説明

Toll様受容体3(TLR3)の限定アゴニスト

Toll様受容体3(TLR3)に対するアゴニストであり、インビトロまたはインビボで抗ウイルス薬、抗増殖薬および免疫刺激薬のうち1以上として使用される、不適正塩基対合した二本鎖リボ核酸。医療処置方法および医薬の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引照
本出願は、米国仮出願No.60/904,792(2007年3月5日出願)に基づく優先権を主張する。
【0002】
連邦支援による研究または開発
米国政府は、保健社会福祉省が授与するNIH−NO1−AI−15435により提供された本発明に一定の権利をもつ。
【0003】
本発明は、抗ウイルス薬、抗増殖薬、免疫刺激薬、またはそれらのいずれかの組合わせとして使用するための、Toll様受容体3(TLR3)に対するアゴニストの提供に関する。医療処置方法および医薬の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
二本鎖RNA様ポリ(I:C)がTLR3アゴニストとして用いられている。しかし、医薬としてのそれの有用性はその毒性によって制限される。したがって、このファミリーに属する他の受容体ではなくTLR3を特異的にターゲティングする抗ウイルス薬、抗増殖薬および/または免疫刺激薬として使用できる改良された医薬が求められている。たとえば、望ましい医薬は、初期または樹立した感染症の処置、前癌もしくは癌状態の処置、またはTLR3により仲介される炎症反応の誘導について、高い治療指数(たとえば、毒作用を生じる投与量を治療作用を生じる投与量で割った比率、たとえばLD50をED50で割ったもの)をもつであろう。
【0005】
二本鎖リボ核酸(dsRNA)は、2’,5’−オリゴアデニル酸シンセターゼ/RNアーゼLおよびp68プロテインキナーゼ経路を含めたdsRNA依存性細胞内抗ウイルス防御機序により、自然免疫(たとえばインターフェロンその他のサイトカインの産生)を誘発する。HEMISPHERx(登録商標) BiopharmaからのAMPLIGEN(登録商標)ポリ(I:C12U)は、抗ウイルスおよび免疫刺激の特性を備えた特異的構造のdsRNAであるが、これは毒性の低下を示す。AMPLIGEN(登録商標)ポリ(I:C12U)は、多面的活性によりウイルスおよび癌細胞の増殖を阻害する:それは他のdsRNA分子が行なうのと同様に2’,5’−オリゴアデニル酸シンセターゼ/RNアーゼLおよびp68プロテインキナーゼ経路を調節する。ここで、ポリ(I:C12U)は体内でTLR3の特異的アゴニストとして作用することによりその作用を仲介することが見いだされた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、抗ウイルス薬、抗増殖薬および/または免疫刺激薬を必要とする患者に対する処置を提供することが目的である。これにより、長い間求められていた選択的TLR3アゴニストに対する要望に対処する。特に感染性疾患、細胞増殖および/またはワクチン接種を伴う対象を処置する方法および医薬を製造する方法が提供される。本発明のさらに他の目的および利点は以下に記載され、あるいはその考察から当業者に明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、初期もしくは樹立したウイルス感染症、異常な細胞増殖を特色とする病的状態(たとえば新生物または腫瘍)を伴う対象(たとえばヒトまたは動物)を処置するために、または対象にウイルス感染症に対するワクチンを接種するための免疫刺激薬として使用できる。不適正塩基対合した二本鎖リボ核酸(dsRNA)の使用量は、対象の免疫細胞上のToll様受容体3(TLR3)を結合するのに十分であることが好ましい。これにより自然免疫を誘発することができる。特に、特異的構造のdsRNAを用いて、TLR4など他のToll様受容体、またはRIG−1もしくはmda−5などのRNAヘリカーゼを活性化することなく、TLR3を活性化することができる。
【0008】
対象は、ウイルス、特にブニヤウイルス(bunyavirus)、またはより具体的にはフレボウイルス(phlebovirus)に感染していてもよい。TLR3に結合するのに十分な量の特異的構造のdsRNAを含む医薬組成物を対象に投与する。特異的構造のdsRNAで処置していない対象と比較した回復時間の短縮、免疫性の増大(たとえば抗体価、リンパ球増殖、感染した細胞の死滅、またはナチュラルキラー(NK)細胞活性の上昇)、ウイルス複製回数の減少、またはその組合わせにより評価されるように、対象のウイルス感染症はこれにより軽減または排除される。
【0009】
対象は異常な細胞増殖(たとえば新生物または腫瘍、他のトランスフォームした細胞)を伴っていてもよい。TLR3に結合するのに十分な量の特異的構造のdsRNAを含む医薬組成物を対象に投与することができる。特異的構造のdsRNAで処置していない対象の状態と比較して、細胞増殖が低下し、新生細胞が排除され、および/または対象の罹患率もしくは死亡率がこれにより改善される。
【0010】
対象はウイルスまたは新生物に対するワクチンを接種されてもよい。ワクチン接種の直前、途中、または直後に、TLR3に結合するのに十分な量の特異的構造のdsRNAを含む医薬組成物を対象に投与する。ワクチンに対する免疫応答がこれにより刺激される。ワクチンは、死ウイルスもしくは弱毒ウイルス、新生細胞の断片、1種類以上の単離したウイルスタンパク質、または1種類以上の単離した腫瘍抗原からなっていてもよい。インサイチューワクチンは、その場で産生された抗原およびそれに対するアジュバントとして作用する特異的構造のdsRNAからなることができる。ウイルスはブニヤウイルス、より具体的にはフレボウイルスであってもよい。
【0011】
抗原提示細胞(たとえば樹状細胞、マクロファージ)および粘膜組織(たとえば胃または呼吸器の上皮)が、特異的構造のdsRNAに対する好ましい体内ターゲットである。ウイルスまたは腫瘍を提示することができ、その抗原は専らTLR3アゴニストとして作用する特異的構造のdsRNAの唯一の作用に対して感受性であるべきである。特異的構造のdsRNAは、好ましくは静脈内注入;皮内、皮下もしくは筋肉内注射;鼻内もしくは気管内吸入:または口腔咽頭曝露により投与される。
【0012】
医薬を使用および製造する方法も提供される。しかし、生成物に関する請求項は、その方法の特定の工程を生成物請求項中に引用しない限り、必ずしもこれらの方法に限定されないことを留意すべきである。
【0013】
本発明のさらに他の観点は詳細な説明および特許請求の範囲ならびにそれの一般化から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1−1】ポリ(I:C12U)処理が、野生型マウスでは肝疾患および全身ウイルス負荷を制限するが、TLR3−/−マウスでは制限しないことを示す。8週令TLR3−/−(図1A)および野生型(図1B)マウスのグループをPTVでウイルス攻撃し(0日目)、10μgのポリ(I:C12U)または生理食塩水プラセボで、感染後24時間目に処理した。感染後、指示した日数目に採集した試料について、平均血清ALTレベルを示す。データは、グループ当たり5匹の動物の平均および標準偏差を表わす。ポリ(I:C12U)、mdsRNA。IU、国際単位。P<0.05;**P<0.01;生理食塩水処理した対照と比較。
【図1−2】ポリ(I:C12U)処理が、野生型マウスでは肝疾患および全身ウイルス負荷を制限するが、TLR3−/−マウスでは制限しないことを示す。8週令TLR3−/−(図1C)および野生型(図1D)マウスのグループをPTVでウイルス攻撃し(0日目)、10μgのポリ(I:C12U)または生理食塩水プラセボで、感染後24時間目に処理した。感染後、指示した日数目に採集した試料について、肝スコアを示す。データは、グループ当たり5匹の動物の平均および標準偏差を表わす。ポリ(I:C12U)、mdsRNA。IU、国際単位。P<0.05;**P<0.01;生理食塩水処理した対照と比較。
【図1−3】ポリ(I:C12U)処理が、野生型マウスでは肝疾患および全身ウイルス負荷を制限するが、TLR3−/−マウスでは制限しないことを示す。8週令TLR3−/−(図1E)および野生型(図1F)マウスのグループをPTVでウイルス攻撃し(0日目)、10μgのポリ(I:C12U)または生理食塩水プラセボで、感染後24時間目に処理した。感染後、指示した日数目に採集した試料について、肝ウイルス力価を示す。データは、グループ当たり5匹の動物の平均および標準偏差を表わす。ポリ(I:C12U)、mdsRNA。IU、国際単位。P<0.05;**P<0.01;生理食塩水処理した対照と比較。
【図1−4】ポリ(I:C12U)処理が、野生型マウスでは肝疾患および全身ウイルス負荷を制限するが、TLR3−/−マウスでは制限しないことを示す。8週令TLR3−/−(図1G)および野生型(図1H)マウスのグループをPTVでウイルス攻撃し(0日目)、10μgのポリ(I:C12U)または生理食塩水プラセボで、感染後24時間目に処理した。感染後、指示した日数目に採集した試料について、血清ウイルス力価を示す。データは、グループ当たり5匹の動物の平均および標準偏差を表わす。ポリ(I:C12U)、mdsRNA。IU、国際単位。 P<0.05;** P<0.01;生理食塩水処処理した対照と比較。
【図2】感染していないTLR3−/−マウスおよび野生型マウスの、ポリ(I:C12U)曝露後におけるIFN−β誘導を示す。8週令マウスのグループに10μgのポリ(I:C12U)を腹腔内注射し、曝露後、指示した時間に採集した血清試料について、全身IFN−βレベルを測定した。データは、グループ当たり3匹の動物の平均および標準偏差を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、バルチモア分類システムのグループIII、グループIVまたはグループVに属するRNAウイルスによる感染症を処置することができる。それは、その遺伝子物質としてリボ核酸(RNA)をもち、DNA中間体を用いて複製することはない。RNAは通常は一本鎖(ssRNA)であるが、場合により二本鎖(dsRNA)の可能性がある。RNAウイルスはさらにそれらのRNAのセンスまたは極性に従ってマイナスセンスとプラスセンスのRNAウイルスに分類できる。プラスセンスのウイルスRNAはウイルスmRNAと同一であり、したがって宿主細胞が直ちに翻訳することができる。マイナスセンスのウイルスRNAはmRNAに対して相補的であり、したがって翻訳前にRNAポリメラーゼによりプラスセンスRNAに変換されなければならない。したがって、プラスセンスウイルスの精製したRNAは直接に感染を引き起こすことができるが、全ウイルス粒子より感染性が低い可能性がある。マイナスセンスウイルスの精製RNAはプラスセンスRNAに転写される必要があるので、それ自体では感染性がない。
【0016】
ヒトおよび動物に感染するRNAウイルスには、ビルナウイルス科(Birnaviridae)およびレオウイルス科(Reoviridae)(グループIII dsRNAウイルス);アルテリウイルス科(Arteriviridae)、アストロウイルス科(Astroviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、ヘペウイルス科(Hepeviridae)、およびロニウイルス科(Roniviridae)(グループIVプラスセンスssRNAウイルス);ならびにアレナウイルス科(Arenaviridae)、ボルナウイルス科(Bornaviridae)、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、およびラブドウイルス科(Rhabdoviridae)(グループVマイナスセンスssRNAウイルス)に属するものが含まれる。特異的構造の二本鎖リボ核酸(dsRNA)は、フラビウイルス科(Flaviviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae)、およびトガウイルス科(Togaviridae)に属するRNAウイルスによる感染を処置することも知られている。これらの科のウイルスは本発明の範囲に含まれる場合と含まれない場合がある。
【0017】
異常な増殖を伴う対象の細胞は、新生物または腫瘍(たとえば癌、肉腫、白血病、リンパ腫)、特に腫瘍ウイルス(たとえば、トランスフォーミング遺伝子または癌遺伝子を保有するDNAウイルスまたはRNAウイルス)によりトランスフォームした細胞、または他の形で癌関連ウイルスに感染した細胞であってもよい。たとえば、エプスタイン-バーウイルスは鼻咽頭癌、ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、および他のBリンパ腫に関連し;ヒトBおよびC型肝炎ウイルス(HBVおよびHCV)は肝癌に関連し;ヒトヘルペスウイルス8(HHV8)はカポジ肉腫に関連し;ヒトパピローマウイルス(たとえばHPV6、HPV11、HPV16、HPV18、またはその組合わせ)は子宮頚癌、肛門癌および性器いぼに関連し;ヒトT−リンパ栄養性ウイルス(human T−lymphotrophic virus)(HTLV)はT−細胞白血病およびリンパ腫に関連する。癌には、消化器系(たとえば食道、結腸、腸、回腸、直腸、肛門、肝臓、膵臓、胃)、尿生殖器系(たとえば膀胱、腎臓、前立腺)、筋骨格、神経、肺器官系(たとえば肺臓)、または生殖器系(たとえば子宮頸、卵巣、精巣)を起源とするものが含まれる。
【0018】
ポリ(リボイノシン酸)をポリ(リボシトシン12ウラシル)に部分ハイブリダイズさせ、これをrI・r(C12U)と表わすことができる。使用できる他の特異的構造のdsRNAは、ポリ(CU)およびポリ(CG)から選択されるコポリヌクレオチド(ここでnは4〜29の整数である)に基づくか、あるいはポリリボイノシン酸およびポリリボシチジル酸の複合体の不適正塩基対合類似体であり、rI・rCを修飾してポリリボシチジル酸(rC)鎖に沿って非対合塩基(ウラシルまたはグアニン)を取り込ませることにより形成される。あるいは、不適正塩基対合dsRNAはr(I)・r(C)dsRNAから、たとえば2’−O−メチルリボシル残基を含有させてポリリボイノシン酸(rI)のリボシル主鎖を修飾することにより誘導できる。不適正塩基対合dsRNAをRNA安定化ポリマー、たとえばリジンセルロースと複合体形成させることができる。これらのrI・rCの不適正塩基対合類似体のうち好ましいものは一般式rI・r(C11−14U)のものであり、U.S.Patents 4,024,222および4,130,641に記載されており;これらを本明細書に援用する。それらに記載されるdsRNAは、一般に本発明に従って使用するのに適切である。U.S.Patent 5,258,369も参照。
【0019】
特異的構造のdsRNAは、下記を含むいずれか適切な局所または全身経路で投与することができる:経腸(たとえば経口、胃ゾンデ、注腸)、局所(たとえば、皮膚上で作用するパッチ、直腸または膣において作用する坐剤)、および非経口(たとえば経皮パッチ;皮下、静脈内、筋肉内、皮内または腹腔内注射;口腔、舌下または経粘膜;鼻内または気管内への吸入または点滴注入)。吸入のために核酸を微粉砕し、注射もしくは点滴注入のためにビヒクル(たとえば無菌の緩衝化生理食塩水または水)に溶解し、またはターゲティッド送達のためにリポソームその他のキャリヤーに封入することができる。好ましいものは、核酸を抗原提示細胞および上皮におけるTLR3受容体へターゲティングするキャリヤーである。無菌条件下で製造(および場合により貯蔵)し、微生物および内毒素の混入が低いことについて試験した、少なくとも有効量の特異的構造のdsRNAを含有する医薬組成物として、医薬を配合することができる。これらの医薬は生理的に許容できるビヒクルまたはキャリヤーをさらに含有することができる。好ましい経路が対象の状態および年齢、感染性疾患または新生物疾患の性質、ならびに選択した有効成分に従って異なる可能性があることは認識されるであろう。
【0020】
前記核酸の推奨される投与量は、対象の臨床状態、およびウイルス感染症または腫瘍疾患を処置する医師または獣医の経験に依存するであろう。特異的構造のdsRNAは、70kgの対象に約200mg〜約400mgで静脈内注入により週2回の計画で投与できる;ただし、投与量および/または頻度は医師または獣医が対象の状態に応じて変更できる。TLR3を発現する細胞または組織、特に抗原提示細胞(たとえば樹状細胞、マクロファージ)および内皮(たとえば呼吸器系および胃系)は核酸の送達に好ましい部位である。特異的構造のdsRNAの作用は、TLR3遺伝子の変異(たとえば欠失)、それの発現のダウンレギュレーション(たとえばsiRNA)、TLR3のリガンド結合部位に対する競合物質(たとえば中和抗体)もしくは受容体アンタゴニストとの結合、またはTLR3シグナル伝達経路の下流成分(たとえばMyD88またはTRIF)との干渉により、阻害または遮断される可能性がある。
【0021】
AMPLIGEN(登録商標)ポリ(I:C12U)は、TLR3活性化が免疫系に及ぼす影響を調べるための選択的物質を提供し、これはこれまで得られなかったものである。他の物質、たとえばTLRアダプターであるMyD88およびTRIFは、それぞれ全TLRまたはTLR3/TLR4によりシグナル伝達を仲介する。したがって、MyD88またはTRIFによるシグナル伝達の活性化または阻害は、その生物学的作用をTLR3により仲介されるものに限定されないであろう。TLR3およびそれのシグナル伝達が存在することは、AMPLIGEN(登録商標)ポリ(I:C12U)が受容体アゴニストとして作用するための必要条件なので、このアゴニストを投与する前に、対象の細胞または組織にTLR3変異が存在しないこと、TLR3タンパク質が存在すること、TLR3仲介シグナル伝達が無傷であること、またはそのいずれかの組合わせを調べることができる。そのようなTLR3活性の確認は、このアゴニストの投与の前、途中または後に行なうことができる。このアゴニストは、免疫応答を他のToll−様受容体またはRNAヘリカーゼの活性化なしにTLR3の活性化に限定するために使用できる。
【0022】
以下の例は本発明の具体的態様をさらに説明するものであり、前記の本発明の範囲を限定するためのものではない。
【実施例】
【0023】
プンタ・トロ(Punta Toro)ウイルス(PTV)は、リフトバレー熱および砂バエ熱を引き起こすウイルスに系統発生的に近縁である。病原性の高いフレボウイルスによるものと異なり、PTVによるヒト感染は通常は軽度の発熱疾患に限定される疾患を生じる。小型げっ歯類における感染モデルが記載されており、これはヒトおよび家畜有蹄類のリフトバレー熱ウイルス感染症にみられるものと同様に肝臓に波及する急性疾患を生じる。幾つかのグループが、ハムスターはPTV感染により誘発される重篤な疾患に罹患しやすいことを記載している。これらのげっ歯類モデルを利用できることにより、PTVは抗ウイルス研究のためのリフトバレー熱ウイルスの使用に代わる実用的なものとなる;後者は高度に制限されており、高レベルの隔離施設を必要とするからである。そのため、急性フレボウイルス誘発疾患のPTVモデルを用いて有望な抗ウイルス薬の評価が多数行われた。さらに、幾つかの大規模研究は、免疫調節薬の評価を伴い、PTVがIFN誘導物質に対して強い感受性をもつことを証明した。I型IFNの重要性がマウスPTV感染症モデルにおいて実証される。IFN−α/βに対する中和抗体で処理すると、成体マウスにおいて報告された感染抵抗性が完全に無効になる。有効なI型IFN誘導物質、たとえばポリ(I:C)またはポリ(I:C12U)は、離乳したばかりの(weanling)マウスを致死的なPTV攻撃から防御するのにきわめて有効であることが一貫して証明された。
【0024】
RNAウイルスの複製中間体であるdsRNAへの曝露により生じる活性化事象に2つの経路が関与するという証拠が累積しつつある。TLR3応答経路のほかに、TLR3に依存しない経路であって、カスパーゼ動員ドメイン(caspase−recruiting domains(CARDs))を含むRNAヘリカーゼ系の細胞質センサーにより仲介される経路が最近明らかになってきた。これらのdsRNAセンサーによるシグナル伝達は、別個の経路を通して起き、これらが収束して、抗ウイルス免疫の調節において重要な因子であるIFN−βの産生を調節する各種キナーゼおよび転写因子を共有する。TLR3はエンドソームに限定されるため、これは細胞の食細胞プロセスを介して取り込まれるdsRNAの認識に関与すると思われる。RNAヘリカーゼ系のdsRNA検知物質であるレチノイン酸誘導タンパク質I(RIG−I)および黒色腫分化関連遺伝子−5(mda−5)が細胞質ゾルに位置することにより、細胞内のウイルス感染を感知することができる。最近の証拠は、ポリ(I:C)に対するI型IFNの応答に際して、mda−5がTLR3を上回る主要な役割を果たすことを示唆している。本明細書には、ポリ(I:C12U)による防御免疫の誘導に際してのTLR3の役割を証明するデータを示す。
【0025】
被験動物
TLR3−/−マウスは、エール大学において誘導され、C57BL/6バックグラウンドに戻し交配された(Alexopoulou et al., Nature 413: 732-738, 2001)。それらはユタ州立大学において病原体の無い特別な条件下で飼育および収容された。C57BL/6マウス(野生型)をThe Jackson Laboratory(メーン州バー・ハーバー)から入手した。すべての実験に年齢が一致した雌マウスを用いた。これらの試験に用いた動物の取扱いはすべて、米国農務省、およびユタ州立大学動物の飼育および使用に関する委員会(Utah State University Animal Care and Use Committee)が設定した指針に従った。
【0026】
免疫調節物質
ポリ(I:C12U)はHEMISPHERx(登録商標) Biopharma(ペンシルベニア州フィラデルフィア)により2.4mg/mLの濃度で提供された。それを注射する直前に無菌生理食塩水で適切な濃度に希釈した。カチオン性リポソーム−DNA複合体(CLDC)を作成する材料は、Juvaris BioTherapeutics,Inc.(カリフォルニア州プレザントン)により提供された。注射用のリポソーム、DNA、およびCLDC調製は、先にGowen et al. (Antiviral Res. 69: 165-172, 2006)が記載している。組換えアイメリア属(Eimeria)原虫抗原(rEA)は、Barros Research Institute(ミシガン州ホルト)により提供され、Gowen et al. (Anti- microbiol. Agents Chemother. 50: 2023-2029, 2006)の記載に従って用いられた。リバビリン(ribavirin)はICN Pharmaceuticals(カリフォルニア州コスタメーサ)により供給された。すべての物質を腹腔内(i.p.)経路で投与した。
【0027】
PTV感染したTLR3−/−マウスおよび野生型マウスにおけるポリ(I:C12U)の評価
PTV、Adames株は、米国陸軍感染性疾患医学研究所(U.S. Army Medical Research Institute for Infectious Diseases)(メリーランド州フレデリック)のDr.Dominique Pifatから入手された。LLC−MK細胞(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、バージニア州マナッサス)により元のウイルス原液を4回継代することによってウイルス原液を調製した。離乳したばかりのTLR3−/−マウスおよびC57BL/6マウス(3〜4週令)に、皮下(s.c.)注射により2x10 50%細胞培養感染量(CCID50)のPTVを接種した。
【0028】
最初の試験では、1回量の10μgポリ(I:C12U)、1μg CLDC、または生理食塩水プラセボを、感染攻撃後24時間目に腹腔内投与した。リバビリン処理グループも含めた;この場合、ウイルス攻撃の4時間前に開始して1日2回、5日間、処理を行なった。各グループのマウスを死亡について21日目まで観察した。2回目の試験では、1μg rEA処理グループでCLDCおよびリバビリングループを置き換えた。感染3日目の肝疾患の分析のために、追加の動物をも含めた。感染3日目に屠殺したマウス(n=5)から血清を採集し、肝臓を肝性黄疸について0〜4の尺度で採点した:0は正常、4は最大の黄変。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性を、Pointe Scientific,Inc.(ミシガン州リンカーン・パーク)から購入したALT(SGPT)試薬セットにより測定した。
【0029】
ポリ(I:C12U)で処理したTLR3−/−マウスおよび野生型マウスにおいて全身および肝臓のウイルス負荷、肝変色、およびALTレベルを比較するために、時間試験を行なった。8週令のマウスのグループ(n=5)を、試料採集のために、ポリ(I:C12U)または生理食塩水で療法介入した後、感染2、3、4または5日目に屠殺した。1日目の試料は感染初期のベースラインを得るためにも採集された。より高齢のマウスをこの試験で用いたのは、報告によればそれらがPTV感染に対してより抵抗性であり、感染後期での分析が可能になるからであった。Sidwell et al. (Antimicrob. Agents. Chemother. 32: 331-336, 1988)による記載に従って、感染性細胞培養アッセイを用いてウイルス力価をアッセイした。要約すると、特定体積の肝ホモジェネートまたは血清を系列希釈し、96ウェルマイクロプレート内のLLC−MK細胞単層の三重試験ウェルに添加した。ウイルス曝露後6日目にウイルスの細胞変性作用(CPE)を測定し、Reed & Muench (Am. J. Hyg. 27: 493-497, 1938)の記載に従って50%エンドポイントを計算した。
【0030】
ポリ(I:C12U)処理後のTLR3−/−マウスおよび野生型マウスにおけるIFN−β
8週令のTLR3−/−マウスおよび野生型マウスのグループ(各グループにつきn=3)を、10μgのポリ(I:C12U)で処理した。曝露後、0、1.5、3、6および24時間目に血清を採集した。PBL(ニュージャージー州ピスカッタウェイ)からのELISA試薬を用い、製造業者の説明に従って全身IFN−βレベルを測定した。
【0031】
統計分析
記録順位分析(log−rank analysis)を用いて生存データの差を評価した。総生存動物の増加を評価するために、フィッシャーの正確検定(Fisher's exact test)(2テイル)を用いた。マン−ホイットニー検定(Mann−Whitney test)(2テイル)を実施して、死亡までの平均日数、ウイルス力価、および血清ALTレベルの差を分析した。平均肝スコア比較のためにウィルコクソン順位和検定(Wilcoxon ranked sum analysis)を用いた。スチューデントのt−検定(Student's t−test)(2テイル)を用いて、ポリ(I:C12U)で処理したTLR3−/−マウスと野生型マウスの間におけるIFN−βレベルの差を判定した。
【0032】
TLR3欠損マウスはポリ(I:C12U)処理後にPTV感染に対する防御免疫を発現できない
ポリ(I:C12U)は、離乳したばかりのC57BL/6に致死的PTV攻撃に対する完全防御を付与し、ウイルス力価を低下させ、PTV感染に関連する肝機能障害および肝疾患を制限することがこれまでに報告されている薬物である(Sidwell et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 653:344-35, 1992)。ポリ(I:C12U)によりPTVに対する抗ウイルス防御を誘導する際にTLR3活性が重要な役割を果たすかどうかを判定するために、最初の実験では3〜4週令のTLR3−/−マウスおよび野生型マウスを感染攻撃後24時間目に処理した。ポリ(I:C12U)で処理したTLR3−/−グループのマウスには生存動物がいなかった(表1)。これに対し、CLDCで刺激した8匹中5匹のマウスがこの感染で生存した;これは主に、TLR9がプラスミドDNA主鎖中に存在するCpGモチーフを認識することにより作用すると思われる。野生型マウスでは、dsRNAおよびCLDCの両方ともマウスを100%防御し(表1)、これらの免疫調節薬製剤は有効性が高いことが証明された。リバビリン処理も追加の陽性対照として含めた;これは90%以上の野生型マウスを致死的PTV攻撃から日常的に防御するからである。注目すべきことに、リバビリンはTLR3−/−マウスの75%(8匹中6匹のマウス)を死亡から防御したにすぎず、これに対し野生型動物では完全防御が観察された(表1)。これはわずかに大きな野生型マウス(約3〜4週令)と比較して小さなTLR3−/−マウス(約3週令)を用いたことに帰因する可能性がある。あるいは、TLR3欠損はこれらのマウスの感染制限能および疾患対処能を低下させる可能性がある。CLDCおよびリバビリンは両方とも生存結果を有意に改善した。
【0033】
【表1】

【0034】
ウイルス攻撃後24時間目に腹腔内投与した1回量のポリ(I:C12U)、CLDC、および生理食塩水処理。リバビリンは、ウイルス攻撃の4時間前に開始して1日2回、5日間投与された;
21日目以前のマウスの死亡日数の平均および範囲;
P<0.05;** P<0.01;*** P<0.001;生理食塩水処理した対照と比較。
【0035】
2回目の試験は、最初の所見を証明するために行なわれた。年齢がより一致したマウス(〜4週令)を用いるほか、PTV感染の結果としての肝疾患の差を評価するために感染3日目の屠殺用にさらに5匹のマウスを含めた。表2に示すように、ポリ(I:C12U)はこの場合もTLR3−/−マウスを高い致死量のウイルスから防御できず、血清ALTレベルおよび肝スコアの低下に反映されるように肝疾患を制限できなかった。TLR11により作用する陽性対照の免疫調節物質であるrEAは、マウスを死から防御し、血清ALTレベルを有意に低下させるのにきわめて有効である。予想どおり、ポリ(I:C12U)およびrEAによる野生型マウスの処理は、致死性の高い攻撃接種に対して100%の防御を誘発した(表2)。興味深いことに、I型IFNを誘導することが知られているポリ(I:C12U)療法は肝性黄疸を劇的に排除し、一方、I型IFNを誘導することが知られていないrEAはいずれの系統のマウスにおいても平均肝スコアを低下させなかった。TLR3−/−と野生型の生理食塩水処理プラセボグループおよびrEA処理グループを比較した場合には有意差がなく、PTV感染に対して両系統とも同等に感受性であり、rEAに対して同様に応答することが示唆された。
【0036】
【表2】

【0037】
TLR3欠損マウスはポリ(I:C12U)に応答して疾患重症度およびウイルス負荷を軽減することができない
PTVは離乳したばかりのC57BL/6マウスにおいては致死性が高いが、8週令の動物は報告によれば感染に対して不応性である。したがって、ポリ(I:C12U)免疫療法の防御効果に対するTLR3の寄与をさらに評価するために、より高齢のマウスを用いて感染および疾患プロセス全体にわたる時間経過試験を実施した。図1Aにみられるように、TLR3−/−マウスおよび野生型マウスにおいて顕著なレベルのALTは感染3日目まで存在せず、4日目にピークに達した後、下降した。ポリ(I:C12U)処理と生理食塩水処理のTLR3−/−マウス間のALTレベルには差がなく、一方、dsRNA療法を受けた野生型マウスにおいてはレベルがベースライン近くに留まった(図1A−1B)。興味深いことに、生理食塩水処理した野生型マウスは、感染の3日目と4日目で大きな変化はみられたが、それらのTLR3欠損同等動物より3倍高い平均ALTレベルを示した。目視検査により評価した肝損傷について、生理食塩水処理マウスでは変色を指標とする疾患がまず2日目に認められ、4日目にピークに達した(図1C−1D)。ALTデータに反映される肝疾患と一致して、4および5日目の生理食塩水処理対照と比較した肝性黄疸の有意の軽減は、ポリ(I:C12U)に対して応答性である野生型マウスにのみ証明された。この場合も、野生型マウスの方が肝疾患重症度が大きいという示唆が認められた;それらはTLR3−/−マウスと比較して高い4日目の平均肝スコアを示したからである(それぞれ3.7±0.3および3.4±0.4)。そして先の攻撃試験でみられた防御欠如と一致して(表1および2)、このデータはポリ(I:C12U)処理後のPTVに対する防御免疫の仲介においてTLR3が生存上の役割を果たすことを指摘する。
【0038】
ポリ(I:C12U)または生理食塩水処理後の感染の経過中における肝臓および全身のウイルス負荷の制御も調べた。予想外に、肝ウイルス負荷には認めうるほどの差がみられなかった;これは、一部は野生型マウスについてみられた高度の変動性に帰因する(図1E−1F)。平均力価はポリ(I:C12U)処理した野生型マウスでは2および3日目に高かったが、血清ALTレベルおよび肝スコアについて数例で証明されたように統計的に有意ではなかった。注目すべきことに、TLR3−/−マウスと対照的に数匹の野生型動物では既に1日目にウイルスが検出された(図1E−1F)。血清ウイルスは感染1日目には検出できなかったが、2日目までに劇的に急増した;ただし、dsRNA処理した野生型マウスは3log以上のウイルス減少により分かるように、かろうじて検出できるレベルにまで感染を制御できた(図1G−1H)。この場合も、野生型動物にみられたポリ(I:C12U)療法の効果がTLR欠損マウスでは失われた。TLR3−/−マウスと野生型マウスにおける肝ウイルス負荷の比較と同様に、生理食塩水処理グループのピーク力価に全身的な有意差はみられなかった(図1G−1H)。ただし、TLR3−/−マウスにおける平均ウイルス力価は3日目以後に急勾配で3log以上低下し、一方、野生型では緩徐な低下がみられたにすぎない。生理食塩水処理グループのマウス間の比較は、野生型動物でみられた、より重篤な肝疾患プロフィールの示唆を裏付ける。野生型動物では肝ウイルスをより早期に(1日目)検出でき、全身ウイルスはより長期間存続した(図1E−1H)。
【0039】
TLR3欠損マウスはポリ(I:C12U)処理に応答してIFN−βを産生しない
dsRNAは、宿主の抗ウイルス防御を樹立する際に重要な因子であるIFN−βの主な誘導物質である。機能性TLR3の欠如がIFN−β応答プロフィールを変化させるかどうかを調べるために、野生型マウスおよびTLR3−/−マウスのグループを、すべての実験に用いた10μgのポリ(I:C12U)投与量で処理し、全身IFN−β産生を種々の時点で測定した。1.5時間の曝露期間後、TLR3−/−マウスと比較して野生型マウスでは有意のIFN−βレベル上昇がみられた(図2)。3時間目、IFN−βレベルは野生型マウスではピークに達し、一方、TLR3−/−マウスでは基礎レベルに留まった。6時間目までに、野生型マウスではIFN−βレベルがベースラインに戻った(図2)。TLR3−/−マウスについては、評価したいずれの時点でもIFN−β誘導が示されなかった。1.5および3時間目のサンプリング時点でのIFN−β産生の差は、ポリ(I:C12U)がTLR3欠損動物においてPTV感染に対する防御免疫を誘発できないことにおける有意かつ可能性のある要因であった。
【0040】
考察
dsRNAに対する古典的な細胞質ゾルセンサーであるdsRNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)がI型IFN誘導および抗ウイルス宿主防御の主要な経路であるということに反論する幾つかの系統の証拠がある。前記の結果は、パターン認識受容体TLR3がマウスにおいてポリ(I:C12U)により誘導される防御免疫に必須であることを示す。最近見いだされた他の細胞質dsRNAセンサーおよび宿主抗ウイルス免疫におけるそれらの関与は、mda−5がI型IFN誘導およびその結果生じる抗ウイルス状態のための主要な機序であることを示唆している。しかし、TLR3を欠損する動物は、ポリ(I:C12U)による1回量処理後にPTV感染に対する防御免疫を発現できず、それに関連する疾患を制限できないことが見いだされた。さらに、TLR3が欠損すると、ウイルスの複製が抑制されず、かつポリ(I:C12U)で処理した野生型動物に明らかに証明されるIFN−β応答が存在しなかった。
【0041】
TLR3欠損などの免疫欠損を伴うマウスにおける抗ウイルス試験に関連する注意点は、有効性の欠如が一部はポリ(I:C12U)とは無関係にPTV感染に対するTLR3仲介応答の撹乱に帰因する可能性があるという点である。そのため、TLR3欠損はより重篤な疾患を発症する素因をマウスに与え、結果的に感染の処置がより困難になると考えられる。最初の試験からの結果(表1)は、その可能性があることを示唆した;普通は攻撃されたマウスをそれぞれ100%および80%以上防御する陽性対照薬物リバビリンおよびCLDCの有効性がより低かったからである。しかし、これらの結果はTLR3−/−マウスの年齢によって影響を受けた可能性がある;この実験で、これらは野生型より明らかに小さく、おそらく数日は若かった。この説明は、2回目の試験からの結果により支持される;この場合、マウスの年齢をより厳密に一致させてそれらがすべてほぼ4週令になるようにした。実際に、これら2つのマウス系統の間に、rEAに応答してきわめて類似する防御がみられ、かつ生理食塩水プラセボグループについて類似する致死性が観察された(表2)。このようにTLR3−/−マウスがPTV感染と戦う能力が低下するということに反論するさらに他の証拠は、より高齢のマウスでもみられた。ポリ(I:C12U)に応答する能力におけるTLR3−/−マウスと野生型マウスの差をさらに解決するために実施した時間経路試験では、プラセボ処理マウス間の比較により、TLR3−/−マウスはPTV感染および疾患に対してより抵抗性である可能性が示唆された。野生型マウスはより高いレベルのALTおよび肝スコアを示し、かつ類似のピーク血清力価をもつにもかかわらずウイルスはより長期間持続し、緩徐な低下を示した;これに対し、TLR3−/−マウスにおける力価は感染3日目以後に急激に低下した。処理していないTLR3−/−マウスおよび野生型マウスにおける追加の攻撃試験は、これらの所見を裏付け、TLR3−/−マウスはPTV感染に対してそれらの野生型同等動物より以上に感受性ではないことを指摘する。
【0042】
一般に用いられているdsRNA模倣薬ポリ(I:C)に対する宿主応答の基礎となる機序に関する最近の研究は、細胞質ゾルdsRNAセンサーであるmda−5がI型IFN産生に対する主な応答経路であるという説得力のある証拠を提供している。前記の結果は、TLR3が主要なdsRNA応答機序であることを示唆する。これは抗ウイルス活性およびIFN−β誘導のために必須である。これらの所見をGitlinらの所見と比較する際、幾つかの事柄が考えられる。彼らの試験では100μgのポリ(l:C)を静脈内注射により投与し、一方、本発明の試験の処理は腹腔内経路により投与する10μgのポリ(I:C12U)に限定された。この10μg量は、PTV感染モデルにおいて最大の抗ウイルス活性を得るのに最適な投与量を決定するために設計した実験に基づいた。おそらく、dsRNAの組成、その投与経路、および接種量が、I型IFN応答にみられた相異に有意に寄与したのであろう。mda−5はポリ(l:C)型のdsRNAに対してより大きな特異性をもち、一方、TLR3はポリ(I:C12U)に対してより大きな親和性をもつと考えるのが妥当であろう。dsRNA認識において細胞タイプ特異的な相異があるらしいという点で、送達経路も重要である。dsRNAを静脈内送達することにより、その物質は有意レベルのTLR3を発現しない樹状細胞(DC)が存在する脾臓の周縁帯域に最初に到達し、これにより主にmda−5仲介によるI型IFN誘導を生じる。これに対し、腹腔内投与では、定住する浸潤性の炎症性腹腔マクロファージ集団が最初に遭遇する;ここではTLR3仲介による活性化が使われる主要な経路であると思われる。この考えは、TLR3およびTRIFを欠損する腹腔マクロファージ培養物によるdsRNA応答を調べた多数のエクスビボ試験により支持される。したがって、マクロファージが腹腔内でdsRNAに直接曝露されると、mda−5仲介によるI型IFN誘導に適したCD8陰性樹状細胞をターゲティングする直接全身送達により曝露が起きる場合にみられるものと異なる応答プロフィールが生じる。
【0043】
本発明の試験とGitlinらの試験の間にみられた相異に寄与する前記の可能性の根源のほか、dsRNAの使用量が有意に異なっていた。本発明の場合は10倍少ないdsRNAを用い、これと腹腔内送達経路の組合わせにより、全身IFN−βが相対的に低いレベルとなった。100μgの裸のdsRNAを静脈内経路で投与すると、本発明の試験でみられたものより10倍以上多いIFN−βが産生された(参照:Gitlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:8459-8464, 2006)。それにもかかわらず、より低い投与量で誘導されたIFN−βの量はPTV感染モデルにおいて防御免疫を誘導するのに十分な量より多かった。事実、1μg以下のポリ(I:C12U)物質がなお、致死的PTV攻撃に対して適切な防御を提供する;これは、ウイルス感染およびポリ(I:C12U)による潜在免疫療法に関して生理的に有意義な可能性がより大きい。ポリ(I:C)の既知の毒性を考慮すると、後者は特に重要である。おそらく、腹腔内投与したポリ(I:C12U)への曝露後にIFN−β型を産生できなかったのが、TLR3−/−マウスについての攻撃試験の結果にとって生存上の障害だったのであろう。
【0044】
本明細書中に引用した特許、特許出願、書籍、および他の刊行物の全体を援用する。
数値範囲を記載する際、その範囲内のすべての数値も記載されていると理解すべきである(たとえば1〜10は、1と10の間のあらゆる整数値、ならびにすべての中間範囲、たとえば2〜10、1〜5、および3〜8をも含む)。用語”約”は測定に関連する統計的不確実性または数量における変動性を表わすことができ、当業者が理解するように本発明の操作または本発明の特許性に影響を及ぼさない。
【0045】
特許請求の範囲およびそれらの法的均等物の範囲の意味に含まれるすべての改変および置換は、本発明の範囲に含まれる。”含む”と記載した特許請求の範囲は、他の要素をその特許請求の範囲に含むことができる;本発明は、”含む”ではなく、移行句”本質的に・・・からなる”(すなわち、実質的に本発明の操作に影響を及ぼさないならば、他の要素をその特許請求の範囲に含むことができる)または”からなる”(すなわち、本発明に通常付随する不純物または重要でない活性以外は、特許請求の範囲に列記した要素のみが許容される)を用いた特許請求の範囲によっても記載される。これら3つの移行句を特許請求の範囲の記載に使用できる。
【0046】
本明細書に記載した要素は、特許請求の範囲に明白に引用されていない限り、特許請求の範囲に記載した本発明の限定とみなすべきではないことを理解すべきである。したがって、記載した特許請求の範囲は、特許請求の範囲に読み込まれる本明細書から限定するのではなく法的保護の範囲を決定するための基礎である。対照的に、先行技術は特許請求の範囲に記載した本発明を予期させるかまたは新規性を妨げる特定の態様の範囲までは、明らかに本発明から除外される。
【0047】
さらに、特許請求の範囲にそのような関係が明らかに引用されていない限り、特許請求の範囲の限定間に特別な関係はないものとする(たとえば生成物請求項における成分の配列または製造方法請求項における工程順序は、限定であると明記されない限り、特許請求の範囲の限定ではない)。本明細書に開示する個々の要素の可能なすべての組合わせおよび並べ換えを本発明の観点とみみなす。同様に、本発明者らによる記載の一般化も本発明の一部であるとみなす。
【0048】
以上から、本発明の精神または必須の特徴から逸脱することなく本発明を他の特定の形態で実施できることは当業者に明らかであろう。本発明により提供される法的保護範囲は本明細書ではなく特許請求の範囲により指示されるので、記載した態様は説明にすぎず、限定ではないとみなすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Toll様受容体3(TLR3)のみにより仲介される自然免疫応答を開始する方法であって、少なくともポリ(I:C12U)を他のToll様受容体またはRNAヘリカーゼを活性化することなくTLR3を活性化するのに十分な量にて対象に投与することを含む方法。
【請求項2】
(i)ウイルスに感染している対象、または(ii)腫瘍細胞もしくは他のトランスフォームした細胞を保有する対象を処置する方法であって、Toll様受容体3(TLR3)に結合してそれぞれ(i)対象のウイルスによる感染症または(ii)対象における腫瘍細胞もしくは他のトランスフォームした細胞の増殖を軽減または排除するのに十分な量のポリ(I:C12U)を含む医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項3】
対象がウイルスに感染している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ウイルスがブニヤウイルスである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ウイルスがフレボウイルスである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象にウイルスまたは腫瘍に対するワクチンを接種する方法であって、(i)ウイルスまたは腫瘍に対する免疫応答を誘導するワクチンの投与、および(ii)Toll様受容体3(TLR3)に結合して対象におけるワクチンのウイルスまたは腫瘍抗原に対する免疫応答を刺激するのに十分な量のポリ(I:C12U)を含む医薬組成物を投与することを含む方法。
【請求項7】
対象にウイルスに対するワクチンを接種する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスがブニヤウイルスである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ウイルスがフレボウイルスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象がヒトである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ウイルスまたは腫瘍が、専らTLR3アゴニストとして作用するポリ(I:C12U)の唯一の作用に対して感受性である、請求項2〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ウイルスまたは腫瘍が、ポリ(I:C12U)によりインサイチューターゲットとして自然選択される抗原を発現し、その抗原に対する免疫応答が開始される、請求項2〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ポリ(I:C12U)を静脈内注入する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ポリ(I:C12U)を皮内、皮下もしくは筋肉内に注射し;鼻内もしくは気管内吸入し;または口腔咽頭曝露する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ウイルスに感染した、腫瘍を保有する、またはウイルスもしくは腫瘍に対するワクチンを接種した対象の免疫細胞上のToll様受容体3(TLR3)に結合する医薬を製造するための、一般式rI・r(C11−14U)(式中、nは4〜29の整数である)の不適正塩基対合した二本鎖リボ核酸の使用。
【請求項16】
ウイルスに感染した、腫瘍を保有する、またはウイルスもしくは腫瘍に対するワクチンを接種した対象を処置するのに使用される、無菌条件下で製造された一般式rI・r(C11−14U)(式中、nは4〜29の整数である)の不適正塩基対合した二本鎖リボ核酸。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−520284(P2010−520284A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552711(P2009−552711)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/002874
【国際公開番号】WO2008/109083
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(501083399)ユタ ステイト ユニバーシティ (1)
【氏名又は名称原語表記】UTAH STATE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】