説明

VFD駆動装置

【課題】マイクロコンピュータの処理負担を軽減して電圧安定化制御の精度を向上させることができるVFD駆動装置を提供する。
【解決手段】上限データレジスタ15U及び下限データレジスタ15Dに、VFD1のフィラメント電圧を制御する目標値について、許容範囲の上限値及び下限値を定める上限データ及び下限データをそれぞれ設定し、比較器14U及び14Dは、フィラメント電圧をA/D変換した電圧データと、レジスタ15U及び15Dに設定された上限値データ及び下限値データとをそれぞれ比較し、データ調整用の演算器22は、比較器14U及び14Dの比較結果に基づいて、DUTYレジスタ20に格納されるデータ値を調整し、CYCレジスタ21は、DUTYレジスタ20に設定されたデータ値に応じてPWM信号を生成するとVFDのフィラメントに出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VFD(Vacuum Fluorescent Display)をPWM(Pulse Width Modulation)制御により駆動して表示を行うVFD駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自発光表示を行うVFD(蛍光表示管)を駆動して表示制御を行う場合、ちらつきの抑制を図るため、フィラメント(カソード電極)に印加する電圧を安定化させることが重要である。この場合、安定化をどのようにして図るかは、電圧が印加されるフィラメントの数や、VFDの消費電力などにより様々であるが、負荷変動が電圧安定化に与える影響は大きい。そのため、一般には、マイクロコンピュータ等によりフィラメント電圧値を読み取りフィードバック制御を行うことで、PWM信号のデューティを調整するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−5713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電圧安定化の精度を向上させるには、フィードバック制御における時間分解能を向上させれば良いが、特許文献1のようにマイクロコンピュータがプログラムで制御すると処理負担が高くなり、そのマイコン(CPU)をVFDの駆動制御に専従させざるを得なくなる。その結果、マイコンのプログラムで実現することが適切である柔軟な制御を、その他の処理に振り分けることができなくなる。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、マイクロコンピュータの処理負担を軽減して、電圧安定化制御の精度を向上させることができるVFD駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載のVFD駆動装置によれば、上限データレジスタ及び下限データレジスタには、VFDのフィラメント電圧を制御する目標値について、許容範囲の上限値及び下限値を定める上限データ及び下限データがそれぞれ設定され、上限比較器及び下限比較器は、VFDのフィラメント電圧をA/D変換した電圧データと、上限データレジスタ及び下限データレジスタに設定された上限値データ及び下限値データとをそれぞれ比較する。そして、データ調整用の演算器は、上限比較器及び下限比較器による比較結果に基づいてデューティレジスタに格納されるデータ値を調整し、PWM信号生成手段は、デューティレジスタに設定されたデータ値に応じてPWM信号を生成するとVFDのフィラメントに出力する。斯様に構成すれば、フィラメント電圧のフィードバック制御をハードウエアによって行うことができ、CPUによるプログラム制御は不要となるから、CPUの処理能力を、その他の機能に大きく振り分けることが可能となる。
【0006】
請求項2記載のVFD駆動装置によれば、演算器を構成するデコード回路は、上限比較器及び下限比較器による比較結果をデコードし、マルチプレクサは、そのデコード結果に応じて、異なる値のデータを選択して出力する。そして、加算器は、マルチプレクサにより出力されるデータとデューティレジスタのデータとを加算して当該レジスタに出力する。すなわち、フィラメント電圧のA/D変換データと、上限値データ及び下限値データとの比較結果に従い、マルチプレクサが加算器に出力するデータを選択変更することで、デューティレジスタのデータ値を増減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を、例えば車両のインストルメントパネルに配置されて表示を行うVFDに適用した場合の一実施例について、図面を参照して説明する。図2は、VFDと、そのVFDを駆動するための周辺回路とを示すものである。VFD1(ドライバを含む)は、例えば7セグメントで数字を複数表示させるもので、本実施例では、スタティック駆動により表示を行うものを対象とする。電源回路2は、電源端子ACCを介して車両のバッテリ電圧(例えば12V)が供給されると、例えば10.8Vの駆動電圧を生成して出力する。
【0008】
フィラメントパルス駆動回路3は、上記駆動電圧が供給され、搬送波周波数が例えば20kHz程度のPWM信号を端子F+を介してVFD1のフィラメントに出力するもので、上記10.8Vの駆動電圧が与えられている。VFD1の端子F−は、グランドに接続されており、端子Gには10.8Vの駆動電圧が与えられている。VFDドライバ制御IC4A,4Bには、上記駆動電圧と、例えば5Vの駆動電圧VDDとが供給されている。そして、VFDドライバ制御IC4A,4Bは、入力端子DINに、制御IC5よりクロック同期でシリアルに与えられる表示データDATAを、パラレルに変換してVFD1のドライバに転送する。
【0009】
尚、VFDドライバ制御IC4Bの入力端子DINは、VFDドライバ制御IC4Aの出力端子DOUTに接続されており、VFDドライバ制御IC4A,4Bの表示データは、制御IC5により一括してシリアルに出力される。また、制御IC5は、VFDドライバ制御IC4に対してデーラッチ信号LSや、データクリア信号CLを出力するようになっている。
【0010】
制御IC5は、VFD1の表示輝度を制御するため、出力端子FPWMよりフィラメントパルス駆動回路3に対してPWM信号を出力する。また、VFD1の端子F+は、抵抗素子Rを介して制御IC5の入力端子FADINに接続されており、入力端子FADINは、コンデンサCを介してグランドに接続されている。すなわち、端子F+のフィラメント電圧(PWM信号)は、抵抗素子R及びコンデンサCにより平滑化されて制御IC5に与えられると、後述するようにA/D変換される。電源VDDと抵抗素子R及びコンデンサCの共通接続点との間には、逆方向のダイオードDが接続されている。
【0011】
図1は、制御IC5の構成を、本発明の要旨に係る部分について示すものである。制御IC5は、CPU11と、VFD1の表示制御をハードウエアで行う表示制御部12とで構成されている。表示制御部12を構成するA/Dコンバータ13は、入力端子FADINに与えられるアナログ電圧をA/D変換すると、その変換データをデータレジスタに格納する。データレジスタに格納されたデータは、比較器(マグニチュードコンパレータ)14U,14Dに出力される。
【0012】
比較器14U,14D(上限比較器,下限比較器)は、A/Dコンバータ13によりA/D変換されたデータADCと、上限データレジスタ15U,下限データレジスタ15Dに設定された上限データDU,下限データDDとの大小を比較し、その比較結果をデコード回路16に出力する。デコード回路16は、比較器14U,14Dの比較結果をデコードして、2段に接続されたマルチプレクサ17,18の切り替え制御を行う。初段のマルチプレクサ17の入力端子には、設定データ「+1」,「−1」が与えられており、次段のマルチプレクサ18の入力端子には、設定データ「0」と、マルチプレクサ17からの出力データとが与えられている。
【0013】
ここで、デコード回路16がマルチプレクサ17,18を制御するロジックは、以下のようになっている。
ADC<DD → 加算器19に「+1」出力
ADC>DU → 加算器19に「−1」出力
DD≦ADC≦DU → 加算器19に 「0」出力
マルチプレクサ18の出力データは加算器19の入力端子の一方に与えられ、加算器19の出力データは、DUTYレジスタ20に格納される。DUTYレジスタ20の出力データは、加算器19の入力端子の他方に与えられていると共に、CYCレジスタ21(PWM信号生成手段)に出力されている。
【0014】
CYCレジスタ21は、与えられる動作クロックに応じてPWM搬送波周期(50μs)に相当するカウント動作を循環的に行うカウンタや、そのカウンタの値と、DUTYレジスタ20より出力されるデータ値とを比較する比較器や、その他のロジック回路等を内蔵している。そして、上記カウンタの値が「0」からDUTYレジスタ20のデータ値に一致するまではハイレベルを出力し、上記カウンタの値が「0」からDUTYレジスタ20のデータ値に一致すると、出力レベルをロウに反転させることでPWM信号を出力する。尚、以上において、デコード回路16,マルチプレクサ17及び18,加算器19は、演算器22を構成している。
【0015】
次に、本実施例の作用について図3も参照して説明する。図3(a)は、図1のA点:制御IC5の入力端子FADINで観測される電圧波形であり、図3(b)は、制御IC5の出力端子FPWMより出力されるPWM信号のデューティ変化を示す。先ず、CPU11は、DUTYレジスタ20にVFD1の表示輝度に応じたフィラメント電圧に相当する、PWM信号のデューティ指令値を設定する。
このデューティ指令値は、ユーザの設定によるか、或いは、例えばライトスイッチのON,OFFによる時間帯の判定に応じて行う(昼間は相対的に明るく,夜間は暗くする)。また、それに伴い、上記フィラメント電圧の制御許容範囲について、上限値,下限値を規定する上限データ,下限データを、上限データレジスタ15U,下限データレジスタ15Dに設定する。
【0016】
以降は、CPU11が介在することなく、表示制御部12のハードウエアが全ての処理を行う。すなわち、上述したように、A/Dコンバータ13が入力端子FADINに与えられるフィラメント電圧をA/D変換すると、その変換データは、比較器14U,14Dにおいて、上限データ,下限データとそれぞれ比較され、その比較結果がデコード回路16に出力される。
デコード回路16は、比較器14U,14Dの比較結果に応じてマルチプレクサ17,18の切り替え制御を、上述のロジックに従って行う。すると、加算器19に与えられるデータ値が「−1」,「0」,「+1」に変化して、DUTYレジスタ20に格納されるデータ値が初期値から調整されて、PWM信号のデューティが変化する。
【0017】
図3では、DUTYレジスタ20に設定された初期値が、デューティ15%に設定された場合の変化を示す。フィラメント電圧の制御目標値は1.5V程度であり(駆動電圧10Vで計算)、制御範囲の上限値は2.0V,下限値は1.0V程度に設定されている。また、電圧2.5V以上の領域と0.5V以下の領域とは、異常電圧領域に設定されている。
【0018】
制御を開始するとフィラメント電圧は0Vから次第に上昇し、下限電圧を超えるまではそれに応じてPWMデューティも増大する。フィラメント電圧が下限電圧を超えてから上限電圧を超えるまでの間ではPWMデューティは変化せず、上限電圧を超えると、PWMデューティは最大値を示す58%程度から下降し始め、上限電圧と下限電圧との間(許容範囲)にある期間では、PWMデューティは変化しない。その状態から、再び上限電圧を超えるとPWMデューティは下降し、最終的には、初期値の15%付近に収束するようになる。
尚、対応する検出用のハードウエアを別途用意することで、フィラメント電圧が異常電圧領域に達した場合は、制御を停止するなどの異常処理を行うようにする。
【0019】
以上のように本実施例によれば、上限データレジスタ15U及び下限データレジスタ15Dに、VFD1のフィラメント電圧を制御する目標値について、許容範囲の上限値及び下限値を定める上限データ及び下限データをそれぞれ設定し、比較器14U及び14Dは、フィラメント電圧をA/D変換した電圧データと、レジスタ15U及び15Dに設定された上限値データ及び下限値データとをそれぞれ比較し、データ調整用の演算器22は、比較器14U及び14Dの比較結果に基づいてDUTYレジスタ20に格納されるデータ値を調整し、CYCレジスタ21は、DUTYレジスタ20に設定されたデータ値に応じてPWM信号を生成するとVFD1のフィラメントに出力する。
【0020】
したがって、各レジスタ15,20に対するデータの設定処理を除き、フィラメント電圧のフィードバック制御を表示制御部12のハードウエアによって行うことができ、CPU11によるプログラム制御は殆ど不要となるから、CPU11の処理能力を、その他の機能に大きく振り分けることが可能となる。
そして、演算器22を構成するデコード回路16は、比較器15U,15Dによる比較結果をデコードし、マルチプレクサ17,18は、そのデコード結果に応じて、データ値「−1」,「0」「+1」を選択して出力する。そして、加算器19は、マルチプレクサ17,18により出力されるデータとDUTYレジスタ20のデータとを加算して当該レジスタ20に出力する。したがって、マルチプレクサ17,18が加算器19に出力するデータを選択変更することで、DUTYレジスタ20のデータ値を増減させることができる。
【0021】
本発明は上記し且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形または拡張が可能である。
VFDドライバ制御ICの数は、VFDのサイズに応じて、1個でも、3個以上であっても良い。
各レジスタへのデータ設定を、ハードウエアがVFDの輝度設定条件を判断した結果に応じて行うように構成しても良い。
マルチプレクサ17,18により選択するデータの増減値は「1」に限ることなく、「2」以上の値に設定しても良い。
車両のインストルメントパネルに配置されるものに限ることなく、広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例であり、制御ICの構成を本発明の要旨に係る部分について示す図
【図2】VFDと、VFDを駆動するための周辺回路とを示す図
【図3】(a)は図1のA点で観測される電圧波形、(b)は制御ICの出力端子FPWMより出力されるPWM信号のデューティ変化を示す図
【符号の説明】
【0023】
図面中、1はVFD、5は制御IC、11はCPU、12は表示制御部、13はA/Dコンバータ、14U,14Dは比較器(上限比較器,下限比較器)、15Uは上限データレジスタ、15Dは下限データレジスタ、16はデコード回路、17,18はマルチプレクサ、19は加算器、20はDUTYレジスタ(デューティレジスタ)、21はCYCレジスタ(PWM信号生成手段)、22は演算器を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VFD(Vacuum Fluorescent Display)をPWM(Pulse Width Modulation)制御により駆動して表示を行うVFD駆動装置において、
前記VFDのフィラメント電圧をA/D変換するA/Dコンバータと、
前記フィラメント電圧の許容範囲の上限値及び下限値を定める上限データ及び下限データがそれぞれ設定される上限データレジスタ及び下限データレジスタと、
前記A/DコンバータによりA/D変換された電圧データと、前記上限データレジスタ及び下限データレジスタに設定された上限値及び下限値データとをそれぞれ比較する上限比較器及び下限比較器と、
PWM信号のデューティを設定するデータが格納されるデューティレジスタと、
前記上限比較器及び下限比較器による比較結果に基づいて、前記デューティレジスタに格納されるデータ値を調整する演算器と、
前記デューティレジスタに設定されたデータ値に応じて前記PWM信号を生成し、前記VFDのフィラメントに出力するPWM信号生成手段とを備えたことを特徴とするVFD駆動装置。
【請求項2】
前記演算器は、
前記上限比較器及び下限比較器による比較結果をデコードするデコード回路と、
このデコード回路によるデコード結果に応じて、異なる値のデータを選択して出力するマルチプレクサと、
このマルチプレクサにより出力されるデータと、前記デューティレジスタのデータとを加算して前記デューティレジスタに出力する加算器とで構成されることを特徴とする請求項1記載のVFD駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−19983(P2010−19983A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179020(P2008−179020)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】