説明

VOCガスの処理装置

【課題】微生物に対する必要最少限の量の栄養剤を補給しながら安定かつ経済的な運転を行うようにしたVOCガスの処理装置を提供すること。
【解決手段】VOCを含む排気ガスを捕集し、微生物を付着させた担体を充填した生物処理槽に導いて生物分解するもので、生物処理槽1の底部に栄養剤を含む循環水cを貯留する貯留水槽13を設けるとともに、貯留水槽13内の循環水cの栄養剤濃度を測定する濃度計測器5と、該濃度計測器5の値が所定の範囲内となるように栄養剤dを貯留水槽13に注入する栄養剤注入装置とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC(揮発性有機化合物)を含む排気ガスを生物処理する場合に、微生物に対する必要最少限の量の栄養剤を補給しながら安定かつ経済的な運転を行うようにしたVOCガスの処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、塗装工場や印刷工場、化学工場等では、塗料や接着剤、原料の化学物質に起因して、様々なVOCガスが発生するため、VOCによる悪臭公害や光化学オキシダント生成の防止対策の観点から、これらのガスを排気ガスとして捕集した後、通常、燃焼炉に導いて酸化分解処理が行われている。
【0003】
しかし、従来の燃焼法では、引火性のあるVOCを扱う工場において火気を使用しなければならず、また助燃用に重油などの燃料を必要とすることから、近年、安全で最もエネルギー効率の良い生物処理の研究が進められている。
生物処理として最も効率的な充填方式では、通常、分解微生物をセラミックやプラスチック等の担体表面に付着させ、これらの担体を所定の高さまで充填し、この充填層に微生物に必要な水分を補給しながら、VOCガスを導くことで生物分解を行う。
【0004】
一方、微生物量を保持するためには、死滅する微生物以上に増殖させる必要があるが、微生物は炭素源としてのVOC以外に、窒素やリン等の微量の栄養源を必要とするため、栄養剤を溶解させた水を散水することで微生物に供給している。
また、必要以上に微生物が増殖すると、充填した担体の隙間が減少して圧力損失が上昇し、VOCガスが流れにくくなるため、担体から微生物の一部を剥離させる必要がある。
通常、剥離した微生物や担体と担体の間に捕捉された固形物は、散水や担体充填層の洗浄運転を行うことによって底部の水槽へと落下させ、担体の目詰りを防止している。
【0005】
ところで、微生物の増殖に伴って栄養剤が消費されることから、底部の水槽に栄養剤を補給する必要があるが、水槽内には余剰汚泥状の微生物や固形物が蓄積しているため、これらを排出する目的で、通常は栄養剤に加えて補給水を供給することにより、オーバーフローさせている。
オーバーフローした排水には、本来排出すべき固形物に加えて栄養剤が含まれるため、栄養剤を無駄に消費することになる。
特に、VOC濃度が高いときには、VOC濃度に比例して栄養剤濃度を高くする必要があることから、上記排水に伴って排出される栄養剤も多くなって、ランニングコストが上昇するという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来のVOCガスの処理装置が有する問題点に鑑み、微生物に対する必要最少限の量の栄養剤を補給しながら安定かつ経済的な運転を行うようにしたVOCガスの処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のVOCガスの処理装置は、VOCを含む排気ガスを捕集し、微生物を付着させた担体を充填した生物処理槽に導いて生物分解するVOCガスの処理装置において、生物処理槽の底部に栄養剤を含む循環水を貯留する貯留水槽を設けるとともに、貯留水槽内の循環水の栄養剤濃度を測定する濃度計測器と、該濃度計測器の値が所定の範囲内となるように栄養剤を貯留水槽に注入する栄養剤注入装置とを設けたことを特徴とする。
【0008】
この場合において、貯留水槽に補給水を供給する配管と、貯留水槽の排水をオーバーフローさせる配管と、貯留水槽の循環水を曝気攪拌する曝気攪拌手段とを設け、貯留水槽内を曝気攪拌しているときに補給水の供給を行うようにすることができる。
【0009】
また、貯留水槽に補給水を供給する間、栄養剤注入装置が運転を停止するようにすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のVOCガスの処理装置によれば、VOCを含む排気ガスを捕集し、微生物を付着させた担体を充填した生物処理槽に導いて生物分解するVOCガスの処理装置において、生物処理槽の底部に栄養剤を含む循環水を貯留する貯留水槽を設けるとともに、貯留水槽内の循環水の栄養剤濃度を測定する濃度計測器と、該濃度計測器の値が所定の範囲内となるように栄養剤を貯留水槽に注入する栄養剤注入装置とを設けることから、濃度計測器と組み合わせた栄養剤注入装置の自動制御により、循環水の栄養剤濃度を所定の低い濃度に保つことができ、これにより、微生物に対する必要最少限の量の栄養剤を補給しながら安定かつ経済的な運転を行うことができる。
【0011】
この場合、貯留水槽に補給水を供給する配管と、貯留水槽の排水をオーバーフローさせる配管と、貯留水槽の循環水を曝気攪拌する曝気攪拌手段とを設け、貯留水槽内を曝気攪拌しているときに補給水の供給を行うことにより、担体から離脱し循環水中に混入する固形物を貯留水槽から効率的にオーバーフローさせることができる。
【0012】
また、貯留水槽に補給水を供給する間、栄養剤注入装置が運転を停止することにより、排水に伴って流出する栄養剤の量を最少限に抑え、栄養剤の消費によるランニングコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のVOCガスの処理装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に、本発明のVOCガスの処理装置の一実施例を示す。
このVOCガスの処理装置は、VOCを含む排気ガスを捕集し、微生物を付着させた担体を充填した生物処理槽に導いて生物分解するもので、生物処理槽1の底部に栄養剤を含む循環水cを貯留する貯留水槽13を設けるとともに、貯留水槽13内の循環水cの栄養剤濃度を測定する濃度計測器5と、該濃度計測器5の値が所定の範囲内となるように栄養剤dを貯留水槽13に注入する栄養剤注入装置とを設けている。
【0015】
塗装工場等のVOC発生源から排気ファン2によって捕集され、排出された排気ガスaは、生物処理槽1へと導かれる。
生物処理槽1には、中央部に微生物を付着させた担体を充填した充填層11、上部にはスプレーノズルを配置した散水管12が設けられ、底部の貯留水槽13から散水ポンプ3により、貯留水槽13内部の循環水cを散水管12まで送水する配管が配置されている。
【0016】
微生物付着担体は、セラミックやプラスチック、合成繊維等を様々な形状に加工したもの、あるいは発泡させたものなど、種々のものを使用することができ、特に限定されるものではないが、微生物の付着量が多く、損耗しにくい材料の担体を用いることが望ましい。
また、充填層11の高さは、担体の重量や通気性、生物付着量等を考慮して所望の高さに設定されるが、一段に限らず、二段、三段に積重ねることも可能である。
【0017】
一方、貯留水槽13には、曝気攪拌手段が設けられ、ブロア4から曝気用の空気が散気管14に送気されるとともに、貯留水槽13に新たな補給水eを供給する配管と、排水fのオーバーフロー配管とが設けられている。
さらに、貯留水槽13には、循環水cに含まれるアンモニアイオン又はリン酸イオンの濃度を測定する濃度計測器5が設けられ、栄養剤注入装置の制御装置6に測定値を出力するよう構成されている。
なお、濃度計測器5の方式は特に限定されるものではなく、連続的又は間欠的にアンモニアイオン又はリン酸イオンを自動で測定できる濃度計測器を使用する。
また、生物処理槽1の近傍には、栄養剤注入装置として、注入ポンプ7と栄養剤貯留タンク8、及び栄養剤貯留タンク8から生物処理槽1の貯留水槽13へと栄養剤dを注入する配管が設けられている。
【0018】
次に、本実施例の作用について説明する。
図1において、排気ファン2により生物処理槽1の充填層11の下部に送気された排気ガスa中のVOCは、充填層の担体の間隙を流れる間に、担体表面の水分中に徐々に溶解し、続いて担体に付着した微生物により、通常、炭酸ガスと水に分解される。
そのため、充填層11内を上部へと流れるにつれてVOC濃度は低下し、微生物量や接触時間に対応した濃度まで除去されて、処理ガスbとして槽外に排出される。
このとき、炭素源としてのVOC以外に、窒素やリン等の微量の栄養源を取込みながら分解微生物が増殖する。
【0019】
また、VOCが微生物に取込まれる前に、VOCを水分中に溶解させる必要があることから、担体が常時水に濡れた状態を保つ必要がある。
そこで、1〜3時間程度の間隔で散水ポンプ3を稼動し、栄養剤dを含む循環水cを散水管12から散水する。
循環水cに含まれる栄養剤は、微生物によるVOCの分解及び微生物の増殖に伴って消費されるため、栄養剤注入装置により補給する。
【0020】
本実施例では、窒素としてアンモニアイオン、リンとしてリン酸イオンを所定の濃度で溶解させた栄養剤の液を予め調製して、栄養剤貯留タンク8に貯留しておき、濃度計測器5による測定値が所定の値Clまで低下したときに、制御装置6からの指令により注入ポンプ7を運転し、上記栄養剤dを生物処理槽底部の貯留水槽13へと導く。
栄養剤の注入により、濃度計測器5の値が上昇し、所定の濃度Chに達した時点で、注入ポンプ7を停止し、これをくり返す。
なお、本制御を適切に行うには、貯留水槽13内の濃度を均一に保つ必要があるため、このような注入制御を行う時間帯には、攪拌を行う必要があり、ブロアを運転して曝気している時間帯に行うものとする。
ブロア4による曝気は、貯留水槽13内の攪拌と循環水に含まれる微生物への酸素供給の2つの機能を有する。酸素供給の観点からは、ブロア4は連続運転することが好ましいが、攪拌の面からは必ずしも連続運転する必要はない。
したがって、ブロアを停止する場合は、栄養剤注入装置の運転制御も停止することが望ましい。
【0021】
一方、分解微生物が担体に十分蔓延した状態からは、増殖した微生物によって担体の間隙が塞がり、圧力損失が上昇して排気ガスが流れにくくなるため、定期的に担体表面の微生物の余剰分を除去することで担体間隙の目詰りを防止する。
そのための方法は、図では省略しているが、担体の充填層11内に機械的な攪拌装置を設けたり、充填層内にノズルを設けて圧力水を噴射したり、あるいは充填層に底板を設けて水を所定の水位まで満たして溜洗いするなどの構造とする必要がある。
【0022】
これにより、担体から剥離した微生物や、担体間隙に捕捉された排気ガス中の粉塵等固形物は、貯留水槽へと落下する。
循環水c中の微生物濃度が上昇すると、微生物によって消費される酸素量が増加し、酸素不足による腐敗が生じるため、このような微生物等の固形物は、新たに補給水eを供給することによりオーバーフローさせる。
そのとき、ブロア4を運転して曝気攪拌し、微生物や固形物を浮遊させながら効率的にオーバーフローさせる必要がある。
また、この間は、補給水eの供給により栄養剤が薄められて、濃度計測器5の測定値が低下するため、前記栄養剤の注入制御が作動していると、自動で栄養剤が貯留水槽13へと注入され、一部がオーバーフローして無駄に排出されることから、補給水eを供給する時間帯は栄養剤注入装置の運転を停止しておく。
【0023】
以上により、本実施例のVOCガスの処理装置は、VOCを含む排気ガスを捕集し、微生物を付着させた担体を充填した生物処理槽に導いて生物分解するVOCガスの処理装置において、生物処理槽1の底部に栄養剤を含む循環水cを貯留する貯留水槽13を設けるとともに、貯留水槽13内の循環水cの栄養剤濃度を測定する濃度計測器5と、該濃度計測器5の値が所定の範囲内となるように栄養剤dを貯留水槽13に注入する栄養剤注入装置とを設けることから、濃度計測器5と組み合わせた栄養剤注入装置の自動制御により、循環水cの栄養剤濃度を所定の低い濃度に保つことができ、これにより、微生物に対する必要最少限の量の栄養剤dを補給しながら安定かつ経済的な運転を行うことができる。
【0024】
この場合、貯留水槽13に補給水eを供給する配管と、貯留水槽13の排水fをオーバーフローさせる配管と、貯留水槽13の循環水cを曝気攪拌する曝気攪拌手段とを設け、貯留水槽内を曝気攪拌しているときに補給水eの供給を行うことにより、担体から離脱し循環水c中に混入する固形物を貯留水槽13から効率的にオーバーフローさせることができる。
【0025】
また、貯留水槽13に補給水eを供給する間、栄養剤注入装置が運転を停止することにより、排水に伴って流出する栄養剤dの量を最少限に抑え、栄養剤dの消費によるランニングコストを低減することができる。
【0026】
以上、本発明のVOCガスの処理装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のVOCガスの処理装置は、VOCを含む排気ガスを微生物で処理するに際し、微生物に対する必要最少限の量の栄養剤を補給しながら安定かつ経済的な運転を行えるという特性を有していることから、微生物によるVOCガスの処理装置の用途に広く好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のVOCガスの処理装置の一実施例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0029】
1 生物処理槽
2 排気ファン
3 散水ポンプ
4 ブロア
5 濃度計測器
6 制御装置
7 栄養剤注入ポンプ
8 栄養剤貯留タンク
11 充填層
12 散水管
13 貯留水槽
14 散気管
a 排気ガス
b 処理ガス
c 循環水
d 栄養剤
e 補給水
f 排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOCを含む排気ガスを捕集し、微生物を付着させた担体を充填した生物処理槽に導いて生物分解するVOCガスの処理装置において、生物処理槽の底部に栄養剤を含む循環水を貯留する貯留水槽を設けるとともに、貯留水槽内の循環水の栄養剤濃度を測定する濃度計測器と、該濃度計測器の値が所定の範囲内となるように栄養剤を貯留水槽に注入する栄養剤注入装置とを設けたことを特徴とするVOCガスの処理装置。
【請求項2】
貯留水槽に補給水を供給する配管と、貯留水槽の排水をオーバーフローさせる配管と、貯留水槽の循環水を曝気攪拌する曝気攪拌手段とを設け、貯留水槽内を曝気攪拌しているときに補給水の供給を行うようにしたことを特徴とする請求項1記載のVOCガスの処理装置。
【請求項3】
貯留水槽に補給水を供給する間、栄養剤注入装置が運転を停止するようにしたことを特徴とする請求項2記載のVOCガスの処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−114168(P2008−114168A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300349(P2006−300349)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】