説明

X線を発生させるためのシステム及び方法

【課題】電子ビームの高速変調を可能としながら陰極からの電子ビームの取り出しを低電圧で高効率とする。
【解決手段】X線管(200)は、電子ビーム(208)を発生する熱電子陰極(206)と、熱電子陰極(206)から放出された電子ビーム(208)が入射したときにX線を発生させるターゲットアセンブリ(210)と、熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)の間に加速電界を確立するために熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)にまたがる出力電圧を確立する高電圧供給ユニット(212)と、熱電子陰極(206)の表面位置に加えられる電界を低下させる電圧で動作するメッシュグリッド(214)とを備える。メッシュグリッド(214)の位置の電圧は熱電子陰極(206)の位置の電圧を基準として負にバイアスされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的には診断用撮像システムに関し、またさらに詳細には撮像システムで使用されるX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線発生用システムは典型的には、封止されたハウジング内に電子発生用の陰極と陽極アセンブリとを含む。陰極は、陽極アセンブリに向けて導かれる電子ストリームすなわち電子流を提供する。この集束性の電子ビームは、陽極・陰極間の真空ギャップ全体にわたって加速された後、陽極に衝突してX線を発生させる。電子ビームが陽極に当たる箇所には高いパワー密度が発生するため、陽極アセンブリを回転させることが望ましい。多くのX線管はしたがって、焦点位置に発生する熱を分散させるための回転陽極構造を含む。
【0003】
コンピュータ断層で使用するX線管の要件は、コンピュータ断層に対する可能性が多岐にわたるのに伴って絶えず大きくなっている。最近のコンピュータ断層システムでは、例えば線量変調の最適化あるいは平衡光子フロー(フラックス)による2種類のエネルギーでの動作の実施を可能とするために、そのX線流の高速での変調を可能とさせたX線管が必要である。
【0004】
従来技術で記載されている高パワーの撮像用X線管に関連する限界の1つは、高速のグリッド制御または電子流変調が利用不可能であることである。電子ビーム流を変化させるために、従来技術において示唆される方法では、陰極内のフィラメント温度を調整している。しかしこれは処理が低速であり、また温度が変化するタイムスケールがミリ秒のレンジである。このため、電子流変調の要件がマイクロ秒のスパンにあるようなビュー単位のフレーム変化に追従することができない。
【0005】
従来技術で記載されている別の方法は、放出量を変化させるために陰極の反対側にアパーチャプレートを配置させることが不可欠である。アパーチャプレート上の電圧変化は、陰極からの放出に影響を与える。しかし、この方法に関連した問題の1つは、放出流を変調させたときの焦点変化である。メッシュグリッドを用いることによれば、焦点サイズの変化を低減させることが可能である。グリッドの電子放出に対するメッシュは例えば、マイクロ波増幅器で使用されている。メッシュグリッドは電子ビームの経路を制御しビームを集束させる。メッシュグリッドを追加しメッシュグリッド位置に加えられるポテンシャルを変更することにより陰極からの放出電子を制御することによって時間応答が大幅に改善される。
【0006】
メッシュグリッドは典型的には、両寸法方向でメッシュ間隔が均一な2次元高透明性(high transparency)グリッドを備える。こうしたメッシュグリッドを設けると、メッシュ透明性が増大することによってビーム電子に関する妨害が最小化される。しかしビーム電子は、ビーム断面全体にわたってメッシュグリッドと相互作用することがある。これには、ビームの損失、ビームの劣化及びメッシュの劣化という望ましくない効果がある。
【0007】
さらに、利用されるメッシュグリッドは典型的には、陰極を基準として正にバイアスされる。このため陰極から放出される電子がメッシュグリッドに到達し、電子衝突のためにメッシュグリッドを劣化させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第20090003529号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、電子ビームを十分に集束させてターゲット上に使用可能な焦点を形成するようにビーム流の高速の変調を依然として可能にする一方で陰極からの電子ビームの取り出しに必要な電圧を最小化するような装置及び方法があることが望ましい。特に、効率のよい低電圧の取り出し及びビーム集束を可能とさせるメッシュグリッドがあることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上述の短所、欠点及び問題に対して対処しており、このことは明細書の以下を読みかつ理解することによって了解が得られよう。
【0011】
一実施形態では、撮像システム用のX線管を提供する。本X線管は、電子ビームを発生するように構成された少なくとも1つの熱電子陰極と、熱電子陰極から放出された電子ビームが入射したときにX線を発生するように構成されたターゲットアセンブリと、熱電子陰極とターゲットアセンブリの間に加速電界を確立するために熱電子陰極とターゲットアセンブリにまたがる出力電圧を確立するための高電圧供給ユニットと、熱電子陰極とターゲットアセンブリの間に配置されている、熱電子陰極の表面位置の電界を低下させるような電圧で動作するように構成されたメッシュグリッドと、を備える。さらに、メッシュグリッドの位置の電圧は熱電子陰極の位置の電圧を基準として本質的に負にバイアスされている。
【0012】
別の実施形態では、CTシステムを提供する。本CTシステムは、スキャン対象物を受け容れるための開口部を有する回転自在のガントリと、ガントリに結合されると共に開口部を通ってX線を投射するように構成されたX線管と、ガントリに結合されると共にスキャン対象物を通過するX線を受け取るように位置決めされた検出器アセンブリと、を備える。このX線管は、電子ビームを発生するように構成された少なくとも1つの熱電子陰極と、熱電子陰極から放出された電子ビームが入射したときにX線を発生するように構成されたターゲットアセンブリと、熱電子陰極とターゲットアセンブリの間に加速電界を確立するために熱電子陰極とターゲットアセンブリにまたがる出力電圧を確立するための高電圧供給ユニットと、熱電子陰極とターゲットアセンブリの間に配置されている、熱電子陰極の表面位置の電界を増強させるような電圧で動作するように構成されたメッシュグリッドと、を備える。さらに、メッシュグリッドの位置の電圧は熱電子陰極の位置の電圧を基準として本質的に負にバイアスされている。
【0013】
さらに別の実施形態では、X線撮像の方法を提供する。本方法は、熱電子陰極から複数の電子を取り出して電子ビームを形成するように熱電子陰極とメッシュグリッドをこれらの間にグリッド・陰極間電圧が支持されるように配列させるステップと、電子ビームのアンペア値を制御するためにグリッド・陰極間電圧を変調するステップと、X線が対象に向けて放出されるように位置決めされたターゲットアセンブリに向けて電子ビームを加速させそこからX線を発生させるように熱電子陰極とターゲットアセンブリにまたがる出力電圧を確立するステップと、対象を通過した後のX線の減衰量を示す1組の撮像データを受け取るステップと、受け取った撮像データに基づいて対象の画像を再構成するステップと、を含む。さらに、メッシュグリッドの位置の電圧は熱電子陰極の位置の電圧を基準として本質的に負にバイアスされている。
【0014】
本明細書では、様々な趣旨によるシステム及び方法について記載している。この要約に記載した態様及び利点以外に、添付の図面を参照しかつ以下の詳細な説明を読むことによって別の態様及び利点も明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に関して示したCTシステムの概要図である。
【図2】一実施形態に関して示したX線管の概要図である。
【図3】一実施形態に関して示した熱電子陰極とメッシュグリッドの配列に関する前面概要図及び上面概要図である。
【図4】メッシュグリッドについて異なる3つの実施形態に関して示した概要図である。
【図5】様々なビームエネルギーに関する陰極流放出を表したグラフである。
【図6】一実施形態に関して示したX線撮像の方法を表した流れ図である。
【図7】図6に示したグリッド・陰極間電圧を変調する方法を表した流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の詳細な説明では、本明細書の一部を形成すると共に、実施可能な特定の実施形態を一例として図示している添付の図面を参照することにする。これらの実施形態は、当業者が実施形態を実現できるように十分に詳細に記載しており、さらにこれら実施形態の趣旨を逸脱することなく、別の実施形態が利用されることがあり得ること、並びに論理的、機械的、電気的その他の変更が実施されることがあり得ること、を理解すべきである。したがって以下の詳細な説明は限定の意味と取るべきではない。
【0017】
例えば、医学診断では放射線写真画像の収集のため、またコンピュータ断層(CT)の場合では身体の内部画像の収集のために、X線放射を発生させるデバイスが使用されている。
【0018】
本発明の動作環境について64スライスのコンピュータ断層(CT)システムに関連して記載することにする。「第3世代」CTスキャナに関連して説明しているが、本発明は別のCTシステムにおいても等しく適用可能である。さらに、その内部に電子銃を実現している別の用途で使用するためにも本発明が等しく適用可能であることは当業者であれば理解されよう。
【0019】
図1を参照すると、コンピュータ断層(CT)撮像システム100について「第3世代」CTスキャナに特徴的なガントリ102を含むように表している。ガントリ102には、その反対側にある検出器アセンブリに向けてX線ビームを投射するX線管104が結合されている。検出器アセンブリは複数の検出器106及びデータ収集システム(DAS)108によって形成されている。複数の検出器106は患者110を通過して投射されたX線を検知しており、またDAS108はそのデータを後続の処理のためにディジタル信号に変換している。各検出器106は、入射するX線ビームの強度(したがって、患者110内を通過した際に減衰を受けたビームの強度)を示すアナログ電気信号を発生させている。X線投影データを収集するスキャンの間に、ガントリ102及びこれに装着された構成要素は回転中心の周りで回転する。
【0020】
画像再構成装置112は、サンプリングされディジタル化されたX線データをDAS108から受け取り高速で再構成を実行する。再構成された画像はコンピュータ114に入力として与えられ、コンピュータ114によりその画像は大容量記憶装置内に保存される。
【0021】
引き続き図1を参照し、またさらにX線管200(図1の104と同じもの)の構成要素を断面像としてその概略を表している図2を参照すると、X線管200は、電子ビーム208を発生するように構成された少なくとも1つの熱電子陰極206と、熱電子陰極206から放出された電子ビーム208が入射したときにX線を発生するように構成されたターゲットアセンブリ210と、を囲繞する真空ギャップ204を有するハウジング202を備える。X線管200はさらに、熱電子陰極206とターゲットアセンブリ210の間に加速電界が確立されるように熱電子陰極206とターゲットアセンブリ210にまたがる出力電圧を確立するための高電圧供給ユニット212を備える。
【0022】
熱電子陰極206(本明細書では陰極とも呼ぶ)は、熱電子陰極206の陰極カップ(cup)内に配列させたワイヤ直径が8〜10milの複数のコイル巻き線を有する細長いワイヤフィラメントを備える。熱電子陰極206は、高電圧供給ユニット212により伝達される入力電流に応答して熱電子放出により電子を発生させる。熱電子陰極206は、分離変成器及び絶縁用スタンドオフ(図示せず)によってX線管200の他の要素から電気的に分離させることがある。熱電子陰極206が発生させた電子ビーム208は、一体となって電子ビーム流(本明細書では陰極流、放出流、電子流などとも呼ぶ)を発生させる。
【0023】
CTその他のX線式の診断撮像様式にとって十分な強度をもつX線ビームを発生させるために、X線管200の陰極アセンブリは概ね1アンペアの電子流を提供するのが一般的である。陰極206が放出した電子は、X線管200の真空ギャップ204を横断してターゲットアセンブリ210に至るまで概ね20〜150kVpの電圧によって加速される。熱電子放出体からの電子放出に必要となる高温を達成するためには例えば、熱電子放出体の両端に約10Vのヒータ電圧を印加し、熱電子陰極206内に約7アンペアのヒータ電流を発生させる。したがって、陰極206の位置に加えられるヒータ電圧及び/またはヒータ電流を調整することによって熱電子放出体から放出される電子ビーム流が調節される。
【0024】
ヒータ電流の変化に由来する電子ビーム流の時間応答は概ねミリ秒単位である。この時間応答を約1000倍に改善させるには、ターゲットアセンブリ210と熱電子陰極206の間にワイヤ式メッシュ214が配置される。メッシュグリッド214は熱電子陰極206から所望の距離にある開口部全体にわたって延びている。メッシュグリッド214には熱電子陰極206と比べて比較的小さい負電圧が加えられ、これを用いて熱電子放出体から放出される電子ビーム流が抑制される。この抑制電圧は数マイクロ秒以内で調整することが可能である。
【0025】
メッシュグリッド214は様々な形状や構成とすることが可能であり、このことは図3に示したメッシュグリッド214の様々な例から理解できよう。メッシュグリッド214は、支持構造(図示せず)内部に位置決めされた複数のグリッド部材302を備える。グリッド部材302は金属製のワイヤをすることができる。メッシュグリッド214に利用されるワイヤ302はかなり丈夫にすることができる。例えば典型的な熱電子陰極206では、コイル巻き線の直径を約0.25mmのレンジとし、またメッシュグリッド214のワイヤの直径を約0.1mmのレンジとすることが可能である。メッシュグリッド214は、製造性をよくできるように熱電子陰極206から約0.1mm〜1mmのレンジの巨視的距離に配置させることができる。さらに詳細にはメッシュグリッド214は熱電子陰極206から約0.25mm〜0.5mmのレンジの距離に配置させている。
【0026】
複数のワイヤ302は、メッシュグリッド214内にその内部を電子ビーム208の形で電子を通過させる複数の開口部が形成されるように互いからある所望の距離だけ離した間隔としている。しかしメッシュグリッド214を形成する複数のワイヤ302はさらに、電子ビーム208からのビーム流を妨害しており、これがビーム品質の劣化を生じさせると共にターゲットアセンブリ210上での使用可能な焦点の形成にマイナスの影響を生じさせる。すなわち、電子ビーム208のメッシュグリッド214との衝突に引き続いて電子ビーム208のビーム放出が増大することによって、電子ビーム208がターゲットアセンブリ210上で小さいスポットに集束することが妨げられる。
【0027】
メッシュグリッド214により妨害を受けるビーム流の量をさらに低下させるために、メッシュグリッド214は1次元グリッドとして製作される。すなわちメッシュグリッド214の形成に使用するワイヤ302を単一方向で向きを平行に整列させている。1次元メッシュグリッド214のグリッド部材302は、電子ビーム特性を制御できるような所定の形状に機械加工される。これによって、1次元メッシュグリッド214は熱電子陰極206から受け取った電子ビーム208を所望のスポットサイズに集束させることができる。複数のワイヤ302の各々の幅並びにワイヤ302同士の間隔は様々にすることが可能であるが、一実施形態ではそのワイヤ幅を0.05mmとし各ワイヤ302同士の間隔を0.38mmとしている。
【0028】
図3に示すようにメッシュグリッド214は、非円形とし、長さ対幅のアスペクト比が大きい本質的に矩形のグリッドとして形成している。例えばメッシュグリッド214は、幅が2mmかつ長さが8mmとするようにした2×8mmのアスペクト比を有することがある。平行に整列したワイヤ302は、高アスペクト比のメッシュグリッド214の幅を横断して延びるように位置決めされている。ワイヤ302を1次元に配列させることによって、妨害を受けることなくメッシュグリッド214を通過するビーム電子の百分率をより大きくすることが可能となると共に、複数のワイヤ302と平行な方向での電子ビーム208の劣化を最小とすることができる。すなわち1次元グリッドによれば、複数のワイヤ302と平行な方向での電子ビーム208の圧縮を大きくすること、並びに電子ビーム208を所望のスポットサイズに集束させることが可能となる。
【0029】
別の実施形態では図3に示すようにメッシュグリッド214には、平行に位置決めした複数のワイヤ302と直交する向きにした1つまたは複数のクロスワイヤ304(すなわち、支持ワイヤ)を含めることができる。1つまたは複数のクロスワイヤ304は、高アスペクト比メッシュグリッド214の長さ全体にわたって延びると共に、メッシュグリッド214の機械的強度及び熱的安定性を提供しかつ改善する働きをする。クロスワイヤ304の数は様々とし得るが、クロスワイヤ304の数が多いほどビーム品質はそれだけ大きく損なわれることになる。実現させるクロスワイヤ304の数を選択して1次元メッシュグリッド214にするときに、機械的強度とビーム品質の間のトレードオフを検証することが可能である。しかしビーム品質に関しては、図3(a)に示した1次元メッシュがビーム焦点サイズ変化に与える影響がより小さいことに留意されたい。
【0030】
一実施形態では本発明によって、メッシュグリッド214の幾何学構成にあたるグリッド幾何学構成を熱電子陰極206の幾何学構成と共形にして提供している。図4に示すように熱電子陰極206は複数のマクロ放出体(macro−emitter)402を備える。一実施形態では、複数のマクロ放出体402をメッシュグリッド214内の開口部と整列させることによってメッシュグリッド214により妨害を受けるビーム流の量を低減させ、またビーム品質の劣化を最小限にすることができる。換言するとメッシュグリッド214は、熱電子陰極206の連続するコイル巻き線間のギャップと整列したワイヤ302を備える。連続するコイル巻き線の間の空間では、コイル巻き線を横断したすぐのところの電子ビーム208の放出と比べて記録される電子ビーム208放出が比較的少なくなることが期待される。こうした整列によってメッシュグリッド214を通過する電子のうちのかなり大きな百分率の電子の通過が容易になる。
【0031】
さらに、メッシュグリッド214に利用されるワイヤ302及び304の直径を電子衝突を大幅に増加させることなく増大させることが可能である。したがってメッシュグリッド214をより堅牢にすることが可能である。したがって、電子ビーム208との相互作用が最小となるため、共形性のメッシュ設計によってより良好な電子ビーム品質が可能となる。さらに、メッシュグリッド214に利用されるワイヤ302及び304の直径が大きいことによって良好な堅牢性が保証される。
【0032】
別の実施形態では、メッシュグリッド214による電子ビーム流の妨害の結果として生じるビーム劣化を低減させる別の技法について記載する。本技法では、メッシュグリッド214を熱電子陰極206を基準として概ねゼロまたは負の電圧で動作させるようなビームオプティックス(beam optics)の設計について記載している。こうした状況では、メッシュグリッド214上に預託される電子ビームエネルギーはかなり小さい。
【0033】
したがって続いて図1及び図2を参照すると、X線管200はさらにメッシュグリッド214と熱電子陰極206の間に結合されたこれらの間に電圧差を確立するためのグリッド・陰極間電圧供給ユニット216を備える。メッシュグリッド214の位置の電圧の振幅は時間に関する所定の関数であり、熱電子陰極206の位置の電圧を基準として約+100V〜−5000Vの範囲に維持される。さらにグリッド・陰極間電圧供給ユニット216は、メッシュグリッド214に加えられた電圧の振幅の時間変動を制御するように構成されている。
【0034】
一実施形態ではグリッド・陰極間電圧供給ユニット216は、メッシュグリッド214の位置の電圧を負の高ポテンシャルに維持し、かつ熱電子陰極206の位置の電圧を実質的に電気接地ポテンシャルに維持するように構成されている。
【0035】
一実施形態では、メッシュグリッド214の位置の電圧を一連のパルスとすることができる。したがって陰極206から放出される電子ビーム流も同様に一連のパルスとすることができる。メッシュグリッド214の位置の電圧の振幅が時間に対する所定の関数であるため、時間や電圧のデューティサイクルに何らかの変動があれば熱電子陰極206から放出される電子ビーム流に変調を生じさせることができる。平均電流はピーク電流にデューティサイクルを掛け算したものになる。したがってデューティサイクルを変化させると平均電流も比例して変動する。したがってメッシュグリッド214の位置の電圧を表す一連のパルスのデューティサイクルを変化させて平均電子ビーム流を変調させることができる。
【0036】
メッシュグリッド214の位置の電圧の時間変動を制御するためにX線管200はさらに、グリッド・陰極間電圧供給ユニット216に結合させた入力制御ユニット218を備える。入力制御ユニット218は、熱電子陰極206とメッシュグリッド214の間の電圧差の大きさを選択的に変動させ、熱電子陰極206からターゲットアセンブリ210への電子の流れを所定の値に維持するように構成されている。電子ビーム流に関する計測及びフィードバックの取得のためにX線管200はさらに、入力制御ユニット218に結合させた制御信号発生ユニット219を備える。制御信号発生ユニット219は、熱電子陰極206からターゲットアセンブリ210への電子流の流れの大きさを表す制御信号を発生するように構成される。制御信号発生ユニット219の内部では、熱電子陰極206が放出させた電子ビーム流を、熱電子陰極206と直列に位置決めした検知用抵抗器(図示せず)によって検知し、これによりメッシュグリッド214の位置に加えられる電圧を調節させるために計測されるあるいは入力制御ユニット218にフィードバックされる制御信号を発生させることがある。
【0037】
図5は、2種類のビームエネルギーについてメッシュグリッド214の位置の電圧変化に対応するシミュレーションの陰極流変化を表している。カーブ502は80kVに相当するビームエネルギーに対応する陰極流放出を表しており、またカーブ504は140kVに相当するビームエネルギーに対応する陰極流放出を表している。このシミュレーションによって、メッシュグリッド214の位置の電圧を制御することにより放出流を有効に変調できることが分かる。陰極流放出はメッシュグリッド214の位置の電圧が熱電子陰極206の位置の電圧と概ね等しいときに最大となる。しかし、メッシュグリッド214の位置の電圧が熱電子陰極206の位置の電圧に対して負の方向に動くと、陰極206から放出される陰極流は減少する。
【0038】
メッシュグリッド214は熱電子陰極206にごく接近しているため、比較的小さい(数百ボルトのレンジの)負バイアス電圧を印加することにより電子ビーム流を効率よく制御し、これにより電子ビーム流を非常に急速に(マイクロ秒のレンジで)変化させることが可能である。
【0039】
上述した技法を参照すると、メッシュグリッド214の位置に加えられる電圧に関するデューティサイクル変調あるいは時間変動によって熱電子陰極206の位置に発生する電子ビーム流に変調が生じる。したがって、メッシュグリッド214の位置に加えられる電圧に対する適当な制御によって、パルス幅を可変としたパルス式の電子ビーム放出を実現することができる。熱電子陰極206により放出される電子ビーム流の強度の変調によって患者110に付与されるX線線量に線量変調が生じる。
【0040】
本明細書に記載したような患者110に付与されるX線に関する線量変調の技法によれば、患者110に対するX線照射制限に関連するコンピュータ断層撮像における懸念が軽減される。医用撮像用途では、患者110に付与されるX線線量は調節性の安全パラメータの1つである。撮像スキャンが身体の様々なX線吸収密度を有する領域を通過するに連れて、各アキシャルスライスまたは各ヘリカル回転ごとに一定の放射線量が維持されるようにそのX線強度ビームが調整される。空港のセキュリティスキャンでは、様々なタイプの荷物の様々なX線吸収特性に対応するようにそのX線強度を調整できると有利である。したがって本明細書に記載した線量変調技法によれば発生させるX線の用途種別に基づいたX線強度の調整が可能となる。
【0041】
さらに、熱電子陰極流を変化させることで電子ビーム208の集束の大幅な変化や焦点サイズの大幅な変更がないので有利である。陰極206に対するメッシュグリッド214の接近並びにメッシュグリッド214の幾何学構成によって焦点劣化を伴わずに陰極206の位置における電場の効率よい変調が容易になる。したがって本明細書に記載した技法によれば、すべての中間的な陰極流レベルに関して焦点特性を一定に維持する一方でフル放出からの電子ビーム流を下げて完全なカットオフに至らせるような変調が可能となる。
【0042】
さらに図2を参照すると、ビーム揺動(wobble)を有効にするためにX線管200は、熱電子陰極206の相対する側に配列させた1つまたは複数の集束電極220を含む。揺動に関する2つの焦点に対応した2つの経路間で電子ビーム208をシフトさせるような電子ビーム208に直交する切り替え式の静電気力が発生するように、集束電極220は交替する極性によるバイアスを受ける。別法として、ビームを切り替え式にステアリングするために直角な電磁気力を用いることが可能である。集束電極220はメッシュグリッド214と協同して電子ビーム208がターゲットアセンブリ210に向かって進むに連れて電子ビーム208に対するグリッド制御と集束を同時に行うことができる。
【0043】
一実施形態では、第1対の集束電極220により焦点の長さを制御しかつ第2対の集束電極220によって焦点の幅を制御している。電子ビーム流に対する変調の間に、集束電極220の位置に加えられる電圧もまた、焦点の幅及び長さの制御のために焦点サイズ変化を補償するように変化させる。
【0044】
別の実施形態では図6に示すように、X線撮像の方法600を提供する。方法600は、熱電子陰極206から複数の電子を取り出し電子ビーム208を形成するように熱電子陰極206とメッシュグリッド214をこれらの間でグリッド・陰極間電圧を支持するように配列させるステップ602を含む。グリッド・陰極間電圧は、グリッド・陰極間電圧供給ユニット216によってメッシュグリッド214と熱電子陰極206の間に加えられる電圧差である。
【0045】
方法600はさらに、電子ビーム208のアンペア値を制御するためにグリッド・陰極間電圧を変調するステップ604と、患者110に向けてX線が放出されるように位置決めされたターゲットアセンブリ210に向けて電子ビーム208を加速させてX線を発生させるために熱電子陰極206とターゲットアセンブリ210にまたがる出力電圧を確立するステップ606と、患者110を通過させた後のX線の減衰量を示す1組の撮像データを受け取るステップ608と、受け取った撮像データに基づいて患者110の画像を再構成するステップ610と、を含む。さらにメッシュグリッド214の位置の電圧は熱電子陰極206の位置の電圧を基準として負にバイアスされている。
【0046】
ステップ604について図7に関連してさらに説明することにする。図7に示すように、グリッド・陰極間電圧を変調する方法(ステップ604)は、熱電子陰極206からターゲットアセンブリ210への電子流の流れの大きさを表す制御信号を発生させるステップ702と、熱電子陰極206とメッシュグリッド214の間の電圧差の大きさを選択的に変更し電子流の流れを所定の値に維持するステップ704と、を含む。
【0047】
一実施形態では方法600はさらに、グリッド・陰極間電圧の変調の間において電子ビーム208の焦点が所定のサイズと所定の形状のうちの一方を有するように電子ビーム208が成形されるように1対または複数対の集束電極220を構成することを含む。
【0048】
システム100及び/または方法600の一実現形態は一例では、電子構成要素、ハードウェア構成要素、及び/またはコンピュータソフトウェア構成要素のうちの1つまたは幾つかなどの複数の構成要素を備える。システム100及び/または方法600の一実現形態では、こうした数多くの構成要素を組み合わせたり分離させたりすることができる。システム100及び/または方法600の一実現形態の例示的な一構成要素は、多くのプログラミング言語のうちのいずれかによって記述または実現させたコンピュータ命令の組及び/またはシリーズを利用するかつ/または備えることは当業者であれば理解されよう。
【0049】
開示したシステム100及び/または方法600の技術的貢献は、多重エネルギー撮像源を用いて複数のエネルギー範囲で撮像データを収集するコンピュータ実現によるシステム及び方法が提供されることである。
【0050】
本明細書に記載したシステム100及び方法600はCT撮像用途に供することが可能であるという多くの潜在的な利点が存在する。これらについて以下で一覧することにする。
【0051】
本明細書に記載したシステム及び方法は、CTシステムに対して電流(mA)や電圧(kV)の高速での(ビューごとの)切り替えを可能とさせることによって高パワーの医用CTX線管においてCT用途向けの高速変調電子ビーム流を実現するために使用することができる。この高速mA/kV変調によって画質の改善が容易になると共に、エネルギー弁別検出器などの用途が可能となる。エネルギー弁別検出器は、エネルギー感応性の画像の取得が可能であるスペクトルCT用途において利用される。この用途では、X線管で発生させたビーム流は、検出器に至る光子率が最適値に調整されるように絶えず調整されている。
【0052】
高速mA変調式X線管は、同じ画質を実現しながら患者に付与されるX線の全体線量を低減させるのに役立つ。こうした線量低減は、撮像システムが線量に敏感な臓器の周囲でスキャンを実行する際に望ましいものである。こうした状況では、眼などの決定臓器に対する過剰な照射を回避するために、付与されるX線線量を慎重に制御しなければならない。高速mA変調では、こうした臓器がスキャン範囲内にあるときに付与するX線線量を微細調整することが可能である。本明細書に記載した方法によれば患者に付与されるX線の全体線量、並びに身体の重大部位に付与されるX線線量を低減させるような線量完全管理型のCTが可能となる。
【0053】
本発明の様々な実施形態では、撮像システム向けのX線管並びにX線管を用いた撮像システムについて記載している。しかしこうした実施形態は限定ではなく、様々な用途と連携して実現することができる。本発明の用途は別の分野にまで拡張することができる。本発明は、工業用撮像システムにおいてプロセス制御の厚み監視をするように、並びに結晶分光計と一緒に使用するように適応できるような電子ビーム流の高速変調に関する広範な構想を提供することができる。本設計はさらに先に進め様々な形態及び仕様で実現することが可能である。
【0054】
本記述では、ここに示す主題(最適の形態を含む)を記載するため、並びに当業者による本主題の製作及び使用を可能にするために例を使用している。本主題の特許性のある範囲は本特許請求の範囲によって規定していると共に、当業者により行われる別の例を含むことができる。こうした別の例は、本特許請求の範囲の文字表記と異ならない構造要素を有する場合や、本特許請求の範囲の文字表記と実質的に差がない等価的な構造要素を有する場合があるが、本特許請求の範囲の域内にあるように意図したものである。
【符号の説明】
【0055】
100 CTシステム
102 ガントリ
104 X線管
106 検出器
108 データ収集システム
110 患者
112 画像再構成装置
114 コンピュータ
202 ハウジング
204 真空ギャップ
206 熱電子陰極
208 電子ビーム
210 ターゲットアセンブリ
212 高電圧供給ユニット
214 メッシュグリッド
216 グリッド・陰極電圧供給ユニット
218 入力制御ユニット
219 制御信号発生ユニット
220 集束電極
302 グリッド部材(ワイヤ)
304 クロスワイヤ
402 マクロ放出体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム(208)を発生するように構成された少なくとも1つの熱電子陰極(206)と、
熱電子陰極(206)から放出された電子ビーム(208)が入射したときにX線を発生するように構成されたターゲットアセンブリ(210)と、
熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)の間に加速電界を確立するために熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)にまたがる出力電圧を確立するための高電圧供給ユニット(212)と、
熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)の間に配置されている、熱電子陰極(206)の表面位置に加えられる電界を低下させるような電圧で動作するように構成されたメッシュグリッド(214)と、を備えたX線管(200)であって、
前記メッシュグリッド(214)の位置の電圧は熱電子陰極(206)の位置の電圧を基準として負にバイアスされている、X線管(200)。
【請求項2】
前記熱電子陰極(206)は複数のコイル巻き線を有するワイヤフィラメントを備えており、該熱電子陰極(206)は電子ビーム特性を制御するように所定の形状に機械加工されている、請求項1に記載のX線管(200)。
【請求項3】
前記メッシュグリッド(214)は、熱電子陰極(206)から受け取った電子ビーム(208)を所望のスポットサイズに集束させるように構成された1次元グリッドを備えており、該1次元グリッド(214)は熱電子陰極(206)から約0.1mm〜1mmの範囲の間隔が置かれている、請求項1に記載のX線管(200)。
【請求項4】
前記メッシュグリッド(214)は互いに平行に位置決めされた複数のグリッド部材(302)を備えており、かつ前記1次元グリッド(214)はさらに、該複数のグリッド部材(302)と直交して位置決めされた少なくとも1つのグリッド部材(304)を備え、これによりメッシュグリッド(214)内部に複数の開口部を形成しており、該少なくとも1つのグリッド部材(304)は複数のグリッド部材(302)に対する機械的支持を提供するように構成されている、請求項3に記載のX線管(200)。
【請求項5】
前記メッシュグリッド(214)の位置の電圧の振幅は熱電子陰極(206)の位置の電圧に対して約+100V〜−5000Vの範囲にある、請求項4に記載のX線管(200)。
【請求項6】
スキャン対象(110)を受け容れるための開口部を有する回転自在のガントリ(102)と、
ガントリ(102)に結合されると共に開口部を通ってX線を投射するように構成されたX線管(200)であって、該X線管(200)は、
真空封止式チェンバー(204)をその内部に囲繞したハウジング(202)と、
真空封止式チェンバー(204)の第1の端部位置に配置されている少なくとも1つの電子ビーム(208)を放出するように構成された少なくとも1つの熱電子陰極(206)と、
真空封止式チェンバー(204)の第2の端部位置に配置されている熱電子陰極(206)から放出された電子ビーム(208)が入射したときにX線を発生させるように構成されたターゲットアセンブリ(210)と、
熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)の間に配置されている熱電子陰極(206)の表面位置に加えられる電界を低下させるように構成されたメッシュグリッド(214)と、
を備えるX線管(200)と、
ガントリ(102)に結合されると共に開口部を通過するX線を受け取るように位置決めされた検出器アセンブリ(106)と、
受け取ったX線に基づいて画像再構成を実行するように構成された画像再構成装置(112)と、を備えたCTシステム(100)であって、
前記メッシュグリッド(214)は熱電子陰極(206)の位置の電圧を基準として負にバイアスされた電圧で動作するように構成されている、CTシステム(100)。
【請求項7】
前記X線管(200)はさらにメッシュグリッド(214)と熱電子陰極(206)の間に結合されたこれらの間に電圧差を確立するためのグリッド・陰極間電圧供給ユニット(216)を備えており、該グリッド・陰極間電圧供給ユニット(216)はメッシュグリッド(214)の位置に加えられる電圧の振幅の時間変動を制御するように構成されている、請求項6に記載のCTシステム(100)。
【請求項8】
前記X線管(200)はさらに、グリッド・陰極間電圧供給ユニット(216)に結合されている、熱電子陰極(206)からターゲットアセンブリ(210)への電子流の流れを所定の値に維持するように熱電子陰極(206)とメッシュグリッド(214)の間の電圧差の大きさを選択的に変更するための入力制御ユニット(218)を備える、請求項7に記載のCTシステム(100)。
【請求項9】
前記X線管(200)はさらに、入力制御ユニット(218)に結合されている、熱電子陰極(206)からターゲットアセンブリ(210)への電子流の流れの大きさを表す制御信号を発生させるための制御信号発生ユニット(219)を備える、請求項8に記載のCTシステム(100)。
【請求項10】
X線撮像の方法であって、該方法は、
熱電子陰極(206)とメッシュグリッド(214)をこれらの間でグリッド・陰極間電圧を支持するように配列させ、熱電子陰極(206)から複数の電子を取り出し電子ビーム(208)を形成させるステップと、
電子ビーム(208)のアンペア値を制御するためにグリッド・陰極間電圧を変調するステップと、
X線が対象に向けて放出されるように位置決めされたターゲットアセンブリ(210)に向けて電子ビーム(208)を加速させそこからX線を発生させるように熱電子陰極(206)とターゲットアセンブリ(210)にまたがる出力電圧を確立するステップと、
対象を通過した後のX線の減衰量を示す1組の撮像データを受け取るステップと、
受け取った撮像データに基づいて対象の画像を再構成するステップと、
を含むと共に、前記メッシュグリッド(214)の位置の電圧は熱電子陰極(206)の位置の電圧を基準として負にバイアスされている、X線撮像方法。
【請求項11】
グリッド・陰極間電圧を変調する前記ステップは、
熱電子陰極(206)からターゲットアセンブリ(210)への電子流の流れの大きさを表す制御信号を発生させるステップと、
前記電子流の流れを所定の値に維持するために熱電子陰極(206)とメッシュグリッド(214)の間の電圧差の大きさを選択的に変更するステップと、
を含む、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−60756(P2011−60756A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190197(P2010−190197)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY