1細胞分化及びTh2細胞分化は、通常、ナイーブCD4T細胞のうちのある割合の細胞に誘導される。「分化の促進」とはこの割合を上昇させることをいい、「分化の抑制」とはこの割合を低下させることをいう。即ち、BCG菌体由来のLAM及びLMは、ナイーブCD4T細胞からTh1細胞へ分化する細胞の割合を上昇させ、ナイーブCD4T細胞からTh2細胞へ分化する細胞の割合を低下させることができる。
【0034】
本発明の剤は、有効量のBCG由来のLAM及び/又はLMに加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0035】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の剤は、所望の効果を奏するような投与剤型にすることが好ましい。例えば、経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0037】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0038】
本発明の剤における有効成分の含有量は、所望の薬理効果を奏することが出来る範囲で、有効成分の種類、剤型等を考慮し、適宜設定することが出来るが、通常、0.01〜100重量%である。
【0039】
本発明の剤の適用量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に設定することは出来ないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0001〜約5000mg/kgである。
【0040】
本発明の剤は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。Th1細胞はIFNγを大量に産生し、抗腫瘍免疫や抗ウイルス免疫を増強する一方で、アレルギー反応等のTh2反応に対しては抑制的に働く。また、Th2細胞はIL-4を大量に産生し、アレルギー反応等を増悪する。BCG由来のLAM及び/又はLMは、Th1細胞分化を促進し、Th2細胞分化を抑制し得るので、癌(肺癌、胃癌、結腸癌、肝癌、ホジキン症等)、ウイルス疾患(肝炎、インフルエンザ等)、アレルギー性疾患(特にアレルギー性喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、湿疹、食物過敏症、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等などのI型アレルギー反応が関与する疾患)、自己免疫病(1型糖尿病、SLE、甲状腺炎、自己免疫性神経炎)等の予防・治療薬や、結核等の感染症の予防ワクチンアジュバント等として有用である。
【0041】
ここで、後述の実施例において示すように、BCG由来のLAMとLMを併用することにより、Th1細胞分化促進作用及びTh2細胞分化抑制作用を相乗的に増強することができる。したがって、BCG由来のLAMとBCG由来のLMとを適量配合して、或いは適量併用して使用することにより、優れたTh1細胞分化促進剤及びTh2細胞分化抑制剤とすることが出来る。即ち、好ましい態様において、本発明の剤は、BCG由来のLAMとBCG由来のLMとを組み合わせてなる。
【0042】
上述のBCG由来のLAMとBCG由来のLMとの併用に際しては、LAMとLMの投与時期は限定されず、LAMとLMとを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。LAM及びLMの投与量は、本発明の併用剤において用いられた際に上述の疾患の予防・治療を達成し得る範囲で特に限定されず、投与対象、投与ルート、疾患、組み合わせ等により適宜選択することが出来る。
【0043】
LAMとLMの投与形態は、特に限定されず、投与時に、LAMとLMとが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)LAMとLMとを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、LAM→LMの順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。以下、これらの投与形態をまとめて、本発明の併用剤と略記する。
【0044】
本発明の併用剤は、上記本発明の剤と同様に、医薬上許容され得る担体と混合して、常套手段に従って製剤化することができる。
【0045】
本発明の併用剤における、LAM及びLMの含有量は、所望の薬理効果を奏することが出来る範囲で、有効成分の種類、剤型等を考慮し、適宜設定することが出来るが、通常、それぞれ、0.01〜99.99重量%である。
【0046】
本発明の併用剤におけるLAMとLMとの配合比は、投与対象、投与ルート、疾患等により適宜設定することができるが、好ましくは、Th1細胞分化促進作用及び/又はTh2細胞分化抑制作用を相乗的に増強し得るように設定される。LAMとLMの配合比は、重量比として、LAM:LMが通常20:1〜1:20、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5(例えば2:1)の範囲内である。
【0047】
本発明の併用剤の投与量は、投与ルート、症状、患者の年令等によっても異なり、適宜選択することが出来る。本発明の併用剤におけるLAM及びLMの投与量は、本発明の剤と同様であるが、併用により作用効果が相乗的に増強されるので、LAM又はLMを単独で用いた場合と同等の作用効果を得るための、それぞれの投与量を、単剤の場合の投与量を下回る量、例えば、単剤の場合の投与量の50%以下、好ましくは25%以下とすることができる。
【0048】
LAM及びLMをそれぞれ別々に製剤化する場合も、配合製剤と同様の含有量でよい。
【0049】
LAMとLMをそれぞれ別々に製剤化して併用投与するに際しては、LAMを含有する医薬組成物とLMを含有する医薬組成物とを同時期に投与してもよいが、LMを含有する医薬組成物を先に投与した後、LAMを含有する医薬組成物を投与してもよいし、LAMを含有する医薬組成物を先に投与し、その後でLMを含有する医薬組成物を投与してもよい。時間差をおいて投与する場合、時間差は投与する有効成分、剤形、投与方法により異なるが、例えば1分〜3日以内、好ましくは10分〜1日以内、より好ましくは15分〜1時間以内である。
【0050】
また、本発明は、ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進する方法、及び該CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法を提供する。
【0051】
本発明の方法に用いられるCD4T細胞は、好ましくはナイーブCD4T細胞である。
【0052】
本明細書において、抗原とは、培養細胞上の抗原受容体(例えばT細胞受容体)に認識され、該受容体を介して細胞を刺激し得る物質を包括的に意味する。抗原としては、例えばペプチド、タンパク質、脂質、糖脂質等の抗原分子のみならず、免疫学的非自己細胞、抗原受容体の構成分子(CD3、TCRβ、TCRα等)や副刺激分子(CD28等)を認識する作動性抗体(例えば抗ヒトCD3抗体であるOKT-3等)やスーパー抗原などの抗原ミミックをも含む。
【0053】
抗原刺激培養には、抗原以外の他の因子が含まれ得る。該因子としては、IL-2等のT細胞増殖因子を挙げることができる。Th1細胞への分化を促進する方法においては、抗原刺激培養は、該分化を促進するために、IL-12存在下で行うことが好ましいが、IL-4の存在下でも、本発明の方法によりTh1細胞への分化を促進することが可能である。また、培養中のT細胞から産生されたIL-4の影響を排除するため、抗原刺激培養はIL-4に対する中和抗体を含むことが好ましい。Th2細胞への分化を抑制する方法においては、抗原刺激培養は、IL-4の存在下で行われ得る。また、培養中のT細胞から産生されたIFNγの影響を排除するため、抗原刺激培養はIFNγに対する中和抗体を含むことが好ましい。これらの因子(IL-2、IL-12、IL-4、抗IL-4抗体、抗INFγ抗体)の培地中の濃度は、当業者にとって周知である。
【0054】
本発明の方法に用いる培地としては、例えば、適切な添加物(血清、アルブミン、緩衝剤、アミノ酸等)を含んでいてもよい基礎培地(最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地)などを挙げることが出来る。培養液のpHは通常約6〜8であり、培養温度は通常約30〜40℃であり、培養時間は通常1〜10日間である。
【0055】
培地中に添加されるLAM及び/またはLMの濃度は、CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進し、またCD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制し得る濃度であれば特に限定されないが、例えば0.1〜1000μg/ml、好ましくは10〜500μg/mlである。
【0056】
上述のように、BCG由来のLAMとLMを併用することにより、Th1細胞分化促進作用及びTh2細胞分化抑制作用を相乗的に増強することができる。この場合、培地中のLAM及びLMの濃度は、上述と同様であるが、併用により作用効果が相乗的に増強されるので、LAM又はLMを単独で用いた場合と同等の作用効果を得るための、それぞれの培地中の濃度を、単剤の場合の濃度を下回る濃度、例えば、単剤の場合の濃度の50%以下、好ましくは25%以下とすることができる。また、この場合のLAMとLMの配合比は、重量比として、LAM:LMが通常20:1〜1:20、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5(例えば2:1)の範囲内である。
【0057】
後述の実施例に示されるように、BCG由来のLAMやLMがTh1細胞分化促進作用を発揮するためには、抗原提示細胞を要しないが、Th2細胞分化抑制作用を発揮するためには、抗原提示細胞を要する。したがって、CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法においては、培地が更に抗原提示細胞を含むことが好ましい。ここで、抗原提示細胞とは、抗原をリンパ球に提示してリンパ球の活性化を促す細胞をいう。通常、抗原提示細胞は、T細胞やNKT細胞に抗原を提示し得る樹状細胞又はマクロファージである。特に、樹状細胞は、強力な抗原提示能力を有しており、細胞表面上に発現されたMHC Class I、MHC Class I様分子(CD1等) 、MHC Class II等を介して抗原を提示し、T細胞又はNKT細胞を活性化させ得るので、本発明に好ましく用いられる。
【0058】
抗原提示細胞としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。哺乳動物としては、ヒト及びヒトを除く哺乳動物を挙げることが出来る。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
【0059】
本発明の方法に使用される抗原提示細胞の遺伝子型は、特に限定されないが、通常、培養されるヒトCD4T細胞と同種同系、同種異系又は異種異系であり、好ましくは同種同系又は同種異系であり、より好ましくは、同種同系である。
【0060】
抗原提示細胞は自体公知の方法によって、上述の哺乳動物の組織(例えばリンパ節、脾臓、末梢血等)から単離することが可能である。例えば抗原提示細胞上に特異的に発現する細胞表面マーカーに対する抗体を用いて、セルソーター、パニング、抗体磁気ビーズ法等により樹状細胞を単離することができる。抗原提示細胞として樹状細胞を単離する場合には、樹状細胞上に特異的に発現する細胞表面マーカーとして、例えば、CD11c、MHC Class I、MHC Class I様分子(CD1等) 、MHC Class II、CD8α、CD85k、CD86、FDL-M1、DEC-205等を挙げることが出来る。
【0061】
また、抗原提示細胞は、上述の哺乳動物の骨髄細胞や単核球等を適切な抗原提示細胞分化条件で培養することにより製造することもできる。例えば、骨髄細胞はGM-CSF(場合によっては更にIL-4)の存在下で約6日間程度培養されることにより、樹状細胞(骨髄由来樹状細胞:BMDC)へと分化する(Nature, 408, p.740-745, 2000)。また、末梢血液中の単核球(特に単球、マクロファージ等)をGM-CSF(場合によっては更にIL-2及び/又はIL-4)の存在下で培養することにより、樹状細胞を得ることが出来る(Motohasi S, Kobayashi S, Ito T, Magara KK, Mikuni O, Kamada N, Iizasa T, Nakayama T, Fujisawa T, Taniguchi M., Preserved IFN-alpha production of circulating Valpha24 NKT cells in primary lung cancer patients., Int J Cancer, 2002, Nov.10; 102(2):159-165. Erratum in :Int J Cancer. 2003, May 10; 104(6):799)。
【0062】
Th1細胞への分化が促進されたこと、及びTh2細胞への分化が抑制されたことは、培養中のCD4T細胞におけるIFNγ及びIL-4の産生を、コントロール(BCG由来のLAM及びLMを含まない培地中で培養されたCD4T細胞)と比較することにより確認することができる。IFNγ及びIL-4の産生は、抗IFNγ抗体及び抗IL-4抗体による細胞内染色及びフローサイトメトリーによる解析により測定することができる。
【0063】
本発明の方法は、BCG由来のLAM及びLMがTh1/Th2分化へ及ぼす効果を解析し、この効果に関わる分子を同定することにより、癌、ウイルス疾患、アレルギー疾患の新たな治療ターゲットや、治療薬を開発する上で有用である。
【0064】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0065】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1
1. 材料及び方法
1.1. 細菌株及び増殖条件
Mycobacterium bovis BCG Tokyo 172株 (ATCC 35737)を用いた。Mycobacterium bovis BCG Tokyo 172を37℃で、Sauton培地上で数日間増殖した。
【0067】
1.2. BCG細胞壁画分及び細胞膜画分の調製
BCG Tokyo 172 加熱死菌体を10倍容の精製水に懸濁し、フレンチプレスにより菌体を破砕後、超遠心6760×gで未破砕菌体を除き、さらに超遠心18000×gにより細胞壁画分(CW)及び上清の細胞膜画分(CM)を分離した。分離した分画は粒度分布計にて粒子径を測定し、BCG菌体と比較した。
【0068】
1.3. BCG菌体リン脂質(PIM2、PIM6)の単離精製
各脂質は、BCG加熱死菌体からクロロホルム−メタノール(2:1、v/v)混合溶媒によって抽出した総脂質画分を溶媒分画法及び薄層クロマトグラフィーにより単離精製した。また、各リン脂質はMALDI-TOF Massにより分子量測定を行い同定した。
【0069】
1.4. LAM及びLMの単離精製
CMを酵素処理(α-amylase, DNase I, RNase, trypsin)して、蛋白質、核酸、グルカンを除去し、フェノール抽出後、さらに疎水性相互作用カラム(Octyl Sepharose 4 Fast Flow, Amersham Biosciences)あるいはTriton X-114(SIGMA)を用いてグリカンを除き粗LAM/LM画分を得た。この粗LAM/LM中のLAMとLMの混合比は、LAM:LM =約2:1(重量比)であった。
LAM及びLMは、ゲル濾過カラム(Superdex 75 prep gradeあるいはSephacryl S-200, Amersham Biosciences)を用いて粗LAM/LM画分を分画することにより得た。各溶出画分は、SDS-PAGEゲル(15〜25%)の銀染色並びにPAS染色を行い、比較標品として用いた結核菌M. tuberculosis AOYAMA-B株由来LAM(nacalai tesque社製)と移動度を比較することによりLAM及びLMを同定した。さらに、各溶出画分のマンノース、アラビノース及びmyo-イノシトール含量をGC/MSにより定量した。また、MALDI TOF-MS (Voyager DE)により、M. tuberculosis AOYAMA-B株由来LAMとBCG Tokyo 172のLAM及びLMについて質量分析を行った。
【0070】
1.5. ヒトPBMC及び粗製ナイーブCD4T細胞の調製
ヒトナイーブCD4T細胞の分離を自動磁気細胞分離装置(autoMACS Miltenyi Biotec GmbH)を用いて以下に示す方法で行なった。24〜50才の6人の健常ドナーボランティアから、静脈穿刺により全血を得た。ヒト末梢血50mlを、D-PBS溶液(Sigma-Aldrich Inc) 50mlで等倍に希釈した。次に、12.5mlの Ficoll-Paque Plus(Amersham Biosciences)を分注した4本の遠心チューブに上記の希釈末梢血25mlをゆっくり重層し、遠心機を用いて室温で950Gにて30分間遠心分離した。遠心後、Ficoll-Paqueと上清との間の中間層に存在するリンパ球を回収し、3% 牛胎児血清(FCS: JRH Biosiences)および2mM EDTA(Dojindo Inc)を含むD-PBS溶液 (以下、MACSバッファーという)中に懸濁し、遠心機を用いて4℃、500Gにて5分間の遠心を行い、リンパ球を沈降した。リンパ球細胞ペレットを再度MACSバッファーに懸濁し、500Gにて5分間の遠心分離によりリンパ球を沈降し、2回洗浄したリンパ球細胞ペレットを得た。この細胞ペレットを再度MACSバッファーに1x108個/mlになるように懸濁した。リンパ球1x107個に対してFITC標識抗ヒトCD8抗体(BD BioScience Pharmingen) 2μL、FITC標識抗ヒトCD45RO抗体(BD BioScience Pharmingen)を2μLそれぞれ添加し、氷上で30分間反応させることにより各々の抗体を結合させた。反応液にMACSバッファーを加え、遠心し、4℃にて2回洗浄した。次に各々の抗体を結合したリンパ球1x107個に対して10μLの抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotec GmbH)を添加し、氷上で15分間反応させた。反応液にMACSバッファーを加え、遠心し、4℃にて2回洗浄した。得られた細胞ペレットを5x107/mlの細胞濃度になるようにMACSバッファーで懸濁し、ナイロンメッシュ(アベ科学)を通過させた後、自動磁気細胞分離装置(AutoMACS Miltenyi Biotec GmbH)を用いてCD8及びCD45ROダブルネガティブフラクションを回収する事によってヒトナイーブCD4T細胞を分離し、以下の実験に供した。
【0071】
1.6. インビトロT細胞分化培養
ヒト末梢血から分離したナイーブCD4T細胞を、Th1分化条件では5x105細胞/0.5ml/wellとなるように培養プレートに幡種し、以下の条件下で刺激し、培養した。Th1/2刺激とそれに続く培養は、CO2インキュベーターを用い、5% CO2のもと37℃にて行った。Th1分化条件では、10%牛胎児血清(FCS: JRH Biosiences)、10mM HEPES(GIBCO)、100μM Non-Essential Amino Acids(GIBCO)、1mM Sodium Pyruvate(GIBCO)、55μM 2-Mercaptoethanol(GIBCO)を含むRPMI-1640培地(SIGMA)(以降、分化誘導培地と呼ぶ)に、50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-12(ペプロテック)、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IL-4抗体(Pharmingen)を添加した。抗CD3抗体20μg/ml(オルソクローンOKT3、ヤンセンファーマ)を固層化した平底48穴組織培養プレート(Coaster)中で、細胞を2日間培養した。更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して、抗IL-4抗体を含まないTh1分化培養条件にて更に5日間培養した。
また、Th2分化条件では、50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-4、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IFNγ抗体(Pharmingen)を含む分化誘導培地中、細胞を抗CD3抗体固層化プレート上で2日間刺激し、更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して5日間培養した。更に、Th2細胞分化の場合は、2日間に続く5日間の分化誘導を2サイクル連続して行った。
特に記載する場合を除きCW、LAM/LM、PIM2及びPIM6の最終濃度を100μg/mlに調整した。
【0072】
1.7. IL-4及びIFNγの細胞内染色及びフローサイトメトリー解析
IL-4及びIFNγの細胞内染色を(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 1024 (1999))に記載されている様に行った。
Th1分化誘導した細胞(Th1誘導細胞)、Th2分化誘導した細胞(Th2誘導細胞)をMonensin(Sigma)存在下でPMA(Phorbol-12-Myristate-13-Acetate、 Sigma-Aldrich)、Ionomycin (Calbiochem)を添加した培地中で、4時間培養し、刺激した。刺激後、細胞内染色を以下の方法により行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて解析し、Th1あるいはTh2分化誘導の程度について評価した。
詳細には、Th1誘導細胞あるいはTh2誘導細胞を平底48穴組織培養プレートに1ウエルあたり5-10x105個の濃度となる様に幡種し、2μMのMonensin存在下、10ng/ml(最終濃度)のPMA、及び1μM(最終濃度)のIonomycinを添加し、37℃、5% CO2にて4時間培養し刺激を行った。細胞を4%パラホルムアルデヒドにより室温にて10分間固定し、0.5% Triton X-100(50mM NaCl、5mM EDTA及び0.02% NaN3、pH7.5中)により氷上にて10分間透過処理した。3% BSAを含むPBSにより15分間ブロッキング後、細胞をPE標識した抗ヒトIL-4抗体(IL-4 PE)とFITC標識した抗ヒトIFNγ抗体(IFNγ-FITC)(Becton-Dickinson)を用いて細胞内染色し、細胞内のIL-4あるいはIFNγのサイトカイン量を評価した。同時に、APC標識抗ヒトCD4抗体(CD4 APC)(BD Biosciences)により染色を行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて測定した。解析はCellQuest software (Becton Dickinson)を用い、CD4を発現するT細胞のみにゲートをかけて行った。
【0073】
1.8. 精製ナイーブCD4T細胞及び単球由来樹状細胞(moDC)の調製
精製ナイーブCD4T細胞(CD4+、CD45RA+)を、ナイーブCD4T細胞単離キット(Mylteni Biotec Inc.)及びAutoMACS sorterを用いて精製した。精製度(CD4+、CD45RA+)は95%を上回った。
moDCsを調製するために、全PBMCを、37℃にて1.5-2時間、培養フラスコに接着させ、接着性の細胞をrhIL-4 (500U/ml、R&D Systems)及びrhGM-CSF (800U/ml)の存在下で5-7日間培養した(International Journal of Cancer, Volume 117, Issue 2, Pages 265-273, 2005)。CD11c+細胞をMACS分離カラム(Miltenyi Biotech)を用いて、製造者のプロトコールに従って精製した。得られた細胞をインビトロT細胞分化培養に用い、DCの関与について調べた。
【0074】
1.9. ナイーブT細胞を用いたヒトTh1/Th2分化誘導系におけるLAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6及びカルジオリピンの影響
ヒト末梢血から分離調製したナイーブT細胞を用い、LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6又はカルジオリピンを添加した条件にて、上述のTh1/Th2分化誘導系を使用してTh1分化誘導あるいはTh2分化誘導を実施し、LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンがTh1誘導あるいはTh2誘導を修飾するか否かを評価した。
詳細は、ヒト末梢血から分離したナイーブCD4T細胞を、Th1分化条件では5x105細胞/0.5ml/wellとなるように培養プレートに幡種し、以下の条件下で刺激し、培養した。Th1又はTh2刺激とそれに続く培養は、CO2インキュベーターを用い、5% CO2のもと37℃にて行った。Th1分化条件では、分化誘導培地に50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-12(ペプロテック)、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IL-4抗体(Pharmingen)を添加した。さらにLAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンを100μg/mlになるようにそれぞれのウエルに加え、抗CD3抗体20μg/ml(オルソクローンOKT3、ヤンセンファーマ)を固層化した平底48穴組織培養プレート(Coaster)中で2日間培養した。更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して、抗IL-4抗体を含まないTh1分化培養条件にて更に5日間培養した。
また、Th2分化条件では、5x105細胞/0.5ml/ウエルとなるように培養プレートにナイーブT細胞を幡種し、以下の条件下で刺激した。即ち、50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-4、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IFNγ抗体(Pharmingen)を含む分化誘導培地を用い、LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンを100μg/mlになるようにそれぞれのウエルに加え、細胞を抗CD3抗体固層化プレート中で2日間刺激し、更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して5日間培養した。更に、Th2細胞分化の場合は、2日間に続く5日間の分化誘導を2サイクル連続して行った。
LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンを添加した条件で、Th1分化誘導あるいはTh2分化誘導した細胞を、Monensin(Sigma)存在下でPMA (Phorbol-12-Myristate-13-Acetate、 Sigma-Aldrich)、Ionomycin (Calbiochem)を添加した培地中で、4時間培養し、刺激した。刺激後、細胞内染色を以下の方法により行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて解析し、Th1あるいはTh2分化誘導の程度について評価した。
詳細には、Th1誘導細胞あるいはTh2誘導細胞を平底48穴組織培養プレートに1ウエルあたり5-10x105個の濃度となる様に幡種し、2μMのMonensin存在下、10ng/ml(最終濃度)のPMA、及び1μM(最終濃度)のIonomycinを添加し、37℃、5% CO2にて4時間培養し刺激を行った。細胞をPE標識した抗ヒトIL-4抗体及びFITCで標識した抗ヒトIFNγ抗体(Becton-Dickinson)を用いて細胞内染色し、細胞内に蓄積したIL-4あるいはIFNγのサイトカイン量を評価した。同時に、APC標識抗ヒトCD4抗体(CD4 APC)(BD Biosciences)により染色を行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて測定した。解析はCellQuest software (Becton Dickinson)を用い、CD4を発現するT細胞のみにゲートをかけて行った。
【0075】
2. 結果
2.1. BCG粗細胞壁画分(BCG-CCW)
調製したBCG-CCWの粒度分布を図1に示した。電子顕微鏡像からは、BCG菌体がフレンチプレス処理することで、そのほとんどが破砕されていることが確認できた。各画分の粒度分布は、CWがメジアン径約240nm、CMが約130nmであった(図1)。
【0076】
2.2. BCG菌体リン脂質
BCG菌体の総脂質から、リン脂質としてカルジオリピン及び数種類のPIMを単離精製した。PIMxについては、MALDI-TOF Mass測定を行った結果、分子イオンピーク及びフラグメントイオンから、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6及びAc3PIM6であることが判明した(図2)。
【0077】
2.3. LAM及びLM
BCG-LMは、ゲル濾過クロマトグラフィーにおいてBCG-LAMよりやや遅れて溶出された(図4A)。更に、各溶出画分のマンノース、アラビノース及びmyo-イノシトール含量をGC/MSにより定量した(図4B)。SDS-PAGEにおいて、BCG-LAMはM. tuberculosis AOYAMA-B株由来のLAMとほぼ同一のRf値を示した(図3)。
【0078】
2.4. MALDI-TOF Mass解析
M. tuberculosis AOYAMA-B LAMは、脱プロトン化分子イオン [M-H]- がm/z 17000を中心にm/z 13000〜m/z 19500の広い範囲に分布するのに対して、BCG Tokyo 172-LAMでは、これより少し低分子量m/z15000を中心とするm/z 13000〜m/z 17000に検出されたことから、糖残基の含量に差があることが示唆された(図5)。また、BCG Tokyo 172-LMでは、LAMとは異なり明瞭な脱プロトン化分子イオン[M-H]-が検出され、主にマンノース20〜48個(m/z4500〜m/z9000)からなるtri-acyl(2C16, C19)LMであることが明らかとなった(図6A)。またBCG Tokyo 172-LMの脱アシル化体のマススペクトルにおいても、さらに明瞭な脱プロトン化分子イオン[M-H]-が検出された(図6B)。
【0079】
2.5. LAM、LM及びPIMの脂肪酸分析
さらに、これらのLAM、LM及びPIMの構成脂肪酸組成をメチルエステル化して、GC及びGC/MS分析したところ、主な脂肪酸はLAM、LM及びPIMのいずれの場合もパルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)及びツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)が90%以上を占めた(表1)。
【0080】
【表1】
【0081】
2.6. LAM及びLMの部分メチル化アルジトールアセテート分析
上記のLAM、LM(及びPIM)の糖鎖の分枝構造を明らかにするために、部分メチル化アルジトールアセテート誘導体を調製し、GC/MS測定を行った。LMでは末端マンノース(t-Manp)が36.6%、2,6-マンノース(2,6-Manp)が37.6%、6-マンノース(6-Manp)が18.6%、2-マンノース(2-Manp)が7.1%を占めたほか、極少量の末端アラビノースが含まれていた。これに対して、LAMには、5-Arafが39.4%、分枝を示す3,5-Arafが11.8%存在した(表2)。
【0082】
【表2】
【0083】
表中の略名は以下の通り:
t-Araf, 2,3,5-tri-O-Me-1,4-di-O-Ac-arabinitol;
2-Araf, 3,5-di-O-Me-1,2,4-tri-O-Ac-arabinitol;
5-Araf, 2,3-di-O-Me-1,4,5-tri-O-Ac-arabinitol;
3,5-Araf, 2-O-Me-1,3,4,5-tetra-O-Ac-arabinitol;
t-Manp, 2,3,4,6-tetra-O-Me-1,5-di-O-Ac-mannitol;
2-Manp, 3,4,6-tri-O-Me-1,2,5-tri-O-Ac-mannitol;
6-Manp, 2,3,4-tri-O-Me-1,5,6-tri-O-Ac-mannitol;
2,6-Manp, 3,4-di-O-Me-1,2,5,6-tetra-O-Ac-mannitol
【0084】
2.7. BCG Tokyo 172-LMのサブクラス及び分子種の同定
BCG Tokyo 172-LMの分子種Man2〜50の質量数は表3の通りである。表3は、各種サブクラスの異なるBCG Tokyo 172-LMの質量数、脂肪酸(アシル基)数のサブクラス及び分子種組成を示す。
【0085】
【表3】
【0086】
また、以上の結果から決定されたBCG Tokyo 172に含まれる主要なLMの構造を下式に示す。
【0087】
【化4】
【0088】
(式中、R1がツベルクロステアリン酸由来のアシル基であり、R2及びR3がパルミチン酸由来のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示し、20〜48個のマンノース残基を含む)。
【0089】
上記にて精製されたLAM、LM、またはこの混合物(粗LAM/LM)を用いて、これらの分子のTh1/Th2分化誘導への影響について調べた。
【0090】
2.8. LAM/LMによるIFNγ産生細胞の誘導
LAM/LMをヒトTh1/Th2分化誘導の系に適用し、その効果を調べた。LAM/LMの溶媒(ビヒクル)をネガティブコントロールとして用いた。更に、細胞壁(CW)をTh1誘導因子のポジティブコントロールとして用いた。Th1分化誘導においては、IFNγ産生細胞の割合を、CWは90.5%に、LAM/LMは83.6%に上昇させた(ビヒクル:66.9%)。これらの分子は強力なTh1誘導因子として作用した(図7A)。更に、Th2分化条件においては、CWはIL-4産生細胞の割合を5.9%に抑制し(ビヒクル:24.6%)、IFNγ産生細胞の割合を51.9%に上昇させた(ビヒクル:16.5%)。LAM/LMは、IL-4産生細胞の割合を9.9%に抑制し、IFNγ産生細胞の割合を34.9%に上昇させた(図7A)。一方、LAM/LMの前駆体である、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6及びカルジオリピンは、Th1分化誘導能を示さなかった(図7B)。更に、Th2分化誘導条件においては、これらの分子はIFNγ産生細胞の割合を上昇させなかったが、IL-4産生細胞の割合を上昇させた(図7B)。
これらの効果を確認するため、6人の健常人ボランティアからのT細胞を用いて、Th1/2分化誘導を試験した。CWは、全ての健常人ボランティアについて、Th1分化条件下でIFNγ産生細胞数を上昇させた(図8A)。Th2分化条件下では、CWはIL-4産生細胞数を抑制し、IFNγ細胞数を上昇させた(図8B)。同様の結果が、LAM/LMについても得られた(図8C及びD)。一方、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6およびカルジオリピンは、Th1分化誘導条件において、IFNγ産生細胞を上昇させず(図9A、C、E及びG)、Th2分化誘導条件においてIL-4産生細胞数を上昇させた(図9B、D、F及びH)。以上より、LAM/LMがヒトにおいてTh1細胞数を上昇させる効果を有することが明らかとなった。
【0091】
2.9. ヒトTh1/2分化における樹状細胞の効果
本発明者らは、LAM/LMがTh1細胞分化を亢進させるメカニズムを明らかにするために、樹状細胞の関与について調べた。
樹状細胞を含む粗製ナイーブCD4T細胞を、CD8、CD45RO陽性細胞を除去することにより回収した(図10A)。更に、AutoMACS により、CD8、CD14、CD16、CD19、CD36、CD45RO、CD56、CD123、TCRγδ及びGlycophorin陽性細胞を除去することにより、樹状細胞を含まない精製ナイーブCD4T細胞を回収した(図10B)。また、樹状細胞を精製するために、AutoMACSによりCD11c陰性細胞を除去した(図10C)。以上により、粗製ナイーブCD4T細胞(FrA)、精製ナイーブCD4T細胞(FrB)及び濃縮樹状細胞(FrC)を得た。
ヒトTh1/Th2分化培養系においてこれらの細胞を用い、LAM/LMの効果への樹状細胞の関与について調べた。Th1分化誘導条件においては、LAM/LMの添加により、IFNγ産生細胞数は、粗製ナイーブCD4細胞(FrA)、精製ナイーブCD4細胞(FrB)、及び精製ナイーブCD4細胞+濃縮DC(FrB+FrC)を用いた場合、それぞれ、88.1%、72.0%、及び66.3%に上昇し、全ての群においてLAM/LMはIFNγ産生細胞数を上昇させた(図11)。この効果は、FrBやFrB+FrCを用いた場合にも認められた(図11)。即ち、Th1分化誘導条件におけるLAM/LMによるIFNγ産生細胞数の上昇は、DCの有無に関わらず認められた。
一方、Th2分化誘導条件においては、FrAを用いた場合、LAM/LMの添加により、IL-4産生細胞数は12.1%に減少し、IFNγ産生細胞数は15.9%に上昇した。一方、Th2分化誘導条件において、DCを含まないFrBを用いた場合には、このLAM/LMの効果は全く認められなかった。しかし、DC(FrC)を添加することにより、消失したLAM/LMの効果が再び認められた(図11)。即ち、Th2分化誘導条件におけるLAM/LMによるIFNγ産生細胞数の上昇及びIL-4産生細胞数の低下は、DC(抗原提示細胞)を介した作用であることが示唆された。
【0092】
2.10. 精製したLAM及びLMのTh1/Th2分化に対する効果
精製したLAM及びLMを、粗製ヒトCD4T細胞を用いたTh1/Th2分化誘導の系に適用し、その効果を調べた。
Th1分化誘導条件における2つの独立した試験結果を表4及び5に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
Th1分化誘導条件においては、LAM及びLMは、それぞれ、IFNγ産生細胞の割合を有意に上昇させた(表4及び5)。この効果はLAMよりもLMの方が強力であった。また、LAM又はLMの単独の効果よりも、LAM/LM混合物の効果の方が強力であった。以上より、LAM及びLMは、単独でも、Th1分化誘導においてIFNγ産生細胞の誘導を増強すること、更にLAMとLMを混合することにより、IFNγ産生細胞を誘導する効果が相乗的に増強されることが実証された。
【0096】
Th2分化誘導条件における試験結果を図12、13及び表6に示す。
【表6】
【0097】
Th2分化誘導条件において、LAM及びLMは、それぞれ、IFNγ産生細胞の割合を用量依存的に上昇させ、IL-4産生細胞の割合を用量依存的に抑制した(図13)。また、これらの効果は、LAM又はLMを単独で用いた場合よりも、LAM/LM混合物を用いた場合の方が強力であった(表6)。以上より、Th2分化誘導においても、LAM及びLMは、単独で、IFNγ産生細胞の誘導を増強し、IL-4産生細胞の誘導を抑制すること、更にLAMとLMを混合することにより、これらの効果が相乗的に増強されることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
BCG菌体中に含まれるLAM及びLMは、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制するので、癌等の予防・治療剤、抗結核等感染症ワクチンのアジュバントとして、また花粉症等のアレルギー疾患の治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】CW(A)及びCM(B)の粒度分布。
【図2】BCG菌体から単離されたPIMのMALDI-TOF massスペクトル。
【図3】単離されたBCG-LAM及びLMのSDS-PAGE解析。
【図4】ゲル濾過クロマトグラフィーによるBCG-LAM及びLMの分画。(A)LAM又はLMの溶出画分のSDS-PAGE解析。(B)GC/MSによる、各溶出画分のマンノース、アラビノース及びmyo-イノシトール含量の測定。
【図5】BCG-LAMのMALDI-TOF massスペクトル。
【図6】(A)アシル化フォームBCG-LMのMALDI-TOF massスペクトル。(B)BCG -LMの脱アシル化体のMALDI-TOF massスペクトル。
【図7】ヒトPBMC Th1/Th2分化培養におけるBCG関連産物によるIFNγ産生細胞の誘導。AとBは独立した試験の結果を示す。ゲート中の数字は、各ゲート内の細胞の割合(%)を示す。
【図8】BCG-CW又はLAM/LMのヒトTh1/Th2細胞分化に対する効果。HVは各健常人ボランティアを示す。(A)及び(B):BCG-CW、(C)及び(D):LAM/LM。(A)及び(C):Th1分化誘導条件、(B)及び(D):Th2分化誘導条件。
【図9】Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6又はカルジオリピンのヒトTh1/Th2細胞分化に対する効果。HVは各健常人ボランティアを示す。(A)及び(B):Ac4PIM2、(C)及び(D):Ac3PIM2、(E)及び(F):Ac4PIM6(G)及び(H):カルジオリピン。(A)、(C)、(E)及び(G):Th1分化誘導条件、(B)、(D)、(F)及び(H):Th2分化誘導条件。
【図10】ヒトナイーブCD4T細胞又は樹状細胞のAutoMACSによる濃縮。(A)粗製CD4T細胞(CD8-CD45RO-細胞:FrA)の調製。(B)精製CD4T細胞(FrB)の調製。(C)樹状細胞(FrC)の調製。
【図11】LAM/LMのヒトTh1又はTh2分化誘導に対する効果。CD8-CD45RO-細胞(FrA)(上段)、精製CD4T細胞(FrB)(中段)、精製CD4T細胞+樹状細胞(FrB+FrC)を用いて試験を行った。
【図12】Th2分化誘導条件におけるLAM及びLMの効果。
【図13】Th2分化誘導条件における、IFNγ産生細胞数及びIL-4産生細胞数に対するLAM及びLMの効果。
【技術分野】
【0001】
本発明は、Th0細胞(ナイーブT)からTh1細胞への分化を促進するため、又はTh2細胞への分化を抑制するための、Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG)由来のリポアラビノマンナン(LAM)及び/又はリポマンナン(LM)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
喘息や花粉症、食物アレルギー、アレルギー性皮膚炎等、各種アレルギー性疾患が最近増加し、大気汚染やストレス等とも重なって当該疾患の原因解明と根本的治療が強く望まれている。Mycobacterium bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG)は、80年以上にわたって結核ワクチンとして世界中で広く用いられてきた弱毒生菌ワクチンで、結核発病を抑止することが知られている。この事実よりBCG生菌ワクチンは抗結核免疫即ちTh1(細胞性)免疫反応を強力に活性化することは公知である。しかし、BCG菌体中のどの成分がどのようにTh1免疫を刺激して予防効果を示すかについては明らかではない。また、ヒトに適用するには安全性をより考えて単離された菌体成分を用いるほうが優れている。アレルギー疾患の治療剤はステロイド製剤を始め極めて多数にのぼるがその多くは対症療法剤であり、Th1免疫反応を増強し、あるいはTh2免疫反応を抑制することによりアレルギー性疾患を予防・治療し得るような医薬はほとんど知られていない。
【0003】
リポアラビノマンナン(LAM)は細胞壁の主要な構成成分であり、感染した宿主内でのミコバクテリアの生存に好都合な多様な免疫制御及び抗炎症効果を介するモジュリンとして考えられている。これらの効果としては、抗原プロセッシングの妨害を介するTリンパ球増殖の抑制(非特許文献1)、インターフェロンγによるマクロファージ活性化の阻害(非特許文献2)、酸素由来のフリーラジカルのスカベンジングなどが挙げられる。LAMは、マクロファージ不活性化に責を負う病原性因子であるのみならず、貪食細胞内へのミコバクテリアの貪食にも関与している(非特許文献3)。加えて、リポマンナン(LM)及びLAMの前駆体であると考えられているホスファチジルイノシトールマンノシド(PIMs)がNKT細胞を動員し、肉芽腫性の反応における初期の役割を果たしていることが、近年提案されている(非特許文献4、5)。ホスファチジルイノシトール(PI)、PIMs、LM及びLAMの生合成的関係が、生化学的(非特許文献6、7)及び遺伝学的(非特許文献8、9)研究により近年裏付けられてきたが、しかしこの経路の詳細は、高度に推論的なままである。しかしながら、Mycobacterium tuberculosis、Mycobacterium leprae、Mycobacterium bovis BCG、及びMycobacterium smegmatisを含む多くの種からのLAMの構造がこの十年の間に広く記載されてきた。LAMは、ミコバクテリアの細胞壁中の糖脂質へアンカーするPI部分に付着したD−マンナン及びD−アラビナンから構成される複雑な糖脂質である(非特許文献10)。
【0004】
LAM分子には3種類のキャッピングモチーフが知られている。1番目はM.tuberculosis、Mycobacterium kansasiiなどから分離されたマンノシルキャップを持つManLAM;2番目はM.smegmatisなどから分離されたホスファチジルイノシトールキャップを持つPILAM;3番目はM.chelonaeなどから分離精製されたキャッピングモチーフを持たないAraLAMである。
【0005】
ManLAMは、ヒト体内で蓄積してゆっくり増殖するミコバクテリアの持続性に貢献している。ManLAMの抗炎症活性は、ManLAMの、マンノース受容体及び/又はマンノースキャップモチーフを介して非インテグリンをつかんでいる樹状細胞特異的ICAM-3 (intracellular adhesion molecule-3)との相互作用を要することが示されている(非特許文献11、12、13)。逆に、PILAMは、Toll-like receptors 2 (TLR-2)の活性化を介して多様な炎症性サイトカインの放出を誘導できる(非特許文献14、15、16)。AraLAMは何ら活性を示さないので、この活性は、PIキャップを要するようである(非特許文献17)。LMは、TLR-2依存的、且つ、TLR-4及びTLR-6非依存的な様式でマクロファージを活性化させることが示されている(非特許文献18、19、20)。従って、ManLAM/LMバランスは、ミコバクテリアに対する正味の免疫反応に影響を与えるパラメーターであり得る。
【0006】
IL-12は、ナイーブCD4T細胞のTh1細胞(IFNγ産生細胞)への分化を促進し、Th2(IL-4産生細胞)への分化を阻害することにより、抗腫瘍免疫を増強し、アレルギー疾患等のTh2関連疾患を抑制し得ることが知られている。このIL-12産生に対するLAM及びLMの効果に関していくつかの知見が報告されている。
【0007】
非特許文献21には、ヒト単球から樹状細胞への分化の過程でのBCG感染やMannose-capped lipoarabinomannan (ManLAM)の添加が、その後の樹状細胞のIL-12合成を減少させること、IL-12 p35及びp40 mRNA合成が、AraLAMよりもManLAMによってより強力に抑制されたことが記載されている。
【0008】
非特許文献11には、Mycobacterium bovis BCG 及び Mycobacterium tuberculosis由来のManLAMが、LPSにより誘導されるヒト樹状細胞からのIL-12産生を、用量依存的に抑制したこと、この阻害活性が、Mannose cap又はGPI acyl残基を欠失させることにより失われたことが記載されている。
【0009】
非特許文献22には、Mycobacterium sp.由来のAraLAMがマウスマクロファージ(J774細胞株、腹腔内マクロファージ)におけるIL-12発現を誘導することができるが、Erdman strainに由来するManLAMは、IL-12発現を誘導することはできないことが記載されている。
【0010】
非特許文献20には、Mycobacteriumの種類に関わらず、ManLAMはマウスマクロファージ(RAW264.7、骨髄由来マクロファージ)のIL-12遺伝子発現を誘導しなかったが、PILAMはIL-12分泌を誘導したこと、Mycobacterium chelonaeから精製した非キャップLAMはIL-12分泌を誘導しなかったこと、LMはMycobacteriumの種類に関わらずIL-12を強力に誘導したことが記載されている。
【0011】
即ち、これらの知見によれば、LAMはマウスマクロファージのIL-12産生を誘導するが、ヒトマクロファージのIL-12産生に対しては抑制的に作用している。
【0012】
樹状細胞(DC)は、免疫系の哨兵として末梢組織をパトロールしていて、ミコバクテリアを含む細胞内病原体に対する細胞免疫の誘導に決定的に重要である(非特許文献23)。多くの証拠が、DCは初期T細胞反応の開始のための主要なAPCであり、ミコバクテリア感染におけるIL-12の初期の産生源であることが立証されている(非特許文献24、25、26)。ヒト又はマウスのミエロイドDCへのMycobacterium tuberculosis 及び M. bovis bacillus Calmette-Guerin (BCG)の感染は、細胞成熟及びIL-12産生の上昇の調和したプロセスを誘導する(非特許文献27、28)。BCG感染したDCをマウスに移入すると、ミコバクテリア抗原に対する迅速なIFNγ反応が起こり(非特許文献27)、M. tuberculosisに感染したDCは、マウスにおける実験的結核に対して強力な免疫を誘導する(非特許文献29)。
【非特許文献1】Clin. Exp. Immunol., 74, 206-210 (1988)
【非特許文献2】Infect. Immun., 56, 1232-1236 (1988)
【非特許文献3】J. Immunol. , 152, 4070-4079 (1994)
【非特許文献4】Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 96, 5141-5146 (1999)
【非特許文献5】J. Biol. Chem., 276, 34896-34904 (2001)
【非特許文献6】Glycobiology 5, 117-127 (1995)
【非特許文献7】J. Biol. Chem., 272, 18460-18466 (1997)
【非特許文献8】J. Biol. Chem., 274, 31625-31631 (1999)
【非特許文献9】Biochem. J., 363, 437-447 (2002)
【非特許文献10】J. Biol. Chem., 265, 9272-9279 (1990)
【非特許文献11】J. Immunol., 166, 7477-7485 (2001)
【非特許文献12】J. Exp. Med., 197, 7-17 (2003)
【非特許文献13】Trends Microbiol., 11, 259-263 (2003)
【非特許文献14】J. Biol. Chem., 272, 117-124 (1997)
【非特許文献15】Infect. Immun., 61, 4173-4181 (1993)
【非特許文献16】J. Immunol., 163, 6748-6755 (1999)
【非特許文献17】J. Biol. Chem., 277, 30635-30648 (2002)
【非特許文献18】J. Immunol., 171, 2014-2023 (2003)
【非特許文献19】J. Immunol. ,172, 4425-4434 (2004)
【非特許文献20】Infect. Immun., 72, 2067-74 (2004)
【非特許文献21】Immunol. Lett., 77, 63-6 (2001)
【非特許文献22】Infect Immun., 65, 1953-5, (1997)
【非特許文献23】Nature, 392, 245-252, (1998)
【非特許文献24】Curr. Opin. Immunol., 9, 10-16 (1997)
【非特許文献25】J. Exp. Med., 186, 1819-1829 (1997)
【非特許文献26】Curr. Opin. Immunol., 11, 392-399 (1999)
【非特許文献27】Eur. J. Immunol., 29, 1972-1979 (1999)
【非特許文献28】Int. J. Cancer, 70, 128-134 (1997)
【非特許文献29】Immunology, 99, 473-480 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記事情に鑑み、本発明は、BCG菌体中に含まれる、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制する活性を有する成分を単離精製し、その特徴を明らかにし、IFNγ産生ヘルパーT細胞分化促進剤やIL-4産生ヘルパーT細胞分化抑制剤として開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、BCG菌体中に含まれるLAM及びLMが、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制する活性の実体であることを見出し、以下の発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下に関する。
[1]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤。
[2]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、[1]記載の剤。
[3]リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、[1]又は[2]記載の剤。
[4]トリアシルリポマンナンが、式
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、[3]記載の剤。
[5]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh2細胞分化抑制剤。
[6]BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、[5]記載の剤。
[7]リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、[5]又は[6]記載の剤。
[8]トリアシルリポマンナンが、式
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、[7]記載の剤。
[9]ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進する方法。
[10]ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法。
[11]該培地が更に抗原提示細胞を含む、[10]記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
BCG菌体中に含まれるLAM及びLMは、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制するので、癌等の予防・治療剤として、また花粉症等のアレルギー疾患の治療剤等としてさらには結核を初めとする感染症予防ワクチンアジュバントとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤、及びヒトTh2細胞分化抑制剤(以下、本発明の剤という)を提供する。
【0021】
本発明に用いることのできるリポアラビノマンナン(LAM)及びリポマンナン(LM)は、BCG菌体由来である。BCGの菌株の種類は、該菌株由来のリポアラビノマンナン及び/リポマンナンがヒトTh1細胞分化促進作用、及びヒトTh2細胞分化抑制作用を有する限り特に限定されないが、該種類としては、例えば、Tokyo-172株、コンノート株、タイス株、アーマンドフラッピア株、パスツール株、ロシア株、ブラジル株、グラクソ株、プラハ株、フィップス株等が挙げられる。各BCG菌株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)等から入手することができる。
【0022】
LAMは、BCG等のミコバクテリアの細胞壁や細胞膜を構成する主要なリポグリカンの1つである。LAMは、通常、マンノシルホスファチジルイノシトールアンカー(MPI)、D−マンナンコア及びD−アラビナンドメインを含む糖バックボーンとキャッピングモチーフを含む。BCG菌株由来のLAMには、分子内に含まれる糖(例えばマンノース)残基の数が異なる、数多くの種類のLAMが含まれる。BCG菌株由来のLAMを、MALDI-TOFF Massにより解析すると、脱プロトン化分子イオン[M-H]-が、分子量約m/z15000を中心とする約m/z 13000〜約m/z 17000の範囲に分布する。
【0023】
BCG菌株由来のLAMを構成するアシル基の数は、通常1〜3個である。即ち、該LAMには、モノアシルLAM、ジアシルLAM及びトリアシルLAMが含まれる。また、該アシル基は、通常C14〜20の脂肪酸由来のアシル基である。該脂肪酸としては、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデカン酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデカン酸(C17:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、ツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)等を挙げることができるが、好ましくは、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)又はツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)である。
【0024】
BCG菌株由来のLAMに含まれる糖鎖の分枝構造としては、末端アラビノース、2-アラビノース、5-アラビノース、3,5-アラビノース、末端マンノース、2-マンノース、6-マンノース、2,6-マンノース等を挙げることが出来るが、5-アラビノース、3,5-アラビノース、末端マンノース及び2,6-マンノースの含有量が相対的に高い。末端構造のほとんどはマンノースキャップであり、非キャップ(即ち末端アラビノース)構造がわずかに存在する。末端マンノース構造の割合は、末端アラビノース構造の、通常10倍以上、好ましくは20倍以上(例えば約40倍)である。
【0025】
LMも、LAMと同様に、BCG等のミコバクテリアの細胞壁や細胞膜を構成する主要なリポグリカンの1つである。LMは、LAMの生合成の前駆体である。BCG菌株由来のLMには、分子内に含まれる糖(例えばマンノース)残基の数が異なる、数多くの種類のLMが含まれる。BCG菌株由来のLMを、MALDI-TOFF Massにより解析すると、脱プロトン化分子イオン[M-H]-が、約m/z 4500〜約m/z 9000の範囲に分布し、マンノース残基を20〜48個含むものが主要(約90%以上(モル比))である。
【0026】
BCG菌株由来のLMを構成するアシル基の数は、通常1〜3個である。即ち、該LMには、モノアシルLM、ジアシルLM及びトリアシルLMが含まれるが、好ましくはトリアシルLMである。また、該アシル基は、通常C14〜20の脂肪酸由来のアシル基である。該脂肪酸としては、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデカン酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、ヘプタデカン酸(C17:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、ツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)等を挙げることができるが、好ましくは、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)又はツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)である。
【0027】
BCG菌株由来のLMに含まれる糖鎖の分枝構造としては、末端アラビノース、末端マンノース、2-マンノース、6-マンノース、2,6-マンノース等を挙げることが出来るが、末端マンノース、6-マンノース及び2,6-マンノースの含有量が相対的に高い。末端構造のほとんどはマンノースキャップであり、非キャップ(即ち末端アラビノース)構造がわずかに存在する。末端マンノース構造の割合は、末端アラビノース構造の、通常50倍以上、好ましくは100倍以上(例えば約360倍)である。
【0028】
本発明に用いることのできるLMは、好ましくは、少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルLMである。該トリアシルLMとしては、
【0029】
【化3】
【0030】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物を挙げることができる。
【0031】
R1〜R3のアシル基としては、上述のものを挙げることが出来る。上記化合物の中でも含有量が多いものとしては、R1〜R3のアシル基のうち、2つがパルミチン酸(C16:0)由来のアシル基であり、1つがツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)由来のアシル基である化合物を挙げることが出来る。より好ましくは、R1がツベルクロステアリン酸由来のアシル基であり、R2及びR3がパルミチン酸由来のアシル基である。
【0032】
LAM及びLMは、BCG菌体より、後述の実施例等の方法に従って、単離精製することができる。例えば、BCG菌体をフレンチプレス等により破砕し、細胞壁(CW)画分及び/又は細胞(CM)膜を分離する。得られたCW及び/又はCMを、αアミラーゼ、DNaseI、RNase、トリプシン等の分解酵素により酵素処理し、タンパク質、核酸、グルカンを除去する。反応後の抽出物をフェノール抽出に付す。次に、疎水性相互作用カラムを用いてグリカンを除去することによりLAM及びLMを含む画分を得ることができる。更に該画分をゲル濾過カラムに付すことにより精製されたLAM及びLMを得ることが出来る。BCG菌体からのLAM及びLMの精製方法の詳細については、J. Biol. Chem., 271, 28682-28690 (1996)、FEMS Immunol. Med. Microbiol., 24, 11-17 (1999)、J. Biol. Chem., 277, 31722-31733 (2002)、J. Bacteriol., 187, 854-861 (2005)などを参照のこと。
【0033】
BCG菌体由来のLAM及びLMは、ヒトTh1細胞分化を促進し、ヒトTh2細胞分化を抑制するので、ヒトTh1細胞分化促進剤及びヒトTh2細胞分化抑制剤として有用である。有効量のBCG菌体由来のLAM及び/又はLMをヒトに投与することにより、該ヒトにおいてTh1細胞分化が促進され、Th2細胞分化が抑制される。ここで、Th1細胞とは、ナイーブなCD4T細胞から分化した、IFNγを優勢に産生するCD4T細胞をいう。Th2細胞とは、ナイーブなCD4T細胞から分化した、IL-4を優勢に産生するCD4T細胞をいう。ナイーブなCD4T細胞とは、胸腺から移出し、抗原刺激を受けていないCD4T細胞をいい、例えば、末梢のCD4陽性CD45RO陰性(CD4+CD45RO-)細胞やCD4陽性CD45RA陽性(CD4+CD45RA+)細胞がこれに該当する。Th1細胞分化とは、ナイーブCD4T細胞からのTh1細胞の分化をいい、Th2細胞分化とは、ナイーブCD4T細胞からのTh2細胞の分化をいう。Th1細胞分化は、IL-2及びIL-12の存在下でナイーブCD4T細胞を抗原により刺激することにより誘導することができる。Th2細胞分化は、IL-2及びIL-4の存在下でナイーブCD4T細胞を抗原刺激することにより誘導することができる。Th1細胞分化及びTh2細胞分化は、通常、ナイーブCD4T細胞のうちのある割合の細胞に誘導される。「分化の促進」とはこの割合を上昇させることをいい、「分化の抑制」とはこの割合を低下させることをいう。即ち、BCG菌体由来のLAM及びLMは、ナイーブCD4T細胞からTh1細胞へ分化する細胞の割合を上昇させ、ナイーブCD4T細胞からTh2細胞へ分化する細胞の割合を低下させることができる。
【0034】
本発明の剤は、有効量のBCG由来のLAM及び/又はLMに加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0035】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の剤は、所望の効果を奏するような投与剤型にすることが好ましい。例えば、経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0037】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0038】
本発明の剤における有効成分の含有量は、所望の薬理効果を奏することが出来る範囲で、有効成分の種類、剤型等を考慮し、適宜設定することが出来るが、通常、0.01〜100重量%である。
【0039】
本発明の剤の適用量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、適用対象となる動物種、適用対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に設定することは出来ないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.0001〜約5000mg/kgである。
【0040】
本発明の剤は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。Th1細胞はIFNγを大量に産生し、抗腫瘍免疫や抗ウイルス免疫を増強する一方で、アレルギー反応等のTh2反応に対しては抑制的に働く。また、Th2細胞はIL-4を大量に産生し、アレルギー反応等を増悪する。BCG由来のLAM及び/又はLMは、Th1細胞分化を促進し、Th2細胞分化を抑制し得るので、癌(肺癌、胃癌、結腸癌、肝癌、ホジキン症等)、ウイルス疾患(肝炎、インフルエンザ等)、アレルギー性疾患(特にアレルギー性喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、湿疹、食物過敏症、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎等などのI型アレルギー反応が関与する疾患)、自己免疫病(1型糖尿病、SLE、甲状腺炎、自己免疫性神経炎)等の予防・治療薬や、結核等の感染症の予防ワクチンアジュバント等として有用である。
【0041】
ここで、後述の実施例において示すように、BCG由来のLAMとLMを併用することにより、Th1細胞分化促進作用及びTh2細胞分化抑制作用を相乗的に増強することができる。したがって、BCG由来のLAMとBCG由来のLMとを適量配合して、或いは適量併用して使用することにより、優れたTh1細胞分化促進剤及びTh2細胞分化抑制剤とすることが出来る。即ち、好ましい態様において、本発明の剤は、BCG由来のLAMとBCG由来のLMとを組み合わせてなる。
【0042】
上述のBCG由来のLAMとBCG由来のLMとの併用に際しては、LAMとLMの投与時期は限定されず、LAMとLMとを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。LAM及びLMの投与量は、本発明の併用剤において用いられた際に上述の疾患の予防・治療を達成し得る範囲で特に限定されず、投与対象、投与ルート、疾患、組み合わせ等により適宜選択することが出来る。
【0043】
LAMとLMの投与形態は、特に限定されず、投与時に、LAMとLMとが組み合わされていればよい。このような投与形態としては、例えば、(1)LAMとLMとを同時に製剤化して得られる単一の製剤の投与、(2)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での同時投与、(3)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の同一投与経路での時間差をおいての投与、(4)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での同時投与、(5)LAMとLMとを別々に製剤化して得られる2種の製剤の異なる投与経路での時間差をおいての投与(例えば、LAM→LMの順序での投与、あるいは逆の順序での投与)等が挙げられる。以下、これらの投与形態をまとめて、本発明の併用剤と略記する。
【0044】
本発明の併用剤は、上記本発明の剤と同様に、医薬上許容され得る担体と混合して、常套手段に従って製剤化することができる。
【0045】
本発明の併用剤における、LAM及びLMの含有量は、所望の薬理効果を奏することが出来る範囲で、有効成分の種類、剤型等を考慮し、適宜設定することが出来るが、通常、それぞれ、0.01〜99.99重量%である。
【0046】
本発明の併用剤におけるLAMとLMとの配合比は、投与対象、投与ルート、疾患等により適宜設定することができるが、好ましくは、Th1細胞分化促進作用及び/又はTh2細胞分化抑制作用を相乗的に増強し得るように設定される。LAMとLMの配合比は、重量比として、LAM:LMが通常20:1〜1:20、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5(例えば2:1)の範囲内である。
【0047】
本発明の併用剤の投与量は、投与ルート、症状、患者の年令等によっても異なり、適宜選択することが出来る。本発明の併用剤におけるLAM及びLMの投与量は、本発明の剤と同様であるが、併用により作用効果が相乗的に増強されるので、LAM又はLMを単独で用いた場合と同等の作用効果を得るための、それぞれの投与量を、単剤の場合の投与量を下回る量、例えば、単剤の場合の投与量の50%以下、好ましくは25%以下とすることができる。
【0048】
LAM及びLMをそれぞれ別々に製剤化する場合も、配合製剤と同様の含有量でよい。
【0049】
LAMとLMをそれぞれ別々に製剤化して併用投与するに際しては、LAMを含有する医薬組成物とLMを含有する医薬組成物とを同時期に投与してもよいが、LMを含有する医薬組成物を先に投与した後、LAMを含有する医薬組成物を投与してもよいし、LAMを含有する医薬組成物を先に投与し、その後でLMを含有する医薬組成物を投与してもよい。時間差をおいて投与する場合、時間差は投与する有効成分、剤形、投与方法により異なるが、例えば1分〜3日以内、好ましくは10分〜1日以内、より好ましくは15分〜1時間以内である。
【0050】
また、本発明は、ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進する方法、及び該CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法を提供する。
【0051】
本発明の方法に用いられるCD4T細胞は、好ましくはナイーブCD4T細胞である。
【0052】
本明細書において、抗原とは、培養細胞上の抗原受容体(例えばT細胞受容体)に認識され、該受容体を介して細胞を刺激し得る物質を包括的に意味する。抗原としては、例えばペプチド、タンパク質、脂質、糖脂質等の抗原分子のみならず、免疫学的非自己細胞、抗原受容体の構成分子(CD3、TCRβ、TCRα等)や副刺激分子(CD28等)を認識する作動性抗体(例えば抗ヒトCD3抗体であるOKT-3等)やスーパー抗原などの抗原ミミックをも含む。
【0053】
抗原刺激培養には、抗原以外の他の因子が含まれ得る。該因子としては、IL-2等のT細胞増殖因子を挙げることができる。Th1細胞への分化を促進する方法においては、抗原刺激培養は、該分化を促進するために、IL-12存在下で行うことが好ましいが、IL-4の存在下でも、本発明の方法によりTh1細胞への分化を促進することが可能である。また、培養中のT細胞から産生されたIL-4の影響を排除するため、抗原刺激培養はIL-4に対する中和抗体を含むことが好ましい。Th2細胞への分化を抑制する方法においては、抗原刺激培養は、IL-4の存在下で行われ得る。また、培養中のT細胞から産生されたIFNγの影響を排除するため、抗原刺激培養はIFNγに対する中和抗体を含むことが好ましい。これらの因子(IL-2、IL-12、IL-4、抗IL-4抗体、抗INFγ抗体)の培地中の濃度は、当業者にとって周知である。
【0054】
本発明の方法に用いる培地としては、例えば、適切な添加物(血清、アルブミン、緩衝剤、アミノ酸等)を含んでいてもよい基礎培地(最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地)などを挙げることが出来る。培養液のpHは通常約6〜8であり、培養温度は通常約30〜40℃であり、培養時間は通常1〜10日間である。
【0055】
培地中に添加されるLAM及び/またはLMの濃度は、CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進し、またCD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制し得る濃度であれば特に限定されないが、例えば0.1〜1000μg/ml、好ましくは10〜500μg/mlである。
【0056】
上述のように、BCG由来のLAMとLMを併用することにより、Th1細胞分化促進作用及びTh2細胞分化抑制作用を相乗的に増強することができる。この場合、培地中のLAM及びLMの濃度は、上述と同様であるが、併用により作用効果が相乗的に増強されるので、LAM又はLMを単独で用いた場合と同等の作用効果を得るための、それぞれの培地中の濃度を、単剤の場合の濃度を下回る濃度、例えば、単剤の場合の濃度の50%以下、好ましくは25%以下とすることができる。また、この場合のLAMとLMの配合比は、重量比として、LAM:LMが通常20:1〜1:20、好ましくは10:1〜1:10、より好ましくは5:1〜1:5(例えば2:1)の範囲内である。
【0057】
後述の実施例に示されるように、BCG由来のLAMやLMがTh1細胞分化促進作用を発揮するためには、抗原提示細胞を要しないが、Th2細胞分化抑制作用を発揮するためには、抗原提示細胞を要する。したがって、CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法においては、培地が更に抗原提示細胞を含むことが好ましい。ここで、抗原提示細胞とは、抗原をリンパ球に提示してリンパ球の活性化を促す細胞をいう。通常、抗原提示細胞は、T細胞やNKT細胞に抗原を提示し得る樹状細胞又はマクロファージである。特に、樹状細胞は、強力な抗原提示能力を有しており、細胞表面上に発現されたMHC Class I、MHC Class I様分子(CD1等) 、MHC Class II等を介して抗原を提示し、T細胞又はNKT細胞を活性化させ得るので、本発明に好ましく用いられる。
【0058】
抗原提示細胞としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。哺乳動物としては、ヒト及びヒトを除く哺乳動物を挙げることが出来る。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。
【0059】
本発明の方法に使用される抗原提示細胞の遺伝子型は、特に限定されないが、通常、培養されるヒトCD4T細胞と同種同系、同種異系又は異種異系であり、好ましくは同種同系又は同種異系であり、より好ましくは、同種同系である。
【0060】
抗原提示細胞は自体公知の方法によって、上述の哺乳動物の組織(例えばリンパ節、脾臓、末梢血等)から単離することが可能である。例えば抗原提示細胞上に特異的に発現する細胞表面マーカーに対する抗体を用いて、セルソーター、パニング、抗体磁気ビーズ法等により樹状細胞を単離することができる。抗原提示細胞として樹状細胞を単離する場合には、樹状細胞上に特異的に発現する細胞表面マーカーとして、例えば、CD11c、MHC Class I、MHC Class I様分子(CD1等) 、MHC Class II、CD8α、CD85k、CD86、FDL-M1、DEC-205等を挙げることが出来る。
【0061】
また、抗原提示細胞は、上述の哺乳動物の骨髄細胞や単核球等を適切な抗原提示細胞分化条件で培養することにより製造することもできる。例えば、骨髄細胞はGM-CSF(場合によっては更にIL-4)の存在下で約6日間程度培養されることにより、樹状細胞(骨髄由来樹状細胞:BMDC)へと分化する(Nature, 408, p.740-745, 2000)。また、末梢血液中の単核球(特に単球、マクロファージ等)をGM-CSF(場合によっては更にIL-2及び/又はIL-4)の存在下で培養することにより、樹状細胞を得ることが出来る(Motohasi S, Kobayashi S, Ito T, Magara KK, Mikuni O, Kamada N, Iizasa T, Nakayama T, Fujisawa T, Taniguchi M., Preserved IFN-alpha production of circulating Valpha24 NKT cells in primary lung cancer patients., Int J Cancer, 2002, Nov.10; 102(2):159-165. Erratum in :Int J Cancer. 2003, May 10; 104(6):799)。
【0062】
Th1細胞への分化が促進されたこと、及びTh2細胞への分化が抑制されたことは、培養中のCD4T細胞におけるIFNγ及びIL-4の産生を、コントロール(BCG由来のLAM及びLMを含まない培地中で培養されたCD4T細胞)と比較することにより確認することができる。IFNγ及びIL-4の産生は、抗IFNγ抗体及び抗IL-4抗体による細胞内染色及びフローサイトメトリーによる解析により測定することができる。
【0063】
本発明の方法は、BCG由来のLAM及びLMがTh1/Th2分化へ及ぼす効果を解析し、この効果に関わる分子を同定することにより、癌、ウイルス疾患、アレルギー疾患の新たな治療ターゲットや、治療薬を開発する上で有用である。
【0064】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0065】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0066】
実施例1
1. 材料及び方法
1.1. 細菌株及び増殖条件
Mycobacterium bovis BCG Tokyo 172株 (ATCC 35737)を用いた。Mycobacterium bovis BCG Tokyo 172を37℃で、Sauton培地上で数日間増殖した。
【0067】
1.2. BCG細胞壁画分及び細胞膜画分の調製
BCG Tokyo 172 加熱死菌体を10倍容の精製水に懸濁し、フレンチプレスにより菌体を破砕後、超遠心6760×gで未破砕菌体を除き、さらに超遠心18000×gにより細胞壁画分(CW)及び上清の細胞膜画分(CM)を分離した。分離した分画は粒度分布計にて粒子径を測定し、BCG菌体と比較した。
【0068】
1.3. BCG菌体リン脂質(PIM2、PIM6)の単離精製
各脂質は、BCG加熱死菌体からクロロホルム−メタノール(2:1、v/v)混合溶媒によって抽出した総脂質画分を溶媒分画法及び薄層クロマトグラフィーにより単離精製した。また、各リン脂質はMALDI-TOF Massにより分子量測定を行い同定した。
【0069】
1.4. LAM及びLMの単離精製
CMを酵素処理(α-amylase, DNase I, RNase, trypsin)して、蛋白質、核酸、グルカンを除去し、フェノール抽出後、さらに疎水性相互作用カラム(Octyl Sepharose 4 Fast Flow, Amersham Biosciences)あるいはTriton X-114(SIGMA)を用いてグリカンを除き粗LAM/LM画分を得た。この粗LAM/LM中のLAMとLMの混合比は、LAM:LM =約2:1(重量比)であった。
LAM及びLMは、ゲル濾過カラム(Superdex 75 prep gradeあるいはSephacryl S-200, Amersham Biosciences)を用いて粗LAM/LM画分を分画することにより得た。各溶出画分は、SDS-PAGEゲル(15〜25%)の銀染色並びにPAS染色を行い、比較標品として用いた結核菌M. tuberculosis AOYAMA-B株由来LAM(nacalai tesque社製)と移動度を比較することによりLAM及びLMを同定した。さらに、各溶出画分のマンノース、アラビノース及びmyo-イノシトール含量をGC/MSにより定量した。また、MALDI TOF-MS (Voyager DE)により、M. tuberculosis AOYAMA-B株由来LAMとBCG Tokyo 172のLAM及びLMについて質量分析を行った。
【0070】
1.5. ヒトPBMC及び粗製ナイーブCD4T細胞の調製
ヒトナイーブCD4T細胞の分離を自動磁気細胞分離装置(autoMACS Miltenyi Biotec GmbH)を用いて以下に示す方法で行なった。24〜50才の6人の健常ドナーボランティアから、静脈穿刺により全血を得た。ヒト末梢血50mlを、D-PBS溶液(Sigma-Aldrich Inc) 50mlで等倍に希釈した。次に、12.5mlの Ficoll-Paque Plus(Amersham Biosciences)を分注した4本の遠心チューブに上記の希釈末梢血25mlをゆっくり重層し、遠心機を用いて室温で950Gにて30分間遠心分離した。遠心後、Ficoll-Paqueと上清との間の中間層に存在するリンパ球を回収し、3% 牛胎児血清(FCS: JRH Biosiences)および2mM EDTA(Dojindo Inc)を含むD-PBS溶液 (以下、MACSバッファーという)中に懸濁し、遠心機を用いて4℃、500Gにて5分間の遠心を行い、リンパ球を沈降した。リンパ球細胞ペレットを再度MACSバッファーに懸濁し、500Gにて5分間の遠心分離によりリンパ球を沈降し、2回洗浄したリンパ球細胞ペレットを得た。この細胞ペレットを再度MACSバッファーに1x108個/mlになるように懸濁した。リンパ球1x107個に対してFITC標識抗ヒトCD8抗体(BD BioScience Pharmingen) 2μL、FITC標識抗ヒトCD45RO抗体(BD BioScience Pharmingen)を2μLそれぞれ添加し、氷上で30分間反応させることにより各々の抗体を結合させた。反応液にMACSバッファーを加え、遠心し、4℃にて2回洗浄した。次に各々の抗体を結合したリンパ球1x107個に対して10μLの抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi Biotec GmbH)を添加し、氷上で15分間反応させた。反応液にMACSバッファーを加え、遠心し、4℃にて2回洗浄した。得られた細胞ペレットを5x107/mlの細胞濃度になるようにMACSバッファーで懸濁し、ナイロンメッシュ(アベ科学)を通過させた後、自動磁気細胞分離装置(AutoMACS Miltenyi Biotec GmbH)を用いてCD8及びCD45ROダブルネガティブフラクションを回収する事によってヒトナイーブCD4T細胞を分離し、以下の実験に供した。
【0071】
1.6. インビトロT細胞分化培養
ヒト末梢血から分離したナイーブCD4T細胞を、Th1分化条件では5x105細胞/0.5ml/wellとなるように培養プレートに幡種し、以下の条件下で刺激し、培養した。Th1/2刺激とそれに続く培養は、CO2インキュベーターを用い、5% CO2のもと37℃にて行った。Th1分化条件では、10%牛胎児血清(FCS: JRH Biosiences)、10mM HEPES(GIBCO)、100μM Non-Essential Amino Acids(GIBCO)、1mM Sodium Pyruvate(GIBCO)、55μM 2-Mercaptoethanol(GIBCO)を含むRPMI-1640培地(SIGMA)(以降、分化誘導培地と呼ぶ)に、50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-12(ペプロテック)、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IL-4抗体(Pharmingen)を添加した。抗CD3抗体20μg/ml(オルソクローンOKT3、ヤンセンファーマ)を固層化した平底48穴組織培養プレート(Coaster)中で、細胞を2日間培養した。更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して、抗IL-4抗体を含まないTh1分化培養条件にて更に5日間培養した。
また、Th2分化条件では、50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-4、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IFNγ抗体(Pharmingen)を含む分化誘導培地中、細胞を抗CD3抗体固層化プレート上で2日間刺激し、更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して5日間培養した。更に、Th2細胞分化の場合は、2日間に続く5日間の分化誘導を2サイクル連続して行った。
特に記載する場合を除きCW、LAM/LM、PIM2及びPIM6の最終濃度を100μg/mlに調整した。
【0072】
1.7. IL-4及びIFNγの細胞内染色及びフローサイトメトリー解析
IL-4及びIFNγの細胞内染色を(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 1024 (1999))に記載されている様に行った。
Th1分化誘導した細胞(Th1誘導細胞)、Th2分化誘導した細胞(Th2誘導細胞)をMonensin(Sigma)存在下でPMA(Phorbol-12-Myristate-13-Acetate、 Sigma-Aldrich)、Ionomycin (Calbiochem)を添加した培地中で、4時間培養し、刺激した。刺激後、細胞内染色を以下の方法により行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて解析し、Th1あるいはTh2分化誘導の程度について評価した。
詳細には、Th1誘導細胞あるいはTh2誘導細胞を平底48穴組織培養プレートに1ウエルあたり5-10x105個の濃度となる様に幡種し、2μMのMonensin存在下、10ng/ml(最終濃度)のPMA、及び1μM(最終濃度)のIonomycinを添加し、37℃、5% CO2にて4時間培養し刺激を行った。細胞を4%パラホルムアルデヒドにより室温にて10分間固定し、0.5% Triton X-100(50mM NaCl、5mM EDTA及び0.02% NaN3、pH7.5中)により氷上にて10分間透過処理した。3% BSAを含むPBSにより15分間ブロッキング後、細胞をPE標識した抗ヒトIL-4抗体(IL-4 PE)とFITC標識した抗ヒトIFNγ抗体(IFNγ-FITC)(Becton-Dickinson)を用いて細胞内染色し、細胞内のIL-4あるいはIFNγのサイトカイン量を評価した。同時に、APC標識抗ヒトCD4抗体(CD4 APC)(BD Biosciences)により染色を行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて測定した。解析はCellQuest software (Becton Dickinson)を用い、CD4を発現するT細胞のみにゲートをかけて行った。
【0073】
1.8. 精製ナイーブCD4T細胞及び単球由来樹状細胞(moDC)の調製
精製ナイーブCD4T細胞(CD4+、CD45RA+)を、ナイーブCD4T細胞単離キット(Mylteni Biotec Inc.)及びAutoMACS sorterを用いて精製した。精製度(CD4+、CD45RA+)は95%を上回った。
moDCsを調製するために、全PBMCを、37℃にて1.5-2時間、培養フラスコに接着させ、接着性の細胞をrhIL-4 (500U/ml、R&D Systems)及びrhGM-CSF (800U/ml)の存在下で5-7日間培養した(International Journal of Cancer, Volume 117, Issue 2, Pages 265-273, 2005)。CD11c+細胞をMACS分離カラム(Miltenyi Biotech)を用いて、製造者のプロトコールに従って精製した。得られた細胞をインビトロT細胞分化培養に用い、DCの関与について調べた。
【0074】
1.9. ナイーブT細胞を用いたヒトTh1/Th2分化誘導系におけるLAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6及びカルジオリピンの影響
ヒト末梢血から分離調製したナイーブT細胞を用い、LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6又はカルジオリピンを添加した条件にて、上述のTh1/Th2分化誘導系を使用してTh1分化誘導あるいはTh2分化誘導を実施し、LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンがTh1誘導あるいはTh2誘導を修飾するか否かを評価した。
詳細は、ヒト末梢血から分離したナイーブCD4T細胞を、Th1分化条件では5x105細胞/0.5ml/wellとなるように培養プレートに幡種し、以下の条件下で刺激し、培養した。Th1又はTh2刺激とそれに続く培養は、CO2インキュベーターを用い、5% CO2のもと37℃にて行った。Th1分化条件では、分化誘導培地に50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-12(ペプロテック)、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IL-4抗体(Pharmingen)を添加した。さらにLAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンを100μg/mlになるようにそれぞれのウエルに加え、抗CD3抗体20μg/ml(オルソクローンOKT3、ヤンセンファーマ)を固層化した平底48穴組織培養プレート(Coaster)中で2日間培養した。更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して、抗IL-4抗体を含まないTh1分化培養条件にて更に5日間培養した。
また、Th2分化条件では、5x105細胞/0.5ml/ウエルとなるように培養プレートにナイーブT細胞を幡種し、以下の条件下で刺激した。即ち、50U/ml(最終濃度)のIL-2(イムネース、塩野義)、1ng/ml(最終濃度)のIL-4、及び5μg/ml(最終濃度)の抗IFNγ抗体(Pharmingen)を含む分化誘導培地を用い、LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンを100μg/mlになるようにそれぞれのウエルに加え、細胞を抗CD3抗体固層化プレート中で2日間刺激し、更に抗CD3抗体を含まない非固層化プレートに細胞を移して5日間培養した。更に、Th2細胞分化の場合は、2日間に続く5日間の分化誘導を2サイクル連続して行った。
LAM/LM、CW、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6、及びカルジオリピンを添加した条件で、Th1分化誘導あるいはTh2分化誘導した細胞を、Monensin(Sigma)存在下でPMA (Phorbol-12-Myristate-13-Acetate、 Sigma-Aldrich)、Ionomycin (Calbiochem)を添加した培地中で、4時間培養し、刺激した。刺激後、細胞内染色を以下の方法により行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて解析し、Th1あるいはTh2分化誘導の程度について評価した。
詳細には、Th1誘導細胞あるいはTh2誘導細胞を平底48穴組織培養プレートに1ウエルあたり5-10x105個の濃度となる様に幡種し、2μMのMonensin存在下、10ng/ml(最終濃度)のPMA、及び1μM(最終濃度)のIonomycinを添加し、37℃、5% CO2にて4時間培養し刺激を行った。細胞をPE標識した抗ヒトIL-4抗体及びFITCで標識した抗ヒトIFNγ抗体(Becton-Dickinson)を用いて細胞内染色し、細胞内に蓄積したIL-4あるいはIFNγのサイトカイン量を評価した。同時に、APC標識抗ヒトCD4抗体(CD4 APC)(BD Biosciences)により染色を行い、細胞解析装置(FACScalibur)を用いて測定した。解析はCellQuest software (Becton Dickinson)を用い、CD4を発現するT細胞のみにゲートをかけて行った。
【0075】
2. 結果
2.1. BCG粗細胞壁画分(BCG-CCW)
調製したBCG-CCWの粒度分布を図1に示した。電子顕微鏡像からは、BCG菌体がフレンチプレス処理することで、そのほとんどが破砕されていることが確認できた。各画分の粒度分布は、CWがメジアン径約240nm、CMが約130nmであった(図1)。
【0076】
2.2. BCG菌体リン脂質
BCG菌体の総脂質から、リン脂質としてカルジオリピン及び数種類のPIMを単離精製した。PIMxについては、MALDI-TOF Mass測定を行った結果、分子イオンピーク及びフラグメントイオンから、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6及びAc3PIM6であることが判明した(図2)。
【0077】
2.3. LAM及びLM
BCG-LMは、ゲル濾過クロマトグラフィーにおいてBCG-LAMよりやや遅れて溶出された(図4A)。更に、各溶出画分のマンノース、アラビノース及びmyo-イノシトール含量をGC/MSにより定量した(図4B)。SDS-PAGEにおいて、BCG-LAMはM. tuberculosis AOYAMA-B株由来のLAMとほぼ同一のRf値を示した(図3)。
【0078】
2.4. MALDI-TOF Mass解析
M. tuberculosis AOYAMA-B LAMは、脱プロトン化分子イオン [M-H]- がm/z 17000を中心にm/z 13000〜m/z 19500の広い範囲に分布するのに対して、BCG Tokyo 172-LAMでは、これより少し低分子量m/z15000を中心とするm/z 13000〜m/z 17000に検出されたことから、糖残基の含量に差があることが示唆された(図5)。また、BCG Tokyo 172-LMでは、LAMとは異なり明瞭な脱プロトン化分子イオン[M-H]-が検出され、主にマンノース20〜48個(m/z4500〜m/z9000)からなるtri-acyl(2C16, C19)LMであることが明らかとなった(図6A)。またBCG Tokyo 172-LMの脱アシル化体のマススペクトルにおいても、さらに明瞭な脱プロトン化分子イオン[M-H]-が検出された(図6B)。
【0079】
2.5. LAM、LM及びPIMの脂肪酸分析
さらに、これらのLAM、LM及びPIMの構成脂肪酸組成をメチルエステル化して、GC及びGC/MS分析したところ、主な脂肪酸はLAM、LM及びPIMのいずれの場合もパルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)及びツベルクロステアリン酸(10-methyl C18:0)が90%以上を占めた(表1)。
【0080】
【表1】
【0081】
2.6. LAM及びLMの部分メチル化アルジトールアセテート分析
上記のLAM、LM(及びPIM)の糖鎖の分枝構造を明らかにするために、部分メチル化アルジトールアセテート誘導体を調製し、GC/MS測定を行った。LMでは末端マンノース(t-Manp)が36.6%、2,6-マンノース(2,6-Manp)が37.6%、6-マンノース(6-Manp)が18.6%、2-マンノース(2-Manp)が7.1%を占めたほか、極少量の末端アラビノースが含まれていた。これに対して、LAMには、5-Arafが39.4%、分枝を示す3,5-Arafが11.8%存在した(表2)。
【0082】
【表2】
【0083】
表中の略名は以下の通り:
t-Araf, 2,3,5-tri-O-Me-1,4-di-O-Ac-arabinitol;
2-Araf, 3,5-di-O-Me-1,2,4-tri-O-Ac-arabinitol;
5-Araf, 2,3-di-O-Me-1,4,5-tri-O-Ac-arabinitol;
3,5-Araf, 2-O-Me-1,3,4,5-tetra-O-Ac-arabinitol;
t-Manp, 2,3,4,6-tetra-O-Me-1,5-di-O-Ac-mannitol;
2-Manp, 3,4,6-tri-O-Me-1,2,5-tri-O-Ac-mannitol;
6-Manp, 2,3,4-tri-O-Me-1,5,6-tri-O-Ac-mannitol;
2,6-Manp, 3,4-di-O-Me-1,2,5,6-tetra-O-Ac-mannitol
【0084】
2.7. BCG Tokyo 172-LMのサブクラス及び分子種の同定
BCG Tokyo 172-LMの分子種Man2〜50の質量数は表3の通りである。表3は、各種サブクラスの異なるBCG Tokyo 172-LMの質量数、脂肪酸(アシル基)数のサブクラス及び分子種組成を示す。
【0085】
【表3】
【0086】
また、以上の結果から決定されたBCG Tokyo 172に含まれる主要なLMの構造を下式に示す。
【0087】
【化4】
【0088】
(式中、R1がツベルクロステアリン酸由来のアシル基であり、R2及びR3がパルミチン酸由来のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示し、20〜48個のマンノース残基を含む)。
【0089】
上記にて精製されたLAM、LM、またはこの混合物(粗LAM/LM)を用いて、これらの分子のTh1/Th2分化誘導への影響について調べた。
【0090】
2.8. LAM/LMによるIFNγ産生細胞の誘導
LAM/LMをヒトTh1/Th2分化誘導の系に適用し、その効果を調べた。LAM/LMの溶媒(ビヒクル)をネガティブコントロールとして用いた。更に、細胞壁(CW)をTh1誘導因子のポジティブコントロールとして用いた。Th1分化誘導においては、IFNγ産生細胞の割合を、CWは90.5%に、LAM/LMは83.6%に上昇させた(ビヒクル:66.9%)。これらの分子は強力なTh1誘導因子として作用した(図7A)。更に、Th2分化条件においては、CWはIL-4産生細胞の割合を5.9%に抑制し(ビヒクル:24.6%)、IFNγ産生細胞の割合を51.9%に上昇させた(ビヒクル:16.5%)。LAM/LMは、IL-4産生細胞の割合を9.9%に抑制し、IFNγ産生細胞の割合を34.9%に上昇させた(図7A)。一方、LAM/LMの前駆体である、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6及びカルジオリピンは、Th1分化誘導能を示さなかった(図7B)。更に、Th2分化誘導条件においては、これらの分子はIFNγ産生細胞の割合を上昇させなかったが、IL-4産生細胞の割合を上昇させた(図7B)。
これらの効果を確認するため、6人の健常人ボランティアからのT細胞を用いて、Th1/2分化誘導を試験した。CWは、全ての健常人ボランティアについて、Th1分化条件下でIFNγ産生細胞数を上昇させた(図8A)。Th2分化条件下では、CWはIL-4産生細胞数を抑制し、IFNγ細胞数を上昇させた(図8B)。同様の結果が、LAM/LMについても得られた(図8C及びD)。一方、Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6およびカルジオリピンは、Th1分化誘導条件において、IFNγ産生細胞を上昇させず(図9A、C、E及びG)、Th2分化誘導条件においてIL-4産生細胞数を上昇させた(図9B、D、F及びH)。以上より、LAM/LMがヒトにおいてTh1細胞数を上昇させる効果を有することが明らかとなった。
【0091】
2.9. ヒトTh1/2分化における樹状細胞の効果
本発明者らは、LAM/LMがTh1細胞分化を亢進させるメカニズムを明らかにするために、樹状細胞の関与について調べた。
樹状細胞を含む粗製ナイーブCD4T細胞を、CD8、CD45RO陽性細胞を除去することにより回収した(図10A)。更に、AutoMACS により、CD8、CD14、CD16、CD19、CD36、CD45RO、CD56、CD123、TCRγδ及びGlycophorin陽性細胞を除去することにより、樹状細胞を含まない精製ナイーブCD4T細胞を回収した(図10B)。また、樹状細胞を精製するために、AutoMACSによりCD11c陰性細胞を除去した(図10C)。以上により、粗製ナイーブCD4T細胞(FrA)、精製ナイーブCD4T細胞(FrB)及び濃縮樹状細胞(FrC)を得た。
ヒトTh1/Th2分化培養系においてこれらの細胞を用い、LAM/LMの効果への樹状細胞の関与について調べた。Th1分化誘導条件においては、LAM/LMの添加により、IFNγ産生細胞数は、粗製ナイーブCD4細胞(FrA)、精製ナイーブCD4細胞(FrB)、及び精製ナイーブCD4細胞+濃縮DC(FrB+FrC)を用いた場合、それぞれ、88.1%、72.0%、及び66.3%に上昇し、全ての群においてLAM/LMはIFNγ産生細胞数を上昇させた(図11)。この効果は、FrBやFrB+FrCを用いた場合にも認められた(図11)。即ち、Th1分化誘導条件におけるLAM/LMによるIFNγ産生細胞数の上昇は、DCの有無に関わらず認められた。
一方、Th2分化誘導条件においては、FrAを用いた場合、LAM/LMの添加により、IL-4産生細胞数は12.1%に減少し、IFNγ産生細胞数は15.9%に上昇した。一方、Th2分化誘導条件において、DCを含まないFrBを用いた場合には、このLAM/LMの効果は全く認められなかった。しかし、DC(FrC)を添加することにより、消失したLAM/LMの効果が再び認められた(図11)。即ち、Th2分化誘導条件におけるLAM/LMによるIFNγ産生細胞数の上昇及びIL-4産生細胞数の低下は、DC(抗原提示細胞)を介した作用であることが示唆された。
【0092】
2.10. 精製したLAM及びLMのTh1/Th2分化に対する効果
精製したLAM及びLMを、粗製ヒトCD4T細胞を用いたTh1/Th2分化誘導の系に適用し、その効果を調べた。
Th1分化誘導条件における2つの独立した試験結果を表4及び5に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
Th1分化誘導条件においては、LAM及びLMは、それぞれ、IFNγ産生細胞の割合を有意に上昇させた(表4及び5)。この効果はLAMよりもLMの方が強力であった。また、LAM又はLMの単独の効果よりも、LAM/LM混合物の効果の方が強力であった。以上より、LAM及びLMは、単独でも、Th1分化誘導においてIFNγ産生細胞の誘導を増強すること、更にLAMとLMを混合することにより、IFNγ産生細胞を誘導する効果が相乗的に増強されることが実証された。
【0096】
Th2分化誘導条件における試験結果を図12、13及び表6に示す。
【表6】
【0097】
Th2分化誘導条件において、LAM及びLMは、それぞれ、IFNγ産生細胞の割合を用量依存的に上昇させ、IL-4産生細胞の割合を用量依存的に抑制した(図13)。また、これらの効果は、LAM又はLMを単独で用いた場合よりも、LAM/LM混合物を用いた場合の方が強力であった(表6)。以上より、Th2分化誘導においても、LAM及びLMは、単独で、IFNγ産生細胞の誘導を増強し、IL-4産生細胞の誘導を抑制すること、更にLAMとLMを混合することにより、これらの効果が相乗的に増強されることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
BCG菌体中に含まれるLAM及びLMは、Th1免疫反応を増強し、Th2免疫反応を抑制するので、癌等の予防・治療剤、抗結核等感染症ワクチンのアジュバントとして、また花粉症等のアレルギー疾患の治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】CW(A)及びCM(B)の粒度分布。
【図2】BCG菌体から単離されたPIMのMALDI-TOF massスペクトル。
【図3】単離されたBCG-LAM及びLMのSDS-PAGE解析。
【図4】ゲル濾過クロマトグラフィーによるBCG-LAM及びLMの分画。(A)LAM又はLMの溶出画分のSDS-PAGE解析。(B)GC/MSによる、各溶出画分のマンノース、アラビノース及びmyo-イノシトール含量の測定。
【図5】BCG-LAMのMALDI-TOF massスペクトル。
【図6】(A)アシル化フォームBCG-LMのMALDI-TOF massスペクトル。(B)BCG -LMの脱アシル化体のMALDI-TOF massスペクトル。
【図7】ヒトPBMC Th1/Th2分化培養におけるBCG関連産物によるIFNγ産生細胞の誘導。AとBは独立した試験の結果を示す。ゲート中の数字は、各ゲート内の細胞の割合(%)を示す。
【図8】BCG-CW又はLAM/LMのヒトTh1/Th2細胞分化に対する効果。HVは各健常人ボランティアを示す。(A)及び(B):BCG-CW、(C)及び(D):LAM/LM。(A)及び(C):Th1分化誘導条件、(B)及び(D):Th2分化誘導条件。
【図9】Ac4PIM2、Ac3PIM2、Ac4PIM6又はカルジオリピンのヒトTh1/Th2細胞分化に対する効果。HVは各健常人ボランティアを示す。(A)及び(B):Ac4PIM2、(C)及び(D):Ac3PIM2、(E)及び(F):Ac4PIM6(G)及び(H):カルジオリピン。(A)、(C)、(E)及び(G):Th1分化誘導条件、(B)、(D)、(F)及び(H):Th2分化誘導条件。
【図10】ヒトナイーブCD4T細胞又は樹状細胞のAutoMACSによる濃縮。(A)粗製CD4T細胞(CD8-CD45RO-細胞:FrA)の調製。(B)精製CD4T細胞(FrB)の調製。(C)樹状細胞(FrC)の調製。
【図11】LAM/LMのヒトTh1又はTh2分化誘導に対する効果。CD8-CD45RO-細胞(FrA)(上段)、精製CD4T細胞(FrB)(中段)、精製CD4T細胞+樹状細胞(FrB+FrC)を用いて試験を行った。
【図12】Th2分化誘導条件におけるLAM及びLMの効果。
【図13】Th2分化誘導条件における、IFNγ産生細胞数及びIL-4産生細胞数に対するLAM及びLMの効果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤。
【請求項2】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、請求項1記載の剤。
【請求項3】
リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、請求項1又は2記載の剤。
【請求項4】
トリアシルリポマンナンが、式
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、請求項3記載の剤。
【請求項5】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh2細胞分化抑制剤。
【請求項6】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、請求項5記載の剤。
【請求項7】
リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、請求項5又は6記載の剤。
【請求項8】
トリアシルリポマンナンが、式
【化2】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、請求項7記載の剤。
【請求項9】
ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進する方法。
【請求項10】
ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法。
【請求項11】
該培地が更に抗原提示細胞を含む、請求項10記載の方法。
【請求項1】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh1細胞分化促進剤。
【請求項2】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、請求項1記載の剤。
【請求項3】
リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、請求項1又は2記載の剤。
【請求項4】
トリアシルリポマンナンが、式
【化1】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、請求項3記載の剤。
【請求項5】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する、ヒトTh2細胞分化抑制剤。
【請求項6】
BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及びBCG菌体由来のリポマンナンを組み合わせてなる、請求項5記載の剤。
【請求項7】
リポマンナンの少なくとも一部が、20〜48個のマンノース残基を含むトリアシルリポマンナンである、請求項5又は6記載の剤。
【請求項8】
トリアシルリポマンナンが、式
【化2】
(式中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、炭素数14〜20のアシル基であり、mは1〜22の整数を、nは1〜10の整数を示す)で表される化合物である、請求項7記載の剤。
【請求項9】
ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh1細胞への分化を促進する方法。
【請求項10】
ヒトCD4T細胞の抗原刺激培養において、BCG菌体由来のリポアラビノマンナン及び/又はリポマンナンを含有する培地を用いることを含む、該CD4T細胞のTh2細胞への分化を抑制する方法。
【請求項11】
該培地が更に抗原提示細胞を含む、請求項10記載の方法。
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2008−143830(P2008−143830A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332387(P2006−332387)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月15日特定非営利活動法人 日本免疫学会発行の「日本免疫学会総会・学術集会記録 第36巻」に発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(593192069)日本ビーシージー製造株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年11月15日特定非営利活動法人 日本免疫学会発行の「日本免疫学会総会・学術集会記録 第36巻」に発表
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(593192069)日本ビーシージー製造株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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